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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】発熱製品
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20240621BHJP
   A41D 19/00 20060101ALI20240621BHJP
   A41D 13/005 20060101ALI20240621BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20240621BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240621BHJP
【FI】
H05B3/20 350
A41D19/00 N
A41D19/00 Z
A41D13/005 101
A41D31/04 Z
A41D31/00 502N
A41D31/00 502Q
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023577167
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2023-12-13
(86)【国際出願番号】 SG2022050400
(87)【国際公開番号】W WO2022265576
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2108525.3
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522026474
【氏名又は名称】マス・イノベイション・(プライベイト)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MAS Innovation (Private) Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】デ シルバ エイチ.エル.,サラカ
(72)【発明者】
【氏名】ペレラ,エム.チャミカ
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラシリ,マドゥカ
【テーマコード(参考)】
3B033
3B211
3K034
【Fターム(参考)】
3B033AB03
3B033AC10
3B211AA00
3B211AB01
3B211AC01
3B211AC17
3K034AA02
3K034AA06
3K034AA12
3K034BA02
3K034BA12
3K034BB08
3K034BB10
3K034BB15
3K034BC10
3K034BC12
3K034BC14
3K034BC24
3K034FA02
3K034FA13
3K034GA05
3K034HA05
3K034JA01
3K034JA09
(57)【要約】
基層と、前記基層上に形成された発熱層であって、お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤと、前記各ワイヤをコード刺繍により前記第1繊維層に固定している熱伝導性コーディング糸であって、前記各ワイヤに沿って延設され、前記各ワイヤに巻き付けられている熱伝導性コーディング糸と、から形成されている発熱層と、前記基層上に形成された少なくとも1つの熱伝導層と、を備え、前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して発熱させるための電源に接続可能であり、前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置されている、発熱製品を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、
前記基層上に形成された発熱層であって、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤと、
前記各ワイヤをコード刺繍により前記第1繊維層に固定している熱伝導性コーディング糸であって、前記各ワイヤに沿って延設され、前記各ワイヤに巻き付けられている熱伝導性コーディング糸と、を備える発熱層と、
前記基層上に形成された少なくとも1つの熱伝導層と、を備え、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して発熱させるための電源に接続可能であり、
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置されている、発熱製品。
【請求項2】
前記基層は熱伝導性糸を備えている、請求項1に記載の発熱製品。
【請求項3】
前記少なくとも1つの熱伝導層は第1熱伝導層を含み、
前記基層が前記発熱層と前記第1熱伝導層との間に介在している、請求項1又は2に記載の発熱製品。
【請求項4】
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層と前記基層との間に介在している第2熱伝導層を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項5】
前記発熱層上に形成された断熱層を更に備え、
前記発熱層が前記基層と前記断熱層の間に介在している、請求項1~4のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項6】
前記断熱層は多孔質である、請求項5に記載の発熱製品。
【請求項7】
前記断熱層上に形成された熱反射層を更に備え、
前記断熱層が前記発熱層と前記熱反射層との間に介在している、請求項5又は6に記載の発熱製品。
【請求項8】
前記発熱層上に形成されたカバー層を更に備え、
前記発熱層が前記基層と前記カバー層との間に介在している、請求項1~7のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項9】
前記各ワイヤは、
複数の導電性フィラメントと、
前記導電性フィラメントを囲む絶縁部材と、を備えたマルチフィラメント構造を有している、請求項1~8のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項10】
前記マルチフィラメント構造は、前記絶縁部材の周囲に保護コーティングを更に備えている、請求項9に記載の発熱製品。
【請求項11】
前記保護コーティングは、ポリマー材を含む、請求項10に記載の発熱製品。
【請求項12】
発熱製品の製造方法であって、
