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特表2024-523293前駆体ガラスおよびそれから形成された、機械的耐久性が改善された透明ガラスセラミック物品
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】前駆体ガラスおよびそれから形成された、機械的耐久性が改善された透明ガラスセラミック物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/04 20060101AFI20240621BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C03C10/04
C03C3/097
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577182
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 US2022033705
(87)【国際公開番号】W WO2022266275
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/212,139
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】クーン,エリン
(72)【発明者】
【氏名】フゥ,チアン
(72)【発明者】
【氏名】スミス,シャーリーン マリー
(72)【発明者】
【氏名】ホイッティア,アラナ マリー
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA11
4G062BB01
4G062CC10
4G062DA06
4G062DB01
4G062DC01
4G062DD02
4G062DD03
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA03
4G062EA04
4G062EA05
4G062EB01
4G062EC01
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4G062EE02
4G062EE03
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4G062FH01
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4G062FL01
4G062GA01
4G062GA10
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
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4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM12
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
4G062QQ04
(57)【要約】
ガラスセラミック物品は、結晶相;残留ガラス相;52モル%以上かつ70モル%以下のSiO、14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品であって、
結晶相、
残留ガラス相、
52モル%以上かつ70モル%以下のSiO
14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、
0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、
0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および
0.5モル%以上かつ5モル%以下のP
を含むガラスセラミック物品。
【請求項2】
前記結晶相が二ケイ酸リチウムを含み、該二ケイ酸リチウムは、前記結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多い量で存在する、請求項1記載のガラスセラミック物品。
【請求項3】
前記二ケイ酸リチウムの粒子が、10nm以上かつ200nm以下の粒径を有する、請求項2記載のガラスセラミック物品。
【請求項4】
前記ガラスセラミック物品が、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含む、請求項1から3いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項5】
前記ガラスセラミック物品が、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含む、請求項1から4いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項6】
前記ガラスセラミック物品が、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含む、請求項1から5いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項7】
Al対SiOのモル比が、0以上かつ0.2以下である、請求項1から6いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
LiO対SiOのモル比が、0.2以上かつ0.7以下である、請求項1から7いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
前記ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘り、50%以上かつ95%以下である、請求項1から8いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【請求項10】
ダブルトーション法で測定した前記ガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、1.0MPa・m1/2以上である、請求項1から9いずれか1項記載のガラスセラミック物品。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2021年6月18日に出願された米国仮特許出願第63/212139号の優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品に関し、より詳しくは、前駆体ガラス組成物およびそれから形成されたイオン交換可能なガラスセラミック物品に関する。
【背景技術】
【0003】
カバーガラス、ガラスバックプレーン、筐体などのガラス物品が、スマートフォン、タブレット、携帯型メディアプレーヤー、パーソナルコンピュータ、およびカメラなどの消費者向けおよび業務用電子機器の両方に用いられている。これらの携帯型機器の持ち運べる性質のために、それらの機器およびその中に含まれるガラス物品は、特に、地面などの硬い表面に偶発的に落とされやすい。さらに、カバーガラスなどのガラス物品は、ガラス物品が、ユーザの指および/またはスタイラス器具を含む様々な物体と必然的に接触する「タッチ」機能性を備えることがある。したがって、ガラス物品は、引っかき傷などの損傷を受けずに、偶発的な落下および日常的な接触に耐えるほど十分に丈夫でなければならない。実際に、ガラス物品の表面に生じる引っかき傷は、ガラスの壊滅的な破壊をもたらす亀裂の開始地点として働くことがあるので、ガラス物品の強度を低下させることがある。
【0004】
さらに、ガラス物品の透過率など、ガラス物品の光学的特徴は、ガラス物品が携帯型電子機器におけるカバーガラスとして組み込まれた場合、重要な検討事項であろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ガラスに対して改善された機械的性質を有しつつ、ガラスと類似の光学的特徴も有する代替材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様A1によれば、ガラスセラミック物品は、結晶相;残留ガラス相;52モル%以上かつ70モル%以下のSiO、14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含むことがある。
【0007】
第2の態様A2は、結晶相が二ケイ酸リチウムを含み、二ケイ酸リチウムは、結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多い量で存在する、第1の態様A1によるガラスセラミック物品を含む。
【0008】
第3の態様A3は、二ケイ酸リチウムの粒子が、10nm以上かつ200nm以下の粒径を有する、第2の態様A2によるガラスセラミック物品を含む。
【0009】
第4の態様A4は、ガラスセラミック物品が、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含む、第1から第3の態様A1~A3のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0010】
第5の態様A5は、ガラスセラミック物品が、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含む、第1から第4の態様A1~A4のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0011】
第6の態様A6は、ガラスセラミック物品が、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含む、第1から第5の態様A1~A5のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0012】
第7の態様A7は、ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ7モル%以下のAlを含む、第1から第6の態様A1~A6のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0013】
第8の態様A8は、ガラスセラミック物品が、0.5モル%以上かつ5モル%以下のAlを含む、第7の態様A7によるガラスセラミック物品を含む。
【0014】
第9の態様A9は、Al対SiOのモル比が、0以上かつ0.2以下である、第1から第8の態様A1~A8のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0015】
第10の態様A10は、ROが、14モル%以上かつ40モル%以下であり、ROは、LiO、NaO、およびKOの合計である、第1から第9の態様A1~A9のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0016】
第11の態様A11は、LiO対SiOのモル比が、0.2以上かつ0.7以下である、第1から第10の態様A1~A10のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0017】
第12の態様A12は、R’Oが、0.1モル%以上かつ15モル%以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、第1から第11の態様A1~A11のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0018】
第13の態様A13は、R’O対SiOのモル比が、0以上かつ0.3以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、第1から第12の態様A1~A12のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0019】
第14の態様A14は、ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ6モル%以下のLaを含む、第1から第13の態様A1~A13のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0020】
第15の態様A15は、ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ5モル%以下のFを含む、第1から第14の態様A1~A14のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0021】
第16の態様A16は、ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ5モル%以下のNaO、および0モル%以上かつ5モル%以下のKOを含む、第1から第15の態様A1~A15のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0022】
第17の態様A17は、ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ6モル%以下のMgO、0モル%以上かつ5モル%以下のZnO、0モル%以上かつ6モル%以下のSrO、および0モル%以上かつ6モル%以下のBaOを含む、第1から第16の態様A1~A16のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0023】
第18の態様A18は、ガラスセラミック物品の結晶相が、メタケイ酸リチウム、リン酸リチウム、葉長石、β-石英、リン灰石、またはその組合せを含む、第1から第17の態様A1~A17のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0024】
第19の態様A19は、ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘り、50%以上かつ95%以下である、第1から第18の態様A1~A18のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0025】
第20の態様A20は、ダブルトーション法(double torsion method)で測定したガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、1.0MPa・m1/2以上である、第1から第19の態様A1~A19のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0026】
第21の態様A21は、ガラスセラミック物品の弾性率が100GPa以上である、第1から第20の態様A1~A20のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含む。
【0027】
第22の態様A22によれば、ガラス組成物は、52モル%以上かつ70モル%以下のSiO、14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含むことがある。
【0028】
第23の態様A23は、ガラス組成物が、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含む、第22の態様A22によるガラス組成物を含む。
【0029】
第24の態様A24は、ガラス組成物が、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含む、第22の態様A22または第23の態様A23によるガラス組成物を含む。
【0030】
第25の態様A25は、ガラス組成物が、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含む、第22から第24の態様A22~A24のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0031】
第26の態様A26は、ガラス組成物が、0モル%以上かつ7モル%以下のAlを含む、第22から第25の態様A22~A25のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0032】
第27の態様A27は、ガラス組成物が、0.5モル%以上かつ4モル%以下のAlを含む、第26の態様A26によるガラス組成物を含む。
【0033】
第28の態様A28は、Al対SiOのモル比が、0以上かつ0.2以下である、第22から第27の態様A22~A27のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0034】
第29の態様A29は、ROが、14モル%以上かつ40モル%以下であり、ROは、LiO、NaO、およびKOの合計である、第22から第28の態様A22~A28のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0035】
第30の態様A30は、LiO対SiOのモル比が、0.2以上かつ0.7以下である、第22から第29の態様A22~A29のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0036】
第31の態様A31は、R’Oが、0.1モル%以上かつ15モル%以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、第22から第30の態様A22~A30のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0037】
第32の態様A32は、R’O対SiOのモル比が、0以上かつ0.3以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、第22から第31の態様A22~A31のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0038】
