(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-25
(54)【発明の名称】ポリウレタンを含む抗菌性物品
(51)【国際特許分類】
A61L 15/20 20060101AFI20240618BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240618BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20240618BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20240618BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20240618BHJP
A61L 15/44 20060101ALI20240618BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240618BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20240618BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20240618BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20240618BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20240618BHJP
A61L 29/16 20060101ALI20240618BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240618BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20240618BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20240618BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20240618BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
A61L15/20 100
A61P31/04
A61K38/06
A61L15/26 100
A61L15/42 310
A61L15/44 100
A61L31/06
A61L31/12 100
A61L31/16
A61L29/06
A61L29/12 100
A61L29/16
A61K9/70
A61K9/00
A61K47/34
A61L29/08 100
A61L31/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577266
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-05
(86)【国際出願番号】 EP2022066234
(87)【国際公開番号】W WO2022263475
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518176345
【氏名又は名称】アミコート エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シュピーゲルベルク、アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ステンセン、ウェンチ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンセン、ジョン シガード
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA99
4C076BB31
4C076BB32
4C076CC32
4C076EE22A
4C076FF03
4C076GG01
4C081AA02
4C081AA12
4C081AC06
4C081BA14
4C081BB06
4C081CA211
4C081CB011
4C081CC01
4C081CE01
4C081DA02
4C081DC01
4C081EA06
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA23
4C084CA59
4C084MA34
4C084MA63
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZA89
4C084ZB35
(57)【要約】
本発明は、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを含む抗菌性物品を提供する。
AA-AA-AA-X-Y (I)
また、本発明は、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを提供する。
また、本発明は、少なくとも一つの有機溶媒、熱可塑性ポリウレタンおよび式(I)の化合物を含む組成物、そのような組成物を用いて製造されたコーティングを提供する。
また、本発明は、式(I)の化合物で含侵させたポリウレタンを製造する方法、式(I)の化合物で含侵させたポリウレタンを包含する医療用デバイス、および式(I)の化合物で含侵させたポリウレタンの医薬用途を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンを含む抗菌性物品であって、
前記ポリウレタンは、式(I)の化合物を含侵させた抗菌性物品。
AA-AA-AA-X-Y (I)
[式中、
順序を問わないが、前記AA(アミノ酸)部分の2つは、カチオン性アミノ酸であり、前記AA(アミノ酸)部分の1つは、14~27の非水素原子を有する親油性R基を有するアミノ酸であり、
Xは、N原子であり、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子が最大2つまで組み込まれていてもよい分岐または非分岐のC
1~C
10アルキル基またはアリール基で置換されていてもよく、
Yは、R
1-R
2-R
3、R
1-R
2-R
2-R
3、R
2-R
2-R
1-R
3、R
1-R
3およびR
4からなる群から選択され、
式中、
R
1は、C、O、SまたはNであり、
R
2は、Cであり、
R
1およびR
2のそれぞれは、C
1~C
4アルキル基で置換されていてもよく、または置換されていなくてもよく、
R
3は、5または6の非水素原子をそれぞれが含む1~3の環状基を含む基であり、前記環状基のうちの2以上が縮合していてもよく、前記環状基のうちの1以上は置換されていてもよく、R
3には、最大15の非水素原子が組み込まれており、
R
4は、2~20の非水素原子を有する、直鎖、分岐、または環状の脂肪族部分である。]
【請求項2】
前記化合物は、ペプチドである、請求項1の抗菌性物品。
【請求項3】
前記カチオン性アミノ酸が、アルギニンおよび/またはリシンである請求項1または2に記載の抗菌性物品。
【請求項4】
前記親油性R基を有するアミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)またはPhe(4-(2-ナフチル))、Phe(4-(1-ナフチル))、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)またはBip(4-T-Bu)から選択されるビフェニルアラニン誘導体;Bip(4-(2-ナフチル))から選択される、請求項1~3のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項5】
前記化合物が、式(II)の化合物である請求項1~4のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
AA
1-AA
2-AA
1-X-Y (II)
[式中、
AA
1は、カチオン性アミノ酸であり、
AA
2は、14~27の非水素原子を有する親油性R基を有するアミノ酸であり、
XおよびYは、請求項1に定義された通りである。]
【請求項6】
前記化合物が、下記の構造式を有する、請求項1~5のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【化5】
【請求項7】
前記ポリウレタンが、熱可塑性ポリウレタン(TPU)である、請求項1~6のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項8】
前記ポリウレタンが、発泡体の形態ではない、請求項1~7のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項9】
前記化合物を含侵させた前記ポリウレタンが、前記物品上のコーティングの形態である、請求項1~8のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項10】
前記抗菌性物品が、医療用デバイスである、請求項1~9のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項11】
前記抗菌性物品が、創傷ドレッシング材である、請求項1~10のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項12】
前記抗菌性物品が、留置医療用デバイスである、請求項1~10のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項13】
前記抗菌性物品が、カテーテルである、請求項1~10または12のいずれか一つに記載の抗菌性物品。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか一つに記載の化合物を含侵させたポリウレタン。
【請求項15】
前記含侵させたポリウレタンまたは前記化合物は、先行する請求項に定義されている、請求項14の含侵させたポリウレタン。
【請求項16】
発泡体の形態ではなく、先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物を含侵させたポリウレタンの製造方法であって、
前記方法は、
(i)溶媒が有機溶媒である、先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物の溶液を、前記ポリウレタンに適用させる工程、
(ii)前記溶液を適用させたポリウレタンを乾燥させ、それにより、先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物を含侵させたポリウレタンを製造する工程
を含む方法。
【請求項17】
前記ポリウレタンが、請求項16の方法により製造された、先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物を含侵させたポリウレタン。
【請求項18】
前記ポリウレタンが、発泡体の形態ではなく、
前記化合物を、前記ポリウレタンの表面からの総深さの一部のみにわたって前記ポリウレタンに含侵させた、
先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物を含侵させたポリウレタン。
【請求項19】
少なくとも一つの有機溶媒、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および先行する請求項のいずれか一つに定義されている化合物を含む組成物であって、
前記TPUおよび前記化合物が、前記少なくとも一つの有機溶媒中にそれぞれ溶解している組成物。
【請求項20】
前記有機溶媒が、極性非プロトン性溶媒である請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記有機溶媒が、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトンまたは酢酸エチルである、請求項19または20に記載の組成物。
【請求項22】
前記有機溶媒が、THFである、請求項19~20のいずれか一つに記載の組成物。
【請求項23】
請求項19に記載の組成物の製造方法であって、
前記方法が、
(i)熱可塑性ポリウレタン(TPU)を有機溶媒に溶解させる工程、
(ii)溶媒中に、先行する請求項に定義された化合物を溶解させる工程、
(iii)(i)で得た前記有機溶媒中に溶解させたTPUを、(ii)で得た前記溶媒中に溶解させた前記化合物とを混合し、それにより前記組成物を製造する工程
を含む
製造方法。
【請求項24】
(ii)の前記溶媒が、有機溶媒である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
(i)および/または(ii)の前記溶媒が、請求項21または22に定義されたものである請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
(i)の前記溶媒が、(ii)の前記溶媒と同じである請求項23~25のいずれか一つに記載の方法。
【請求項27】
(i)の前記溶媒が、工程(ii)の前記溶媒と異なる請求項23~25のいずれか一つに記載の方法。
【請求項28】
(i)有機溶媒中に熱可塑性ポリウレタン(TPU)を含む第一溶液を準備する工程、
(ii)式(I)の化合物を含む第二溶液を準備する工程であって、前記第二溶液は、前記第一溶液と混和性である工程、および
(iii)前記第一溶液と前記第二溶液を混合する工程
を含む、
請求項19に記載の方法。
【請求項29】
前記有機溶媒が、請求項20~22のいずれか一つに定義されている請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第二溶液が、式(I)の化合物と有機溶媒とを含む請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
前記有機溶媒が、請求項20~22のいずれか一つに定義されている請求項28~30のいずれか一つに記載の方法。
【請求項32】
微生物汚染の影響をうけやすい物品または表面のためのコーティングを製造する方法であって、前記方法は、
(i)前記物品または表面に、請求項19~22のいずれか一つの組成物を適用する工程、
(ii)前記適用された組成物から前記溶媒を蒸発除去する工程
を含む方法。
【請求項33】
先行する請求項のいずれか一つに定義した式(I)の化合物を含侵させた熱可塑性ポリウレタンを含む、微生物汚染の影響をうけやすい物品または表面のためのコーティング。
【請求項34】
前記コーティングが、請求項19~22のいずれか一つの組成物を、前記物品または表面に適用し、前記適用された組成物から前記溶媒を蒸発除去することにより製造された、請求項33に記載のコーティング。
【請求項35】
先行する請求項のいずれか一つに定義した化合物を含侵させた熱可塑性ポリウレタンを含む抗菌性コーティングを有する物品または表面を製造する方法であって、
前記方法は、
(i)請求項19~22のいずれか一つの組成物を準備する工程、および
(ii)前記組成物を、前記物品もしくは表面、または前記物品もしくは表面の少なくとも一部に適用する工程を含む
方法。
【請求項36】
前記適用が、前記物品または前記表面を前記組成物中に浸漬させること、または、
前記組成物を前記物品または表面上に塗布することである、請求項35の方法。
【請求項37】
請求項19~22のいずれか一つのコーティング組成物または、請求項33もしくは34のコーティングで、コーティングされるか、または少なくとも部分的にコーティングされた、微生物汚染の影響をうけやすい物品。
【請求項38】
微生物汚染またはコロニー形成の影響をうけやすい物品または表面を、コーティングまたは少なくとも部分的にコーティングするための、請求項19~22のいずれか一つの組成物の使用。
【請求項39】
前記物品が、医療用デバイスである、請求項33もしくは34のコーティング、または請求項35もしくは36の方法、または請求項37の物品、または請求項38の使用。
【請求項40】
前記含侵されたポリウレタンが、先行する請求項のいずれか一つの特徴を有する、請求項1~13のいずれか一つの抗菌性物品。
【請求項41】
前記ポリウレタンは、前記ポリウレタンが水を吸収することを可能にするポリオール由来部分を含む、
請求項1~13もしくは40のいずれか一つの抗菌性物品、
請求項14、15、17、18もしくは40のいずれか一つの含侵されたポリウレタン、
請求項33、34または39のいずれか一つのコーティング、または
請求項37の物品。
【請求項42】
前記ポリオールが、ポリエーテルポリオールである、
請求項41の抗菌性物品、請求項41の含侵されたポリウレタン、請求項41のコーティング、または請求項41の物品。
【請求項43】
前記ポリウレタンが、ポリエーテルポリオールと脂肪族ジイソシアネートとの反応により製造される、
請求項1~13もしくは40~42のいずれか一つの抗菌性物品、
請求項14、15、17、18、41もしくは42のいずれか一つの含侵されたポリウレタン、
請求項33、34、39もしくは41のいずれか一つのコーティング、または
請求項37、41もしくは42の物品。
【請求項44】
使用において、前記ポリウレタンから前記式(I)の化合物の徐放性放出が存在する、
請求項1~13もしくは40~43のいずれか一つの抗菌性物品、
請求項14、15、17、18、もしくは41~43のいずれか一つの含侵されたポリウレタン、
請求項33、34、39もしくは41~43のいずれか一つのコーティング、または
請求項37もしくは41~43のいずれか一つの物品。
【請求項45】
療法に使用するための、先行する請求項のいずれか一つに記載の含侵されたポリウレタン。
【請求項46】
療法において使用するための、請求項1~6のいずれか一つに記載の化合物であって、
前記化合物が、対象に、前記化合物を含侵させたポリウレタンを含む抗菌性物品の形態で、投与される
療法において使用するための、化合物。
【請求項47】
前記療法が、対象における感染の治療または予防である、請求項45の使用のための含侵されたポリウレタンまたは請求項46の使用のための化合物。
【請求項48】
請求項1~6のいずれか一つに記載の化合物の治療的に有効な量を、それを必要とする対象に適用する工程を含む、感染を治療または予防する方法であって、
前記化合物が、前記化合物を含侵させたポリウレタンを含む抗菌性物品の形態で前記対象に投与される、方法。
【請求項49】
療法における使用のための、好ましくは感染の治療または予防における使用のための、抗菌性物品または薬剤の製造における、請求項1~6のいずれか一つに記載の化合物を含侵させたポリウレタンの使用。
【請求項50】
前記感染が細菌感染である、請求項47の使用のための含侵されたポリウレタン、請求項47の使用のための化合物、請求項48の方法、または請求項49の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、抗菌性物品、例えば、創傷ドレッシング材及び微生物汚染に感受性を有し得る他の物品の分野に関する。より詳細には、本発明は、特定の抗菌性化合物を含む抗菌性物品に関する。このような物品は、創傷治療や感染制御の分野のような医療用途を有する。本発明はまた、特定の抗菌性化合物を含む抗菌性コーティングおよびコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外部環境からの保護バリアとして、例えば細菌による感染から保護するなど、重要な役割を果たしている。皮膚の完全性が維持されることが重要であり、例えば創傷の存在によって皮膚の完全性が損なわれた場合、その完全性を回復させるために皮膚が効果的に治癒することが重要である。
【0003】
創傷治癒プロセス中に創傷を保護し、創傷治癒を促進するために、創傷ドレッシング材などが一般的に創傷に適用される。創傷治癒過程においては、創傷滲出液を吸収し、創傷内の適切な水分レベルを維持できる創傷ドレッシング材が重要である。適切なレベルの水分は、創傷治癒過程における再上皮化および組織のリモデリングにとって重要である。
【0004】
創傷ドレッシング材には様々な種類があるが、多くの場合(例えば滲出性創傷のケア)、創傷治癒に役立つ湿潤創傷環境を維持できる創傷ドレッシング材が重要である。ポリウレタンドレッシング材は、この点でしばしば使用される創傷ドレッシング材の一例である。ポリウレタンベースのドレッシング材(例えば、ポリウレタン発泡体ドレッシング材)は、典型的には創傷滲出液を吸収し、創傷における適切な湿潤レベルを維持することができる。
【0005】
しかし、創傷治療の分野における大きな問題は、創傷ドレッシング材を適用したにもかかわらず、ブドウ球菌などの細菌によって創傷がしばしば感染してしまうことである。創傷治癒は典型的には、感染の結果として損なわれ、痛み、腫れ、発赤の増加や、より重篤な場合には吐き気、悪寒、発熱などの症状がしばしば見られる。創傷(または創傷床)自体が感染することに加え、創傷ドレッシング材自体が微生物(典型的には細菌)でコロニー形成されることもしばしばある。これは、創傷とその周囲に「細菌豊富な」環境をもたらし、治癒プロセスを損なうので、もちろん望ましくない。他の医療用デバイスのような他の物品も、微生物に汚染されやすい。
【0006】
細菌による創傷感染に対抗するため、抗菌剤を含む様々な市販の創傷ドレッシング材が発売されている。一例として、重金属である銀(Ag)を含浸させたポリウレタン発泡体ドレッシング材が開発され、市販されている。銀イオン(Ag+)はDNA、アミノ酸、スルフヒドリル基を持つ化合物など多くの生体分子と反応することができ、細胞毒性作用を引き起こすことができる。銀を含浸させた市販のポリウレタン発泡体創傷ドレッシング材の一例として、Optifoam(登録商標) Gentle AG+ (Medline Industries Inc., USA)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、銀を含浸させたドレッシング材は、いくつかの創傷感染症には有用であるが、銀のような重金属を抗菌剤として使用することには、ある種の欠点がある。例えば、銀は元素であるため生分解性がなく、銀(重金属)の蓄積は環境の観点から望ましくないことはよく知られている。銀を含浸させたドレッシング材の使用は、例えばそのようなドレッシング材が廃棄される場所において、銀(Ag)の望ましくない環境蓄積につながる可能性がある。さらに、銀による治療に耐性を示す細菌感染症が報告されているため、銀を含浸させたドレッシング材はそのような感染症に対して抗菌的に有効ではない。
【0008】
従って、当該技術分野で必要とされているのは、他の創傷ドレッシング材(または微生物に汚染されやすい他の物品)の望ましい特徴を有し、良好な抗菌活性を有する化合物をさらに備える、代替的な、好ましくは有利なものである、創傷ドレッシング材(および微生物に汚染されやすい他の物品)である。このようなドレッシング材(または他の物品)は、例えば創傷における感染(症)(例えば細菌感染(症))を制御(または予防)するのに有用であり、抗菌化合物の存在により、好ましくはそれ自体(すなわち、ドレッシング材または物品自体)を無菌(または「自己無菌」)に保つ。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような代替創傷ドレッシング材および他の抗菌性物品を有利に提供した。例えば、本発明者らは、ある種の短いカチオン性抗菌ペプチドを含有するポリウレタン創傷ドレッシング材を開発したが、このペプチドは、ポリウレタンドレッシング材から溶出し、細菌の増殖を阻害する優れた能力を有する。理論に束縛されることを望むものではないが、そのようなドレッシング材は、銀を含侵させたポリウレタン発泡体ドレッシング材よりも多くの利点を有すると考えられる。例えば、(i)カチオン性抗菌ペプチドは生分解性であるため、銀を含浸させたドレッシング材に関連する環境への懸念が無い、(ii)カチオン性抗菌ペプチドに対する細菌耐性は非常にまれである(このようなペプチドの標的である脂質膜にラジカル変化が生じて細胞毒性効果を妨げる可能性が低いため)。本発明者らはまた、このような短いカチオン性抗菌ペプチドを備えるポリウレタンコーティングを有利に提供した。このようなコーティングは、細菌汚染に曝される(または曝されやすい)物品(または表面)のコーティングに有用である(例えば、カテーテルなどの医療用デバイス)。
【0010】
従って、一つの態様において、本発明は、ポリウレタンを含む抗菌性物品であって、
前記ポリウレタンは、式(I)の化合物を含侵させた抗菌性物品を提供する。
AA-AA-AA-X-Y (I)
式中、
順序を問わないが、前記AA(アミノ酸)部分の2つは、カチオン性アミノ酸、好ましくはリシンまたはアルギニンであるが、ヒスチジンまたはpH7.0で正電荷を持つ、任意の、遺伝子にコードされていないアミノ酸もしくは修飾されたアミノ酸であってもよく、前記AA(アミノ酸)部分の1つは、大きな親油性R基を有するアミノ酸であり、前記R基は、14~27の非水素原子を有し、好ましくは2またはそれ以上、例えば2または3の、縮合または連結してもよい環状基を含み、これらの環状基は、典型的には5または6の非水素原子、好ましくは6の非水素原子を含み(縮合環の場合、当然ながら、これらの非水素原子は共有されていてもよい)、
Xは、N原子であり、N、O、およびSから選択されるヘテロ原子が最大2つまで組み込まれていてもよい分岐または非分岐のC1~C10アルキル基またはアリール基、例えばメチル、エチル、またはフェニルで置換されていてもよいが、好ましくは置換されておらず、
Yは、R1-R2-R3、R1-R2-R2-R3、R2-R2-R1-R3、R1-R3およびR4からなる群から選択され、
式中、
R1は、C、O、SまたはN、好ましくはCであり、
R2は、Cであり、
R1およびR2のそれぞれは、C1~C4アルキル基で置換されていてもよく、置換されていなくてもよく、好ましくは、Yは、-R1-R2-R3(R1はCであることが好ましい)であり、この基は置換されていないことが好ましく、Yが-R1-R2-R2-R3またはR2-R2-R1-R3である場合は、R1およびR2の1つ以上が置換されていることが好ましく、
R3は、5または6の非水素原子(好ましくはすべてがC原子であるが、N、O、またはSも含んでいてもよい)をそれぞれが含む1~3の環状基を含む基であり、該環状基のうちの2以上が縮合していてもよく、該環状基のうちの1以上が置換されていてもよく、これらの置換は、通常は含まないが極性基を含んでいてもよく、好適な置換基としては、ハロゲン、好ましくは臭素またはフッ素、およびC1~C4アルキル基が挙げられ、R3には、最大15、好ましくは5~12の非水素原子が組み込まれ、最も好ましくはR3はフェニル基であり、
R4は、2~20の非水素原子を有する脂肪族部分であり、好ましくはこれらの非水素原子は炭素原子であるが、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子が組み込まれていてもよく、好ましくは、R4は、3~10、最も好ましくは3~6の非水素原子を含み、上記脂肪族部分は、直鎖、分岐、または環状であってもよい。R4基が環状基を含む場合、これはXの窒素原子に直接結合していることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)FDA486に対する化合物2を用いた1日局所治療の効果を示すグラフである。Y軸にコロニー形成単位(CFU)の数を示し、X軸にマウスに適用した局所治療の種類を示す。化合物2は、本明細書ではAMC-109とも呼ばれる。
【
図2】
