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特表2024-523342シグナル増強磁気共鳴画像法に適用可能なビニル化ケトエステルおよびその合成
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  • 特表-シグナル増強磁気共鳴画像法に適用可能なビニル化ケトエステルおよびその合成 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】シグナル増強磁気共鳴画像法に適用可能なビニル化ケトエステルおよびその合成
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/716 20060101AFI20240621BHJP
   C07C 67/10 20060101ALI20240621BHJP
   C07C 67/055 20060101ALI20240621BHJP
   C07D 319/06 20060101ALI20240621BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C07C69/716 Z CSP
C07C67/10
C07C67/055
C07D319/06
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577541
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2022066534
(87)【国際公開番号】W WO2022263619
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】21180463.8
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505119966
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツール フェルデルング デア ヴィッセンシャフテン エー. ファオ.
【氏名又は名称原語表記】MAX-PLANCK-GESELLSCHAFT ZUR FOERDERUNG DER WISSENSCHAFTEN E.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グレッグラー、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】コルチャク、セルゲイ
(72)【発明者】
【氏名】ジャグタップ、アニル ピー.
(72)【発明者】
【氏名】サウル、フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】モール、デニス
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB91
4H006AC48
4H006AC84
4H006BA22
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA39
4H006BA44
4H006BA45
4H006BA48
4H006BA94
4H006BA95
4H006BB12
4H006BB15
4H006BB16
4H006BC10
4H006BR10
4H006KA04
4H039CA66
4H039CF20
4H039CL60
(57)【要約】
本発明は、ビニルケトエステルおよびその合成の中間体に関し、ここで、ビニルヒドロキシエステルおよび中間体のビニル部分は部分的または完全に重水素化されている。さらに、本発明は、前記ビニルケトエステルを調製する2つの代替方法に関する。第1の方法は、感光性保護基によって保護されたジェミナルジオール部分を含むカルボン酸を用意する工程と、酢酸ビニルを使用して前記カルボン酸をビニル化する工程と、UV光を照射することによって保護基を切断する工程とを含む多工程アプローチである。第2の方法は、金属触媒の存在下で、追加のカルボニル部分を含むカルボン酸をアセチレンと反応させる一工程アプローチである。両方の方法において、使用される化合物は、完全にまたは部分的に重水素化され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III)のビニルケトエステル
【化1】

(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはDであり、ここで、X、XおよびXの少なくとも1個はDであり、特に、X、XおよびXのすべてはDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)。
【請求項2】
シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法であって、
a)式(I)の化合物
【化2】

を用意する工程と、
b)式(II)の酢酸ビニル
【化3】

を使用することによる式(I)の化合物のビニル化と、
c)UV光を照射して、式(III)のビニルケトエステル
【化4】

を得る工程と
(式中、
RはHまたはD、特にHであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキル、さらにより特にはC1-3アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびD、特にDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
Aは、-CH、-CHD、-CHDまたは-CD3、特に-CDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む、方法。
【請求項3】
およびRがHまたはD、特にDであり、
が、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたC1-3アルキル、特にD、および完全に重水素化されたCアルキルから選択される、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
nが0または1である、請求項2または3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記式(I)の化合物が、式(IV)の化合物
【化5】

を保護することと、
式(V)の保護基
【化6】

を使用することと
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびnは上記のように定義される)
によって調製される、請求項2から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)における前記ビニル化が繰り返し行われる、請求項2から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
式(III)の前記ビニルケトエステルが工程(c)の後に過分極するか、または式(III)の前記ビニルケトエステルが工程(c)の後に過分極および加水分解される、請求項2から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
式(I)または(VI)の化合物
【化7】

(式中、
RはHまたはD、特にHであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)。
【請求項9】
シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法であって、
a)式(VII)の化合物
【化8】

、および
アセチレン(式中、アセチレンの0、1または2個のH原子はDで置き換えられていてもよい)を用意する工程と、
b)金属触媒の存在下で、式(VII)の化合物をアセチレンと反応させて、式(III)のビニルケトエステル
【化9】

