(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】二重硬化性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/30 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
C08G59/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575637
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-07
(86)【国際出願番号】 US2022034166
(87)【国際公開番号】W WO2022271590
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590001418
【氏名又は名称】ダウ シリコーンズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ジナ
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA04
4J036AJ21
4J036AK17
4J036DA05
4J036EA04
4J036FA10
4J036FA13
4J036GA06
4J036GA22
4J036GA24
4J036HA02
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA07
(57)【要約】
二重硬化性シリコーン組成物を提供する。組成物は、(A)エポキシ官能性シリコーンと、(B)1分子中に少なくとも1個のアクリル基又はメタクリル基を有する少なくとも1種のラジカル重合性化合物と、(C)光酸発生剤及び/又は熱酸発生剤と、(D)光ラジカル重合開始剤及び/又は熱ラジカル重合開始剤と、を含む。組成物は、一般に、空気及びアミン化合物によって阻害されることのない、優れた硬化性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重硬化性シリコーン組成物であって、
(A)下記平均単位式(1):
(R
1
3SiO
1/2)
a(R
1
2SiO
2/2)
b(R
1SiO
3/2)
c(SiO
4/2)
d
(式中、各R
1は、C
1~6一価脂肪族炭化水素基、C
6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、ただし、全R
1の少なくとも約15mol%は、C
6~10一価芳香族炭化水素基であり;「a」、「b」、「c」、及び「d」は、0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1の条件を満たす数であり、全シロキサン単位の約2~約30mol%は、前記一価エポキシ置換有機基を有する)で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)、
又は、前記(A1)成分と、下記一般式(2):
X
1-R
2
2SiO(SiR
2
2O)
mSiR
2
2-X
1
(式中、各R
2は、C
1~6一価脂肪族炭化水素基及びC
6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、各X
1は、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式(3):
X
2-R
3
2SiO(SiR
3
2O)
xSiR
3
2-R
4-
(式中、各R
3は、同じか又は異なるC
1~6一価脂肪族炭化水素基であり、R
4は、C
2~6アルキレン基であり、X
2は、一価エポキシ置換有機基であり、「x」は、約0~約5の数であり、「m」は約0~約100の数である)で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基である)で表されるエポキシ官能性シリコーン(A2)との混合物から選択される、エポキシ官能性シリコーン;
(B)1分子当たり少なくとも1つのアクリル基又はメタクリル基を有し、成分(A)~(D)の総質量の約15質量%~約75質量%の量の、少なくとも1つのラジカル重合性化合物;
(C)成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量の、光酸発生剤及び/又は熱酸発生剤;並びに
(D)成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量の、光ラジカル重合開始剤及び/又は熱ラジカル重合開始剤、
を含む、二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
成分(A2)の含有量が、成分(A1)及び(A2)の混合物の、最大で80質量%である、請求項1に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
成分(A)における前記一価エポキシ置換有機基は、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、又はエポキシアルキル基である、請求項1又は請求項2に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
成分(B)が、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピオネートジアクリレート、又は2-フェノキシエチルアクリレートである、請求項1、請求項2、又は請求項3に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
成分(C)が、スルホニウム塩又はヨードニウム塩である、請求項1又は請求項2~4のいずれか一項に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
成分(D)の前記光ラジカル重合開始剤が、アセトフェノン系開始剤、ベンジル系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、アシルホスフィンオキシド系開始剤、又はオキシム系開始剤である、請求項1又は請求項2~5のいずれか一項に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【請求項7】
成分(D)の前記熱ラジカル重合開始剤が、80℃以上の温度で10時間の半減期を有する有機過酸化物である、請求項1又は請求項2~6のいずれか一項に記載の二重硬化性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月22日に出願された米国特許仮出願第63/213,281号の優先権及び全ての利点を主張するものであり、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、二重硬化性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
