(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-25
(54)【発明の名称】突然変異アネキシンA5ポリペプチドおよび治療目的のその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240618BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240618BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240618BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240618BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240618BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240618BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240618BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240618BHJP
A61P 7/02 20060101ALI20240618BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/47
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/17
A61P7/00
A61P7/06
A61P7/02
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577296
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022066102
(87)【国際公開番号】W WO2022263407
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
(71)【出願人】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100179648
【氏名又は名称】田中 咲江
(74)【代理人】
【識別番号】100222885
【氏名又は名称】早川 康
(74)【代理人】
【識別番号】100140338
【氏名又は名称】竹内 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100227695
【氏名又は名称】有川 智章
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100219313
【氏名又は名称】米口 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100161610
【氏名又は名称】藤野 香子
(72)【発明者】
【氏名】ブラン-ブリュード,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ルメニナ,ルブカ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA18
4C084NA14
4C084ZA51
4C084ZA54
4C084ZA55
4H045AA10
4H045BA09
4H045CA40
4H045EA24
4H045FA74
(57)【要約】
本発明者らは、ヘムとの結合は劇的に低下するが、ホスファチジルセリンを有する膜との結合はヘムの存在下または血管内溶血時において同じレベルに留まる、新しい突然変異アネキシンA5ポリペプチドを作製した。したがって、突然変異ポリペプチドは、特に血栓性、血管閉塞性、および溶血性の状態が共存する病態において、PSまたはPSを有する膜によって増強される反応を利用するため、治療目的に特に適し得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
227番目、228番目、または257番目において少なくとも1つのアミノ酸が突然変異している配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項2】
227番目、228番目、または257番目のアミノ酸が置換されている、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項3】
227番目のアミノ酸(R)は、アミノ酸(A)によって置換されている、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項4】
228番目のアミノ酸(E)は、アミノ酸(A)によって置換されている、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項5】
257番目のアミノ酸(Y)は、アミノ酸(A)によって置換されている、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項6】
R227A、E228A、およびY257Aからなる群より選択される少なくとも1つの突然変異を含む配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項7】
配列番号2、3、または4に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項8】
配列番号3に示すアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチド。
【請求項9】
請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項11】
請求項9に記載のポリヌクレオチドまたは請求項10に記載のベクターによって形質転換された宿主細胞。
【請求項12】
治療を必要とする対象における治療の方法であって、治療有効量の請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを投与することを含む方法。
【請求項13】
前記対象は、血管内溶血または溶血性貧血が生じる疾患または状態に罹患している、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
血栓症の予防またはリスク低減のための請求項12に記載の方法。
【請求項15】
鎌状赤血球症に罹患した患者における血管閉塞を処置するための請求項12に記載の方法。
【請求項16】
SARS-CoV-2感染症などのウイルス感染症に罹患した患者における静脈血栓塞栓症および動脈血栓症を処置するための請求項12に記載の方法。
【請求項17】
所定量の請求項1に記載の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、特に血液学の分野のものである。
【背景技術】
【0002】
アネキシンA5は、進化において高度に保存されているタンパク質群であるアネキシンファミリーに属する。これらは、構造的に相同であり、Ca2+によって調節される膜結合性成分であると考えられている。アネキシンA5は、細胞膜外葉に露出されるホスファチジルセリン(PS)に高い親和性を有する。それ以外では、アネキシンA5は、血小板、エクソソーム、またはさらにナノ構造リポソームなどのほぼすべての小さな形態の膜小胞における任意のPS含有リン脂質に結合することができる。アネキシンA5は、直接的な治療効果を提供するという点で医薬において広範囲に利用されることが知られている。例として、特許文献1に記載されているように、鎌状赤血球症に罹患した患者における血管閉塞性クリーゼを予防するため、特許文献2に記載されているように、アテローム血栓症および/またはプラーク破裂の予防のため、特許文献3に記載されているように、血管機能障害の処置、虚血性疼痛の軽減、および/または血管疾患破裂の処置のため、特許文献4に記載されているように、再狭窄の予防または処置のため、特許文献5に記載されているように、酸化カルジオリピン(oxCL)の活性の阻害に使用するため、および、心血管疾患、自己免疫疾患、または炎症状態の処置、予防および/または発症リスクの低減のため、ならびに、特許文献6に記載されているように、血管手術、特に末梢血管手術後における合併症など、外科的処置後における手術前後または手術後の合併症の予防および/または軽減のための、アネキシンA5の使用を含む。このように、アネキシンA5は、治療において非常に興味深く可能性のあるタンパク質に相当する。近年、ヘムが溶血時にアネキシンA5に結合し、細胞膜のホスファチジルセリンとのその相互作用を抑止することが示された。したがって、これらの結果は、溶血状態ではアネキシンA5の治療効果が低下し得ることを示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/120130号
【特許文献2】国際公開第2005/099744号
【特許文献3】国際公開第2009/077764号
【特許文献4】国際公開第2009/103977号
【特許文献5】国際公開第2010/069605号
【特許文献6】国際公開第2012/136819号
【発明の概要】
【0004】
本発明は特許請求の範囲によって規定される。特に、本発明は、突然変異アネキシンA5ポリペプチドおよび治療目的のその使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、アネキシン-A5およびアネキシン-A5突然変異体のポリペプチド配列を示す。
【
図2】
