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特表2024-523375車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法および検出ユニット
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  • 特表-車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法および検出ユニット 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法および検出ユニット
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240621BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B62D6/00
G01L5/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577708
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 EP2022065516
(87)【国際公開番号】W WO2022263249
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】102021003148.2
(32)【優先日】2021-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】597007363
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア ヌッツファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Nutzfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80, D-80809 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン キアシュバウム
(72)【発明者】
【氏名】イェンス-ハウケ ミュラー
(72)【発明者】
【氏名】アリ カーバシアン
【テーマコード(参考)】
2F051
3D232
【Fターム(参考)】
2F051AA01
2F051BA03
2F051BA05
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DC10
3D232DC33
3D232DC34
3D232EA01
3D232EB11
3D232EC22
3D232GG02
(57)【要約】
車両(100)の操舵要素(120)が運転者(150)の手(145)によって把持されている確率K(140)を検出するための方法(1000)を提示する。ここで、方法(1000)は、操舵要素(120)とステアリングギア(125)との間に結合されたトルクセンサに作用するトルクを表すトルク信号を読み込むステップ(1010)を含む。さらに、方法(1000)は、車両(100)の操舵要素(120)が運転者(150)の手(145)によって把持されている確率K(140)を検出するために、トルク信号(115)の値および/またはトルク信号(115)の絶対値がその時点の車両速度vに依存する閾値T(155)を上回った場合に、車両(100)の操舵要素(120)が運転者(150)の手(145)によって把持されている確率K(140)を識別するステップ(1020)を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の操舵要素(120)が運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)を検出するための方法(1000)であって、該方法(1000)が、
前記操舵要素(120)とステアリングギア(125)との間に結合されたトルクセンサに作用するトルクを表すトルク信号を読み込むステップ(101)と、
前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)を検出するために、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値がその時点の車両速度(v)に依存する閾値(155,T)を上回る場合に、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が運転者(150)の手(150)によって把持されている確率(K,140)を識別するステップ(1020)と
を含む、方法(1000)。
【請求項2】
前記識別するステップ(1020)において、高い車両速度(v)では、より低い車両速度(v)の場合よりも低い値を有する閾値(155,T)が使用される、請求項1記載の方法(1000)。
【請求項3】
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている少なくとも1つの持続時間(tdist)を使用して、かつ/またはさらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(155)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている少なくとも1つの周波数を使用して、識別される、請求項1または2記載の方法(1000)。
【請求項4】
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている持続時間(tdist)によって上方超過される少なくとも1つの持続時間閾値を使用して識別され、かつ/または
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている周波数によって上方超過される少なくとも1つの周波数閾値(405)を使用して識別される、
請求項3記載の方法(1000)。
【請求項5】
前記識別するステップ(1020)において、観察期間内で前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が閾値(155,T)を上回った場合、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より小さくされる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法(1000)。
【請求項6】
前記識別するステップ(1020)において、前記観察期間(600)内で前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が閾値(155,T)を再び下回った場合、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手によって把持されている確率(K,140)が、より大きくされる、請求項5記載の方法(1000)。
【請求項7】
前記識別するステップ(1020)において、観察インターバル内で前記持続時間(tdist)の値が前記持続時間閾値を上回る時間および/または前記周波数の値が前記周波数閾値(405)を上回る時間が長くなるにつれて、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より小さくされる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法(1000)。