図2は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に対する化合物2を用いた1日局所治療の効果を示すグラフである。Y軸にコロニー形成単位(CFU)の数を示し、X軸にマウスに適用した局所治療の種類を示す。化合物2は、本明細書ではAMC-109とも呼ばれる。
【
図3】
図3は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(S.aureus)FDA486に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前9時、正午12時、午後3時に処置された。皮膚生検は午後6時に採取した。中央値を示す。
【
図4】
図4は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)CS301に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前7時、午前10時、午後1時に処置された。皮膚生検は午後4時に採取した。中央値を示す。
【
図5】
図5は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(S.aureus)FDA486に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前9時、正午12時、午後3時に処置された。皮膚生検は午後6時に採取した。中央値を示す。
【
図6A】
図6は、AMC-109を含浸させた乾燥PU発泡体ドレッシング(A)、AMC-109を含浸させた湿潤ドレッシング(B)、およびAMC-109を含浸させない対照ドレッシング(C)周辺の阻害ゾーンを示す。
【
図6B】
図6は、AMC-109を含浸させた乾燥PU発泡体ドレッシング(A)、AMC-109を含浸させた湿潤ドレッシング(B)、およびAMC-109を含浸させない対照ドレッシング(C)周辺の阻害ゾーンを示す。
【
図6C】
図6は、AMC-109を含浸させた乾燥PU発泡体ドレッシング(A)、AMC-109を含浸させた湿潤ドレッシング(B)、およびAMC-109を含浸させない対照ドレッシング(C)周辺の阻害ゾーンを示す。
【
図7】
図7は、AMC-109を含浸させたテコフレックス塗膜(またはコーティング)を乾燥後、および裏面から剥がした状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい化合物には、直鎖または分岐のR4基、特に、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチルおよびそれらの異性体、ヘキシルおよびそれらの異性体などを含む直鎖または分岐のアルキル基が組み込まれており、プロピル、イソプロピル、ブチル、およびイソブチルが特に好ましい。
【0013】
いくつかの実施形態では、R4は、6~16の非水素原子を有する脂肪族部分(好ましくはアルキル基)であり、好ましくはこれらの非水素原子は炭素原子であるが、酸素原子、窒素原子、または硫黄原子が組み込まれていてもよく、上記脂肪族部分は、直鎖、分岐、または環状であってもよい。
【0014】
いくつかの実施形態では、R4は、イソプロピル基である。
【0015】
環状基を含むR4基のうちで好ましいのは、R4がシクロヘキシルまたはシクロペンチルである分子である。
【0016】
カチオン性アミノ酸を提供することができる、好適な、遺伝子にコードされていないアミノ酸および修飾されたアミノ酸としては、ホモリシン、オルニチン、ジアミノ酪酸、ジアミノピメリン酸、ジアミノプロピオン酸、およびホモアルギニンなどの、リシン、アルギニン、およびヒスチジンの類縁体、ならびに、トリメチルリシンおよびトリメチルオルニチン、4-アミノピペリジン-4-カルボン酸、4-アミノ-1-カルバミミドイルピペリジン-4-カルボン酸、および4-グアニジノフェニルアラニンが挙げられる。
【0017】
上記AAの大きな親油性R基は、O、N、またはSなどのヘテロ原子を含んでいてもよく、典型的にはヘテロ原子は1個以下であり、好ましくは窒素である。このR基は、2以下の極性基を有することが好ましく、より好ましくは0または1の極性基を有し、最も好ましくは極性基を有さない。
【0018】
好ましくはペプチドである上記化合物は、下記の式(II)の化合物であることが好ましい。
AA1-AA2-AA1-X-Y (II)
式中、
AA1は、カチオン性アミノ酸、好ましくはリシンまたはアルギニンであるが、ヒスチジン、または、pH7.0で正電荷を持つ、任意の、遺伝子にコードされていないアミノ酸もしくは修飾されたアミノ酸であってもよく、
AA2は、大きな親油性R基を有するアミノ酸であり、該R基は、14~27の非水素原子を有し、好ましくは、2以上、例えば2または3の、縮合または連結していてもよい環状基を含み、これらの環状基は、典型的に、5または6の非水素原子、好ましくは6の非水素原子を含み、
XおよびYは、上記で定義した通りである。
【0019】
さらに好ましい化合物としては、下記の式(III)および(IV)の化合物が挙げられる。
AA2-AA1-AA1-X-Y (III)
AA1-AA1-AA2-X-Y (IV)
式中、AA1、AA2、X、およびYは、上記で定義した通りである。式(II)の分子がより好ましい。
【0020】
上記化合物の中で、ある特定の化合物が特に好ましい。特に、本明細書において便宜上AA2と呼ぶ、大きな親油性R基を有するアミノ酸が、トリブチルトリプトファン(Tbt)、またはPhe(4-(2-ナフチル))[本明細書中、Bip(4-(2-ナフチル)ともいう]、Phe(4-(1-ナフチル))[本明細書中、Bip(4-(1-ナフチル)ともいう]、Bip(4-n-Bu)、Bip(4-Ph)もしくはBip(4-T-Bu)などのビフェニルアラニン誘導体である化合物が好ましく、Phe(4-(2-ナフチル)およびTbtが最も好ましい。幾つかの好ましい実施形態では、大きな親油性R基を有するアミノ酸は、トリブチルトリプトファン(Tbt)である。
【0021】
別の好ましい化合物群は、Yが上記で定義した-R1-R2-R3である化合物であって、好ましくはR1およびR2が非置換、最も好ましくはR1およびR2の両方が炭素原子である化合物である。
【0022】
さらに好ましい化合物群は、-X-Yが一緒になって-NHCH2CH2Ph基である化合物である。
【0023】
上記化合物は、すべてのエナンチオマー形態、すなわち、D-アミノ酸およびL-アミノ酸の両方、ならびに、アミノ酸R基およびC末端キャッピング基「-X-Y」内のキラル中心に起因するエナンチオマーを含む。「アミノ酸」という用語にはαアミノ酸だけでなくβアミノ酸およびγアミノ酸も含まれ、すべてAA単位と考えられるN-置換グリシン類も同様である。本発明の分子は、ベータペプチドおよびデプシペプチドを含む。
【0024】
最も好ましい化合物は、以下のものである。
【0025】
【0026】
【0027】
t-Buは、第3級ブチル基を表す。アミノ酸2,5,7-トリス-tert-ブチル-L-トリプトファンを組み込んだこの2つ目の化合物は、本発明で使用される最も好ましい化合物である(本明細書中、AMC-109ともいう)。Argの代わりに他のカチオン性残基、特にLysを組み込んだ、この化合物の類縁体も非常に好ましい。上記で定義したような代替のC末端キャッピング基を組み込んだ類縁体も非常に好ましい。
【0028】
更に好ましい化合物群は、XYが一緒になって、-NHCH(CH3)2、-NH(CH2)5CH3、-NH(CH2)3CH3、-NH(CH2)2CH3、-NHCH2CH(CH3)2、NHシクロヘキシルおよびNHシクロペンチルからなる群から選択される化合物であり、特に好ましいのは、-X-Yが基NHCH(CH3)2またはNH(CH2)5CH3である化合物である。特に好ましい化合物群は、-X-Yが一緒になってNHCH(CH3)2である化合物である。
【0029】
好ましい化合物は、AA1がアルギニンであり、AA2がトリブチルトリプトファンであり、-X-Yが一緒になってNHCH(CH3)2である化合物である。
【0030】
本発明で使用される化合物はペプチドであることが好ましい。
【0031】
上記式(I)~(IV)の化合物は、ペプチド模倣体であってもよく、本明細書中に記載および定義されるペプチドのペプチド模倣体もまた、本発明に従って使用される化合物を表す。ペプチド模倣体とは、典型的には、そのペプチド等価体の極性、三次元的な大きさ、および機能性(生物活性)を保持しているが、ペプチド結合が、しばしばより安定した結合に、置き換えられていることを特徴とするものである。「安定した」とは、加水分解酵素による酵素分解に対して、より抵抗性があるという意味である。一般に、アミド結合に置き換わる結合(アミド結合サロゲート)は、当該アミド結合の多くの特性、例えばコンフォメーション、立体容積、静電特性、水素結合の可能性などを維持している。「Drug Design and Development」、Krogsgaard、Larsen、Liljefors、およびMadsen(編)、1996年、Horwood Acad. Pub発行の第14章に、ペプチド模倣体の設計と合成のための技術の一般的な議論が提示されている。本件の場合は、分子が酵素の特定の活性部位ではなく膜と反応しているため、親和性および効力または基質機能(substrate function)を正確に模倣することに関して記載された問題のいくつかは関係なく、所与のペプチド構造または必要とされる官能基のモチーフに基づいてペプチド模倣体を容易に調製することができる。好適なアミド結合サロゲートとしては、以下の基が挙げられる:N-アルキル化(Schmidt,R.ら、「Int. J. Peptide Protein Res.」、1995年、第46巻、47頁)、レトロインバースアミド(Chorev,MおよびGoodman,M.、「Acc. Chem. Res.」、1993年、第26巻、266頁)、チオアミド(Sherman D.B.およびSpatola,A.F.、「J. Am. Chem. Soc.」、1990年、第112巻、433頁)、チオエステル、ホスホネート、ケトメチレン(Hoffman,R.V.およびKim,H.O.、「J. Org. Chem.」、1995年、第60巻、5107頁)、ヒドロキシメチレン、フルオロビニル(Allmendinger,T.ら、「Tetrahydron Lett.」、1990年、第31巻、7297頁)、ビニル、メチレンアミノ(Sasaki,YおよびAbe,J.、「Chem. Pharm. Bull.」、1997年、第45巻、13頁)、メチレンチオ(Spatola,A.F.、「Methods Neurosci.」、1993年、第13号、19頁)、アルカン(Lavielle,S.ら、「Int. J. Peptide Protein Res.」、1993年、第42号、270頁)、およびスルホンアミド(Luisi,G.ら、「Tetrahedron Lett.」、1993年、第34巻、2391頁)。
【0032】
本発明のペプチド模倣化合物は、典型的には、大きさおよび機能がアミノ酸(AA単位)とほぼ同等の3つの同定可能なサブユニットを有する。したがって、「アミノ酸」という用語は、本明細書において、あるペプチド模倣化合物の同等のサブユニットをいうために便宜的に用いられる場合がある。また、ペプチド模倣体は、アミノ酸のR基と同等の基を有していてもよく、好適なR基とN末端修飾基およびC末端修飾基とについての本明細書中の記述は、変更すべきところは変更して、ペプチド模倣化合物にも準用される。
【0033】
上記で参照した教科書に述べられているように、ペプチド模倣体は、アミド結合の置き換えだけでなく、より大きな構造部分がジペプチド模倣構造またはトリペプチド模倣構造に置き換えられることを含む場合があり、この場合、アゾール由来の模倣体などの、ペプチド結合を含む模倣部分が、ジペプチドへと置き換わるものとして用いられ得る。しかしながら、上述のようにアミド結合が置き換えられたペプチド模倣体ひいてはペプチド模倣体骨格が好ましい。
【0034】
好適なペプチド模倣体としては、アミド結合を還元剤、例えば、ボランまたは水素化リチウムアルミニウムなどの水素化物試薬で処理することによってメチレンアミンに還元した還元ペプチドが挙げられる。このような還元は、分子の全体のカチオン性を高めるという追加の利点を有する。
【0035】
他のペプチド模倣体としては、例えば、アミド官能化ポリグリシンの段階的合成によって形成されたペプトイドが挙げられる。いくつかのペプチド模倣体骨格は、パーメチル化されたペプチドなどの、それらのペプチド前駆体から容易に得ることができ、好適な方法が、Ostresh,J.M.らにより、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」(1994年)、第91巻、11138-11142頁に記載されている。強塩基性条件は、O-メチル化よりもN-メチル化に有利であり、ペプチド結合内の窒素原子の一部または全部とN末端窒素とがメチル化されることになる。
【0036】
好ましいペプチド模倣体骨格としては、ポリエステル類、ポリアミン類、およびそれらの誘導体、ならびに置換アルカン類および置換アルケン類が挙げられる。ペプチド模倣体は、本明細書で述べるように修飾されていてもよいN末端およびC末端を有することが好ましい。
【0037】
本発明に従って使用される化合物(例えば、ペプチド)は、抗菌活性(典型的には、抗細菌活性)を示し、特に、膜に直接影響を与えるメカニズムによって細胞傷害効果を発揮するものであり、膜作用性抗菌剤と呼ぶことができる。これらの化合物は、溶菌性を有しており、細胞膜を不安定化し、あるいは穿孔さえする。このことは、標的細胞のタンパク質成分、例えば細胞表面受容体に作用または相互作用する薬剤に比べて、明瞭な治療上の優位性をもたらす。突然変異によって標的タンパク質が新しい形態となり、抗生物質耐性を獲得することはあるが、脂質膜の急激な変化が起こって細胞傷害効果を防ぐようになる可能性は、はるかに低い。溶菌効果は、非常に急速な細胞死を引き起こすため、細菌をそれらが増殖する機会を得る前に死滅させるという利点を有する。その上、上記分子は、標的微生物を死滅または損傷させる他の有用な特性、例えばタンパク質合成阻害能力を有していることもあり、したがって、多標的活性を有し得る。抗菌活性は、適切な方法により容易に決定することができ、当業者はそのような方法、例えば本明細書の実施例部分に説明した方法に詳しい。
【0038】
本発明において使用する化合物は、任意の好都合な方法で合成することができる。一般に、存在する反応性基(例えば、アミノ基、チオール基、および/またはカルボキシル基)は、合成期間の全体にわたって保護される。したがって、合成の最終工程は、保護された本発明の誘導体の脱保護である。
【0039】
ペプチドを構築する際は、原則的にC末端またはN末端のどちらからでも開始することができるが、C末端から開始する手順の方が好ましい。
【0040】
ペプチド合成の方法は当該技術分野においてよく知られているが、本発明では、固相支持体上で合成を行うことが特に好都合であり得、そのような支持体は当該技術分野においてよく知られている。
【0041】
アミノ酸の保護基は幅広い選択肢が知られており、好適なアミン保護基としては、カルボベンゾキシ(Zとも表す)、t-ブトキシカルボニル(Bocとも表す)、4-メトキシ-2,3,6-トリメチルベンゼンスルホニル(Mtr)、および9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmocとも表す)を挙げることができる。ペプチドをC末端から構築する場合、付加された新しい残基それぞれのα-アミノ基上にアミン保護基が存在することになり、次のカップリング工程の前に選択的に除去する必要があることが理解されるであろう。
【0042】
例えば採用し得るカルボキシル保護基としては、ベンジル(Bzl)基、p-ニトロベンジル(ONb)基、ペンタクロロフェニル(OPClP)基、ペンタフルオロフェニル(OPfp)基、またはt-ブチル(OtBu)基などの易切断型(readily cleaved)エステル基、および、固体支持体上のカップリング基、例えばポリスチレンに結合したメチル基が挙げられる。
【0043】
チオール保護基としては、p-メトキシベンジル(Mob)、トリチル(Trt)、およびアセトアミドメチル(Acm)が挙げられる。
【0044】
アミン保護基やカルボキシル保護基を除去するための手順はさまざまなものが存在している。しかしながら、これらは採用する合成戦略に合致したものでなければならない。側鎖保護基は、次のカップリング工程の前に一時的なα-アミノ保護基を除去するために用いられる条件に対して安定でなければならない。
【0045】
Bocなどのアミン保護基およびtBuなどのカルボキシル保護基は、例えばトリフルオロ酢酸を用いた酸処理によって同時に除去することができる。Trtなどのチオール保護基は、ヨウ素などの酸化剤を用いて選択的に除去することができる。
【0046】
ある実施形態において、本発明に従い用いられるための化合物(例えば、ペプチド)は、カプセル化(例えば、ナノカプセル化またはマイクロカプセル化)される。化合物のカプセル化は、第二の材料(マトリックスまたはシェルと呼ばれ得る)内に化合物を包み、カプセル(例えば、ナノカプセル)を形成することと考えられる。当業者であれば、化合物のカプセル化(例えば、ペプチドのカプセル化)(例えば、ナノカプセル化)の方法や材料に詳しい。
【0047】
上記のように、一つの態様において、本発明に従う抗菌性物品は、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを含む。従って、この観点において、ポリウレタンは、式(I)の化合物が含侵させられる基質(または材料)と考えることができる。
【0048】
誤解を避けるために言及すると、含侵には、前記ポリウレタンと式(I)の化合物との間の共有結合を含まない。むしろ、含侵は、前記ポリウレタンと式(I)の化合物との間の非共有結合的な、放出可能な、結合である。したがって、前記化合物は、前記ポリウレタンと放出可能に結合していると考えることができる。
【0049】
従って、式(I)の化合物は、それを含侵させた前記ポリウレタン(またはポリウレタン基質)から放出(または浸出もしくは拡散)可能である(例えば、水分と接触した際、例えば、創傷部において)。このことは、本発明の文脈においては、式(I)の化合物が抗菌活性を有することから重要であり、例えば、創傷の感染(症)を予防または治療するために、使用時に(例えば、創傷部と接触した際)、前記化合物は前記物品の前記ポリウレタンから抗菌活性が必要な部位へ放出可能であることが望ましい。
【0050】
好ましくは、使用時に、前記ポリウレタン(またはポリウレタン基質)から式(I)の化合物が制御放出(すなわち、持続放出)される。例えば、治療上有効な量の化合物が、少なくとも2、3、4または5日間放出され得る。幾つかの実施形態において、前記化合物(好ましくは治療上有効な量の化合物)が、少なくとも6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、10日、12日、15日、18日、20日、25日または30日の間、徐放性放出されうる。幾つかの実施形態において、前記化合物(好ましくは治療上有効な量の化合物)が、1~5日、1~10日、1~15日、1~18日、1~20日、1~25日または1~30日の間、徐放性放出されうる。幾つかの実施形態において、前記化合物(好ましくは治療上有効な量の化合物)が、2~5日、2~10日、2~15日、2~18日、2~20日、2~25日または2~30日の間、徐放性放出されうる。幾つかの実施形態において、前記化合物(好ましくは治療上有効な量の化合物)が、5~10日、5~15日、5~18日、5~20日、5~25日または5~30日の間、徐放性放出されうる。
【0051】
治療上有効な量は、標的細菌に対する前記化合物の最小発育阻止濃度(MIC)を超える、化合物の濃度の局所環境になるまで運搬を生じるであろう。
【0052】
上記したように、使用時に、好ましくは、前記ポリウレタン(またはポリウレタン基質)から式(I)の化合物の徐放性放出が存在する。従って、好ましくは、本発明に従う抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)または本発明に従うコーティングの場合、使用時(例えば、水または水蒸気または水溶液または体液と接触時)、前記ポリウレタン(またはポリウレタン基質)から式(I)の化合物の徐放性放出が存在する。例えば、本発明に従う医療用デバイスの場合、使用時(例えば、対象においてインビボで用いるとき、または対象(例えば、対象の創傷)と接触させるとき、または対象中へ移植するとき)、前記ポリウレタン(またはポリウレタン基質)から式(I)の化合物の徐放性放出が存在するのが好ましい。
【0053】
含侵された化合物が前記ポリウレタンから放出される能力は、いずれか適切な方法により容易に決定することができ、当業者であれば、そのような方法に精通している。例えば、本発明に従う化合物を含侵させた抗菌性物品(または抗菌性コーティング)を、細菌(例えば、ブドウ球菌(Staphylococcus)属の細菌)を接種した寒天プレートと接触させることができ、適切な培養時間(例えば、37℃で16時間)の後、抗菌性物品の周囲に「発育阻止帯(zone of inhibition)」(すなわち、細菌増殖がないかまたは細菌増殖が抑制されたゾーン)がないか、プレートを検査することができる。「発育阻止帯」があれば(例えば、抗菌化合物を含侵させていないコントロール物品またはコーティングでの試験と比較して)、化合物が前記ポリウレタンから放出可能であることを示している。本明細書の実施例部分に、例示の方法を説明している。例えば本明細書の実施例部分に説明した「抽出」試験も、前記ポリウレタンから含侵された化合物が放出される能力を評価するのに用いることが可能である。
【0054】
適切な物性を有するポリウレタンを、本発明に従い用いることができる。典型的には、もちろん、前記ポリウレタンが、本明細書の他の箇所で議論するように、式(I)の化合物(それが含侵されている)を放出可能な物性であるべきである。
【0055】
別の見方をすれば、式(I)の化合物は、前記ポリウレタン(ポリウレタン基質)を通して分散(または少なくとも部分的に通して分散)(放出可能に分散)されると考えられる。
【0056】
いくつかの実施形態において、式(I)の化合物は、前記ポリウレタン(ポリウレタン基質)を通して、均質に分散(均質かつ放出可能に分散)されてもよい。
【0057】
ポリウレタン(便宜的にPUとも呼ばれることがある)は、1分子当たり2個以上の反応性水酸基(-OH)を有するアルコール(例えば、ジオール、トリオールまたは他のポリオール)と、1分子当たり2個以上の反応性イソシアネート基(-NCO)を有するイソシアネート(例えば、ジ-またはトリ-イソシアネートまたはその他のポリイソシアネート)との反応によって形成されるポリマーである。このようなアルコールとイソシアネートとの反応は、骨格にウレタン結合を生じる。典型的には、ポリウレタンポリマーは、ジ-またはトリ-イソシアネートと、ポリオール(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリテトラヒドロフランのようなジオール)との反応により形成される。好ましいポリオールは、ジオールである。好ましいイソシアネートは、ジイソシアネートである。場合によっては、ポリウレタンは、1以上の鎖延長剤をさらに含んでもよい(すなわち、1以上の鎖延長剤をPUの製造において用いてもよい)。
【0058】
多くの種類のポリウレタンが当該分野で知られており、当業者であれば、これらおよびポリウレタンの製造方法に精通している。特に、ポリウレタンを含む抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材)は、当該技術分野でよく知られており、当業者はこのような物品及びその製造方法に精通している。
【0059】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリエーテルポリウレタン、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)ベースのポリウレタンである。従って、幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリエーテルアルコール(ポリエーテルポリオール、好ましくはポリエーテルジオール))とイソシアネートとの反応、例えば、PEGとイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)との反応、またはポリテトラヒドロフランとイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)との反応により、形成されたポリウレタンである。
【0060】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、PEG-類似体ベースのポリウレタンである。一例として、幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリテトラヒドロフラン(PTHF)ベースのポリウレタンである。ポリテトラヒドロフランは、ポリ(テトラメチレンオキシド)またはポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールまたはポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMEG)とも呼ばれうる。
【0061】
典型的かつ好ましくは、本発明に従い、前記PU(例えば、熱可塑性ポリウレタン;TPU)は、水(または他の水溶液または体液等)を吸収することができるものである。あるいは、幾つかの実施形態において、前記PUは、水(または他の水溶液または体液等)を取り込むことができるか、または、水(または他の水溶液または体液等)と接触した際に膨潤することができる。
【0062】
典型的には、そして好ましくは本発明に従って、前記PU(例えばTPU)の(または前記PU内の)ポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマー)または部位)は、PUが水(または他の水溶液または体液等)を吸収することを可能にするものである。あるいは、幾つかの実施形態において、前記PUのポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーもしくは部位)は、水(または他の水溶液または体液等)を取り込むことが可能か、または、水(または他の水溶液または体液等)と接触した際に膨潤することができる。
【0063】
従って、幾つかの実施形態において、前記PU(例えば、TPU)は、前記PUが水(または他の水溶液または体液等)を吸収(または取り込む)ことを可能にする、ポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーもしくは部分)を含む。そのようなポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーもしくは部位)は、親水性であると考えられる。前記PUが水(または他の水溶液または体液等)を吸収(または取り込む)ことを可能にするポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分は、時には、「ソフトドメイン」と考えられることがある。用語「ソフトドメイン」は、PUがまた有することがありうる「ハードドメイン」と対比するために用いられる。用語「ハードドメイン」は、典型的には、PUのイソシアネート誘導部分(またはドメインもしくは部分)に関して用いられる。ソフトドメインとハードドメインは、それぞれ、ソフトセグメントおよびハードセグメントと呼ばれることもある。
