(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】神経成長因子の阻害のため及び心房細動の治療/予防のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20240621BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240621BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240621BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240621BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61K45/00
A61P9/00
A61K48/00
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/63 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577383
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 US2022033444
(87)【国際公開番号】W WO2022266107
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513208191
【氏名又は名称】ノースウエスタン ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】NORTHWESTERN UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】633 Clark Street,Evanston,Illinois 60208,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アローラ,リシ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA55
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA36
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA36
(57)【要約】
神経成長因子(NGF)の阻害のため及び心房細動の治療/予防のための組成物及び方法を本明細書に提供する。詳しくは、NGF発現の阻害薬を対象の心筋組織に投与して、心房細動、及び/または心房における自律神経発芽を治療または予防する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心房細動(AF)を治療及び/または予防する方法であって、
有効量の神経成長因子(NGF)阻害剤を前記対象に投与すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記対象が心房細動を患っている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NGF阻害剤がNGFの発現を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記NGF阻害剤が核酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸を投与することが、
前記核酸をコードするベクター及び/または導入遺伝子を投与すること、ならびに
前記核酸を前記対象の細胞の中で発現させること
を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸を投与することが、前記核酸を前記対象に直接投与することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記核酸が、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸が、配列番号1との70%の配列同一性を含むNGF shRNAである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記NGF shRNAが、配列番号1との100%の配列同一性を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記NGF阻害剤が、前記対象の心筋組織に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記心筋組織が、心房組織または心室組織を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記NGF阻害剤が、左心房組織及び/または右心房組織に投与される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記NGF阻害剤が、左心耳に投与される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記NGF阻害剤を投与することが、前記NGF阻害剤を前記対象の組織に注射することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記注射することが、無針注射によるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記対象における心房組織状態のパラメータを評価することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記対象における心房組織状態の前記パラメータを評価することが、
前記対象への前記NGF阻害剤の投与の前及び/または後に心筋組織の領域についてAF関連の電気生理学的測定結果を追跡評価するかまたは神経発芽を評価すること
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記対象における心房組織状態の前記パラメータを評価することが、
AF開始、AF持続時間、AFエピソード誘発率、有効不応期、伝導度、及び伝導不均一性指数
から選択されるAF関連の電気生理学的測定結果を追跡評価することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
神経成長因子(NGF)の発現を阻害することができる核酸を含む組成物。
【請求項20】
前記核酸が、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記核酸が、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)をコードするベクターまたは導入遺伝子である、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
前記核酸が、NGF mRNAに対する低分子ヘアピンRNAをコードする単離核酸である、請求項19に記載の組成物。
【請求項23】
前記核酸が、配列番号1との70%の配列同一性を含むNGF shRNAである、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記NGF shRNAが、配列番号1との100%の配列同一性を含む、請求項23に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月14日に出願された米国仮特許出願第63/210,338号、及び2021年8月27日に出願された米国仮特許出願第63/237,933号の利益を主張するものであり、参照によりこれらを両方とも本明細書に援用する。
【0002】
配列表
本明細書と併せて提出されたコンピュータ可読な配列表のテキストは、「39552-601_SEQUENCE_LISTING_ST25」と題し、652バイトのファイルサイズを有して2022年6月14日に作成されたものであるが、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【0003】
連邦政府による資金提供に関する記載
本発明は、National Institutes of Healthにより認められたHL140061の下、政府支援によってなされたものである。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0004】
本明細書に提供されるのは、神経成長因子(NGF)の阻害のため及び心房細動の治療/予防のための組成物及び方法である。詳しくは、NGF発現の阻害薬を対象の心筋組織に投与して、心房細動、及び/または心房における自律神経発芽を治療または予防する。
【背景技術】
【0005】
心房細動(AF)は、最も一般的な心リズム障害であり(Benjamin E J,Levy D,Vaziri S M,D’Agostino R B,Belanger A J,Wolf P A.“Independent risk factors for atrial fibrillation in a population-based cohort.The Framingham Heart Study,”JAMA 1994;271:840-4、参照によりその全体が援用される)、脳卒中及びHFの主要なリスク因子である(Balasubramaniam R,Kistler P M.AF and“Heart failure:the chicken or the egg?”Heart 2009;95:535-9、Lakshminarayan K,Anderson D C,Herzog C A,Qureshi A I.“Clinical epidemiology of atrial fibrillation and related cerebrovascular events in the United States,”Neurologist 2008;14:143-50、Lip G Y,Kakar P,Watson T.“Atrial fibrillation--the growing epidemic”[comment],Heart 2007;93:542-3、参照によりそれらの全体が援用される)。AFに対処するための現行の方策、例えば電気アブレーションは、AFの根底にある特異な機序に対処するものではない(Ben Morrison T,Jared Bunch T,Gersh B J.“Pathophysiology of concomitant atrial fibrillation and heart failure:implications for management,”Nat.Clin.Pract.Cardiovasc.Med 2009;6:46-56、参照によりその全体が援用される)。そのため、近年の研究は、アブレーションの成功に改良を加えるべく、及びAFのための新たな生物学的療法を開発するべく、AFの根底にある機序をより明確に定義しようと努めてきた。
【発明の概要】
【0006】
本明細書に提供されるのは、神経成長因子(NGF)の阻害のため及び心房細動の治療/予防のための組成物及び方法である。詳しくは、NGF発現の阻害薬を対象の心筋組織に投与して、心房細動、及び/または心房における自律神経発芽を治療または予防する。
