(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/06 20060101AFI20240621BHJP
A01G 22/22 20180101ALI20240621BHJP
【FI】
A01G7/06 A
A01G22/22 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023570053
(86)(22)【出願日】2023-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 CN2023100679
(87)【国際公開番号】W WO2023202729
(87)【国際公開日】2023-10-26
(31)【優先権主張番号】202210447145.0
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514262886
【氏名又は名称】江南大学
【氏名又は名称原語表記】JIANGNAN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No. 1800 Lihu Avenue, Bin Hu District, Wuxi, Jiangsu, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】王震宇
(72)【発明者】
【氏名】王伝洗
(72)【発明者】
【氏名】楽楽
(72)【発明者】
【氏名】曹雪松
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022EA01
(57)【要約】
本発明は、分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法を開示し、ナノ農業の技術分野に属する。本発明の前記方法は、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用することであり、球状Se NMsは、サイズが10~90nm、水和半径が160~200nm、表面電荷が-15~-18mV、純度が95%以上であり、水稲苗期とは、水稲が「1芯3葉(3枚葉が伸びきったが、4枚葉が出葉したばかり)」に達する時期を指し、球状Se NMs溶液は、濃度1~3mg/Lの球状Se NMs水溶液である。本発明の方法は、水稲の根圏微生物群集を著しく改善し、根系分泌物を増加させ、土壌環境を変化させ、根による養分の吸収を促進することができ、水稲中のSe含有量を著しく高め、水稲によるジベレリンの合成を制御し、分げつ遺伝子の発現をアップレギュレーションすることができ、水稲植物体の分げつ数を著しく増加させることができ、水稲の収穫量を増加させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法であって、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記球状Se NMsは、サイズが10~90nm、水和半径が160~200nm、表面電荷が-15~-18mV、純度が95%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記球状Se NMs溶液は、濃度1~3mg/Lの球状Se NMs水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水稲苗期とは、水稲が「1芯3葉」に達する時期であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記球状Se NMs溶液の施用量が、0.5~2mL/株であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記球状Se NMs溶液は、具体的には、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、5~7日間おきに、1~5回に分けて施用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記球状Se NMsの調製方法は、
セレン源と還元剤を混合して十分に粉砕し、赤いペーストにすると、粉砕を停止するステップ(1)と、
ステップ(1)で粉砕して得た赤いペーストに水を加えて分散させるステップ(2)と、
ステップ(2)で得た溶液を容器に入れて、それに表面修飾剤を滴下し、超音波処理を行い、処理完了後、遠心分離し、得た上澄み液と沈殿をそれぞれ凍結乾燥し、最終的に、球状Se NMsを得るステップ(3)とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法の農業分野における使用。
【請求項9】
