(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】光吸収面の改良
(51)【国際特許分類】
F24S 70/20 20180101AFI20240621BHJP
【FI】
F24S70/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574333
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2023-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2022027000
(87)【国際公開番号】W WO2023282336
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507224864
【氏名又は名称】ナノフロンティアテクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511286953
【氏名又は名称】ザ オーストラリアン ナショナル ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】THE AUSTRALIAN NATIONAL UNIVERSITY
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】津田 薫
(72)【発明者】
【氏名】トーレス アルヴァレス ジュアン フェリペ
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰
(72)【発明者】
【氏名】グオ イーファン
(57)【要約】
マトリックスおよびその中に埋め込まれたナノ粒子を含む光吸収面用の最上層が開示される。最上層は、太陽集熱発電における使用のための、太陽光吸収剤コーティングまたは吸収材料面の最外層を構成してもよい。最上層は、光吸収を高め、使用される吸収コーティングの熱膨張/収縮またはその下にある使用中の基板の熱膨張/収縮を調節することができる。マトリックスに埋め込まれた、または接着されたナノ粒子は、下にある吸収面の光吸収に寄与し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスおよびその中に埋め込まれたナノ粒子を含む、光吸収面用の最上層。
【請求項2】
前記ナノ粒子がおよそ10~200nmの粒径範囲にある、請求項1に記載の最上層。
【請求項3】
前記ナノ粒子が酸化物ナノ粒子を含む、請求項1または2に記載の最上層。
【請求項4】
前記ナノ粒子がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、マグネシアまたは酸化スズから選択される1つまたは複数の金属酸化物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の最上層。
【請求項5】
およそ0.1075重量%~0.43重量%の前記ナノ粒子を含む混合物から形成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の最上層。
【請求項6】
前記最上層の混合物がオルガノシランを含む、請求項5に記載の最上層。
【請求項7】
前記最上層の混合物が、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーから形成される、請求項6に記載の最上層。
【請求項8】
前記オルトケイ酸テトラエチル前駆体、前記オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーが、触媒の存在下で水によって加水分解され、重縮合される、請求項7に記載の最上層。
【請求項9】
前記最上層の前記マトリックスがおよそ5~100nmの厚さを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の最上層。
【請求項10】
前記最上層の前記マトリックスがナノ細孔を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の最上層。
【請求項11】
光吸収面に最上層を形成する方法であって、
前記最上層用のマトリックスの前駆体を含む第1の混合物を調製する工程;
ナノ粒子を含む第2の混合物を調製する工程;
前記第1の混合物および前記第2の混合物を混合してナノ粒子を含む最上層の配合物を生成する工程;
前記光吸収面上に前記最上層の配合物を噴霧する工程;および
前記最上層を有する前記光吸収面を硬化プロセスにかける工程を含む方法。
【請求項12】
およそ5~100nmのマトリックス厚さを有する最上層を形成するために、前記光吸収面上に前記最上層の配合物を噴霧する工程、および前記光吸収面を前記硬化プロセスにかける工程が繰り返される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子が酸化物ナノ粒子を含む、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の混合物および前記第2の混合物がオルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーを含む、請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記オルトケイ酸テトラエチル前駆体、前記オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそのオリゴマーが、触媒の存在下で水によって加水分解され、重縮合される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記触媒がヒドロキシアセトンまたは酸である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記マトリックスの前駆体が、前記オルトケイ酸テトラエチルのオリゴマーまたは前記オルトケイ酸テトラメチルのオリゴマーを含み、前記光吸収面上に前記最上層の配合物を噴霧する前記工程が300℃以上の温度で行われる、請求項11から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
数値シミュレーションによって光吸収面用の最上層をリファインするプロセスであって、
前記光吸収面の単純化されたモルフォロジーを生成すること;
前記光吸収面を規定する1組のパラメーターを生成すること;
前記光吸収面およびそれに適用される最上層を含むモデルシステムを生成すること;
前記システムのスペクトル吸収率および/または加重太陽光吸収率を得るために、前記モデルシステムへの光の印加をモデル化することを含み;
前記モデルシステムの前記最上層は1組のマトリックスパラメーターおよび1組の粒子パラメーターを含むプロセス。
【請求項19】
前記光吸収面の単純化されたモルフォロジーを生成する工程が、前記光吸収面の光学に基づく測定を含む、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記システムのスペクトル吸収率および/または加重太陽光吸収率を変えるために、前記1組のマトリックスパラメーターおよび/または前記1組の粒子パラメーターが修正され、かつ前記プロセスが反復される、請求項18または請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記1組の粒子パラメーターが、1つまたは複数の金属酸化物粒子を含む粒子に関連する、請求項18から20のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記1つまたは複数の金属酸化物粒子が、シリカ、チタニア、アルミナおよび/またはジルコニアを含む、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記数値シミュレーションが計算電磁気学的シミュレーション工程を含む、請求項18から22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記計算電磁気学的シミュレーション工程が有限差分時間領域手法に基づく、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
請求項1から10のいずれか一項に記載の最上層の調製における使用のための混合物であって、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそのオリゴマーを含むマトリックスの前駆体と、コロイダルシリカを含むナノ粒子と、エタノールと、水と、触媒と、を含む混合物。
【発明の詳細な説明】
【相互参照】
【0001】
本出願は、オーストラリアにおいて2021年7月8日に出願された特許仮出願第2021902084号に基づく優先権を主張し、その仮出願の全内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、光吸収面用の最上層、そのような最上層を製造する方法および光吸収面用の最上層をリファインするプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
先行技術が本明細書において言及されても、そのような言及は、先行技術がオーストラリアまたは他の国において当業界共通の一般知識の一部を形成することを認めるものではない、と理解すべきである。
【0004】
高温光吸収コーティング(また「吸収剤コーティング」または「太陽光吸収剤コーティング」とも称される)は、ソーラーパワーの濃縮(CSP)または太陽光集熱(CST)プラントにおいて、濃縮太陽光放射線を熱に変換するために用いられる重要な要素である。そのようなコーティングは、CSPプラントの使用寿命にわたって、コーティングとしての動作温度が700℃を超え得る極端な条件においてそれらの光吸収率特性を維持するために高い光吸収率(一般に95%を超える)および良好な耐久性を必要とする。
【0005】
しかしながら、多くの公知の光吸収剤コーティングは相対的に不十分な光吸収率を有し、様々な頻度で繰り返される温度サイクルを含む高温アニールにより、動作のわずか1年後に激しい劣化を受けやすくなることがある。コーティングの劣化は、最初、光吸収率の低下(太陽光照射から熱への変換効率の低下)として現れるが、しばしばクラック、剥がれなどの形態のコーティングの欠陥が続く。そのようなコーティングの破損のために、CSP産業は、現在のところ、太陽光集熱器の光吸収が通常のCSPプラントの長年の動作の間に確実に95%を超えるよう維持するために、高価で時間のかかる再塗工(または再塗装)プロセスに依存している。