図2は、活動性血管内溶血を有する鎌状赤血球症患者を示す。活動性血管内溶血がある鎌状赤血球症患者(ホモ接合体HbS、ヒドロキシ尿素(HU)処置が進行中でない)を、そのPFPの415nmにおけるヘム関連吸光度を測定することによって同定した。Abs415が健康なコントロールのレベルに比べて少なくとも2倍の増加を示すPFP試料を選択した。これは、公表している生物学的集団の200人以上の一群の患者において採取した血漿の約20%を占めた。Abs415が上昇したPFPは「活動性血管内溶血」(SCD hemol.)と分類され、アネキシン-A5ポリペプチドによる阻害研究の優先順位を保持した。
【
図3】
図3は、健康なボランティアおよび鎌状赤血球症患者の血漿におけるトロンビン生成時間を示す。トロンビン生成動態曲線を、健康なボランティア(EFSの血液ドナー、左のパネル)、または活動性血管内溶血を示す(415nmにおいてヘム関連吸光度の上昇)鎌状赤血球症患者(ホモ接合体HbS、ヒドロキシ尿素で処置していない、右のパネル)からの再石灰化PFPにおいて作成した。トロンビン生成動態曲線を、30nMの野生型組換えアネキシン-A5ポリペプチド(rhA5-WT)、または3つの組換えアネキシン-A5突然変異体ポリペプチド(rhA5-E、rhA5-R、およびrh-A5-Y)の非存在下(ビヒクル、PBS)、または存在下において作成した。
【
図4】
図4は、ヒドロキシ尿素(HU)処置が進行中の鎌状赤血球症患者の血漿におけるトロンビン生成時間を示す。現在、多くの欧米諸国において鎌状赤血球症患者のかなりの割合を占める、ヒドロキシ尿素(HU)治療が進行中の鎌状赤血球症患者(ホモ接合体HbS)からの再石灰化PFPにおいて、トロンビン生成動態曲線を作成した。トロンビン生成動態曲線を、30nMの野生型組換えアネキシン-A5ポリペプチド(rhA5-WT)、または3つの組換えアネキシン-A5突然変異体ポリペプチド(rhA5-E、rhA5-R、およびrh-A5-Y)の非存在下(ビヒクル、PBS)、または存在下において作成した。
【
図5】
図5は、入院中のCOVID-19患者の血漿におけるトロンビン生成時間を示す。トロンビン生成動態曲線を、入院中のCOVID-19患者からの再石灰化PFPにおいて作成した。重篤なCOVID-19患者は、呼吸困難による入院後、入院後2~3日目で、低分子量ヘパリンによる予防的抗凝固処置(1例を除きすべて予防的高用量)に加え、酸素療法(機械的換気なし)を受けた後に、組み入れられた。トロンビン生成動態曲線を、30nMの野生型組換えアネキシン-A5ポリペプチド(rhA5-WT)、または3つの組換えアネキシン-A5突然変異体ポリペプチド(rhA5-E、rhA5-R、およびrh-A5-Y)の非存在下(ビヒクル、PBS)、または存在下において作成した。
【
図6】
図6は、鎌状赤血球症を有するトランスジェニックマウスにおける血管閉塞性事象を示す。HbSADトランスジェニックマウスを低酸素/再酸素負荷すると、重度の血管閉塞発エピソード(H/Rベースライン)が生じ、肺動脈におけるエコードップラーによって観察された心拍出量は、正常酸素値(酸素正常状態)と比較して低下した(上部パネル)。一方で、心拍数は影響を受けなかった(下部パネル)。この特徴の組合せにより、肺の血管抵抗(vasuloresistance)が劇的に増加し、血管閉塞を肺毛細血管床にわたって散在させた。血管閉塞エピソードが検証された後、組換えアネキシン-A5突然変異体ポリペプチド(rhA5-E、rhA5-R、2.5μg/mouse)を静脈内注射すると、ビヒクルのみ(PBS)と比較して、肺の血流再開が有意に促進されることがわかった(注射後の15分および20分においてp<0.05、n=4~6)。ほぼ正常な心拍出量が、アネキシン-A5突然変異体の注射後の15分内で戻ったが、自発的肺血流再開(ビヒクル、PBS)はH/R後の約4~8時間でしか起こらなかった。このことから、組換え突然変異体アネキシン-A5ポリペプチドは血管閉塞を解放するように作用し、毛細血管床を通るストレスをかけた赤血球循環を促し、予め作製した血管閉塞に対する「治癒的」治療用途において組織血流を改善できることが示唆された。
【発明を実施するための形態】
【0006】
(主な定義)
本明細書において使用するように、「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すように、本明細書において互換的に使用される。また、該用語は、例えばジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、リン酸化、または標識成分とのコンジュゲーションなど、修飾されたアミノ酸ポリマーを包含する。ポリペプチドは、遺伝子治療の文脈で記載するとき、それぞれのインタクトなポリペプチド、または、インタクトなタンパク質の望ましい生化学的機能を保持する任意のフラグメントもしくは遺伝子学的に操作したその誘導体を指す。
【0007】
本明細書において使用するように、「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドを含む任意の長さのヌクレオチドの重合形態、またはその類似体を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドなどの修飾したヌクレオチド、およびヌクレオチド類似体を含み得、非ヌクレオチド成分によって割り込まれ得る。ヌクレオチド構造の修飾は、存在する場合、ポリマーの形成前または後になされ得る。ポリヌクレオチドという用語は、本明細書において使用するように、二本鎖および一本鎖分子を互換的に指す。特定または要求されない限り、ポリヌクレオチドである、本明細書に記載する本発明のいずれの実施形態も、二本鎖形態、および二本鎖形態を構成することが知られているまたは予測される2つの相補的な一本鎖形態のそれぞれの両方を包含する。
【0008】
本明細書において使用するように、「由来する」という表現は、第1の成分(例えば第1のポリペプチド)または第1の成分の情報が別の第2の成分(例えば第1のポリペプチドとは異なる第2のポリペプチド)を単離する、導き出す、または作製するために使用されるプロセスを指す。
【0009】
本明細書において使用するように、「アネキシンA5」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、アネキシンファミリーに属するとともに、カルシウム依存的に外在化ホスファチジルセリンに結合するポリペプチドを指す。また、この用語は、アンコリンCII、アネキシンV、アネキシン-5nカルフォバインディンI(CBP-I)、エンドネキシンII、リポコルチンV、胎盤抗凝固タンパク質4(PP4)、胎盤抗凝固タンパク質I(PAP-I)、トロンボプラスチン阻害剤、および血管抗凝固因子α(VAC-α)としても知られている。アネキシンA5の例のアミノ酸配列を配列番号1として示す。
配列番号1>NP_001145.1 Annexin A5 [Homo sapiens]
MAQVLRGTVTDFPGFDERADAETLRKAMKGLGTDEESILTLLTSRSNAQRQEISAAFKTLFGRDLLDDLK
SELTGKFEKLIVALMKPSRLYDAYELKHALKGAGTNEKVLTEIIASRTPEELRAIKQVYEEEYGSSLEDD
VVGDTSGYYQRMLVVLLQANRDPDAGIDEAQVEQDAQALFQAGELKWGTDEEKFITIFGTRSVSHLRKVF
DKYMTISGFQIEETIDRETSGNLEQLLLAVVKSIRSIPAYLAETLYYAMKGAGTDDHTLIRVMVSRSEID
LFNIRKEFRKNFATSLYSMIKGDTSGDYKKALLLLCGEDD
【0010】
本明細書において使用するように、2配列間の「同一性パーセント」は、2配列の最適アラインメントのために導入される必要があるギャップの数および各ギャップの長さを考慮したうえでの、配列が共有する同一位置の数の関数(すなわち、同一性%=同一位置数/総位置数×100)である。2配列間における配列比較および同一性パーセントの決定は、以下に記載するように、数学的アルゴリズムを使用してなすことができる。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、ニードルマン・ウンシュアルゴリズム(Needleman,Saul B.&Wunsch,Christian D.(1970)“A general method applicable to the search for similarities in the amino acid sequence of two proteins” Journal of Molecular Biology.48(3):443-53)を使用して決定することができる。また、2つのヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性パーセントは、例えば、EMBOSS Needle(ペアワイズアラインメント、www.ebi.ac.ukにおいて利用可能)などのアルゴリズムを使用して決定することができる。例えば、EMBOSS Needleは、BLOSUM62マトリックス、「ギャップオープンペナルティ」が10、「ギャップ伸長ペナルティ」が0.5、偽の「エンドギャップペナルティ」、「エンドキャップオープンペナルティ」が10、および「エンドギャップ伸長ペナルティ」が0.5を用いて使用することができる。一般に、「同一性パーセント」は、一致する位置の数を、比較した位置の数で除算し、100を乗算した関数である。例えば、アラインメント後に10個のうちの6個の配列位置が2つの比較した配列間で同一である場合、同一性は60%である。同一性%は、典型的には、分析を行うクエリ配列に全長にわたって決定される。同じ一次アミノ酸配列または核酸配列を有する2つの分子は、任意の化学的および/または生物学的修飾にかかわらず同一である。本発明において、第1のアミノ酸配列が第2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するということは、第1の配列が、第2のアミノ酸配列と90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%の同一性を有するということを意味する。
