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特表2024-523351フマル酸ジロキシメルの合成による調製
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】フマル酸ジロキシメルの合成による調製
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/404 20060101AFI20240621BHJP
   A61K 31/4015 20060101ALN20240621BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C07D207/404
A61K31/4015
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577610
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 US2022033409
(87)【国際公開番号】W WO2022266082
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/210,660
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514198367
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】クウォク,ダウ-ロング,アルバート
(72)【発明者】
【氏名】フェイ,チャオ
(72)【発明者】
【氏名】アーダム,アーウィン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーカー,ドナルド
(72)【発明者】
【氏名】グロフマン,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】モール,ジェンス
(72)【発明者】
【氏名】ブシェル,ジャニナ
【テーマコード(参考)】
4C086
4H039
【Fターム(参考)】
4C086AA04
4C086BC08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA20
4C086ZA02
4H039CA66
4H039CG10
(57)【要約】
以下の構造式(I):
によって表されるフマル酸ジロキシメルを調製する方法が開示される。この方法は、炭酸エチレンをスクシンイミドと反応させてヒドロキシエチルスクシンイミド中間体を形成させること、及びその中間体をフマル酸モノメチルと反応させて製剤化合物を形成させることを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式:
【化1】
によって表される製剤化合物を調製する方法であって、
塩基の存在下で炭酸エチレンをスクシンイミドと反応させて以下の構造式:
【化2】
によって表されるヒドロキシエチルスクシンイミド中間体を形成させること、
及び前記中間体をフマル酸モノメチル
【化3】
と反応させて前記製剤化合物を形成させること、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記中間体を単離せずに前記中間体をフマル酸モノメチルと反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中間体を、カルボン酸カップリング剤及び塩基性触媒の存在下でフマル酸モノメチルと反応させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記カルボン酸カップリング剤が、カルボジイミド、ホスホニウム試薬、アミニウム/ウラニウム-イモニウム(imonium)試薬、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、ビス-トリクロロメチルカルボナート及び1,1’-カルボニルジイミダゾールから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボン酸カップリング剤がカルボジイミドである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボジミドが、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カルボジミドが、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒塩基がアミン塩基である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒塩基が、ジメチルアミノピリジンまたは1-メチルイミダゾールである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記炭酸エチレンとスクシンイミドとの反応が、塩基の存在下で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基が非求核性アミン塩基である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記非求核性アミン塩基が、ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
