(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】コアシェル勾配三元前駆体、その製造方法及び使用
(51)【国際特許分類】
C01G 53/00 20060101AFI20240621BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240621BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240621BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240621BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/052
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562476
(86)(22)【出願日】2022-08-18
(85)【翻訳文提出日】2023-10-10
(86)【国際出願番号】 CN2022113253
(87)【国際公開番号】W WO2023216453
(87)【国際公開日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】202210501591.5
(32)【優先日】2022-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508149663
【氏名又は名称】▲荊▼▲門▼市格林美新材料有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼ ▲開▼▲華▼
(72)【発明者】
【氏名】岳 先▲錦▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 坤
(72)【発明者】
【氏名】▲華▼ 文超
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲聡▼
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 幸
(72)【発明者】
【氏名】▲呂▼ 豪
(72)【発明者】
【氏名】袁 文芳
(72)【発明者】
【氏名】▲賈▼ 冬▲鳴▼
(72)【発明者】
【氏名】薛 ▲曉▼斐
(72)【発明者】
【氏名】李 雪▲倩▼
(72)【発明者】
【氏名】范 ▲亮▼▲コウ▼
(72)【発明者】
【氏名】向 ▲興▼
(72)【発明者】
【氏名】朱 小▲帥▼
(72)【発明者】
【氏名】石 佳▲敏▼
(72)【発明者】
【氏名】▲貢▼ 正▲傑▼
(72)【発明者】
【氏名】尹 道道
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ12
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
5H029HJ14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA14
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA10
5H050HA14
(57)【要約】
本願は、コアシェル勾配三元前駆体、その製造方法及び使用を提供し、前記製造方法は、(1)テレフタル酸溶液と液体アルカリを混合して、テレフタル酸塩溶液を得て、ニッケル源溶液を加えて反応させ、Ni-MOF溶液を得、Ni-MOF溶液をアンモニア水と混合し、pHを調整し、基質液を得るステップと、(2)ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、液体苛性ソーダ溶液、及びアンモニア水溶液をステップ(1)で得られた基質液に同時に加えて、共沈反応を行い、エージングして、前記コアシェル勾配三元前駆体を得るステップと、を含み、本願では、Ni-MOFを予め製造しておき、Ni-MOFをコアとして共沈反応を行い、コアシェル状で勾配を有する前駆体を製造し、前記コアシェル勾配三元前駆体は、正極材料の製造において、コア中の炭素が酸素と反応することにより、粒子の表面にあるニッケルの酸化状態が低減し、ひび割れの発生が減少する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)テレフタル酸溶液と液体アルカリを混合して、テレフタル酸塩溶液を得て、ニッケル源溶液を加えて反応させ、Ni-MOF溶液を得、Ni-MOF溶液をアンモニア水と混合して、pHを調整し、基質液を得るステップと、