【0011】
本明細書において使用するように、「突然変異」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、置換、欠失、または挿入を指す。特に、「置換」という用語は、特定の位置の特定のアミノ酸残基が取り除かれ、別のアミノ酸残基が同じ位置に挿入されることを意味する。明細書内において、突然変異は標準突然変異命名法に従った参照用である。
【0012】
本明細書において使用するように、「ホスファチジルセリン」または「PS」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、細胞膜の成分であるリン脂質を指す。より具体的には、PSは、グリセロールの第1および第2の炭素にエステル結合で結合した2つの脂肪酸と、グリセロールの第3の炭素にホスホジエステル結合で結合したセリンとからなる、リン脂質、より細具体的にはグリセロリン脂質である。
【0013】
本明細書において使用するように、「ヘム」という用語は、ポルフィリン(またはその誘導体)と主に2価または3価の鉄との配位化合物を指し、鉄ポルフィリンやヘマチンとも呼ばれる。本発明において、使用されるヘムは特に制限されず、天然ヘム、例えば、ヘムa、ヘムb(プロトヘムIX)、ヘムc、変異体ヘムc、ヘムd、ヘムd1、シロヘム(Sirohaem)、およびヘムoを使用することができる(A.Messerschmidt,R.Huber,T.Poulos,and K. Wieghardt(Eds),Handbook of Metalloproteins Vol.1,John Wiley & Sons,New York,2001等を参照)。
【0014】
本明細書において使用するように、「親和性」という用語は、本明細書において使用するように、ポリペプチド(例えば、アネキシンA5ポリペプチド)が特定のリガンドに結合する強さを意味する。ポリペプチドの親和性は解離定数Kdによって与えられる。親和性定数Kaは1/Kdによって定義される。ポリペプチドのKDを測定する方法は当該技術分野において周知であり、BIAcore3000機器における表面プラズモン共鳴法(SPR)技術を限定することなく含む。BIACORE(登録商標)(GE Healthcare,Piscaataway,NJ)は、親和性の決定に慣用されている多様な表面プラズモン共鳴法アッセイフォーマットの1つである。抗体の親和性は、他の従来技術、例えばScatchard等(Ann.N.Y.Acad.Sci.USA,51:660(1949))によって記載されるものなどを使用して容易に決定することができる。
【0015】
本明細書において使用するように、「溶血」という用語は、ヘモグロビン(遊離ヘモグロビンとして)およびヘムの放出を伴う赤血球の破壊または溶解を指す。
【0016】
本明細書において使用するように、「溶血性貧血」という用語は、本明細書において使用するように、赤血球の破壊に起因して、1mmあたりの赤血球(erythrocytes)(赤血球(red blood cells))の数または100mlの血液中のヘモグロビンの量が正常より少ない任意の状態を指す。
【0017】
本明細書において使用するように、「処置」または「処置する」という用語は、疾患にかかるリスクを有するまたは疾患にかかったと疑われる患者、および病気であるまたは疾患もしくは医学的状態に罹患していると診断された患者の処置を含む、予防または抑止処置、および根治または疾患修飾処置の両方を指し、臨床における再発の抑制を含む。処置は、障害もしくは再発の障害を予防、治癒、その発症を遅延する、その重篤度を軽くする、もしくはその1つ以上の症状を改善するため、またはそうした処置が存在しない場合に予想される生存期間を超えて患者の生存期間を延長するため、医学的障害を有するまたは最終的にそうした障害に罹患し得る患者に行うことができる。「治療レジメン」は、病気の処置のパターン、例えば治療時に使用する投薬のパターンを意味する。治療レジメンは、誘導レジメンおよび維持レジメンを含むことができる。「誘導レジメン」または「誘導期間」という表現は、疾患の初期の処置に使用する治療レジメン(または治療レジメンの一部)を指す。誘導レジメンの全体的な目的は、処置レジメンの初期期間に高レベルの薬剤を患者に提供することである。誘導レジメンは、「負荷レジメン」を(部分的または全体的に)使用することができ、これは、医師が維持レジメン時に使用し得るものより多い用量の薬剤を投与すること、医師が維持レジメン時に薬剤を投与し得るより頻回で薬剤を投与すること、またはその両方を含むことができる。「維持レジメン」または「維持期間」という表現は、例えば患者を長期間(数か月または数年)寛解の状態に維持するため、病気の処置時に患者のメンテナンスに使用される治療レジメン(または治療レジメンの一部)を指す。維持レジメンは、持続的治療(例えば、薬剤を一定の間隔で、例えば毎週、毎月、毎年等投与すること)、または断続的治療(例えば、中断を含む処置、断続的処置、再発における処置、もしくは所定の特定の条件[例えば痛み、疾患の徴候等]を満たした上での処置)を用いることができる。
【0018】
本明細書において使用するように、「治療有効量」という表現は、医学的処置に適用される妥当なベネフィット/リスク比において免疫応答を誘導するために十分な量の本発明の有効成分を意味する。
【0019】
本明細書において使用するように、「医薬組成物」という用語は、担体および/または賦形剤などの他の剤を伴う、本明細書に記載する組成物、またはその薬学的に許容される塩を指す。本明細書において提供されるような医薬組成物は、典型的に、薬学的に許容される担体を含む。
【0020】
本明細書において使用するように、「薬学的に許容される担体」という用語は、所望の特定の剤形に適するような、任意およびすべての溶媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散または懸濁補助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、保存剤、固体結合剤、および潤滑剤等を含む。レミントン薬科学(Remington’s Pharmaceutical-Sciences)、第16版、E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1980)は、医薬組成物の製剤化に使用される様々な担体、およびその調製のための既知の技術を公開している。
【0021】
本明細書において使用するように、「アミノ酸配列を含むポリペプチド」または「アミノ酸配列を含んでいるポリペプチド」という用語は、該アミノ酸配列を含むポリペプチドまたは該アミノ酸配列からなるポリペプチドの両方を指す。
【0022】
本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチド
本発明の第1の目的は、227番目、228番目、または257番目において少なくとも1つのアミノ酸が突然変異している配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、突然変異アネキシンA5ポリペプチドに関する。
【0023】
一部の実施形態において、配列番号1の227番目、228番目、または257番目のアミノ酸が置換されている。
【0024】
一部の実施形態において、配列番号1の227番目、228番目、および257番目のアミノ酸が置換されている。
【0025】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、72番目のアミノ酸(E)がアミノ酸(D)によって置換されており、144番目のアミノ酸(D)がアミノ酸(N)によって置換されており、228番目のアミノ酸(E)がアミノ酸(A)によって置換されており、303番目のアミノ酸(D)がアミノ酸(N)によって置換されている配列番号1に示すアミノ酸配列を含まない(Kenis et al.J Nucl Med 2010およびKenis et al.JBC Papers 2004に開示されているAA5突然変異体M1234)。
【0026】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、144番目のアミノ酸(D)がアミノ酸(N)によって置換されており、228番目のアミノ酸(E)がアミノ酸(A)によって置換されている配列番号1に示すアミノ酸配列を含まない(Kenis et al.J Nucl Med 2010およびKenis et al.JBC Papers 2004に開示されているAA5突然変異体M23)。
【0027】
一部の実施形態において、配列番号1の227番目のアミノ酸(R)は、アミノ酸(A)によって置換されている(rhA5-’R’)。
【0028】
一部の実施形態において、配列番号1の228番目のアミノ酸(E)は、アミノ酸(A)によって置換されている(rhA5-’E’)。
【0029】
一部の実施形態において、配列番号1の257番目のアミノ酸(Y)は、アミノ酸(A)によって置換されている(rhA5-’Y’)。
【0030】
したがって、一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、R227A、E228A、およびY257Aからなる群より選択される少なくとも1つの突然変異を含む配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0031】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、配列番号2、3、または4に示すアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
