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特表2024-523205シリコン-硫黄-ポリマー系リチウムイオン電池用複合アノード
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  • 特表-シリコン-硫黄-ポリマー系リチウムイオン電池用複合アノード 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】シリコン-硫黄-ポリマー系リチウムイオン電池用複合アノード
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1395 20100101AFI20240621BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/1315 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/583 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M4/1395
H01M10/052
H01M4/36 C
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/133
H01M4/1315
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/583
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575555
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 US2022072819
(87)【国際公開番号】W WO2022261642
(87)【国際公開日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/208,317
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/232,322
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518343040
【氏名又は名称】ノームズ テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】モガンティー、シュリヤ エス.
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイディヤ、ルトヴィク
(72)【発明者】
【氏名】ウー、ユエ
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017CC01
5H017EE06
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK06
5H029AK18
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM14
5H029AM16
5H029BJ03
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029DJ16
5H029DJ17
5H029EJ12
5H029HJ01
5H029HJ05
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA14
5H050CA29
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA04
5H050DA09
5H050DA11
5H050EA23
5H050FA17
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための、シリコン、元素状硫黄、およびポリマー材料を含むアノード活物質の製造方法であって、該方法は、シリコン粒子、元素状硫黄、および少なくとも1つのポリマーを混合して混合物を形成し、混合物を銅集電体にコーティングして被覆銅集電体を形成し、被覆銅集電体に温度処理を施すことを含む。電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、アノード活物質、カソード、および電解質を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスのための、シリコン、元素状硫黄、およびポリマー材料を備えるアノード活物質の製造方法であって、
a)シリコン粒子、元素状硫黄、および少なくとも1つのポリマーを混合して混合物を形成し;
b)前記混合物を銅集電体にコーティングして、被覆銅集電体を形成し;
c)前記被覆銅集電体に温度処理を施す、方法。
【請求項2】