を得る工程と
(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
RはHまたはDであり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む、方法。
【請求項10】
前記式(VII)の化合物が、特に塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノン、アセトニトリル、酢酸、エーテル、エステル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から、特に塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノン、トルエンまたはそれらの混合物から、より特には塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノンまたはそれらの混合物から選択される溶媒に溶解され、前記溶媒が場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択され、
特にクロロホルム、ジクロロメタン、クロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンから選択され、
前記溶媒が、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい、
請求項9または10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属触媒が、イリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒、特にイリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒から選択される、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記金属触媒が、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択され、
特に、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド-二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択される、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)が≦160℃、特に≦60℃の温度で行われる、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)が、重合禁止剤、特にヒドロキノン、キニーネおよびカテコールから選択される重合禁止剤の存在下で行われる、請求項9から14のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NMRシグナルを増強する過分極剤の調製に適したビニル化ケトエステルを合成する方法に関する。さらに、本発明は、ビニル化ケトエステル自体、ならびにそれらの合成の中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)およびその断層撮影モダリティ磁気共鳴画像法(MRI)の現象は、分析および臨床診断において広い適用性を有する。NMRは本質的に感度の低い現象であり、これが感度を改善するために過分極戦略が考案された理由である。したがって、過分極は、正常/熱分極シグナルと比較してNMRシグナルを数桁増強するプロセスである。過去数年において、過分極代謝産物の使用は、患者においてさえも疾患を研究するために、前臨床および臨床研究の分野に導入された。最新技術は、動的核分極(DNP)である。この手順では、典型的には13Cおよび15N同位体富化分子が使用され、最も有名な例は13C富化ピルバートである。分子は、専用の超伝導高磁場磁石内のラジカルの存在下で2K以下の極低温に冷却される。その低温で、数十分から数時間にわたるマイクロ波の照射は、ラジカルの高度に分極された電子スピンの所望の分子のヘテロ核への分極移動をもたらす。ヘテロ核は、プロトン、H以外のスピンである。プロトンはまた、記載された手順によって分極され得るが、前臨床または臨床研究にはあまり関連しない。その後、目的の過分極分子は急速に解凍され、リアルタイムで代謝変換を直接プローブできるため、シグナル増強磁気共鳴造影剤として使用することができる。
【0003】
過分極の別の技術は、パラ水素誘起分極(PHIP)である。これはDNPよりも速い手法であり、数十分から数時間ではなく数秒で代謝産物を分極化する。代謝産物をシグナル増強するために、
A)水素のパラ-スピン異性体と急速に反応することができ、
B)高度のシグナル増強をもたらすことができ、
C)目的の分子に迅速に変換することができる、
適切な前駆体分子が必要とされる。
【0004】
PHIPアプローチを使用して、過分極した場合のアセタート、ラクタートおよびピルバートを含むいくつかの代謝産物。しかしながら、同位体富化化合物の得られた分極は、DNPによって達成可能な分極よりも1桁低いままである。そのような代謝造影剤に対してPHIPによって同様の分極度が達成される場合、これにより、PHIP技術が専用の高磁場磁石を必要としないため、造影剤の生成を費用効率が高く、桁違いに速く、医療機関に広く適用可能にする機会がもたらされる。対照的に、パラ-水素が適切な前駆体によって反応する携帯型低磁場装置のみが必要である。
【0005】
これまでのところ、NMR実験は、シグナル増強造影剤を生成するための最適な結果を理論的にもたらすために考案されている。しかしながら、ラクタートおよびピルバートを含む重要な代謝産物について最大のシグナル増強を促進する化学前駆体は存在しない。文献研究は、ビニルカルボン酸(例えば、酢酸ビニル、乳酸ビニルおよびピルビン酸ビニル)が最も有望な前駆体分子であることを示している。分子は公知であるが、重水素での同位体標識はこれまで達成されていない。PHIPによって最適なシグナル増強を達成するためには、13C原子が前駆体に含まれる必要があるだけでなく、理想的には少なくともビニル官能基が重水素化されている必要がある。これは、これまで克服されていない課題である。
【0006】
本発明は、ケトエステルのビニルエステルを合成することを可能にする新規な化学的手順に関する。このクラスの分子の最も有名な代表例は、ピルビン酸ビニル(α-ケトエステル)である。注目すべき他の分子は、ケトイソカプロン酸およびアセト酢酸のビニルエステル(ケトエステル)である。代謝産物の遊離酸がしばしばより望ましいが、非切断エステルも造影剤として使用することができる。上記の公知の方法および生成物とは対照的に、本発明は、過分極剤の調製に適したビニル化ケトエステルの費用対効果の高い調製を可能にする。
【0007】
上記の最新技術に基づいて、本発明の目的は、NMRシグナルを増強する過分極剤の調製に適したビニル化ケトエステルを合成する手段および方法を提供することである。この目的は、本明細書の従属請求項、例、図面および一般的な説明に記載されているさらなる有利な実施形態を用いて、本明細書の独立請求項の主題によって達成される。
【発明の概要】
【0008】
本発明の第1の態様は、式(III)のビニルケトエステル
【化1】

(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
、XおよびXは互いに独立してHまたはDであり、X、XおよびXの少なくとも1個はDであり、
nは、0から16の整数である)
に関する。
【0009】
本発明の第2の態様は、シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法に関する。本方法は、
a)式(I)の化合物
【化2】

を用意する工程と、
b)式(II)の酢酸ビニル
【化3】

を使用することによる式(I)の化合物のビニル化と、
c)UV光を照射して、式(III)のビニルケトエステル
【化4】

を得る工程と
(式中、
RはHまたはDであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはDであり、
Aは、-CH、-CHD、-CHDまたは-CDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む。
【0010】
本発明の第3の態様は、式(I)または(VI)の化合物
【化5】

(式中、
RはHまたはDであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはDであり、
nは、0から16の間の整数である)
に関する。
【0011】
本発明の第4の態様は、シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法に関する。本方法は、
a)式(VII)の化合物
【化6】

、および
アセチレン(式中、アセチレンの0、1または2個のH原子はDで置き換えられていてもよい)を用意する工程と、
b)金属触媒の存在下で、式(VII)の化合物をアセチレンと反応させて、式(III)のビニルケトエステル
【化7】

を得る工程と
(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
RはHまたはDであり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語および定義
本明細書を解釈する目的で、以下の定義が適用され、適切である場合には常に、単数形で使用される用語は複数形も含み、その逆も同様である。以下に記載されるいずれかの定義が参照により本明細書に組み入れられるいずれかの文書と矛盾する場合、記載されている定義が優先するものとする。
【0013】
本明細書で使用される場合、「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」および「含む(including)」という用語、およびその他の類似の形態、ならびにそれらの文法的等価物は、これらの単語の任意の1つに続く1つまたは複数の項目が、このような1つまたは複数の項目の網羅的な列挙であることを意味しないか、列挙された1つまたは複数の項目のみに限定されることを意味しないという点で、意味において等価であり、非限定的であることが意図される。例えば、構成要素A、BおよびCを「備える(comprising)」物品は、構成要素A、BおよびCからなる(すなわち、のみを含有する)ことができ、または構成要素A、BおよびCのみならず1種以上の他の成分も含有することができる。したがって、「備える(comprises)」およびその類似の形態、ならびにそれらの文法的等価物は、「から本質的になる(consisting essentially of)」または「からなる(consisting of)」の態様の開示を含むことが意図され、理解される。
【0014】
値の範囲が提供される場合、文脈が明確に別段の指示をしない限り、その範囲の上限と下限の間にある、下限の単位の10分の1までの各介在する値、およびその記載された範囲内の任意の他の記載されたまたは介在する値は、記載された範囲内の任意の具体的に除外された限界に服して、本開示内に包含されることが理解される。記載された範囲が限界の一方または両方を含む場合、それらの含まれた限界の一方または両方を除外した範囲も本開示に含まれる。
【0015】
本明細書における「約」値またはパラメータへの言及は、その値またはパラメータ自体に向けられた変動を含む(および記載する)。例えば、「約X」という記載は、「X」という記載を含む。
【0016】
本明細書で使用される場合、添付の特許請求の範囲を含めて、単数形「a」、「or」および「the」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含む。
【0017】
本明細書の文脈における「アルキル」という用語は、飽和直鎖または分岐炭化水素に関する。例えば、本明細書の文脈におけるC-Cアルキルは、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有する飽和直鎖または分岐炭化水素に関する。C-Cアルキルの非限定的な例としては、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル(イソプロピル)、n-ブチル、2-メチルプロピル、tert-ブチル、n-ペンチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、n-ヘキシル、3-メチル-2-ペンチルおよび4-メチル-2-ペンチルが挙げられる。同様に、C1-16アルキルという用語は、1から16個の炭素原子を有する飽和直鎖または分岐炭化水素に関する。
【0018】
「炭化水素」という用語は、CおよびH原子からなる化合物に関する。典型的には、C原子の数は、≦12、特に≦8、より特には≦6である。化合物は、直鎖、分岐または環状であり得る。炭化水素は、1個以上の二重結合を含み得る。非限定的な例は、直鎖または分岐アルキルおよびベンゼンである。
【0019】
「塩素化炭化水素」という用語は、少なくとも1個のH原子がClで置き換えられている炭化水素に関する。非限定的な例は、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼンである。
【0020】
「ジクロロエタン」という用語は、1,1-ジクロロエタンおよび1,2-ジクロロエタン、特に1,2-ジクロロエタンに関する。
【0021】
「トリクロロエタン」という用語は、1,1,1-トリクロロエタンおよび1,1,2-トリクロロエタンに関する。
【0022】
「テトラクロロエタン」という用語は、CClの異性体、特に1,1,1,2-テトラクロロエタンおよび1,1,2,2-テトラクロロエタン、より特には1,1,2,2-テトラクロロエタンに関する。
【0023】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0024】
詳細な説明
本発明の第1の態様は、式(III)のビニルケトエステル
【化8】

