(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】高温の化学プロセスのための触媒の製造方法及び得られる触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20240621BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20240621BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B01J37/02 101D
B01J23/89 M
C01B3/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023577782
(86)(22)【出願日】2022-06-14
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022066105
(87)【国際公開番号】W WO2022263409
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】102021000015473
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523470810
【氏名又は名称】ネクストケム テック エス.ピー.エー.
【氏名又は名称原語表記】NEXTCHEM TECH S.P.A.
【住所又は居所原語表記】Via di Vannina 88/94, 00156 Roma, Italy
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】バシーニ,ルカ エウジェーニオ リッカルド
(72)【発明者】
【氏名】イカニエッロ,ガエターノ
(72)【発明者】
【氏名】サッラディーニ,アンナリタ
【テーマコード(参考)】
4G140
4G169
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA05
4G140EA06
4G140EA07
4G140EC02
4G140EC03
4G169AA03
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA04A
4G169BA05A
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4G169BA06A
4G169BA13A
4G169BA17
4G169BA20A
4G169BA27C
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BB11A
4G169BB15A
4G169BB18A
4G169BC40B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC71B
4G169BC72A
4G169BC74A
4G169BC74B
4G169BC75A
4G169BE11C
4G169BE42C
4G169CB81
4G169CC01
4G169CC21
4G169CC29
4G169DA06
4G169EA02X
4G169EA02Y
4G169EA18
4G169EC02Y
4G169EC23
4G169EC24
4G169FA02
4G169FB14
4G169FB19
4G169FB34
4G169FC02
(57)【要約】
担体上に析出した遷移金属からなる触媒種を含む触媒の製造方法であって、前記遷移金属の金属カルボニル又は他の有機金属錯体の溶液を担体と接触させるステップ、前記担体の表面で前記遷移金属の析出及び表面相互作用を行うステップ、及び少なくとも1種の熱処理の結果として前記金属カルボニル又は有機錯体を分解させるステップを含む方法。得られる触媒は、有利には、合成ガスの製造及び他の高温の工業的化学プロセスにおいて使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に担持された、1又は2以上の遷移金属又は該遷移金属の化合物からなる触媒種を含む、化学プロセスのための触媒の製造方法であって、下記:
a)有機溶媒中の、前記触媒種を生成する前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を調製し、該溶液を前記担体と接触させること、ここで、前記有機金属化合物は金属-カルボニル及び前記遷移金属の有機配位子との錯体から選択され、前記担体は無機の酸化物、ニトリド、オキシニトリド、カーバイド、ホウ化物、及び酸化物構造がその表面に形成された金属化合物からなる群より選択され、
b)前記遷移金属の有機金属化合物の前記溶液を、化学吸着又は物理吸着プロセスで前記担体の表面に担持させること、
c)前記担体の表面に担持された、前記遷移金属の前記有機金属化合物の前記溶液中の前記有機溶媒を除去し、少なくとも1つの熱処理によって該担体の表面に残存する前記遷移金属の前記有機金属化合物を完全に又は部分的に分解することにより、前記遷移金属の1又は2以上の触媒種が前記担体上に担持されること、
を含む製造方法。
【請求項2】