【0007】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、対象における心房細動(AF)を治療及び/または予防する方法であって、有効量の神経成長因子(NGF)阻害剤を対象に投与することを含む、当該方法である。いくつかの実施形態では、対象はAFを患っている。いくつかの実施形態では、対象はAFのリスクが高い。いくつかの実施形態では、NGF阻害剤はNGFの発現を阻害する。いくつかの実施形態では、NGF阻害剤は核酸を含む。いくつかの実施形態では、核酸を投与することは、核酸をコードするベクター(例えば、プラスミド、ウイルスベクター、非ウイルスベクターなど)及び/または導入遺伝子を投与すること、ならびに核酸を対象の細胞の中で発現させることを含む。いくつかの実施形態では、核酸を投与することは、核酸を対象に直接投与することを含む。いくつかの実施形態では、NGF阻害剤は、対象の心筋組織に投与される。いくつかの実施形態では、心筋組織は、心房組織または心室組織を含む。いくつかの実施形態では、NGF阻害剤は、左心耳に投与される。いくつかの実施形態では、核酸は、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。いくつかの実施形態では、核酸は、配列番号1との少なくとも70%(例えば、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、またはそれらの間の範囲)の配列同一性を含むNGF shRNAである。いくつかの実施形態では、NGF阻害剤を投与することは、NGF阻害剤を対象の組織に注射することを含む。いくつかの実施形態では、注射することは、無針注射によるものである。いくつかの実施形態では、注射することは、マイクロニードル注射によるものである。いくつかの実施形態では、方法は、対象における心筋組織(例えば、心房組織)状態のパラメータを評価することをさらに含む。いくつかの実施形態では、対象における心房組織状態のパラメータを評価することは、対象へのNGF阻害剤の投与の前及び/または後に心筋組織の領域についてAF関連の電気生理学的測定結果を追跡評価するかまたは神経発芽を評価することを含む。いくつかの実施形態では、対象における心房組織状態のパラメータを評価することは、AF開始、AF持続時間、AFエピソード誘発率、有効不応期、伝導度、及び伝導不均一性指数から選択されるAF関連の電気生理学的測定結果を追跡評価することを含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、神経成長因子(NGF)の発現を阻害することができる核酸を含む組成物(例えば、医薬組成物)である。いくつかの実施形態では、核酸は、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)である。いくつかの実施形態では、核酸は、アンチセンスRNA、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)またはマイクロRNA(miRNA)をコードするベクター(例えば、プラスミド、ウイルスベクター、非ウイルスベクターなど)または導入遺伝子である。いくつかの実施形態では、核酸は、NGF mRNAに対する低分子ヘアピンRNAをコードする単離核酸である。いくつかの実施形態では、NGF shRNAは、配列番号1との少なくとも70%(例えば、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、またはそれらの間の範囲)の配列同一性を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、AFの治療または予防における、本明細書のNGF阻害剤を含む組成物(例えば、医薬組成物)の使用である。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、医薬品としての、本明細書のNGF阻害剤を含む組成物(例えば、医薬組成物)の使用である。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、医薬品の製造における、本明細書のNGF阻害剤を含む組成物(例えば、医薬組成物)の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】左心耳におけるNGF shRNAの指向的注射は、RAP起因性AFを防止する。
【
図2A】左心房及び右心房におけるNGF shRNAの指向的注射は、RAP起因性AFを28日間の期間にわたって防止する。
【
図2B】左心房及び右心房におけるNGF shRNAの指向的注射は、RAP起因性AFを12週間の期間にわたって防止する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書に記載されているものと同等または等価な任意の方法及び材料を、本明細書に記載の実施形態の実践または試験に用いることはできるが、いくつかの好ましい方法、組成物、装置及び材料を本明細書に記載する。但し、本発明の材料及び方法を記載する前に、本明細書に記載される特定の分子、組成物、方法論またはプロトコールに本発明が限定されないことを理解されたい。なぜなら、これらは慣例的な実験及び最適化によって変化し得るからである。また、説明で使用される専門用語が、特定の形態または実施形態について説明することを目的としているにすぎず、本明細書に記載の実施形態の範囲を限定することを意図していないことも、理解されたい。
【0012】
別段の定義がなされていない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。但し、矛盾がある場合は、定義を含めた本明細書が優先されることになる。したがって、本明細書に記載の実施形態の文脈において、以下の定義が適用される。
【0013】
本明細書及び別記の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、そうでないことが文脈から明らかに示されている場合を除き、複数形の意味を含む。それゆえ、例えば、「阻害剤」に対する言及は、1つ以上の阻害剤及び当業者に知られているその均等物に対する言及である、といった具合である。
【0014】
本明細書で使用される場合、「及び/または」という用語は、個々の列挙項目のいずれかも含めた、列挙項目のありとあらゆる組合せを含む。例えば、「A、B及び/またはC」は、A、B、C、AB、AC、BC及びABCを包含するが、「A、B及び/またはC」という記載によって、これらの各々が別個に記載されているとみなされるべきである。
【0015】
本明細書で使用される場合、「含む(comprise)」という用語、及びその言語的変化形は、付加的な特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を排除することなく、列挙された特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を意味する。反対に、「からなる」という用語、及びその言語的変化形は、列挙された特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などの存在を意味し、元から付随する不純物を除いて列挙されていないいかなる特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)なども排除する。「から本質的になる」という語句は、列挙された特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)など、及び組成物、システムまたは方法の基本的性質に実質的に影響を及ぼさない任意の付加的な特徴(複数可)、要素(複数可)、方法ステップ(複数可)などを意味する。本明細書の多くの実施形態は、開放型の「含む(comprising)」表現を用いて記載されている。そのような実施形態は、そのような表現を用いて択一的な特許請求または記載がなされていることがある複数の閉鎖型の「からなる」及び/または「から本質的になる」実施形態を包含する。
【0016】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、広義に、ヒト及び非ヒト動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、家禽、魚、甲殻類など)を含めた任意の動物を指す。本明細書で使用される場合、「患者」という用語は、典型的には、疾患または病状の治療を受けている対象を指す。
【0017】
本明細書で使用される場合、「予防する」という用語は、対象(例えばリスクを有する対象)が特定の疾患、障害または病状(例えば、AF)を発症するまたは患う可能性を低減するために採られる予防的ステップを指す。予防することが起こるためには、対象において起こる疾患、障害または病状の可能性がゼロに低減される必要はなく、ステップが集団にわたって疾患、障害または病状のリスクを低減するのならば、ステップは本明細書の範囲内及び趣意範囲内において個々の対象の疾患、障害または病状を予防する。
【0018】
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療する」などの用語は、特定の疾患、障害または病状に対する所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを指す。好ましくは、効果は治療的であり、つまり、効果は、疾患/病状/症候を患っている対象における疾患/病状/症候を部分的または完全に治癒させる。
【0019】
本明細書で使用される場合、「有効量」という用語は、有益な、または所望の転帰をもたらすのに十分な組成物の量を指す。有効量は、1回以上の投与、塗布または投薬で投与され得、特定の製剤または投与経路に限定されることを意図していない。
【0020】
本明細書で使用される場合、「投与」及び「投与する」という用語は、薬物、プロドラッグもしくは他の薬剤、または治療的処置を、対象に、またはin vivo、in vitro、もしくはex vivoで細胞、組織及び器官に与える行為を指す。人体への例示的な投与経路は、脳または脊髄のクモ膜下腔を介した(クモ膜下腔内)、眼を介した(経眼)、口を介した(経口)、皮膚を介した(局所または経皮)、鼻を介した(経鼻)、肺を介した(吸入)、口腔粘膜を介した(頬側)、耳を介した、直腸を介した、膣を介した、注射による(例えば、静脈内、皮下、腫瘍内、腹腔内など)などであり得る。
【0021】
本明細書で使用される場合、「共投与」及び「共投与する」という用語は、少なくとも2つの薬剤(複数可)(例えば、NGF阻害薬及び1つ以上の付加的な治療薬)または療法を対象に投与することを指す。いくつかの実施形態では、2つ以上の薬剤または療法の共投与は、同時に(例えば、単一の製剤/組成物で、または別個の製剤/組成物で)起こる。他の実施形態では、第1薬剤/療法を投与し、その後、第2薬剤/療法を投与する。当業者であれば、用いられる種々の薬剤または療法の製剤及び/または投与経路が様々となり得ることを理解する。共投与のための適切な適用量は、当業者であれば容易に決定することができる。いくつかの実施形態では、薬剤または療法を共投与する場合、それぞれの薬剤または療法は、それらを単独で投与する場合に比べてより低い適用量で投与される。このため、共投与は、薬剤または療法の共投与によって潜在的に有害な(例えば、毒性)薬剤(複数可)の所要の適用量が低くなる実施形態において、及び/または2つ以上の薬剤の共投与の結果として薬剤のうちの1つの有益な効果への対象の感作がその他の薬剤の共投与によってもたらされる場合において、特に望ましい。
【0022】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、組成物をin vitro、in vivoまたはex vivoでの診断的または治療的用途に特に適したものにする、活性薬剤と不活性または活性担体との組合せを指す。
【0023】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という用語は、対象に投与されたときに有害反応、例えば、毒性、アレルギーまたは免疫反応を実質的に生じさせない組成物を指す。