第33の態様A33は、ガラス組成物が、0モル%以上かつ6モル%以下のLaを含む、第22から第32の態様A22~A32のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0039】
第34の態様A34は、ガラス組成物が、0モル%以上かつ5モル%以下のFを含む、第22から第33の態様A22~A33のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0040】
第35の態様A35は、ガラス組成物が、0モル%以上かつ5モル%以下のNaO、および0モル%以上かつ5モル%以下のKOを含む、第22から第34の態様A22~A34のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0041】
第36の態様A36は、ガラス組成物が、0モル%以上かつ6モル%以下のMgO、0モル%以上かつ5モル%以下のZnO、0モル%以上かつ6モル%以下のSrO、および0モル%以上かつ6モル%以下のBaOを含む、第22から第35の態様A22~A35のいずれか1つによるガラス組成物を含む。
【0042】
第37の態様A37によれば、ガラスセラミック物品を形成する方法は、1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で、炉内で前駆体ガラス物品を核形成温度に加熱する工程であって、前駆体ガラス物品は、52モル%以上かつ70モル%以下のSiO、14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含む前駆体ガラス組成物から作られる、工程;0.1時間以上かつ8時間以下の期間に亘り炉内で前駆体ガラス物品を核形成温度に維持して、核形成済みの結晶化可能なガラス物品を生成する工程;1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で、炉内で核形成済みの結晶化可能なガラス物品を結晶化温度に加熱する工程;0.25時間以上かつ4時間以下の期間に亘り炉内で核形成済みの結晶化可能なガラス物品を結晶化温度に維持して、ガラスセラミック物品を生成する工程であって、ガラスセラミック物品は結晶相および残留ガラス相を含む、工程;およびガラスセラミック物品を室温に冷却する工程を含むことがある。
【0043】
第38の態様A38は、結晶相が二ケイ酸リチウムを含み、二ケイ酸リチウムは、結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多い量で存在する、第37の態様A37による方法を含む。
【0044】
第39の態様A39は、2時間以上から12時間以下の期間に亘り350℃以上から500℃以下の温度で、イオン交換浴中でガラスセラミック物品を強化して、イオン交換済みガラスセラミック物品を形成する工程をさらに含む、第37の態様A37または第38の態様A38による方法を含む。
【0045】
第40の態様A40は、イオン交換浴がKNOを含む、第39の態様A39による方法を含む。
【0046】
第41の態様A41は、イオン交換浴がNaNOを含む、第40の態様A40による方法を含む。
【0047】
第42の態様A42は、ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘り、50%以上かつ95%以下である、第37から第41の態様A37~A41のいずれか1つによる方法を含む。
【0048】
第43の態様A43は、ダブルトーション法で測定したガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、1.0MPa・m1/2以上である、第37から第42の態様A37~A42のいずれか1つによる方法を含む。
【0049】
第44の態様A44は、ガラスセラミック物品の弾性率が100GPa以上である、第37から第43の態様A37~A43のいずれか1つによる方法を含む。
【0050】
第45の態様A45は、ガラスセラミック物品の貯蔵歪みエネルギーが15J/m以上である、第37から第44の態様A37~A44のいずれか1つによる方法を含む。
【0051】
第46の態様A46によれば、消費者向け電子機器は、前面、背面、および側面を有する筐体;少なくとも部分的に筐体内に設けられた電子部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、および筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電子部品;およびディスプレイを覆って配置されているおよび筐体の一部を形成するの少なくとも一方である、第1から第21の態様A1~A21のいずれか1つによるガラスセラミック物品を含むことがある。
【0052】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品の追加の特徴と利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって、認識されるであろう。
【0053】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記述しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることが理解されよう。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を図解しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】割れやすさ(frangibility)試験後の割れにくい試料の説明図
図2】割れやすさ試験後の割れやすい試料の説明図
図3】ここに記載された1つ以上の実施の形態によるガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ電子機器の平面図
図4図3の電子機器の斜視図
図5】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の波長(x軸)に対する全透過率百分率および拡散透過率百分率(y軸)のプロット
図6】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の波長(x軸)に対する全透過率百分率(y軸)のプロット
図7】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の波長(x軸)に対する散乱比百分率(y軸)のプロット
図8】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のXRDスペクトル(x軸:2θ;y軸:強度)のプロット
図9】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のXRDスペクトル(x軸:2θ;y軸:強度)のプロット
図10】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
図11図10のさらに拡大されたSEM画像
図12】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図13図12のさらに拡大されたSEM画像
図14】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図15図14のさらに拡大されたSEM画像
図16】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の核形成保持時間(x軸)に対する粒径(y軸)のプロット
図17】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の核形成保持時間(x軸)に対する結晶化度(y軸)のプロット
図18】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の結晶化度(x軸)に対する破壊靱性(y軸)のプロット
図19】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図20】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図21】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図22】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の波長(x軸)に対する透過率百分率(y軸)のプロット
図23】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のイオン交換時間(x軸)に対する中央張力(y軸)のプロット
図24】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品の深さ(x軸)に対するナトリウム濃度(y軸)のプロット
図25】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のイオン交換時間(x軸)に対する中央張力(y軸)のプロット
図26】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のイオン交換時間の平方根(x軸)に対する質量増加(y軸)のプロット
図27】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われたガラスセラミック物品の写真
図28】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われたガラスセラミック物品の写真
図29】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われたガラスセラミック物品の写真
図30】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われた、エッジに強い光が照らされたガラスセラミック物品の光学像
図31】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われた、エッジに強い光が照らされたガラスセラミック物品の光学像
図32】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われた、エッジに強い光が照らされたガラスセラミック物品の光学像
図33】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造され、割れやすさ試験が行われた、エッジに強い光が照らされたガラスセラミック物品の光学像
図34】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のSEM画像
図35】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のEDSプロット
図36】ここに記載された1つ以上の実施の形態による、前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品のEDSプロット
【発明を実施するための形態】
【0055】
ここで、前駆体ガラス組成物およびそれから形成された、機械的耐久性が改善されたガラスセラミック物品の様々な実施の形態を詳しく参照する。実施の形態によれば、ガラスセラミック物品は、結晶相、残留ガラス相、52モル%以上かつ70モル%以下のSiO、14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含む。前駆体ガラス組成物およびそれからイオン交換可能なガラスセラミック物品を形成する方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに述べられている。
【0056】
範囲は、「約」ある特定値から、および/または「約」別の特定値まで、とここに表現されることがある。そのような範囲が表現された場合、別の実施の形態は、そのある特定値から、および/または他方の特定値まで、を含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表現されている場合、その特定値が別の実施の形態を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点が、他方の端点に関してと、他方の端点とは関係なくの両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0057】
ここに用いられている方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面に関してのみ使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0058】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程を特定の順序で行うことを必要とすると解釈されることも、またはどの装置についても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に挙げていない場合、または装置の請求項が、個々の構成部材に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくはそれらの工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または説明において他に具体的に述べられていない場合、もしくは装置の構成部材に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、順序または向きがいかようにも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列、操作の流れ、構成部材の順序、または構成部材の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0059】
ここに用いられているように、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、構成部材に対する言及は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような構成部材を2つ以上有する態様を含む。
【0060】
「実質的に含まない」という用語は、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中の特定の構成成分の濃度および/または不在を記述するために使用される場合、その構成成分が、その前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品に意図的に加えられていないことを意味する。しかしながら、その前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.1モル%未満の量の汚染物質または混入物として構成成分を微量で含有することがある。
【0061】
「0モル%」および「含まない(free)」という用語は、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中の特定の構成成分の濃度および/または不在を記述するために使用される場合、その構成成分が、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中に存在しないことを意味する。
【0062】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品の実施の形態において、構成成分(例えば、SiO、Alなど)の濃度は、特に明記のない限り、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で規定されている。
【0063】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品の実施の形態において、Fの濃度は、特に明記のない限り、モルパーセント(モル%)で規定されている。
【0064】
ここに用いられている破壊靱性という用語は、KIC値を称し、その内容がここに全て引用される、「Double Torsion Technique as a Universal Fracture Toughness Test Method」と題する、ASTM STP 559に記載されたダブルトーション技術を使用して測定される。
【0065】
透過率データ(全透過率および拡散透過率)は、PerkinElmer Inc.(米国、マサチューセッツ州、ウォルサム)により製造されたLambda 950 UV/Vis分光光度計で測定される。このLambda 950装置は、150mmの線分球を備えていた。データは、試料位置に何も置かない状態をベースライン(open bema baseline)とし、Spectralon(登録商標)基準反射率ディスクを使用して収集した。全透過率(Total Tx)について、試料は、積分球のエントリーポイントに固定される。拡散透過率(Diffuse Tx)について、球の出口ポートの上にある「Spectralon」基準反射率ディスクを取り除いて、軸上光を球から出し、ライトトラップに入れることができる。試料が置かれていない状態で、拡散部分のゼロオフセット測定を行って、ライトトラップの効率を決定する。拡散透過率測定値を補正するために、式:Diffuse Tx=Diffuse測定-(Zero Offset(Total Tx/100))を使用して、試料測定値からゼロオフセット寄与を差し引く。(%Diffuse Tx/%Total Tx)として、全波長について、散乱比を測定する。
【0066】