エポキシ官能性シリコーンは、紫外線(「UV」)を照射することによって硬化させることができる硬化性シリコーン組成物に使用される。例えば、特許文献1には、エポキシ官能性オルガノポリシロキサン樹脂と、エポキシ官能性オルガノシロキサンオリゴマーと、カチオン性光開始剤とを含む硬化性シリコーン組成物が開示されている。また、特許文献2には、エポキシ基含有カチオン重合性オルガノポリシロキサンと、光酸発生剤と、アクリル-シリコーングラフト共重合体とを含む硬化性シリコーン組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、このような硬化性シリコーン組成物は、様々な電気/電子用途において一般的に適用されるフォトレジスト材料を中和するために典型的に使用されるアミン化合物又は他のタイプの強塩基によって十分に硬化されないという問題を有する。すなわち、基材上の残留アミン化合物又は強塩基は、硬化性シリコーン組成物に対して深刻な硬化阻害を引き起こす。
【0005】
一方、アクリルベースのUV硬化性組成物が周知である。例えば、特許文献3には、ポリオールアクリレート化合物と、アクリル基又はメタクリル基とカルボキシル基とを含有する化合物と、グリシジル基を含有するシロキサン化合物と、光ラジカル発生剤とを含有する光硬化性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、このような光硬化性樹脂組成物は、大気中の酸素によって十分に硬化されないという問題がある。その結果、硬化生成物は、より悪い機械的特性を有する粘着性表面を示す。
【0007】
そのため、空気やアミン化合物に阻害されることなく、優れた硬化性を有する硬化性シリコーン組成物の開発の機会が未だ存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/154626A1号
【特許文献2】特開2013-095874A号
【特許文献3】欧州特許出願公開第2772505A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、空気及びアミン化合物によって阻害されることなく優れた硬化性を有する二重硬化性シリコーン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の二重硬化性シリコーン組成物は、
(A)下記平均単位式(1):
(R1
3SiO1/2)a(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c(SiO4/2)d
(式中、各R1は、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、ただし、全R1の少なくとも約15mol%は、C6~10一価芳香族炭化水素基であり;「a」、「b」、「c」、及び「d」は、0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1の条件を満たす数であり、全シロキサン単位の約2~約30mol%は、当該一価エポキシ置換有機基を有する)で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)、
又は、上記(A1)成分と、下記一般式(2):
X1-R2
2SiO(SiR2
2O)mSiR2
2-X1
(式中、各R2は、C1~6一価脂肪族炭化水素基及びC6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基であり、各X1は、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式(3):
X2-R3
2SiO(SiR3
2O)xSiR3
2-R4-
(式中、各R3は、同じか又は異なるC1~6一価脂肪族炭化水素基であり、R4は、C2~6アルキレン基であり、X2は、一価エポキシ置換有機基であり、「x」は、約0~約5の数であり、「m」は約0~約100の数である)で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基である)で表されるエポキシ官能性シリコーン(A2)との混合物から選択される、エポキシ官能性シリコーン;
(B)1分子当たり少なくとも1つのアクリル基又はメタクリル基を有し、成分(A)~(D)の総質量の約15質量%~約75質量%の量の、少なくとも1つのラジカル重合性化合物;
(C)成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量の、光酸発生剤及び/又は熱酸発生剤;並びに
(D)成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量の、光ラジカル重合開始剤及び/又は熱ラジカル重合開始剤、
を含む。
【0011】
様々な実施形態では、成分(A2)の含有量は、成分(A1)及び(A2)の混合物の、最大で80質量%である。
【0012】
様々な実施形態では、成分(A)における一価エポキシ置換有機基は、グリシドキシアルキル基、3,4-エポキシシクロヘキシルアルキル基、及びエポキシアルキル基である。
【0013】
様々な実施形態では、成分(B)は、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシルエチルメタクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピオネートジアクリレート、又は2-フェノキシエチルアクリレートのうちの少なくとも1つを含むか又はそれらである。
【0014】
様々な実施形態では、成分(C)は、スルホニウム塩もしくはヨードニウム塩のうちの少なくとも1つを含むか又はそれらである。
【0015】
様々な実施形態では、成分(D)のための光ラジカル重合開始剤は、アセトフェノン系開始剤、ベンジル系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤、チオキサントン系開始剤、アシルホスフィンオキシド系開始剤、又はオキシム系開始剤のうちの少なくとも1つを含むか又はそれらである。
【0016】
様々な実施形態では、成分(D)のための熱ラジカル重合開始剤は、80℃以上の温度で10時間の半減期を有する有機過酸化物である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の二重硬化性シリコーン組成物は、空気及びアミン化合物によって阻害されることなく、優れた硬化性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
