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特表2024-523151重み更新における直線性向上のための相変化メモリに基づくシナプス・デバイスのパルシング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】重み更新における直線性向上のための相変化メモリに基づくシナプス・デバイスのパルシング
(51)【国際特許分類】
   G11C 13/00 20060101AFI20240621BHJP
   G11C 11/54 20060101ALI20240621BHJP
   H10N 70/00 20230101ALI20240621BHJP
   H10B 63/10 20230101ALI20240621BHJP
【FI】
G11C13/00 480K
G11C13/00 210
G11C11/54
H10N70/00 A
H10B63/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023573343
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(85)【翻訳文提出日】2023-11-28
(86)【国際出願番号】 EP2022063616
(87)【国際公開番号】W WO2022268416
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】17/304,503
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】カーター、ファビオ
(72)【発明者】
【氏名】ブライトスキー、マシュー ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】キム、ワンキ
(72)【発明者】
【氏名】ブーヴィエ、マクサンス
(72)【発明者】
【氏名】キム、サンブン
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FZ10
5F083GA30
5F083JA60
5F083PR33
(57)【要約】
一実施形態によれば、相変化メモリ(PCM)セルの重み更新の直線性を向上させるための方法、コンピュータ・システム、およびコンピュータ・プログラム製品が提供される。本発明は、PCMセルの相変化材料を非晶質化させるためにRESETパルスを印加すること、RESETパルスを印加することに応答して、インキュベーション・パルスをPCMセルに印加すること、およびPCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加させるために複数の部分的SETパルスを印加することを含んでよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相変化メモリ(PCM)セルの重み更新の直線性を向上させるためのプロセッサ実施方法であって、前記方法は、
前記PCMセルを非晶質化させるためにRESETパルスを印加することに応答して、インキュベーション・パルスを前記PCMセルに印加すること、および
前記PCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加させるために複数の部分的SETパルスを印加すること
を含む、方法。
【請求項2】
閾値を満たし、または超える前記重み更新の分散に応じて、前記RESETパルス、前記インキュベーション・パルス、および/または前記部分的SETパルスの振幅および/または幅を修正すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記インキュベーション・パルスの振幅および幅は、前記PCMセルを備える相変化材料のインキュベーション時間に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記部分的SETパルスの振幅および/または幅は、分散の閾値レベルを下回る重み更新挙動を生み出すために予め決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の部分的SETパルスは、プレアニーリング・コンポーネントをさらに備える、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記プレアニーリング・コンポーネントの振幅および幅は、結晶成長速度を改善するために定式化される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
閾値を満たし、または超える前記重み更新の分散に応じて、前記PCMセルを非晶質化させるためにRESETパルスを印加すること
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
相変化メモリ(PCM)セルの重み更新の直線性を向上させるためのコンピュータ・システムであって、前記コンピュータ・システムは、
1つ以上のPCMセル、1つ以上のプロセッサ、1つ以上のコンピュータ可読メモリ、1つ以上のコンピュータ可読有形ストレージ媒体、および前記1つ以上のメモリの少なくとも1つを介した前記1つ以上のプロセッサの少なくとも1つによる実行のために前記1つ以上の有形ストレージ媒体の少なくとも1つの上に格納されたプログラム命令
を備え、前記コンピュータ・システムは、
前記PCMセルを非晶質化させるためにRESETパルスを印加することに応答して、インキュベーション・パルスを前記PCMセルに印加すること、および
前記PCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加させるために複数の部分的SETパルスを印加すること
を含む方法を行うことが可能である、
コンピュータ・システム。
【請求項9】
閾値を満たし、または超える前記重み更新の分散に応じて、前記RESETパルス、前記インキュベーション・パルス、および/または前記部分的SETパルスの振幅および/または幅を修正すること
をさらに含む、請求項8に記載のコンピュータ・システム。
【請求項10】
前記インキュベーション・パルスの振幅および幅は、前記PCMセルを備える相変化材料のインキュベーション時間に基づく、請求項8に記載のコンピュータ・システム。
【請求項11】
前記部分的SETパルスの振幅および/または幅は、分散の閾値レベルを下回る重み更新挙動を生み出すために予め決定される、請求項8に記載のコンピュータ・システム。
【請求項12】
前記複数の部分的SETパルスは、プレアニーリング・コンポーネントをさらに備える、請求項8に記載のコンピュータ・システム。
【請求項13】
前記プレアニーリング・コンポーネントの振幅および幅は、結晶成長速度を改善するために定式化される、請求項12に記載のコンピュータ・システム。
【請求項14】
閾値を満たし、または超える前記重み更新の分散に応じて、前記PCMセルを非晶質化させるためにRESETパルスを印加すること
をさらに含む、請求項8に記載のコンピュータ・システム。
【請求項15】