【0024】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という用語は、リン酸緩衝生理食塩水溶液、水、エマルジョン(例えば、油/水、または水/油エマルジョンなど)、ならびに様々なタイプの湿潤剤、ありとあらゆる溶剤、分散媒体、コーティング、ラウリル硫酸ナトリウム、等張化剤及び吸収遅延剤、崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプン、またはデンプングリコールサンナトリウム)などを含むがこれらに限定されない標準的な医薬担体のいずれかを指す。組成物はまた、安定化剤及び保存剤を含んでいてもよい。担体、安定化剤及びアジュバントの例については、例えば、参照によりその全体が本明細書に援用される、Martin,Remington’s Pharmaceutical Sciences,15th Ed.,Mack Publ.Co.,Easton,Pa.(1975)を参照されたい。
【0025】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、対象に投与されたときに本発明の化合物またはその活性代謝産物もしくは残基を供給することができる、本発明の化合物の任意の薬学的に許容される塩(例えば、酸または塩基)を指す。当業者には知られていることであるが、本発明の化合物の「塩」は、無機または有機の酸及び塩基から誘導され得る。酸の例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸、フマル酸、マレイン酸、リン酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、コハク酸、トルエン-p-スルホン酸、酒石酸、酢酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ギ酸、安息香酸、マロン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、ベンゼンスルホン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。他の酸、例えばシュウ酸は、それら自体では薬学的に許容されないが、本発明の化合物及びその薬学的に許容される酸付加塩を得る際の中間体として役立つ塩の調製において採用されることがある。
【0026】
本明細書で使用される場合、「上記化合物を対象に投与するための説明書」という用語、及びその文法的等価体は、病状の治療のためのキットの中に含有されている組成物を使用すること(例えば、投薬の提供、投与経路、患者固有の特質を作用の治療的過程と相関させるための治療医のための決定木)に関する説明書を含む。
【0027】
本明細書で使用される場合、「機能的に連結された」という用語は、配列のうちの1つの機能がもう1つの配列による影響を受けるように、ポリヌクレオチド上で核酸配列が会合していることを指す。例えば、調節性DNA配列がコードDNA配列の発現に影響を及ぼすように(つまり、コード配列または機能性RNAがプロモーターの転写制御の下にあるように)2つの配列が位置している場合、調節性DNA配列は、RNAをコードするDNA配列(「RNAコード配列」または「shRNAコード配列」)またはポリペプチドに「機能的に連結されている」と言われる。コード配列は、センスまたはアンチセンス配向で調節性配列に機能的に連結され得る。RNAコード配列は、shRNAなどのRNA分子を合成するための鋳型としての役割を果たすことができる核酸を指す。好ましくは、RNAコード領域はDNA配列である。
【0028】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、RNAポリメラーゼ及び適切な転写に必要とされる他の因子の認識をもたらすことによってコード配列の発現を誘導及び/または制御する、通常はそのコード配列の上流(5’側)にある、ヌクレオチド配列を指す。「プロモーター」は、発現の制御のために調節性エレメントが付加される転写開始部位を指定する役割を果たすTATAボックス及び他の配列からなる短いDNA配列である最小プロモーターを含む。「プロモーター」はまた、最小プロモーターとコード配列または機能性RNAの発現を制御することができる調節性エレメントとを含むヌクレオチド配列も指す。このタイプのプロモーター配列は、近位及びより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントは、しばしばエンハンサーと呼称される。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激するDNA配列であり、プロモーターが元来有しているエレメント、またはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入された異種エレメントであり得る。それは、どちらの配向(センスまたはアンチセンス)でも機能することができ、プロモーターの上流または下流のどちらかに移動させられたときでさえ機能することができる。エンハンサーも、他の上流プロモーターエレメントも、それらの効果を媒介する配列固有のDNA結合性タンパク質に結合する。プロモーターは、その全体が天然の遺伝子から得られることがある、または天然に存在する異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから成り立っていることがある、または合成DNAセグメントから成り立っていることさえある。プロモーターはまた、生理学的な、または発達上の条件に応答した転写開始の有効性を制御するタンパク質因子の結合に関与するDNA配列を含有することもある。本発明の実施においては、shRNAまたはRNAコード配列の発現を調節する、当技術分野で知られている任意のプロモーターが想定される。
【0029】
本明細書で使用される場合、「レポーターエレメント」または「マーカー」という用語は、スクリーニングアッセイで検出されることができるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを意味する。レポーターエレメントにコードされるポリペプチドの例としては、lacZ、GFP、ルシフェラーゼ、及びクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、米国特許第7,416,849号を参照されたい。多くのレポーターエレメント及びマーカー遺伝子が当技術分野で知られており、本明細書に開示される本発明における使用を想定される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「RNA転写物」という用語は、RNAポリメラーゼを触媒とするDNA配列の転写によって得られる生成物を指す。「伝令RNA転写物(mRNA)」は、イントロンを有さない、細胞によってタンパク質に翻訳されることができるRNAを指す。
【0031】
本明細書で使用される場合、「shRNA」(低分子ヘアピンRNA)という用語は、RNAの一部分がヘアピン構造(shRNA)の一部となっているRNA二重鎖を指す。二重鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二重鎖を形成する2つの配列の間に配置されたループ部分を含有し得る。ループは長さが様々であり得る。いくつかの実施形態では、ループは長さが5、6、7、8、9、10、11、12または13ヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3’または5’オーバーハング部分も含有し得る。いくつかの態様において、オーバーハングは、0、1、2、3、4または5ヌクレオチドの長さの3’または5’オーバーハングである。本発明の一態様において、ベクター中のヌクレオチド配列は、低分子ヘアピンRNAの発現のための鋳型としての役割を果たし、センス領域、ループ領域及びアンチセンス領域を含む。センス及びアンチセンス領域の発現の後に二重鎖が形成される。例えばNGF mRNAにハイブリダイズし、NGFの発現を減少させて、神経発芽を軽減する及び/またはAFを治療及び/または予防するのは、shRNAを形成しているこの二重鎖である。
【0032】
本明細書で使用される場合、「ノックダウン」または「ノックダウン技術」という用語は、標的遺伝子または関心とする遺伝子の発現をsiRNA導入前の遺伝子発現に比べて減少させる遺伝子サイレンシングの技術を指すが、この技術は、標的遺伝子産物の産生の阻害をもたらすことができるものである。「二重ノックダウン」は、2つの遺伝子のノックダウンである。「減少する」という用語は、標的遺伝子発現が0.1~100%低下することを表すために本明細書で使用される。例えば、発現は、0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または更には99%減少し得る。発現は、それらの間にある、例えば2~4、11~14、16~19、21~24、26~29、31~34、36~39、41~44、46~49、51~54、56~59、61~64、66~69、71~74、76~79、81~84、86~89、91~94、96、97、98または99などの、任意の量(%)だけ減少し得る。遺伝子発現のノックダウンは、shRNAの使用によって誘導され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、「ベクター」という用語は、自己伝染性または可動性であってもよく、またはそうでなくてもよく、かつ、細胞ゲノム内への組込み、あるいは染色体外に存在できる組込み(例えば、複製起点を有する自律複製性プラスミド)によって原核または真核宿主細胞を形質転換できる、任意のウイルスベクターまたは非ウイルスベクター、及び二本鎖または一本鎖の線状または環状形態の任意のプラスミド、コスミド、ファージまたはバイナリーベクターを指す。当技術分野で知られている任意のベクターが、本発明の実施における使用を想定される。
【0034】
発明を実施するための形態
神経成長因子(NGF)の阻害のため及び心房細動の治療/予防のための組成物及び方法を本明細書に提供する。詳しくは、NGF発現の阻害薬を対象の心筋組織に投与して、心房細動、及び/または心房における自律神経発芽を治療または予防する。
【0035】
本明細書の実施形態は、心房細動を患っている対象におけるNGFの発現及び/または活性を阻害するための組成物及び方法を提供する。ある特定の実施形態は、NGFの発現を阻害して心房における自律神経発芽を軽減/阻害/予防することを含む。本明細書の実施形態を開発する間に、NGF mRNAへと指向される低分子ヘアピンRNA(NGF shRNA)によるRNA干渉(RNAi)に基づくNGF阻害薬を使用した実験を行った。NGF shRNAに基づく医薬組成物は、NGF遺伝子の発現を阻害し、その結果、AFの発生率がより低くなる。AFの治療のためのNGF阻害の原理は、実験を必要以上に行うことなく、本明細書で実証されている例示的なNGF shRNAから他のNGF阻害薬へと容易に拡張されることができる。医薬組成物及び方法の詳細は、本開示においてより詳しく提示される。
【0036】
