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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】固体電解質を調製する方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240621BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240621BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/139
C01B25/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577666
(86)(22)【出願日】2022-06-13
(85)【翻訳文提出日】2024-02-06
(86)【国際出願番号】 EP2022065955
(87)【国際公開番号】W WO2022263344
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2106345
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524017168
【氏名又は名称】アンペア エス.ア.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チャキール, モハメド
(72)【発明者】
【氏名】モクレット, マテュー
(72)【発明者】
【氏名】ランドレマ, シャビエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィアレ, ヴィルジニー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ14
5H050AA12
5H050AA19
5H050BA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
(57)【要約】
本発明は、固体電解質を調製する方法であって、以下の工程:(a)硫化物の中から選択される固体電解質を少なくとも硫黄を含む薬剤と混合する工程;(b)工程(a)の終了時に得られた混合物を有機溶媒に添加する工程;(c)得られた固体電解質を回収する工程、を含む、方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質調製の方法であって、以下の工程:
a)硫化物から選択される固体電解質を、少なくとも硫黄を含む薬剤と混合する工程;
b)工程a)の終了時に得られた混合物を、有機溶媒に添加する工程;
c)得られた固体電解質を回収する工程
を含む、方法。
【請求項2】
硫化物から選択される固体電解質が、式:
m+ 12-n-xn+Ch2- 6-x [式中、
AはCu、AgまたはLiを指し、BはGe、Si、AlまたはPを指し、ChはO、S、SeまたはTeを指し、好ましくはChはSを指し、XはCl、BrまたはIを指し;
mは1に等しく;
nは3、4または5に等しく;
xは0から2まで変動する];
Li4-yGe1-y4-y[式中、yは0から1まで変動する];
Li11-z2-z1+z12[式中、MはGe、SnまたはSiを指し、zは0から1.75まで変動する];
好ましくはLi7-tPS6-tX[式中、XはCl、BrまたはIを指し、tは0から2まで変動する]、より優先的にはLiPSX[式中、XはCl、BrまたはIを指す]、さらにより優先的にはLiPSClの材料から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも硫黄を含む前記薬剤が、P、Li、S、LiPS、Liおよびそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも硫黄を含む前記薬剤の含有量が、硫化物から選択される固体電解質と少なくとも硫黄を含む前記薬剤を含む混合物の全重量に対して、1重量%~30重量%、好ましくは5重量%~15重量%、より優先的には8重量%~12重量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、アルコール性溶媒、エーテル、芳香族溶媒およびニトリル、好ましくはアルコール性溶媒、より優先的にはエタノールから選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程c)の終了時に得られた固体電解質を、40℃~550℃、好ましくは40℃~150℃の範囲の温度で乾燥させる工程d)を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