配列番号2> NP_001145.1.2 Mutant2 R227A annexin A5 [Homo sapiens]
MAQVLRGTVTDFPGFDERADAETLRKAMKGLGTDEESILTLLTSRSNAQRQEISAAFKTLFGRDLLDDLK
SELTGKFEKLIVALMKPSRLYDAYELKHALKGAGTNEKVLTEIIASRTPEELRAIKQVYEEEYGSSLEDD
VVGDTSGYYQRMLVVLLQANRDPDAGIDEAQVEQDAQALFQAGELKWGTDEEKFITIFGTRSVSHLRKVF
DKYMTISGFQIEETIDAETSGNLEQLLLAVVKSIRSIPAYLAETLYYAMKGAGTDDHTLIRVMVSRSEID
LFNIRKEFRKNFATSLYSMIKGDTSGDYKKALLLLCGEDD
配列番号3>NP_001145.1.3 Mutant3 E228A annexin A5 [Homo sapiens]
MAQVLRGTVTDFPGFDERADAETLRKAMKGLGTDEESILTLLTSRSNAQRQEISAAFKTLFGRDLLDDLK
SELTGKFEKLIVALMKPSRLYDAYELKHALKGAGTNEKVLTEIIASRTPEELRAIKQVYEEEYGSSLEDD
VVGDTSGYYQRMLVVLLQANRDPDAGIDEAQVEQDAQALFQAGELKWGTDEEKFITIFGTRSVSHLRKVF
DKYMTISGFQIEETIDRATSGNLEQLLLAVVKSIRSIPAYLAETLYYAMKGAGTDDHTLIRVMVSRSEID
LFNIRKEFRKNFATSLYSMIKGDTSGDYKKALLLLCGEDD
配列番号4>NP_001145.1.5 Mutant5 Y257A annexin A5 [Homo sapiens]
MAQVLRGTVTDFPGFDERADAETLRKAMKGLGTDEESILTLLTSRSNAQRQEISAAFKTLFGRDLLDDLK
SELTGKFEKLIVALMKPSRLYDAYELKHALKGAGTNEKVLTEIIASRTPEELRAIKQVYEEEYGSSLEDD
VVGDTSGYYQRMLVVLLQANRDPDAGIDEAQVEQDAQALFQAGELKWGTDEEKFITIFGTRSVSHLRKVF
DKYMTISGFQIEETIDRETSGNLEQLLLAVVKSIRSIPAYLAETLYAAMKGAGTDDHTLIRVMVSRSEID
LFNIRKEFRKNFATSLYSMIKGDTSGDYKKALLLLCGEDD
【0032】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、配列番号2、3、または4に示すアミノ酸配列を含む。
【0033】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、配列番号3に示すアミノ酸配列を含む。
【0034】
本発明において、突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、ホスファチジルセリンに対して、非突然変異アネキシンA5ポリペプチドと同じ親和性を維持する一方で、ヘムに対する親和性が低下している。典型的に、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、非突然変異アネキシンA5ポリペプチドよりも、ヘムに対する高いKd値を有する。典型的に、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドのKd値は、非突然変異アネキシンA5ポリペプチドのKd値よりも、2、2.5、3、3.5、4、4.5倍高い。一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドのPSに対するKd値は、ヘムの存在下で非突然変異アネキシンA5ポリペプチドのKd値よりも、2、2.5、3、3.5、4、4.5倍低い。
【0035】
本発明において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、従来の自動ペプチド合成法または組換え発現によって作製される。タンパク質の設計および作製についての一般的な原理は、当業者に周知である。本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、従来の技術に従って溶液中または固体支持体上で合成することができる。様々な自動合成装置が市販で入手可能であり、StewartおよびYoung、Tam等、1983、Merrifield、1986、ならびにBaranyおよびMerrifield、GrossおよびMeienhofer、1979に記載されるような既知のプロトコールに従って使用することができる。また、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、は、Applied Biosystems社のモデル433Aなどの例のペプチド合成装置を使用して固相技術によって合成することができる。自動ペプチド合成または組換え法によって作製された任意の所定のタンパク質の純度は、逆相HPLC分析を使用して測定することができる。各ペプチドの化学的品質は、当業者に周知の任意の方法で得ることができる。自動ペプチド合成の代わりとして、組換えDNA技術を使用することができ、該組換えDNA技術では、本明細書において以下に記載するように、選択したタンパク質をコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞に形質転換または遺伝子導入して、発現に適切な条件下で培養する。組換え法は、より長いポリペプチドの作製に特に好ましい。ペプチドまたはタンパク質コード配列を含有および発現させるため、多様な発現ベクター/宿主系を使用することができる。これらは、例えば組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌、酵母発現ベクターで形質転換した酵母(Giga-Hama et al.,1999)などの微生物、ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス、Ghosh et al.,2002参照)を感染させた昆虫細胞系、ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、タバコモザイクウイルス(TMV))を遺伝子導入した、もしくは細菌発現ベクター(例えばTiもしくはpBR322プラスミド、例えばBabe et al.,2000参照)で形質転換した植物細胞系、または動物細胞系を含むが、これらに限定されない。当業者は、哺乳動物におけるタンパク質の発現を最適化する様々な技術を認め、例えば、Kaufman、2000、Colosimo等、2000が参照される。組換えタンパク質作製において有用な哺乳動物細胞は、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、COS細胞(COS-7など)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562、および293細胞を含むが、これらに限定されない。細菌、酵母、および他の無脊椎動物におけるペプチド基質または融合ポリペプチドの組換え発現のための例のプロトコールは、当業者に知られており、本明細書において以下に簡単に記載する。また、組換えタンパク質の発現のための哺乳動物宿主系は、当業者に周知である。宿主細胞株は、発現タンパク質をプロセシングする、またはタンパク質活性を得るために有用であり得る所定の翻訳後修飾を生じさせるという特定の能力から選択することができる。そうしたポリペプチドの修飾は、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化を含むが、これらに限定されない。また、タンパク質の「プリプロ」形態を切断する翻訳後プロセシングも、適切な挿入、フォールディング、および/または機能に重要であり得る。CHO、HeLa、MDCK、293、およびWI38等の様々な宿主細胞は、そうした翻訳後活性のための特定の細胞機構および特有の機序を有しており、導入した外来性タンパク質の適切な修飾およびプロセシングを確保するように選択することができる。
【0036】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは成長因子と融合されていない。
【0037】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、インスリン様成長因子1(IGF-1)またはニューレグリン1(NRG)と融合されていない。
【0038】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、インスリン様成長因子1(IGF-1)と融合されていない。
【0039】
一部の実施形態において、本発明のポリペプチドは、インスリン様成長因子1(IGF-1)と融合されておらず、IGF-1は、米国特許出願公開第2020/0207826号明細書に記載される配列番号18、19、23、24、28、29、または120として示されるアミノ酸配列を含む。
【0040】