【0064】
理論に束縛されることを望むものではないが、PU(PU基質)に水が浸透すると、水により接近されたPUの部分中に含侵させられた(またはその中に分散された、もしくはその中に取り込まれた)本発明に従う式(I)の化合物は、溶解し、放出されうる。
【0065】
典型的かつ好ましくは、本発明に従うポリオールは、高分子ポリオール(例えば、高分子ジオール)である。従って、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えば、TPU)は、高分子ポリオール-(好ましくは高分子ジオール-)誘導部分(またはモノマーもしくは部分)を含む。あるいは、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、高分子ポリオール(好ましくは高分子ジオール)とイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)の反応により形成され(または合成され、または製造されまたは得られ)る(または形成されている、または合成されている、または製造されている、得られている)。任意に、鎖延長剤も含んでもよい。すなわち、反応は、さらに鎖延長剤を含んでもよい。
【0066】
幾つかの実施形態において、ポリエーテルポリオール(好ましくはポリエーテルジオール)が好ましい。従って、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリエーテルポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーまたは部分)を含む。あるいは、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリエーテルポリオール(好ましくはポリエーテルジオール)とイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)の反応により形成され(または合成され、または製造されまたは得られ)る(または形成されている、または合成されている、または製造されている、得られている)。任意に、鎖延長剤も含んでもよい。すなわち、反応は、さらに鎖延長剤を含んでもよい。
【0067】
理論に束縛されることを望むものではないが、ポリエーテルポリオール(好ましくはポリエーテルジオール)を用いて形成されたPUは、それらが親水性であり、PUが水を吸収することが可能であるため、本発明の文脈において特に有用であると考えられる。これは、酸素原子の存在によるものと考えられる。
【0068】
幾つかの実施形態において、ポリエーテルポリオール(好ましくはポリエーテルジオール)に由来する(またはベースにした)ソフトドメインを含むPUが好ましい。
【0069】
幾つかの好ましい実施形態において、本発明に従うポリエーテルポリオールは、式(V)のポリエーテルポリオール(より詳細にはポリエーテルジオール)である:
【0070】
【0071】
[式中、「n」は、2、3または4(好ましくは2または4)であり;
R1およびR2のそれぞれは、独立して、HまたはC1~C6アルキルからなる群から選択され(好ましくはR1およびR2のそれぞれはHである);
「m」は少なくとも2である。
【0072】
幾つかの実施形態において、「m」は、2~500、例えば2~250、2~100、2~50、2~10、5~500、5~250、5~100、5~50、5~10、10~500、10~250、10~100または10~50である。幾つかの実施形態において、「m」は、約5~75、5~50、5~40、5~30または5~20である。幾つかの実施形態において、「m」は、約10~75、10~50、10~40、10~30または10~20である。幾つかの実施形態において、「m」は、約15~75、15~50、15~40、15~30または15~20である。幾つかの実施形態において、「m」は、約20~75、20~50、20~40、20~30である。幾つかの実施形態において、「m」は、約5~150または約5~140または約6~150または約6~140である。幾つかの実施形態において、「m」は、約15~40である。
【0073】
幾つかの好ましい実施形態において、「n」は2である。
【0074】
幾つかの好ましい実施形態において、「n」は4である。
【0075】
幾つかの好ましい実施形態において、「n」は2または4であり、R1およびR2のそれぞれはHである。
【0076】
「n」が2または4である幾つかの好ましい実施形態において、「m」は、上記の数の範囲のうちの一つである。
【0077】
幾つかの好ましい実施形態において、「n」が2または4であり、R1およびR2のそれぞれは、Hであり、「m」は、上記の数の範囲のうちの一つである。
【0078】
幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、式(V)のポリエーテルポリオールとイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)の反応により、形成され(または合成され、または製造され)る(または形成されている、または合成されている、または製造されている)。
【0079】
あるいは、幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、式(VI)のポリエーテルポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーまたは部分またはドメイン)を含む:
【0080】
【0081】
式中、R1、R2、「n」および「m」のそれぞれは、式(V)に関連して上記したとおりである。
【0082】
あるいは、幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、式(VI)のモノマー(または部分)を含む。
【0083】
幾つかの実施形態において、本発明に従うポリオール(例えば、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールまたは式(V)に従う他のポリオール)は、約500から約10,000の分子量を有してもよい。
【0084】
幾つかの実施形態において、前記PUは、ポリアルキレングリコール(例えば上記式(V)の一般式を有するポリアルキレングリコール)と2つ以上の反応性イソシアネート基を有するイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)の反応により、形成される(形成されている)。任意に、鎖延長剤も含んでもよい。
【0085】
幾つかの実施形態において,イソシアネート(好ましくはジイソシアネート)は脂肪族イソシアネート(好ましくは脂肪族ジイソシアネート)である。例えば、前記脂肪族ジイソシアネートは、脂肪族水素化4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネートであってもよい。脂肪族水素化4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネートはまた、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートまたはHMDIと呼ばれることもある。
【0086】
幾つかの他の実施形態において、前記イソシアネート(好ましくはジイソシアネート)は、芳香族イソシアネート(好ましくは芳香族ジイソシアネート)である。例えば、前記芳香族ジイソシアネートは、芳香族4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネートであってもよい。
【0087】
好ましい実施形態において、前記イソシアネートは、脂肪族イソシアネート(好ましくは脂肪族ジイソシアネート)である。
【0088】
従って、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリオール(好ましくはポリエーテルポリオール、例えばポリエーテルジオール、例えば前記式(V)に従う)と、脂肪族イソシアネート(好ましくは脂肪族ジイソシアネート)の反応により形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。任意に、鎖延長剤も含んでもよい(例えば、1,4-ブタンジオール)である。
【0089】
特定の他の形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリオール(好ましくはポリエーテルポリオール、例えばポリエーテルジオール、例えば上記式(V)に従う)と芳香族イソシアネート(好ましくは芳香族ジイソシアネート)の反応により、形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。任意に、鎖延長剤も含まれてもよい(例えば、1,4-ブタンジオール)。
【0090】
幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールと脂肪族イソシアネート(好ましくは脂肪族ジイソシアネート)の反応により、形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(例えば、上記式(V)に従う)とジシクロヘキシルメタンジイソシアネートの反応により、形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。任意に、鎖延長剤を含んでもよい(例えば、1,4-ブタンジオール)、すなわち、反応は更に鎖延長剤を含んでもよい。
【0091】
幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールと芳香族イソシアネート(好ましくは芳香族ジイソシアネート)の反応により、形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール(例えば、上記式(V)に従う)と芳香族4,4’-メチレンジフェニルジイソシアネートの反応により、形成され(または合成され)る(または形成されている、または合成されている)。任意に、鎖延長剤を含んでもよい(例えば、1,4ブタンジオール)、すなわち、反応は更に鎖延長剤を含んでもよい。
【0092】
上記の議論から明らかなように、幾つかの実施形態において、ポリエーテルポリオール(すなわち、ポリエーテルポリオールをベースとするPU)は、本発明に従い好ましい。しかし、幾つかの他の実施形態において、ポリエステルポリオール(すなわち、ポリエステルポリオールをベースとするPU)を用いてもよい。従って、幾つかの実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリエステルポリオール-(好ましくはジオール-)誘導部分(またはモノマーまたは部分)を含む。あるいは、幾つかの好ましい実施形態において、前記PU(例えばTPU)は、ポリエステルポリオール(好ましくはポリエステルジオール)とイソシアネート(好ましくはジイソシアネート)の反応により、形成され(または合成され、または製造され、または得られ)る(または形成されている、または合成されている、または製造されている、または得られている)。好ましいイソシアネートは、本明細書の他の箇所で説明する。任意に鎖延長剤を含んでもよい、すなわち、反応は鎖延長剤を更に含んでもよい。
【0093】
上記の議論から明らかなように、ポリウレタンは、鎖延長剤(すなわち、前記イソシアネートおよびポリオール由来部分に加えて)を更に含んでもよい。この分野の当業者は、鎖延長剤に精通している。鎖延長剤は、典型的には、低分子量(または短鎖)ジオールまたはジアミンであり、イソシアネート(例えばジイソシアネート)と反応してポリウレタン分子量を増加させ、ハードセグメント(またはハードドメイン)のブロック長さを増加させる。鎖延長剤は、脂肪族または芳香族であってもよい。当業者は、適切な鎖延長剤に精通しており、前記鎖延長剤は、例えば、1,4ブタンジオール(BDO)を含む。
【0094】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、熱可塑性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンは、頭文字をとって、TPUと呼ぶことがある。幾つかの好ましい実施形態において、前記TPUは、医薬グレードTPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、脂肪族TPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、脂肪族ポリエーテルベースのTPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、テコフレックス(Tecoflex)(例えば、テコフレックスEG80A)(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク(Lubrizol Advanced Materials, Inc.))であるか、または、テコフレックス(例えば、テコフレックスEG80A)に類似するTPU(例えば、テコフレックスの特徴の一つ以上を有する)である。幾つかの実施形態において、前記TPUは、芳香族TPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、芳香族コポリエステルベースのTPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、芳香族ポリカプロラクトンコポリエステルベースのTPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、パールコート(Pearlcoat)DIPP119(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク.)であるか、または、パールコートDIPP119に類似するTPU(例えば、パールコートDIPP119の特徴の一つ以上を有する)である。幾つかの実施形態において、前記TPUは、芳香族ポリエーテルベースのTPUである。幾つかの実施形態において、前記TPUは、エスタン(Estane)58300(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク.)であるか、または、エスタン58300に類似するTPU(例えば、エスタン58300の特徴の一つ以上を有する)である。
【0095】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、バイアテン(Biatain)(登録商標)製品群(コロプラスト(Coloplast))で使用される種類のポリウレタンであるか、または、ペレタン(Pellethane)(商標)(例えば、ペレタン80A、ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク)であるか、または、そのようなポリウレタンに類似したポリウレタン(例えば、そのようなポリウレタンの特徴の一つ以上を有する)である。
【0096】
本発明によるポリウレタンは、吸収性、例えば、水蒸気吸収性、例えば、例えば、創傷滲出液のような滲出液を吸収することができる吸湿性であってもよい。
【0097】
吸収性ポリウレタンは、典型的には、創傷ドレッシング材(例えば、滲出液の吸収が望ましい創傷ドレッシング材)用に好ましい。吸収性ポリウレタンは、創傷の滲出液のような水分と接触すると膨潤することがある。従って、本発明による前記ポリウレタンは、吸湿性であってもよい。本発明による前記ポリウレタンは、親水性であってもよい。
【0098】
好ましくは、本発明による前記ポリウレタンは、医療グレードポリウレタンである。従って、好ましくは、本発明による前記ポリウレタンは、生体適合性である。
【0099】
本発明による前記ポリウレタンは、ポリウレタン発泡体の形態であってもよい。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、ここで定義した式(I)の化合物を含侵させたポリウレタン発泡体を含む抗菌性物品を提供する。
【0100】
本発明によるポリウレタン発泡体は、連続気泡構造を有する。従って、前記ポリウレタン発泡体は、透過性(または半透過性)または多孔性ポリウレタンと考えてもよい。本発明に従えば、そのようなポリウレタン発泡体は、式(I)の化合物を含侵させる。そのようなポリウレタン発泡体は、例えば、水蒸気と接触させた際(例えば、滲出創傷のような創傷において)、式(I)の化合物を(例えば、徐放性放出により)放出することができる。典型的かつ好ましくは、ポリウレタン発泡体はまた、水分、例えば創傷滲出液を吸収することができる。
【0101】
当業者は、抗菌性物品に適するポリウレタン発泡体を含むポリウレタン発泡体に精通している。(例えば、ポリウレタン発泡体ドレッシング材)
【0102】
適切な物性を有するポリウレタン発泡体は、本発明に従い用いることができる。例えば、いずれの孔径、密度、厚み、水蒸気透過率(MVTR)または吸収容量を有するポリウレタン発泡体を用いてもよい。典型的には、もちろん、前記ポリウレタン発泡体が、ここに説明したように、(含侵させられた)式(I)の化合物を放出し、水分(例えば、創傷滲出液)を吸収することが可能なような、物性であるべきである。
【0103】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体における平均(例えば、算術平均)孔径直径は、10μm~1000μm、例えば10μm~900μm、10μm~800μm、10μm~700μm、10μm~600μm、10μm~500μm、10μm~400μm、10μm~300μm、10μm~200μmまたは10μm~100μmである。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体における平均(例えば、算術平均)孔径直径は、20μm~1000μm、例えば20μm~900μm、20μm~800μm、20μm~700μm、20μm~600μm、20μm~500μm、20μm~400μm、20μm~300μm、20μm~200μmまたは20μm~100μmである。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体の平均(例えば、算術平均)孔径直径は、100μm~1000μm、例えば100μm~900μm、100μm~800μm、100μm~700μm、100μm~600μm、100μm~500μm、100μm~400μm、100μm~300μmまたは100μm~200μmである。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体表面の前記孔の平均孔径直径は、内部ポリウレタン発泡体における平均孔径直径より小さい。平均(例えば、算術平均)孔径直径は、適切な手段のいずれかにより得ることができ、当業者は、そのような方法、例えば、電解放射型走査電子顕微鏡法に精通している。
【0104】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、均一(または比較的均一)な孔径を有する。他の実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、サイズにおいて非均一な孔を有する。前記孔は、均質(または実質的に均質)であるか、または、形態において非均質であってもよい。
【0105】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、0.05g/cm3~0.5g/cm3、0.05g/cm3~0.4g/cm3、0.05g/cm3~0.3g/cm3、0.05g/cm3~0.2g/cm3または0.05g/cm3~0.1g/cm3の密度を有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、0.1g/cm3~0.5g/cm3、0.1g/cm3~0.4g/cm3、0.1g/cm3~0.3g/cm3または0.1g/cm3~0.2g/cm3の密度を有する。
【0106】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、1mm~20mm、1mm~10mm、1mm~5mm、1mm~4mm、1mm~3mm、1mm~2mmの厚みを有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、2mm~20mm、2mm~10mm、2mm~5mm、2mm~4mmまたは2mm~3mmの厚みを有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、3mm~20mm、3mm~10mm、3mm~5mmまたは3mm~4mmの厚みを有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、4mm~20mm、4mm~10mmまたは4mm~5mmの厚みを有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、5mm~20mmまたは5mm~10mmの厚みを有する。前記発泡体の厚みは、適切な手段のいずれかにより得ることができる。当業者はそのような方法、例えば、マイクロメーターを用いることによる方法に精通している。
【0107】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、100~3000g/m2/日、100~2000g/m2/日、100~1000g/m2/日、または100~500g/m2/日の水蒸気透過率(MVTR)を有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、500~3000g/m2/日、または500~2000g/m2/日、または500~1000g/m2/日の水蒸気透過率(MVTR)を有する。MVTRは、物質または材料を通過する水蒸気のよく知られた尺度である。MVTRは任意の適切な手段によって評価することができ、当業者は適切な方法、例えば恒温恒湿器を使用する方法に精通している。
【0108】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、0.05g/cm2~5g/cm2、0.05g/cm2~2g/cm2、0.05g/cm2~1g/cm2の吸収容量(液体または水蒸気吸収容量、例えば、水吸収容量)を有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、0.5g/cm2~5g/cm2、0.5g/cm2~2g/cm2、0.5g/cm2~1g/cm2の吸収容量を有する。幾つかの実施形態において、前記ポリウレタン発泡体は、1g/cm2~5g/cm2または1g/cm2~2g/cm2の吸収容量を有する。吸収容量は、任意の適切な手段によって評価することができ、当業者は適切な方法を熟知している。そのような方法は、例えば、前記ポリウレタン発泡体のサンプルを秤量してその重量(W1)を記録し、次いで、前記ポリウレタン発泡体の前記サンプルを過剰の脱イオン水中に浸漬し(例えば、37℃で30分間)、その後、前記ポリウレタン発泡体のサンプルの重量を再度秤量してその重量(W2)を記録することによる方法である。ここで、吸収容量(g/cm2)=(W2-W1)g/前記ポリウレタン発泡体の初期面積(cm2)
【0109】
上述したように、当業者は、医療用途の抗菌性物品に適するポリウレタン発泡体(例えば、ポリウレタン発泡体ドレッシング材)を含むポリウレタン発泡体に精通しており、従って、本発明に従って使用するためのポリウレタン発泡体の製造方法にも精通している。
【0110】
ポリウレタン発泡体の製造には、発泡剤が典型的に使用される。発泡剤は、ポリマーやプラスチックなど、製造中にある程度の硬化や相転移を起こす材料に、発泡プロセスを介して細胞構造を生成(または導入)することができる物質である。発泡剤(これは「気泡剤」とも呼ばれることがある)は孔(または穴)を形成するため、細胞構造を有するポリウレタン(ポリウレタン発泡体)の製造を容易にすることができる。一例として、ポリウレタン発泡体は、ポリウレタン製造工程中に水(および任意に過剰のイソシアネート)を添加し、水はイソシアネート基と反応し、発泡剤として作用する二酸化炭素を放出して発泡構造を生成し、製造することができる。このような発泡反応は、第三級アミンのようなアミンによって触媒されることができる。界面活性剤(例えばシリコーン界面活性剤)を使用して、ポリウレタン発泡プロセスにおける発泡セルを安定化させることができる。ポリウレタン発泡体を製造するための他の方法も知られており、当業者はこれらに精通しており、任意の適切な手段によって製造された発泡体を本発明に従って使用することができる。
【0111】
幾つかの実施形態において、ポリウレタン(PU)発泡体は、PUの好ましい一形態を示すが、他の実施形態において、前記ポリウレタンはポリウレタン発泡体ではない(すなわち、非発泡ポリウレタンである)。PU発泡体は、抗菌性物品が創傷ドレッシング材である場合に、好ましい場合がある。
【0112】
従って、幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリウレタン発泡体である。
【0113】
他の実施形態において、前記ポリウレタンは、発泡体ではない(すなわち、発泡体の形態ではない)。非発泡体PUは、例えばPU発泡体と比較して、硬いか、または比較的硬いと考えられる。非発泡PUは硬い(または比較的硬い)と考えられるが、それでも可撓性である場合がある。従って、幾つかの実施形態において、前記PUは硬いが可撓性である。
【0114】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンは、ポリウレタンのシート、層、パッチまたはパッド(など)の形態である。従って、幾つかの実施形態において、前記抗菌性物品は、ポリウレタンを含むシート、層、パッチまたはパッドを含む。前記シート、層、パッチまたはパッドは、式(I)の化合物で含侵されている。
【0115】
式(I)の化合物によるポリウレタン(例えば、PU発泡体または非発泡体PU)への含侵は、任意の適切な手段によって達成することができる。
【0116】
例えば、ポリウレタンの含侵は、前記ポリウレタンに式(I)の化合物の溶液を適用し(またはポリウレタンを式(I)の化合物の溶液でインキュベートまたは浸漬し)、次いで前記ポリウレタンを乾燥させることによって行うことができる。式(I)の化合物の溶液を適用した後、前記ポリウレタンは(前記溶液を吸収するため)膨潤する可能性がある(または、少なくとも前記ポリウレタンの外側/表面層が膨潤する可能性がある)。適用後(膨潤が生じた場合は膨潤後)、前記ポリウレタンを乾燥させる。式(I)の化合物の溶液に適した溶媒のいずれを使用してもよい。幾つかの実施形態において、前記溶液は、式(I)の化合物の水溶液である。例えば、式(I)の化合物の溶液の溶媒は、水(例えば蒸留水)であってよい。他の実施形態において、溶媒は、有機溶媒であってもよく、または有機溶媒を含んでもよく、例えば、エタノールおよび/またはクロロホルムを含んでもよく、または極性非プロトン性溶媒(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるような)を含んでもよい。幾つかの実施形態において、溶媒は、エタノール/クロロホルム混合物(例えば、2:1エタノール:クロロホルム混合物)である。幾つかの実施形態において、溶媒は、極性非プロトン性溶媒(または極性非プロトン性有機溶媒)である。有機溶媒(例えば、クロロホルム:エタノール溶媒または本明細書の他の箇所に記載されるような極性非プロトン性溶媒)は、非発泡PU材料に関連して特に有用であり得る。