前記被覆銅集電体に温度処理を施す工程は、前記被覆銅集電体を不活性雰囲気でおよそ200℃~およそ600℃の範囲の温度に加熱することを備えている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)の後で、かつステップb)の前に、前記混合物に溶媒を添加して前記シリコン粒子および前記少なくとも1つのポリマーを分散させ、前記溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、およびプロピレンカーボネート(PC)からなる群から選択されることを、さらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)の後で、かつステップc)の前に、前記銅集電体にコーティングされた前記混合物から前記溶媒を除去すること、をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)で、前記銅集電体にコーティングされた前記混合物から前記溶媒が除去される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
シリコン粒子のサイズがおよそ1nm~およそ100μmの範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物が、ハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子のうちの1つ以上をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物が、30重量%~90重量%のシリコン粒子を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物が0.01重量%~40重量%の硫黄を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記混合物が5重量%から40重量%の前記少なくとも1つのポリマーを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのポリマーがポリアクリロニトリル(PAN)である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
複数の活物質粒子であって、該複数の活物質粒子の各々がおよそ1nm~およそ100μmの粒径を有する、複数の活物質粒子と、
元素状硫黄と、
少なくとも1つのポリマーであって、前記複数の活物質粒子が該少なくとも1つのポリマーによって取り囲まれている、少なくとも1つのポリマーと、を備えたアノード;
カソード;および
a)非プロトン性有機溶媒系、およびb)金属塩を含む電解質を備えた、電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項13】
前記複数の活物質の粒子がシリコン粒子である、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項14】
前記硫黄が前記活物質粒子の1つ以上をカプセル化して、硫黄カプセル化活物質粒子を形成し、前記少なくとも1つのポリマーが前記硫黄カプセル化活物質粒子をカプセル化する、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項15】
前記1つ以上の活物質粒子をカプセル化する硫黄が、ハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子のうちの1つ以上をさらに含み、前記活物質粒子がハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子のうちの1つ以上によってカプセル化される、請求項14に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項16】
前記少なくとも1つのポリマーがポリアクリロニトリルを備える、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項17】
前記カソードが、リチウム金属酸化物、スピネル、カンラン石、炭素被覆カンラン石、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、多硫化物、リチウム一フッ化炭素、またはそれらの混合物を備える、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項18】
前記カソードが遷移金属酸化物材料であり、過リチウム化酸化物材料を備える、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項19】
前記アノードと前記カソードとを互いに分離する多孔質セパレータをさらに備える、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。
【請求項20】