一態様では、心房細動を治療/予防するための医薬組成物が提供される。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、NGF遺伝子へと指向される低分子ヘアピンRNA(shRNA)(「NGF shRNA」)を含む。shRNAは、センス配列、ループ領域及びアンチセンス配列(時として、第1及び第2領域と呼称される)を含む単分子RNAであり得、これらは一緒になってヘアピンループ構造を形成する。好ましくは、アンチセンス及びセンス配列は互いに実質的に相補的(約80%以上相補的)であり、ある特定の実施形態では、アンチセンス及びセンス配列は互いに100%相補的である。ある特定の実施形態では、アンチセンス及びセンス配列は、短すぎてDicerによってプロセシングされず、それゆえ、より長い二本鎖RNAの経路に代わる代替経路を通じて作用する(例えば、約16~約22ヌクレオチドの長さ、例えば18~19ヌクレオチドの長さのアンチセンス及びセンス配列を有するshRNA(例えば、sshRNA))。さらには、本発明の単分子RNA中のアンチセンス及びセンス配列は、同じ長さであり得る、または長さが約9塩基未満だけ異なり得る。ループは任意の長さであり得、好ましい長さは、0~4ヌクレオチドの長さ、または非ヌクレオチドリンカーの等価な長さであり得、より好ましくは、2ヌクレオチド、または非ヌクレオチドリンカーの等価な長さであり得る(例えば、2ヌクレオチドと等価な長さを有する非ヌクレオチドループ)。一実施形態では、ループは、5’-UU-3’(rUrU)、または5’-tt-3’であり、ここで、「t」はデオキシチミジンを表す(dTdT)。任意のshRNAヘアピンの中の、複数のヌクレオチドがリボヌクレオチドである。ループのヌクレオチドがゼロ個である場合、アンチセンス配列はセンス配列に直接連結されており、片方または両方の鎖の一部がループを形成している。ループがゼロntであるshRNAの好ましい実施形態では、アンチセンス配列は約18または19ntであり、センス配列はアンチセンス配列よりも短く、その結果としてアンチセンスの一端がループを形成する。
【0037】
代表的なshRNAのヘアピンは、左手型(L)ヘアピン(すなわち、5’-アンチセンス-ループ-センス-3’)か、右手型(R)ヘアピン(すなわち、5’-センス-ループ-アンチセンス-3’)かのいずれかに組織化され得る。さらには、shRNAは、ヘアピンの組織化に応じて、センス配列またはアンチセンス配列のいずれかの5’または3’末端のいずれかにオーバーハングも含有し得る。好ましくは、オーバーハングが存在する場合にそれらはヘアピンの3’末端上に存在し、1~6塩基を含む。オーバーハングの存在は、R型ヘアピンの場合に好ましく、この場合、2ntのオーバーハングが好ましく、UUまたはttオーバーハングが最も好ましい。
【0038】
shRNAの安定性、機能性及び/または特異性を増強するためならびに免疫刺激性を最小限に抑えるために修正を加えることができる。例えば、オーバーハングは、未修飾であってもよく、または1つ以上の特異性または安定化修飾、例えば、2’位置のハロゲンもしくはO-アルキル修飾、またはヌクレオチド間修飾、例えばホスホロチオエート修飾を含有していてもよい。オーバーハングは、リボ核酸、デオキシリボ核酸、またはリボ核酸とデオキシリボ核酸との組合せであり得る。
【0039】
左手型ヘアピンに適用され得る修飾の別の非限定的な例では、ヘアピンの5’アンチセンス末端からの位置15、17もしくは19、またはそれらの位置のうちの任意の2つの位置、もしくは3つすべての位置にあるヌクレオチドに対して、ならびにループヌクレオチドに対して、ならびに「スライシング」活性を遮断する修飾を有するべきでない、センス配列の最も5’側にあるヌクレオチドから9、10及び11番目のヌクレオチド(第9、第10及び第11ヌクレオチドとも呼ばれる)を除く、センス配列の他のあらゆるヌクレオチドに対して、2’-O-メチル修飾(または、他の2’-O-アルキル修飾を含むがこれらに限定されない他の2’修飾)を加えることがある。上記文中に記載される任意の単一の修飾または修飾の群を、単独で、または列挙されている他の任意の修飾または修飾群と組み合わせて用いることができる。
【0040】
Ui-Tei,K.et al.(Nucl.Acids Res.(2008)36(22):7100-7109、参照によりその全体が援用される)は、片方または両方の鎖のシード領域を修飾することによってsiRNAの特異性が向上し得ることに気付いた。そのような修飾は、本開示のshRNAに適用されることができる。ヘアピンに適用され得る修飾の別の非限定的な例では、アンチセンス配列のnt1~6、及びセンス配列のnt14~19を2’-O-メチル化してオフターゲット効果を低減することができる。好ましい実施形態では、nt1~6のみを2’-OHから2’-Hまたは2’-O-アルキル(2’-O-alky)に修飾する。
【0041】
shRNAのセンス配列は潜在的に、RISCに進入してアンチセンス(標的指向)鎖と競合し得るため、センス配列リン酸化を防止する修飾は、オフターゲットシグネチャを最小限に抑える上で価値がある。したがって、本発明の右手型shRNAの最も5’側にあるヌクレオチドの5’炭素のリン酸化を防止する望ましい化学修飾は、限定はされないが、(1)5’炭素に遮断基(例えば、5’-O-アルキル)を付加する修飾;または(2)5’-ヒドロキシル基を除去する修飾(例えば、5’-デオキシヌクレオチド)を含み得る(例えば、参照により全体が援用されるWO2005/078094を参照されたい)。
【0042】
特異性を増強する修飾に加えて、安定性を増強する修飾も加えることができる。いくつかの実施形態では、センス配列の1つ以上の、好ましくはすべてのピリミジン(例えば、C及び/またはUヌクレオチド)に対して、2’-O-アルキル基を含む修飾(または他の2’修飾)を加えることがある。センス配列/領域のC及びUのそれぞれのいくつかまたはすべての、またはループ構造の、2’Fまたは2’-O-アルキルなどの修飾は、標的特異的なサイレンシングを大幅に変化させることなくshRNA分子の安定性を増強することができる。これらの修飾が安定性を増強するとはいえ、(例えば、「スライシング」活性に干渉する)RNAiの妨害を回避するためには、ヘアピン内の肝要な位置にこれらの修飾パターンを加えることを避けるのが望ましい場合があることに、留意すべきである。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、リン酸骨格に対するさらなる安定化修飾をshRNAに含ませてもよい。例えば、shRNA骨格中、またはヌクレオチドの任意の特定のサブセット(例えば、オリゴヌクレオチド骨格のセンス配列の中の任意またはすべてのピリミジン)の中、ならびに存在している任意のオーバーハング及び/またはループ構造の中のヌクレオチドの、いくつかまたはすべての3’位置において、少なくとも1つのホスホロチオエート、ホスホロジチオエート及び/またはメチルホスホナートがリン酸基の代わりに用いられていてもよい。これらの修飾は、独立して、または本明細書に開示される他の修飾と組み合わせて用いられ得る。
【0044】
関心とする修飾shRNAについての記載は、以下の参考文献の中に見つけることができ、参照によりそれらは両方とも全体が本明細書に援用される:Q.Ge,H.Eves,A.Dallas,P.Kumar,J.Shorenstein,S.A.Kazakov,and B.H.Johnston(2010)Minimal-length short hairpin RNAs:The Relationship of Structure and RNAi Activity.RNA 16(1):106-17(Epub Dec.1,2009)、及びQ.Ge,A.Dallas,H.Ilves,J.Shorenstein,M.A.Behlke,and B.H.Johnston(2010)Effects of Chemical Modification on the Potency,Serum Stability,and Immunostimulatory Properties of Short shRNAs.RNA 16(1):118-30(Epub Nov.30,2009)。
【0045】
本発明の態様による修飾shRNAは、3’キャップ構造(例えば、逆位デオキシチミジン)、shRNA中の1つ以上の位置に結合体化した検出標識(例えば、蛍光標識、質量標識、放射性標識など)、または送達、検出、機能、特異性もしくは安定性を増強できる他の結合体(例えば、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖、炭水化物、脂質、ポリマー、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドなど)を含めた、種々の目的のいずれかのためのさらなる化学修飾を含んでいてもよい。利用者の所望により、付加的な化学修飾の組合せが採用されることがある。
【0046】
好適なNGF shRNAとしては、約20ヌクレオチド~約80ヌクレオチドの範囲の長さの核酸であって、一部が約15ヌクレオチド~約25ヌクレオチドの長さの二本鎖構造ドメインを有する、当該核酸が挙げられる。いくつかの態様において、shRNAは、組織及び細胞の内部でのshRNAの安定性を付与するための、修飾された塩基またはホスホジエステル骨格を含み得る。例示的なNGF shRNAは、配列番号1を含む。いくつかの実施形態では、NGF発現を阻害する能力を有する任意のshRNAが、本明細書の組成物及び方法の中で用途を見出される。ある特定の実施形態では、配列番号1と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の置換または欠失を有するNGF shRNAが提供される。
【0047】
当技術分野で一般的に知られているように、通例使用されるオリゴヌクレオチドは、天然に存在するプリン及びピリミジン塩基と、糖と、ホスホジエステル結合中のリン酸基を含めたヌクレオシド間の共有結合との組合せを有する、リボ核酸またはデオキシリボ核酸のオリゴマーまたはポリマーである。但し、「オリゴヌクレオチド」という用語が、本明細書に記載されるような天然に存在しない様々な模倣体及び誘導体、すなわち、天然に存在するオリゴヌクレオチドの修飾形態も包含することに、留意されたい。
【0048】
本発明のshRNA分子は、DNA及びRNA分子の合成のための、当技術分野で知られている任意の方法によって調製され得る。これらには、当技術分野でよく知られているオリゴデオキシリボヌクレオチド及びオリゴリボヌクレオチドを化学合成する技術、例えば、固相ホスホロアミダイト化学合成などが含まれる。あるいは、in vitro及びin vivoでのアンチセンスRNA分子をコードするDNA配列の転写によってRNA分子を生成してもよい。そのようなDNA配列は、好適なRNAポリメラーゼプロモーター、例えばT7またはSP6ポリメラーゼプロモーターを組み込む多種多様なベクターの中に組み込まれ得る。あるいは、使用されるプロモーターに応じてアンチセンスRNAを恒常的または誘導的に合成するアンチセンスcDNA構築物を、細胞株の中に安定的に導入してもよい。
【0049】
適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイト、及び従来のDNA/RNA合成装置を使用して、shRNA分子を化学合成してもよい。特別注文のshRNA合成サービスを、Ambion(Austin,Tex.,USA)及びDharmacon Research(Lafayette,Colo.,USA)などの商業的販売業者から利用することができる。
【0050】
DNA分子に対するよく知られている様々な修飾が、細胞内安定性及び半減期を向上させる手段として導入され得る。可能な修飾としては、分子の5’及び/または3’末端へのリボもしくはデオキシヌクレオチドの隣接配列の付加、またはオリゴデオキシリボヌクレオチド骨格内にホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオエートもしくは2’O-メチルを用いることが挙げられるが、これらに限定されない。本発明のアンチセンス核酸は、当技術分野で知られている手順を用いて化学合成または酵素的ライゲーション反応を用いて構築され得る。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、天然に存在するヌクレオチドを使用して、または分子の生物学的安定性を向上させるようにもしくはアンチセンス及びセンス核酸間で形成される二重鎖の物理的安定性を向上させるように設計された多様に修飾されたヌクレオチドを使用して(例えば、ホスホロチオエート誘導体及びアクリジン置換ヌクレオチドが使用され得る)、化学合成され得る。