水稲中のセレン含有量の向上方法であって、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記球状Se NMsは、サイズが10~90nmであり、前記水稲苗期は、水稲が「1芯3葉」に達する時期であり、前記球状Se NMs溶液は、濃度1~3mg/Lの球状Se NMs水溶液であり、前記球状Se NMs溶液の施用量は、0.5~2mL/株であり、前記球状Se NMs溶液は、具体的には、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、5~7日間おきに、1~5回に分けて施用されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法に関し、ナノ農業の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
セレン(Se)は、人体内のグルタチオンペルオキシダーゼの構成元素及び多種の酵素活性を維持する重要な成分であり、人体内で抗酸化、抗癌及び免疫力向上などの機能を有する。食物由来のSe補給は人体のSe供給を満足させる主要な手段の1つである。
【0003】
Seリッチ水稲は、現在、人体がSeを摂取する主な経路の1つで、その経済価値も普通の水稲より1~5倍高い。現在、Seリッチ水稲を生産する主な方法は、セレン酸ナトリウムや亜セレン酸ナトリウムなどのSe肥料を土壌に施肥することである。しかし、これらの伝統的なSe肥料の利用効率は20%に満たず、大量のSe肥料が残存しており、深刻な土壌環境問題を引き起こしている。セレン肥料としてゼロ価セレンを施用するものもあるが、ゼロ価セレンは不活性セレン鉱であり、親水性が低く、バイオアベイラビリティが低いという欠点がある。セレン肥料としてナノセレンを施用するものもあるが、ナノセレンは、純度が低く、肥料には他の多種類の成分(安定剤や抗菌剤など)が含まれており、植物や土壌環境に不必要な影響を与える。
【0004】
また、現在、セレンリッチ水稲に対する研究は主に水稲のセレンリッチ化効果に集中している。ある研究報告によると、Seナノ材料であるSe NMsは植物のカルス組織器官の形成と根系の成長を促進し、作物の光合成作用と収穫量を増加させ、作物の栄養品質(Se含有量、可溶性糖、可溶性タンパク質、抗酸化酵素活性など)を高めることができる。しかし、これらのメカニズム研究は、双子葉植物のモヤシやタバコなどを対象としており、単子葉植物である水稲は、性状が極めて大きく異なっており、生育環境から言えば、両者の区別度は大きく、前者と異なり、水稲は水田作物であり、ライフサイクルに亘って乾湿交替の状況がある。前者より後者の収穫量については、成熟期の果実の研究に重点が置かれており、さらに重要なことに、分げつ期での成長が水稲にとって極めて重要であるが、モヤシやタバコなどの植物には分げつの需要がないため、モヤシやタバコなどの植物の成長効果から水稲の分げつ効果を直接期待することはできない。
【0005】
また、水稲の収穫量を高めるのは一般的に農業用化学肥料の施肥量の増加と微生物肥料の提供によって実現され、その中で、化学肥料の施肥は、水稲により多くの有効な養分を供給することができて、水稲の成長を促進して、収穫量を高めることができ、微生物肥料の施肥は、根圏土壌により多くの善玉菌を供給することができ、いもち病などの発生率を減少させ、水稲の収穫量を確保することができる。しかし、既存のこれらの方法には、いずれも欠点があり、化学肥料に過度に依存すると環境汚染が深刻になり、土壌構造が悪化し、「肥料焼け」などの現象が起こる恐れがある一方、微生物肥料に過度に依存すると土壌中の微生物群集の大きな変化を引き起こし、作物の生長に悪影響を及ぼす恐れがある。現在、水稲の分げつ期の性状をどのように影響して水稲の収穫量を高めるかについての研究は比較的に少なく、しかも水稲の分げつ期の関連する制御機序はまだ明解されていない。
【0006】
近年、Seナノ材料(Se NMs)は、高い活性を持つので、Se肥料として注目、認知されつつある。しかし、どのような条件下でSe NMsが安定的かつ効率的に水稲の成長を促進し、Seの含有量を増加させることができるかについて言及した文献はない。また、Se NMsの施用量が作物内でのSe蓄積にどのように影響するかについても言及していない。Se NMsが水稲のホルモンレベル、遺伝子発現及び根圏環境を制御し、養分の利用有効性を高め、水稲の分げつ及び成長を促進することによって、セレンリッチ水稲の収穫量を増加できるか否かについても言及されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在、セレンリッチ水稲の製造には、セレン酸ナトリウム及び複合肥料を採用する必要があり、そのセレンリッチ化効果が悪く、環境汚染をもたらしやすく、また、収穫量を増加させる効果が明らかではなく、分げつの効果については全く言及されていない。
【0008】
