(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】湿式及び乾式工程による高純度硫化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 17/22 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
C01B17/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023562811
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-10-11
(86)【国際出願番号】 KR2022018640
(87)【国際公開番号】W WO2023229121
(87)【国際公開日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】10-2022-0063900
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523385787
【氏名又は名称】ジェイエス ケム コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】JS CHEM CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】チェ ジェウォン
(72)【発明者】
【氏名】キム ソングク
(72)【発明者】
【氏名】イム ソクヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンヒョン
(57)【要約】
本発明は、湿式及び乾式工程による高純度硫化リチウムの製造方法に関するもので、詳細には、水酸化リチウム(LiOH)を有機溶媒の下で硫化水素(H
2S)ガスと反応させる湿式工程、及びこれから得られた乾燥収得物を硫化水素(H
2S)ガスと反応させる乾式工程によって高純度の硫化リチウムを大量に生産することができる、硫化リチウムの製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H
2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、
b)a)段階後、反応器の内部圧力が常圧に戻ると、再び前記反応液に硫化水素(H
2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、
c)b)段階後、前記反応液の有機溶媒を除去して一次反応物を得る段階と、
d)前記一次反応物を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H
2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、
e)d)段階後、真空ポンプを介して反応副生成物としての水を除去した後、再び硫化水素(H
2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、を含む、硫化リチウムの製造方法。
【請求項2】
前記a)段階及びb)段階は、互いに独立して100~150℃の反応温度で行われる、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、芳香族有機溶媒、アミド系有機溶媒及び硫黄含有有機溶媒の中から選択される2種以上の混合溶媒である、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項4】
前記芳香族有機溶媒は、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、アルキルビフェニル及びジアルキルビフェニルの中から選択される1種以上である、請求項3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項5】
前記アミド系有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の中から選択される1種以上である、請求項3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項6】
前記硫黄含有有機溶媒はサルファイト(sulfite)系溶媒である、請求項3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項7】
前記サルファイト(sulfite)系溶媒は、アルキレンサルファイト、ジアルキルサルファイト、ジアリールサルファイト及びアルキルアリールサルファイトの中から選択される1種以上である、請求項6に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項8】
前記混合溶媒は、芳香族有機溶媒:硫黄含有有機溶媒の体積比が1:0.1~10である、請求項3に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項9】
前記反応液中の水酸化リチウム(LiOH)の濃度は0.1~10Mである、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項10】
前記b)段階は10~100回繰り返し行われる、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項11】
前記d)段階及びe)段階は、互いに独立して100~150℃の反応温度で行われる、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項12】
前記d)段階及びe)段階は、硫化水素(H
2S)ガスと共に不活性ガスがさらに注入されるものである、請求項1に記載の硫化リチウムの製造方法。
【請求項13】
前記不活性ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)及び窒素(N
