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特表2024-523337遠隔操作ロボット手術システムにおける遠隔操作準備方法および関連システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】遠隔操作ロボット手術システムにおける遠隔操作準備方法および関連システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 34/35 20160101AFI20240621BHJP
【FI】
A61B34/35
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577517
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 IB2022055572
(87)【国際公開番号】W WO2022264075
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】102021000015902
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518132307
【氏名又は名称】メディカル・マイクロインストゥルメンツ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL MICROINSTRUMENTS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】タンツィーニ,マッテオ
(72)【発明者】
【氏名】プロクター,マイケル ジョン
(72)【発明者】
【氏名】プリスコ,ジュゼッペ マリア
(72)【発明者】
【氏名】シミ,マッシミリアーノ
【テーマコード(参考)】
4C130
【Fターム(参考)】
4C130AA04
4C130AB01
4C130AB10
(57)【要約】
システムが遠隔操作を行っていない非操作ステップ中に実行される、遠隔操作ロボット手術システム1における遠隔操作準備の方法である。この方法が適用されるロボットシステム1は、複数の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16と、少なくとも1つの手術器具20とを含む。手術器具20はさらに、少なくとも1つの自由度(P、Y、G)を有する関節式エンドエフェクタ40を有する。手術器具20は、電動アクチュエータおよびエンドエフェクタ40のそれぞれのリンク(または剛性接続要素)の両方に作動的に接続または連結可能であるように、前述の手術器具20に取り付けられた少なくとも一対の拮抗腱(31、32)、(33、34)、(35、36)をさらに含む。前述の一対の拮抗腱の腱は、前述の少なくとも1つの自由度P、Y、Gのうち、それに関連する少なくとも1つの自由度を作動/実施するように構成され、その結果、拮抗効果が決定される。本方法は、以下のステップを含む:(i)ロボットシステム1の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の一連の動きと、手術器具20の関節式エンドエフェクタ40のそれぞれの動きとの間の一義的な相関関係を確立するステップと、(ii)順に以下を含む保持ステップを実行するステップ: - 腱の負荷状態を決定するように適合された保持力Fholdを腱に加えることによって、少なくとも一対の拮抗腱(31、32)、(33、34)、(35、36)に引張応力をかけて、そのような腱を引張応力をかけた状態に保持するステップであって、前述の応力をかけるステップは、電動アクチュエータによって決定され、遠隔操作に入る意志を示すコマンドが提供され、手術器具20が遠隔操作状態に入ることを可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムが遠隔操作を行っていない非操作ステップ中に実行される、遠隔操作ロボット手術システム(1)における遠隔操作準備の方法であって、
ロボットシステム(1)は、複数の電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)と、少なくとも1つの手術器具(20)とを含み、
少なくとも1つの手術器具(20)は、
- 少なくとも1つの自由度(P、Y、G)を有する関節式エンドエフェクタ(40)と、
- それぞれの電動アクチュエータおよびエンドエフェクタ(40)のそれぞれのリンクの両方に作動的に連結可能であるように、手術器具(20)に取り付けられた少なくとも一対の拮抗腱(31、32;33、34;35、36)と、を含み、少なくとも1つの自由度(P、Y、G)のうち、それに関連する少なくとも1つの自由度を作動させて、その結果、拮抗効果が決定され、
方法は、
(i)ロボットシステム(1)の電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の一連の動きと、手術器具(20)の関節式エンドエフェクタ(40)のそれぞれの動きとの間の一義的な相関関係を確立するステップと、
(ii)以下を含む保持ステップを実行するステップと、を含み、
保持ステップは、
- 保持力(Fhold)を腱に加えることによって、少なくとも一対の拮抗腱(31、32;33、34;35、36)に引張応力をかけて、腱を引張応力がかかった状態に保持するステップであって、保持力(Fhold)は、腱の負荷状態を決定するように適合されステップと、
- 遠隔操作に入る意志を示すコマンドを提供するステップと、
- 手術器具(20)が遠隔操作状態に入ることを可能にするステップと、を含む、
方法。
【請求項2】
ステップ(i)-(ii)のあと、
(iii)ロボットシステム(1)の手術器具(20)によって遠隔操作をするステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
保持ステップ(ii)と遠隔操作ステップ(iii)が繰り返され、2つの隣接する遠隔操作ステップ(iii)の間に保持ステップ(ii)が実行される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
手術器具(20)が、
各々がそれぞれの少なくとも1つの電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)と作動可能に接続可能な複数の伝達要素(21、22、23、24、25、26)をさらに含み、
応力付与ステップは、それぞれの電動アクチュエータによって作動および制御される伝達要素(21、22、23、24、25、26)によって実行され、
伝達要素は好ましくは剛性である、
請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の運動学的ゼロ位置が定義され、
方法は、
少なくとも一対の拮抗腱に応力を与えるステップの後の保持ステップ(ii)の間に、それぞれの記憶された運動学的ゼロ位置に対する電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の可能な位置オフセットを記憶するさらなるステップを含む、
請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
保持ステップ(ii)の間、少なくとも一対の拮抗腱に応力を与えるステップは、少なくとも1回の負荷および負荷解除サイクルを含み、各負荷サイクルおよび負荷解除サイクルは、一対の腱の負荷状態を決定するために高力値(Fhold)を加えるステップと、一対の腱の負荷解除状態を決定するために低力値(Flow)を加えるステップとを含み、
高力値は保持力(Fhold)に対応し、そのような低力値(Flow)は保持力(Fhold)よりも低い力である、
請求項1~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
負荷および負荷解除サイクルの各々において、まず低力値(Flow)が加えられ、次に高力値または保持力(Fhold)が加えられる、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
保持ステップ(ii)の間、遠隔操作に移行する意志を示すコマンドを提供するステップと遠隔操作状態への移行を可能にするステップとの間に、負荷および負荷解除サイクルの無負荷状態に従って腱に引張応力を与えるように、低力値(Flow)を腱に加えるステップがさらに設けられる、
請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
- 遠隔操作ステップから出たときに全ての腱に加えられた力を検出するステップと、
- 検出された力のうち最小力値(Fmin)を特定するステップと、
- 全ての腱を最小力値(Fmin)に対応する中間応力状態にするステップと、をさらに含み、
好ましくは、
- すべての腱を、低力値(Flow)に対応する無負荷応力状態にする後続ステップ、
および/または、
- すべての腱を、高い保持力(Fhold)に対応する負荷応力状態にする後続ステップをさらに含む、
請求項6~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
すべての腱を最小力値(Fmin)に対応する中間応力状態にするステップは、各腱について検出された開始力値の関数として、各腱について特定の、および/または異なる負荷の、および/または負荷解除曲線に従って実行される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
保持力(Fhold)を腱に加えるステップは、
- すべての腱を最小力値(Fmin)に対応する中間応力状態にし、各腱をそれぞれの検出された開始力値に依存するそれぞれの特定の負荷曲線に従って、負荷が1つまたは複数の対の拮抗腱の拮抗腱間で均等に分配されるようにするステップと、
- 次に、すべての腱を、保持力(Fhold)に対応する負荷応力状態にするステップと、を含む、
請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
遠隔操作ステップは、高保持力(Fhold)よりも低い、腱に加えられる予め決定可能な遠隔操作開始力(Fwork)から始まり、
予め決定可能な遠隔操作開始力は、低保持力(Flow)に実質的に等しく、
高保持力(Fhold)と遠隔操作開始力との間の移行は、好ましくは、制御ペダルを作動させることによって使用者によって制御される、
請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
腱に応力を与えるステップは、
負荷サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、
検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順を介して、電動アクチュエータによって、保持力値(Fhold)に到達するステップと、を含む、
請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
腱に応力を与えるステップは、
負荷解除サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、
検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順を介して、電動アクチュエータによって、低力値(Flow)に到達するステップと、を含む、
請求項5~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項15】
腱に応力を与えるステップは、
前の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の位置オフセットを測定または検出するステップと、
検出または測定または記憶された位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順を介して、電動アクチュエータによって、負荷サイクルを実行するステップと、を含む、
請求項1~12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項16】
腱に応力を与えるステップは、
前の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の位置オフセットを測定または検出するステップと、