【請求項8】
前記識別するステップ(1020)において、前記観察インターバル内で前記持続時間(tdist)の値が前記持続時間閾値を再び下回った上回った場合かつ/または前記周波数の値が前記周波数閾値(405)を再び下回った場合に、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より大きくされる、請求項7記載の方法(1000)。
【請求項9】
前記識別するステップ(1020)において、確率幅、特に10%ずつの確率幅で、前記確率(K,140)を拡大するかまたは縮小する、請求項5から8までのいずれか1項記載の方法(1000)。
【請求項10】
前記識別するステップ(1020)において、前記操舵要素(120)の操舵旋回角(θ)に依存する閾値(155,T)が使用される、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法(1000)。
【請求項11】
前記読み込むステップ(1010)において、前記トルク信号(115)が、専ら前記車両(100)のステアリングコラム内にまたは該ステアリングコラムに接して組み付けられているかつ/または埋め込まれているトルクセンサ(130)によって読み込まれ、特に、前記トルクセンサ(130)は、前記操舵要素(120)からステアリングギア(125)への回転の伝達を行っている、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法(1000)。
【請求項12】
検出ユニット(105)であって、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法(1000)のステップを対応するユニット(110,135)において実行するかつ/または駆動制御するように構成されている、検出ユニット(105)。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法(1000)を実行するかつ/または駆動制御するように構成されたコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13記載のコンピュータプログラムを記憶した機械可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項に記載の、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法および検出ユニットに関する。
【0002】
現代の車両安全システムまたは運転者支援システムでは、とりわけ商用車において、多くの場合に、運転者が能動的にその手でステアリングホイールを把持しているかどうか、また運転者が能動的にその手でステアリングホイールを把持しており、したがって運転者が車両の運転を意識して操縦していると想定できる、という情報が必要となる。このことは、一方では、運転者が場合により注意を逸らし、したがって車両を能動的に操縦せず、このため交通安全上の理由から自律型システムが当該車両の運転を能動的に制御すべき場合に重要となる。他方で、運転者がその手の少なくとも一方でステアリングホイールを一義的に把持している場合には、例えば能動的な運転支援を遮断するかまたは少なくとも非優先状態とすべきである。そうでない場合、運転者が能動的な自律型操舵介入に驚いたりまたは苛々したりして、これにより車両周囲の交通安全性を著しく損なう運転誤りを発生させかねない。したがって、運転者ハンズオン検出(HOD)、すなわち、運転者がその手でステアリングホイールなどの操舵要素を把持しているかどうかを検出するための様々なコンセプトが開発されている。従来のコンセプトでは、例えばステアリングホイールにおける静電容量センサを使用することにより、HOD機能を実現することができる。しかし、こうした方法は、HODを正確に決定することができるという利点を除き、初期装備者(英語:“Original Equipment Manufacturer”、「OED」と略称する)にとってコストの点で都合の良い解決手段ではない。その理由は、付加的なハードウェア(「HW」と略称する)が必要となるためである。
【0003】
ハイブリッドステアリングであるいわゆる「トルクオーバーレイステアリングシステム」(「TOS」と略称する)のような、重商用車のための新たなステアリングシステムは、例えば運転者の操舵入力を支援するためのサーボモータを有し、手動トルクセンサの恩恵を受けている。これは、例えば、
a)操舵フィーリングを発生させ、運転者のための付加的な機能を提供する電気操作部、および
b)操舵トルクをサーボモータから操舵要素へまたはステアリングコラムへ伝達する(例えば液圧式の)ベース伝動装置
を含む。
【0004】
こうしたタイプの操舵システムでは、運転者支援トルクが例えば数学的アルゴリズムおよび/または数値的アルゴリズムを用いて制御される。セーフティクリティカルアルゴリズムの1つとして、操舵要素に置かれた運転者の手を実際に識別することが挙げられる。
【0005】
こうした背景から、本アプローチの課題は、改善された、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法、および改善された検出ユニットを提供することである。
【0006】
この課題は、独立請求項の特徴またはステップを有する、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法および検出ユニットによって解決される。
【0007】
本明細書で提示するアプローチは、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法であって、当該方法が、
-操舵要素とステアリングギアとの間に結合されたトルクセンサに作用するトルクを表すトルク信号を読み込むステップと、
-車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するために、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値がその時点の車両速度に依存する閾値を上回る場合に、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されていることを識別するステップと
を含む、方法を提供する。
【0008】
タブエレメントとは、例えばステアリングホイールまたはこれに類したもの、例えばジョイスティックであると理解することもできる。ステアリングギアとは、例えば操舵要素からの運動を車輪に伝達する伝動装置であると理解することができる。例えば、ステアリングギアは、外部の力またはモーメントをステアリングロッドへ導入するためにも使用することができ、この場合、例えばサーボモータを用いて、運転者による能動的な操舵を支援することができる。トルクセンサとは、例えば、車両の運転者が操舵要素に作用を与えてステアリングギアへ伝達させたトルクを検出するセンサであると理解することができる。ただし、この場合に特に重要なのは、逆方向すなわちステアリングギアから操舵要素へ向かうトルクであって、運転者が手で操舵要素を把持しているときに運転者によって変更されるトルクを検出することもできる点である。また、トルクセンサは、運転者から操舵要素へ導入されたトルクと、路面の障害物の上方を通過する際にステアリングロッドに対して発生してステアリングギアに作用した操舵トルクとの間のトルク差を形成することもできる。トルク信号の値とは、例えば、その時点でトルクセンサにおいて検出されているトルクを意味しうる。