(2)ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、液体苛性ソーダ溶液、及びアンモニア水溶液をステップ(1)で得られた基質液に同時に加えて、共沈反応を行い、エージングして、前記コアシェル勾配三元前駆体を得るステップと、
を含む、コアシェル勾配三元前駆体の製造方法。
【請求項2】
ステップ(1)では、前記テレフタル酸溶液のモル濃度が1~3mol/Lであり、
好適には、前記液体アルカリは水酸化カリウム溶液を含み、
好適には、前記液体アルカリのモル濃度が2~6mol/Lであり、
好適には、前記テレフタル酸塩溶液のpHが6~7であり、
好適には、前記ニッケル源溶液は硝酸ニッケル溶液を含み、
好適には、前記硝酸ニッケル溶液のモル濃度が1~3mol/Lであり、
好適には、前記テレフタル酸とニッケル源中のニッケル元素とのモル比が1:(0.8~1.2)である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(1)では、前記反応において撹拌が行われ、
好適には、前記撹拌の時間が24~48hであり、
好適には、前記反応後、濾過、洗浄、及び乾燥を行い、
好適には、前記洗浄用の洗浄剤は無水エタノールを含み、
好適には、前記乾燥の温度が40~60℃である、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(1)では、前記基質液中のアンモニア水の質量濃度が4~8g/Lであり、
好適には、前記基質液中のNi-MOFの質量濃度が50~150g/Lであり、
好適には、前記基質液のpHが11~12である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(2)では、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液中の溶質の質量濃度が80~120g/Lであり、
好適には、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液を添加する速度が6~10L/hであり、
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液の質量濃度が28~32%であり、
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液を添加する速度が2~3L/hであり、
好適には、前記アンモニア水溶液の質量濃度が10~20%であり、
好適には、前記アンモニア水溶液を添加する速度が0.1~0.6L/hである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(2)では、前記共沈反応の撹拌速度が200~400rpmであり、
好適には、前記共沈反応中のpHが10~12であり、
好適には、前記共沈反応の温度が40~60℃であり、
好適には、前記共沈反応において粒子径を持続的に監視し、粒子径が要件を満たすまでに、反応には、高性能濃縮器を用いて、すべての粒子を反応釜に戻すように収集して持続的に反応させて成長させ、粒子径D
50が3~4μmになると、供給を停止し、材料が完全に反応されるまで反応を持続する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって製造される、コアシェル勾配三元前駆体。
【請求項8】
請求項7に記載のコアシェル勾配三元前駆体で製造される、コアシェル勾配三元正極材料。
【請求項9】
請求項8に記載のコアシェル勾配三元正極材料を含む、正極板。
【請求項10】
請求項9に記載の正極板を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、リチウムイオン電池の技術分野に属し、コアシェル勾配三元前駆体、及びその製造方法及び使用に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の高エネルギー需要に対応するため、ニッケルリッチ層状材料であるLiNil-x-yMnxCoyO2(x+y≦0.4)(NCM)とLiNi0.8Co0.15Al0.05O2が正極材料の最も有望な候補と考えられている。200mAh/gの容量と3.8V(vsLi+/Li)の高電圧がある。しかし、Li+/Ni2+カチオンの混合、Liの残留、熱安定性の劣化や粉末化などの問題により、電池のサイクル特性やレート性能が制限されている。科学者らはこれまで、元素のドープ、表面のコーティングや濃度勾配の形成などを含むさまざまな戦略を用いることで、構造の安定性を高める試みを行ってきた。