【0006】
スピネル系コーティングは高温で長期的な等温曝露の後に中程度の吸収率値を表すことが示されたが、そのような吸収剤コーティングの光吸収率および耐久性を改善する取り組みは限定的であった。例えば、本発明者らの1人が発明者となっている特許文献1は、下にある吸収剤コーティングの耐久性を改善するために多孔性シリカ最上層が形成されたスピネル系吸収剤コーティングを開示している。そのような最上層は、コーティングの耐久性に寄与するが、その下のスピネル系コーティングの吸収率値を改善するように機能しない。
【0007】
入射光の少なくとも99.995%を吸収することができるカーボンナノチューブ(CNT)系吸収剤などの先進的な光吸収剤コーティングも考えられてきた。しかしながら、そのようなコーティングは、普通の大気条件下の高温環境では非常に燃えやすく、したがって、CSPの用途には実用的でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
適用される光吸収面の吸収率および/または耐久性を高め得る光吸収面(既存の吸収コーティングを含む)用の改善された最上層に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様において、マトリックスおよびその中に埋め込まれたナノ粒子を含む、光吸収面用の最上層が開示される。最上層は、例えば太陽集熱発電における使用のための太陽光吸収剤コーティングまたは吸収材料面の最外層を構成してもよい。この点に関して、最上層は、光吸収を高め、使用される吸収コーティングの熱膨張/収縮またはその下にある使用中の基板の熱膨張/収縮を調節することができる。マトリックスに埋め込まれた、または接着されたナノ粒子は、下にある吸収面の光吸収に寄与し得る。特定の理論に束縛されることは欲しないが、最上層内のナノ粒子が、吸収剤面に入射する光の前方散乱に寄与して、下にある光吸収面への入射光線の焦点合わせに寄与し得ることはありそうである。最上層のマトリックスはまた、下にある光吸収剤コーティング(例えば高温光吸収剤コーティングまたは吸収材料面)の光吸収および/または耐久性に寄与し得る。
【0011】
幾つかの実施形態において、ナノ粒子はおよそ10~200nmの粒径範囲にあってもよい。この点に関して、最上層マトリックスの内/上のナノ粒子のサイズおよび分布(密度および割付け)は、例えば最上層内の三次元(3D)網目構造の形成によって下にある太陽吸収コーティングの光吸収率を高める機能をもち得る。ナノ粒子は、入って来る光を散乱させ、下にある吸収面内に光共鳴(高強度)の領域を作り、正味の光吸収を改善し得る。
【0012】
ナノ粒子は、球体、卵形、棒などを含む幾つかの異なるモルフォロジーのものであり得ることは理解されるべきである。最上層材料(マトリックスおよびナノ粒子)は、考慮されている下にある基板または吸着層の光学的性質およびモルフォロジーに基づいて選択されるべきである。この点に関して、ナノ粒子材料、サイズ、サイズ分布および/または密度は、選ばれた下にある基板の光学的性質およびモルフォロジーに応じて選択されてもよい。
【0013】
幾つかの実施形態において、ナノ粒子は酸化物ナノ粒子を含んでもよい。
【0014】
幾つかの実施形態において、ナノ粒子は、例えばシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、マグネシアまたは酸化スズから選択される1つまたは複数の金属酸化物を含んでもよい。最上層材料(ナノ粒子およびマトリックス)は、空気中高温(すなわちCSPの用途において要求されるような)で安定な酸化物で構成されてもよい。しかし、金属(例えば金)などの他のタイプの材料を使用することもできる。
【0015】
幾つかの実施形態において、最上層は、およそ0.1075重量%~0.43重量%のナノ粒子を含む混合物から形成されてもよい。ナノ粒子の最適な数または密度/分布は、例えば下にある面の光吸収率を最大化するための最上層用に選択されてもよい。この最適の粒子密度は、最上層の粒子およびマトリックス材料、また最上層が適用される吸収面の特性に依存し得る。
【0016】
ナノ粒子の密度が高すぎると、下にある光吸収面への最上層の接着が不十分になり得るが、ナノ粒子が少なすぎると吸収率への改善が低すぎる結果をもたらし得る。したがって、特定の用途に応じて、ナノ粒子の最適な分布が好ましい。
【0017】
幾つかの実施形態において、最上層の混合物はオルガノシランを含んでもよい。オルガノシランは、触媒の存在下で水によって加水分解され、重縮合されてもよい。そのような材料は、ナノ粒子が組み込まれてもよいシリカで構成された最上層マトリックスを構成してもよい。
【0018】
幾つかの実施形態において、最上層の混合物は、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーから形成されてもよい。
【0019】
幾つかの実施形態において、最上層のマトリックスの厚さはおよそ5~100nmであってもよい。この点に関しては、マトリックス厚さ(およびマトリックス材料)は、最上層が適用される特定の光吸収面に個別調整されてもよい。例えば、異なるマトリックス材料(すなわちシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化スズなど)は、所与の用途のために異なるマトリックス厚さを必要とし得る。特定のマトリックス厚さは、また、最上層中の必要なナノ粒子装填率または密度をサポートするために選択されてもよい。
【0020】
幾つかの実施形態において、最上層のマトリックスはナノ細孔を含んでもよい。この点に関して、最上層は、下にある吸収剤面(例えば太陽集熱発電用の)および吸収剤面が形成され得る基板が使用時に熱により膨張する場合に、熱膨張に対して耐性がなければならない。最上層マトリックス中のナノ細孔の存在は、熱膨張および収縮の程度を調節することによって、下にある吸収剤コーティングを保護するのに寄与し得る。
【0021】
さらなる態様において、光吸収面に最上層を形成する方法であって、
最上層用のマトリックスの前駆体を含む第1の混合物を調製する工程;
ナノ粒子を含む第2の混合物を調製する工程;第1および第2の混合物を混合してナノ粒子を含む最上層の配合物を生成する工程;
光吸収面上に最上層の配合物を噴霧する工程;および
最上層を有する光吸収面を硬化プロセスにかける工程を含む方法が開示される。
【0022】
この点に関して、第1のマトリックス混合物およびナノ粒子を含む第2の混合物を用意することで、得られるマトリックスとナノ粒子がより有効に結合することが可能になり、その結果としてナノ粒子の望ましくない凝集を最小限にすることができる。
【0023】
幾つかの実施形態において、およそ5~100nmのマトリックス厚さを有する最上層を形成するために、光吸収面上に最上層の配合物を噴霧する工程、および光吸収面を硬化プロセスにかける工程は繰り返されてもよい。
【0024】
幾つかの実施形態において、最上層マトリックスは、異なる材料の2つ以上の層で構成されてもよい。
【0025】
幾つかの実施形態において、ナノ粒子は酸化物ナノ粒子を含んでもよい。この点に関して、ナノ粒子は、異なる酸化物材料および異なる粒径の粒子を含んでもよい。
【0026】
幾つかの実施形態において、第1の混合物および第2の混合物は、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーなどのオルガノシラン系の混合物を含んでもよい。
【0027】
幾つかの実施形態において、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーは、触媒の存在下で、水によって加水分解され、重縮合されてもよい。
【0028】
幾つかの実施形態において、触媒は、ヒドロキシアセトン、または酢酸、硝酸、硫酸、塩酸、シュウ酸もしくはギ酸などの酸であってもよい。
【0029】
マトリックスの前駆体がオルトケイ酸テトラエチルのオリゴマーまたはオルトケイ酸テトラメチルのオリゴマーを含む場合、光吸収面上に最上層の配合物を噴霧する工程は300℃以上の温度で行われる。この点に関して、オルトケイ酸テトラエチルのオリゴマーまたはオルトケイ酸テトラメチルのオリゴマーの使用によって、マトリックスは予備加熱された基板または目標で結晶化する能力があるが、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体を含むマトリックスは適用前の放射熱により空気中で結晶化してもよい。
【0030】
上述の最上層は、それらの光吸収特性を改善し、それらの耐久性に寄与するために多くの光吸収面に適用されてもよい。そのような面は、例えば金属(例えば鋼鉄およびチタン合金)、セラミックおよび従来の吸収剤コーティングを含む。
【0031】
最上層は、例えば、参照により本明細書に組み込まれ、特許文献1において本発明者らのうちの1人によって開示された吸収剤コーティングに適用されてもよい。
【0032】
さらなる例として、Pyromark2500は、本最上層が吸収率および耐久性を改善するために適用されてもよい広く使用される高温光吸収剤コーティングである。下にある材料を異なるモルフォロジーで構成することができるので、最上層の効果(および最適特性)は変動し得るが、各事例において、光吸収率特性の改善が期待される。
【0033】
なおさらなる態様において、数値シミュレーションによって光吸収面用の最上層をリファインするプロセスであって、
光吸収面の単純化されたモルフォロジーを生成すること;
光吸収面を規定する1組のパラメーターを生成すること;
光吸収面およびそれに適用される最上層を含むモデルシステムを生成すること;
システムのスペクトル吸収率および/または加重太陽光吸収率を得るために、モデルシステムへの光の印加をモデル化することを含み;
モデルシステムの最上層が1組のマトリックスパラメーターおよび1組の粒子パラメーターを含むプロセスが開示される。
【0034】
幾つかの実施形態において、光吸収面の単純化されたモルフォロジーを生成する工程は、光吸収面の光学に基づく測定を含んでもよい。
【0035】