【0009】
本明細書で提示するアプローチは、トルクセンサによって検出されたトルクを評価するために、その時点での車両速度に依存する閾値を用いることにより、運転者が実際にその両手もしくは少なくとも一方の手を操舵要素に掛けているか、または操舵要素をしっかり把持しているかをきわめて正確に識別することができるという認識に基づいている。このことは、速度が高い場合、低い走行速度において導入されるトルクとは異なるトルクが車両の操舵装置から操舵要素へ導入されうることから得られる。この場合特に、例えば、道路上のくぼみもしくは石を低い走行速度で通過する走行時には、道路上のタイヤもしくは車輪の横方向の振れがより高速の走行速度で発生するよりも著しく大きくなるとの予測を利用することができる。ここで、車両が走行路の凹凸の上方を走行したことによるこうした受動的な操舵運動が操舵要素へ伝達されれば、トルクセンサによって検出されたトルクの評価により、運転者が両手で操舵要素を把持しており、これにより受動的な操舵運動を操舵要素で阻止できるかどうか、または運転者が手で操舵要素を把持しておらず、このため受動的な操舵運動に従って操舵要素を自由に運動させてしまう可能性があるかどうかにつき、推論を行うことができる。この場合、トルク信号の値を評価するための、車両のその時点での走行速度に依存する閾値が使用されると、このような手法によって、その時点で運転者が手でステアリングホイールもしくは操舵要素を把持しているかどうかを良好に判別することができる。
【0010】
本明細書で提示するアプローチの一実施形態として、識別するステップにおいて、高い車両速度では、車両速度が低い場合よりも低い値を有する閾値が使用されると有利である。本明細書で提案するアプローチの当該実施形態は、車両速度が高い場合にも、また閾値が低い場合にも、運転者が手で車両の操舵要素もしくはステアリングホイールを把持しているかどうかをきわめて高い信頼性で判定することができるという利点を提供する。したがって、受動的な操舵運動を利用することによって、走行状況の正確な識別を可能にすることができる。
【0011】
本明細書で提示するアプローチの別の実施形態によれば、識別するステップにおいて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を、さらに、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている少なくとも1つの持続時間を使用して、かつ/またはさらに、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている少なくとも1つの周波数を使用して識別することができる。この場合、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている持続時間、および/またはトルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている周波数から、例えば、車両の車輪が走行中にくぼみを通過し、これによって生じた受動的な操舵運動がステアリングギアを介して操舵要素へ伝達されたときに、車両が走行している走行路がどの程度の凹凸を有しているかについての示唆が得られることを利用できる。ここで、運転者が少なくとも一方の手で操舵要素を把持していれば、このことにより、運転者が手で操舵要素を把持していない場合とは異なる、例えば閾値を上回る高いトルクが短時間だけトルクセンサにおいて検出されうる。
【0012】
さらに、本明細書で提示するアプローチの一実施形態として、識別するステップにおいて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率は、さらに、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている持続時間によって上方超過される少なくとも1つの持続時間閾値を使用して識別されるときわめて有利である。代替的にもしくは付加的に、識別のステップにおいて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率は、さらに、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている周波数によって上方超過される少なくとも1つの周波数閾値を使用して識別することができる。持続時間閾値とは、例えば、トルク信号の値が閾値を上回っている期間自体を表す持続時間を上回りうる閾値であると理解されたい。周波数閾値とは、例えば、トルク信号の値が閾値を上回っている周波数自体を表す周波数を上回りうる閾値であると理解されたい。本明細書で提示するアプローチのこうした実施形態は、持続時間閾値および/または周波数閾値を使用することにより、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を識別する際にいっそう高い精度を達成できるという利点を提供する。
【0013】
さらに、本明細書で提示するアプローチの一実施形態によれば、識別するステップにおいて、観察期間内でトルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を上回っている時間が長くなるにつれて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率をより小さくすることも可能である。本明細書で提案するアプローチのこのような実施形態は、トルク信号の値が閾値を上回っている時間長さを評価することによって、操舵要素が運転者の手に把持されているかどうかの示唆を得ることができるという利点を提供する。この場合特に、運転者の手によって把持されている操舵要素が、短い期間の後、逆操舵運動によって再び車両の能動的な操縦を可能とし、これによりステアリングシステムにおいて強いトルクまたは操舵角振れが補正可能となるもしくは補償可能となることを利用できる。
【0014】
本明細書で提案するアプローチの別の実施形態によれば、識別するステップにおいて、観察期間内でトルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値が閾値を下回る時間が長くなるにつれて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率をより大きくすることができる。本明細書で提案するアプローチのこうした実施形態は、トルク信号の値が閾値を再び下回ることができ、次いで、このことにより、操舵要素が運転者の手によって(再び)把持されていることの示唆が得られるという利点を提供する。
【0015】
また、別の一実施形態によれば、識別のステップにおいて、観察インターバル内で持続時間の値が持続時間閾値を上回っている時間が長くなるにつれて、かつ/または周波数の値が周波数閾値を上回っている時間が長くなるにつれて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率をより小さくすることができる。本明細書で提案するアプローチのこのような実施形態は、トルク信号の値が対応する持続時間閾値もしくは周波数閾値に関する閾値を上回っている時間長さもしくは周波数を評価することによって、操舵要素が運転者の手によって把持されているかどうかの示唆を得ることができるという利点を提供する。この場合さらに、運転者の手によって把持されている操舵要素が、短い期間の後、逆操舵運動によって再び車両の能動的な操縦を可能とし、これにより、ステアリングシステムにおいてトルク信号の値を上回る強いトルクもしくは強い操舵角振れもしくは高い周波数を補正できるまたは補償できることも同様に利用可能である。