【0003】
中国特許出願公開112701271号明細書は、可溶性ニッケル塩、可溶性コバルト塩及び可溶性マンガン塩を量って脱イオン水に溶解し、三元金属塩溶液を得るステップと、塩基性錯化剤を調製し、塩基性錯化剤と三元金属塩溶液とを混合して反応させた後、捕集、濾過、水洗、乾燥を順次行って、三元前駆体粉末を得るステップと、を含む、三元前駆体正極材料に基づく元素ドーピング方法を開示している。
【0004】
中国特許出願公開111422926号明細書は、コアシェル構造のAl/La共ドープ高ニッケル三元前駆体及びその製造方法、並びに上記前駆体で製造された正極材料を開示する。前記製造方法は、主に3段階に分けられ、第1段階では、低pH下で一次粒子が棒状であるAlドープ高ニッケル三元前駆体を合成し、第2段階では、上記に基づいてpHを高く調整し、Alドープ高ニッケル三元前駆体をコアとして、一次粒子が針状であるLaドープ高ニッケル三元前駆体シェルを成長させ、コアシェル構造を持つAl/La共ドープ高ニッケル三元前駆体を合成する。
【0005】
元素ドーピングは正極材料のサイクル安定性を著しく向上させ得る反面、容量低下の問題をもたらす。二次粒子に保護層を塗布することにより、活物質を電解質から隔離することができるが、電気化学サイクル中の頻繁な体積変化に起因する一次粒子内部の粒界割れを防止することはできない。その結果、各一次粒子内に蓄積された歪みにより、二次粒子が粉砕される。濃度勾配は好適な方法であるが、製造過程が面倒であり、大量生産が厳しく制限されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下は、本明細書で詳細に説明される主題の概要である。本概要は、特許請求の範囲の保護範囲を限定するためのものではない。
【0007】
本願の目的は、コアシェル勾配三元前駆体、その製造方法及び使用を提供することであり、本願では、Ni-MOFを予め製造しておき、Ni-MOFをコアとして共沈反応を行い、コアシェル状で勾配を有する前駆体を製造し、前記コアシェル勾配三元前駆体は、正極材料の製造において、コア中の炭素が酸素と反応することにより、粒子の表面にあるニッケルの酸化状態が低減し、ひび割れの発生が減少する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の目的を達成させるために、本願は以下の技術的解決手段を採用する。
【0009】
第1態様では、本願は、
(1)テレフタル酸溶液と液体アルカリを混合して、テレフタル酸塩溶液を得て、ニッケル源溶液を加えて反応させ、Ni-MOF溶液を得、Ni-MOF溶液をアンモニア水と混合して、pHを調整し、基質液を得るステップと、
(2)ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、液体苛性ソーダ溶液、及びアンモニア水溶液をステップ(1)で得られた基質液に同時に加えて、共沈反応を行い、エージングして、前記コアシェル勾配三元前駆体を得るステップと、を含む、コアシェル勾配三元前駆体の製造方法を提供する。
【0010】
本願では、Ni-MOF(前記Ni-MOFの構造は式Iに示される)を予め製造しておき、Ni-MOFをコアとして共沈反応を行い、コアシェル状で勾配を有する前駆体を製造し、前記前駆体は、正極材料の製造において、表面に岩塩相を含有する保護層が形成されることにより、内部ひずみに抵抗し、更なる相変化を抑制し、ひび割れの発生を低減させ、正極材料のサイクル安定性を向上させ、前記製造方法は、生産プロセスが簡略化され、量産に適している。
【化1】
【0011】
好適には、ステップ(1)では、前記テレフタル酸溶液のモル濃度が1~3mol/L、例えば、1mol/L、1.5mol/L、2mol/L、2.5mol/L、又は3mol/Lなどである。
【0012】
好適には、前記液体アルカリは水酸化カリウム溶液を含む。
【0013】
好適には、前記液体アルカリのモル濃度が2~6mol/L、例えば、2mol/L、3mol/L、4mol/L、5mol/L、又は6mol/Lなどである。
【0014】
好適には、前記テレフタル酸塩溶液のpHが、6~7、例えば、6、6.2、6.5、6.8又は7などである。
【0015】
好適には、前記ニッケル源溶液は硝酸ニッケル溶液を含む。
【0016】
