(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】抗TGF-ベータ抗体製剤およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240621BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240621BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240621BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240621BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240621BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240621BHJP
C07K 16/24 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
A61K39/395 T
A61P35/00
A61K9/08
A61K47/26
A61K47/18
A61P35/02
C07K16/24 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577310
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2022034103
(87)【国際公開番号】W WO2022266510
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】キラン・ラナ・バンガリ
(72)【発明者】
【氏名】ラミル・ラティポフ
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・マッコイ
(72)【発明者】
【氏名】サンケット・パッケ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB13
4C076CC27
4C076DD38
4C076DD46
4C076DD51
4C085AA14
4C085CC23
4C085DD61
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
本開示は、抗TGF-β抗体を含む医薬組成物およびそれらの使用の方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、組成物は、
配列番号1の1~120残基に相当する重鎖可変ドメイン(V
H)アミノ酸配列および配列番号2の1~108残基に相当する軽鎖可変ドメイン(V
L)アミノ酸配を含む抗TGFβ抗体20~200mg/ml、
10~50mM酢酸、場合により25mM酢酸、および
5~15%w/vスクロース、場合により8%w/vスクロース
を含む水溶液であり、溶液はpH5.0±0.2または5.0±0.3である、医薬組成物。
【請求項2】
抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
界面活性剤をさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
界面活性剤は、ポリソルベート、場合によりポリソルベート80(PS80)である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
PS80は、0.01~0.10%w/v、場合により0.06%w/vの濃度である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
抗TGFβ抗体は、40~180mg/ml、場合により50mg/mlまたは150mg/mlの濃度である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
場合によりEDTAおよびDPTAから選択されるキレート剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
キレート剤は、0~20μM、場合により10μMの濃度である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
水溶液は、pH4.7~5.3である、請求項1~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
抗TGFβ抗体50mg/ml、75mg/ml、または150mg/ml、
25mM酢酸、
10μM EDTA、
0.06%PS80、および
8%w/vスクロース
を含み、pH5.0±0.3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
バイアルおよび使用説明書を含む製品であって、バイアルは約16mlの請求項11に記載の組成物を含有する、製品。
【請求項13】
それを必要としている患者においてがんを処置する方法であって、治療有効量の請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物を患者に投与する工程を含む方法。
【請求項14】
さらなる抗がん治療を投与する工程をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
組成物は、5mg/kgまたは15mg/kgの用量で、場合により隔週、静脈内に投与される、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか1項に記載の方法でのそれを必要としている患者の処置における使用のための組成物。
【請求項17】
請求項13~15のいずれか1項に記載の方法でのそれを必要としている患者の処置のための薬剤の製造のための請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月18日に出願した米国仮出願第63/212,473号の優先権を主張するものである。この優先権出願の開示は、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
配列表
【0002】
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に出願され、その全体を参照によって本明細書に組み入れる、配列表を含む。2022年6月17日に作成された前記ASCIIコピーは、022548_WO064_SL.txtと名付けられ、サイズは19,437バイトである。
【背景技術】
【0003】
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)は、増殖、分化、生存、遊走、および上皮間葉転換を含む多くの重要な細胞の機能を制御するサイトカインである。それは、細胞外マトリックス形成、創傷治癒、胚発生、骨発生、造血、免疫および炎症応答、および悪性形質転換のような種々の生物学的プロセスを調節する。TGF-βの調節解除は、病的状態、例えば先天性欠損、がん、慢性炎症、ならびに自己免疫および線維性疾患をもたらす。
【0004】
TGF-βは、公知の3つのアイソフォーム-TGF-β1、2、および3がある。3つのアイソフォーム全てが、最初に前駆ペプチドとして転写される。切断後、成熟C末端はN末端と結合したままであり(潜在関連ペプチドまたはLAPと呼ばれる)、細胞から分泌される小さい潜在型複合体(SLC)を形成する。SLCがTGF-β受容体II(TGFβRII)に結合できないために、受容体エンゲージメントが妨げられる。N-およびC-末端の解離による活性化は、タンパク質切断、酸性pH、またはインテグリン構造変化(非特許文献1)を含む、いくつかのメカニズムの1つによって生じる。
【0005】
TGF-β1、2および3は、その機能が多面的であり、細胞および組織型にわたって異なるパターンで発現される。それらは、in vitroでの活性が類似しているが、特定の細胞型における個々のノックアウトは、それらが同じ受容体に結合する能力を共有するにもかかわらず、in vivoでの同一ではない役割を示唆する(非特許文献2)。TGF-βがTGFβRIIに結合すると、受容体の構成的なキナーゼ活性は、TGF-β受容体I(TGFβRI)をリン酸化および活性化し、SMAD2/3をリン酸化し、SMAD4への結合、核への局在、およびTGF-β応答遺伝子の転写を可能にする。同文献。この古典的シグナル伝達カスケードに加えて、非古典的な経路は、p38 MAPK、PI3K、AKT、JUN、JNK、およびNF-κBを含む他の因子を介してシグナルを伝達する。TGF-βシグナル伝達もまた、WNT、ヘッジホッグ、ノッチ、INF、TNF、およびRASを含む他の経路によって調節される。したがって、TGF-βシグナル伝達の最終結果は、細胞の状態および環境を統合するこれらのシグナル伝達経路の全てのクロストークである。同文献。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Connolly et al., Int J Biol Sci. (2012) 8(7):964-78
【非特許文献2】Akhurst et al., Nat Rev Drug Discov. (2012) 11(10):790-811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
TGF-βには多様な機能があるので、有効な汎TGF-β特異的抗体治療の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、抗TGF-β抗体を含む医薬組成物を提供する。一態様では、本開示は、医薬組成物であって、組成物は、配列番号1の1~120残基に相当する重鎖可変ドメイン(VH)アミノ酸配列および配列番号2の1~108残基に相当する軽鎖可変ドメイン(VL)アミノ酸配列を含む抗TGFβ抗体20~200mg/ml、10~50mM酢酸、場合により25mM酢酸、および5~15%w/vスクロース、場合により8%w/vスクロースを含む水溶液であり、水溶液はpH5.0±0.2または5.0±0.3である、医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、組成物は、pH4.7~5.3の水溶液である。
【0009】