【0117】
もちろん、典型的には、式(I)の化合物の溶液は、治療上有効な(抗菌上有効な)量の化合物が前記ポリウレタンに含浸されるように、前記ポリウレタンに適用(または前記ポリウレタンとインキュベート)されてもよい。場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、少なくとも0.1mg、少なくとも0.5mg、少なくとも1mg、少なくとも2mg、少なくとも5mg、少なくとも10mgまたは少なくとも20mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、0.1mg~20mg、0.5mg~20mg、1mg~20mg、2mg~20mg、5mg~20mg、10mg~20mg、0.1mg~10mg、0.5mg~10mg、1mg~10mg、2mg~10mg、5mg~10mg、0.1mg~5mg、0.5mg~5mg、1mg~5mg、2mg~5mg、0.1mg~5mg、0.5mg~5mg、1mg~5mg、2mg~5mg、0.1mg~2mg、0.5mg~2mg、1mg~2mg、0.1mg~1mgまたは0.5mg~1mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、0.5mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。
【0118】
場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、少なくとも0.05mg、少なくとも0.1mg、少なくとも0.5mg、少なくとも1mg、少なくとも2mg、少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも20mg、少なくとも40mg、少なくとも50mg、少なくとも100mg、または少なくとも200mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、0.05~200mg、0.1mg~200mg、0.5mg~200mg、1mg~200mg、2mg~200mg、5mg~200mg、10mg~200mg、20mg~200mg、40mg~200mg、50mg~200mg、100mg~200mg、0.05~50mg、0.1mg~50mg、0.5mg~50mg、1mg~50mg、2mg~50mg、5mg~50mg、10mg~50mg、20mg~50mg、0.05~10mg、0.1mg~10mg、0.5mg~10mg、1mg~10mg、2mg~10mgまたは5mg~10mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。場合によっては、式(I)の化合物の溶液は、0.5~10mg、0.5~5mg、0.5~2mg、0.5~1mg、1~10mg、1~5mgまたは1mg~2mgの前記化合物が前記ポリウレタンの1cm2あたり含侵(または適用)されるように、前記ポリウレタンに適用されてもよい。
【0119】
幾つかの実施形態において、本発明に従うポリウレタンは、上記の量(または濃度)のうちの1つの化合物を含浸される(または担持される、または適用される)。
【0120】
幾つかの実施形態において、前記ポリウレタンに適用される式(I)の化合物の前記溶液(これは、本明細書の他の箇所に記載されるように、PUが膨潤し得るので、便宜的に膨潤剤と呼ばれ得る)は、式(I)の化合物の濃度が、0.01%~10%、0.05%~10%、0.1%~10%、0.2%~10%、0.25%~10%、0.5%~10%、1%~10%、2%~10%または5%~10%、0.01%~5%、0.05%~5%、0.1%~5%、0.2%~5%、0.25%~5%、0.5%~5%、1%~5%、2%~5%、0.01%~3%、0.05%~3%、0.1%~3%、0.2%~3%、0.25%~3%、0.5%~3%、1%~3%、2%~3%(例えば、重量/体積%)である。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物(前記膨潤剤)の溶液は、式(I)の化合物の濃度が、最大0.5%、最大1%、最大2%、最大3%、最大5%、または最大10%(例えば、重量/体積%)である。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物(前記膨潤剤)の溶液は、式(I)の化合物の濃度が、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも0.2%、少なくとも0.25%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも3%、または少なくとも5%(例えば、重量/体積%)である。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物(前記膨潤剤)の溶液は、式(I)の化合物の化合物の濃度が、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%または約10%(例えば、重量/体積%)である。例として、式(I)の化合物(前記膨潤剤)の溶液は、式(I)の化合物の濃度が2.8%(w/v)であってもよい。
【0121】
幾つかの実施形態において、式(I)の化合物をPU発泡体へ含侵させることは、式(I)の化合物の溶液(例えば、水溶液、例えば溶媒は水であってもよい)をPU発泡体に適用し(またはPU発泡体をそのような溶液でインキュベートするか、または浸漬させ)、その後、前記ポリウレタンを乾燥させることによって行うことができる。本明細書の他の箇所で論じた含浸方法の好ましい特徴をPU発泡体に適用することができる。
【0122】
幾つかの実施形態において,発泡体の形態でないPU(すなわち、PU発泡体ではないPU)に式(I)の化合物を含侵させることは、式(I)の化合物の溶液(典型的には溶媒が有機溶媒の溶液(または2以上の有機溶媒)である、例えば本明細書の他の箇所に記載される溶液)を前記PUに適用し(またはそのような溶液で前記PUをインキュベートするか、または浸漬させ)、その後、前記ポリウレタンを乾燥させることにより行うことができる。そのような実施形態において、前記PUは、前記溶液を適用(または前記溶液でインキュベーション)する際に典型的には膨潤する。本明細書の他の箇所に記載されるように、適用(またはインキュベーション)の時間または膨潤時間の長さは、含浸される前記PUの性質(例えば厚さ)および/または前記PUの含浸が所望される深さに基づいて選択され得る。本明細書の他の箇所で論じた含浸方法の好ましい特徴は、発泡体の形態ではないPUに適用することができる。
【0123】
ポリウレタンに式(I)の化合物を含浸させるもう一つの方法は、エレクトロスピニングである。エレクトロスピニングは、ポリマー溶液から繊維(例えばナノ繊維)を作ることができる電気流体力学的現象に支配された、よく知られた電圧駆動プロセスである。エレクトロスピニング法により、本発明に従って含浸されたポリウレタンを得るためには、前記ポリウレタンと式(I)の化合物を含む溶液(または「紡糸溶液」)を、前記化合物を含浸させたポリウレタン繊維にエレクトロスピニングする。ポリウレタン繊維がエレクトロスピニングによって押し出されるので、式(I)の化合物は前記ポリウレタン繊維と会合し、その結果、製造されたエレクトロスピニングされたポリウレタン繊維(または繊維製品、またはPU繊維のメッシュ、またはPU繊維のネットワーク、またはPU繊維のマット)に含浸される。エレクトロスピニングは当該技術分野において周知であり、当業者は適切なエレクトロスピニング材料および方法を熟知しているであろう。
【0124】
幾つかの実施形態において、本発明に従う前記ポリウレタンは、ポリウレタン繊維のメッシュ(またはPU繊維製品、またはPU繊維のシート、またはPU繊維のネットワーク、またはPU繊維のマット等)である。幾つかのそのような実施形態において、前記ポリウレタン繊維(またはPU繊維のメッシュもしくはマット等)は、エレクトロスピニングによって製造される。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンは、エレクトロスピニング法(例えば、本明細書の他の箇所で論じるような)によって製造される。
【0125】
ポリウレタンに式(I)の化合物を含侵させる別の方法は、前記ポリウレタンポリマーの製造の間に、反応混合物中に前記化合物を含めること、すなわち、前記化合物を、互いに反応してポリウレタンを形成するアルコールおよびイソシアネートとともに反応混合物中に含有させることである。誤解を避ける目的で、これは、生成した前記ポリウレタンポリマーに式(I)の化合物が共有結合していることを意味するものではない。むしろ、式(I)の化合物は、製造された前記ポリウレタンと会合し、従って、製造された前記ポリウレタンに含浸される。場合によっては、式(I)の化合物が前記ポリウレタンポリマーを製造する際に反応混合物中に含まれる場合、前記化合物はカプセル化された形態(例えば、ナノカプセル化形態またはマイクロカプセル化形態)で含まれることがある。
【0126】
式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを得る別の方法は、少なくとも一つの有機溶媒(例えば、少なくとも一つの極性非プロトン性溶媒)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および式(I)の化合物を含む組成物(液体組成物または溶液または製剤)(前記TPUおよび式(I)の化合物は、前記少なくとも一つの有機溶媒中に溶解している。)を準備することである。そのような組成物は、都合により、コーティング組成物または塗装組成物とも呼ばれる。そのような組成物は、物品(又は物品の一部)をコーティング(又は塗装)するために使用することができ、その後、前記溶媒が前記組成物から蒸発するとき(物品又はその一部が前記溶液で塗装/コーティングされた後)、前記物品は式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを含むコーティング(または層または表面層または塗料)を有する(すなわち、コーティング(または層または表面層または塗料)が残される)。本明細書の他の箇所で議論される含浸方法の好ましい特徴は、適切な場合、塗装(又はコーティング)組成物、塗装(又はコーティング)方法、又は塗装(又はコーティング)組成物で塗装(又はコーティング)された物品に関する本発明の態様又は実施形態に適用することができる。塗装(又はコーティング)組成物、塗装(又はコーティング)方法、及び塗装(又はコーティング)組成物で塗装(又はコーティング)された物品に関連する好ましい特徴は、本発明の他の態様に関連して本明細書の他の箇所で議論される。本発明による塗装/コーティング方法は、単に本発明の塗装/コーティング組成物で「塗装する」ことによって、広範囲の物品(またはその部分)に抗菌性コーティング(または層)を容易に提供することができるので、特に有利であり得る。
【0127】
前記抗菌性物品は、微生物(典型的には細菌)汚染の影響を受けやすい任意の物品であってよい。
【0128】
典型的には、前記抗菌性物品は医療用デバイスである。従って、いくつかの実施形態において、前記抗菌性物品は、医療環境における感染(症)(好ましくは、細菌感染(症))の予防又は治療に使用するのに適した物品である。
【0129】
好ましい実施形態において、前記抗菌性物品はドレッシング材である。
【0130】
好ましい実施形態において、前記抗菌性物品は、創傷ドレッシング材、外科用パッド、傷防止ドレッシング材などである。
【0131】
特に好ましい実施形態では、前記抗菌性物品は創傷ドレッシング材である。
【0132】
幾つかの実施形態において、前記創傷ドレッシング材は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンのシート(または層またはパッチまたはパッド)を含む。
【0133】
幾つかの実施形態において、前記創傷ドレッシング材は、1つ以上の追加成分を含んでもよい。
【0134】
幾つかの実施形態において、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンの前記シート(または層またはパッチまたはパッド等)は、他の創傷ドレッシング材成分、例えば、ガーゼ、包帯、二次ドレッシング材などと組み合わせて使用することができる。例えば、幾つかの実施形態において、創傷ドレッシング材は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンのシート(または層またはパッチまたはパッドなど)と、1つ以上の追加の創傷ドレッシング材成分、例えば、追加の吸収層及び/又は、例えば、創傷ドレッシング材を皮膚に固定するために作用し得る二次層(又は、外側層又はカバー層又は裏打ち層)を含んでもよい。例えば、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンパッチは、前記ポリウレタンパッチを皮膚に固定するために、粘着性の裏打ち層を設けてもよい。
【0135】
従って、幾つかの実施形態において、前記創傷ドレッシング材は、多成分創傷ドレッシング材(または多層創傷ドレッシング材)であってもよい。前記創傷ドレッシング材において、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンのシート(または層またはパッチまたはパッド等)は、一成分(または一層)であってもよい。
【0136】
幾つかの実施形態において、前記創傷ドレッシング材は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタン(例えばPU発泡体)のシート(または層またはパッチまたはパッド等)からなる。
【0137】
幾つかの実施形態において、前記創傷ドレッシング材は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタン(例えばPU発泡体)を含むシート(層またはパッチまたはパッドなど)からなる。
【0138】
創傷は部分的な厚さの創傷であってもよいし、完全な厚さの創傷であってもよい。創傷は、皮膚の裂傷、擦り傷、裂傷(切り傷)または熱傷(例えば、第1度または第2度の熱傷)であってもよい。創傷は切開創であってもよい。創傷は切除創であってもよい。創傷は手術創であってもよい。
【0139】
創傷は急性および慢性であってもよい。急性創傷とは、治癒過程の3つの段階(すなわち炎症期、増殖期、再形成期)を、長引くことなく秩序正しく進行する創傷である。しかし、慢性創傷とは、創傷が治癒の段階の一つで停滞しているために、生化学的な出来事の規則正しい順序が完了していない創傷のことである。別の見方をすれば、慢性創傷とは、少なくとも40日、好ましくは少なくとも50日、より好ましくは少なくとも60日、最も好ましくは少なくとも70日の間に治癒しなかった創傷である。幾つかの実施形態において、慢性創傷が好ましい。
【0140】
幾つかの実施形態において、前記創傷は、滲出創傷(すなわち、創傷滲出液または創傷液を生成する創傷)である。
【0141】
処置される創傷は、例えば、外科的切開または外傷、例えば、機械的、熱的、電気的、化学的または放射線による外傷;皮膚潰瘍(例えば、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍または褥瘡)のような自然に形成される病変;水疱(例えば、摩擦水疱または熱水疱または、水疱瘡のような病原体感染によって引き起こされる水疱);裂肛または口内炎によって引き起こされる、組織の裂傷または脱落であり得る。
【0142】
他の実施形態において、前記抗菌性物品は、ドレッシング材ではない。前記抗菌性物品は、別のタイプの医療用デバイスであってもよい。例えば、医療用デバイスには、外科用ファスナー、カテーテル(例えば、尿道カテーテルまたは中心静脈カテーテル)、ライン等、および、股関節インプラントや膝関節インプラントなどの整形外科用(または関節用)インプラント、ならびに、歯科用インプラント、ピン、ステント、心臓リズム装置、脳深部刺激装置、子宮内装置を含むインプラントや人工器官も含まれる。幾つかの実施形態において、「留置(in-dwelling)」医療用デバイスが好ましい。特に好ましいタイプの医療用デバイスの1つは、カテーテル(例えば、尿道カテーテル)である。
【0143】
別の態様において、本発明は、ポリウレタン(例えば。ポリウレタン発泡体、または発泡体の形態でないポリウレタン(これは固形PUと考えられる)、または式(I)の化合物を含浸させたポリウレタン(例えばTPU)コーティング)を提供する。本明細書に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0144】
別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを製造する方法を提供する。前記方法は、(i)式(I)の化合物の溶液を前記ポリウレタンに適用する工程(または、式(I)の化合物の溶液で前記ポリウレタンをインキュベートする工程)と、(ii)前記溶液が適用されたポリウレタンを乾燥し、それにより、式(I)の化合物で含浸されたポリウレタンを製造する工程を含む。工程(i)の適用は、前記ポリウレタンの膨潤につながる可能性がある。従って、工程(ii)の乾燥は、工程(i)における前記溶液の適用(またはインキュベーション)後に得られる膨潤したポリウレタンの乾燥であってもよい。乾燥は、周囲温度で行われてもよく(すなわち、受動的乾燥)、あるいは代替的に能動的乾燥ステップが行われてもよい。幾つかの実施形態において、乾燥は、約20℃で行われてもよい(例えば、約12時間)。本明細書に記載される本発明の他の観点の実施形態は、本発明のこの観点に準用される。例えば、好ましい式(I)の化合物および溶液中の式(I)の化合物の好ましい量または濃度は、本明細書の他の箇所に記載される。式(I)の化合物の溶液に適した溶媒(例えば、水またはエタノール:クロロホルムまたは他の有機溶媒)もまた、本明細書の他の箇所に記載される。
【0145】
式(I)の化合物の溶液を前記ポリウレタンに適用する(または(前記ポリウレタンを膨潤させうる)式(I)の溶液で前記ポリウレタンをインキュベートする)ことを含む、式(I)の化合物で含侵されたポリウレタンの製造方法の幾つかの実施形態において、前記溶液は、前記ポリウレタンに、1分~24時間、1分~12時間、1分~10時間、1分~5時間、1分~2時間、1分~1時間、1分~30分、1分~10分または1分~5分の間、適用してもよい。幾つかの実施形態において、前記溶液は、前記ポリウレタンに、3分~24時間、3分~12時間、3分~10時間、3分~5時間、3分~2時間、3分~1時間、3分~30分、3分~10分、または3分~5分の間、適用してもよい。
【0146】
幾つかの実施形態において、前記溶液は、最大3分、最大5分、最大10分、最大30分、最大1時間、最大5時間、最大10時間、最大12時間または最大24時間の間、前記ポリウレタンに適用してもよい(または式(I)の溶液でインキュベートしてもよい)。幾つかの実施形態において、前記溶液は、少なくとも3分、少なくとも5分、少なくとも10分、少なくとも30分、少なくとも1時間、少なくとも5時間、少なくとも10時間、または少なくとも12時間の間、前記ポリウレタンに適用してもよい。幾つかの実施形態において、前記溶液は、約3分間または約10時間の間、前記ポリウレタンに適用してもよい。
【0147】
式(I)の化合物の溶液を前記ポリウレタンに適用(または式(I)の溶液でインキュベート)し、前記ポリウレタンを膨潤させる工程を含む、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンの製造方法の幾つかの実施形態において、前記溶液は、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%または少なくとも95%の吸収(すなわち、前記ポリウレタンの膨潤)を達成する時間(または膨潤時間)の間、前記ポリウレタンに適用することができる。幾つかの実施形態において、前記溶液は、最大5%、最大10%、最大15%、最大20%、最大30%、最大40%、最大50%、最大60%、最大70%、最大80%、最大90%、最大95%または最大100%の吸収(すなわち、前記ポリウレタンの膨潤)を達成する時間の間、前記ポリウレタンに適用することができる。幾つかの実施形態において、前記溶液は、5%以上100%以下、10%以上100%以下、20%以上100%以下、30%以上100%以下、40%以上100%以下、50%以上100%以下、60%以上100%以下、70%以上100%以下、80%以上100%以下、90%以上100%以下、5%以上50%以下、10%以上50%以下、20%以上50%以下、30%以上50%以下、40%以上50%以下、5%以上20%以下、10%以上20%以下、または15%以上20%以下の吸収(すなわち、前記ポリウレタンの膨潤)を達成する時間の間、前記ポリウレタンに適用することができる。「%吸収率」は、式(I)の化合物の溶液を適用する前(すなわち膨潤前)の前記ポリウレタンの重量と比較した、式(I)の化合物溶液の適用後(すなわち、膨潤後)の前記ポリウレタンの重量増加率である。式(I)の化合物の溶液の適用後(すなわち、膨潤後)の前記ポリウレタンの重量の増加%である。任意に、塗布後(膨潤後)の計量の前に、ポリウレタンの表面に残留する溶液を表面的に乾燥させることができる(例えば、セルロースワイプで)。
【0148】
適用時間(膨潤時間)の長さは、含侵される前記ポリウレタンの性質(例えば厚み)および/または前記ポリウレタンの含侵が望まれる深さに基づいて、選択することができる。
【0149】
幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタン発泡体の製造方法を提供する。前記方法は、(i)式(I)の化合物の溶液を前記ポリウレタン発泡体に適用する(または式(I)の溶液で前記ポリウレタン発泡体をインキュベートする)工程、および(ii)前記溶液が適用された前記ポリウレタン発泡体を乾燥させ、それにより、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタン発泡体を製造する工程を含む。幾つかのそのような実施形態において、前記溶液は、水溶液(例えば、溶媒は水であってもよい)であってもよいが、他の実施形態において、前記溶媒は、有機溶媒であってもよい。本明細書の他の箇所で論じた含浸方法の好ましい特徴は、含浸PU発泡体を製造する方法に適用することができる。
【0150】
PU発泡体を含侵させる方法は、典型的には、式(I)の化合物がPU発泡体にわたって(すなわち、前記PU発泡体基質にわたって)、均質にまたは均一に(または実質的に均質に、または実質的に均一に)含侵(または分散)された、含侵PU発泡体を生じる。
【0151】
一つの態様において、本発明は、式(I)の化合物がPU発泡体にわたって(すなわち、前記PU発泡体基質にわたって)、均質にまたは均一に(または実質的に均質に、または実質的に均一に)含侵(または分散)された、式(I)の化合物を含浸させたPU発泡体を提供する。
【0152】
一つの態様において、本発明は、本発明による含浸ポリウレタン発泡体の製造方法によって製造された、式(I)の化合物を含浸させたPU発泡体を提供する。
【0153】
幾つかの実施形態において、本発明は、本発明に従う含浸ポリウレタン発泡体を製造する方法によって製造された、式(I)の化合物を含浸させたPU発泡体を含む抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材)を提供する。
【0154】
幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないポリウレタン(すなわち、PU発泡体ではないPU)の製造方法を提供する。前記方法は、(i)式(I)の化合物の溶液(典型的には、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、溶媒が有機溶媒(または2以上の有機溶媒)である溶液)を前記PUへ適用し(またはそのような溶液で前記PUをインキュベートするか、またはそのような溶液でPUを浸し)、(ii)前記溶液が適用されたPUを乾燥させ、それにより、式(I)の化合物で含侵されたポリウレタンを製造する工程を含む。そのような実施形態において、PU(またはPUの少なくとも外側/表面層)は、前記溶液の適用(またはインキュベーション)により、典型的には膨潤する。本明細書の他の箇所に記載されるように、適用(またはインキュベーション)の時間または膨潤時間の長さは、含浸されるPUの性質(例えば、厚み)および/またはPUの含浸が所望される深さに基づいて選択され得る。本明細書の他の箇所で論じた含浸方法の好ましい特徴は、発泡体の形態ではない含浸PUを製造する方法に適用することができる。例えば、乾燥は周囲温度で行ってもよいし(すなわち、受動的乾燥)、代わりに能動的乾燥工程を行ってもよい。
【0155】
発泡体の形態ではないPU(または少なくともPUの外側/表面層)の膨潤および前記PUへの化合物の含侵を達成するために、適切な溶媒(または溶媒の組み合わせ)を式(I)の化合物の溶液における溶媒として用いることができる。当業者は適切な溶媒を選択することができる。典型的には、前記溶媒は、有機溶媒であり、例えば、アルコール(例えば、エタノール)および/またはクロロホルムを使用してもよい(例えば、アルコールとクロロホルムの混合物、例えば、エタノールとクロロホルムの混合物を使用してもよい)。あるいは、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、極性非プロトン性溶媒を使用してもよい。
【0156】
発泡体の形態ではないPUを含侵する方法は、典型的には、式(I)の化合物が前記PUにわたって均質に含侵または分散されていない(すなわち、前記PU基質にわたって均質に含侵または分散されていない)含侵されたPUを生じる。
【0157】
理論に束縛されることを望むものではないが、発泡体の形態でないPU(例えば、固体ポリウレタンまたは非発泡ポリウレタン)に含浸させる場合、膨潤の過程で、前記ポリウレタンの外側層(すなわち、前記PU基質の表面上のポリウレタン、前記PU基質に最も近いポリウレタン、または前記PU基質の表面へのポリウレタン)が飽和され、内側層(表面から最も遠い)は部分的にのみ飽和され(または飽和されていない)、濃度勾配が存在する可能性がある。ポリウレタン試料/物品全体の完全な飽和(または含浸)に達する前に膨潤プロセスを停止することにより、表面/外層が所望の濃度の化合物を含むポリウレタン試料/物品を得ることができる。前記ポリウレタンの内側層(すなわち、表面からさらに/最も遠いポリウレタン)は、表面/外側の層よりも少ない化合物を含む(またはペプチドを含まない)。別の言い方をすれば、理論に束縛されることなく言えば、膨潤時間を制御することによって、前記ポリウレタンに前記膨潤剤(および前記化合物)が浸透する程度(または深さ)を制御することができる。従って、膨潤時間を制御することで、ポリウレタンの含浸を制御し、所望であれば、前記ポリウレタンの表面/外面のみの含浸を達成することができる。含浸された部分(または層)の厚みは、化合物の浸出速度および化合物の浸出までの時間を決定することができる。