ここに記載されたような、X線回折(XRD)スペクトルは、Bruker Corporation(マサチューセッツ州、ビルリカ)により製造されたLYNXEYE XE-T検出器を備えたD8 ENDEAVOR X線回折システムで測定される。
【0067】
図示され、ここに記載されたような、走査電子顕微鏡法(SEM)を使用した電子線回折像は、ZEISS GeminiSEM 500走査型電子顕微鏡で撮影される。
【0068】
ここに記載されたような、X線分光法(EDS)データは、長期間の総使用時間に亘り短い露出(画素当たり8μm)のマップを積分することによって、Bruker Espritソフトウェアを使用して収集する。EDSデータは、電子光学素子のナノプローブSEM構成を使用して収集する。
【0069】
ここに用いられているような「平均透過率」という用語は、各整数の波長が等しく重み付けられた、所定の波長範囲内で行われた透過率測定値の平均を称する。ここに記載された実施の形態において、「平均透過率」は、400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)に亘り報告される。
【0070】
「透明」という用語は、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、85%以上の平均透過率を有することを意味する。
【0071】
「透明ヘイズ(transparent haze)」という用語は、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、50%以上かつ85%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0072】
「半透明」という用語は、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、20%以上かつ50%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0073】
「不透明」という用語は、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品を記載するために使用される場合、そのガラスセラミック物品が、0.8mmの物品厚で400nmから800nmの波長範囲(端点を含む)の光の垂直入射で測定したときに、20%未満の平均透過率を有することを意味する。
【0074】
ここに用いられているような「融点」という用語は、前駆体ガラス組成物の粘度が200ポアズである温度を称する。
【0075】
ここに用いられているような「軟化点」という用語は、前駆体ガラス組成物の粘度が1×107.6ポアズである温度を称する。軟化点は、ASTM C1351Mに似た、温度の関数として10から10ポアズの無機ガラスの粘度を測定する平行板粘度測定法にしたがって測定される。
【0076】
ここに用いられているような「液相粘度」という用語は、失透の発現時(すなわち、ASTM C829-81による勾配炉測定法で決定されるような液相温度)での前駆体ガラス組成物の粘度を称する。
【0077】
ここに用いられているような「液相温度」という用語は、前駆体ガラス組成物が、ASTM C829-81による勾配炉法にしたがって測定して、失透し始める温度を称する。
【0078】
ここに記載されたような、ガラスセラミック物品の弾性率(ヤング率とも称される)は、ギガパスカル(GPa)の単位で与えられ、ASTM C623にしたがって測定される。
【0079】
ここに記載されているようなガラスセラミック物品の剛性率は、ギガパスカル(GPa)の単位で与えられており、ASTM C623にしたがって測定される。
【0080】
ここに記載されているようなポアソン比は、ASTM C623にしたがって測定される。
【0081】
ここに記載されているような「線熱膨張係数」および「CTE」という用語は、25℃から300℃の温度範囲に亘り、ASTM E228-85にしたがって測定され、「×10-7/℃」で表される。
【0082】
表面圧縮応力は、有限会社折原製作所(日本国)により製造されたFSM-6000のような市販の機器などの表面応力計(FSM)で測定される。表面応力測定は、応力光学係数(SOC)の測定に依存し、応力光学係数はガラスセラミック物品の複屈折に関連付けられる。次に、SOCは、その内容がここに全て引用される、「Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient」と題するASTM規格C770-16に記載された手順C(ガラスディスク法)にしたがって測定される。圧縮深さ(DOC)は、当該技術分野で公知の散乱光偏光器(SCALP)と連動したFSMで測定される。FSMは、カリウムイオン交換に関する圧縮深さを測定し、SCALPは、ナトリウムイオン交換の圧縮深さを測定する。最大中央張力(CT)値は、当該技術分野で公知のSCALP技術を使用して測定される。本明細書で中央張力(CT)について報告されている値は、特に明記のない限り、最大中央張力を指す。
【0083】
「圧縮深さ」および「DOC」という用語は、圧縮応力が引張応力に移行するガラスセラミック物品中の位置を称する。
【0084】
ここに記載されているような貯蔵歪みエネルギーΣは、以下の式(I):
【0085】
【数1】
【0086】
にしたがって計算することができ、式中、z=0.5t-σ、tはガラスセラミック物品の厚さであり、σは圧縮深さであり、νはポアソン比であり、Eはヤング率(MPa)であり、σは引張応力(MPa)である。積分は、引張領域の厚さ(マイクロメートル)のみに亘り計算される。
【0087】
ここに用いられているように、「割れやすさ限界(frangibility limit)」とは、ガラスセラミック物品がそれより高いと割れやすい挙動を示す中央張力または貯蔵歪みエネルギーを称する。「割れやすさ」または「割れやすい挙動」は、ガラスセラミック物品が衝撃または攻撃に曝されたときの特定の破壊挙動を称する。ここに用いたように、ガラスセラミック物品は、割れやすさ試験の結果として試験区域において以下の内の少なくとも一方を示す場合に、割れにくいと考えられる:(1)少なくとも1mmの最大寸法を有する4つ以下の破片、および/または(2)分岐点の数が、亀裂分岐の数以下である。破片、分岐点、および亀裂分岐は、衝撃点を中心とする任意の2インチ×2インチ(5.08cm×5.08cm)の正方形に基づいて計数される。それゆえ、ガラスセラミック物品は、下記に記載される手順にしたがって、破損が生じる衝撃点を中心とする任意の2インチ×2インチ(5.08cm×5.08cm)の正方形に関して、試験(1)および(2)の一方または両方を満たす場合に、割れにくいと考えられる。割れやすさ試験において、衝撃プローブがガラスセラミック物品と接触させられ、衝撃プローブがガラスセラミック物品中に延在する深さは、連続した接触の反復で増大する。衝撃プローブの深さの段階的な増加は、ガラスセラミック物品の割れやすい挙動の正確な決定を妨げるであろう過剰な外力の印加を防ぎつつ、衝撃プローブにより生じる傷が、引張領域に到達することができる。実施の形態において、ガラスセラミック物品中の衝撃プローブの深さは、各反復の間に衝撃プローブがガラスセラミック物品との接触からはずされ、反復毎に約5μm増加するであろう。試験区域は、衝撃点を中心とする任意の2インチ×2インチ(5.08cm×5.08cm)の正方形である。
【0088】
図1は、割れにくさの試験の結果を示している。図1に示されるように、試験区域は、衝撃点130を中心とする正方形であり、正方形の一辺aの長さは2インチ(5.08cm)である。図1に示された割れにくい試料は、3つの破片142、2つの亀裂分岐140、および1つの分岐点150を含む。それゆえ、図1に示された割れにくい試料は、少なくとも1mmの最大寸法を有する破片を4未満含み、分岐点の数は、亀裂分岐の数以下である。ここに用いたように、亀裂分岐は衝撃点から出ており、破片は、破片のいずれかの部分が試験区域中に延在する場合、試験区域内にあると考えられる。コーティング、接着層などを、ここに記載された強化されたガラスセラミック物品と共に使用してよいが、ガラスセラミック物品の割れやすさまたは割れやすい挙動を決定する際に、そのような外部的制約は使用されない。いくつかの実施の形態において、ガラスセラミック物品の破壊挙動に影響しない膜を、割れやすさ試験の前にガラスセラミック物品に施して、ガラスセラミック物品からの破片の放出を防ぎ、試験を実施する人の安全性を増してもよい。
【0089】
割れやすい試料が図2に示されている。この割れやすい試料は、亀裂分岐140および3つの分岐点150を有する破片142を5つ含み、亀裂分岐より多い分岐点を生じている。それゆえ、図2に示された試料は、4つ以下の破片も、亀裂分岐の数以下の分岐点の数のいずれも示さない。
【0090】
ここに記載された割れやすさ試験において、衝撃は、強化されたガラス物品内に存在する内部貯蔵エネルギーを放出するのに丁度十分な力で、ガラスセラミック物品の表面に送達される。すなわち、点衝撃力は、強化されたガラスシートの表面に少なくとも1つの新たな亀裂を生じ、その亀裂を、圧縮応力層を通って中央張力(CT)下にある領域中に延在させるのに十分である。
【0091】
ここに用いられている「粒径」という用語は、M.N.Rahamanの「Ceramic Processing」、CRC Press、2007年、107頁に記載されたように、走査電子顕微鏡法を使用して測定される粒子の最大寸法のサイズを称する。
【0092】
ここに用いられている「アスペクト比」という用語は、M.N.Rahamanの「Ceramic Processing」、CRC Press、2007年、107頁に記載されたように、走査電子顕微鏡法を使用して測定される粒子における、最大寸法とそれに垂直な最小寸法の平均比を称する。
【0093】
ここに用いられている「前駆体ガラス組成物」という用語は、熱処理の際に、前駆体ガラス物品またはガラスセラミック物品を形成することのできるガラス組成物を称する。
【0094】
ここに用いられている「前駆体ガラス物品」という用語は、熱処理の際に、ガラス中に結晶相の核形成を生じる1種類以上の核形成剤を含有するガラス物品を称する。
【0095】
ここに用いられている「ガラスセラミック物品」という用語は、前駆体ガラス組成物から形成されたガラス物品を熱処理して、結晶相の核形成を誘発することにより形成された物品を称し、よって、そのガラスセラミック物品は結晶相と残留ガラス相を含む。実施の形態において、ガラスセラミック物品は約1%から約99%の結晶化度を有する。
【0096】
読みやすくするために、「前駆体ガラス組成物」という用語が、発明を実施するための形態の全体に亘り言及されている。しかしながら、ここに記載されたガラスセラミック物品は、その前駆体ガラス組成物から形成された前駆体ガラス物品を熱処理することによって製造されることを認識すべきである。
【0097】
ガラスセラミック物品は、概して、結晶粒(亀裂成長を妨げる)が存在するために、ガラスから形成された物品と比べて改善された破壊靱性を有し、このガラスセラミック物品の比較的高い弾性率を有する。しかしながら、ガラスセラミック物品に固有の微細構造のために、所望の透明性を達成することが難しいことがある。さらに、前駆体ガラス組成物中に存在するアルカリ酸化物が、熱処理後の結晶相に含まれることがあり、イオン交換に利用できないことがある。
【0098】
上述した問題を軽減する前駆体ガラス組成物およびそれから形成されたガラスセラミック物品が、ここに開示されている。詳しくは、ここに記載された前駆体ガラス組成物は、比較的高濃度のLiO、CaO、ZrO、およびPを含み、特定の熱処理が施されて、透明または透明ヘイズ(transparent haze)と特徴付けられる二ケイ酸リチウムガラスセラミック物品を形成することがある。二ケイ酸リチウムナノ結晶は、連結微細構造を有し、これは、ガラスセラミック物品の破壊靱性を改善するのに役立つことがある。「連結微細構造(interlocking microstructure)」は、互いにかみ合い、絡み合った細長く無作為に配向されたナノ結晶を意味する。この連結構造は、亀裂の蛇行経路を作り、亀裂の伝搬を妨げる。さらに、比較的多量の二ケイ酸リチウム(例えば、結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多量に存在する)は、ガラスのみから形成された物品と比べて比較的高い弾性率をもたらすことがある。このガラスセラミック物品は、残留ガラス相中に存在する比較的多量のLiOを有する。それゆえ、残留ガラス相は、容易にイオン交換されて、割れやすくならずに、比較的高い最大中央張力および貯蔵歪みエネルギーを達成することができる。
【0099】
ここに記載された前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品は、ケイ酸リチウム前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品と記載されることがあり、SiOおよびLiOを含む。ここに記載された前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品は、SiOおよびLiOに加え、所望の二ケイ酸リチウム相を含む結晶相を達成するために、ZrOおよびPをさらに含む。ここに記載された前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品は、前駆体ガラス組成物の溶融挙動を改善するために、さらにCaOを含む。
【0100】
SiOは、ここに記載された前駆体ガラス組成物における主なガラス形成材であり、ガラスセラミック物品の網状構造を安定化させる機能を果たすことがある。前駆体ガラス組成物中のSiOの濃度は、前駆体ガラス組成物に熱処理を施して、前駆体ガラス組成物をガラスセラミック物品に転化させるときに、二ケイ酸リチウムを含む結晶相を形成するように十分に高い(例えば、52モル%以上)べきである。SiOの濃度は、純粋なSiOまたは高SiOガラスの溶融温度は望ましくなく高いので、前駆体ガラス組成物の融点を制御するために制限される(例えば、70モル%以下に)ことがある。それゆえ、SiOの濃度を制限することは、結果として得られるガラスセラミック物品の溶けやすさおよび成形性を改善するのに役立つことがある。
【0101】
したがって、実施の形態において、その前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、52モル%以上かつ70モル%以下のSiOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度は、52モル%以上、54モル%以上、またさらには56モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度は、70モル%以下、66モル%以下、またさらには62モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度は、52モル%以上かつ70モル%以下、52モル%以上かつ66モル%以下、52モル%以上かつ62モル%以下、54モル%以上かつ70モル%以下、54モル%以上かつ66モル%以下、54モル%以上かつ62モル%以下、56モル%以上かつ70モル%以下、56モル%以上かつ66モル%以下、またさらには56モル%以上かつ62モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0102】
LiOは、二ケイ酸リチウム中の構成成分であり、この所望の相を達成するために、ここに記載された前駆体ガラス組成物中に含まれる。LiOは、結果として得られるガラスセラミック物品のイオン交換可能性にも役立つ。LiOは、前駆体ガラス組成物の軟化点を低下させ、それによって、結果として得られるガラスセラミック物品の成形性を高める。LiOの濃度は、結果として得られるガラスセラミック物品が、結晶相の総質量に基づいて、他の結晶相と比べて、多量に存在する二ケイ酸リチウムを有するように十分に高い(例えば、14モル%以上)べきである。しかしながら、LiOの濃度が高すぎる(例えば、35モル%を超える)と、溶融物の粘度が望ましくなく上昇し、それによって、結果として得られる前駆体ガラスおよびガラスセラミック物品の成形性が低下することがある。
【0103】
