(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】質量分析計を較正する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240621BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20240621BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20240621BHJP
H01J 49/24 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G01N27/62 D
H01J49/00 090
H01J49/06 200
H01J49/06 300
H01J49/24
G01N27/62 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577135
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 EP2022066511
(87)【国際公開番号】W WO2022268650
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508306565
【氏名又は名称】サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】クーゼイン エリク
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA05
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA09
(57)【要約】
質量分析計を較正する方法が提供される。本方法は、イオン源から較正イオンを生成することを含む。較正イオンは、イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析計の質量分析器に輸送される。イオン光学デバイスの中への及び/又はイオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御するように、特性電圧がイオン光学デバイスに印加される。印加された特性電圧は、較正イオンの非意図的解離量をもたらす。較正イオンのMS1分析は、較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、質量分析器を使用して行われる。MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量が判定される。イオン光学デバイスの特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量に基づいて較正される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計を較正する方法であって、
イオン源から較正イオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記較正イオンを輸送することであって、前記イオン光学デバイスに印加された特性電圧が、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御し、前記印加された特性電圧はまた、前記較正イオンの非意図的解離量をもたらす、輸送することと、
前記較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、前記質量分析器を使用して前記較正イオンのMS1分析を行うことと、
前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量を判定することと、を含み、
前記イオン光学デバイスの前記特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて較正される、方法。
【請求項2】
前記非意図的解離量は、前記較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に対する、前記較正イオンのフラグメントイオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に基づいて判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目標非意図的解離量は、15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記目標非意図的解離量は、1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲内である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
複数のMS1分析が、異なる特性電圧で行われ、前記較正イオンの前記非意図的解離量は、MS1スペクトルごとに判定され、
前記特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて較正される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記特性電圧は、前記イオン光学デバイスにDCオフセットを提供するために前記イオン光学デバイスに印加された少なくとも1つのDC電圧であるか、又は
前記特性電圧は、前記イオン光学デバイス内にイオンを閉じ込めるように構成された、前記イオン光学デバイスに印加された少なくとも1つのRF電圧である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン光学デバイスは、イオントラップである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析器に前記較正イオンを輸送することは、前記較正イオンを前記イオントラップ内に格納することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記特性電圧は、前記イオントラップに印加された複数の電圧を較正するために使用され、前記複数の電圧は、較正イオンを前記イオントラップ内に注入することと、較正イオンを前記イオントラップ内に閉じ込めることと、較正イオンを前記イオントラップから排出することと、のうちの1つ以上を制御するように構成されている、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することを更に含み、
前記イオン光学デバイスの前記特性電圧は、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量及び測定された前記真空圧力に基づいて較正される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン光学デバイスは、多重極アセンブリ、好ましくは、四重極アセンブリを備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記較正イオンを輸送することは、
前記イオン源から、前記較正イオンを質量フィルタリングする質量セレクタに前記較正イオンを輸送することと、
前記イオン光学デバイスに前記較正イオンを輸送することと、
前記イオン光学デバイスから前記質量分析器に前記較正イオンを輸送することと、を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、飛行時間質量分析器、フーリエ変換質量分析器、イオントラップ質量分析器、四重極質量分析器、又は磁気セクタ質量分析器を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
複数の質量分析計が、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように較正される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
質量分析計のための質量分析の方法であって、
イオン源からサンプルイオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記サンプルイオンを輸送することであって、前記イオン光学デバイスに印加された特性電圧が、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御する、輸送することと、
前記サンプルイオンのMS1スペクトルを取得するように、前記質量分析器を使用して前記サンプルイオンのMS1分析を行うことと、を含み、
前記MS1分析中にサンプルイオンの非意図的解離量を提供するように、前記イオン光学デバイスの前記特性電圧が、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法に従って較正される、方法。
【請求項16】
前記サンプルイオンに関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に対する、前記サンプルイオンのフラグメントイオンに関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に基づいて、非意図的解離量を判定することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記非意図的解離量は、前記イオン光学デバイスを介して前記質量分析器に輸送される前記サンプルイオンの15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記非意図的解離量は、前記イオン光学デバイスを介して前記質量分析器に輸送される前記サンプルイオンの1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲内である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項19】
前記質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することと、
前記質量分析計の前記真空圧力に基づいて、前記イオン光学デバイスの前記特性電圧を更新することと、を更に含む、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
質量分析計であって、
較正イオンを生成するように構成されたイオン源と、
前記イオン源から較正イオンを受け取るように構成されたイオン光学デバイスと、
前記イオン光学デバイスから較正イオンを受け取るように構成された質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記イオン源に較正イオンを生成させることと、
前記質量分析計に、前記イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の前記質量分析器に前記較正イオンを輸送させることであって、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御するように、特性電圧が前記イオン光学デバイスに印加され、印加された前記特性電圧は、前記較正イオンの非意図的解離量をもたらす、輸送させることと、