幾つかの実施形態において、システムのスペクトル吸収率および/または加重太陽光吸収率を変えるために、1組のマトリックスパラメーター、および/または1組の粒子パラメーターは修正され、プロセスが反復されてもよい。
【0036】
幾つかの実施形態において、1組の粒子パラメーターは、1つまたは複数の金属酸化物粒子を含む粒子に関連してもよい。
【0037】
幾つかの実施形態において、1つまたは複数の金属酸化物粒子は、シリカ、チタニア、アルミナおよび/またはジルコニアを含んでもよい。
【0038】
幾つかの実施形態において、数値シミュレーションは計算電磁気学的シミュレーション工程を含んでもよい。幾つかの実施形態において、計算電磁気学的シミュレーション工程は有限差分時間領域手法に基づいてもよい。
【0039】
別の態様において、上記の最上層の調製における使用のための混合物であって、オルトケイ酸テトラエチル前駆体、オルトケイ酸テトラメチル前駆体またはそれらのオリゴマーを含むマトリックスの前駆体、コロイダルシリカを含むナノ粒子、エタノール、水および触媒を含む混合物が開示される。
【0040】
開示の全体にわたって、「ソーラーパワー(CSP)の濃縮」および「太陽光集熱(CST)」という用語は、交換して使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、a.最上層マトリックスに埋め込まれ、吸収面バルク材にわたって配置されたナノ粒子球体の物理的幾何形状;b.モデル化のための単純化された幾何形状;c.吸収面バルク材を覆う最上層を含むモデル化システムの実施形態;d.周期的な境界を有する一連のランダムに分布したナノ球体の平面図;e.モデル化バルク材用の複素屈折率である、本開示の最上層を評価するモデル化プロセスの実施形態を示す。
【
図2】
図2は、
図1のシステムのための有限差分時間領域シミュレーション結果を示す:a.x=350nmおよび550nmの波長で断面側面図からの、最上層を含まない事例に対して規格化された光強度(ポインティングベクトル)の大きさ;b.その射影が参照として示される球体の真下の最上層なしの事例に対して規格化された、光強度(ポインティングベクトル)の大きさ;c.最上層を含む/含まない平坦なバルク材のスペクトル吸収率(左軸);スペクトル太陽光照度(右軸)が参照として含まれる。
【
図3】
図3は、ナノ粒子およびマトリックスのパラメーターを最適化するためのモデル化プロセスの一般化実施形態の模式図を示す。
【
図7】
図7は、最上層を最適化するためにナノ粒子の角型パッキング分布を用いて
図3-5の一般化実施形態を適用することによって得られたモデル化吸収率値を示し、ここで:a.平坦なチタン(Ti)面用の最上層を最適化する前述のプロセスを適用しナノ粒子密度を変動させることによって得られたモデル化スペクトル吸収率値;b.裸のステンレス鋼面のマトリックスの厚さを変動させることによって得られたモデル化スペクトル吸収率値;c.最上層マトリックス材料を変動させることによって得られたモデル化吸収率値;d.ナノ粒子材料を変動させることによって得られたモデル化吸収率値である。
【
図8】
図8は、光吸収面用の最上層の実施形態を示し、ここで:a.吸収面に適用された最上層の走査型電子顕微鏡(SEM)像およびナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラム;b.最上層マトリックスに組み込まれたナノ粒子の実施形態である。
【
図9】
図9は、本開示の最上層を形成するための、前駆体の実施形態の模式的プロセスを示す。
【
図10】
図10は、本開示の最上層を形成するための前駆体の実施形態の模式的プロセスを示す。
【
図11】
図11は、本開示による最上層が適用される光吸収面の実施形態を示す。a.基層、吸収層および最上層のモルフォロジーの実施形態;b.基層(
図11b、b.1)および吸収層(
図11b、b.2)のSEM像;c.吸収剤コーティングの断面コンピュータ断層撮影(CT)像である。
【
図12】
図12は、a.最上層への組み込み前の、本開示の最上層の配合物に用いられるコロイダルシリカのSEM像およびナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラム;b.最上層に組み込まれたコロイダルシリカを示す、吸収剤面に適用された最上層のSEM像およびナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラム;c.基層、吸収層および最上層を有する、
図11の多重層実施形態の実測(実線)およびモデル化(破線)の吸収率性能を示す。
【
図13】
図13は、様々な吸収剤面に適用された最上層の実測スペクトル吸収率性能を示す。a.316Lステンレス鋼合金面を覆って適用された最上層;b.インコネル625合金面を覆って適用された最上層;c.316Lステンレス鋼基板を有する、
図11の吸収剤コーティングを覆って適用された最上層;3種のナノ粒子サイズおよび裸の吸収剤コーティング(最上層を含まない)の結果;d.インコネル625合金基板を含む、
図11の吸収剤コーティングを覆って適用された最上層;最上層の配合物中のナノ粒子濃度を変動させる。
【
図14】
図14は、異なるナノ粒子数密度を有する最上層の実施形態のSEM像を示す。a.最上層の適用前の吸収剤コーティング;b.0.1075重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、
図14aの吸収剤コーティング上へ適用された最上層;c.0.215重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、
図14aの吸収剤コーティング上へ適用された最上層;d.0.43重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、
図14aの吸収剤コーティング上へ適用された最上層;e.900℃での熱エージング後の、最上層の配合物中のナノ球体の異なる濃度によりナノ球体密度を変動させて、適用された最上層を含む吸収剤面の加重太陽光吸収率(SWA)を示す。
【
図15-1】
図15-1は、適用された最上層を含む本吸収剤コーティング(
図11の)の吸収率性能を示す。図a~dは、最上層を含まないPyromark2500と比較して、最上層の性能を示す。ここで:a.インコネル625基板のスペクトル吸収率(左軸;右軸は反射率)。挿入図は、共焦点顕微鏡を用いて測定された珊瑚構造化した吸収剤コーティング(上)およびPyromark2500(下)のモルフォロジーを共通の色バースケールを使用して示す;b.本コーティングおよび3種の公知の吸収剤コーティングとして、800℃での等温アニール時間の関数としての加重太陽光吸収率(SWA;左軸)および反射損失(右軸)。挿入図は、Torres,J.F.,Ellis,I.&Coventry,J.Degradation mechanisms and non-linear thermal cycling effects in a high-temperature light-absorber coating.Sol.Energy Mater.Sol.Cells218,110719(2020)によって報告された熱サイクル・保持試験の結果を示す。c.赤外線スペクトル範囲を含むスペクトル吸収率(または放射率);d.≧850℃での等温アニール時間の関数としての加重太陽光吸収率(および反射損失);挿入図は900℃で500時間エージングの後にナノ球体数密度の加重太陽光吸収率への影響を示す。
【
図15-2】
図15-2は、適用された最上層を含む本吸収剤コーティング(
図11の)の吸収率性能を示す。図e~iは、変動条件下の最上層の性能を示す。ここで:e.900℃でのエージングとしての、異なるナノ粒子装填率またはマトリックスのみ(ナノ粒子を含まない)を有する最上層を含むエージング時間の関数としての加重太陽光吸収率(SWA);f.同じエージング時間の吸収剤コーティングに適用された最上層を含まないものと比較して当初の、エージング400時間後およびエージング1000時間後の、0.215重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、適用された吸収剤コーティングのスペクトル吸収率;g.同じエージング時間の吸収剤コーティングに適用された最上層を含まないものと比較して、当初の、エージング400時間後およびエージング1000時間後の、0.1075重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、適用された吸収剤コーティングのスペクトル吸収率;h.同じエージング時間の吸収剤コーティングに適用された最上層を含まないものと比較して、当初の、エージング400時間後およびエージング1000時間後の、0.43重量%のナノ球体を含む最上層の配合物を有する、適用された吸収剤コーティングのスペクトル吸収率;i.同じエージング時間の吸収剤コーティングに適用された最上層を含まないものと比較して、当初の、エージング400時間後の、最上層マトリックスのみを有する、適用された吸収剤コーティングのスペクトル吸収率。
【
図16】
図16は、等温アニール条件の下で、適用された最上層を含む本吸収剤コーティング(
図11の)のコーティング安定性を示す特性評価結果を示す。a.最適化された珊瑚構造化モルフォロジーとしての800℃で3000時間アニール後のSEM像;b.900℃で850時間アニール後のSEM像;珊瑚モルフォロジーは維持され、離散的な位置(b.2)で時折の剥がれ(b.1)を含む;c.800℃での等温エージングの1000時間および3000時間後の、珊瑚構造化コーティングの断面後方散乱電子(BSE)像およびエネルギー分散分光(EDS)像;珊瑚構造化モルフォロジーは、概して不変であることを示した。d.X線回折(XRD)パターンは、アニール後に結晶相構造の小規模変化を示した。顔料(黒線)は、当初のコーティング中に見られるパターンに対応するCu
0.64Cr
1.51Mn
0.84O
4である。ルチルTiO
2は、赤色の矢で示されるように850℃で2時間の熱処理後に結晶化する。
【
図17】
図17は、熱エージング後の、適用された最上層を含む本吸収剤コーティングの高倍率および低倍率のSEM像を示す。シリカナノ球体の焼結は最小限であることがわかった。
【
図18】
図18は、当初条件に関して、および適用された本開示の800℃での熱エージング500時間後の、最上層を含む(破線)/含まない(実線)Pyromark2500試料の吸収率試験の結果を示す。