「含むこと(comprising)」又は「含む(comprise)」という用語は、本明細書において、それらの最も広い意味で、「含むこと(including)」、「含む(include)」、「から本質的になる(consist(ing) essentially of)」、及び「からなる(consist(ing) of)」という観念を意味し、包含するように使用されている。実例を列記する「例えば(for example)」「例えば(e.g.,)」、「例えば/など(such as)」及び「が挙げられる(including)」の使用は、列記されている例のみに限定しない。したがって、「例えば(for example)」又は「例えば/など(such as)」は、「例えば、それらに限定されないが(for example, but not limited to)」又は「例えば、それらに限定されないが(such as, but not limited to)」を意味し、他の類似した、又は同等の例を包含する。本明細書で使用されている「約(about)」という用語は、機器分析により測定した、又は試料を取り扱った結果としての数値のわずかな変動を、合理的に包含若しくは説明する働きをする。かかる軽微な変動は、数値の±0~25%、±0~10%、±0~5%、又は±0~2.5%ほどであり得る。更に、「約」という用語は、ある範囲の値に関連する場合、数値の両方に当てはまる。更に、「約」という用語は、明確に記載されていない場合であっても、複数の数値に当てはまることがある。全般に、本明細書で使用するとき、「>」は「~を上回る」又は「超」であり、「≧」は「少なくとも(at least)」又は「以上(greater-than or equal to)」であり、「<」は「~を下回る(below)」又は「未満(less-than)」であり、「≦」は「多くとも(at most)」又は「以下(less-than or equal to)」である。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「エポキシ官能性」又は「エポキシ置換」は、エポキシ置換基である酸素原子が炭素鎖又は環系の2個の隣接する炭素原子に直接結合される官能基を指す。エポキシ置換官能基の例としては、2-グリシドキシエチル基、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基などのグリシドキシアルキル基;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル基、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシル)-2-メチルエチル基、2-(2,3-エポキシシクロペンチル)エチル基、3-(2,3-エポキシシクロペンチル)プロピル基などの(3,4-エポキシシクロアルキル)アルキル基;並びに2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、4,5-エポキシペンチル基などのエポキシアルキル基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートのいずれか一方又は両方を意味する。
【0021】
<二重硬化性シリコーン組成物>
成分(A)は、以下から選択されるエポキシ官能性シリコーンである:
(A1)以下の平均単位式(1):
(R1
3SiO1/2)a(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c(SiO4/2)d
で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂、又は、上記(A1)成分と、(A2)下記一般式(2):
X1-R2
2SiO(SiR2
2O)mSiR2
2-X1
【0022】
で表されるエポキシ官能性シリコーンとの混合物。なお、式中、各R1は、C1~6一価脂肪族炭化水素基、C6~10一価芳香族炭化水素基、及び一価エポキシ置換有機基から選択される、同じか又は異なる有機基である。
【0023】
成分(A1)におけるC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、C1~6アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等);C2~6アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基等);及びC1~6ハロゲン化アルキル基(例えば、3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等)が挙げられる。それらの中でも、メチル基が概して好ましい。
【0024】
成分(A1)におけるC6~10一価芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。それらの中でも、フェニル基が概して好ましい。
【0025】
成分(A1)における一価エポキシ置換有機基の例としては、グリシドキシアルキル基(例えば、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基等);3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基(例えば、2-(3,4-エポキシシロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシロペンチル)プロピル等);及びエポキシアルキル基(例えば、2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基等)が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が概して好ましい。
【0026】
成分(A1)において、全R1の少なくとも約15mol%、任意選択的に少なくとも約20mol%、又は任意選択的に少なくとも約25mol%は、C6~10一価芳香族炭化水素基である。一価芳香族炭化水素基の含有量が上記の下限以上であれば、硬化物の機械的特性が向上し得る。
【0027】
式(1)中、「a」、「b」、「c」、及び「d」は、以下の条件を満たすモル分率及びモル数である:0≦a<0.4、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.4、0.1≦b/c≦0.6、かつa+b+c+d=1、任意選択的に、a=0、0<b<0.5、0<c<1、0≦d<0.2、0.1<b/c≦0.6、かつb+c+d=1、又は任意選択的にa=0、0<b<0.5、0<c<1、d=0、0.1<b/c≦0.6、かつb+c=1。「a」は、0≦a<0.4、任意選択的に0≦a<0.2、又は任意選択的にa=0であり、それは、(R1
3SiO1/2)シロキサン単位が多過ぎると、エポキシ含有オルガノポリシロキサン樹脂(A1)の分子量が低下するためであり、また(SiO4/2)シロキサン単位が導入されると、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)の硬化物の硬さが著しく増加し、硬化物が脆くなりやすくなる場合があるためである。この理由から、「d」は、0≦d<0.4、任意選択的に0≦d<0.2、又は任意選択的にd=0である。加えて、(R1