(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはDであり、ここで、X、XおよびXの少なくとも1個はDであり、特に、X、XおよびXのすべてはDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
に関する。
【0025】
式(III)のビニルケトエステルは、シグナル増強磁気共鳴画像法における使用に適している。ビニルケトエステルは、ピルバートなどの代謝産物の最大シグナル増強を促進する前駆体である。PHIPを介して最適なシグナル増強を達成するために、13Cスピンが前駆体に含まれる必要があるだけでなく、理想的には少なくともビニル官能基が重水素化されるべきである。本発明の第1の態様による化合物は、完全にまたは部分的に、特に完全に重水素化されたビニル部分を特徴とする、すなわち、X、XおよびXの少なくとも1個がDであり、特にX、XおよびXのすべてがDである。
【0026】
シグナル増強磁気共鳴画像法のための造影剤を調製するために、ビニルケトエステルの炭素は、pHでのH分極移動によって過分極される。得られたエステルは、造影剤としてそのまま使用されてもよく、またはピルバートなどの過分極代謝産物を造影剤として使用するために加水分解によって切断されてもよい。
【0027】
特定の実施形態では、式(III)の化合物の少なくとも1個のC原子は13Cである。
【0028】
特定の実施形態では、X、XおよびXは、Dである。
【0029】
特定の実施形態では、式(III)の化合物は、部分的または完全に重水素化されている。
【0030】
特定の実施形態では、式(III)の化合物は、完全に重水素化されている。
【0031】
特定の実施形態では、式(III)のビニルケトエステルは、部分的または完全に重水素化されたピルビン酸ビニル、ケトイソカプロン酸ビニルまたはアセト酢酸ビニルである。
【0032】
特に、R、R、R、R、R、X、X、Xおよびnの定義に関して、本発明の第2の態様の実施形態を参照する。
【0033】
本発明の第1の態様に記載されるようなビニルケトエステルは、感光性保護基を使用する方法またはアセチレンを使用する方法によって調製され得る。感光性保護基を使用する方法は、本発明の第2の態様に記載され、アセチレンを使用する方法は、本発明の第4の態様に記載される。
【0034】
本発明の第2の態様は、シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法に関する。本方法は、
a)式(I)の化合物
【化9】

を用意する工程と、
b)式(II)の酢酸ビニル
【化10】

を使用することによる式(I)の化合物のビニル化と、
c)UV光を照射して、式(III)のビニルケトエステル
【化11】

を得る工程と
(式中、
RはHまたはD、特にHであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキル、さらにより特にはC1-3アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびD、特にDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
Aは、-CH、-CHD、-CHDまたは-CD3、特に-CDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む。
【0035】
本発明の第2の態様に記載の方法は、シグナル増強磁気共鳴画像法における使用に適したビニルケトエステルを提供することを目的とする。ビニルケトエステルは、ピルバートなどの代謝産物の最大シグナル増強を促進する前駆体である。PHIPを介して最適なシグナル増強を達成するために、13Cスピンが前駆体に含まれる必要があるだけでなく、理想的には少なくともビニル官能基が重水素化されるべきである。
【0036】
適切なビニルケトエステルを生成する公知の試みは、低収率(約10%)および重水素化プロトンの損失を被る。
【0037】
本発明の第2の態様の方法は、重水素を失うことなく穏やかな条件下でビニル化を可能にする光切断性保護基を利用する。非常に良好な収率が達成される(>80%)。
【0038】
シグナル増強磁気共鳴画像法のための造影剤を調製するために、ビニルケトエステルの炭素は、pHでのH分極移動によって過分極される。得られたエステルは、造影剤としてそのまま使用されてもよく、またはピルバートなどの過分極代謝産物を造影剤として使用するために加水分解によって切断されてもよい。
【0039】
特定の実施形態では、R、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたC1-3アルキルから選択される。
【0040】
特定の実施形態では、RおよびRはHまたはDであり、RはH、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキル、さらにより特にはC1-3アルキルから選択される。
【0041】
特定の実施形態では、RおよびRはHまたはDであり、RはH、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたCアルキルから選択され、特にH、Dおよびイソプロピルから選択される。
【0042】
重水素化プロトンの損失のリスクを低減するために、ケトエステル部分は完全に重水素化されてもよい。
【0043】
、RおよびRは、互いに独立して、Dおよび完全に重水素化されたアルキル、特に完全に重水素化されたC1-16アルキル、より特には完全に重水素化されたC1-6アルキルから選択される。
【0044】
特定の実施形態では、R、RおよびRは、互いに独立して、Dおよび完全に重水素化されたC1-3アルキルから選択される。
【0045】
特定の実施形態では、RおよびRはDであり、RはDおよび完全に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキル、さらにより特にはC1-3アルキルから選択される。
【0046】
特定の実施形態では、RおよびRはDであり、RはDおよび完全に重水素化されたCアルキルから選択され、特にDおよびイソプロピルから選択される。
【0047】
特定の実施形態では、RはDである。
【0048】
特定の実施形態では、RおよびRはDである。
【0049】
様々な実施形態では、nは0または1である。
【0050】
特定の実施形態では、X、XおよびXは、Dである。
【0051】
特定の実施形態では、Aは-CDである。
【0052】
特定の実施形態では、式(I)の化合物は、式(IV)の化合物
【化12】