金属塩がリチウム塩を含む、請求項12に記載の電気化学エネルギー貯蔵デバイス。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年6月8日に出願された米国仮特許出願第63/208,317号、および2021年8月12日に出願された米国仮特許出願第63/232,322号の出願日の利益を主張するものであり、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、導電性、比容量、および寿命安定性を改善するためのシリコン-硫黄-ポリマー複合アノード、ならびに電気化学エネルギー貯蔵デバイスでの使用に適した高容量シリコン-硫黄-ポリマー複合アノードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン(Li-ion)電池は、家電製品、電気自動車(EV)、電力貯蔵システム(ESS)、スマートグリッドなどで多用されている。リチウムイオン電池のエネルギー密度は、少なくとも部分的には使用されるアノード材料とカソード材料とに依存する。リチウムイオン電池の処理と製造を最適化することで、リチウムイオン電池のエネルギー密度は毎年4~5%向上しているが、次世代技術のエネルギー密度目標を達成するには、このような段階的な向上では不十分である。このような目標を達成するためには、高エネルギー密度の活物質を電極に組み込むなど、電極材料の進歩が必要となる。最近の研究では、主に高エネルギーカソードの開発に焦点が当てられており、アノード材料の開発に特化した研究は限られている。
【0004】
近年、シリコン(Si)は、リチウムイオン電池用の最も魅力的な高エネルギーアノード材料の一つとして注目を集めている。シリコンの低い作動電圧と3579mAh/gという高い理論比容量は、従来のグラファイトの10倍近くであるため、関心が高まっている。しかし、このような著しい利点があるにもかかわらず、シリコンアノードは、激しい体積膨張とそれに伴う粒子破壊に関連するいくつかの課題に直面している。グラファイト電極がリチウムインターカレーション中に10~15%膨張するのに対し、シリコン電極は~300%膨張し、固体電解質界面(SEI)層の構造劣化と不安定化を引き起こす。これは材料の粉砕と電極の剥離を引き起こし、その結果、サイクルに伴う容量低下を引き起こす。シリコン粒子の破壊を保護する効率的なバインダーが重要である一方、イオン移動のための導電性経路もサイクル中の容量維持に不可欠である。過去の研究では、この問題を解決するために、カーボンやグラフェン由来の導電性添加剤を使用することに焦点が当てられてきたが、依然として大きな課題に直面している。
【0005】
高性能シリコン系電極の開発におけるもう一つの主要な課題は、電気化学サイクル中に電子伝導経路を維持することである。体積膨張や収縮による粒子の破砕は、電極構造内の伝導経路を乱し、活物質の隔離を招き、電極全体の容量を低下させる。シリコンアノードにおける破砕に関連した容量低下を緩和するアプローチのひとつは、ナノメートルスケールの材料を使用することである。150nmより小さなシリコンナノ粒子は、構造劣化を起こすことなく完全な電気化学サイクルに耐えることが示されているからである。しかしながら、シリコンナノ粒子とナノ機能材料の合成には、複雑でコストのかかる処理手順が必要であり、大規模な実装を成功させる妨げとなっている。ミクロンサイズのシリコン粒子は、バルク材料の観点からは遙かに経済的であるが、ミクロンシリコン(μSi)電極には、破砕時に粒子を機械的に閉じ込め、伝導経路を維持するための強固な複合構造が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本稿では、「詳細な説明」で後述するコンセプトの一部を簡略化して紹介する。本稿および前述の「背景」は、特許請求される主題の重要な側面または本質的な側面を特定することを意図したものではない。さらに、本稿は、特許請求される主題の範囲を決定する際の補助として使用することを意図していない。
【0007】
本明細書には、シリコン-硫黄-ポリマーアノードの様々な実施形態とその製造方法が記載される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
いくつかの実施形態では、シリコン-硫黄-ポリマーアノードの製造方法は、概して、シリコン粒子、元素状硫黄、および少なくとも1つのポリマーを混合して、混合物を形成するステップと、混合物を銅集電体にコーティングして、被覆銅集電体を形成するステップと、被覆銅集電体に温度処理を施すステップとを含む。いくつかの実施形態では、温度処理は、被覆銅集電体を不活性雰囲気でおよそ200℃~およそ600℃の範囲の温度に加熱することを含んでいてもよい。
【0009】
いくつかの実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、概して、アノード、カソード、および電解質を含む。アノードは、複数の活物質粒子、元素状硫黄、および少なくとも1つのポリマーを含みうる。複数の活物質は、およそ1nm~およそ100μmの粒径を有するシリコン粒子であってもよい。いくつかの実施形態では、活物質粒子は元素状硫黄によってカプセル化され、少なくとも1つのポリマーは硫黄カプセル化活物質粒子をカプセル化する。
【0010】
本明細書に記載された技術におけるこれらのおよび他の態様は、本明細書の詳細な説明および図を考慮した後に明らかになるであろう。しかしながら、特許請求される主題の範囲は、添付の特許請求の範囲によって決定されるべきものであり、与えられた主題が「背景」に記載されたいずれかまたはすべての問題に対処しているかどうか、あるいは「要約」に記載された特徴または態様を含むかどうかによって決定されるものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
開示された技術の非限定的かつ非網羅的な実施形態(好ましい実施形態を含む)を、以下の図を参照して説明する。ここで、同様の引用数字は、特に断りのない限り、各種の図を通して同様の部品を指す。
