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  • 特表-相変化材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】相変化材料
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20240621BHJP
   F28D 20/02 20060101ALI20240621BHJP
   F28D 9/00 20060101ALI20240621BHJP
   F28D 7/02 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C09K5/06 Z
F28D20/02 D
F28D9/00
F28D7/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577509
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 MY2022050050
(87)【国際公開番号】W WO2022265492
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】PI2021003417
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523130626
【氏名又は名称】ペトローリアム ナショナル バーハド (ペトロナス)
【氏名又は名称原語表記】PETROLIAM NASIONAL BERHAD (PETRONAS)
【住所又は居所原語表記】Tower 1,Petronas Twin Towers,Kuala Lumpur City Centre,Kuala Lumpur,50088 Malaysia
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ドルフィ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】トラヴァリーニ,ジュゼッペ
【テーマコード(参考)】
3L103
【Fターム(参考)】
3L103BB38
3L103BB42
(57)【要約】
炭素数が10~30個の脂肪族アルコールを含み、熱エネルギーの貯蔵と放出が可能な相変化材料組成物を開示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が10~30個の脂肪族アルコールを含み、熱エネルギーの貯蔵と放出が可能な相変化材料組成物。
【請求項2】
前記脂肪族アルコールが、炭素数が10~26個、例えば16~26個(例えば20~24個、例えば22個など)の飽和直鎖脂肪族アルコールである、請求項1に記載の相変化材料組成物。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールが、1-デカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである(例えば、前記飽和直鎖脂肪族アルコールが、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである)、請求項2に記載の相変化材料組成物。
【請求項4】
前記脂肪族アルコールが、1-ドコサノールである、請求項3に記載の相変化材料組成物。
【請求項5】
融点が、4~85℃、例えば5~80℃、例えば6~75℃、例えば70℃である、先行する請求項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
【請求項6】
融解潜熱が、100~400J/g、例えば180~300J/g、又は、291J/gである、先行する請求項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
【請求項7】
造核剤、熱安定剤、抗酸化剤、金属不活性化剤、腐食抑制剤、難燃剤、構造化剤、脂肪酸、熱伝導率向上剤、及び、それらの混合物から選択されたさらなる成分を含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
【請求項8】
前記さらなる成分が、抗酸化剤、構造化剤、難燃剤、及びそれらの混合物から選択されたものである、請求項7に記載の相変化材料組成物。
【請求項9】
前記さらなる成分が、0.01~10重量%(例えば0.1から5重量%)の量で含有されている、請求項7~8のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
【請求項10】
格納部と、前記格納部に格納された請求項1~10のいずれか1項に記載の相変化材料組成物とを備えた相変化材料製品。
【請求項11】
更に、熱交換部を備えた請求項10に記載の相変化材料製品。
【請求項12】
前記熱交換部は、プレート式熱交換部、又は、スパイラル式熱交換部である、請求項11に記載の相変化材料製品。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか1項に記載の相変化材料製品を備えた製品又はシステムであり、