基層を形成する工程と、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤを備えた発熱層を前記基層上に形成する工程と、
前記各ワイヤに沿って延設されて前記各ワイヤに巻き付けられる熱伝導性のコーディング糸を用いてコード刺繍により前記各ワイヤを前記基層に固定する工程と、
少なくとも1つの熱伝導層を前記基層上に形成する工程と、を含み、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して、発熱させるための電源に接続可能であり、
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置される、製造方法。
【請求項13】
前記発熱層を形成する工程は、
前記基層上に、連続した導電性ワイヤを形成する工程と、
前記連続した導電性ワイヤを、前記連続した導電性ワイヤが形成する1つ又は複数のループにおいて切断して、前記複数の導電性ワイヤを形成する工程と、を含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記各ワイヤを固定する工程は、前記ループを切断する前に、前記コード刺繍により前記連続したワイヤを前記基層に固定する工程を含む、請求項12又は13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの熱伝導層を形成する工程は、第1熱伝導層を含み、
前記基層が前記発熱層と前記第1熱伝導層との間に介在する、請求項12~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層と前記基層との間に介在する第2熱伝導層を含んでいる、請求項12~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記発熱層上に断熱層を形成する工程を更に含み、
前記発熱層が前記基層と前記断熱層の間に介在する、請求項12~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記断熱層上に熱反射層を形成する工程を更に含み、
前記断熱層が前記発熱層と前記熱反射層との間に介在する、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記発熱層上にカバー層を形成する工程を更に含み、
前記発熱層が前記基層と前記カバー層との間に介在する、請求項12~18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
繊維体と、
請求項1~11のいずれか1項に記載の発熱製品であって、前記繊維体に固定された発熱製品と、を備えた着用可能製品。
【請求項21】
前記ワイヤと前記電源との間を接続するために中間コネクタを更に備えている、請求項20に記載の着用可能製品。
【請求項22】
前記中間コネクタは、前記電源の正極と負極に対応する一対の磁気素子を備えている、請求項21に記載の着用可能製品。
【請求項23】
治療用製品である、請求項20~22のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【請求項24】
前記繊維体に固定された圧縮素子を更に備え、該圧縮素子は圧縮圧力を印加するように構成されている、請求項20~23のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【請求項25】
グローブである、請求項20~24のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、発熱製品に関する。より具体的には、本開示は、発熱をするために、衣類などに使用される発熱製品と、発熱製品を製造する方法の様々な実施形態を記載するものである。
【背景技術】
【0002】
現在市販されている衣類には、それを着用しているユーザに温熱快適性や治療上の利益をもたらすために発熱素子を備えたものが多数ある。特に、そのような衣類は、衣類の繊維材に発熱素子を組み込むことで製造されている。例えば、発熱素子は、発熱が所望されている繊維材の領域に渡って展開された連続した導電性糸である。しかし、もし発熱領域が比較的広い場合、導電性糸の全長は長くなり、これにより、そのようなシステムでの全体的な電気抵抗が高くなる。導電性糸で発熱するのにより大きな電流を供給する電源が必要となるが、これは、多くの場合、この衣類を所望の長さの時間使用するために、ユーザがより大きい/より重い電源を携帯する必要がある、ということを意味する。また、導電性糸は、外部に曝されたり、何度か洗濯されたりすると、導電性糸の摩耗や切断により電気抵抗に変化が生じうる。また、導電性糸が外部に曝されると、導電性糸の酸化につながり、発熱の信頼性を損なうことになりうる。
【0003】
よって、少なくとも上記の課題若しくは不利な点の解消又は軽減するために、改良された発熱製品を提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の第1の態様によれば、発熱製品が提供され、該発熱製品は、
基層と、
前記基層上に形成された発熱層であって、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤと、
前記各ワイヤをコード刺繍により前記第1繊維層に固定している熱伝導性コーディング糸であって、前記各ワイヤに沿って延設され、前記各ワイヤに巻き付けられている熱伝導性コーディング糸と、を備える発熱層と、
前記基層上に形成された少なくとも1つの熱伝導層と、を備え、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して発熱させるための電源に接続可能であり、
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置されている、発熱製品である。
【0005】
本開示の第2の態様によれば、発熱製品の製造方法が提供され、該製造方法は、
基層を形成する工程と、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤを備えた発熱層を前記基層上に形成する工程と、
前記各ワイヤに沿って延設されて前記各ワイヤに巻き付けられる熱伝導性のコーディング糸を用いてコード刺繍により前記各ワイヤを前記基層に固定する工程と、
少なくとも1つの熱伝導層を前記基層上に形成する工程と、を含み、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して、発熱させるための電源に接続可能であり、