図1図1は、本明細書に記載の様々な実施形態に係るシリコン-硫黄-ポリマー複合アノードを製造する方法を示すフロー図である。
図2図2は、本明細書に記載の様々な実施形態に係るシリコン-硫黄-ポリマー複合アノードの概略図である。
図3図3は、コイン電池におけるシリコン-PAN電極、およびシリコン-硫黄-PAN電極のサイクル寿命研究を示すグラフである。
図4図4は、シリコン-PAN電極とシリコン-硫黄-PAN電極の熱流と温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態については、添付の図面を参照して以下により詳細に説明されるが、これらは、本明細書の一部を構成し、特定の例示的な実施形態を説明するために示すものである。これらの実施形態は、当業者が本技術を実施できるように十分詳細に開示されている。しかしながら、実施形態は、多くの異なる形態で実施することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではない。したがって、以下の詳細な説明は、限定的な意味で捉えられるものではない。
【0013】
本明細書では、シリコン-硫黄-ポリマーアノード複合材料について説明される。活物質粒子はシリコンを含んでいる。本明細書に記載されるアノード材料に含まれるシリコン複合粒子には、任意の適切なシリコン複合材料を使用することができる。いくつかの実施形態では、シリコン複合粒子は、カーボン被覆シリコン粒子などのシリコン-カーボン複合材料である。いくつかの実施形態では、シリコン酸化物(SiOx)が使用される。シリコン-複合材料は、シリコンと不活性金属または非金属との合金であってもよい。本明細書に記載の実施形態で使用するのに適したシリコン複合材料の他の例としては、グラフェン-シリコン複合材料、酸化グラフェン-シリコン-カーボンナノチューブ、シリコン-ポリピロール、およびナノサイズとミクロンサイズのシリコン粒子の複合材料が挙げられる。前述したように、アノード材料にはシリコン複合材料を任意に組み合わせて使用してもよいし、単一のシリコン複合材料のみを使用してもよい。複合アノード材料の硫黄成分は、シリコンアノード系リチウムイオン電池の導電性添加剤として機能する。これらの材料によって、導電性経路が形成されるため、リチウムイオンの可動性が向上する。さらに、硫黄成分(任意選択的に、以下でさらに詳細に説明するように他の材料と組み合わせて)は、シリコン活物質粒子を包むために使用することができる。そして、硫黄カプセル化活物質粒子を、ポリアクリロニトリル(PAN)などのポリマーを用いてシールドすることができる。この構成では、硫黄がシリコン活物質粒子を挟み、複数の硫黄カプセル化活物質粒子がPANでカプセル化される。熱処理によりPAN成分は環化し、得られる複合体は弾性と機械的強度を有する。
【0014】
本明細書に記載のアノード材料は、シリコン粒子の膨張を防ぐバインダー、およびリチウムイオン可動性のための経路を提供する導電性添加剤を提供することなどにより、シリコン系アノードの膨張および導電性の課題を克服することができる。
【0015】
図1を参照すると、本明細書に記載の複合アノード材料を調製するための方法100の一実施形態を示すフロー図は、概して、元素状硫黄、シリコン、およびポリマーバインダーを混合して混合物を形成するステップ110と、混合物に溶媒を添加し、混合物を銅集電体にコーティングするステップ120と、コーティングから溶媒を除去し、コーティングされた集電体に熱処理を加えるステップ130と、を含む。
【0016】
ステップ110に関しては、元素状硫黄、シリコン粒子、および少なくとも一つのポリマーバインダーを混合して混合物を形成する。これらの材料を一緒に混合する任意の方法を使用することができるが、いくつかの実施形態では、機械的混合が使用される。例えば、以下の実施例1でさらに詳細に説明するように、固形物を低回転速度でボールミルすることによって成分を一緒に混合することができる。いくつかの実施形態では、ステップ110の混合物を調製する際に使用される成分のシリコン:硫黄:ポリマーの比は、10:1:1~2:1:1の範囲にあり、例えば、4:1:1である。
【0017】
ステップ120では、溶媒が混合物に加えられ、活物質を分散させる。任意の適切な溶媒を任意の適切な量で使用することができる。いくつかの実施形態では、溶媒は無水NMPである。他の適切な溶媒としては、限定されるものではないが、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホン(DMSO)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などが挙げられる。溶媒は、シリコン、硫黄、およびポリマーの混合物と任意の適当な時間、例えば、約12時間混合することができる。
【0018】
ステップ120は、さらに、スラリー混合物を集電体にコーティングすることを含む。集電体の材料は、銅などの任意の適切な集電体材料としうる。後述の実施例1で説明するように、コーティングステップは、卓上型ドクターブレードコーターを用いて実施することができる。
【0019】
