(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】耐食性及び表面品質に優れた高耐食めっき鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/06 20060101AFI20240621BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C23C2/06
C23C2/26
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576199
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-12-11
(86)【国際出願番号】 KR2022008200
(87)【国際公開番号】W WO2022265307
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2021-0079649
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】キム、 スン-ユ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 イル-リョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ-チョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 クワン-ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、 サン-テ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ミュン-ス
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ヨン-キュン
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA05
4K027AA22
4K027AB42
4K027AE22
(57)【要約】
本発明の一実施形態は、素地鋼板;上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層;を含み、Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Al単相とMgZn2相の合計面積率は45~60%であり、上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比は1.2~3.3である、めっき鋼板及びその製造方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
素地鋼板;
前記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び
前記素地鋼板と前記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層;を含み、
Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Al単相とMgZn
2相の合計面積率は45~60%であり、前記Al単相に対する前記MgZn
2相の面積比は1.2~3.3である、めっき鋼板。
【請求項2】
前記Zn-Mg-Al系めっき層は、重量%で、Mg:4~6%、Al:8.2~14.2%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含む、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項3】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の断面を基準に、MgZn
2相の面積率は20~40%であり、Al単相の面積率は8~26%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項4】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、前記MgZn
2相の面積率は30~40%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項5】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、前記Al単相の面積率は15~20%であり、
前記Al単相は原子%で、Znが27%未満固溶し、残部がAl及びその他の不純物を含む相である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項6】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうちいずれか一つに該当する地点の表面におけるMgZn
2相とAl単相の合計面積率(C1)に対する前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるMgZn
2相とAl単相の合計面積率(S1)の比(S1/C1)は0.8~1.2の範囲である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項7】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるZn相及びZn-MgZn
2-Al系三元共晶相の合計面積率は20~30%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項8】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうち任意の地点の表面におけるZn相とZn-MgZn
2-Al系三元共晶相の合計面積率(C2)に対する前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるZn相とZn-MgZn
2-Al系三元共晶相の合計面積率(S2)の比(S2/C2)は0.6~1.2の範囲である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項9】
前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、原子%で、Znを27~60%固溶する第2Al単相の面積率は2~9%である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項10】
大気環境及びISO14993の塩化物環境下で、前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面にLDH((Zn,Mg)
6Al
2(OH)
16(CO
3)・4H
2O)がシモンコライト(Zn
5(OH)
8Cl
2)及びハイドロジンサイト(Zn
5(OH)
6(CO
3)
2)より先に形成される、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項11】
大気環境及びISO14993の塩化物環境下で、前記Zn-Mg-Al系めっき層の表面にLDH((Zn,Mg)
6Al
2(OH)
16(CO
3)・4H
2O)が大気環境で6時間、塩化物環境で5分以内に形成される、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項12】
塩水噴霧及び浸漬環境を含むISO14993の塩化物環境において赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して、平板部で40~50倍;及び90度の曲げ加工部で20~30倍である、請求項1に記載のめっき鋼板。
【請求項13】
素地鋼板を重量%で、Mg:4~6%、Al:8.2~14.2%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、平衡状態図上の凝固開始温度に対して20~80℃高い温度に保持されるめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階;及び
前記溶融亜鉛めっきされた鋼板を凝固開始温度から凝固終了温度まで2~12℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階;を含み、
前記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たし、センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)が60~99%を満たすように冷却を行う、めっき鋼板の製造方法。
[関係式1-1]
A<{(5-2lnt)/(7-3lnt)}×B
[関係式1-2]
15t
(-0.8)≦B≦20t
(-0.8)
(前記関係式1-1及び1-2において、前記tは鋼板の厚さ(mm)であり、前記Aは凝固開始温度から375℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、前記Bは375℃から340℃までの平均冷却速度(℃/s)を示す。)
【請求項14】
前記冷却する段階は、温度区間に応じて、前記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)に変化を与えて冷却を行い、
前記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)は、凝固開始温度から375℃まで60~70%であり、375℃から340℃まで90~99%である、請求項13に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記冷却する段階の後、調質圧延処理を行い、素地鋼板の表面及び形状を改善する段階をさらに含み、
前記調質圧延処理は、表面粗さ(Ra)が0.2~1.0μmであるブライトロールを用いて、50~300tonのロール圧下を鋼板表面に加えるように行われる、請求項14に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記溶融亜鉛めっき前、表面粗さ(Ra)が0.2~0.4μmであるブライトロールを用いて、200~300tonのロール圧下を鋼板表面に加える事前調質圧延処理を行う段階をさらに含む、請求項13に記載のめっき鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記事前調質圧延処理時に、ロール圧下は250~300tonである、請求項16に記載のめっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性及び表面品質に優れた高耐食めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は、腐食環境に曝されたとき、鉄よりも酸化還元電位が低い亜鉛が先に腐食され、鋼材の腐食が抑制される犠牲防食の特性を有する。また、めっき層の亜鉛が酸化しながら鋼材の表面に緻密な腐食生成物を形成させ、酸化雰囲気から鋼材を遮断することで鋼材の耐腐食性を向上させる。このような有利な特性のおかげで亜鉛系めっき鋼板は最近、建材、家電製品及び自動車用鋼板にその適用範囲が拡大している。