【
図19】
図19は、大規模吸収用途において示された本最上層の実施形態を示す。ここで:a.試験用最上層の適用前の実用的太陽光集熱器の写真;挿入図は、屋外試験として6か月間の受器下に配置された珊瑚構造化コーティングおよび最上層を示す;b.吸収層および最上層の堆積の例;吸収溶液は、大きい体積分率の溶媒を有し、したがって、TiまたはAlの熱分解が生じるために適温で基板を維持する必要がある。ドーナツ形排気は、マルチスケール空隙を生じさせるのに必要である、蒸発溶媒の過剰を除去するのを助けるが、受器チューブに通して加熱したオイルの循環が表面温度を確実にほぼ一定に保つのを助ける;c.実験室で塗工された曲がった試料片で覆われた塗工チューブ(吸収層および最上層);d.塗工チューブの珊瑚構造化吸収剤コーティングおよび最上層のSEM像;e.最上層を含む吸収剤コーティング、適用されたインコネル625(e.1)基板および316Lステンレス鋼(e.2)基板のさらなる高温耐久性試験の結果。試料は、野外(すなわち「屋外」6か月間試験)でエージングし、850℃で200時間(炉の内部で)等温エージングした。
【
図20】
図20は、波長の関数としてナノ粒子を含むオリゴマーの最上層を含む/または含まないPyromark2500の吸収率性能(反射率)を示す。
【
図21】
図21は、噴霧時間の関数として最上層を含むPyromark2500の加重太陽光吸収率を示す。
【
図22】
図22は、エージング時間の関数として塗工されたナノ粒子含有オリゴマーの最上層を含む/含まない、米国特許第11002466号の吸収剤コーティング間での吸収率性能の比較を示す。
【
図23】
図23は、ナノ球体直径を変動させる場合、光吸収特性への影響のシミュレーション結果を示す。
図23aは、波長の関数としてシミュレートした吸収率(左軸)および太陽光照度(右軸)を示す。
図23bは、3タイプの下にある太陽光吸収剤に適用した場合、ナノ球体直径の関数として最上層のシミュレートした有効性を示す。
【
図24】
図24は、マトリックスを含まない異なるナノ球体直径としての被覆率比の関数として(
図24a)、および46%の固定被覆率比のナノ球体直径およびマトリックス厚さの両方の関数として(
図24b)、ダミー材料について均質なナノ球体配置を有する最上層のシミュレートした有効性を示す。
【
図25】
図25は、マトリックス厚さおよびナノ球体半径が等しい場合、異なるマトリックス厚さに対するナノ球体の浸入度の関数として最上層のシミュレートした有効性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下の詳細な説明において、詳細な説明の一部を形成する付随の図面が参照される。詳細な説明において記載され、図面において描かれ、特許請求の範囲において規定される例証となる実施形態は、限定の意図をもたない。提示された主題の趣旨または範囲から外れずに、他の実施形態が利用されてもよく、他の変更が行われてもよい。全体として本明細書において記載され、図面において例証されるように、本開示の態様を並べ、置き換え、組み合わせ、分離し、種々様々の異なる配置で設計することができ、そのすべてが本開示において企図されることは容易に理解されるであろう。
【0043】
光吸収面用の最上層の最適化
本開示による最上層は、マトリックスと、マトリックスに埋め込まれ、それに接着し、その全体に分布したナノ粒子と、を含む。マトリックスは、多孔性シリカコーティングからなり、これは、太陽集熱発電用の光吸収コーティングなどの光吸収面の最外面に適用されてもよい。光吸収材料の最外面に多孔性シリカ最上層(ナノ粒子を含む)を形成することによって、最上層のマトリックスは、使用する下にある吸収面を保護することができる。マトリックスは、また、改善された吸収率に寄与することができる。一方、ナノ粒子は、入射光と相互に作用することにより吸収材料の吸収率を有意に高めることができる。
【0044】
多孔性シリカコーティングを形成するために、ジメチルジクロロシラン、トリメトキシエチルエトキシシランまたはテトラ-エトキシシランなどのオルガノシランの溶液が調製される。ナノ粒子を含有するシリカコーティングは、光吸収面(例えば吸収剤コーティング)の最外面上に噴霧され、加熱によって硬化され、多孔性シリカコーティングを形成する。多孔性シリカコーティングを形成する1つの方法の例として、エタノールと混合されたオルトケイ酸テトラエチルなどのアルコキシシラン、ヒドロキシアセトンなどの触媒、およびエタノールと混合された水が混合される。結果として得られた溶液は、吸収面上に噴霧され、300~500℃の範囲の適温で加熱される。
【0045】
別の実施形態において、オルガノシランの溶液は、加水分解可能なシラン化合物のオリゴマーを含んでもよい。加水分解可能なシラン化合物のオリゴマーは、加水分解可能なシラン化合物の重縮合反応によって生成されてもよい。加水分解可能なシラン化合物は、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトキシム基、イソシアネート基、およびハロゲン原子などの加水分解可能な基を有するシラン化合物である。
【0046】
本発明において、アルコキシシラン化合物は適切に使用される。メチル基、エチル基、プロピル基およびブチル基などの低級アルキル基は、アルコキシ基(-OR)のアルキル基の例である。加水分解可能な基の数に応じて、1~4の官能基が知られている。アルコキシシラン化合物の代表的な例は、ジメチルジメトキシシラン(DMDMS)、メチルトリメトキシシラン(MTMS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)、メチルトリエトキシシラン(MTES)、テトラエトキシシラン(TEOS)、その他である。
【0047】
加水分解可能なシラン化合物のオリゴマーは、縮合による上記モノマーの重合(オリゴマー化)の結果である。この反応において、シラノール基(-Si-OH)がアルコキシ基の加水分解によってまず形成される。同時に、アルコール(R-OH)が形成される。次に、シロキサン結合(-Si-O-Si-O-)がシラノール基の(脱水)縮合によって形成される。この縮合が繰り返されてシロキサンオリゴマーを形成する。アルコキシシラン化合物のオリゴマーとして、Rがメチル基であるテトラメトキシシランオリゴマー、またはRがエチル基であるテトラエトキシシランオリゴマーは、加水分解およびアルコキシ基の縮合の観点で好ましい。
【0048】
オリゴマーの構造は、直鎖、分岐、環状または網状であってもよい。直鎖構造を有するテトラアルコキシシランオリゴマーは下記一般式によって表される。
RO(Si(OR)2O)nR...(I)
一般式において、nは、オリゴマーのオリゴマー度を表す。通常入手可能なオリゴマーは、異なるnを有するオリゴマーの組成物であり、したがって分子量分布を有する。オリゴマー度は平均化されたnによって表現される。
【0049】
本発明において、オリゴマー度nは、通常2~100、好ましくは2~70であり、さらにより好ましくは2~50のマルチマー度を有するオリゴマーが使用される。そのようなオリゴマーは、既に市販されているので、それらを使用するのは容易である。
【0050】
加水分解可能なシラン化合物の市販されているオリゴマーは、Mitsubishi Chemical Corporationによって製造されているMKC Silicate MS51、MKC Silicate MS56、およびMKC Silicate MS57およびMKC Silicate MS56S;Colcoat Co.,Ltd.によって製造されているMethyl Silicate 51、Methyl Silicate 53A、Ethyl Silicate 40、およびethyl silicate 48;Tama Chemicals Co.,Ltd.などによって製造されているsilicate 40およびsilicate 45を含む。すべては、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランのオリゴマーである。
【0051】
数値モデル化は、ナノ粒子のタイプ、サイズおよび「装填率」、またはマトリックス内の数密度/粒子分布(それは最上層が適用される基板に依存し得る)などの最上層、ならびに例えば材料のタイプおよび厚さを含むマトリックス特性としての最適またはほぼ最適のパラメーターを求めるために行った。モデルは、また最上層が位置するバルク材(すなわちモデル吸収面)を含んでいた。
【0052】
様々な最上層/バルク材構成のためのポインティングベクトルの大きさおよび方向は、ソフトウェアANSYS Lumericalを使用して、有限差分時間領域(FDTD)方法によって分析した。
【0053】
図1を参照すると、吸収剤コーティングバルク材(
図1a)を覆って配置されたシリカマトリックスに埋め込まれた単一のシリカ(SiO
2)ナノ粒子球体の物理的な幾何形状が
図1bにおいて示される、単純化された幾何形状を使用して、モデル化目的のために近似した。ナノ粒子(マトリックスに埋め込まれまたは接着されたナノ球体の形態)を含む物理的な最上層において、ナノ球体の底面部はマトリックスと重なり合い(すなわち、粒子はマトリックスに埋め込まれまたは組み込まれる-
図1a)、マトリックス厚さのおよそ2倍に有効な粒径を増加させるように作用する。この理由のため、モデル化球体サイズは、物理的な球体直径+マトリックス厚さの2倍と見なした。したがって100nmの直径のナノ球体および8nmの厚さのマトリックスを有する物理的な構成の特性をモデル化するために、およそ116nm~120nmの有効な球体直径が得られた。
【0054】
図1cに示すように、数値モデルは、最上層のモデル化ナノスケール構造と相互作用する法線方向から発する平面波を含んでいた。周期的境界条件は、z軸に沿って、側面x-zおよびy-zに設定した。「完全一致層」(PML)の境界条件を用いてx-y面境界の上下両方に設定した。バルク材の厚さは、底部境界に到達する前に平面波のエネルギーがすべて確実に吸収されるように3μmより大きく設定した。
【0055】
120nmの球体直径、およびμm
2当たり42の球体密度を最初に用い、SiO
2ナノ球体を、8nm厚のSiO
2マトリックスを用いてバルク吸収材料の上にランダムに配置した。
図1dは、0.36μm
2の面積にわたって一連の15個のランダムに分布したナノ球体の上面図を図示する。各座標軸の2nmのメッシュサイズをモデル化のために用いた。