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置される、製造方法である。
【0006】
本開示による発熱製品を本明細書に開示する。本開示の様々な特徴、態様、及び効果は、添付の図面を参照して非限定な例示を示すのみのものである、以下に記載する本開示の実施形態の詳細によってより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、本開示の実施形態による発熱製品の断面図である。
図2図2は、本開示の実施形態による発熱製品の発熱層を示す図である。
図3図3は、本開示の実施形態による発熱製品の発熱層を示す図である。
図4図4は、本開示の実施形態による発熱製品の発熱層を示す図である。
図5図5A及び図5Bは、本開示の実施形態による発熱製品の両側を示す図である。
図6図6A及び図6Bは、従来の刺繍と、本開示の実施形態による発熱層のコード刺繍を示す図である。
図7図7A及び図7Bは、本開示の実施形態による発熱製品の発熱層の形成を示す図である。
図8図8A及び図8Bは、本開示の実施形態による発熱製品の他の構成を示す図である。
図9図9は、本開示の実施形態による発熱製品の熱伝導層を示す図である。
図10図10は、本開示の実施形態による発熱製品を備えた、着用可能製品の図である。
図11図11は、本開示の実施形態による着用可能製品に組み込まれた発熱製品の発熱層を示す図である。
図12図12A及び図12Bは、本開示の実施形態による発熱製品に対して行ったテストの結果である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示や、任意の要素の描写、又は、特定の図やそれを参照する記載における特定の要素番号の使用や説明は、他の図やそれに関する記載において特定する要素や要素番号と同じ、均等、又は、同様のものを包含するものである。図やそれに関する文章での「/」の使用は、別途記載がない限り、「及び/又は」を意味する。本開示における特定の数値や数値的範囲の記載は、近似値や近似の数値的範囲を包含、又は、近似値や近似の数値的範囲であると理解すべきものである。
【0009】
簡潔性と明確性のために、本開示の実施形態の説明は、図面を参照して、一発熱製品に対してなされる。本開示の態様は本明細書において提示される実施形態と合わせて説明されるが、本開示をこれら実施形態に限定する意図ではないことは理解されよう。そうではなく、本開示は、本明細書に記載の実施形態に対する代替、変形、及び均等物を包含することを意図し、これら代替、変形、及び均等物も添付の特許請求の範囲により定義された本開示の範囲の中に含まれる。更に、以下の詳細な説明においては、本開示の理解を深めるために具体的な詳細が示されている。しかし、本技術分野において通常の知識を有するもの、つまり、当業者には理解されるように、本開示は特定の詳細がなくとも実施可能であり、及び/又は、特定の実施形態の態様の組み合わせから生ずる複数の詳細により実施可能である。本開示の実施形態の態様を不必要に不明瞭にすることを避けるため、多くの場合、周知のシステム、方法、手順、及び、構成要素についての詳細な説明は省略している。
【0010】
本開示の典型的な、又は、例示的な実施形態において、図1に図示するような発熱製品100を提供する。発熱製品100は、複合材料の形態であり、基層110と、基層110の上に形成された発熱層120とを備えている。発熱製品100が、発熱層120の上に形成されたカバー層130を更に備え、発熱層120が基層110とカバー層130との間に介在している構成であってもよい。
【0011】
基層110とカバー層130は、編材、織材、又は不織材であってもよい繊維材からなるものであってもよい。繊維材は、伸縮性を得るために、編材であることが好ましい。基層110とカバー層130の繊維材により、発熱製品100は、それを着るユーザに温熱快適性と治療的な利益をもたらすためなどで発熱機能を必要とする衣類に組み込まれるのにより適切なものとなるであろう。特に、ユーザが発熱製品100を使用する際に、基層110はユーザの皮膚に近いところに配置され、皮膚に直接接触する可能性もある。
【0012】
図2及び図3を更に示すように、発熱層120は、お互いと電気的に並列に配置されている複数の導電性ワイヤ122を備えている。ワイヤ122は、ワイヤ122に電流を通電して発熱させるための電源に接続可能である。導電性ワイヤ122を発熱ワイヤ122と称する場合もある。より具体的には、各ワイヤ122は、正極端と負極端を有し、各ワイヤ122の正極端と負極端の間で並列に電流が流れるように配置されている。発熱層120は、コード刺繍により各ワイヤ122を基層110に固定している熱伝導性コーディング糸124を更に備えている。コーディング糸124は、各ワイヤ122に延設され、各ワイヤ122に巻き付いている。発熱製品100は、基層110上に形成された少なくとも1つの熱伝導層140を備えている。該少なくとも1つの熱伝導層140は、発熱層120からの伝熱を略均一化するように配置されている。以下に、該少なくとも1つの熱伝導層140を更に説明する。
【0013】
各ワイヤ122は、複数本の導電性フィラメントと、該導電性フィラメントを囲む絶縁部材とを備えたマルチフィラメント構造を有する構成であってもよい。導電性フィラメントは、電流に応じて発熱するのに好適な任意の材料からなっていてもよい。例えば、サステナビリティの向上のため、導電性フィラメントは銅からなり、スズをコーティングした構成であってもよい。絶縁部材は、外部から銅フィラメントを電気的に絶縁するのに好適な任意の材料からなっていてもよい。更に、絶縁部材は、ワイヤ122を補強又は強化するのに好適な材料からなっていてもよい。例えば、絶縁部材は、ナイロンや、その他の合成材料からなっていてもよい。絶縁部材は、ユーザの安全性を更に高め、発熱製品100の使用寿命を向上させる。
【0014】
マルチフィラメント構造は、絶縁部材の周囲に保護コーティングを更に備えた構成であってもよい。保護コーティングは、ワイヤ122の最外層であり、ワイヤ122を更に保護、強化するもので、特に発熱製品100が組み込まれた衣類を洗濯する際の水の侵入などの外部からの異物の侵入を防止する。例えば、保護コーティングは、ポリマー材などからなる、又は、ポリマー材などを含む構成であり、ポリマー材としては、保護コーティングのせいでワイヤ122を硬くすることがないように、より強靭且つより柔軟であるポリウレタンなどが挙げられる。また、ワイヤ122の全径は、0.5~5mmまでなどに抑え、ワイヤ122の柔軟性を維持し、特に衣類において使用された時の発熱製品100のドレープ性を向上させる。マルチフィラメント構造は、導電性フィラメントに囲まれたコアを更に備えて、ワイヤ122を更に支持する構成であってもよい。コアは、ナイロンや、その他の合成材料からなっていてもよい。