上記の問題の少なくとも1つを解決するために、本発明は、分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法を提供し、Seリッチ水稲を生産するためのSeナノ肥料の粒径、施用量、施用時期や施用方式などの要素、及び根圏環境、重要な遺伝子、ホルモンレベルなどの要素による重要な作用を明らかにし、土壤による養分の吸収効率を高め、水稲の有効分げつ数を増加させることによって、セレン含有量を増加させるという目的を達成させる。本発明は、水稲苗期において合成Seナノ肥料を葉面に施用することで、土壤微生物群集の構造や根系分泌物の発生を著しく改善し、養分の吸収を促進し、水稲の有効分げつを促進し、収穫量を増加させつつ、水稲へのSeの富化を促進することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の目的は、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用する、分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法を提供することである。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態では、前記球状Se NMsは、サイズが10~90nm、さらに好ましくは40~60nm、水和半径が160~200nm、表面電荷が-15~-18mV、純度が95%以上である。
【0011】
本発明のいくつかの実施形態では、前記球状Se NMs溶液は、濃度1~3mg/Lの球状Se NMs水溶液である。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態では、前記球状Se NMs溶液の施用量は、0.5~2mL/株である。
【0013】
本発明のいくつかの実施形態では、前記球状Se NMs溶液は、具体的には、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、5~7日間おきに、1~5回に分けて施用される。
【0014】
本発明のいくつかの実施形態では、前記水稲苗期は、水稲が「1芯3葉」に達する時期である。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態では、前記球状Se NMsの調製方法は、特許CN112010271Aに記載されており、具体的には、
セレン源と還元剤を混合して十分に粉砕し、赤いペーストにすると、粉砕を停止するステップ(1)と、
ステップ(1)で粉砕して得た赤いペーストに水を加えて分散させるステップ(2)と、
ステップ(2)で得た溶液を容器に入れて、それに表面修飾剤を滴下し、超音波処理を行い、処理完了後、遠心分離し、得た上澄み液と沈殿をそれぞれ凍結乾燥し、最終的に、球状Se NMsを得るステップ(3)と、を含み、
ステップ(1)における前記セレン源は、二酸化セレン、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸、セレン酸ナトリウムのうちのいずれか1種又は複数種の組み合わせであり、前記還元剤は、アスコルビン酸、クエン酸、スクロース、フルクトースのうちのいずれか1種又は複数種の組み合わせであり、前記セレン源と還元剤とのモル比が、1:2であり、
ステップ(3)における前記表面修飾剤は、ポリビニルピロリドン、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デキストラン、キトサンのうちのいずれか1種であり、前記表面修飾剤の添加量は、Se源と還元剤との全質量の5~25%を占め、前記表面修飾剤の添加量は、Se源と還元剤との全質量の10%~15%を占め、前記超音波処理は、温度が18~25℃、電力が100~500W、時間が30~120minである。
【0016】
本発明のいくつかの実施形態では、前記方法は、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用し、前記水稲苗期は、水稲が「1芯3葉」に達する時期であり、前記球状Se NMsは、サイズが40~90nm、水和半径が160~200nm、表面電荷が-15~-18mV、純度が95%以上であり、前記球状Se NMs溶液は、濃度1~2mg/Lの球状Se NMs水溶液であり、前記球状Se NMs溶液の施用量は、1~2mL/株であり、前記球状Se NMs溶液は、具体的には、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、5~7日間おきに、1~5回に分けて施用される。
【0017】
前記球状Se NMsの調製方法は、
セレン源と還元剤を混合して十分に粉砕し、赤いペーストにすると、粉砕を停止するステップ(1)と、
ステップ(1)で粉砕して得た赤いペーストに水を加えて分散させるステップ(2)と、