相変化メモリ(PCM)セルの重み更新の直線性を向上させるためのコンピュータ・プログラム製品であって、前記コンピュータ・プログラム製品は、
1つ以上のコンピュータ可読有形ストレージ媒体、および前記1つ以上の有形ストレージ媒体の少なくとも1つの上に格納されたプログラム命令
を備え、前記プログラム命令は、プロセッサに、
前記PCMセルを非晶質化させるためにRESETパルスを印加することに応答して、インキュベーション・パルスを前記PCMセルに印加すること、および
前記PCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加させるために複数の部分的SETパルスを印加すること
を含む方法を行わせるために、前記プロセッサによって実行可能である、
コンピュータ・プログラム製品。
【請求項16】
閾値を満たし、または超える前記重み更新の分散に応じて、前記RESETパルス、前記インキュベーション・パルス、および/または前記部分的SETパルスの振幅および/または幅を修正すること
をさらに含む、請求項15に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【請求項17】
前記インキュベーション・パルスの振幅および幅は、前記PCMセルを備える相変化材料のインキュベーション時間に基づく、請求項15に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【請求項18】
前記部分的SETパルスの振幅および/または幅は、分散の閾値レベルを下回る重み更新挙動を生み出すために予め決定される、請求項15に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【請求項19】
前記複数の部分的SETパルスは、プレアニーリング・コンポーネントをさらに備える、請求項15に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【請求項20】
前記プレアニーリング・コンポーネントの振幅および幅は、結晶成長速度を改善するために定式化される、請求項19に記載のコンピュータ・プログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、コンピューティングの分野に関し、より詳しくは相変化メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
相変化メモリ、またはPCMは、低電気抵抗を有する秩序結晶質相と、高電気抵抗をもつ無秩序非晶質相との間で迅速に変化し得る半導体合金を利用する一種の不揮発性ランダム・アクセス・メモリであり、セルの相を識別するためにPCMセルを通過する電流の抵抗を測定できて、セルが情報のビットを格納し、メモリとして機能することを可能にする。PCMは、材料のいずれの相を維持するためにも電力が必要とされないため、不揮発である。PCMは、フラッシュ・メモリとDRAMとの間の性能ギャップを埋めるためのストレージ・クラス・メモリの強い候補となる可能性を有し、なかでも、速度およびスケーラビリティ、不揮発性、ならびにパワー消費量において強力な利益を提供し得る。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態によれば、相変化メモリ(PCM)セルの重み更新の直線性を向上させるための方法、コンピュータ・システム、およびコンピュータ・プログラム製品が提供される。本発明は、PCMセルの相変化材料を非晶質化させるためにRESETパルスを印加すること、RESETパルスを印加することに応答して、インキュベーション・パルス(incubation pulse)をPCMセルに印加すること、およびPCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加させるために複数の部分的SETパルスを印加することを含んでよい。
【0004】
本発明のこれらおよび他の目的、特徴ならびに利点は、添付図面に関連して読まれるべきである例示的な実施形態の以下の詳細な記載から明らかになるであろう。説明図は、詳細な記載と併せて、当業者が本発明を理解することを容易にする際に明確にするため、図面の様々な特徴は、縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本発明の少なくとも1つの実施形態による相変化メモリ(PCM)に用いられる相変化材料の相変化サイクルを示す。
図2】本発明の少なくとも1つの実施形態によるPCMシナプス・デバイスを示す電気回路図である。
図3】現在の方法によるPCMセルの実際の重み更新挙動を示すグラフである。
図4】本発明の少なくとも1つの実施形態によるPCMセルの目標とする重み更新挙動を示すグラフである。
図5】本発明の少なくとも1つの実施形態による相変化更新プロセスを示す動作フローチャートである。
図6A】本発明の少なくとも1つの実施形態によるRESETパルス後のPCM「マッシュルーム」セルを描くダイアグラムである。
図6B】本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリングなしの部分的SETパルス後のPCM「マッシュルーム」セルを描くダイアグラムである。
図6C】本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリングありの部分的SETパルス後のPCM「マッシュルーム」セルを描くダイアグラムである。
図7】本発明の少なくとも1つの実施形態による、RESETおよびインキュベーション・パルスをそれぞれ示すグラフである。
図8】本発明の少なくとも1つの実施形態によるアニーリング・ステップありおよびなしの重み更新中のPCMセルのコンダクタンスにおける変化を示すグラフである。
図9A】本発明の少なくとも1つの実施形態による部分的SETパルスを示すグラフである。
図9B】本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリング・コンポーネントありの部分的SETパルスを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
請求される構造および方法の詳細な実施形態が本明細書に開示される。しかしながら、開示される実施形態は、様々な形態で具現されてよい請求される構造および方法を単に説明するに過ぎないと理解することができる。本発明は、しかしながら、多くの異なる形態で具現されてよく、本明細書に提示される例示的な実施形態に限定されると解釈すべきではない。本記載では、よく知られた特徴および技術の詳細は、提示される実施形態を不必要に曖昧にするのを避けるために省略されることがある。
【0007】
本発明の実施形態は、コンピューティングの分野に関し、より詳しくは相変化メモリに関する。以下に記載の例示的な実施形態は、RESET電圧を修正すること、ポストRESETアニーリング・パルスを印加すること、重み更新パルス幅および振幅を修正すること、および/またはプレアニーリング・パルスを重み更新パルスに加えることによって、とりわけ、重み更新の直線性および均一性を向上させるためのシステム、方法、およびプログラム製品を提供する。それゆえに、本実施形態は、PCMに印加された電気パルスがPCMの抵抗/導電率を変化させる一貫性および精度を改善し、PCMセルが非晶質相と結晶質相との間の中間状態を達成することを可能にして、それにより各PCMセルが格納することが可能な情報の量を改善することによって、相変化メモリの技術分野を改良する能力を有する。