ステップ130では、集電体にコーティングされた材料から溶媒が除去され、その後、コーティングされた集電体に熱処理を施す。このステップは、2つの別個の動作として説明されているが、いくつかの実施形態では、熱処理ステップの一部としてコーティングから溶媒を除去することも可能である。溶媒が最初に除去される場合、その後の熱処理ステップで使用される温度よりも一般的に低い温度でコーティングを加熱することによって、溶媒を除去することができる。例えば、いくつかの実施形態では、最初にコーティングされた集電体を約60℃の温度(対流式オーブンなど)に晒して溶媒を蒸発させることによって、溶媒をコーティングから除去する。
【0020】
溶媒除去に続いて、ステップ130は、コーティングされた集電体に熱処理を加えることを継続する。熱処理は、不活性雰囲気中コーティングされた集電体を約200℃~約600℃の範囲の温度、例えば、不活性アルゴンガス雰囲気で約330℃に加熱する工程を含みうる。熱処理ステップは、概して、コーティングのポリマー成分を環化させることを目的としている。以下でさらに詳細に説明するように、コーティングのポリマー成分は、PANであってもよい。PANの環化は、PAN分子の架橋によりニトリル結合(C≡N)が二重結合(C=N)に変換されるプロセスである。このステップにより、弾性はあるが機械的に堅牢なPAN繊維のラダーポリマー鎖が得られ、シリコン粒子の制御された断片化が可能になる。
【0021】
本明細書に記載の方法で調製されるアノード複合材料は、概して、シリコン、硫黄、およびポリマーの少なくとも3つの材料を含む。以下により詳細に説明するように、アノード材料は、追加の材料を含んでもよいが、硫黄、シリコン、およびポリマーがアノード複合材料の主成分である。
【0022】
いくつかの実施形態では、シリコンは、シリコン粒子の形態でアノード複合材料に存在する。シリコン粒子のサイズは、約1nm~約100μmの範囲でありうる。いくつかの実施形態では、シリコン粒子は、アノード複合材料の約30~約90重量%、例えば約50~約80重量%にある。
【0023】
アノード複合材料は、さらに元素状硫黄を含む。アノード複合材料の形成に使用される元素状硫黄は、通常は粉末の形態で提供される。いくつかの実施形態では、硫黄はアノード複合材料の約0.1重量%~約40重量%にある。
【0024】
アノード複合材料は、さらに少なくとも1つのポリマーを含む。アノード複合材料のポリマー成分は、通常はバインダー材料として機能する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのポリマーは、ポリアクリロニトリル(PAN)である。必要に応じて、他のポリマー材料もアノード複合材料に含まれてよい。いくつかの実施形態では、ポリマーはアノード複合材料の約20~約40重量%にある。前述したように、PANはポリマーバインダーとして使用され、弾性的でありながら堅牢なフィルムを形成し、バインダーマトリックス内でシリコン粒子の制御された断片化/粉砕を可能にする。
【0025】
アノード複合材料中に存在しうる他の材料としては、限定されるものではないが、ハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子が挙げられる。これらの材料は、アノード複合材料中に存在する場合、アノード複合材料の約0.1重量%~約50重量%の範囲、例えば、約5重量%~約40重量%の範囲で存在しうる。
【0026】
図2を参照すると、アノード複合材料の材料は、特定の方向に配置されてもよい。いくつかの実施形態では、硫黄220は、シリコン粒子210を取り囲む、挟む、カプセル化する、または他の方法で被覆する。図2に示すように、硫黄220は、1つのシリコン粒子を取り囲んでいる。しかしながら、複数のシリコン粒子210が硫黄220によって一緒にカプセル化されえることが理解されるべきである。図2にも示すように、硫黄によってカプセル化されたシリコン粒子210の組み合わせは、ポリマー材料230によってカプセル化されるか、または結合される。この構成では、複数の硫黄カプセル化シリコン粒子は、ポリマーバインダーマトリックス全体に分散され、本明細書に記載のアノード複合材料の特定の配向を形成する。
【0027】
シリコン粒子210を取り囲む硫黄220は、前述のハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子などの追加の材料をさらに含むことができる。したがって、いくつかの実施形態では、シリコン粒子210は、ハードカーボン、グラファイト、スズ、およびゲルマニウム粒子のうちの1つ以上と混合された硫黄の層によって取り囲まれる。
【0028】
本明細書に記載のアノード複合材料は、電気化学エネルギー貯蔵デバイスに組み込むことができる。電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、概して、本明細書に記載のアノード材料、カソード、および電解質を含む。いくつかの実施形態において、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、リチウム二次電池である。いくつかの実施形態において、二次電池は、リチウム電池、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、リチウム空気電池、ナトリウムイオン電池、またはマグネシウム電池である。いくつかの実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、キャパシタなどの電気化学電池である。いくつかの実施形態において、キャパシタは、非対称キャパシタまたはスーパーキャパシタである。いくつかの実施形態では、電気化学電池は一次電池である。いくつかの実施形態では、一次電池はリチウム/MnO電池またはリチウム/ポリ(-フッ化炭素)電池である。