負極、正極およびセパレーターを含む電池セル調製の方法であって、以下の工程:
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法によって固体電解質を調製し、セパレーターを形成する工程;
インクの形態で存在する、前記負極および前記正極を製造する工程;
負極インクおよび正極インクをセパレーター上にコーティングし、その後コーティングを乾燥させる工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の分野に関する。より詳細には、本発明は固体電解質の特定の調製方法に関する。
【0002】
本発明は、全固体電池セル調製の方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
従来、全固体電池は、1つまたは複数の正極、1つまたは複数の負極、セパレーターを形成する固体電解質、アノード集電体およびカソード集電体を含む。
【0004】
電池の性能品質は、イオンおよび電子の輸送特性に依存する。全固体電池の場合、電極規模でのイオン輸送は、固体電解質によって形成された網状組織(network)を通して行われる。こうした電池が作動状態にあるために、この網状組織は浸透され(percolate)、電極の全体積を通してイオン伝導パスが形成され、全ての活物質粒子へのまたは全ての活物質粒子からのイオンの輸送が確保される。
【0005】
全固体電池は、固体電解質として異なるタイプの材料、例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)等などのポリマー、ガーネット、ペロブスカイト、ナシコン等などの酸化物、またはさらに硫化物(LGPS、LPS、LPSCL等)も使用する。
【0006】
全固体電池の使用は一般に、非常に小さいセル(ボタンセル、2Ah未満の容量を有する小さいセル)の使用を通した実験室規模に限定される。
【0007】
全固体電池の製造はこの分野の全てのプレーヤーにとって大きな挑戦であるが、工業的規模で技術を開発する前に解決すべき多くの問題が残っている。これは、この分野のプレーヤーが様々な技術的障害に直面しているためである。
【0008】
特に固体電解質の材料のコストが高いことが、問題の1つである。これは特定の運転条件を遵守しなければならないためである。
【0009】
例えば、酸化物系の固体電解質材料の合成は、高温で実行されるべきである。酸化物系および硫化物系の固体電解質の成形は、難しい。
【0010】
その上、固体電解質材料のイオン伝導度は一般に低い。
【0011】
特に硫化物系の固体電解質材料については、現在の処理は溶解工程を伴わない「乾式」調製プロセスを含む。これらの固体電解質材料を「乾式」プロセスを介して使用することは、多くの不利益をたらす。
【0012】
したがって、固体電解質粒子の大きさを低減することは難しく、それゆえ得られた電極の気孔を低減および/または排除することは難しい。
【0013】
さらにセパレーターを形成する固体電解質を形づくることも難しく、したがって厚さが10~25μmオーダーの薄膜を得ることが不可能なだけでなく、均一な電極を得ることも難しいことを意味する。
【0014】
これらの様々な不利益に起因して、電気化学的性能品質は満足できるものではない。
【0015】
さらに、溶液中の硫化物系固体電解質材料の使用が試みられてきた。残念ながら、固体電解質の化学構造の劣化およびイオン伝導度の低下が観察される。
【0016】
したがって、上述の不利益の克服を可能にする、硫化物から選択される固体電解質の使用を含む固体電解質調製の新規方法を開発する必要性が存在する。
【0017】
驚くべきことに、硫化物から選択される固体電解質の使用を含む固体電解質調製の方法によって、前記固体電解質の改善されたイオン伝導度および劣化しない化学構造を得ることができることを発見した。
【0018】
発明の説明
したがって本発明の主題は、固体電解質調製の方法であり、以下の工程:
a)硫化物から選択される固体電解質を、少なくとも硫黄を含む薬剤と混合する工程;
b)工程a)の終了時に得られた混合物を、有機溶媒に添加する工程;
c)得られた固体電解質を回収する工程
を含む。
【0019】
本発明の別の主題は、本発明の方法による固体電解質の調製を含む、電池セル調製の方法である。
【0020】
本発明の他の利点および特徴は、詳細な説明および添付図面を検討することによって、より明確に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】比較方法の実施に関与する硫銀ゲルマニウム鉱の回折図を示す図である。
図2】本発明による方法の実施に関与する固体電解質の回折図を示す図である。