以下の構造式:
【化4】
によって表される製剤化合物を調製する方法であって、
以下の構造式:
【化5】
によって表されるヒドロキシエチルスクシンイミドを、
以下の構造式:
【化6】
によって表されるフマル酸モノメチルと、
N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩、例えば、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩、及び塩基性触媒の存在下で反応させて、前記製剤化合物を形成させることを含む、前記方法。
【請求項14】
前記触媒塩基が、ジメチルアミノピリジンまたは1-メチルイミダゾールである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記反応がアセトン中で行われる、請求項14または15に記載の方法。
【請求項16】
以下の構造式:
【化7】
によって表される製剤化合物を調製する方法であって、
a)メタノールと
【化8】
によって表される出発物質とを反応させて、
【化9】
によって表される中間生成物を形成させるステップ、及び
b)前記中間生成物を塩化チオニルと反応させて前記製剤化合物を形成させるステップを含む、前記方法。
【請求項17】
前記ステップb)の反応が、前記中間生成物の単離をせずに行われる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
最初の反応が、溶媒としてのトルエン中で行われる、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
出発物質に対して0.02~0.10モル当量の塩化チオニルが使用される、例えば、出発物質に対して0.04~0.06モル当量の塩化チオニル、例えば、出発物質に対して0.05モル当量の塩化チオニルが使用される、請求項16、17または18に記載の方法。
【請求項20】
以下の構造式:
【化10】
によって表される製剤化合物を調製する方法であって、
無水コハク酸をヒドロキシエチルアミンと反応させて以下の構造式:
【化11】
によって表される中間体を形成させ、
前記中間体を、好ましくは前記中間体の単離をせずに、ジイソプロピルエチルアミン等の非求核性アミン塩基と反応させることを含む、前記方法。
【請求項21】
前記反応が、2-ブタノール等のアルコール系溶媒中で行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記中間体と前記非求核性塩基との前記反応に酢酸を加える、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
無水コハク酸に対して0.1~0.3モル当量の酢酸を加える、例えば、無水コハク酸に対して0.1~0.2モル当量の酢酸を加える、請求項20~22のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年6月15日に出願された米国仮出願第63/210660号の利益を主張するものであり、その教示全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
フマル酸ジロキシメルを調製するための改良された方法を開示する。この方法は、炭酸エチレンをスクシンイミドと反応させてヒドロキシエチルスクシンイミド中間体を形成させること、及びその中間体をフマル酸モノメチルと反応させてフマル酸ジロキシメルを形成させることを含む。
【背景技術】
【0003】
フマル酸ジロキシメルはVumerityという商標名で販売されており、再発型多発性硬化症の治療に使用される薬剤である。フマル酸ジロキシメルは米国特許第8,669,281号に初めて開示され、2019年10月に米国で医学的使用に承認された。
【0004】
新薬の開発成功には、大規模製造のために修正が可能な費用効率の高い高収率合成が必要である。米国特許第8,669,281号には、フマル酸モノメチルを、カップリング剤2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルアミニウムテトラフルオロボラート(以下、「TBTU」とする)の存在下でヒドロキシエチルスクシンイミドと以下のように反応させることによってフマル酸ジロキシメルを調製することが開示されている:
【化1】
(この反応を本明細書では、以下、「カップリング反応」とする)。しかしながら、米国特許第8,669,281号では、このステップの収率がわずか35%であることが報告されている。したがって、カップリング反応を使用したフマル酸ジロキシメルの調製には、必然的に、ヒドロキシエチルスクシンイミドを調製するための追加の反応ステップを加えることが必要となる。したがって、フマル酸ジロキシメルを調製するための改良された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