【0029】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスで使用するのに適したカソードには、リチウム金属酸化物、スピネル、カンラン石、炭素被覆カンラン石、LiCoO、LiNiO、LiMn0.5Ni0.5、LiMn0.3Co0.3Ni0.3、LiMn、LiFeO、LiNiCoMet、Anl(XO、酸化バナジウム、過酸化リチウム、硫黄、多硫化物、リチウムカーボンモノフルオリド(LiCFとしても知られている)、またはそれらの任意の2つ以上の混合物が含まれる。ここで、Metは、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Mn、またはCoであり;Aは、Li、Ag、Cu、Na、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、またはZnであり;Bは、Ti、V、Cr、Fe、またはZrであり;Xは、P、S、Si、W、またはMoであり;そして、0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、および0≦z≦0.5であり、0≦n≦0.3である。いくつかの実施形態によれば、スピネルは、Li1+xMn2-zMet’’’ 4-m の式を有するスピネルマンガン酸化物であり、ここで、Met’’’は、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、またはCoであり;Xは、S、またはFであり;そして、0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、および0≦n≦0.5である。他の実施形態において、カンラン石は、LiFePO、またはLi1+xFe1zMet’’ PO4-m の式を有し、ここで、Met’’は、Al、Mg、Ti、B、Ga、Si、Ni、Mn、またはCoであり;Xは、S、またはFであり;そして、0≦x≦0.3、0≦y≦0.5、0≦z≦0.5、0≦m≦0.5、および0≦n≦0.5である。
【0030】
一実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスの電解質成分は、a)非プロトン性有機溶媒系;およびb)金属塩を含む。一実施形態では、非プロトン性有機溶媒系は、電解質の70重量%~90重量%の範囲にある。一実施形態では、金属塩は電解質の10重量%~30重量%の範囲にある。
【0031】
一実施形態では、非プロトン性有機溶媒系は、開鎖または環状カーボネート、カルボン酸エステル、亜硝酸エステル、エーテル、スルホン、スルホキシド、ケトン、ラクトン、ジオキソラン、グライム、クラウンエーテル、シロキサン、リン酸エステル、亜リン酸エステル、モノまたはポリホスファゼン、またはそれらの混合物から選択される。
【0032】
好適な金属塩としては、リチウム塩が挙げられる。一実施形態では、例えば、Li(AsF);Li(PF);Li(CFCO);Li(CCO); Li(CFSO;Li[N(CPSO];Li[C(CFSO];Li[N(SO];Li(ClO);Li(BF);Li(PO);Li[PF(C];Li[PF];リチウムアルキルフルオロホスフェート;Li[B(C];Li[BF];Li[B1212-j];Li[B1010-j’j’]、またはそれらの任意の2つ以上の混合物を含む、様々なリチウム塩が使用されてもよく、ここで、Zは、各出現において独立してハロゲンであり、jは0~12の整数であり、jは1~10の整数である。
【0033】
一実施形態では、電気化学エネルギー貯蔵デバイスのアノードは、有機固体電解質、無機固体電解質、または複合固体電解質(例えば、セラミック/ポリマー複合電解質)を含む固体電解質に適合する。固体電解質は、可燃性の液体有機電解質よりもはるかに高い熱安定性を有し、例えば、有機電解質が凍結、沸騰、または分解により不具合を起こすような、摂氏-50度~200度の温度範囲のような過酷な環境でも働くことができる。電気化学的性能を達成するためには、固体電解質は、(i)高いイオン伝導性、(ii)十分な機械的強度と、リチウムデンドライトの侵入を防ぐ十分な構造欠陥の少なさ、(iii)低コストの原料資源と容易な調製プロセス、および(iv)リチウムイオン拡散の低活性化エネルギーを示さなければならない。固体電解質の使用に関する課題としては、固体状態電解質の本質的な特徴(すなわち、高いイオン伝導性の必要性)、臨界界面、および電池製造中および電池運転中の化学機械的変化が挙げられる。
【0034】