【0008】
先に記載されたように、相変化メモリ、またはPCMは、低電気抵抗を有する秩序結晶質相と、高電気抵抗をもつ無秩序非晶質相との間で迅速に変化し得る半導体合金を利用する一種の不揮発性ランダム・アクセス・メモリであり、セルの相を識別するためにPCMセルを通過する電流の抵抗を測定することができて、セルが情報のビットを格納し、メモリとして機能することを可能にする。PCMは、材料のいずれの相を維持するためにも電力が必要とされないため、不揮発である。PCMは、フラッシュ・メモリとDRAMとの間の性能ギャップを埋めるためのストレージ・クラス・メモリの強い候補となる可能性を有し、なかでも、速度およびスケーラビリティ、不揮発性、パワー消費量において強力な利益を提供することができる。
【0009】
相変化メモリの一利点は、ニューロモーフィック・コンピューティングにおけるその有望な用途である。ヒト脳は、20ワット未満のパワー消費量で、ペタフロップス・マークを超える処理能力を提供し、結果として、エネルギー効率および体積の観点から最先端のスーパーコンピュータを数桁凌ぐ。従って、ヒト脳の機能性を再現するコグニティブ・コンピューティング・システムを構築すると、同等のパワーおよびエネルギー効率のコンピューティング・システムをもたらすことができる。しかしながら、ディープ・ニューラル・ネットワークの現在のハードウェア実装は、生物学的神経系の面積効率、in situ学習、および不揮発性シナプス挙動を再生できない、従来のフォン・ノイマン・アーキテクチャに基づくため、依然として生物学的神経系の効率と競争することができない。相変化メモリは、それが小型でパワー効率がよく、情報をその抵抗/コンダクタンス状態に格納できるという点で、生物学的神経系を模倣する際に有望な、従来のフォン・ノイマン・アーキテクチャに代わるハードウェア選択肢である。しかしながら、PCMのようなデバイスに基づいてコグニティブ・ハードウェアを構築する際の中心となる考えは、シナプスの重みをそれらのコンダクタンス状態として格納すること、および関連する計算タスクをインプレースで行うことである。しかしながら、従来のPCMは、現在、2つより多い可能なシナプスの重みを格納することができない。PCMの実装は、現在、情報を結晶質および非晶質状態に格納することが可能であるが、しかし、結晶質から非晶質状態へのコンダクタンスの展開およびその逆も、現在、非常に不正確であるため、情報を中間状態に信頼性高く格納することは可能でなく、PCMセルに印加された各パルスは、抵抗を一貫性のない予測不可能な量、変化させる。そのため、中間状態を信頼性高く達成することができない。かくして、PCMの分野は、PCMが生物学的シナプスの機能性および利点を実現することが可能となる前に、PCMセルのコンダクタンスを更新するより正確な方法を必要とする。
【0010】
PCMは、クロスポイント・アレイ・アーキテクチャにおいて可変抵抗としての役割を果たす可能性も有する。クロスポイント・アレイは、不揮発性抵抗メモリ素子がワード線とビット線との交点に置かれたメモリ・アーキテクチャであり、かかるアレイは、安定に高速動作し、高密度でセルサイズが小さい高速、ランダム・アクセス、不揮発性メモリを達成する可能性を有する。クロスポイント・アレイ内のマルチレベル・セル(MLC)不揮発性抵抗メモリ素子におけるPCMの使用は、クロスポイント・アレイをさらに改善すべく、なかでも、低パワー消費量および小型というPCM本来の利点をさらに付与する可能性を有する。しかしながら、PCMは、PCMがセットされ得る抵抗状態の幅および粒度の著しい改善なしにはクロスポイント・アレイ内のMLCとしての使用に適せず、その使用には、PCMセルが中間抵抗状態を信頼性高く達成することを可能にするために、PCMセルのコンダクタンスを更新するより正確な方法が必要である。
【0011】
従来のアプローチの下では、PCMにおけるコンダクタンスの展開の正確な制御を確保することが極めて難しく、PCMが2つより多い状態を信頼性高く達成することを妨げて、神経学的コンピューティング・デバイスにおける、およびクロスポイント・アレイにおけるその用途を阻害する。かくして、とりわけ、PCMセルを調製して、各パルスが確実にPCMセルの抵抗に均一な変化を生み出すように特別に較正されたパルスを印加することによって、コンダクタンスの展開の正確な制御を可能にし、それによりPCMセルが、1つの状態から他の状態へPCMセルを遷移させるために用いられるパルスの量と同様の粒度であってよいいくつかの中間相状態を達成することを可能にする、システムを実装することが有利であり得る。
【0012】
一実施形態によれば、本発明は、RESET電圧を修正すること、ポストRESET形成アニーリング・パルスを印加すること、重み更新パルス幅および振幅を修正すること、および/またはプレアニーリング・パルスを加えることによって、相変化メモリ(PCM)セルの重みを更新するための直線性およびステップの数を増加させる方法である。汎用の最適パルシング条件はなく、いずれのPCMセルの重み更新挙動も、PCMセルの設計および用いられる相変化材料を含む、いくつかの要因によって決定される。かくして、重み更新挙動の直線性は、改善された直線性を生み出すべく重み更新挙動をチューニングするために、モデリングまたは実験結果を通じて明らかにされた重み更新挙動に応じて、PCMセルごとに、RESET電圧、ポストRESET形成アニーリング・パルス、重み更新パルス、および/または重み更新パルスのプレアニーリング・コンポーネントの各々の個別の幅および振幅を修正することによってのみ改善することができる。
【0013】
少なくとも1つの実施形態によれば、本発明は、重み更新の直線性を向上させるためにPCMセルに印加されるRESETパルスを修正する方法である。RESETパルスは、PCMセルのプログラミング領域を溶融させて急冷し、それによって、それをそのRESETレベルへ戻すためにPCMセルに印加される電気パルスであってよく、RESETレベルは、PCMセルのその非晶質相における抵抗であってよい。PCMセルのRESETパルスは、その幅または振幅を変化させることによって修正されてよい。パルスの幅は、パルスの前縁と後縁との間の時間の量であり、一方で振幅は、パルスの電流または電圧の最大量である。RESETパルスの振幅を増加させると、より非晶質化された材料をもたらし、PCMセルのプログラミング中に劇的に増加するプログラミング電流を誘起するために必要とされる電圧である、スイッチングに必要とされる閾値電圧を増加させる。逆に、RESETパルスの振幅を減少させると、より非晶質化されていない材料をもたらし、スイッチングに必要とされる閾値電圧を減少させる。RESETパルスの幅を増加させると、より非晶質化された材料、および熱伝導のためのより多くの時間をもたらし、逆にRESETパルスの幅を減少させると、より非晶質化されていない材料、および熱伝導のためのより少ない時間をもたらす。一般に、直線性を向上させるには結晶化された材料のドームが小さい方が望ましいかもしれないが、しかし、RESETパルス振幅があまりに小さくなれば、溶融が発生しないであろう。かくして、RESETパルス振幅は、できるだけ小さいが、一方では溶融を依然として誘起する値でなければならない。