【0051】
本明細書のshRNA分子は、任意のNGF shRNAの構造の様々な修飾等価体であり得る。「修飾等価体」は、同じ標的特異性を有する(つまり、未修飾の特定shRNA分子と相補関係にある同じmRNA分子を認識する)特定shRNA分子の修飾形態を意味する。したがって、未修飾shRNA分子の修飾等価体は、修飾されたリボヌクレオチド、すなわち、未修飾のヌクレオチド塩基、糖及び/またはホスフェート(またはホスホジエステル結合)の化学構造における修飾を含有するリボヌクレオチドを有し得る。
【0052】
いくつかの実施形態では、修飾shRNA分子は、修飾された骨格、または非天然のヌクレオシド間リンケージ、例えば、修飾されたリン含有骨格、ならびに非リン骨格、例えば、モルホリノ骨格;シロキサン、スルフィド、スルホキシド、スルホン、スルホナート、スルホンアミド及びスルファメート骨格;ホルムアセチル及びチオホルムアセチル骨格;アルケン含有骨格;メチレンイミノ及びメチレンヒドラジノ骨格;アミド骨格などを含有する。
【0053】
修飾されたリン含有骨格の例としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、キラルホスホロチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、チオノアルキルホスホナート、ホスフィナート、ホスホロアミダート、チオノホスホロアミダート、チオノアルキルホスホトリエステル、及びボラノホスフェート、ならびにそれらの様々な塩形態が挙げられるが、これらに限定されない。上記の非リン含有骨格の例は、当技術分野、例えば米国特許第5,677,439号において既知であり、参照によりその各々を本明細書に援用する。
【0054】
shRNA化合物の修飾形態は、修飾されたヌクレオシド(ヌクレオシド類縁体)、すなわち、修飾されたプリンまたはピリミジン塩基、例えば、5-置換ピリミジン、6-アザピリミジン、ピリジン-4-オン、ピリジン-2-オン、フェニル、シュードウラシル、2,4,6-トリメトキシベンゼン、3-メチルウラシル、ジヒドロウリジン、ナフチル、アミノフェニル、5-アルキルシチジン(例えば、5-メチルシチジン)、5-アルキルウリジン(例えば、リボチミジン)、5-ハロウリジン(例えば、5-ブロモウリジン)、または6-アザピリミジンまたは6-アルキルピリミジン(例えば、6-メチルウリジン)、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、5’-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メチルカルボニルメチルウリジン、5-メチルオキシウリジン、5-メチル-2-チオウリジン、4-アセチルシチジン、3-メチルシチジン、プロピン、キューオシン(quesosine)、ワイブトシン、ワイブトキソシン、ベータ-D-ガラクトシルキューオシン、N-2、N-6及びO-置換プリン、イノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、2-メチルチオ-N-6-イソペンテニルアデノシン、ベータ-D-マンノシルキューオシン、ウリジン-5-オキシ酢酸、2-チオシチジン、スレオニン誘導体などを含有することもある。
【0055】
加えて、修飾shRNA化合物は、置換されたかまたは修飾された糖部分、例えば、2’-O-メトキシエチル糖部分も有することがある。
【0056】
好ましくは、本発明のshRNAの3’オーバーハングは、細胞性ヌクレアーゼに対する耐性をもたらすように修飾される。一実施形態では、3’オーバーハングは2’-デオキシリボヌクレオチドを含む。
【0057】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、NGFに対応するmRNAの異なる部位を標的とするshRNA化合物である。さらには、RNA干渉(RNAi)によって媒介される任意の標的遺伝子の効率的なサイレンシングのためのshRNAの設計を補助するべく、いくつかのshRNA供給会社は、標的遺伝子のmRNAまたはコードDNA配列が提供された場合にshRNAを「選ぶ」ための、これらの一般的指針を利用するウェブでの設計ツールを整備している。そのようなツールの例は、Dharmacon,Inc.(Lafayette,Colo.)、Ambion,Inc.(Austin,Tex.)のウェブサイトにおいて見つけることができる。一例を挙げると、shRNAを選ぶことは、標的遺伝子に特有な部位/配列(すなわち、標的とされる遺伝子以外の遺伝子との著しい相同性を共有していない配列)を選択して、図らずも他の遺伝子が、この特定の標的配列のために設計された同じshRNAの標的とならないようにすることを伴う。
【0058】
考慮されるべき別の基準は、標的配列が既知の多形部位を含んでいるかどうかである。そうである場合、ある特定のアレルを標的とするように設計されたshRNAは別のアレルを効果的に指向しないことがある。なぜなら、所与のshRNAにおける標的配列とその相補鎖との間での単一塩基のミスマッチが、そのshRNAによって誘導されるRNAiの有効性を大幅に減少させ得るからである。本開示を知った当業者であれば、標的配列及びそのような設計ツール及び設計基準を考慮して、NGFのmRNAレベルを低下させるのに役立つさらなるsihRNA化合物を設計及び合成することができるはずである。
【0059】
いくつかの実施形態では、本発明は、ポリマーまたは賦形剤と、1つ以上のshRNA分子をコードする1つ以上のベクターとの組成物を提供する。ベクターは、好適な担体と共に医薬組成物に製剤化され得、任意の好適な投与経路を用いて哺乳動物に投与され得る。この精度ゆえに、従来の薬物に典型的に関連する副作用は軽減または排除され得る。加えて、shRNAは比較的安定しており、アンチセンスに類似しているので、改善された薬学的特性、例えば、向上した安定性、送達性、及び製造し易さを得るためにそれらを修飾することもある。その上、shRNA分子は、天然の細胞性経路、すなわちRNA干渉を利用するので、標的とするmRNA分子を破壊することにおいて極めて効率的である。その結果、対象においてshRNA化合物の治療的有効濃度を得ることは比較的簡単である。
【0060】
shRNA化合物は、種々の経路を介する様々な方法によって哺乳動物に投与され得る。任意の好適な局部的投与方法、例えば標的組織への直接注射によって、それを特定の器官または組織に直接送達することもできる。いくつかの実施形態では、shRNA化合物を、標的組織に直接注射した後、電気穿孔で細胞内に導入する。あるいは、リポソームに封入した状態でそれをイオン導入法によって、または他のビヒクル、例えば、ハイドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル及び生体接着性マイクロスフェアへの組込みによって送達してもよい。
【0061】
静脈内注射されたRNAiによるin vivoでの特定の遺伝子発現の阻害は、哺乳動物を含めた様々な生物において成し遂げられている。例えば、参照により全体が援用されるSong E.et al.“RNA interference targeting Fas protects mice from fulminant hepatitis,”Nature Medicine,9:347-351(2003)を参照されたい。本発明のshRNA分子のある投与経路は、所望の組織部位での、例えば、罹患または非罹患心組織、線維化心組織、例えば線維化PLA組織へのベクターの直接注射を含む。但し、一般的には、NGFタンパク質発現を効果的にノックダウンするため、神経成長を阻害するため及び/または対象におけるAFの存在を低減するかもしくは完全に排除するために、NGF shRNA、またはNGF shRNAをコードする発現ベクターを心筋組織(例えば、心房組織)に直接注射する。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明のshRNAの1つ以上を含む1つ以上のベクターを、1回目の投与の後に、1回目の投与の後の任意の時間間隔または複数回の時間間隔で、再投与する。
【0063】
いくつかの実施形態では、核酸をコードするshRNAを医薬組成物に製剤化するが、この医薬組成物は、慣例的な薬学的配合技術に従って調製される。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.(1990,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.)を参照されたい。本発明の医薬組成物は、治療的有効量の、shRNAをコードするベクターを含む。これらの組成物は、ベクター以外にも、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定化剤、または当技術分野でよく知られている他の材料を含み得る。そのような材料は、無毒でなければならず、有効成分の有効性に干渉しないものでなければならない。担体は、投与、例えば、静脈内、経口、筋肉内、皮下、クモ膜下腔内、神経上膜または非経口投与のために望まれる調製方式に応じて、多種多様な形態を取り得る。
【0064】
本発明のベクターを投与のために調製するとき、それを薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて医薬製剤または単位剤形を形成することがある。そのような製剤の中の合計の有効成分は、製剤の0.1~99.9重量%を含む。
【0065】
いくつかの実施形態では、ベクターは好適に製剤化され、そして、試料の十分な部分を細胞に進入させて遺伝子サイレンシングを起こるべき場合に誘導する任意の手段によって、細胞の環境の中に導入される。当技術分野ではベクターのための多くの製剤が知られており、ベクターが作用できるようにベクターが標的細胞への進入を獲得する限りにおいて、これらの製剤を使用することができる。例えば、ベクターは、リポソーム、ミセル構造及びカプシドを含むリン酸緩衝生理食塩水溶液などの緩衝液に製剤化され得る。本発明のベクターの医薬製剤はまた、水性または無水の溶液または分散体の形態、あるいはエマルジョンまたは懸濁液の形態を取ることもある。本発明のベクターの医薬製剤は、任意選択の原料として、可溶化または乳化剤、及び当技術分野でよく知られている類の塩を含んでいてもよい。本発明の医薬製剤において有用となる担体及び/または希釈剤の非限定的な具体例としては、水及び生理学的に許容される生理食塩水溶液が挙げられる。個体への投与のための組成物を調製するための、他の薬学的に許容される担体としては、例えば、溶剤またはビヒクル、例えば、グリコール、グリセロールまたは注射用有機エステルが挙げられる。薬学的に許容される担体は、例えばshRNAコードベクターを安定化させるようにまたはその吸収を増大させるように作用する、生理学的に許容される化合物を含有し得る。他の生理学的に許容される担体としては、例えば、炭水化物、例えば、グルコース、スクロースもしくはデキストラン、酸化防止剤、例えばアスコルビン酸もしくはグルタチオン、キレート剤、低分子量タンパク質、または他の安定化剤もしくは賦形剤、生理食塩水、デキストロース溶液、フルクトース溶液、エタノール、または動物由来、植物由来もしくは合成由来の油が挙げられる。担体は、他の原料、例えば保存剤を含有することもある。
【0066】