を保護することと、
式(V)の保護基
【化13】

を使用することと
(式中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびnは上記のように定義される)
によって調製される。
【0053】
最大のシグナル増強を達成するために、式(IV)の化合物は13C富化されるべきである。
【0054】
特定の実施形態では、式(IV)の化合物の1個以上のC原子は13C原子である。
【0055】
特定の実施形態では、RはHまたは-OCHであり、Rは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、RはHまたはC1-3アルキルであり、pは0から6の間の整数である。
【0056】
適切な保護基は、RおよびRがHである式(V)の化合物ならびに以下の化合物である。
【化14】
【0057】
特定の実施形態では、式(I)の化合物の調製は、トルエン中で行われる。
【0058】
式(III)の化合物の収率を高めるために、工程(b)のビニル化を繰り返し行ってもよい。未反応の出発物質(式(I)の化合物)および未反応の重水素化酢酸ビニル(式(II)の化合物)の両方を反応から回収し、再利用することができる。
【0059】
特定の実施形態では、工程(b)におけるビニル化は、繰り返し行われる。
【0060】
ビニル化は、Pd(0)および/またはPd(2+)触媒などの転移エステル化のための触媒の存在下で行われる。
【0061】
特定の実施形態では、工程(b)におけるビニル化は、Pd(OAc)を使用して行われる。
【0062】
保護基は、工程(c)においてUV光を照射することによって切断される。
【0063】
特定の実施形態では、工程(c)のUV光は、200nmから500nmの間、特に365nmの波長を有する。
【0064】
シグナル増強磁気共鳴画像法のための造影剤の調製のために、ビニルケトエステルの炭素は、標準的な方法によってpHでのH-13C分極移動を介して過分極される。得られたエステルは、造影剤としてそのまま使用されてもよく、またはピルバートなどの過分極代謝産物を造影剤として使用するために加水分解によって切断されてもよい。
【0065】
特定の実施形態では、式(III)のビニルケトエステルは過分極される。
【0066】
特定の実施形態では、式(III)のビニルケトエステルは、工程(c)の後に過分極され、加水分解される。
【0067】
特定の実施形態では、式(III)の化合物の少なくとも1個のC原子は13Cである。
【0068】
特定の実施形態では、工程(a)、(b)および(c)は、15℃から35℃の間、特に20℃から25℃の間の温度で行われる。
【0069】
本発明の第3の態様は、式(I)または(VI)の化合物
【化15】

(式中、
RはHまたはD、特にHであり、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
またはRは、Hまたは-OCHであり、
他の部分RまたはRは、H、-OCH、-O-CH-C(=O)-O-CH-CH、-CH-C(=O)-CH(R)-NH-Boc、-O-[CH-CH-O]-H、-O-CH-CH(OH)-CH-OH、-O-CH-C(=O)-NH-CH-CH-NH-Bocから選択され、
は、HまたはC1-3アルキルであり、
pは0から6の間の整数であり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
に関する。
【0070】
特定の実施形態では、部分
【化16】

の少なくとも1個のC原子は13Cである。
【0071】
特定の実施形態では、X、XおよびXの少なくとも1個はDである。
【0072】
特定の実施形態では、X、XおよびXは、Dである。
【0073】
特に、R、R、R、R、R、R、R、R、X、X、Xおよびnの定義に関して、本発明の第1および第2の態様の実施形態を参照する。
【0074】
本発明の第4の態様は、シグナル増強磁気共鳴画像法に適した化合物を調製するための方法に関する。本方法は、
a)式(VII)の化合物
【化17】

、および
アセチレン(式中、アセチレンの0、1または2個のH原子はDで置き換えられていてもよい)を用意する工程と、
b)金属触媒の存在下で、式(VII)の化合物をアセチレンと反応させて、式(III)のビニルケトエステル
【化18】