【0014】
RESETパルスを修正する目的は、後続の重み更新パルスがセルの抵抗により一貫性のある均一な変化を生み出すであろう状態にPCMセルを置くことである。一例として、RESETパルスの振幅を減少させると、重み更新パルスによって生成される結晶化された材料の経路が同等のサイズであるような、非晶質化された材料のより小さいドームを生成することができて、ドームが一体的に結晶化されることを可能にし、変化の均一性を改善する。
【0015】
システムは、RESETパルスの幅および振幅を調整すること、RESETパルスをPCMセルに印加すること、いくつかの重み更新パルスが印加された後にPCMセルの抵抗を測定すること、およびそのいくつかのパルス後に測定された抵抗に応じて、重み更新パルスごとの抵抗変化が分散(variance)の閾値レベルを下回るまで、さらなる修正をRESETパルスに加えることの反復プロセスを通じてRESETパルスを修正してよい。分散は、最後のRESETパルス以降に予め印加されたすべての重み更新パルスにわたって平均された、各重み更新パルス後のPCMセルにおける抵抗変化の均一性を表す値であってよく、分散の閾値レベルは、中間状態を生成するために容認可能と考えられる抵抗変化の間の分散の最大レベルであってよい。システムが、一旦、分散の閾値レベルを下回る分散のレベルをもたらすRESETパルスを生成すると、システムは、将来のRESETパルスに適用するためにそのRESETパルスのパラメータを格納してよい。
【0016】
少なくとも1つの実施形態によれば、本発明は、重み更新の直線性を向上させるために、RESETパルス後にインキュベーション・パルスを印加する方法である。PCMに用いられる相変化材料は、電気パルスに応答して相を変化させる材料であり、結晶成長が発生し得る前に相変化材料に導入されなければならないエネルギーの量を表すインキュベーション時間を有する。インキュベーション時間は、RESET後に、結晶成長へのエネルギー障壁が克服されて、コンダクタンスにおける増加を検出できる前に相変化材料に印加されなければならない重み更新パルスの数と相関する。言い換えれば、インキュベーション時間が長いほど、コンダクタンスまたは抵抗に何らかの測定可能な変化がある前にPCMセルに印加されなければならない重み更新パルスの数が多い。インキュベーション時間は、従って、重み更新パルスが抵抗/導電率に対して測定可能な効果を有さない期間を持ち込むことによって、重み更新パルスがPCMセルの抵抗/導電率を変化させる均一性を低下させて、所与のコンダクタンス/抵抗に到達するために必要とされるパルスの総数を増加させる。RESETパルスが印加された後にインキュベーション・パルスを印加することによって、インキュベーション時間を短縮させて、抵抗/導電率が測定可能に変化する前に必要な重み更新パルスの数を減少させることができる。インキュベーション・パルスは、PCMセルをアニールし、大量の核の形成を引き起こして、結晶成長に対するエネルギー障壁を克服し、後続の重み更新パルスがPCMのコンダクタンス/抵抗に測定可能な変化を直ちに生み出すことを可能にする長持続時間、低パワーのパルスであってよい。
【0017】
少なくとも1つの実施形態によれば、本発明は、重み更新の直線性を向上させるために重み更新パルスの幅および振幅を修正する方法である。重み更新パルスは、部分的SETパルスとも呼ばれてよく、SETパルスは、相変化材料を結晶化させることによってPCMをその非晶質状態からその結晶質状態へ変化させる長持続時間、低パワーの電子パルスである。しかしながら、SETパルスを、部分的SETパルスまたは重み更新パルスと呼ばれる、一連のより小さいパルスに分割することができて、これらのより小さいパルスは、PCMのコンダクタンス、および結晶質状態へのその進行を、1つのパルスで遷移を完了するのではなく、少量でインクリメントする。これらの重み更新パルスは、パルスの幅および振幅を変化させることによって修正することができる。振幅を増加させると、抵抗/導電率変化の勾配を増加させて、インキュベーション時間を減少させることができる。しかしながら、振幅が高すぎれば、直線性が低下する。電流が高すぎれば、溶融に続いて急冷が発生することになり、導電率を減少させる。電流が低すぎれば、結晶化がないことになり、抵抗/導電率が変わらないであろう。かくして、最も高い直線性を生み出すためには振幅が半ばに入らなければならない。同様に、幅が小さすぎれば、結晶化が発生するのに十分な時間がないことになり、抵抗/導電率に変化をもたらさず、そして幅が大きすぎれば、あまりに多くの材料が結晶化し、抵抗/導電率に大きな急上昇をもたらして、結晶質相に到達する前の重み更新パルスの数を削減し、それが、可能な中間状態の数を減少させる。かくして、幅は、所望されるよりも少ない中間状態を可能にするほど大きくはなく、結晶化を誘起するのにちょうど十分に大きい半ばに入らなければならない。
【0018】
システムは、重み更新パルスの幅および振幅を調整すること、調整された重み更新パルスをPCMセルに印加すること、およびいくつかの重み更新パルスが印加された後にPCMセルのコンダクタンス/抵抗を測定すること、ならびにそのいくつかのパルス後に測定された抵抗に応じて、重み更新パルスごとの抵抗変化が均一性または直線性の閾値レベルを超えるまで、さらなる修正を重み更新パルスに加えることの反復プロセスを通じて重み更新パルスを修正してよい。均一性は、各重み更新パルス後のPCMセルにおける抵抗変化の分散の尺度であってよく、均一性の閾値レベルは、中間状態を生成するために十分と考えられるコンダクタンス/抵抗変化の間の分散の最大レベルであってよい。システムが、一旦、分散の閾値レベルを下回る分散のレベルをもたらす重み更新パルスを生成すると、システムは、将来の重み更新パルスに適用するためにその重み更新パルスのパラメータを格納することができる。
【0019】
少なくとも1つの実施形態によれば、本発明は、重み更新の直線性を向上させるためにプレアニーリング・コンポーネントを重み更新パルスに加える方法である。SETパルスと比較してより小さく、よりインクリメンタルな重み更新パルスの特質ゆえに、重み更新パルスが、時には、材料の閾値スイッチングを始動するのに失敗しかねず、電流の経路は形成されるかもしれないが成長せず、その結果、いくつかの重み更新パルスが、PCMセルの抵抗/導電率に対して測定可能な効果を生み出すことに失敗することがある。これが導電率変化の均一性/直線性を低下させる。アニーリング・コンポーネントを各重み更新パルスに追加することによって、生成されるべき最初の経路が成長することになり、重み更新パルスがPCMセルの抵抗/導電率に対して測定可能な効果を生み出すことに失敗するであろう確からしさを低減する。アニーリング・コンポーネントは、短持続時間、より高いパワーの重み更新パルスの直前に先行する、長持続時間、低パワーのパルスであってよく、その幅および振幅は、例えば、実験結果に基づいて、重み更新の直線性を向上させるように注意深く選ばれる。