【0003】
しかし、産業の高度化に伴う大気汚染の増加により腐食環境が徐々に悪化しており、資源及び省エネに対する厳しい規制により、従来の亜鉛めっき鋼材よりも優れた耐食性を有する鋼材の開発に対する必要性が高まっている。
【0004】
このような問題を改善するために、亜鉛めっき浴にアルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)等の元素を添加して鋼材の耐食性を向上させる亜鉛合金系めっき鋼板の製造技術に関する研究が様々に進められている。代表的な例としては、Zn-Alめっき組成系にMgをさらに添加したZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板がある。
【0005】
しかし、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板は、通常、亜鉛系に加工されて使用される場合が多いが、めっき層内の硬度が高い金属間化合物を多量に含むため、曲げ加工時にめっき層内のクラックを誘発するなどの曲げ加工性が悪くなるという欠点がある。
【0006】
そこで、めっき鋼板の曲げ加工性をより改善するための試みがあったが、たとえ曲げ加工性が改善されたとしても、曲げ時に加工部に発生した微細クラックにより素地鋼板が露出するため、めっき鋼板における平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性までも確保することは技術的に非常に難しかった。
【0007】
一方、亜鉛合金めっき鋼板に対する曲げ加工部の耐食性は、通常、水分雰囲気でMg及びAlの成分が浸出して素地鋼板の露出した部分をセルフヒーリング(self-healing)すると知られているが、その効果が僅かであり、目的とするレベルまで曲げ加工部の耐食性を確保することは困難であるという問題があった。
【0008】
また、亜鉛系めっき鋼板は、製品の外郭に備えられることが多いが、めっき層内のMgの含量が高い製品であるほど、外観が暗くなり、加工による表面損傷の要素が加わることにより表面品質が低下し、外観品質の改善が必要であった。
【0009】
しかし、平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性及び外観品質にも全て優れた高いレベルの需要を満たすことができるレベルの技術は未だに開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国公開公報第2010-0073819号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性及び外観品質に優れためっき鋼板及びその製造方法の提供を課題とする。
【0012】
本発明の課題は、前述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、誰でも本発明の明細書全体にわたる内容から発明の更なる課題を理解する上で困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施形態は、
素地鋼板;
上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び
上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層;を含み、
Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Al単相とMgZn2相の合計面積率は45~60%であり、上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比は1.2~3.3である、めっき鋼板を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の一実施形態は、
素地鋼板を重量%で、Mg:4~6%、Al:8.2~14.2%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含み、平衡状態図上の凝固開始温度に対して20~80℃高い温度に保持されるめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階;及び
上記溶融亜鉛めっきされた鋼板を凝固開始温度から凝固終了温度まで2~12℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階;を含み、
上記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たし、センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)が60~99%を満たすように冷却を行う、めっき鋼板の製造方法を提供する。
【0015】
[関係式1-1]
A<{(5-2lnt)/(7-3lnt)}×B
【0016】
[関係式1-2]
15t(-0.8)≦B≦20t(-0.8)
(上記関係式1-1及び1-2において、上記tは鋼板の厚さ(mm)であり、上記Aは凝固開始温度から375℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Bは375℃から340℃までの平均冷却速度(℃/s)を示す。)
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、平板の耐食性だけでなく、加工部の耐食性及び外観品質に優れためっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【0018】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は前述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程でより容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】(a)は実施例13のめっき鋼板に対する表面を観察することができる表面試験片を作製し、上記表面試験片を700倍率に拡大して走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、以下「FE-SEM」という)で観察した写真である。(b)は上記写真について各相の比率を測定して示したものである。
【
図2】(a)は上記
図1と同様の実施例13のめっき鋼板に対して、1/2tの地点まで研磨を行った後、研磨した表面を観察することができる1/2tの表面試験片を作製し、上記試験片を700倍率に拡大して走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した写真である。(b)は上記写真について各相の比率を測定して示したものである。
【
図3】(a)は比較例1のめっき鋼板に対する表面を観察することができる表面試験片を作製し、上記表面試験片を700倍率に拡大して走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope、以下「FE-SEM」という)で観察した写真である。(b)は上記写真について各相の比率を測定して示したものである。
【
図4】(a)は上記
図3と同様の比較例1のめっき鋼板に対して、1/2tの地点まで研磨を行った後、研磨した表面を観察することができる1/2tの表面試験片を作製し、上記試験片を700倍率に拡大して走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した写真である。(b)は上記写真について各相の比率を測定して示したものである。
【
図5】
図1~
図4に示すAl単相、第2Al単相及びAl-Zn系二元共晶相にEDS(Energy Dispersive Spectrometer)で観察し、微細組織内に固溶している元素に対する分率を図示化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で使用される用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。また、本明細書で使用される単数形は、関連する定義がそれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。
【0021】
本明細書で使用される「含む」の意味は、構成を具体化し、他の構成の存在や付加を除外するものではない。
【0022】
他に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。辞書に定義されている用語は、関連する技術文献と現在開示されている内容に一致する意味を有するものとして解釈される。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る[めっき鋼板]について詳細に説明する。本発明において各元素の含量を示す際には、特に断りのない限り、重量%を意味する。
【0024】
従来のZn-Mg-Al系亜鉛合金めっき鋼板に関する技術では、耐食性の向上のためにMgを添加したが、Mgを過剰に添加する場合、めっき浴の浮遊ドロスの発生が多くなり、ドロスを頻繁に除去しなければならないという問題があるため、Mgの添加量の上限を3%に制限していた。そこで、Mgの添加量を3%より増加させて耐食性をさらに改善するために研究したが、Mgの添加量が高くなるにつれて、硬度の高い金属間化合物が多量に生成され、曲げ加工時にめっき層内にクラックを引き起こすという問題がある。
【0025】
これに対し、耐食性と曲げ加工性を確保するための研究が行われたが、例えめっき鋼板における平板部の耐食性及び曲げ加工性を確保したとしても、曲げ加工時に必然的に発生する微細クラックにより素地鋼板が露出するため、このような曲げ加工部の耐食性までも確保することは、技術的に非常に難しかった。さらに、Mgを多く添加するほど製品の外観が暗くなり、表面損傷の要素が加わるため、外観品質を確保しにくいという問題があった。
【0026】
そこで、本発明者らは、前述した問題を解決するとともに、平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性及び外観品質に優れためっき鋼板を提供すべく鋭意検討を行った結果、腐食環境下で(あるいは、大気環境下で長時間の間)保持するとき、加工部の表面に初期腐食生成物としてLDH(Layered Double Hydroxide;(Zn,Mg)6Al2(OH)16(CO3)・4H2O))が均一に形成されることが重要な要素であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