2)の中から選択される1種以上である、請求項12に記載の硫化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式及び乾式工程による高純度硫化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム-硫黄二次電池は、理論エネルギー密度が2,800Wh/kg(1,675mAh/g)であって、現在商用されているリチウム二次電池に比べて非常に高く、また、正極活物質として使用される硫黄系物質は、資源が豊富なので価格が安く、環境にやさしい物質として注目を集めている。
【0003】
このようなリチウム-硫黄二次電池において、負極に使用するリチウム金属は、電池の充・放電過程でリチウムイオンがリチウム金属から解離してから再び析出する過程でリチウム金属が樹枝状(dendrite phase)に成長して電池の内部で短絡を引き起こすという問題がある。これは、電池の安定性を低下させる要因となるため、リチウム-硫黄二次電池の商用化に主な限界として指摘されている。
【0004】
また、リチウム-硫黄二次電池において硫黄を活性化するために炭素との複合材(composite)を作らなければならないが、この場合に、硫黄の昇華温度が低すぎて(~115℃)常にアンプル(ampoule)を用いなければならない。しかも、このようなアンプルを用いても炭素との吸着程度があまり低いため、同じ工程を数回繰り返し行えば、適切なレベルで硫黄の充填率(loading density)を得ることができて多くの工程費用がかかる。
【0005】
このようなリチウム-硫黄二次電池の問題を根本的に解決するために、正極に硫黄ではなく硫化リチウム(Li2S)を使用する方法が提案された。硫化リチウムを正極に使用する場合、リチウム金属を負極に使用しなくてもよく、高い溶融温度(~1000℃)のため正極の充填率を所望の程度に調整することができるため、より容易な工程で電池を実現することができる。また、高い溶融温度のため、高温で様々な種類の後処理工程を行うことができ、このような後処理工程を介してリチウム硫化物の活性度を最大化することができるという利点がある。
【0006】
一方、従来の液体電解質を使用するリチウムイオン電池とは異なり、固体電解質を適用した全固体電池(all solid state battery、ASSB)は、液体電解質により発生する可燃性、腐食、漏水、蒸発などの問題がないため、従来のリチウムイオン電池に比べてより安全であり、さまざまな温度範囲で使用することができるという利点がある。
【0007】
全固体リチウム二次電池は、正極、負極及び固体電解質から構成される。固体電解質は、大きく、高分子(polymer)、酸化物系(oxide)、硫化物系(sulfide)がある。それらの中でも、比較的イオン伝導度が高く、機械的特性に優れるうえ、不燃性を有する酸化物系固体電解質と、硫化物系固体電解質が盛んに研究されている。
このような硫化物系固体電解質の材料として使用される硫化リチウム(Li2S)は、天然鉱産物として産出されないため、合成によって提供される。
【0008】
従来の硫化リチウム合成方法の一つは、水酸化リチウム(LiOH)とガス状硫黄源である硫化水素との反応を利用する方法であって、特開平09-278423号では、水酸化リチウム粒子の直径が0.1~1.5mmとなるように粉体化し、不活性ガス雰囲気下で水酸化リチウムと硫化水素との反応時の加熱温度を80~445℃として、乾式で硫化リチウムを製造する方法を提案した。
【0009】
しかし、上述した乾式硫化リチウムの製造方法において、水酸化リチウムは、吸湿性が高いため凝集しやすくて大量取り扱いが難しいだけでなく、得られる硫化リチウムの微粉化を図ることが容易ではなく、硫化リチウムの量産が難しいという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる問題点を解決するためのもので、その目的は、大量生産が可能な高純度の硫化リチウムを得ることができる硫化リチウムの製造方法を提供することにある。
ただし、上記目的は例示的なものであり、本発明の技術的思想はこれに限定されるものではない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、a)水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、b)a)段階後、反応器の内部圧力が常圧に戻ると、再び前記反応液に硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、c)b)段階後、前記反応液の有機溶媒を除去して一次反応物を得る段階と、d)前記一次反応物を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、e)d)段階後、真空ポンプを介して反応副生成物である水を除去した後、再び硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、を含む、硫化リチウムの製造方法に関する。
【0012】
前記一態様において、前記a)段階及びb)段階は、互いに独立して100~150℃の反応温度で行われることができる。
前記一態様において、前記有機溶媒は、芳香族有機溶媒、アミド系有機溶媒及び硫黄含有有機溶媒の中から選択される2種以上の混合溶媒であってもよい。具体的には、例えば、前記芳香族有機溶媒は、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、アルキルビフェニル及びジアルキルビフェニルの中から選択される1種以上であり、前記アミド系有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の中から選択される1種以上であってよく、前記硫黄含有有機溶媒は、アルキレンサルファイト、ジアルキルサルファイト、ジアリールサルファイト及びアルキルアリールサルファイトの中から選択される1種以上であるスルファイト(sulfite)系溶媒であってもよい。
【0013】
前記一態様において、前記混合溶媒は、芳香族有機溶媒:硫黄含有有機溶媒の体積比が1:0.1~10であってもよい。