任意に、布、発泡体、医療装置、電子製品、包装材、建設資材、冷蔵/冷凍システム、給湯システム、及び暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システムから選択されたものであり、任意に、給湯システム(例えば、生活用水用給湯システム)、又は空調制御(HVAC)システムである、製品又はシステム。
【請求項14】
環境における温度を調節する方法であって、
(a)環境に、任意の量の請求項1~9のいずれか1項に記載の相変化材料組成物を設ける工程と、
(b)前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動によって前記相変化材料組成物中への熱エネルギーの貯蔵や、前記相変化材料組成物中の熱エネルギーの放出を行い、任意の期間にわたって環境における温度を調節する工程と、を含む方法。
【請求項15】
前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、衛生水システム及び/又は空調制御(HVAC)システムの温度調節を行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記任意の期間は、1分間から7日間、例えば5分間から3日間、例えば10分間から1時間(例えば20分間)である、請求項14~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、環境内に位置する高温感受性又は低温感受性物質の温度調節を行う、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記高温感受性又は低温感受性物質は水である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
衛生水システム用及び/又は暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システム用の温度調節媒体としての炭素数が10~30個の脂肪族アルコールの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族アルコールを含んだ相変化材料組成物と、相変化材料組成物を組み込んだ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における公開済みの文献の一覧又はそれに関する説明は、当該文献が従来技術の一部である、又は一般的な慣用技術であると認めたものと必ずしも解釈するべきでものではない。
【0003】
相変化材料(PCM)は、その相又は状態が変化した時、すなわち、固体から液体へ変化、及びその逆に変化した時、大量の「潜熱」を吸収又は放出する物質である。相変化材料は、温度調節や、断熱性の向上などのために使用することができる。よって、相変化材料は、包装、衣類、物品の送達及び絶縁材料などにおいて使用されている。
【0004】
有機PCMとは、一般にパラフィンワックスPCM、又は非パラフィンPCMを指す。有機PCMの主要な利点は、他のPCMと比較して、潜熱蓄熱性が良好で、過冷却性がなく、全体的にプラスチックや金属との適合性が良好なことである。しかしながら、有機PCMは、低純度グレードのパラフィンの混合物である場合があり、特定の温度では熱を吸収することができない。合成パラフィンは、一般的ではなく、高価な場合がある。
【0005】
非パラフィンPCMは、一般的な脂肪酸及びエステルを含む。非パラフィンPCMは、再生可能な原料より製造することが可能であり、パラフィンワックス同様に、潜熱蓄熱性が良好であり、過冷却性が低い。非パラフィンPCMも、典型的には、他の有機化学物質と比較して引火点がより高く、よって、火災の危険性がより低い。しかし、非パラフィンPCMには、一部の材料との適合性の問題があり、経時的な酸化の問題もある。また、高純度エステルは非常に高価である場合がある。
【0006】
無機PCMとは、一般に、水和塩を指す。無機PCMは、広い範囲の溶融温度を提供し、蓄熱性が良好であり、非可燃性であるという利点を有する。しかしながら、無機PCMは、経時的に水が凝離する傾向があり、有機物よりも耐久性が低い。過冷却性や、タンクに一般的に使用されている材料との適合性の問題なども、実用時には問題となる。
【0007】
PCMは、生活用水用や、暖房、換気、及び空調を行う空調制御(HVAC)システム用の熱電池における調節温度媒体として使用される場合がある。例えば、これらに限定されないが、住宅などでは、PCMにより、快適な室温を維持するためのエネルギー消費を最適化できる可能性がある。そのような用途では、外部供給システム(例えば、地域熱供給システム、ボイラー、又は、太陽熱集積器)によって提供される熱エネルギーは、PCMに基づいた熱エネルギー貯蔵システム(すなわち、熱電池)により、電力の可用性が最大の期間では貯蔵され、電力需要が最大の期間では放出される。例えば、熱エネルギーが太陽熱集積器によって供給される場合、PCMは、昼間にエネルギーを貯蔵し、太陽光が夜間に利用できない場合にエネルギーを放出することによって効率を高めることができうる。
【0008】