【0015】
更に図4に示すように、各ワイヤ122は、熱伝導性コーディング糸124によりコード刺繍されて基層110に固定されており、ワイヤ122の両端部が電源に接続可能となっている。例えば、ワイヤ122の正極端と負極端のそれぞれは、電源に直接接続可能となっていてもよく、リードワイヤなどのそれぞれに対応する電気素子126を介して電源に接続可能となっていてもよい。電気素子126は、電気素子126での発熱を最小限に抑制しつつワイヤ122に電流を流すことができるように電気抵抗が非常に小さい細いワイヤであることが好ましい。電気素子126は、防水性の接着剤、熱接着剤、又は、ポリウレタン系接着剤などの保護コーティングで覆われて、電気素子126の導電性フィラメントへの水の浸透を防ぐように構成されていることが好ましい。例えば、保護コーティングは、電気素子126のフィラメントが露出している領域をカバーする。電気素子126は、むき出しになっているところだけで露出されていればよく、電源との接続のための露出領域は通常小さいので、保護コーティング(特に、接着剤)の塗布は、発熱製品100の滑らかさを維持できるように適宜多すぎない程度で行われる。
【0016】
発熱層120において、導電又は発熱ワイヤ122は、お互いと電気的に並列に配置されている。発熱ワイヤ122は、電気接続性の面で電気的に並列であればよく、発熱ワイヤ122は物理的構成や設計について特に限定されない。複数のワイヤ122を発熱層120において様々に配置して、様々な領域サイズをカバーすることができる。例えば、複数のワイヤ122を同様のパターン若しくは違うパターンで配置し、より広い領域に展開して加温効率を向上させる構成であってもよい。ワイヤ122の配置により、様々な方向における伸縮性を向上させることができる。例えば、ワイヤ122を略直線状に一方向に配置することで、縦方向の伸縮性を向上させることができる。ワイヤ122は、一方向、複数方向、又は、全方向においてそのような性質を達成するように適宜配置してもよいことは理解されよう。
【0017】
より重要な点として、複数のワイヤ122を共通電源に接続する構成により、同じ領域に連続したワイヤを一本のみ設けることを回避でき、複数のワイヤ122がお互いと電気的に並列なので、(オームの法則に則り)全体的な電気抵抗を低減することができる。ワイヤ122の全体的な電気抵抗が低減されれば、ワイヤ122において略同じ発熱量を発生させるのに、電圧が同じであれば、同じ電源はより少ない電流を供給すればよい。電源をより軽量且つ小型にすることができ、発熱製品100の使用寿命を所望のものとすることができ、よって、ユーザにとってより可搬性が高いものとすることができる。ワイヤ122を流れる電流を低減することで、発熱製品100をユーザに対してより安全性が高いものとすることができる。
【0018】
図2及び図3に図示する一実施形態において、発熱層120はお互いと電気的に並列に配置された2本のワイヤ122を有している。各ワイヤ122は、同じ長さで同じタイプのもの、例えば、同一の材料で形成されて、各ワイヤ122の電気抵抗が等しくなるように構成されている。例えば、長さが等しい複数のワイヤ122は抵抗も等しく、ワイヤ122には電流が等しく分配され、各ワイヤ122に流れる電流を下げることにつながる。両方のワイヤ122は、電気的に並列に配置されており、ワイヤ122の全体的な電気抵抗は半減されている。ジュール加熱プロセスに則り、印加される電圧が同じであれば、電流が大きくなるほどワイヤ122での発熱量は増加する。同様に、全体的な電気抵抗が低減されると、ワイヤ122で同じ発熱量を生じさせるのに印加される電圧を下げることができる。お互いと電気的に平行に配置されるワイヤ122の数が増えれば全体的な電気抵抗が更に低減されることは、理解されるであろう。
【0019】
図3及び図4に示すように、コード刺繍により、コーディング糸124は、ワイヤ122に沿って延設され、ワイヤ122に巻き付いて、ワイヤ122を基層110に固定する。コーディング糸124は、発熱層120から基層110への伝熱を促進するように高い熱伝導率を有する任意の材料からなる。例えば、コーディング糸124は、天然糸であってもよく、ポリエステル、ナイロン、又は、金属材料からなる合成糸であってもよい。ワイヤ122は、その略全長に渡り、コーディング糸124を用いたコード刺繍によって縫い付けられている。コーディング糸124はワイヤ122に巻き付いており、洗濯時などで外部からワイヤ122を保護する。これによりワイヤ122に対するダメージのリスクを低減し、ワイヤ122の使用寿命に渡ってワイヤ122の電気抵抗や熱効率を維持する。コーディング糸124を使ってワイヤ122を捕捉することで、ワイヤ122の保全性を損なうことなくワイヤ122を基層110により強固に固定することができる。発熱層120は、ワイヤ122の1つ又は複数の部分を基層122に固定するために、閂止め縫いなどの補強ステッチ128を更に備えていてもよい。例えば、補強ステッチ128は、ワイヤ122の両端部、又は、その近傍に配置されている。
【0020】
更に図5A及び図5Bに示すように、ワイヤ122はコーディング糸124を用いるコード刺繍により基層110に固定されている。基層110の一方の面においてワイヤ122とコーディング糸124とが見えているが(図5A)、基層110の他方の面(皮膚対向面)においてはコーディング糸124のみが見えている(図5B)。コード刺繍は、従来の刺繍と違い、布の一方の面において立体的な凸状構造を形成するものの、他方の面(皮膚対向面)では非常に薄い糸目を形成してコーディング糸124を固定するのに使用できる。ワイヤ122に延設されるコーディング糸124のコード刺繍により、基層110上に様々なデザインの装飾を作成し、形成してもよい。
【0021】
図6Aに示す従来の刺繍では、発熱糸又はワイヤ50が基層60上に直接縫い付けられて組み込まれており、発熱糸50は皮膚70と直接接触する可能性がある。これにより、発熱糸50の領域の周りに局所的な高温ゾーンを生じ、皮膚にダメージを与えたり、皮膚の壊死を生じたりする可能性がある一方で、皮膚70の他の領域は発熱糸50と接触しておらず、受ける熱量は少なくなってしまう。ユーザの皮膚上の温度分布が均一にならず、結果として皮膚の活性の変化を生ずる可能性がある。このような発熱製品は、安全ではなく、信頼性が低いものとされるであろう。
【0022】
図6Bに図示される発熱製品100のコード刺繍においては、発熱ワイヤ122が基層110上に配置され、高い熱伝導性を有するコーディング糸124により、発熱ワイヤ122を基層110に固定している。発熱ワイヤ122が皮膚70に直接接触することがなく、局所的に高温になる領域は生じない。発熱ワイヤ122により生じた熱は、コーディング糸124と熱伝導層140を介して効率的に皮膚70に伝達される。