ステップ(2)で得た溶液を容器に入れて、それに表面修飾剤を滴下し、超音波処理を行い、処理完了後、遠心分離し、得た上澄み液と沈殿をそれぞれ凍結乾燥し、最終的に、球状Se NMsを得るステップ(3)と、を含み、ステップ(1)における前記セレン源は、二酸化セレン、亜セレン酸ナトリウム、亜セレン酸、セレン酸ナトリウムのうちのいずれか1種又は複数種の組み合わせであり、前記還元剤は、アスコルビン酸、クエン酸、スクロース、フルクトースのうちのいずれか1種又は複数種の組み合わせであり、ステップ(3)における前記表面修飾剤は、ポリビニルピロリドン、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デキストラン、キトサンのうちのいずれか1種である。本発明の第2の目的は、本発明の前記方法の農業分野における使用である。
【0018】
本発明の第3の目的は、水稲苗期において球状Se NMs溶液を葉面に施用する水稲中のセレン含有量の向上方法であって、前記球状Se NMsは、サイズが10~90nmであり、前記水稲苗期は、水稲が「1芯3葉」に達する時期であり、前記球状Se NMs溶液は、濃度1~3mg/Lの球状Se NMs水溶液であり、前記球状Se NMs溶液の施用量は0.5~2mL/株であり、前記球状Se NMs溶液は、具体的には、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、5~7日間おきに、1~5回に分けて施用される、方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有益な効果は以下の通りである。
【0020】
(1)本発明の分けつ増加、セレンリッチ化促進のメカニズムは以下の通りである:Se NMsは根圏環境中の根系分泌物の含有量を高めて土壌環境を改善し、根系分泌物を炭素源として更に多くの有益な微生物を集めることができ、水稲の根の成長を促進し、土壌養分の有効性を高め、水稲のセレンリッチ化効率を高めることができ、水稲中のジベレリンレベル及び分げつ遺伝子の発現を制御し、水稲の分げつ数を増加させることができる。
【0021】
(2)本発明の方法は、水稲の根圏環境群集を著しく改善し、根からの分泌物を増加させ、土壌環境を変化させ、根からの養分(N)の吸収を促進することができ、水稲中のSe含有量を著しく高め、セレン肥料を加えない植物体に比べて1.5倍以上高めることができ、水稲によるジベレリンの合成を制御し、分げつ遺伝子の発現をアップレギュレーションすることができ、水稲植物体の分げつ数を著しく増加させ、セレン肥料を加えない植物体に比べて1.5倍以上増加させることができ、その収穫量を増加させ、セレン肥料を加えない植物体に比べて1.4倍以上増加させることができる。
【0022】
(3)本発明に用いるSeナノ材料(Se NMs)は、従来のゼロ価セレン、ナノセレン肥料と比較して、純度が高く、親水性が高く、バイオアベイラビリティが高く、他の不純物を含まない等の利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1におけるSe NMsのTEM写真である。
【
図2】実施例2及び比較例1における水稲の根部のN含有量の比較である。
【
図3】実施例2及び比較例1における水稲中のSe含有量の比較である。
【
図4】実施例2及び比較例1における水稲の有効分げつ数の比較である。
【
図5】実施例2及び比較例1における水稲の収穫量の比較である。
【
図6】実施例2及び比較例1における水稲の根系微生物の違いである。
【
図7】実施例2及び比較例1における水稲の根系分泌物の変化である。
【
図8】実施例2及び比較例1における水稲のジベレリン含有量の変化であり、AはGA1の含有量、BはGA4の含有量である。
【
図9】実施例2及び比較例1における水稲の分げつ遺伝子の含有量の変化である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施例について説明するが、実施例は本発明をより良く説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではないことが理解されるべきである。
【0025】
試験方法:
1、Se及び窒素の含有量の測定
Se含有量:完全に乾燥した水稲の米粒サンプルを粉砕した後、均一に混合して篩(60メッシュ)にかけ、一定の質量のサンプルを消化管に秤量し、硝酸を加えた後、消化管を密封し、マイクロ波消化器に入れて消化した。消化が完了した後、サンプルをろ過し、誘導結合プラズマ質量分析計を用いて試験した。
【0026】
窒素含有量:完全に乾燥した水稲の根系サンプルを粉砕した後、均一に混合して篩(60メッシュ)にかけ、一定の質量のサンプルを錫ボートに秤量して包み、元素分析器を用いて測定した。
【0027】
2、根圏微生物の測定
採取した新鮮な土壌サンプルを直ちに液体窒素で冷凍し、土壌2gを採取して均一に粉砕した後、遠心分離管に入れ、16S rRNA遺伝子標準法を用いて土壌中の微生物を測定した。
【0028】
3、根系分泌物の測定