したがって、以下では、曲げ加工部の表面に初期腐食生成物としてLDHを形成するとともに、時間が経過するにつれて加工部の表面全体にわたってLDHが均一に分布し、腐食活性領域を遮蔽できるめっき鋼板の構成について具体的に説明する。
【0028】
まず、本発明の一実施形態に係るめっき鋼板は、素地鋼板;上記素地鋼板の少なくとも一面に備えられたZn-Mg-Al系めっき層;及び上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間に備えられたFe-Al系抑制層を含む。
【0029】
本発明では、素地鋼板の種類については特に限定しなくてもよい。例えば、上記素地鋼板は、通常の亜鉛系めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板又は冷延鋼板であってもよいが、これに限定されない。あるいは、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として使用される炭素鋼、極低炭素鋼又は高マンガン鋼であってもよい。但し、一例として、上記素地鋼板は、重量%で、C:0%超過0.18%以下、Si:0%超過1.5%以下、Mn:0.01~2.7%、P:0%超過0.07%以下、S:0%超過0.015%以下、Al:0%超過0.5%以下、Nb:0%超過0.06%以下、Cr:0%超過1.1%以下、Ti:0%超過0.06%以下、B:0%超過0.03%以下、並びに残部Fe及びその他の不可避不純物を含む組成を有することができる。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、上記素地鋼板の少なくとも一面にはZn-Mg-Al系合金からなるZn-Mg-Al系めっき層を備えることができる。上記めっき層は、素地鋼板の一面にのみ形成されていてもよく、あるいは、素地鋼板の両面に形成されていてもよい。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、Mg及びAlを含み、Znを主に含む(すなわち、Znを50%以上含む)めっき層をいう。
【0031】
本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さは5~100μmであってもよく、より好ましくは5~90μmであってもよい。めっき層の厚さが5μm未満であると、めっき層の厚さ偏差から生じる誤差により、局部的にめっき層が薄くなり過ぎる場合があり、耐食性が劣ることがある。めっき層の厚さが100μmを超えると、溶融めっき層の冷却が遅れる可能性があり、一例として、フローパターンなどめっき層の表面に凝固欠陥が発生する余地があり、めっき層を凝固させるために鋼板の生産性が低下する可能性がある。
【0032】
また、本発明の一実施形態によれば、上記素地鋼板と上記Zn-Mg-Al系めっき層との間にFe-Al系抑制層を備えることができる。上記Fe-Al系抑制層は、FeとAlの金属間化合物を主に含む層であって、FeとAlの金属間化合物としては、FeAl、FeAl3、Fe2Al5等が挙げられる。他にも、Zn、Mgなどのように、めっき層に由来する成分が一部、例えば、40%以下さらに含まれてもよい。上記抑制層は、めっき初期の素地鋼板から拡散したFe及びめっき浴成分による合金化により形成された層である。上記抑制層は、素地鋼板とめっき層との密着性を向上させる役割を果たすとともに、素地鋼板からめっき層へのFeの拡散を防止する役割を果たすことができる。このとき、上記抑制層は、素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間に連続的に形成されてもよく、不連続的に形成されてもよい。上記抑制層については、前述の説明を除いては、当該技術分野において通常知られている内容を同様に適用することができる。
【0033】
本発明の一実施形態によれば、上記抑制層の厚さは0.02~2.5μmであってもよい。上記抑制層は、合金化を防止して、耐食性を確保する役割を果たすが、脆いため加工性に影響を及ぼす可能性があることから、その厚さを2.5μm以下とすることができる。但し、抑制層としての役割を果たすためには、その厚さを0.02μm以上に制御することが好ましい。前述した効果をより向上させる観点から、好ましくは、上記抑制層の厚さの上限は1.8μmであってもよい。また、上記抑制層の厚さの下限は0.05μmであってもよい。このとき、上記抑制層の厚さは、素地鋼板の界面に対して垂直な方向への最小厚さを意味することができる。
【0034】
一方、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、重量%で、Mg:4~6%、Al:8.2~14.2%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むことができる。以下では、各成分について具体的に説明する。
【0035】
Mg:4%以上6%以下
Mgは、めっき鋼材の耐食性を向上させる役割を果たす元素であって、本発明では、目的とする優れた耐食性を確保するために、めっき層内のMg含量を4%以上に制御する。一方、耐食性確保の観点から、Mgを添加するほど効果が向上するため、Mg含量の上限については特に限定しなくてもよい。但し、一例として、Mgが過剰に添加される場合には、ドロスが発生する可能性があるため、Mg含量を6%以下に制御することができる。
【0036】
Al:8.2%以上14.2%以下
一般的にMgが1%以上添加される場合、耐食性向上の効果は発揮されるが、Mgが2%以上添加されると、めっき浴内のMgの酸化によるめっき浴の浮遊ドロスの発生が増加し、ドロスを頻繁に除去しなければならないという問題がある。このような問題により、従来技術では、Zn-Mg-Al系亜鉛合金めっきにおいてMgを1.0%以上添加して耐食性を確保し、且つMg含量の上限線を3.0%に設定して相溶化していた。しかし、前述したように、耐食性をさらに向上させるためには、Mg含量を4%以上に高める必要があるが、めっき層内にMgが4%以上含まれると、めっき浴内のMgの酸化によるドロスが発生するという問題があるため、Alを添加させる必要がある。但し、ドロスを抑制するためにAlを過剰に添加すると、めっき浴の融点が高くなり、それに伴う操業温度が高くなり過ぎ、めっき浴構造物の侵食及び鋼材の変性が生じる等の、高温作業による問題が発生する可能性がある。さらに、めっき浴内のAl含量が過剰になると、Alが素地鉄のFeと反応してFe-Al抑制層の形成に寄与せず、AlとZnの反応が急激に起こり、塊状のアウトバースト (Outburst)相が過剰に形成され、耐食性がむしろ悪化する可能性がある。したがって、めっき層内のAl含量の上限は14.2%に制御することが好ましく、より好ましくは14.0%に制御することができる。
【0037】
残部Zn及びその他の不可避不純物
前述しためっき層の組成の他に、残部はZn及びその他の不可避不純物であってもよい。不可避不純物は、通常の溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程で意図せずに混入し得るものであれば、いずれも含まれることができ、当該技術分野における技術者であれば、その意味を容易に理解することができる。
【0038】
上記Zn-Mg-Al系めっき層は、微細組織としてMgZn2相及びAl単相を含むことができ、その他にも、Al-Zn系二元共晶相、Zn-MgZn2-Al系三元共晶相、Zn単相などのように、様々な相もめっき層に含むことができる。
【0039】
このとき、本発明において、上記MgZn2相は、MgZn2を主体とする相を意味し、上記Al単相とは、Alを主体とする相であって、具体的にはZnが原子%で、27%未満固溶し、残部がAl及びその他の不純物で構成される相をいう。すなわち、上記Al単相は、Al成分の他にも、めっき層成分として含まれることができるZn、Mgなどの成分が固溶することができ、本発明において、上記Al単相はZnを27原子%未満固溶する相のみを区分して指す。
【0040】
また、上記Zn-MgZn2-Al系三元共晶相とは、Zn相、MgZn2相及びAl相が全て混在する形態の三元共晶相をいい、上記Al-Zn系二元共晶相とは、Al相及びZn相が交互にラメラ又は不規則な混合形態を示しながら配置されたものをいう。このとき、Al-Zn系二元共晶相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相内のAl相は、前述したAl単相又は後述する第2Al単相として見なさない点で留意する必要がある。同様に、上記Zn-MgZn2-Al系三元共晶相内のMgZn2は、前述したMgZn2を主体とするMgZn2相として見なさない点にも留意する必要がある。
【0041】
また、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、上記Al単相とはZn固溶率で区分される「第2のAl単相」もさらに含むことができる。上記第2のAl単相とは、Znが原子%で、27%以上60%以下(27~60%)固溶し、残部がAl及びその他の不純物で構成される単相をいう。
【0042】
一方、前述したZn-Mg-Al系めっき層の微細組織は、表面及び断面において異なる分布を有することができ、このような表面及び断面における微細組織は、各表面試験片又は断面試験片について、めっき層の倍率を拡大して走査電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)などを用いて確認することができる。
【0043】
このように、Zn-Mg-Al系めっき層はめっき層の組成及び製造条件に応じて様々な相を含むが、本発明者らは、従来の平板部の耐食性に加えて、曲げ加工部における耐食性及び外観品質にも全て優れためっき鋼板を提供すべく、鋭意検討を行った結果、腐食環境下で(あるいは、大気環境下で長時間の間)保持するとき、鋼板の表面で初期腐食生成物としてLDH(Layered Double Hydroxide;(Zn,Mg)6Al2(OH)16(CO3)・4H2O)が均一に形成されることが重要な因子であることを見出した。
【0044】
このように、めっき鋼板の表面において、腐食生成物としてLDHが初期に主に形成されるためには、Zn-Mg-Al系めっき層の表面(すなわち、素地鉄側の表面ではなく外観の表面を意味する)における微細組織的特徴と関連することを確認し、本発明を完成するに至った。
【0045】
具体的に、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Al単相と上記MgZn2相の合計面積率は45~60%であり、上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比は1.2~3.3であることを特徴とする。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記Al単相と上記MgZn2相の合計面積率及び上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比は、面積が24,000μm2以上である表面試験片を基準として測定する。