したがって、上述した問題の1つ以上を解消する改良されたPCMが必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、相変化材料、及び相変化材料を含む製品に関する。本発明の態様及び実施形態を以下の項において記載する。
1.炭素数が10~30個の脂肪族アルコールを含み、熱エネルギーの貯蔵と放出が可能な相変化材料組成物。
2.前記脂肪族アルコールが、炭素数が10~26個、例えば16~26個(例えば20~24個、例えば22個など)の飽和直鎖脂肪族アルコールである、第1項に記載の相変化材料組成物。
3.前記脂肪族アルコールが、1-デカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである(例えば、前記飽和直鎖脂肪族アルコールが、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである)、第2項に記載の相変化材料組成物。
4.前記脂肪族アルコールが、1-ドコサノールである、第3項に記載の相変化材料組成物。
5.融点が、4~85℃、例えば5~80℃、例えば6~75℃、例えば70℃である、先行する項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
6.融解潜熱が、100~400J/g、例えば180~300J/g、又は291J/gである、先行する項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
7.造核剤、熱安定剤、抗酸化剤、金属不活性化剤、腐食抑制剤、難燃剤、構造化剤、脂肪酸、熱伝導率向上剤、及び、それらの混合物から選択されたさらなる成分を含む、先行する項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
8.前記さらなる成分が、抗酸化剤、構造化剤、難燃剤、及びそれらの混合物から選択されたものである、第7項に記載の相変化材料組成物。
9.前記さらなる成分が、0.01~10重量%(例えば0.1から5wt%)の量で含有されている第7~8項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物。
10.格納部と、前記格納部に格納された第1~10項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物とを備えた相変化材料製品。
11.更に、熱交換部を備えた第10項に記載の相変化材料製品。
12.前記熱交換部は、プレート式熱交換部、又は、スパイラル式熱交換部である、第11項に記載の相変化材料製品。
13.第10~12項のいずれか1項に記載の相変化材料製品を備えた製品又はシステムであり、
任意に、布、発泡体、医療装置、電子製品、包装材、建設資材、冷蔵/冷凍システム、給湯システム、及び暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システムから選択されたものであり、任意に、給湯システム(例えば、生活用水用給湯システム)、又は空調制御(HVAC)システムである、製品又はシステム。
14.環境における温度を調節する方法であって、
(a)環境に、任意の量の第1~9項のいずれか1項に記載の相変化材料組成物を設ける工程と、
(b)前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動によって前記相変化材料組成物中への熱エネルギーの貯蔵や、前記相変化材料組成物中の熱エネルギーの放出を行い、任意の期間にわたって環境における温度を調節する工程と、を含む方法。
15.前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、衛生水システム及び/又は空調制御(HVAC)システムの温度調節を行う、第14項に記載の方法。
16.前記任意の期間は、1分間から7日間、例えば5分間から3日間、例えば10分間から1時間(例えば20分間)である、第14~15項のいずれか1項に記載の方法。
17.前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、環境内に位置する高温感受性又は低温感受性物質の温度調節を行う、第14~16項のいずれか1項に記載の方法。
18.前記高温感受性又は低温感受性物質は水である、第17項に記載の方法。
19.衛生水システム用及び/又は暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システム用の温度調節媒体としての炭素数が10~30個の脂肪族アルコールの使用。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、A)ドコサノールと、B)市販のPCMの示差走査熱量測定(DSC)分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
驚くべきことに、特定の脂肪族アルコールが、特に良好な相変化材料(PCM)であり、より詳細には、熱電池などの熱交換システムで使用される相変化材料として良好であることが分かった。
【0012】