前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を接触させる工程a)が、該遷移金属の有機金属化合物の溶液中での前記担体のインシピエントウェットネス含浸からなるか又は前記溶液中への前記担体の分散であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を接触させる工程a)が前記溶液中への前記担体の分散であり、前記遷移金属の有機金属化合物を少なくとも1種の熱処理で完全に又は部分的に分解する工程c)の前に、前記担体を前記遷移金属の有機金属化合物の溶液から分離する工程を含むことを特徴とする先行請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記金属-カルボニルがRh
4(CO)
12、Rh
6(CO)
16、Ru
3(CO)
12、Ir
4(CO)
12、Fe
2(CO)
9、Fe
3(CO)
12、Co
2(CO)
8、Co
4(CO)
12、Co
6(CO)
16からなる群より選択される前記請求項の1又は2以上による方法。
【請求項5】
前記遷移金属の有機配位子との前記有機金属化合物が、前記遷移金属がCo、Fe、Ni、Rh、Ru、Ir、Pt、Pdから選択され、前記配位子がRCOCHCOR'-基(式中、R及びR'は同一であっても異なってもよく、C1~C6アルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル基を有するC1~C6アルキル基である)である錯体である、前記請求項の1又は2以上による方法。
【請求項6】
前記担体がペレットの形態又はモノシリック構造の形態であり、MgO、α-Al
2O
3、MgAlO
x、CeO
2、La
2O
3、ZrO
2、TiO
2、ペロブスカイト、コーディエライト及びFeCrAl合金からなる群より選択される、前記請求項の1又は2以上による方法。
【請求項7】
前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を前記担体と接触させる工程a)を行う前に、1又は2以上の遷移金属の第1の担持が前記担体上で、該担体に前記遷移金属の無機塩の水溶液を含侵させ、続いて前記無機塩の分解及び前記遷移金属の前記担体上への担持まで乾燥及び加熱された後、該担体上で、工程a)が行われることを特徴とする先行請求項の1又は2以上に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の担持がNi、Fe、Coから選択される遷移金属を用いて行われ、前記工程a)がRh、Ru、Irから選択される遷移金属の有機錯体を用いて行われることを特徴とする先行請求項の1又は2以上に記載の方法。
【請求項9】
前記請求項の1又は2以上に記載の方法で得られる触媒。
【請求項10】
CO
2リフォーミング、スチーム-CO
2リフォーミング、スチームリフォーミング、触媒的部分酸化及び低接触時間触媒的部分酸化プロセスにおける及び合成ガスの製造における請求項9に記載の触媒の使用。
【請求項11】
炭化残渣の形成に関する熱力学的親和性の条件を低減させ、反応剤混合物中の水蒸気の原子と炭素の原子との比及び/又は酸素原子と炭素原子との比の低減によって得られるエネルギー的及び組成的な利点をもたらす、合成ガスの製造における請求項10に記載の触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高温の化学プロセスのための触媒の製造方法及び得られる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
重要な化学プロセス及び精製プロセスの中間体である合成ガスの製造に使用される触媒など、不均一相で発生する高温の化学プロセスのための工業用触媒を調製する方法のほとんどは、インシピエントウェット含浸(IWI)法を使用している。これらの方法は下記:
(A) 無機塩の水溶液の、粉末状、様々な形状の離散粒子状(ペレット)又はモノシリック構造状(例えば、ハニカム状、発泡体状、メッシュ状)の担体材の多孔質層への物理吸着。これらの担体材(以下、単に「担体」ともいう)は:
i) 1つのカチオンのみを含む無機酸化物(例えば、Al2O3、MgO、ZrO2、Ce2O3)と、複数のカチオンを含む混合無機酸化物、例えばMg-Al酸化物の「スピネル」、ペロブスカイト、ハイドロタルサイト、イットリウム安定化ジルコニウム酸化物など;
ii) 含浸に適した多孔質酸化層が表面に成長した金属担体(例えば、様々な方法で多孔質酸化層が表面に成長したFeCrAl合金)からなり;
(B) 通常、100°C以上の温度で、無機塩(例えば、硝酸塩、Ni、Co、Feのハロゲン化物、Rh、Ru、Ir、Pt、Pdのような遷移貴金属)の水溶液を含浸させた表面の乾燥段階;及び
(C) 無機塩を高温、例えば450~800℃で分解し、無機ガス種(例えば、NOx、ハロゲン)と、触媒活性中心を含む触媒の担体表面上の酸化性及び/又は金属構造とを生成する焼成段階
を含む。
【0003】