TBTUカップリング剤を1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(以下、「EDC」とする)に置き換えることにより、カップリング反応の収率が91%に増加することが今回見出された(実施例5及び実施例6を参照のこと)。また、出発物質の炭酸エチレン及びスクシンイミドからヒドロキシエチルスクシンイミドを調製する反応を、カップリング反応と「ワンポット」に組み合わせることができることも見出された。このフマル酸ジロキシメルのワンポット合成の反応順序を以下に概略的に示す:
【化2】
スキーム1
この調製は、全体として高い収率(84%)で進行し、フマル酸ジロキシメルを調製するために使用される他の工程に対して実質的改善を表す(実施例6)。かかる工程はまた、ヒドロキシエチルスクシンイミドの単離をせずに実施可能であることから、その工程が利用する製造設備及び溶媒の点でも効率的である。さらに、その拡張性及び反応時間の点で工程の効率性は高い。
【0006】
以下のスキーム2に示されるフマル酸ジロキシメルの合成においても改善が見出された。これらの改善により、収率の増加、サイクル時間の短縮及び不純物形成のレベル低下がもたらされる。
【化3】
スキーム2
具体的には、フマル酸モノメチルの調製時に出発物質のマレイン酸に対して0.02~0.10当量の塩化チオニルを使用することにより、望ましくないフマル酸副生成物の形成が減少し、それにより再結晶が不要となる(実施例1及び2);ヒドロキシエチルスクシンイミドの調製時にスクシンイミドに対して0.1~0.3当量の酢酸を使用することにより、閉環時間が72時間から39時間に短縮される(実施例3及び4);及びフマル酸ジロキシメルの調製時にカップリング剤としてEDCを使用することにより、収率が92%に増加する(実施例5)。これらの改善のすべてがスケールアップするために修正可能である。これらの発見に基づき、フマル酸ジロキシメルを調製する改良された方法が本明細書に開示される。
【0007】
本発明の一実施形態は、フマル酸ジロキシメルを調製する方法である。かかる方法は、炭酸エチレンをスクシンイミドと反応させてヒドロキシエチルスクシンイミドを形成させ、その後、ヒドロキシエチルスクシンイミドをフマル酸モノメチルと反応させてフマル酸ジロキシメルを形成させることを含む。一態様では、2つの反応はワンポットで、すなわち、ヒドロキシエチルスクシンイミドを単離することなく行われる。別の態様では、反応は、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩、例えば、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩、及び塩基性触媒の存在下で行われる。
【0008】
本発明の別の実施形態は、フマル酸モノメチルを調製する方法である。かかる方法は、a)メタノールと無水マレイン酸を反応させて
【化4】
によって表される中間生成物を形成させるステップ、及びb)中間生成物を触媒量の塩化チオニルと反応させてフマル酸モノメチルを形成させるステップを含む。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態は、ヒドロキシエチルスクシンイミドを調製する方法である。かかる方法は、無水コハク酸をヒドロキシエチルアミンと反応させて以下の構造式:
【化5】
によって表される中間体を形成させ、
その後、この中間体を、好ましくは中間体の単離をせずに、ジイソプロピルエチルアミン等の非求核性アミン塩基と反応させて、ヒドロキシエチルスクシンイミドを形成させることを含む。反応速度を高めるために、中間体と非求核性アミン塩基との反応に酢酸(例えば、無水コハク酸に対して0.1~0.3当量、好ましくは0.1~0.2当量の酢酸)を加えることが好ましい。
【0010】
本発明のさらに別の実施形態は、フマル酸ジロキシメルを調製する方法である。かかる方法は、ヒドロキシエチルスクシンイミドを、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩、例えば、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩、及び塩基性触媒の存在下でフマル酸モノメチルと反応させて、フマル酸ジロキシメルを形成させることを含む。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、フマル酸ジロキシメルを調製するための改良された工程を対象とする。一工程では、スクシンイミドと炭酸エチレンと反応させてヒドロキシエチルスクシンイミドを中間体として形成させ、その後、ヒドロキシエチルスクシンイミド中間体をフマル酸モノメチルと反応させる。この2つの連続ステップを「ワンポット」で、すなわち、ヒドロキシエチルスクシンイミドを単離することなく行うことができる。
【0012】