【0158】
従って、幾つかの実施形態において、発泡体の形態ではないPUを含侵する方法は、式(I)の化合物を前記PUの外側層のみ(または前記PUもしくはPU基質の表面層)含侵させ、かつ、前記PUの内側相では、含侵されていない(または含侵される程度が少ない)PUを生じる。従って、幾つかの実施形態において、発泡体の形態でないPUに含浸させる方法は、PUの内層と比較して、PUの外層に高濃度の化合物が存在する、PU中に化合物の濃度勾配が存在する、式(I)の化合物を含浸させたPUを製造することができる。
【0159】
従って、幾つかの実施形態において、発泡体の形態ではないPUに含浸させる方法は、式(I)に従う化合物が、含浸されるPU(PU基質)の全深さ(総深さ)の一部のみにおいて(または前記一部のみを超えて)前記PUに含侵されたPUを生じる。あるいは、幾つかの実施形態において、発泡体の形態ではないPUに含浸させる方法は、式(I)に従う化合物が、含浸されるPU(PU基質)の表面から全深さの一部のみにおいて(または前記一部のみを超えて)前記PUに含侵されたPUを生じる。
【0160】
幾つかの実施形態において、式(I)の化合物を含浸させた基質の全深さ(または前記PUの表面からの全深さ)の部分は、前記PUの全深さの≦90%、≦80%、≦70%、≦60%、≦50%、≦40%、≦30%、≦20%、≦10%、≦5%または≦2%である。好ましくは、前記PUの全深さ(または前記PU基質の表面からの全深さ)の少なくとも1%、少なくとも2%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%または少なくとも50%が、式(I)の化合物を含侵されている。幾つかの実施形態において、1%以上90%以下、好ましくは、1%以上90%以下、2%以上90%以下、5%以上90%以下、10%以上90%以下、20%以上90%以下、30%以上90%以下、40%以上90%以下、50%以上90%以下、1%以上50%以下、2%以上50%以下、5%以上50%以下、10%以上50%以下、20%以上50%以下、30%以上50%以下、40%以上50%以下、1%以上20%以下、2%以上20%以下、5%以上20%以下、10%以上20%以下、1%以上10%以下、2%以上10%以下、5%以上10%以下、1%以上5%以下、または2%以上5%以下の前記PUの全深さ(または前記PU基質の表面からの全深さ)のが、式(I)の化合物で含侵されている。
【0161】
幾つかの実施形態において、前記膨潤時間は、含浸されるPUの性質(例えば、厚み)および/またはPUの含浸が望まれる深さに応じて選択される。幾つかのそのような実施形態において、(i)含浸される前記PUが薄い(または比較的薄い)場合、および/または前記PUの内側(またはより深い)層(複数の層)の含浸が望まれない場合、短い(またはより短い)膨潤時間を使用することができる。または(ii)前記PUが厚い(または比較的厚い)、および/または前記PUの内側(またはより深い)層(複数の層)の含浸が望まれる場合には、長い(またはより長い)膨潤時間を使用することができる。適切な膨潤時間は、含浸されたPUの所望の特性に応じて当業者によって決定することができる。
【0162】
一つの態様および幾つかの実施形態において、本発明は、本発明に従う発泡体の形態ではない含侵されたポリウレタンを製造する方法により製造された、式(I)の化合物で含侵された発泡体の形態ではないPUを提供する。
【0163】
一つの態様および幾つかの実施形態において、本発明は、前記PUが式(I)の化合物を非均一にまたは非均質に含侵させた、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPUを提供する。あるいは、いくつかの態様および実施形態において、本発明は、前記化合物が前記PU(または前記PU基質)全体に均質に分散していない、式(I)の化合物を含浸させた発泡体の形態ではないPUを提供する。一つの態様において、本発明は、式(I)の化合物を含浸させた発泡体の形態ではないPUを提供する。ここで、前記PU(またはPU基質)内には前記化合物の濃度勾配があり、前記PUの内側(または深部)の層(複数の層)と比較して、前記PUの外側の層(複数の層)において濃度が高い。
【0164】
一つの態様および幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPUを提供する。ここで、前記化合物は、前記PU(PU基質)の全深さの一部のみ(または表面からの全深さの一部のみ)において(またはそれを超えて)、前記PU中に含浸される。好ましい深さについては、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0165】
幾つかの実施形態において、本発明は、本発明に従う発泡体の形態ではない含侵ポリウレタンを製造する方法により製造された、式(I)の化合物を含侵させた、発泡体の形態ではないPUを含む(またはからなる)抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)を提供する。
【0166】
幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPU(前記PUは、式(I)の化合物を非均一にまたは非均質に含侵させてている)を含む(またはからなる)抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPU(前記化合物は、前記PU(またはPU基質)にわたって、均質に分散されていない)を含む(またはからなる)抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPUを含む(またはからなる)抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)(ここで、前記PUの内側層と比較して、前記PUの外側層(複数の層)において、より高い濃度が見られる。前記PUにおいて前記化合物の濃度勾配が存在する)を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた発泡体の形態ではないPUを含む(またはからなる)抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)(前記化合物は、前記PUの全深さの一部のみ(または表面からの全深さの一部のみ)において(またはそれを超えて)、前記PU中に含浸される)を提供する。
【0167】
本明細書の他の箇所で説明したように、本発明者らはまた、液体組成物であり、少なくとも1つ(例えば、1または2)の有機溶媒(例えば、少なくとも1の極性非プロトン性溶媒)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および式(I)の化合物を含み、前記TPUおよび式(I)の化合物は、前記少なくとも1つの有機溶媒中に溶解している、コーティング組成物(または塗装組成物)を提供した。これらの組成物は、所望の物品(例えば、医療用デバイス)またはその一部を「コーティング」または「塗布」するために用いることができる。ここで、その物品は、それ自体、ポリウレタンから形成されていても、いなくてもよい(すなわち、コーティング組成物が適用される前記物品の材料は、必ずしもポリウレタンである必要は無いが、ポリウレタンであってもよい)。一旦溶媒が蒸発すると、物品の表面には、式(I)の化合物を含浸させた熱可塑性ポリウレタンを含む(又はそれから成る)コーティング(または層または表面層または塗布層)が残る。
【0168】
従って、一つの態様において、本発明は、少なくとも1つの有機溶媒、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および式(I)の化合物を含み、前記TPUおよび式(I)の化合物は(各々)、少なくとも1つの有機溶媒中(または前記組成物中)に溶解している、組成物(便宜上、塗装またはコーティング組成物、または剤、または溶液と呼ぶことがある)を提供する。
【0169】
別の見方をすれば、本発明は、少なくとも1つの有機溶媒、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および式(I)の化合物を含む液体組成物を提供する。
【0170】
幾つかの実施形態において、前記有機溶媒は、極性非プロトン性溶媒である。例えば、前記極性非プロトン性溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミド)であってもよい。幾つかの実施形態において、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトンまたは酢酸エチルが好ましい。THFおよびDCMが好ましい。THFが特に好ましい。幾つかの実施形態において、前記有機溶媒は、アルコール(例えば、エタノール)および/またはクロロホルム(例えば、アルコールおよびクロロホルムの混合物を用いることができる、例えば、エタノールとクロロホルムの混合物)である。幾つかの実施形態において、前記有機溶媒は、ジメチルホルムアミドではない。
【0171】
幾つかの実施形態において、前記組成物中に一つのみの溶媒が存在する。前記組成物中に一つのみの溶媒が存在する幾つかの実施形態において、前記溶媒はTHFである。他の実施形態において、2つ以上の異なる溶媒が存在する(例えば、2つの異なる溶媒が存在してもよい)。
【0172】
組成物中に2つ以上の異なる溶媒(例えば、2つの異なる溶媒)が存在する実施形態において、前記異なる溶媒は、混和性(相溶性)でなければならない。混和性溶媒の組合せは、容易に選択することができる。
【0173】
組成物中に2つ以上の異なる溶媒(例えば、2つの異なる溶媒)が存在する実施形態において、溶媒の組み合せは、上述した溶媒(または溶媒の種類)の組合せ(または混和性組み合わせ)が好ましい。
【0174】
幾つかの実施形態において、コーティング組成物(または製剤)の有機溶媒は一種類しかない。他の実施形態において、コーティング組成物中に2以上の異なる溶媒が存在してもよい(例えば、2つの異なる溶媒、例えば、2つの異なる有機溶媒)。2つ以上(例えば2)の異なる溶媒(例えば2以上(例えば2)の異なる有機溶媒)が製剤(または組成物)中に存在する実施形態において、前記異なる溶媒(例えば、異なる有機溶媒)は、混和性でなければならない(すなわち、互いに混和性である)。従って、前記組成物中に2以上(例えば、2)の異なる溶媒(例えば、2以上(例えば、2)の異なる有機溶媒)が存在する幾つかの実施形態において、前記TPUおよび式(I)の化合物は、前記2以上の溶媒の混合物中で溶解性である。混和性溶媒は、互いに「相溶性」であるともいってもよい。本明細書の他の部分の議論から明らかなように、本発明のコーティング組成物を製造するために一緒に混合される前に、前記TPUおよび式(I)の化合物が、異なる溶媒中にそれぞれ溶解されるため、場合によっては2以上の異なる溶媒が存在してもよい。他の場合では、前記TPUと式(I)の化合物は、本発明のコーティング組成物を製造するために一緒に混合される前に、同じ溶媒にそれぞれ溶解してもよい。
【0175】
コーティング組成物において使用するTPUは、少なくとも1つの有機溶媒に溶解性でなければならない。好ましいTPUは、本明細書の他の箇所に記載されており、そのような好ましいTPUは、コーティング組成物に関する本発明の態様および実施形態に準用することができる。例えば、TPUは、脂肪族TPU、芳香族TPU、脂肪族ポリエーテル-ベースTPU、芳香族ポリエーテル-ベースTPU、または芳香族ポリカプロラクトンコポリエステルベースTPUであってもよい。好ましくは、TPUは高分子ポリオールベースのTPU(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように)である。好ましくは、TPUは医療グレードのTPUである。
【0176】
本発明のコーティング組成物中に存在する式(I)の化合物の量は、前記コーティング組成物が物品(または表面)に適用され、溶媒が蒸発すると、含侵されたPUコーティング中に抗菌的に有効な量(典型的には抗菌効果量)の前記化合物を供給するのに十分でなければならない。
【0177】
幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度または量(例えば、w/w)は、前記TPUの濃度または量に対して、少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%または少なくとも20%である。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物における式(I)の化合物の濃度または量(例えば、w/w)は、前記TPUの濃度または量に対して、最大1%、最大5%、最大10%、最大20%または最大50%である。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物における式(I)の化合物の濃度または量(例えば、w/w)は、前記TPUの濃度または量に対して、0.01%~50%、0.05%~50%、0.1%~50%、1%~50%、2%~50%、5%~50%、10%~50%、20%~50%、0.01%~20%、0.05%~20%、0.1%~20%、1%~20%、2%~20%、5%~20%、0.01%~10%、0.05%~10%、0.1%~10%、1%~10%、2%~10%、0.01%~5%、0.05%~5%、0.1%~5%、1%~5%、2%~5%である。例示的な一実施形態では、本発明のコーティング組成物における式(I)の化合物の濃度または量(例えば、w/w)は、前記TPUの濃度または量に対して、5%(または約5%)である。
【0178】
幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)におけるTPUに対する式(I)の物の比(w/w)は、少なくとも1:10,000、少なくとも1:2000、少なくとも1:1000、少なくとも1:100、少なくとも1:20、少なくとも1:10または少なくとも1:5である。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)におけるTPUに対する式(I)の物の比(w/w)は、最大1:100、最大1:20、最大1:10、最大1:5または最大1:2である。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)におけるTPUに対する式(I)の物の比(w/w)は、1:10,000~1:2、1:2,000~1:2、1:1,000~1:2、1:100~1:2、1:50~1:2、1:20~1:2、1:10~1:2、1:5~1:2、1:10,000~1:5、1:2,000~1:5、1:1,000~1:5、1:100~1:5、1:50~1:5、1:20~1:5、1:10,000~1:10、1:2,000~1:10、1:1,000~1:10、1:100~1:10、1:50~1:10、1:10,000~1:20、1:2,000~1:20、1:1,000~1:20、1:100~1:20、または1:50~1:20の間である。
【0179】
幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、少なくとも0.25mg/ml、少なくとも0.5mg/ml、少なくとも1mg/ml、少なくとも1.5mg/ml、少なくとも2mg/ml、少なくとも3mg/ml、少なくとも4mg/ml、少なくとも5mg/ml、少なくとも10mg/mlまたは少なくとも20mg/mlである。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、少なくとも1mg/ml、少なくとも1.5mg/mlまたは少なくとも2mg/ml(例えば、約1mg/ml、約1.5mg/mlまたは約2mg/ml)である。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、0.25mg/ml~5mg/ml、0.25mg/ml~10mg/mlまたは0.25mg/ml~20mg/mlである。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、1mg/ml~5mg/ml、1mg/ml~10mg/mlまたは1mg/ml~20mg/mlである。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、1.5mg/ml~5mg/ml、1.5mg/ml~2mg/mlまたは1.5mg/ml~20mg/mlである。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、2mg/ml~5mg/ml、2mg/ml~10mg/mlまたは2mg/ml~20mg/mlである。幾つかの実施形態において、本発明のコーティング組成物(または溶液)における式(I)の化合物の濃度(例えばw/v)は、最大5mg/ml、最大10mg/mlまたは最大20mg/mlである。
【0180】
幾つかの実施形態において、本発明による組成物(塗装組成物またはコーティング組成物)は、1以上の放出促進剤を更に含んでもよい。放出促進剤は、本発明に従う組成物で表面(または装置)を塗装することにより製造した、(生じた)ポリウレタンコーティング(またはポリウレタン塗装層)から、式(I)の化合物の放出を高める(または改善する、または促進する)薬剤である。放出促進剤には、ポリエチレングリコール(例えば、PEG400またはPEG1000)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0181】
別の態様において、本発明は、本発明の組成物(コーティング組成物)を製造する方法を提供する。
【0182】
一つの態様において、本発明は、組成物(コーティング組成物または塗装組成物または溶液)を製造方法を提供する。前記方法は、
(i)熱可塑性ポリウレタン(TPU)を有機溶媒に溶解させる工程;
(ii)式(I)の化合物を溶媒に溶解させる工程;
(iii)(i)で得られた有機溶媒中に溶解したTPUを、(ii)で得られた溶媒中に溶解した式(I)の化合物と混合する工程を含み、
これにより、本発明の組成物を製造する。本明細書に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0183】
工程(i)では、TPUを溶解できる有機溶媒なら何でも使用でき、工程(ii)では、式(I)の化合物を溶解できる溶媒なら何でも使用できる。工程(i)および工程(ii)において使用される溶媒は、互いに混和性(または相溶性)でなければならない。
【0184】
幾つかの実施態様において、工程(i)における有機溶媒は、本発明の他の態様に関連して例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、極性非プロトン性溶媒である。THFおよびDCMが好ましい有機溶媒である。THFが特に好ましい。幾つかの実施形態において、工程(i)における有機溶媒は、アルコール(例えば、エタノール)および/またはクロロホルム(例えば、アルコールとクロロホルムの混合物を使用してもよい、例えば、エタノールとクロロホルムの混合物)である。
【0185】
好ましい実施形態において、ステップ(ii)における溶媒は、例えば、本発明の他の態様に関連して本明細書の他の箇所に記載されるように、有機溶媒、好適には極性非プロトン性溶媒(例えばTHF)である。幾つかの実施形態において、工程(ii)における溶媒は、アルコール(例えば、エタノール)および/またはクロロホルム(例えば、アルコールとクロロホルムの混合物を使用してもよい、例えば、エタノールとクロロホルムの混合物)である。幾つかの実施形態において、工程(ii)の溶媒は、クロロホルムである。
【0186】
幾つかの実施形態において、工程(i)の溶媒(すなわち、TPUを溶解するために使用される溶媒)は、工程(ii)の溶媒(すなわち、式(I)の化合物を溶解するために使用される溶媒)とは異なる。
【0187】
幾つかの実施形態において、工程(i)の有機溶媒(すなわち、TPUを溶解するために使用される溶媒)は、工程(ii)の溶媒(すなわち、式(I)の化合物を溶解するために使用される溶媒)と同じである。幾つかのそのような実施形態において、工程(i)および工程(ii)で使用される溶媒は、極性非プロトン性溶媒、好ましくはTHFである。
【0188】
溶解工程(i)は、TPUを溶解するために、任意の適切な長さの時間実施してもよい。例えば、溶解工程(i)は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも5時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間、少なくとも48時間、少なくとも72時間、または少なくとも92時間の間、行ってもよい。所定のTPUが所定の時間を超えても溶解しなかった場合でも、さらに時間を置けば溶解する可能性がある。TPUの溶解は、例えば目視検査による手段を含め、任意の適切な手段によって評価することができる(または、評価される)。工程(i)で得られた溶解したTPUは、粘性であってもよいし、流動性(または非粘性)であってもよい。
【0189】
溶解工程(ii)は、前記化合物を溶解させるために、任意の適切な時間行うことができる。例えば、溶解工程(ii)は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも5時間、少なくとも12時間または少なくとも24時間、行ってもよい。式(I)の化合物が所定の時間を超えても溶解しなかった場合でも、さらに時間を置けば溶解することがある。前記化合物の溶解は、例えば目視検査による手段を含め、任意の適切な手段によって評価することができる(または、評価される)。
【0190】
混合工程(iii)は、任意の適切な手段、例えば、機械的攪拌または振盪によって行うことができる。
【0191】
溶解工程(i)および(ii)ならびに混合工程(iii)は、任意の適切な温度、例えば周囲温度で実施することができる。
【0192】
別の態様において、本発明は、本発明のコーティング組成物(または溶液)を製造する方法を提供する。前記方法は、(i)熱可塑性ポリウレタン(TPU)を有機溶媒中に含む第一溶液を準備する工程;(ii)式(I)の化合物を含む第二溶液を準備する工程であって、前記第二溶液は、前記第一溶液と混和性である工程;(iii)前記第一溶液と第二溶液を混合する工程を含む。本明細書に記載される本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0193】
別の態様において、本発明は、組成物(コーティング組成物または塗装組成物または溶液)を製造する方法を提供する。前記方法は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および式(I)の化合物を有機溶媒に溶解し、任意に得られた溶液を混合することを含む。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0194】
別の態様において、本発明は、本発明の組成物を製造する方法によって製造された組成物を提供する。
【0195】
別の態様において、本発明は、物品(または物品の少なくとも一部)または表面、例えば、微生物(例えば細菌)汚染またはコロニー形成の影響を受けやすい物品(医療用デバイスなど)または表面をコーティングするための本発明のコーティング組成物の使用を提供する。
【0196】
別の態様において、本発明はまた、微生物汚染の影響を受けやすい物品(例えば、医療用デバイス)または表面のための、コーティング(または乾燥コーティングまたはコーティング材料または塗装層)も提供する。ここで前記コーティングは、式(I)の化合物を含侵させたTPUを含む。好ましくは、そのようなコーティングは、本発明のコーティング組成物を物品または表面に適用し、適用された組成物から前記溶媒を蒸発除去(乾燥除去)し、それにより、コーティング(乾燥コーティング)を生じることにより製造または形成する。蒸発(または乾燥)は、周囲温度で行ってもよいし(すなわち、受動的乾燥)、代わりに能動的蒸発(又は乾燥)工程を行ってもよい。蒸発は、任意の適切な期間(例えば、約2時間、5時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日または7日)にわたって(またはそれ以上にわたって)、行ってもよい。本明細書に記載される本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0197】
幾つかの実施形態において、前記コーティング(または塗装層)の総質量の少なくとも0.01%、少なくとも0.05%、少なくとも0.1%、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%または少なくとも20%が、式(I)の化合物によって提供される。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または塗装層)の総質量の最大5%、最大10%、最大20%または最大50%が、式(I)の化合物によって提供される。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または塗装層)の総質量の0.01%~50%、0.05%~50%、0.1%~50%、1%~50%、2%~50%、5%~50%、10%~50%、20%~50%、0.01%~20%、0.05%~20%、0.1%~20%、1%~20%、2%~20%、5%~20%、0.01%~10%、0.05%~10%、0.1%~10%、1%~10%、2%~10%、5%~10%、0.01%~5%、0.05%~5%、0.1%~5%、1%~5%、2%~5%が、式(I)の化合物によって提供される。
【0198】
幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが、少なくとも1μm、少なくとも5μm、少なくとも10μm、少なくとも20μm、少なくとも50μm、少なくとも100μmまたは少なくとも500μmである。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが最大5μm、最大10μm、最大20μm、最大50μm、最大100μm、最大500μmまたは最大1000μmである。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが約1μm~約5μm、約1μm~約10μm、約1μm~約20μm、約1μm~約50μm、約1μm~約100μm、約1μm~約500μmまたは約1μm~約1000μmである。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが、約5μm~約10μm、約5μm~約20μm、約5μm~約50μm、約5μm~約100μm、約5μm~約500μmまたは約5μm~約1000μmである。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが約10μm~約20μm、約10μm~約50μm、約10μm~約100μm、約10μm~約500μmまたは約10μm~約1000μmである。幾つかの実施形態において、前記コーティング(または乾燥コーティングまたは塗装層)は、厚みが約20μm~約50μm、約20μm~約100μm、約20μm~約500μmまたは約20μm~約1000μmである。前記厚みは、平均(例えば、算術平均)厚みであってもよい。幾つかの実施形態において、前記コーティングは、均一または実質的に均一(または均質または実質的に均質)な厚みを有してもよい。他の実施形態において、前記コーティングは、非均一(または非均質)な厚みを有していてもよい。