【0023】
本開示の様々な実施形態において、発熱製品100の製造方法200を提供する。本製造方法は、基層110を形成する工程を含む。本製造方法は、お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤ122を備えた発熱層120を基層110上に形成する工程を更に含む。本製造方法は、各ワイヤ122に沿って延設され、各ワイヤ122に巻き付ける熱伝導性コーディング糸124を用いたコード刺繍により各ワイヤ122を基層110に固定する工程を更に含む。コーディング糸124を用いたコード刺繍によりワイヤ122を固定するのにコーディィング装置を用いてもよい。上記のように、ワイヤ122は、ワイヤ122に電流を通電して発熱させる電源に接続可能である。本製造方法は、基層110上に少なくとも1つの熱伝導層140を形成する工程を更に含み、該少なくとも1つの熱伝導層140は発熱層120からの伝熱を略均一化するように配置されている。該少なくとも1つの熱伝導層140を下記に説明する。
【0024】
いくつかの実施形態では、ワイヤ122は基層110上に別々に又は一本ずつ形成される。図7Aに示すようないくつかの実施形態では、発熱層120は、まず、連続した導電性ワイヤ121を基層110上にて形成又は配置することで形成される。より具体的には、連続ワイヤ121を基層110上に1つ又は複数のループ123を形成してループ状に配置し、所望の発熱領域に渡って展開する。ループ123は、切断されて複数のワイヤ122を形成するように作成されている。連続ワイヤ121は、ループ123の切断が行われる前では、コーディング糸124を用いて基層110上に連続した状態で配置される。ワイヤ122の一部を拘束しない状態にして、次の切断工程を容易にするためにループ123にはコード刺繍をしない構成であってもよい。又は、任意で、補強ステッチ128をループ123の近くと連続ワイヤ121の他の領域に形成し、連続ワイヤ121を基層110に固定する構成であってもよい。
【0025】
図7Bに示すように、そして、ループ123を切断して、それぞれ正極端と負極端とを有する個々のワイヤ122を形成する。ワイヤ122の正極端を総じて電源の共通正極に接続することができ、また、同様に、ワイヤ122の負極端を総じて電源の共通負極に接続することができる。この電気回路では、ワイヤ122はお互いと電気的に並列であり、その全体的な電気抵抗を低減している。切断されるループ123の位置により、結果得られるワイヤ122の正極端/負極端は、お互いと近い位置にも、お互いから遠い位置にもなる。正極端と負極端がお互いから離れた位置にある場合、リードワイヤを用いて正極端/負極端に接続し、電源の共通正極/負極への接続を容易にする構成であってもよい。
【0026】
図8Aにワイヤ122の他の設計及び配置を示す。連続ワイヤ121は、同様にループ123を形成してループ状に基層110に配置され、所望の発熱領域に渡って展開されている。補強ステッチ128をループ123の近くと連続ワイヤ121の他の領域に形成し、連続ワイヤ121を基層110に固定する構成であってもよい。そしてループ123を切断して、それぞれ正極端と負極端とを有する個々のワイヤ122を形成する。ワイヤ122の正極端と負極端を総じて電源の共通正極/負極に接続することができる。
【0027】
図8Bにワイヤ122の他の設計及び配置を示す。連続ワイヤ121は、同様にループ123を形成してループ状に基層110に配置され、所望の発熱領域に渡って展開されている。更に、連続ワイヤ121は、発熱製品100のいくつかの機能素子125の周囲に配置されている。機能素子125はユーザに対して、何らかの機能を提供するものである。例えば、これら機能素子125はセンサと、刺激装置や振動装置などのアクチュエータを含む。これは、フレキシブルな配線配置により可能であり、ワイヤ122は、様々な技術の組み合わせを得るために、機能素子125を設けるように配置することができる。
【0028】
よって、発熱層120は、まず連続ワイヤ121を配置し、コーディング糸124を用いたコード刺繍により連続ワイヤ121を基層110に固定することで形成することができる。そして、固定された連続ワイヤ121を、それが形成する1つ又は複数のループ123において切断して、お互いと電気的に並列に配置された複数のワイヤ122を形成する。このようにして、コード刺繍のプロセスを中断することなく、一回の製造ラン又は一回のプロセスでワイヤ122を多数形成することができる。特に、コーディング糸124を連続ワイヤ121に巻き付ける作業を連続ランで行う。これにより、ワイヤを個々に形成し、各コーディング糸で個々のワイヤを固定するというより複雑で時間が掛かる構成と比較して、製造時間を短くすることができる。よって、発熱製品100をより短時間でより効率的に製造することができ、プロセスにおける製造コストを削減することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、基層110はユーザの皮膚により近い位置に配置されているので、基層110は熱伝導性糸を備えており、発熱層120からユーザへの伝熱を促進する構成としてもよい。例えば、基層110は、金属糸を備える構成であってもよく、金属材で構成されていてもよい。
【0030】
重要な点として、図1及び図9に示すように、発熱製品100は、基層110上に形成された、又は、基層110に固定された、少なくとも1つの熱伝導層を更に備えている。熱伝導層140の基層110への固定は、例えば、プリンティング、接着、又は、接着性を利用した塗布などで行ってもよい。又は、熱伝導層140は、基層110の繊維材に編み込む、又は、織り込む構成であってもよい。熱伝導層140は、グラフェン、金、銀、銅、アルミニウム、又は、他の金属材料などの、薄い材料からなる構成であってもよい。例えば、グラフェンは、約3000~5000W/m・Kという非常に高い熱伝導率を有し、グラフェンコーティングは、1か所からの熱を領域内に効率的に広げて、当該領域全体を均一に加熱することができる。または、熱伝導層140は、高い熱伝導率を有するように、様々な繊維ブレンドを含んだ材料、又は、(例えば、金属性又は非金属性の)任意の材料若しくは糸を含んだ材料からなる構成であってもよい。
【0031】