いくつかの実施形態では、抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、抗TGFβ抗体は、40~180mg/ml、場合により50mg/mlまたは150mg/mlの濃度である。
【0011】
いくつかの実施形態では、組成物は、界面活性剤、例えばポリソルベート(例えば、ポリソルベート80(PS80))を含む。特定の実施形態では、組成物は、0.01~0.10%w/v、場合により0.06%w/vの濃度のPS80を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、組成物は、場合によりEDTAおよびDPTAから選択されるキレート剤を含む。ある特定の実施形態では、キレート剤は、0~20μM、場合により10μMの濃度である。
【0013】
特定の実施形態では、組成物は、抗TGFβ抗体50mg/ml、75mg/ml、または150mg/ml、25mM酢酸、10μM EDTA、0.06%PS80、および8%w/vスクロースを含み、pH5.0±0.3である。ある特定の実施形態では、抗体は、配列番号1に記載の重鎖アミノ酸配列(C末端リジン有りまたは無し)および配列番号2に記載の軽鎖アミノ酸配列を含む。
【0014】
本開示は、バイアルおよび使用説明書を含む製品であって、バイアルは約16mlの本組成物を含有する製品も提供する。
【0015】
本明細書では、治療有効量の本組成物を患者に投与する工程を含む、それを必要としている患者においてがんを処置する方法も提供する。いくつかの実施形態では、方法は、さらなる抗がん治療を投与する工程をさらに含む。特定の実施形態では、組成物は、5mg/kgまたは15mg/kgの用量で、場合により隔週、静脈内に投与される。本開示は、これらの方法でのそれを必要としている患者の処置における使用のための本組成物および本開示の処置方法でのそれを必要としている患者の処置のための薬剤の製造のための本組成物の使用も提供する。
【0016】
本発明の他の特徴、目的および利点は、以下の詳細な説明で明らかである。しかしながら、詳細な説明は、本発明の実施形態および態様を示すが、例示のためだけであり、制限ではないことが理解されるであろう。本発明の範囲内の様々な変更および改変は、詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】pH範囲でのAb1 80mg/mlの酢酸またはヒスチジン緩衝液製剤中のタンパク石濁の程度を示す写真である。
【
図2-1】
図2A~Cは、5℃、25℃、または40℃での4週間にわたる保存での酢酸およびヒスチジン製剤中の2μm(
図2A)、10μm(
図2B)、および25μm(
図2C)の肉眼では見えない粒子の進化を示す棒グラフのパネルである。
【
図3】調製後すぐ(T
0)および40℃での保存の4週間後の酢酸およびヒスチジン製剤の粘度値(センチポイズ(cP))を示す棒グラフである。
【
図4-1】
図4Aおよび
図4Bは、40℃、25℃、または5℃での4週間にわたる保存での酢酸およびヒスチジン製剤のpH値を示す棒グラフのパネルである。
【
図5】T
0ならびに5℃、25℃、および40℃での保存の4週間後の酢酸(pH4.7、5、および5.5)およびヒスチジン(pH5.5、6、および6.5)の吸光度値(340~360nm)を示す散布図である。
【
図6-1】5℃での2週間にわたる保存(上-左のパネル)、40℃での2週間にわたる保存(上-右のパネル)、48時間の厳密な撹拌(下-左のパネル)、および-30℃から室温での凍結/融解(FT)サイクル(下-右のパネル)の、異なるポリソルベート(PS80)濃度での製剤中のHMWS進化を示すグラフのパネルである。SR_#またはCh_#:#は、PS80の%濃度である。SRおよびChは、PS80の2つの異なるベンダーを表す。
【
図7A-1】ポリオレフィン(PO)またはポリ塩化ビニル(PVC)IVバッグ中の生理食塩水またはデキストロースに希釈後のAb1濃度を示す一対の棒グラフである。
【
図7B-1】POまたはPVC IVバッグ中の生理食塩水(S)またはデキストロース(D)に希釈後の肉眼では見えない(≧10μm)粒子を示す一対の棒グラフである。T0:ゼロ時間。T24:24時間。T48:48時間。
【
図8A-1】5℃、25℃、および40℃での12週間にわたる保存(
図8A)ならびに-20℃での6カ月にわたる保存(
図8B)での、様々な濃度のAb1製剤におけるHMWS進化を示すグラフである。
【
図8B】5℃、25℃、および40℃での12週間にわたる保存(
図8A)ならびに-20℃での6カ月にわたる保存(
図8B)での、様々な濃度のAb1製剤におけるHMWS進化を示すグラフである。
【
図9-1】金属添加Ab1製剤におけるM252酸化(左のパネル)およびHMWS%(右のパネル)進化を示す一対のグラフである。
【
図10-1】40℃での1カ月保存(左のパネル)または25℃での3カ月保存後、様々な製剤におけるHMWSおよび亜種進化を示す一対の棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示は、水溶液中に汎TGF-β特異的モノクローナル抗体を含む安定な医薬組成物を提供する。そのような抗体の1つはAb1である。Ab1は、ヒトTGF-βの3つアイソフォーム全て(TGF-β1、TGF-β2、およびTGF-β3)を標的とし、配列番号1の重鎖アミノ酸配列および配列番号2の軽鎖アミノ酸配列を有するIgG4モノクローナル抗体である。
【0019】
モノクローナル抗体の治療の成功は、一部には、抗体薬候補の製造可能性、安定性、および送達特性による。溶液の好ましくない挙動、例えば高い溶液の粘度またはタンパク石濁は、抗体薬の開発可能性に大きく影響する。Ab1の製剤研究は、この抗体が表面活性であり、溶液撹拌時または他の界面ストレス条件下で、肉眼では見えないおよび目視できる粒子を形成する傾向が高いことを示した。本発明者らは、およそ5.0の酸性pHを有する酢酸緩衝液に基づく本製剤が、粒子形成の減少を含めて、保存および輸送中の製剤の安定性を著しく改善することを発見した。本発明者らは、Ab1が、高いpH(例えば、pH6.0)でのタンパク石濁および好ましくないコロイド安定性のような望ましくない溶液挙動を示すことを発見した。本発明者らは、溶液中の粒子形成が界面活性剤の添加によってさらに軽減され、キレート剤の包括が製剤の改善も助けることも発見した。
【0020】
I.汎特異的抗TGFβモノクローナル抗体
本明細書で製剤化されるモノクローナル抗体は、Ab1に相補性決定領域(CDR)を含む。そのような抗体は、本明細書ではまとめて「Ab1関連抗体」と呼ばれ、Ab1自体を含む。いくつかの実施形態では、抗体は、ヒトIgG4定常領域およびヒトκ軽鎖定常領域を含む完全ヒト抗体である。さらなる実施形態では(例えば、Ab1)、ヒトIgG4定常領域は、228位(EUナンバリング)に突然変異を有する。いくつかの実施形態では(例えば、Ab1)、突然変異は、セリンからプロリンへの突然変異である(S228P)。
【0021】
Ab1の重鎖および軽鎖アミノ酸配列は、それぞれ配列番号1および2として以下に示す。S228P位は、配列番号1の配列において四角内およびボールド体である。可変ドメインはイタリック体である。CDRは四角内に示す。重鎖の定常ドメイン内のグリコシル化部位はボールド体である(N297)。
【0022】
【0023】
いくつかの実施形態では、本明細書の抗体は、上記のCDRを有する抗体(例えば、ヒト抗体)を有する。すなわち、抗体は、以下の重鎖および軽鎖CDRアミノ酸配列:
HCDR1 SNVIS(配列番号3)
HCDR2 GVIPIVDIANYAQRFKG(配列番号4)
HCDR3 TLGLVLDAMDY(配列番号5)
LCDR1 RASQSLG SSYLA(配列番号6)
LCDR2 GASSRAP(配列番号7)
LCDR3 QQYADSPIT(配列番号8)
を有する。したがって、抗体は、配列番号3、4、5、6、7、および8を含み得る。
【0024】
さらなる実施形態では、抗体は、上記の重鎖可変ドメイン(配列番号1のアミノ酸1~120)および軽鎖可変ドメイン(配列番号2のアミノ酸1~108)を有する。ある特定の実施形態では、本明細書で製剤化される抗体は、重鎖にC末端リジンを持たない。
【0025】
特定の実施形態では、本明細書で製剤化される抗体は、Ab1である。Ab1は、非グリコシル化の場合、推定分子量144KDaである。Ab1は、質量分析によって決定した場合、分子量147.011kDa、理論実験等電点(pI)6.78、および実験pI 約5.9~7.1を有する。
【0026】
II.抗体を作製する方法
Ab1-関連抗体は、当技術分野で十分に確立された方法によって作製される。抗体の重および軽鎖をコードするDNA配列は、遺伝子が転写および翻訳制御配列のような必要な発現制御配列に操作可能に連結されるように発現ベクターに挿入される。発現ベクターとしては、プラスミド、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、カリフラワーモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスのような植物ウイルス、コスミド、YAC、EBV由来エピソームなどが挙げられる。抗体軽鎖コード配列および抗体重鎖コード配列は、別々のベクターに挿入され、同じまたは異なる発現制御配列(例えば、プロモーター)に操作可能に連結される。一実施形態では、両方のコード配列は同じ発現ベクターに挿入され、同じ発現制御配列(例えば、共通のプロモーター)に、別々の同じ発現制御配列(例えば、プロモーター)に、または異なる発現制御配列(例えば、プロモーター)に操作可能に連結される。抗体コード配列は、標準的な方法(例えば、抗体遺伝子断片およびベクターの相補的な制限部位のライゲーション、または制限部位が存在しない場合平滑末端ライゲーション)によって発現ベクターに挿入される。
【0027】
抗体鎖遺伝子に加えて、組換え発現ベクターは、宿主細胞において抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を有していてよい。哺乳動物宿主細胞発現の調節配列の例は、レトロウイルスLTR、サイトメガロウイルス(CMV)(CMVプロモーター/エンハンサーのような)、サルウイルス40(SV40)(SV40プロモーター/エンハンサーのような)、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、ポリオーマおよび天然免疫グロブリンおよびアクチンプロモーターのような強力な哺乳動物プロモーター由来のプロモーターおよび/またはエンハンサーのような哺乳動物細胞における高レベルのタンパク質発現を指示するウイルスエレメントを含む。
