(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-25
(54)【発明の名称】難発現タンパク質の産生を高めるための遺伝子操作された細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240618BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240618BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20240618BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240618BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/53
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023569803
(86)(22)【出願日】2022-05-10
(85)【翻訳文提出日】2023-12-21
(86)【国際出願番号】 IB2022054329
(87)【国際公開番号】W WO2022238891
(87)【国際公開日】2022-11-17
(32)【優先日】2021-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523423872
【氏名又は名称】ゴエル,ニキル
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ゴエル,ニキル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065CA24
4B065CA28
4B065CA44
(57)【要約】
組換えタンパク質、特に、変更されていない細胞株では高レベルで容易には発現されないタンパク質の改善された産生のため、細胞で、ある特定の遺伝子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションをもたらす遺伝子変異を含む遺伝子操作された細胞が記載される。また、そのような細胞を調製および使用する方法も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.表Iに記載の遺伝子の発現を増加させることになる1つまたは複数のエピジェネティックな変化または遺伝子変異、および
b.第1のプロモータと、異種ポリヌクレオチドと、ポリアデニル化配列とを含む発現カセットを含む外来性ポリヌクレオチド配列
を含む、改変真核細胞。
【請求項2】
前記遺伝子変異またはエピジェネティックな変化が、前記遺伝子の組換え過剰発現またはCRISPRガイド活性化(CRISPRa)である、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記遺伝子が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素である、請求項2に記載の細胞。
【請求項4】
前記グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素が:
a. GSTA3、
b. GSTA4、
c. GSTA6、
d. GSTT2、
e. GSTM1、
f. GSTM7、および
g. GSTP2
からなる群より選択される、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
さらに、表Iからの第2の遺伝子の活性を強化することになる第2の遺伝子変異またはエピジェネティックな変化を含む、請求項3に記載の細胞。
【請求項6】
前記第2の遺伝子変異またはエピジェネティックな変化が、前記第2の遺伝子の組換え過剰発現またはCRISPRガイド活性化(CRISPRa)である、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記第2の遺伝子が、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドレダクターゼ、カタラーゼまたはペルオキシレドキシンである、請求項6に記載の細胞。
【請求項8】
前記第2の遺伝子が、グルタチオンレダクターゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼである、請求項6に記載の細胞。
【請求項9】
前記第2の遺伝子が:
a. GPX1、
b. GPX7、および
c. GPX4
からなる群より選択される、請求項7に記載の細胞。