前記少なくとも1つの熱伝導層140は、発熱層120からの伝熱を略均一化するように配置されている。前記少なくとも1つの熱伝導層140は、第1熱伝導層140を含み、基層110が発熱層120と第1熱伝導層140との間に介在している構成としてもよい。第1熱伝導層140は、皮膚により近い位置に配置され、皮膚と直接接触する可能性もあり、発熱層120からユーザへの伝熱を略均一化するのを促進する。第1熱伝導層140は、発熱層120が生じた熱を面方向により広い領域全体により効率的に伝播し、ユーザの皮膚に対して熱を均一に広げる。よって、ワイヤ122が所望の発熱領域全体をカバーする必要がなく、ワイヤ122で生じた熱をワイヤ122がカバーしていない領域にまで広げることができる。これにより、使用するワイヤ122の全長を短くすることができ、発熱製品100全体のワイヤ密度を下げ、材料の使用量とコストを削減し、材料の柔軟性を向上することができる。
【0032】
熱伝導層140は、発熱層120により生じた熱の温度的安定化を助け、ユーザに対して均一的な温熱快適性をもたらし、発熱製品100に渡って一定温度での保温を行う。例えば、発熱製品100は、衣類などの治療用製品に組み込まれて、所定の発熱領域に渡って保温を一定化し、ユーザに対する治療的効果を向上する。いくつかの実施形態では、前記少なくとも1つの熱伝導層140は、基層110の裏面上に形成された第2熱伝導層140を含み、第2熱伝導層140が基層110と発熱層120との間に介在している構成であってもよい。いくつかの実施形態では、発熱製品100は第1及び第2熱伝導層140の両方を備え、第1及び第2熱伝導層140が協力してユーザに対する略均一化した熱分布を促進し、発熱製品100と接するユーザの皮膚における温度勾配を最小限にする構成であってもよい。
【0033】
図1に示すようないくつかの実施形態では、発熱製品100は、発熱層120上に形成された、又は、発熱層120に固定された断熱層150を更に備え、発熱層120が基層110と断熱層150の間に介在している構成である。断熱層150は、発熱層120が生じ、ユーザの皮膚から離れる方向に向う熱の損失を減らすバリアとして機能し、それにより発熱製品100の熱効率とユーザの皮膚に対する保温性を向上する。断熱層150は、薄く、軽量で、フレキシブルであることが好ましく、厚さは2~3mm以下であることが好ましい。断熱層150は、低い熱伝導率を有する任意の編材、織材、又は不織材からなる構成であってもよい。断熱層150は、多孔質であることが好ましく、又は、オープンスペース構造を有するものであることが好ましい。例えば、断熱層150は、3D織物、又は、スペーサ、又は、発泡体によりなる。又は、断熱層150は、密度と熱伝導率が非常に低い、多孔質で軽量な合成材料であるエアロゲル材からなる。断熱層150の多孔質構造又はオープンスペース構造によって断熱層150には、熱伝導率が約0.02W/m・Kと非常に低い空気を捉える空間が生じる。これにより、費用対効果が高い方法で外部への全体的な熱損失を減少させる。
【0034】
図1に示すようないくつかの実施形態では、発熱製品100は、断熱層150上に形成された、又は、断熱層150に固定された熱反射層160を更に備え、断熱層150が発熱層120と熱反射層160の間に介在している構成である。熱反射層160は、カバー層130の下面に、コーティングされた、又は、積層された、又は、接着された層として形成されていてもよい。熱反射層160は、発熱製品100の通気性のために細孔を有している構成であってもよい。断熱層150は、特に、多孔質構造を有している場合、発熱層120と熱反射層160の間に緩衝部、又は、ギャップを形成する。断熱層150を介した熱損失は、熱反射層160により反射され、発熱層120に向かって放射される。これにより、更に全体的な熱損失が減少し、熱効率が向上する。熱反射層160は、放射率が低い材料からなり、好ましくは、放射率が0に近い材料から形成されて、熱反射層160に対して放射される熱の少なくとも95%を反射するように構成される。該材料は、アルミニウム、金、又は、銀であってもよい。例えば、アルミニウムは、放射率が0.03と低く、97%の熱を発熱層120に反射する。
【0035】
よって、断熱層150及び熱反射層160は、協力して、発熱層120が生じた熱のほとんどを保ち、その熱のほとんどをユーザに向かって方向転換する。この組み合わせにより、外部への全体的な熱損失が減少し、発熱製品100の全体的な熱効率が向上する。ワイヤ122を加熱し、所望の温度とユーザの温熱快適性を得るのに必要な電力を低減しうる。
【0036】
いくつかの実施形態では、ワイヤ122は、コーディング糸124を用いたコード刺繍により基層110に直接固定されている。いくつかの実施形態では、発熱層120は、膜であってもよい中間層を更に備え、ワイヤ122は、中間層に固定されている。中間層は、発熱層120を基層110に移し、固定することを可能にする材料からなり、中間層が発熱層120と基層110との間に介在している。例えば、中間層は、他の表面に接合又は接着可能な膜状である熱可塑性のポリウレタンからなる。
【0037】
発熱製品100は、着用可能製品や衣類などの様々な製品に組み込むことが可能であり、ユーザに対する治療的効果などのために様々な他の技術を組み込んで構成されてもよい。発熱製品100を使用すれば、任意の領域に対して安定的で均一の温度を更に長い時間提供することで発熱を治療目的に利用することができる。発熱製品100の構造は薄く、柔軟性があるので、他の製品に組み込むことが容易である。この汎用性の一因は、ワイヤ122が、発熱製品100にその他の技術のための部品を組み込むスペースを確保して配置されていることにある。例えば、当該技術は、パルス電磁場(PEMF)療法、経頭蓋磁気刺激法(TMS)/反復TMS(rTMS)、経頭蓋直流電気刺激法(tDCS)、フォトバイオモジュレーション治療(PBM)、筋電図(EMG)、電気的筋肉刺激(EMS)、低温療法、能動的加圧、振動療法、加熱と組み合わせた軟膏剤の塗布などと関連するものであってもよい。当該技術のための様々なタイプのデータを測定するために、温度センサなどの様々なタイプのセンサ/アクチュエータを発熱製品100に追加してもよい。
【0038】
いくつかの実施形態では、繊維体と、繊維体に固定された発熱製品100とを備えた、衣類などの着脱可能製品を提供する。図10に示すような一実施形態では、着用可能製品は、発熱製品100を備えた発熱グローブ200である。発熱グローブ200は、ゲームにおいて使用されることができ、ゲーム中のゲーマーに手/手首の温熱快適性を提供することができる。発熱製品100は、発熱層120が手首領域202と手の甲領域204という発熱グローブの2つの領域に分布されるように発熱グローブ200の繊維体に埋め込まれている。特に、手首領域202は、ユーザの手首の手のひら側をカバーするように配置され、手の甲領域204はユーザの手及び/又は手首の甲側をカバーするように配置されている。図11に、発熱層120における電気的に並列であるワイヤ122の電気回路を示す。特に、ワイヤ122は、手首領域202と手の甲領域204を巡るようにループ状となり、バッテリ又はパワーバンクなどの電源206への接続のために、略同じ場所でループを終える。