電気化学エネルギー貯蔵デバイスが二次電池である一実施形態では、二次電池は、カソードとアノードを分離するセパレータをさらに含んでもよい。リチウム電池のセパレータは、しばしば微多孔性ポリマーフィルムである。フィルムを形成するためのポリマーの例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリブテン、または任意の2つ以上のそのようなポリマーのコポリマーもしくは混合物が挙げられる。ある実施形態では、セパレータは、電子ビーム処理された微多孔性ポリオレフィンセパレータである。電子線処理は、セパレータの変形温度を上昇させ、それに応じて高温での熱安定性を高めることができる。さらに、または代替的に、セパレータは、遮断セパレータとすることができる。遮断セパレータは、約130℃を超えるトリガー温度を有し、電気化学電池が約130℃までの温度で作動することを可能とすることができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、電解質は、硫黄含有化合物、リン含有化合物、ホウ素含有化合物、シリコン含有化合物、フッ素含有化合物、窒素含有化合物、少なくとも1つの不飽和炭素-炭素結合を含む化合物、カルボン酸無水物、またはそれらの混合物などの添加剤を含む。いくつかの実施形態において、添加剤はイオン性の液体である。さらに、添加剤は電解質の0.01重量%~10重量%の範囲で存在する。
【0036】
本開示は、以下の具体例を参照してさらに説明される。これらの実施例は説明のために与えられており、本開示または以下の特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【0037】
実施例1 シリコン-硫黄-ポリマーアノードの調製
【0038】
使用した活物質は、1μmのシリコン粉末と元素状硫黄である。これらの活物質を、固形物を低回転数でボールミルすることによりPANポリマーと混合した。シリコン:硫黄:ポリマーの比は4:1:1であった。無水NMPを溶媒として使用し、スラリーを一晩攪拌して活物質を分散させた。卓上型ドクターブレードコーターを用いてスラリーを銅集電体に塗布し、3mg/cm以上の担持量の電極を得た。次いで、電極を、不活性アルゴンガス雰囲気中で330℃で熱処理する前に、対流式オーブンで60℃で乾燥させた。
【0039】
実施例2 シリコン-ポリマーアノードの調製
【0040】
1μmのシリコン粉末を活物質として使用し、低回転数で固形分をボールミルすることによりPANポリマーと混合した(シリコン:ポリマーの比は4:1)。無水NMPを溶媒として使用し、スラリーを一晩攪拌して活物質を分散させた。卓上型ドクターブレードコーターを用いて、スラリーを銅集電体に塗布し、3mg/cm以上の担持量の電極を得た。電極は、不活性アルゴンガス雰囲気で330℃で熱処理する前に、対流式オーブンで60℃で乾燥させた。
【0041】
実施例3 電池製造1
【0042】
2032コイン電池を、NMC811カソードと実施例1および2に記載したアノードで組み立てた。NMC811カソードの比容量は、~2.7mAh/cmであり、担持量は、~28mg/cmであった。カソードとアノードのピースは、それぞれ14mmと15mmであり、使用したセパレータは、ポリプロピレンであった。電池の活性化には100μlの電解液を使用した。電解質製剤は、ガラス製小瓶内ですべての電解質成分を合わせて24時間撹拌し、すべての固体が完全に溶解するように、乾燥アルゴンを充填したグローブボックス内で調製した。エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびLi+イオン伝導性塩として1M六フッ化リン酸リチウム(LiPF)の体積比3:7混合物からなるベース電解質製剤をそこに溶解させた。その後、炭酸塩官能基を含む添加剤とイオン液添加剤を、電池活性化前にベース電解質製剤に添加した。
【0043】
図3は、上記実施例1~3に従ったコイン電池におけるシリコン-PAN電極、およびシリコン-硫黄-PAN電極のサイクル寿命試験を示すグラフである。図3に示すように、シリコン-硫黄-PANコイン電池では、シリコン-PANコイン電池と比較して、長時間のサイクルでも電池容量維持率(%)が高いままである。
【0044】
実施例4 DSCデータ
【0045】
図4は、シリコン-PAN電極およびシリコン-硫黄-PAN電極の熱流と温度の関係を示すグラフである。図4に示すデータは、示差走査熱量測定(DSC)を用いて収集された。元素状硫黄の添加は、明らかにPANポリマーの温度遷移の違いを示している。
【0046】
机上の実施例5 電池製造2
【0047】
プロピレン系非イオン液体電解質は、体積比で3:7のエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、およびLi+イオン伝導性塩としての1Mの六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を溶解させたものである。アノードSEI形成添加剤として、2重量%のビニレンカーボネート(VC)、および5重量%のフルオロエチルカーボネートなどの環状カーボネートが添加される。
【0048】
上述したことから、本発明の特定の実施形態が、例示の目的で本明細書に記載されているが、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更がなされうることが理解されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲による以外は限定されない。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】