【請求項10】
前記遺伝子が、グルタチオンレダクターゼである、請求項8に記載の細胞。
【請求項11】
前記遺伝子および前記第2の遺伝子が、それぞれ、
a. GSTA1およびグルタチオンレダクターゼ、
b. GSTA2およびグルタチオンレダクターゼ、
c. GSTA3およびグルタチオンレダクターゼ、
d. GSTA4およびグルタチオンレダクターゼ、
e. GSTA5およびグルタチオンレダクターゼ、
f. GSTA6およびグルタチオンレダクターゼ、
g. GSTM1およびグルタチオンレダクターゼ、
h. GSTM7およびグルタチオンレダクターゼ、
i. GSTP1およびグルタチオンレダクターゼ、
j. GSTP2およびグルタチオンレダクターゼ、
k. GSTT1およびグルタチオンレダクターゼ、
l. GSTT2およびグルタチオンレダクターゼ、
m. GSTT3およびグルタチオンレダクターゼ、または
n. GSTT4およびグルタチオンレダクターゼ
である、請求項6に記載の細胞。
【請求項12】
前記異種ポリヌクレオチドが、治療用タンパク質をコードする、請求項1から11のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項13】
前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項12に記載の細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年5月10日に出願した米国仮出願第63/186,756号の米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張し、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【背景技術】
【0002】
細胞株は、タンパク質治療製品を製造するために頻繁に使用される。一般的に使用される株すべての中で、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、組換えタンパク質治療薬の産生にとって好ましい哺乳動物細胞株として残っていた。現在、CHO細胞培養からの組換えタンパク質力価は、1980年代の同様のプロセスよりも100倍改善している、1リットルあたりグラムの範囲に到達している。力価の有意な改善は、安定した高産生のクローンの確立および培養プロセスの最適化が前進していることに起因している可能性がある。
【0003】
タンパク質産生を改善するため、種々の細胞株遺伝子操作戦略は、細胞培養の寿命を延長し、比増殖速度を加速し、最大生存細胞密度を上昇させることに焦点を当てて使用されている。また、細胞株遺伝子操作は、組換えタンパク質のフォールディング、輸送および分泌を改善させるために使用されている。しかし、これらの努力にもかかわらず、さらなる改善は、特に非天然タンパク質や発現が困難なタンパク質の場合、タンパク質産生の全体的な効率のために必要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、組換えタンパク質、特に、変更されていない細胞株では高レベルで容易には発現されないタンパク質の改善された産生のため、細胞で、ある特定の遺伝子のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションをもたらす遺伝子変異を含む遺伝子操作された細胞を提供する。また、そのような細胞を調製および使用する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】CHOK1と比較した、SUPERCELL(商標)でのGST関連酵素についてのマイクロアレイシグナルにおける倍率変化。
【
図2】GST関連酵素;GSTT2(グルタチオン-S-トランスフェラーゼシータ2)、GSTP2(グルタチオン-S-トランスフェラーゼパイ2)、GSTM1(グルタチオン-S-トランスフェラーゼミュー1)、GSTA3(グルタチオン-S-トランスフェラーゼアルファ3)についての5つの異なるCHO細胞株のqPCRの結果。負の対照としてのハウスキーピング遺伝子;Gnb1(Gタンパク質サブユニットベータ1)。
【
図3】CHOK1およびSUPERCELL(商標)についてのGST活性アッセイの結果。
【
図4】SUPERCELL(商標)およびExpiCHOにおけるリツキシマブLC一過性発現の相対発現に対するDTT誘導UPR効果の結果。
【
図5】ExpiCHOにおいてタイサブリHCおよびタイサブリLCを用いたシャペロンの同時トランスフェクションからのタンパク質A力価。
【発明を実施するための形態】
【0006】
I.定義