したがって、実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、14モル%以上かつ35モル%以下のLiOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLiOの濃度は、14モル%以上、15モル%以上、16モル%以上、17モル%以上、18モル%以上、19モル%以上、20モル%以上、21モル%以上、22モル%以上、23モル%以上、またさらには24モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLiOの濃度は、35モル%以下、33モル%以下、30モル%以下、29モル%以下、28モル%以下、27モル%以下、またさらには26モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLiOの濃度は、14モル%以上かつ35モル%以下、14モル%以上かつ33モル%以下、14モル%以上かつ30モル%以下、14モル%以上かつ29モル%以下、14モル%以上かつ28モル%以下、14モル%以上かつ27モル%以下、14モル%以上かつ26モル%以下、15モル%以上かつ35モル%以下、15モル%以上かつ33モル%以下、15モル%以上かつ30モル%以下、15モル%以上かつ29モル%以下、15モル%以上かつ28モル%以下、15モル%以上かつ27モル%以下、15モル%以上かつ26モル%以下、16モル%以上かつ35モル%以下、16モル%以上かつ33モル%以下、16モル%以上かつ30モル%以下、16モル%以上かつ29モル%以下、16モル%以上かつ28モル%以下、16モル%以上かつ27モル%以下、16モル%以上かつ26モル%以下、17モル%以上かつ35モル%以下、17モル%以上かつ33モル%以下、17モル%以上かつ30モル%以下、17モル%以上かつ29モル%以下、17モル%以上かつ28モル%以下、17モル%以上かつ27モル%以下、17モル%以上かつ26モル%以下、18モル%以上かつ35モル%以下、18モル%以上かつ33モル%以下、18モル%以上かつ30モル%以下、18モル%以上かつ29モル%以下、18モル%以上かつ28モル%以下、18モル%以上かつ27モル%以下、18モル%以上かつ26モル%以下、19モル%以上かつ35モル%以下、19モル%以上かつ33モル%以下、19モル%以上かつ30モル%以下、19モル%以上かつ29モル%以下、19モル%以上かつ28モル%以下、19モル%以上かつ27モル%以下、19モル%以上かつ26モル%以下、20モル%以上かつ35モル%以下、20モル%以上かつ33モル%以下、20モル%以上かつ30モル%以下、20モル%以上かつ29モル%以下、20モル%以上かつ28モル%以下、20モル%以上かつ27モル%以下、20モル%以上かつ26モル%以下、21モル%以上かつ35モル%以下、21モル%以上かつ33モル%以下、21モル%以上かつ30モル%以下、21モル%以上かつ29モル%以下、21モル%以上かつ28モル%以下、21モル%以上かつ27モル%以下、21モル%以上かつ26モル%以下、22モル%以上かつ35モル%以下、22モル%以上かつ33モル%以下、22モル%以上かつ30モル%以下、22モル%以上かつ29モル%以下、22モル%以上かつ28モル%以下、22モル%以上かつ27モル%以下、22モル%以上かつ26モル%以下、23モル%以上かつ35モル%以下、23モル%以上かつ33モル%以下、23モル%以上かつ30モル%以下、23モル%以上かつ29モル%以下、23モル%以上かつ28モル%以下、23モル%以上かつ27モル%以下、23モル%以上かつ26モル%以下、24モル%以上かつ35モル%以下、24モル%以上かつ33モル%以下、24モル%以上かつ30モル%以下、24モル%以上かつ29モル%以下、24モル%以上かつ28モル%以下、24モル%以上かつ27モル%以下、またさらには24モル%以上かつ26モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0104】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度に対する前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLiOの濃度のモル比(すなわち、LiO(モル%)対SiO(モル%))は、所望の二ケイ酸リチウムを含む結晶相を達成するために、0.2以上かつ0.7以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるLiO対SiOのモル比は、0.2以上、0.3以上、0.35以上、またさらには0.4以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるLiO対SiOのモル比は、0.7以下、0.6以下、0.5以下、またさらには0.45以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるLiO対SiOのモル比は、0.2以上かつ0.7以下、0.2以上かつ0.6以下、0.2以上かつ0.5以下、0.2以上かつ0.45以下、0.3以上かつ0.7以下、0.3以上かつ0.6以下、0.3以上かつ0.5以下、0.3以上かつ0.45以下、0.35以上かつ0.7以下、0.35以上かつ0.6以下、0.35以上かつ0.5以下、0.35以上かつ0.45以下、0.4以上かつ0.7以下、0.4以上かつ0.6以下、0.4以上かつ0.5以下、またさらには0.4以上かつ0.45以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0105】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、NaOおよび/またはKOなど、LiO以外のアルカリ金属酸化物をさらに含むことがある。NaOは、結果として得られるガラスセラミック物品のイオン交換可能性に役立つことに加え、融点を低下させ、結果として得られるガラスセラミック物品の成形性を改善する。実施の形態において、その前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ5モル%以下のNaOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のNaOの濃度は、0モル%以上、0.5モル%以上、またさらには1モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のNaOの濃度は、5モル%以下、4モル%以下、3モル%以下、またさらには2モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のNaOの濃度は、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、0モル%以上かつ2モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ2モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、またさらには1モル%以上かつ2モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、NaOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0106】
Oは、イオン交換を促進し、圧縮深さを増加させ、融点を低下させて、結果として得られるガラスセラミック物品の成形性を改善する。しかしながら、KOの添加により、表面圧縮応力と融点が低くなりすぎることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ5モル%以下のKOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のKOの濃度は、0モル%以上、0.5モル%以上、またさらには1モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のKOの濃度は、5モル%以下、4モル%以下、3モル%以下、またさらには2モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のKOの濃度は、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、0モル%以上かつ2モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ2モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、またさらには1モル%以上かつ2モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、KOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0107】
ここに用いられているように、ROは、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中に存在するLiO、NaO、およびKOの合計(モル%)(すなわち、RO=LiO(モル%)+NaO(モル%)+KO(モル%))である。LiO、NaO、およびKOなどのアルカリ酸化物は、前駆体ガラス組成物の軟化点と成形温度を低下させ、それによって、前駆体ガラス組成物中の多量のSiOによる、前駆体ガラス組成物の軟化点と成形温度の上昇を相殺する。軟化点と成形温度は、前駆体ガラス組成物中にアルカリ酸化物の組合せ(例えば、2種類以上のアルカリ酸化物)を含むことによって、さらに低下させることができ、この現象は「混合アルカリ効果」と称される。しかしながら、アルカリ酸化物の量が多すぎると、前駆体ガラス組成物の平均熱膨張係数が100×10-7/℃超に増加し、このことは望ましくないであろう。
【0108】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のROの濃度は、14モル%以上かつ40モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のROの濃度は、14モル%以上、16モル%以上、18モル%以上、20モル%以上、22モル%以上、24モル%以上、またさらには26モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のROの濃度は、40モル%以下、37モル%以下、35モル%以下、33モル%以下、またさらには30モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のROの濃度は、14モル%以上かつ40モル%以下、14モル%以上かつ37モル%以下、14モル%以上かつ35モル%以下、14モル%以上かつ33モル%以下、14モル%以上かつ30モル%以下、16モル%以上かつ40モル%以下、16モル%以上かつ37モル%以下、16モル%以上かつ35モル%以下、16モル%以上かつ33モル%以下、16モル%以上かつ30モル%以下、18モル%以上かつ40モル%以下、18モル%以上かつ37モル%以下、18モル%以上かつ35モル%以下、18モル%以上かつ33モル%以下、18モル%以上かつ30モル%以下、20モル%以上かつ40モル%以下、20モル%以上かつ37モル%以下、20モル%以上かつ35モル%以下、20モル%以上かつ33モル%以下、20モル%以上かつ30モル%以下、22モル%以上かつ40モル%以下、22モル%以上かつ37モル%以下、22モル%以上かつ35モル%以下、22モル%以上かつ33モル%以下、22モル%以上かつ30モル%以下、24モル%以上かつ40モル%以下、24モル%以上かつ37モル%以下、24モル%以上かつ35モル%以下、24モル%以上かつ33モル%以下、24モル%以上かつ30モル%以下、26モル%以上かつ40モル%以下、26モル%以上かつ37モル%以下、26モル%以上かつ35モル%以下、26モル%以上かつ33モル%以下、またさらには26モル%以上かつ30モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0109】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、CaOをさらに含む。CaOは、前駆体ガラス組成物の粘度を低下させ、これにより、結果として得られるガラスセラミック物品の成形性、歪み点およびヤング率が向上し、イオン交換可能性が改善されることがある。しかしながら、前駆体ガラス組成物に添加されるCaOの量が多すぎると、前駆体ガラス組成物中のナトリウムイオンとカリウムイオンの拡散性が低下し、このことは、転じて、結果として得られるガラスセラミック物品のイオン交換性能(すなわち、イオン交換する能力)に悪影響を及ぼす。
【0110】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のCaOの濃度は、0.1モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、3モル%以上、4モル%以上、5モル%以上、またさらには6モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のCaOの濃度は、15モル%以下、13モル%以下、10モル%以下、9モル%以下、8モル%以下、またさらには7モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のCaOの濃度は、0.1モル%以上かつ15モル%以下、0.1モル%以上かつ13モル%以下、0.1モル%以上かつ10モル%以下、0.1モル%以上かつ9モル%以下、0.1モル%以上かつ8モル%以下、0.1モル%以上かつ7モル%以下、0.5モル%以上かつ15モル%以下、0.5モル%以上かつ13モル%以下、0.5モル%以上かつ10モル%以下、0.5モル%以上かつ9モル%以下、0.5モル%以上かつ8モル%以下、0.5モル%以上かつ7モル%以下、1モル%以上かつ15モル%以下、1モル%以上かつ13モル%以下、1モル%以上かつ10モル%以下、1モル%以上かつ9モル%以下、1モル%以上かつ8モル%以下、1モル%以上かつ7モル%以下、2モル%以上かつ15モル%以下、2モル%以上かつ13モル%以下、2モル%以上かつ10モル%以下、2モル%以上かつ9モル%以下、2モル%以上かつ8モル%以下、2モル%以上かつ7モル%以下、3モル%以上かつ15モル%以下、3モル%以上かつ13モル%以下、3モル%以上かつ10モル%以下、3モル%以上かつ9モル%以下、3モル%以上かつ8モル%以下、3モル%以上かつ7モル%以下、4モル%以上かつ15モル%以下、4モル%以上かつ13モル%以下、4モル%以上かつ10モル%以下、4モル%以上かつ9モル%以下、4モル%以上かつ8モル%以下、4モル%以上かつ7モル%以下、5モル%以上かつ15モル%以下、5モル%以上かつ13モル%以下、5モル%以上かつ10モル%以下、5モル%以上かつ9モル%以下、5モル%以上かつ8モル%以下、5モル%以上かつ7モル%以下、6モル%以上かつ15モル%以下、6モル%以上かつ13モル%以下、6モル%以上かつ10モル%以下、6 モル%以上かつ9モル%以下、6モル%以上かつ8モル%以下、またさらには6モル%以上かつ7モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0111】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、MgO、ZnO、SrO、および/またはBaOなど、CaO以外の二価陽イオン酸化物をさらに含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ6モル%以下のMgOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のMgOの濃度は、0モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、またさらには3モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のMgOの濃度は、6モル%以下、5モル%以下、またさらには4モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のMgOの濃度は、0モル%以上かつ6モル%以下、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ6モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ6モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、3モル%以上かつ6モル%以下、3モル%以上かつ5モル%以下、またさらには3モル%以上かつ4モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、MgOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0112】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ5モル%以下のZnOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZnOの濃度は、0モル%以上、1モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZnOの濃度は、5モル%以下、4モル%以下、またさらには3モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZnOの濃度は、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ3モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、ZnOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0113】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ6モル%以下のSrOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSrOの濃度は、0モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、またさらには3モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSrOの濃度は、6モル%以下、5モル%以下、またさらには4モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSrOの濃度は、0モル%以上かつ6モル%以下、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ6モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ6モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、3モル%以上かつ6モル%以下、3モル%以上かつ5モル%以下、またさらには3モル%以上かつ4モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、SrOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0114】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ6モル%以下のBaOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のBaOの濃度は、0モル%以上、1モル%以上、2モル%以上、またさらには3モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のBaOの濃度は、6モル%以下、5モル%以下、またさらには4モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のBaOの濃度は、0モル%以上かつ6モル%以下、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ6モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ6モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、3モル%以上かつ6モル%以下、3モル%以上かつ5モル%以下、またさらには3モル%以上かつ4モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、BaOを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0115】