一部の実施形態において、本発明の治療方法に使用する本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、その治療有効性を高めるために修飾され得るということが考えられる。治療用化合物のそうした修飾は、毒性を低下させる、循環時間を増加させる、または体内分布を改変するように使用することができる。例えば、重要である可能性がある治療用化合物の毒性を、体内分布を改変する多様な薬剤担体ビヒクルとの組合せによって有意に低下させることができる。薬剤の有効性を高める方策には、水溶性ポリマーの使用がある。様々な水溶性ポリマーは、体内分布を改変し、細胞取り込み様式を改善し、生理学的バリアにおける透過性を変化させ、身体からのクリアランスの速度を改変することが示されている。標的化効果または徐放効果のいずれかを得るため、末端基として、骨格の一部として、またはポリマー鎖上のペンダント基として薬剤部分を含む水溶性ポリマーが合成されている。ポリエチレングリコール(PEG)は、その高度な生体適合性や改変のしやすさから、薬剤担体として広く使用されている。様々な薬剤、タンパク質、およびリポソームに結合することにより、滞留時間を改善し、毒性を低下させることが示されている。PEGは、鎖の末端にあるヒドロキシル基を介して、および他の化学的方法を介して、活性剤に結合することができる。ただし、PEG自体は1分子あたり最大2つの活性剤に制限されている。別のアプローチでは、PEGの生体適合特性を保持し得るが、分子あたりの多数の結合点(より多くの薬剤を添加する)という利点が加えられ得、様々な用途に適応するように合成において設計され得る新しい生体材料として、PEGとアミノ酸との共重合体が検討された。
【0041】
本発明のさらなる目的は、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。
【0042】
一部の実施形態において、本発明のポリヌクレオチドは、プラスミド、コスミド、エピソーム、人工染色体、ファージ、またはウイルスベクターなどの任意の適切なベクターに含まれる。したがって、本発明のさらなる目的は、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドをコードする核酸を含むベクターに関する。典型的に、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ワクシニアウイルス、ポリオーマウイルス、または感染性ウイルスである、ウイルスベクターである。一部の実施形態において、ベクターはAAVベクターである。本明細書において使用するように、「AAVベクター」という用語は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、およびそれらの突然変異形態を限定することなく含むアデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターを意味する。AAVベクターは、AAV野生型遺伝子、好ましくはrep遺伝子および/またはcap遺伝子の1つ以上を全体的または部分的に欠失させることができるが、隣接する機能性ITR配列を保持し得る。レトロウイルスは、その遺伝子を宿主ゲノムに組み込むことができ、大量の外来遺伝物質を導入し、広範囲の種や細胞型に感染し、特別な細胞株にパッケージングされることから、遺伝子送達ベクターとして選ばれ得る。レトロウイルスベクターを構築するために、目的の遺伝子をコードする核酸を、特定のウイルス配列においてウイルスゲノム内に挿入することにより、複製欠損であるウイルスが作製される。ビリオンを作製するために、gag、pol、および/またはenv遺伝子を含むがLTRおよび/またはパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する。レトロウイルスのLTR配列およびパッケージング配列とともにcDNAを含む組換えプラスミドをこの細胞株に導入すると(例えば、リン酸カルシウム沈殿によって)、そのパッケージング配列は、その組換えプラスミドのRNA転写物をウイルス粒子内にパッケージングさせ、次いでそれを培地中に分泌させる。その後、組換えレトロウイルスを含む培地を採取し、任意で濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、広く多様な細胞型に感染することができる。レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、pol、およびenvに加えて、調節的または構造的な機能を有する他の遺伝子を含む複合レトロウイルスである。潜伏感染の経過において見られるように、より高い複雑性により、ウイルスがその生活環を改変することができる。レンチウイルスの一部の例は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV1、HIV2)、およびサル免疫不全ウイルス(SIV)を含む。レンチウイルスベクターは、HIV病原性遺伝子を多重減衰させることによって作製されており、例えばenv、vif、vpr、vpu、およびnef遺伝子を欠失させ、ベクターを生物学的に安全にしている。レンチウイルスベクターは当該技術分野で知られており、米国特許第6,013,516号明細書および第5,994,136号明細書が参照され、それら両方が参照することによって本明細書に援用される。一般的に、ベクターは、プラスミドに基づくまたはウイルスに基づくものであり、かつ外来核酸を組み込むため、選択のため、および宿主細胞内への核酸の移入のための必須の配列を有するように構成される。目的のベクターのgag、pol、およびenv遺伝子も、当技術分野において知られている。したがって、選択されたベクター内に関連遺伝子をクローニングし、次いでそれを用いて、目的の標的細胞を形質転換する。適切な宿主細胞に、パッケージング機能を有する2つ以上のベクター、すなわちgag、pol、およびenv、ならびにrevおよびtatを遺伝子導入する、非分裂細胞に感染することができる組換えレンチウイルスが、米国特許第5,994,136号明細書に記載されており、これは参照することによって本明細書に援用される。これは、パッケージング細胞を作製するための、ウイルスのgagおよびpol遺伝子をコードする核酸を提供し得る第1のベクターと、ウイルスのenvをコードする核酸を提供し得る別のベクターを記載している。異種遺伝子を提供するベクターをそのパッケージング細胞内に導入することによって、目的の外来遺伝子を有する感染性ウイルス粒子を放出する産生細胞をもたらす。envは、好ましくは、ヒトおよび他の種の細胞の形質導入を可能にする両種指向性のエンベロープタンパク質である。典型的に、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは「制御配列」を含み、これらは、まとめて、プロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、転写終結配列、上流調節ドメイン、複製起点、配列内リボソーム進入部位(「IRES」)、エンハンサー等を指し、まとめて、レシピエント細胞におけるコード配列の複製、転写、および翻訳を提供する。選択されたコード配列を適切な宿主細胞において複製、転写、および翻訳することができる限り、これらの制御配列のすべてが常に存在する必要はない。他の核酸配列は「プロモーター」配列であり、これは、本明細書において、DNA調節配列を含むヌクレオチド領域を指すように、その通常の意味で使用されており、調節配列は、RNAポリメラーゼに結合するとともに、下流(3’方向)のコード配列の転写を開始することが可能な遺伝子に由来している。転写プロモーターは、「誘導性プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されるポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補助因子、調節タンパク質等によって誘発される)、「抑制プロモーター」(プロモーターに作動可能に連結されるポリヌクレオチド配列の発現は、分析物、補助因子、調節タンパク質等によって誘発される)、および「恒常的プロモーター」を含むことができる。
【0043】
本発明のさらなる目的は、本発明のポリヌクレオチドで形質転換した宿主細胞に関する。「形質転換」という用語は、「外来性」(すなわち、外因性または細胞外)遺伝子、DNA、またはRNA配列を宿主細胞に導入することによって、宿主細胞が、導入した遺伝子または配列を発現して、所望の物質、典型的には、導入した遺伝子または配列にコードされるタンパク質または酵素を生成することを意味する。導入したDNAまたはRNAを受け入れて発現する宿主細胞は「形質転換」されている。特定の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを発現および作製するために、原核生物細胞、特にE.coli細胞が選択され得る。実際に、本発明において、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)を行う真核生物の場合において本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを作製することは必須ではない。さらに、原核生物細胞には、大量にタンパク質を作製するという利点がある。真核生物の場合を必要とするとき、酵母(saccharomyces株)は、大量のタンパク質を作製できることから、特に適切であり得る。あるいは、典型的な真核生物細胞株、例えばCHO、BHK-21、COS-7、C127、PER.C6、YB2/0、またはHEK293は、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを適切に翻訳後修飾するようにプロセシングできることから、使用することができ得る。本発明における発現ベクターの構築、および宿主細胞の形質転換は、従来の分子生物学の技術を使用して行うことができる。本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、例えば、本発明における遺伝子形質転換した細胞を培養し、該細胞によって発現された突然変異アネキシンA5ポリペプチドを培養物から回収することによって得ることができる。その後、必要に応じて、これら自体が当業者に知られている従来の手順によって、例えば、分画沈殿法、特に硫酸アンモニウム沈殿法、電気泳動法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー等によって、これを精製することができる。特に、組換えタンパク質を調製および精製するための従来の方法は、本発明におけるタンパク質を作製するために使用することができる。