採取した新鮮な土壌サンプルを直ちに液体窒素で冷凍し、土壌サンプル1gを採取して液体窒素の中で均一に粉砕してから、2ml遠心分離管に入れ、抽出液(80%メタノール水溶液(0.1%ギ酸と内部標準物質を含む)1.5mlを加えて、4℃の冷蔵庫に置いて予冷保存し、均一にボルテックスした。氷浴で超音波処理を30min(35kHz)行った。その後、4℃、12000rpmの条件で15min遠心分離し、上澄み液を回転蒸発濃縮器(コールドトラップに接続)で真空回転乾燥し、200μLのメタノールアセトニトリル水(4:4:2)で再溶解し、4℃、12000rpmの条件で10min遠心分離し、上澄み液を得た。上澄み液を4℃環境に置いて一時保存し、それから、処理したサンプルを機器でテストし、長期保存する場合は-20℃に置く必要がある。
【0029】
器具型番:Thermo Scientific UPLC Vanquish。
移動相:
水相A:0.1%ギ酸水溶液 有機相B:0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
移動相流量:0.35ml/min
注入量:5μL
カラム温度:35℃
カラムタイプ:ACQUITY UPLC HSS T3 (2.1×100mm, 1.8μm)。
【0030】
4、水稲ホルモンの測定
イソプロピルアルコール/水/塩酸溶液を用いて、液体水稲から内因性ホルモンを抽出し、ジクロロメタンによる抽出と窒素パージによるサンプル濃縮を行い、液相-質量分析法(ESI-HPLC-MS/MS)を用いて測定した。
【0031】
5、水稲の分げつ遺伝子の測定
DNAポリメラーゼ連鎖反応により分げつの重要な遺伝子を測定した。まず、RNA抽出キットを用いて総RNAを抽出し、次いで逆転写キットを用いてDNAテンプレートを得た。最後にDNAテンプレート、蛍光プローブ及び分げつ遺伝子プライマーをキットの方法に従って混合し、DNAポリメラーゼ連鎖反応装置を用いて試験を行った。
【0032】
6、分げつ数の試験
水稲は、一般的に、田植え後1カ月で分げつを開始し、1カ月程度持続する。田植え後60日目に稲の分げつ数の値を取り、「Z」字型サンプリング法を用いて田畑に5つのサンプリングポイントを設定し、各サンプリングポイントから10個のデータ、計50個のデータを選び、平均値を取った。
【0033】
7、収穫量の試験
一般に、収穫期の水稲1株当たりの米粒重量を本発明の水稲の収穫量の値とする。
【0034】
実施例1
球状Se NMsの調製方法は、下記のステップを含む。
【0035】
(1)両方のモル比が1:2となるように二酸化セレン0.11gとアスコルビン酸0.36gを秤量し、乳鉢に入れて、混合後、20℃で1~10minかけて十分に粉砕し、赤いペーストにする。
【0036】
(2)ステップ(1)で粉砕して得た赤いペーストに脱イオン水を20mL加えて分散させる。
【0037】
(3)ステップ(2)で得た溶液を容器に入れて、それにポリビニルピロリドン(PVP)47mgを加え、20℃、300Wで超音波処理を60min行い、処理完了後、4℃、10000r/minで遠心分離し、得た沈殿を凍結乾燥し、最終的に、球状Se NMsを得る。
【0038】
得た球状Se NMsについて性能試験を行った結果を表1に示す。
【0039】
表1 球状Se NMsの特徴付け
実施例2
分げつの増加によるセレンリッチ水稲の収穫量向上方法は、下記のステップを含む。
【0040】
(1)江蘇省農業科学院からの水稲種子を苗床基地で栽培した。
【0041】
(2)「1芯2葉(2枚葉が伸びきったが、3枚葉が出葉したばかり)」期の水稲苗を、機械田植えにより、標準水田(栽培密度は1ムーあたり10,000本)に田植えした。
【0042】
(3)「1芯3葉」期まで10日栽培すると、実施例1の球状Se NMs水溶液1.5mg/Lを葉面に散布し、さらに140日間栽培した後、水稲を収穫し、散布量は1mL/株である。
【0043】
比較例1
実施例2における球状Se NMs溶液を水溶液に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0044】
実施例2及び比較例1の水稲について性能試験を行った結果は以下の通りである。
【0045】
図2は、実施例2及び比較例1における水稲の根部のN含有量の比較である。
図2から、Se NMs処理後の水稲の根部の窒素含有量が10%増加したことが分かり、水稲の養分供給が向上し、水稲の成長に寄与することが示唆された。
【0046】
図3は、実施例2及び比較例1における水稲中のSe含有量の比較である。
図3から、Se NMs処理後の水稲の米粒のセレン含有量が50%増加したことが分かり、本発明のセレンリッチ化技術は、価値があり、セレンリッチ化農産物の基準を満たしていることが示唆された。
【0047】
図4は、実施例2及び比較例1における水稲の有効分げつ数の比較である。
図4から、Se NMs処理後の水稲分げつ数が50%向上したことが分かり、水稲の成熟期に穂数が理論的に50%程度増加し、水稲の収穫量に大きく影響することが示唆された。
【0048】
図5は、実施例2及び比較例1における水稲の収穫量の比較である。
図5から、Se NMs処理後の水稲の収穫量が40%増加したことが分かり、これは分げつ数の増加によるものである。
【0049】
図6は、実施例2及び比較例1における水稲の根系微生物の違いである。