ここに用いられているように、R’Oは、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中に存在するCaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計(モル%)である(すなわち、R’O=CaO(モル%)+MgO(モル%)+ZnO(モル%)+SrO(モル%)+BaO(モル%))。CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOなどの二価陽イオン酸化物は、前駆体ガラス組成物の粘度を低下させ、これにより、結果として得られるガラスセラミック物品の成形性、歪み点およびヤング率を向上させ、イオン交換可能性を改善することがある。しかしながら、前駆体ガラス組成物に添加される二価陽イオン酸化物が多すぎると、前駆体ガラス組成物中のナトリウムイオンとカリウムイオンの拡散性が低下し、このことは、転じて、結果として得られるガラスセラミック物品のイオン交換性能(すなわち、イオン交換する能力)に悪影響を及ぼす。
【0116】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のR’Oの濃度は、0.1モル%以上かつ15モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のR’Oの濃度は、0.1モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のR’Oの濃度は、15モル%以下、13モル%以下、11モル%以下、9モル%以下、またさらには7モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のR’Oの濃度は、0.1モル%以上かつ15モル%以下、0.1モル%以上かつ13モル%以下、0.1モル%以上かつ11モル%以下、0.1モル%以上かつ9モル%以下、0.1モル%以上かつ7モル%以下、0.5モル%以上かつ15モル%以下、0.5モル%以上かつ13モル%以下、0.5モル%以上かつ11モル%以下、0.5モル%以上かつ9モル%以下、0.5モル%以上かつ7モル%以下、1モル%以上かつ15モル%以下、1モル%以上かつ13モル%以下、1モル%以上かつ11モル%以下、1モル%以上かつ9モル%以下、1モル%以上かつ7モル%以下、2モル%以上かつ15モル%以下、2モル%以上かつ13モル%以下、2モル%以上かつ11モル%以下、2モル%以上かつ9モル%以下、またさらには2モル%以上かつ7モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0117】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度に対する前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のR’Oの濃度のモル比(すなわち、R’O(モル%)対SiO(モル%))は、前駆体ガラス組成物における相分離を防ぎ、透明または透明ヘイズとして特徴付けられる二ケイ酸リチウムガラスセラミック物品を生成するために、0以上かつ0.3以下であることがある。R’O対SiOのモル比が高すぎる(例えば、0.3を超える)と、ひいては、二ケイ酸リチウムの形成が抑制されることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるR’O対SiOのモル比は、0以上、0.05以上、またさらには0.1以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるR’O対SiOのモル比は、0.3以下、0.2以下、またさらには0.15以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるR’O対SiOのモル比は、0以上かつ0.3以下、0以上かつ0.2以下、0以上かつ0.15以下、0.05以上かつ0.3以下、0.05以上かつ0.2以下、0.05以上かつ0.15以下、0.1以上かつ0.3以下、0.1以上かつ0.2以下、またさらには0.1以上かつ0.15以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0118】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、ZrOをさらに含む。ZrOは、二ケイ酸リチウムの粒径を減少させるのに役立つことがあり、このことは、透明または透明ヘイズのガラスセラミック物品の形成にとって重要であろう。ZrOは、SiOのように、網状構造形成材の機能を果たし、それによって、成形中の失透を減少させ、液相温度を低下させることによりガラスの安定性を改善することがある。ZrOを添加すると、結果として得られるガラスセラミック物品の化学的耐久性が改善されることもある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZrOの濃度は、0.5モル%以上、1モル%以上、1.5モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZrOの濃度は、10モル%以下、7モル%以下、5モル%以下、またさらには4モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のZrOの濃度は、0.5モル%以上かつ10モル%以下、0.5モル%以上かつ7モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ10モル%以下、1モル%以上かつ7モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1.5モル%以上かつ10モル%以下、1.5モル%以上かつ7モル%以下、1.5モル%以上かつ5モル%以下、1.5モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ10モル%以下、2モル%以上かつ7モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、またさらには2モル%以上かつ4モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0119】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Pをさらに含む。Pは、ガラス中の結晶相のバルク核形成を生じ、それによって、前駆体ガラス組成物をガラスセラミック物品に転換させる核形成剤の機能を果たす。前駆体ガラス組成物中のPの濃度は、結晶化を行うのに十分に高い(例えば、0.5モル%を超える)べきである。Pの濃度は、成形中の失透を低下させ、液相温度を低下させるために制限される(例えば、5モル%以下に)ことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.5モル%以上かつ5モル%以下のPを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のPの濃度は、0.5モル%以上、1モル%以上、1.5モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のPの濃度は、5モル%以下、4.5モル%以下、4モル%以下、3.5モル%以下、3モル%以下、またさらには2.5モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のPの濃度は、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4.5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、0.5モル%以上かつ3.5モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ2.5モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4.5モル%以上かつ1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3.5モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、1モル%以上かつ2.5モル%以下、1.5モル%以上かつ5モル%以下、1.5モル%以上かつ4.5モル%以下、1.5モル%以上かつ4モル%以下、1.5モル%以上かつ3.5モル%以下、1.5モル%以上かつ3モル%以下、1.5モル%以上かつ2.5モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4.5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、2モル%以上かつ3.5モル%以下、2モル%以上かつ3モル%以下、またさらには2モル%以上かつ2.5モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0120】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Alをさらに含むことがある。Alは、SiOおよびZrOのように、ガラス網状構造を安定化させることもあり、それに加え、ガラス組成物に改善された機械的性質および化学的耐久性を与える。Alの量も、ガラス組成物の粘度を制御するために調整されることがある。Alは、結果として得られるガラス組成物が所望の破壊靱性(例えば、1.0MPa・m1/2以上)を有するように含まれることがある。Alの量が多すぎる(例えば、7モル%を超える)と、溶融物の粘度が増し、それによって、ガラス組成物の成形性が低下することがあり、二ケイ酸リチウム結晶の割合が、連結構造が形成されないかもしれない程度まで低下することがある。
【0121】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ7モル%以下のAlを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0.5モル%以上かつ5モル%以下のAlを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のAlの濃度は、0モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、またさらには1.5モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のAlの濃度は、7モル%以下、5モル%以下、またさらには3モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のAlの濃度は、0モル%以上かつ7モル%以下、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ7モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、1モル%以上かつ7モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、1.5モル%以上かつ7モル%以下、1.5モル%以上かつ5モル%以下、またさらには1.5モル%以上かつ3モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Alを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0122】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のSiOの濃度に対する前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のAlの濃度のモル比(すなわち、Al(モル%)対SiO(モル%))は、所望の二ケイ酸リチウムを含む結晶相を達成するために、0以上かつ0.2以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるAl対SiOのモル比は、0以上、またさらには0.01以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるAl対SiOのモル比は、0.2以下、0.1以下、またさらには0.05以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品におけるAl対SiOのモル比は、0以上かつ0.2以下、0以上かつ0.1以下、0以上かつ0.05以下、0.01以上かつ0.2以下、0.01以上かつ0.1以下、またさらには0.01以上かつ0.05以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0123】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Laをさらに含むことがある。Laは、残留ガラス相に分配され、その屈折率を増加させることがあり、これにより、結晶相の屈折率とよりよく一致して、透明または透明ヘイズのガラスセラミック物品が得られることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ6モル%以下のLaを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLaの濃度は、0モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLaの濃度は、6モル%以下、5モル%以下、4モル%以下、またさらには3モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のLaの濃度は、0モル%以上かつ6モル%以下、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ6モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、1モル%以上かつ6モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、2モル%以上かつ6モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、またさらには2モル%以上かつ3モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Laを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0124】
ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Fをさらに含むことがある。実施の形態において、Fは、フッ素リン灰石を生じることがあり、これは、生物医学的用途にとって重要であろう。実施の形態において、Fは、前駆体ガラス組成物中で核形成剤の機能を果たすことがある。実施の形態において、Fは、フッ化カルシウムの形態で前駆体ガラス組成物中に導入されることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、0モル%以上かつ5モル%以下のFを含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のFの濃度は、0モル%以上、0.5モル%以上、1モル%以上、またさらには2モル%以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のFの濃度は、5モル%以下、4モル%以下、またさらには3モル%以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中のFの濃度は、0モル%以上かつ5モル%以下、0モル%以上かつ4モル%以下、0モル%以上かつ3モル%以下、0.5モル%以上かつ5モル%以下、0.5モル%以上かつ4モル%以下、0.5モル%以上かつ3モル%以下、1モル%以上かつ5モル%以下、1モル%以上かつ4モル%以下、1モル%以上かつ3モル%以下、2モル%以上かつ5モル%以下、2モル%以上かつ4モル%以下、またさらには2モル%以上かつ3モル%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、Fを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0125】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、TiO、MnO、MoO、WO、Y、CdO、As、Sb、および硫酸塩などの硫黄系化合物、ハロゲン、またはその組合せなど、混入物をさらに含むことがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、個々の混入物、混入物の組合せ、または全ての混入物を実質的に含まない、または含まないことがある。例えば、実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品は、TiO、MnO、MoO、WO、Y、CdO、As、Sb、および硫酸塩などの硫黄系化合物、ハロゲン、またはその組合せを実質的に含まない、または含まないことがある。