検出または測定または記憶された位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順を介して、電動アクチュエータによって、負荷解除サイクルを実行するステップと、を含む、
請求項6~12および15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項17】
保持ステップ(ii)の間、少なくとも一対の腱は、手術器具(20)のエンドエフェクタ(40)の把持動作に対応する負荷状態によって応力をかけられ、保持ステップの間、手術器具は把持状態にある、
請求項3に記載の方法。
【請求項18】
負荷および負荷解除サイクルを含むステップ(ii)は、把持自由度の作動に関与しない腱のサブセットに対してのみ実行される、
請求項5~15のいずれか1つに記載の方法。
【請求項19】
ロボットシステム(1)は、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)を制御して、好ましくは動作可能にそれぞれの件に連結した伝達要素(21、22、23、24、25、26)によって、制御された動きを与え、制御された力を腱に加えるように構成された制御手段(9)を含む、
請求項1~18のいずれか1つに記載の方法。
【請求項20】
電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の運動学的ゼロ位置が定義され、本方法がロボットシステム(1)の2つの遠隔操作期間の間の非操作ステップに適用され、非操作ステップの開始時に、方法は、
- 手術器具(20)のエンドエフェクタ(40)の既知の運動学的位置として、伝達要素(POSkin-off)の各々の既知の運動学的位置が対応する運動学的ゼロ位置を基準として、エンドエフェクタ(40)が前の遠隔操作ステップの終了時にある位置を記憶するステップと、
- 電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)を引き込むステップであって、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)について、前の遠隔操作ステップで生成されたそれぞれの位置オフセットを取り除くステップと、
- 各伝達要素(21、22、23、24、25、26)に各再較正力(F)の印加による各位置オフセット(POSFC(t))を決定するように、再較正力(F)を一定に保つように構成されたフィードバック制御によって、手術器具の非操作ステップの間中、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)に各再較正力(F)を印加し続けるステップと、
を含み、
非操作ステップの終了時、次の遠隔操作ステップの開始時に、方法はさらに、
- 各伝達要素(21、22、23、24、25、26)への再較正力(F)の印加を停止するステップと、
- 終了したばかりの非操作ステップ中の再較正力の印加に続いて、非操作ステップの終了時に各伝達要素(21、22、23、24、25、26)上で決定された位置オフセット(POSFC-off)を測定して記憶し、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)について記録された位置オフセット(POSFC-off)を、エンドエフェクタ(40)の既知の運動学的位置に関連付けるステップと、
- 制御手段(9)によって指令された操作力および移動力を加えるステップであって、制御手段(9)は、操作者の指令に基づいて、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)の記憶された位置オフセット(POSFC-off)を考慮して制御力を決定するように構成されているステップと、
を含む、
請求項19に記載の方法。
【請求項21】
再較正力(F)は保持力(Fhold)に対応する、
請求項20に記載の方法。
【請求項22】
各伝達要素に再較正力を加えるステップは、フィードバックループによって伝達要素に力を加えるステップを含み、
フィードバック信号は、伝達要素に作動的に接続可能なそれぞれの力センサによって実際に検出された伝達要素に加えられた力に対応する、
請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
運動学的ゼロ位置は、手術器具を使用する前に行われる、手術器具を予備調整するさらなるステップから生じる固定オフセット(Prestretchoff)を含む、
請求項20~22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
予備調整ステップは、
(i)エンドエフェクタ(40)の少なくとも1つの自由度(P、Y、G)の少なくとも1つの自由度をロックするステップと、
(ii)少なくとも1つのロックされた自由度に作動的に接続されたそれぞれの少なくとも1つの腱に、少なくとも1つの時間サイクルに従って、引張応力が加えられるそれぞれの腱に接続されたそれぞれの伝達要素(21、22、23、24、25、26)に調整力(Fref)を加えることによって、引張応力を加えるステップと、
を含み、
少なくとも1つの時間サイクルは、
少なくとも1つの低負荷期間を含み、この低負荷期間では、伝達要素に低い調整力(Flow)が加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ低い引張負荷がかかり、
少なくとも1つの時間サイクルはまた、
少なくとも1つの高負荷期間を含み、この高負荷期間では、伝達要素に高い調整力(Fhigh)が加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ高い引張負荷がかかる、
請求項1~23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
複数の時間サイクルが設けられ、少なくとも2つの隣接する時間サイクルにおいて、高い調整力(Fhigh)のそれぞれの値が増大する、
請求項24に記載の方法。
【請求項26】
複数のN個の時間サイクルが提供され、連続する低負荷期間と高負荷期間の間の交替を決定し、
n番目のサイクルの低負荷期間中にそれぞれの低調整力(Flow_n)が適用され、
n番目のサイクルの高負荷期間中にそれぞれの高調整力(Fhigh_n)が適用され、
異なる時間サイクルの低調整力(Flow_n)は、同じ所定の低調整力(Flow)に対応し、高調整力(Fhigh_n)は、最大高力値(Fhigh_max)に達するまで、徐々に増加する高調整力値に対応する、
請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
電動アクチュエータを引き込ませるステップは、移送システムのさらに可能な補償ステップによって生成された位置オフセットを除去するステップを含む、
請求項21~26のいずれか1つに記載の方法。
【請求項28】
保持力(Fhold)、および/または再較正力(F)は、0.1~5Nの範囲にある、
請求項1~27のいずれか1つに記載の方法。
【請求項29】
位置オフセットは、最大許容位置オフセット(dxA)よりも小さくなければならず、
好ましくは、最大許容位置オフセット(dxA)は、1~5mmの範囲内にある、
請求項1~28のいずれか1つに記載の方法。
【請求項30】
複数の電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)と、少なくとも1つの手術器具(20)と、制御手段(9)とを含む遠隔操作ロボット手術システム(1)であって、
少なくとも1つの手術器具(20)は、
- 少なくとも1つの自由度(P、Y、G)を有する関節式端部エフェクタ装置(40)と、
- それぞれの電動アクチュエータおよびエンドエフェクタ(40)のそれぞれのリンクの両方に作動的に連結可能であるように、手術器具(20)に取り付けられた少なくとも一対の拮抗腱(31、32;33、34;35、36)と、を含み、少なくとも1つの自由度(P、Y、G)のうち、それに関連する少なくとも1つの自由度を作動させて、その結果、拮抗効果が決定され、
制御手段(9)は、次のステップ(i)および(ii)の動作の実行を制御するように構成され、すなわち、
(i)ロボットシステム(1)の電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の一連の動きと、手術器具(20)の関節式エンドエフェクタ(40)のそれぞれの動きとの間の一義的な相関関係を確立するステップと、
(ii)以下を含む保持ステップを実行するステップと、であり、
保持ステップとは、
- 保持力(Fhold)を腱に加えることによって、少なくとも一対の拮抗腱(31、32;33、34;35、36)に引張応力をかけて、腱に引張応力がかけられた状態に保持するステップであって、保持力(Fhold)は、腱の負荷状態を決定するように適合されステップと、
- 遠隔操作に入る意志を示すコマンドを受けると、手術器具(20)が遠隔操作状態に入ることを可能にするステップと、を含む、
遠隔操作ロボット手術システム(1)。
【請求項31】
ステップ(i)-(ii)のあと、
(iii)ロボットシステム(1)の手術器具(20)によって遠隔操作をするステップを含み、
保持ステップ(ii)と遠隔操作ステップ(iii)が繰り返され、2つの隣接する遠隔操作ステップ(iii)の間に保持ステップ(ii)が実行される、
請求項30に記載のシステム(1)。
【請求項32】
手術器具(20)が、
それぞれの少なくとも1つの電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)と作動可能に各々が接続可能な複数の伝達要素(21、22、23、24、25、26)をさらに含み、
伝達要素(21、22、23、24、25、26)は、それぞれの電動アクチュエータによって作動および制御され、応力付与ステップを実行するように構成され、
伝達要素は好ましくは剛性である、
請求項30または31に記載のシステム(1)。
【請求項33】
電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の運動学的ゼロ位置が定義され、
制御手段(9)は、少なくとも一対の拮抗腱に応力を与えるステップの後の保持ステップ(ii)の間に、それぞれの記憶された運動学的ゼロ位置に対する電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の可能な位置オフセットを記憶するさらなる動作を実行するようにさらに構成される、
請求項30~32のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項34】
保持ステップ(ii)の間、少なくとも一対の拮抗腱に応力を与える動作は、少なくとも1回の負荷および負荷解除サイクルを含み、各負荷サイクルおよび負荷解除サイクルは、一対の腱の負荷状態を決定するために高力値(Fhold)を加えるステップと、一対の腱の負荷解除状態を決定するために低力値(Flow)を加えるステップとを含み、
高力値は保持力(Fhold)に対応し、そのような低力値(Flow)は保持力(Fhold)よりも低い力であり、
負荷および負荷解除サイクルの各々において、まず低負荷(Flow)が加えられ、次に高負荷または保持力(Fhold)が加えられる、
請求項30~33のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項35】
保持ステップ(ii)の間、遠隔操作に移行する意志を示すコマンドを提供するステップと遠隔操作状態への移行を可能にするステップとの間に、制御手段(9)は、負荷および負荷解除サイクルの無負荷状態に従って腱に引張応力を与えるように、低力値(Flow)を腱に加えるさらなるステップを実行するようにさらに構成される、
請求項34に記載のシステム(1)。
【請求項36】
制御手段(9)は、
- 遠隔操作ステップから出たときに全ての腱に加えられた力を検出するステップと、
- 検出された力のうち最小力値(Fmin)を特定するステップと、
- 各腱について検出された開始力値の関数として、各腱について特定の、および/または異なる負荷の、および/または負荷解除曲線に従って、全ての腱を最小力値(Fmin)に対応する中間応力状態にするステップと、
のさらなるステップを実行するようにさらに構成され、
好ましくは、
- すべての腱を、低力値(Flow)に対応する無負荷応力状態にする後続ステップ、
および/または、