【0046】
本発明において、前述しためっき層の組成を満たすZn-Mg-Al系めっき層の場合、MgZn2相及びAl単相が隣接した形態の微細組織を含む。上記MgZn2相及びAl単相が隣接した形態とは、MgZn2相の内部にAl単相が完全に含まれるか、又はMgZn2相の内部にAl単相が一部含まれた場合を含み、さらにはMgZn2相に接するようにAl単相が存在する場合を含む。
【0047】
本発明において、上記Zn-Mg-Al系めっき層は、高耐食めっき鋼板に共通して現れる相であるZn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相を含むことができる。通常、めっき層内のAlとMg含量が少なくなるほど、全めっき層において上記Zn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相が生成される量が多くなり、めっき層内のAl及びMg含量が多くなるほど、MgZn2相及びAl単相が生成される量が多くなる傾向がある。
【0048】
すなわち、Mg含量が4%以上である本発明のようなめっき成分系では、めっき層の表面を示す
図1のように、MgZn
2相が粗大になり、Mg含量が増加するほど、ドロスを抑制するためにAl含量も同時に増加しなければならないため、それにより、粗大なAl単相も共存することになる。そこで、本発明者らは、前述した曲げ加工部の耐食性を確保するためには、めっき層の表面においてMgZn
2相と上記MgZn
2相に隣接したAl単相の合計面積率及び面積比が腐食環境下(あるいは、大気環境下で長時間)で保持するとき、初期に腐食生成物としてLDHを形成するのに寄与することを見出した。
【0049】
すなわち、めっき鋼板における平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性までも確保するためには、めっき層表面の組織として、MgZn2相とAl単相が隣接した形態で存在することが重要であり、LDHの急速な核形成-結晶化を促進させることができる。したがって、初期の急速なLDHの核形成及び結晶化の後、時間が経過するにつれて、表面全体にわたって均一に形成されたLDHにより腐食活性領域を効果的に遮蔽し、二次的に、腐食生成物であるシモンコライト(Simonkolleite;Zn5(OH)8Cl2)及びハイドロジンサイト(Hydrozincite;(Zn5(OH)6(CO3)2)の均一な形成を誘導することができる。
【0050】
したがって、本発明の一実施形態によれば、上記MgZn2相とAl単相は、めっき層の表面において互いに隣接する形態を特定量以上確保することが重要である。具体的に、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記MgZn2相及び(上記MgZn2相に隣接する)Al単相の合計面積率は、45~60%を満たし、上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比は1.2~3.3を満たすことにより、MgZn2相とAl単相との間の犠牲防食セルを形成する役割を果たし、優れた耐食性を確保することができる。このとき、上記耐食性は平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性をも含み、このような耐食性はめっき層の内部に比べて、めっき層の表面に存在するMgZn2相及びAl単相の量が高いほど向上する。
【0051】
上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記MgZn2相及びAl単相の合計面積率が45%未満であると、犠牲防食セルの陽極(MgZn2)及び陰極(Al)を形成する各相が不足して曲げ加工部の耐食性が不十分である可能性があり、表面に存在する相に起因する光散乱も不足して、外観品質が低下する恐れがある。一方、上記MgZn2相及びAl単相の合計面積率が60%を超えると、脆い(Brittle)MgZn2相が過剰に形成され、加工時にめっき層に割れが過剰に発生するという問題がある。
【0052】
また、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記Al単相に対する上記MgZn2相の面積比が1.2未満であると、前述した犠牲防食セルを形成するMgZn2の陽極が溶解できる量が少ないため、耐食性に不利であるという問題が生じる可能性があり、3.3を超えると、MgZn2が溶解して伝達される電子を収容し、表面のAlで起こる陰極反応(酸素還元反応)の速度に限界が生じるため、耐食性に不利であるという問題が生じる可能性がある。
【0053】
曲げ加工部の耐食性は2つの機構で形成される。第一に、曲げ加工部に存在するMgZn2相及びAl単相が完全な犠牲防食セルを成し、腐食生成物が曲げ加工時に素地鋼板が露出した部分をカバーして覆うことである。第二は、水分雰囲気で親酸化的なMg及びAl成分が浸出し、曲げ加工部のうち素地鋼板が露出した部分に移動してめっき層を再形成するセルフヒーリング機構であって、水分との反応性が高いMg及びAl成分が表層部に多量に存在するほど、その効果は向上する。
【0054】
上記第一の機構として作用する犠牲防食セルは、MgZn2の電位が水素還元電位上-1.2Vであり、Alの電位が水素還元電位上-0.7Vであって、大きな電位差を確保することにより、それぞれ陽極と陰極として作用し、隣接しているMgZn2相とAl単相の微細組織間のガルバニックセル(Galvanic cell)を形成することを意味する。
【0055】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、めっき層の表面においてMgZn2相と、上記MgZn2相に隣接したAl単相との間の高い電位差を確保し、ガルバニクセルの形成による曲げ加工部における耐食性を確保することができることを確認し、上記MgZn2相に隣接して高い電位差を確保できるようにする相は、Zn固溶率が27原子%未満のAl単相であることを見出した。
【0056】
すなわち、本発明の一実施形態に係る上記Zn-Mg-Al系めっき層は、Alを主体とする相のうち、(1)Zn固溶率が27原子%未満のAl単相と、(2)Zn固溶率が27~60%と高い第2Al単相の2種類が存在することができる。また、これらのうち、MgZn2相の周辺に隣接して存在することにより電位差を高く保持できる相は、上記Zn固溶率の低いAl単相((1)に該当)であることを確認した。
【0057】
言い換えれば、本発明の一実施形態によると、上記Zn-Mg-Al系めっき層において、Zn固溶率が27原子%以上と高い第2Al単相が多く形成される場合、MgZn2相の周辺に存在する第2Al単相が多くなり、これにより、前述したガルバニクセルの陽極-陰極の電位差が減少し、ガルバニクセルの優れた耐食性及び犠牲防食性を阻害する可能性がある。
【0058】
したがって、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記第2Al単相の面積率は2~9%であることができる。上記第2Al単相の面積率が9%を超えると、MgZn2相の周辺に第2Al単相が過度に形成され、ガルバニクセルの電位差を減らして曲げ加工部における耐食性を悪化させる恐れがある。したがって、本発明では、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記第2Al単相の面積率を9%以下に制御し、表面に存在する第2Al単相の量が少ないほど、曲げ加工部の耐食性を向上する効果が改善されるため、その下限は別途限定しなくてもよい。但し、溶融めっき後、冷却過程において、第2Al単相が形成される温度区間で第2Al単相が必ずしも形成されるしかないことを勘案し、その下限を2%とすることができる。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記MgZn2相の面積率は30~40%であってもよい。大気及び塩化物環境に一次的に接するめっき層の部位は表面であり、犠牲防食において陽極として作用するMgZn2相の比率が高いほど、ガルバニクセルでの反応性が向上し得る。したがって、前述したガルバニクセルの形成を促進することにより、曲げ加工部の耐食性を確保するために、上記めっき層の表面におけるMgZn2相の面積率を30%以上とすることができる。したがって、めっき層の表面において、上記MgZn2相の面積率が30%未満であると、曲げ加工部の耐食性が不十分である可能性がある。一方、MgZn2相の比率が40%を超えて過度に高い場合、めっき層が脆いため表面に割れを誘発する可能性がある。
【0060】
あるいは、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、上記Al単相(すなわち、原子%で、Znが27%未満固溶し、残部がAl及びその他の不純物を含む相)の面積率は15~20%であってもよい。めっき層の表面において、Al単相の面積率が15%以上であると、前述のように、ガルバニクセルにおいて陽極として作用するMgZn2と共に陰極として作用し、曲げ加工部の耐食性の向上に寄与することができ、MgZn2相に対する骨格保持機能を行うことで、めっき層が物理的な保護遮断膜としての役割に寄与することができる。一方、上記Al単相の比率が20%を超えると、Alの腐食により安定性が悪化する余地がある。
【0061】
また、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Zn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率は20~30%であってもよい。Zn-Mg-Al系めっき層の表面に存在するZn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相は、腐食初期のLDHよりもシモンコライトやハイドロジンサイトの形成に寄与する。したがって、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるZn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の存在比率を制御することにより、腐食初期に表面に形成される腐食生成物のうち、シモンコライトやハイドロジンサイトの形成比率よりも、LDHの形成比率を高めて曲げ加工部の耐食性をより向上させることができる。よって、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、Zn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率を20~30%とすることができる。このとき、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面においてZn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率が20%未満であると、LDHの形成後に二次的に生成され、耐食性の向上を助けるシモンコライト又はハイトロジンサイトの形成が不足し、耐食性に問題が生じる恐れがある。一方、上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面においてZn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率が30%を超えると、腐食初期にLDHの形成よりも、シモンコライト及びハイドロジンサイトの形成が先に誘導されるため、前述のような安定的な腐食挙動を形成することができず、耐食性に劣る可能性がある。