好適には、前記硝酸ニッケル溶液のモル濃度が1~3mol/L、例えば、1mol/L、1.5mol/L、2mol/L、2.5mol/L、又は3mol/Lなどである。
【0017】
好適には、前記テレフタル酸とニッケル源中のニッケル元素とのモル比が、1:(0.8~1.2)、例えば、1:0.8、1:0.9、1:1、1:1.1、又は1:1.2などである。
【0018】
好適には、ステップ(1)では、前記反応において撹拌が行われる。
【0019】
好適には、前記撹拌の時間が、24~48h、例えば、24h、30h、36h、40h、又は48hなどである。
【0020】
好適には、前記反応後、濾過、洗浄、及び乾燥を行う。
【0021】
好適には、前記洗浄用の洗浄剤は、無水エタノールを含む。
【0022】
好適には、前記乾燥の温度が、40~60℃、例えば、40℃、45℃、50℃、55℃、又は60℃などである。
【0023】
好適には、ステップ(1)では、前記基質液中のアンモニア水の質量濃度が、4~8g/L、例えば、4g/L、5g/L、6g/L、7g/L、又は8g/Lなどである。
【0024】
好適には、前記基質液中のNi-MOFの質量濃度が50~150g/L、例えば、50g/L、80g/L、100g/L、120g/L、又は150g/Lなどである。
【0025】
好適には、前記基質液のpHが、11~12、例えば、11、11.2、11.5、11.8、又は12などである。
【0026】
好適には、ステップ(2)では、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液中の溶質の質量濃度が、80~120g/L、例えば、80g/L、90g/L、100g/L、110g/L、又は120g/Lなどである。
【0027】
好適には、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液を添加する速度が6~10L/h、例えば、6L/h、7L/h、8L/h、9L/h、又は10L/hなどである。
【0028】
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液の質量濃度が、28~32%、例えば、28%、29%、30%、31%、又は32%などである。
【0029】
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液を添加する速度が2~3L/h、例えば、2L/h、2.2L/h、2.5L/h、2.8L/h、又は3L/hなどである。
【0030】
好適には、前記アンモニア水溶液の質量濃度が、10~20%、例えば、10%、12%、15%、18%、又は20%などである。
【0031】
好適には、前記アンモニア水溶液を添加する速度が、0.1~0.6L/h、例えば、0.1L/h、0.2L/h、0.3L/h、0.4L/h、0.5L/h又は0.6L/hなどである。
【0032】
好適には、ステップ(2)では、前記共沈反応の撹拌速度が、200~400rpm、例えば、200rpm、250rpm、300rpm、350rpm、又は400rpmなどである。
【0033】
好適には、前記共沈反応のpHが、10~12、例えば、10、10.5、11、11.5、又は12などである。
【0034】
好適には、前記共沈反応の温度が、40~60C、例えば、40℃、45℃、50℃、55℃、又は60℃などである。
【0035】
好適には、前記共沈反応において粒子径を持続的に監視し、粒子径が要件を満たすまでに、反応には、高性能濃縮器を用いて、すべての粒子を反応釜に戻すように収集して持続的に反応させて成長させ、粒子径D50が3~4μm(例えば、3μm、3.2μm、3.5μm、3.8μm、又は4μmなど)になると、供給を停止し、材料が完全に反応されるまで反応を持続する。
【0036】
第2態様では、本願は、第1態様に記載の方法によって製造されるコアシェル勾配三元前駆体を提供する。
【0037】
本願の前記コアシェル勾配三元前駆体は、正極材料の製造において、コア中の炭素が酸素と反応することにより、粒子の表面にあるニッケルの酸化状態が低減し、ひび割れの発生が減少する。
【0038】
第3態様では、本願は、第2態様に記載のコアシェル勾配三元前駆体で製造されるコアシェル勾配三元正極材料を提供する。
【0039】
第4態様では、本願は、第3態様に記載のコアシェル勾配三元正極材料を含む正極板を提供する。
【0040】
第5態様では、本願は、第4態様に記載の正極板を含むリチウムイオン電池を提供する。
【発明の効果】
【0041】
従来技術と比べて、本願は以下の有益な効果を有し、