前記質量分析器に、前記較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、前記較正イオンのMS1分析を行わせることと、
前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量を判定することと、
MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて前記イオン光学デバイスの前記特性電圧を較正することと、
を含む、前記質量分析計の較正を行うように構成されている、質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析に関する。特に、本開示は、質量分析計のためのイオン光学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、小さな有機分子と大きな有機分子とのしばしば複雑な混合物を同定及び定量化するための、長年確立された技術である。近年、広範な生物学的及び非生物学的材料の両方の分析を可能にする技法が開発され、法執行(例えば、薬物及び爆発物の同定)、環境、科学研究、及び生物学(例えば、プロテオミクスにおける、タンパク質の単純な混合物及び複雑な混合物の研究、薬物発見、疾患同定における応用など)の分野にわたって応用されている。
【0003】
多数のアミノ酸を含むタンパク質は、典型的には、かなりの分子量を有する。タンパク質は、多くの場合、質量分析の前に複数のより小さいペプチドに消化される。タンパク質消化物中のペプチドは、より低い分子量のものであり、これにより、質量分析がより簡単である。いくつかの質量分析技術は、(非フラグメント化)被検体イオンの質量分析(MS1分析)を含む。他の質量分析技術は、対象の被検体イオンの単離及び活性化、続いて得られたフラグメント化イオンの質量分析(MS2分析)を含む。多くの場合、同定及び定量化技術は、被検体イオンについての情報を推測するために、MS1ドメイン及びMS2ドメインからの情報を組み合わせる。
【0004】
MS1分析を行うとき、対象の被検体イオンがフラグメント化しないことが重要である。被検体イオンの非意図的な解離は、結果として得られるMS1スペクトルの誤差につながることがある。例えば、MS1スペクトルは、完全に解離された被検体イオンについての情報を含まなくてもよい。MS1スペクトルはまた、サンプル中の被検体を代表しないフラグメントイオンから生じる更なるピークを含み得、潜在的に誤った同定につながる。また、対象の被検体イオン集団の一部が解離される場合、又はMS1スペクトルにおける対象の被検体イオンのピークが、異なる被検体に由来する同重体フラグメントイオンのピークと重なり合う場合、定量化が妨害され得る。
【0005】
被検体イオンの非意図的な解離は、1つ以上の比較的弱い化学結合を有する分子(例えば、ある特定のアミノ酸、ペプチド、及び脂質)にとって特に問題である。そのような脆弱な被検体イオンは、衝突活性化の際に当該弱い化学結合で破壊されやすい。そのような衝突活性化は、望ましくないことに、MS1分析中に、例えば、イオンが冷却されるか、又は質量分析計を通して輸送される(例えば、イオントラップに入る/イオントラップ内で冷却される/イオントラップから出る)ときに発生することがある。被検体イオンが非意図的に解離し得る程度は、被検体イオンの化学的性質、質量分析計の設定、加えて、条件の変動並びにハードウェアの機械的及び電子的公差に依存することになる。このように、MS1分析に対する非意図的な解離の影響は、制御することが困難であり得る。
【発明の概要】
【0006】
イオンが非意図的に解離する程度は、質量分析計の構成、条件、及びハードウェア公差、並びにイオンの化学的性質に依存することになる。特に、イオンの非意図的な解離は、真空がそれほど高くないか、又はイオンの運動の大きさ及び/若しくは方向がバックグラウンドガス分子のものと有意に異なる、質量分析計の内側のいくつかの領域で発生し得る。このように、場合によっては、イオンのある程度の非意図的な解離を伴わずにMS1分析を行うことは、不可能ではないにしても、困難であり得る。複数の質量分析計を同じ公称設定で動作させる場合には、条件の違い及びそれ自体は調整可能でないハードウェア公差に起因して、異なる程度の非意図的な解離が観察されることになる。
【0007】
非意図的な解離の変動を低減又は排除するために、第1の態様の方法は、目標非意図的解離量を提供するように質量分析計を較正する方法を提供する。そのような較正は、複数の質量分析計が同様のMS1分析を行うように較正される場合に特に有益であり得る。
【0008】
これにより、本開示の第1の態様により、質量分析計を較正する方法が提供される。本方法は、
イオン源から較正イオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析計の質量分析器に較正イオンを輸送することであって、イオン光学デバイスに印加された特性電圧は、イオン光学デバイスの中への及び/又はイオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御し、印加された特性電圧はまた、較正イオンの非意図的解離量ももたらす、輸送することと、
較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、質量分析器を使用して較正イオンのMS1分析を行うことと、
MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量を判定することと、を含み、
イオン光学デバイスの特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量に基づいて較正される。
【0009】
質量分析計は、質量分析のためにイオン源から質量分析器にイオンを輸送する目的で、1つ以上のイオン光学デバイスを含むことが理解されるであろう。一般に、イオン光学デバイスは、イオンを閉じ込めてイオン源から質量分析器に輸送するために、様々な電圧(DC及び/又はRFバイアス)を印加するように構成されている。これらの電圧の大きさは、通常、広範囲のイオン(例えば、広範囲の質量電荷比)をイオン源から質量分析器に効率的に輸送するように選択される。しかしながら、いくつかの比較的脆弱なイオンの場合、そのような電圧は、これらのイオンの少なくとも一部を通過中に非意図的に解離させ得る。これにより、比較的脆弱なイオンの集団の場合、イオン光学デバイスの1つ以上の電圧の変動は、脆弱なイオンが非意図的に解離する確率に影響を及ぼし得る。このように、イオン光学デバイスの特性電圧を制御することによって、MS1分析中に発生する非意図的解離量を制御することができる。
【0010】
比較的脆弱なイオンとは、そのようなイオンが、それほど脆弱でないイオンよりも非意図的な解離を受ける可能性が高いことを意味する。化学的観点から、脆弱性とは、分子イオンが衝突活性化の際に破壊されやすい1つ以上の弱い結合を含有することを意味する。比較的脆弱なイオンの実施例としては、とりわけ、アミノ酸イソロイシン及びフェニルアラニン、並びに(オリゴ)ペプチドMRFA、ALELFR、及びサブスタンスP(RPKPQQFFGLM)が挙げられる。較正イオンは、アミノ酸イオン又はペプチドイオン、例えば、前述の種のいずれか、又は脂質イオンであってもよい。
【0011】
第1の態様による方法は、較正プロセスを行うことによって、質量分析計において発生する非意図的解離量が制御され得るように、この概念を適用する。このように、既知の較正イオン(典型的には、非意図的な解離を起こしやすい比較的脆弱なイオン)は、質量分析計を使用してMS1ドメインにおいて質量分析される。MS1分析中に発生する非意図的解離量は、較正イオンのMS1スペクトルに基づいて判定することができる。次いで、イオン光学デバイスの特性電圧は、較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、MS1質量スペクトルに基づいて調節されることができる。これにより、質量分析計の性能(イオンの非意図的な解離に関する)は、較正プロセスを使用して標準化され得る。
【0012】
本開示によれば、イオンの非意図的な解離は、親イオン又はプリカーサイオン、すなわち、分子イオン(典型的にはアミノ酸イオン又はペプチドイオン)が、1つ以上のイオン光学デバイスを通る分子イオンの通過の一部として2つ以上の質量フラグメント(そのうちの少なくとも1つはイオンである)に解離するプロセスを指し、その意図は、非フラグメント化分子イオンを質量分析することである。このような非意図的な解離は、例えば、イオン光学デバイスからの電界の影響下で移動する分子イオンが、イオン光学デバイス内に存在するガス粒子と相互作用するときに発生し得る。そのような非意図的な解離事象は、分子イオンが意図的にフラグメント化されるプロセスとは異なることが理解されるであろう。例えば、分子イオンは、フラグメント化チャンバ内で意図的にフラグメント化され、その後、フラグメントイオンに対して質量分析(すなわち、MS2分析)を行ってもよい。本開示によれば、いくつかの実施形態では、非フラグメント化分子イオンは、典型的には、質量分析において、非意図的な解離から生じるそのフラグメントイオンのいずれよりも高い存在量で、例えば、そのフラグメントイオンのいずれよりも少なくとも1.1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、又は10倍高い存在量で存在する。別の実施例として、分子イオンは、1つ以上のイオン光学デバイスを使用して分子イオンを輸送する目的のために意図される加速電位ではなく、分子イオンのフラグメント化をもたらすように意図される加速電位に暴露される場合、意図的にフラグメント化され得る。典型的には、本開示のいくつかの実施形態においてイオン輸送に使用される加速電位は、約10V以下の大きさを有してもよく、10V未満の大きさを有してもよい。すなわち、本開示に従って較正される特性電圧は、約10V以下の大きさを有するイオン光学デバイス内のイオンのための加速電位を提供し得る。加速電位は、質量分析計を通してイオンを加速するためにイオンが受ける総加速電位を指す。
【0013】
本開示によれば、目標非意図的解離量は、所定の値、許容値の範囲、又は限界であり得る(すなわち、非意図的解離量は、所定の値以下であり得る)。例えば、いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、約ゼロ(すなわち、質量分析計の検出限界を下回る)であってもよい。
【0014】
本開示によれば、質量分析計は、イオン光学デバイスを備えている。イオン光学デバイスは、イオン源から質量分析器にイオンを輸送するために使用されるデバイスである。いくつかの実施形態では、質量分析計は、複数のイオン光学デバイスを備え得る。各イオン光学デバイスは、1つ以上の電圧の印加を通してイオンを制御する。質量分析計に応じて、これらの電圧のうちの1つ以上は、質量分析計がMS1分析を行うために使用されるときに発生する非意図的解離量に影響を及ぼし得る。そのような電圧は、本開示によれば、イオン光学デバイスの特性電圧であると見なされる。複数のイオン光学デバイスを備える質量分析計の場合、第1の態様の方法は、複数のイオン光学デバイスの複数の特性電圧を較正するために繰り返され得ることが理解されよう。当然ながら、質量分析計は、第1の態様の方法に従って較正され得る複数の電圧を有し得るが、実際には、イオン光学デバイスのいくつかの電圧は、他の電圧よりも非意図的な解離に対してより有意な影響を及ぼすであろうことが理解されよう。このように、本開示によるイオン光学デバイスの特性電圧は、好ましくは、脆弱なイオンの非意図的な解離に対して最も有意な影響を有する一方で、これらのデバイスの全体的イオン透過及び/又はm/z透過ウィンドウにほとんど影響を及ぼさない、イオン光学デバイスの電圧である。一般に、そのような電圧は、圧力が比較的高い質量分析計の領域において見出される可能性が高い。質量分析計の高圧領域におけるイオンは、他の粒子と相互作用して非意図的な解離をもたらす可能性が高い。また、質量分析計のいくつかの電圧は、質量分析計内のイオンの透過に悪影響を及ぼすことなく、較正のための限定された範囲のみを有し得ることが理解されよう。そのような電圧は、所望される較正の範囲に応じて、本開示による特性電圧として使用するのに好適でない場合がある。