図6から、Se NMs処理により、根圏土壤中の有益な微生物が増加し、その中で、ハーバスピリルム属(Herbaspirillum sp.)の相対的存在量は88.7%、デスルフォビブリオ・プテアリス(Desulfovibrio putealis)の相対的存在量は29.2%、ジオバクター・ダルトニ(Geobacter daltonii)の相対的存在量は199.0%、アナエロミクソバクター属(Anaeromyxobacter sp.)の相対的存在量は144.8%増加し、それは、水稲の根系の成長、水稲による土壤養分の取得能力の向上に有利である。
【0050】
図7は、実施例2及び比較例1における水稲の根系分泌物の変化である。
図7から、Se NMs処理後の水稲では、根圏土壌中の低分子量有機質含有量は増加し、その中で、ピルビン酸(Pyruvic acid)の相対的存在量は58.9%、フェニルアラニン(L-Phenylalanine)の相対的存在量は607.4%、クエン酸(Citric acid)の相対的存在量は584.8%増加し、これは、土壌中の酸・アルカリのバランスの調節に役立ち、土壌養分の有効性を高め、水稲の成長を促進する。
【0051】
図8は、実施例2及び比較例1における水稲中のジベレリン含有量の変化であり、AはGA1の含有量、BはGA4の含有量である。
図8から、Se NMs処理後の水稲では、ジベレリンレベルの変化が認められ、分げつ期のジベレリン(GA1とGA4)含有量が上昇すると、水稲の分げつ数を下げ、さらに収穫量を下げ、Se NMsは水稲のジベレリンレベルを下げ、これは、水稲の分げつ数を上げ、水稲の収穫量を向上させるのに役立つ。
【0052】
図9は、実施例2及び比較例1における水稲の分げつ遺伝子の含有量の変化である。
図9から、Se NMs処理後の水稲では、分げつ遺伝子(MOC1、TB1、OSH1)の相対発現量が上昇することが分かり、水稲の分げつ数が増加し、最終収穫量が増加することが示唆された。
【0053】
比較例2
実施例2における球状Se NMs溶液を、濃度がセレン含有量1.5mg/Lの亜セレン酸ントリウム溶液に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0054】
比較例3
実施例2における球状Se NMsを市販のゼロ価セレン(純度99%、20μm)に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0055】
比較例4
実施例2における球状Se NMsを市販のフレーク状ナノセレン(純度90%、長さ200nm、幅90nm)に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0056】
比較例5
実施例2における球状Se NMsを市販のワイヤ状ナノセレン(純度90%、長さ1μm、直径20nm)に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0057】
比較例6
実施例2における球状Se NMsを市販の球状Se NMs(純度80%、直径80nm)に変更した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0058】
実施例2、比較例1~6の水稲について試験した結果を以下に示す。
【0059】
表2 実施例2及び比較例1~6の試験結果
実施例3
特許CN112010271Aに記載の球状Se NMs合成方法を参照して、実施例1における球状Se NMsの粒径を10nm、40nm、100nm、200nmにして、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0060】
得た水稲について試験した結果を以下に示す。
【0061】
表3 実施例3の試験結果
実施例4
実施例2における球状Se NMs溶液の施用量を0.5、1.5、及び2mL/株に調整した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0062】
得た水稲について試験した結果を以下に示す。
【0063】
表4 実施例4の試験結果
実施例5
実施例2における球状Se NMs溶液を、水稲が「1芯3葉」に達する時期から、7日間おきに、1、2、3、5回に分けて施用した以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0064】
表5 実施例5の試験結果
実施例6
実施例2における球状Se NMs溶液の施用濃度を1、2、及び3mg/Lにした以外、残りを実施例2と同様にして、水稲を得た。
【0065】
表6 実施例6の試験結果
本発明は、上記のようにより良い実施例で開示されてきたが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、あらゆる変更及び修飾を行うことができるので、本発明の保護の範囲は、特許請求の範囲で定義されたものに準ずるべきである。
【国際調査報告】