【0028】
抗体鎖遺伝子および調節配列に加えて、本発明の組換え発現ベクターは、宿主細胞においてベクターの複製を調節する配列(例えば、複製起点)および選択可能マーカー遺伝子のようなさらなる配列を有し得る。例えば、選択可能マーカー遺伝子は、ベクターが導入された宿主細胞に、G418、ハイグロマイシンまたはメトトレキサートのような薬物に対する耐性を与える。選択可能マーカー遺伝子は、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅によるdhfr宿主細胞における使用のための)、neo遺伝子(G418選択のため)、およびグルタミン酸合成遺伝子を含み得る。
【0029】
本開示の抗体をコードする発現ベクターは、発現のため宿主細胞に導入される。宿主細胞は、抗体の発現に好適な条件下で培養され、次いで回収および単離される。宿主細胞は、哺乳動物、植物、細菌または酵母宿主細胞を含む。発現の宿主として利用可能な哺乳動物細胞系は当技術分野で周知であり、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞系を含む。これらは、特に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、NS0細胞、SP2細胞、HEK-293T細胞、293 Freestyle細胞(Invitrogen社)、NIH3T3細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞、アフリカミドリザル腎臓細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、HepG2)、A549細胞、および多くの他の細胞系を含む。細胞系は、それらの発現レベルに基づいて選択される。使用される他の細胞系は、Sf9またはSf21細胞のような昆虫細胞系である。
【0030】
さらに、抗体の発現は、多くの公知の技術を使用して増強される。例えば、グルタミン合成酵素遺伝子発現システム(GSシステム)は、特定の条件下で発現を増強する一般的な手法である。
【0031】
宿主細胞の組織培養培地は、ウシ血清アルブミンのような動物由来成分(ADC)を含むまたは含まない。いくつかの実施形態では、無ADC培養培地が、ヒトの安全性のために好ましい。組織培養は、フェドバッチ法、連続的灌流法、または宿主細胞および所望の収率に適した任意の他の方法を使用して実施される。
【0032】
III.抗体製剤
本製剤は、Ab1を含む、Ab1関連抗TGF-β抗体に優れた安定性を付与する。「安定」または「安定性」は、保存中、および/または物理的もしくは化学的ストレスにかけられた場合の、その物理的安定性、化学的安定性、および/または生物学的活性を保持する組成物中の抗体の能力を指す。安定性は、選択された温度、例えば、凍結条件下(例えば、-70℃~-30℃)、冷蔵条件下(例えば、2~8℃)、または室温(例えば、23~25℃)で、選択された期間、例えば16週間、24週間、36週間、4カ月、6カ月、1年、2年、3年、またはそれ以上の文脈である。タンパク質の安定性は、より短い期間内で実施されるアッセイで測定されるが、その結果は臨床背景での安定性の指標である。そのようなアッセイは、タンパク質組成物が1回またはそれ以上の凍結融解サイクルにかけられる凍結/融解サイクリングアッセイ;またはタンパク質組成物が、事前に決定した期間にわたる機械撹拌処置にかけられる撹拌アッセイを含む。タンパク質安定性は、選択された期間にわたり指定した保存温度(例えば2~8℃)でタンパク質組成物を保存し、二量体化または凝集(例えばサイズ排除HPLCまたはタンパク質ゲルによって測定する)の程度、タンパク質分解(例えば、サイズ排除HPLCまたはタンパク質ゲルによって測定する)、組成物の色変化、液体組成物の透明度、酵素活性、グリカン含量および組成物、受容体結合親和性、メチオニン残基酸化、および組成物の生物学的活性のような、その構造および機能特性を解析することによって決定される。抗体製剤の安定性を調べるための方法のより詳細な説明について、以下の実施例も参照されたい。
【0033】
本明細書に記載の抗体は、所与の時間での化学的安定性が、以下に定義したように、抗体がその生物学的活性を維持すると考えられるような場合、医薬組成物において「その化学的安定性を保持する」。化学的安定性を評価するため、抗体の化学的に変更された形態が検出および定量される。化学的な変更は、サイズ改変を含み、サイズ排除クロマトグラフィー、キャピラリー等電点電気泳動(cIEF)、液体クロマトグラフィー/質量分析(LCMS)、SDS-PAGE、および/またはマトリックス支援レーザー脱離イオン化法/飛行時間型質量分析(MALDI/TOF MS)のような、当技術分野で公知の方法を使用して評価される。他のタイプの化学的変更は荷電変更を含み、例えば、脱アミド化または酸化の結果として生じ、イオン交換クロマトグラフィー、質量分析、またはサイズ排除クロマトグラフィーによって評価される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の抗体を含む組成物の加速保存中に生じる化学的変更のタイプは、抗体の酸化を含む。いくつかの実施形態では、配列番号1の残基M252およびM428は、加速保存での金属添加試料において酸化される。
【0034】
本開示の組成物は、1つまたはそれ以上の薬学的に許容される賦形剤を含有する。用語「賦形剤」または「担体」は、本発明の化合物(複数可)以外の任意の成分を記載するために本明細書で使用される。賦形剤は、薬物の活性成分(複数可)の希釈剤、ビヒクル、担体、保存剤、結合剤、または安定化剤として使用される不活性な物質であり得る。例えば、組成物は、緩衝剤、等張剤、および/または抗酸化剤のような安定化剤を含有し得る。いくつかの場合では、1つの薬剤がこれらの目的の1つより多くに寄与し得る。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、本明細書に記載の抗TGF-β抗体、酢酸のような緩衝剤、スクロースのような安定化剤、およびポリソルベート80(PS80)のような界面活性剤を含有する。本明細書に記載の抗TGF-β抗体は、組成物中の特定の成分の組合せにより安定性が改善した。本発明の組成物は、水溶液または凍結乾燥調製物であり得る。好ましい実施形態では、本発明の組成物は水溶液である。
【0035】
いくつかの実施形態では、組成物は、L-メチオニンのような安定化剤を含む。特定の実施形態では、組成物は、5~20mM(例えば、10mM)L-メチオニンを含む水溶液組成物である。
【0036】
いくつかの実施形態では、組成物は、マンニトールのような充填剤を含む。特定の実施形態では、組成物は、1~10%(例えば、3.5%)マンニトール(w/v)を含む水溶液組成物である。
【0037】
いくつかの実施形態では、組成物は、L-ヒスチジン緩衝液のような緩衝液を含む水溶液組成物である。特定の実施形態では、水溶液組成物は、5~20mM(例えば、10mM)L-ヒスチジンを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは約4.0から約6.0の範囲である。いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは6.0である。好ましい実施形態では、緩衝液のpHは5.0±0.3である。いくつかの実施形態では、緩衝液のpHは水酸化ナトリウムによって調整される。
【0039】
いくつかの実施形態では、組成物は、Ab1関連抗体(例えば、Ab1)40~180mg/ml(例えば、50~150mg/ml);10~50mM(例えば、10~30mM)酢酸;および1~10%(例えば、6~8%)w/vスクロースを含む水溶液組成物である。いくつかの他の実施形態では、組成物は、抗TGF-βモノクローナル抗体 15~40mg/mL、5~20mM(例えば、10mM)L-ヒスチジン、1~10%(例えば、6~8%)スクロース(w/v)、1~10%(例えば、3.5%)マンニトール(w/v)、および5~20mM(10mM)L-メチオニンを含む水溶液組成物である。水溶液組成物のpHは、4.0~6.0(例えば、4.7~5.5)であり得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、水溶液組成物は、0.01~0.07%w/v界面活性剤(複数可)を含む。例示的な界面活性剤は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20および80)ならびにポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)のような非イオン性デタージェントを含む。いくつかの実施形態では、水溶液組成物は、0.01~0.07%ポリソルベート80(例えば、0.025%より多いかまたは0.05~0.06%PS80)を含む。いくつかの場合では、界面活性剤(複数可)の存在は、液体組成物の濁度/タンパク石濁を減少させるのに役立ち得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、水溶液組成物は、EDTAまたはDPTAのような、0~50μM(例えば、10μM)キレート剤(複数可)を含む。
【0042】
好ましい実施形態では、組成物は、抗TGF-βモノクローナル抗体50または150mg/ml、25mM酢酸、10μM EDTAまたはDPTA、0.06%PS80、および8%w/vスクロースを含む水溶液組成物である。特定の実施形態では、水溶液組成物は、pH5±0.3である。
【0043】
いくつかの実施形態では、組成物は、抗TGF-βモノクローナル抗体25mg/mL、10mM L-ヒスチジン、2%(w/v)スクロース、3.5%(w/v)マンニトール、10mM L-メチオニン、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含む水溶液組成物であり、pH6.0である。特定の実施形態では、組成物は、pH6.0で、抗TGF-βモノクローナル抗体25mg/mL、L-ヒスチジン一塩酸塩1.18mg/mL、L-ヒスチジン0.68mg/mL、L-メチオニン1.5mg/mL、ポリソルベート80 0.1mg/mL、スクロース20mg/mL、およびマンニトール35.3mg/mLを含む水溶液組成物である。