前記一態様において、前記反応液中の水酸化リチウム(LiOH)の濃度は、0.1~10Mであってもよい。
前記一態様において、前記b)段階は、10~100回繰り返し行われてもよい。
前記一態様において、前記d)段階及びe)段階は、互いに独立して100~150℃の反応温度で行われてもよい。
前記一態様において、前記d)段階及びe)段階は、硫化水素(H2S)ガスと共に不活性ガスがさらに注入されるものであってもよく、具体的には、例えば、前記不活性ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)及び窒素(N2)の中から選択される1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る硫化リチウムの製造方法は、湿式工程によって水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を硫化水素と一次反応させた後、これから得られた一次反応物を乾式工程によって再び硫化水素と二次反応させて硫化リチウムを製造することにより、大量生産が可能な高純度の硫化リチウムを提供することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1によって湿式及び乾式工程で製造された硫化リチウム(Li
2S)のX線回折(XRD)パターン分析結果である。
【
図2】比較例1によって湿式工程で製造された硫化リチウム(Li
2S)のX線回折(XRD)パターン分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る湿式及び乾式工程による高純度硫化リチウムの製造方法について詳細に説明する。以下に紹介される図面は、当業者に本発明の思想が十分に伝達できるように例として提供されるものである。したがって、本発明は、以下に提示される図面に限定されず、他の形態で具体化されてもよく、以下に提示される図面は、本発明の思想を明確にするために誇張されて示されてもよい。このとき、使用される技術用語及び科学用語において他の定義がなければ、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明及び添付図面において本発明の要旨を不要に不明確にするおそれのある公知の機能及び構成についての説明は省略する。
【0017】
本発明の一態様は、a)水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、b)a)段階後、反応器の内部圧力が常圧に戻ると、再び前記反応液に硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、c)b)段階後、前記反応液の有機溶媒を除去して一次反応物を得る段階と、d)前記一次反応物を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、e)d)段階後、真空ポンプを介して反応副生成物としての水を除去した後、再び硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返し行う段階と、を含む、硫化リチウムの製造方法に関する。
【0018】
このように、本発明に係る硫化リチウムの製造方法は、湿式工程によって水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を硫化水素と一次反応させた後、これから得られた一次反応物を乾式工程によって再び硫化水素と二次反応させて硫化リチウムを製造することにより、大量生産が可能な高純度の硫化リチウムを提供することができるという利点がある。
【0019】
以下、本発明の一例に係る硫化リチウムの製造方法の各段階についてより詳細に説明する。
まず、a)水酸化リチウム(LiOH)及び有機溶媒を含む反応液を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階を行うことができる。
【0020】
本発明の一例において、前記反応液は、有機溶媒に水酸化リチウムを溶解させたものであり、具体的な一例示として、前記有機溶媒は、芳香族有機溶媒、アミド系有機溶媒及び硫黄含有有機溶媒の中から選択される2種以上の混合溶媒であってもよい。好ましくは、芳香族有機溶媒と硫黄含有有機溶媒とを混合した混合溶媒を反応溶媒として使用するとき、水酸化リチウムと硫化水素との反応がより活性化されて硫化リチウムを効果的に合成することができ、純度をさらに向上させることができる。
【0021】
具体的な一例示として、前記芳香族有機溶媒は、アルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、アルキルビフェニル及びジアルキルビフェニルの中から選択される1種以上であってもよく、このとき、前記アルキルは、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルキル基を意味するものであってもよい。より具体的には、例えば、前記芳香族有機溶媒は、トルエン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、メチルナフタレン、ジメチルナフタレン、エチルビフェニル及びジエチルビフェニルなどから選択される1種以上であってもよい。このとき、アルキル基が2つである場合、前記芳香族溶媒は、オルソ(ortho)、メタ(meta)及びパラ(para)のいずれかであってもよい。
【0022】
前記アミド系有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N´-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルホスホアミド(HMPA)及びN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)の中から選択される1種以上であってもよい。
【0023】