生理学的に許容される化合物を含めて、薬学的に許容される担体の選択が例えば組成物の投与形態によって決まることは認識されよう。ベクターを含有する組成物は、第2試薬、例えば、診断試薬、栄養物質、毒素または付加的な治療剤も含有することがある。心疾患の治療に役立つ多くの薬剤が当技術分野で知られており、本発明のベクターと一緒に使用されることが想定される。
【0067】
細胞内へのベクターのトランスフェクションを容易にするために、ベクターとカチオン性脂質との製剤が使用され得る。例えば、カチオン性脂質、例えば、リポフェクチン、カチオン性グリセロール誘導体、及びポリカチオン性分子、例えばポリリジンが使用され得る。好適な脂質としては、例えば、Oligofectamine及びLipofectamine(Life Technologies)が挙げられるが、これらは、製造業者の指示に従って使用され得るものである。
【0068】
いくつかの実施形態では、好適な量のベクターが導入され、これらの量は、標準的な方法を用いて実験的に決定され得る。典型的には、細胞の環境での個々のベクター種の有効濃度は、約50ナノモーラー以下、10ナノモーラー以下であろう、または約1ナノモーラー以下の濃度が用いられ得る組成物であろう。他の態様では、方法は、約200ピコモーラー以下の濃度を利用するが、多くの状況において、約50ピコモーラー以下の濃度が用いられることさえある。当業者であれば、標準的な方法を用いて任意の特定の哺乳動物対象のための有効濃度を決定することができる。
【0069】
いくつかの実施形態では、shRNAは、治療的有効量で投与される。投与される実際の量、及び投与の速度及び経時変化は、治療されている病状、疾患または障害の性質及び重症度によって決まるであろう。治療の指示、例えば、投薬量、タイミングなどの決断は、一般的な開業医または専門家の責任の範囲内であり、典型的には、治療されることになる障害、病状または疾患、個体哺乳動物対象の病状、送達部位、投与方法、及び開業医に知られている他の因子を考慮に入れる。技術及びプロトコールの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 18th Ed.(1990,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.)の中に見つかり得る。
【0070】
あるいは、標的療法を用いて、抗体または細胞特異リガンドなどの標的指向システムの使用によってshRNAコードベクターをある特定種の細胞へ、より特異的に送達することができる。標的指向は、様々な理由で、例えば、薬剤が許容できないほど毒性である場合、またはそうしなければ多すぎる投薬量を必要とすることになる場合、またはそうしなければ標的細胞に進入できない場合に、好適となり得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、遺伝子療法の手法によって、例えば低分子ヘアピン形態(shRNA)にあるshRNA化合物に直接転写され得るDNAベクターを使用して、哺乳動物細胞、特にヒト細胞の中にshRNAを送達する。近年の研究は、RNAiを媒介することにおいて二本鎖shRNAが非常に効果的である一方で、短い一本鎖ヘアピン型RNAもまたRNAiを媒介し得ることを実証しており、これはおそらく、それが、細胞酵素によって二本鎖shRNAへとプロセシングされる分子内二重鎖に折りたたまれるからである。この発見は重要で遠大な意味合いを有している。なぜなら、そのようなshRNAの産生は、そのような小さなヘアピンRNAの転写を誘導する、少数(例えば、3、4、5、6、7、8、9個)のヌクレオチドで隔てられた短い逆位反復配列を保有するDNAベクターによって細胞または組織をトランスフェクトすることにより、容易にin vivoで成し遂げられ得るからである。さらには、宿主細胞ゲノム中へのベクターまたはベクターセグメントの組込みを誘導するかまたは転写ベクターの安定性を確保する機序が含まれている場合、コードされたshRNAによって生じるRNAiは安定した遺伝可能なものとなり得る。そのような技術は、哺乳動物細胞中の特定の遺伝子の発現を「ノックダウン」するために用いられてきただけでなく、今や、外因的に発現する導入遺伝子、ならびに生きたマウスの脳及び肝臓の中の内因性遺伝子の発現をノックダウンするために成功裏に採用された。
【0072】
遺伝子療法は、当技術分野で知られているような一般的に受け入れられている方法に従って行われる。例えば、参照により全体が援用される、米国特許第5,837,492号及び同第5,800,998号、ならびにそれらの中で引用されている参考文献を参照されたい。遺伝子療法との関連においては、ベクターが、中にコードされているポリヌクレオチドを発現させるのに十分な配列を含有するポリヌクレオチド配列を含むことが意図される。ポリヌクレオチドがshRNAをコードする場合、発現は、アンチセンスポリヌクレオチド配列を産生することになる。よって、この文脈において発現は、タンパク質産物が合成されることを要求しない。ベクター中にコードされているshRNA以外にも、ベクターは、真核細胞において機能性であるプロモーターも含有する。shRNA配列は、このプロモーターの制御下にある。好適な真核プロモーターとしては、本明細書中の他のどこかに記載されているもの、及び当技術分野で知られているものが挙げられる。発現ベクターはまた、選択マーカー、レポーター遺伝子及び他の慣例的に使用されている調節配列などの配列も含むことがある。
【0073】
したがって、原位置で生成するshRNAの量は、核酸配列の転写を誘導するために使用されるプロモーターの性質(つまり、プロモーターが、恒常性であるかまたは調節性であるか、強いかまたは弱いか)、及び細胞内にあるshRNA配列をコードする核酸配列のコピーの数のような因子を制御することによって調節される。例示的なプロモーターとしては、polI、polII及びpolIIIによって認識されるものが挙げられる。いくつかの態様では、好ましいプロモーターは、polIIIプロモーター、例えば、U6 polIIIプロモーターである。
【0074】
いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、細胞における標的遺伝子の発現を阻害するためのキットであって、本明細書に記載の化学修飾shRNAを含む、当該キットである。「キット」は、本発明の方法を行うための材料または試薬を送達するための任意のシステムを指す。反応アッセイとの関連において、そのような送達システムは、ある場所から別の場所への、反応試薬(例えば、適切な容器に入った化学修飾shRNA、培養培地など)及び/または補助材料(例えば、緩衝剤、アッセイを実施するための説明書きなど)の貯蔵、輸送または送達を可能にするシステムを含む。例えば、キットは、該当する反応試薬及び/または補助材料を収容している1つ以上の筐体(例えば、箱)を含む。そのような内容物は、まとめて、または別個に、意図したレシピエントに送達され得る。例えば、第1容器は、アッセイに使用するための化学修飾shRNAを収容し得る一方、第2容器は、培養培地RNA送達剤(例えば、トランスフェクション試薬)を収容し得る。
【0075】
上に記したように、主題のキットは、キットの構成要素を使用して主題の方法を実践するための説明書をさらに含み得る。主題の方法を実践するための説明書は、通常、適切な記録媒体上に記録される。例えば、説明書は、基材、例えば紙またはプラスチックなどの上に印刷され得る。それゆえ、説明書は、添付文書としてキット内に存在していてもよいし、キットまたはその構成要素の容器のラベル中に(つまり、包装または副包装に付属させて)存在していてもよい、といった具合である。他の実施形態では、説明書は、好適なコンピュータ可読記憶媒体上に存在する電子記憶データファイルとして存在している。さらに他の実施形態では、実物の説明書はキット中に存在しないが、遠隔供給源から、例えばインターネットを介して説明書を得るための手段が提供される。この実施形態の一例は、説明書を閲覧できる及び/または説明書をダウンロードできるウェブアドレスを含むキットである。説明書と同様に、説明書を得るためのこの手段は、好適な基材上に記録される。
【0076】
主題のデータベース、プログラミング及び説明書に加えて、キットは、1つ以上の対照試薬、例えば、化学修飾されていないshRNAも含み得る。
【0077】
本明細書に記載の医薬組成物は、AFを治療/予防することにおいて治療的有効性を有する。NGF shRNAを含む医薬組成物は、当技術分野で認められているヒトAFのイヌモデルにおいて、実証できる活性を有する。NGF shRNA研究の結果は、AFの治療/予防のためにNGF阻害薬を使用してNGFの活性または発現を阻害するための全般的方略の実行可能性を実証している。そのような阻害剤としては、NGF mRNAまたはタンパク質を標的とするオリゴヌクレオチド系化合物、例えば、NGF mRNAへと指向されるRNAi分子、アンチセンスRNA、shRNAなど、及びNGFポリペプチドへと指向されるオリゴヌクレオチド系アプタマーが挙げられる。さらには、NGFタンパク質機能性に特異的に結合するかあるいは干渉することによる抗NGF活性を有する低分子有機化合物、ペプチド、抗体または他の薬剤も、AFの治療及び/予防における用途を見出される。NGF shRNAの投与、製剤化、投薬及び使用のための上記の実施形態も、NGFの活性または発現の阻害のための他の薬剤を伴う用途を見出される。
【0078】
いくつかの実施形態では、NGF阻害薬は、任意の好適な生物活性分子(例えば、NGFの機能を阻害する能力を有する分子)を含む。いくつかの実施形態では、MGF阻害薬は、巨大分子、ポリマー、分子状複合体、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、炭水化物、小分子などを含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、NGF阻害薬は、NGF阻害ペプチドである。いくつかの実施形態では、本発明は、NGFの1つ以上のアレルを阻害する能力を有する任意の好適なアミノ酸配列のペプチドを提供する。いくつかの実施形態では、本発明の実施形態の組成物によって提供されるかまたはそれにコードされるペプチドは、任意の標準アミノ酸(例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリン)または非標準アミノ酸(例えば、D-アミノ酸、化学的または生物学的に生産された一般的なアミノ酸の誘導体、セレノシステイン、ピロリシン、ランチオニン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニンなど)の任意の配置を含み得る。いくつかの実施形態では、NGF阻害ペプチドは、NGFに対する阻害薬である。
【0080】
いくつかの実施形態では、NGF阻害ペプチドは、単離または精製されたペプチドとして対象に提供される。いくつかの実施形態では、NGF阻害ペプチドは、そのようなペプチドをコードする核酸分子として対象に提供される。いくつかの実施形態では、ペプチドは、細胞透過性を増強するように最適化される(例えば、配列最適化、配列タグ、小分子によるタグ付けなど)。
【0081】
いくつかの実施形態では、NGF阻害薬は、ミニ遺伝子を含む単離核酸から提供され、上記ミニ遺伝子は修飾NGFペプチドをコードし、当該ペプチドは、細胞、例えばヒト細胞におけるNGFとNGF結合パートナーとの相互作用の部位を遮断する。加えて、ミニ遺伝子は、プロモーター、リボソーム結合部位、翻訳開始コドン及び翻訳停止コドンのうちの1つ以上をさらに含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態では、NGF阻害薬は、単離または精製されたポリペプチドとして提供される。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞または組織におけるNGF媒介シグナル伝達事象を阻害する方法を提供する。これらの方法は、修飾NGFペプチド、及び修飾NGFペプチドをコードするミニ遺伝子を含む単離核酸のうちの1つを、細胞または組織、好ましくはヒト細胞または組織に投与することを含み、それによって、投与後にNGFペプチドが細胞または組織におけるNGF媒介シグナル伝達事象を阻害する。