【0039】
発熱グローブ200は、ワイヤ122(又は、ワイヤ122の末端に接続される場合は、電気素子/リードワイヤ126)と電源206との接続のために、ホストプレートなどの中間コネクタ208を備えていてもよい。中間コネクタ208は、接続先の電源206に対して適切な接続素子を備えている。接続素子は、電源206の着脱を容易にするように構成され、ユーザが発熱グローブ200を必要時に適宜使用できるようになっている。接続素子は、電源206の正極と負極に対応する一対の磁気素子を備えた構成であってもよい。磁気素子は、ネオジムからなる構成としてもよく、それにより、軽量、且つ、接続強度を有するものとなる。例えば、一対の磁気素子は、約21N、つまり、2kg以上の接続強度を有するものであってもよい。この接続強度により、電源206は、重量を約100gとすることができ、ユーザの手が動いても、発熱グローブにしっかりと固定される。他の実施例として、磁気素子は、USBコネクタ若しくはUSBポートを備えた構成であってもよい。接続素子は、電源206と発熱グローブ200との間の物理的及び電気的接続を容易にする様々なタイプのものであってもよいことは理解されよう。
【0040】
発熱グローブ200は、温熱快適性/治療効果を能動的に得るために使用することができる。発熱グローブ200は、発熱ワイヤ122において発熱し、約50℃まで温度を上げて、ユーザに不快感を与えることなく、ユーザの皮膚上の温度を所望のものとすることができる。発熱グローブ200の電気回路は、全体的な電気抵抗が2.5Ω未満であり、電源206は3.7Vのバッテリである。電気抵抗が低いため、この電源の電気供給により発熱グローブ200を1.5時間近くまで所望の温度とすることができる。電気抵抗が低いことは、一般に、ワイヤ122のためのスペースが限られている小さいシステムや衣料にとって有益である。
【0041】
発熱グローブ200は、反復運動損傷を有するユーザに対して温熱快適性をもたらすのに効果的であることが分かった。また、発熱製品100の薄く、フレキシブルな構造により、発熱グローブ200をデザイン性の高い形状のものにすることができる。更には、着用可能製品又は発熱グローブ200は、発熱製品100からの発熱特性を補完するための能動的/受動的圧縮特性を組み込んだ構成であってもよい。例えば、着用可能製品又は発熱グローブ200は、繊維体に固定され、圧縮圧力を印加するように構成された圧縮素子を備えている。このような発熱グローブ200をいくつかのグループのユーザで試用してもらったところ、数週間の試用後、これらユーザからは、温熱快適性が向上し、指や手、手首の領域における痛みが軽減され、また、プレイヤーのパフォーマンスとプレイ時間が向上したと報告があった。また、発熱グローブ200についてテストを行い、ピーク温度に発熱グローブ200が達するまでの時間を調べた。図12A及び図12Bに示すテスト結果によれば、発熱グローブ200は120秒未満で所望のピーク温度に達することができた。ピーク温度に達した後、この温度はトリートメントサイクル全体において一貫して安定的に保持された。ゲーミンググローブ200に使用されている発熱製品100に対して、容量のMWhが低い低電圧バッテリを用いて90分以上電気供給を行うことができた。バッテリモジュールの小型化は、安全面で有益なだけでなく、軽量化や、最終製品の魅力あるデザイン性の点でも有益である。
【0042】
発熱製品100は、軽量で、ドレープ性を有し、柔軟性がある製品として機能し、非常に薄いので、あらゆるフォームファクタの衣類などの他の製品に導入することが可能である。発熱製品100は、全体的な厚さが2mm未満であり、これにより発熱製品100はグローブや靴下からジャケットまであらゆるタイプの衣類に導入することが容易である。発熱製品100は、(発熱ワイヤ122とコーディング糸124とを備えた)発熱層120と、熱放散層との組み合わせを用いて、より広い領域に渡り熱を均一且つ効率的に放散するように構成されている。例えば、発熱製品100を衣類に組み込んだ場合、その衣類を着用したユーザは、ユーザの皮膚上で熱が均一に分配されていると感じるであろう。
【0043】
ユーザの皮膚上の発熱領域に渡る温度勾配は最大で3~5℃であることが理想的である。ヒトの皮膚上での温熱快適性の範囲は、身体上のどの位置や領域であるかや、体内の温度調節によるが、33.5~36.9℃である。多数の研究によれば、細胞死率は、皮膚が曝される温度レベルが上がるにつれ指数関数的に上昇し、この効果は暴露時間により更に加速する。皮膚の上層を、50℃を上回る温度に長時間曝すと、皮膚へのダメージや壊死につながる可能性があり、そのようなことをしてはならない。発熱製品100は発熱ワイヤ122において約50℃のピーク温度を達成することができ、これによりユーザが感じる温度は、50℃の安全閾値より低くなる。熱分布の均一化により、発熱製品100は、電流量を低減し、発熱素子が直接皮膚に触れることを回避しつつ、所望の発熱を、必要なレベル且つヒトの皮膚にとって安全であるとされている範囲内のレベルで行って、優れた熱刺激製品に要求される安全基準を達成することができる。
【0044】
上記の詳細な説明において、発熱製品に関する本開示の実施形態を添付の図面を参照して説明した。本明細書に記載の様々な実施形態の説明は、本開示の具体的又は特定の典型例を書き出し、それに限定することを意図したものではなく、本開示の非限定的な実施例を例示することだけを意図したものである。本開示は、上記の課題と従来技術の関する問題のうちの少なくとも1つを解消するのに役立つものである。本開示の実施形態のうち一部のみを本明細書に開示しているが、当業者にとり、本開示を鑑みて、本開示の範囲から逸脱することなく開示されている実施形態に対して様々な変更及び/又は改良をすることができることは明らかであろう。よって、本開示の範囲及び以下に示す特許請求の範囲は、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではない。
図1
図2
図3
図4
図5A-B】
図6A-B】
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A-B】
【手続補正書】
【提出日】2023-05-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、