【0044】
【0045】
水溶液組成物は、組換え技術によって産生され、続いて宿主細胞から精製されたAb1を、水中で本明細書に記載の賦形剤と混合し、生じる混合物を所望のpHに合わせることによって調製される。例えば、抗TGF-βモノクローナル抗体および所望の賦形剤は、所望のpHの酢酸緩衝液に添加されるか、または緩衝液交換される。
【0046】
いくつかの実施形態では、水溶液組成物は、本発明の凍結乾燥組成物を復元することによって調製される。復元は、滅菌水、生理食塩水(例えば、0.9%塩化ナトリウム)、または酢酸緩衝生理食塩水のような、薬学的に許容される液体によって行われる。
【0047】
IV.製品
本発明の組成物は、使用のための説明書および場合により、障害を処置するための他の治療剤を含む製品(例えば、キット)で供給される。製品内の活性医薬成分(API)(例えば、Ab1)は、本明細書に記載の投与レジメンに従って容易に投与される量で供給される。
【0048】
例えば、製品は、pH5.0±0.3で、25mM酢酸、8%スクロース、10μM EDTAまたはDTPA、0.06%PS80を含む16mLの水溶液中にAb1 800mgを含有するバイアルを含み得る。いくつかの実施形態では、バイアルは、Ab1 800mg、酢酸15mg、スクロース800mg、およびPS80 6mgを含有する。いくつかの実施形態では、バイアルは、Ab1 800mg、酢酸24mg、スクロース1280mg、およびPS80 9.6mgを含有する。特定の実施形態では、バイアルは、標準的な蓋を備えた前処置したガラスバイアルである。例えば、バイアルは、蓋としてWest 20mmストッパーを備えたISO 20R タイプ1チューブガラスバイアルであり得る。
【0049】
本組成物は、2年間またはそれ以上、-3℃~5℃で保存される。
【0050】
V.Ab1および関連抗体の使用
TGF-β受容体は免疫細胞上に広く発現され、自然および獲得免疫系の両方においてTGF-βの広範な効果をもたらす。TGF-βは、多くの疾患状態、例えば、先天性欠損症、がん、慢性炎症、自己免疫、および線維性疾患と関連する。治療量のAb1または関連抗体はこれらの状態の処置に使用される。「治療有効」量は、処置した状態の1つまたはそれ以上の兆候を緩和する本明細書に言及したAb1、関連抗体、または別の治療剤の量を指す。この量は、処置される状態または患者に基づいて変わり、十分に確立された原理を使用して医療専門家によって決定される。
【0051】
本明細書に記載の医薬組成物の適切な投与量レベルは、患者の年齢、体重、疾患状態、健康全般、および病歴、ならびに薬物投与の経路および頻度、薬物中のAb1活性成分の薬力学および薬物動態、ならびに患者が同時に摂取する任意の他の薬物を含む、様々な因子に基づいて決定される。いくつかの実施形態では、Ab1または関連抗体は、40、20、または15mg/kgまたはそれ以下(例えば、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1mg/kg)で投与される。いくつかの実施形態では、Ab1は、5mg/kgおよび15mg/kgで投与される。投与頻度は、例えば、毎日、2日、3日、4日、または5日ごと、毎週、隔週、または3週毎、毎月、または隔月であり得る。いくつかの実施形態では、投与頻度は隔週である。継続的な投与の間隔は、2週間である、または医師によって適切であると決定される場合は2週間より短いかもしくは長い。
【0052】
抗体は、状態および製剤に適した、静脈内(例えば、0.5~8時間にわたる静脈点滴)、皮下、局所、または任意の他の投与経路によって投与される。
【0053】
Ab1および関連抗体は、ヒト抗体遺伝子に由来し、したがってヒトにおいて低い免疫原性を有するが、患者をAb1または関連抗体によって処置する場合、患者は有害事象をモニターされる。
【0054】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体の効能は、患者において(例えば、患者の腫瘍組織のような患部組織において)、以下の1つまたはそれ以上によって示される:(1)TGF-βのレベルまたは活性の減少、(2)MIP2および/またはKC/GROレベルの増加、(3)INF-γ-陽性CD8+T細胞のようなCD8+T細胞の活性化または腫瘍組織への浸潤、および(4)ナチュラルキラー(NK)細胞のクラスタリングの増加。
【0055】
患者は成人であり得る(例えば、65歳またはそれ以上である老人患者を含む、18歳またはそれ以上の患者)。患者は、小児患者であり得る(18歳より若い患者、例えば新生児から6歳、6歳から12歳、または12歳から18歳の患者)。
【0056】
ある特定の実施形態では、50mg/mlでAb1を含有し、25mM酢酸、8%スクロース、10μM EDTAまたはDPTA、および0.06%PS80を含有する医薬Ab1組成物(pH5.0±0.3)(例えば、10mLバイアル中で供給される)が、所望の治療終点が達成される時まで、5mg/kgまたは15mg/kgで、隔週、患者に静脈内投与される。IV投与のため、Ab1組成物は、生理食塩水またはIVデキストロース液(典型的には、水中に5%デキストロースを含有する)中で希釈される。例えば、POまたはPVC IVバッグが使用される。いくつかの実施形態では、Ab1製剤は、使用前にPVCバッグ内で生理食塩水中に希釈される。いくつかの実施形態では、Ab1製剤は、使用前にPVCバッグ内でIVデキストロース液中に希釈される。いくつかの実施形態では、Ab1製剤は、使用前にPOバッグ内で生理食塩水中に希釈される。いくつかの実施形態では、Ab1製剤は、使用前にPOバッグ内でIVデキストロース液中に希釈される。
【0057】
A.非腫瘍学的な疾患状態
Ab1および関連抗体によって処置される状態としては、限定はされないが、骨欠損(例えば骨形成不全症)、糸球体腎炎、神経または皮膚の傷、肺または肺線維症(例えば、突発性肺線維症)、放射線誘発線維症、肝線維症、骨髄線維症、強皮症、免疫介在性疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、ベルガー病、および移植拒絶)、ならびにデュピュイトラン拘縮が挙げられる。
【0058】
それらはまた、限定はされないが、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、糖尿病性(I型およびII型)腎症、放射線腎症、閉塞性腎症、びまん性全身性硬化症、先天性腎疾患(例えば、多発性嚢胞腎疾患、海綿腎、馬蹄腎)、糸球体腎炎、腎硬化症、腎石灰化症、全身性または糸球体高血圧、尿細管間質性腎症、尿細管性アシドーシス、腎結核、および腎梗塞を含む、腎不全の発生のリスクを処置、予防および減少させるためにも有用である。特に、限定はされないが:レニン阻害剤、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、AngII受容体アンタゴニスト(「AngII受容体遮断薬」としても公知)、およびアルドステロンアンタゴニストを含む、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系のアンタゴニストと組み合わせた場合に有用である。例えば、その開示がその全体を参照によって本明細書に組み入れる、国際公開第2004/098637号を参照。
【0059】
Ab1および関連抗体は、全身性硬化症、術後癒着、ケロイドおよび肥厚性瘢痕、増殖性硝子体網膜症、緑内障手術、角膜損傷、白内障、ペイロニー病、成人呼吸促拍症候群、肝硬変、心筋梗塞後瘢痕、血管形成術後の再狭窄、くも膜下出血後の瘢痕、椎弓切除後の線維症、腱および他の修復後の線維症、胆汁性肝硬変(硬化性胆管炎を含む)、心膜炎、肋膜炎、気管切開術、穿通性CNS損傷、好酸球性筋肉痛症候群、血管再狭窄、静脈閉塞症、膵炎および乾癬性関節症のような、ECMの沈着に関連する疾患および状態の処置に有用である。
【0060】
Ab1および関連抗体は、再上皮化の促進が有益である状態においてさらに有用である。そのような状態としては、限定はされないが、静脈性潰瘍、虚血性潰瘍(褥瘡)、糖尿病性潰瘍、移植部位、移植ドナー部位、擦過傷および熱傷のような皮膚の疾患、喘息、ARDSのような気管支上皮の疾患、細胞傷害性処置に関連する粘膜炎、食道潰瘍(反射性疾患)、胃食道逆流症、胃潰瘍、小腸および大腸病変(炎症性腸疾患)のような腸管上皮の疾患が挙げられる。
【0061】
Ab1および関連抗体のさらなる使用は、内皮細胞増殖が望ましい状態においてであり、例えば、アテローム性動脈硬化症の安定化、血管吻合の治癒の促進、または動脈疾患、再狭窄および喘息のような平滑筋細胞増殖の阻害が望ましい状態においてである。
【0062】
Ab1および関連抗体はまた、リーシュマニア菌種、クルーズトリパノソーマ、結核菌およびらい菌、ならびにトキソプラズマ原虫、ヒストプラズマ・カプスラーツム菌、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・パラプロ-シス、およびクリプトコッカス・ネオフォルマンスによって引き起こされるもののような、マクロファージ媒介感染への免疫応答の増強にも有用である。それらは、例えば、腫瘍、AIDSまたは肉芽腫症によって引き起こされる免疫抑制を減らすのにも有用である。
【0063】
Ab1および関連抗体はまた、緑内障および線維性帯切除術後の瘢痕のような眼科的な状態の予防および/または処置にも有用である。
【0064】
B.腫瘍学的な疾患状態
TGF-βは、細胞増殖、上皮間葉転換(EMT)、マトリックスリモデリング、血管新生、および免疫機能を含む、いくつかの生物学的プロセスを調節する。これらのプロセスのそれぞれが腫瘍進行に貢献する。適応症にわたるがん患者におけるTGF-βの広範な有害な役割も、腫瘍微小環境内でのならびに全身的なその上昇によって示唆されている。例えば、Kadam et al., Mo Biomark Diagn. (2013) 4(3):1-8参照。研究は、悪性の状態で、TGF-βがEMTを誘導することができ、生じる間葉系の表現型は細胞の遊走および侵入の増加をもたらすことを示した。
【0065】