【0084】
いくつかの実施形態では、NGF阻害薬は小分子を含む。いくつかの実施形態では、本発明は、NGFの小分子阻害薬を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、NGFの活性、機能発現などを阻害する能力を有するように構成された小分子薬物または医薬化合物を提供する。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明は、NGF阻害薬としての、(例えば、NGF発現を変化させる)RNAi分子を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、核酸療法を用いてNGF遺伝子の発現を標的とする。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、NGF遺伝子をコードする核酸分子の機能を調節して最終的には発現するNGFタンパク質の量を調節することに使用するための、オリゴマーアンチセンスまたはRNAi化合物、特にオリゴヌクレオチドを含む組成物を採用する。いくつかの実施形態では、RNAiは、NGF遺伝子機能を阻害するために利用される。RNAiは、ヒトを含めたほとんどの真核生物において、外来遺伝子の発現を制御するための進化的に保存された細胞防御に相当する。RNAiは、典型的には、二本鎖RNA(dsRNA)によって誘発され、dsRNAに応答して相同である一本鎖標的RNAの配列特異的mRNA分解を生じさせる。mRNA分解の媒介物質は低分子干渉RNA二重鎖(siRNA)であるが、これは、正常では、長鎖dsRNAから細胞における酵素的切断によって産生される。siRNAは、概しておよそ21ヌクレオチドの長さ(例えば、21~23ヌクレオチドの長さ)であり、2ヌクレオチドの3’オーバーハングを特徴とする塩基対合構造を有する。細胞内への低分子RNAまたはRNAiの導入の後、配列は、RISC(RNA誘導サイレンシング複合体)と呼ばれる酵素複合体に送達されると考えられる。RISCは、標的を認識し、それをエンドヌクレアーゼによって切断する。より大きなRNA配列が細胞に送達された場合はRNアーゼIII酵素(Dicer)がより長いdsRNAを21~23ntのds siRNA断片に変換することに、留意されたい。いくつかの実施形態では、siRNAは、18~30ヌクレオチド、好ましくは19~25ヌクレオチド、最も好ましくは21~23ヌクレオチド、またはよりいっそう好ましくは21ヌクレオチドの長さの二本鎖RNA分子である。siRNAはRNA干渉(RNAi)経路に関与し、当該経路ではsiRNAが特定の遺伝子(例えば、NGF)の発現に干渉する。元来から自然界で見つかるsiRNAは、明確な構造を有する:両末端に2ntの3’オーバーハングを有するRNAの短い二本鎖(dsRNA)。各鎖は5’リン酸基及び3’ヒドロキシル(-OH)基を有する。この構造は、長鎖dsRNAまたは低分子ヘアピンRNAをsiRNAに変換する酵素であるdicerによるプロセシングの結果である。siRNAはまた、外因的(人工的)に細胞内に導入されて関心とする遺伝子(例えば、NGF)の特異的なノックダウンを起こさせることもできる。本質的には、配列が分かっている任意の遺伝子を、適切にあつらえたsiRNAとの配列相補性に基づいてこのように標的とすることができる。二本鎖RNA分子またはその代謝プロセシング産物は、標的特異的な核酸修飾、特にRNA干渉及び/またはDNAメチル化を媒介する能力を有する。外因的に導入されたsiRNAは、その3’及び5’末端においてオーバーハングを欠くことがあるが、いくつかの実施形態では、少なくとも1本のRNA鎖は5’及び/または3’オーバーハングを有する。好ましくは、二本鎖の一端が、1~5ヌクレオチド、より好ましくは1~3ヌクレオチド、最も好ましくは2ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。他端は、平滑末端であり得る、または最長6ヌクレオチドの3’オーバーハングを有する。概して、siRNAとして作用すること及びNGFを阻害することに適した任意のRNA分子が、本発明において想定される。いくつかの実施形態では、2ntの3’オーバーハングを有するように対合した21ntのセンス及び21ntのアンチセンス鎖から成り立っているsiRNA二重鎖が提供される。2ntの3’オーバーハングの配列は、最初の塩基対に隣接する非対合ヌクレオチドに制限される標的認識の特異性に小さな寄与をする。3’オーバーハング中の2’-デオキシヌクレオチドは、リボヌクレオチドと同じくらいに効率的であるがしかし、より安く合成されることが多く、ヌクレアーゼ耐性がより大きいとされる。siRNAの送達は、当技術分野で知られている方法のいずれかを用いて、例えば、siRNAを生理食塩水と組み合わせること及び当該組合せを静脈内もしくは鼻腔内に投与することによって、またはsiRNAをグルコース(例えば、5%グルコースなど)で製剤化することによって成し遂げられ得、あるいは、静脈内(IV)か腹腔内(IP)かのいずれかの全身経路を介したin vivoでのsiRNA送達のためにカチオン性脂質及びポリマーを使用することができる。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、NGFを標的としてその発現を阻害する(例えば、ノックダウンする)siRNA分子である。
【0086】
動物細胞へのsiRNAのトランスフェクションは、特定の遺伝子の強力で長続きする転写後サイレンシングをもたらす(Caplen et al,Proc Natl Acad Sci U.S.A.2001;98:9742-7、Elbashir et al.,Nature.2001;411:494-8、Elbashir et al.,Genes Dev.2001;15:188-200、及びElbashir et al.,EMBO J.2001;20:6877-88、参照によりこれらのすべてを本明細書に援用する)。siRNAによってRNAiを実施するための方法及び組成物は、例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第6,506,559号に記載されている。
【0087】
siRNAは、標的とするRNAの量を低下させることにおいて並外れて効果的であり、延長タンパク質によって検出不能レベルにまで低下することが頻繁にある。サイレンシング効果は、数ヶ月間持続し得、並外れて特異的である。なぜなら、サイレンシングを防ぐには標的RNAとsiRNAの中心領域との間での1つのヌクレオチドのミスマッチで十分であることが頻繁にあるからである(Brummelkamp et al,Science 2002;296:550-3、及びHolen et al,Nucleic Acids Res.2002;30:1757-66、参照によりこれらを両方とも本明細書に援用する)。
【0088】
RNAiをもたらす(かつNGFの発現を阻害する上で本明細書において有用である)さらなる分子としては、例えば、マイクロRNA(miRNA)が挙げられる。上記RNA種は一本酸RNA分子である。内因的に存在するmiRNA分子は、相補的なmRNA転写物に結合すること、及びRNA干渉に似通ったプロセスによって上記mRNA転写物の分解を誘発することによって、遺伝子発現を調節する。したがって、外来miRNAは、標的細胞内への導入の後にNGFの阻害薬として採用され得る。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、NGFを標的としてその発現を阻害する(例えば、ノックダウンする)miRNA分子である。
【0089】
モルホリノ(またはモルホリノオリゴヌクレオチド)は、約20~30ヌクレオチド、典型的には約25ヌクレオチドの長さを有する合成核酸分子である。モルホリノは、標準的な核酸塩基対合によって標的転写物(例えば、NGF)の相補配列に結合する。それらは、デオキシリボース環の代わりにモルホリン環に結合しており、ホスフェートの代わりにホスホロジアミダート基によって連結された、標準的な核酸塩基を有する。アニオン性ホスフェートが非荷電ホスホロジアミダート基に置き換わっていることにより、通常の生理pH範囲でのイオン化が防止され、その結果、生物または細胞の中のモルホリノは非荷電分子である。モルホリノの骨格全体は、これらの修飾サブユニットで作られている。阻害性低分子RNA分子とは違ってモルホリノはそれらの標的RNA分子を分解しない。それどころか、それらはRNA中の標的配列に対する結合を立体的に遮断し、RNAと相互作用する可能性があったはずの分子による接近を防止する。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、NGFを標的としてその発現を阻害する(例えば、ノックダウンする)モルホリノオリゴヌクレオチドである。
【0090】
リボザイム(リボ核酸酵素、別名RNA酵素または触媒性RNA)は、化学反応を触媒するRNA分子である。多くの天然リボザイムはそれら自体の切断か他のRNAの切断かのいずれかを触媒するが、それらがリボソームのアミノトランスフェラーゼ活性を触媒することも見出されている。十分に特性評価された低分子自己切断RNAの非限定的な例は、ハンマーヘッド型、ヘアピン型、デルタ型肝炎ウイルス及びin vitro選択鉛依存性リボザイムであり、これに対し、グループIイントロンはより大きなリボザイムの例である。触媒的自己切断の原理は十分に確立されている。ハンマーヘッド構造が異種RNA配列内に組み込まれ得ること、及びそれによってリボザイム活性がこれらの分子に移され得ることが示されたため、標的配列が潜在的なマッチング切断部位を含有する限り、ほとんどいかなる標的配列についても遺伝子操作で作られ得る触媒性アンチセンス配列を生み出すことができる。ハンマーヘッド型リボザイムを構築する基本原理は以下のとおりである:GUC(またはCUC)3つ組を含有する、RNAの関心領域(例えば、NGFの一部)を選択する。通常各々6~8ヌクレオチドを有している2本のオリゴヌクレオチド鎖を選び、それらの間に触媒性ハンマーヘッド配列を挿入する。いくつかの実施形態において、本明細書に提供されるのは、NGFのリボザイム阻害薬である。
【0091】
いくつかの実施形態では、NGFをコードする1つ以上の核酸に特異的にハイブリダイズするアンチセンス化合物を使用してNGF発現を調節する。オリゴマー化合物とその標的核酸との特異的なハイブリダイゼーションは、核酸の正常な機能に干渉する。この、標的核酸に特異的にハイブリダイズする化合物による標的核酸の機能の調節は、一般に「アンチセンス」と呼称される。
【0092】
いくつかの実施形態では、本発明は、NGF遺伝子の発現を調節することに用いるための任意の遺伝子操作の利用を企図している。遺伝子操作の例としては、遺伝子ノックアウト(例えば、染色体からのNGF遺伝子の除去、例えば組換えを用いる除去)、誘導性プロモーターを用いるまたは用いないアンチセンス構築物の発現などが挙げられるが、これらに限定されない。in vitroまたはin vivoでの細胞への核酸構築物の送達は、任意の好適な方法を用いて行われ得る。好適な方法は、所望の事象(例えば、アンチセンス構築物の発現)が起こるように核酸構築物を細胞内に導入するものである。(例えば、誘導性プロモーターによる刺激によって)in vivoで発現されるsiRNAまたは他の干渉分子を送達するために遺伝子療法を用いることもある。
【0093】