【0015】
いくつかの実施形態では、非意図的解離量は、較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に対する、較正イオンのフラグメントイオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に基づいて判定される。このように、非意図的解離量は、MS1スペクトルにおいて検出されるある量の較正イオンに対する較正イオンのある量の1つ以上のフラグメントイオンの比に基づいて判定され得る。
【0016】
いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、50%、25%、15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である。いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲である。いくつかの実施形態では、非意図的な解離が発生しないように較正された質量分析計を提供することが好ましい場合があるが、いくつかの脆弱なイオンでは、これは、困難であるか、又は有意な動作上の妥協を必要とする場合がある。そのような場合、非意図的解離量が、MS1走査の範囲及び/又は質量分析計の範囲にわたって一貫し、繰り返し可能であるように制御されるように、質量分析計が較正され得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、複数のMS1分析が、異なる特性電圧で行われ、較正イオンの非意図的解離量が、各MS1スペクトルに対して判定され、特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量に基づいて較正される。このように、特性電圧は、特性電圧と較正イオンの結果として生じる非意図的解離量との間の関係を判定することに基づいて較正され得る。例えば、較正測定値に基づいて好適な関係を判定するために、補間が使用されてもよい。
【0018】
いくつかの実施形態では、イオン光学デバイスは、イオントラップ又はイオンガイドである。このように、質量分析計は、イオントラップを含み得、イオントラップの特性電圧は、MS1分析中に発生する非意図的解離量を制御するように制御される。
【0019】
例えば、いくつかの実施形態では、イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析器に較正イオンを輸送することは、イオントラップ内に較正イオンを格納することを含む。イオンは、イオントラップに入るか、又はイオントラップ内に格納されるときに、非意図的に解離する傾向があり得る。これは、イオントラップ内のバックグラウンド粒子の平均運動に対して、イオントラップに入るイオンの平均運動に関連付けられる運動エネルギーが、イオンのうちの少なくともいくつかの非意図的な解離をもたらす粒子相互作用をもたらし得るためである。この影響を制御するために、イオンがイオントラップに入るとき、又はイオントラップに格納されるときのイオンの運動エネルギーは、イオントラップの特性電圧によって制御され得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、特性電圧は、イオン光学デバイス/トラップにDCオフセットを提供するように、イオン光学デバイス、特に、イオントラップに印加された少なくとも1つのDC電圧である。イオン光学デバイス/トラップのDCオフセットは、イオンをイオン光学デバイス/トラップの中へ加速させる力を制御するために、又はイオンがイオン光学デバイス/トラップから出るのを防止する力を制御するために、又はイオンがイオン光学デバイス/トラップから出る力を制御するために使用され得る。いくつかの実施形態では、特性電圧は、光学デバイスに印加された少なくとも1つのRF電圧、特に、イオントラップ内にイオンを閉じ込めるように構成された、イオントラップに印加された少なくとも1つのRF電圧である。いくつかの実施形態では、特性電圧は、イオントラップに印加された複数の電圧を較正するために使用され、複数の電圧は、較正イオンをイオントラップに注入することと、較正イオンをイオントラップ内に閉じ込めることと、較正イオンをイオントラップから排出することと、のうちの1つ以上を制御するように構成されている。このように、イオントラップに印加された1つ以上の電圧を制御することによって、イオントラップによってイオンに与えられるエネルギー量を制御することができる。これは、イオントラップ内で発生する非意図的な解離の程度に影響を及ぼす場合がある。
【0021】
いくつかの実施形態では、特性電圧は、Sレンズ、イオンファンネル、又は積層リングイオンガイドに印加されたRF電圧を含み得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、本方法は、質量分析計と関連付けられた真空圧力を測定することを更に含み、イオン光学デバイスの特性電圧は、MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量及び測定された真空圧力に基づいて較正される。いくつかの実施形態では、質量分析計の圧力は、イオンガス粒子相互作用が発生する確率に影響を及ぼし得るため、質量分析計内で発生する非意図的解離量はまた、質量分析計の圧力に依存し得る。経時的に、質量分析計内の真空圧力は変動し得る。圧力の任意の変動を考慮することによって、イオン光学デバイスの特性電圧は、較正イオンのMS1分析の間、目標非意図的解離量を維持するように更に調節され得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析計の質量分析器に較正イオンを輸送することは、イオン源から質量セレクタであって、質量セレクタは較正イオンを質量フィルタリングする、質量セレクタに較正イオンを輸送することと、
イオン光学デバイスに較正イオンを輸送することと、
イオン光学デバイスから質量分析器に較正イオンを輸送することと、を含み得る。
【0024】
そのため、質量分析計は、較正イオンがイオン光学デバイスに入る前に、較正イオンを質量フィルタリングし得る。較正イオンを質量フィルタリングすることによって、任意の不要なイオンが除去され得、その結果、較正イオンのみがイオン光学デバイスに輸送される。これにより、較正イオンの非意図的な解離に対するイオン光学デバイス(質量セレクタの下流の)の影響を、より具体的に識別することを可能にし得る。加えて、この方法は、較正イオン(すなわち、単一種のイオン)が、複数の異なるイオン種を含む標準サンプルから質量選択されることを可能にし得る。
【0025】
いくつかの実施形態では、イオン光学デバイスは、多極アセンブリ、好ましくは、四重極アセンブリを備え得る。いくつかの実施形態では、質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、飛行時間質量分析器、フーリエ変換質量分析器、イオントラップ質量分析器、四重極質量分析器、又は磁気セクタ質量分析器を含み得る。このように、第1の態様の方法は、任意の質量分析計に適用され得ることが理解されよう。特に、第1の態様の方法は、イオン光学デバイス及び/又は質量分析器の任意の特定の配置に限定されない。
【0026】
いくつかの実施形態では、複数の質量分析計は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように較正される。このように、第1の態様による方法は、各質量分析計がMS1分析中に一貫した目標非意図的解離量を提供するように、複数の質量分析計に適用され得る。そのような方法で複数の質量分析計を較正することは、脆弱なイオンを含むサンプルのMS1分析がいくつかの質量分析計にわたって行われることになる場合に特に有利であり得る。
【0027】
第2の態様によれば、質量分析計のための質量分析の方法が提供される。本方法は、
イオン源からサンプルイオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析計の質量分析器にサンプルイオンを輸送することであって、イオン光学デバイスに印加された特性電圧は、イオン光学デバイスの中への及び/又はイオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御する、輸送することと
サンプルイオンのMS1スペクトルを取得するように、質量分析器を使用してサンプルイオンのMS1分析を行うことと、を含み、
MS1分析中に非意図的に解離したサンプルイオンの量を提供するように、イオン光学デバイスの特性電圧は、第1の態様の方法に従って較正される。
【0028】
このように、第2の態様の方法は、本開示の第1の態様に従って較正された質量分析計を使用して行われる。そのため、第2の態様に従って行われるMS1走査は、一貫した非意図的解離量を有し得、これは、比較的脆弱なイオンのMS1分析が行われることになる場合に特に有利であり得る。いくつかの実施形態では、分析されるサンプルイオンは、質量分析計を較正するために使用される較正イオンと同じイオン、又は同じタイプのイオン(例えば、ペプチド)であってもよいが、いくつかの実施形態では、分析されるサンプルイオンは、質量分析計を較正するために使用される較正イオンと異なってもよい。イオン光学デバイスの特性電圧を較正することによって、較正されたイオン光学デバイスから生じるサンプルイオンの非意図的な解離が、特性電圧を介して制御され得る。これにより、較正イオンを使用して質量分析計を較正することによって、サンプルイオンに対してMS1走査を行うときに発生する非意図的解離量が制御され得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、本方法は、サンプルイオン(すなわち、非フラグメント化イオン)に関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に対する、サンプルイオンのフラグメントイオン(すなわち、フラグメントイオン種)に関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に基づいて、非意図的解離量を判定することを更に含む。
【0030】
いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、イオン光学デバイスを介して質量分析器に輸送されるサンプルイオンの50%、25%、15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である。いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、イオン光学デバイスを介して質量分析器に輸送されるサンプルイオンの1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲内である。