【0199】
一つの態様において、本発明は、微生物汚染の影響をうけやすい物品または表面のためのコーティングを製造する方法を提供する。前記方法は、(i)本発明の組成物(またはコーティング組成物または塗装組成物)を前記物品または表面に適用する工程と(ii)適用された組成物から前記溶媒を蒸発除去(または乾燥除去)する工程を含む。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0200】
別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させた熱可塑性ポリウレタンを含む抗菌性コーティングを有する物品(例えば、医療用デバイス)または表面の製造方法を提供する。前記方法は、(i)本発明のコーティング組成物を準備する工程;および(ii)前記組成物を前記物品もしくは表面または少なくとも一部の物品もしくは表面に適用する工程(例えば、前記物品を前記組成物中へ浸漬させる、または前記組成物を前記物品上に塗布する(例えば、スプレー塗装)ことにより)を含む。典型的には、もちろん、前記コーティング組成物中の溶媒(単独または複数)は、その後、蒸発(または乾燥)除去される。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0201】
医療用デバイス(例えば、カテーテルまたは明細書中に記載の他の医療用デバイス)は、式(I)の化合物を含侵させた熱可塑性ポリウレタンの抗菌性コーティングを有する物品が特に好ましい。
【0202】
本発明の更なる態様は、本明細書で定義される本発明のコーティング組成物または本明細書で定義される本発明のコーティング(例えば乾燥コーティング)でコーティングされた(部分的にコーティングされたものも含む)、物品(典型的には、微生物汚染を受けやすい物品)、好ましくは医療用デバイスである。本発明の更なる態様は、本明細書で定義される本発明のコーティング組成物でコーティングされた(部分的にコーティングされたものも含む)、物品、好ましくは医療用デバイスである。典型的には、もちろん、コーティング組成物中の溶媒(複数可)は、蒸発(または乾燥)除去しているか、または蒸発(または乾燥)除去されしている。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0203】
本発明のさらなる態様では、本発明は、物品、好ましくは医療用デバイスに適用されている、本明細書で定義される本発明のコーティング組成物を提供する。
【0204】
さらなる態様において、また、幾つかの実施形態において、本発明は、ポリウレタンを含む抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)を提供する。ここで前記ポリウレタンは、式(I)の化合物を含侵させており、式(I)の化合物で含侵された前記ポリウレタンは、前記物品上のコーティング(または表面層)の形態である。好ましくは、前記コーティングは、本発明のコーティング組成物(または塗装組成物)の前記物品に適用することにより、形成される(または形成された)(典型的にはもちろん、前記組成物中の溶媒は、蒸発除去されている)。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0205】
別の態様において、および幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含浸させた熱可塑性ポリウレタンの層(またはコーティング)でコーティング、または少なくとも部分的にコーティングされた抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)を提供する。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0206】
コーティングされた(または塗布された)物品(例えば、医療用デバイス)または表面に関する本発明の実施形態において、コーティング組成物が適用された(または適用されている)前記物品または表面(すなわち、下地の物品または表面)は、いずれの物質(または塗布されることが可能ないずれかの物質)から形成されてもよい。前記コーティング組成物が適用された(または適用されている)物品または表面の物質は、ポリウレタンである必要は無いが、場合によっては、ポリウレタンであってもよい。例えば、幾つかの実施形態において、前記物品または表面は、シリコーンから形成されてもよく、例えば、前記物品は、シリコーンカテーテル(例えば尿道カテーテル)のようなシリコーン医療用デバイスであってもよい。
【0207】
別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させたPUコーティングを提供する。ここで、前記化合物を含侵させた前記PUコーティングは、本発明に従ってPUコーティングを製造する方法により製造される。
【0208】
幾つかの実施形態において、本発明は、式(I)の化合物を含浸させたPUコーティングを含む抗菌性物品または表面を提供する。ここで、前記化合物を含浸させた前記PUコーティングは、本発明に従ってPUコーティングを製造する方法によって製造される。
【0209】
別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを製造する方法を提供する。前記方法は、(i)ポリウレタンおよび式(I)の化合物を含む溶液(または「紡糸溶液」)を準備する工程、および(ii)前記溶液をエレクトロスピニングに供し、それにより、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタン繊維を製造する(または押出する)工程を含む。任意に、前記繊維は、シートまたはメッシュまたはマット(またはそのようなもの)に形成され得る。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0210】
別の態様において、本発明は、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを製造する方法を提供する。前記方法は、(i)(a)アルコール分子あたり2個以上の反応性ヒドロキシル基(-OH)を有するアルコール(例えば、ジオール、トリオールまたは他のポリオール、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、高分子性ポリオール;ジオール(好ましくは高分子性ジオール)が好ましい)、(b)イソシアネート分子当たり2個以上の反応性イソシアネート基(-NCO)を有するイソシアネート(例えば、ジ-またはトリ-イソシアネートまたはポリイソシアネート;ジイソシアネートが好ましい)および(c)式(I)の化合物を含む反応混合物を準備する工程、ならびに(ii)前記反応混合物を(a)の前記アルコールと(b)の前記イソシアネートとが互いに反応してポリウレタンを生成(または形成)する条件に付し、これにより、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタンを製造する工程を含む。そのような方法において、式(I)の化合物は、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、カプセル化された形態であってもよい。
【0211】
幾つかの実施形態において、本発明に従う抗菌性物品は、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタン(例えばPU発泡体)を含むシート(または層またはパッチまたはパッドなど)からなる。このような場合、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンの製造方法は、代替的に、本発明に従った抗菌性物品の製造方法と考えることができる。
【0212】
幾つかの他の実施形態において、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタン(例えばPU発泡体)は、多成分(例えば多層またはより複雑な)抗菌性物品に存在する。例えば、より複雑な抗菌性物品の1層(または一部)を表すことがある。従って、別の態様において、本発明は、本発明の抗菌性物品を製造する方法を提供する。前記方法は、(i)式(I)の化合物(例えば、本明細書中に記載されるように製造される)を含浸させたポリウレタン(例えば、PU発泡体)を準備する工程、および(ii)前記含浸させたポリウレタンを、多成分(例えば、多層)抗菌性物品に組み込む(または組み合わせる)(例えば、追加の吸収剤層及び/又は外側層(またはカバー層または二次層または裏打ち層または接着性裏打ち層等の裏打ち層)と組み合わせる)工程を含む。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0213】
さらなる態様は、本発明の方法によって製造された、式(I)の化合物を含侵させたポリウレタン(例えばPU発泡体、または発泡体の形態ではないPU(固形PUまたは非発泡体PU)、またはTPUコーティングなどのPUコーティング)、またはそのような含浸されたポリウレタンを含む抗菌性物品を提供する。本明細書に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0214】
別の態様において(または代替的に)、本発明は、本明細書の他の箇所で定義されるような式(I)の化合物を含むポリウレタン基質を提供する。本明細書に記載の本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。例えば、前記基質は、本明細書の他の箇所に記載されるように、ドレッシング材または他の医療用デバイスのような抗菌性物品中に含まれてもよい(またはコーティングとして、またはその層上に備えられる)。
【0215】
本明細書のさらなる側面は、療法に使用するための本発明の抗菌性物品を提供する。
【0216】
「療法」には治療と予防、すなわち治療と予防の両方が含まれる。
【0217】
幾つかの実施形態において、本発明は、対象者の感染(症)の治療または予防に使用するための本発明の抗菌性物品を提供する。
【0218】
感染(症)は、感染(典型的には細菌感染)しやすい任意の「生理学的」部位または表面における感染(症)であり得る。
【0219】
幾つかの好ましい実施形態において、感染は、創傷感染(例えば、本明細書の他の箇所に記載されるように創傷の感染)である。典型的には、感染が創傷感染である場合、抗菌性物品はドレッシング材である(例えば、創傷ドレッシング材)。
【0220】
幾つかの実施形態において、前記感染(症)は、医療用デバイス関連感染(症)(例えば、「内在」の医療用デバイス関連感染(症))であってもよい。典型的には、感染(症)が医療用デバイス関連である場合、前記抗菌性物品は医療用デバイスである。従って、幾つかの実施形態において、感染(症)は、医療用デバイスが植え込まれた(または植え込まれている)部位の感染(症)である(「内在の」デバイス)。そのようなデバイスには、例えば、子宮内デバイス、人工器官(例えば、人工関節)、およびカテーテル(例えば、中心静脈または尿道カテーテル)が含まれる。幾つかの実施形態において、感染(症)とは、カテーテル化部位における感染(症)である。
【0221】
好ましくは、前記感染(症)は細菌感染(症)、例えば、グラム陽性菌(例えば、ブドウ球菌(Staphylococcus)属の細菌または連鎖球菌(Streptococcus))による細菌感染(症)である。幾つかの実施形態において、感染(症)は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)感染(症)である。幾つかの実施形態において、前記感染(症)は表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)感染(症)である。幾つかの実施形態において、前記感染(症)は、グラム陰性菌(例えば、Escherichia属の細菌)による感染(症)である。幾つかの実施形態において、感染(症)は大腸菌による感染(症)である。
【0222】
本発明のさらなる態様は、細菌増殖、例えば対象の創傷における細菌増殖を阻害するために使用するための、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを提供する。本明細書に記載された本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0223】
本発明のさらなる態様は、療法に使用するため、好ましくは対象の感染(症)の治療または予防において使用するための式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを提供する。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物を含浸させた前記ポリウレタンは、抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材または他の医療用デバイス)の形態で対象に投与される(または適用される)。本明細書に記載される本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0224】
本発明のさらなる態様は、療法において使用するための式(I)の化合物、好ましくは対象の感染(症)の治療または予防において使用するための式(I)の化合物を提供する。ここで、前記化合物は、前記化合物を含浸させたポリウレタンの形態で、またはそのように含侵させたポリウレタンを含む抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材または他の医療用デバイス)の形態で、対象に投与される(または適用される)。本明細書に記載した本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0225】
本発明のさらなる態様は、療法に使用するための、好ましくは対象の感染(症)の治療または予防に使用するための式(I)の化合物の使用を提供する。ここで、前記化合物は、前記化合物を含浸させたポリウレタンコーティングの形態で、またはそのように含侵させたポリウレタンを含む抗菌性物品(例、医療用デバイス)の形態で、対象に投与される(または適用される)。本明細書に記載した本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0226】
あるいは、本発明は、感染(症)を治療または予防する方法を提供する。前記方法は、それを必要とする対象(例えば、それを必要とする対象の創傷)に、本発明に従う抗菌性物品を適用する(または投与する)ことを含む。本明細書に記載される本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0227】
別の見方をすれば、本発明は、感染(症)を治療または予防する方法を提供する。前記方法は、それを必要とする対象に、式(I)の化合物を含浸させた治療上有効な量のポリウレタンを適用する(または投与する)ことを含む。幾つかの実施形態において、式(I)の化合物を含浸させた前記ポリウレタンは、抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材または他の医療用デバイス)の形態で対象に投与される(または適用される)。本明細書に記載される本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0228】
あるいは、本発明は、感染(症)を治療または予防する方法を提供する。前記方法は、それを必要とする対象に、式(I)の化合物の治療上有効な量を適用する(または投与する)ことを含む。ここで、前記化合物は、前記化合物を含浸させたポリウレタンの形態で、またはそのような含侵ポリウレタンを含む抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材または他の医療用デバイス)の形態で、対象に投与される(または適用される)。本明細書に記載した本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0229】
あるいは、本発明は、感染(症)を治療または予防する方法を提供する。前記方法は、それを必要とする対象に、式(I)の化合物の治療上有効な量を適用する(または投与する)ことを含む。ここで、前記化合物は、前記化合物を含浸させたポリウレタンコーティングの形態で、またはそのような含侵ポリウレタンコーティングを含む抗菌性物品(例えば、医療用デバイス)の形態で、対象に投与(または適用)される。本明細書に記載した本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0230】
治療上有効な量は、臨床評価に基づいて決定され、容易にモニターされ得る。
【0231】
さらに別の見方をすると、本発明は、療法で使用するための抗菌性物品(または医薬品)の製造において、本明細書で定義する式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンの使用を提供する。好ましい療法は、明細書の他の箇所に記載されるように、感染(症)の治療または予防である。本明細書に記載される本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0232】
本発明はまた、物品(例えば、医療用デバイス)又は表面の細菌コロニー形成を阻害(又は防止)するための、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンの使用を提供する。ここで、前記物品又は表面は、前記含浸されたポリウレタンを含む。本明細書に記載される本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0233】
本発明はまた、対象に適用された(または移植された)医療用デバイスの細菌コロニー形成を阻害する(または防止する)のに使用するための、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを提供する。ここで、前記医療用デバイスは、前記含浸されたポリウレタンを含む。本明細書に記載された本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0234】
本発明はまた、対象に適用された(または移植された)医療用デバイスの細菌コロニー形成を阻害する(または防止する)のに使用するための式(I)の化合物を提供する。ここで、前記医療用デバイスは、前記化合物を含浸させたポリウレタンを含む。本明細書に記載された本発明の他の局面の実施形態は、本発明のこの局面に準用される。
【0235】
本発明はまた、物品(例えば、医療用デバイス)又は表面の細菌コロニー形成を阻害(又は予防)する方法を提供する。前記方法は、前記物品または表面に、式(I)の化合物を含浸させたポリウレタンを備える工程を含む。本明細書に記載された本発明の他の態様の実施形態は、本発明のこの態様に準用される。
【0236】
本明細書で使用される「対象」または「患者」という用語には、任意の哺乳類、例えばヒト、および任意の畜産動物、家畜動物、または実験動物が含まれる。具体例としては、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウシ、サルなどが挙げられる。しかしながら、好ましくは、前記対象または患者は、ヒトである。従って、本発明に従って治療される対象または患者は、好ましくはヒトである。
【0237】
幾つかの実施形態において、対象または患者とは、感染(症)を有する者(例えば、創傷感染(症)または医療用デバイス関連感染(症)を有する者)、または感染(症)を有する疑いのある者(例えば、創傷感染(症)または医療用デバイス関連感染(症)を有する疑いのある者)、または感染(症)を有する(または感染する)危険性のある人(例えば、創傷感染(症)または医療用デバイス関連感染(症)を有する危険性のある人)である。
【0238】
本発明の療法的使用及び方法において、前記抗菌性物品(例えば、創傷ドレッシング材または他の医療用デバイス)は、典型的には、感染(症)予防または治療が必要な対象の身体の一部(例えば、創傷)に適用(または貼付または固定または付着)される。前記抗菌性物品を身体に適用(または固定)するために、任意の適切な手段を使用することができる。
【0239】
本発明はまた、本発明の1つ以上の前記抗菌性物品を含むキットを提供する。好ましくは、前記キットは、本明細書に記載される療法方法および使用において使用するためのものである。好ましくは、前記キットは、キット成分の使用説明書を含む。好ましくは、前記キットは、例えば本明細書の他の箇所に記載されるように、感染(症)を治療または予防するためのものであり、任意に、そのような感染(症)を治療するためのキット成分の使用説明書を含む。
【0240】
本願全体において用いられる「a」および「an」という用語は、その後で上限が具体的に記載されている場合を除き、言及された構成要素または工程の「少なくとも1つ」、「少なくとも第1の」、「1つ以上」、または「複数」を意味するという意味で用いられている。
【0241】
また、本明細書において「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「有する(has)」、もしくは「有する(having)」という用語、または他の同等の用語が用いられる場合、いくつかのより具体的な実施形態においては、これらの用語は、「~からなる(consists of)」もしくは「本質的に~からなる(consists essentially of)」という用語、または他の同等の用語を含んでいる。
【0242】
次に、以下の非限定的な実施例および図面を参照して、本発明をさらに説明する。
【0243】
図1は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)FDA486に対する化合物2を用いた1日局所治療の効果を示すグラフである。Y軸にコロニー形成単位(CFU)の数を示し、X軸にマウスに適用した局所治療の種類を示す。化合物2は、本明細書ではAMC-109とも呼ばれる。
【0244】
図2は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)に対する化合物2を用いた1日局所治療の効果を示すグラフである。Y軸にコロニー形成単位(CFU)の数を示し、X軸にマウスに適用した局所治療の種類を示す。化合物2は、本明細書ではAMC-109とも呼ばれる。
【0245】
図3は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(S.aureus)FDA486に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前9時、正午12時、午後3時に処置された。皮膚生検は午後6時に採取した。中央値を示す。
【0246】
図4は、マウス皮膚感染モデルにおける化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)CS301に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前7時、午前10時、午後1時に処置された。皮膚生検は午後4時に採取した。中央値を示す。
【0247】
図5は、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌(S.aureus)FDA486に対する1日局所治療の効果を示すグラフである。各マウスは午前9時、正午12時、午後3時に処置された。皮膚生検は午後6時に採取した。中央値を示す。
【0248】
図6は、AMC-109を含浸させた乾燥PU発泡体ドレッシング(A)、AMC-109を含浸させた湿潤ドレッシング(B)、およびAMC-109を含浸させない対照ドレッシング(C)周辺の阻害ゾーンを示す。
【0249】
図7は、AMC-109を含浸させたテコフレックス塗膜(またはコーティング)を乾燥後、および裏面から剥がした状態を示す。
【0250】
実施例
[実施例1]
[ペプチド合成]
[化学薬品]
保護アミノ酸である、Boc-Trp-OH、Boc-Arg-OH、Boc-4-フェニル-PheおよびAc-Arg-OHは、バッケム社(Bachem AG)から購入し、Boc-4-ヨードフェニルアラニン、Boc-3,3-ジフェニルアラニンおよびBoc-(9-アントリル)アラニンは、アルドリッチ社(Aldrich)から購入した。ペプチドのC末端を形成する、ベンジルアミン、2-フェニルエチルアミン、3-フェニルプロピルアミン、(R)-2-フェニルプロピルアミン、(S)-2-フェニルプロピルアミン、N,N-メチルベンジルアミン、N,N-エチルベンジルアミンおよびN,N-ジベンジルアミンは、N-エチルベンジルアミンをアクロス社(Acros)から購入した以外は、フルカ社(Fluka)から購入した。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)、クロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)およびO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’ テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)は、フルカ社から購入した。4-n-ブチルフェニルボロン酸、4-t-ブチルフェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、2-ナフチルボロン酸、トリオルソ-トリルホスフィン、ベンジルブロミドおよび酢酸パラジウムは、アルドリッチ社から購入した。溶媒は、メルク社(Merck)、リーデル・デ・ハーン社(Riedel-de Haen)、またはアルドリッチ社から購入した。
【0251】
[アミノ酸の調製]
Boc-2,5,7-トリ-tert-ブチルトリプトファン-OHの調製:トリフルオロ酢酸(19mL)中のH2N-Trp-OH(1.8g、8.8mmol)とt-BuOH(4,7g、63.4mmol)の混合物を70℃で3時間撹拌する。得られた中褐色半透明溶液の体積をロータリーエバポレータで室温で30分間減少させた後、60mLの7%(重量基準)NaHCO3を滴下することによって粉砕する。次いで、得られた灰色/白色の粒状固体を、真空ろ過により回収し、室温で24時間真空乾燥する。生成物を、水にエタノール40%を混合した近沸点混合物からの結晶化により単離する。体積は、典型的には、粗生成物1グラム当たり約20mLである。
【0252】
粗生成物からの最初の結晶化により、試料中の他のすべての物質に対して80~83%の純度(HPLC)、公知のTBT類縁体に対して約94~95%の純度の単離生成物が生成される。この段階での収率は、60~65%の範囲である。
【0253】