【0020】
当業者は、本発明の実施形態が、重み更新の直線性を改善するためにPCMセルの相を変化させる一般的なプロセスに適用される、修正されたRESETパルス、ポストRESETインキュベーション・パルス、および/または重み更新パルスに追加されたプレアニーリング・コンポーネントのいずれかの組み合わせを備えてよいことを理解することができる。
【0021】
本発明は、いずれか可能な技術的に詳細な統合レベルにおけるシステム、方法、および/またはコンピュータ・プログラム製品であってよい。コンピュータ・プログラム製品は、本発明の態様をプロセッサに実施させるためのコンピュータ可読プログラム命令をその上に有する(1つもしくは複数の)コンピュータ可読ストレージ媒体を含んでよい。
【0022】
コンピュータ可読ストレージ媒体は、命令実行デバイスによる使用のための命令を保持して格納できる有形のデバイスとすることができる。コンピュータ可読ストレージ媒体は、例えば、以下には限定されないが、電子ストレージ・デバイス、磁気ストレージ・デバイス、光ストレージ・デバイス、電磁ストレージ・デバイス、半導体ストレージ・デバイス、または前述のものの任意の適切な組み合わせであってよい。コンピュータ可読ストレージ媒体のより具体的な例の非網羅的なリストは、ポータブル・コンピュータ・ディスケット、ハード・ディスク、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、リード・オンリ・メモリ(ROM)、消去可能プログラマブル・リード・オンリ・メモリ(EPROMまたはフラッシュ・メモリ)、スタティック・ランダム・アクセス・メモリ(SRAM)、ポータブル・コンパクト・ディスク・リード・オンリ・メモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、メモリ・スティック、フレキシブル・ディスク、パンチ・カードもしくはその上に記録された命令を有する溝中の隆起構造のような機械的にコード化されたデバイス、および前述のものの任意の適切な組み合わせを含む。コンピュータ可読ストレージ媒体は、本明細書では、それ自体が一時的な信号、例えば、電波または他の自由伝搬する電磁波、導波路もしくは他の伝送媒体を通って伝搬する電磁波(例えば、光ファイバ・ケーブルを通過する光パルス)、あるいは線を通って伝送される電気信号であると解釈されるべきではない。
【0023】
本明細書に記載されるコンピュータ可読プログラム命令を、コンピュータ可読ストレージ媒体からそれぞれのコンピューティング/処理デバイスへ、あるいはネットワーク、例えば、インターネット、ローカル・エリア・ネットワーク、ワイド・エリア・ネットワークおよび/またはワイヤレス・ネットワークを介して外部コンピュータもしくは外部ストレージ・デバイスへダウンロードすることができる。ネットワークは、銅伝送ケーブル、光伝送ファイバ、ワイヤレス伝送、ルータ、ファイヤウォール、スイッチ、ゲートウェイ・コンピュータおよび/またはエッジ・サーバを備えてよい。各コンピューティング/処理デバイス中のネットワーク・アダプタ・カードまたはネットワーク・インターフェースは、コンピュータ可読プログラム命令をネットワークから受信して、コンピュータ可読プログラム命令をそれぞれのコンピューティング/処理デバイス内のコンピュータ可読ストレージ媒体中に格納するために転送する。
【0024】
本発明のオペレーションを実施するためのコンピュータ可読プログラム命令は、アセンブラ命令、命令セット・アーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、集積回路のための構成データ、あるいはSmalltalk、C++、または同様のもののようなオブジェクト指向プログラミング言語、ならびに「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような、手続き型プログラミング言語を含めて、1つ以上のプログラミング言語の任意の組み合わせで書かれたソース・コードまたはオブジェクト・コードのいずれかであってよい。コンピュータ可読プログラム命令は、全体的にユーザのコンピュータ上で、部分的にユーザのコンピュータ上で、スタンド・アローンのソフトウェア・パッケージとして、部分的にユーザのコンピュータ上かつ部分的にリモート・コンピュータ上で、あるいは全体的にリモート・コンピュータまたはサーバ上で実行してよい。後者のシナリオでは、リモート・コンピュータは、ローカル・エリア・ネットワーク(LAN)またはワイド・エリア・ネットワーク(WAN)を含む、いずれかのタイプのネットワークを通してユーザのコンピュータへ接続されてもよく、あるいは(例えば、インターネット・サービス・プロバイダを用いてインターネットを通して)外部コンピュータへ接続が行われてもよい。いくつかの実施形態においては、本明細書の態様を行うために、例えば、プログラマブル・ロジック回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、またはプログラマブル・ロジック・アレイ(PLA)を含む電子回路が、コンピュータ可読プログラム命令の状態情報を利用して電子回路をパーソナライズすることによってコンピュータ可読プログラム命令を実行してよい。
【0025】
本発明の態様は、本発明の実施形態による方法、装置(システム)、およびコンピュータ・プログラム製品のフローチャート説明図および/またはブロック・ダイアグラムを参照して記載される。フローチャート説明図および/またはブロック・ダイアグラムの各ブロック、ならびにフローチャート説明図および/またはブロック・ダイアグラムにおけるブロックの組み合わせをコンピュータ可読プログラム命令によって実装できることが理解されるであろう。
【0026】
これらのコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータまたは他のプログラマブル・データ処理装置のプロセッサを介して実行する、それらの命令が、フローチャートおよび/またはブロック・ダイアグラムの1つもしくは複数のブロックにおいて指定された機能/作用を実装するための手段を生成するような、マシンを生み出すためにコンピュータ、または他のプログラマブル・データ処理装置のプロセッサに提供されてよい。これらのコンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ可読ストレージ媒体に格納されてもよく、これらのプログラム命令は、その中に格納された命令を有するコンピュータ可読ストレージ媒体が、フローチャートおよび/またはブロック・ダイアグラムの1つもしくは複数のブロックにおいて指定された機能/作用の態様を実装する命令を含む製造品を備えるような、特定の仕方で機能するようにコンピュータ、プログラマブル・データ処理装置、および/または他のデバイスに命令することができる。
【0027】