【0031】
いくつかの実施形態では、本方法は、質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することを更に含む。次いで、質量分析計の真空圧力に基づいて、イオン光学デバイスの特性電圧が更新される。質量分析計に関連付けられた真空圧力に基づいて特性電圧を更新することによって、質量分析の方法は、質量分析計の動作条件の変化を考慮し得る一方で、質量分析計内で発生する非意図的解離量に影響を及ぼし得る。
【0032】
本開示の第3の態様によれば、質量分析計が提供される。質量分析計は、イオン源と、イオン光学デバイスと、質量分析器と、コントローラとを備える。イオン源は、較正イオンを生成するように構成されている。イオン光学デバイスは、イオン源から較正イオンを受け取るように構成されている。質量分析器は、イオン光学デバイスから較正イオンを受け取るように構成されている。本コントローラは、
イオン源に較正イオンを生成させることと、
質量分析計に、イオン光学デバイスを介してイオン源から質量分析計の質量分析器に較正イオンを輸送させることであって、イオン光学デバイスの中へ及び/又はイオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御するように、特性電圧がイオン光学デバイスに印加され、印加された特性電圧は、較正イオンの非意図的解離量をもたらす、輸送させることと、
質量分析器に、較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、較正イオンのMS1分析を行わせることと、
MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量を判定することと、
MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、MS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量に基づいてイオン光学デバイスの特性電圧を較正することと、を含む、質量分析計を較正するように構成されている。
【0033】
これにより、第3の態様の質量分析計は、本開示の第1の態様による較正方法を行うように構成されている。第3の態様の質量分析計はまた、本開示の第2の態様による質量分析の方法を行うように構成され得ることが理解されよう。
ここで、本発明の実施形態が、以下の図を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本開示の実施形態による質量分析計の概略図を示す。
【
図2】本開示の実施形態による質量分析計を較正する方法のフローチャートである。
【
図3】MRFA
2+イオンの非意図的な解離に対する特性電圧の変化の影響を示すグラフである。
【
図4】本開示の実施形態による質量分析の方法のフローチャートである。
【
図5】質量分析計のフォア真空圧力及び移送管温度を変化させることが較正された特性電圧に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図6】質量分析計のフォア真空圧力を独立して変化させることが較正された特性電圧に及ぼす影響を示すグラフである。
【
図7】移送管温度を独立して変化させることが較正された特性電圧に及ぼす影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示の第1の実施形態によれば、質量分析計10が提供される。質量分析計の概略図が
図1に示されている。
図1の配置は、Thermo Fisher Scientific,Inc.のOrbitrap Exploris(RTM)240質量分析計の構成を概略的に表している。
【0036】
図1では、分析される分子(例えば、サンプル分子又は較正分子)が、質量分析計10に供給される。いくつかの分子、特に、較正分子の場合、分子は、直接注入によって質量分析計10に供給され得る。このように、分析される分子は、イオン化のためにイオン源に直接供給され得る。
【0037】
直接注入の代替として、分析される分子(例えば、サンプル分子又は較正分子)は、液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)カラム(
図1に図示せず)などのクロマトグラフィー装置を介して、質量分析計10に(例えば、オートサンプラから)供給されてもよい。LCカラムの1つのそのような実施例は、Thermo Fisher Scientific,IncのProSwift(RTM)モノリシックカラムがある。これは、固定相をなす不規則な形状の又は球形の粒子の固定相を通して、高圧下の移動相でサンプルを強制的に運ぶことにより、高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography、HPLC)を提供する。HPLCカラムでは、サンプル分子は、固定相との相互作用の程度に応じて異なる速度で溶出する。
【0038】
このようにして液体クロマトグラフィーを介して分離された、又は直接注入によって供給されたサンプル分子(又は較正分子)は、次いで、イオン源を使用してイオン化される。
図1の実施形態では、イオン源は、大気圧にある(加熱された)エレクトロスプレーイオン化源((heated)electrospray ionization、(H)ESI源)20である。次いで、サンプルイオン(又は較正イオン)は、質量分析計10の真空チャンバに入り、複数のイオン光学デバイスを介して質量分析器に方向付けられる。
図1の実施形態では、サンプルイオン(又は較正イオン)は、キャピラリ25によって、低~中真空圧力で、積層リング(RF)イオンガイドであるRF専用Sレンズ30内に方向付けられる。イオンは、Sレンズ30によって注入フラタポール40に集束され、軸方向場を有する屈曲フラタポール50にイオンを注入する。屈曲フラタポール50は、それを通る湾曲経路に沿って(電荷)イオンを誘導するが、同伴溶媒分子などの望ましくない中性分子は湾曲経路に沿って誘導されず、失われる。
【0039】
イオンゲート(TKレンズ)60は、屈曲フラタポール50の遠位端に配置され、屈曲フラタポール50から下流の四重極質量フィルタ70へのイオンの通過を制御する。四重極質量フィルタ70は、典型的には、ただし必須ではないが、セグメント化され、バンドパスフィルタとして働き、他の質量電荷比(m/z)のイオンを排除しながら、選択された質量数又は制限された質量範囲の通過を可能にする。四重極質量フィルタ70はまた、広帯域透過モードで動作させることができる。四重極質量フィルタ70は、例えば、1×10-4mbar以下、又は5×10-5mbar以下の圧力を有する分析計の高真空領域内に位置する。
【0040】
次いで、イオンは、四重極出口レンズ/分割レンズ配置80を通過し、移送多重極90に入る。移送多重極90は、質量フィルタリングされたイオンを四重極質量フィルタ70から湾曲線形イオントラップ(Cトラップ)100内に誘導する。Cトラップ100も、四重極質量フィルタ70と同様に、分析計の高真空領域内に位置する。典型的には、イオンが閉じ込められるCトラップ100の空洞は、隣接するイオン経路指定多重極120(これは、より高い圧力にある)から来る窒素ガスの供給に起因して、約5×10-3mbar以下の圧力にある。Cトラップ100は、RF電圧が供給される長手方向に延在する湾曲した電極及び、DC電圧が供給されるエンドキャップを有する。結果として、Cトラップ100の湾曲した長手軸に沿って延在するポテンシャル井戸が得られる。第1の動作モードでは、DCエンドキャップ電圧がCトラップに設定されるので、移送多重極90から到達するイオンは、Cトラップ100のポテンシャル井戸に蓄積され、そこで冷却される。冷却されたイオンは、ポテンシャル井戸の底に向かって雲の中に存在し、Cトラップ100から質量分析器110に向かって直角に排出される。
【0041】
Cトラップ100に蓄積されたイオンの数(すなわち、イオン集団)は、その後Cトラップ100から質量分析器110に排出されるイオンの数を判定する。Cトラップ100は、イオンのパケットとして質量分析器110にイオンを排出することができる。Cトラップ100はまた、四重極質量フィルタ70に対してCトラップ100の反対側の端部に配置されたイオン経路指定多重極120内に軸方向にイオンを排出し得る。別のモードでは、Cトラップ100のDCエンドキャップ電圧は、移送多重極90から到着するイオンに対してポテンシャル井戸が形成されず、イオンは、代わりに、そこに蓄積されることなくCトラップ100を透過し、イオン経路指定多重極120内に入るように設定することができ。
【0042】
そのため、質量分析計10内のイオンは、屈曲フラタポール50から、イオンゲート60、四重極質量フィルタ70、レンズ80、移送多重極90、及びCトラップ100を通って、イオン経路指定多重極内に移動し得る。このイオン軌道に沿って、質量分析計10内のイオンは、屈曲フラタポール50からイオン経路指定多重極にイオンを輸送する目的で、加速電位を受け得る。これらのイオン光学デバイスに印加された加速電位は、例えば、フラグメント化チャンバ内でイオンを意図的にフラグメント化するために印加され得る加速電位よりも有意に低いことが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態では、屈曲フラタポール50とイオン経路指定多重極との間に印加された加速電位は、約10V以下であってもよい。
【0043】
使用中のイオン経路指定多重極は、衝突ガス(例えば、ヘリウム又は窒素)で充填され、このように、Cトラップ100より高い圧力を有する。イオン経路指定多重極は、通常動作において、少なくとも3×10-3mbar~約2×10-2mbarの圧力の衝突ガスで充填されている。イオン経路指定多重極の典型的な動作圧力は、約1.1×10-2mbarである。イオン経路指定多重極120は、質量分析計10の他のイオン光学構成要素(例えば、Cトラップ100)よりも比較的高い圧力にあるため、イオン経路指定多重極120に入るイオンの運動エネルギーは、これらのイオンが脆弱である場合、イオンの一部の非意図的な解離をもたらすのに十分であり得る。このように、イオン経路指定マルチプル120、具体的には、イオン経路指定多重極へのイオンの通過は、非意図的な解離が発生し得る質量分析計の一部を表す。このように、イオンがイオン経路指定多重極に入る際に受ける加速電位の制御及び較正は、質量分析計10のイオン光学デバイス内で発生する非意図的解離量を制御するために1つ以上の特性電圧を使用することができる機構を提供する。
【0044】
イオン経路指定多重極120は、いくつかの実施形態では、質量分析のためのイオンを質量分析器110に格納するように構成され得る。このように、イオン経路指定多重極120は、ESI源20と質量分析器110との間のイオン経路に沿ってイオン光学デバイスとして作用するイオントラップの形態である。イオンは、MS1分析又はMS2分析を行う目的で、イオン経路指定多重極120内に格納及び/又は冷却され得る。
【0045】