Boc-4-ヨードフェニルアラニンのベンジル化:Boc-4-ヨードフェニルアラニン(1当量)を90%メタノール水溶液に溶解させ、炭酸セシウムを加えて弱アルカリ性のpH(リトマス紙で測定)になるまで中和した。溶媒を回転蒸発によって除去し、Boc-4-ヨードフェニルアラニンのセシウム塩に残存する水をトルエンでの共沸蒸留を繰り返してさらに減少させた。得られた乾燥塩をジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、ベンジルブロミド(1.2当量)を加え、得られた混合物を6~8時間撹拌した。反応終了時にDMFを減圧下で除去し、標題の化合物を含む油を生成する。この油を酢酸エチルに溶解させ、得られた溶液を等体積のクエン酸溶液(3回)、重炭酸ナトリウム溶液、およびブラインで洗浄した。ジクロロメタン:酢酸エチル(95:5)を溶離液としたフラッシュクロマトグラフィーにより、標題の化合物を淡黄色油として85%の収率で単離した。n-ヘプタンからの再結晶化により、結晶性ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニンを得ることができた。
【0254】
鈴木カップリングの一般的な手順:ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン(1当量)、アリールボロン酸(1.5当量)、炭酸ナトリウム(2当量)、酢酸パラジウム(0.05当量)、およびトリオルソ-トリルホスフィン(0.1当量)を、ジメトキシエタン(ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン1mmol当たり6ml)および水(ベンジルBoc-4-ヨードフェニルアラニン1mmol当たり1ml)の脱気混合物に加えた。反応混合物をアルゴン下で保持し、80℃まで4~6時間加熱した。室温まで冷却した後、混合物をシリカゲルと炭酸ナトリウムのショートパッドでろ過する。ろ過ケーキを酢酸エチルでさらに洗浄した。ろ液を合わせ、溶媒を減圧除去した。酢酸エチルとn-ヘキサンの混合物を溶離液として用いたフラッシュクロマトグラフィーにより、生成物を単離した。
【0255】
Boc-Bip(n-Bu)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-n-ブチルフェニルボロン酸から標題の化合物を収率53%で調製した。Boc-Bip(n-Bu)-OBnは、80:20の酢酸エチル:n-ヘキサン溶離液を用いて単離した。
【0256】
Boc-Bip(t-Bu)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-t-ブチルフェニルボロン酸から標題の化合物を収率79%で調製した。Boc-Bip(t-Bu)-OBnは、80:20の酢酸エチル:n-ヘキサン溶離液を用いて単離した。
【0257】
Boc-Bip(4-Ph)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-ビフェニルボロン酸から標題の化合物を収率61%で調製した。Boc-Bip(4-Ph)-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0258】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を収率68%で調製した。Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0259】
Boc-Bip(4-(1-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を調製した。Boc-Bip(4-(1-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0260】
ベンジルエステルの脱エステル化の一般的な手順:ベンジルエステルをDMFに溶解させ、10%Pd炭素を触媒として用いて周囲圧力で2日間水素化する。反応終了後、触媒を濾去し、溶媒を減圧下で除去する。ジエチルエーテルからの再結晶化により、遊離酸を単離する。
【0261】
Boc-Bip(4-n-Bu)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(n-Bu)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0262】
Boc-Bip(4-t-Bu)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(t-Bu)-OBnから標題の化合物を収率65%で調製した。
【0263】
Boc-Bip(4-Ph)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-ph)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0264】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0265】
Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Bip(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0266】
HBTUを用いた溶液相ペプチド合成の一般的な手順:以下の一般的な手順に従い、Boc保護戦略を用いた段階的アミノ酸カップリングにより、溶液中でペプチドを調製した。遊離アミノ基を有するC末端ペプチド部分(1当量)とBoc保護アミノ酸(1.05当量)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)(1.8当量)とを、DMF(アミノ成分1mmol当たり2~4ml)に溶解させた後、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(4.8当量)を添加した。混合物を氷冷し、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)(1.2当量)を加えた。反応混合物を周囲温度で1~2時間振盪した。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、クエン酸、重炭酸ナトリウム、およびブラインで洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られたペプチドのBoc保護基を、95%TFAまたは塩化アセチルの無水メタノール溶液を用いて暗所で脱保護した。
【0267】
PyCloPを用いた溶液相アミド形成。Boc-Arg-N(CH2Ph)2の合成。乾燥DCM(アルミナでろ過後)(2ml)およびDMF(1ml)中のBoc-Arg-OH(1当量)、NH(CH2Ph)2(1.1当量)、およびPyCloP(1当量)の溶液。この溶液を氷冷し、攪拌しながらDIPEA(2当量)を加えた。この溶液を室温で1時間攪拌した。反応混合物を蒸発させ、酢酸エチルに再溶解させ、クエン酸、重炭酸ナトリウム、およびブラインで洗浄した。溶媒を真空下で除去し、得られたペプチドのBoc保護基を、95%TFAを用いて暗所で脱保護した。
【0268】
ペプチドの精製と分析。水とアセトニトリル(共に0.1%TFA含有)の混合物を溶離液とするDelta-Pak(ウォーターズ社(Waters))C18カラム(100Å、15μm、25×100mm)での逆相HPLCを用いて、ペプチドを精製した。分析用Delta-Pak(ウォーターズ社)C18カラム(100Å、5μm、3.9×150mm)を用いたRP-HPLCと、VG Quattro四重極質量分析計(VGインスツルメンツ社(VG Instruments Inc.)、オールトリンガム(Altringham)、英国)での陽イオンエレクトロスプレー質量分析とによって、ペプチドを分析した。
【0269】
[実施例2]
<本明細書において定義されるペプチドのインビトロ活性>
[材料と方法]
(抗菌剤)
あらかじめ秤量した化合物1および化合物2のバイアルは、リティクス・バイオファーマ社(Lytix Biopharma AS)から供給された。
【0270】
【0271】
[細胞分離株]
本研究で使用した細菌分離株は、GRマイクロ社(GR Micro Ltd.)で保管されている世界中のさまざまな供給源からのもので、最小限の継代培養で、未希釈のウマ血清の高タンパク質マトリックス中の高密度懸濁液として、-70℃で凍結保存されて維持されているものであった。使用した菌種とそれらの特徴を表1に示す。その内訳は、グラム陽性菌54種、グラム陰性菌33種、および真菌10種である。
【0272】
[最小発育阻止濃度(MIC)の測定]
MICの測定は、臨床・検査標準協会(Clinical and Laboratory Standards Institute)(CLSI、旧NCCLS)によって公表された下記の抗菌薬感受性試験用微量液体希釈法(microbroth dilution methods)を用いて行った。
【0273】
M7-A6、Vol.23、No.2、2003年1月、「Methods for Dilution Antimicrobial Susceptibility Tests for Bacteria that Grow Aerobically; Approved Standard-Sixth Edition.(好気的に増殖する細菌の希釈抗菌薬感受性試験のための方法;承認標準-第6版)」。
M100-S15、Vol.25、No1、2005年1月、「Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing; Fifteenth Informational Supplement.(抗菌薬感受性試験のための標準法:第15版補足情報)」。
M11-A6、Vol.24、No.2、「Methods for Antimicrobial Susceptibility Testing of Anaerobic Bacteria; Approved Standard-Sixth Edition.(嫌気性菌の抗菌薬感受性試験法;承認標準-第6版)」
M27-A2、Vol.22、No.15、「Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Yeasts; Approved Standard-Second Edition.(酵母の液体希釈抗真菌薬感受性試験のための基準方法;承認標準-第2版)」
M38-A、Vol.22、No.16、「Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Filamentous Fungi; Approved Standard.(糸状菌の液体希釈抗真菌薬感受性試験のための基準方法;承認標準)」
【0274】
MICの評価は、GRマイクロ社で調製された、抗細菌薬または抗真菌薬が入ったウェットプレートを用いて行った。
【0275】
陽イオン調整ミューラー・ヒントンブロス(オキソイド社(Oxoid Ltd.)、ベイジングストーク、英国、および、トレック・ダイアグノスティック・システムズ社(Trek Diagnostic Systems Ltd.)、イースト・グリンステッド、英国)(連鎖球菌属細菌(Streptococcus spp.)、コリネバクテリウム・ジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium)、およびリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)については、5%ウマ溶血血液を補充)を好気性菌に使用し、約105コロニー形成単位(CFU)/mLの初期接種量とした。
【0276】
ヘモフィルス試験培地(0.5%酵母抽出物含有ミューラー・ヒントンブロス、および、ヘマチンとNADとをそれぞれ15mg/L含有するヘモフィルス試験培地用サプリメント、すべてオキソイド社、ベイジングストーク、英国から入手)をインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)に使用し、約105CFU/mLで接種した。
【0277】
嫌気性菌株には、サプリメント添加ブルセラブロス(SBB)を使用し、接種量は約106CFU/mLとした。SBBは、1%ペプトンと、0.5%「Lab-lemco(ラブ-レムコ)」と、1%グルコースと、5μg/Lのヘミンおよび1μg/LのビタミンK(どちらもシグマ・アルドリッチ社(Sigma Aldrich Ltd.)から入手)を添加した0.5%塩化ナトリウムとからなるブロスである。
【0278】
酵母および糸状菌のMICは、MOPS緩衝RPMI1640培地中で行った(MOPS緩衝液はシグマ・アルドリッチ社から入手し、RPMI1640はインビトロジェン社(Invitrogen Ltd.)(ペイズリー、スコットランド)から入手した)。酵母接種量は7.5×102~4×103CFU/mLの範囲、糸状菌接種量は約8×103~1×105CFU/mLとした。
【0279】
常法に従って、ミューラー・ヒントンブロスを含有するすべてのプレートを予め調製し、調製日に-70℃で凍結しておき、使用日に解凍した。真菌、ヘモフィルス属菌、および嫌気性菌のMICはいずれも、同日に調製したプレートで測定した。
【0280】
凍結がペプチドの活性に影響を与えたかどうかを評価するために、一部のMIC測定を、新しく調製したミューラー・ヒントンブロスを含有するプレートを用いて繰り返した。
【0281】
[対照菌株]
以下の対照(参照)菌株を、試験菌株のパネルに含めた。
大腸菌(Escherichia coli):ATCC25922
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus):ATCC29213
エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis):ATCC29212
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae):ATCC49619
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa):ATCC27853
カンジダ・クルーセイ(Candida krusei):ATCC6258
【0282】
下記の対照菌株は、試験菌株のパネルに追加して用いたものであり、必要に応じて、対照薬が範囲内であることを確認するために含めた。
インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae):ATCC49247
カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis):ATCC22019
バクテロイデス・フラギリス(Bacteroides fragilis):ATCC25285
エガセラ・レンタ(Eggerthella lenta):ATCC43055
【0283】
[結果]
結果を表1にシングルラインリスト表示で示す。また、繰り返し対照菌株の結果を表2に示す。対照菌株の結果は、凍結保存した、または調製したてを用いたミューラー・ヒントンブロスを含有するプレートから得られたデータも含め、非常に再現性が高いことがわかる。プレートの凍結は、他の細菌株のMICにも影響を与えなかった。
【0284】
得られたMICデータは非常に有望なものであり、ペプチドが非常に幅広い活性スペクトルを持つことを示している。
【0285】
【0286】
【0287】
MHB、ミューラー・ヒントンブロス;HTM、ヘモフィルス試験培地;SBB、サプリメント添加ブルセラブロス
【0288】
[実施例3]
[トリプシン分解に対する安定性と抗菌活性]
式AA1-AA2-AA1NHCH2CH2Phの化合物のトリプシン耐性および抗菌活性を調べた。
【0289】
[ペプチドの半減期の測定と計算]
それぞれのペプチドを0.1MのNH4HCO3緩衝液(pH6.5)に溶解させ、最終的なペプチド濃度を1mg/mlとした。トリプシン1mgを0.1MのNH4HCO3緩衝液(pH8.2)50mlに溶解させてトリプシン溶液を調製した。安定性を測定するために、新しく調製したトリプシン溶液250μlと、ペプチド溶液250μlとを、ロッキングテーブル上で37℃にて0.1MのNH4HCO3緩衝液(pH8.6)2ml中でインキュベートした。様々な時間間隔で0.5mlのアリコートをサンプリングし、1%TFAを含有する水:アセトニトリル(60:40v/v)0.5mlで希釈し、上述したようにRP-HPLCで分析した。37℃で0時間および20時間後に採取したトリプシン非添加試料を陰性対照とした。本アッセイの最初の5時間の間に採取した試料の254nmにおけるピーク面積の積分を用いて、τ1/2を求めた。最初の24時間に分解が見られなかったペプチドは、安定として分類した。
【0290】
[抗菌性アッセイ]
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)ATCC25923株、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)ATCC33591株、およびメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)(MRSE)ATCC27626株のMIC測定は、標準法を用いてToslab ASにより行った。ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ社(Williams and Wilkins Co.)(ボルティモア)、「Antibiotics in Laboratory Medicine、第4版、(Lorian,V.編)」、75~78頁における、Amsterdam,D.著(1996年)「Susceptibility testing of antimicrobials in liquid media(液体培地中の抗菌剤の感受性試験)」。
【0291】
【0292】
a半減期の計算にはコーネル大学の医療用計算機を用いた。
b最小発育阻止濃度
c黄色ブドウ球菌 ATCC25923株
dメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 ATCC33591
eメチシリン耐性表皮ブドウ球菌 ATCC27626
f本発明の化合物の定義の範囲外
【0293】
[実施例4]
[化合物2のインビボ活性]
マウスの皮膚を黄色ブドウ球菌または化膿レンサ球菌に感染させ、その後、3時間間隔で合計3回の投与を行った。最後の投与から3時間後、皮膚生検体を採取し、皮膚試料に存在するコロニー形成単位(CFU)数を測定した。結果を、マウス1匹当たりのコロニー形成単位数として、
図1および
図2に示す。
【0294】
実験1(
図1)では、化合物2を、2%(w/w)の化合物2を含有するクリームまたはゲルの一部として、マウスの皮膚に塗布した。化合物2を含有しない同じクリームまたはゲルを陰性対照(プラセボ)として用いた。化合物2を含有するクリームまたはゲルをマウスの皮膚に塗布すると陰性対照と比較してCFU数が減少したことが明確にわかり、化合物2が黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果を発揮したことを示している。担体、つまりクリームまたはゲルの性質は有意な影響を与えなかった。
【0295】
実験2(
図2)では、化合物2を2つの異なる濃度で、すなわち1%または2%のゲルとして塗布した。プラセボゲルおよび公知の抗菌薬「バクトロバン(bactroban)」を対照として使用した。化合物2を含有するゲルは、プラセボゲルやバクトロバンよりもCFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。また、化合物2を2%含有するゲルは、化合物2を1%しか含有しないゲルよりも効果が高かった。
【0296】
[実施例5]
[本発明で使用される化合物の調製とその物性、抗菌特性、および溶血特性]
ペプチド合成-関連情報は実施例1にも記載されている。
[化学薬品]
保護アミノ酸Boc-Arg-OHおよびBoc-4-フェニル-Pheは、バッケム社から購入し、Boc-4-ヨードフェニルアラニンは、アルドリッチ社から購入した。ペプチドのC末端を形成する、イソプロピルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、ブチルアミン、ヘキサデシルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミンおよびシクロペンチルアミンは、フルカ社から購入した。ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(1-HOBt)、クロロトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)およびO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBT
U)は、フルカ社から購入した。4-n-ブチルフェニルボロン酸、4-t-ブチルフェニルボロン酸、4-ビフェニルボロン酸、2-ナフチルボロン酸、トリオルソ-トリルホスフィン、ベンジルブロミドおよび酢酸パラジウムは、アルドリッチ社から購入した。溶媒は、メルク社、リーデル・デ・ハーン社、またはアルドリッチ社から購入した。
【0297】
Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、4-ビフェニルボロン酸から標題の化合物を収率61%で調製した。Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0298】
Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OBnの調製:鈴木カップリングの一般的な手順を用いて、2-ナフチルボロン酸から標題の化合物を収率68%で調製した。Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OBnは、n-ヘプタンから粗生成物を再結晶することにより単離した。
【0299】
Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Phe(4-4’-ビフェニル)-OBnから標題の化合物を収率61%で調製した。
【0300】
Boc-Phe(4-(2’-ナフチル))-OHの調製:脱エステル化の一般的な手順を用いて、Boc-Phe(4-(2-ナフチル))-OBnから標題の化合物を収率68%で調製した。
【0301】
HBTUを用いた溶液相ペプチド合成の一般的な手順は、実施例1に記載した通りである。
【0302】
PyCloPを用いた溶液相アミド形成は、実施例1に記載した通りである。
【0303】
ペプチドの精製と分析は、実施例1に記載した通りである。
【0304】
【0305】
[抗菌性アッセイ]
黄色ブドウ球菌ATCC25923株、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC33591株およびメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ATCC27626株のMIC測定は、標準法を用いてToslab ASにより行った。ウィリアムズ・アンド・ウィルキンズ社(ボルティモア)、「Antibiotics in Laboratory Medicine、第4版、(Lorian,V.編)」、75~78頁における、Amsterdam,D.著(1996年)「Susceptibility testing of antimicrobials in liquid media(液体培地中の抗菌剤の感受性試験)」。
【0306】
【0307】
[実施例6]
[選択した化合物のインビトロブロードパネルスクリーニング]
[材料と方法]
[抗菌剤]
あらかじめ秤量した化合物7および化合物8のバイアルは、リティクス・バイオファーマ社から供給された。
【0308】
【0309】
[細菌分離株]
本研究で使用した細菌分離株は、実施例2に記載した通りである。
[最小発育阻止濃度(MIC)の測定]
実施例2に記載したようにMICを測定した。
【0310】
[結果]
結果を表6にシングルラインリスト表示で示す。
【0311】
得られたMICデータは非常に有望なものであり、ペプチドが非常に幅広い活性スペクトルを持つことを示している。
【0312】
【0313】
[実施例7]
[化合物7および化合物8のインビボ活性]
マウスの皮膚を黄色ブドウ球菌または化膿連鎖球菌に感染させ、その後、3時間間隔で合計3回の投与を行った。最後の投与から3時間後、皮膚生検体を採取し、皮膚試料に存在するコロニー形成単位(CFU)数を測定した。結果を、マウス1匹当たりのコロニー形成単位数として、
図3、
図4、および
図5に示す。
【0314】
実験1(
図3)では、化合物7を、2%(w/w)の化合物7を含有するクリームまたはゲルの一部として、マウスの皮膚に塗布した。化合物7を含有しない同じクリームまたはゲルを陰性対照(プラセボ)として用いた。バクトロバン2%クリームを陽性対照として用いた。化合物7を含有するクリームまたはゲルをマウスの皮膚に塗布すると陰性対照と比較してCFU数が減少したことが明確にわかり、化合物7が黄色ブドウ球菌に対して抗菌効果を発揮したことを示している。標準臨床治療であるバクトロバン2%クリームの効力は、本投与計画下では有意な影響を与えなかった。担体、つまりクリームまたはゲルの性質は有意な影響を与えなかった。
【0315】
実験2(
図4)では、化合物7を2つの異なる濃度で、つまり1%または2%のゲルとして塗布した。プラセボゲルおよび公知の抗菌剤「バクトロバン(ムペリシン(mupericin))」を対照として使用した。化合物7を含有するゲルは、プラセボゲルやバクトロバンよりも、化膿連鎖球菌CS301感染に由来するCFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。また、化合物7を2%含有するゲルは、化合物7を1%しか含有しないゲルよりも効果が高かった。
【0316】
実験3(
図5)では、マウス皮膚感染モデルにおける黄色ブドウ球菌FDA486感染に対して、化合物8を2%クリーム製剤中で適用した。プラセボクリーム1種と公知の抗菌剤2種、「フシジン(Fucidin)(フシジン酸)軟膏2%」および「バクトロバン(ムペリシン)クリーム2%」を対照として用いた。化合物8を含有するクリームは、プラセボやフシジンまたはバクトロバンよりも、CFU数を減少させる効果が高かったことがわかる。
【0317】
[実施例8]
[含侵ポリウレタン発泡体]
[材料と方法]
細菌株:黄色ブドウ球菌ATCC29213
ナイーブまたはAMC-109を含侵したPU-発泡体創傷ドレッシング材(バイアテン、コロプラスト社(Coloplast)製)
【0318】
[PU-発泡体パッチの調製]
市販の吸収性PU-発泡体創傷ドレッシング材(バイアテン、コロプラスト社製)を鋭利なメスで1cm角のパッチ(1cm2)に切断した。各パッチに2mg/mlのAMC-109の蒸留水溶液を0.5mlずつ慎重に加え、AMC-109を含浸させた。その後、パッチを乾燥させ、微生物試験の前に元の形状に戻した。
【0319】
[微生物学]
黄色ブドウ球菌を0.5マクファーランドに希釈し、ミューラー・ヒントン寒天プレート上に広げて接種した。
【0320】
AMC-109含浸の殺菌効果が、ドレッシング材を湿らせることによって改善されるかどうかを調べるために、接種したプレートにドレッシング材を適用する前に、100μlのNaClを前記ドレッシング材に添加した。
【0321】
AMC-109を含浸させた湿潤および乾燥したドレッシング材、およびナイーブコントロール(すなわちAMC-109を含浸させないコントロールのドレッシング材)を接種したプレートに置いた。実験はすべて3連で行った。プレートは37℃で16時間インキュベートした。その後、MH-寒天プレートの細菌増殖の抑制を検査し、記録用に写真を撮った。