2SiO2/2)単位と(R1SiO3/2)単位とのモル比「b/c」は、約0.1以上かつ約0.6以下であり得る。いくつかの例では、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)の製造において、上記の範囲から逸脱すると、不溶性の副生成物を生じる、強靭性の低下により生成物が亀裂しやすくなる、又は、生成物の強度及び弾性が低くなり、生成物に引っかき傷がつきやすくなる恐れがある。いくつかの例では、モル比「b/c」の範囲は、約0.1より大きく、約0.6以下である。エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)は、(R1
2SiO2/2)シロキサン単位及び(R1SiO3/2)シロキサン単位を含み、その分子構造は、ほとんどの場合、網状組織構造又は三次元構造であり、それは「b/c」のモル比が約0.1より大きく、約0.6以下であるためである。したがって、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)では、(R1
2SiO2/2)シロキサン単位及び (R1SiO3/2)シロキサン単位は存在するが、(R1
3SiO1/2)シロキサン単位及び(SiO4/2)シロキサン単位は任意選択の構成単位である。すなわち、以下の平均単位式を含むエポキシ官能性シリコーン樹脂が存在し得る。
(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c
(R1
3SiO1/2)a(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c
(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c(SiO4/2)d
(R1
3SiO1/2)a(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c(SiO4/2)d
【0028】
成分(A1)において、分子中の全シロキサン単位の約2mol%~約30mol%、任意選択的に約10mol%~約30mol%、又は任意選択的に約15mol%~約30mol%のシロキサン単位は、エポキシ置換有機基を有する。上記範囲の下限以上のこのようなシロキサン単位が存在すれば、硬化中の架橋密度が向上し得る。一方、この量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の耐熱性を向上させることができるため、好適であり得る。エポキシ官能性一価炭化水素基中、エポキシ基は、アルキレン基を介してケイ素原子に結合することができ、これにより、エポキシ基はケイ素原子に直接的には結合しない。エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)は、周知の従来の製造方法によって生成することができる。
【0029】
エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)の重量平均分子量に関して特に制限はないが、硬化物の強靱性及び有機溶媒中でのその溶解度を考慮すると、いくつかの実施形態では、分子量は、約103以上かつ約106以下である。一実施形態では、エポキシ官能性シリコーン樹脂(A1)は、異なる含量及び種類のエポキシ含有有機基及び一価炭化水素基を有する、又は異なる分子量を有する、2種以上のこのようなエポキシ官能性シリコーン樹脂の組み合わせを含む。
【0030】
成分(A2)は、硬化物に柔軟性や耐衝撃強さを付与するための任意成分である。
【0031】
式(2)中、各R2は、C1~6一価脂肪族炭化水素基及びC6~10一価芳香族炭化水素基から選択される、同じか又は異なる有機基である。
【0032】
成分(A2)におけるC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、C1~6アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等);C2~6アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基等);及びC1~6ハロゲン化アルキル基(例えば、3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等)が挙げられる。それらの中でも、メチル基が概して好ましい。
【0033】
成分(A2)におけるC6~10一価芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基が挙げられる。それらの中でも、フェニル基が概して好ましい。
【0034】
式(2)中、各X1は、一価エポキシ置換有機基及び以下の一般式(3)で表されるエポキシ官能性シロキシ基から選択される、同じか又は異なる基である:
X2-R3
2SiO(SiR3
2O)xSiR3
2-R4-。
【0035】
X1の一価エポキシ置換有機基の例としては:グリシドキシアルキル基(例えば、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基等);3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基(例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシクロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシクロペンチル)プロピル等);及びエポキシアルキル基(2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基等)が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が概して好ましい。
【0036】
式(3)中、各R3は、同じか又は異なるC1~6一価脂肪族炭化水素基である。R3のC1~6一価脂肪族炭化水素基の例としては、C1~6アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及びヘキシル基等);C2~6アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基、及びヘキセニル基等);及びC1~6ハロゲン化アルキル基(例えば、3-クロロプロピル基及び3,3,3-トリフルオロプロピル基等)が挙げられる。それらの中でも、メチル基が概して好ましい。
【0037】
式(3)中、R4はC2~6アルキレン基である。R4のC2~6アルキレン基の例としては、エチレン基、メチルエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、及びヘキシレン基が挙げられる。それらの中でも、エチレン基が概して好ましい。
【0038】