Ab1を含む組成物および関連抗体は、限定はされないが、皮膚がん(例えば、切除不能なまたは転移性のメラノーマを含むメラノーマ、有棘細胞癌および角化棘細胞腫)、肺がん(例えば非小細胞肺がん)、食道がん、胃がん、結腸直腸がん、膵臓がん、肝臓がん(例えば、肝細胞癌)、原発性腹膜がん、膀胱がん、腎がんまたは腎臓がん(例えば腎細胞癌)、尿路上皮癌、乳がん、卵巣がん、卵管がん、子宮頸がん、子宮がん、前立腺がん、精巣がん、頭頚部がん(例えば、頭頚部扁平上皮癌)、脳がん、神経膠芽腫、神経膠腫、中皮腫、白血病およびリンパ腫を含むがんのような、過剰増殖疾患の処置に有用である。
【0066】
いくつかの実施形態では、組成物Ab1および関連抗体は、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療剤に基づく先の治療が失敗した、または失敗すると予想される患者、すなわち、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療に非応答者であるまたは非応答者であると予想される患者におけるがんの処置に有用である。いくつかの実施形態では、Ab1および関連抗体は、先の抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療から再発した患者におけるがんの処置に有用である。本明細書で使用する場合、用語「予想される」は、医学分野の当業者が、彼/彼女の一般的な医学知識および患者の特定の状態に基づき、治療を施すことなく、患者が応答者であるか非応答者であるか、および治療が失敗するかまたは有効でないかについて、予期できることを意味する。
【0067】
いくつかの実施形態では、がんは、限定はされないが、間葉系結腸直腸がん、間葉系卵巣がん、間葉系肺がん、間葉系頭部がんおよび間葉系頸部がんを含む、固形腫瘍の間葉系サブタイプである。上皮間葉転換(EMT)は、上皮細胞遺伝子を下方調節し、間葉系遺伝子発現を増強することによって細胞の遊走および侵入特性を促進する。EMTは、腫瘍進行および侵入のホールマークである。結腸直腸および卵巣がんの4分の1までが間葉系である。したがって、TGF-βの阻害およびEMTのその誘導により、Ab1または関連抗体は、間葉系固形腫瘍を処置するために使用される。いくつかの遺伝子マーカーおよび病理試験によって固形腫瘍の間葉系サブタイプが同定される。マーカーはACAT2、VIM、MGP、ZEB2、およびZWINTを含み、これはqRT-PCRまたは免疫組織化学によって検出される。そのようなマーカーは、抗TGF-β単独治療または本発明の組み合わせ治療のための患者を選択するために使用される。
【0068】
いくつかの実施形態では、Ab1および関連抗体は、進行した固形腫瘍を有する患者の処置に有用である。
【0069】
Ab1を含む組成物および関連抗体は、造血障害または多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群(MDS)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、および白血病、ならびにカポジ肉腫のような様々な肉腫のような悪性腫瘍の処置でも使用される。
【0070】
Ab1を含む組成物および関連抗体は、シクロスポリン媒介悪性腫瘍またはがん進行(例えば、転移)の阻害にも有用である。
【0071】
がん治療の文脈では、「処置」は、がん増殖の減速、がん進行もしくは再発の遅延、またはがん転移の減少、ならびに患者の平均余命を延長するためのがんの部分緩解をもたらす任意の医療行為を含むことが、当然理解される。
【0072】
C.腫瘍学における組み合わせ治療
がんにおける細胞傷害性T細胞浸潤のレベルは、良好な臨床結果と関連付けられることが観察された(Fridman et al., Nat Rev Cancer (2012) 12(4):298-306; and Galon et al., Immunity (2013) 39(1):11-26)。さらに、細胞傷害性T細胞(CD4+TH1)を補助するヘルパーT細胞およびそれらが産生するサイトカイン(例えば、IFN-γ)は、同様に患者のポジティブな結果と関連付けられることが多い。これに対して、Treg細胞の存在は、患者の予後不良と関連付けられることが示された(Fridman、上記)。
【0073】
TGF-βは、抗腫瘍免疫応答のほぼ全ての態様を抑制する。サイトカインは、iTreg分化を促進し、細胞傷害性(CD8+)細胞増殖および浸潤を減少させる。Ab1または関連抗体によるTGF-βの阻害は、上記のように免疫抑制腫瘍微小環境を緩和し、がん患者にポジティブな結果をもたらす。
【0074】
さらに、本発明者らは、免疫抑制腫瘍微小環境を緩和することによって、Ab1および関連抗体は、抗PD-1抗体のような、チェックポイント修飾薬が免疫応答をより誘導することを可能にすることができることを発見した。結果として、より多くの患者が、抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2処置のような免疫治療から恩恵を受ける。
【0075】
免疫チェックポイント分子を標的化する治療剤有りまたは無しで、Ab1および関連抗体はまた、化学治療(例えば、プラチナまたはタキソイドベースの治療)、放射線治療、およびがん抗原または発がん性駆動体を標的化する治療のような他のがん治療と併せても使用される。
【0076】
Ab1または関連抗体、および抗PD-1抗体のような免疫チェックポイント阻害剤を含む組み合わせによって処置されるがんは、上記の小節に列挙されるがんを含む。
【0077】
いくつかの実施形態では、進行性または転移性のメラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞癌、頭頚部扁平上皮癌、およびホジキンリンパ腫のように、がんは、先の抗PD-1、抗PD-L1、または抗PD-L2治療に難治性である。難治性患者は、応答のいかなる証拠もない、処置開始の12週間以内に例えば放射線学的に確認される、疾患が進行する患者である。
【0078】
いくつかの実施形態では、Ab1または関連抗体は、抗PD-1治療のような別のがん治療と併せて使用され、結腸直腸がん、非小細胞肺がん、卵巣がん、膀胱がん、頭頚部扁平上皮癌、腎細胞癌、肝細胞癌、および有棘細胞癌のような間葉系のがんを処置する。上記の考察も参照。
【0079】
抗PD-1抗体の例は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、ピディリズマブ、MEDI0608(以前はAMP-514;例えば、国際公開第2012/145493号および米国特許第9,205,148号参照)、PDR001(例えば、国際公開第2015/112900号参照)、PF-06801591(例えば、国際公開第2016/092419号参照)およびBGB-A317(例えば、国際公開第2015/035606号参照)である。いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体は、国際公開第2015/112800号に開示されるものを含む(PCT公開の表1のH1M7789N、H1M7799N、H1M7800N、H2M7780N、H2M7788N、H2M7790N、H2M7791N、H2M7794N、H2M7795N、H2M7796N、H2M7798N、H4H9019P、H4xH9034P2、H4xH9035P2、H4xH9037P2、H4xH9045P2、H4xH9048P2、H4H9057P2、H4H9068P2、H4xH9119P2、H4xH9120P2、H4xH9128P2、H4xH9135P2、H4xH9145P2、H4xH8992P、H4xH8999PおよびH4xH9008Pと呼ばれるもの、およびPCT公開の表3のH4H7798N、H4H7795N2、H4H9008PおよびH4H9048P2と呼ばれるものなど)。国際公開第2015/112800号の開示は、その全体を参照によって本明細書に組み入れる。
【0080】
例えば、PCT公開に開示されるCDR、VHおよびVL配列、または重および軽鎖配列、ならびにPCT公開に開示される抗体と同じPD-1エピトープに結合する抗体および抗原結合断片を有する抗体および抗原結合断片を含む国際公開第2015/112800号に開示の抗体および関連抗体は、本開示のAb1または関連抗体と併せて使用され、がんを処置する。関連する実施形態では、有用な抗PD-1抗体は、それぞれ配列番号9および10として以下に示した重および軽鎖アミノ酸配列;配列番号9および10のVHおよびVL配列(イタリック体で示す);または配列番号9および10の1つまたはそれ以上の(例えば、6個全て)CDR(四角で示す)を含み得る。
【0081】
【0082】
他の関連する実施形態では、有用な抗PD-1抗体は、それぞれ配列番号11および12として以下に示す重鎖および軽鎖アミノ酸配列;配列番号11および12のVHおよびVL配列(イタリック体で示す);または配列番号11および12における1つもしくはそれ以上(例えば、全部で6個)のCDR(四角内に示す)を含み得る。関連する実施形態では、有用な抗PD-1抗体は、それぞれ配列番号11および12として以下に示す重鎖および軽鎖アミノ酸配列;配列番号11および12のVHおよびVL配列(イタリック体で示す);または配列番号9および10における1つもしくはそれ以上(例えば、全部で6個)のCDR(四角内に示す)を含み得る。
【0083】
【0084】
いくつかの実施形態では、抗PD-1抗体のような本開示の抗体は、重鎖にC末端リジンを持たない。C末端リジンは、製造中に、または組換え技術により取り除かれる(すなわち、重鎖のコード配列は、C末端リジンのコドンを含まない)。したがって、C末端リジンのない配列番号3の重鎖アミノ酸配列を含む抗体も本発明内で考慮される。
【0085】
D.処置の効能のバイオマーカー
Ab1および関連抗体の効能は、バイオマーカーまたは標的占有率によって決定される。例えば、腫瘍組織において、標的占有率は、Meso Scale Discovery(MSD)アッセイを使用して、生検における活性なTGF-βのレベルを評価することによってアッセイされる。血液中で、ターゲットエンゲージメントは、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞)および単球のような末梢血単核細胞上の循環TGF-βの減少の効果を評価することによってアッセイされる。例えば、循環CD8+T細胞の増殖の増加は、フローサイトメトリーのマーカーとしてCD45+RO+CCR7+CD28+Ki67+を使用して評価される。循環NK細胞の活性化は、フローサイトメトリーのマーカーとしてCD3-CD56high/dimCD16+またはCD137+を使用して評価される。さらに、Ki-67、PD-1、およびICOSは、T細胞活性化に関連するPDマーカーとして使用される。