さらに、ほとんどの場合、使用前に触媒の更なる活性化工程が必要となる。例えば、スチームリフォーミング(SR)用のNiベース触媒は、反応器への挿入後、プラントを始動する前に、NiOの表面種を金属Ni種に還元するためのさらなる水素化工程を必要とする。記載した方法では、特に高温処理によって、分子レベルで定義された特性を備える特定の触媒中心に達することができず、さらに、適切な割合の活性金属(例えば、SR触媒は15重量%よりもさらに高い割合のNiを含む)を使用する必要があることに留意すべきである。さらに、高温の熱処理には、電気エネルギーを利用した加熱炉、又はより頻繁に炭化水素化合物の燃焼が必要である。これらの炉は、無機塩を加熱分解する際に、CO2に加えて、適切な処理を施す前に大気中に放出することができない有毒な無機ガス種を発生させる。
【0004】
さらに、これらの方法で製造され、Niのような遷移金属を含む触媒の多くは、炭素生成反応に対する熱力学的な親和力の限界があり、例えば炭素生成反応において、合成ガス製造プロセスにおける反応剤混合物中の蒸気のモル数と炭素原子のモル数との比(Steam/Carbon又はS/Cと呼ばれる比)の最小値、あるいは主な特徴を下記に記載するオートサーマルリフォーミング(ATR)、非触媒的部分酸化(POx)、触媒的部分酸化(CPO)及び低接触時間触媒的部分酸化(SCT-CPO)における酸素モル数と炭素原子モル数の比(O2/C比)の最小値を課す。
【0005】
[合成ガスの製造]
合成ガスは、スチームリフォーミング(SR)、非触媒的部分酸化(POx)及びオートサーマルリフォーミング(ATR)技術によって工業的に生産される。SRプロセスの比較的最近のバリエーションは、ガス加熱改質(GHR)プロセスであり、これは、少なくとも部分的に、吸熱触媒的スチームリフォーミング反応に必要な輻射熱を、通常i)全燃焼反応によって生成される高温ガス、及び/又はii)ATR或いはPOxプロセスによって生成される高温合成ガスのみからなる対流源で置き換える。さらに、SR及びGHR技術がATR又はPOx技術と統合される場合、これらは複合改質(CR)プロセスと呼ばれる。簡潔に上述した技術の特徴は、多くの文献に記載されているが、その中でも下記に言及する:
‐ “Technologies for large-scale gas conversion" Aasberg-Petersen, K., Bak Hansen, J. -H., Christensen, TS, Dybkjaer, I., Christensen, P. Seier, Stub Nielsen, C., Winter Madsen, SEL, Rostrup-Nielsen, JR, Applied Catalysis A: General, 221 (1-2), p. 379, Nov 2001;
‐ “Synthesis Gas production by Steam Reforming”, Dybkjaer, Ib; Seier Christtensen P.; Lucassen Hansen V.; Rostrup-Nielsen J.R., EP1097105A1;
‐ “Catalytic Steam Reforming”; Rostrup-Nielsen J.R.; pp- 1-117, Catalysis Vol. 5, Edited by John R. Anderson and Michel Boudart
低接触時間触媒的部分酸化(SCT-CPO)技術は、まだ工業的には応用されていないが、多くの特許文献に記載されており、そのうちの下記を引用し得る:(A1)、WO 2016016257 (A1)、WO2016016256 (A1)、WO2016016253 (A1)、WO2016016251 (A1)、WO 2011151082、WO 2009065559、WO 2011072877、US 2009127512、WO 2007045457、WO 2006034868、US 2005211604、WO 2005023710、WO 9737929、EP 0725038、EP 0640559。
下記の文献も引用する:
‐ “Issues in H2 and synthesis gas technologies for refinery, GTL and small and distributed industrial needs”; Basini, Luca, Catalysis Today, 106 (1-4), p. 34, Oct 2005,
‐ “Fuel rich catalytic combustion: Principles and technological developments in short contact time (SCT) catalytic processes”; Basini, L.; Catalysis Today, 117 (4), 384-393; DOI: 10.1016 / j.cattod.2006.06.043 Published: 15 October 2006,
‐ “Natural Gas Catalytic Partial Oxidation: A Way to Syngas and Bulk Chemicals Production | IntechOpen”; G. Iaquaniello, E. Antonetti, B. Cucchiella, E. Palo, A. Salladini, A. Guarinoni, A. Lainati and L. Basini; http://dx.doi.org/10.5772/48708