いくつかの実施形態では、標的細胞においてNGF配列を修飾することによってNGF発現を阻害する(及び/またはNGF活性を阻害する)。いくつかの実施形態では、1つ以上のDNA結合性核酸を使用するNGFの改変、例えば、RNA依存性エンドヌクレアーゼ(RGEN)による改変を行う。例えば、改変は、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)及びCRISPR関連(Cas)タンパク質を使用して行われ得る。一般に、「CRISPRシステム」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子を発現させることまたはその活性を誘導することに関与する転写物及び他の要素を集合的に指し、これには、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス作用性CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性CRISPRシステムとの関連において、「直接リピート」、及びtracrRNAプロセシング済みの部分的直接リピートを包含する)、ガイド配列(内因性CRISPRシステムとの関連において、「スペーサー」とも呼称される)、及び/またはCRISPR座位からの他の配列及び転写物が含まれる。CRISPR/CasヌクレアーゼまたはCRISPR/Casヌクレアーゼシステムは、DNAに配列特異的に結合するものである非コードRNA分子(ガイド)RNA、及びヌクレアーゼ機能性(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCasタンパク質(例えば、Cas9)を含み得る。CRISPRシステムの1つ以上の要素は、I型、II型またはIII型CRISPRシステムから得ることができ、例えば、内因性CRISPRシステムを含む特定の生物、例えば、Streptococcus pyogenesから得ることができる。いくつかの態様では、Casヌクレアーゼ及びgRNA(標的配列(例えば、NGF中の配列)に特異的なcrRNAと固定tracrRNAとの融合体を含む)を細胞内に導入する。一般に、gRNAの5’末端にある標的部位は、相補的な塩基対合を用いてCasヌクレアーゼを標的部位、例えばNGFに指向する。標的部位は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)配列、例えば典型的にはNGGまたはNAGのすぐ5’側にあるその場所に基づいて選択され得る。これに関して、gRNAは、ガイドRNAの最初の20、19、18、17、16、15、14、14、12、11または10ヌクレオチドを標的DNA配列(例えば、NGF中の配列)に対応するように改変することによって、所望の配列に指向される。一般に、CRISPRシステムは、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進する要素によって特徴付けられる。典型的には、「標的配列」は、一般に、それとの相補性を有するようにガイド配列が設計される配列を指し、この場合、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションはCRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを生じさせてCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性が存在する限り、完全な相補性は必ずしも必要とされない。CRISPRシステムは、SRC-3標的部位における二本鎖切断(DSB)を誘発し得、その後、本明細書に記述されている妨害または改変が生じ得る。他の実施形態では、「ニッカーゼ」とみなされるCas9多様体を使用して一本鎖に標的部位(例えば、NGF中)で刻み目を入れる。刻み目が同時に導入された時に5’オーバーハングが導入されるように一対の異なるgRNAによって各々が指向される、対合したニッカーゼを使用して、例えば特異性を改善することができる。他の実施形態では、遺伝子発現に影響を与えるために(例えば、NGFの発現を阻害するために)、触媒的に不活性なCas9を異種エフェクタードメイン、例えば転写抑制因子または活性化因子に融合させる。いくつかの実施形態では、NGFを改変するため、NGFの発現を阻害するため及び/またはNGFの発現産物を不活性化するためにCRISPRシステムを使用する。いくつかの実施形態では、NGF遺伝子または結果として得られるタンパク質の発現及び/または活性を減少させるために、CRISPR/Cas9または関連するシステムを使用して対象の中のNGF遺伝子を改変する。いくつかの実施形態では、CRISPR/Cas9システムを使用して、NGFペプチドもしくはポリペプチドをコードする核酸、またはNGF阻害薬を宿主の遺伝物質の中に挿入する。CRISPRは、塩基配列の短い繰り返しを含むDNA座位である。各繰り返しの後には、以前のウイルスへの曝露に由来する「スペーサーDNA」の短いセグメントが続く。CRISPRは、しばしば、CRISPRに関係するタンパク質をコードするCas遺伝子と会合している。CRISPR/Casシステムは、プラスミド及びファージなどの外来遺伝要素に対する抵抗性を付与する、ならびに獲得免疫の一形態をもたらす、原核生物の免疫システムである。CRISPRスペーサーは、これらの外来遺伝要素を、真核生物におけるRNAiに似通った方法で認識して切断する。CRISPR/Casシステムは、遺伝子編集のために使用されることがある。Cas9タンパク質及び適切なガイドRNAを細胞内に送達することによって、生物のゲノムは任意の所望の場所で切断され得る。宿主細胞内に遺伝子を挿入して操作型細胞を生むためにCRISPR/Cas9システム及び他のシステムを使用する方法は、例えば、参照により全体が本明細書に援用される米国公開第20180049412号に記載されている。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明は、NGFタンパク質を標的とする抗体を提供する。本明細書に開示される治療方法において、任意の好適な抗体(例えば、モノクローナル、ポリクローナルまたは合成)が利用され得る。好ましい実施形態では、抗体はヒト化抗体である。抗体をヒト化する方法は当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許第6,180,370号、同第5,585,089号、同第6,054,297号及び同第5,565,332号を参照されたく、参照によりこれらの各々を本明細書に援用する)。
【0095】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞または組織の中へのNGF阻害薬の進入を増強する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、電気穿孔、電気透過化または超音波穿孔と併せてNGF阻害薬を投与することを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、電気穿孔と併せてNGF阻害薬を投与することを提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、対象の組織の共注射/電気穿孔を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、電気穿孔の前に、それと同時に、及び/またはその後にNGF阻害薬を投与することを提供する。いくつかの実施形態では、電気穿孔は、医薬または核酸(例えば、DNA)を細胞内に送達する方法を提供する。いくつかの実施形態では、医薬またはDNA(例えば、NGF阻害薬)の適用と同時またはそのすぐ後に組織を電気的に刺激する。いくつかの実施形態では、電気穿孔は細胞透過性を向上させる。透過性または細孔は、医薬及び/またはDNAが細胞への接近を獲得するのを可能にするのに十分に大きい。いくつかの実施形態では、細胞膜に空いた細孔が閉じ、細孔は再び不透過性になる、または透過性がより低くなる。共注射/電気穿孔のためのある特定の装置は当技術分野で知られている(参照により全体が本明細書に援用される米国特許第7,328,064号)。
【0096】
以下の特許出願は、本明細書の実施形態における用途を見出され得る組成物、装置、システム及び方法を含有し、参照によりそれらの各々の全体を援用する:米国公開第20210038501号、米国公開第20200237929号、米国公開第20200206498号、米国公開第20200185062号、米国公開第20190111241号、米国公開第20190076417号、米国公開第20190032058号、米国公開第20170172440号、米国公開第20150366477号、米国公開第20110137284号、及び米国公開第20090281019号。
【0097】
さらには、イヌモデルはモデル心房組織としてPLAを利用したが、当該手法はすべての心房組織に適用されることができる。いくつかの実施形態では、本発明は、心房細動を治療または予防するための組成物及び方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明は、大動脈解離、心不整脈(例えば、心房性心不整脈(例えば、心房性期外収縮、移動性心房ペースメーカー、多源性心房頻脈、心房粗動、心房細動など)、接合部不整脈(例えば、上室頻脈、AV結節リエントリー性頻脈、発作性上室性頻脈、接合部調律、接合部頻脈、房室結節性期外収縮など)、房室性不整脈、心室性不整脈(例えば、期外心室収縮、頻脈性心室調律、単形性心室頻脈、多形性心室頻脈、心室細動など)など)、先天性心疾患、心筋梗塞、拡張型心筋症、肥大性心筋症、大動脈弁逆流症、大動脈弁狭窄症、僧帽弁逆流症、僧帽弁狭窄症、エリス・ファンクレフェルト症候群、家族性肥大性心筋症、ホルト・オーラム症候群、マルファン症候群、ロマノ・ワード症候群、及び/または類似する疾患及び病状の列挙から選択される心臓の疾患または病状の治療または予防を提供する。
【実施例】
【0098】
数週間を超える高頻度心房刺激(RAP)に供されたイヌは、左心耳(LAA)からの神経成長因子(NGF)分泌の増加を呈するが、これは、AFがこの領域においてより常態化/組織化されていて、それによってより常態化された筋細胞活性化をきたしていることに起因すると考えられる(参考文献30、参照によりその全体を援用する)。持続的なAFの発症におけるLAAの重要な役割を示唆する研究の数が増えつつあることから、心房自律神経叢及び星状神経節への逆行輸送によるLAAにおける優先的なNGF分泌は心房における散在性の自律神経発芽を招くものと考えられた。本明細書の実施形態を開発する間に行われた実験では、イヌ対象のLAAにおける(配列番号1または配列番号2の)NGF shRNAの指向的注射とその後の4週間のRAPは、AF持続時間の劇的な低減をもたらした。対照動物とは違い、NGF shRNAを受けているイヌでは、経過観察中にAFを発症したイヌがいなかった(
図1)。
【0099】
左心房及び右心房の両方におけるNGF shRNAの注射による、12週間~12ヶ月後)に続く最長12週間の期間にわたって動物を追跡する拡張実験からは、28日間(
図2A)及び12週間(
図2B)の期間にわたってAF持続時間の抑制が同様に得られた。
【0100】
LAAにおけるNGFの指向的阻害が、RAPによって誘導される神経発芽を防止し、それによって発作性から持続性に至るまでのAFの進行を防止することは、指向的遺伝子注射の後の両心房における神経刺激を詳しく評価することによって明らかにされるものと企図される。
【0101】
配列
配列番号1-CACTGGACTAAACTTCAGCAT
配列番号2-GCATAGCGTAATGTCCATGTT
【配列表】
【国際調査報告】