イオン経路指定多重極120は、通常、イオン経路指定多重極120に沿って延在し、イオン経路指定多重極の中心軸の周りに配置された多重極ロッドのセットを備える。多重極ロッドは、例えば、四重極、六重極、又は八重極であってもよい。イオン経路指定多重極120はまた、多重極ロッドのセットの両端に配置された端部電極の対を含むことができる。イオン経路指定多重極120の中心軸に沿ってイオンを閉じ込めるための擬ポテンシャル場を形成するために、RF電位が多重極ロッドのセットに印加される。DC電位はまた、RF電位がDC電位に重畳されるように、多重極ロッドに印加されてもよい。いくつかの実施形態では、イオン経路指定多重極は、イオン経路指定多重極の長さに沿って追加の軸方向DC電極を含んでもよい。軸方向DC電極は、多重極ロッドの長さに沿って複数のDC電圧を提供するように構成される。軸方向DC電極は、イオン経路指定多重極の長さに沿って軸方向に増加する、軸方向に平坦な、又は軸方向に減少するDC電圧プロファイルをもたらすように構成することができる。このように、イオン経路指定多重極は、複数の異なる電圧を含み、これらの電圧は、イオンがイオン経路指定多重極にどのように注入され、その中でどのように冷却され、そこからどのように排出されるかを制御するために、コントローラ130によって制御され得る。例えば、軸方向DC電極のDC電位及び/又は多重極ロッドのDC電位は、イオンが屈曲フラタポール50から移動してイオン経路指定多重極120に入るときにイオンが受ける加速電位を決定し得る。イオンが受ける加速の量は、イオン経路指定多重極に入る際のイオンの運動エネルギーに影響を及ぼす。
【0046】
イオンは、イオン経路指定多重極120の軸方向端部に印加されたDC電圧(トラップ電圧として知られている)の印加によってイオン経路指定多重極120内に格納されてもよく、DC電圧はまた、多重極ロッドのセットにも印加される。トラップ電圧を印加すると、望まれないときにイオンがイオン経路指定多重極120からCトラップに逃げることが防止される。したがって、トラップ電位は、イオンがイオントラップから放出されるときに制御を行うだけでなく、イオン経路指定多重極へのイオンの進入を制御する。MS1分析のために、イオン経路指定多重極120内に格納されたイオンは、Cトラップ100内に(意図的に)戻され、次いで、イオンは、質量分析器110に排出される。
【0047】
コントローラ130は、イオン光学デバイスの特性電圧を較正する方法に従って、イオン経路指定多重極120の上述の電圧のうちの1つ以上を較正し得る。いくつかの実施形態では、特性電圧は、上述の電圧(例えば、イオン経路指定多重極の軸方向端部に印加されたDC電圧、多重極ロッドに印加されたDC電圧、又は多重極ロッドに印加されたDC若しくはRF電圧)のうちの1つであり得る。いくつかの実施形態では、イオン経路指定多重極120(又は実際には、複数の電圧を有する任意の他のイオン光学デバイス)の種々の電圧は、1つ以上の関係によって相互に関係し得る。このように、判定される特性電圧は、イオン光学デバイスの複数の電圧を較正するために使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、イオン経路指定多重極の入口電極に印加されたDC電圧は、多重極ロッドに印加されたDC電位の約30%であってもよい。そのため、特性電圧(例えば、複数のロッドのDC電圧)は、1つ以上の電圧関係に基づいてイオン光学デバイスの複数の電圧を較正するために使用され得る。
【0048】
図1に示すように、質量分析器110は、Thermo Fisher Scientific,Inc.によって販売されているOrbitrap(RTM)質量分析器などの軌道トラップ質量分析器110である。軌道トラップ質量分析器110は、中心からずれた注入開口部を有し、イオンが中心から外れた注入開口部を通って、コヒーレントパケットとして軌道トラップデバイス110に注入される。次いで、イオンは超対数電場によって軌道トラップ質量分析器110内にトラップされ、内部電極の周りを軌道運動しながら長手(z)方向の前後運動を経る。
【0049】
軌道トラップ質量分析器110でのイオンパケットの運動の軸(z)成分は、(多かれ少なかれ)単振動として定義され、z方向の角周波数は、所与のイオン種の質量電荷比の平方根に関係している。これにより、イオンは質量電荷比(m/z)に従って経時的に分離する。
【0050】
軌道トラップ質量分析器110内のイオンは、画像電流検出器(
図1には示さず)を使用して検出され、画像電流検出器は、イオン種が画像検出器を通過するときに、全てのイオン種に関する情報を含む「トランジェント」を時間領域に生成する。次に、トランジェントは高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、FFT)にかけられ、周波数領域に一連のピークが生じる。これらのピークから、m/zに対する存在/イオン強度を表す質量スペクトルを生成することができる。
【0051】
上述の構成では、サンプルイオン(より具体的には、四重極質量フィルタによって選択された対象の質量範囲内のサンプルイオンのサブセット)は、意図的なフラグメント化を伴わずに軌道トラップ質量分析器110によって分析される。結果的に得られる質量スペクトルはMS1と表示される。
【0052】
MS/MS(又は、より一般的には、MS
n)はまた、
図1の質量分析計10によって実行され得る。これを達成するために、プリカーササンプルイオンが生成され、補助質量範囲が選択される四重極質量フィルタ70に輸送される。四重極質量フィルタ70を出たイオンは、Cトラップ100を通ってイオン経路指定多重極120に注入される。イオン経路指定多重極120はまた、プリカーサイオンをフラグメントイオンにフラグメント化するように構成されたフラグメント化チャンバとして機能するように構成され得る。例えば、
図1の質量分析計10では、イオン経路指定多重極は、衝突ガスが供給される高エネルギー衝突解離(higher energy collisional dissociation、HCD)デバイスを備えてもよい。イオン経路指定多重極120に到達するプリカーサイオンは、高エネルギーでガス分子と衝突し、その結果、プリカーササンプルイオンがフラグメントイオンにフラグメント化され得る。次いで、フラグメントイオンは、イオン経路指定多重極120からCトラップ100に向けて戻るように排出され、フラグメントイオンは、ポテンシャル井戸において再びトラップ及び冷却される。最後に、Cトラップ内にトラップされたフラグメントイオンは、分析及び検出のために軌道トラップデバイス110に向かって直角に排出される。結果として得られたフラグメントイオンの質量スペクトルは、MS2と表示される。
【0053】
HCDデバイスを備えるイオン経路指定マルチプル120が
図1に示されているが、代わりに、衝突誘起解離(collision induced dissociation、CID)、電子捕獲解離(electron capture dissociation、ECD)、電子移動解離(electron transfer dissociation、ETD)、光解離などの方法を用いる他のフラグメント化デバイスがMS2分析に用いられてもよい。
【0054】
図1のイオン経路指定多重極120の「行き止まり」構成は、国際公開第2006/103412(A)号に更に詳細に記載されており、プリカーサイオンは、第1の方向にフラグメント化チャンバ120に向かう第1の方向にCトラップ100から軸方向に排出され、結果として得られるフラグメントイオンは、反対方向にCトラップ100に戻される。
【0055】
質量分析計10は、コントローラ130の制御下にあり、コントローラ130は、例えば、排出及びトラップ電圧のタイミングを制御すること、イオンを集束及びフィルタリングするようにSレンズ、四重極などの電極に適切な電位を設定すること、軌道トラップデバイス110から質量スペクトルデータを取り込むこと、MS1走査及びMS2走査のシーケンスなどを制御することなどを行うように構成されている。コントローラ130は、質量分析計に本発明による方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラムに従って動作することができるコンピュータを備えることができることが理解されよう。
【0056】
図1に示される構成要素の特定の配置は、後で記載される方法に必須ではないことを理解されたい。実際、本開示に記載されている方法は、フーリエ変換質量分析器、TOF質量分析器、又はイオントラップ質量分析器へのイオンの注入を制御するための任意のコントローラで実装され得る。
【0057】
更に、当業者であれば、
図1の質量分析計10は、イオンがイオン源(ESI源20)から1つ以上のイオン光学デバイスを介して質量分析器(110)に輸送される機器の一実施例であることが理解されよう。このように、
図1の実施形態では、キャピラリ25、Sレンズ30、注入フィルタ40、屈曲フラタポール50、イオンゲート60、四重極質量フィルタ70、出口レンズ/分割レンズ配置80、移送多重極90、Cトラップ100、及びイオン経路指定多重極120は、イオン光学デバイスの実施例である。イオン光学デバイスは各々、サンプルイオン(又は較正イオン)をESIイオン源20から質量分析器110に輸送するように構成されている。他の実施形態では、イオン源から質量分析器にイオンを輸送するために、イオン光学デバイスの他の構成が使用され得る。
【0058】
本発明の実施形態によれば、質量分析計10を較正する方法200が提供される。本方法200のフローチャートが、
図3に示されている。例えば、コントローラ130は、
図1の質量分析計10を使用して、質量分析計10に、較正方法200を行わせるように構成されてもよい。
【0059】
ステップ201に示すように、質量分析計10は、較正イオンを生成する。較正イオンは、ESI源20を使用して生成される。較正イオンを生成するために使用されるサンプルは、例えば、好適に脆弱なイオンを形成することが知られている分子を含む較正溶液であってもよい。好適な較正溶液の一実施例は、Thermo Scientific(RTM)からのPierce(RTM)FlexMix(RTM)較正溶液である。この較正溶液は、イオン化されると、ペプチドイオン[MRFA+H2O]2+(MRFA2+、262.636Thの質量電荷比(m/z)を有する)を含むイオンを形成することになる。このイオンは、通常の動作条件下では脆弱なイオンであることが知られている。特に、少なくともいくつかの[MRFA+H2O]2+較正イオンは、1つ以上のイオン光学デバイスによる輸送中に、主にフラグメントイオン[MRFA-MeSH]2+(m/z238.634Th)及び[RFA+H2O]+(m/z393.224)に非意図的に解離し得る。
【0060】
ステップ202において、質量分析器10は、キャピラリ25、Sレンズ30、注入フィルタ40、屈曲フラタポール50、イオンゲート60、四重極質量フィルタ70、出口レンズ/分割レンズ配置80、移送多重極90、Cトラップ100、及びイオン経路指定多重極120を介して質量分析器110に較正イオンを輸送する。屈曲フラタポール50とイオン経路指定多重極との間でイオンに印加された加速電位は、較正イオンがイオン経路指定多重極に入って冷却されるときに、較正イオンの運動エネルギーに影響を及ぼす。較正イオンの運動エネルギーは、較正イオンが質量分析器に通過するときに発生する非意図的解離量に影響を及ぼす。
【0061】