【0016】
本明細書で提示するアプローチの一実施形態として、識別するステップにおいて、観察インターバル内で持続時間の値が持続時間閾値を再び下回る時間が長くなるにつれて、かつ/または周波数の値が周波数閾値を再び下回る時間が長くなるにつれて、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率をより大きくすると特に好都合である。本明細書で提案するアプローチのこのような実施形態は、同様に、トルク信号の値が閾値を再び下回りうることが監視可能となり、次いで、このことから、対応する持続時間閾値および/または周波数閾値に関して、操舵要素が運転者の手によって把持されていることについての特に良好で一義的な示唆が得られるという利点を提供する。
【0017】
手間のかかる確率の計算を回避するために、識別するステップにおいて、確率を、特に10%の確率幅で拡大するかまたは縮小することができる。
【0018】
さらに、本明細書で提示するアプローチの一実施形態として、識別のステップにおいて、操舵要素の操舵旋回角に依存する閾値を使用することも有利である。本明細書で提示するアプローチのこのような実施形態は、操舵旋回角によっても、走行時の車両の車輪の姿勢に関する特に良好な情報を想定できるという利点を提供する。この場合、車両の長手方向軸線に関する車輪の姿勢も同様に凹凸の上方の走行に作用を与えるので、これにより、操舵要素に伝達される受動的な操舵運動は、直進走行の場合とはやはり異なるものとなる。したがって、このような車輪の姿勢を考慮することにより、運転者が操舵要素をその手でしっかりと把持しているかどうかを識別するための品質をさらに高めることができる。
【0019】
トルク信号の評価における障害影響をできるだけ良好に回避するために、読み込むステップにおいて、専ら車両のステアリングコラム内にまたはステアリングコラムに接して組み付けられているかつ/または埋め込まれているトルクセンサによってトルク信号を読み込むことができ、特にここで、トルクセンサは、ステアリングギアへの操舵要素の回転の伝達を行っている。これにより、受動的な操舵運動をきわめて良好に検出することができ、他の源からの障害なしに評価を行うことができる。
【0020】
当該方法は、例えば、ソフトウェアもしくはハードウェアとして、またはソフトウェアおよびハードウェアの混合形態として、例えば制御装置内に実装可能である。
【0021】
本明細書で提示するアプローチはさらに、本明細書で提示する方法の変形形態の各ステップを対応する装置において実行、駆動制御もしくは使用するように構成された、装置としての検出ユニットを提供する。検出ユニットの形態のアプローチのこのような変形実施形態によっても、本アプローチの基礎となっている課題を迅速かつ効率的に解決することができる。
【0022】
このために、検出ユニットは、信号もしくはデータを処理する少なくとも1つの計算ユニット、信号もしくはデータを記憶する少なくとも1つの記憶ユニット、センサからセンサ信号を読み込むためもしくはアクチュエータへデータ信号もしくは制御信号を出力するためのセンサまたはアクチュエータへの少なくとも1つのインタフェース、および/または通信プロトコル内に埋め込まれたデータを読み込むためもしくは出力するための少なくとも1つの通信インタフェースを有しうる。計算ユニットは、例えば信号プロセッサ、マイクロコントローラなどであってよく、この場合、メモリユニットは、フラッシュメモリ、EPROMまたは磁気メモリユニットであってよい。通信インタフェースは、データを無線でかつ/または有線で読み込むようにもしくは出力するように構成可能であり、この場合、有線データの読み込みもしくは出力が可能な通信インタフェースは、これらのデータを、例えば電気的にもしくは光学的に、対応するデータ伝送路から読み込むことができ、または対応するデータ伝送線路へ出力することができる。
【0023】
本明細書における検出ユニットとは、センサ信号を処理し、このセンサ信号に基づいて制御信号および/またはデータ信号を出力する電気装置であると理解することができる。検出ユニットは、ハードウェアおよび/またはソフトウェアによって構成可能なインタフェースを有することができる。ハードウェアベースの構成の場合、インタフェースは、例えば当該装置の様々な機能を含むいわゆるASICシステムの一部であってよい。なお、インタフェースは、固有の集積回路であってよく、または少なくとも部分的に個別の部品から構成することもできる。ソフトウェアによる構成では、インタフェースはソフトウェアモジュールであってよく、このソフトウェアモジュールは、例えば別のソフトウェアモジュールと並んでマイクロコントローラ上に存在している。
【0024】
以下に、本明細書で提示するアプローチの実施例につき、図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本明細書で提示する実施例による検出ユニットを備えた車両を示す概略図である。
図2】一実施例によるステアリングシステムの一部の詳細を示す概略図である。
図3】本発明において使用するトルクセンサを用いたトルク測定の基本方式を説明するための概略図である。
図4】車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法の一実施例を示すフローチャートである。
図5】(トルク)閾値と車両速度との依存関係を説明するためのグラフである。
図6】周波数閾値の決定を説明するためのグラフである。
図7】例えば計算ブロックにおいて行われるHODフラグの計算を説明するための複数のグラフである。
図8】車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を決定するコンセプトを説明するためのグラフである。
図9】車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を決定するコンセプトを説明するためのグラフである。
図10】車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法の一実施例を示すフローチャートである。
【0026】
本アプローチの好都合な実施例についての以下の説明では、異なる図に示されている同様の作用を有する要素に同一のまたは同様の参照符号を使用しており、これらの要素については繰り返しての説明は省略する。
【0027】
図1には、本明細書で提示する実施例による検出ユニット105を備えた車両100(ここでは商用車もしくはトラックとして構成されている)の概略図が示されている。検出ユニット105は、読み込みインタフェース110を有し、この読み込みインタフェース110を介してトルク信号115を読み込むことができ、ここで、このトルク信号115は、車両100の操舵要素120(ここではステアリングホイール)とステアリングギア125との間に結合されたトルクセンサ130に作用しているその時点のトルクを表している。さらに、検出ユニット105は、出力信号として、操舵要素120が車両100の運転者150の手145によって(しっかりと)把持されている確率140を提供する識別ユニット135を含む。当該確率140を識別するために、トルク信号115の値および/またはトルク信号115の絶対値が、例えばメモリ160から読み出すことのできる閾値155と比較される。当該閾値155はさらに車両100の現在の車両速度vに依存しており、これにより、例えばメモリ160を車両速度センサ165にも結合させることができ、この車両速度センサ165を用いて、車両100のその時点の速度vが算定され、メモリ160から相応に適切な閾値155が決定されて、識別ユニット135へ伝送される。この場合、確率140は、トルク信号115の値および/またはトルク信号115の絶対値が当該閾値155を上回ることに依存して算定するまたは識別することができ、このことについては以下にさらに詳しく説明する。