【0322】
[結果]
*1mg/cm
2のAMC-109を含浸させた乾燥PU-発泡体ドレッシング材の周囲に、明瞭な阻害ゾーン(4mm)が観察された(
図6A)。
* 1mg/cm
2のAMC-109を含浸させた湿らせたPU-発泡体ドレッシング材の周囲に、明確な抑制領域(2mm)が観察された(
図6B)。
* コントロールのドレッシング材の周囲には、阻害ゾーンは観察されなかった(
図6C)。
【0323】
[結論]
AMC-109(1mg/cm2)を含浸させたPU-発泡体ドレッシング材は、ドレッシング材の下の細菌の増殖を明らかに抑制し、周囲にも抑制ゾーンを形成した。この結果は、AMC-109が発泡体から下層の寒天に遊離し、細菌を除去することを示している。この効果は、ドレッシング材をあらかじめ湿らせても改善されないことから、乾燥したドレッシング材からAMC-109を放出させるには、インキュベーター内に存在する水蒸気だけで十分であることが示唆された。
【0324】
これらの知見は、AMC-109を含浸させたPU-発泡体ドレッシング材を、ドレッシング材のコロニー形成を制御する方法として使用すること、また、このようなAMC-109ドレッシング材が適用される下層の創傷における感染症の予防または治療のための使用をサポートする。
【0325】
[実施例9]
[含侵ポリウレタン(非発泡体)の実施例]
[導入]
実施例8で示したように、抗菌ペプチドAMC-109はポリウレタン発泡体に含浸させることができ、前記ペプチドは前記ポリウレタン発泡体から遊離され、抗菌活性を発揮させることができる。
【0326】
以下に述べるように、さらなるポリウレタン含浸研究が行われた。
ペプチドの使用をより経済的にするために(ペプチドは比較的高価である)、特に肉厚の製品において、材料(ポリウレタン)の表層部だけに含浸させることが望ましい場合もある。
【0327】
本研究では、膨潤時間を制御することにより、AMC-109含有膨潤剤(AMC-109含有溶液)のポリウレタンによる吸収を制御できること、および、短い膨潤時間であっても、AMC-109を含浸させたポリウレタンの抗菌活性は良好であることが示された。
【0328】
[材料と方法]
[含浸ポリウレタンの製造]
使用したポリウレタンは1mmの厚みのペレタン(Pellethane)80Aシート(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク.米国製)であった。ペレタンは生体適合性芳香族ポリウレタンである。シートは2×1cmのサンプルにカットされた。この研究で使用したペレタンは発泡体ではない。
【0329】
0.18gのAMC-109を4mlのエタノールと2mlのクロロホルムに混合した結果、2.8%の溶液が得られた。
【0330】
前記ポリウレタンサンプルを、前記膨潤剤(すなわち、AMC-109を含有する、AMC-109含有エタノール/クロロホルム)中に2つの異なる時間の間、浸漬させた結果、10%および100%の吸収率を達成する目的で、異なる吸収率(すなわち、前記ポリウレタンの異なる膨潤度)を生じた。
【0331】
浸漬後、サンプルをセルロースワイパーで表面乾燥させ、重量を測定し、20℃で12時間乾燥し、袋詰めし、ラベルを貼った。
【0332】
「%吸収」は、式(I)の化合物の溶液を適用した後(すなわち、膨潤後)の前記ポリウレタンの重量増加の%、すなわち、前記膨潤剤の適用前(すなわち、膨潤前)の前記ポリウレタンの重量と比較した前記ポリウレタンの重量増加%である。
【0333】
[含侵ポリウレタンの微生物学的試験]
表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis RP62A)の一晩コロニーを、0.85%NaClで0.5マクファーランド(1×108CFU)に希釈した。この細菌溶液をトリプチック・ソイ・ブロス培地(1×105)でさらに希釈し、100μlをポリウレタンサンプルの表面に滴下した。前記ポリウレタンサンプルをスライドグラスに載せ、そのスライドグラスを湿らせたインキュベーションチャンバーに入れ、37℃で24時間培養した。
【0334】
CFU(コロニー形成単位)を測定するために、(上述のように細菌溶液でインキュベーションした後の)前記ポリウレタンサンプルを2mlの0.85%NaClでボルテックスし、連続希釈液(10-1~10-6)を調製した。前記連続希釈液の100μlのアリコートを血液寒天プレート上にストリークし、さらに一晩インキュベートしてからCFUをカウントした。実験はすべて2回行った。
【0335】
【0336】
これらの結果は、AMC-109を含む膨潤剤がポリウレタンを膨潤させることができること、および異なる暴露時間(膨潤時間)が異なる吸収(膨潤)の程度をもたらすことを示している。
【0337】
サンプル37/20(すなわち3分間の曝露/膨潤時間)とサンプル42/20(すなわち10時間の曝露/膨潤時間)の両方が、微生物学的アッセイにおいて効率的な抗菌活性を示した。対照試料は、高レベルの細菌表面コロニー形成を示した。
【0338】
理論に束縛されることを望むものではないが、膨潤過程では、濃度勾配が存在し、前記ポリウレタンの外層(すなわち、表面に最も近いか、または前記表面上の前記ポリウレタン)は飽和し、内層(表面から最も遠い)は部分的にしか飽和しないと考えられている。ポリウレタンサンプル/物品全体が完全に飽和に達する前に膨潤プロセスを停止させることで、表面/外層が所望の濃度のペプチドを含み、この濃度は、前記膨潤剤のペプチド濃度および飽和時の全吸収によって決定され得るポリウレタンサンプル/物品全体が得られると考えられる。前記ポリウレタンの内層(すなわち、表面からさらに/最も遠いポリウレタン)は、表面/外層よりも少ないペプチドを含むと考えられる。別の言い方をすれば、そしてまた理論に束縛されることなく、膨潤時間を制御することによって、前記ポリウレタンに前記膨潤剤(従って前記ペプチド)が浸透する程度(またはその深さ)を制御することができると考えられる。従って、膨潤時間を制御することにより、ポリウレタンの含浸を制御し、所望により、ポリウレタンの表面/外層のみの含浸を達成することができると考えられる。材料のコスト(例えば、ペプチドのコスト)を考慮すると、ポリウレタンの表面および外層のみに含浸させる(すなわち、前記ポリウレタンの全厚みの一部のみに含浸させる)ことは、ポリウレタン製品全体(すなわち、ポリウレタンサンプルの全厚み)に含浸させることと比較して、コスト上の利点がある。そして、含浸された部分(または層)の厚みは、前記ペプチドの溶出率と前記ペプチドの溶出までの時間を決定することができる。抗菌ペプチドを物品の厚み全体にわたってポリウレタン物品に含浸させることは、すべての意図された用途において必要ではないかもしれない。
【0339】
[実施例10]
本研究の目的は、TPU(熱可塑性ポリウレタン)ポリマーがAMC-109溶解に適合する溶媒に溶解できるかどうかを調べることである。その結果、THF(テトラヒドロフラン)とジクロロメタン(DCM)はこの溶解について非常に一般的な溶媒であること、および塗料溶液(すなわち、溶媒に溶解したAMC-109とTPU)を表面に適用し、塗装面(コーティング)を提供できることがわかった。この研究はまた、AMC-109が塗料(コーティング)から抽出できること(すなわち、塗料(コーティング)から溶出できること)、およびAMC109/TPU塗料(コーティング)が良好な抗コロニー活性を有することも示している。
【0340】
[材料と方法]
[サンプル材料]
テコフレックスは、市販の医療グレードのTPU(Lubrizol)である。使用したテコフレックスの種類はテコフレックスEG-80Aである。パールコートDIPP119は、市販のTPU(Lubrizol)である。エスタン58300は、市販のTPU(Lubrizol)である。サンプル材料の特性を表Cに示す。
【0341】
【0342】
[溶液分離実験]
テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトン、酢酸エチル(EtOAc)、またはエタノール(EtOH)のいずれかを入れたバイアル瓶に、各TPU材料のサンプル(0.01~0.2g)を入れた。溶解性は、周囲温度で48時間後に目視で評価した。
【0343】
[塗装溶液の調製]
選択したTPUサンプル材料をTHFに溶解した。これに関して、テコフレックス(1.0g)をTHF(テトラヒドロフラン)(40ml)に溶解し、またはパールコートDIPP119(1.0g)をTHF(25ml)に溶解した(表D)。AMC-109(53mg)もTHF(4ml)に溶解した(表D)。次いで、THFに溶解したAMC-109を、THFに溶解したTPU(すなわち、テコフレックスまたはパールコートDIPP119)と混合した。この混合物は、「塗装溶液」(または「塗料溶液」または「最終塗装溶液」)と呼ばれる。最終塗装溶液中のAMC-109の濃度は、TPUに対して5%であった。THF中でのAMC-109の溶解には数時間かかる。
【0344】
【0345】
[塗装手順]
塗料サンプルは、浅いくぼみをつけたアルミ箔の上に8mlの塗装溶液を配置するか、またはウォッチグラス上に塗装溶液を注ぐことにより調製した。乾燥後(数日)、かなり厚い塗膜を機械的に表面から剥がすことができた。
図7は、AMC-109を含浸させたテコフレックス塗膜(またはコーティング)を、乾燥後、機械的に裏面から剥がした状態を示している。
【0346】
[抽出]
塗膜からサンプルを切り出し、正確に秤量(100~150mg)し、サンプル中のAMC-109の量を計算した。サンプルをバイアルに入れ、水(2ml)を加え、バイアルを振った。連続6回の抽出を行った。各抽出ごとに、古い抽出液を脱イオン水(2ml)で置換した。抽出は10秒、5分、30分、3時間、22時間、48時間の振とうで行った。各抽出液中のAMC-109の量は、あらかじめ作成した標準曲線を用いて280nmのUV分光光度計で測定した。
【0347】
[微生物学]
細菌株:
* 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)8325
[修正AATCC-100法]
黄色ブドウ球菌の一晩コロニーを0.9%NaClで0.5マクファーランドに希釈し、菌濃度を1.5×108CFU/mlとした。この懸濁液をTSB(トリプチック・ソイ・ブロス)でさらに希釈し、1×105CFU/mlとした。
【0348】
TPU材料(すなわちAMC-109を含む塗膜)を約0.4×0.4cmに切断した。その後、材料を2分間dH2Oに浸し、使用前に風乾した。異なるサンプル(材料)に100μlの細菌溶液(すなわち100μlの1×105CFU/ml懸濁液)を接種した。サンプルをスライドグラスに載せ、37℃の水蒸気チャンバーで24時間培養した。各試験物質の生物学的複製を2つ作成した。
【0349】
インキュベーション後、TPU材料を1000μlのNaCl(0.9%)に入れ、45秒間ボルテックスした後、連続希釈(0~10-6)を行い、100μlをプレーティングして、CFU計数を行った。
【0350】
[結果]
常温で48時間放置した後のTPU材料の各溶媒の溶液を表Eにまとめた。
【0351】
【0352】
テトラヒドロフラン(THF)は、TPUサンプルにとって最も効果的な溶媒のようである。AMC-109は、非常にゆっくりではあるが、THFに溶解する。ジクロロメタン(DCM)もTPUサンプルを非常に効果的に溶解した。実験では、AMC-109はクロロホルムにも容易に溶解することが示された(データは示さず)。
【0353】
[塗装]
【0354】
【0355】
[抽出と漏出速度論]
各抽出液中のAMC-109の量は、UV-分光光度法標準曲線を用いて算出した。データは、元のサンプル中に存在するAMC-109の総量に対して正規化した。正規化したデータを表Gにまとめた。
【0356】
【0357】
[微生物学的有効性]
[コロニー形成ユニット]
材料(すなわちAMC-109を含む塗膜)を2分間徹底的に洗浄し、容易に抽出可能なAMC-109または表面に直接存在するAMC-109を除去した。CFU数はAMC-109含有材料の検出限界以下であった。対照材料(すなわち、AMC-109を含まない関連TPU塗料)と比較すると、CFU数は7log減少した(表H)。
【0358】
【0359】
[結論]
*TPUはいくつかの溶媒中に溶解できる。試験した溶媒の中で、THFとジクロロメタンが最も汎用性が高い。
*溶媒(例えばTHF)に溶解したAMC-109は、溶媒(例えばTHF)に溶解したポリマー(TPU)に混合することができる。
*得られた塗装溶液は、複数の表面に適用することができる。
*塗装面の特性はポリマー(TPU)によって異なり、異なるポリマーは異なる用途に適している。
*塗装面(コーティング)はAMC-109を漏出する(すなわち、AMC-109は溶出する)。典型的には、まず迅速に、そして少なくとも2日にわたって低濃度で持続する。
*塗装された表面は強力な抗コロニー性を示す(容易に抽出可能な、あるいは表面に直接存在するAMC-109を除去するために水で2分間洗浄した後でも)。
【0360】
この研究は、AMC-109、TPU、および適切な溶媒(例えばTHF)を含む組成物は、AMC-109含有塗料(またはAMC-109/TPU含有塗料)とも呼ばれ、そのような塗料(コーティング)は、その上での微生物の増殖に抵抗するので、微生物汚染の影響を受けやすい表面の塗料(またはコーティングを提供するのに)として有用であることを示している。
【0361】
[研究の拡張]
上述した研究の延長として、テコフレックス-AMC-109およびパールコートDipp119-AMC-109コーティング/フィルムのサンプルが(異なる期間の間、水中で振動させることにより)AMC-109の抽出液に付された後であっても、前記サンプルの細菌(黄色ブドウ球菌)によるコロニー形成に抵抗する能力を測定するために、実験を行った(両方とも、THF中に溶解させたTPUを、THFに溶解させたAMC-109と混合することにより製造した塗装溶液を用いて行った)。このようなテコフレックス-AMC-109塗料の抽出後のサンプルは、少なくとも20時間の間、黄色ブドウ球菌によって非コロニー化されたことが観察された(データは示さず)。また、このようなパールコートDipp119-AMC-109塗料の抽出後のサンプルは、少なくとも3時間の間、黄色ブドウ球菌によって非コロニー化されたことが観察された(データは示さず)。
【0362】
[実施例11]
この研究の目的は、TPU(熱可塑性ポリウレタン)を含むAMC109を含有するTPU(熱可塑性ポリウレタン)塗料を泌尿器用カテーテル(この例では、泌尿器用カテーテルはシリコン製である)に適用できるかどうか、およびこのAMC109/TPU塗料が抗菌特性を付与するかどうかを調べることである。
【0363】
[材料と方法(塗装溶液の調製と塗装手順)]
[サンプル材料]
テコフレックスTPUは、市販の医療グレードTPU(Lubrizol)である。テコフレックスは、脂肪族ポリエーテル-ベースの熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。この研究で使用されたテコフレックスの種類はテコフレックスEG-80Aである。
【0364】
パールコートDIPP119は市販のTPU(Lubrizol)である。パールコートDIPP119は、芳香族ポリカプロラクトンコポリエステルベースの熱可塑性ポリウレタン(TPU)である。
【0365】
[塗装溶液の調製]
テコフレックス(1.0g)をTHF(テトラヒドロフラン)(40ml)に溶解し、またはパールコートDIPP119(1.0g)をTHF(25ml)に溶解した。AMC-109(53mg)もTHF(4ml)に溶解した。次に、THFに溶解したAMC-109を、THFに溶解したTPU(すなわち、テコフレックスまたはパールコートDIPP199)と混合した。この混合物を「最終塗装溶液」と呼ぶ。最終塗装溶液中のAMC-109の濃度はTPUに対して5%であった。THF中でのAMC-109の溶解には数時間かかる。
【0366】
[塗装手順]
CovidienFoleyカテーテル(シリコーン製の尿道カテーテル)の一片を縦に分割し、上記のようなTHF中のテコフレックスとAMC-109の44mlの最終塗装溶液、または上記のようなTHF中のパールコートDIPP119とAMC-109の29mlの最終塗装溶液のいずれかに浸漬した。その後、サンプル(すなわち、カテーテルの浸漬片)を乾燥させた。コントロールとして、AMC-109を含まない溶液で作製した同等のコーティングを作製した。
【0367】
[材料と方法(微生物学)]
細菌株:
* 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)8325
【0368】
[修正AATCC-100方法]
黄色ブドウ球菌の一晩コロニーを0.9%NaClで0.5マクファーランドに希釈し、菌濃度を1.5×108CFU/mlとした。この懸濁液をTSB(トリプチック・ソイ・ブロス)でさらに希釈し、1×105CFU/mlとした。
【0369】
試験材料(すなわち、塗装後に乾燥させたカテーテル)を約1cmの大きさに切断した。異なるサンプルをチューブの中空側(すなわち、内腔側)に50μlの細菌溶液(すなわち、1×105CFU/ml懸濁液50μl)で接種した。サンプルをスライドグラスに載せ、37℃の水蒸気チャンバーで24時間培養した。各試験物質の生物学的複製を3つ作成した。
【0370】
インキュベーション後、被験物質を900μlのNaCl(0.9%)に入れ、45秒間ボルテックスした後、連続希釈(0~10-6)を行い、100μlをプレーティングして、CFU計数を行った。
【0371】
[結果]
[微生物学的有効性]
[コロニー形成単位]
CFU数は、AMC-109を含む材料については検出限界以下であった。対照材料と比較すると、CFU数は7log減少した(表B)。
【0372】
【0373】
[結論]
THFに溶解したAMC-109とTPUとからなる塗料は、シリコーン泌尿器用カテーテルへの塗料として適用することに成功した。これは2つの異なるTPU(テコフレックスとパールコートDipp119)で実証された。
【0374】
塗装された(すなわちコーティングされた)泌尿器用カテーテルは、優れた抗菌・抗コロニー作用を示した。
【0375】
この研究は、AMC-109、TPUおよび適切な溶媒(例えばTHF)を含む組成物は、AMC-109含有塗料(またはAMC-109/TPU含有塗料)とも呼ばれ、そのように塗装(コーティング)された物品は、微生物増殖に抵抗するので、微生物汚染の影響を受けやすい物品(例えば医療用デバイス)の塗装(またはコーティング)に有用であることを示している。
【0376】
[実施例12]
この研究の目的は、AMC-109含有熱可塑性ポリウレタン(テコフレックス)塗料からの(すなわち、そのような塗料で塗装された表面からの)AMC-109の放出特性を調べることである。AMC-109含有熱可塑性ポリウレタン(TPU)塗料の抗菌特性も調べた。
【0377】
[材料と方法]
[サンプル材料]
テコフレックスEG80A(ルーブリゾール・アドバンスト・マテリアルズ・インク.)とAMC-109のストック塗装溶液(塗料)は、30mlのTHF(テトラヒドロフラン)中の920mgのテコフレックスを、1mlのTHF中の50mgのAMC-109と混合することにより調製した。このストック塗装溶液を3つに分けた。
*10mlのストック・テコフレックスおよびAMC-109塗料(テコフレックスに対してAMC-109は約5%)
*10mlのストック・テコフレックスおよびAMC-109塗料+PEG400(112mg)。
*10mlのストック・テコフレックスおよびAMC-109塗料+PEG1000(108mg)
【0378】
上記の3つのケースのうち2つのケースで、放出促進剤となる可能性があるため塗料に添加されたPEGは、平均分子量400(PEG400)または1000(PEG1000)のいずれかであった。AMC-109含有テコフレックス塗料の薄膜は、テコフレックスサンプル(端が約1.5cmにカットされた正方形のシート)を塗料溶液に浸し、クリップにぶら下げて乾燥させることで作成した。誤解を避ける目的で、これらの実験では、テコフレックスは塗料に使用されたTPUであり、テコフレックスは塗料を適用されたサンプル材料でもあった(すなわち、テコフレックスはAMC-109含有テコフレックス塗料で塗装された材料でもあった)。
【0379】
[AMC-109放出実験(抽出実験)]
塗装した各サンプルを3等分し、1.5mlの水を入れたバイアルに入れた。前記バイアルをオービタルシェーカーに置いた。一連の時間間隔(10分、3時間、20時間、2日、5日、8日、14日、18日)で、水性抽出液を吸い取り、1.5mlの新しい水と交換し、前記バイアルをシェーカーに戻した。各時間間隔で採取した水性抽出物についてUV-Vis法でAMC-109含量を分析した(すなわち、各抽出物中のAMC-109の量は、あらかじめ作成した標準曲線を用いて280nmのUV分光光度計で測定した)。
【0380】
[微生物学]
細菌株:
*黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)8325
*大腸菌
【0381】
[修正AATCC-100]
黄色ブドウ球菌の一晩コロニーを0.9%NaClで0.5マクファーランドまで希釈し、菌濃度を1.5×108CFU/mlとした。この溶液をさらにTSB(トリプチック・ソイ・ブロス)で希釈し、1×105CFU/mlとした。大腸菌についても同様に行った。
【0382】
試験材料(すなわち塗装されたサンプル)を約1×1cmの大きさに切断した。異なるサンプル(試験材料)に、50μlの細菌懸濁液(1×105CFU/ml)を接種した。サンプルは37℃の水蒸気槽で24時間培養した。各試験物質の生物学的複製を3つ作成した。
【0383】
インキュベーション後、被験物質を900μlのNaClに入れ、45秒間ボルテックスした後、連続希釈(0~10-6)を行い、100μlをプレーティングして、CFU計数を行った。
【0384】
[結果]
[塗装済みクーポンの作成]
各塗料の種類ごとに(すなわち、上記の箇条書きで示した3種類の塗装溶液ごとに)、3枚1組の塗装サンプルを作製した。従って、AMC-109含塗料(活性塗料)で塗装した塗装サンプルを3セット(1セットあたり3サンプル)用意した。また、塗料がテコフレックスのみの塗料(すなわち、AMC-109が含まれていない)である塗装サンプルも1セット(1セットに3サンプル)用意した;これは微生物学実験の対照用であった。塗装サンプルの質量は682mgから772mgの間、塗料層の質量は6.09mgから8.87mgの間であった。各アクティブ塗装サンプルの塗料層質量は、以下の表Iにまとめた。塗装層の厚みは10~20μmと計算されているが、層の厚みには著しい不均一性がある可能性が高い。
【0385】
[水抽出(放出)]
塗装されたサンプルは、1.5mlの水を含むバイアル中へ抽出された(ここでの水中での抽出とは、サンプルが水に暴露され、AMC-109が塗装層から放出または抽出されることを意味する)。水の量(1.5ml)は、「沈む」条件を表すと同時に、水中に放出(または抽出)されたAMC-109の量をUV法で測定できる水の体積となるように選択した(水の体積が大きすぎると、放出/抽出されたAMC-109の測定が困難になる可能性がある)。水1.5ml中の各抽出液(最初のものを除く)のAMC-109の含有量は10μg以下であり、AMC-109の塗料への逆流はせいぜいわずかであることが示されている。上記のように、各時点で水抽出液を新鮮な水と交換した。抽出データを表Iに示す。
【0386】
【0387】
AMC-109の抽出量は、サンプリング速度のばらつきを補正するため、抽出量/時間(mg/時間)に換算した。生データを以下の表Jに示す。
【0388】
【0389】
水性抽出の18日後、実験を中止し、塗装サンプルを修正AATCC-100法を用いて微生物学的に試験した。この時、塗装サンプルは塗料層中のAMC-109の30%を失っていた。
【0390】
[抗コロニー作用]
18日間連続水抽出後の抗コロニー効果を、修正AATCC-100法を用いて黄色ブドウ球菌と大腸菌に対して評価した。この方法では、ペイントしたサンプルの表面に直接細菌を植え付け、37℃で24時間培養した。インキュベーション終了時のコロニー形成単位(CFU)数を測定することにより、接種菌に対する抗菌効果を測定した。
黄色ブドウ球菌に対する抗コロニー形成効果の結果を、以下の表Kに示す。
【0391】
【0392】
表Kの結果は、水に少なくとも18日間暴露した後でも、AMC-109含有TPU塗料で塗装した表面は黄色ブドウ球菌に汚染されないことを示している。
【0393】
大腸菌に対する抗コロニー効果の結果を表Lに示す。
【0394】
【0395】
表Lの結果は、水に少なくとも18日間暴露した後でも、AMC-109含有TPU塗料で塗装した表面は大腸菌に汚染されないことを示している。
【0396】
誤解を避ける目的で、表Kと表Lの「AMC-109」サンプルタイプは、上記の「サンプル材料」のセクションの最初の箇条書きで説明したAMC-109含有TPU塗料で塗装したサンプルである。
表KおよびLの「AMC-109+PEG400」サンプルタイプは、上記の「サンプル材料」のセクションの2番目の箇条書きに記載されているAMC-109含有TPU塗料で塗装したサンプルである。
表KおよびLの「AMC-109+PEG1000」サンプルタイプは、上記の「サンプル材料」のセクションの3番目の箇条書きに記載されているAMC-109含有TPU塗料で塗装されたサンプルである。
表Kの「テコフレックス」サンプルタイプは、テコフレックスのみの塗料で塗装したサンプルである(つまり、塗料にAMC-109は含まれていない)。
表Kの「物質のみ」サンプルタイプは、未塗装のサンプル(すなわち、未塗装のテコフレックス素材)である。
表Lの「コントロール」サンプルタイプは、テコフレックスのみの塗料で塗装したサンプルである(つまり、塗料にAMC-109は含まれていない)。
【0397】
[結論]
水抽出実験は、装置が18日間連続的に水流に付される状況を模倣するように設定された。その結果、平均すると、この間にAMC-109含有量の30%弱が抽出されることがわかった。抽出された総量のうち、12~15%が10分後に遊離し、残りの部分(85~88%)は抽出時間の残りの間、ほぼ一定の割合でゆっくりと遊離する。このデータは、AMC-109含有TPU塗料による塗装は、ほぼ3週間の連続水洗後でも、塗装表面の細菌コロニー形成を十分に阻害できることを示している。
【0398】
本研究の主な結果は以下の通りである:
* AMC-109を含むテコフレックスの薄膜は、ディッピング技術を用いて表面に適用することができる。従って、AMC-109を含むTPU塗料で材料の表面を塗装し、塗装表面を持つ材料を提供することができる。
* AMC-109の放出(または抽出)は、最初の10分間で圧倒的に大きく、少なくとも18日持続する低いが安定したレベルで平準化する。
* AMC-109を含む薄いTPUフィルム(または塗料)の表面は、少なくとも18日の間、黄色ブドウ球菌または大腸菌によって汚染されない。
*質量バランスによると、平均して、18日以内にテコフレックス塗料層中に存在するAMC-109の30%弱が材料から漏出し(すなわち、材料から放出または抽出され)、この量の12~15%が10分以内に放出され、残りはほぼ一定の速度でゆっくりと流出することが示唆される。従って、このデータは、時間の経過とともにAMC-109の放徐性放出が存在することを示している。
【国際調査報告】