上記式(3)中、X2は、一価エポキシ置換有機基である。X2の一価エポキシ置換有機基の例としては:グリシドキシアルキル基(例えば、3-グリシドキシプロピル基、4-グリシドキシブチル基、及び5-グリシドキシペンチル基等);3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基(例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル、3-(3,4-エポキシシクロヘキシル)プロピル、2-(3,4-エポキシ-3-メチルシクロヘキシル)-2-メチルエチル、2-(2,3-エポキシシクロペンチル)エチル、及び3-(2,3-エポキシシクロペンチル)プロピル等);及びエポキシアルキル基(2,3-エポキシプロピル基、3,4-エポキシブチル基、及び4,5-エポキシペンチル基等)が挙げられる。それらの中でも、3,4-エポキシシクロアルキルアルキル基が概して好ましい。
【0039】
上記の式(3)中、「x」は、約0~約5、任意選択的に約0~約2、又は任意選択的に約0の数である。
【0040】
上記の式(2)中、「m」は、約0~約100、任意選択的に約0~約20、又は任意選択的に約0~約10の数である。「m」が上記範囲の上限以下である場合、硬化物の機械的強度を向上させることができる。
【0041】
25℃における成分(A2)の状態は、限定されないが、概して液体である。成分(A2)の25℃における粘度は、限定されないが、その粘度は、概ね約5~約100mPa・sの範囲内である。なお、本明細書において、粘度は、ASTMのD1084に従って、B型粘度計を用いて23±2℃において測定した値である。
【0042】
成分(A1)と成分(A2)との混合物中の成分(A2)の含有量は限定されないが、一般に、成分(A1)と成分(A2)との混合物の、最大80質量%、任意選択的に最大70質量%、任意選択的に約10質量%~約70質量%の量、任意選択的に約15質量%~約65質量%の量である。成分(A2)の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の、アミンに対する硬化感度を向上させることができる。一方、含有量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の酸素による阻害及び遅延が起こり、弾性率及び引っ張り強さの低下を招き得る。
【0043】
成分(B)は、1分子当たり少なくとも1個のアクリル基又はメタクリル基を有する少なくとも1種のラジカル重合性化合物である。成分(B)としては、モノ(メタ)アクリレート(例えば、イソボルニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及び2-フェノキシエチルアクリレート等);2価アルコールの(メタ)アクリレート化合物(例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、イソプレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、水素化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル-3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピオネートジアクリレート等);三価アルコールの(メタ)アクリレート化合物(例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート等);四価アルコールの(メタ)アクリレート化合物(例えば、エリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ジグリセロールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等);五価アルコールの(メタ)アクリレート化合物(例えば、トリグリセロールテトラ(メタ)アクリレート、トリグリセロールペンタ(メタ)アクリレート等);六価アルコールの(メタ)アクリレート化合物(例えば、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等);及び(メタ)アクリレートシラン又はシロキサン(例えば3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1つの分子末端に(メタ)アクリレート基を有するシロキサン等)が挙げられる。
【0044】
成分(B)は市販されており、例えば、ジペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD D-330);ジペンタエリスリトールテトラアクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD D-320);ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD D-310);ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(日本化薬(株)製KAYARAD DPHA、新中村化学工業(株)製NKエステルA-DPH-12E);及び(メタ)アクリロイル基がエチレングリコール及び/又はプロピレングリコール残基を介して結合した構造を有する化合物(例えば、Sartomer社から市販されているSR454及びSR499)が挙げられる。
【0045】
成分(B)の含有量は、成分(A)~(D)の総質量の約15質量%~約75質量%の量、任意選択的に約15質量%~約65質量%の量、又は任意選択的に約15質量%~約60質量%の量である。含有量が上記範囲の下限値以上であると、本組成物の酸素による阻害が大きくなる可能性があり、また機械的強度が低下する可能性がある。一方、上記範囲の上限以下であると、硬化物の、アミン化合物による硬化阻害が増加する可能性がある。
【0046】
成分(C)は、硬化成分(A)を向上させる光酸発生剤及び/又は熱酸発生剤である。スルホニウム塩、ヨードニウム塩、セレノニウム塩、ホスホニウム塩、ジアゾニウム塩、パラトルエンスルホン酸塩、トリクロロメチル置換トリアジン、及びトリクロロメチル置換ベンゼンといった、当業者に既知である任意の酸発生剤を使用することができる。これらの中でも、スルホニウム塩及びヨードニウム塩は、本組成物が、紫外線照射又は熱・紫外線照射により、優れた硬化性を示すので好ましい。例えば、スルホニウム塩は、比較的長波長の光(365nmまで)を吸収するUV活性化酸発生剤であり、ヨードニウム塩は、短波長の光(350nm未満)を吸収する熱/UV活性化酸発生剤である。
【0047】
スルホニウム塩の例としては、式Rc
3S+X-で表される塩を挙げることができる。式中、Rcは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、及び他のC1~6アルキル基;フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、トリル基、プロピルフェニル基、デシルフェニル基、ドデシルフェニル基、及び他のC1~24アリール基又は置換アリール基を表し得る。また、式中、X-は、SbF6