- すべての腱を、高保持力(Fhold)に対応する負荷応力状態にする後続ステップと、のステップをさらに実行する、
請求項34または35に記載のシステム(1)。
【請求項37】
制御手段(9)は、
保持力(Fhold)を腱に加えるステップの間に、
- すべての腱を最小力値(Fmin)に対応する中間応力状態にし、各腱をそれぞれの検出された開始力値に依存するそれぞれの特定の負荷曲線に従って、負荷が1つまたは複数の対の拮抗腱の拮抗腱間で均等に分配されるようにするステップと、
- 次に、すべての腱を、保持力(Fhold)に対応する負荷応力状態にするステップと、
を実行するように構成される、
請求項36に記載のシステム(1)。
【請求項38】
高保持力値(Fhold)よりも低い、腱に加えられる予め決定可能な遠隔操作開始力(Fwork)で遠隔操作を始めるように構成され、
予め決定可能な遠隔操作開始力は、低保持力(Flow)に実質的に等しく、
高保持力(Fhold)と遠隔操作開始力との間の移行は、好ましくは、制御ペダルを作動させることによって使用者によって制御される、
請求項30~37のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項39】
腱に応力を与えるステップは、
負荷サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、
検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順を介して、電動アクチュエータによって、保持力値(Fhold)に到達するステップと、を含み、
および/または、
腱に応力を与えるステップは、
負荷解除サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、
検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順を介して、電動アクチュエータによって、低力値(Flow)に到達するステップと、を含み、
および/または、
腱に応力を与えるステップは、
前の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の位置オフセットを測定または検出するステップと、
検出または測定または記憶された位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順を介して、電動アクチュエータによって、負荷サイクルを実行するステップと、を含み、
および/または、
腱に応力を与えるステップは、
前の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の位置オフセットを測定または検出するステップと、
検出または測定または記憶された位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順を介して、電動アクチュエータによって、負荷解除サイクルを実行するステップと、を含む、
請求項30~38のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項40】
制御手段(9)は、電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)を制御して、好ましくは動作可能にそれぞれの件に連結した伝達要素(21、22、23、24、25、26)によって、制御された動きを与え、制御された力を腱に加えるように構成された、
請求項30~39のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項41】
電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)の各々の運動学的ゼロ位置が定義され、本方法がロボットシステム(1)の2つの遠隔操作期間の間の非操作ステップに適用され、
制御手段(9)は、非操作ステップの開始時に、
- 手術器具(20)のエンドエフェクタ(40)の既知の運動学的位置として、伝達要素(POSkin-off)の各々の既知の運動学的位置が対応する運動学的ゼロ位置を基準として、エンドエフェクタ(40)が前の遠隔操作ステップの終了時にある位置を記憶するステップと、
- 電動アクチュエータ(11、12、13、14、15、16)を引き込むステップであって、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)について、前の遠隔操作ステップで生成されたそれぞれの位置オフセットを取り除くステップと、
- 各伝達要素(21、22、23、24、25、26)に各再較正力(F)の印加による各位置オフセット(POSFC(t))を決定するように、再較正力(F)を一定に保つように構成されたフィードバック制御によって、手術器具の非操作ステップの間中、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)に各再較正力(F)を印加し続けるステップと、
のさらなるステップを実行するように構成され、
制御手段(9)は、非操作ステップの終了時、次の遠隔操作ステップの開始時に、
- 各伝達要素(21、22、23、24、25、26)への再較正力(F)の印加を停止するステップと、
- 終了したばかりの非操作ステップ中の再較正力の印加に続いて、非操作ステップの終了時に各伝達要素(21、22、23、24、25、26)上で決定された位置オフセット(POSFC-off)を測定して記憶し、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)について記録された位置オフセット(POSFC-off)を、エンドエフェクタ(40)の既知の運動学的位置に関連付けるステップと、
- 制御手段(9)によって指令された操作力および移動力を加えるステップであって、制御手段(9)は、操作者の指令に基づいて、各伝達要素(21、22、23、24、25、26)の記憶された位置オフセット(POSFC-off)を考慮して制御力を決定するように構成されているステップと、
のさらなる動作を実行するように構成される、
請求項40に記載のシステム(1)。
【請求項42】
再較正力(F)は保持力(Fhold)に対応し、
および/または、
各伝達要素に再較正力を加えるステップは、フィードバックループによって伝達要素に力を加えるステップを含み、
フィードバック信号は、伝達要素に作動的に接続可能なそれぞれの力センサによって実際に検出された伝達要素に加えられた力に対応し、
および/または、
運動学的ゼロ位置は、手術器具を使用する前に行われる、手術器具を予備調整するさらなるステップから生じる固定オフセット(Prestretchoff)を含む、
請求項41に記載のシステム(1)。
【請求項43】
制御手段(9)は、予備調整ステップを制御するように構成され、
予備調整ステップは、
(i)エンドエフェクタ(40)の少なくとも1つの自由度(P、Y、G)の少なくとも1つの自由度をロックするステップと、
(ii)少なくとも1つのロックされた自由度に作動的に接続されたそれぞれの少なくとも1つの腱に、少なくとも1つの時間サイクルに従って、引張応力が加えられるそれぞれの腱に接続されたそれぞれの伝達要素(21、22、23、24、25、26)に調整力(Fref)を加えることによって、引張応力を加えるステップと、
を含み、
少なくとも1つの時間サイクルは、
少なくとも1つの低負荷期間を含み、この低負荷期間では、伝達要素に低い調整力(Flow)が加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ低い引張負荷がかかり、
少なくとも1つの時間サイクルはまた、
少なくとも1つの高負荷期間を含み、この高負荷期間では、伝達要素に高い調整力(Fhigh)が加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ高い引張負荷がかかる、
請求項30~42のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項44】
複数の時間サイクルが設けられ、少なくとも2つの隣接する時間サイクルにおいて、高い調整力(Fhigh)のそれぞれの値が増大する、
請求項43に記載のシステム(1)。
【請求項45】
複数のN個の時間サイクルが提供され、連続する低負荷期間と高負荷期間の間の交替を決定し、
n番目のサイクルの低負荷期間中にそれぞれの低調整力(Flow_n)が適用され、
n番目のサイクルの高負荷期間中にそれぞれの高調整力(Fhigh_n)が適用され、
異なる時間サイクルの低調整力(Flow_n)は、同じ所定の低調整力値(Flow)に対応し、高調整力(Fhigh_n)は、最大高力値(Fhigh_max)に達するまで、徐々に増加する高調整力値に対応する、
請求項43または44に記載のシステム(1)。
【請求項46】
電動アクチュエータを引き込ませるステップは、移送システムのさらに可能な補償ステップによって生成された位置オフセットを除去するステップを含む、
請求項41~45のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項47】
保持力(Fhold)、および/または再較正力(F)は、0.1~5Nの範囲にある、
請求項30~46のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項48】
位置オフセットは、最大許容位置オフセット(dxA)よりも小さくなければならず、
好ましくは、最大許容位置オフセット(dxA)は、1~5mmの範囲内にある、
請求項30~47のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【請求項49】
腱が、編み合わせたポリマ繊維で作られるポリマ腱である、
請求項30~48のいずれか1つに記載のシステム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔操作ロボット手術システムにおける遠隔操作準備方法および関連するロボットシステムに関する。
【0002】
したがって、本明細書は、より一般的には、遠隔手術用ロボットシステムの操作制御の技術分野に関する。
【背景技術】
【0003】
遠隔操作ロボット手術システムでは、スレーブ手術器具(slave surgical instrument)の自由度の1つ以上の作動は、一般に、外科医によって付与されたコマンドを受け取るように構成された1つ以上のマスター制御装置(master control device)に隷属させられる。このようなマスター・スレーブ制御アーキテクチャは、典型的には、ロボット手術ロボット内に収容可能な制御装置を含む。
【0004】
ロボット手術システム用の既知のヒンジ式/関節式(articulated)手術器具は、例えば、同じ出願人の名義の文書WO2017-064301およびWO2018-189729に示されているように、患者の解剖学的構造に対する手術および/または手術針の取り扱いを意図した手術器具の先端に遠位側で、手術器具のバックエンド部分(作動インタフェース)に作動可能に接続された、アクチュエータからの運動を伝達するための作動腱(actuation tendons)またはケーブルを含む。かかる文献は、一対の拮抗腱(antagonistic tendons)が、手術器具と同じ自由度を実装するように構成される解決策を開示している。例えば、手術器具の回転関節(ピッチの自由度及びヨーの自由度)は、前述の一対の拮抗腱によって加えられる引張力を加えることによって制御される。
【0005】
例えば、文献WO2014-070980には、ウインチを有するバックエンド部分を有する手術器具が示されており、このウインチの周囲には、手術器具の自由度の拮抗する2つの運動腱(movement tendons)の両方が反対方向に巻かれている。予圧ばねは、腱を張った状態に保つための弾性的な影響作用を及ぼす。
【0006】
さらに、WO2010-009221に示されているように、二対の腱のみが手術器具の3自由度を制御するように構成されているように、同じ腱対が同時に1自由度以上の自由度を作動させることができる手術器具も知られている。
【0007】
一般に、ロボット手術用の腱は、金属コード(またはストランド)の形で作られ、手術器具に沿って取り付けられたプーリーに巻かれている。各腱は、アクチュエータによって作動されたときに手術器具の自由度の迅速な作動応答を提供し、その結果、手術器具の自由度に対する良好な制御を提供するために、各腱が常に引張状態になるように、既に弾性的に予負荷をかけられた器具、すなわち、器具に組み付ける前に予め調整された器具に取り付けることができる。