範囲を含むすべての数字表記、例えばpH、温度、時間、濃度、および分子量は、近似値であり、0.1刻みで(+)または(-)に変化する。必ずしも明示的に述べられている訳ではないが、すべての数字表記には用語「約」が前にあることが理解されるべきである。また、必ずしも明示的に述べられている訳ではないが、本明細書に記載の試薬が、単に例示的なものであり、そのような等価物が当技術分野において既知であることも理解されるべきである。
【0007】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるように、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別のものが規定されない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「ポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチドの混合物を含む、複数のポリヌクレオチドを含む。
【0008】
用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、交換可能に使用され、任意の長さのヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドまたはそれらの類縁体のいずれかのポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドなどの修飾ヌクレオチドおよびヌクレオチド類縁体を含む可能性がある。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリヌクレオチドの構築前または後に付与することができる。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により分断される可能性がある。ポリヌクレオチドは、標識成分とのコンジュゲートによるなど、重合後にさらに修飾される可能性がある。その用語はまた、二本鎖および一本鎖分子の両方を指す。別段の指定または要求がない限り、ポリヌクレオチドである本開示の任意の実施形態は、二本鎖の形態および二本鎖の形態を作成することが既知であるか予測されている2つの相補的な各一本鎖の形態の両方を包含する。
【0009】
本明細書において、用語「難発現タンパク質」は、治療用途または産業用途のために大量に産生される組換えタンパク質を指す。いくらかの実施形態において、難発現タンパク質は、ExpiCHO(商標)などの高力価一過性哺乳動物発現キットから、<50mg/L、<100mg/L、<200mg/Lまたは<300mg/Lである発現レベルを有する。難発現タンパク質は、他の匹敵するサイズのタンパク質の平均的な発現レベルよりも有意に低いレベルで産生される。代表的な易発現タンパク質には、抗体が含まれる。難発現タンパク質は、低発現、凝集、および/またはミスフォールディングとなる、タンパク質ドメインの非天然の組み合わせを有する場合がある。さらに、天然に存在するタンパク質はまた、例外的に大きいサイズ、ミスフォールドする傾向、凝集する傾向、希少なコフォールディングモジュレータへの依存のため、難発現である場合がある。
【0010】
細胞「クローン」は、一細胞プリンティング、限界希釈法、細胞コロニー単離、およびFACSソーティングを含むがこれらに限定されない方法を介して単一細胞集団から単離された細胞の集団である。
【0011】
「定方向進化」は、細胞の集団が、元の細胞集団では稀であるか存在しない特定の表現型を有する細胞集団を生成する確率を高める条件に供されるプロセスを指す場合がある。別の場合において、定方向進化は、選択的条件が適用されていない表現型の頻度を上げるまたは下げるための戦略を指す場合がある。この場合において、細胞集団は、表現型についてスクリーニングされ、前記表現型は、任意の数の細胞単離技術を通じて濃縮される。
【0012】
用語「細胞工学」は、本明細書において、定方向進化を介して、または遺伝子アップレギュレーションもしくはダウンレギュレーションの既知の直接法を介して細胞を変更するための戦略を指す。「遺伝子操作された細胞」は、1つまたは複数の細胞工学戦略に供されている細胞である。
【0013】
II.細胞工学