図3】本発明による方法の実施に関与する固体電解質の回折図を示す図である。
図4】様々な方法の終了時に得られた固体電解質のイオン伝導度を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の本明細書で使用される「~から~まで」という表現は、言及された各境界を含むものと理解すべきであると規定される。
【0023】
上に示されるように、本発明による方法の工程a)によれば、硫化物から選択される固体電解質は、少なくとも硫黄を含む薬剤と混合される。
【0024】
有利には、硫化物から選択される固体電解質は、式:
m+ 12-n-xn+Ch2- 6-x [式中、
- AはCu、AgまたはLiを指し、BはGe、Si、AlまたはPを指し、ChはO、S、SeまたはTeを指し、好ましくはChはSを指し、XはCl、BrまたはIを指し;
- mは1に等しく;
- nは3、4または5に等しく;
- xは0から2まで変動する];
Li4-yGe1-y4-y[式中、yは0から1まで変動する];
Li11-z2-z1+z12[式中、MはGe、SnまたはSiを指し、zは0から1.75まで変動する];
好ましくはLi7-tPS6-tX[式中、XはCl、BrまたはIを指し、tは0から2まで変動する]、より優先的にはLiPSX[式中、XはCl、BrまたはIを指す]、さらにより優先的にはLiPSClの材料から選択される。
【0025】
好ましい実施形態によれば、少なくとも硫黄を含む薬剤は、P、Li、S、LiPS、Liおよびそれらの混合物、好ましくはP、Liおよびそれらの混合物から選択される。
【0026】
有利には、少なくとも硫黄を含む薬剤の含有量は、硫化物から選択される固体電解質と少なくとも硫黄を含む薬剤を含む混合物の全重量に対して、1重量%~30重量%、好ましくは5重量%~15重量%、より優先的には8重量%~12重量%の範囲である。
【0027】
上に示すように、本発明による方法の工程b)によれば、工程a)の終了時に得られた混合物は、有機溶媒に添加される。
【0028】
好ましくは、有機溶媒は、アルコール性溶媒、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル、トルエンなどの芳香族溶媒、およびアセトニトリルなどのニトリルから選択される。
好ましくは、有機溶媒は、アルコール性溶媒、より優先的にはエタノールから選択される。
【0029】
好ましくは、本発明による方法は、工程c)の終了時に得られた固体電解質を、40℃~550℃、好ましくは40℃~150℃の範囲の温度で乾燥させる工程d)を、さらに含んでもよい。
【0030】
本発明の別の主題は、負極、正極およびセパレーターを含む電池セル調製の方法であって、以下の工程:
- 上述のような本発明の方法によって固体電解質を調製し、セパレーターを形成する工程;
- インクの形態で存在する、前記負極および前記正極を製造する工程;
- 負極インクおよび正極インクをセパレーター上にコーティングし、その後コーティングを乾燥させる工程、
を含む、方法である。
【0031】
好ましくは、コーティングは、40℃~150℃の範囲の温度で乾燥される。
【0032】
本発明は、以下の実施例によって非限定的な方法で説明される。
【実施例
【0033】
実施例1:比較の方法
式LiPSClの硫銀ゲルマニウム鉱を使用する。
【0034】
図1(材料1a)に示すように、初期状態の材料の回折図を生成する。硫銀ゲルマニウム鉱の特徴的ピークを、この回折図で識別することができる。
【0035】
第1の方法によれば、材料1bを得るために、硫銀ゲルマニウム鉱をエタノールに添加し、次いで40℃で乾燥させる。次いで図1に示すように、材料1bの回折図を生成する。
【0036】
エタノールに溶解した後に硫銀ゲルマニウム鉱の構造が破壊されたことは、明確に明らかである。いくつかのピークの出現は、材料がいくつかの相に分解していることを示している。
【0037】
第2の方法によれば、材料1cを得るために、硫銀ゲルマニウム鉱をエタノールに添加し、次いで100℃で乾燥させる。次いで図1に示すように、材料1cの回折図を生成する。
【0038】
硫銀ゲルマニウム鉱の構造がエタノールに溶解した後に破壊されたことは、ここでも明確に明らかである。
【0039】
実施例1は、こうした材料は有機溶媒中で不安定であることを示している。したがって、電池セル、特に全固体電池セルの調製中に、電極のコーティングプロセスでは、こうした材料を使用することができない。これは、電極のコーティングプロセスが、必然的に有機溶媒に溶解する工程を含むためである。
【0040】
実施例2:本発明による方法
式LiPSClの硫銀ゲルマニウム鉱を使用する。
【0041】