【0126】
実施の形態において、抗菌成分、化学的清澄剤、または他の追加の成分が、この前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品中に含まれることがある。
【0127】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物の液相温度は、900℃以上、950℃以上、またさらには1000℃以上であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物の液相温度は、1200℃以下、1150℃以下、またさらには1100℃以下であることがある。実施の形態において、前駆体ガラス組成物の液相温度は、900℃以上かつ1200℃以下、900℃以上かつ1150℃以下、900℃以上かつ1100℃以下、950℃以上かつ1200℃以下、950℃以上かつ1150℃以下、950℃以上かつ1100℃以下、1000℃以上かつ1200℃以下、1000℃以上かつ1150℃以下、またさらには1000℃以上かつ1100℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0128】
ここに記載された前駆体ガラス物品またはそれから形成されるガラスセラミック物品は、どの適切な厚さであってもよく、その厚さは、ガラスセラミック物品の特定の用途に応じて様々であろう。実施の形態において、前駆体ガラス物品またはそれから形成されるガラスセラミック物品は、250μm以上かつ6mm以下、250μm以上かつ4mm以下、250μm以上かつ2mm以下、250μm以上かつ1mm以下、250μm以上かつ750μm以下、250μm以上かつ500μm以下、500μm以上かつ6mm以下、500μm以上かつ4mm以下、500μm以上かつ2mm以下、500μm以上かつ1mm以下、500μm以上かつ750μm以下、750μm以上かつ6mm以下、750μm以上かつ4mm以下、750μm以上かつ2mm以下、750μm以上かつ1mm以下、1mm以上かつ6mm以下、1mm以上かつ4mm以下、1mm以上かつ2mm以下、2mm以上かつ6mm以下、2mm以上かつ4mm以下、またさらには4mm以上かつ6mm以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある厚さを有することがある。
【0129】
先に述べたように、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されるガラスセラミック物品は、そのガラスセラミック物品がより耐損傷性であるように、増加した破壊靱性を有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、ダブルトーション法で測定して、1.0MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有することがある。実施の形態において、このガラスセラミック物品は、ダブルトーション法で測定して、1.0MPa・m1/2以上、1.1MPa・m1/2以上、またさらには1.2MPa・m1/2以上の破壊靱性KICを有することがある。
【0130】
実施の形態において、ガラスセラミック物品の弾性率は、100GPa以上であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品の弾性率は、100GPa以上またさらには110GPa以上であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品の弾性率は、125GPa以下、またさらには115GPa以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品の弾性率は、100GPa以上かつ125GPa以下、100GPa以上かつ115GPa以下、110GPa以上かつ125GPa以下、またさらには110GPa以上かつ115GPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0131】
実施の形態において、前駆体ガラス組成物および結果として得られるガラスセラミック物品の剛性率は、30GPa以上、またさらには40GPa以上であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品の剛性率は、55GPa以下、またさらには50GPa以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品の剛性率は、30GPa以上かつ55GPa以下、30GPa以上かつ50GPa以下、40GPa以上かつ55GPa以下、またさらには40GPa以上かつ50GPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0132】
実施の形態において、ガラスセラミック物品の平均透過率は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の50%以上かつ95%以下であることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品の平均透過率は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の50%以上、60%以上、70%以上、またさらには80%以上であることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品の平均透過率は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の95%以下、またさらには90%以下であることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品の平均透過率は、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘る光の50%以上かつ95%以下、50%以上かつ90%以下、60%以上かつ95%以下、60%以上かつ90%以下、70%以上かつ95%以下、70%以上かつ90%以下、80%以上かつ95%以下、またさらには80%以上かつ90%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、透明または透明ヘイズであることがある。
【0133】
実施の形態において、ガラスセラミック物品のポアソン比は、0.20以上、またさらには0.22以上であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品のポアソン比は、0.25以下、またさらには0.23以下であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品のポアソン比は、0.20以上かつ0.25以下、0.20以上かつ0.23以下、0.22以上かつ0.25以下、またさらには0.22以上かつ0.23以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0134】
実施の形態において、ここに記載されたガラスセラミック物品は、その物品を強化するために、イオン交換可能である。典型的なイオン交換過程において、ガラスセラミック物品中のより小さい金属イオンが、ガラスセラミック物品の外面に近い層内の同じ価数のより大きい金属イオンと置換される、すなわち「交換」される。大きい方のイオンによる小さい方のイオンの置換で、ガラスセラミック物品の層内に圧縮応力が生じる。実施の形態において、金属イオンは一価の金属イオン(例えば、Li、Na、Kなど)であり、イオン交換は、ガラスセラミック物品中のより小さい金属イオンを交換すべきより大きい金属イオンの少なくとも1種類の溶融塩を含む浴中にガラスセラミック物品を浸すことによって行われる。あるいは、Ag、Tl、Cuなどの他の一価イオンを、一価イオンと交換してもよい。ガラスセラミック物品を強化するために使用されるイオン交換過程は、以下に限られないが、単一浴または浸漬の間に随意的な洗浄および/または徐冷工程が行われる、同じまたは異なる組成の多数の浴中の浸漬を含むことがある。
【0135】
ガラスセラミック物品に曝露される際に、イオン交換溶液(例えば、KNOおよび/またはNaNO溶融塩浴)は、実施の形態によれば、350℃以上かつ500℃以下、360℃以上かつ450℃以下、370℃以上かつ440℃以下、360℃以上かつ420℃以下、370℃以上かつ400℃以下、375℃以上かつ475℃以下、400℃以上かつ500℃以下、410℃以上かつ490℃以下、420℃以上かつ480℃以下、430℃以上かつ470℃以下、またさらには440℃以上かつ460℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある温度であることがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品は、2時間以上かつ24時間以下、2時間以上かつ12時間以下、2時間以上かつ6時間以下、8時間以上かつ24時間以下、6時間以上かつ24時間以下、6時間以上かつ12時間以下、8時間以上かつ24時間以下、またさらには8時間以上かつ12時間以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある期間に亘りイオン交換溶液に曝露されることがある。
【0136】
結果として生じる圧縮応力層は、2時間のイオン交換時間でガラスセラミック物品の表面に100μm以上の深さ(「圧縮深さ」または「DOC」とも称される)を有することがある。実施の形態において、ガラスセラミック物品は、10μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、またさらには100μm以上の圧縮深さを達成するためにイオン交換されることがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、厚さ「t」を有し、0.25t以上、0.27t以上、またさらには0.30t以上の圧縮深さを達成するためにイオン交換されることがある。
【0137】
この表面圧縮層の発生は、イオン交換されていない材料と比べて、より良好な亀裂抵抗およびより高い曲げ強度にとって有益である。表面圧縮層は、ガラスセラミック物品の本体(すなわち、表面圧縮を含まない区域)に交換されるイオンの濃度と比べて、より高い濃度のガラスセラミック物品中に交換されるイオンを有する。
【0138】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、80MPa以上、100MPa以上、またさらには250MPa以上の、イオン交換強化後の表面圧縮応力を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、1GPa以下、750MPa以下、またさらには500MPa以下のイオン交換強化後の表面圧縮応力を有することがある。実施の形態において、そのガラスセラミック物品は、80MPa以上かつ1GPa以下、80MPa以上かつ750MPa以下、80MPa以上かつ500MPa以下、100MPa以上かつ1GPa以下、100MPa以上かつ750MPa以下、100MPa以上かつ500MPa以下、250MPa以上かつ1GPa以下、250MPa以上かつ750MPa以下、またさらには250MPa以上かつ500MPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあるイオン交換強化後の表面圧縮応力を有することがある。
【0139】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、50MPa以上、75MPa以上、100MPa以上、またさらには125MPa以上のイオン交換強化後の中央張力を有することがある。実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、300MPa以下、250MPa以下、またさらには200MPa以下のイオン交換強化後の中央張力を有することがある。実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、50MPa以上かつ300MPa以下、50MPa以上かつ250MPa以下、50MPa以上かつ200MPa以下、75MPa以上かつ300MPa以下、57MPa以上かつ250MPa以下、57MPa以上かつ200MPa以下、100MPa以上かつ300MPa以下、100MPa以上かつ250MPa以下、100MPa以上かつ200MPa以下、125MPa以上かつ300MPa以下、125MPa以上かつ250MPa以下、125MPa以上かつ200MPa以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあるイオン交換強化後の中央張力を有することがある。
【0140】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、15J/m以上、30J/m以上、40J/m以上、50J/m以上、60J/m以上、70J/m以上、80J/m以上、90J/m以上、またさらには100J/m以上のイオン交換強化後の貯蔵歪みエネルギーを有することがある。
【0141】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス組成物から製造されたガラスセラミック物品は、破損の際にガラスから放出される破片の危険を制限するためにガラスセラミック物品の割れやすさ限界より低いままでありつつ、比較的高い最大中央張力および貯蔵歪みエネルギーを達成するように高い破壊靱性および高い弾性率を有するように形成される。
【0142】
実施の形態において、ガラスセラミック物品を製造する過程は、ガラスの均質化および1つ以上の結晶相(例えば、1つ以上の組成、量、形態、サイズまたはサイズ分布などを有する)の結晶化(すなわち、核形成と成長)を誘発するために1つ以上の事前に選択された時間に亘り1つ以上の事前に選択された温度で炉内の前駆体ガラス組成物から形成された前駆体ガラス物品を熱処理する工程を含む。実施の形態において、熱処理は、(i)1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で炉内の前駆体ガラス物品を核形成温度に加熱すること、(ii)0.1時間以上かつ8時間以下の時間に亘り炉内で核形成温度に前駆体ガラス物品を維持して、核形成された結晶化可能なガラスを生成すること、(iii)1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で炉内の核形成された結晶化可能なガラス物品を結晶化温度に加熱すること、(iv)0.1時間以上かつ8時間以下の時間に亘り炉内で結晶化温度に核形成された結晶化可能なガラス物品を維持して、ガラスセラミック物品を生成すること、および(v)ガラスセラミック物品を室温に冷却することを含むことがある。
【0143】
実施の形態において、前記前駆体ガラス物品は、比較的低い温度(例えば、650℃以下の核形成温度および800℃以下の結晶化温度)で熱処理されて、透明または透明ヘイズのガラスセラミック物品を生成することがある。理論で束縛する意図はないが、温度がより低いと、熱処理により二ケイ酸リチウムの粒径が制限され、このことは、透明または透明ヘイズのガラスセラミック物品を得るのに役立つと考えられる。具体的に、粒径は、イオン拡散のために、温度とともに増加する。より低い温度では、成長速度が遅くなるであろう。
【0144】
実施の形態において、核形成温度は、450℃以上、500℃以上、またさらには525℃以上であることがある。実施の形態において、核形成温度は、650℃以下、600℃以下、またさらには575℃以下であることがある。実施の形態において、核形成温度は、450℃以上かつ650℃以下、450℃以上かつ600℃以下、450℃以上かつ575℃以下、500℃以上かつ650℃以下、500℃以上かつ600℃以下、500℃以上かつ575℃以下、525℃以上かつ650℃以下、525℃以上かつ600℃以下、またさらには525℃以上かつ575℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0145】
実施の形態において、結晶化温度は、550℃以上、またさらには600℃以上であることがある。実施の形態において、結晶化温度は、800℃以下、またさらには700℃以下であることがある。実施の形態において、実施の形態において、結晶化温度は、550℃以上かつ800℃以下、550℃以上かつ700℃以下、600℃以上かつ800℃以下、またさらには600℃以上かつ700℃以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0146】