タンパク質フォールディング経路は、折りたたみしにくい難発現タンパク質の発現に重要である。未修飾の原核細胞および真核細胞が、代表的な難発現タンパク質である第VIII因子の例外的な低発現により確認されるように、大きく複雑な組換えタンパク質の発現には適していないことが示されている。一般的に報告されている抗体の力価は、5g/L以下で認められる可能性があるが、CHO細胞において報告された最大の第VIII因子の力価は、16mg/Lで留まる。これまで多くの研究者らにより、発現におけるこの>300倍の差異は、不十分なタンパク質フォールディングに起因している。不十分なタンパク質フォールディングは、結果として酸化ストレスシグナル伝達となり、小胞体ストレス応答(UPR)、および小胞体ストレス(ERS)経路を誘発する。これらの経路は、細胞死ならびにタンパク質転写および翻訳速度の低下をもたらし、第VIII因子などの発現が困難なタンパク質について観察された力価の低下の原因となっている。
【0014】
発現が困難なタンパク質の問題が、複合タンパク質のグラムレベルでの発現を達成するための十分な折りたたみを支持する正確な濃度でのERにおける適切なタンパク質フォールディングシャペロンの欠如により引き起こされるボトルネックの結果であると考えられる。これは、組換えタンパク質産生に関連することが示されたタンパク質フォールディングおよび分泌シャペロンの生物学的利用能を高めるために使用された細胞工学的努力を通じて探求されている。しかし、タンパク質フォールディングシャペロンの過剰発現は、異なるタンパク質間、異なる細胞株間、およびクローン間の変動により一貫した結果が得られない。細胞工学プロセスは、同じタンパク質を発現する同じ細胞株由来のクローン間であっても適用不可能である。したがって、難発現タンパク質の発現のための新規で広く適用可能な細胞工学技術の必要性が高く、依然として満たされていない。
【0015】
以前の報告は、ハイスループットスクリーニングの支援で有用になっている、タンパク質フォールディングおよび分泌シャペロン過剰発現の使用を示している。シャペロンのライブラリは、個々のクローンに対して開発およびテストされる場合があり、難発現タンパク質の発現を増加させることができる。これは、結果が保証されていない、扱いにくく、高価で時間がかかるプロセスである。
【0016】
本開示は、潜在的に治療上重要な難発現タンパク質の大量産生を妨害しているタンパク質フォールディングの問題に対する新規で一般化可能な解決策を提供する。一実施形態において、本開示の細胞工学法は、細胞の寿命を延長する、UPR応答シグナル伝達を低減する、および/または難発現タンパク質の発現を増加させる。任意の特定の理論に縛られることなく、本明細書に記載の細胞工学法が、(a)小胞体ストレス応答の重要なメディエータとして確認することができる活性酸素種を低減する、および/または(b)活性化状態まで化学的に還元することにより、PDIなどの酸化的タンパク質フォールディングシャペロンおよび他の真核生物タンパク質フォールディングシャペロンのターンオーバーを改善すると考えられる。いくらかの実施形態において、酸化還元関連酵素をアップレギュレートする方法は、真核細胞における酸化還元タンパク質フォールディングを支援するために提供される。
【0017】
一実施形態において、細胞は、1つまたは複数のROS還元酵素を過剰発現するように遺伝子操作される場合がある。そのような酵素の非限定例には、スーパーオキシドジスムターゼ、スーパーオキシドレダクターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、ペルオキシレドキシン、および表Iに列記されているものが含まれる。
【0018】
別の実施形態において、前記のジスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、またはペルオキシレドキシンの少なくとも1つを発現する遺伝子操作された細胞は、追加的にまたは代わりに、補助酵素と相乗的に作用することができるリダクターゼを過剰発現するように遺伝子操作される。
【0019】
グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素が、タンパク質フォールディングおよびERストレスにおいて、これまで調査されていない重要な役割を果たすと考えられる。したがって、本開示の別の実施形態において、細胞は、少なくとも1つのグルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素を過剰発現するように遺伝子操作される。グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素には、グルタチオン-S-トランスフェラーゼアルファ(GSTA1、GSTA2、GSTA3、GSTA4、GSTA5)、デルタ、カッパ(GSTK1)、ミュー(GSTM1、GSTM1L、GSTM2、GSTM3、GSTM4、GSTM5)、オメガ(GSTO1、GSTO2)、パイ(GSTP1)、シータ(GSTT1、GSTT2、GSTT4)、ゼータ(GSTZ1)、ミクロソーム(MGST1、MGST2、MGST3)が含まれるがこれらに限定されない。