-、AsF6
-、PF6
-、BF4
-、B(C6F5)4
-、HSO4
-、ClO4
-、CF3SO3
-、及び他の非求核性非塩基性アニオンを表し得る。
【0048】
ヨードニウム塩の例としては、式Rc
2I+X-で表される塩を挙げることができ、セレノニウム塩の例としては、式Rc
3Se+X-で表される塩を挙げることができ、ホスホニウム塩の例としては、式Rc
4P+X-で表される塩を挙げることができ、ジアゾニウム塩の例としては、式RcN2
+X-で表される塩を挙げることができ、なお式中、Rc及びX-は、Rc
3S+X-に関して本明細書に記載したものと同じである。
【0049】
パラトルエンスルホン酸塩の例としては、式CH3C6H4SO3Rc1で表される化合物を挙げることができ、なお式中、Rc1は、ベンゾイルフェニルメチル基、フタルイミド基及びこれらに類するものなどの電子吸引基を含む有機基を表す。
【0050】
トリクロロメチル置換トリアジンの例としては、[CC13]2C3N3Rc2で表される化合物を挙げることができ、なお式中、Rc2は、フェニル、置換又は非置換フェニルエチル、置換又は非置換フラニルエチニル、及び他の電子吸引基を表す。
【0051】
トリクロロメチル置換ベンゼンの例としては、CCl3C6H3RcRc3で表される化合物を挙げることができ、なお式中、Rcは、Rc
3S+X-に関して本明細書に記載したものと同じであり、Rc3は、ハロゲン基、ハロゲン置換アルキル基、及び他のハロゲン含有基を表す。
【0052】
酸発生剤の例としては、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、ジ(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート塩、及びp-クロロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレートを挙げることができる。
【0053】
成分(C)の含有量は、成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量、任意選択的に約0.5質量%~約5質量%の量、任意選択的に約0.1質量%~約3質量%の量、又は任意選択的に約0.1質量%~約2質量%の量である。成分(C)の含有量が上記範囲の下限値以上であると、硬化性シリコーン組成物が黄変したり、硬化速度が速すぎて可使時間が悪くなったりする。一方、含有量が上記範囲の上限以下であると、硬化物の硬化速度を遅くさせてしまい、最終的に完全に硬化しない可能性もある。
【0054】
成分(D)は、成分(B)の重合を促進するための光ラジカル重合開始剤及び/又は熱ラジカル重合開始剤である。当業者に知られている任意のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0055】
成分(D)の光ラジカル重合開始剤の例としては、アセトフェノン系開始剤(例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、4’-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシメチル-2-メチルプロピオフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-tertーブチルジクロロアセトフェノン、p-tertーブチルトリクロロアセトフェノン、p-アジドベンザルアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパノン-1、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn-ブチルエーテル、及びベンゾインイソブチルエーテル、並びに2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-ビニル-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンのオリゴマー等);ベンジル系開始剤(例えば、ジフェニルジケトン、及びビス(4-メトキシフェニル)ジケトン等);ベンゾフェノン系開始剤(例えば、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラーズケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、及び4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド等);チオキサントン系開始剤(例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、及び2,4-ジエチルチオキサントン等);アシルホスフィンオキシド系開始剤(例えば、2-メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、メチル2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィナート、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド等);及びオキシム系開始剤(例えば、1-{(4-フェニルチオ)フェニル}-1,2-ブタンジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-{(4-フェニルチオ)フェニル}-1,2-オクタンジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、1-{(4-フェニルチオ)フェニル}-1-オクタノン-1-(O-アセチルオキシム)、1-{4-(2-ヒドロキシエトキシフェニルチオ)フェニル}-1,2-プロパンジオン-2-(O-アセチルオキシム)、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン-1-(O-アセチルオキシム)、(9-エチル-6-ニトロ-9H-カルバゾール-3-イル){4-(2-メトキシ)-1-メチルエトキシ}-2-メチルフェニル}メタノン(O-アセチルオキシム等)が挙げられる。上記光ラジカル重合開始剤としては、成分(B)の反応性が良好であることから、ベンゾフェノン系開始剤が好ましく、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノンが更に好ましい。光ラジカル重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