それを式Pの材料と混合する。より具体的には、式LiPSClの硫銀ゲルマニウム鉱と式Pの材料を含む混合物の全重量に対して、10重量%の式Pの材料を使用する。
【0042】
次いで、得られた混合物をエタノールに添加する。
【0043】
図2(材料2a)に示すように、材料の混合物の回折図を生成する。
【0044】
第1の方法によれば、材料2bを得るために、混合物をエタノールに添加し、次いで40℃で乾燥させる。次いで図2に示すように、材料2bの回折図を生成する。
【0045】
特徴づけられた材料の構造が、エタノールに溶解した後に劣化していないことは明確に明らかである。
【0046】
第2の方法によれば、材料2cを得るために、混合物をエタノールに添加し、次いで100℃で乾燥させる。次いで図2に示すように、材料2cの回折図を生成する。
【0047】
特徴づけられた材料の構造がエタノールに溶解した後に劣化していないことは、ここでも明確に明らかである。
【0048】
実施例2は、硫銀ゲルマニウム鉱の化学安定性に関して、式Pの材料の存在による有益な効果を明確に示している。硫銀ゲルマニウム鉱は、式Pの材料の存在のおかげで、有機溶媒中で化学的に安定である。したがって、電池セル、特に全固体電池セルの調製中に、電極のコーティングプロセスで硫銀ゲルマニウム鉱を使用することができる。
【0049】
実施例3:本発明による方法
式LiPSClの硫銀ゲルマニウム鉱を使用する。
【0050】
それを、式Liの材料と混合する。より具体的には、式LiPSClの硫銀ゲルマニウム鉱と式Liの材料を含む混合物の全重量に対して、10重量%の式Liの材料を使用する。
【0051】
次いで、得られた混合物をエタノールに添加する。
【0052】
図3(材料3a)に示すように、材料の混合物の回折図を生成する。
【0053】
第1の方法によれば、材料3bを得るために、混合物をエタノールに添加し、次いで40℃で乾燥させる。次いで図3に示すように、材料3bの回折図を生成する。
【0054】
特徴づけられた材料の構造がエタノールに溶解した後に劣化していないことは、明確に明らかである。
【0055】
第2の方法によれば、材料3cを得るために、混合物をエタノールに添加し、次いで100℃で乾燥させる。次いで図3に示すように、材料3cの回折図を生成する。
【0056】
特徴づけられた材料の構造がエタノールに溶解した後に劣化していないことは、ここでも明確に明らかである。
【0057】
実施例3は、硫銀ゲルマニウム鉱の化学安定性に関して、式Liの材料の存在による有益な効果を明確に示している。硫銀ゲルマニウム鉱は、式Liの材料の存在のおかげで、有機溶媒中で化学的に安定である。したがって、電池セル、特に全固体電池セルの調製中に、電極のコーティングプロセスで硫銀ゲルマニウム鉱を使用することができる。
【0058】
イオン伝導度
1aから3cまでの各材料に対して、25℃でのイオン伝導度を測定した。イオン伝導度の全ての測定値を図4に見出すことができる。
【0059】
したがって、材料1aと比較して、材料1bおよび1cに対するイオン伝導度の値の著しい低下を観察することができる。
【0060】
したがってこれらの測定値は、電池セル、特に全固体電池セルの調製中に、電極のコーティングプロセス、すなわち有機溶媒に溶解する工程を必然的に含むプロセスでこの材料は使用することができないことを示している。
【0061】
これは、電極組成物におけるこの固体電解質の最終的なイオン伝導度の値が非常に低くなるためである。その結果、これが、電池セルおよび電池の良好な電気化学的性能品質を得ることを不可能にする。
【0062】
これに反して、材料2aから2cまでについては、材料2aと比較して、材料2bおよび2cに対するイオン伝導度の値の低下が観察され得たとしても、より穏やかであることは非常に顕著である。
【0063】
いずれにせよ、材料2bのイオン伝導度は材料1bのイオン伝導度よりはるかに大きい。同様に、材料2cのイオン伝導度は材料1cのイオン伝導度よりはるかに大きい。
【0064】
これは、硫銀ゲルマニウム鉱のイオン伝導度に関して、式Pの材料の存在による有益な効果を明確に示している。
【0065】
材料3aから3cまでに対して、同様の観察をすることができる。
【0066】
材料3aと比較して、材料3bおよび3cに対するイオン伝導度の値の低下が観察され得たとしても、より穏やかであることは非常に顕著である。
【0067】
いずれにせよ、材料3bのイオン伝導度は材料1bのイオン伝導度よりはるかに大きい。同様に、材料3cのイオン伝導度は、材料1cのイオン伝導度よりはるかに大きい。
【0068】
これは、硫銀ゲルマニウム鉱のイオン伝導度に関して、式Liの材料の存在による有益な効果を明確に示している。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】