前記基層上に形成された発熱層であって、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤと、
前記各ワイヤをコード刺繍により前記基層に固定している熱伝導性コーディング糸であって、前記各ワイヤに沿って延設され、前記各ワイヤに巻き付けられて前記各ワイヤを前記基層に縫い付けている熱伝導性コーディング糸と、を備える発熱層と、
前記基層上に形成された少なくとも1つの熱伝導層と、を備え、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して発熱させるための電源に接続可能であり、
前記熱伝導性コーディング糸は前記発熱層から前記基層への伝熱を促進し、前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置されている、発熱製品。
【請求項2】
前記基層は熱伝導性糸を備えている、請求項1に記載の発熱製品。
【請求項3】
前記少なくとも1つの熱伝導層は第1熱伝導層を含み、
前記基層が前記発熱層と前記第1熱伝導層との間に介在している、請求項1又は2に記載の発熱製品。
【請求項4】
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層と前記基層との間に介在している第2熱伝導層を含んでいる、請求項1~3のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項5】
前記少なくとも1つの熱伝導層はグラフェンからなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項6】
前記発熱層上に形成された断熱層を更に備え、
前記発熱層が前記基層と前記断熱層の間に介在している、請求項1~5のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項7】
前記断熱層は多孔質である、請求項に記載の発熱製品。
【請求項8】
前記断熱層上に形成された熱反射層を更に備え、
前記断熱層が前記発熱層と前記熱反射層との間に介在している、請求項6又は7に記載の発熱製品。
【請求項9】
前記熱反射層はアルミニウムからなる、請求項8に記載の発熱製品。
【請求項10】
前記発熱層上に形成されたカバー層を更に備え、
前記発熱層が前記基層と前記カバー層との間に介在している、請求項1~9のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項11】
前記各ワイヤは、
複数の導電性フィラメントと、
前記導電性フィラメントを囲む絶縁部材と、を備えたマルチフィラメント構造を有している、請求項1~10のいずれか1項に記載の発熱製品。
【請求項12】
前記マルチフィラメント構造は、前記絶縁部材の周囲に保護コーティングを更に備えている、請求項11に記載の発熱製品。
【請求項13】
前記保護コーティングは、ポリマー材を含む、請求項12に記載の発熱製品。
【請求項14】
発熱製品の製造方法であって、
基層を形成する工程と、
お互いと電気的に並列に配置された複数の導電性ワイヤを備えた発熱層を前記基層上に形成する工程と、
前記各ワイヤに沿って延設されて前記各ワイヤに巻き付けられ、前記ワイヤを前記基層に縫い付ける熱伝導性のコーディング糸を用いてコード刺繍により前記各ワイヤを前記基層に固定する工程と、
少なくとも1つの熱伝導層を前記基層上に形成する工程と、を含み、
前記複数のワイヤは、前記複数のワイヤに電流を通電して、発熱させるための電源に接続可能であり、
前記コーディング糸は前記発熱層から前記基層への伝熱を促進し、前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層からの伝熱を略均一化するように配置される、製造方法。
【請求項15】
前記発熱層を形成する工程は、
前記基層上に、連続した導電性ワイヤを形成する工程と、
前記連続した導電性ワイヤを、前記連続した導電性ワイヤが形成する1つ又は複数のループにおいて切断して、前記複数の導電性ワイヤを形成する工程と、を含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記各ワイヤを固定する工程は、前記ループを切断する前に、前記コード刺繍により前記連続したワイヤを前記基層に固定する工程を含む、請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの熱伝導層を形成する工程は、第1熱伝導層を含み、
前記基層が前記発熱層と前記第1熱伝導層との間に介在する、請求項14~16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの熱伝導層は、前記発熱層と前記基層との間に介在する第2熱伝導層を含んでいる、請求項14~17のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項19】
前記発熱層上に断熱層を形成する工程を更に含み、
前記発熱層が前記基層と前記断熱層の間に介在する、請求項14~18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記断熱層上に熱反射層を形成する工程を更に含み、
前記断熱層が前記発熱層と前記熱反射層との間に介在する、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
前記発熱層上にカバー層を形成する工程を更に含み、
前記発熱層が前記基層と前記カバー層との間に介在する、請求項14~20のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項22】
繊維体と、
請求項1~13のいずれか1項に記載の発熱製品であって、前記繊維体に固定された発熱製品と、を備えた着用可能製品。
【請求項23】
前記ワイヤと前記電源との間を接続するために中間コネクタを更に備えている、請求項22に記載の着用可能製品。
【請求項24】
前記中間コネクタは、前記電源の正極と負極に対応する一対の磁気素子を備えている、請求項23に記載の着用可能製品。
【請求項25】
治療用製品である、請求項22~24のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【請求項26】
前記繊維体に固定された圧縮素子を更に備え、該圧縮素子は圧縮圧力を印加するように構成されている、請求項22~25のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【請求項27】
グローブである、請求項22~26のいずれか1項に記載の着用可能製品。
【国際調査報告】