コンピュータ可読プログラム命令は、コンピュータ、他のプログラマブル装置、または他のデバイス上で実行する命令が、フローチャートおよび/またはブロック・ダイアグラムの1つもしくは複数のブロックにおいて指定された機能/作用を実装するような、コンピュータ実施プロセスを生み出すために、一連の動作ステップがコンピュータ、他のプログラマブル装置または他のデバイス上で行われるようにするためにコンピュータ、他のプログラマブル・データ処理装置、または他のデバイス上へロードされてもよい。
【0028】
図中のフローチャートおよびブロック・ダイアグラムは、本発明の様々な実施形態によるシステム、方法、およびコンピュータ・プログラム製品の実装可能のアーキテクチャ、機能性、およびオペレーションを示す。この点において、フローチャートまたはブロック・ダイアグラム中の各ブロックは、指定された論理機能(単数または複数)を実装するための1つ以上の実行可能な命令を備える、モジュール、セグメント、または命令の一部を表してよい。いくつかの代わりの実装では、ブロック中に記された機能が図中に記された以外の順序で発生してよい。例えば、含まれる機能性によっては、連続して示される2つのブロックが、実際には、1つのステップとして達成されてもよく、同時に、実質的に同時に、部分的または全体的に時間的に重なる仕方で実行されてもよく、または複数のブロックがときには逆の順序で実行されてもよい。ブロック・ダイアグラムおよび/またはフローチャート説明図の各ブロック、ならびにブロック・ダイアグラムおよび/またはフローチャート説明図におけるブロックの組み合わせを、指定された機能または作用を行う、あるいは専用ハードウェアとコンピュータ命令との組み合わせを実施する専用ハードウェア・ベース・システムによって実装できることにも気付くであろう。
【0029】
以下に記載の例示的な実施形態は、RESET電圧を修正すること、ポストRESETアニーリング・パルスを印加すること、重み更新パルス幅および振幅を修正すること、および/またはプレアニーリング・パルスを重み更新パルスに加えることによって、重み更新の直線性および均一性を向上させるためのシステム、方法、およびプログラム製品を提供する。
【0030】
次に、図1を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態による相変化メモリ(PCM)に用いられる相変化材料102の相変化サイクル100が描かれる。ここで、相変化材料102は、異なる電気抵抗率値をもつ少なくとも2つの相状態で存在することが可能であり、かつそれらの状態間で迅速に繰り返して遷移することが可能な、カルコゲナイド・ガラスのような、いずれかの材料であってよい。これらの状態は、結晶質状態104、および非晶質状態106を含んでよい。結晶質状態104は、相変化材料の構成原子の微視的な配列が3次元空間の主方向に沿って繰り返す、格子のような、対称なパターンを備える状態である。結晶質状態104は、SET状態と呼ばれてよく、2進法の1を表してよい。結晶質状態104は、非晶質状態106と比較して低抵抗率かつ高コンダクタンスをもち、その結晶質状態104における相変化材料102の抵抗率値は、PCMのSETレベルまたは抵抗率と呼ばれてよい。非晶質状態106は、相変化材料の構成原子が無秩序であり、結晶質状態104における原子の長距離繰り返しパターンが欠如している状態である。非晶質状態106は、RESET状態と呼ばれてよく、2進法の0を表してよい。その非晶質状態における相変化材料102は、結晶質状態104と比較して高抵抗率値をもち、この抵抗率値は、PCMのRESETレベルまたは抵抗率と呼ばれてよい。
【0031】
相変化材料102は、相変化材料を加熱するために電極によって電流が相変化材料102を通過する、ジュール加熱を用いて相間で遷移してよい。相変化材料102は、溶融急冷108と称されるプロセスを通じて結晶質状態104から非晶質状態106へ遷移してよい。溶融急冷(melt-quenching)108は、相変化材料102を溶融してその構成原子の秩序を低下させるために、溶融パルスまたはRESETパルスと称される、短持続時間、高パワーのパルスを印加することを伴ってよい。相変化材料102は、アニーリング110と称されるプロセスを通じて非晶質状態106から結晶質状態104へ遷移してよい。アニーリング110は、相変化材料102を徐々に加熱して結晶化させるために、アニーリング・パルスまたはSETパルスと称される、長持続時間、低パワーのパルスを印加することを伴ってよい。
【0032】
アニーリング・プロセス110は、溶融急冷プロセス108とは違って、部分的SETパルスまたは重み更新パルスと称される、一連の小さいアニーリング・パルスによって達成することができて、これらのパルスは、相変化材料102のエネルギー障壁を低減するか、またはいくらかの量の結晶成長を引き起こして、相変化材料102の抵抗および導電率に測定可能な変化をもたらす、より小さいSETパルスであってよい。部分的SETパルスを相変化材料102に印加するプロセスは、本明細書では重み更新と呼ばれる。部分的SETパルスに続く相変化材料102の非晶質状態106と結晶質状態104との間の結晶成長における各インクリメンタルな増加は、一意的な抵抗率または導電率値をもつ、相変化材料102の別個の中間相状態を表してよい。
【0033】
次に、図2を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるPCMシナプス・デバイス200を示す電気回路図が描かれる。ここでは、相変化メモリ(PCM)セル202が、例えば、ニューラル・ネットワーク内のシナプスのアレイとして機能するメモリ・アレイ中に集積化されて描かれる。PCMセル202は、一端ではビット線204へ接続され、他端では一対のアクセス・トランジスタへ接続されて、それらのアクセス・トランジスタが、次には、ワード線208および出力線210へ接続される。PCMセル202は、図6Aに関して以下にさらに示されてよい。
【0034】
次に、図3を参照すると、PCMセル202の実際の重み更新挙動を示すグラフ300が描かれる。ここで、Y軸302は、相変化材料102の導電率を表し、一方でX軸304は、相変化材料102に印加された部分的SETパルスの数を表す。ライン310は、RESETレベル306とSETレベル308との間の相変化材料102の導電率と、相変化材料102に印加された部分的SETパルスの数との間の関係を表す。ライン310は、現在の重み更新方法の下での重み更新挙動を表し、それは、不規則かつ非直線的であり、各パルス後のPCMセル202の導電率に不均一な変化を生み出す。
【0035】
次に、図4を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるPCMセル202の理想的な重み更新挙動400を示すグラフが描かれる。ここで、Y軸302は、相変化材料102の導電率を表し、一方でX軸304は、相変化材料102に印加された部分的SETパルスの数を表す。ライン402は、RESETレベル306とSETレベル308との間の相変化材料102の導電率と、相変化材料102に印加された部分的SETパルスの数との間の関係を表す。ライン402は、現発明の実施形態が達成またはアプローチしてよい理想的な重み更新挙動を表し、相変化材料102のコンダクタンスは、各部分的SETパルスとともに均一に変化し、中間相状態、ひいては、中間メモリ状態をサポートする滑らかで直線的な重み更新をもたらす。