ヒドロキシエチルスクシンイミドとフマル酸モノメチルとの反応は、一態様では、カルボン酸カップリング剤の存在下で行われる。「カルボン酸カップリング試薬」は、カルボン酸のヒドロキシル基を活性化させて、例えば、ヒドロキシエチルスクシンイミドのアルコール基等のアルコールによる求核置換に向かわせる。カルボン酸カップリング試薬は当該技術分野で公知であり、例えば、カルボジイミド、ホスホニウム試薬、アミニウム/ウラニウム-イモニウム(imonium)試薬、N-エトキシカルボニル-2-エトキシ-1,2-ジヒドロキノリン、2-プロパンホスホン酸無水物、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩、ビス-トリクロロメチルカルボナート、1,1’-カルボニルジイミダゾール、塩化メシル、プロピルホスホン酸無水物、塩化ピバロイル、塩化オキサリル及び塩化チオニルが挙げられる。一態様では、カップリング試薬は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドまたはその塩、例えば、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩である。この反応に好適な溶媒は当業者には明らかであり、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン溶媒;ジエチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、ジグリム、エチルtert-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のようなエーテル系溶媒;ならびにアセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒が含まれる。一態様では、使用される溶媒はアセトンである。
【0013】
ヒドロキシエチルスクシンイミドとフマル酸モノメチルとの反応は、一態様では、カルボン酸カップリング剤及び塩基性触媒の存在下で行われる。好適な塩基性触媒は、「非生産的」、すなわち、他の様態で反応を妨げることのない、または副反応を引き起こさないものである。好適な塩基性触媒の例としては、ジメチルアミノピリジン、1-メチルイミダゾール及びトリエチルアミンが挙げられる。
【0014】
スクシンイミドと炭酸エチレンとの反応は、一態様では、非求核性アミン塩基の存在下で行われる。一態様では、触媒量の非求核性塩基が使用される。「非求核性アミン塩基」は、第三級アミン、1個もしくは2個の隣接する二置換もしくは三置換炭素原子のあるアミン、または他に場合にアミンが他の分子上の他の近隣官能基によって立体化学的に障害されているアミンである。例としては、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルピペリジン、1,8-ジアザビシクロウンデカ-7-エン、2,6-ジ-tert-ブチルピリジン、2,6-ルチジン、ジメチルアミノピリジン、及びピリジンが挙げられる。一態様では、非求核性アミン塩基は、1,8-ジアザビシクロウンデカ-7-エン(DBU)である。
【0015】
スクシンイミドと炭酸エチレンとの反応は、一態様では、ニートで、すなわち、溶媒を用いずに行われ得る。別の態様では、反応混合物の撹拌を促進するために、反応物が分散するよう反応混合物に少量の溶媒を加えることができる。溶媒を加える場合、炭酸エチレンに対する溶媒の量は、一態様では最大1:1.5w/wである。好適な溶媒としては、エーテル系溶媒、ハロゲン化溶媒、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒またはジメチルホルムアミドもしくはジメチルスルホキシドのような双極性非プロトン性溶媒が挙げられる。一態様では、溶媒はアセトニトリルである。反応は、室温または高温、例えば、50℃~150℃、80℃~120℃または100℃の温度で行われる。
【0016】
一態様では、80%の炭酸エチレンのアセトニトリル溶液(80/20の炭酸エチレン/アセトニトリル(w/w))及び触媒量のDBUに対しスクシンイミドを加える。この混合物を100℃に加熱する。別の態様では、80%の炭酸エチレンのアセトニトリル溶液(80/20の炭酸エチレン/アセトニトリル(w/w))に対しスクシンイミドを加え、95℃に加熱する。その後、触媒量のDBUを加え、反応温度を95℃に4~5時間維持する。その後、温度を2時間かけて105℃まで昇温させ、反応が完了するまでこの温度に維持する。さらに別の態様では、スクシンイミドをトルエン及び触媒量のDBUと合わせ、100℃に加熱する。80%の炭酸エチレンのアセトニトリル溶液(80/20の炭酸エチレン/アセトニトリル(w/w))を4~6時間かけて加え、反応が完了するまで100℃に保持する。炭酸エチレンに対して1体積のトルエン(v/w)が使用される。反応後、トルエンを留去する。大まかに言えば、等モル量のスクシンイミド及び炭酸エチレン及び触媒量のDBUが使用され、例えば、1.06当量のスクシンイミド、1.0当量の炭酸エチレン及び0.02当量のDBUが使用される。
【0017】
フマル酸ジロキシメルを調製するための第2の改良された工程では、出発物質のフマル酸モノメチルは、a)メタノールと
【化6】
によって表される出発物質の無水マレイン酸とを反応させて、
【化7】
によって表される中間生成物(マレイン酸モノメチル)を形成させ、b)この中間生成物を塩化チオニルと反応させてフマル酸モノメチルを形成させることによって調製され得る。その後、ステップc)において、フマル酸モノメチルを、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩(例えば、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩)及び塩基性触媒の存在下でヒドロキシエチルスクシンイミドと反応させ、フマル酸ジロキシメルを形成させる。有利なことに、ステップa)と、ステップb)の反応とをワンポットで、すなわち、中間生成物の単離をせずに行うことができる。