本発明の第1の態様において、炭素数が10~30個の脂肪族アルコールを含み、熱エネルギーの貯蔵と放出が可能な相変化材料組成物が提供される。
【0013】
本明細書に記載の実施形態においては、「含む、備える(comprising)」という単語は、記載の構成を必要とするが、他の構成の存在について限定されていないと解釈されることができる。または、「含む、備える(comprising)」という単語は、列記された部材/構成のみが存在しているような状態に関する場合もある(例えば、「含む、備える(comprising)」という単語は「からなる(consisting of)」又は「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という表現により置き換えることも可能である)。本発明の全ての態様と実施形態は、より広い解釈とより狭い解釈の両方が適応可能であるように明示的に意図したものである。つまり、「含む、備える(comprising)」という単語及びその同義語は、「からなる(consisting of)」又は「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という表現により置き換えることも可能であり、その逆も可能である。
【0014】
「本質的に~からなる(consisting essentially of)」という表現及びその同義語は、本明細書において、少量の不純物が存在しえる材料について言及していると解釈されることができる。一般に、脂肪族アルコールの純度が高ければ、相変化性も高くなる。純度は、融点や蓄熱性に影響する場合があり、よって、相変化挙動に影響しうる。よって、該材料は、純度85%以上であってもよく、例えば純度90%を超えるもの、純度95%を超えるもの、純度98%を超えるもの、純度99%を超えるもの、純度99.9%を超えるもの、純度99.99%を超えるもの、又は、純度100%などであってもよい。
【0015】
本明細書において、「脂肪族アルコール」という用語は、別途記載がない限り、水酸基を含んだ脂肪酸炭化水素全般を指す。水酸基は、末端に位置していても(つまり、脂肪族アルコールの1位の炭素に結合していても)よく、1位の炭素以外の任意の場所に位置していてもよい。脂肪族アルコールのアルキル部分は、直鎖でもよく、分岐していてもよい。脂肪族アルコールのアルキル部分は、飽和していても、不飽和であってもよい。
【0016】
以下、本発明の様々な好ましい実施形態について説明する。
【0017】
脂肪族アルコールの炭素原子の総数は、炭素数10個から30個の範囲にある。脂肪族アルコールの炭素原子の総数は、奇数でも偶数でもよい。
【0018】
本発明のいくつかの実施形態では、脂肪族アルコールは、直鎖飽和脂肪族アルコールである。「脂肪族アルコール」について上述したように、「直鎖飽和脂肪族アルコール」とは、脂肪族アルコールのアルキル部分が直鎖状で飽和していることを意味する。
【0019】
本発明のいくつかの実施形態では、脂肪族アルコールは、炭素数が10~26個、例えば16~26個(例えば20~24個、例えば22個など)の直鎖飽和脂肪族アルコールである。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態では、脂肪族アルコールは、1-デカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである(例えば、前記飽和直鎖脂肪族アルコールが、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノール、及び、1-ドコサノールからなる群のうちの1つ以上から選択されたものである)。
【0021】
本発明のいくつかの実施形態では、脂肪族アルコールは、1-ドコサノールである。
【0022】
本相変化組成物は、HVACシステムや生活用水用給湯システムにおいて有用でありうる。よって、本発明のいくつかの実施形態では、本組成物の融点は、4~85℃、例えば5~80℃、例えば6~75℃、例えば70℃である。融点の測定は、示差走査熱量測定(DSC)にて行ってもよい。
【0023】
一般に、融解潜熱がより高いということは、相変化材料としての性能がより高い(例えば、熱エネルギー蓄熱性がより高い)ことを意味する。よって、本発明のいくつかの実施形態では、本組成物は、融解潜熱が、100~400J/g、例えば180~300J/g、例えば、291J/gである。融解潜熱(つまり、固体から液体への転移における潜熱)の測定は、示差走査熱量測定(DSC)にて行ってもよい。融解潜熱は、「相変化のエンタルピー」という表現で置き換えることも可能である。
【0024】
疑義を明確にすると、同じ構成に関して多数の数値範囲を本開示では挙げているが、これは、各範囲の終点を任意の順序で組み合わせて、更に考えられる(及び暗黙的に暗示された)数値範囲とすることを明示的に意図している。
【0025】
よって、上記した数値範囲を例にとると、以下のような融解潜熱を有する相変化組成物が開示されていることになる。
100~180J/g、100~291J/g、100~300J/g、100~400J/g;
180~291J/g、180~300J/g、180~400J/g;
291~300J/g、291~400J/g;及び