【0044】
本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドおよびそれをコードするポリヌクレオチドは、典型的に薬剤として使用される。特に、本発明のポリヌクレオチド(ベクターに挿入されていてもされていなくても)は、特に遺伝子治療に適している。
【0045】
したがって、本発明のさらなる目的は、治療を必要とする対象における治療の方法に関し、該方法は、治療有効量の本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドを投与することを含む。
【0046】
特に、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、血管内溶血または溶血性貧血が生じる任意の疾患または状態の処置に特に適している。
【0047】
本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、
(a)血栓症(アテローム血栓症など)および/もしくはプラーク破裂の予防もしくはリスク低減、または、全身性エリテマトーデス(SLE)患者および/もしくは抗リン脂質関連抗体のレベル増加を引き起こし得る上気道感染症もしくは他の感染症(肺炎球菌感染症を含む)を有するもしくは有していた(もしくはそのリスクを有する)患者を含むが、これらに限定されない、リスク群に属する患者への投与、または、血栓塞栓症、出血性卒中もしくは血管炎性卒中、心筋梗塞、狭心症もしくは間欠性跛行、不安定狭心症、他の重篤な狭心症の形態、もしくは一過性脳虚血発作(TIA)の処置(能動的もしくは予防的のいずれか)もしくはそのリスク低減、
(b)血管機能障害、狭心症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、収縮期高血圧症、片頭痛、2型糖尿病、および勃起不全の処置、予防、もしくはそのリスク低減、虚血性疼痛の軽減、および/または血管疾患破裂の処置、
(c)再狭窄(特に新生内膜形成もしくは肥厚)または血管炎症の予防または処置、
(d)酸化カルジオリピン(oxCL)の活性阻害における使用、および、心血管疾患、自己免疫疾患、または炎症状態(哺乳動物における心血管疾患(CVD)、糖尿病II型、アルツハイマー病、認知症一般、リウマチ性疾患、アテローム性動脈硬化、高血圧、急性および/もしくは慢性炎症状態、心筋梗塞、急性冠症候群、卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、跛行、狭心症、I型糖尿病、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、ライター症候群、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、シェーグレン症候群、エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、喘息、脳炎、炎症性腸疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、変形性関節症を含む関節炎、特発性炎症性筋疾患(IIM)、皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、封入体筋炎、アレルギー性疾患、および/または変形性関節症の疾患を含むが、これらに限定されない)の処置、予防、および/またはその発症リスク低減、ならびに、
(e)外科的処置後における手術前後または手術後の合併症、例えば、血管手術、特に末梢血管手術後における合併症などの予防および/または軽減に特に適している。
【0048】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、鎌状赤血球症を含むが、これに限定されない血液疾患の処置に使用される。本明細書において使用するように、「鎌状赤血球症」または「SCD」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、赤血球が異常な硬質の鎌状形状をとる遺伝性血液疾患を指す。赤血球の鎌状化によって、細胞の硬質性および浸透圧脆弱性が増大し、毛細血管にわたる赤血球の移動が困難になり、血管床を損傷し、炎症を誘発し、多細胞の血管閉塞に関与し、複数の組織および器官における局所虚血のエピソードをもたらす。これらの多細胞変形および組織変形は、合わせて、生命を脅かす様々な合併症のリスクを大きく増加させる。この用語は、鎌状赤血球貧血、ヘモグロビンSC疾患、およびヘモグロビン鎌状βサラセミアを含む。
【0049】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、血管閉塞の処置に特に適している。本明細書において使用するように、「血管閉塞」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有しており、毛細血管を閉塞し、器官への血流を制限して、血管機能障害、組織壊死、および多くの場合器官損傷を伴う虚血をもたらす、鎌状赤血球症における一般的な合併症を指す。血管閉塞は、通常、血管閉塞性クリーゼの構成要素であるが、より限定的で、臨床において無症状でもあり得、血管閉塞性クリーゼによる入院をもたらさないこともある。本明細書において使用するように、「血管閉塞性クリーゼ」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有しており、虚血、激痛、壊死、および多くの場合一過性血管閉塞、および器官損傷をもたらす毛細血管の閉塞および器官への血流制限に関連する入院につながる、鎌状赤血球症における一般的な有痛性の合併症を指す。特に、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、毛細血管の再灌流に特に適している。
【0050】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、急性および慢性血管炎症、自己免疫要素を伴う血管炎および/または薬剤誘発血管炎を含むがこれらに限定されない一次性または二次性血管炎の処置に特に適している。したがって、本発明はまた、ベーチェット病、皮膚血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)、巨細胞動脈炎、多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、免疫グロブリンA関連血管炎(IgAV)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、結節性多発動脈炎(PAN)、リウマチ性多発筋痛、および高安動脈炎を含む血管炎を処置、予防、またはそのリスクを低減する予防または治療方法を提供する。リウマチ性多発筋痛が特に目的となり得る。
【0051】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、虚血性網膜症の処置に特に適している。本明細書において使用するように、「虚血性網膜症」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有しており、網膜血管新生の結果として進行性の不可逆的失明が生じる疾患群を指す。虚血性網膜症の例は、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、血管新生緑内障、未熟児網膜症、鎌状赤血球網膜症、網膜静脈閉塞症、酸素誘導網膜症、および眼侵襲による血管新生、例えば外傷性もしくは外科的損傷、または眼組織の移植を含む。
【0052】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、ウイルス感染症の処置に特に適している。典型的に、感染症は、(a)出血熱(VHF)を引き起こすことができるウイルス、ならびに(b)ホスファチジルセリン(PS)を提示して、PS結合を介して細胞感染および/または内部移行を媒介するウイルスからなる群より選択されるウイルスによって引き起こされる。ウイルス性出血(hemorrhagic)(または出血性(haemorrhagic))熱(VHF)は、多様な群の動物およびヒトの病気であり、これは、少なくとも5つの別個のRNAウイルスファミリー、すなわちアレナウイルス科、フィロウイルス科、ブニヤウイルス科、フラビウイルス科、およびラブドウイルス科によって引き起こされ得る。すべての種類のVHFが発熱および出血障害によって特徴づけられ、そのすべてが多くの症例で高熱、ショック、および死へと進行し得る。VHFの徴候および症状は、その特徴として発熱および出血しやすさの高まり(出血傾向)を含む。また、VHFの症状は、多くの場合、顔面および胸部の潮紅、赤色または紫色の小斑点(点状出血)、可視の出血、浮腫による膨潤、低血圧(低血圧症)、およびショックを含む。倦怠感、筋痛(筋肉痛)、頭痛、嘔吐、および下痢も頻繁に起こる。症状の重症度はウイルスの種類によって変わり、「VHF症候群」(毛細血管漏出、出血傾向、およびショックをもたらす循環不全)は、フィロウイルス出血熱(例えば、エボラおよびマールブルグ)、CCHF、および南米出血熱を有する患者の大多数において現れる一方、デング熱、RVF、およびラッサ熱を有する患者の少数において現れる。一部の実施形態において、VHFはエボラであり得、対象は、エボラの1つ以上の症状、例えば、過剰もしくは大量の発汗や、発熱、筋肉痛、一般的な倦怠感、および/もしくは悪寒の発症などの初期の臨床症状、ならびに/または、任意で胃腸症状、斑状丘疹状皮疹、点状出血、結膜出血、鼻血、メレナ、吐血、ショック、および/もしくは脳症、白血球減少症(例えば、リンパ球細胞アポトーシスの増加に関連)、血小板減少症、アミノトランスフェラーゼ、トロンビン、および/もしくは部分トロンボプラスチン時間のレベル増加、血液において検出可能なフィブリン分裂物、および/もしくは播種性血管内凝固(DIC)を伴うインフルエンザ様症状から選択される症状を示し得る。