【0056】
モデル化において使用するSiO
2の屈折率は、文献[Gao,L.,Lemarchand,F.&Lequime,M.Exploitation of multiple incidences spectrometric measurements for thin film reverse engineering.Opt.Express20,15734(2012)]から得られた。単一の吸収コーティングバルク材の上への最上層の影響をシミュレートするために、ミクロおよびマクロスケールの特徴を有する吸収剤コーティングとしての同様の初期の波長依存性吸収率を用いて(米国特許第11002466号において記載されているコーティングなどの)、良好な光吸収特性を有するダミーバルク材を設計した(
図1eは、モデル化バルク材の複素屈折率を図示する)。周波数領域場プロフィルを収集する面モニターを設定し、シミュレーション面積中のポインティングベクトルによって積分されたポインティングベクトルおよびパワーを戻し、次いで、これは、シミュレーション領域において適用された材料または構造を含まない事例に対して規格化した。
【0057】
図2は、
図1のシステムの有限差分時間領域シミュレーション結果を図示する。
図2aは、断面側面図からの材料を含まない事例に対してx=350nmおよび550nmの波長で規格化された光強度の大きさを示す。
図2bは、球体の真下の材料を含まない事例に対して規格化された光強度の大きさおよびポインティングベクトルのプロフィルを与える。
図2cは、そのパラメーターが
図1に図示される最上層を含む/含まない平坦バルク材のスペクトル吸収率を示す。
【0058】
結果は、ナノ球体サイズ、密度、下にあるコーティングの複素屈折率および下にあるコーティングのモルフォロジーに依存することがわかった。したがって、ナノ粒子とマトリックスの特定の組み合わせ(すなわち異なる材料、サイズおよびモルフォロジーの)は、特定の光吸収コーティングの太陽光吸収を高めるために個別調整されてもよい。
【0059】
ナノ粒子およびマトリックスのパラメーターを変化させることにより吸収率を最適化または改善する、一般化されたプロセスを
図3に略述する(プロセス工程10’~19’)。このプロセスは、数値モデル化をより容易に行うために、最上層が適用される候補のバルク材のモルフォロジーを評価すること、および、単純化された方式でそのモルフォロジーを近似することを含む(プロセス1,14’、
図4のプロセス工程20’~24’にさらに詳述される)。候補吸収剤コーティングが本最上層の適用のために評価される場合、プロセス1の一例を
図5に図示する(
図4のプロセス工程が示したように)。
【0060】
次いで、最適化プロセスは、
図6にさらに詳しく図示されるモデル化工程(
図3のプロセス2、19’)を含む。このモデル化プロセスは、最適化プロセスにおいて見いだされたパラメーターを評価するために使用する。このモデル化プロセスの一例は、
図2において図示された例を参照して、上記に略述する。
【0061】
数値シミュレーションは、最上層の材料(すなわちナノ粒子およびマトリックス)が、その下にある吸収剤コーティングの光学的性質に基づいて選ばれるべきであることを示した。したがって、吸収率を最適化または改善し、上記略述されるような最適の最上層特性を見つける一般化プロセスは、所与の吸収剤コーティングに個別調整された適切な最上層の設計のために、太陽光吸収剤コーティングの材料特性が評価され、したがって最適の最上層パラメーターを選ぶために使用されることを可能にする。
【0062】
図7aは、平坦なチタン(Ti)面に最適の最上層パラメーターを求めるために、前述のプロセスを適用することにより得られた、モデル化スペクトル吸収率値(すなわち入射光の波長の関数として)を図示する。チタン面用の最上層中のナノ粒子の最適な密度(μm
2当たり粒子)を求めるために、システムをモデル化するために以下の初期条件を使用した:
- Tiとして公知の複素屈折率を有する平坦なモルフォロジーのチタン面;
- 入射波長範囲より大きい表面長さスケール(すなわち平坦面モルフォロジー);
- ナノ粒子の形状:球状;
- ナノ粒子球体の直径:120nm;
- ナノ粒子の材料:SiO
2;
- ナノ粒子の積層(層)の数:1;
- ナノ粒子の構成:角型パッキング。
【0063】
上記のシミュレーション条件を使用して、スペクトル吸収率を最大化するナノ粒子の最適な密度を、入射光(例えば入射光が日光である場合、加重太陽光吸収率)のスペクトルの照度に依存して求めることができる。
図7aにおいて示される結果は、500nmより長い波長について、最上層中のより高いナノ粒子密度が好ましいが、500nmより短い波長については、より低い粒子密度が最適であることを示す。
【0064】
316Lステンレス鋼基板に形成された最上層(0~40nm;
図7b)、100nmのアルミナナノ球体を含む異なるマトリックス材料(アルミナ、シリカ、チタニア)(
図7c)およびシリカマトリックス中の異なるナノ粒子材料(アルミナ、シリカ、チタニアおよびジルコニア)(
図7d)について、前述のモデル化プロセスも、また、様々なマトリックス厚さの影響を評価するために用いた。
【0065】
別の実施形態において、ナノ球体直径の有効度をシミュレートする。
図23aは、5つの異なる直径の単分散ナノ球体を有する最上層を含むダミー材料のスペクトル吸収率を示す(凡例に示す)。すべての事例で被覆率比は一定で、46%に等しい。すべての実線はランダムな配置についてであり、破線は、同じ被覆率比を有するナノ球体の400nmの直径用の均質な配置であり、点線は最上層を含まないバルクダミー材料である。100nmのナノ球体直径用のランダムおよび均質な配置はほとんど同じである(図示せず)。
【0066】
図23bは、3つの異なる下にある材料の46%の被覆率比を有するランダムな配置についてナノ球体直径(単分散最上層)の関数として最上層の有効度を示す。最適のナノ球体直径(またはナノ粒子の有効なサイズ)は、下にある吸収材料に依存するが、全体として80~140nmの範囲内にある。
【0067】
図24aは、ダミー材料に均質なナノ球体配置を有する(すなわちランダムではない)最上層のシミュレートした有効度を、異なるナノ球体直径の被覆率比の関数として示す(凡例に示される)。100nm以下のナノ球体(破線)に対して、有効度は、被覆率比と共に単調に増加する(80%の分析値まで)。120nm以上のナノ球体直径(実線)に対して、最適の被覆率比がある。これらの結果はマトリックスを含まない。
【0068】
図24bは、被覆率比が46%である場合、ダミー材料にランダムな配置を有するナノ球体直径およびマトリックス厚さの関数として最上層の有効度を示す。ナノ球体は、浸漬なしでマトリックス上部に配置される(すなわち、ナノ球体は本来のマトリックス-空気境界に接する)。輪郭プロットは、有効度がマトリックスとナノ球体の組み合わせによって影響を受けることを示す。輪郭プロットに隣接しているラインプロットは、ナノ球体(下)またはマトリックス(左)によってのみ効果を示す。
【0069】
図25は、最上層が均質な配置を有するナノ球体を含むダミー材料上にある場合、ナノ球体の浸漬度の関数として最上層の有効度を示す。これらのシミュレーションにおいて、ナノ球体直径(D)は、マトリックス厚さ(H)の2倍、すなわちD=2Hに設定する。浸漬度の定義は、Lが浸透深さである場合、φ=L/D×100%である。浸漬度φは、マトリックスにナノ球体がどれだけ多くへ浸漬するかを決定する。したがって、
図25のシミュレーションにおいて、最大浸漬度は50%である(すなわち、L=HおよびD=2Hのとき、φ=50%)。この結果は、浸漬度を増加させると一般に最大有効度は減少することを示す(例えば、H=60nmに対する結果を参照)。しかしながら、幾つかの事例(H=80nmまたは100nm)において、小さな浸漬度は有効度を増加させることができる。実験的には、より大きい浸漬比は、マトリックス上にナノ球体の接着を改善することができる。
【0070】
この方法において、前述のモデル化プロセスは、所与の吸収剤面適用に対する最上層特性を最適化または改善するために、ナノ粒子材料、サイズ、モルフォロジー、数密度または装填率の様々な組み合わせを、様々なタイプのマトリックスおよび吸収剤面と合わせてシミュレートし評価できる。
【0071】
最上層の調製
図8aは、シリカマトリックス12およびその中に埋め込まれまたはそれに接着したシリカナノ粒子14を含む、光吸収面11用の最上層10の実施形態を示す。最上層は光吸収面11の最外面に形成される。
図8bに図示されるように、ナノ粒子14は、通常マトリックス材料12に埋め込まれおよび/または塗工されるが、ナノ粒子は、マトリックス内の様々な深さに組み込むことができ、またはマトリックスの表面に接着されてもよい。
【0072】
最上層の形成のための噴霧可能な組成物を調製するために、有機溶媒(材料A)を含むオルトケイ酸テトラエチルを含む混合物を、ナノ粒子(材料B)を含む溶液に添加した。続く例証においては、シリカナノ球体を用いたが、異なる光学的性質を有する他のナノ粒子が用いられてもよい。
【0073】
材料Aの調製
図9は、材料Aを調製する模式的プロセスを略述する。99.5%エタノール160mL(126.7gを秤量して)を、0.2molオルトケイ酸テトラエチル(TEOS;Tokyo Chemical Industry Co.,Ltd.によって製造された)41.7g 22と、25℃で550rpmの撹拌速度(SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY LTD.Model:CPG-2120)で1時間混合し 23、溶液A1を生成した。別のプロセスにおいて、99.5%純度のエタノール160mL(126.7gのエタノール)を混合し、0.2molヒドロキシアセトン(Tokyo Chemical Industry Co.,Ltd.によって製造された)14.8gと撹拌し 24,25、連続撹拌しながらイオン交換水18g(1.0mol)を徐々に添加した 26。この溶液は、最初に10分間超音波で混合し 27、その後、550rpmの撹拌速度で1時間さらに撹拌し(また25℃で)溶液A2を生成した 28。
【0074】
次いで、前駆体溶液A1およびA2は、550rpmの撹拌速度、2日間40℃で撹拌混合した 30。混合物を40℃で3日間静置し 32、およそ330gの材料Aを生成した 34。