‐ “Short Contact Time Catalytic Partial Oxidation (SCT-CPO) for Synthesis Gas Processes and Olefins Production”; L.E. Basini, A. Guarinoni, Ind. Eng. Chem. Res. 2013, 52, 17023-17037; https://doi.org/10.1021/ie402463m。
【0006】
合成ガスは、メタノールとその誘導体の合成、アンモニアと尿素の合成、フィッシャー・トロプシュ法による液体炭化水素の合成、水素の製造など、多くの化学プロセスで使用され、精製プロセス、石油化学プロセス、精密化学プロセス、エレクトロニクス産業、金属精錬及び食品産業で、多くの用途がある。前述の工業プロセスでは、エネルギー効率を向上させ且つ温室効果ガス(GHG)の排出を削減するために、さまざまな組成の合成ガスを必要とする。
【0007】
さらに、鉄系鉱物の還元プロセスにおける合成ガスの使用も増加しているが、これまでは直接還元(DR)プロセスでのみわずかに使用されている。この場合、合成ガスは現在、試薬混合物中の蒸気に適切な量のCO2を添加するSRプロセス(スチーム-CO2リフォーミング-SCRプロセス)によって製造されている。
【0008】
[触媒的部分酸化反応のための触媒]
触媒的部分酸化(CPO)反応、特に低接触時間触媒的部分酸化(SCT-CPO)反応のための最も活性のある遷移金属種は、文献にも記載されているが、Rh、Ir、Ru及びNiを含み、これらは互いに結合している。Rhは、その化学反応性の特徴と、前述の金属の中でタンマンの温度が最も高いという理由から、貴金属の中では好ましい選択である。後者は金属溶融温度の半分の温度であり、原子種の表面凝集プロセス(シンタリング)が始まる温度と考えられ、活性触媒中心の分散性の低下、及び触媒固有の反応性の悪化効果を示す、大きな金属凝集体の形成につながる。これらの点は下記にも記載されている:- R. Merkle und J. Maier Stuttgart (Max Planck Institut fur Festkorperforschung), Z. Anorg. Allg. Chem. 2005, 631, 11631166 (DOI:10.1002/zaac.200400540);
- “Fuel rich catalytic combustion: Principles and technological developments in short contact time (SCT) catalytic processes”; L. Basini; Catalysis Today 117 (2006) 384-393;
- “Two-dimensional modeling of partial oxidation of methane on Rhodium alumina support in a short contact time reactor”; O. Deutschman, L.D. Schmidt, AIChE Journal;44 (1998) pp. 2465-2477
【0009】
特筆すべきは、Rh及びIr種は、CPO又はSCT-CPO反応が行われる触媒層の初期部分に特殊の用途がある一方で、揮発性で有毒な酸化種を形成する可能性のあるRuやNiを含む触媒の使用は、反応剤混合物の酸素分圧(PO2)が低く、還元性を有する分子、すなわちCOやH2が主成分である触媒層の後続ゾーンで使用するのが好ましい。より具体的には、Ni含有触媒は、例えばUS2017173568 A1(B2)に記載されているように、SCR反応を完了させるためだけでなく、触媒層の初期に形成された不飽和炭化水素化合物をCO及びH2に変換するためにも、触媒層の末端部分でPO2がほぼゼロである場合に特に有用であることが報告されている。実際、合成ガス混合物中の不飽和化合物の生成は、反応器や、蒸気を発生させる熱交換器表面への蓄積を防ぐために避けなければならない。また、前記不飽和化合物は、例えば、前述のアンモニアや尿素の製造プロセス、メタノールやその誘導体の製造、水素の製造及びフィッシャー・トロプシュ・プロセスで発生するため、利用の前に合成ガスを冷却する反応器を下流に設置しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したCPO及び/又はSCT-CPOプロセスにおける触媒活性金属は、アルミニウム、マグネシウム、セリウム、ジルコニウム、ランタン酸化物及び他の酸化物、または他の異なるカチオン種を含み、異なる構造を有する混合酸化物のような酸化性担体の表面上に様々な方法で堆積させることができるが、金属担体上にも堆積させることができる。さらに、担体は、様々な形状のペレットの形態、又はハニカム構造のもの、発泡構造のもの、金属担体の場合は様々な種類のメッシュやガーゼ構造のものなどのモノリスの形態を有することができる。