【0062】
一方、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層を厚さ方向(すなわち、鋼板の圧延方向と垂直な方向)に切った断面を基準に、MgZn2相の面積率は20~40%であり、Al単相の面積率は8~26%であってもよい。
【0063】
めっき鋼板の特性は結晶相の種類及び大きさに関係し、MgZn2相の面積率が20%未満であるか、又はAl単相の面積率が8%未満である場合、めっき層の耐食性が弱くなる可能性がある。一方、めっき層に存在するMgZn2相の比率が40%を超える場合は、過度に脆く(Brittle)なり、加工時にめっき層に割れが過剰に発生するという副作用が生じる可能性がある。上記Zn-Mg-Al系めっき層の断面を基準に、MgZn2相及びAl単相の面積率は、めっき鋼板の厚さ方向への断面試験片をFE-SEMで撮影した写真を観察することで、測定することができる。
【0064】
本発明で前述したZn-Mg-Al系めっき層の断面を基準としたMgZn2相及びAl単相の面積率を満たして、鋼板の断面部(Cut-edge)の耐食性を確保できたとしても、めっき層の表面から確保されるMgZn2相及びAl単相の面積率は異なることがある。したがって、このようなめっき層の表面における各相の面積率分布に応じて、曲げ加工時に加工部の耐食性の程度に影響を及ぼす可能性がある。
【0065】
そこで、本発明者らは、めっき層の厚さ方向への断面を基準に、前述したMgZn2相及びAl単相の面積率を確保しても、めっき層の表面においてMgZn2相及びAl単相を特定量以上確保することが、腐食初期のめっき層の表面においてLDHの均一な形成を促進し、加工部の耐食性の確保に重要な手段であることを見出した。すなわち、本発明の一実施形態によれば、めっき層の表面におけるMgZn2相及びAl単相に対する合計面積率に対して、めっき層の中心部におけるMgZn2相及びAl単相に対する合計面積率の比率を適正レベルに保持することが重要であることをさらに見出した。
【0066】
具体的に、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうち任意の地点の表面におけるMgZn2相とAl単相の合計面積率(C1)に対する上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるMgZn2相とAl単相の合計面積率(S1)の比(S1/C1)は、0.8~1.2の範囲であってもよい。上記S1/C1が0.8未満であると、めっき層の表層部に腐食初期のLDHを形成する微細組織の不足により、平板部及び加工部の耐食性に問題が生じる可能性があり、S1/C1が1.2を超えると、めっき層の表層部にMgZn2相に起因する脆い組織の過度な粗大化により、加工性及び加工部の耐食性に問題が生じる可能性がある。
【0067】
本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうち任意の地点の表面において、上記第2Al単相の面積率は2~10%であってもよい。上記値が10%を超えると、表層部の組織に影響を与え、曲げ部の耐食性に悪影響を及ぼすことがある。また、第2Al単相が生じる温度区間を通る点を勘案し、その下限は2%に制御することができる。
【0068】
上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域は、めっき試験片において、めっき層の厚さが最大である地点を全厚tとし、上記tを基準に1/4tから3/4tとなる領域のうち任意の地点を含むように、上記試験片の表面に対して研磨した領域を意味することができる。
【0069】
さらに、本発明者らはさらなる研究を行い、めっき層の表面においてLDHの均一な形成の後に、内部に浸透してシモンコライト及びハイドロジンサイトの形成を促進させるZn相とZn-MgZn2-Al系三元共晶相の表面に対する中心部における比率も、耐食性をさらに改善するために重要な要素であることを見出した。
【0070】
すなわち、本発明の一実施形態によれば、上記Zn-Mg-Al系めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうちいずれか一つに該当する地点の表面におけるZn相とZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率(C2)に対する上記Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるZn相とZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率(S2)の比(S2/C2)は0.6~1.2の範囲であることができる。上記S2/C2が0.6未満であると、めっき層の表層部にLDHの形成後に、二次的に生成されて耐食性の向上を助けるシモンコライト又はハイドロジンサイトの形成が不足し、耐食性に問題が生じる可能性がある。また、上記S2/C2が1.2を超えると、相対的に表面に確保されるMgZn2相及びAl単相が不足し、表面のLDH形成の不足を誘発し、本発明で前述した耐食性に問題が生じる可能性がある。
【0071】
一方、本発明に係るMg及びAlの組成を満たすZn-Mg-Al系めっき層の表面に由来し得る前述のMgZn
2相、Al単相、第2Al単相、Zn単相及びZn-MgZn
2-Al系三元相に対する各相の定義及び固溶した原子%を
図1~5に示した。
【0072】
具体的に、めっき鋼板のめっき層の表面をSEM装置を用いて観察できるように試験片を作製した後、Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、SEM又はEDS装置を用いて撮影されたイメージを各微細組織別に色及び明暗の差によって区別して、各領域を計算することができる。
【0073】
すなわち、
図1~4のようなめっき鋼板に対する平面をBEI(backscattered electron image)観察モード、1280×960pixel/254DPIの解像度、8ビットの属性で700倍率に拡大し、電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)で観察した写真から、Znが27at%未満固溶したAl単相、及びZnが27at%以上60%以下固溶した第2Al単相について、SEMイメージを組織ラベリングして区分した。
【0074】
参考までに、当技術分野において一般的に知られているEDS(Energy Dispersive Spectrometer)を用いて、SEMイメージの明暗別に、他の各相に固溶した元素の分率を求めることができる。このとき、一例として、
図5のように微細組織別に色、明暗及び形状により明確に区別されるMgZn
2相、Zn単相及びZn-MgZn
2-Al系三元相を除いたAlベースの相は、(1)の領域は平均的に原子%でAlが73%、Znが26%、残部1%未満と観察されるAl領域を示し、(2)は平均的に原子%でAlが51%、Znが49%、残部1%未満と観察される第2Alの単相を示し、(3)は平均的に原子%でAlが43%、Znが57%、残部1%未満と観察されるAl-Zn系二元共晶相の領域に区別される(このとき、残部はMg又はその他の不可避不純物であってもよい)。本発明でいうAl単相は、Znが原子%で27%未満固溶した(1)の領域を意味し、第2Al単相は、Znが原子%で27%以上60%以下固溶した(2)の領域を意味し、Al-Zn系二元共晶相は(3)の領域を意味し、各相内にFe及びその他の成分が不純物として含まれることができる。
【0075】
このとき、組織ラベリングは、前述したSEM測定条件で導出されたイメージを浦項産業科学研究院(RIST)のRISA(微細組織相分率分析ソフト)のスーパーピクセル(Super-pixel)アルゴリズムに基づく、イメージ自動生成ソフトを利用する。スーパーペクセルアルゴリズムは、イメージ全体を数千個~数万個の領域(スーパーピクセル)に分割し、パターンや特徴の類似したスーパーピクセルを比較して類似度を測定し、ピクセルの明るさ値に対するヒストグラムを計算した後、類似度が予め定義した臨界値以上である場合、スーパーピクセルを自動的に選択する機構である。予め定義した臨界値を指定する一例として、前述したSEM測定条件で導出されたイメージの上記Al単相及び第2Al単相の境界は、EDSを活用してAl組織内に固溶しているZn固溶率27原子%を基準として、各相に対する定義を予め行うことにより、ソフト上の明るさ値に対するヒストグラム化及び組織の区別が可能となる。前述したRISA(微細組織相分率分析ソフト)に対する技術的思想は、韓国公開公報第2019-0078331号によって確認することができる。
【0076】
本発明の一実施形態によれば、上記めっき層は、大気環境及び塩化物環境下で、表面にLDHがシモンコライト及びハイドロジンサイトよりも先に形成されることができる。上記のめっき層は、表層部に多量に存在するMgZn2相及び隣接したAl単相によって腐食環境の初期表面に緻密な腐食生成物であるLDHの急速な核形成-結晶化が進行する。その後、時間の経過に伴い、表面全体にわたって均一に分布して腐食活性領域を遮蔽し、二次的に形成される腐食生成物であるシモンコライト及びハイドロジンサイトの均一な形成を誘導することができる。
【0077】
本発明の一実施形態によれば、上記めっき層の表層部に形成されるLDH腐食生成物は、大気環境で6時間、塩化物環境(すなわち、ISO14993で測定時)で5分以内に形成されることができる。
【0078】
本発明の一実施形態によれば、前述の優れた耐食性は、塩水噴霧及び浸漬環境を含む塩化物環境(すなわち、ISO14993で測定時)で赤錆発生にかかる時間が同一厚さの純粋なZnめっきに比べて、平板部で40~50倍;及び90°曲げ加工部では20~30倍であることができる。このとき、実施された赤錆発生時間に対する評価は、塩水噴霧試験装置(SST)を用いてISO14993に準じた試験方法で比較評価することができる。
【0079】
次に、本発明のさらに他の一実施形態に係る[めっき鋼板の製造方法]について詳細に説明する。但し、本発明のめっき鋼板が、必ずしも以下の製造方法により製造されるべきであることを意味するものではない。
【0080】