【0020】
別の実施形態において、グルタチオンレダクターゼは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼの内在性の未修飾のレベルと相乗的に作用するように過剰発現される場合がある。
【0021】
別の実施形態において、グルタチオン-S-トランスフェラーゼまたはグルタチオンペルオキシダーゼ酵素を過剰発現するように遺伝子操作された前記の細胞は、追加的にグルタチオンレダクターゼを過剰発現するように遺伝子操作される。グルタチオンレダクターゼは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼが適切に機能することができるようにグルタチオンの有用性を高める。
【0022】
【0023】
上記実施形態のいずれかの好ましい態様において、遺伝子操作は、ダウンレギュレーションのための遺伝子の少なくとも一部を突然変異または欠失させること、またはアップレギュレーションのための1つもしくは複数の遺伝子のコピーまたはそのコード配列を導入することにより達成される。
【0024】
一実施形態において、前記の遺伝子操作された細胞はさらに、外来性コード配列(「目的の遺伝子」またはGOI)を含む。GOIは、別のベクター(例えばプラスミド)に含まれ得る、または細胞の染色体の1つに統合され得る。一実施形態において、GOIは、治療用タンパク質であり得るポリペプチドをコードする。一実施形態において、GOIは、抗体または抗体フラグメントをコードする。
【0025】
一実施形態において、遺伝子操作された細胞は哺乳動物細胞であり、好ましくはヒト細胞である。一実施形態において、細胞は、CHO細胞、例えばCHO系統-DG44、DxB11、CHOM(Selexis)、CHO(Life Tech)、CHOK1SV(ロンザ)、またはCHOZN(シグマ)である。一実施形態において、細胞は、NSO-マウス、BHK、PerC6、K562、またはCos1&7細胞である。別の実施形態において、遺伝子操作された細胞は、別の真核生物、例えば真菌細胞である。一実施形態において、真菌細胞は、サッカロミケス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、またはC1(ダイアディック)である。
【0026】
GOIの生成物を発現または産生するための本開示の任意の細胞を使用する方法もまた提供される。
【0027】
III.細胞における遺伝子をアップレギュレートまたはダウンレギュレートするための方法
細胞における遺伝子をアップレギュレートする(例えば、遺伝子の生物活性を高める)ための方法は、当技術分野において既知である。一態様において、遺伝子レベルは、上記のように、ポリヌクレオチドをコードする遺伝子の量を増加させることにより上昇し、そのポリヌクレオチドは、新規遺伝子が産生されるように発現される。別の態様において、遺伝子レベルの上昇は、ポリヌクレオチドをコードする遺伝子の転写、あるいは遺伝子の翻訳、あるいは遺伝子の翻訳後修飾、活性化もしくは適切なフォールディングを増加させることにより達成される。さらに別の態様において、遺伝子レベルの上昇は、タンパク質の適切な補因子、受容体、アクチベーター、リガンド、またはタンパク質の生物学的機能に関与している任意の分子への結合を増加させることにより上昇する。いくらかの実施形態において、遺伝子の適切な分子への結合の増加は、分子の量の増加である。実施形態の一態様において、分子はポリペプチドである。実施形態の別の態様において、分子は小分子である。実施形態のさらなる態様において、分子はポリヌクレオチドである。一実施形態において、分子は、小分子、ポリペプチド、または核酸のいずれかの組み合わせである。実施形態のさらなる態様において、分子はCRISPRガイドアクチベーターである。
【0028】
細胞内のポリヌクレオチドの量を増加させる方法は、当技術分野において既知であり、ポリヌクレオチドをコードする遺伝子の量を増加させるために修飾され得る。一態様において、ポリヌクレオチドは、細胞に導入され、適切な発現ベクターを含むことができる遺伝子送達ビヒクルにより発現され得る。
【0029】
適切な発現ベクターは、当技術分野において周知であり、調節エレメント、例えばプロモータ領域および/またはそのようなDNAの発現を調節することができるエンハンサーに動作可能に結合したポリヌクレオチドを発現することができるベクターを含む。したがって、発現ベクターは、組換えDNAまたはRNA構築物、例えばプラスミド、ファージ、組換えウイルスまたは適切な宿主細胞への導入で挿入DNAの発現となる他のベクターを指す。適切な発現ベクターには、真核細胞および/もしくは原核細胞で複製可能であるもの、ならびにエピソームのままであるもの、または宿主細胞ゲノムに統合されるものが含まれる。