【0036】
次に、図5を参照すると、少なくとも1つの実施形態による相変化更新プロセス500を示す動作フローチャートが描かれる。502において、システムは、相変化メモリ(PCM)セル202を非晶質化させるためにRESETパルスを印加する。ここで、RESETパルスの幅および振幅は、将来の部分的SETパルスがPCMセル202の導電率/抵抗に対してより一貫性のある効果を生み出すようにPCMセル202を調製するために特別に定式化されてよい。RESETパルスの幅および振幅は、PCMセル202内に、ある体積の非晶質化された材料、スイッチングに必要とされる閾値電圧、および均一かつ一貫性のある結晶成長を促進する熱伝導時間を生み出すようにチューニングされてよい。RESETパルスの振幅は、PCMセル202のインキュベーション時間を短縮して、結晶成長へのエネルギー障壁を克服し、相変化材料102のコンダクタンス/抵抗率に測定可能な変化を生み出すために必要な部分的SETパルスの数を削減するようにチューニングされてもよい。
【0037】
504において、システムは、低パワー、長持続時間のアニーリング・パルスをPCMセルに印加する。ここで、ポストRESETアニーリング・パルス、またはインキュベーション・パルスは、RESETパルス後に印加される長持続時間、低パワーのパルスであってよく、幅および振幅は、インキュベーション・パルスが結晶成長に対するエネルギー障壁を克服するためにちょうど十分なエネルギーを相変化材料に導入するように、相変化材料のインキュベーション時間に基づいて特別に較正される。エネルギー障壁を克服して、大量の核の形成を引き起こすことによって、インキュベーション・パルスは、将来の部分的SETパルスによって導入されるすべてのエネルギーが、エネルギー障壁の克服ではなく、むしろ結晶成長に貢献して、PCMセル202のコンダクタンス/抵抗に直ちに測定可能な変化をもたらすことを可能にする。インキュベーション・パルスは、図7および8に関して以下にさらに示されてよい。
【0038】
506において、システムは、PCMセルのコンダクタンスを徐々に増加させるためにいくつかの部分的SETパルスを印加する。部分的SETパルスは、短持続時間で、SETパルスのパワーより低パワーのパルスであってよい。ここで、部分的SETパルスの幅および振幅は、PCMセル202の導電率/抵抗に対して一貫性のある効果を生み出すために特別に定式化されてよい。部分的SETパルスの振幅は、電流が、溶融急冷を誘起するほど高くもなく、結晶化を誘起するのに低すぎることもないように、そしてそれらのパルスが、図4に示されるような直線的な重み更新を生み出すのに十分な導電率の変化とパルスの数との比を維持するようにチューニングされてよい。部分的SETパルスの幅は、持続時間が、結晶化を誘起するのに短すぎることもなく、あまりに多くの材料が結晶化されて、あまりに急速に飽和に到達するほど長くもないようにチューニングされてよい。部分的SETパルスは、図6Bおよび9Aに関して以下にさらに示されてよい。
【0039】
508において、システムは、所望のコンダクタンスに到達したかどうかを判定してよい。所望のコンダクタンスは、例えば、結晶質状態と、もしくは所望の中間状態と対応する、PCMセルの特定の状態と関連付けられたコンダクタンスであってよい。本発明のいくつかの実施形態において、システムは、むしろ、パルスの所望の数に到達したかどうかを判定してよく、パルスの所望の数は、PCMセルの特定の状態と関連付けられたパルスの数であってよい。システムは、各パルスが印加された後に、読み取りパルスをPCMセルに印加することによってコンダクタンスを決定してよい。一実装によれば、システムが、所望のコンダクタンスに到達しなかったと判定すれば(ステップ508、「NO」分岐)、システムは、コンダクタンスがパルスの数と直線的に対応するかどうかを判定するためにステップ510へ進んでよい。システムが、所望のコンダクタンスに到達したと判定すれば(ステップ508、「YES」分岐)、そのときにはPCMセルが所望のコンダクタンスに設定されており、システムは、プロセスを完了してよい。
【0040】
510において、システムは、コンダクタンスがパルスの数と直線的に対応するかどうかを判定してよい。システムは、抵抗変化の間の分散のレベルを決定するために、ステップ508において測定されたコンダクタンスをステップの数に対して比較してよい。分散は、最後のRESETパルス以降のすべての印加パルスにわたって平均された分散であってよい。変動が、次に、分散の閾値レベルに対して比較されてよく、この閾値レベルは、中間状態を生成することを可能にするのに十分に均一と考えられる抵抗変化の間の分散の最大レベルであってよい。変動が分散の閾値を超えれば(ステップ510、「NO」分岐)、システムは、相変化メモリ(PCM)セルを非晶質化させるべくRESETパルスを印加するためにステップ502へ進んでよく、PCMセルを基本的にリセットして、プロセスを新たに開始する。本発明のいくつかの実施形態において、システムは、次のパス上の重み更新の均一性を改善するために、RESETパルス、インキュベーション・パルス、および/または部分的SETパルスの幅および/または振幅を修正してよい。システムが、変動が分散の閾値を下回ると判定すれば(ステップ508、「YES」分岐)、そのときにはシステムは、PCMセルのコンダクタンスをインクリメンタルに増加し続けるべく複数の部分的SETパルスをPCMに印加するために、ステップ506へ移動してよい。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態において、プレアニーリング・コンポーネントが部分的SETパルスに加えられてよい。プレアニーリング・コンポーネントは、通常の部分的SETパルスの短持続時間、比較的より高パワーのパルスの直前に先行する、長持続時間、低パワーのパルスであってよい。アニーリング・コンポーネントは、部分的SETパルスが、閾値スイッチングと、PCMセル202の抵抗/導電率に測定可能な変化を引き起こすのに十分な結晶成長とを誘起する機会を改善するために、幅および振幅がチューニングされてよい。閾値スイッチングは、特定の閾値電圧より高い電圧が非晶質相における相変化材料に印加されたときに、結果として生じる大きい電界が、電気導電率を大幅に増加させる現象を指してよい。この導電率の増加のゆえに、より大きい電流が相変化材料に印加されてよく、相変化材料に温度増加をもたらして、それが、次には、結晶化または溶融のいずれかにつながり得る。アニーリング・コンポーネントありの部分的SETパルスは、図6Cおよび9Bに関して以下にさらに示されてよい。
【0042】