【0028】
確率140は、この例では、運転者150が手145で操舵要素120を把持している確率を表している。当該確率はまた、運転者150が手145で操舵要素120を把持しているかどうかの情報に関する信号の有効性を示すこともできる。こうした情報は、例えば、車両100の制御において運転者150を支援するかまたはそれ自体で車両100の制御を自律的に実行する自律型車両システムもしくは運転者支援システム170が車両100に設けられている場合に、必要であるかまたは有用である。この場合、法的な理由および/または快適性の理由から、運転者150が手145で操舵要素120を能動的にしっかりと把持しており、したがって運転者150が車両100の制御を能動的に引き受けていると想定されることを、一義的に識別することができる。この場合、能動的な車両制御機能において運転者150を妨げないよう、(車両制御への緊急介入を要する稀なケースを除いて)運転者支援システム170からの操舵介入を行わないかまたはその優先度を低減すべきである。
【0029】
ここで提示するアプローチにより、車両100の操舵要素120が運転者150の手145によって(しっかりと)把持されている確率を識別するために、車両100が例えば平坦でない路面上、例えば石175が存在しているかもしくは何らかのくぼみ180が生じている道路上を走行する場合の受動的な操舵作用を利用することができる。ここで、車両100の車輪190がこのような石175もしくはこのようなくぼみ180の上方を走行すると、このことが車輪190の横方向の振れを生じさせ、この横方向の振れがステアリングギア125を介して操舵要素120へ伝達される。このとき、運転者150が手140で操舵要素120をしっかりと把持していれば、運転者150が手145で操舵要素120をしっかりと把持していない場合とは異なる、検出可能なトルク作用がトルクセンサ130において生じる。特に、運転者150が操舵要素120をしっかりと把持している場合、運転者150が操舵要素120をしっかりと把持していない場合と同等の大きさのトルクは、トルクセンサ130において検出されえない。ここでは、車輪190の横方向の振れが特に車両100の速度vに依存しており、このため、確率140の正確な識別および適切な閾値155の選択のためには当該速度vを考慮しなければならないことが考慮される。付加的に、操舵要素120の回転角または間接的に車両100の車輪190が車両100の走行方向に対して成す回転角を表す操舵角も重要となりうるが、これは、この場合、石175もしくはくぼみ180の上方を通過することによって、車輪190が車両100の走行方向へ真直ぐに調整されている場合とは異なる運動がステアリングギア125に生じるからである。この点に関して、本明細書で提示しているアプローチには、車両100の走行時に、操舵要素120が車両100が走行した路面の作用によってある程度自発的に運動し、このような(誘発された)運動の変化を、車両100の運転者150が手145で操舵要素120をしっかりと把持している確率の示唆として評価できることが利用可能である。
【0030】
自律走行では、2つの走行状態の判別、すなわち、運転者が車両のステアリングホイールを操縦している一方の状態と運転者がステアリングホイールを操縦していない他方の状態との判別(「ハンズオン」識別もしくは「ハンズオン検出」、HOD)が重要な安全機能である。「ハンズオン検出」(「HOD」と略称される)と称される機能は、ステアリングシステム内に組み込まれたトルクセンサによって測定される手トルク信号の分析に基づく。本明細書で提示するアプローチを用いて「ハンズオン検出」の信頼性を向上させる方法が提示される。当該方法では、様々な走行条件、すなわちアウトバーン、郊外道路および街路が考慮される。これらのなかで、高速走行が行われるアウトバーンでの「ハンズオン」検出は、大抵の場合に、直線区間での車両制御のための運転者の手のトルクがきわめて小さいので、課題となる。
【0031】
図2には、図1に略示したステアリングシステムの一部の詳細が概略図にて示されている。既に上述したように、自律走行機能の開発においては、運転者から自律走行へのステアリングシステムの確実な移行および逆に自律走行から運転者へのステアリングシステムの確実な移行のために、運転者の手がステアリングホイールに掛けられているかどうかの判別が必要であることを前提とされたい。こうした機能は、一方では高い安全性でHODを実行すべきであり、他方では本明細書で提示するアプローチに基づく製品をコストの点で効率的に保つために標準的なTOSで利用可能なセンサに基づいて実現すべきである。
【0032】
本明細書で提示するアプローチは、図2に概略的に示されているTOSシステム、すなわちトルクオーバーレイシステムによって特に好都合に使用することができる。この場合、トルクセンサ130としてのトーション測定ロッドが設けられ、このトーション測定ロッドは、操舵要素120の軸200、ここではステアリングホイールの軸200と入力要素205との間に接続されており、操舵要素120としてのステアリングホイールとステアリングギア125との間に生じるトルクを検出するように構成されている。この場合、出力軸210により、例えばステアリングギア125と図1に示されている車輪190との間の機械的結合が実現されている。ここで、車両の運転者を操舵の際に支援するために、または場合によっては車両を自律的に操舵するために、さらに、例えば歯車伝動装置220を介してステアリングギア125もしくはトルクセンサ130に結合されたモータ215またはサーボモータが設けられている。この場合、回転数センサ225を介して検出可能なモータの回転により、例えばモータ215によって生成されたトルクをステアリングギア125もしくは操舵要素120へ伝達する伝達ユニット230またはバルブの介在によっても、トルクセンサ内または一般的にステアリングトレイン内の有効操舵トルクを変化させることができる。このようにして、操舵要素120によってステアリングトレインに印加されるトルクにさらにまたモータによって生成された操舵トルクを重畳することができ、このことは、「トルクオーバーレイシステム」TOSによって実現される。
【0033】
TOSにおいて利用可能なセンサは、図2での回転数センサ225によって形成されているモータ215の軸のモータ位置を決定するエンコーダであり、手トルクセンサは、図2での点Aと点Bとの間に挿入されたトルクセンサ130として示されている。点Aと点Bとの間では、運転者によるステアリングホイールの操作中、Tバー/トーションバーの偏向に基づいて差分角度が測定される。付加的に、操舵角センサ235により、操舵要素120の回転を表すステアリングホイール角度信号を算定することができ、このステアリングホイール角度信号は、例えばEBSシステムのセンサによって提供され、EBS制御の目的で使用することもできる。
【0034】