【0030】
本明細書で使用されるように、用語「ベクター」は、ベクターが細胞内に配置されると例えば形質転換のプロセスにより複製され得るような、インタクトレプリコンを含む非染色体核酸を指す。ベクターは、ウイルス性または非ウイルス性であり得る。ウイルスベクターには、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、パポウイルス(papovirus)、またはそれ以外の修飾された天然に存在するウイルスが含まれる。核酸を送達するための代表的な非ウイルスベクターは、裸のDNA;カチオン性脂質と複合体化したDNA、単独またはカチオン性ポリマーと組み合わせ;アニオン性およびカチオン性リポソーム;DNA-タンパク質複合体ならびに異種ポリリジン、定義された長さのオリゴペプチド、およびポリエチレンイミンなどのカチオン性ポリマーと縮合したDNAを含む粒子であって、いくらかの場合においてはリポソームに含まれるもの;ならびにウイルスとポリリジン-DNAとを含む三元複合体の使用を含む。
【0031】
非ウイルスベクターは、インビトロ、インビボまたはエクスビボのいずれかで標的細胞に送達され得る異種ポリヌクレオチドを含むプラスミドを含む場合がある。異種ポリヌクレオチドは、目的の配列を含むことができ、1つまたは複数の調節エレメントに動作可能に結合することができ、目的の核酸配列の転写を制御する場合がある。本明細書で使用されるように、ベクターは、最終的な標的細胞または対象で複製可能である必要はない。ベクターという用語は、発現ベクターおよびクローニングベクターを含む場合がある。
【0032】
遺伝子をダウンレギュレートする(例えば、生物活性を低下させる、または遺伝子産物を阻害する)方法は、当技術分野で既知である。非限定例には、遺伝子を突然変異させること、遺伝子の配列の一部または全体を欠失させること、またはsiRNA、dsRNA、miRNA、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、三重鎖ポリヌクレオチド(polynecleotide)、抗体、もしくは抗体変異体を有する遺伝子を阻害することが含まれる。
【0033】
「低分子干渉RNA」(siRNA)は、RNA干渉(RNAi)を仲介することができる一般に約10~約30のヌクレオチド長の二本鎖RNA分子(dsRNA)を指す。「RNA干渉」(RNAi)は、低分子干渉RNA(siRNA)により仲介される配列特異的または遺伝子特異的な遺伝子発現(タンパク質合成)の抑制を指す。本明細書で使用されるように、siRNAという用語は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を含む。遺伝子または遺伝子のmRNAに向けられるsiRNAは、遺伝子のmRNAを認識し、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)をmRNAに向け、mRNAの分解をもたらすsiRNAであり得る。遺伝子または遺伝子のmRNAに向けられるsiRNAはまた、mRNAを認識し、mRNAの翻訳を阻害するsiRNAであり得る。siRNAは、その安定性および安全性を高めるために化学修飾される場合がある。
【0034】
「二本鎖RNA」(dsRNA)は、任意の長さであり得、より小さいRNA分子、例えばsiRNAに細胞内で開裂され得る二本鎖RNA分子を指す。コンピテントインターフェロン応答を有する細胞において、より長いdsRNA、例えば約30を超える塩基対長のものは、インターフェロン応答を誘発する可能性がある。コンピテントインターフェロン応答を有していない他の細胞において、dsRNAは、特定のRNAiを誘発させるために使用される可能性がある。
【0035】
「マイクロRNA」(miRNA)は、遺伝子発現を制御する、18~23ヌクレオチド長の一本鎖RNA分子を指す。miRNAは、転写されるそのDNAからの遺伝子によりコードされるが、miRNAはタンパク質に翻訳されず(ノンコーディングRNA);代わりに各一次転写産物(pri-miRNA)は、pre-miRNAと呼ばれるショートステムループ構造に処理され、最終的に機能性miRNAに処理される。成熟miRNA分子は、1つまたは複数のメッセンジャーRNA(mRNA)分子に対して部分的に相補的であり、それらの主な機能は、遺伝子発現をダウンレギュレートすることである。
【0036】
実施例