【0008】
一般論として、すべてのコードは負荷を受けると伸長する。絡み合わせ(intertwine)タイプの新しいコードは、少なくとも部分的にはコードを形成する繊維のほつれにより、負荷を受けると塑性弾性(plastic-elastic)の高い伸びを示すのが一般的である。
【0009】
このため、手術器具に組み付ける前に、新しい腱に高い初期負荷をかけ、引き抜きや絡み合わせの過程や素材自体に残存する可塑性を除去するのが一般的である。
【0010】
一般的に、コードには通常3つの伸長要素がある:
(1)弾性伸長変形、これは引張負荷が停止したときに回復する;
(2)回復可能な変形、すなわち、ある一定の時間をかけて徐々に回復する比較的小さな変形で、絡み合いの性質の関数であることが多く、回復には、負荷を受けない場合には数時間から数日の期間を要する;
(3)回復不可能な永久伸び変形。
【0011】
上述したような永久伸び変形は、器具に組み付ける前に行うコード慣らし手順によって達成することができ、この慣らし手順は、負荷および負荷解除(loading and unloading)サイクルを含み、繊維自体の塑性的な伸び変形を伴うことができる。
【0012】
引張負荷下での粘性クリープ変形は、疲労を受けると、いくつかのタイプの絡み合ったコードに影響を及ぼす時間依存性の効果であり、一般に加えられる負荷の強さによって回復可能な場合と回復不可能な場合がある。
【0013】
一般に、ポリマ繊維の疲労挙動は金属繊維の疲労挙動とは異なり、ポリマ繊維は金属繊維のように亀裂伝播による破壊を受けないが、繰り返し負荷によって別の形態の破壊につながる可能性がある。
【0014】
同出願人名義のWO2017-064306は、ロボット手術用の極めて小型化された手術器具の解決策を示しており、この手術器具は、大きい曲率半径に適応すると同時に、手術器具のヒンジ式/関節式先端部を形成する、一般に「リンク」と呼ばれる剛性要素の表面上を摺動するように適合された腱を使用している。このような腱の摺動を可能にするためには、腱とリンクの摺動摩擦係数をできる限り低く保つ必要があり、上述の文献では、(鋼鉄製の腱を使用するのではなく)ポリマ繊維で形成された腱を使用することを教示している。
【0015】
多くの観点から有利であり、実際、ポリマ繊維によって形成された前述の腱を使用することによって手術器具の極端な小型化が得られるという事実の結果として、この解決策に関しては、長さの同じ変化では、サイズが小さくなるにつれて、小型化された手術器具の制御不能の影響が強調されることになるから、手術器具の作動条件下で腱の伸長または短縮(収縮)の発生を回避することがさらに重要になる。
【0016】
金属製の腱は、回復可能な伸長性がある程度あり、手術器具に組み付ける前に行われる前述の予負荷工程は、通常、残留可塑性を完全に除去するのに十分である一方、組み付けたときに受ける予負荷は、使用時の即時反応性を維持する。
【0017】
例えば、文献US2018-0228563には、遠隔操作の準備として、2つの拮抗腱をそれぞれ独立して引張状態にし、その後、2つの拮抗腱のアクチュエータを機械的に連結して、動作条件下で応力がかかったときに迅速な応答が得られるように腱を張った状態にすることを含む解決策が示されている。
【0018】
そうでなければ、ポリマ材料で作られた腱は、上述の寄与により高い伸びを有し、さらに、組立前に予負荷工程を実施しても、腱が低い引張負荷を受けるとすぐに、回復可能な伸びの大部分を迅速に回復することを防ぐことはできない。一方で、高い組立予負荷を予測することが変形の回復を防ぐとすれば、他方では、使用していないときでもポリマ腱のクリープ過程を悪化させ、腱をほとんど無期限に伸張させ、弱体化させることになり、したがって、実行可能な策とは言えない。
【0019】
例えば、高分子量ポリエチレン繊維(HMWPE、UHMWPE)で形成された絡合コードは、通常、復元不可能な変形を起こすが、アラミド、ポリエステル、液晶ポリマ(LCP)、PBO(Zylon(登録商標))、ナイロンなどの絡合コードは、この特徴の影響を受けにくい。
【0020】
手術器具の場合、上述した腱の伸長現象に起因する腱の長さのばらつき、および伸長の回復は、特に手術条件下では、手術器具自体の十分なレベルの精度と正確さを維持するための制御において、必然的に客観的な複雑さを課すことになるため、非常に望ましくない。
【0021】
背景技術のさらなる例として、米国特許出願US2020-0054403を引用することができ、この特許は、ロボットシステムの作動インタフェースにおける手術器具の係合手順を示しており、この係合手順では、ロボットシステムの電動回転ディスクが、手術器具のエンドエフェクタの自由度の作動ケーブルに接続された手術器具の対応する回転ディスクと係合する。そこに記載されている係合手順により、ロボットシステムの電動回転ディスクによって感知される応答を評価することにより、手術器具がロボットシステムに動作可能に係合しているかどうかを認識することができる。
【0022】
したがって、端的に言えば、使用中または経時中に、手術器具の1つまたは複数の自由度の作動腱の伸長(lengthening)または回復(recovery)を回避するか、または少なくとも最小にする必要性が感じられ、また、遠隔操作の間、または遠隔操作以外の期間(要請がない期間:non‐solicitation)の後に新たな遠隔操作状態に入る間などの動作状態における腱の望ましくない伸長または回復から派生する失われた動きを回避するか、または少なくとも最小にする必要性が感じられ、これを、手術器具、特にその遠位ヒンジ部/関節部の寸法を増加させることなく達成したい。
【0023】
一方、簡単ではあるが、手術器具の高い制御性を確保することができ、遠隔操作時のような操作状態において信頼性が高く、その一方で、手術器具の小型化、特にその遠位ヒンジ部/関節部の小型化を妨げない解決策を提供する必要性が感じられる。
【発明の概要】
【0024】
本発明の目的は、遠隔操作ロボット手術システムにおける遠隔操作準備方法を提供することであり、これにより、背景技術を参照して上記で訴えた欠点を少なくとも部分的に克服し、考慮される技術分野で特に感じられる前述のニーズに応えることができる。このような目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0025】
このような方法のさらなる実施形態は、請求項2~29によって定義される。
【0026】
本発明のさらなる目的は、前述の方法を実行することができ、および/または前述の方法によって制御されるように適合された遠隔操作ロボット手術システムを提供することである。かかる目的は、請求項30に記載のシステムによって達成される。
【0027】
このようなシステムのさらなる実施形態は、請求項31~49によって定義される。
【0028】
より詳細には、本発明の目的は、以下に要約される特徴を有する、前述の技術的要求に沿った解決策を提供することである。
【0029】
一般論として、遠隔操作の準備のための可能な手順は、図10に例示されており、その中で、手術器具を係合するステップ、調整(conditioning)ステップ(「予備調整」ステップとも呼ばれる)、および保持ステップと遠隔操作ステップを交互に行うステップが言及されている。本開示は、特に後者に焦点を当てている。例えば、係合、調整、および保持のステップは、ロボットシステムが自律的に動作する状態、すなわち非遠隔操作状態であることができる。
【0030】
実際、提案された解決策により、遠隔操作準備保持手順を含む遠隔操作準備ステップを実施することが可能である。
【0031】
以下では、準備ステップの「保持手順」を「保持ステップ」という用語(本開示の目的では同等)で言及する。
【0032】
保持手順を含む前述の遠隔操作準備ステップは、好ましくは、スレーブ装置の少なくとも1つの手術器具が少なくとも1つのマスター装置に完全に追従する(すなわち、完全に隷従追跡する)各遠隔操作ステップの前に実行される。
【0033】
保持手順は、手術器具をスレーブロボットプラットフォームに係合させる初期係合手順を含む初期化ステップの後、および遠隔操作ステップの前に実行することができる。
【0034】
この保持手順は、手術器具に腱の調整(「プレストレッチ:予備伸長」とも呼ばれる)を施す初期調整ステップを含む初期化ステップの後、および遠隔操作ステップの前に実行することができる。
【0035】
保持手順は、隣接する2つの遠隔操作ステップの間、例えば、1つの遠隔操作ステップの終了と次の遠隔操作ステップの開始との間で実行することができる。
【0036】
例えば、2つの隣接する遠隔操作ステップの間に、スレーブ装置の手術器具がマスター装置に追従しない中間ステップを介在させることができ、例えば、中断された遠隔操作ステップ、及び/又は、制限された遠隔操作ステップ、及び/又は、収容ステップ、及び/又は、休息ステップなどである。
【0037】
上記を考慮すると、第1の保持ステップは、調整ステップを含む初期化ステップの後、第1の遠隔操作ステップの前に実行することができ、さらに、第2の保持ステップは、前述の第1の遠隔操作ステップと、第1の遠隔操作ステップに続く第2の遠隔操作ステップとの間に実行することができる。従って、当業者であれば、各遠隔操作ステップの終了時及び後続の連続する遠隔操作ステップの前に、更なる保持ステップを実行できることを理解するであろう。遠隔操作ロボット手術中に実行可能な連続した遠隔操作ステップの数は、様々な偶発的および特定の必要性に依存し得る。
【0038】
言い換えれば、係合手順を含む初期化ステップと、調整手順の後に、保持ステップと、保持ステップに続く遠隔操作ステップを含む1つ以上のサイクルが実行される。
【0039】
少なくとも1つの保持ステップを実行することで、遠隔操作ステップへの移行(entry)の際に、手術器具の腱を引張応力がかかった状態に保つことができ、腱の迅速な応答が保証される。
【0040】
例えば、前述の調整手順を含む初期化ステップの終了時に、保持ステップを実行することで、遠隔操作ステップの観点から腱の弛緩を回避し、調整ステップ中に到達した腱の調整レベル(「予備伸長」)を保持することができる。
【0041】
この保持ステップにより、例えば摺動摩擦および/または回復可能な変形の回復により、手術器具の腱がその長さを変化させ得る遠隔操作ステップの終了時に、スレーブロボットシステムのアクチュエータおよび/または手術器具の伝達要素の基準位置を再バランスさせることが可能となる。
【0042】
実際、手術器具がマスター装置に完全に追従する遠隔操作ステップの間、腱が大きい曲率半径を描く(describe)必要があり得るような作動(例えば、ピッチ/ヨーの自由度に関するもの)を、手術器具の自由度に集中的にさせることにより、少なくともいくつかの腱の性能が低下することがある。
【0043】
代替的または追加的に、腱のサブセット(例えば、手術針上および/または生体組織上の手術器具の先端の長時間の把持状態または「グリップ」を保持するための一対または二対の拮抗腱)の長時間の比較的高い引張レベルが、遠隔操作ステップ中に発生する可能性がある。これは、把持の自由度に接続された2つの拮抗腱の性能の劣化に加えて、腱の総数の一部がより激しい作動を受けるという事実による運動学的不均衡(kinetic imbalance)も発生させる可能性がある。
【0044】
性能劣化は、遠隔操作ステップの継続時間が長くなると増大する可能性があるとともに、長時間の把持状態の継続時間が長くなるにつれて増大する可能性がある。
【0045】
腱に比較的大きな引張力を加えることは、腱の横断面の扁平化を引き起こすという好ましくない効果をもたらし、その結果、腱の摺動面(例えば、ヒンジ式手術器具のリンクの表面)への接触面が増大し、その結果、摩擦力が増大し、腱の性能の劣化にさらに顕著に寄与することになる。
【0046】
遠隔操作ステップに入る前に腱の平坦化/破砕を避けるため、比較的弱い力を加えて保持ステップを終了することが好ましい。
【0047】
そうでなければ、保持ステップの間、手術器具は好ましくはマスター装置に追従せず、従って、手術器具は運動学的見地から静止状態で保持することができる。
【0048】
提案された解決策により、手術器具の自由度を作動させるための少なくとも1つの腱からの回復可能な伸びをなくすか、または少なくとも最小限に抑えることが可能であり、遠隔操作が中断および/または一時停止されても、腱に加えられる作動作用の正確な伝達を得ることが可能である。
【0049】