イオン輸送プロセスの一部として、較正イオンは、262.636のm/zを中心とする狭い質量ウィンドウを有する四重極質量フィルタによって質量フィルタリングされ得る(すなわち、MRFA2+の質量電荷比に近い質量電荷比を有する較正イオンを質量選択する)。好適な狭い質量ウィンドウは、約2~10m/zの質量ウィンドウであり得る。質量選択に続いて、質量選択された較正イオンは、次いで、質量分析の前にイオン経路指定多重極120に短時間格納される。較正イオンをイオン経路指定多重極に格納するために、トラップ電圧がイオン経路指定多重極120に(Cトラップ100が保持され得る電圧に対して)印加される。例えば、MS1モードにおける通常動作下では、非脆弱な(正に荷電した)イオンを格納するためにイオン経路指定多重極に印加されたトラップ電圧は、Cトラップ100に対して-2.0Vであってもよい。
【0062】
ステップ203において、質量分析器110は、較正イオンを質量分析し、較正イオンの質量スペクトルを出力する。
【0063】
次いで、コントローラ130は、ステップ204において、MS1質量スペクトル内に存在する質量スペクトルピークに基づいて、非意図的解離量を判定し得る。本開示の方法及びシステムは、使用される広範囲の較正イオン及び種々のタイプの質量分析計に適用され得ることが理解されよう。これを考慮して、MS1スペクトルにおいて発生する非意図的解離量を判定し得るいくつかの異なる方法がある。
【0064】
本開示は、MS1スペクトルの質量スペクトルピークの強度に言及する。MS1スペクトルを分析するとき、いくつかの実施形態では、質量スペクトルピークの強度は、MS1スペクトルにおいて提供される強度の絶対値によって表され得ることが理解されよう。いくつかの実施形態では、質量スペクトルの質量スペクトルピークの強度はまた、質量スペクトルピークの各々の信号対雑音比であり得る。
【0065】
そのような方法の1つは、較正イオンのフラグメントイオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度(Mfragment)と、較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度(Mcalib)との比(すなわち、相対非意図的フラグメント量)、又はフラグメントイオン及び較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度の合計(Mfragment+Mcalib)との比(すなわち、非意図的なフラグメント化が発生する程度)に基づいて、非意図的な解離のパーセンテージを判定することである。例えば、いくつかの実施形態では、相対非意図的解離量(Cfrag)は、Mcalib及びMfragmentに基づいて、以下の式に従って計算され得る。
Cfrag=Mfragment/Mcalib
【0066】
いくつかの実施形態では、前述の比において、較正イオンのフラグメントイオンと関連付けられた質量スペクトルピークの強度(Mfragment)は、較正イオンの複数の異なるフラグメントイオンと関連付けられた質量スペクトルピークの合計強度によって置換され得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、非意図的解離量は、第1の較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度(Mcalib1)と、第2の較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度(Mcalib2)との比に基づいて判定され得る。例えば、
Canalyte_ratio=Mcalib1/Mcalib2
【0068】
この方法は、質量分析計を較正するために使用されるサンプルが、既知の濃度比を有する2つの異なる較正分子を含む場合に好適であり得る。特に、好ましくは、較正分子のうちの一方が比較的脆弱なイオンを形成する場合、すなわち、較正イオンのうちの一方が他方よりも脆弱である場合である。
【0069】
このように、発生する非意図的解離量を特徴付けし得る、本開示による様々な方法が存在する。また、上記の実施例は各々、異なる方法で数学的に表すことができるが、それでも非意図的解離量の値を提供することが理解されよう。発生する非意図的解離量が判定されると、質量分析計は、ステップ205において、1つ以上のイオン光学デバイスの特性電圧を較正することに進む。特性電圧が調整されるべきであるかどうかを判定するために、コントローラ130は、発生する非意図的解離量(例えば、Cfrag、Canalyte_ratio)を目標非意図的解離量(T)と比較し得る。特性電圧の較正については、以下で更に詳細に考察する。
【0070】
図3は、MS1走査における非意図的解離量が、イオン経路指定多重極120に印加された特性電圧の変動とともにどのように変動するかを示すグラフである。
図3のグラフでは、一連のMS1走査は、異なるトラップ電圧で行われ、[MRFA+H
2O]
2+(MRFA
2+、m/z262.636Th)較正イオンは、質量分析器110におけるMS1分析の前にイオン経路指定多重極120にトラップされた。
【0071】
図3の左側は、[MRFA]
2+質量スペクトルピークの強度に対する既知のフラグメントイオンスペクトルピークの強度の比をパーセンテージで表したプロットを示す。
図3は、フラグメントイオン[MRFA-MeSH]
2+(m/z238.634Th)及びフラグメントイオン[RFA+H
2O]
+(m/z393.224)のプロットを示す。前述のように、イオン経路指定多重極120に使用される通常のMS1トラップ電位は、Cトラップ100の電圧に対して約2.0V(正イオンに対して負であり、その逆も同様である)である。トラップ電位を低下させることによって、発生する非意図的解離量が低減する。トラップ電位を上昇させることによって、非意図的解離量が増加する。これにより、コントローラ130は、発生する非意図的解離量を制御するために、イオン経路指定多重極120に印加されたトラップ電位を調整し得る。
図1の質量分析計10の場合、トラップ電位の大きさは、約0.5V~3.0Vの間で変動し得ることが理解されよう。
図3の実施例では、トラップ電位の変動は、[MRFA-MeSH]
2+(m/z238.634Th)フラグメントイオンについては約3%~13%の、[RFA+H
2O]
+(m/z393.224)フラグメントイオンについては約3%~15%の非意図的な解離の変動をもたらす。
【0072】
図3の右側の軸は、異なるトラップ電位の大きさに対する、[MRFA]
2+較正イオンにその非意図的なMS1フラグメントを加えた総イオン透過パーセンテージを示す。総イオン透過パーセンテージは、2.0Vのトラップ電位の大きさにおける総透過に対するパーセンテージとして表される。
図3は、トラップ電圧の大きさが0.5V~3.0Vの間であり、基準透過が、2.0Vの「通常の」トラップ電位の大きさにおける総透過の約104%~96%の間で変動することを示す。
【0073】
いくつかの実施形態では、質量分析計10は、異なる特性電圧における非意図的な解離の複数の測定を行うことによって較正され得る。例えば、
図3に示すように、複数の測定を行うことは、特性電圧と非意図的解離量との間の関係が判定されることを可能にし得る。例えば、コントローラ130は、非意図的解離量と特性電圧との間の関係を判定するために、データ点を補間し得る。好適な補間方法は、例えば、多項式補間を含む。次いで、特性電圧は、判定された関係を使用して、目標非意図的解離量に基づいて較正され得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、質量分析計10は、非意図的解離量が目標非意図的解離量Tに等しくなる(例えば、Cfrag=T)ように較正され得る。例えば、いくつかの実施形態では、目標非意図的解離量は、約2%、4%、6%、8%、又は10%であってもよい。
【0075】
いくつかの実施形態では、質量分析計は、非意図的解離量が目標非意図的解離量を上回らない(Cfrag≦T)ように較正され得る。例えば、非意図的解離量は、10%、8%、6%、4%、又は2%以下であってもよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、質量分析計は、非意図的解離量が、目標非意図的解離量(T1、T2)の範囲内に入るように(T1≦Cfrag≦T2)、較正され得る。本明細書に記載される非意図的解離量(Cfrag、Canalyte_ratio)を特徴付けるための方法のいずれか、又は実際に発生する非意図的解離量を特徴付けるための任意の他の好適な方法に、同様の制限が適用され得ることが理解されよう。例えば、目標範囲は、約1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%であってもよい。
【0077】
いくつかの実施形態では、コントローラ130は、反復プロセスを使用して特性電圧(例えば、トラップ電位)を較正し得る。反復プロセスでは、質量分析計10は、質量分析計が、発生する較正イオンの非意図的解離量に対する所望の基準(目標非意図的解離量)を満たすまで、繰り返しMS1分析及び特性電圧較正を行い得る。
【0078】
較正された電圧に到達するためのプロセスは、目標非意図的解離量に対する基準に依存することになることが理解されよう。例えば、いくつかの実施形態では、特性電圧と非意図的解離量との間の一般的な関係は、コントローラによって事前に知られてもよい。他の実施形態では、コントローラ130は、特性電圧と、結果として生じる非意図的解離量の変化との間の所定の関係を使用して、特性電圧を較正し得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、コントローラは、イオン光学デバイス(例えば、イオン経路指定多重極120)の特性電圧を較正し得るが、較正方法は、質量分析計のイオン光学デバイスの複数の電圧に対して繰り返され得ることが理解されよう。例えば、イオン光学デバイスが複数の電圧を含む場合、電圧の各々は、順に較正されてもよい。いくつかの実施形態では、較正方法は、複数のイオン光学デバイスの各々に順に適用され得る。複数のイオン光学デバイスを順次較正することは、非意図的な解離を最小限に抑えるか、又は比較的低いレベルに低減することが望ましいときに特に有利であり得る。
【0080】
これにより、上述の方法200に従って、質量分析計10は、目標非意図的解離量を提供するように較正され得る。本開示による方法200は、複数の質量分析計10に適用されるときに特に対象であり得る。同様のMS1分析を行うために複数の質量分析計10が使用される場合、各質量分析計のセットアップにおけるわずかな差異が、各質量分析計10の性能における変動をもたらし得る。特に、MS1分析を行うときのイオンの非意図的な解離の程度は、ハードウェア公差(機械的及び電子的)に応じて、各質量分析計によって異なることがある。分析計にわたって非常に近い性能を達成するために、方法200を適用することができる。質量分析計200を較正する方法によれば、質量分析計10間の非意図的解離量の起こり得る変動を制御するために、複数の質量分析計10が較正され得る。
【0081】
複数の質量分析計10が本開示の実施形態に従って較正される場合、複数の質量分析計10は、複数の質量分析計にわたる較正イオンの非意図的解離量が、10%又は5%以下の相対標準偏差を有するように較正され得る。このように、質量分析計10は、較正イオンの非意図的解離量の変動が低減された状態でMS1測定を行い得る。いくつかの実施形態では、質量分析計10はまた、異なるサンプルイオンの非意図的解離量が制御されるように、較正イオンに基づいて較正され得る。すなわち、いくつかの実施形態では、質量分析計10は、サンプルイオン(較正イオンとは異なる)の非意図的解離量の相対標準偏差が、指定された範囲内の相対標準偏差を有するように、較正イオンを使用して較正され得る。例えば、サンプルイオンの非意図的解離量の相対標準偏差は、20%、15%、10%、又は5%以下であってもよい。