【0053】
一部の実施形態において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドは、ウイルス感染症に罹患した患者における静脈血栓塞栓症および動脈血栓症の処置に特に適している。一部の実施形態において、患者はインフルエンザ感染症に罹患している。本明細書において使用するように、「インフルエンザ感染症」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、インフルエンザウイルスの感染によって引き起こされる疾患を指す。本発明の一部の実施形態において、インフルエンザ感染症は、インフルエンザウイルスA型またはB型に関連する。本発明の一部の実施形態において、インフルエンザ感染症は、インフルエンザウイルスA型に関連する。本発明の一部の特定の実施形態において、インフルエンザ感染症は、H1N1、H2N2、H3N2、またはH5N1であるインフルエンザウイルスA型によって引き起こされる。一部の実施形態において、患者はコロナウイルス感染症に罹患している。本明細書において使用するように、「コロナウイルス」という用語は当該技術分野におけるその一般的な意味を有し、コロナウイルス科の任意のメンバーを指す。コロナウイルスは、特定のウイルスに応じて長さが約27kb~約33kbであるプラス鎖RNAのゲノムを有するウイルスである。ビリオンRNAは、5’末端においてキャップ、3’末端においてポリA鎖を有する。そのRNAの長さから、コロナウイルスは最大のRNAウイルスゲノムとなっている。特に、コロナウイルスのRNAは以下をコードしている。(1)RNA依存性RNAポリメラーゼ、(2)Nタンパク質、(3)3つの外被糖タンパク質、さらに(4)3つの非構造タンパク質。これらのコロナウイルスは多様な哺乳動物およびトリに感染する。これらは、呼吸器感染症(一般的)、腸管感染症(主に、12ヶ月未満の乳児)、および場合によっては神経症候群を引き起こす。コロナウイルスは呼吸器分泌物の飛沫によって伝染する。一部の実施形態において、患者はSARS-CoV-2感染症に罹患している。本明細書において使用するように、「重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2」または「SARS-CoV-2」という用語は、当該技術分野におけるその一般的な意味を有しており、軽度の上気道疾患(感冒様症状)に類似した臨床病態、ならびに場合によっては重篤な下気道疾患、および多臓器不全および死に至る肺外症状を示す呼吸器症候群であるコロナウイルス疾患2019(COVID-19)を引き起こすコロナウイルス株を指す。特に、この用語は、NCBIアクセス番号MN975262において全ゲノムを利用可能である、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2分離株の2019-nCoV_HKU-SZ-005b_2020を指す。一部の実施形態において、患者はCovid-19感染症に罹患している。本明細書において使用するように、「Covid-19」という用語は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2によって誘発される呼吸器疾患を指す。
【0054】
本発明の化合物および組成物の1日あたりの総使用量は、適切な医学的判断の範囲内で担当医によって決定されることが理解されよう。いずれの特定の対象に対する特定の治療有効用量レベルも、対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別、および食事や、使用する特定の化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度や、処置期間、使用する特定のポリペプチドと組み合わせてまたは同時に使用される薬剤、ならびに医学技術分野において周知の同様の要因を含む多様な要因によって決まり得る。例えば、化合物の用量を、所望の治療効果を達成するために必要とされるものよりも低いレベルで開始し、所望の効果が達成されるまで投与量を次第に増加させることが当該技術分野において周知である。しかしながら、製品の1日あたりの投与量は、成人1人につき1日あたり0.01~1,000mgの広い範囲で変わり得る。好ましくは、組成物は、処置する対象において、投与量を症状に対して調整するために、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、および500mgの有効成分を含む。薬剤は、典型的に、約0.01mg~約500mgの有効成分を含み、好ましくは1mg~約100mgの有効成分を含む。薬剤の有効量は、通常、1日あたり0.0002mg/kg体重~約20mg/kg体重、特に1日あたり約0.001mg/kg体重~7mg/kg体重の投与レベルにおいて供給される。
【0055】
本発明において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドまたは核酸分子(ベクターに挿入されていてもされていなくても)は、医薬組成物の形態で対象に投与される。典型的に、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドまたは核酸分子(ベクターに挿入されていてもされていなくても)は、薬学的に許容される賦形剤、および任意で徐放性基剤、例えば生分解性ポリマーなどと組み合わされて、医薬組成物を形成し得る。「薬学的に」または「薬学的に許容される」とは、適切な場合に、動物、特にヒトに投与するとき、有害な、アレルギー性の、または他の不適当な反応を生じない分子実体および組成物を指す。薬学的に許容される担体または賦形剤とは、任意の種類である、非毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または製剤補助剤を指す。経口投与、舌下投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、局所投与、または経直腸投与のための本発明の医薬組成物において、有効成分は、単独で、または別の有効成分と組み合わせて、単位投与剤形において、従来の医薬担体との混合物として、動物およびヒトに投与することができる。適切な単位投与剤形は、錠剤、ゲルカプセル剤、粉末剤、顆粒剤、および経口懸濁剤または溶液などの経口用剤形、舌下および経口腔投与剤形、エアロゾル、インプラント、皮下、経皮、局所、腹腔内、筋肉内、静脈内、真皮下、経皮、髄腔内、および鼻腔内投与剤形、ならびに経直腸投与剤形を含む。典型的に、医薬組成物は、注射可能な製剤において薬学的に許容されるビヒクルを含む。これらは、特に、等張液、滅菌液、生理食塩液(リン酸一ナトリウムもしくはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、もしくは塩化マグネシウム等、若しくはそうした塩の混合物)、または、場合に応じて、滅菌水もしくは生理食塩水を添加すると注射液を構成可能である乾燥、特に凍結乾燥組成物とすることができる。注射剤における使用に適する医薬剤形は、滅菌水溶液または分散液、ゴマ油、ピーナッツ油、または水性プロピレングリコールを含む製剤、および注射用滅菌液または分散液の即時調製のための滅菌粉末を含む。すべての場合において、剤形は滅菌性である必要があり、容易に注射可能な程度に流動性である必要がある。これは、製造および保管の条件下で安定である必要があり、細菌および真菌などの微生物のコンタミネーション作用に対して保護される必要がある。遊離塩または薬理的に許容される塩として本発明の化合物を含む溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水中で調製することができる。また、分散液は、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合液中、ならびに油中で調製することができる。通常の保管および使用の条件下において、それらの製剤は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含む。本発明において、本発明の突然変異アネキシンA5ポリペプチドまたは核酸分子(ベクターに挿入されていてもされていなくても)は、中性形態または塩形態の組成物に製剤化され得る。薬学的に許容される塩は、例えば塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、およびマンデル酸等の有機酸と形成された、(タンパク質の遊離アミノ基と形成された)酸付加塩を含む。また、遊離カルボキシル基と形成された塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、ならびにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、およびプロカイン等の有機塩基由来であり得る。