本願では、Ni-MOFを予め製造しておき、Ni-MOFをコアとして共沈反応を行い、コアシェル状で勾配を有する前駆体を製造し、前記コアシェル勾配三元前駆体は、正極材料の製造において、コア中の炭素が酸素と反応することにより、粒子の表面にあるニッケルの酸化状態が低減し、ひび割れの発生が減少する。
【0042】
詳細な説明及び図面を閲覧して理解した上で、他の態様を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本願の実施例1の前記製造方法のプロセスのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、特定実施形態によって本願の技術的解決手段をさらに説明する。当業者にとって明らかなように、前記実施例は本願を理解しやすくするためのものに過ぎず、本願を特に制限するものとして見なされるべきではない。
【実施例】
【0045】
実施例1
本実施例は、コアシェル勾配三元前駆体を提供し、前記コアシェル勾配三元前駆体の製造方法は以下の通りである。
【0046】
(1)200Lの反応釜に50L1mol/Lのテレフタル酸を加えて、機械的撹拌を開始させ、2mol/Lの水酸化カリウム溶液50Lを加えて、テレフタル酸をテレフタル酸カリウム(pH:6~7)に変換した。次に、1mol/Lの硝酸ニッケル溶液50Lを2L/hの流速でテレフタル酸カリウム溶液に滴下した直後、緑色沈殿を大量発生させ、36h撹拌し、濾過して、エタノールで3回洗浄し、純水で5回洗浄し、50℃で乾燥して、Ni-MOFを得た。
【0047】
(2)濃度100g/Lのニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、質量濃度が30%の液体苛性ソーダ溶液、及び質量濃度が15%のアンモニア水溶液をそれぞれ8L/h、2.65L/h、0.8L/hの供給速度で合流して、温度58℃、アンモニア水濃度8g/L、Ni-MOF含有量100g/L、及びpH 11.8の基質液を容れた反応釜に同時に加え、380rpmの撹拌速度で共沈反応を行い、反応中、反応系のpHを11.3、アンモニア濃度を6.5g/L、温度を58℃に制御して、高純度窒素ガスを持続的に導入した。その過程において粒子径を監視し、粒子径が要件を満たすまでに、反応において高性能濃縮器を用いて、すべての粒子を反応釜に随時戻すように収集して持続的に反応させて成長させ、粒子径D50が4μmに達すると、供給を停止し、材料が完全に反応されるまで反応を持続した。次に、遠心分離、洗浄、ベークを行うと、Ni-MOFをコアとしたコアシェル勾配三元前駆体を得た。
【0048】
前記製造方法のプロセスのフローチャートを
図1に示す。
【0049】
実施例2
本実施例は、コアシェル勾配三元前駆体を提供し、前記コアシェル勾配三元前駆体の製造方法は、以下の通りである。
【0050】
(1)200Lの反応釜に1.2mol/Lのテレフタル酸50Lを加えて、機械的撹拌を開始させ、2.4mol/Lの水酸化カリウム溶液50Lを加えて、テレフタル酸をテレフタル酸カリウム(pH:6~7)に変換した。次に、1.3mol/Lの硝酸ニッケル溶液50Lを2L/hの流速でテレフタル酸カリウム溶液に滴下した直後、緑色沈殿を大量発生させ、38h撹拌して、濾過し、エタノールで3回洗浄し、純水で5回洗浄し、50℃で乾燥して、Ni-MOFを得た。
【0051】
(2)濃度100g/Lのニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、質量濃度が32%の液体苛性ソーダ溶液、及び質量濃度が16%のアンモニア水溶液をそれぞれ8L/h、2.65L/h、0.8L/hの供給速度で合流して、温度58℃、アンモニア水濃度8g/L、Ni-MOF含有量100g/L、及びPH 11.8の基質液を容れた反応釜に同時に加え、380rpmの撹拌速度で共沈反応を行い、反応中、反応系のpHを11.3、アンモニア濃度を6.5g/L、温度を58℃に制御して、高純度窒素ガスを持続的に導入した。その過程において粒子径を監視し、粒子径が要件を満たすまでに、反応において高性能濃縮器を用いて、すべての粒子を反応釜に随時戻すように収集して持続的に反応させて成長させ、粒子径D50が3.5μmに達すると、供給を停止し、材料が完全に反応されるまで反応を持続した。次に、遠心分離、洗浄、ベークを行うと、Ni-MOFをコアとしたコアシェル勾配三元前駆体を得た。
【0052】
実施例3