また、前記硫黄含有有機溶媒は、アルキレンサルファイト、ジアルキルサルファイト、ジアリールサルファイト及びアルキルアリールサルファイトの中から選択される1種以上のサルファイト(sulfite)系であってもよい。このとき、前記アルキルまたはアルキレンは、炭素数1~6、好ましくは炭素数1~3のアルキル基またはアルキレン基を意味するものであってもよく、アリールは、炭素数6~20のアリール基を意味するものであってもよい。より具体的には、例えば、前記サルファイト(sulfite)系溶媒は、エチレンサルファイト、プロピレンサルファイト、ブチレンサルファイト、ジメチルサルファイト、ジエチルサルファイト、ジプロピルサルファイト、ジブチルサルファイト、メチルフェニルサルファイト、エチルフェニルサルファイト、メチルベンジルサルファイト、及びエチルベンジルサルファイトなどから選択される1種以上であってもよい。
【0024】
しかも、前述したように、芳香族有機溶媒と硫黄含有有機溶媒とを混合した混合溶媒を反応溶媒として使用する際に、水酸化リチウムと硫化水素との反応がより活性化されて硫化リチウムを効果的に合成することができ、純度をさらに向上させることができるので、芳香族有機溶媒と硫黄含有有機溶媒とを混合した混合溶媒を反応溶媒として使用することが好ましい。
【0025】
具体的な一例示として、前記混合溶媒は、芳香族有機溶媒:硫黄含有有機溶媒の体積比が1:0.1~10であってもよく、好ましくは1:0.2~3であってもよく、さらに好ましくは1:0.3~1であってもよい。このような範囲で反応活性化効果に優れる。
【0026】
一方、前記反応液中の水酸化リチウム(LiOH)の濃度は、0.1~10Mであってもよく、好ましくは1~5Mであってもよい。このような範囲で水酸化リチウムと硫化水素とがよく反応して硫化リチウムがよく合成できる。
【0027】
また、本発明の一例において、前記a)段階は、100~150℃の反応温度で行われてもよく、好ましくは110~130℃の反応温度で行われてもよい。このような範囲で水酸化リチウムと硫化水素とがよく反応して硫化リチウムがよく合成できる。
【0028】
また、前記常圧は、1~1.5気圧を意味するものであってもよく、好ましくは1~1.2気圧を意味するものであってもよい。常圧より高い圧力は、1.5気圧よりも高い圧力、例えば2~10気圧を意味するものであってもよい。
【0029】
次に、b)a)段階後、反応器の内部圧力が常圧に戻ると、再び前記反応液に硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返す段階を行うことができる。
【0030】
すなわち、a)段階で硫化水素ガスを注入した後、硫化リチウムの合成によって反応器の内部圧力が常圧レベル(1~1.5気圧)に再び低くなると、再び硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返すことができ、好ましくは10~100回、より好ましくは30~50回繰り返すことができる。このように硫化水素ガスを注入し、再反応させる過程を数回繰り返すことにより、水酸化リチウムの大部分を硫化リチウムに転換することができる。
【0031】
このとき、b)段階も、100~150℃の反応温度で行われることができ、好ましくは110~130℃の反応温度で行われることができる。このような範囲で水酸化リチウムと硫化水素とがよく反応して硫化リチウムがよく合成できる。
【0032】
次に、c)b)段階後、前記反応液の有機溶媒を除去して一次反応物を得る段階を行うことができる。有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、例えば、蒸発乾燥方法によって有機溶媒を除去することができる。
【0033】
その後、一次反応物に少量残された未反応水酸化リチウムを完全に硫化リチウムに転換するために、乾式工程をさらに行うことができ、具体的には、d)前記一次反応物を100℃以上に昇温させた後、硫化水素(H2S)ガスを注入して常圧よりも高い圧力下で反応させる段階と、e)d)段階後、真空ポンプを介して反応副生成物としての水を除去した後、再び硫化水素(H2S)ガスを注入し、再反応させる過程を1回以上繰り返す段階と、を行うことができる。
【0034】
このとき、前記d)段階及びe)段階は、互いに独立して100~150℃の反応温度で行われることができ、好ましくは120~140℃の反応温度で行われることができる。このような範囲で未反応の水酸化リチウムと硫化水素とがよく反応して高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0035】
また、本発明の一例において、前記d)段階及びe)段階は、硫化水素(H2S)ガスと共に不活性ガスがさらに注入できる。このとき、前記不活性ガスは、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)及び窒素(N2)などから選択される1種以上であってもよい。
【0036】
また、前記硫化水素(H2S)ガス:不活性ガスの体積比は、1:0.1~10であってもよく、好ましくは硫化水素(H2S)ガス:不活性ガスの体積比は1:0.5~3であってもよい。このような範囲で未反応の水酸化リチウムと硫化水素とがよく反応して高純度の硫化リチウムを得ることができる。
【0037】
一方、硫化水素ガスを注入し、再反応させる過程の後には、反応副生成物として生成された水を除去する過程を必ず行わなければならず、水を除去しないとき、未反応の水酸化リチウムが不純物として残ることがある。このとき、水の除去方法は、特に限定されず、例えば真空ポンプを介して除去することができる。
【0038】
前記e)段階は、サイトグラスを介した観察の際に水分が結ばないときまで繰り返し行われることができ、反応完了後、硫化リチウムは、グローブボックスで得ることが好ましい。
【0039】