300~400J/g
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、本組成物は、造核剤、熱安定剤、抗酸化剤、金属不活性化剤、腐食抑制剤、難燃剤、構造化剤、脂肪酸、熱伝導率向上剤、及び、それらの混合物から選択されたさらなる成分を含む。本発明の特定の実施形態では、さらなる成分が、抗酸化剤、構造化剤、難燃剤、及びそれらの混合物から選択されたものである。さらなる成分は、本PCM組成物に可溶性であってもよい。
【0027】
造核剤は、本PCM組成物の過冷却を防止しうる。造核剤は、脂肪酸、脂肪酸アミド、パラフィン、ポリエーテル、及び、これらの混合物から選択されたものであってもよい。造核剤は、ワックスであってもよい。造核剤は、スクワランワックス、ベヘン酸ベヘニル、ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、ステアリン酸アミド、蜜蝋、モンタンワックス、ダイカライト、グラファイト、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、リン酸二水素カリウム、硫酸カルシウム及びそれらの混合物から選択されたものであってもよい。
【0028】
熱安定剤は、PCM組成物が熱によって分解又は異性化することを防止又は遅延させることができうる。熱安定剤は、熱による脂肪酸の分解又は異性化に起因して、低分子量の生成物や異性体が生成されるのを防止又は遅延させることができうる。熱安定剤は、カドミウム塩、鉛塩、アルミニウム塩、チタン塩、アンチモン塩、スズ塩、亜リン酸塩、亜ホスホン酸塩、リン酸エステル及びそれらの混合物から選択されたものであってもよい。
【0029】
酸化防止剤は、PCM組成物の酸化を防止又は遅延させることができうる。特に、酸化防止剤は、脂肪族アルコールと大気酸素又は酸素フリーラジカルとの反応に起因する生成物の生成を防止又は遅延させることができうる。抗酸化剤は、任意の好適な公知の酸化防止剤であってもよい。例えば、酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、フェノール系酸化防止剤、立体障害性フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、芳香族アミン及びそれらの混合物から選択されたものであってもよい。
【0030】
金属不活性化剤は、組成物中に存在している可能性のある触媒活性金属イオンと不活性錯体を形成し得るものである。よって、金属と金属不活性化剤とが錯体化すると、金属がヒドロペルオキシドと会合することが防止される、つまり、酸化又は還元によってヒドロペルオキシドからラジカルを生成する能力を低減させる。金属不活性化剤は、この目的に好適な任意のキレート剤であってもよい。金属不活性化剤は、オキサリルビス(ベンジリデン)ヒドラジン、クエン酸、N,N′-(ジサリシチリデン)-1,2-プロパンジアミン、エチレン-ジアミン四酢酸(EDTA)誘導体、メルカプトベンゾチアゾール類、メルカプトベンズイミダゾール類、チアジアゾール及びトリアゾール誘導体から選択されたものであってもよい。EDTA誘導体の例としては、米国特許第3,497,535号に記載されているものが挙げられる。
【0031】
腐食抑制剤は、それに接触する材料(典型的には金属又は合金)の腐食速度を低下させることができうる。腐食抑制剤は、任意の適切な剤から選択してもよい。
【0032】
難燃剤は、防火目的のために、又はPCM組成物のいくつかの用途における火災安全規則に則り必要とされる場合がある。難燃剤は、ハロゲン化炭化水素、リン酸エステル、酸化アンチモン、及び、それらの混合物から選択されたものであってもよい。難燃剤は、クロロパラフィン、ブロモオクタデカン、ブロモペンタデカン、ブロモノナデカン、ブロモエイコサン、ブロモドコサン、ビス(ペンタブロモフェニル)酸化物、ビス(テトラブロモフェニル)酸化物、トリ(2-クロロエチル)リン酸塩(TCEP)、トリ(2-クロロイソプロピル)リン酸塩(TCPP)及びそれらの混合物から選択されたものであってもよい。
【0033】
構造化剤は、PCM組成物を格納させるのに貢献し得るものである。PCM組成物は、使用時に固体から液体へ、又はその逆に液体から固体へ何度も変化しうるものであり、PCM組成物は、液体のPCMを構造化し、格納し易くし得る。構造化剤は、構造化ポリマー、ゲル化ポリマー、チキソトロピー性ポリマー、及びそれらの混合物から選択されたものであってもよい。構造化剤は、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリアクリレート及び、これらのコポリマー及び混合物から選択されたものであってもよい。
【0034】
後述するように、脂肪族アルコールは、天然原料から得たものであってもよい。そのような実施形態では、脂肪族アルコールと共に、1種類又は複数種類の脂肪酸が少量で存在していてもよい。よって、本発明のいくつかの実施形態では、脂肪酸が存在していてもよい。
【0035】
熱伝導率向上剤は、PCM組成物の熱伝導率を向上させることができうる。任意の適切な、金属粉末、金属コロイド、又は、充填剤を使用することができる。熱伝導率向上剤は、アルミニウム粉末、グラフェン、グラファイト、窒化ホウ素、及び、これらのナノ粒子から選択したものであってもよい。