本発明の一実施形態によれば、まず、素地鋼板を準備する段階をさらに含むことができ、素地鋼板の種類は特に限定されない。通常の溶融亜鉛めっき鋼板の素地鋼板として使用されるFe系素地鋼板、すなわち、熱延鋼板又は冷延鋼板であってもよいが、これに限定されるものではない。また、上記素地鋼板は、例えば、建築用、家電用、自動車用素材として用いられる炭素鋼、極低炭素鋼、又は高マンガン鋼であってもよいが、これらに制限されるものではない。このとき、上記素地鋼板については、前述した説明を同様に適用することができる。
【0081】
次いで、本発明の一実施形態によれば、素地鋼板を重量%で、Mg:4~6%、Al:8.2~14.2%、残部Zn及びその他の不可避不純物を含むめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっきする段階を含むことができる。このとき、前述しためっき浴における成分の添加理由及び含量の限定理由については、素地鋼板から流入する余地のある少量のFeの含量を除き、前述しためっき層の成分についての説明を同様に適用することができる。
【0082】
前述した組成のめっき浴を製造するためには、所定のZn、Al及びMgを含有する複合インゴット又は個別成分が含有されたZn-Mg、Zn-Alインゴットを使用することができる。溶融めっきで消耗されるめっき浴を補充するためには、上記インゴットをさらに溶解して供給することになる。この場合、インゴットを直接めっき浴に沈積して溶解する方法を採用してもよく、インゴットを別途のポットに溶解させた後、溶融した金属をめっき浴に補充する方法を採用してもよい。
【0083】
また、めっき浴の温度は、平衡状態図上の凝固開始温度(Ts)に対して20~80℃高い温度に保持されることができる。このとき、特に限定するものではないが、上記平衡状態図上の凝固開始温度は390~460℃の範囲であってもよく、あるいは上記めっき浴の温度は440~520℃の範囲に保持されてもよい。上記めっき浴の温度が高いほど、めっき浴内の流動性の確保及び均一な組成の形成が可能であり、浮遊ドロスの発生量を減少させることができる。めっき浴の温度が平衡状態図上の凝固開始温度に対して20℃未満であると、インゴットの溶解が非常に遅く、めっき浴の粘性が大きく、優れためっき層の表面品質を確保しにくい可能性がある。一方、めっき浴の温度が平衡状態図上の凝固開始温度に対して80℃を超えると、Znの蒸発によるアッシュ(ash)性欠陥がめっき表面に誘発されるという問題が生じる可能性がある。
【0084】
また、本発明の一実施形態によれば、上記溶融亜鉛めっきされた鋼板を平衡状態図上の凝固開始温度から凝固終了温度まで2~12℃/sの平均冷却速度で不活性ガスを用いて冷却する段階を含むことができる。前述の平均冷却速度が2℃/s未満であると、MgZn2組織が表面に過度に粗大に発達し、めっき層の表面部が脆く(brittle)なってクラック発生が激しくなり、均一な耐食性及び加工性の確保に不利になる可能性がある。一方、前述の平均冷却速度が12℃/sを超えると、溶融めっき過程中に、液相から固相に凝固し始め、液相が全て固相に変化する間の温度区間で急激な凝固が起こるようになる。したがって、めっき層の表面にMgZn2相及びAl単相の過剰な粗大化及び微粒化が発生することがあり、これにより、めっき層の表面に局部的に均一でない相が形成され、耐食性が低下する結果を招く可能性がある。
【0085】
また、本発明の一実施形態によれば、上記冷却する段階は、下記関係式1-1及び1-2を満たすように冷却速度を制御することができる。
【0086】
[関係式1-1]
A<{(5-2lnt)/(7-3lnt)}*B
【0087】
[関係式1-2]
15t(-0.8)≦B≦20t(-0.8)
(上記関係式1-1及び1-2において、上記tは鋼板の厚さ(mm)であり、上記Aは凝固開始温度から375℃までの平均冷却速度(℃/s)であり、上記Bは375℃から340℃までの平均冷却速度(℃/s)を示す。)
【0088】
すなわち、本発明は、溶融亜鉛めっき後の冷却時に、凝固開始温度から375℃までの第1温度区間と、375℃から340℃までの第2温度区間とを分けて、鋼板の厚さに応じた各区間における平均冷却速度を上記関係式1-1及び1-2を満たすように制御することを特徴とする。上記凝固開始温度から375℃までの第1温度区間は、本発明に係るMg及びAlの含量範囲で形成されるめっき層内で、MgZn2相と隣接したAl単相が冷却されて二元共晶化しながら、Znが原子%で、27%未満固溶し、残部がAl及びその他の不純物で構成されるAl単相に対する凝固開始温度から凝固終了温度までの区間に対応する。このとき、上記「Al単相」は、後述する「第2のAl単相」と区別して示す点に留意する必要がある。また、上記375℃から340℃までの第2温度区間は、本発明に係るMg及びAlの含量範囲で形成されるめっき層内で、原子%で、Znが27%以上60%以下(すなわち、27~60%)固溶する第2のAl単相の形成温度区間を示す。したがって、前述の関係式1-1及び1-2の冷却条件を満たさない場合であって、初期の冷却速度が速すぎると、凝固開始温度から375℃までの温度区間に形成されるめっき層表面のMgZn2-Al系二元共晶相の面積率が低すぎるため、MgZn2相と隣接したAl単相の形成の程度が不十分である可能性がある。これにより、めっき層表面の初期腐食性生成物としてLDHが形成されず、シモンコライトが形成されることがあり、耐食性がより悪化する恐れがある。
【0089】
一方、本発明の一実施形態によれば、上記溶融亜鉛めっき前、表面粗さ(Ra)が0.2~0.4μmであるブライトロール(BrightRoll)を用いて、200~300tonのロール圧下を鋼板の表面に加える事前調質圧延(SPM)処理を行う段階をさらに含むことができる。
【0090】
このように、溶融亜鉛めっきを行う前に、素地鋼板に表面処理を施すことで、素地鋼板の表面形状を均一に制御し、後続のめっき工程により形成される溶融めっき層の厚さが均一になるように制御するとともに、素地鋼板を平滑にして凝固核の生成サイトを最小化させることができる。すなわち、冷却時に、厚さ方向に内部の核生成よりもめっき層表層部の核生成が円滑に行われるように寄与することにより、第1温度区間で生成される表層部での組織形成を促進し、第2温度区間で生成される第2Al単相の比率を下げるのに寄与することができる。一方、上記事前調質圧延の処理時に、ロールの表面粗さが0.2μm未満であると、ロールの作製及び管理の問題が発生する可能性があり、0.4μmを超えると、めっき層表層部の核生成よりも内部の核生成が円滑になるという問題が生じる可能性がある。また、ロール圧下が200ton未満であると、素地鋼板の形状制御の効果が低く、前述した表層部における凝固核生成促進効果を期待し難い可能性があり、300tonを超えると、C反曲等を誘導する恐れがあり、めっき層の厚さ方向への均一な相形成に対する寄与効果を期待し難い可能性がある。一方、前述した効果をより改善するために、より好ましくは、上記溶融亜鉛めっき前に、事前調質圧延処理のロール圧下は250~300tonに設定することができる。
【0091】
上記事前調質圧延の処理後、上記素地鋼板を露点温度-60℃以上-15℃以下の加熱炉において、加熱炉の最終区間における素地鋼板の温度はめっきの濡れ性を確保するために、めっき浴温度(Tb)に対して20℃~80℃高い温度に加熱する段階を含むことができる。上記加熱炉の露点温度は素地鋼板表面の酸化を防止するためのものであって、めっき密着性を確保するために上記加熱炉の温度を-60℃以上-15℃の温度とすることができる。
【0092】
また、本発明の一実施形態によれば、上記冷却時に、溶融亜鉛めっきされた鋼板の幅方向に、センター(Center)部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ(Edge)部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)が60~99%を満たすように冷却を行うことができる。このとき、上記鋼板の「幅方向」とは、溶融亜鉛めっきされた鋼板の厚さ側表面(すなわち、鋼板の厚みが見える表面)を除いた表面を基準に、鋼板の搬送方向に垂直な方向を意味する。また、上記ダンパー開度率とは、冷却装置から素地鋼板に搬送しようとする冷却ガスの流量を制御する調整板の開度の程度を示す数値である。これは、後述する鋼板の幅に応じた均一な冷却能を確保するために、冷却装置に入力、あるいは制御した総冷却ガスを素地鋼板の幅方向に応じてセンター部及びエッジ部に分けて走査することができるようにダンパーを設置する。上記ダンパー間の境界は、素地鋼板の幅に応じて3区間に分けて、中央をセンター部、外郭側に存在する2つをエッジ部として占めるように可変的に位置を制御することができる。
【0093】
従来の溶融亜鉛めっきされた鋼板の冷却時には、上記比率(De/Dc)を調節する方法又は装置を使用せず、エッジ部とセンター部の冷却ガスの流量を一定にするため、めっき層の表面で均一な微細組織的特性を確保し難いという問題があった。これに対し、本発明は、通常の冷却条件とは逆に、上記比率(De/Dc)を60~99%の範囲にエッジ部のダンパー開度率をセンター部に比べて低く制御することで、鋼板の幅方向において均一な冷却能を実現することができる。すなわち、本発明者らは、エッジ部がセンター部に比べて、鋼板の幅方向において外部雰囲気に露出する面積がより多く、必然的にエッジ部に対応する領域における鋼板の温度が低下する速度がセンター部より速いということを認識し、エッジ部での冷却速度を人為的に減少させてめっき層表面の均一な特性を確保できることを見出した。すなわち、前述した冷却過程でセンター部に入射された冷却ガスは、自然的にセンター部からエッジ部を経て外郭に抜け出すことになる。ところが、上記エッジ部では、エッジ部に入射された冷却ガスとともに、センター部への入射後の冷却ガスを重複して収容するため、センター部に比べて過冷却されて悪影響を与える可能性がある。したがって、上記エッジ部の冷却速度は、人為的な冷却ガスを加えなくても、より速いため、幅方向の均一な冷却性能を実現するとともに、初期腐食生成物としてLDHを形成させて耐食性を増大させるためには、エッジ部のダンパー開度率をセンター部に比べて低い方向に制御する必要がある。
【0094】
このとき、上記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)が60%未満になると、エッジ部がむしろセンター部よりも徐冷され、99%を超えると、センター部に比べてエッジ部が過冷却され、鋼板の幅方向への均一な冷却能の実現が不利になる可能性がある。これにより、上記エッジ部及びセンター部におけるめっき層表面の組織が不均一となり、めっき層の表面でAl単相とMgZn2相の組織的特徴を確保できなくなることにより、平板部の耐食性及び曲げ加工部の耐食性が悪化する恐れがある。
【0095】
あるいは、本発明のさらに他の一実施形態によれば、上記冷却する段階は、温度区間に応じて、上記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)に変化を与えて冷却を行うことができる。