【0086】
Ab1または関連抗体による処置時の免疫調節は、例えば、NeoGenomicsプラットフォームを使用するマルチプレックス免疫組織化学染色(IHC)アッセイによる浸潤する免疫細胞および免疫マーカーの変化を評価することによってアッセイされる。特に、免疫マーカーのパネルのNeoGenomic’s MultiOmyx TIL Panel染色により、様々な免疫細胞の密度および局在の定量的な決定が可能になる。免疫マーカーは、iTregの分化;CD8+T細胞の浸潤および増殖;ならびにCD8+T細胞によるIFNγの生成を示すことができる。Ab1は、CD4+T細胞のiTregへの分化を阻害し(例えば、米国特許公開第2018/0244763号の実施例3参照)、およびCD8+T細胞増殖およびそれらのIFNγの生成を増加させる(混合リンパ球反応アッセイに示すように;データは示さず)ことが示された。したがって、Ab1または関連抗体による処置の効能は、iTregの阻害、CD8+T細胞の増殖および腫瘍もしくは他の疾患組織への浸潤の誘導、IFNγ産生の増加、ならびに/またはCD8+T細胞のTreg細胞に対する比の増加によって示される。Ab1または関連抗体による処置時の免疫調節もまた、CD8+T細胞、Treg細胞、NK細胞、および他の免疫細胞のメチル化PCRベース定量的免疫細胞カウントによって末梢血においてアッセイされる。処置の効能は、腫瘍進行のような疾患進行における遅延または回復として臨床的に証明することができる。
【0087】
本明細書で他に記載しない限り、本開示に関係して使用した科学および技術用語は当業者に共通に理解される意味を有する。例示的な方法および材料は以下に記載したが、本明細書に記載のものと類似のまたは等しい方法および材料も本開示の実施または試験に使用される。抵触する場合には、定義を含む本明細書が制御する。一般に、本明細書に記載の神経学、医薬品、医および製薬化学、ならびに細胞生物学と関連して使用される命名法およびその技術は、当技術分野で周知であり、一般的に使用されるものである。酵素反応および精製技術は、当技術分野で一般的に達成されるように、または本明細書に記載されるように、製造業者の指示に従って実施した。さらに、文脈によって他に要求されない限り、単数形は複数形を含み、複数形用語は単数も含む。この明細書および実施形態を通して、単語「有する(have)」および「含む(comprise)」、または「has」、「having」、「comprises」または「comprising」のような変化形は、言及した整数または整数の群の包含を意味するが、任意の他の整数または整数の群を除外しないと理解される。本明細書に記載の全ての文献および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。多くの文章が本明細書に引用されるが、この引用は、これらの文章のいずれかが当技術分野の共通の一般的知識の一部を形成することを認めない。本明細書で使用する場合、用語「およそ」または「約」は、目的の1つまたはそれ以上の値に適用する場合、言及した参照値と類似の値を指す。ある特定の実施形態では、用語は、他に記載しない限り、または文脈から明らかでない限り、言及した参照値のいずれかの方向(より多いまたは少ない)で、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、またはそれ以下以内である値の範囲を指す。
【0088】
この発明がよりよく理解されるように、以下の実施例を記載する。これらの実施例は、例示のためだけであり、いかなる方法でも本発明の範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0089】
以下の実施例は、最良の生物学的活性および長期安定性の製剤に到達するため、Ab1の様々な製剤を評価する研究を記載する。本発明者らは、冷蔵保存、加速保存、およびストレス保存条件の間にAb1液体製剤の物理的および化学的安定性への緩衝液の性質およびpHの効果を評価した。酢酸およびヒスチジン緩衝液系は、塩化ナトリウムの添加有りまたは無しでのこの研究のために選択された。
【0090】
本発明者らは、様々な保存温度、凍結融解サイクル、および撹拌誘導ストレスでのAb1液体製剤の安定化に必要とされるポリソルベート80(PS80)の最適な濃度を評価した。
【0091】
本発明者らは、静脈内(IV)注入バッグ中、室温で48時間までの間、希釈およびインキュベーション後、Ab1薬物製品(DP)の物理的安定性も評価した。DPは、0.5mg/mlおよび1.0mg/mlに希釈した。両方の濃度は、以下のバッグの組合せで評価した:ポリ塩化ビニル(PVC)バッグ中の生理食塩水、ポリオレフィン(PO)バッグ中の生理食塩水、PVCバッグ中のデキストロース、およびPOバッグ中のデキストロース。液体DP中の最適なPS80濃度は、希釈後のAb1を保護するその能力についても調べた。
【0092】
本発明者らは、タンパク質の化学的および物理的安定性への遷移金属の影響をさらに調べた。遷移金属は、製造中に原薬(DS)へと滲出することがある。EDTAおよびDTPAは、最悪の場合の実験セット中にタンパク質をキレートおよび保護するそれらの能力について評価した。
【0093】
提案した標的製剤マトリックスが、高濃度のDSおよび低濃度のDP溶液を安定化するのに十分であることを確かめるため、本発明者らは、凍結融解サイクル中および凍結および液体保存条件下、およびAPIを含む全ての賦形剤の濃度範囲にわたり、溶液の安定性を評価した。
【0094】
実験の材料および方法は以下の通りである。
【0095】
原薬
高濃度のAb1原薬(DS)は、限外濾過/透析濾過法(UFDF)を使用して調製した。DS濃度は、一般に、最大180mg/mlで調製した。UFDFシミュレーターからの結果は、ドナン効果によるUF方法工程中に蓄積または枯渇される緩衝液塩の濃度補正のために使用した。標的タンパク質および賦形剤濃縮物への薬物製品(DP)試料の製剤後、製剤は次いで、無菌充填包装前に層流下で、0.22μmフィルターよって精製した。
【0096】
肉眼で見える粒子の検査
肉眼で見える粒子は、目視検査ユニット下で解析した。DPバイアルは、検査の前にレンズペーパーによって綺麗にし、外側表面から埃および指紋を除去した。
【0097】
pH
緩衝液および製剤化mAb溶液のpHは、Thermo-Scientific(商標)pHプローブおよび計器を使用して測定した。結果は、繰り返し測定間の差が0.1pH単位内であった場合、同等と考えた。
【0098】
浸透圧
浸透圧測定は、凝固点降下浸透圧計(Advanced Instrument,OsmoPRO)を使用して、試料20μL(n=2または3)で実施した。浸透圧標準は、試料解析の前後に実行し、測定精度を確実にした。
【0099】
総タンパク質濃度
総タンパク質濃度は、C technologies社のSoloVPEシステムによってVariable Pathlength Technologyを使用して、280nmでの紫外線(UV)吸光度を測定することによって決定した。測定は、試料20μL(n=2または3)で実施した。総タンパク質濃度は、Unchained Labs社のBig Lunatic systemのマイクロ流体チップで、280nmでの紫外線吸光度を測定することによっても決定した。測定は、試料2~5μLで、2回ずつ実施した。
【0100】
構造および熱安定性のDSC
示差走査熱量測定(DSC)は、加熱速度0.5℃/分で、15℃から105℃までの熱勾配によってMalvern Microcalカロリメーターで実施した。タンパク質溶液は、タンパク質濃度1mg/mlで測定した。OriginProソフトウェアを、解析および熱アンフォールディング温度(Tm)決定のために使用した。
【0101】
溶液濁度および光学密度
試料濁度は、Molecular Devices社のSpectraMax(登録商標)i3 Microplate Readerで、340nmから360nmの光学密度(OD)を測定することによって定量した。各試料につき、200μLをUV-Vis透明96ウェルプレートにロードした。ODは、340nm、345nm、350nm、355nm、および360nmでの吸光度値の平均として決定した。
【0102】
高分子量種のためのサイズ排除HPLC
タンパク質凝集体(高分子量種またはHMWS)の解析は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって実施した。試料は、TSK-GEL(登録商標)G3000SWXL(Tosoh Bioscience社,Tokyo,Japan)解析カラムおよび適合するガードカラムを備えた1260シリーズHPLC(Agilent社,Santa Clara,CA)で実行した。使用した移動相は、30分間、流速0.5mL/分で、40mMリン酸および150mM塩化ナトリウム、pH7.2であった。各試料につき、3回注入を実施した。検出は、280nmでのUV吸光度によって行い、クロマトグラフピークを統合して各溶出種の相対パーセンテージを決定した。
【0103】
肉眼では見えない粒子のマイクロフローイメージング(MFI)
肉眼では見えない粒子は、Protein Simple MEI(商標)Model DPA-4200を使用して解析した。システムは、2、10、および25μm標準を測定する前に、0.22μm濾過し、脱気したMilliQ(登録商標)水を広範にフラッシュした。試料(n=1または2)は、流速0.17mL/分での1mL法を使用して実行した。試料がフローセルを通って流れると、光源によって照射され、カメラはすぐにフローセルを通過した試料として画像を撮った。粒子はMFI(商標)ソフトウェアによって同定し、次いで個々の粒子ごとのサイズ、透明性、および形態を算出した。
【0104】
肉眼では見えない粒子の高精度液体粒子カウンター
肉眼では見えない粒子は、Hach(登録商標)高精度(HIAC)液体粒子カウンターModel 9703+での光遮蔽によっても測定した。システムは、粒子数が20粒子/mL以下になるまで、0.22μm濾過し、脱気したMilliQ(登録商標)水によってフラッシュした。2μm、10μm、および25μm標準を測定し、いずれのバックグラウンドも除去する広範な洗浄により正確な粒子数を確かめた。1mLプロトコールを使用して、試料は、0.2mLの5回の別々の注入によって測定した。最初の試料測定は無視し、その後の4回を平均した。