【0082】
図4は、本開示の実施形態による質量分析の方法300のフローチャートを示す。方法300は、上述の較正方法200に従って較正された、
図1に示される質量分析計10によって行われ得る。
【0083】
方法300のステップ301によれば、サンプルイオンがESI源20によって生成される。サンプルイオンは、MS1分析に好適な任意のイオンを含み得る。このように、分析されるサンプルイオンは、較正イオンとは異なり得る(例えば、異なる質量電荷比を有する)。
【0084】
ステップ302において、サンプルイオンは、イオン光学デバイスを介して質量分析器110に輸送される。サンプルイオンを輸送するとき、イオン光学デバイスは、較正方法200によって設定された、較正された特性電圧を利用する。このように、イオン輸送中に発生する任意の非意図的な解離を制御するために、イオン光学デバイスに印加された電圧の影響が制御され得る。例えば、上述の較正方法200によれば、イオン経路指定多重極120に印加されたトラップ電圧は、サンプルイオンがイオン経路指定多重極120内で冷却されるときに発生する非意図的解離量が制御され得るように、較正された電圧であってもよい。
【0085】
ステップ303において、質量分析器110は、MS1分析を行い、結果として得られる質量スペクトルを分析のためにコントローラ130に出力する。
【0086】
いくつかの実施形態では、分析されるサンプルは、既知の脆弱なイオンを含んでもよく、又はサンプルは、既知の較正イオンを含む内部標準体を含んでもよい。これにより、方法300のステップ303において生成される、結果として得られるMS1質量スペクトルは、質量分析計内で発生する非意図的解離量に関する情報を含み得、これは、質量分析計10の較正を更新するために使用することができる。例えば、MS1スペクトルは、既知の脆弱なイオンを表す質量スペクトルピークと、脆弱なイオンの既知の質量フラグメント(フラグメントイオン)の質量スペクトルピークとを含んでもよい。これにより、いくつかの実施形態では、質量分析計は、ステップ303で取得されたMS1スペクトル内のデータに基づいて、質量分析計10の特性電圧をリアルタイムで較正する方法200を効果的に行い得る。
【0087】
質量分析計10が、特性電圧をリアルタイムで更新するように構成される場合、質量分析計は、特性電圧が更新されるべきかどうかを判定するために、いくつかのMS1走査にわたるデータを平均化し得る。いくつかの実施形態では、質量分析計は、発生する非意図的解離量が、特性電圧が更新されるべきであるほど十分に変動しているかどうかに関して、1つ以上のMS1走査からのデータをフィルタリングし得る。例えば、非意図的解離量の変化が、目標値の指定された範囲内、又は目標値の範囲内である場合、質量分析計は、特性電圧を更新しないことを選択してもよい。非意図的な解離に関するデータを平均化又はフィルタリングすることによって、特性電圧に対する繰り返される更新に関連付けられたジッタが低減又は排除され得る。
【0088】
これにより、質量分析の方法300は、本開示の実施形態に従って提供され得る。
【0089】
上記の実施形態は、特性電圧がイオン経路指定多重極120に印加されたトラップ電位であるという点で較正方法を考察しているが、他の実施形態では、質量分析計の異なる電圧が較正され得る(すなわち、異なる電圧が、較正される特性電圧であり得る)ことが理解されよう。
【0090】
いくつかの実施形態では、特性電圧は、イオントラップ(又はRF電圧を利用する類似イオン閉じ込めデバイス)に印加されたRF電圧であり得る。代替的に、Sレンズ30に供給されるRF電圧が較正されてもよい。較正される1つ又は複数の電圧は、較正される質量分析計の配置に依存することになる。
【0091】
本開示の上述の実施形態によれば、イオン光学デバイスの特性電圧は、MS1質量スペクトルにおいて判定される較正イオンの非意図的解離量に基づいて較正され得る。MS1スペクトルにおける情報に加えて、いくつかの実施形態では、質量分析計はまた、較正を行うときに、質量分析計の動作状態に関する更なる情報を考慮し得る。
【0092】
いくつかの実施形態では、所与のイオン光学特性電圧に対して発生する非意図的解離量はまた、質量分析計の圧力に依存し得る。質量分析計の圧力、例えば、1つ以上のイオン光学デバイスの領域における質量分析計の圧力の変動は、発生する非意図的解離量に影響を及ぼし得る。例えば、質量分析計の圧力の低下は、質量分析計内のイオン冷却の効率の低減をもたらし得、イオン光学デバイスを通過するときに、イオンがより高い運動エネルギーを有することにつながる。イオンがより高い運動エネルギーを有する場合、非意図的な解離がより発生しやすい場合がある。
【0093】
いくつかの実施形態では、比較的一貫した非意図的解離量を有する質量分析計を提供することが望ましい。これにより、特性電圧は、圧力における任意の変動、及び非意図的な解離に対して有し得る、結果として生じる影響を考慮するために、更に較正及び制御され得る。
【0094】
そのため、いくつかの実施形態では、質量分析計を較正する方法は、質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することを更に含み得る。真空圧力は、質量分析計内の様々な場所で測定され得る。例えば、
図1の質量分析計10では、質量分析計の真空の圧力は、注入フィルタ40において測定されてもよい。この領域では、注入フィルタ40を通過して屈曲フラタポール50に入るガスは、屈曲フラタポール50内のイオン冷却を提供する。このように、注入フィルタ40の領域内の真空の圧力は、質量分析計10のイオン光学デバイス内でイオンが冷却され得る効率を反映する。代替的に、真空の圧力は、他の場所、例えば、Sレンズ30の領域における質量分析計のフォア真空圧力(質量分析計10のフォア真空圧力)で測定されてもよい。圧力測定は、任意の好適な圧力センサ(
図1に図示せず)を使用して行われ得る。
【0095】
例えば、[MRFA]
2+などの較正イオンの場合、
図1の質量分析計は、トラップ電位の較正を行いながら、フォア真空圧力を測定し得る。以下の表1は、3%の目標非意図的解離量を提供する較正されたトラップ電位(trapping potential、TP)とフォア真空圧力との間の関係を示す。
【0096】
【0097】
表1は、異なるフォア真空圧力に対する、2.0Vのトラップ電位での2つの質量フラグメント([MRFA-MeSH]2+(m/z238.634Th)及び[RFA+H2O]+(m/z393.224))の非意図的解離量の値を示す。そこで、特性電圧(イオン経路指定マルチプル120のトラップ電位)は、発生する非意図的解離量が約3%であるように、上記の方法200に従って較正される。各フォア真空圧力に対する較正されたトラップ電位が表1に示される。これにより、較正イオンの非意図的な解離の同様の量を維持するために、フォア真空圧力が低下するにつれて、特性電圧も低下し得ることが理解されよう。
【0098】
特性電圧の較正を行うときに圧力を測定することによって、その後、特性電圧は、測定された真空圧力とMS1スペクトル内に存在する較正イオンの非意図的解離量とに基づいて較正することができる。このように、較正方法は、較正を行うときに、質量分析計/イオン光学デバイスの圧力に留意することができる。
【0099】
そこで、サンプルイオンを使用してMS1分析を行うために質量分析計が使用されるとき、質量分析計10は、同じ圧力センサを使用して更なる圧力測定を行い得る。次いで、質量分析計10は、測定された圧力に基づいて以前に較正された特性電圧を更新し得る。このように、質量分析計の圧力が、較正が行われた圧力と異なる場合、質量分析計は、イオン冷却効率の変化を考慮するように、特性電圧を更新し得る。
【0100】
いくつかの実施形態では、質量分析計は、圧力と、特性電圧と、結果として生じる非意図的解離量との間の所定の関係に基づいて、特性電圧を更新し得る。この関係は、例えば、圧力の変動に応じた特性電圧の線形又は非線形の調整であってもよい。所望の線形又は非線形の関係は、測定された圧力に基づいて特性電圧を更新する目的で、コントローラ130によって提供されてもよい。いくつかの実施形態では、この関係は、質量分析計の異なる特性電圧及び動作圧力において一連のMS1分析を行うことによって、較正プロセス中に判定され得る。
【0101】
例えば、
図5は、
図1の質量分析計のフォア真空圧力と、3%の[MRFA]
2+較正イオンの目標非意図的解離量を提供する、較正されたトラップ電位との間の関係のグラフを示す。
図5のグラフでは、移送管25の温度を変動させることによって、及びフォア真空ポンプのガスバラストを閉鎖又は開放することによって、フォア真空圧力を意図的に変動させた。これにより、質量分析計10は、真空圧力と較正された特性電圧との間の経験的関係を確立するために、一連のMS1実験を行うように構成され得ることが理解されよう。そのような実験は、質量分析計10を較正する方法の一部として行われ得る。
【0102】
図6は、
図1の質量分析計のフォア真空圧力と、結果として生じる較正されたトラップ電位(3%の非意図的な解離に対するトラップ電位)との間の関係の更なるグラフを示す。
図6はまた、異なるフォア真空圧力に対する2.0Vのトラップ電位での[MRFA]
2+の[RFA+H2O]
+(m/z393)への非意図的解離量のグラフを示す。
図6に示される測定値(及び関連する較正されたトラップ電位)は、320℃の一定の移送管25温度で得られた。これにより、質量分析計10は、真空圧力と較正された特性電圧との間の経験的関係を確立するために、一連のMS1実験を行うように構成され得ることが理解されよう。この測定は、例えば、
図5及び
図6に示すように、複数の異なる移送管25の温度で行われてもよい。そのような実験は、質量分析計10を較正する方法の一部として行われ得る。
【0103】
図7は、移送管25の温度と、結果として生じる較正されたトラップ電位(3%の非意図的な解離に対するトラップ電位)との関係の更なるグラフを示す。
図7はまた、異なる移送管25の温度に対する、2.0Vのトラップ電位での[MRFA]
2+の[RFA+H2O]
+(m/z393)及び[MRFA-MeSH]
2+(m/z238.634Th)への非意図的解離量のグラフを示す。
図7に示される測定値(及び関連する較正されたトラップ電位)は、1.94mbarの一定のフォア真空圧力で得られた。これにより、質量分析計10は、移送管25温度(又は実際には、任意のイオン光学デバイスの温度)と較正された特性電圧との間の経験的関係を確立するために、一連のMS1実験を行うように構成され得ることが理解されよう。この測定は、複数の異なる真空圧力で行われ得ることが理解されよう。そのような実験は、質量分析計10を較正する方法の一部として行われ得る。
【0104】
質量分析計10が一連のMS1及び/又はMS2分析を行う動作中、特性電圧は、質量分析計の圧力に基づいて繰り返し更新され得る。例えば、質量分析計10は、約15分ごとに、又は測定された圧力が閾値量を上回って(例えば、0.01mbarだけ)変化する度に、特性電圧を更新してもよい。例えば、質量分析計10は、質量分析計10を較正する方法の一部として取得される、フォア真空圧力と特性電圧との間の関係に基づいて(例えば、