提案された解決策により、手術器具の自由度を作動させるための少なくとも1つの腱の回復可能な伸びの回復をなくすか、または少なくとも最小限に抑えることが可能であり、遠隔操作が以前に中断および/または保留された場合であっても、後続の遠隔操作ステップ中に作動動作の正確で安定した伝達を得ることが可能である。
【0050】
提案された解決策により、マスターとスレーブ間の運動学的対応の精度が、遠隔操作の間だけでなく、隣接する2つの遠隔操作ステップの間でも向上する。
【0051】
提案された解決策により、使用状態における腱の望ましくない伸長による運動損失(lost motion)は回避されるか、少なくとも最小限に抑えられる。
【0052】
提案された解決策により、手術器具の物理的特徴の満足のいく安定化が提供される。
【0053】
提案された解決策により、手術器具の自由度に対する制御が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
本発明による方法のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照しながら、非限定的な指示として与えられる好ましい例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【0055】
図1図1は、一実施形態に係る、遠隔操作手術のロボットシステムの不等角図である。
図2図2は、図1の遠隔操作手術のロボットシステムの一部の不等角図である。
図3図3は、一実施形態に係るロボットマニピュレータの遠位部分の不等角図である。
図4図4は、一実施形態に係る手術器具の不等角図であり、腱が破線で模式的に図示されている。
図5図5は、あり得る作動モードにおける手術器具の関節式のエンドエフェクタ装置(またはエンドエフェクタ)の自由度の作動を示す、平面図および明確にするための部分的断面図である。
図6図6は、あり得る作動モードにおける遠隔操作準備方法の調整ステップを図5の例を取って示す図である。
図7図7は、あり得る作動モードにおける手術器具の関節式のエンドエフェクタ装置の自由度の作動を図示する。
図8A図8Aは、一作動モードにおける、様々なステップ手順での電動アクチュエータへの付加力の経時トレンドを時間の関数として示すグラフである。
図8B図8Bは、一作動モードにおける、様々なステップ手順での電動アクチュエータへの付加力の経時トレンドを時間の関数として示すグラフである。
図8C図8Cは、一作動モードにおける、様々なステップ手順での電動アクチュエータへの付加力の経時トレンドを時間の関数として示すグラフである。
図8D図8Dは、一作動モードにおける、様々なステップ手順での電動アクチュエータへの付加力の経時トレンドを時間の関数として示すグラフである。
図9図9は、手術器具の一部およびロボットマニピュレータの一部の模式的断面図であり、あり得る作動モードにおける手術器具の自由度の作動を示す。
図10図10は、あり得る作動モードにおける遠隔操作準備と遠隔操作を含む方法のステップを示すフロー図である。
図11図11は、あり得る作動モードにおける遠隔操作準備と遠隔操作を含む方法のステップを示すフロー図である。
図12図12は、あり得る作動モードにおける遠隔操作準備と遠隔操作を含む方法のステップを示すフロー図である。
図13図13は、本願の一実施形態にかかる手術器具の端部装置(end device)および、あり得る作動モードにおける二対の拮抗腱によって実行される把持動作の不等角図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
図1~13を参照して、システムが遠隔操作を行っていない非操作ステップ中に実行される、手術用遠隔操作ロボットシステム1における遠隔操作準備の方法を説明する。
【0057】
本方法が適用される前述のロボットシステム1は、複数の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16と、少なくとも1つの手術器具20とを含む。
【0058】
手術器具20は、少なくとも1つの自由度(P、Y、G)を有する関節式エンドエフェクタ装置40(すなわち、関節式先端部(articulating tip)40)をさらに含む。関節式エンドエフェクタ装置40は、一般に、「関節式末端装置(articulated terminal device)」または「関節式エンドエフェクタ」または「ヒンジ式エンドエフェクタ」とも呼ばれる(以下、このような定義を同義語として用いる)。
【0059】
手術器具20は、電動アクチュエータおよびエンドエフェクタ装置40のそれぞれのリンク(または剛性接続要素)の両方に作動的に接続または連結可能であるように、前述の手術器具20に取り付けられた少なくとも一対の拮抗腱(31、32)、(33、34)、(35、36)をさらに含む。前述の一対の拮抗腱の腱は、前述の少なくとも1つの自由度P、Y、Gのうち、それに関連する少なくとも1つの自由度を作動/実施するように構成され、その結果、拮抗効果が決定される。
【0060】
本方法は、以下のステップを含む:
(i)ロボットシステム1の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の一連の動きと、手術器具20の関節式エンドエフェクタ装置40のそれぞれの動きとの間の一義的な相関関係(univocal correlation)を確立するステップ;
(ii)以下を含む保持ステップを順に実行するステップ:
- 少なくとも一対の拮抗腱(31、32)、(33、34)、(35、36)に引張応力をかけて、腱の負荷状態を決定するように適合された保持力Fholdを腱に加えることによって(例えば、フィードバック制御ループによって)、そのような腱を引張応力がかけられた状態に保持するステップであって、前述の応力をかけるステップは、電動アクチュエータによって決定されるステップ;
- 遠隔操作に入る意志を示すコマンドを提供するステップ;
- 手術器具20が遠隔操作状態に入ることを可能にする。
【0061】
一実施形態に従って、本方法は、各々がそれぞれの少なくとも1つの電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16と作動可能に接続可能な複数の伝達要素21、22、23、24、25、26をさらに含む手術器具20に適用される。
【0062】
この場合、前述の応力付与ステップは、それぞれの電動アクチュエータによって作動制御される伝達要素21、22、23、24、25、26によって実行される。
【0063】
換言すれば、電動アクチュエータによって付与される作用を伝達するための手術器具20の伝達システムは、ロボットマニピュレータのそれぞれの電動アクチュエータとインタフェースする前述の腱、好ましくはまた前述の伝達要素を含む。
【0064】
伝達要素は好ましくは剛性要素である。これにより、電動アクチュエータの動作は、例えば伝達要素が弾性要素および/または減衰要素であった場合に代わりに導入され得る衰弱/歪みなしに、それぞれの腱に伝達される。
【0065】
一実施形態によれば、手術器具の腱とそれぞれの電動アクチュエータとの間の操作接続は、解除可能な接続とすることができる。
【0066】
一実施形態によれば、手術器具の腱とそれぞれの電動アクチュエータとの間の操作接続は、例えば直接的または、腱に接続可能なそれぞれの伝達要素を介在させることによって、間接的な接続とすることができる。
【0067】
一実施形態によれば、本方法は、ステップ(i)-(ii)の後に、ロボットシステム(1)の手術器具20を用いて遠隔操作を行うステップ(iii)を含む。
【0068】
本方法の一実施形態によれば、保持ステップ(ii)と遠隔操作ステップ(iii)が繰り返され、2つの隣接する遠隔操作ステップ(iii)の間に保持ステップ(ii)が実行される。
【0069】
電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の各々の運動学的ゼロ位置が定義される方法の実施形態によれば、本方法は、保持ステップ(ii)の間および少なくとも一対の拮抗腱に応力を与える前述のステップの後に、それぞれの記憶された運動学的ゼロ位置に対する電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の各々の可能な位置オフセットを記憶するさらなるステップを含む。
【0070】
この方法の一実施形態によれば、保持ステップ(ii)の間、少なくとも一対の拮抗腱に応力を与えるステップは、少なくとも1回の負荷および負荷解除サイクルを含み、各負荷サイクルおよび負荷解除サイクルは、一対の腱の負荷状態を決定するために高力値Fholdを加えるステップと、一対の腱の負荷解除状態を決定するために低力値Flowを加えるステップと、を含む。
【0071】
このような場合、そのような高力値は前述の保持力Fholdに対応し、そのような低力値Flowは前述の保持力Fholdよりも低い力である。
【0072】
一実施形態によれば、前述の負荷および負荷解除サイクルの各々において、まず低力値Flowが加えられ、次に高力値または保持力Fholdが加えられる。
【0073】
一実施形態によれば、保持ステップ(ii)の間、遠隔操作に移行する意志を示すコマンドを提供するステップと遠隔操作状態への移行を可能にするステップとの間に、前述した負荷および負荷解除サイクルの前述した無負荷状態に従って腱に引張応力を与えるように、前述した低力値Flowを腱に加えるステップがさらに設けられる。
【0074】
一実施形態によれば、本方法は、遠隔操作ステップから出たときに全ての腱に加えられた力を検出するステップと、検出された力のうち最小力値Fminを特定するステップと、次に全ての腱を前述の最小力値Fminに対応する中間応力状態(intermediate stress condition)にするステップと、をさらに含む。
【0075】
このような力Fmin(遠隔操作から退出するとき検出されるすべての力の中で低い力であるため、このように呼ばれる)は、中間応力状態に対応し、すべての腱を低力値と高力値の間の中間的な力値Fminにすることに留意すべきである:すなわち、
Flow < Fmin < Fhold
となる。
【0076】
既に述べたように、また例えば図8Bにも示されているように、中間応力Fminは、遠隔操作の終了時に記録される。
【0077】
したがって、保持力を「低く」かつ互いに等しく保つことで、保持ステップ中に関節式エンドエフェクタ40の「ピッチ」、「ヨー」、「グリップ」の自由度を不用意に動かしてしまう欠点が回避される。
【0078】
可能な一実施形態によれば、本方法は、好ましくは、すべての腱を、低力値Flowに対応する無負荷応力状態にする後続ステップ、および/または、すべての腱を、高い保持力Fholdに対応する負荷応力状態にする後続ステップをさらに含む。
【0079】
一実施形態によれば、すべての腱を最小力値Fminに対応する中間応力状態にする前述のステップは、各腱について検出された開始力値(starting force value)の関数として、各腱について特定の、および/または異なる負荷の、および/または負荷解除曲線に従って実行される。
【0080】
一実施形態によれば、保持力Fholdを腱に加える前述のステップは、以下を含んでいる:
- すべての腱を前述の最小力値Fminに対応する中間応力状態にし、各腱をそれぞれの検出された開始力値に依存するそれぞれの特定の負荷曲線に従って、負荷が1つまたは複数の対の拮抗腱の拮抗腱間で均等に分配されるようにする;
- 次に、すべての腱を、前述の保持力Fholdに対応する負荷応力状態にする。
【0081】
本方法の一実施形態によれば、遠隔操作ステップは、前述の高保持力値Fholdよりも低い、腱に加えられる予め決定可能な遠隔操作開始力Fworkから始まる。
【0082】
一実施形態によれば、前述の予め決定可能な遠隔操作開始力Fworkは、低保持力Flowに実質的に等しく、すなわちFwork=Flowである。
【0083】
一実施形態によれば、高保持力Fholdと遠隔操作開始力Fworkとの間の移行は、好ましくは、制御ペダルを作動させることによって使用者によって制御される。
【0084】
このような応力のシーケンスは図8Aに示されており、各保持ステップの後、力が遠隔操作開始のためのレベルFlowまで下げられることが観察できる。遠隔操作を開始するための高力値Fholdから低力値Flowへの下降フロント(descent front)は、ユーザによって操作されるコントロールペダルによって制御されるため、遠隔操作への移行は常に意図的に行われる。遠隔操作からの退出は、ペダル操作によりユーザが意図的に行うことも、チェックにより異常が検出された場合などにロボットが独自に制御することも可能である。