ここに用いられているように、加熱速度、核形成温度、および結晶化温度は、前駆体ガラス組成物または前駆体ガラス物品が中で熱処理されている炉の加熱速度と温度を称する。
【0147】
前駆体ガラス組成物に加え、結晶化温度に加熱し、温度をその結晶化温度に維持する熱処理工程の温度-時間的プロファイルは、以下の所望の属性の内の1つ以上を生じるように思慮深く定められている:ガラスセラミック物品の結晶相、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相および残留ガラス相の比率、1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相および残留ガラス相の結晶相集合体、および1つ以上の主結晶相および/または1つ以上の副結晶相の中での粒径または粒径分布。これらは、転じて、結果として得られるガラスセラミック物品の最終的な完全性、品質、色、および/または不透明度に影響することがある。
【0148】
ここに記載されたガラスセラミック物品は、結晶相および残留ガラス相を含む。実施の形態において、その結晶相は二ケイ酸リチウムを含むことがある。二ケイ酸リチウムLiSiは、{Si}四面体配列の波形板に基づく斜方晶である。この結晶は、典型的に、形状が板状またはラス状であり、劈開面が目立つ。二ケイ酸リチウムに基づくガラスセラミック物品は、無秩序に配向した連結結晶の微細構造(これらの結晶の周りの蛇行経路により亀裂を材料に伝搬させる結晶構造)のために、高い本体強度および破壊靱性を含む、極めて望ましい機械的性質を提示する。
【0149】
実施の形態において、二ケイ酸リチウムは、ガラスセラミック物品中の結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相と比べても多量に存在する。実施の形態において、結晶相中の二ケイ酸リチウムの総量は、結晶相の総質量に基づいて、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、またさらには70質量%以上であることがある。実施の形態において、結晶相中の二ケイ酸リチウムの総量は、結晶相の総質量に基づいて、99質量%以下、90質量%以下、またさらには80質量%以下であることがある。実施の形態において、結晶相中の二ケイ酸リチウムの総量は、結晶相の総質量に基づいて、30質量%以上かつ99質量%以下、30質量%以上かつ90質量%以下、30質量%以上かつ80質量%以下、40質量%以上かつ99質量%以下、40質量%以上かつ90質量%以下、40質量%以上かつ80質量%以下、50質量%以上かつ99質量%以下、50質量%以上かつ90質量%以下、50質量%以上かつ80質量%以下、60質量%以上かつ99質量%以下、60質量%以上かつ90質量%以下、60質量%以上かつ80質量%以下、70質量%以上かつ99質量%以下、70質量%以上かつ90質量%以下、またさらには70質量%以上かつ80質量%以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にあることがある。
【0150】
実施の形態において、ガラスセラミック物品の結晶相は、二ケイ酸リチウムに加え、メタケイ酸リチウム、リン酸リチウム、葉長石、β-石英、リン灰石、またはその組合せをさらに含むことがある。
【0151】
実施の形態において、ここに記載された前駆体ガラス物品に特定の熱処理が施されて、比較的小さい二ケイ酸リチウム粒子を有するガラスセラミック物品を得ることがあり、これにより、透明または透明ヘイズのガラスセラミック物品がもたらされることがある。実施の形態において、結晶相の二ケイ酸リチウムの粒子は、10nm以上、25nm以上、またさらには50nm以上の粒径を有することがある。実施の形態において、結晶相の二ケイ酸リチウムの粒子は、200nm以下、150nm以下、またさらには100nm以下の粒径を有することがある。実施の形態において、結晶相の二ケイ酸リチウムの粒子は、10nm以上かつ200nm以下、10nm以上かつ150nm以下、10nm以上かつ100nm以下、25nm以上かつ200nm以下、25nm以上かつ150nm以下、25nm以上かつ100nm以下、50nm以上かつ200nm以下、50nm以上かつ150nm以下、またさらには50nm以上かつ100nm以下、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある粒径を有することがある。
【0152】
実施の形態において、結晶相の二ケイ酸リチウムの粒子は、2:1以上、5:1以上、10:1以上、20:1以上、25:1以上のアスペクト比を有することがある。
【0153】
実施の形態において、このガラスセラミック物品は、XRDスペクトルのリートベルト解析にしたがって決定して、ガラスセラミック物品の質量で(すなわち、質量%)50質量%以上の結晶相と50質量%以下の残留ガラス相、60質量%以上の結晶相と40質量%以下の残留ガラス相、70質量%以上の結晶相と30質量%以下の残留ガラス相、80質量%以上の結晶相と20質量%以下の残留ガラス相、またさらには90質量%以上の結晶相と10質量%以下の残留ガラス相、もしくはこれらの端点のいずれかから形成された任意と全ての部分的範囲にある結晶相と残留ガラス相を含むことがある。
【0154】
そのガラスセラミック物品は、シートとして提供されることがあり、そのシートは、次に、加圧成形、吹き込み成形、曲げ加工、垂れ加工、真空成形、または他の手段によって、均一な厚さの湾曲片または曲げ片に再成形されることがある。
【0155】
ここに記載されたガラスセラミック物品は、例えば、LCDおよびLEDディスプレイ、コンピュータ用モニタ、および現金自動預払機(ATM)を含む消費者向けまたは商業用電子機器におけるカバーガラスまたはガラスバックプレーン用途;例えば、携帯電話、パーソナルメディアプレーヤー、腕時計、およびタブレット型コンピュータを含む携帯型電子機器のための、タッチスクリーンまたはタッチセンサ用途;例えば、半導体ウエハを含む集積回路用途;太陽光発電用途;建築用ガラス用途;自動車または車両用ガラス用途;もしくは商業用または家庭用電化製品用途を含む様々な用途に使用されることがある。実施の形態において、消費者向け電子機器(例えば、スマートフォン、タブレット型コンピュータ、腕時計、パーソナルコンピュータ、ウルトラブック、テレビ、およびカメラ)、建築用ガラス、および/または自動車用ガラスは、ここに記載されたようなガラスセラミック物品を含むことがある。
【0156】
ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを組み込んだ例示の電子機器が、図3および4に示されている。詳しくは、図3および4は、前面204、背面206、および側面208を有する筐体202;筐体の少なくとも部分的に内部または完全に内部にあり、少なくとも、制御装置、メモリ、および筐体の前面にあるまたはそれに隣接するディスプレイ210を含む電気部品(図示せず);およびディスプレイを覆うように筐体の前面にあるまたはそれを覆うカバー基板212を備えた消費者向け電子機器200を示す。実施の形態において、カバー基板212および筐体202の少なくとも一方の少なくとも一部は、ここに開示されたガラスセラミック物品のいずれかを含むことがある。
【実施例
【0157】
様々な実施の形態がより容易に理解されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物およびガラスセラミック物品の様々な実施の形態を説明することを意図した以下の実施例を参照する。
【0158】
表1は、例示の前駆体ガラス組成物と比較の前駆体ガラス組成物(モル%)並びに前駆体ガラス組成物の液相温度を示している。
【0159】
【表1-1】
【0160】
【表1-2】
【0161】
【表1-3】
【0162】
【表1-4】
【0163】
【表1-5】
【0164】
【表1-6】
【0165】
【表1-7】
【0166】
【表1-8】
【0167】
【表1-9】
【0168】
実施例A-熱処理
表2は、例示のガラスセラミック物品を得るための熱処理スケジュール、およびガラスセラミック物品のそれぞれの性質を示している。厚さ0.8mmの例示のガラスセラミック物品E1~E50は、表1に列挙された例示の前駆体ガラス組成物1~48から形成した。
【0169】
【表2-1】
【0170】
【表2-2】
【0171】
【表2-3】
【0172】
【表2-4】
【0173】
【表2-5】
【0174】
【表2-6】
【0175】
【表2-7】
【0176】
【表2-8】
【0177】
【表2-9】
【0178】
【表2-10】
【0179】
表1の例示の前駆体ガラス組成物および表2のガラスセラミック物品で示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物は、特定の熱処理が施されて、破壊靱性および弾性率が改善された透明または透明ヘイズであるガラスセラミック物品を形成することがある。
【0180】
ここで図5を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物4に4時間に亘る560℃での核形成保持、および1時間に亘る690℃での結晶化保持を施すことにより形成された、表2に示された例示のガラスセラミック物品E4は、400nmから800nmの波長範囲に亘り90%の平均全透過率を有し、例示の前駆体ガラス組成物4の特定の熱処理は、透明ガラスセラミック物品をもたらしたことを示す。ここで図6を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物31に4時間に亘る560℃での核形成保持、および1時間に亘る690℃での結晶化保持を施すことにより形成された、表2に示された例示のガラスセラミック物品E31は、400nmから800nmの波長範囲に亘り90%の平均全透過率を有し、例示の前駆体ガラス組成物31の特定の熱処理は、透明ヘイズガラスセラミック物品をもたらしたことを示す。図5および6に示されるように、比較的低い温度(例えば、560℃での核形成保持および690℃での結晶化保持)でここに記載された前駆体ガラス組成物を熱処理すると、透明または透明ヘイズであるガラスセラミック物品が得られる。
【0181】
図5に戻ると、例示のガラスセラミック物品E4は、400nmから800mmの波長範囲に亘り0.18%の平均散乱透過率を有した。ここで図7を参照すると、例示のガラスセラミック物品E4は、400nmから800nmの波長範囲に亘り0.13の平均散乱比を有した。図5および7に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物に、特定の熱処理が施されて、比較的低い拡散透過率および散乱比(光の散乱が少ないことを意味する)を有するガラスセラミック物品が形成されることがある。理論で束縛する意図はないが、比較的低い拡散透過率および散乱比は、結晶相の屈折率の類似性および/または二ケイ酸リチウム粒子のより小さい粒径によるものであろう。
【0182】
ここで図8を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物15に4時間に亘る540℃での核形成保持、および1時間に亘る670℃での結晶化保持を施すことにより形成された、例示のガラスセラミック物品E49は、最大量で存在する二ケイ酸リチウムを有し、葉長石、メタケイ酸リチウム、およびリン酸リチウムも含んだ。図8に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物は、特定の熱処理が施されて、二ケイ酸リチウムを含むガラスセラミック物品を生じることがある。
【0183】
ここで図9を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物4に4時間に亘る590℃での核形成保持、および1時間に亘る690℃での結晶化保持を施すことにより形成された、例示のガラスセラミック物品E50は、最大量で存在する二ケイ酸リチウムを有し、リン酸リチウムも含んだ。ここで図10および11を参照すると、例示のガラスセラミック物品E50は、50から100nmの範囲の粒径を有する二ケイ酸リチウムの粒子を含んだ。図8~11に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物は、特定の熱処理が施されて、二ケイ酸リチウムを含み、比較的小さい二ケイ酸リチウムの粒径を有するガラスセラミック物品を生じることがあり、これにより、透明または透明ヘイズであるガラスセラミック物品が得られることがある。
【0184】
実施例B:核形成保持
ここで図12および13を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物23に1時間に亘る550℃での核形成保持を施すことにより形成された例示のガラスセラミック物品E51は、30から50nmの範囲の粒径を有する二ケイ酸リチウムを含んでいた。ここで図14および15を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物23に8時間に亘る550℃での核形成保持を施すことにより形成された例示のガラスセラミック物品E52は、50から200nmの範囲の粒径を有する二ケイ酸リチウムを含んでいた。
【0185】
ここで図16、17、および18を参照すると、例示の前駆体ガラス組成物23に、それぞれ、0.5時間、2時間、4時間、および8時間に亘る550℃での核形成保持を施すことにより、ガラスセラミック物品を形成した。図16に示されるように、二ケイ酸リチウムの粒径は、核形成保持時間を長くすることによって、著しくは変わらなかった。図17に示されるように、ガラスセラミック物品の結晶化度は、核形成保持時間を長くすると、著しく増加した。図18に示されるように、破壊靱性は、ガラスセラミック物品の結晶化度と共に増加した。
【0186】
図12~18に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物に比較的低い核形成温度での核形成保持を施すと、二ケイ酸リチウムの粒径を増加させずに、結果として得られるガラスセラミック物品の結晶化度が増加し、それゆえ、破壊靱性が増し、これにより、ガラスセラミック物品の透過率が減少するであろう。
【0187】
実施例C:結晶化保持
前駆体ガラス組成物23に4時間に亘る550℃での核形成保持、および5分間に亘る、それぞれ、600℃、750℃、および850℃での結晶化保持を施すことによって、ガラスセラミック物品E53、E54、およびE55を形成した。ここで図19~21を参照すると、結晶化温度を上昇させると、二ケイ酸リチウムの粒径の増加および連結微細構造が観察された。ここで図22を参照すると、結果として得られたガラスセラミック物品の透過率は、結晶化保持温度が上昇するにつれて、減少する。
【0188】
図19~22に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物に比較的低い結晶化温度での結晶化保持を施すと、透過率が比較的増加したガラスセラミック物品が得られ、このことは、比較的小さい二ケイ酸リチウムの粒径に寄与するであろう。
【0189】
実施例C:イオン交換および最大中央張力
表2に示されるように、例示の前駆体ガラス組成物4に4時間に亘る560℃での核形成保持、および1時間に亘る690℃での結晶化保持を施すことにより、例示のガラスセラミック物品E4を形成した。比較の前駆体ガラス組成物1に、例示のガラスセラミック物品E4を形成するのに使用したのと同じ熱処理を施すことにより、比較のガラスセラミック物品C1を形成した。
【0190】
ここで図23を参照すると、例示のガラスセラミック物品E4および比較のガラスセラミック物品C1を、それぞれ、4時間、7時間、16時間、24時間、および32時間に亘り、470℃で100%のNaNO浴中でイオン交換した。ここで図23を参照すると、例示のガラスセラミック物品E4は、比較のガラスセラミック物品C1よりも高い最大中央張力を達成した。
【0191】
ここで図24を参照すると、例示のガラスセラミック物品E4および比較のガラスセラミック物品C1を、それぞれ、4時間、7時間、16時間、および24時間に亘り、60%のKNO/40%のNaNO+0.12%のLiNO溶融塩浴中でイオン交換した。16時間に亘り例示のガラスセラミック物品E4をイオン交換すると、その物品中に交換されたナトリウムイオンのほぼ放物線上のプロファイルが生じた。ここで図25を参照すると、例示のガラスセラミック物品E4は、比較のガラスセラミック物品C1よりも高い最大中央張力を達成した。図26に示されるように、例示のガラスセラミック物品E4は、質量の増加を示し、このことは、イオン交換に利用できるLiOが残留ガラス相中により多く存在したことを示す。残留ガラス相中の追加のLiOは、より高い中央張力をもたらすであろう。
【0192】
図23および25に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物に特定のイオン交換条件を施して、比較的高い最大中央張力を達成した。理論で束縛する意図はないが、比較的多量のLiOが、図26に示される質量増加データで明らかなように、イオン交換のために残留ガラス相中に存在し、最大中央張力の増加をもたらすと考えられる。
【0193】
図26に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品は、ガラスセラミック物品中に存在する比較的多量のLiイオンをもたらし、このイオンは、イオン交換浴中に存在するNaイオンと交換され、これにより、比較的大きい最大中央張力が生じる。理論で束縛する意図はないが、ここに記載されたガラスセラミック物品は、容易にイオン交換されるであろうLiOを残留ガラス相中に比較的多量に有する。
【0194】
実施例D:イオン交換および貯蔵歪みエネルギー