【0036】
本発明のいくつかの実施形態では、さらなる成分は、0.01~10重量%(例えば、0.1~5重量%)の量で含有されている。
【0037】
本明細書に記載の化学物質(例えば、脂肪族アルコール)は、天然原料及び/又は石油化学原料から得てもよい。そのような化学物質は、典型的には化学種の混合物を含む。このような混合物が存在し得るので、本明細書で定義されるパラメータは、平均値であってもよく、整数でなくてもよい。
【0038】
これらの化合物は、本明細書では、それらの系統的な名称(例えば、1-ドコサノール)で言及される場合も、それらの等価な慣用名や商品名(例えば、ベヘニルアルコール)によって言及される場合もある。
【0039】
本発明の第2の態様では、格納部(container)と、前記格納部内に格納された上記の相変化材料組成物とを備えた相変化材料製品が提供される。
【0040】
格納部は、任意の適切な材料からなるものであってもよい。適切な材料の一例としては、金属が挙げられる。特定の実施形態では、格納部は、鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウム、及び、これらの合金から選択された金属製であってもよい。
【0041】
代替的な実施形態において、相変化材料製品の動作温度が40℃未満である場合、格納部はプラスチック製であってもよい。格納部は、ポリアミド、ポリアミン、ポリイミド、ポリアクリル酸、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエポキシド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリフルオロカーボン、ホルムアルデヒドポリマー、天然ポリマー、ポリオレフィン、フッ素化ポリオレフィン、ポリフェニレン、ケイ素含有ポリマー、ポリウレタン、ポリビニル、ポリアセタール、ポリアクリレート、並びに、これらのコポリマー及びこれらの混合物から選択されたプラスチック製であってもよい。特定の実施形態では、格納部は、高密度のポリエチレン及びポリプロピレンから選択されたプラスチック製であってもよい。
【0042】
格納部は、剛性であっても可撓性であってもよい。格納部は、チューブ、ロッド、パウチ、又はパネルであってもよく、例えばパウチ、又はパネルであってもよい。
【0043】
いくつかの実施形態では、格納部は、PCM組成物を空気や水から保護するのに有用であり得る。この目的のために、格納部は密閉されていてもよい(例えば、気密的に密閉されていてもよい)。
【0044】
製品は、熱交換部(heat exchanger)を更に備えてもよい。熱交換部は、PCM組成物と環境との間の熱エネルギーの交換を可能にし得る。熱交換部は、この目的に好適な任意の材料からなるものあってもよい。例えば、熱交換部は、鋼、アルミニウム、チタン、マグネシウム、銅、及び、これらの合金から選択された金属からなるものであってもよい。いくつかの実施形態では、熱交換部は、プレート式熱交換部又はスパイラル式熱交換部である。
【0045】
いくつかの実施形態では、上記のような相変化材料製品を備えた製品又はシステムが提供される。いくつかの実施形態では、製品又はシステムは、布、発泡体、医療装置、電子製品、包装材、建設資材、冷蔵/冷凍システム、給湯システム、及び暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システムから選択されたものであり、任意に、給湯システム(例えば、生活用水用給湯システム)、又は、空調制御(HVAC)システムである。
【0046】
本開示に記載の相変化組成物は、熱エネルギーの吸収や放出を行う。したがって、本発明の第3の態様では、環境の温度を調節する方法であって、
(a)環境に、任意の量の上記の相変化材料組成物を設ける工程と、
(b)前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動によって前記相変化材料組成物中への熱エネルギーの貯蔵と、前記相変化材料組成物中の熱エネルギーの放出を行い、任意の期間にわたって環境における温度を調節する工程と、を含む方法を開示する。
【0047】
本方法における相変化材料組成物の使用量は、用途に適切な量であればよい。例えば、相変化材料組成物を0.01g~100kgの範囲(例えば20kg)の量で備えてもよい。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態において、前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、衛生水システム及び/又は空調制御(HVAC)システムの温度調節を行う。
【0049】