図3には、本明細書で使用するトルクセンサによるトルク測定の基本方式を説明するための概略図が示されている。ステアリングシステムの構造制限およびコンセプト設計に基づき、手トルクセンサもしくはこの場合に使用されるトルクセンサ120は、通常、ステアリングシステム上に設置されている。当該センサ120は、(例えば図2の点Aにおける)入力軸と(例えば図2の点Bにおける)バルブ/伝達ユニット230との間の差分角度を測定するために、運転者の(手)トルクの計算に使用される。トーションバーまたはトルクセンサ120は、点Bにおいて歯車伝動装置220を介してモータ215に接続されている。ギア内またはここでは歯車伝動装置220内の後ろ側遊びに基づいて、大抵の場合、これら2つの点で測定される角度θ間に不一致が生じる。したがって、ステアリングギア125の側から受動的な操舵によってステアリングシステムへ入力される(道路)トルクTと、運転者の手が操舵要素120をしっかりと把持していることによって生じる、得られるトルクの運転者の手トルクTとの間の差が測定される。このために、操舵要素120の軸の回転角θを考慮すると、以下の各式、すなわち
θ=θ±ε
=kTB(θ-θ
=kTB(θ-θ±ε)
err=kTBε
が当てはまり、ここで、Tは、運転者自身が作用させたトルクを表し、kTBは、トルクセンサとしてのトーションバーの弾性を表し、Tは、平坦でない走行路の走行によって生じる、ステアリングギアを介して入力されるトルクを表し、Terrは、TOS内で可能な限り小さく維持されるべき、運転者の手のトルク測定における不正確性を表す。
【0035】
図4には、ハンズオフ識別アルゴリズムのコンセプトの一例として、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法のフローチャートの一実施例が示されている。このために、図4には、本実施例による手法のスキーマが、HODブロック図の形態で示されている。まず、例えば前提条件ブロック400において、(トルク)閾値155および周波数閾値405が車両速度vおよびステアリングホイール角度θに依存して計算されるが、このことについては、以下の図5および図6においてさらに詳細に説明する。計算ブロック410では、トルク計算ユニット415において、その時点のトルクが存在しているトーションバートルクの領域または「レンジ」が決定される。トルク閾値155に対応して、(トーションバー)トルク信号115の振幅の領域が決定され、(トーションバー)トルク信号115または(トーションバー)トルク信号115の絶対値が(トルク)閾値155を上回っている時間中、出力フラグが相応に1にセットされる。
【0036】
周波数領域検査では、計算ブロック410において、周波数計算ユニット420内で、トーションバートルク信号115が領域外にあるもしくは(トルク)閾値155を外れている持続時間、または(トルク)閾値155を実数値としてもしくは絶対値として上回っている持続時間が計算され、周波数閾値405と比較される。計算された持続時間が周波数閾値405よりも短い場合、後続の図7に示されているように、フラグが1にセットされる。
【0037】
「領域外」補償ブロック425では、周波数領域検査の出力フラグ425に対応する振幅領域検査の出力フラグ430が操作される。ゼロに等しいトルクフラグは、周波数フラグが1であるインターバルについては1にセットされ、HODフラグ440として供給される。
【0038】
信号調整ブロック450では、入力信号に対して、妥当性検査ブロック455における冗長性ベースの妥当性検査が実行される。このため、トーションバー角度とステアリングホイール角度θとの間の偏差は閾値よりも小さくすべきである。さらに、モータ215のモータ角度、ステアリングホイール角度θおよびトーションバー速度から、角速度計算ユニット460においてトルク信号を計算することができる。また、ステアリングホイール角度465もさらに計算に組み入れることができる。計算された当該トルク信号とトーションバートルクとの間の偏差も、閾値よりも小さくすべきである。信号の妥当性検査に基づいて、HOD信頼度の決定のための劣化ストラテジが適用される。
【0039】
HODアルゴリズムの信頼度レベル470は、時間カウンタとここで計算された値の比較とに基づいて得ることができる。車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率の最終的な検出においては、確率決定ユニット475で対応する確率信号480が算定され、次いで、この確率信号480が例えば図1に示されている運転者支援システム170へ転送される。
【0040】
以下では、本アプローチにおいて使用される量の決定または処理について詳細に説明する。
【0041】
図5には、(トルク)閾値155と車両速度との依存関係を説明するためのグラフが示されている。図5の当該グラフでは、x軸に車両速度vがプロットされており、y軸にトルクTがプロットされている。車両が運転者によって操舵されているか否か、すなわち「ハンズオフ」または「ハンズオン」のどちらのケースであるかを判別するためには、運転者が図1の操舵要素120にトルクを印加しているかどうかまたは受動的な操舵によって操舵要素120にもたらされたトルクを阻止しているかどうかを識別するとよい。開ループ制御回路を備えたトルクオーバーレイシステムでは、運転者の操舵労力は、ステアリングホイール旋回アームに作用するトルクに依存する。ここでの労力は車両速度に比例して変化する。速度vが低い場合、運転者の操舵労力は、速度が高い場合よりも大きくなる。いずれの車両速度においても抵抗力を克服して操舵を開始するための運転者の最小トルクは、当該方法では、測定可能な最大可能トルクTに対する(トルク)閾値Tと見なされる。上述した説明によれば、トルク振幅についての閾値155は、車両速度vの増大によって低減される。こうした閾値155の決定は、機能調整およびパラメータ最適化の対象である。
【0042】
図6には、周波数閾値の決定を説明するためのグラフが示されている。図6の当該グラフでは、x軸に時間tがプロットされており、y軸にトルクTがプロットされている。運転者の(手)トルクTの周波数と測定されたトルク信号115への走行路障害の影響との区別は、周波数閾値の決定の対象である。石175またはくぼみ180の上方を通過するなどの様々な道路障害が、(手)トルク信号115に高周波の障害を生じさせる。周波数fまたは対応する持続時間tdistは車両速度vに比例し、一方、周波数fの振幅Tは、車両が期間600内でくぼみを通過する場合、くぼみの深さに依存する。車両速度vの増大により、信号115における振動の周波数fが高くなる。こうした閾値405の決定は、機能調整およびパラメータ最適化の対象である。
【0043】
図7には、例えば計算ブロック410で行われるようなHODフラグの計算を説明するための複数のグラフが示されている。当該図7の上側のグラフでは、x軸に時間tがプロットされており、y軸にトルクTがプロットされている。手順を表示するために、ここでは、図6に即して既に詳述したシナリオを使用する。図7の下側のグラフでは、x軸に時間がプロットされており、y軸にフラグの値がプロットされている。
【0044】
ユニット415における振幅領域検査では、トルク信号115の振幅が観察される。トルク信号115が例えば前提条件ブロック400で設定された閾値405内または閾値115内にある場合、このブロック415でその出力フラグがバイナリ値1にセットされ、そうでない場合には、出力フラグに関する部分グラフに示されているように、0にセットされる。
【0045】