成分(D)のための熱ラジカル重合開始剤の例としては、アゾ化合物(例えば、アゾベンゼン、アゾベンゼン-p-スルホン酸、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、及びこれらの組み合わせ);及び有機過酸化物化合物(例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、4-モノクロロベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジ-tert-ヘキシルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-335-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,6-ビス(tert-ブチルパーオキシカルボキシ)ヘキサン、ジ-(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジ-(2-メチルベンゾイル)パーオキサイド、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ-(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、又はこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。本発明において成分(D)として用いられる熱ラジカル重合開始剤は、80℃以上、任意選択的に90℃以上、更に任意選択的に100℃以上の温度における半減期が10時間である有機過酸化物であることが好ましい。温度が上記下限値以上であると、本組成物が室温で良好な安定性を示すからである。なお、温度の上限は特に限定されないが、温度が高すぎると本組成物が十分に硬化しない傾向があるため、好ましくは130℃以下である。このような有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジ-(2-tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等が挙げられる。一般に、ジクミルパーオキサイドは、本組成物中の他の成分との良好な混和性のために最も好ましい。
【0057】
成分(D)の含有量は、成分(A)~(D)の総質量の約0.1質量%~約5質量%の量、任意選択的に約0.1質量%~約3質量%の量、任意選択的に約0.1質量%~約2質量%の量、又は任意選択的に約0.5質量%~約2質量%の量である。成分(D)の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化性シリコーン組成物は、室温で安定的ではなく、その可使時間が悪くなる。一方、含有量が上記範囲の上限以下であると、硬化物中のラジカル成分を十分に硬化させることができず、酸素による阻害がより多く見られる可能性がある。
【0058】
本組成物は上記の成分(A)~(D)を含むが、本組成物の硬化物に対して、より良好な接着特性及び機械的特性を付与するために、接着促進剤、及び/又は光増感剤、及び/又はアルコール、及び/又は無機充填剤を使用してもよい。
【0059】
接着促進剤の例としては、エポキシ官能性アルコキシシラン(例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルジエトキシシラン、及びそれらの組み合わせ);不飽和アルコキシシラン(例えば、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ウンデシレニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、及びそれらの組み合わせ);ケイ素原子結合のアルコキシ基を有するエポキシ官能性シロキサン(例えば、ヒドロキシ末端ポリオルガノシロキサンとエポキシ官能性アルコキシシラン(例えば、上述したもののいずれか)との反応生成物、又はヒドロキシ末端ポリオルガノシロキサンとエポキシ官能性アルコキシシランとの物理的ブレンド)が挙げられる。接着促進剤は、エポキシ官能性アルコキシシランとエポキシ官能性シロキサンとの組み合わせを含み得る。例えば、接着促進剤は、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランと、ヒドロキシ末端メチルビニルシロキサン及び3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの反応生成物と、の混合物、又は3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとヒドロキシ末端メチルビニルシロキサンとの混合物、又は3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとヒドロキシ末端メチルビニル/ジメチルシロキサンコポリマーとの混合物によって例示される。
【0060】
接着促進剤の含有量は、限定されないが、成分(A)~(D)の総質量の、概ね約0.01~約5質量%の量、又は任意選択的に約0.1~約2質量%の量である。含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の接着特性が向上し得る。一方、上記範囲の上限以下であると、硬化物の機械的特性が向上し得る。
【0061】
光増感剤の例としては、イソプロピル-9H-チオキサンテン-9-オン、アントロン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2,4-ジエチル-9H-チオキサンテン-9-オン、2-イソプロピルチオキサンテン、2-ヒドロキシ-2-メチル-フェニルプロパン-1-オン、2,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール(BHT)、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[{3,5-ビス(1,1-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)メチル}ホスホネート、3 3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサン-tert-ブチル-4-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、及びヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が挙げられる。
【0062】
光増感剤の含有量は、限定されないが、もし使用されるという場合には、成分(A)~(D)及び光増感剤の総質量の、概ね約0.001~約1質量%の範囲内、任意選択的に約0.005~約0.5質量%の範囲内、又は任意選択的に約0.005~約0.1質量%の範囲内である。光増感剤の含有量が上記範囲の下限以上であれば、硬化物の硬化性が向上し得る。一方、上記範囲の上限以下であると、硬化物の光学的クリアランスが向上し得る。
【0063】
アルコールの例としては、一価アルコール(例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、1-デカノール、1-ドデカノール、1-オクタノール、オレイルアルコール、1-ヘキサデカノール、及びステアリルアルコール等);及び多価アルコール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,10-デカンジオール、グリセロール、及びペンタエリスリトール等)が挙げられる。