【0018】
ステップb)の反応では、無水マレイン酸に対して0.02~0.10モル当量の塩化チオニルを用いる。一態様では、無水マレイン酸に対して0.02~0.05モル当量の塩化チオニルが使用され、代替法では、無水マレイン酸に対して0.04~0.06モル当量の塩化チオニルが使用され、別の代替法では、無水マレイン酸に対して0.04~0.05モル当量の塩化チオニルが使用され、さらに別の代替法では、無水マレイン酸に対して0.05モル当量の塩化チオニルが使用される。最初の反応は、エーテル系溶媒、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒またはトルエンもしくはキシレン等の芳香族系溶媒等の任意の好適な溶媒中で行われる。一態様では、溶媒としてトルエンが使用される。
【0019】
ステップc)では、フマル酸ジロキシメルは、ヒドロキシエチルスクシンイミドを、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミドまたはその塩(例えば、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩)及び塩基性触媒の存在下でフマル酸モノメチルと反応させることによって調製される。上記のように、塩基性触媒は、一態様では、ジメチルアミノピリジン、1-メチルイミダゾール等のような非生産的な求核触媒である。この反応に好適な溶媒としては、ケトン溶媒、エーテル系溶媒または非プロトン性極性溶媒が挙げられ、一態様では、使用される溶媒はアセトンである。
【0020】
ヒドロキシエチルスクシンイミド
【化8】
は、無水コハク酸をヒドロキシエチルアミンと反応させることによって調製される。反応は、以下の構造式:
【化9】
によって表される中間体を形成させるのに十分な温度にて十分に長い時間行われる。一態様では、温度は45℃~70℃であり、別の方法では55℃~60℃であり、反応時間は1~2時間である。中間体の形成後、これを非求核性アミン塩基と反応させて閉環を生じさせる。非求核性塩基との反応は、好ましくは中間体の単離をせずに行われる、すなわち、非求核性塩基は典型的には、中間体の形成後に単に反応混合物に加えられるだけである。好適な非求核性塩基は上記のとおりであり、一態様ではジイソプロピルエチルアミンである。一態様における非求核性塩基の量は、無水コハク酸に対して1当量未満であり、好ましくは触媒的である。一態様では、閉環を加速させるために、中間体と非求核性アミン塩基との反応に酢酸を加える。一態様では、非求核性アミンと中間体をある時間、例えば、最大3時間反応させた後、反応に酢酸を加える。一態様では、無水コハク酸に対して0.1~0.3当量の酢酸が使用され、別法として、0.1~0.2当量が使用される。アルコール系溶媒、エーテル系溶媒及びアセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒を含め、任意の好適な反応溶媒を使用することができる。一態様では、反応溶媒は2-ブタノールである。
【0021】
本発明は、以下の実施例によって例示され、それらは、いかなる形でも限定することを意図しない。
【実施例
【0022】
実施例1-フマル酸副生成物を最小化するフマル酸モノメチルの調製
【化10】
フマル酸は、この反応における主要な不純物である。実施例5に記載のカップリング反応までフマル酸を持ち越すと、ビス(2-(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)エチル)フマラート不純物:
【化11】
の形成が生じる。下表1に示すように、形成されるフマル酸の量を、使用される塩化チオニルの量により制御可能なことが見出された。
【表1】
最高収率及び最低フマル酸含有量が4~5モル%の塩化チオニルを用いて得られた。フマル酸の制御の点ではそれ以上の獲得は実現されず、5モル%を超える塩化チオニル使用量では収率の増加が観察された。
【表2】
【0023】
実施例2-フマル酸モノメチルの調製
【化12】
反応器に、20℃~25℃で無水マレイン酸(1.00当量、60g)を投入し、その後、無水メタノール(1.20当量、23.53g)を一度に加えた。得られた混合物を撹拌しながら55℃に加熱した。無水マレイン酸からマレイン酸モノメチルへの変換が96%を超えるまで反応をH-NMRによってモニタリングした。過剰のメタノールを真空下で55℃にて30分間除去し、その後、トルエン(30mL)を加え、これも真空下で55℃にて30分間除去した。その後、澄明~淡黄色の濃厚な液体のマレイン酸モノメチルにそれ以上の単離または精製を行わずに、1体積のアセトン及び0.7体積のトルエンを加え、次いで、塩化チオニル(0.05当量、3.64g)を反応器に40℃~45℃で滴加し、得られた溶液を55℃に加熱して、マレイン酸モノメチル含有量が1%未満になるまで、約6時間、HPLCによってモニターした。反応中にフマル酸モノメチル(MMF)が沈殿した。トルエン(138mL)を1時間かけて55℃で加え、その後、反応混合物を40℃に1時間冷却した。水(15mL)を滴加して反応をクエンチし、得られた懸濁液を3時間かけて0℃に冷却し、反応混合物から生成物を結晶化させながらさらに2時間0℃で保持した。