本実施例では、実施例1と比べて、硝酸ニッケルの濃度が0.6mol/Lである点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0053】
実施例4
本実施例では、実施例1と比べて、硝酸ニッケルの濃度が1.5mol/Lである点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0054】
実施例5
本実施例では、実施例1と比べて、反応中pHが9に制御される点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0055】
実施例6
本実施例では、実施例1と比べて、反応中pHが12に制御される点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0056】
実施例7
本実施例では、実施例1と比べて、前駆体の粒子径が2.5μmである点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0057】
実施例8
本実施例では、実施例1と比べて、前駆体の粒子径が4.5μmである点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0058】
比較例1
本比較例では、実施例1と比べて、Ni-MOFが炭素微小球に変更される点のみが異なり、残りの条件及びパラメータは、実施例1と全く同様であった。
【0059】
性能試験
実施例1~8と比較例1で得られた前駆体をリチウム源LiOHと混合した後、得られた試料を純酸素保護下、800℃で16時間焼成した。高温焼成では、Ni-MOF-74が炭化して前駆体と反応し、最終的なNMC811が形成された。正極材料、導電剤SuperP(導電性カーボンブラック)、及びバインダPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を90:5:5の割合でスラリーにし、アルミニウム箔集電体上に均一に塗布し、80℃のオーブンで12hベークして取り出し、直径12mmの正極板に裁断した。負極には直径18mm、厚さ1mmの金属リチウム箔、セパレータにはCelgardポリエチレン多孔質膜、電解液には濃度1mol/LのLiPF
6(リン酸鉄リチウム)を電解質としたエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の同量混合液を使用した。正極、負極、セパレータ、電解液を水分と酸素含有量が0.1ppm以下のグローブボックス内で組み立て、2032型ボタン電池とし、電池を12h放置した後、性能試験を行った。試験結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
表1から分かるように、実施例1~8から、本願の前記前駆体を用いて電池を製造した後、0.1C初期放電比容量は190.2mAh/g以上、1C初期放電比容量は170mAh/g以上、1C 100サイクル目の放電比容量は164.7mAh/g以上、1C 100サイクル目の容量維持率は96.8%以上に達することができる。
【0061】
実施例1と実施例3~4を比較すると、Ni-MOFの製造過程において、ニッケルとテレフタル酸とのモル比は製造されたNi-MOFの品質に影響し、さらに製造された前駆体の性能に影響し、ニッケルとテレフタル酸とのモル比を0.8~1.2:1に制御することにより、製造されたNi-MOFは、品質が高く、コアシェル勾配三元前駆体のコアを製造するのにより適している。
【0062】
実施例1と実施例5~6を比較すると、基質液のpHは製造されたコアシェル勾配三元前駆体の品質に影響し、反応過程のpHを10.5~11.5に制御することによって、製造されたコアシェル勾配三元前駆体は、品質が高く、反応過程のpHが高すぎると、製造された三元前駆体の小粒子が多すぎて、すべてコアであり、成長した球体はない。反応過程のpHが低すぎると、製造された三元前駆体の一次粒子が特に粗大になり、規則的な球体が形成されなくなる。
【0063】
実施例1と実施例7~8を比較すると、コアシェル勾配三元前駆体の粒子径は製造されたコアシェル勾配三元材料の性能に影響し、コアシェル勾配三元前駆体の粒子径を3~4μmに制御することによって、製造されたコアシェル勾配三元材料は、性能に優れており、コアシェル勾配三元前駆体の粒子径が大きすぎると、ひび割れが発生し、また、電気化学比表面積が非常に小さくなり、それによって正極材料の性能に影響する。コアシェル勾配三元前駆体の粒子径が小さすぎると、前駆体から作られた正極材料は安定したLi拡散通路を形成できず、正極材料の初期充放電容量を低下させる。