【0064】
アルコールの含有量は、限定されないが、もし使用されるという場合には、成分(A)~(D)及びアルコールの総質量の、概ね約0.01~約10質量%の量、又は任意選択的に約0.1~約10質量%の量である。
【0065】
無機充填剤は、硬化物の機械的強度を高める。充填剤の例としては、微粉化処理された若しくは未処理の沈殿シリカ、又はヒュームドシリカ;沈殿又は粉砕炭酸カルシウム、炭酸亜鉛;粘土(例えば微粉化カオリンなど);石英粉末;水酸化アルミニウム;ケイ酸ジルコニウム;珪藻土;珪灰石;葉ろう石;及び金属酸化物(例えば、ヒュームド又は沈殿二酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム粉末、酸化亜鉛、酸化鉄等)の1つ以上が挙げられる。
【0066】
充填剤の含有量は、限定されないが、もし使用されるという場合には、成分(A)~(D)及び充填剤の総質量の、概ね約1~約95質量%の範囲内、任意選択的に約5~約95質量%の範囲内、又は任意選択的に約5~約90質量%の範囲内である。
【0067】
本組成物は、UV光線(すなわち、紫外線(「UV」)光)の照射及び/又は加熱によって硬化させることができる。例えば、低圧、高圧、若しくは超高圧水銀ランプ、ハロゲン化金属ランプ、(パルス)キセノンランプ、又は無電極ランプは、UVランプとして有用である。
【0068】
本組成物は、UV光線を照射することによって硬化されると、硬化物を形成する。本発明によるこの硬化物は、ASTM D2240に規定されるショアA硬度を用いて測定するとき、少なくとも20以上95以下の範囲、典型的には少なくとも30以上80以下の範囲、より典型的には少なくとも30以上70以下の範囲の硬度を有する。また、本発明の硬化物は、ASTMのD2240に規定されるショアD硬度で測定した硬度が、最大で60、典型的には最大で50である。これについての理由は以下のとおりである:硬化物の硬度が記載範囲の下限未満であると、硬化物の有する強度は不十分な場合があり、他方、記載範囲の上限を超えると、対象硬化物の可撓性が不十分になる傾向がある。
【0069】
硬化物は、可撓性かつ高透明性であるため、光、例えば、可視光、赤外線、紫外線、遠紫外線、X線、レーザーなどに対して透過性のある光学部材又は部品として有用である。硬化物はまた、例えば屈曲又は湾曲状態で使用するために、可撓性でなければならない光学部材又は部品としても有用であり、また高エネルギー高出力光を伴うデバイス用の光学部材又は部品としても有用である。加えて、硬化製品を任意の様々な基材と共に単一の物品又は本体に形成した複合材料を作製することによって、可撓性の硬化物層を有する物品又は部品を作製することができ、硬化物層から衝撃緩和及び応力緩和機能を期待することもできる。
【実施例】
【0070】
ここで、本発明の二重硬化性シリコーン組成物を、実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。式中、「Me」、「Pr」、「Ph」、及び「Ep」はそれぞれ、メチル基、プロピル基、フェニル基、及び2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基を示すことに留意されたい。実施例において使用されるエポキシ官能性シリコーン樹脂の構造は、13C NMR及び29Si NMR計測を行うことにより、決定した。エポキシ官能性シリコーン樹脂の重量平均分子量は、ポリスチレンスタンダードとの比較に基づいてGPCを用いて計算した。エポキシ官能性シリコーン及びシリコーン樹脂の粘度は、以下のように測定した。
【0071】
<粘度>
23±2℃での粘度を、ASTMのD1084「Standard Test Methods for Viscosity of Adhesive」に従って、B型粘度計(Brookfield HA又はHB Type回転粘度計、スピンドル#52を使用、5rpm)を使用することによって測定した。
【0072】
<実施例1~10及び比較例1~7>
以下の成分を使用して、表1に示す二重硬化性シリコーン組成物(質量%)を調製した。
【0073】
以下のエポキシ官能性シリコーン樹脂を、成分(A1)として使用した。
(a1):2,000~6,000の重量平均分子量を有し、以下の平均単位式で表されるエポキシ官能性シリコーン樹脂:
(MePhSiO2/2)0.34(PrSiO3/2)0.50(EpSiO3/2)0.16
【0074】
以下のエポキシ官能性シリコーンを、成分(A2)として使用した。
(a2):40mPa・sの粘度、382の重量平均分子量を有し、以下の式で表されるエポキシ官能性シリコーン:
Ep-SiMe2OSiMe2-Ep
【0075】
以下のアクリルモノマーを、成分(B)として使用した。
(b1):イソボルニルアクリレート
(b2):2-ヒドロキシエチルメタクリレート
(b3):3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピオネートジアクリレート
(b4):2-フェノキシエチルアクリレート
【0076】
成分(C)として、以下の光・熱酸発生剤を用いた。
(c1):4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸塩(TRONYL社製TR-PAG-30408)
(c2):トリアリールスルホニウムホウ酸塩(TRONYL社製CPI-310B)。
【0077】
以下の光/熱ラジカル開始剤を、成分(D)として使用した。
(d1):2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン
(d2):ジクミルパーオキシド
【0078】
<二重硬化性シリコーン組成物の硬化性>
約0.1~3gの各二重硬化性シリコーン組成物を、予めトリエチルアミン又はトリイソプロパノールアミンでコーティングしたスライドガラスに充填した。バーコーターによって表面レベルを平らにした後、5000mW/cm2の光強度のD型電球を有するハロゲン化金属UVランプに通すか、又は空気中で加熱(150℃で1時間)して、二重硬化性シリコーン組成物を硬化する。二重硬化性シリコーン組成物の硬化性を評価した。その結果を表1に示す。
【0079】
<硬化物の硬さ>
硬化物の硬度は、ASTMのD2240に規定されたショアD硬度又はショアA硬度を用いて測定した。
【0080】
<硬化物の表面粘着性>
硬化物の表面粘着性は、指で触れることによって評価した。
【0081】
【0082】
【0083】
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の二重硬化性シリコーン組成物は、空気及びアミン化合物によって阻害されることなく硬化することができる。したがって、本組成物は、電気/電子用途の様々な接着剤、封入剤、コーティング剤などとして有用である。
【国際調査報告】