【0024】
懸濁液を濾過し、フィルターケーキを予冷却した(0℃)イソプロピルアルコールと水(90mL)との40:60(v/v)の混合物で洗浄し、そのケーキを真空下で40℃にて12時間乾燥させ、68.61gの表題生成物をふわふわした白色固体として得た。
【0025】
実施例3-変換率の改善されたヒドロキシエチルスクシンイミドの調製
【化13】
ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)塩基の存在下での閉環反応は、経時的に減速すると思われる(表3)。研究から、表4に示すように、酢酸を加えることによってpHを下げると変換率が改善することが明らかになった。
【表3】
【表4】
【0026】
実施例4-ヒドロキシエチルスクシンイミドの調製
【化14】
325kgの無水コハク酸及び1845kgの2-ブタノールを反応器内で55℃に加熱した。その後、182kgのモノエタノールアミンを約1時間かけて加え、約30分撹拌した後、126kgのジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の添加を行った。反応器の内容物を95~100℃に加熱して少なくとも3時間撹拌し、39kgの酢酸(AcOH)を加え、工程内チェックで残存する無水コハク酸が1.5a/a%未満であることが示されるまでさらに39時間撹拌を継続した。その後、温度が60℃を超えないように維持しながら約660リットルの2-ブタノールを真空蒸留により除去した。325Lの2-ブタノールを反応器に加え、真空蒸留を繰り返して約325Lのさらなる留出物を回収した。水分含量を確認し、水分含量が0.5%を超えている場合は2-ブタノールの添加及び除去の工程を繰り返した。反応器を40~60℃に冷却し、その後、471Lのヘプタンを加えた。反応器の内容物を35℃に冷却し、その後、0.33kgの種晶を加えた。撹拌を継続させ、反応器の内容物をさらに-8℃に冷却した。生成物のスラリーを濾過し、877Lのn-ヘプタン/2-BuOHの7:3(v/v)混合物で洗浄し、その後、真空下で最大温度35℃にて乾燥させた。
【0027】
実施例5-2-(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)エチルメチルフマラートの調製:
【化15】
ジャケット付き反応器に、温度を10℃~30℃に維持しながら、アセトン(237mL)、ヒドロキシエチルスクシンイミド(HES)(1.00当量、78.9g)、フマル酸モノメチル(MMF)(1.08当量、77.4g)、及び4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)(1.5mol%、1.02g、0.015当量)を投入した。次いで、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)(1.13当量、119g)を、温度を15℃~35℃に維持しながら2時間かけて少しずつ加えた。反応を、指名生成物への97%超の変換が達成されるまでHPLCによってモニタリングした。
【0028】
反応混合物を1時間かけて4℃に冷却し、温度を4℃に維持しながら50~60分にわたり水(331mL)を加えた。懸濁液を-5℃~5℃にさらに冷却し、その後、濾過した。フィルターケーキを水とアセトン(316mL)の80:20(v/v)混合物で洗浄し、真空下で40℃~60℃にて少なくとも2時間乾燥させて表題生成物を得た。
【0029】
実施例6-フマル酸ジロキシメル:2-(2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)エチルメチルフマラート(Vumerity)の調製
【化16】
反応器に、アセトニトリル(270mL)、炭酸エチレン(1.00当量、270g)、スクシンイミド(1.06当量、321g)を投入し、十分に撹拌しながら70℃に加熱する。その後、バッチに対し1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)(0.02当量、9.34g)を加えた。その後、バッチを100℃に加熱し、この温度を、反応が完了してヒドロキシエチルスクシンイミド(HES)を形成するまで維持した。
【0030】
バッチを50℃に冷却し、アセトン(853g)を投入し、さらに約40℃に冷却した。十分に撹拌しながら、DMAP(0.015当量、5.67g)及びフマル酸モノメチル(MMF)(1.08当量、432g)を加えた。温度を45℃未満に維持しながら、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC-HCl)(1.13当量、664g)を2時間かけて少しずつ加えた。反応の進行をHPLCによってモニターした。反応が完了した後、水(27g)を加えて40℃に30分間保持し、その後、イソプロピルアルコール(942g)の添加を行った。バッチを65℃に加熱して澄明な溶液を得た。その後、バッチを0~10℃に冷却して濾過し、イソプロピルアルコールと水との混合物で洗浄した。ウェットケーキを、乾燥するまで真空下で50℃にて乾燥させ、678g(モル収率:83%)の白色表題化合物を得た。
【国際調査報告】