対応するブロック420における周波数領域検査では、トルク信号115の周波数が観察される。トルク信号115が振幅閾値155を外れている持続時間tdistが前提条件ブロック404によって与えられた閾値405よりも短い場合、当該ブロック420で、出力フラグ435に関する部分グラフに示されているように、出力フラグ435がバイナリ値1にセットされ、そうでない場合には0にセットされる。
【0046】
ブロック420における周波数領域検査のフラグに基づいて、振幅領域検査415のフラグが、領域の超過を補正するモジュール425において補正される。トルクフラグが0でありかつ周波数フラグが1である領域では、トルクフラグが1へセットし直され、このことはHODフラグ440に関する部分グラフに示されている。
【0047】
図8には、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を決定するコンセプトを説明するグラフが示されている。ここでは、x軸に時間tがプロットされており、y軸に信頼度レベルCがパーセントでプロットされている。ここで、信頼度レベルCは、この信頼度レベルの計算を簡単化する目的で、10パーセントの幅で上昇または下降させることができる。
【0048】
図9には、運転者の手によって車両の操舵要素が把持されている確率を決定するコンセプトを説明するグラフが示されている。ここでは、x軸に時間tがプロットされており、y軸には、上側の2つの部分グラフではそれぞれ該当するフラグの値がプロットされており、下側の部分グラフでは信頼度レベルCがパーセントでプロットされている。HOD信頼度レベルK,140を決定するために、時間依存性のストラテジが適用される。HODフラグ440の値0はハンズオンモードを示しており、一方、フラグ値1はハンズオフモードを示している。HOD信号440が0から1へ変化する場合、信頼度信号もしくは確率K,140は、図9に示されているように、それぞれ10パーセントずつの時間インターバルで0%から100%へと上昇し始める。ここでの時間インターバルは、システム特性およびセンサ品質に依存する最小限界を有する調整パラメータである。
【0049】
HODフラグ440が1から0へ変化した場合、または信号調整ブロック450で計算された信号信頼度レベル470が1から0へ変化するした場合、図9に示されているように、HODの信頼度レベルまたは「信用レベル」と称されこともある確率K,140が低減される。
【0050】
図10には、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法1000の一実施例のフローチャートが示されている。方法1000は、操舵要素とステアリングギアとの間に結合されたトルクセンサに作用するトルクを表すトルク信号を読み込むステップ1010を含む。さらに、方法1000は、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するために、トルク信号の値および/またはトルク信号の絶対値がその時点の車両速度に依存する閾値を上回った場合に、車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を識別するステップ1020を含む。
【0051】
本明細書で提示しているアプローチにより、例えば、運転者の手がステアリングホイールを把持しているかどうか、またはステアリングホイールが両手で把持されているかどうかを正確に識別できるというような幾つかの利点を達成することができる。また、ここでの識別は、種々の走行状態(市街/郊外道路/アウトバーン/砂利路…)においてまたは所定の時間窓内で行うことができ、識別エラーは生じないかまたはきわめて僅かしか生じない。また、くぼみの補償および衝撃事象の周波数および振幅を考慮すること、すなわち、くぼみもしくは石の上方を走行したときの障害を考慮することもできる。さらに、本明細書で提示しているアプローチによって、外部影響(例えば横風/道路勾配…)の補償を行うことができ、または迅速なハンズオン識別が可能となることも考えられる。また、速度に依存しない識別を行うことができ、これにより、特に正確な確率の識別が可能となる。特別な最適化ツールを用いて簡単な適用可能性を達成し、HOD識別の高いロバスト性を達成することもできる。
【0052】
本明細書で提示しているアプローチによれば、例えば、車両速度/トルクおよび操舵角に基づいて走行状態を識別することが可能であり、この走行状態に応じて、例えば、必要な信号を前処理する対応のフィルタが選択される。各信号は、特別なアルゴリズムによって前処理されて組み合わされる(例えば、所定の状況/統計的評価/既知のもしくは学習された状況との比較/時間インターバルの考慮のもとで、信号状態の凍結が行われる)。ここから、第1の結果として、運転者がステアリングホイールに手を掛けている確率を決定することができる。また、第2の結果として、実際の評価をきわめて簡単に(例えばデジタル形式へも)変換することができる。このために使用されるパラメータは車両タイプに依存しており、これにより、タイプごとのそれぞれの最適化を簡単に行うことができる。こうしたケースに対して、特別な測定値に基づき、最適な識別のためのパラメータを決定するプログラムが得られる。これにより、確実な結果/反復可能な結果を容易に得ることができる。また、本明細書で提示している機能には、HMI(human-maschine-interface=マンマシンインタフェース)を簡単に設けることができ、ここでのモデルをパラメータ化可能かつ容易にオン/オフ切り替え可能に構成することができる。識別困難な状況では(例えば高速の場合または路面/走行路が平滑な場合には)、操舵支援の変更によって識別可能とすることができる。このようにすることで操舵支援の必要がより少なくなり、これにより手トルクがより大きくなり、結果としてより良好に識別可能となる。また、(例えばモータを用いて、トルクの)テストパルスをステアリングシステムへ出力し、これに対するモーメント/操舵速度の反応を検出することもできる。この場合、運転者成分の抽出/車両反応(振動…)の減算の目的で、ステアリングギア-ステアリングホイール区間のモデル化を、簡単、ロバストかつ高い信頼性で算定することができる。
【0053】
特に、本明細書で提示しているアプローチによれば、運転者が高い安全性をもって車両のステアリングホイールを手で把持しているかどうかを確認する方法が示される。これにより、ハンズオン識別のロバスト性を高めることができ、ここでの決定は、ステアリングシステムの入力軸におけるトルクセンサの値のみを基礎とすることができる。また、高速の直進走行におけるアウトバーン上での運転者の手の正確な判別、例えば操舵要素に置かれた運転者の手の正確な判別も、システム内の機械的な遊びを考慮することによって可能となる。さらに、操舵要素に置かれた運転者の手の正確な判別を、手トルク信号の妥当性検査によって行うこともでき、機能調整のための専用のワークツールを開発することによって行うこともできる。また、機能と車両速度との依存関係ならびに機能の出力における外部障害の除去による、操舵要素に置かれた運転者の手の正確な判別も可能である。
【0054】
本明細書で提示している方法ステップは、繰り返し実行可能であり、また記載した順序とは異なる順序で実行することもできる。
【0055】
1つの実施例が第1の特徴と第2の特徴との「および/または」接続を有している場合、これは、当該実施例が、ある実施形態では第1の特徴および第2の特徴を有し、別の実施形態では第1の特徴のみまたは第2の特徴のみを有することを意味する。
【符号の説明】
【0056】
100 車両
105 検出ユニット
110 読み込みインタフェース