【0075】
材料Bの調製
図10は、材料Bを調製する模式的プロセスを略述する。エタノール(99.5%の純度)63.4gを、市販されているコロイダルシリカ(Nissan Chemicalによって製造されたORGANOSILICASOL(商標)IPA-ST-ZL)20.0g、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)20.8g(0.1mol)およびヒドロキシアセトン7.4g(0.1mol)と 36、イオン交換水9.0g(0.5mol)と共に混合し 37、混合物を連続的に撹拌しながらゆっくり添加した 38。コロイダルシリカは、およそ70~140nmの平均直径および30重量%の球体の装填率を有するシリカナノ球体を含んでいた。この混合物は、最初、超音波で10分間撹拌して 39、続いて550rpmの混合速度にて2日間40℃で撹拌した 40。混合物を40℃で3日間静置し 42、およそ120gの材料Bを生成した 44。
【0076】
この方法でTEOSへコロイダルシリカを添加することによって、微粒子シリカの望ましくない凝集を回避することができ、シリカナノ粒子は、結果として得られたシリカマトリックスと、より有効に結合し得る。この点に関して、TEOSは水で加水分解され、触媒のヒドロキシアセトンは、TEOSの脱水重縮合プロセスを誘発する。シリカ球体は脱水重縮合シリカによって塗工し、微粒子シリカが溶液中の集合を妨げる。エタノール、TEOSおよびヒドロキシアセトンの混合溶液へのコロイダルシリカの添加、次いで加水分解、脱水、および水を用いるTEOSの重合によって、微粒子シリカの望ましくない凝集を妨ぐことができる。
【0077】
最上層の配合物
表面への形成のための最上層の配合物を調製するために、材料Aおよび材料Bの両方をまず希釈した。材料Aは、99.5%の純度を有する十分なエタノールで希釈してシリカ濃度をおよそ4重量%から0.6重量%に下げた。材料Bは99.5%の純度を有する十分なエタノールで希釈してシリカ濃度をおよそ5重量%から0.86重量%に下げた。材料Bについて、希釈前後に測定されるシリカ含有率は、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)に由来するシリカ含有率を指し、シリカナノ球体の寄与を反映しないことに注意してほしい。
【0078】
次いで、希釈した材料AおよびBは、3:1(すなわち3部のA、1部のB)に混合して、最上層用の最終組成物を形成した。適切な最上層の配合物の調製としての例示の値を以下に示す。
【0079】
【0080】
上記の例に関して、最終の最上層の配合物のTEOS由来のシリカ濃度は、0.665重量%であることがわかった(すなわち(0.72g+0.344g)/160g)。シリカナノ粒子の濃度は0.215重量%(すなわち0.344g/160g)であるとわかった。
【0081】
最上層の適用
最上層の配合物は、配合物の噴霧および硬化によって適切な基板(例えば吸収剤コーティングなどの吸収剤面)に適用されてもよい。試験(3×3cm試料片)用の実験室スケール試料を作るために、最上層の配合物は、Colaniエアブラシ(Harder and Steenbeckによって製造された)を使用し0.4mmのノズルサイズを使用して適用した。最上層の配合物は、室温で0.3MPaの噴霧圧力を3秒間使用してノズルと塗工する基板の間の距離30cmで基板に適用した。
【0082】
噴霧適用の後、試料片基板は、コーティングを硬化する(すなわち、シリカナノ粒子を含むシリコン系マトリックスの形成を可能にする)ためにホットプレートによって400℃に加熱して、30分間保持した。次いで、試料片は、ホットプレートから取り出し室温に冷却した。室温に到達したら、必要な最上層厚さおよびナノ粒子密度を達成するために最上層の配合物の追加の層またはコートを、上記のとおり噴霧適用し硬化させてもよい。適切な最上層は、例えば、およそ8~40nm厚のシリカマトリックスを表してもよく、これは、噴霧パラメーターに応じて最上層の配合物の2~8度の噴霧適用によって達成されてもよい。異なる噴霧パラメーター(すなわちノズルから基板までの距離、噴霧圧力、ノズル直径など)を使用する幾つかの噴霧適用が、要求される適用に応じて異なる最上層厚さおよびナノ粒子密度を達成するために用いられてもよいことに注意すること。
【0083】
開示された最上層の配合物もまた、当業界で他の方法で知られているように、工業規模のオンライン塗工プロセスを使用して適用されてもよい。
【0084】
最上層が適用される吸収面または基板に応じて、プライマー層もコーティング耐久性を改善するために用いられてもよい。酸化物層がニッケル系合金よりも容易に剥がれる、例えばステンレス鋼(例えば316Lステンレス鋼)の基板のために、追加のプライマー層(基板と基層の間で)が用いられてもよい。適切なプライマー層溶液は、例えば2-プロパノールで希釈されたアルミニウム錯体からなっていてもよい。
【0085】
最上層が適用される光吸収面11は、鋼鉄、セラミックス面を含む金属性合金などの任意の数の面、実際に、例えばPyromark2500および米国特許第11002466号の吸収剤コーティングを含む太陽光吸収剤コーティングなどの多くの公知の吸収剤コーティングであってもよい。
【0086】
吸収剤コーティングへの最上層の適用
最上層の配合物は、それらの吸収特性を改善し耐久性に寄与するためにある範囲の光吸収面に適用されてもよい。そのような面は、例えば金属(鋼鉄およびチタン合金)およびPyromark2500などの従来の吸収剤コーティングを含む。
【0087】
図11a~cを参照すると、光吸収面を、最上層の配合物が適用される吸収剤コーティング46の形態で調製した。吸収剤コーティングは、基層50および吸収層52を含む吸収コーティング46を用いて金属基板48(316Lステンレス鋼のような)に生成し、続いて上記のナノ粒子を含む最上層54を適用した。これらの実施形態の吸収コーティングは、米国特許第11002466号にさらに記載されている。
【0088】
この最上層が適用される下方基板は、化学的清浄化のみを必要とし、多くの従来の吸収剤コーティングに必要になるようなサンドブラストを不要とする。基層は、Al
2O
3によって結合された亜クロム酸銅黒スピネル顔料粒子56(Cu
0.64Cr
1.51Mn
0.85O
4;Asahi Kasei Kogyo Co.,LTD.によって供給されるBlack3250)を含んでいた。基層はおよそ約20μmの厚さであり、吸収層52用の堆積面として役立つ。基層50は、接着を改善すると共に、約3μmの直径のミクロ孔または「ミクロポア」58の存在にも起因して吸収剤コーティング46の光閉じ込め能力に寄与することができる(
図11b.1)。
【0089】
吸収層52は、熱分解したTiO
2に結合したCu
0.64Cr
1.51Mn
0.85O
4スピネル顔料粒子56を含む。この例の吸収層は、約100μmの特徴的な寸法(すなわち高さおよび幅)で一連の突部を有するマクロスケールの「粒々の」モルフォロジーを有し、「珊瑚構造」に似る。本明細書において「特徴的な寸法」とは、突部のおよその直径および高さを指す。吸収層はまた約3μmの直径のミクロ孔58(
図11b.2)を含む。
【0090】
基層50を形成する溶液を調製するために、アルミニウム錯体(アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート)およびイソプロピルジグリコールを、スクリュー撹拌によって3時間混合した。次いで、黒スピネル顔料を添加し、約1.15:1の液体と顔料の比の重量比でスクリュー撹拌によって12時間混合した。金属基板との接着を改善するために、触媒(N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を添加し、3時間スクリュー撹拌機で混合した。
【0091】
吸収層52を形成する溶液を調製するために、チタン前駆体(チタン(IV)イソプロポキシド;TTIP)を室温でアセチルアセトンと反応させ、次いで80℃で6時間加熱し、次いで2-プロパノール(イソプロピルアルコール、IPA)で希釈し;黒色顔料およびN-メチル-2-ピロリドンを添加し、超音波処理によって30分間分散した。およそ40:1の大きい溶液と顔料の比が珊瑚構造化モルフォロジーを作るために必要である。
【0092】
基層および吸収層の噴霧適用で、それぞれアルミニウムおよびチタンへ配位した溶媒(配位子)の脱着が生じる。この後、脱着した溶媒の迅速な蒸発が続き、結果としてミクロ孔(すなわち、細長い連通ミクロポア)の形成をもたらす。最終的にアルミニウムおよびチタン(脱着した溶媒からの)の熱による分解(熱分解)は、結果として黒色顔料と強く結合するアルミナ(基層)またはチタニア(吸収層)で構成されるマトリックスをもたらす。
【0093】
TiO2結合剤は、多くのCSPコーティングにおいて見られるナノスケール空隙を有さず、陽イオン拡散の予想される低減により、スピネル顔料に両方の強い結合を促進するが、吸収剤コーティングの動作中の酸化物層の成長を妨害する可能性がある。しかしながら、TiO2結合剤内のナノスケール空隙の欠如は、光閉じ込め(または加重太陽光吸収率)を下げると予想される。したがって、ナノスケールの特徴を含む最上層の添加は、結合剤の内側のナノスケール空隙の欠如を補うが、空気中の酸素と基板から拡散する陽イオンの間の接触を妨害する可能性がある。
【0094】
図11bは、基層(
図11b、b.1)および吸収層(
図11b、b.2)の走査電子顕微鏡(SEM)像を示し、吸収層52中に形成された突部53を図示する。吸収層突部53をさらに
図11cに図示し、断面コンピュータ断層撮影(CT)スキャンは珊瑚類似のモルフォロジーを示す。吸収層の中心的な特徴は、その自己組織化されたミクロスケール(孔)およびマクロスケール(射影)の特徴であり、後者は多くの天然イシサンゴにおいて観察される固有の光学的安定性を導入する。
【0095】
吸収層52に形成された最上層54は、薄い(8nm)シリカマトリックスおよび直径100nmのシリカナノ粒子(他のモルフォロジーも可能であるが、本例示の球状モルフォロジー)を含む。
【0096】
表1の配合物に用いるコロイダルシリカのSEM分析(Nissan Chemicalによって製造されたORGANOSILICASOL(商標)IPA-ST-ZL)を、混合して最上層(
図12a)を形成する前に、かつ吸収剤面(