【0096】
具体的に、上記冷却時に、上記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)が凝固開始温度から375℃まで(上記「第1温度区間」に対応)60~70%を満たし、375℃から340℃まで(上記「第2温度区間」に対応)90~99%を満たすように行われることができる。
【0097】
上記条件を満たすように、温度区間に応じて上記比率(De/Dc)に変化を与えて冷却することにより、前述したMgZn2-Al系二元共晶相が形成される凝固開始温度から375℃までは鋼板の幅方向に均一に徐冷を行うことにより、全幅で均一に耐食性を向上させることができる。なお、前述した第2Al単相が形成される375℃から凝固終了温度までは、Zn固溶率の高い第2Al単相を極力少なく形成するように制御することにより、MgZn2-Al系二元共晶相からなる微細組織間のガルバニクセルに影響を与えないように制御することができ、これにより平板部の耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性までもより向上させることができる。
【0098】
また、本発明の一実施形態によれば、上記冷却する段階の後、最終製品における表面品質の向上のために、調質圧延(SPM)処理を行い、素地鋼板の表面及び形状を改善する段階をさらに含むことができる。これにより、鋼板の幅方向において均一なめっき層表面の光散乱効果を確保し、外観品質を改善することができる。
【0099】
具体的に、一実施形態として、上記調質圧延処理は、表面粗さ(Ra)が0.2~1.0μmのブライトロール(Bright roll)を用いて、50~300tonのロール圧下を鋼板表面に加えるように行うことができる。
【0100】
このとき、上記ブライトロールの表面粗さRaが0.2μm未満であると、ロールの粗さが低すぎて素地鋼板とSPMロールとの間の摩擦力が減少し、素地鋼板がスリップ(Slip)するという問題が生じる可能性があり、1.0μmを超えると、めっき層表面の微細組織が完全に保存されず、過度なクラックが生じるという問題が発生する可能性がある。但し、めっき層の組織的特性に起因する光散乱効果をより改善する観点から、上記ブライトロールの表面粗さRaは、0.4~0.8μmの範囲であることがより好ましい。
【0101】
また、上記ロール圧下が50ton未満であると、素地鋼板の形状を幅方向に均一化することに問題が生じる可能性があり、300tonを超えると、過度な圧下力によりめっき層表面の微細組織が完全に保存されず、上述したブライトロールの表面粗さの範囲においてもクラックが過剰に発生するという問題が生じる可能性がある。但し、均一な光散乱効果をより向上させる観点から、上記ロール圧下は150~300tonの高圧下を適用することがより好ましい。
【0102】
したがって、前述した溶融亜鉛めっき及び冷却後、冷却された鋼板に調質圧延(SPM)処理を施し、調質圧延の条件を最適化することにより、光散乱効果を有するめっき鋼板を提供することができる。これにより、平板部の耐食性及び加工部の耐食性の両方に優れるだけでなく、表面品質に優れためっき鋼板までも効果的に提供することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。但し、下記の実施例は例示を通じて本発明を説明するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【0104】
(実験例1)
C:0.018%、Si:0.01%、Mn:0.2%、P:0.009%、S:0.005%、Al:0.1%、Nb:0.02%、Cr:0.2%、Ti:0.02%、B:0.015%及び残部Feとその他の不可避不純物の組成を有する素地鋼板に表面粗さ(Ra)が0.2μmであるブライトロールを用いて、100tonの条件で事前SPM処理を行った。次いで、上記素地鋼板を露点温度-15℃の加熱炉でめっき浴温度(Tb)に比べて20℃高い温度に加熱した後、下記表1の組成を有するめっき浴に浸漬して溶融めっきされた鋼板を得た。上記溶融めっきされた鋼板を、凝固開始温度から凝固終了温度まで、表1に記載の平均冷却速度(Vc)を満たすように冷却区間の一部においてN、Ar及びHeのうち1以上の不活性ガスを用いて冷却した。
【0105】
このとき、上記冷却の際には、温度区間別に平均冷却速度を下記表1のように制御するとともに、溶融めっきされた鋼板の表面を基準に、鋼板の幅方向にエッジ部及びセンター部の平均ダンパー開度率を下記表2と同様に制御した。また、上記冷却後には、表面粗さ2μmのダルロール(dull roll)を用いて50~150tonのロール圧下で調質圧延(SPM)処理を行い、鋼板表面の特性及び形状を改善する処理を行った。
【0106】
【0107】
Ts*:平衡状態図上の凝固開始温度[℃]
Tb*:めっき浴温度[℃]
t*:鋼板の厚さ[mm]
A*:凝固開始温度から375℃までの平均冷却速度[℃/s]
B*:375℃から340℃までの平均冷却速度[℃/s]
Vc*:凝固開始温度から凝固終了温度までの平均冷却速度[℃/s]
【0108】
【0109】
De*:エッジ部の平均ダンパー開度率[%]
Dc*:センター部の平均ダンパー開度率[%]
【0110】
前述しためっき鋼板の試験片を作製し、めっき層を塩酸溶液に溶解した後、溶解した液体を湿式分析(ICP)方法で分析してめっき層の組成を測定し、下記表3に示した。また、上記めっき層と素地鉄の界面が観察されるように、鋼板の圧延方向に垂直な方向に切った断面試験片を作製した後、SEMで撮影し、素地鋼板;Zn-Mg-Al系めっき層;上記素地鋼板とZn-Mg-Al系めっき層との間にFe-Al系抑制層;が形成されることを確認した。
【0111】
また、溶融めっきされた鋼板の試験片の24,000μm2面積の表面を、SEM装置を用いて観察できるように試験片を作製した。次いで、Zn-Mg-Al系めっき層の表面において、SEM装置を用いて撮影されたイメージを用いてMgZn2-Al系二元共晶相におけるMgZn2相及びZnが27at%未満固溶したAl単相の面積率をそれぞれ求めた後、その合計面積率及び面積比を計算して下記表3に示した。
【0112】
このとき、上記MgZn2-Al系二元共晶相内に存在するAl相中に、Znが27at%未満固溶したAl単相と、Znが27at%以上60%以下固溶した第2Al単相についてSEMイメージを組織ラベリングして区分した。具体的に、上記組織ラベリングは、観察モード(BEI)、解像度(1280×960pixel/254DPI)、倍率(700倍)、ビット(8)の属性で撮影されたSEMイメージについて、浦項産業科学研究院(RIST)のRISA(微細組織相分率分析ソフト)のスーパーピクセル(Super-pixel)アルゴリズムに基づく、イメージ自動生成ソフトを用いて微細組織別に色及び明暗の差により区別し、面積%を定量化した。
【0113】
【0114】
各実施例及び比較例について、下記の基準で特性を評価し、特性の評価結果を下記表4に示した。
【0115】
<評判の耐食性>
平板の耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(Salt Spray Tester、SST)を用いてISO14993に準じた試験方法で、下記基準に従って評価した。
【0116】
◎:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して40倍を超過
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して30倍以上40倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して20倍以上30倍未満
X:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して20倍未満
【0117】
<曲げ加工部の耐食性>
曲げ加工部の耐食性を評価するために、塩水噴霧試験装置(SST)を用いてISO14993に準じた試験方法で評価した。上記耐食性評価の試験片は、同一素材の厚さ及び同一のめっき量で90°曲げ加工を行った。
【0118】
◎:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して30倍以上
○:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して20倍以上30倍未満
△:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して10倍以上20倍未満
X:赤錆発生にかかる時間が同一厚さのZnめっきに対して10倍未満
【0119】
<散乱反射度>
溶融めっきされた鋼板の幅方向に1/4地点、中央、3/4地点、edgeに位置を区分して採取された試験片の総反射に対する散乱反射される光の量を評価するために、積分球に可視光線波長帯(400~800nm)の光を入射して反射される光の種類に応じて、ISO9001に準じた試験方法で評価した。
【0120】
◎:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率80%超過、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%未満
○:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率70%以上80%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
△:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率60%以上70%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
X:幅方向の平均総反射度に対する散乱反射度の比率60%未満、及び幅方向の散乱反射度の偏差10%以上
【0121】
また、各実施例及び比較例から得られる鋼板について、EDS又はXRD装置を用いて表面に最初に形成される腐食生成物の種類を評価し、これを下記表4に示した。
【0122】
【0123】
上記表1に示すように、本発明のめっき組成及び製造条件を全て満たす実施例1~6の場合、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面に最初にLDHが形成されることを確認した。これにより、平板だけでなく、曲げ加工部においても耐食性がより向上するだけでなく、鋼板表面の散乱反射度がやや高く表面品質に優れることを確認した。
【0124】
一方、本発明のめっき組成は満たすものの、前述した関係式1-1及び1-2のうち一つ以上の冷却条件を満たさない比較例1~6の場合、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面に最初にシモンコライトが形成されることを確認した。これにより、めっき鋼板の平板耐食性だけでなく、曲げ加工部の耐食性までもやや劣っていた。さらに、散乱反射度もやや低く、表面品質が劣ることを確認した。