を得る工程と
(式中、
、RおよびRは、互いに独立して、H、D、および完全にまたは部分的に重水素化されたアルキル、特にC1-16アルキル、より特にはC1-6アルキルから選択され、
各RおよびRは、任意の他のRまたはRから独立して、HおよびDから選択され、
RはHまたはDであり、
、XおよびXは、互いに独立して、HまたはD、特にDであり、
nは、0から16の間、特に0から6の間、より特には0から3の間の整数である)
を含む。
【0075】
本発明の第2の態様に記載のエステル交換反応アプローチは、複数の工程および多量の重水素化エステルの供給を必要とし、そこからビニル基が所望の生成物に転移される。したがって、この手法は、大規模生産に容易に適用できない可能性がある。
【0076】
本発明の第4の態様による方法は、一工程反応でアセチレンおよび適切な溶媒および適切な触媒を使用することによってケト酸のビニルエステルを合成することを可能にする。この方法は、富化されていない化合物、ならびに部分的または完全に重水素化されたケトエステル、ならびに1個または複数の13Cまたは異なる酸素同位体で富化されたエステルに適用可能である。ケトエステルは、重水素化され、少なくとも1個の13C原子を含む場合、本発明の第2の態様に記載されるようにシグナル増強磁気共鳴画像法に使用され得る。
【0077】
完全に重水素化されたビニル部分を含むビニルケトエステルを得るために、式(VII)の重水素化化合物および重水素化アセチレンが使用される。
【0078】
式(VII)の重水素化化合物、例えば重水素化ピルバートは、プロトンを重水素と交換するためにDOを使用することによって得ることができる。重水素の損失を回避するために、アセチレンとの反応に使用される溶媒および添加剤は重水素化されるべきである。また、重水素化アセチレンを使用してもよい。
【0079】
特定の実施形態では、RはDである。特定の実施形態では、R、RおよびRは独立して、D、および完全にまたは部分的に、特に完全に重水素化されたアルキルから選択され、R、RおよびRはDである。
【0080】
特定の実施形態では、アセチレンは完全に重水素化されており、すなわち、2個のH原子がDで置き換えられている。
【0081】
特定の実施形態では、RはDであり、アセチレンは、完全に重水素化されている。
【0082】
特定の実施形態では、R、RおよびRは独立してD、および完全にまたは部分的に、特に完全に重水素化されたアルキルから選択され、R、RおよびRはDであり、アセチレンは完全に重水素化されている。
【0083】
アセチレンガスと酸との反応は過去に研究されてきたが、これまで、ビニル化ケトエステル、最も重要なことにはピルビン酸ビニルを得るためには使用されてこなかった。国際公開第2010/129030号パンフレットでは、白金族金属の均一触媒を使用した安息香酸ビニル(VB)、ヘキサン酸ビニル2-エチル、および様々な他のネオカルボン酸のビニルエステルの形成のみが示された。反応は、無溶媒のカルボン酸中で、またはアセトニトリル、ベンゾニトリル、安息香酸ブチル、鉱油、ジエチレングリコールジブチルエーテルおよびトルエンであるいくつかの溶媒中で行った。
【0084】
本発明者らは、以下の理由が、ピルビン酸ビニルなどのビニルケトエステルの合成を妨げたと考えている。ピルビン酸自体は不安定であり、高温で分解する。さらに、得られたピルビン酸ビニルはさらに不安定であり、60℃を超えると分解し始め、これは金属触媒の存在によって加速される。これは、アセチレンを希釈し、基質が同じ速度で分解し続けながら所望の反応経路をさらに遅くするCOの生成をもたらす。開発された合成のほとんどは、ビニルエステルの十分に迅速な生成のために高温を必要とする。ピルビン酸とケトンとの反応性のために、溶媒は慎重に選択されるべきである。溶媒を含まない無溶媒のピルビン酸についても同様である。
【0085】
本発明の第4の態様による反応は、溶媒なしで式(VII)の無溶媒化合物を使用するか、または適切な溶媒に溶解した式(VII)の化合物を使用して行われ得る。
【0086】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、無溶媒化合物として提供されるか、または溶媒に溶解される。
【0087】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、無溶媒化合物として工程(b)で使用される。本発明の第4の態様による方法では、溶媒が重要な役割を果たす。アセチレンを使用する反応のために提案された溶媒のほとんど(例えば、国際公開第2010/129030号パンフレットに開示されている溶媒)は、反応を遅くすることが見出された。速度および低副反応の観点から、ピルビン酸ビニル生成のための最良の溶媒は、塩素化溶媒、特に1,1,2,2-テトラクロロエタンである。以前は、おそらくアセチレン溶解度が低いために、これらの溶媒は考慮されなかった。
【0088】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、適切な溶媒に溶解される。
【0089】
重水素化ビニルケトエステルを調製する場合、重水素の損失を防ぐために溶媒を重水素化してもよい。特定の実施形態では、溶媒は重水素化されている。
【0090】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノン、アセトニトリル、酢酸、エーテル、エステル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択される溶媒に溶解され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0091】
溶媒の混合物を使用する場合、塩素化炭化水素、特にクロロホルムをトルエンまたはエタノールと混合する。
【0092】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノン、アセトニトリル、酢酸、エーテル、エステル、トルエン、アセトンから選択される溶媒に溶解され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0093】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、特に塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノンまたはそれらの混合物から選択される溶媒中に溶解される。
【0094】
特定の実施形態では、式(VII)の化合物は、塩素化炭化水素、塩素化エーテル、塩素化アセトフェノンから選択される溶媒に溶解され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0095】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0096】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトンから選択され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0097】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、ジエチルエーテルから選択され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0098】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンから選択され、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよい。
【0099】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、4-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンから選択される。
【0100】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、4-クロロアニソールおよびトルエンから選択される。
【0101】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、4-クロロアニソールから選択される。
【0102】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、テトラクロロエタン、およびクロロベンゼンから選択される。
【0103】
特定の実施形態では、溶媒は、クロロホルムまたはテトラクロロメタンである。
【0104】
特定の実施形態では、溶媒は、テトラクロロメタン、特に1,1,2,2-テトラクロロエタンである。
【0105】
触媒として、白金族金属またはレニウムの任意の錯体を使用することができる。しかし、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ジイリジウム(l)ジクロリド([Ir(1,5-cod)Cl])または(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体を使用すると、最高の収率および低い分解速度で最良の結果が得られた。
【0106】
特定の実施形態では、金属触媒は、イリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒から選択される。
【0107】
特定の実施形態では、金属触媒は、イリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒から選択される。
【0108】
特定の実施形態では、金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択される。
【0109】
特定の実施形態では、金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択される。
【0110】