図12b)への最上層の形成の後に行った。受領した状態で、平均粒径は、8.1nmの標準偏差を有する116.2nmであることがわかった(ヒストグラムプロット、
図12a)。最上層に組み込み、吸収剤面に形成すると、シリカナノ球体の平均の「有効な」直径は、10.8nmの標準偏差を有する123.9nmであることがわかった(ヒストグラムプロット、
図12b)。上記のように、最上層に組み込まれたシリカナノ粒子の有効直径は、組み込み前の粒子の直径+最上層マトリックスの厚さの2倍(すなわち100nm+2×8nm=約116nm)に近似すると予想された。
【0097】
吸収剤コーティングのラボスケール堆積について、表面積3cm×3cmの3mm厚の金属試料片(インコネル625またはステンレス鋼SS316L/SS253MAのいずれか)上に標準大気条件下でコーティングを噴霧した。基層を堆積させるために270℃で基板を加熱しながら、4秒間エアブラシを用いてベース溶液を噴霧し;溶媒(2-プロパノールおよびイソプロピルジグリコール)の迅速な蒸発によって基層として観察されるミクロ孔のモルフォロジーを作製した。珊瑚構造化吸収層を堆積させるために、基層(320℃で保持した)上に大きい噴霧ノズルを用いて吸収溶液を複数回噴霧した。約320±20℃で基板を保持した場合のみに起きる熱分解によってチタンアセチルアセトナート錯体の熱による分解で、マクロスケールの珊瑚類似のモルフォロジーを作ったが、溶媒(アセチルアセトン)の迅速な蒸発がミクロスケールの特徴(孔)を生み出した。シリカナノ粒子を含む最上層を堆積させるために、試料片をまずホットプレートから取り出し、室温に到達させ、続いて室温で吸収層にエアブラシを用いて最上層溶液を噴霧し(上記に略述されたように)、続いて400℃で30分間硬化した。最上層の2度の適用を行って、およそ8nmのマトリックス厚さの最上層を作製した。
【0098】
図12cは、基層、吸収層および最上層を有する多重層系の実測(実線)、モデル化(破線)吸収率性能を与える(より詳述に記載、上記
図11参照)。
図12cは、波長の関数としてモデル化反射率(左軸)、および参照太陽光照度(右軸)を示し、様々な長さスケールを吸収コーティングに組み込んだときの光閉じ込めの改善、すなわち加重太陽光反射率の低下を示す。CSPの用途において使用される光吸収面について、光吸収コーティングで塗工された受器の面上で、一般に1000倍を超えて太陽からの光子を濃縮する。これらの光子はまず、より低い長さスケール(すなわちナノ長さスケール)で材料と相互作用し、広い波長範囲で光子を再度発する。重要なことには、より大きい長さスケールを有する光トラップによって、「階層的」または「直列的」光閉じ込めとして説明することができるプロセスにおいて、これらの光子の幾つかを捕捉することができる。この最上層のナノスケール構造は、マトリックスに組み込まれたナノ粒子によって提供される。
【0099】
図12cの結果は、吸収剤コーティング中の構造の各長さスケールについて波長の関数として光吸収率への相対的な寄与を図示する。基層(ミクロスケール)の寄与を点線で示し、マクロスケールの射影を含む吸収層の寄与を一点鎖線で示し、シリカマトリックスおよびシリコンナノ粒子を含む最上層(ナノスケール)のそれを実線で示す。また、マクロスケール吸収層の寄与についての放射線トレースシミュレーション結果を破線で示す。
【0100】
コーティングの反射率およびスペクトル太陽光照度は、ナノ、ミクロおよびマクロ構造のそれぞれの寄与と共に低下することを示し、堆積プロセス中の各長さスケールが付加されるにつれて、光閉じ込め(吸収率)の改善、すなわち加重太陽光反射率の低下を示す。
【0101】
計算電磁気学的モデル化は、日光の前方散乱および後方散乱の両方が可視範囲の波長について生じ、太陽光照射の最大の部分を担うことを示す。後方散乱は光吸収を下げるが、前方散乱は、SiO2ナノ球体の真下に高い光強度の領域を生じさせ、後方散乱により失われるそれより多量の光吸収を増加させる。この光拡散挙動は、結果として、ナノ球体サイズ、密度および下にあるコーティングの複素屈折率およびモルフォロジーに依存する光吸収の改善をもたらす。吸収層のミクロおよびマクロスケールの特徴は幾つかの前方散乱した光子を再吸収することができ、これらの吸収剤コーティングの光閉じ込め能力をさらに高める。
【0102】
実験的に、シリコンナノ球体を含む最上層を最後に吸収コーティングの上に堆積した場合(
図12c中の実線)、スペクトル反射率はスペクトル全体にわたって低下し、一方、加重太陽光反射率(または反射損失)は15.6%(相対値)、絶対値で2.26%(最上層なし)から1.91%(最上層を含む)に低下することがわかった。したがって、最上層中のナノ球体の使用は、吸収剤コーティング面のナノテクスチャーを、吸収性能の改善のために導入する有効な方法である。
【0103】
マクロスケール突部間の多重反射に加えて、吸収剤コーティング中に存在するミクロ孔内の多重反射によっても光は閉じ込められる。しかしながら、本コーティングのミクロ孔は、これがコーティングの構造的完全性を悪化させ得るので、過度に多くしないことに注意する必要がある。ナノおよびミクロスケールモルフォロジーから反射される光の一部は、マクロスケールの突部内の同じ長さスケールに再吸収される。
【0104】
ナノ粒子サイズおよび装填率
異なるナノ粒子サイズおよび装填率(すなわち配合物中のシリカナノ粒子の重量%)を有する、様々な吸収剤面に適用された最上層の配合物の加重太陽光吸収率(SWA)を、改善された光閉じ込め性能について最適な最上層特性を決定するために評価した。光吸収面のSWAを計算するために、λ=[280、2500]nmの波長範囲においてスペクトル吸収率α(λ)の測定を行った。SWAは以下の方程式によって定義される。
【0105】
【数1】
式中、G(λ)は、λ=280nmから始まるスペクトル太陽光照度についての米国試験材料協会(ASTM:American Society for Testing and Materials)の規格G173-03であり;2500nmの上限は、ほとんどの太陽光を捕捉するのに十分であると見なされる。分光光度計(Perkin Elmer UV/VIS/NIR Lambda1050)によって、8°の入射角で試料のスペクトル反射率を室温で測定した。分光光度計は、試料の表面からのスペクトルの半球方向の反射率ρを測定する積分球を使用するために設定した。試料が不透明であるので、透過率はなく、そしてその結果ρ(λ)+α(λ)=1である。式中、ρは測定された半球反射率であり、αは吸収率であり、λは波長である。Δλ=10nmの間隔でスペクトルの値を測定した。太陽光照度G(しかしより低波長範囲で生じるαではない)で利用可能である波長λで吸収率αの値を近似するために線形内挿スキームを行った(GはΔλ=0.5nmで利用可能である)。式(1)の近似された積分は、λの同じ離散値で評価した。Δλ=10nmの間隔で得られたデータを用いる内挿スキームの使用は、Δλ=5nmの間隔で得られたデータを用いて得られたものに匹敵する結果を与えることがわかった。
【0106】
表1による最上層の配合物を、まず、未被覆の金属性基板、すなわち金属基板に最初に形成される吸収剤コーティングなしの状態で形成した。
図13aおよびbは、最上層を含まないステンレス鋼316Lおよびインコネル625合金として測定された吸収率値をそれぞれ示す(実線)。各事例において、結果は、最上層のない基板(未被覆の金属性基板)、最上層マトリックスのみ形成された(シリカナノ球体はない)基板および100nmのシリカナノ球体を有する最上層のある基板を示す。ナノ球体を含む最上層を形成した場合、ステンレス鋼の表面およびインコネルの表面の吸収率において著しい改善が注目される。特に、ナノ球体は、両方の基板について赤外線領域の吸収を改善することを示した。
【0107】
3cm×3cm試料片の形態のインコネル625合金および316Lステンレス鋼の基板に配置された珊瑚構造化吸収剤コーティングの上に、表1による最上層の配合物を供した(上記のように、
図11参照)。基本または「正規の」数密度は、0.215重量%のシリカナノ粒子濃度を有する最上層の配合物中のシリカナノ粒子に対応する。10nm~100nmの範囲の平均直径を有するシリコンナノ粒子である、基本量の半分(0.1075重量%)および2倍(0.43重量%)のナノ粒子装填率を有する最上層の配合物もまた評価した(表2、3、ならびに
図13cおよびd)。
図13cおよびdは、インコネル625基板(
図13c)およびステンレス鋼316L基板(
図13d)に適用された最上層および吸収剤コーティング(
図11による)について波長の関数として測定されたSWA(%吸収)を示す。
図13cに示される結果は、粒径を変動させて0.43重量%(すなわち表1の配合物に対して2倍の濃度)のシリコンナノ粒子濃度を有する最上層の配合物によって得られた。
図13dの結果は、シリコンナノ粒子濃度を0.1075重量%(半分の濃度)から、0.215重量%(正規濃度)、および0.43重量%(2倍の濃度)に変動させて、直径およそ100nmのシリカナノ粒子を有する最上層の配合物によって得られた。
【0108】
【0109】
【0110】
インコネル625およびステンレス鋼の両基板に関して、およそ100nmの平均直径(マトリックス内の組み入れ前の)の粒子を有する最上層の配合物を用いてSWAの最高値を達成したことがわかった。シリコンナノ粒子濃度の観点で、100nmのシリカナノ粒子に関して、0.215重量%の濃度は、0.43重量%(2倍の濃度)と同様の吸収率値を生み出すことがわかった。これらのSWA値は、数値モデル化の結果とよく一致することがわかった。
【0111】
図14a~dは、インコネル625の珊瑚構造化コーティング上に堆積した最上層の高倍率SEM像を示し;最上層は、異なるシリコンナノ粒子濃度(約100nmの一定シリカ球体サイズを有する)を有し、
図11b.2の吸収剤コーティング46に形成され、それぞれの加重太陽光吸収率値が各事例について得られた。最上層の配合物の適用なしの吸収剤コーティング46(すなわち当初の珊瑚構造化吸収剤層)について、97.7%の基本SWAを測定した。0.1075重量%の球体を有する最上層の配合物の形成(
図14b)は、97.9%のSWAを生じたが、一方、0.215重量%球体を有する最上層の配合物(
図14c)は、98.1%のSWA、0.43重量%(すなわち球体の2倍の濃度;
図14d)を有する最上層の配合物を用いて得られたそれと同じ吸収率値を生じることがわかった。
【0112】