【0085】
また、この実施形態では、低力値と高力値は、様々な引張状態を受けたときの腱の挙動の観点から、以下の効果を決定することに留意すべきである:
- 低力値Flowは、理想的には、電動アクチュエータ11とそれぞれの腱31との間(または電動アクチュエータとそれぞれの伝達要素21との間)で記録され得る最小接触力であり、これにより接触が感知される。しかしながら、低力値Flowは、エンドエフェクタ装置の自由度の作動を決定しないようなものである;
- 高力値Fholdは、弛緩すなわち腱の変形状態の回復を避けるために与えられ保持される保持力である。
【0086】
この方法の一実施形態によれば、腱に応力を与える前述のステップは、負荷サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順によって、電動アクチュエータによって、保持力値Fholdに到達するステップとを含む。
【0087】
例えば、腱に作用する有効な力は、電動アクチュエータと伝達要素との間の接触力を検出するように、電動アクチュエータの遠位インタフェースに配置された力センサ17、18によって検出または測定される。
【0088】
この方法の一実施形態によれば、腱に応力を与える前述のステップは、負荷解除サイクル中に腱に作用する力を測定または検出するステップと、検出または測定された腱に作用する実際の力に基づくフィードバック力制御手順によって、電動アクチュエータによって、低力値Flowに到達するステップと、を含む。
【0089】
本方法の別の実施形態によれば、腱に応力を与える前述のステップは、前述の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する伝達要素21、22、23、24、25、26または電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の位置オフセットを測定または検出するステップと、検出または測定または記憶された前述の位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順によって、電動アクチュエータによって、負荷サイクルを実行するステップと、を含む。
【0090】
本方法の一実施形態によれば、腱に応力を与える前述のステップは、前の遠隔操作ステップの終了時に予め定義されまたは記憶されたそれぞれの初期値に対する、伝達要素21、22、23、24、25、26、または電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の位置オフセットを測定または検出するステップと、検出または測定または記憶された前述の位置オフセットに基づくフィードバック位置制御手順を介して、電動アクチュエータによって、負荷解除サイクルを実行するステップと、を含む。
【0091】
本方法の一実施形態によれば、保持ステップ(ii)の間、少なくとも一対の腱は、手術器具20のエンドエフェクタ装置40の把持動作に対応する負荷状態によって応力をかけられ、保持ステップの間、手術器具は把持状態にある。
【0092】
この実施形態(「ホールドスクイーズ」、すなわち把持保持と定義することができる)は、好ましくは、2つの隣接する遠隔操作ステップの間に生じる保持ステップで実行され、この場合、第1の遠隔操作ステップの出口で、手術器具20は、例えば、手術針上及び/又は生体組織上の把持状態にあり、このような把持は、次の遠隔操作ステップに備える後続の保持ステップの間にも保持されなければならない(この点に関して、図8C及び図8Dの図を参照)。
【0093】
本方法の一実施形態によれば、負荷および負荷解除サイクルを含む前述のステップ(ii)は、把持自由度の作動に関与しない腱のサブセットに対してのみ実行される。
【0094】
好ましくは、このオプションは、関節式エンドエフェクタ40が針または組織を把持している間に遠隔操作を終了することを含む、前述の「ホールドスクイーズ」実施形態と組み合わせて実施される。
【0095】
典型的には、把持動作は4つの腱(すなわち、図13に示す33-34と35-36のような二対の拮抗腱)に影響を与えるが、可能な変形によれば、影響を受ける腱は2つだけである可能性もある。
【0096】
図8Cに示す一実施形態によれば、負荷および負荷解除サイクルは実行されず、単に把持に関与する腱の電動アクチュエータが非アクティブにされ(「モータフリーズ」)、図8Cに示すように力の減少を引き起こし、腱が把持物体の把持を保持する。
【0097】
図8Dに示す別の好ましい一実施形態によれば、把持力の印加は、実行される把持状態における遠隔操作からの退出時でも保持される。
【0098】
本方法の一実施形態によれば、ロボットシステム1は、電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16を制御して、好ましくは伝達要素21、22、23、24、25、26によって、制御された動きを与え、制御された力を腱に加えるように構成された制御手段9を含む。
【0099】
電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の各々の運動学的ゼロ位置が定義され、本方法がロボットシステム1の2つの遠隔操作期間の間の非操作ステップに適用される、このような実施形態の一実施形態によれば、本方法は、非操作ステップの開始時に、以下のさらなるステップを含む:
- 手術器具20のエンドエフェクタ装置40の既知の運動学的位置として、伝達要素POSkin-offの各々の既知の運動学的位置が対応する運動学的ゼロ位置を基準として、エンドエフェクタ装置40が前の遠隔操作ステップの終了時にある位置を記憶するステップ;
- 電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16を引き込む(retract)ステップであって、各伝達要素21、22、23、24、25、26について、前の遠隔操作ステップで生成されたそれぞれの位置オフセットを取り除くステップ;
- 前述の各伝達要素21、22、23、24、25、26に前述の各再較正力(recalibration force)Fの印加による各位置オフセットPOSFC(t)を決定するように、再較正力Fを一定に保つように構成されたフィードバック制御によって、手術器具の非操作ステップの間中、各伝達要素21、22、23、24、25、26に各再較正力Fを印加し続けるステップ。
【0100】
このような場合、本方法は、非操作ステップの終了時、次の遠隔操作ステップの開始時に、以下のさらなるステップをさらに含む:
- 各伝達要素21、22、23、24、25、26への再較正力Fの印加を停止するステップ;
- 終了したばかりの非操作ステップ中の再較正力の印加に続いて、非操作ステップの終了時に各伝達要素21、22、23、24、25、26上で決定された位置オフセットPOSFC-offを測定して記憶し、各伝達要素21、22、23、24、25、26について記録された位置オフセットPOSFC-offを、端部装置40の前述の既知の運動学的位置に関連付けるステップ;
- 制御手段9によって指令された操作力および移動力を加えるステップであって、制御手段9は、操作者の指令に基づいて、各伝達要素21、22、23、24、25、26の前述の記憶された位置オフセットPOSFC-offを考慮して制御力を決定するように構成されているステップ。
【0101】
一実施形態によれば、前述の再較正力Fは保持力Fholdに対応する。
【0102】
一実施形態によれば、各伝達要素に再較正力を加えるステップは、フィードバックループによって伝達要素に力を加えるステップを含み、フィードバック信号は、伝達要素に作動的に接続されるかまたは接続可能なそれぞれの力センサによって実際に検出された伝達要素に加えられた力に対応する。
【0103】
一実施形態によれば、前述の運動学的ゼロ位置は、手術器具を使用する前に行われる、手術器具を予備調整するさらなるステップから生じる固定オフセットPrestretchoffを含む。
【0104】
特定の実施形態によれば、前述の予備調整ステップは以下を提供する:
(i)エンドエフェクタ装置40の前述の少なくとも1つの自由度P、Y、Gの少なくとも1つの自由度をロックするステップ;
(ii)少なくとも1つのロックされた自由度に動作的に接続されたそれぞれの少なくとも1つの腱に、少なくとも1つの時間サイクル(time cycle)に従って、引張応力が加えられるそれぞれの腱に接続されたそれぞれの伝達要素21、22、23、24、25、26に調整力Frefを加えることによって、引張応力を加えるステップ。
調整力Frefの印加は、それぞれの腱に応力を加えるために、それぞれの電動アクチュエータによって行われる。
【0105】
このような少なくとも1つの時間サイクルは、少なくとも1つの低負荷期間を含み、この低負荷期間では、伝達要素に低い調整力Flowが加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ低い引張負荷がかかり、少なくとも1つの時間サイクルはまた、少なくとも1つの高負荷期間を含み、この高負荷期間では、伝達要素に高い調整力Fhighが加えられ、その結果、それぞれの腱にそれぞれ高い引張負荷がかかる。
【0106】
高い調整力Fhighは、隣接する2つの時間サイクルにおいて増加する値をとり得る。言い換えれば、複数の前述の時間サイクルが設けられ、少なくとも2つの隣接する時間サイクルにおいて、高い調整力Fhighのそれぞれの値が増大する。
【0107】
調整(予備調整)ステップでは、連続する低負荷期間Flowと高負荷期間Fhighの間の交替を決定するように、複数のN個の時間サイクルを提供することができ、n番目のサイクルの低負荷期間中にそれぞれの低調整力Flow_nが適用され、n番目のサイクルの高負荷期間中にそれぞれの高調整力Fhigh_nが適用される。
【0108】
一実施形態によれば、異なる時間サイクルの前述の低調整力Flow_nは、同じ所定の低調整力値Flowに対応し、前述の高調整力Fhigh_nは、最大高力値Fhigh_maxに達するまで、徐々に増加する高調整力値に対応する。
【0109】
一実施形態によれば、n番目の時間サイクルの高い調整力値は、以下の式に従って計算される。
【0110】
【数1】
【0111】
ここで、nは現在のサイクル、Nは総サイクル数、Ncは一定のFhighにおけるサイクル数、Fhigh_maxは設定可能な値である。
【0112】
一実施形態によれば、前述の時間サイクルにおいて:(i)少なくとも1つの低負荷期間の各々は、第1の持続時間を有し、前述の低調整力Flowに対応する第1の力値が印加される第1の保持持続時間を有する第1の保持サブステップを含み、(ii)少なくとも1つの高負荷期間の各々は、第2の持続時間を有し、前述の高調整力Fhighに対応する第2の力値が印加される第2の保持持続時間を有する第2の保持サブステップを含む。一実施形態によれば、前述の第1の持続時間は、前述の第1の保持持続時間を有する第1の保持サブステップに加えて、前述の第1の保持持続時間と前述の第1のランプ持続時間(ramp time duration)との和が前述の第1の持続時間に対応するように、第1のランプ持続時間を有する第1のランプサブステップを含み、前述の第2の持続時間は、前述の第2の保持持続時間を有する第2の保持サブステップに加えて、前述の第2の保持持続時間と前述の第2のランプ持続時間との合計が前述の第2の持続時間に対応するような、第2のランプ持続時間を有する第2のランプサブステップを含み、前述の第1の保持持続時間が前述の第1のランプ持続時間よりも大きく、前述の第2の保持持続時間が前述の第2のランプ持続時間よりも大きい。一実施形態によれば、前述の第1の継続時間は0.2秒~30.0秒の範囲にあり、前述の第2の継続時間は0.2秒~5.0秒の範囲にある。好ましくは、前述の第1の継続時間は1.0秒~3.0秒の範囲内であり、前述の第2の継続時間は1.0秒~3.0秒の範囲内である。一実施形態によれば、前述の第1のランプ持続時間は0.2秒~10.0秒の範囲内であり、前述の第2のランプ持続時間は0.2秒~2.0秒の範囲内である。一実施形態によれば、前述の第1の保持時間は0.2~20.0秒の範囲内であり、前述の第2の保持時間は0.2~3.0秒の範囲内である。
【0113】