【0105】
荷電バリアントのキャピラリー等電点電気泳動
タンパク質荷電異質性は、280nmでのUV吸光度により、Protein Simple社のiCE3装置を使用してキャピラリー等電点電気泳動(cIEF)によって測定した。試料(1mL)および標準溶液は、水中で2.5mg/mlに希釈した。オンボード混合を使用して、解析の前に試料とMasterMixを混合した。試料の等電点電気泳動は、1500Vで1分間、プレフォーカシング時間を含み、続いて3000Vで10分間にわたりフォーカシングした。検出は5回の曝露をカバーし、各製剤につき55秒、試料ローディングを続けた。結果は、差が等しいかまたは10%未満である場合、同等であると考えた。
【0106】
LC-MSによるPTM定量
タンパク質試料を2mg/mlに希釈し、ボルテックスし、タンパク質40μgを使用して自動消化した。消化緩衝液は、25mM Tris、pH8.5であった。各試料につき、消化物15μL(タンパク質約5μgを含有する)を、LC-MS解析のためC18カラムに注入した。試料は、Q Exactive(商標)でDDA top8 LC-MS/MS法を使用して解析した。
【0107】
Q Exactive(商標)で獲得したLC-MS/MSデータは、Met/Trp酸化、脱アミド化、Asp異性化およびHC C末端改変を含む改変の同定および相対定量のため、サーバーWLSD58でBioPharma Finder(商標)3.0によって処理した。BioPharma Finder(商標)による同定のための良いMS/MSスペクトルを生成できない低レベルの改変のため、MSのみのペプチドマッピングをペプチドアサインのために使用した。次いで、全てのデータは、Progenesisを使用して処理し、保持時間アライメントおよびピークピッキング後のペプチド量を提供した。ピークピッキングの手動による調整は、Progenesisがこのタスクを正確に実施できなかった場合に、いくつかの脱アミド化および異性化ペプチドに必要であった。
【0108】
効力
TGF-βをミンク肺細胞とインキュベートする場合、それは細胞増殖を阻害する。Ab1は、TGF-βに結合した場合、TGF-βのTGF-β細胞表面受容体への結合を阻害し、したがって細胞増殖を可能にする抗TGFβ抗体である。Ab1効力アッセイでは、様々なレベルのAb1をTGF-β2とインキュベートし、次いでミンク肺細胞に添加した。
【0109】
細胞は、3日間、Ab1およびTGF-β2とインキュベートし、次いで、PrestoBlue(商標)試薬を添加した。PrestoBlue(商標)は、細胞透過性の非蛍光化合物、レサズリンを含有し、それは生細胞によって代謝および低減され、蛍光産物、レソルフィンの産生をもたらす。したがって、細胞増殖は、蛍光シグナルの強度と直接関係する。PrestoBlue(商標)添加の5時間後、蛍光はプレートリーダーを使用して測定した。バイオアッセイソフトウェアは、Log10変換し、4つのパラメーターモデルにフィットさせた。参照および試料曲線が好適であると決定された後、曲線が限定され、アッセイの最終結果は、試験試料のEC50によって割られた参照のEC50の比として決定され、パーセント相対効力(%RP)として報告した。
【実施例1】
【0110】
緩衝液およびpHスクリーニング
この実施例は、様々な緩衝液およびpH条件がスクリーニングされ、Ab1の好適な製剤を同定する実験を記載する。液体薬物製品は、病院および家庭の両方での調製および投与により便利であるため(凍結乾燥薬物製品と比較して)、様々な水性緩衝液を試験した。表1は、この研究で使用した製剤条件および試料コードを表す。
【0111】
【0112】
タンパク石濁は、誘引性のタンパク質間相互作用が、肉眼で見えるかたちで現れたものである。Ab1製剤が、顕著なpH依存性のタンパク石濁を示したことが肉眼で観察された(
図1)。溶液は、pH5.3以下ではほとんど澄んだ透明であるが、pH>5.3では、pHが増加するとタンパク石濁が増加した。酢酸製剤は、一般に、ヒスチジン製剤よりも低いタンパク石濁を示す(
図1)。これらの肉眼で見える外観の画像は、緩衝液種として酢酸を使用して、最適な製剤pHが4.7~5.0の範囲であることを示した。
【0113】
5℃および25℃での最高4週間の保存の後、表1の溶液は、高分子量種(HMWS)%に顕著な変化を示さなかった。しかしながら、40℃での保存の4週間後には、全ての製剤のHMWS%に約0.5%の増加がみられた。この変化は、与えられたストレス条件では特に顕著ではなかった。さらに、製剤への塩化ナトリウムの添加は、タンパク質凝集およびHMWS%の程度に顕著な影響を示さなかった。
【0114】
肉眼では見えない粒子に関して、HIAC粒子数は、肉眼では見えない粒子の増殖が緩衝液種および溶液pHの性質に感受性であったことを示した(
図2A~2C)。pH4.7および5.0で緩衝した酢酸製剤は、酢酸製剤の任意の他のpH、および全ての研究したヒスチジン製剤と比較して、経時的に最も少ない粒子の生成をもたらした。しかしながら、いずれの条件での粒子増殖へも識別可能なまたは明確な温度の効果はなかった。
【0115】
酢酸およびヒスチジン製剤は、塩化ナトリウムの添加有りまたは無しで、任意の所与のpHでのT
0および40℃で4週間後に、同等の粘度を示した(
図3)。測定した粘度値は、全て2~3cP以内であり、患者へのDP投与の間、または製造方法の間に難題を提示し得るいずれの制限よりも十分に低かった。粘度値にも顕著な変化はなく、試験した製剤が顕著な化学分解を受けなかったことを示している。4週間にわたり、3つの温度での保存後にいずれの製剤のpH値にも顕著な変化はなかった(
図4Aおよび4B)。これらの結果は、酢酸およびヒスチジンがいずれの顕著な化学分解も受けず、40℃でのストレス保存の最高4週間後までも緩衝する能力を維持したことを示している。
【0116】
プレートUV測定は、経時的に生じ得る濁度およびタンパク石濁の変化を追跡するために行った(
図5)。T
0での事前の目視検査中に観察された同じpH依存性タンパク石濁が、分光測定により検出された。測定されるOD値はpHによって増加し、ヒスチジン製剤は、酢酸製剤よりもより濁っていた。25℃および40℃での保存の4週間後、ほとんどの製剤のODにわずかな増加が見られた。経時的なODの増加は、肉眼では見えない粒子の形成によるものであった。結果は、4.7~5.0辺りのpHが最小量の肉眼では見えない粒子をもたらすことを確認した。
【0117】
緩衝液のみおよび緩衝タンパク質溶液の浸透圧値を比較した(表2)。酢酸製剤は、ヒスチジンよりも浸透圧がわずかに高かった。タンパク質の添加が、全ての製剤の浸透圧を増加させた。浸透圧値は、DPがIV注入バッグへと希釈後にのみ投与されることを考えると、全て合理的であった。
【0118】
【0119】
Ab1の化学的安定性は、酸性アイソフォームの量および単量体パーセンテージを比較した場合に見られたように、酢酸およびヒスチジン製剤で類似していた。40℃で4週間後、ヒスチジン製剤の溶液のpHが6.0および6.5に達した場合に生成された酸性アイソフォームの相対量のわずかな増加がみられた。
【0120】
全ての製剤は、約1.0の同じ相対効力を有し、それらが全て許容可能であることを示している。これらの効力の結果は、先の凝集およびHMWS%結果に則しており、全てのHMWS%値は低く(<2%)、したがって、効力は大きく変化しないと予想された。
【実施例2】
【0121】
界面活性剤スクリーニング
この実施例は、Ab1製剤への界面活性剤ポリソルベート80(PS80)の添加を評価する実験を記載する。これらの実験で使用した製剤条件および試料コードを以下の表3に示す。
【0122】
【0123】
製剤のプレート濁度および光学密度(OD;340~360nm)値は、5℃または40℃で1週間保存した製剤、または強い撹拌の48時間後の製剤について評価した。データは、PS80を含有する製剤について、OD値が、5℃または40℃のいずれかでの保存の1週間後、または撹拌の48時間後に変化しなかったことを示す。2つの異なる市販の供給源のPS80(AおよびB)を使用して、様々な濃度0.025%、0.05%および0.1%のPS80によっても違いは観察されなかった。しかしながら、5℃および40℃の両方の保存で経時的に界面活性剤を添加しない製剤では、OD値はわずかに減少した。界面活性剤を含まない製剤では、わずかに高い濁度も観察された。これらの観察は、PS80がAb1タンパク質への可溶化効果を有することを示した。
【0124】
小さい可溶性の凝集体のレベルは、異なる保存および界面ストレス条件下で、SECによってモニターした(
図6)。保存温度は、わずかにのみ影響し、保存の最高2週間後に凝集の0.5%増加をもたらした;PS80濃度の凝集レベルへの目立った効果はなかった。-30℃と室温の間の10回までの最悪の場合の凍結融解サイクルは、いずれもタンパク質安定性への負の影響を示さなかった(
図6、下-右パネル)。
【0125】
一方、強い撹拌または震盪は、凝集に大きな影響を示す(
図6、下-左パネル)。界面活性剤を添加しない製剤は、撹拌の48時間後に最大8%HMWSを生成した。これらの凝集レベルは、界面活性剤の存在および濃度に高度に感受性であった。0.025%まで低いPS80濃度は、PS80を含まない製剤の凝集レベルの2%より低くまで凝集レベルを減少させるのに十分であった。0.05または0.1%よりもさらに高くPS80濃度を増加させると、HMWS%をわずかに減少させた。これらのデータは、0.05%がAb1製剤を安定化することを標的としたPS80濃度の下限として使用されることを示した。
【0126】
上記のSECデータは、Ab1が、この節で研究したほとんどの条件で高リスクの凝集を示さなかった。したがって、HIACは、肉眼では見えない粒子範囲のサイズである、SECによって濾過された大きな可溶性および不溶性の凝集体の追跡に必要な重要なアッセイである。HIACデータは、任意の与えられた保存または界面ストレス条件下で、いずれのPS80も含有しない製剤が、実質的により多くの肉眼で見えない粒子を生成したことを示す。データは、PS80が、Ab1製剤中の粒子の数の減少に濃度依存的な効果を有したことをさらに示す。0.025%まで低いPS80濃度は、粒子数の減少を始めるのに十分であった。0.05%およびそれ以上高くPS80濃度を増加させると、粒子数が継続的に減少した。
【0127】