特に、溶媒を用いない式(VII)の無溶媒化合物との反応には、イリジウム触媒、特に(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体が使用される。
【0111】
特定の実施形態では、工程(b)は溶媒なしで行われ、触媒はイリジウム触媒、特に(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体である。
【0112】
特定の実施形態では、工程(b)は溶媒なしで行われ、触媒は、イリジウム触媒、特に(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体であり、および/または工程(b)は、上記のような溶媒、特にクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択される溶媒、より特にはクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンに溶解した式(VII)の化合物を使用して行われ、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよく、触媒は、イリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒、特にイリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒から選択され、より特には、金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択される。
【0113】
特定の実施形態では、工程(b)は、上記のような溶媒、特にクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択される溶媒、より特にはクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンに溶解した式(VII)の化合物を使用して行われ、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよく、触媒は、イリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒、特にイリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒から選択され、より特には、金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択される。
【0114】
ケトエステル、特にピルビン酸ビニルは、本発明の第4の態様に記載の経路によって穏やかな条件でのみ合成することができる。温度は、特にピルビン酸ビニルを調製する場合、プロセス全体にとって重要である。ピルビン酸自体は不安定であり、高温で分解する。さらに、得られたピルビン酸ビニルはさらに不安定であり、60℃を超えると分解し始め、これは金属触媒の存在によって加速される。これは、アセチレンを希釈し、基質が同じ速度で分解し続けながら所望の反応経路をさらに遅くするCOの生成をもたらす。公知の合成のほとんどは、ビニルエステルの十分に迅速な生成のために高温を必要とする。
【0115】
本発明の第4の態様による方法は、160℃未満の温度で行われるべきである。
【0116】
60℃を超え160℃未満では、基質および生成物の分解は十分に速く、50%の収率しか可能ではない。しかしながら、そのような条件は、高速な生成が必要な場合にも適用され得る。
【0117】
反応は反応蒸留塔で行われ得、ここで生成物は高温ゾーンから除去され、したがってその崩壊を防止し、反応全体を生成物に向かってシフトさせて高収率を得る。
【0118】
特定の実施形態では、工程(b)は、≦160℃の温度で行われる。
【0119】
基質および生成物の分解を回避するために、反応は60℃未満の温度で行われ得る。このような条件下では、プロセスが完了するのに数日かかるが、高い収率を達成することができる。
【0120】
特定の実施形態では、工程(b)は、≦60℃の温度で行われる。
【0121】
特定の実施形態では、工程(b)は溶媒なしで行われ、触媒はイリジウム触媒、特に(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体であり、工程(b)は≦60℃の温度で行われる。
【0122】
特定の実施形態では、工程(b)は溶媒なしで行われ、触媒は、イリジウム触媒、特に(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体であり、および/または工程(b)は、上記のような溶媒、特にクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物から選択される溶媒、より特にはクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンに溶解した式(VII)の化合物を使用して行われ、溶媒は、場合により完全にまたは部分的に重水素化されていてもよく、触媒は、イリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒、特にイリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒から選択され、より特には、金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択され、工程(b)は≦60℃で行われる。
【0123】
特定の実施形態では、工程(b)は、上記の溶媒、特にクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼン、アセトニトリル、酢酸、ジエチルエーテル、ジベンジルエーテル、酢酸エチル、安息香酸ブチル、トルエン、アセトン、エタノールまたはそれらの混合物、より特にはクロロホルム(CHCl)、ジクロロメタン(CHCl)、クロロメタン(CHCl)、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、4’-クロロアセトフェノン、4-クロロアニソールおよびクロロベンゼンから選択される溶媒に溶解した式(VII)の化合物を使用して行われ、溶媒は場合により完全にまたは部分的に重水素化されてもよく、触媒はイリジウム触媒、ロジウム触媒、ルテニウム触媒、パラジウム触媒、オスミウム触媒、白金触媒およびレニウム触媒、特にイリジウム(I)触媒およびロジウム(I)触媒、より特には金属触媒は、1,5-シクロオクタジエン-イリジウム(I)-クロリド-二量体、(1,5-シクロオクタジエン)(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)イリジウム(I)、アセチルアセトナト(1,5-シクロオクタジエン)イリジウム(I)、(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体、ジクロロ(p-シメン)ルテニウム(II)二量体、トリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)ジクロリド、[1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン](1,5-シクロオクタジエン)ロジウム(I)テトラフルオロボラートから選択され、工程(b)は≦60℃の温度で行われる。
【0124】
重合反応を避けるために、重合禁止剤を反応混合物に添加してもよい。公知の重合禁止剤を使用することができる。非限定的な例は、ヒドロキノン、キニーネおよびカテコールである。
【0125】
特定の実施形態では、工程(b)は、重合禁止剤の存在下で行われる。
【0126】
特定の実施形態では、工程(b)は、ヒドロキノン、キニーネおよびカテコールから選択される重合禁止剤の存在下で行われる。
【0127】
触媒の反応性は、添加剤を使用することによって調整することができる。
【0128】
特定の実施形態では、工程(b)は、NaCO、ピルビン酸ナトリウム(NaPyr)および安息香酸から選択される添加剤の存在下で行われる。
【0129】
しかし、このプロセスは無溶媒触媒で最もよく機能する。
【0130】
特定の実施形態では、工程(b)は、触媒の反応性を調節する添加剤なしで行われる。
【0131】
この合成経路は、水素および天然に豊富な同位体を有するピルビン酸ビニルなどのビニルケトエステル、またはH、Hおよび13Cならびにいくつかのまれな場合には異なる酸素同位体の任意の組み合わせを有する同位体濃縮誘導体の生成を提供する。
【0132】
基質を部分的または完全に重水素化するか、または13Cで標識して、標識されたピルビン酸ビニルを生成することができる。
【0133】
シグナル増強磁気共鳴画像法のための造影剤を調製するために、ビニルケトエステルの炭素は、pHでのH分極移動によって過分極される。得られたエステルは、造影剤としてそのまま使用されてもよく、またはピルバートなどの過分極代謝産物を造影剤として使用するために加水分解によって切断されてもよい。
【0134】
特定の実施形態では、式(III)の化合物の少なくとも1個のC原子は13Cである。
【0135】
特定の実施形態では、X、XおよびXは、Dである。
【0136】
特定の実施形態では、式(III)の化合物は、部分的または完全に重水素化されている。
【0137】
特定の実施形態では、式(III)の化合物は、完全に重水素化されている。
【0138】
特に、R、R、R、R、R、R、X、X、Xおよびnの定義に関して、本発明の第1および第2の態様の実施形態を参照する。
【0139】
本発明の任意の態様の特定の実施形態では、1個以上のプロトンが重水素で置き換えられる。本明細書に記載の分子は、完全に重水素化されていてもよい。
【0140】
本発明は、以下の例によってさらに例示され、そこからさらなる実施形態および利点を引き出すことができる。これらの例は、本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲を限定するためのものではない。
【0141】