115 トルク信号
120 操舵要素
125 ステアリングギア
130 トルクセンサ
135 識別ユニット
140 確率
145 手
150 運転者
155 閾値
160 メモリ
165 車両速度センサ
170 運転者支援システム
175 石
180 くぼみ
190 車輪
v 車両速度
200 軸
205 入力要素
210 出力軸
215 モータ
220 歯車伝動装置
225 回転数センサ
230 伝達ユニット
235 操舵角センサ
(道路)トルク
(手)トルク
θ 回転角、ステアリングホイール角度
400 前提条件ブロック
405 周波数閾値
410 計算ブロック
415 トルク計算ユニット
420 周波数計算ユニット
425 補償ブロック
430 出力フラグ
435 出力フラグ
440 HODフラグ
450 信号調整ブロック
455 妥当性検査ブロック
460 角速度計算ユニット
465 ステアリングホイール角度
470 信頼度レベル
475 確率決定ユニット
480 確率信号
T トルク
(トルク)閾値
測定可能な最大可能トルク
dist 持続時間
600 期間
C 信頼度レベル
K HOD信頼度レベル、確率
1000 車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を検出するための方法
1010 トルク信号を読み込むステップ
1020 車両の操舵要素が運転者の手によって把持されている確率を識別するステップ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-12-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の操舵要素(120)が運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)を検出するための方法(1000)であって、該方法(1000)が、
前記操舵要素(120)とステアリングギア(125)との間に結合されたトルクセンサに作用するトルクを表すトルク信号を読み込むステップ(101)と、
前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)を検出するために、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値がその時点の車両速度(v)に依存する閾値(155,T)を上回る場合に、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が運転者(150)の手(150)によって把持されている確率(K,140)を識別するステップ(1020)と
を含む、方法(1000)。
【請求項2】
前記識別するステップ(1020)において、高い車両速度(v)では、より低い車両速度(v)の場合よりも低い値を有する閾値(155,T)が使用される、請求項1記載の方法(1000)。
【請求項3】
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている少なくとも1つの持続時間(tdist)を使用して、かつ/またはさらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(155)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている少なくとも1つの周波数を使用して、識別される、請求項記載の方法(1000)。
【請求項4】
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている持続時間(tdist)によって上方超過される少なくとも1つの持続時間閾値を使用して識別され、かつ/または
前記識別するステップ(1020)において、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、さらに、前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が前記閾値(155,T)を上回っている周波数によって上方超過される少なくとも1つの周波数閾値(405)を使用して識別される、
請求項3記載の方法(1000)。
【請求項5】
前記識別するステップ(1020)において、観察期間内で前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が閾値(155,T)を上回った場合、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より小さくされる、請求項記載の方法(1000)。
【請求項6】
前記識別するステップ(1020)において、前記観察期間(600)内で前記トルク信号(115)の値および/または前記トルク信号(115)の絶対値が閾値(155,T)を再び下回った場合、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手によって把持されている確率(K,140)が、より大きくされる、請求項5記載の方法(1000)。
【請求項7】
前記識別するステップ(1020)において、観察インターバル内で前記持続時間(tdist)の値が前記持続時間閾値を上回る時間および/または前記周波数の値が前記周波数閾値(405)を上回る時間が長くなるにつれて、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より小さくされる、請求項記載の方法(1000)。
【請求項8】
前記識別するステップ(1020)において、前記観察インターバル内で前記持続時間(tdist)の値が前記持続時間閾値を再び下回った上回った場合かつ/または前記周波数の値が前記周波数閾値(405)を再び下回った場合に、前記車両(100)の前記操舵要素(120)が前記運転者(150)の手(145)によって把持されている確率(K,140)が、より大きくされる、請求項7記載の方法(1000)。
【請求項9】
前記識別するステップ(1020)において、確率幅、特に10%ずつの確率幅で、前記確率(K,140)を拡大するかまたは縮小する、請求項記載の方法(1000)。
【請求項10】
前記識別するステップ(1020)において、前記操舵要素(120)の操舵旋回角(θ)に依存する閾値(155,T)が使用される、請求項記載の方法(1000)。
【請求項11】
前記読み込むステップ(1010)において、前記トルク信号(115)が、専ら前記車両(100)のステアリングコラム内にまたは該ステアリングコラムに接して組み付けられているかつ/または埋め込まれているトルクセンサ(130)によって読み込まれ、特に、前記トルクセンサ(130)は、前記操舵要素(120)からステアリングギア(125)への回転の伝達を行っている、請求項記載の方法(1000)。
【請求項12】
検出ユニット(105)であって、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法(1000)のステップを対応するユニット(110,135)において実行するかつ/または駆動制御するように構成されている、検出ユニット(105)。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法(1000)を実行するかつ/または駆動制御するように構成されたコンピュータプログラム。
【請求項14】
請求項13記載のコンピュータプログラムを記憶した機械可読記憶媒体。
【国際調査報告】