最上層の様々な数密度(0、半分の装填率、正規の装填率および2倍の装填率)で吸収剤面の熱エージング後のSWAも評価し、エージングは900℃で500時間および1000時間実行した(
図14e)。最上層中のナノ球体の「正規の」数密度(すなわち0.215重量%の球体を有する最上層の配合物)は、熱エージングで吸収面の光学的劣化を最小限にすることを示した。
【0113】
最上層の配合物は、したがって、等温エージングにかけた場合、当初の光吸収面の光吸収特性だけでなくその面の光学的耐久性をも改善することがわかった。
【0114】
比較用熱的安定性試験
形成された最上層を含む本吸収剤コーティングの吸収率性能を、800℃で最高3000時間のエージングの前後(
図15aおよびb)に、最高3000サイクルの熱サイクル試験(
図15bの挿入図)で、Pyromark2500(以降「Pyromark」)と比較した。当初条件において、最上層を含む珊瑚構造化コーティングは、350nm未満の場合を除き、ほとんどの波長で、Pyromark(最上層なし)より分光的に良好に遂行する。エージング後、本コーティングは、Pyromarkより著しく高いスペクトル吸収率を有する。Pyromark堆積方法を調整して、最上層を含む本吸収剤コーティングに比較して吸収率値が改善されたことは注目すべきである。
【0115】
長期的試験(
図15b)は、最上層を含む珊瑚構造化コーティングが、Pyromarkおよび先に報告された長期安定コーティングの最良の2つ(RubinおよびNocによって報告されたように)と比較して優れた光学的安定性を有することを示した。熱サイクル(
図15b、挿入図)はサイクル・保持パターンに続き行われた。この試験が迅速サイクル試験と比較してより厳しい試験であることは、以前からわかっていた(Torres,J.F.,Ellis,I.&Coventry,J.Degradation mechanisms and non-linear thermal cycling effects in a high-temperature light-absorber coating.Sol.Energy Mater.Sol.Cells218,110719(2020)によって報告されたように)。
【0116】
断面EDS(エネルギー分散分光法)結果は、コーティングモルフォロジーが、その真下に成長する酸化物層にもかかわらず熱エージング(
図16)後に概して変化しなかったことを示した。さらに、法線方向のスペクトル放射測定(
図15c)は、また、最上層を含むコーティングが、赤外線スペクトルの波長に光学的に安定であることを明らかにした。
【0117】
予備的なマクロスケールモルフォロジーを含む吸収剤コーティングは、850℃一定でエージングしニッケル系合金(インコネル625およびHaynes230)およびステンレス鋼316Lの両方の4000時間の曝露の後でさえ、>96.0%の加重太陽光吸収率を維持し、光学的に耐久性のあることを示した(
図15dの緑色データポイント)。より光学的に弾力のあるコーティングを生み出すマクロスケールの突部の数およびサイズを増加させることにより、さらにモルフォロジーを改善した(
図15d、青色データポイント)。重要なことには、最上層は、900℃でのエージング後に1%を超えて吸収率を改善したが(
図15d、挿入図)、当初条件(
図14e)では最高0.4%の改善が観察された。
【0118】
図15eは、900℃でのエージングについてエージング時間の関数として異なるナノ粒子装填率(マトリックスのみ、ナノ粒子を含まない)を有する最上層を含むSWAを示す。
【0119】
図15f~iは、異なるエージング条件について、最上層中のナノ粒子の数密度を変動させた場合のSWAへの影響を示す。
【0120】
これらの結果は、異なる長さスケールを調整して光吸収を最適化することができ、ナノスケール最上層構造(すなわち、マトリックスおよびナノ粒子で構成された)が下にある吸収剤面の吸収率を著しく高めることを示す。
【0121】
900℃での等温アニール下で、コーティングは、加重太陽光吸収率(
図15d)が準線形で低下し、これは、クラックの広がりおよび離散的な位置での剥がれ領域と関係していた(
図16b.2)。
【0122】
900℃の等温アニール下で、結晶成長を起こす吸収層中のスピネル顔料にもかかわらず、最上層のナノスケールモフォロジーは概して保持された(
図16b.3および
図17)。特に、SEM像により、吸収層中の結晶成長にもかかわらず、最上層がシリカナノ球体(
図17)の穏やかな焼結のみを示すことを確認した。
【0123】
Pyromark2500吸収剤コーティングへの最上層の適用
前述の最上層形成方法を使用して、従来のPyromark2500吸収剤コーティングに最上層の配合物を供して吸収率の改善を評価した。100nmシリコンナノ粒子の0.215重量%濃度を有する最上層の配合物を、6層噴霧適用と硬化を含めてPyromark2500試料に供した。
図18は、適用した最上層を含む(破線)/含まない(実線)Pyromark2500試料について吸収率試験の結果を示した。
図18は、最上層を形成した場合の吸収率において当初の試料および熱によるエージング試料の両方について著しい改善を示した。
【0124】
従来のコーティングに対する拡張性および改善
最上層の拡張性(
図11を参照して記載される吸収剤コーティングに供したように)を、市販受器(
図19aおよびb)上にそれを供することにより示した。受器コーティングプロセスは、好しい結果であった。加重太陽光吸収率(
図19c中の濃い外観によって明示)およびコーティングのモルフォロジー(
図19d)は、実験室で調製された試料と矛盾しなかった。
【0125】
図19eは、さらに、インコネル625(e.1)およびステンレス鋼316L(e.2)の基板に形成した最上層を含む吸収剤コーティングの高温耐久性試験の結果を図示する。
図19eの結果は、野外(すなわち6か月間の「屋外」試験)でエージングした試料、および850℃で200時間(炉の内部で)等温エージングした試料から得られた。
【0126】
これらの結果は、最上層を含む珊瑚構造化コーティングが、実際の太陽光集熱器の反射損失を著しく低下させるだけでなく、熱エージング条件下で光吸収コーティングをより信頼できるようにすることを示唆する。この最上層と組み合わせて最近開発されたフラクタル形受器を使用することにより、さらに光閉じ込めを増加させることができる。
【0127】
予備加熱条件でのPyromark2500吸収剤コーティングへの最上層の適用
ケイ酸メチルオリゴマーを含有する材料の調製
99.5%の純度を有するエタノール700gをイオン交換水100gと混合し、10分間超音波処理によって均質化した。この溶液において、10gのケイ酸メチルオリゴマー(MKC(商標)Silicate、等級名MS56;Mitsubishi Chemical Corporationによる製造、テトラメトキシシランの部分加水分解によって形成されたオリゴマーである)、および6gの市販されているコロイダルシリカ(ORGANOSILICASOL(商標)IPA-ST-ZL、Nissan Chemicalによる製造)を、室温にて1時間550rpmで連続撹拌しながら添加した。次いで、混合物に1.632gの酢酸を添加し、続いて550rpmの混合速度で、40℃の下で2日間撹拌した。混合物を冷蔵庫中4℃で保管してもよい。
【0128】
最上層の形成
混合物の噴霧および硬化によって、従来のPyromark2500吸収剤コーティングに当該混合物を供しした。Pyromark2500基板を300℃で予備加熱した。Colaniエアブラシ(HarderおよびSteenbeckによって製造された)を使用し、0.4mmのノズルサイズ、0.25のMPaの噴霧圧力を3秒間使用し、塗工する基板とノズルの間の距離を20cmとして、予備加熱した基板に混合物を供した。基板温度が300℃に戻ったら、同じ条件下で混合物をもう一度供した。
【0129】
そのままの混合物(NFS1正規と称される)に加えて、混合物:エタノール=1:1の比(NFS:Etoh=1:1と称される)または混合物:エタノール=2:1の比(NFS:Etoh=2:1と称される)でエタノールを用いて混合物を希釈した。各混合物を供する回数を1回から5回まで変動させた。好ましい回数は、NFS1正規について2回、NFS:Etoh=1:1について5回、およびNFS:Etoh=2:1について4回であるように思われる。
図20は、最上層(NFS:Etoh=1:1、5回)を含む/または含まないPyromark2500のスペクトル反射率を波長の関数として示し、光閉じ込めの改善、すなわち、最上層を含まないPyromark2500と比較して500から1750nmの波長の間の最上層塗工したPyromark2500の加重太陽光反射率の低下を示す。
【0130】
次いで、本発明者らは、上記結果の日光強度を含む加重太陽光吸収率(SWA)を計算する。
図21は、当初条件、および800℃で100時間の熱エージング後のそれぞれ最上層を含む試料の算定SWAを示す。予想通りに、NFS1正規について2回、NFS:Etoh=1:1について5回、およびNFS:Etoh=2:1について4回で、当初条件、および800℃で100時間の熱エージング後の両方について最高値が得られた。
図21に示されるように、NFS:Etoh=1:1について5回供した際の最上層は、SWAの0.5%の増加を有し、0.5%光吸収を改善するものは他にない。
【0131】
図22は、ナノ粒子含有オリゴマーの塗工された最上層を含む、および最上層を含まない米国特許第11002466号吸収剤コーティング間の吸収率性能の比較をエージング時間の関数として示す。最上層を含む/含まない加重太陽光吸収(SWA)を900℃でのエージング時間の関数として示した。米国特許第110024666号中に記載された方法によって調製した下にある同じ吸収性コーティングに両方を塗工した。900℃での1000時間のエージング後でさえ、適用したナノ粒子含有オリゴマーの最上層のSWAは、ほとんど低下しなかった。
【0132】
本発明の以下の請求項および先の記述において、コンフィグテキストが、明白な言語または必要な含意により他の方法で必要とする場合以外は、「comprise(含む)」という語または「comprises」または「comprising」などの変形は、包括的な意味において使用され、すなわち本発明の様々な実施形態において明示の特徴の存在を規定するように使用され、さらなる特徴の存在または付加を排除しない。
【国際調査報告】