製剤のpH値は、T0および保存の2週間後に測定した。いずれの時点または温度でも、製剤のpHに顕著な変化はなかった。製剤pHにも濃度特異的なPS80の影響はなかった。PS80の濃度は、Ab1製剤150mg/mlのpHを維持する酢酸緩衝液の能力へのいずれの変化も誘導しなかった。
【0128】
この実施例の全ての研究では、いずれの試験条件についても製剤安定性へのPS80供給源の効果はみられなかった。
【実施例3】
【0129】
IVバッグ希釈研究
この実施例は、異なるIVバッグ中でのAb1製剤の安定性を試験する実験を記載する。これらの実験で使用した製剤条件は、以下の表4に示す。
【0130】
【0131】
IV注入の前に、DPはIVバッグで希釈した。DPに十分な濃度の界面活性剤がないと、タンパク質分子はIVバッグが作製された材料のタイプによってはバッグに吸収される可能性があった。結果として、IVバッグ中で希釈したDPは、患者に投与される意図した用量よりも低いAPI濃度であった。
【0132】
本発明者らは、異なる濃度のPS80を添加およびコートしたバッグで希釈したAb1の吸収挙動および物理的安定性を追跡した。PS80は、DP製剤を開始するのに必要な最適な濃度を決定するため、0.001%、0.0005%、0.0003%、および0.0002%の濃度に添加することによって希釈した。前述のPS80濃度は、開始DPの50~300倍希釈のPS80濃度に相当する。次いで、PS80を含有しないDP 150mg/mlは、0.5または1.0mg/mlに希釈した。IVバッグ材料の4つの異なる組合せへの製剤の希釈の効果および希釈を評価した:PVCバッグ中の生理食塩水、POバッグ中の生理食塩水、PVCバッグ中のデキストロース、およびPOバッグ中のデキストロース。
【0133】
次いで、希釈した製剤をインキュベートし、24および48時間後に測定した。データは、POおよびPVCバッグ中の生理食塩水が、研究したいずれの添加した界面活性剤濃度でも、タンパク質吸収に顕著に影響しなかったことを示す(
図7A)。しかしながら、希釈剤としてデキストロースを使用することは、バッグ材料に応じてわずかに吸収に影響した。特に、PVCデキストロースバッグの組合せは、PS80濃度が減少すると目立ったタンパク質吸収を引き起こした(
図7A)。結果は、DP投与について行われる推奨に直接影響した。
【0134】
DP希釈後の肉眼では見えない(>10μm)粒子生成は、使用した希釈液のタイプに高度に感受性であった。生理食塩水ベースの溶液は、デキストロースベースの溶液よりも高レベルの粒子を生成した(
図7B)。これは、製剤中に使用したPS80の濃度によらなかった。0.001%と0.003%の間のPS80の肉眼では見えない粒子数の差は顕著ではなかった。IVバッグの材料は、粒子形成には顕著な影響を持たないようであり、粒子数は同等であった。
【0135】
POおよびPVCバッグと組み合わせたデキストロースおよび生理食塩水中でのインキュベーション後、希釈したDP試料の凝集も評価した。生理食塩水バッグへと希釈したタンパク質は、デキストロースバッグのものよりもわずかに多くHMWS%を生成した。POバッグも、PVCバッグより多く凝集体を生成した。タンパク質安定性にもタンパク質濃度依存性があり、より低い0.5mg/ml希釈は、一般に1.0mg/ml希釈よりも高い凝集レベルを示した。しかしながら、PS80濃度は、タンパク質安定性に顕著な影響を示さなかった。
【実施例4】
【0136】
DSおよびDP安定性
この実施例は、原薬(DS)および薬物製品(DP)の長期安定性を評価するための研究を記載する。表5は、試験した製剤を示し、スクロースは抗凍結剤として使用し、PS80は界面活性剤として使用し、DTPAはキレート剤として使用した。
【0137】
【0138】
50μM DTPAを含有する20mM酢酸緩衝液でのこれらのデータにより、同じpH範囲を提供する25mM酢酸、および10μM EDTAを含有するUF/DF精製Ab1の製剤は、同じ溶液挙動を示すであろうと決定された。そのため、本発明者らは、DSおよびDPのこの予備的に提案した標的製剤を試験した:25mM酢酸、8%スクロース、0.06%PS80、10μMキレート剤(DTPAを試験したが、EDTAも等価である)、pH5.0(表5)。DSおよびDP濃度の全範囲にわたる濃度でAb1を安定化するこの製剤マトリックスの能力は、保存安定性について評価した。5℃または25℃での保存の3カ月後、いずれの製剤でもHMWS%に顕著な変化がなかった(
図8A)。40℃では、最大約0.5%増加したが、この増加は、これらのタイプの加速するストレス保存条件下ではわずかであると考えられ、安定性および貯蔵寿命を最適化する提案した製剤マトリックスの全体的な能力を反映する。
【0139】
Ab1製剤はまた、-80℃で凍結し、次いで-20℃で保存した。これらの条件下での保存の6カ月後、HMWS%の顕著な変化はなかった(
図8B)。低分子量種(LMWS)%も、SECによって追跡し、いずれの製剤または保存条件下でも観察された断片化に顕著な変化はなかった。さらに、全ての製剤は、10および25μm両方の肉眼では見えない粒子について、USP<787>規格内であった。
【0140】
いずれの条件下でもAb1の化学的安定性にも劇的な変化はなかった。要するに、提案した製剤マトリックスは、50mg/mlの、可能な最低のDP濃度および165mg/mlの、可能な最高のDS濃度の範囲を安定化する能力を有する。
【実施例5】
【0141】
金属添加研究およびキレート剤適合性
バイオ医薬品の製造中、DSおよびDPへの遷移金属夾雑のリスクがわずかにある。夾雑がある場合、遷移金属は、化学的不安定性および液体溶液中の凝集をもたらし得る。この実施例は、Ab1製剤への金属およびキレート剤の影響を評価した研究を記載する。表6は、金属添加を試験するために使用した製剤を示す:
【0142】
【0143】
表に示すように、キレート剤DTPAの添加有りおよび無しで、Ab1試料は鉄および銅を添加した。キレート剤を添加しない場合、鉄添加試料では、顕著なM252酸化および凝集がみられ、銅添加試料も酸化および凝集の増加を示したが低程度であった(
図9)。しかしながら、DTPAの存在下では、タンパク質分解の劇的な減少がみられた。
【0144】
本発明者らは、別のキレート剤、EDTAも試験した。Ab1製剤の保存安定性は、10μM DTPAまたは10μM EDTAを添加し、比較した。データは、これら2つのキレート剤が溶液中のタンパク質分子に同様のレベルの保護を提供したことを示した。これらのキレート剤は、金属誘導性の粒子形成または凝集を選択的に軽減した。
【実施例6】
【0145】
APIおよび賦形剤のための濃度範囲を有する製剤頑強性
この実施例は、抗体ならびに賦形剤の濃度範囲にわたり、Ab1製剤の安定性を評価する研究を記載する。研究のために使用した製剤は、以下の表7に示す。
【0146】
【0147】
本発明者らは、二量体、三量体、および四量体の亜種としてHMWSを解析することによって凝集を評価した。これは、直接凝集の詳細への製剤成分のバリエーションの影響を追跡する能力を可能にした。pH4.7およびpH5.3が最も安定であり、大量のHMWSを生成せず、さらに、優勢であるHMW種は二量体であった(
図10)。pH5.0の製剤は、およそ0.6%多い全凝集体を生成し、二量体レベルはpH4.7および5.3に匹敵し、0.6%は主に三量体種を示した。にもかかわらず、全HMWS%レベルは許容可能であった。
【0148】
時間または保存温度のいずれに対しても、異なる製剤にわたり肉眼では見えない粒子(10および25μm)の数に劇的な変化はなかった(データは示さない)。凝集または凍結融解サイクルストレス後の肉眼では見ない粒子(10および25μm)の数にも劇的な変化はなかった(データは示さない)。
【0149】
結論として、酢酸緩衝製剤は、ヒスチジンと比較して、最適な物理的および化学的安定性を提供した。肉眼では見えない粒子の数は、緩衝液種の性質およびpHに高度に感受性であり、低pH(4.7および5.0)の酢酸製剤は、最も少ない粒子数を生成した。濁度およびタンパク石濁もpH依存性であり、低pH酢酸条件では製剤はタンパク石濁がずっと少なく、低pHではタンパク質間相互作用を誘引しにくいことを示している。タンパク石濁が少ない溶液は、UFDF操作中に短いプロセシング時間を要することも示され、高濃度の原薬を生成するために必要な重要な製造上考慮すべき事柄である。
【0150】
最終製剤へのPS80の添加は、凝集または凍結/融解サイクルのような界面ストレスによって加速することが示された、凝集、特に粒子形成リスクを軽減するために必要である。PS80は、IV注入成分(例えば、IVバッグ)へのタンパク質吸収の軽減または減少にも有効であった。PS80濃度≧0.05%は、最適な安定性を提供した。
【0151】
金属添加試料の顕著な酸化および中程度の凝集レベルは、加速保存条件下で観察された。金属キレート剤を製剤に添加し、起こり得る可能性のある金属誘導性タンパク質および賦形剤分解からの保護を提供する。10μM EDTAおよび10μM DTPAは同等のレベルの保護を提供し、HMWS、酸化、およびPS80濃度に同様の変化をもたらした。
【0152】
およそ80mg/mlと同等である8%スクロースは、それぞれ50mg/mlおよび150mg/mlの濃度のDPおよびDSの両方の保護に好適な割合であることが見出された。
【0153】
これらの安定性研究からの結果は、様々な保存および他のストレス条件下で、凍結DSならびに液体DPを安定化する標的製剤の頑強性を実証した。
【実施例7】
【0154】
Ab1の代替製剤[注入のための溶液のための粉末]
さらなる例示的なAb1製剤は、滅菌凍結乾燥製品である。薬物製品は、USP Type1ホウケイ酸ガラスバイアルに、0.3mL過剰の10.3mL/バイアルで充填された。バイアルは、シリコン処理した灰色のブチルゴム栓によって蓋をされ、アルミニウムシールおよびフリップオフキャップでシールした。表8は、Ab1薬物製品の例示的な組成物の情報を提供する。
【0155】
投与のため、各バイアルは、9.7mLの注射用水によって復元し、22℃で、pH6.0の、10mM L-ヒスチジン、2%(w/v)スクロース、3.5%(w/v)マンニトール、10mM L-メチオニン、0.01%(w/v)ポリソルベート80を含有する水溶液中、25mg/mLのタンパク質濃度を生じた(表8)。
【0156】
賦形剤スクリーニングは、2%スクロースが凍結および融解中の凝集の形成を減少させることを示した。充填剤、マンニトールは、タンパク質安定性に顕著に影響しなかったが、優れた凍結乾燥ケーキの産生を助けた。
【0157】
【配列表】
【国際調査報告】