例1:光切断性保護基を使用するビニルケトエステルの合成
スキーム1に示され、以下に記載されるような光切断性保護基戦略を使用して、重水素化ピルビン酸ビニル(8)を合成した。
【化19】
【0142】
スキーム1:ピルビン酸ビニル(8)の合成。
【0143】
化合物2の合成:ピルビン酸の重水素化
この工程は任意であるが、ピルバートの重水素化はより大きなシグナル増強をもたらし得る。
【0144】
O(6mL)中のピルビン酸(0.5g、5.6mmol)の冷溶液に、DSO(0.135mL、2.45mmol、DO中98%のDSO)を滴下した。得られた溶液を2時間加熱還流した。反応混合物を室温に冷却し、溶液が飽和するまでNaClを添加した。水相をジエチルエーテル(20×15mL)で抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、30℃で真空中で慎重に濃縮して、2を定量的収率で油状物として得た。2のH-NMR分析は、ピルビン酸中に75%のCDおよび25%のCDH基を示した。完全な重水素化を得るために、上記反応を再度行った。
【0145】
あるいは、重水素化ピルバートは、13C富化形態または非富化形態で商業的供給源から得られ得る。
【0146】
化合物3の合成
2(0.79mL、11.6mmol)およびオルトギ酸トリメチル(4.5mL、40.7mmol)の混合物を10℃で撹拌した。この冷溶液に硫酸(0.057mL、1.06mmol)を滴下した。得られた溶液を5~10℃で70分間撹拌し、次いで、ブライン(15mL)の添加によってクエンチした。反応混合物をジクロロメタン(3×15mL)で抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮して、3を無色の油状物として得た。
【0147】
化合物5の合成
トルエン(30mL)中の3(1.16g、8.63mmol)および4(2.33g、10.4mmol)の溶液を加熱還流した。2時間後、溶液を室温に冷却した。有機溶媒を真空中で除去して粗生成物を得、これを水(20mL)で洗浄した。水相をCHCl(3×15mL)で抽出した。合わせた有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。粗物質を、勾配溶媒系(MeOH:CHCl;0:100~5:95)を使用するフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカ)によって精製して、5をオフホワイトの固体として得た。
【0148】
4から誘導される光保護基は、化合物6についての以下の反応において高収率を得るために導入する必要がある。
【0149】
化合物7の合成:ビニル化反応
重水素化出発材料とのビニル化反応について高い収率を得ることは、すべての工程の後に重水素化ピルビン酸ビニルを得るための重要な点である。
【0150】
5(1g、3.34mmol)、Pd(OAc)(0.008g、0.0334mmol)、KOH(0.018g、0.334mmol)および酢酸ビニル-d(6、5mL)の混合物を、N下、室温で24時間撹拌した。未変換の酢酸ビニル-d(6)を短行程蒸留によって回収した。反応混合物をジクロロメタンに希釈し、DO(15mL)で洗浄した。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。粗物質を、勾配溶媒系(EtOAc:石油エーテル;0:100~5:95)を使用するフラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカ)によって精製して、7を無色の液体として得た。
【0151】
未反応の出発物質および未反応の重水素化酢酸ビニルの両方を反応から回収し、再利用することができる。出発物質(5)を、CHCl中の10%のMeOHでカラムを洗浄することによって回収した(0.43g)。回収した出発原料(5)と回収した酢酸ビニル(6)を再度ビニル化反応に供し、7(合わせた収率として0.89g、81%)を無色液体として得た。
【0152】
化合物8の合成
以下に記載されるような光保護基の除去は、所望のビニルエステルをもたらす。
【0153】
CHCN(20mL)中の7(0.42g、1.56mmol)の透明な溶液に、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP、2.5mL、HO中0.1M)をDO(3.7mL)に添加した。溶液に、単色光源からのUV光(365nm、LED電球)を2時間照射した。反応混合物をCHCl(25mL)で希釈し、DO(30mL)で洗浄した。有機層をNaSOで乾燥させ、濾過し、30℃で真空中で慎重に濃縮した。粗物質を減圧下(250mbar)、75℃のヒーター温度でのクーゲルロール蒸留での蒸留によって精製して、8を無色の油状物として得た。
【0154】
過分極
化合物8をスキーム2に示すように過分極し、切断してNMR造影剤を得た。
【化20】
【0155】
スキーム2:pHでのH分極移動とそれに続く塩基性条件下での加水分解によるピルビン酸ビニルの炭素の過分極;*印の原子は、分極13Cスピンを示す。任意のヘテロ核、この例では13Cは、過分極することができる。
【0156】
例2:アセチレンを用いたビニルケトエステルの合成
ピルビン酸ビニルを、スキーム3に示され、以下に記載されるように合成した。一般的なスキームは、重水素および/または13Cで標識されたピルビン酸ビニルの生成にも適用可能である。重水素化ビニル部分を有するピルビン酸ビニルの合成のために、スキーム3に示すように、-COOH部分の代わりに-COOD部分を有するピルビン酸で合成を開始する。重水素化ピルバートは、DOを使用してプロトンを重水素で交換することによって得ることができる。同様に、-CH部分を-CDに変換することができる。重水素の損失を回避するために、アセチレンとの反応に使用される溶媒および添加剤を重水素化することができる。また、重水素化アセチレンを使用してもよい。
【化21】
【0157】
スキーム3:アセチレンを使用するピルビン酸ビニルの合成。触媒、添加剤および溶媒を表1に列挙する。
【0158】
基質を部分的または完全に重水素化するか、または13Cで標識して、標識されたピルビン酸ビニルを生成することができる。
【0159】
触媒として、白金族金属またはレニウムの任意の錯体を使用することができる。しかし、ビス(1,5-シクロオクタジエン)ジイリジウム(l)ジクロリド([Ir(1,5-cod)Cl])および(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体を使用すると、最高の収率および低い分解速度で最良の結果が得られた。
【0160】
添加剤1(表1参照)を使用して触媒反応性を調整する。いくつかの添加剤を試みたが、無溶媒触媒を用いると、プロセスは最もよく機能する。重水素化ピルビン酸ビニルを得るために反応を行う場合、添加剤1を重水素化して重水素の損失を回避することができる。例えば、重水素化エタノールを使用してもよい。
【0161】
添加剤2は、重合禁止剤である。ヒドロキノン、キニーネおよびカテコールが首尾よく使用されたが、任意の公知の重合禁止剤も使用することができる。重水素化ピルビン酸ビニルを得るために反応を行う場合、添加剤2を重水素化して重水素の損失を回避することができる。
【0162】
いくつかの溶媒および触媒を、反応速度に対するそれらの影響に関して試験した(表1参照)。NMR測定によって反応を監視して、異なる時間における遊離物と生成物の比を定量した。
【0163】
溶媒は、反応において重要な役割を果たす。アセチレンを使用する反応のために提案された溶媒のほとんど(例えば、国際公開第2010/129030号パンフレットに開示されている溶媒)は、反応を遅くすることが見出された。速度および低副反応の観点から、ピルビン酸ビニル生成のための最良の溶媒は、塩素化溶媒、特に1,1,2,2-テトラクロロエタンである。以前は、おそらくはアセチレン溶解度が低いという理由で、これらの溶媒は考慮されなかった。
【0164】
あるいは、無溶媒のピルバートを使用してもよい。(1,5-シクロオクタジエン)(メトキシ)イリジウム(I)二量体を触媒として用いる場合は、溶媒なしの反応が行われ得る。反応は、例えばクロロホルムまたはテトラクロロエタンなどの塩素化溶媒中で行われる反応と比較して遅い。しかしながら、溶媒なしの反応条件を選択することにより、生成コストを低減することができる。
【0165】
温度はプロセス全体にとって重要である。60℃を超えると、基質および生成物の分解は十分に速く、50%の収率しか可能ではない。しかし、この温度未満では、プロセスが完了するのに数日かかる。
【0166】
この合成経路は、水素および天然に豊富な同位体を有するビニルケトエステル/ピルビン酸ビニル、またはH、Hおよび13Cならびにいくつかのまれな場合には異なる酸素同位体の任意の組み合わせを有する同位体濃縮誘導体の生成を提供する。
【表1-1】