このように、a)段階~c)段階の湿式工程後、d)段階~e)段階の乾式工程を行うことにより、高純度の硫化リチウムを大量に生産することができる。このとき、高純度硫化リチウムの純度は、99.9%以上、好ましくは99.93%以上、さらに好ましくは99.95%以上であってもよい。さらに、純度の上限は100であってもよく、現実的には99.999%であってもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明に係る湿式及び乾式工程による高純度硫化リチウムの製造方法についてさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための1つの参照に過ぎず、本発明がこれに限定されるものではなく、様々な形態で実現できる。
【0041】
また、他に定義されない限り、すべての技術的用語及び科学的用語は、本発明の属する当業者の一つによって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において説明に使用される用語は、特定の実施例を効果的に記述するためであり、本発明を限定するものではない。また、明細書に特に記載していない添加物の単位は、重量%であり得る。
【0042】
[実施例1]湿式+乾式
2Lの反応器にp-キシレン350ml、エチレンサルファイト150ml及び水酸化リチウム(LiOH)25gを加えた後、110℃まで昇温させた。110℃に温度が到達すると、反応器に硫化水素(H2S)4Lを注入し、50rpmで撹拌しながら2LのH2Sを追加注入した。過注入されたH2Sによって上昇した圧力が常圧(1気圧)になるまで攪拌し続け、再び2LのH2Sを追加注入する過程を40回繰り返し行った。
【0043】
その後、蒸発乾燥方法を用いて混合溶媒を除去及び乾燥させて一次反応物を得た後、乾燥した一次反応物から未反応のLiOHを除去するために、2Lの反応器に一次反応物を添加した後、130℃、50rpmで撹拌しながら、5Lのアルゴン(Ar)及び7LのH2Sを注入し、注入後1分間反応させた後、反応副生成物としての水と残ったガスを真空によって除去した。この過程を、サイトグラスを介した観察の際に水分が結ばないまで繰り返し行った。反応完了後、硫化リチウム(Li2S)をグローブボックスから得た。
【0044】
[実施例2]
溶媒としてp-キシレン500mlを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
[実施例3]
溶媒としてp-キシレン400mlとエチレンサルファイト100mlを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
[実施例4]
溶媒としてp-キシレン250mlとエチレンサルファイト250mlを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
[実施例5]
溶媒としてp-キシレン150mlとエチレンサルファイト350mlを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
[実施例6]
エチレンサルファイト500mlを用いた以外は、実施例1と同様にして行った。
【0045】
[比較例1]湿式
2Lの反応器にp-キシレン350ml、エチレンサルファイト150ml及びLiOH25gを添加した後、110℃まで昇温させた。110℃に温度が到達すると、反応器に4LのH2Sを注入し、50rpmで撹拌しながら2LのH2Sを追加注入した。過注入されたH2Sによって上昇した圧力が常圧(1気圧)になるまで攪拌し続け、再び2LのH2Sを追加注入する過程を40回繰り返し行った。
その後、蒸発乾燥方法を用いて混合溶媒を除去及び乾燥させて硫化リチウム(Li2S)を得た。
【0046】
[比較例2]乾式
2Lの反応器にLiOH25gを投入した後、50rpmで攪拌しながら5LのAr及び7LのH2Sを注入し、注入後1分間反応させた後、反応副生成物としての水と残ったガスを真空によって除去した。この過程を、サイトグラスを介した観察の際に水分が結ばないまで繰り返し行った。反応完了後、硫化リチウム(Li2S)をグローブボックスから得た。
【0047】
[特性評価]
実施例1及び比較例1によって製造された硫化リチウム(Li
2S)についてX線回折(XRD)パターンを分析し、その結果を
図1及び
図2に示した。
図1を参照すると、本発明によって湿式工程と乾式工程の両方を行った実施例1の場合、不純物なしに高い純度で硫化リチウムが合成されたことを確認することができた。
一方、
図2を参照すると、湿式工程のみで製造された比較例1の最終収得物の場合、未反応の水酸化リチウム(LiOH)が多少多く残っていることが分かったとともに、硫化リチウムや水酸化リチウム以外の他の不純物のピークも検出されて純度が多く低下することを確認することができた。
【0048】
実施例1~6及び比較例2によって製造された硫化リチウム(Li2S)について誘導結合プラズマ分光分析法(ICP-OES)及びEDAX(Energy Dispersive analysis of X-ray)によって純度を分析した。このとき、各3つの分析試料について純度を分析した後、その平均値を取って下記表1に示した。
【0049】
【0050】
前記表1を参照すると、p-キシレンとエチレンサルファイトとを混合使用する際に純度がさらに優れることを確認することができる。特に、p-キシレン:エチレンサルファイトの混合比(体積比)が1:0.2~3であるときよりも高純度の硫化リチウムを製造することができることを確認することができた。
【0051】
以上のように特定された事項と限定された実施例によって本発明が説明されたが、これは、本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものに過ぎず、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の属する分野における通常の知識を有する者であれば、このような記載から様々な修正及び変形が可能である。
【0052】
したがって、本発明の思想は、説明された実施例に限定されてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、この特許請求の範囲と均等または等価的な変形がある全てのものは、本発明の思想の範疇に属するというべきである。
【国際調査報告】