【0125】
また、本発明のめっき組成を満たさない比較例7~10の場合、平板部の耐食性、曲げ加工部の耐食性及び表面品質が劣ることを確認した。具体的に、Mg含量が不足している比較例7の場合、めっき層の表面にMgZn2相が十分に形成されなかった。これにより、本発明のAl単相とMgZn2相の合計面積率及びAl単相に対するMgZn2相の面積比を満たさなかった。したがって、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面に最初にシモンコライトが形成され、平板部の耐食性及び曲げ加工部の耐食性に劣るだけでなく、散乱反射度にも劣っていた。
【0126】
また、Mg含量が過剰な比較例8の場合、Mg含量を多く添加することで平板部の耐食性は確保できたものの、過剰なMg含量によりめっき層の表面にMgZn2相が過度に粗大に形成され、これにより曲げ加工時にクラックが過度に発生した。さらに、曲げ加工部の表面をLDHが全てカバーすることができず、曲げ加工部の耐食性に劣っていた。
【0127】
また、Al含量が不足している比較例9の場合、Al添加量の不足によりAl単相が少なく形成され、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面に初期腐食生成物としてLDHが形成されなかった。これにより、平板部の耐食性及び曲げ加工部の耐食性に劣るだけでなく、散乱反射度も劣っていた。
【0128】
また、Al含量が過剰な比較例10の場合、Al単相及びMgZn2相が共に過剰に形成され、Al単相とMgZn2相の合計面積率が本発明の範囲を超えた。したがって、比較例10では、Mgの適量添加により平板部の耐食性を確保しても、過度に形成されたMgZn2相が過度に脆い(Brittle)ため、加工時にめっき層に割れが過剰に発生する副作用によって、曲げ加工部の耐食性に劣っていた。
【0129】
また、本発明の関係式1-2の冷却条件を満たさない比較例11の場合、本発明のめっき組成及び他の製造条件を全て満たしても、Al単相及びMgZn2相が共に過剰に形成され、Al単相とMgZn2相の合計面積率が本発明の範囲を超えた。したがって、MgとAlの適量添加により平板部の耐食性を確保しても、過度に形成されたMgZn2相が過度に脆い(Brittle)ため、加工時にめっき層に割れが過剰に発生する副作用によって、曲げ加工部の耐食性に劣っていた。
【0130】
(実験例2)
鋼板の表面温度を基準として分けた温度区間に応じてダンパーの開度率の比率を下記のように変更した以外は、前述した実験例1と同様の方法でめっき鋼板を製造した。このとき、実験例1と同様の分析方法を用いて、素地鋼板、Fe-Al系抑制層及びZn-Al-Mg系めっき層が順次形成されることを確認した。
【0131】
【0132】
第1温度区間*:凝固開始温度から375℃までの区間
第2温度区間*:375℃から340℃までの区間
【0133】
前述した各実施例及び比較例から得られためっき鋼板について、前述した実験例1と同様の方法で、めっき層と素地鉄の界面が観察されるように、厚さ方向(鋼板の圧延方向に垂直な方向)に切った断面試験片を製造した後、1000倍率に拡大し、SEMで撮影した。上記断面試験片について、前述の実験例1と同様の方法を用いてMgZn2相の面積率及びAl相の面積率を測定し、下記表6に示した。
【0134】
さらに、前述した実験例1と同様の方法で5,400μm2サイズの表面試験片を採取し、且つ、MgZn2-Al系二元共晶相におけるMgZn2相及びZnが27at%未満固溶したAl相の面積率をそれぞれ測定し、下記表6に示した。また、前述した表面試験片について、Zn相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の面積率を測定した。
【0135】
【0136】
また、各実施例及び比較例から得られた鋼板について、塩水噴霧試験装置(SST)を用いてISO14993に準じた試験方法で比較評価を行った。上記評価の際、めっき鋼板のめっき層表面にLDH腐食生成物が形成される時間をEDS又はXRD装置を用いて経時的に測定し、これを下記表7に示した。また、下記表7に記載の特性評価は、前述した実験例1と同様の基準で評価した。
【0137】
【0138】
本発明のめっき組成と、「上記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)は、凝固開始温度から375℃まで60~70%であり、375℃から340℃まで90~99%」の条件を満たさない比較例12の場合、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面に最初にシモンコライト(Simonkolleite)が先に形成され、LDHは12時間が経過してから表面に形成された。これにより、比較例12の平板耐食性、曲げ加工部の耐食性及び散乱反射度が全て劣っていることを確認した。
【0139】
一方、本発明のめっき組成及び製造条件を満たす実施例7~11の場合、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面にLDH(Layered Double Hydroxide)が10分以内に形成され、比較例12に比べて、平板耐食性、曲げ加工部の耐食性及び散乱反射度のうち一つ以上の特性に、より優れていることを確認した。
【0140】
特に、本発明の「上記センター部のダンパー開度率(Dc)に対するエッジ部のダンパー開度率(De)の比率(De/Dc)は、凝固開始温度から375℃まで60~70%であり、375℃から凝固終了温度まで90~99%」の条件も満たす実施例8~11の場合、耐食性の評価実験の際、めっき鋼板の表面にLDH(Layered Double Hydroxide)がより速い5分以内に先に形成されることを確認した。これにより、本願の実施例8~11は、実施例7及び10に比べて、平板耐食性及び曲げ加工部の耐食性がより向上することを確認した。これは、表層部に多量に存在するMgZn2相及び上記MgZn2相に隣接したZn固溶率が27%未満であり、低いAl単相に起因するものと推定される。すなわち、腐食環境初期の表面に緻密な腐食生成物であるLDHの急速な核形成-結晶化により、時間が経過するにつれて表面全体にわたって均一に分布して腐食活性領域を遮蔽し、二次的に形成されるシモンコライト及びハイドロジンサイトの均一な形成を誘導するためである。
【0141】
(実験例3)
溶融亜鉛めっき及び冷却された鋼板に、下記表8及び9に記載の条件で、事前調質圧延処理、冷却及び冷却後の調質圧延(SPM)処理を行った以外は、前述した実験例1、2と同様の条件でめっき鋼板を製造した。
【0142】
【0143】
【0144】
第1温度区間*:凝固開始温度から375℃までの区間
第2温度区間*:375℃から340℃までの区間
【0145】
各実施例及び比較例から得られるめっき鋼板について、前述した実験例1と同様の方法で試験片を製造した後、めっき層の表面で、MgZn2相及びZnが27at%未満固溶したAl単相の面積率を測定し、Zn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の面積率をそれぞれ測定し、下記表10及び11に示した。
【0146】
また、各実施例及び比較例から得られるめっき鋼板について、同じ基準で表面研磨を行い、めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうち任意の地点における24,000μm2面積の表面を観察可能な試験片を製造した。上記表面研磨は、深さ方向に沿って表面を観察するように表面を上部としてコールドマウント(Cold mounting)された試験片を表面研磨した。表面研磨は、自動研磨機及びシリカサスペンションを用いて荷重30N、105RPM、順方向の回転を条件として約2μm/minの速度で実施した。
【0147】
このようにして得られためっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域のうち実施例及び比較例に対する任意の同一地点での表面において、Al単相とMgZn2相の合計面積率、Zn単相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率を測定し、下記表10に示した。
【0148】
【0149】
【0150】
S1*:Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるAl単相とMgZn2相の合計面積率[%]
S2*:Zn-Mg-Al系めっき層の表面におけるZn相及びZn-MgZn2-Al系三元共晶相の合計面積率[%]
C1*:めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域中の表面におけるMgZn2相とAl相の合計面積率[%]
C2*:めっき層の厚さ方向に1/4tから3/4tまでの領域中の表面におけるZn相及びZn-MgZn2-Al系三元相の合計面積率[%]
【0151】
なお、各実施例及び比較例から得られた鋼板について、下記表12に記載の特性評価を前述の実験例1と同様の基準で評価した。
【0152】
【0153】
上記表12に示すように、本発明のめっき組成のうち、Mg含量が不足しており、第1温度区間でのDe/Dcの条件を満たしておらず、ダルロールを使用した比較例13の場合、めっき層の表面にAl単相とMgZn2相が過剰に形成され、曲げ部の耐食性に劣るだけでなく、表面部の光散乱度にも劣っていた。
【0154】
また、本発明のめっき組成のうち、Al含量が不足しており、第1温度区間でのDe/Dcの条件を満たさない比較例14の場合、初期LDHの未形性により、平板耐食性及び曲げ加工部の耐食性に劣るだけでなく、散乱反射度も低く、外観品質が劣っていた。
【0155】
また、本発明のめっき組成及び他の製造条件は満たすものの、関係式1-2の冷却条件を満たさない比較例15の場合、平板耐食性は確保可能であったが、過度に形成されたMgZn2相により過度に脆い(Brittle)ため、加工時にめっき層に割れが過剰に発生するという副作用によって、曲げ加工部の耐食性に劣っていた。
【0156】
一方、本発明のめっき組成及び製造条件を満たす実施例12~16の場合、耐食性評価実験の際、めっき鋼板の表面に5分以内にLDHが形成されることを確認した。これにより、平板部だけでなく、曲げ加工部においても耐食性がより向上するだけでなく、鋼板表面の散乱反射度がやや高く、表面品質に優れることを確認した。
【0157】
特に、表面粗さ(Ra)が0.2~1.0μmであるブライトロールを用いて、50~300tonのロール圧下を鋼板表面に加えるSPM処理条件を満たす実施例13~16の場合、S1/C1及びS2/C2の条件を満たすことができ、これにより平板部の耐食性、曲げ加工部の耐食性だけでなく、散乱反射度にも最も優れていることを確認した。
【国際調査報告】