【表1-2】
【0167】
触媒[Ir(COD)Cl]を使用したテトラクロロエタン中のピルビン酸ビニルの合成
1mlのピルビン酸を1mlのテトラクロロエタンに溶解し、10mgの触媒[Ir(COD)Cl]を添加する。続いて、溶液を脱気し、1.8barのアセチレンガスで加圧する。反応を、37℃で一定のアセチレン圧力下で行う。3日後、ピルビン酸を、NMRを用いて決定してピルビン酸ビニルに変換する。
【0168】
プロトン化または重水素化形態のアセチレンガスは、供給業者から直接使用することができる。あるいは、アセチレンは、CaC(炭化カルシウム)と水との反応によって生成することができる。重水素化アセチレンを得るためには、酸化重水素(重水)を使用する必要がある。
【化22】

【表2】
【0169】
調製:
NMR管中、27mgのピルビン酸を5mgの[Ir(COD)Cl]と共に0.5mLの溶媒に溶解した。溶液および管を5回真空引き(pulling vacuum)することによって脱気した。その後、管を2.5絶対barのアセチレンガス(ガス体積2mL)で加圧し、55℃の油浴中に保った。NMRにより、粗生成物中の変換が観察された。トルエンおよびクロロベンゼン中、ピルビン酸(約340mM)は完全に溶解せず、反応はそれぞれ205mMおよび215mMの濃度から開始する。
【0170】
重水素化ピルビン酸ビニルを含む大量反応
ピルビン酸ビニルの大量調製:
0.5Lフラスコ中、506mgのピルビン酸を100mgの[Ir(COD)Cl]と共に10mLのクロロホルムに溶解した。溶液および管を5回真空引きすることによって脱気した。その後、フラスコを1.1絶対barのアセチレンガス(約500mLのガス体積)で加圧し、激しく混合しながら55℃の油浴中に保った。NMRにより、6日後の粗生成物中で44%の変換が観察された。蒸留後、収率26%に相当する169mgのピルビン酸ビニルが得られた。
【0171】
重水素化化合物の調製:
100mlの丸底フラスコ中、70mgの重水素化ピルビン酸を、20mgの[Ir(COD)Cl]と共に3mLの4-クロロアニソールに溶解した。溶液および管を5回真空引きすることによって脱気した。その後、フラスコを1barの重水素化アセチレンガス(ガス体積100mL)で加圧し、60℃で48時間撹拌した。NMRにより、粗生成物中でピルバートのピルビン酸ビニル(重水素化)への40%の変換が観察された。
【0172】
報告文献との比較
ピルビン酸ビニル(非標識)の生成は、文献(Chukanov Nikita V.ら)に6%の収率で報告されている。ピルビン酸ビニルを13C標識で生成することもできるという進歩を含むより最近の刊行物(Carla Carreraら)は、8%のピルバートに関する全収率について報告している。ピルバートをアセチレンと直接反応させると、蒸留後に26%の収率が達成される。NMRによって観察されたピルバートからラクタートへの変換は50%である。
【0173】
重水素化ピルビン酸ビニルの使用は、造影剤の前駆体として特に有用である。上記で引用したものと同じ最新技術は、潜在的な造影剤としてのプロトン化ピルビン酸ビニルの使用を実証している。そのような造影剤の有効性は、分極として文献に報告されており、通常はパーセントで示される。それにより、基礎となる物理学を考慮することによって示されるように、0%が最も低く、100%が最も高い効率である。最新技術は、この適切な前駆体によって得られる13Cピルバートの3.2%(Chukanov Nikita V.ら)および3.8%の分極(Carla Carreraら)について報告している。
【0174】
重水素化前駆体を使用する場合、ピルバート(重水素化ピルビン酸ビニルから生成される最終造影剤)の分極収率28%が本発明で報告されており(図1)、これは有効性においてほぼ桁違いに優れており、したがって最新技術に対する重要な改善である。ピルビン酸ビニルなどのビニルケトエステルの重水素化前駆体は、これまでどこにも報告されていない。
【0175】
さらに注目すべきことに、試験されたプロトン化化合物から重水素化化合物を用いてそれを行うことへの置き換えは簡単ではない。いわゆる同位体効果は、反応に多大な影響を及ぼす。これは、生物学的状況(臨床用途に承認されておらず、異なる特性を有する酵素反応または新しい薬物)で最も頻繁に遭遇する。
【図面の簡単な説明】
【0176】
図1図1は、重水素化ビニル前駆体から得られた13C増強ピルバートのNMRスペクトル(1スキャン)および同じ化合物の非増強スペクトルとのその比較を示し、これを100倍に拡大し、200の平均値で測定した図である。分極は28%である。
【0177】
参考文献
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Saikiran et al. (2017) “Efficient near infrared fluorescence detection of elastase enzyme using peptide-bound unsymmetrical squaraine dye”. Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters 27 (17): 4024-4029
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図1
【国際調査報告】