【0064】
実施例1と比較例1とを比較すると、本願では、Ni-MOFをコアとして共沈反応を行い、コアシェル状で勾配を有する前駆体を製造し、前記前駆体は、正極材料の製造において、表面に岩塩相を含む保護層が生成されることにより、内部の歪みに抵抗し、更なる相変化を抑制し、ひび割れの発生を軽減し、正極材料のサイクル安定性を向上させる。
【0065】
上記は本願の具体的な実施形態にすぎないが、本願の保護範囲はこれに限定されないことを出願人が声明し、当業者が本願によって明らかにされた技術的範囲内で容易に想到できるいかなる変更又は置換も、本願の保護範囲及び公開範囲内に含まれることは当業者には明らかである。
【手続補正書】
【提出日】2023-10-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)テレフタル酸溶液と液体アルカリを混合して、テレフタル酸塩溶液を得て、ニッケル源溶液を加えて反応させ、Ni-MOF溶液を得、Ni-MOF溶液をアンモニア水と混合して、pHを調整し、基質液を得るステップと、
(2)ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液、液体苛性ソーダ溶液、及びアンモニア水溶液をステップ(1)で得られた基質液に同時に加えて、共沈反応を行い、エージングして、前記コアシェル勾配三元前駆体を得るステップと、
を含む、コアシェル勾配三元前駆体の製造方法。
【請求項2】
ステップ(1)では、前記テレフタル酸溶液のモル濃度が1~3mol/Lであり、
好適には、前記液体アルカリは水酸化カリウム溶液を含み、
好適には、前記液体アルカリのモル濃度が2~6mol/Lであり、
好適には、前記テレフタル酸塩溶液のpHが6~7であり、
好適には、前記ニッケル源溶液は硝酸ニッケル溶液を含み、
好適には、前記硝酸ニッケル溶液のモル濃度が1~3mol/Lであり、
好適には、前記テレフタル酸とニッケル源中のニッケル元素とのモル比が1:(0.8~1.2)である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(1)では、前記反応において撹拌が行われ、
好適には、前記撹拌の時間が24~48hであり、
好適には、前記反応後、濾過、洗浄、及び乾燥を行い、
好適には、前記洗浄用の洗浄剤は無水エタノールを含み、
好適には、前記乾燥の温度が40~60℃である、
請求項
1に記載の製造方法。
【請求項4】
ステップ(1)では、前記基質液中のアンモニア水の質量濃度が4~8g/Lであり、
好適には、前記基質液中のNi-MOFの質量濃度が50~150g/Lであり、
好適には、前記基質液のpHが11~12である、
請求項
1に記載の製造方法。
【請求項5】
ステップ(2)では、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液中の溶質の質量濃度が80~120g/Lであり、
好適には、前記ニッケルコバルトマンガン三元混合塩溶液を添加する速度が6~10L/hであり、
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液の質量濃度が28~32%であり、
好適には、前記液体苛性ソーダ溶液を添加する速度が2~3L/hであり、
好適には、前記アンモニア水溶液の質量濃度が10~20%であり、
好適には、前記アンモニア水溶液を添加する速度が0.1~0.6L/hである、
請求項
1に記載の製造方法。
【請求項6】
ステップ(2)では、前記共沈反応の撹拌速度が200~400rpmであり、
好適には、前記共沈反応中のpHが10~12であり、
好適には、前記共沈反応の温度が40~60℃であり、
好適には、前記共沈反応において粒子径を持続的に監視し、粒子径が要件を満たすまでに、反応には、高性能濃縮器を用いて、すべての粒子を反応釜に戻すように収集して持続的に反応させて成長させ、粒子径D
50が3~4μmになると、供給を停止し、材料が完全に反応されるまで反応を持続する、
請求項
1に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法によって製造される、コアシェル勾配三元前駆体。
【請求項8】
請求項7に記載のコアシェル勾配三元前駆体で製造される、コアシェル勾配三元正極材料。
【請求項9】
請求項8に記載のコアシェル勾配三元正極材料を含む、正極板。
【請求項10】
請求項9に記載の正極板を含む、リチウムイオン電池。
【国際調査報告】