図5、
図6、及び
図7に示される関係に基づいて)、特性電圧を更新してもよい。
【0105】
上述の実施形態によれば、更新される特性電圧は、例えば、イオン経路指定多重極120のトラップ電位であってもよい。別の実施形態では、更新される特性電圧は、例えば、Sレンズ30に印加されたRF電位であってもよい。Sレンズ30の領域における質量分析計10の圧力はまた、Sレンズ30を通るイオン輸送の特性に影響を及ぼし得る。このように、Sレンズ30の特性電圧はまた、上述の方法に従って、非意図的解離量及び質量分析計10の圧力に基づいて較正され得る。更に、英国特許第2569639(A)号に更に記載されているように、イオン輸送特性を改善するために、Sレンズ30に印加されたRF電圧が制御され得る。
【0106】
上記の方法は、質量分析計10の圧力に基づいて特性電圧を更新することを含むが、質量分析計はまた、質量分析計10内で発生する非意図的解離量に影響を及ぼし得る、質量分析計10の他のパラメータに基づいて特性電圧を更新し得ることが理解されよう。このように、特性電圧は、質量分析計10の動作中に発生する非意図的解離量の変動を低減又は排除するために、質量分析計10の1つ以上のセンサからのフィードバックを介して制御され得る。例えば、イオン光学デバイスのうちの1つ以上の温度はまた、例えば、MS1分析中に発生する非意図的解離量に影響を及ぼし得る。例えば、
図7に示すように、移送管25の温度と較正されたトラップ電位との間の関係が確立され得る。そのため、移送管25の温度に基づいて、特性電圧が制御され得る。
【0107】
そのため、イオンの非意図的解離量を提供するように較正され得る質量分析計10が提供される。すなわち、例えば、MS1分析を行うとき、サンプルイオンの非意図的解離量は、異なる時間に、又は異なる質量分析計上で実行されるMS1分析が、サンプルイオンの非意図的な解離という点で同等であり得るように制御され得る。サンプルイオンの非意図的な解離の制御は、分析されるサンプルイオンが、アミノ酸(例えば、イソロイシン、フェニルアラニン)のイオン、(オリゴ)ペプチド(例えば、MRFA、ALELFR、サブスタンスP(RPKPQQFFGLM))のイオン、及び脂質のイオンなどの比較的脆弱なイオンである場合に特に関連する。
【0108】
本発明の好ましい実施形態を本明細書で詳細に記載してきたが、本発明の範囲又は添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、本発明の実施形態に変更を加え得ることが当業者には理解されよう。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量分析計を較正する方法であって、
イオン源から較正イオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記較正イオンを輸送することであって、前記イオン光学デバイスに印加された特性電圧が、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御し、前記印加された特性電圧はまた、前記較正イオンの非意図的解離量をもたらす、輸送することと、
前記較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、前記質量分析器を使用して前記較正イオンのMS1分析を行うことと、
前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量を判定することと、を含み、
前記イオン光学デバイスの前記特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて較正される、方法。
【請求項2】
前記非意図的解離量は、前記較正イオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に対する、前記較正イオンのフラグメントイオンに関連付けられた質量スペクトルピークの強度に基づいて判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記目標非意図的解離量は、15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記目標非意図的解離量は、1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲内である、請求項
2に記載の方法。
【請求項5】
複数のMS1分析が、異なる特性電圧で行われ、前記較正イオンの前記非意図的解離量は、MS1スペクトルごとに判定され、
前記特性電圧は、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて較正される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記特性電圧は、前記イオン光学デバイスにDCオフセットを提供するために前記イオン光学デバイスに印加された少なくとも1つのDC電圧であるか、又は
前記特性電圧は、前記イオン光学デバイス内にイオンを閉じ込めるように構成された、前記イオン光学デバイスに印加された少なくとも1つのRF電圧である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記イオン光学デバイスは、イオントラップである、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析器に前記較正イオンを輸送することは、前記較正イオンを前記イオントラップ内に格納することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記特性電圧は、前記イオントラップに印加された複数の電圧を較正するために使用され、前記複数の電圧は、較正イオンを前記イオントラップ内に注入することと、較正イオンを前記イオントラップ内に閉じ込めることと、較正イオンを前記イオントラップから排出することと、のうちの1つ以上を制御するように構成されている、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することを更に含み、
前記イオン光学デバイスの前記特性電圧は、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量及び測定された前記真空圧力に基づいて較正される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン光学デバイスは、多重極アセンブリ、好ましくは、四重極アセンブリを備える、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記較正イオンを輸送することは、
前記イオン源から、前記較正イオンを質量フィルタリングする質量セレクタに前記較正イオンを輸送することと、
前記イオン光学デバイスに前記較正イオンを輸送することと、
前記イオン光学デバイスから前記質量分析器に前記較正イオンを輸送することと、を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記質量分析器は、軌道トラップ質量分析器、飛行時間質量分析器、フーリエ変換質量分析器、イオントラップ質量分析器、四重極質量分析器、又は磁気セクタ質量分析器を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
複数の質量分析計が、MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように較正される、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
質量分析計のための質量分析の方法であって、
イオン源からサンプルイオンを生成することと、
イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の質量分析器に前記サンプルイオンを輸送することであって、前記イオン光学デバイスに印加された特性電圧が、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御する、輸送することと、
前記サンプルイオンのMS1スペクトルを取得するように、前記質量分析器を使用して前記サンプルイオンのMS1分析を行うことと、を含み、
前記MS1分析中にサンプルイオンの非意図的解離量を提供するように、前記イオン光学デバイスの前記特性電圧が、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法に従って較正される、方法。
【請求項16】
前記サンプルイオンに関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に対する、前記サンプルイオンのフラグメントイオンに関連付けられた1つ以上の質量スペクトルピークの強度に基づいて、非意図的解離量を判定することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記非意図的解離量は、前記イオン光学デバイスを介して前記質量分析器に輸送される前記サンプルイオンの15%、10%、7%、5%、3%、2%、1%、又は0.5%以下である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記非意図的解離量は、前記イオン光学デバイスを介して前記質量分析器に輸送される前記サンプルイオンの1%~10%、又は2%~8%、又は3%~6%の範囲内である、請求項
15に記載の方法。
【請求項19】
前記質量分析計に関連付けられた真空圧力を測定することと、
前記質量分析計の前記真空圧力に基づいて、前記イオン光学デバイスの前記特性電圧を更新することと、を更に含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項20】
質量分析計であって、
較正イオンを生成するように構成されたイオン源と、
前記イオン源から較正イオンを受け取るように構成されたイオン光学デバイスと、
前記イオン光学デバイスから較正イオンを受け取るように構成された質量分析器と、
コントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記イオン源に較正イオンを生成させることと、
前記質量分析計に、前記イオン光学デバイスを介して前記イオン源から前記質量分析計の前記質量分析器に前記較正イオンを輸送させることであって、前記イオン光学デバイスの中への及び/又は前記イオン光学デバイスから外へのイオンの通過を制御するように、特性電圧が前記イオン光学デバイスに印加され、印加された前記特性電圧は、前記較正イオンの非意図的解離量をもたらす、輸送させることと、
前記質量分析器に、前記較正イオンのMS1スペクトルを取得するように、前記較正イオンのMS1分析を行わせることと、
前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量を判定することと、
MS1分析中に較正イオンの目標非意図的解離量を提供するように、前記MS1スペクトル内に存在する前記較正イオンの前記非意図的解離量に基づいて前記イオン光学デバイスの前記特性電圧を較正することと、
を含む、前記質量分析計の較正を行うように構成されている、質量分析計。
【国際調査報告】