本開示はさらに、本発明の純粋な例示を意図したものである、以下の実施例を参照することにより理解される。本発明は、例示的な実施形態により範囲が限定されず、本発明の単一側面の例証としてのみ意図される。機能的に等価である任意の方法は、本発明の範囲内である。本明細書に記載のものに加えて、本発明の種々の変更は、前記の説明および添付の図から当業者に明らかになるであろう。そのような変更は、添付の特許請求の範囲に含まれる。
【0037】
実施例1.GST発現を増加させるための細胞の定方向進化
一例において、CHO細胞は、定方向進化の方法を通じて酸化ストレス関連遺伝子を過剰発現するように遺伝子操作された。細胞の出発プールを、RNAマイクロアレイ解析により展開されたプールに対して比較した。CHO細胞の展開されたプールは、「SUPERCELL(商標)」と呼ばれ、CHO細胞の元のプールは、「CHOK1」または「CHO」と呼ばれる。簡単に言うと、複数の代表的な時点で、1E6細胞をRNAマイクロアレイ解析のために保存した。全部で4つの異なる時点は、CHOK1およびSUPERCELL(商標)について使用された。試料を調製し、CHO遺伝子ST Affymetrixマイクロアレイにロードし、ハイブリダイゼーション品質を確認した。親集団およびサブクローン集団全体で異なるグルタチオン関連遺伝子の相対発現を比較するために、シグナル強度の比較を内部正規化後に使用した。
【0038】
適切な結果を
図1に要約する。SUPERCELL(商標)試料およびCHOK1試料のそれぞれについてn=4で、異なるmRNA転写レベルにおける相対的倍数増加が示される。定方向進化プロセスにより、グルタチオン関連遺伝子の一般的なアップレギュレーションとなった。特に興味深いものは、GSTA3の23倍のアップレギュレーション、およびグルタチオン-S-トランスフェラーゼではないグルタチオン関連酵素の潜在的な相乗的相互作用である。これらには、S-ホルミルグルタチオンヒドロラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ1、およびグルタチオンレダクターゼが含まれる。
【0039】
実験の結果は、qPCRによりさらに確認され、バイオプロダクションにおいて一般的に使用される追加の細胞株を、グルタチオン-S-トランスフェラーゼのサブセットについてアッセイした。
図2に示す結果から、他のテストされたCHO細胞株すべてと比較してSUPERCELL(商標)におけるGST酵素の独自のアップレギュレーションが確認される。
【0040】
qPCRおよびmRNAのマイクロアレイデータが、最も高い一般的なGST活性と相関していることを確認するために、GST活性アッセイをさらに実行した。簡単に言うと、Vicellにより細胞を計数し、SUPERCELL(商標)およびCHOK1について4M細胞を2mMEDTA+0.1Mリン酸に溶解し、清澄化溶解物を分離し、CHOK1およびSUPERCELL(商標)におけるグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性を決定するために「QuantiChrom(商標)グルタチオンS-トランスフェラーゼアッセイキット」、カタログ番号DGST-100で指定されるように希釈および原液を使用した。
図3に示す結果は、GST転写レベルの増加を示すマイクロアレイおよびqPCRのデータを支持している。
【0041】
SUPERCELL(商標)細胞株は、XBP1スプライシングおよびEIF2aリン酸化を活性化し、タンパク質発現をシャットダウンし、組換えタンパク質発現レベルを低下させる前に高レベルの小胞体ストレス応答および酸化ストレスを扱うことができると仮定される。これをテストするため、Neonトランスフェクションシステムを使用し、リツキシマブLCを発現するプラスミドを用いてExpiCHOおよびSUPERCELL(商標)をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、細胞を1mM DTTで処置した。1時間後、細胞を新しい培地に移し、7日間培養してタンパク質を産生させ、上清を回収し、Octetタンパク質L結合により得られる産生タンパク質を定量した。結果を
図4に示す。結果から、DTTで処置されていない細胞と比較して、SUPERCELL(商標)細胞株における生産性に差異がない。しかし、ExpiCHO細胞株力価は、DTT処置で約40%まで低下する。人為的に誘導されたUPRに対するこの回復力が、凝集したタンパク質の発現が高いためにUPRが自然に誘導される可能性がある難発現タンパク質の産生においてSUPERCELL(商標)細胞株を支援すると期待されている。
【0042】