また、担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、適切なそれらの混合物、ならびに植物油を含む溶媒または分散媒体とし得る。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によって、および、界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物活動は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によって防ぐことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注入可能な組成物は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンを組成物に使用することによって持続的に吸収させることができる。滅菌注射液は、必要とされる量の活性化合物を、必要に応じて上述で列挙した他の成分のいくつかを含む適切な溶媒に含ませ、続いて、ろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散液は、滅菌した様々な有効成分を、基本分散媒体と上述で列挙したものからの必要とされる他の成分とを含む滅菌ビヒクルに含ませることによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合には、典型的な調製方法は、予め滅菌ろ過したその溶液から、有効成分と任意のさらなる所望の成分との粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥技術である。直接注射するためのより濃度の高いまたは高濃度の溶液の調製も考慮され、この場合、溶媒としてのDMSOの使用は、極めて急速な浸透をもたらし、高濃度の活性剤を小さな腫瘍領域に送達すると想定される。溶液は、製剤化されると、投与剤形に適合する方法において、治療的に有効な量で投与され得る。製剤は、上述の種類の注射液などの各種の投与剤形で容易に投与されるが、薬剤放出カプセル剤等も使用することができる。水溶液での非経口投与のため、例えば、溶液を、必要に応じて適切に緩衝する必要があり、液体希釈剤をまず、十分な生理食塩水またはグルコースにより等張性にする必要がある。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下、および腹腔内投与に特に適している。これに関して、使用可能な滅菌水性媒体は、本開示に照らして当業者が知ることになる。いくつかの用量の変形例は、処置する対象の状態に応じて必然的に生じ得る。投与を担う人は、任意の事象において、個々の対象に適切な用量を決定し得る。
【0056】
本発明を以下の図面および実施例によってさらに説明する。しかしながら、これらの実施例および図面は、本発明の範囲を限定するようにいかようにも解釈されるべきでない。
【実施例】
【0057】
方法
血液試料の採取
1/10容量の0.106Mクエン酸ナトリウムを含むMonovette(Sarstedt,Nuembrecht,Germany)注射器に、静脈血試料を採取した血液採取後の2時間内で、すべての分析を行った。多血小板血漿(PRP)を、190g、20℃における10分間の血液遠心分離によって調製した。PRPを回収し、無血小板血漿(PFP)を、2500g、20℃において15分間、PRPを2回遠心分離することによって得た。PFPを-80℃で直ちに凍結し、必要な時に37度で15分間の解凍をした。PFPは、健康なボランティア(血液ドナー)、ヒドロキシ尿素(HU)処置が進行中でない、または進行中の鎌状赤血球症患者(ホモ接合HbS)、および入院中のCOVID-19患者(入院後2~3日目において、および、酸素療法に加え、高用量の低分子量ヘパリンによる予防的抗凝固処置を受けた後)を含む様々な種類の患者から生成した。
【0058】
トロンビン生成アッセイ
自動校正トロンボグラム(CAT)を、専用ソフトウェアプログラム(Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlands)を用いて、マイクロタイタープレート蛍光光度計(Fluoroskan Ascent,ThermoLabsystems,Helsinki,Finland)において37℃で行った。凝固系の活性化は、任意の外因性のリン脂質または組織因子を添加することなく、試料の再石灰化のみによって誘発した。これにより、アネキシン-A5ポリペプチドは、各タイプの患者の血漿に存在するときの、その自然の状態およびその複雑な多因子環境(溶血生成物を含む)における内因性の生理病理学的膜(細胞外小胞など)にあるPSの阻害について評価することができた。トロンビン生成曲線を、いくつかの最終濃度(0.3、3、30、300nM)の組換えアネキシンA5(WT)およびアネキシンA5突然変異体の非存在下または存在下もしくは非存在下においてPFPを用いてトリプリケートで記録した。トロンビン生成を、最大90分にわたるトロンビン活性の動態曲線として示した。主な4つの種類のデータ(トロンビン活性の総量(すなわち内因性トロンビン産生能(ETP、曲線下面積として評価される)、および最大トロンビン生成速度、遅延時間、ピークまでの時間)を含む)を、反応曲線の主要構成成分から抽出することができた。ETPを50%阻害する野生型アネキシン-A5(rhAnn-A5-WT、もしくはrhA5-WT)の濃度、またはアネキシン-A5突然変異体の濃度を、そのポリペプチドに対するIC50として定義した。
【0059】
鎌状赤血球症および血管閉塞エピソードのマウスモデル
10~18週齢のHbSADトランスジェニック雄マウス(SAD突然変異ヘモグロビン鎖を発現)を用い、SCD患者の血管閉塞性クリーゼに類似した血管閉塞性事象を誘発した。HbSADマウスは、誘発性VOCの有効なモデルであり、特にRBC分解産物およびその阻害剤の研究に適している。HbSADマウスもSCD患者と同様に好中球過増多症を示す。
【0060】
血液レオロジーパラメータを、まず安静時(酸素正常状態時)にエコードップラーによって採取した。心拍数および肺動脈の心拍出量の特徴を記述した。その後、マウスを9%O2中に一晩(12~16時間)配置し、続いて、30分間、急激に再酸素負荷(室内気)することで、血管閉塞エピソードを低酸素/再酸素負荷(H/R)によって誘発した。心拍数および肺動脈の心拍出量をエコードップラーによって再び採取した(H/Rベースライン測定)。低酸素/再酸素負荷によって、心拍数が影響を受けないまま、心拍出量が急激に低下したとき、マウスは重篤な血管閉塞エピソードを経たと考えられた。この現象の組合せにより、肺の血管抵抗(vasuloresistance)が劇的に増加し、血管閉塞が遠位毛細血管床にわたって散在することから血液が肺血管構造を通過することが困難になった。
【0061】
血管閉塞エピソードの特徴が明らかになった後、組換えアネキシン-A5ポリペプチドを静脈内に注射した。心拍数および肺動脈の心拍出量を、注射後の約45分の観察期間にわたって、エコードップラーによって再び採取した。肺血流再開は、(肺動脈で観察される)心拍出量が正常酸素レベル(H/R前)に戻ったときに達成されたと考えられた。完全な自発的肺血流再開は、H/R後の約4~8時間で起こることが知られている。
【0062】
結果
ヘムとの相互作用が低く、TGT(トロンビン生成時間)阻害作用が高いという2つの特徴を有する組換えヒト突然変異アネキシン-A5ポリペプチドを作製した(
図1)。次に、SCD患者において上述のアネキシンA5ポリペプチドの機能性を評価した。患者を2群に分け、採血時に血管内溶血が実際に進行中である患者と、そうでない患者に分けることができる。これは、415nm(ソーレー帯)における吸光度の増加によって決定することができ、血漿における0.5任意単位を超えるしきい値により、非溶血患者と血管内溶血が進行中である患者とを区別する(
図2)。活動性血管内溶血を有するSCD患者は、非溶血患者に対して血漿におけるトロンビン生成が促進および増加していることを示し、これは、TGT曲線(図示せず)から得られた主なデータによって示されている。突然変異A5ポリペプチドが、特に溶血性SCD患者においてトロンビン生成を低下させるために有効であることを示した(
図3)。ヒドロキシ尿素で処置したSCD患者は、ヒドロキシ尿素処置にもかかわらず、健康な対象に対して血漿におけるトロンビン生成が促進および増加していることを示し、これは、TGT曲線(図示せず)によって示されている。rhA5-’E’突然変異体およびrhA5-WTが、ヒドロキシ尿素がもたらす利益を超えて、これらの血漿においてトロンビン生成を低下させる有意かつ特異的な能力を示すということを示した(
図4)。そして、rhA5-’E’突然変異体(すなわち、E228A突然変異を含むA5ポリペプチド)、rhA5-’R’突然変異体(R227A突然変異を含むA5ポリペプチド)、およびrhA5-’Y’突然変異体(Y257A突然変異を含むA5ポリペプチド)が、rhA5-WTのように、予防的抗凝固の利益を超えて、入院中のCOVID-19患者の血漿においてトロンビン生成を低下させる有意かつ特異的な能力を示すということを示した(
図5)。最後に、血管閉塞エピソードを有する鎌状赤血球症のマウスモデルにおいて、rhA5-’E’突然変異体(E228A)およびrhA5-’R’突然変異体(R227A)が、rhA5-WTのように、ビヒクル(PBS)と比較して、予め作製した血管閉塞性事象後の肺血流再開を促進することを示した(
図6)。
【0063】
参考文献
本願において、様々な参考文献によって、本発明が属する技術の現状が記載されている。これらの参考文献の開示は、本明細書において言及することによって本開示に援用される。
【配列表】
【国際調査報告】