一実施形態によれば、予備調整ステップにおいて、前述の低調整力Flowは0.2N~3.0Nの範囲の値を有し、前述の高調整力Fhighは8.0N~50.0Nの範囲の値を有する。好ましくは、前述の低調整力Flowは1.0N~3.0Nの範囲の値を有し、前述の高調整力Fhighは10.0N~20.0Nの範囲の値を有する。
【0114】
予備調整ステップの時間サイクルの数Nは、1~30の範囲であり、好ましくは、前述の時間サイクルの数Nは、1~15の範囲であり、例えば、10未満であり、および/または、より好ましくは、前述の時間サイクルの数Nは、3~8の範囲である。
【0115】
上述したように、伝達要素が提供されない実施形態では、低および高調整力Flow、Fhighが腱に適用される。
【0116】
本方法の一実施形態によれば、電動アクチュエータを引き込ませる前述のステップは、移送システムのさらに可能な補償ステップによって生成された位置オフセットを除去するステップを含む。
【0117】
一実施形態によれば、保持力Fholdおよび/または再較正力Fは、0.1~5Nの範囲にある。
【0118】
一実施形態によれば、前述の位置オフセットは、例えば1~5mmの範囲である最大許容位置オフセットdxAよりも小さくなければならない。
【0119】
一実施形態によれば、この方法は、腱がポリマ繊維を絡み合わせたり(intertwine)編み合わせたり(braid)したポリマ腱である場合に適用される。
【0120】
一実施形態によれば、腱は非弾性的に変形可能である。
【0121】
一実施形態によれば、本方法は、手術器具がマイクロ手術器具であるマイクロ手術用遠隔操作ロボットシステムを含むロボットシステムに適用される。
【0122】
再び図1~13を参照すると、本発明の方法が適用される手術器具のさらなる図が以下に提供され、方法自体のさらなる理解に役立つとともに、非限定的な例として、方法のいくつかの実施形態に関するさらなる詳細が提供される。
【0123】
前述の予備調整ステップ、すなわち「予備伸長」に関するいくつかの例示的な詳細をここで提供する。
【0124】
例えば、図5および図6のシーケンスにおいて図式的に示すように、拘束体(constraining body)37(ここでは、手術器具20のシャフトまたはロッド27に沿って引き込み可能に示されている)は、調整手順の実行を容易にするように、1つまたは複数の自由度(図示の例では、ピッチPの自由度がロックされている)をロックするために、関節式エンドエフェクタ装置40に取り付けることができる。
【0125】
一実施形態によれば、拘束体37は、関節先端部40を所定の形状に一時的にロックするために設けられている。拘束体37は、手術器具20のシャフト27に沿って引き込み可能であることができる。拘束体37は、手術器具20のシャフト27に沿って引き込み可能でないプラグ37またはキャップ37とすることができ、例えば、関節式先端器具(エンドエフェクタ)40の自由端に対して遠位側に取り外すことができる。
【0126】
一実施形態によれば、少なくとも1つのアクチュエータ11、12、13、14、15、16はリニアアクチュエータである。その場合、少なくとも1つの伝達要素21、22、23、24、25、26は、例えば図9に示すように、実質的に直線経路x-xに沿って移動するように適合されたピストンのような、直線伝達要素とすることができる。
【0127】
別の実施形態によれば、少なくとも1つのアクチュエータは、ウインチのような回転アクチュエータである。少なくとも1つの伝達要素は、カムおよび/またはプーリーなどの回転伝達要素とすることができる。
【0128】
関節式エンドエフェクタ装置40は、好ましくは、複数のリンク41、42、43、44(例えば、剛性接続要素)を含む。このようなリンクの少なくともいくつか、例えば図13のリンク42、43、44は、一対の拮抗腱31、32;33、34;35、36に接続されている。
【0129】
図13の実施例に示すように、一対の拮抗腱31、32は、リンク42に機械的に連結され、このようなリンク42を、ピッチ軸Pを中心としてリンク41に対して移動させるようになっており、このリンク41は、手術器具20のシャフト27と一体的に示されている。別の一対の拮抗腱33、34は、リンク43(ここでは自由端を有するように示されている)に機械的に連結され、このようなリンク43をヨー軸Yを中心としてリンク42に対して移動させるようになっている。さらに別の一対の拮抗腱35、36は、リンク44(ここでは自由端を有するように示されている)に機械的に連結され、このようなリンク44をヨー軸Yを中心としてリンク42に対して移動させるようになっている。ヨー軸Yを中心とするリンク43、44の適切な共同作動は、開閉自由度Gまたは把持自由度Gをもたらすことができる。当業者であれば、腱およびリンクの構成、ならびに関節式エンドエフェクタ40の自由度は、本開示の範囲内にありながら、図13に示されるものに対して変化し得ることを理解するであろう。
【0130】
一実施形態によれば、3つの自由度(例えば、ピッチP、ヨーY、および把持Gの自由度)を作動させるために、三対の拮抗腱(31、32)、(33、34)、(35、36)が設けられる。このような場合、手術器具20は、6つの伝達要素21、22、23、24、25、26(例えば、腱が破線で図式的に示されている図4に示されているように、6つのピストン)、すなわち、例えば、3つのそれぞれの対の拮抗する電動アクチュエータ(11、12)(13、14)(15、16)と協働するように意図された三対の拮抗する伝達要素(21、22)、(23、24)、(25、26)を含み得る。
【0131】
一実施形態によれば、少なくとも電動アクチュエータと伝達要素との間に、プラスチックシートとして作られた無菌布、または布や不織布のような他の手術用無菌布材料のような無菌バリア19が介在される。
【0132】
この無菌バリア19と、無菌バリア19の上流側で電動アクチュエータに配置されたセンサ17、18との共同設置は、制御システムの能動部品(ここではセンサも意味する)を非無菌環境に設置することを可能にし、従って、異なる介入のためにそれらを再利用することができ、無菌バリア19の下流側の無菌環境で動作する使い捨て可能な手術器具20にそのような部品を組み立てることを避けることができるので、特に有利である。
【0133】
実施上の選択肢によれば、少なくとも一対の拮抗ポリマ腱(31、32)、(33、34)、(35、36)の各ポリマ腱は、非弾性的に変形可能であることが望ましいが、弾性的に変形可能であることもできる。
【0134】
好ましい実施形態によれば、手術器具20の少なくとも一対の拮抗腱の各腱は、ポリマ材料でできている。
【0135】
好ましくは、一実施形態によれば、少なくとも一対の拮抗腱の各腱は、ポリマストランドを形成するように絡み合ったおよび/または編み合わされた複数のポリマ繊維を含む。一実施形態によれば、少なくとも一対の拮抗腱の各腱は、複数の高分子量ポリエチレン繊維(HMWPE、UHMWPE)を含む。
【0136】
一実施形態によれば、前述の少なくとも1本の腱は、複数のアラミド繊維、および/またはポリエステル、および/または液晶ポリマ(LCP)、および/またはPBO(Zylon(登録商標))、および/またはナイロン、および/または高分子量ポリエチレン、および/またはこれらの任意の組み合わせを含んでもよい。
【0137】
一実施形態によれば、少なくとも一対の拮抗ポリマ腱の各ポリマ腱は、部分的に金属材料でできており、部分的にポリマ材料でできており、例えば、金属繊維とポリマ繊維の絡み合いによって形成されている。
【0138】
図11のフロー図に図式的に示す本発明による方法の特定の実施形態を、非限定的な例として以下にさらに詳細に示す。
【0139】
このような場合、この方法は、好ましい実行順序で報告されている以下のステップを含む。
【0140】
まず、初期化ステップが設けられ、これは以下のステップを含む:
- ロボットマニピュレータ10の適切なコネクタまたはポケット28に手術器具20を挿入するステップ;
- 手術器具20に係合するステップであって、ロボットマニピュレータ10の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16が同時に移動して、手術器具20のそれぞれの伝達要素21、22、23、24、25、26に突き当たり、手術器具20の関節先端部40(すなわち、エンドエフェクタ装置40)を動かすことを避け、したがって、関節先端部40の自由度P、Yを作動させることを避ける、手術器具20に係合するステップ;
- 腱31、32、33、34、35、36を予備伸長するステップ;
- 任意に、予備伸長ステップの終了時に、電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16のオフセット位置(Prestretchoff)を記憶するステップ。
このパラメータPrestretchoffの記憶は、好ましくは、手術器具20(すなわち、手術器具20の関節先端部40の自由度)が運動学的ゼロ位置にあるときに行われ、これにより、最初の遠隔操作の前の初期位置の一定の基準を有することができる。電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16のその後の位置補正により、このような位置を使用して、電動アクチュエータと手術器具20の自由度P、Y、Gとの間の運動学的なコヒーレンス(coherence:整合性)位置を追跡することができる。
【0141】
前述の初期化ステップの後、本方法は、第1の保持ステップを適用することを含む遠隔操作準備ステップを提供した。
【0142】
第1の保持ステップは以下の動作を含む:
- フィードバック力制御が、6つの電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16に対して、独立に、すなわち、各電動アクチュエータに対して個別に、使用され、電動アクチュエータおよびこれに隣接する伝達要素21、22、23、24、25、26の、予備伸張ステップ中および/または係合ステップ中に到達した位置を保持する;
- 電動アクチュエータは、最小力値Flowに等しい印加力Frefを加える;
- 力センサ17、18によって検出された力Fsensが最小力値Flowに対応する場合、電動アクチュエータは、それぞれの腱の張力を維持し、その弛緩を回避するために、最小力値Flowよりも大きい保持力値Fholdに等しい印加力Frefを加える。保持力値Fholdは、好ましくは実験的に決定され、使用される手術器具のタイプによって変わり得る。このような保持力値Fholdは、第1の予備伸長手順の後、伸びをできるだけ一定に保持することを可能にするように決定され、このような保持力値Fholdは、以前に応力を受けた腱の伸び変形の回復による腱の短縮を防止する一方で、腱の構造の再構成現象による腱のさらなる伸びを防止するために決定される;
- この時点で、システムは、操作者が例えば制御ペダルを踏むことにより、遠隔操作に入る意思を示したことを確認する(「操作==TRUE」);
- 電動アクチュエータは、前述の最小力値Flowを再び付加する。最小レベルの力の再付加は、手術器具内部の運動伝達ジョイントに力を排出することを可能にする。これにより、遠隔操作中に、腱-ジョイント結合によって発生する摩擦を減少させることができ、ひいては、摩擦の減少は、遠隔操作中に、ロボットシステムのマスター装置とスレーブ装置の間の非整合効果を減少させる;
- 力センサ17、18によって検出された力Fsensが最小力値Flowに対応する場合、システムは第1の遠隔操作ステップに移行することを可能にする;
- 電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16のオフセット位置は、予備伸長ステップ(Prestretchoff)の終了時に記憶される。
【0143】
前述の第1の保持ステップの後、本方法は、第1の遠隔操作ステップを実行することを提供する:
- 遠隔操作ステップ中の移行および/または移行可能化は、操作者による操作ペダルの押下などの遠隔操作要求コマンド(「操作==TRUE」)によるものとなる;
- 遠隔操作ステップは、電動アクチュエータが運動学的法則に従って動くことができ、力制御を無効にすることができる、それぞれのマスター装置3への電動アクチュエータのスレーブ化(すなわち、追従)を含んでいる。
【0144】
その後、第1の遠隔操作ステップは中断され、本方法は、第2の保持ステップが適用される第2の遠隔操作準備ステップを実行するシステムを提供する。
【0145】
第2の保持ステップは以下の動作を含む:
- 予備伸張ステップの終了時に、それぞれの記憶されたオフセット位置に対する電動アクチュエータの位置の構成の変化に続いて、各伝達要素21、22、23、24、25、26に加えられる力をバランスさせるために、6つの電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16に対して、独立に、フィードバック力制御が、次式の関係に従って使用される:
pos(t)= Prestretchoff + PosKinoff + PosFC(t)
ここで:
pos(t)は、例えば各電動アクチュエータの遠位端に配置されたモータ基準系に対する各電動アクチュエータの位置である;
Prestretchoffは、上記モータ基準系に対するプレストレッチ手順の完了後の記憶されたオフセットである;
PosKinoffは、前述の第1の遠隔操作ステップの出口で記憶された運動学的法則によって生成されたオフセットである;
PosFC(t)は、時間の関数としての力制御によって生成された電動アクチュエータの変位である。
【0146】
この第2の保持ステップの間、予備伸長ステップの終了時に記憶されたそれぞれのオフセット位置に対する電動アクチュエータの位置オフセットが記憶される、すなわち:
pos(t)= Prestretchoff + PosFCoff + PosKin(t)
ここで
PosKin(t)は、運動学的制御によって生成された電動アクチュエータの変位である。
【0147】
従って、第2保持ステップの後に記憶される電動アクチュエータの位置オフセットは、次式で表される:
PosFCoff = Mpos(Tteleop ON)- Prestretchoff - PosKinoff
【0148】
第1の保持ステップに関して上述したように、第2の保持ステップの間、以下の動作が実行される:
- 電動アクチュエータは、最小力値Flowに等しい印加力Frefを加える;
- 力センサ17、18によって検出された力Fsensが最小力値Flowに対応する場合、電動アクチュエータは、最小力値Flowよりも大きい保持力値Fholdに等しい印加力Frefを加え、それぞれの腱の張力を維持し、その弛緩を回避する;
- この時点でシステムは、操作者が遠隔操作に入る意思を示したことを確認する(「操作==TRUE」);
- 電動アクチュエータは再び前述の最小力値Flowを付加する;
- 力センサ17、18によって検出された力Fsensが最小力値Flowに対応する場合、システムは最初の遠隔操作ステップに入ることを可能にする。
【0149】
前述の第2の保持ステップの後、第2の遠隔操作ステップが実行され、これは第1の遠隔操作ステップと実質的に同様とすることができる。
【0150】
保持手順を実行した後に遠隔操作ステップに入ると、手術器具20がどの方向にも移動できる準備ができ、電動アクチュエータが異なる力で伝達要素を主張する構成で手術器具をロックすることによって発生し得る「ロストモーション」を低減することができる。
【0151】
前述した保持ステップを含む準備ステップと遠隔操作ステップの交替は、決められた方法または決められていない方法で続けることができる。
【0152】
1つの遠隔操作ステップの最後に、しかし各遠隔操作ステップの最後にも、そして保持ステップの前に、解除ステップ(「解除モータオフセット」)を含むことができ、この解除ステップは、遠隔操作を終了するコマンド(「操作==FALSE」)によって入力され、例えば、手術器具20を遠隔操作する可能性が無効になるユーザによって適用される制御ペダルの解除によって入力される。
【0153】
この解除ステップでは、記憶された電動アクチュエータ位置オフセット(PosFCoff)が削除される。この解除ステップにより、保持ステップで発生した位置決め誤差をリセットすることができ、位置ドリフト(position drifting)の可能性を削除することができる:すなわち、
pos(t)= Prestretchoff + PosKinoff
となる。
【0154】
一実施形態によれば、最小力値Flowは、電動アクチュエータが伝達要素と接触する(すなわち、突き当たる)最小力値である。
【0155】
一実施形態によれば、保持力値Fholdは最小力値Flowよりも大きい力値であり、それぞれの腱31、32、33、34、35、36の張力を維持し、その弛緩を防止するために使用される。
【0156】
本方法のいくつかの可能な一実施形態によれば、前述の値Fholdは事前に決定することができ、すなわち、使用される特定のタイプの腱に対する実験的試験によって算出することができる。
【0157】
2つの力値FlowおよびFholdは、保持ステップの間のエンドエフェクタ装置40の望ましくない変位の可能性を回避するように、交互にすることができる。例えば、これらの力値FlowおよびFholdは、例えば図11および図12に示す図のように交互に配置される。
【0158】
本方法の別の実施形態(すでに上述)によれば、保持ステップのいずれか、あるいは保持ステップのすべてにおいて、フィードバック力制御の代わりにインポジション制御が使用される。
【0159】
本方法の一実施形態によれば、把持の自由度(グリップ、G)の集中的な作動がある遠隔操作ステップの終了時に、システムは、比較的高い把持力の比較的長い時間の印加による腱の伸長を補償して運動学的な一致を確実に保持するように、把持の自由度のそのような集中的な作動を考慮して保持ステップを実行する。これにより、一部の腱(例えば、6本の腱のうち2~4本の腱のサブセット)だけが他の腱よりも大きな応力を受けており、そのため他の腱よりも大きな伸びを受けている可能性があるという事実によって引き起こされる可能性のある運動学的不均衡を回避することができる。
【0160】
例えば図13に示すように、把持の自由度(G)は、二対の拮抗腱(33、34)および(35、36)によって発揮される作用によって活性化され、例えば生体組織や手術針となり得る本体45に把持を保持する。
【0161】
上述したように、保持ステップは必ずしも負荷および負荷解除サイクルを含む必要はなく、負荷状態(力Fhold)の適用のみを含むこともある。
【0162】
手術器具20が把持状態(能動的な把持自由度G、この状態は「スクイーズ」とも呼ばれる)で遠隔操作ステップを終了する本方法の一実施形態によれば、このような把持自由度の作動腱は引張応力を受ける。この場合、保持ステップは、保持力が把持力に少なくとも等しい負荷状態を適用することを含む。それにより、把持状態の喪失が回避される。
【0163】
一実施形態によれば、保持力は把持力に相当する。
【0164】
一実施形態によれば、遠隔操作システムのマスター装置が「スクイーズ」状態を識別した場合、システムは、把持状態(把持のアクティブ自由度G)で遠隔操作ステップを終了するという前述の状態を認識する。
【0165】
一実施形態によれば、システムは、電動アクチュエータ上および/または把持自由度の作動腱と作動的に関連付けられた伝達手段上で測定された力が予め定義された閾値より大きい場合、把持状態(アクティブな把持自由度G)で遠隔操作ステップを終了するという前述の状態を認識する。
【0166】
一実施形態によれば、保持力は、把持の自由度の作動腱のみの把持力に少なくとも等しく(例えば、相当する)することができる。したがって、把持の自由度の作動腱が一対の拮抗腱である場合、システムは、そのような一対の拮抗腱に、負荷および負荷解除サイクルを適用することを避けて、保持力を適用することを含む負荷状態を適用する。
【0167】
一方、把持の自由度の作動腱が二対の拮抗腱である場合、システムは、そのような二対の拮抗腱に、負荷および負荷解除サイクルの適用を避けて、保持力Fholdの適用を含む負荷状態を適用する。
【0168】
あるいは、保持力は、手術器具20のすべての腱に対する把持力に少なくとも等しく(例えば、対応する)てもよい。
【0169】
異なる実施態様によれば、手術器具20が把持状態(能動的な把持自由度G、「スクイーズ」状態)で遠隔操作ステップを終了し、従って、そのような把持自由度の作動腱が引張応力を受けている場合、ロボットは、把持自由度の前述の作動腱を含む腱のサブセットに対して保持手順/ステップ(図12の「モータフリーズ」)を実施することを回避する。この場合、保持ステップは、前述したように負荷および負荷解除サイクルを適用することを含む。
【0170】
把持の自由度の作動腱が一対の拮抗腱である場合、そのような一対の拮抗腱による保持ステップは回避される。
【0171】
一方、図13の例に示すように、把持の自由度の作動腱が二対の拮抗腱である場合、そのような二対の拮抗腱での保持ステップは回避され、他の腱(図13の腱31と32)では保持ステップが実行される。
【0172】
好ましくは、システムは、この発生した把持状態(アクティブな把持自由度G)での遠隔操作ステップからの退出を、その後(例えば、遠隔操作ステップからの次の退出時に)、把持自由度の作動腱上における保持ステップの実施失敗を補償するために記憶するように適合され、保持ステップを実施する。
【0173】
再び図1~13を参照して、複数の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16と、少なくとも1つの手術器具20と、制御手段9とを含む遠隔操作ロボット手術システム1を以下に説明する。
【0174】
前述の少なくとも1つの手術器具20は、
少なくとも1つの自由度P、Y、Gを有する関節式エンドエフェクタ装置40と、
少なくとも一対の拮抗腱31、32;33、34;35、36と、を含み、それぞれの電動アクチュエータ、および端部装置40のそれぞれのリンクの両方に動作可能に接続可能であるように手術器具20に取り付けられ、それに関連する少なくとも1つの自由度を作動させ(前述の少なくとも1つの自由度P、Y、Gの間で)、したがって拮抗効果を決定する。
【0175】
システム1の制御手段9は、以下の動作の実行を制御するように構成されている:
(i)ロボットシステム1の電動アクチュエータ11、12、13、14、15、16の一連の動きと、手術器具20の関節式エンドエフェクタ装置40のそれぞれの動きとの間に、一義的な相関関係を確立する;
(ii)以下を含む保持ステップを実行する:
- 少なくとも一対の拮抗腱31、32;33、34;35、36に引張応力をかけ、腱に保持力Fholdを加えることによって、腱を引張応力状態に保持するステップであって、前述の保持力Fholdは、腱の負荷状態を決定するように適合されている、ステップと、
- 遠隔操作に入る意志を示すコマンドを受け取ると、遠隔操作状態で手術器具20の進入を可能にするステップ。
【0176】
システム1の様々な可能な実施形態によれば、制御手段は、そのような方法の先に例示した実施形態のいずれかによる遠隔操作準備方法を実行するようにロボットシステムを制御するように構成される。
【0177】
示されたとおり、先に示した本発明の目的は、上記で詳細に開示した特徴により、また本発明の概要ですでに開示したように、上述の方法によって完全に達成される。
【0178】
偶発的なニーズを満たすために、当業者は、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、上述の方法の実施形態に変更および適合を加えることができ、または機能的に同等である他の要素と置き換えることができる。可能な実施形態に属するものとして上述した全ての特徴は、上述した他の実施形態に関係なく実施することができる。
【符号の説明】
【0179】
1 遠隔操作手術用ロボットシステム
2 ロボットシステムのスレーブアセンブリ
3 マスターコンソール
9 コントローラ、すなわちコンソールユニット
10 ロボットシステムのマニピュレータ
11、12、13、14、15、16 マニピュレータの電動アクチュエータ
17、18 力センサ、またはロードセル
19 無菌バリア
20 手術器具
21、22、23、24、25、26 手術器具伝達要素
27 シャフト
28 ポケット
29 手術器具バックエンドまたは伝達インタフェース部
31、32、33、34、35、36 腱
37 拘束体、またはプラグ、またはキャップ
40 手術器具の関節式エンドエフェクタ装置、関節先端部、またはエンドエフェクタ
41、42、43、44 関節先端部のリンク
45 本体
x-x 直線方向
r-r 中心線
P、Y、G エンドエフェクタ装置の、ピッチ、ヨー、グリップそれぞれの関節先端部の自由度
Fref 適用された力
Fsens 力センサによって検出された力
Flow 低力値
Fhigh 高力値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】