次に、図6Aを参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるRESETパルス後のPCM「マッシュルーム」セル202を示すダイアグラム600が描かれる。ここで、PCMセル202は、相変化材料102の層を備え、その層が、次には、プログラミング領域602を備えて、プログラミング領域602は、上部電極604および下部電極606によって印加されたプログラミング・パルスに応答して相を変化させる相変化材料102の領域であってよい。プログラミング・パルスは、以下には限定されないが、SETパルス、部分的SETパルス、RESETパルス、およびインキュベーション・パルスを含めて、相変化材料102の相を変化させるプロセスの一部としてそれに印加されるいずれかのパルスであってよい。プログラミング領域602のサイズ、および相状態がプログラミング・パルスによって修正される相変化材料102の体積は、プログラミング・パルスの振幅に基づいて増加または減少してよい。
【0043】
次に、図6Bを参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリングなしのPCM「マッシュルーム」セル202を示すダイアグラム600が描かれる。ここで、システムは、徐々の結晶化を誘起するために部分的SETパルスをPCMセル202に印加しており、プログラミング領域602を通じて様々な細い結晶化された電流経路608が結果として形成される。部分的SETパルスは、プレアニーリング・コンポーネントがないと、既存の電流経路608を成長させるのではなく、むしろプログラミング領域602を通じて電流の新しい経路を形成する機会を有し、新しい電流経路を形成することと、既存の電流経路608を成長させることとでは、PCMセル202の抵抗/導電率に異なる量の変化を引き起こして、一貫性のない重み更新挙動をもたらす。
【0044】
次に、図6Cを参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリングありのPCM「マッシュルーム」セル202を示すダイアグラム600が描かれる。ここで、システムは、プレアニーリング・コンポーネントありで部分的SETパルスをPCMセル202に印加しており、プログラミング領域602を通じて結晶質経路610を生成するパルスをもたらし、結晶質経路610が、次に、後続のパルスによって拡大されて、エネルギーは、それゆえに新しい経路を形成することに浪費されずに、ほとんどが結晶構造を成長させるために適用されて、より一貫性のある重み更新挙動をもたらす。
【0045】
次に、図7を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態による、それぞれ、RESETパルスおよびインキュベーション・パルスを示すグラフ700が描かれる。ここで、Y軸702は、PCMセル202のプログラミング電流を表し、一方でX軸704は、時間を表す。棒706は、RESETパルスの間のPCMセル202の電流を表し、一方で棒708は、インキュベーション・パルスの間のPCMセル202の電流を表す。RESETパルスは、インキュベーション・パルスと比較してより高い電流を生じさせるが、インキュベーション・パルスは、RESETパルスよりはるかに長い。インキュベーション・パルスは、結晶成長に対するエネルギー障壁に基づいてよく、異なる相変化材料は、結晶成長に対する異なるエネルギー障壁を有し、そのため、インキュベーション・パルスの振幅は、相変化材料のエネルギー障壁に合うようにチューニングされなければならない。
【0046】
次に、図8を参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるアニーリング・ステップありおよびなしの重み更新中のPCMセル202のコンダクタンスにおける変化を示すグラフ800が描かれる。ここで、Y軸802は、PCMセル202のコンダクタンスを表し、一方でX軸804は、PCMセル202に印加された部分的SETパルスの数を表す。ライン806は、PCMセル202のコンダクタンスと、前に印加されるインキュベーション・パルスなしでPCMセル202に印加されたパルスの数との関係を表す。ライン808は、PCMセル202のコンダクタンスと、前に印加されるインキュベーション・パルスありでPCMセル202に印加されたパルスの数との関係を表し、ライン806およびライン808の両方から、PCMセル202の導電率に測定可能な変化がある前にいくつかのパルスがPCMセル202に印加されなければならないことが窺えるが、しかし、インキュベーション・パルスが印加されたケースでは、導電率に測定可能な変化を引き起こすことができない数個のパルスをインキュベーション・パルスが省くので、PCMセル202の導電率に測定可能な変化を生成するために必要なパルスの数はより少ない。
【0047】
次に、図9Aを参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態による部分的SETパルスを示すグラフ900が描かれる。ここで、Y軸902は、PCMセル202の電流を表し、一方でX軸904は、時間を表す。棒906は、部分的SETパルスの間のPCMセル202の電流を表す。重み更新プロセス中にPCMセル202に印加されるすべてのパルスが部分的SETパルスであってよく、部分的SETパルスは、均一な幅および振幅であってよく、および/または均一な時間インターバルで印加されてよい。
【0048】
次に、図9Bを参照すると、本発明の少なくとも1つの実施形態によるプレアニーリング・コンポーネントありの部分的SETパルスを示すグラフ900が描かれる。ここで、Y軸902は、PCMセル202の電流を表し、一方でX軸904は、時間を表す。棒908は、部分的SETパルスのプレアニーリング・コンポーネントの間のPCMセル202の電流を表し、一方で棒906は、元の部分的SETパルスと対応するコンポーネントの電流を表し、元の部分的SETパルスと対応するコンポーネントは、別の状況で重み更新プロセス中に印加される部分的SETパルスと同じ幅および振幅を備えるパルスであってよい。プレアニーリング・コンポーネントおよび元の部分的SETパルスと対応するコンポーネントが、単一の複合的な部分的SETパルスへ組み合わされてよい。重み更新プロセス中にPCMセル202に印加されるすべてのパルスが複合的な部分的SETパルスであってよく、その複合的な部分的SETパルスが、均一な時間インターバルで印加されてもよく、および/または均一な幅および振幅のプレアニーリング・コンポーネントならびに元の部分的SETパルス・コンポーネントを有してもよい。
【0049】
図1~9は、一実装の説明図のみを提供し、どのように異なる実施形態が実装されてよいかに関していかなる限定も示唆しないことが認識されてよい。設計および実装要件に基づいて、示された実施形態に多くの修正が行われてよい。
【0050】
本発明の様々な実施形態の記載が説明のために提示されたが、これらの記載は、網羅的であることも、または開示された実施形態に限定されることも意図されない。記載される実施形態の範囲から逸脱することなく、多くの変更および変形が当業者に明らかであろう。本明細書に用いられる用語法は、実施形態の原理、実用用途または市場に見られる技術を超える技術的改良を最もよく説明するために、あるいは本明細書に開示される実施形態を他の当業者が理解することを可能にするために選ばれた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9A
図9B
【国際調査報告】