本方法は、環境の温度をある時間にわたって調節することを可能にする。本発明のいくつかの実施形態において、前記任意の期間は、1分間から7日間、例えば、5分間から3日間、例えば10分間から1時間(例えば20分間)である。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態において、前記環境と前記相変化材料組成物との間の熱エネルギーの移動を利用して、環境内に位置する高温感受性又は低温感受性物質の温度調節を行う。本発明のいくつかの実施形態では、前記高温感受性又は低温感受性物質は液体及び固体から選択されたものである。本発明の特定の実施形態では、前記高温感受性又は低温感受性物質は水である(例えば、衛生水)。
【0051】
本発明の第4の態様において、衛生水システム用及び/又は暖房、換気、空調を行う空調制御(HVAC)システム用の温度調節媒体としての炭素数が10~30個の脂肪族アルコールの使用が提供される。脂肪族アルコール(例えば、1-ドコサノール)は、上述したように相変化材料組成物に含有されてもよい。
【0052】
本相変化組成物は、炭素数10~26個の直鎖飽和脂肪族アルコールを含んでいてもよい。よって、本発明の相変化材料組成物及び製品は、従来のパラフィンベースの相変化組成物及び非パラフィンベースの相変化組成物の以下に挙げる利点を組み合わせて有する。
-高純度グレード(つまり、純度>98%)の脂肪族アルコールは、一般的に、有機PCMよりも安価である。
-相変化材料を組み込んだシステムに一般に使用される材料との適合性が良好である。
-再生可能な原料から生産することが可能である。
【0053】
特に、本発明の相変化材料組成物と製品は、他の有機PCMと比較して、以下のような効果を奏する。
-炭素数が同じである直鎖パラフィンと比較して発火点が高いので、より安全な材料である。
-酸化剤に対して比較的安定である。
-炭素数が同じ他の有機PCM(例えば、飽和直鎖脂肪酸)と比較して、エンタルピー、又は融解潜熱などが高く、蓄熱性が向上している。
-空調制御システムや生活用水用給湯などの様々な用途に有用な幅広い範囲の融点(例えば、6~85℃)をカバーする。
【0054】
本開示にて記載されている構成のいずれか若しくは全て、及び/又は、本明細書に記載の任意の方法の工程のいずれか若しくは全ては、本発明の任意の態様にて使用され得るものである。
【0055】
以下、本発明の更なる詳細を以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【実施例
【0056】
材料及び方法
各材料は、以下のように供給元より購入した。
・1-デカノール(CAS 112-30-1、純度98%、液体)
・1-ドデカノール(CAS 112-53-8、純度99%、固体)
・1-トリデカノール(CAS 112-70-9、純度97%、固体)
・1-テトラデカノール(CAS 112-72-1、純度97%、固体)
・1-ペンタデカノール(CAS 629-76-5、純度99%、固体)
・1-ヘキサデカノール(CAS 36653-82-4、純度98%、固体)
・1-オクタデカノール(CAS 112-92-5、純度98%、固体)
・1-ドコサノール(CAS 661-19-8、純度98%、固体)
【0057】
本明細書に記載されている全ての試験手順及び物理的パラメータは、本明細書に別途記載されていない限り、又は、参照された試験方法及び試験手順において別途記載されていない限り、大気圧下で測定されたものである。すべての部やパーセンテージは、別途記載がない限り、重量に基づくものである。
【0058】
共通手順1:脂肪族アルコールの示差走査熱量分析
示差走査熱量測定(DSC)を、TAインスツルメント社製Q2000を用い、5K/分の流量の窒素ガス流の下、気密に密閉されたアルミニウム製容器にて実施した。6~10mgの試料を用い、加熱速度を5℃/分とした。本試験では、受領した脂肪族アルコールをそのまま用いた。収集したデータは、「ユニバーサルアナリシス2000」ソフトウェアにて分析した。
【0059】
これらの材料のDSCデータを表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表2は、直鎖脂肪族アルコールの融解潜熱と、炭素数が同じ脂肪酸の利用可能なデータ(International Journal of Green Energy, 第1巻, 2005年 - 第4号)とを比較したものである。
【0062】
【表2】
【0063】
表3は、直鎖脂肪族アルコールの融解潜熱と、炭素数が同じ直鎖アルカン類の利用可能なデータ(Energy Sources, 第16巻, 1994年 - 第1号)とを比較したものである。
【0064】
【表3】
【0065】
表2及び表3から明らかなように、直鎖脂肪族アルコールは、炭素数が同じアルカン類又は脂肪酸と比較して、常により高い融解潜熱を有する。
【0066】
実施例1:ドコサノールのPCMとしての使用についての実験室スケールでの検証
試験を行い、ドコサノールの性能を市販のPCM(比較例)と比較した。比較例のPCMは、融点が70℃と近いバイオPCMエステルである。そのエステル構造に関する情報は入手できなかった。
【0067】
DSCデータ
試験は、共通手順1に従って行われた。図1に示すように、市販のPCMと比較して、ドコサヘキサノールは16%高い潜熱を提供する。また、1-ドコサヘキサノールは、加熱時又は冷却時における約70℃の相変化温度を安定的に維持し、過冷却がない、若しくは、過冷却が無視できるほどであることを示した。
図1
【国際調査報告】