本発明の一実施形態において、GST酵素は、UPR誘導ストレスに耐性がある細胞を選択するための定方向進化アプローチの実行と、それに続いて細胞内GST含有量もしくは活性もしくは酸化還元電位を分析するための、マイクロアレイ、mRNAシーケンシング、qPCR、GST活性アッセイ、タンパク質発現アッセイ、または他のFACSもしくはプレートベースのアッセイによる細胞品質の評価を通じて、発現を増加させる可能性がある。さらに、本発明の一実施形態において、増加したGST活性または増加したタンパク質発現を呈示する細胞の集団を選択した後、(a)発現カセットが、上昇したGST活性について修飾およびスクリーニングされていない対照の細胞株よりも組換えタンパク質のより高い生産性をもたらすように、目的の組換えタンパク質、プロモータ、およびポリアデニル化シグナルを含む第1の発現カセットを一過的にトランスフェクトすること、(b)第1の発現カセットが、上昇したGST活性について修飾およびスクリーニングされていない対照の細胞株よりも組換えタンパク質のより高い生産性をもたらすように、目的の組換えタンパク質を含む第1の発現カセットを安定して統合することにより、目的の組換えタンパク質を発現するように細胞株をさらに修飾され得る。
【0043】
実施例2.細胞におけるGST酵素の過剰発現
哺乳動物細胞におけるGST酵素の組換え過剰発現が、タンパク質発現レベルを改善する実行可能な方法であることを確認するため、一連のGST酵素をタイサブリHCおよびタイサブリLC発現プラスミドとともにExpiCHOシステムに一過的に同時トランスフェクトした。並行して、タイサブリHCおよびタイサブリLCを用いる古典的なタンパク質フォールディングシャペロンの同時トランスフェクションもテストした。細胞を12日間、10mLのスピンチューブで培養した。回収した上清を、Octetタンパク質A結合により、組換えタンパク質発現レベルについて分析した。結果を
図5に示す。予想通り、タンパク質発現レベルにおける上昇は、テストされたすべてのGST酵素で確認することができる。驚いたことに、GST過剰発現は、SRP14(シグナル認識粒子14)、PDI(タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ)、およびカルネキシンを含む、他で記載された古典的なタンパク質フォールディングシャペロンよりも優れていた。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、GST酵素は、(1)第1のプロモータ、GST酵素、第1のポリアデニル化部位および第2のプロモータ、耐性マーカー、および第2のポリアデニル化部位を含む発現ベクターで細胞をトランスフェクトすること、(2)耐性マーカーに対応する選択マーカーで細胞を選択すること、(3)細胞を回収し、前記の方法のいずれかにより、改善されたGST活性もしくは改善されたタンパク質発現についてテストすること、(4)そして最後に(a)目的の組換えタンパク質を含む第3の発現カセットを一過的にトランスフェクトし、一過性発現を通じて組換えタンパク質を産生させ、(b)第3の発現カセットが、アップレギュレートされたGST酵素を含まない対照の細胞株よりも組換えタンパク質のより高い生産性をもたらすように目的の組換えタンパク質を含む第3の発現カセットを安定して統合することにより組換えタンパク質を発現する細胞株に安定して統合される可能性がある。
【0045】
本発明が上記実施形態と併せて説明されているが、前述の説明および実施例は、例証することを意図しているが、本発明の範囲を限定するものではないと理解されるべきである。本発明の範囲内の他の態様、利点および変更は、本発明が属する技術分野の当業者には明らかであろう。
【手続補正書】
【提出日】2023-03-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の遺伝子および第2の遺伝子の活性を強化することになる1つまたは複数のエピジェネティックな変化または遺伝子変異、第1のプロモータと、異種ポリヌクレオチドと、ポリアデニル化配列とを含む発現カセットを含む異種ポリヌクレオチド配列と、を含む、改変真核細胞であって、前記遺伝子および前記第2の遺伝子が、それぞれ、
a. GSTA3およびグルタチオンレダクターゼ
である、改変真核細胞。
【請求項2】
前記異種ポリヌクレオチドが、治療用タンパク質をコードする、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記細胞が、チャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項1に記載の細胞。
【国際調査報告】