表3は、例示のイオン交換済みのガラスセラミック物品に関するイオン交換条件、およびそのイオン交換済みのガラスセラミック物品のそれぞれの性質を示している。例示のガラスセラミック物品E56~E64は、表1に列挙された例示の前駆体ガラス組成物4から形成し、4時間に亘る540℃での核形成保持、および1時間に亘る670℃での結晶化保持を施した。
【0195】
【表3-1】
【0196】
【表3-2】
【0197】
表3のガラスセラミック物品で示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品に、特定のイオン交換条件が施されると、高い最大中央張力および高い貯蔵歪みエネルギーを達成することがある。
【0198】
ここで図27~29を参照すると、例示のガラスセラミック物品E57、E58、およびE59に割れやすさ試験を行った。図27および28に示されるように、156.9MPaの最大中央張力と33.67J/mの貯蔵歪みエネルギーを有する例示のガラスセラミック物品E57、および193.4MPaの最大中央張力と48.89J/mの貯蔵歪みエネルギーを有する例示のガラスセラミック物品E58には、多量の亀裂(すなわち、ダイシング(dicing))は観察されなかった。図29に示されるように、267MPaの最大中央張力と90.87J/mの貯蔵歪みエネルギーを有する例示のガラスセラミック物品E64には、多量の亀裂(すなわち、ダイシング)が観察された。図27~29に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品に特定のイオン交換条件を施すと、割れやすさ限界よりも低いままでありつつ、高い破壊靱性および高い弾性率に関連する、比較的高い中央張力および比較的高い貯蔵歪みエネルギーを達成することがある。理論で束縛する意図はないが、二ケイ酸リチウムの結晶相の結晶構造により、ここに記載されたガラスセラミック物品は、割れやすくならずに、比較的高い中央張力、破壊靱性および弾性率を達成することができると考えられる。
【0199】
実施例E:イオン交換および経時劣化
例示の前駆体ガラス組成物4に4時間に亘る640℃での核形成保持、および4時間に亘る770℃での結晶化保持を施すことにより、例示のガラスセラミック物品E65~E68を形成した。例示のガラスセラミック物品E66およびE68に、24時間に亘り60%のKNO/40%のNaNO+0.12%のLiNO溶融塩浴中のイオン交換を施した。例示のガラスセラミック物品E65およびE67はイオン交換しなかった。これらの例示のガラスセラミック物品に、85℃および85%の湿度の槽内で促進老化試験を行った。例示のガラスセラミック物品E65およびE66は72時間に亘り経時劣化させ、例示のガラスセラミック物品E69およびE70は500時間に亘り経時劣化させた。
【0200】
ここで図30~33を参照すると、イオン交換済みのガラスセラミック物品E66およびE68を含む、経時劣化後の例示のガラスセラミック物品のいずれにも、腐食は観察されなかった。ここで図34~36を参照すると、イオン交換され、経時劣化したガラスセラミック物品E68において、主相としてNaClが特定された。理論で束縛する意図はないが、水中の不純物からの汚染により、主相は、NaOではなくNaClであったと考えられる。図30~36に示されるように、ここに記載された前駆体ガラス組成物から形成されたガラスセラミック物品は、イオン交換することができ、物品の表面に高レベルのNaOがあったとしても、腐食しないであろう。
【0201】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に、様々な改変および変更を行われてもよいことが、当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更を、そのような改変および変更が特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に入るという前提で、包含することが意図されている。
【0202】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0203】
実施形態1
ガラスセラミック物品であって、
結晶相、
残留ガラス相、
52モル%以上かつ70モル%以下のSiO
14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、
0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、
0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および
0.5モル%以上かつ5モル%以下のP
を含むガラスセラミック物品。
【0204】
実施形態2
前記結晶相が二ケイ酸リチウムを含み、該二ケイ酸リチウムは、前記結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多い量で存在する、実施形態1に記載のガラスセラミック物品。
【0205】
実施形態3
前記二ケイ酸リチウムの粒子が、10nm以上かつ200nm以下の粒径を有する、実施形態2に記載のガラスセラミック物品。
【0206】
実施形態4
前記ガラスセラミック物品が、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0207】
実施形態5
前記ガラスセラミック物品が、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含む、実施形態1から4のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0208】
実施形態6
前記ガラスセラミック物品が、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含む、実施形態1から5のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0209】
実施形態7
前記ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ7モル%以下のAlを含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0210】
実施形態8
前記ガラスセラミック物品が、0.5モル%以上かつ5モル%以下のAlを含む、実施形態7に記載のガラスセラミック物品。
【0211】
実施形態9
Al対SiOのモル比が、0以上かつ0.2以下である、実施形態1から8のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0212】
実施形態10
Oが、14モル%以上かつ40モル%以下であり、ROは、LiO、NaO、およびKOの合計である、実施形態1から9のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0213】
実施形態11
LiO対SiOのモル比が、0.2以上かつ0.7以下である、実施形態1から10のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0214】
実施形態12
R’Oが、0.1モル%以上かつ15モル%以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、実施形態1から11のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0215】
実施形態13
R’O対SiOのモル比が、0以上かつ0.3以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、実施形態1から12のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0216】
実施形態14
前記ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ6モル%以下のLaを含む、実施形態1から13のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0217】
実施形態15
前記ガラスセラミック物品が、0モル%以上かつ5モル%以下のFを含む、実施形態1から14のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0218】
実施形態16
前記ガラスセラミック物品が、
0モル%以上かつ5モル%以下のNaO、および
0モル%以上かつ5モル%以下のKO、
を含む、実施形態1から15のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0219】
実施形態17
前記ガラスセラミック物品が、
0モル%以上かつ6モル%以下のMgO、
0モル%以上かつ5モル%以下のZnO、
0モル%以上かつ6モル%以下のSrO、および
0モル%以上かつ6モル%以下のBaO、
を含む、実施形態1から16のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0220】
実施形態18
前記ガラスセラミック物品の結晶相が、メタケイ酸リチウム、リン酸リチウム、葉長石、β-石英、リン灰石、またはその組合せを含む、実施形態1から17のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0221】
実施形態19
前記ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘り、50%以上かつ95%以下である、実施形態1から18のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0222】
実施形態20
ダブルトーション法で測定した前記ガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、1.0MPa・m1/2以上である、実施形態1から19のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0223】
実施形態21
前記ガラスセラミック物品の弾性率が100GPa以上である、実施形態1から20のいずれか1つに記載のガラスセラミック物品。
【0224】
実施形態22
ガラス組成物において、
52モル%以上かつ70モル%以下のSiO
14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、
0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、
0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および
0.5モル%以上かつ5モル%以下のP
を含むガラス組成物。
【0225】
実施形態23
前記ガラス組成物が、18モル%以上かつ32モル%以下のLiOを含む、実施形態22に記載のガラス組成物。
【0226】
実施形態24
前記ガラス組成物が、0.5モル%以上かつ7モル%以下のZrOを含む、実施形態22または23に記載のガラス組成物。
【0227】
実施形態25
前記ガラス組成物が、1モル%以上かつ4.5モル%以下のPを含む、実施形態22から24のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0228】
実施形態26
前記ガラス組成物が、0モル%以上かつ7モル%以下のAlを含む、実施形態22から25のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0229】
実施形態27
前記ガラス組成物が、0.5モル%以上かつ4モル%以下のAlを含む、実施形態26に記載のガラス組成物。
【0230】
実施形態28
Al対SiOのモル比が、0以上かつ0.2以下である、実施形態22から27のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0231】
実施形態29
Oが、14モル%以上かつ40モル%以下であり、ROは、LiO、NaO、およびKOの合計である、実施形態22から28のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0232】
実施形態30
LiO対SiOのモル比が、0.2以上かつ0.7以下である、実施形態22から29のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0233】
実施形態31
R’Oが、0.1モル%以上かつ15モル%以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、実施形態22から30のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0234】
実施形態32
R’O対SiOのモル比が、0以上かつ0.3以下であり、R’Oは、CaO、MgO、ZnO、SrO、およびBaOの合計である、実施形態22から31のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0235】
実施形態33
前記ガラス組成物が、0モル%以上かつ6モル%以下のLaを含む、実施形態22から32のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0236】
実施形態34
前記ガラス組成物が、0モル%以上かつ5モル%以下のFを含む、実施形態22から33のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0237】
実施形態35
前記ガラス組成物が、
0モル%以上かつ5モル%以下のNaO、および
0モル%以上かつ5モル%以下のKO、
を含む、実施形態22から34のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0238】
実施形態36
前記ガラス組成物が、
0モル%以上かつ6モル%以下のMgO、
0モル%以上かつ5モル%以下のZnO、
0モル%以上かつ6モル%以下のSrO、および
0モル%以上かつ6モル%以下のBaO、
を含む、実施形態22から35のいずれか1つに記載のガラス組成物。
【0239】
実施形態37
ガラスセラミック物品を形成する方法であって、
1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で、炉内で前駆体ガラス物品を核形成温度に加熱する工程であって、該前駆体ガラス物品は、
52モル%以上かつ70モル%以下のSiO
14モル%以上かつ35モル%以下のLiO、
0.1モル%以上かつ15モル%以下のCaO、
0.5モル%以上かつ10モル%以下のZrO、および
0.5モル%以上かつ5モル%以下のP
を含む前駆体ガラス組成物から作られる、工程、
0.1時間以上かつ8時間以下の期間に亘り前記炉内で前記前駆体ガラス物品を前記核形成温度に維持して、核形成済みの結晶化可能なガラス物品を生成する工程、
1℃/分以上かつ10℃/分以下の速度で、前記炉内で前記核形成済みの結晶化可能なガラス物品を結晶化温度に加熱する工程、
0.25時間以上かつ4時間以下の期間に亘り前記炉内で前記核形成済みの結晶化可能なガラス物品を前記結晶化温度に維持して、前記ガラスセラミック物品を生成する工程であって、該ガラスセラミック物品は結晶相および残留ガラス相を含む、工程、および
前記ガラスセラミック物品を室温に冷却する工程、
を含む方法。
【0240】
実施形態38
前記結晶相が二ケイ酸リチウムを含み、該二ケイ酸リチウムは、前記結晶相の総質量に基づいて、どの他の結晶相よりも多い量で存在する、実施形態37に記載の方法。
【0241】
実施形態39
2時間以上から12時間以下の期間に亘り350℃以上から500℃以下の温度で、イオン交換浴中で前記ガラスセラミック物品を強化して、イオン交換済みガラスセラミック物品を形成する工程をさらに含む、実施形態37または38に記載の方法。
【0242】
実施形態40
前記イオン交換浴がKNOを含む、実施形態39に記載の方法。
【0243】
実施形態41
前記イオン交換浴がNaNOを含む、実施形態40に記載の方法。
【0244】
実施形態42
前記ガラスセラミック物品の平均透過率が、0.8mmの物品厚で測定して、400nmから800nmの波長範囲に亘り、50%以上かつ95%以下である、実施形態37から41のいずれか1つに記載の方法。
【0245】
実施形態43
ダブルトーション法で測定した前記ガラスセラミック物品の破壊靱性KICが、1.0MPa・m1/2以上である、実施形態37から42のいずれか1つに記載の方法。
【0246】
実施形態44
前記ガラスセラミック物品の弾性率が100GPa以上である、実施形態37から43のいずれか1つに記載の方法。
【0247】
実施形態45
前記ガラスセラミック物品の貯蔵歪みエネルギーが15J/m以上である、実施形態37から44のいずれか1つに記載の方法。
【0248】
実施形態46
消費者向け電子機器において、
前面、背面、および側面を有する筐体、
少なくとも部分的に前記筐体内に設けられた電子部品であって、少なくとも制御装置、メモリ、および該筐体の前面にまたはそれに隣接して設けられたディスプレイを含む電子部品、および
前記ディスプレイを覆って配置されているおよび前記筐体の一部を形成するの少なくとも一方である、実施形態1から21のいずれか1つによるガラスセラミック物品、
を含む電子機器。
【符号の説明】
【0249】
130 衝撃点
140 亀裂分岐
142 破片
150 分岐点
200 消費者向け電子機器
202 筐体
204 前面
206 背面
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
【国際調査報告】