【0011】
既に述べたように、触媒担体上に触媒活性金属を析出させるための工業的方法は、無機塩の水溶液を用いたインシピエントウェットネス含浸(IWI)法を使用し(例えば、US 5336655を参照)、上述したように、公知のプロセスには、触媒活性金属の分散を低下させ、そのため触媒活性金属を大量に使用する必要があり、無機塩の分解時に、大気中にそのまま放出できず排気ガスから除去しなければならない有害物質の排出につながる、熱処理又は高温処理での「焼成」を実施する必要性など、明らかな欠点がある。
【0012】
また、高温の熱処理には、相応のエネルギーを消費する加熱炉が必要となる。さらに、得られた触媒は、活性化処理を必要とする場合もある。例えば、SRプロセスで使用されるようなNi含有量(通常15重量%以上)の大きな触媒の場合、使用前に酸化種を金属Ni種に変換する活性化処理が必要である。触媒活性金属の低分散でありと多量であることは、炭素質種の生成反応に対する熱力学的親和性も高め、試薬混合物中のS/C比とO2/C比に制限を課す。これは、触媒プロセスのエネルギー効率を全体的に低下させる合成ガスを利用する下流プロセスにとって、最適な合成ガス組成を生成するのに必ずしも適していない。
【0013】
そのため、既知の方法の欠点を解消又は軽減した、工業的化学プロセスのための触媒の新しい製造方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本発明の一態様は、担体上に析出した、1若しくは好ましくは2以上の遷移金属又は該遷移金属の化合物からなる触媒種を含む、化学プロセスのための触媒の製造方法であって、下記:
a) 有機溶媒中の、前記触媒種を生成する前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を調製し、該溶液を前記担体と接触させること、ここで、前記有機金属化合物は金属カルボニル及び前記遷移金属の有機配位子との錯体から選択され、前記担体は無機の酸化物、ニトリド、オキシニトリド、カーバイド、ホウ化物、及び酸化物構造がその表面に形成された金属化合物からなる群より選択され、
b) 前記遷移金属の有機金属化合物の前記溶液を、化学吸着又は物理吸着プロセスで前記担体の表面に堆積させること、
c) 前記担体の表面に堆積した、前記遷移金属の前記溶液の前記有機溶媒を除去し、該担体の表面に残存する前記遷移金属の前記有機金属化合物を少なくとも1種の熱処理で完全に又は部分的に分解することにより、前記遷移金属の1又は2以上の触媒種が前記担体上に析出すること、
を含むことを特徴とする製造方法に関する。
【0015】
本発明の別の態様は、上記の方法で得られる触媒に関する。
【0016】
本発明のさらなる態様は、合成ガス製造のためのCO2リフォーミング(CR)、スチームリフォーミング(SR)、スチーム-CO2リフォーミング(SCR)、触媒的部分酸化(CPO)及び低接触時間触媒的部分酸化(SCT-CPO)プロセスにおける前記触媒の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下、添付図も参照して本発明を説明する:
【
図2】本発明による触媒の製造方法の実施形態の図である。
【
図3】本発明による触媒の製造方法の実施形態の図である。
【
図4】本発明による触媒の製造方法の実施形態の図である。
【
図5】本発明による触媒の製造方法の実施形態の図である。
【
図6】本発明による触媒の製造方法の実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一態様によれば、工業用触媒を製造するための反応及び合成ガスを製造するための反応は、遷移金属の有機金属錯体の有機溶液を使用して有利に実施され、前記有機金属錯体は、金属カルボニル及び/又は遷移金属の有機配位子との錯体からなる。
本明細書では以降、遷移金属の「有機金属化合物」又は「有機金属錯体」という用語は互換的に使用される。
【0019】
カルボニル化合物は、触媒担体表面との物理的相互作用に加えて、化学的相互作用も起こすことができ、担体種の化学的活性部位、例えば配位不飽和部位(c.u.s.)やブレンステッド酸部位及び/又はルイス酸部位に触媒活性金属を選択的にグラフトさせることができる。
上記で定義した方法の工程b)を参照すると、「化学吸着」という用語は、吸着した有機金属化合物の化学変化を伴う吸着を示し、「物理吸着」という用語は、吸着した化合物の化学変化及び分解を伴わない吸着を示す。
【0020】
本発明の一態様によれば、カルボニル化合物は、その分解中にCO2とH2Oのみが脱着するように選択することもできる。
さらに、これらの有機金属化合物と担体との間の相互作用は、室温で有機溶媒を真空処理して除去し、100℃以下の温度でも適度な乾燥工程を経るだけで、触媒活性金属表面種の単層又は単層未満の層を生成するように適合させることができる。
【0021】
有機金属化合物が適切に選択される場合、その有機溶液と触媒担体の表面との間の反応は、溶液中の有機金属化合物又は同じ遷移金属の無機塩の水溶液を用いたインシピエントウェットネスプロセスにより、同じ触媒担体の表面で得られる金属化合物の既知の特徴に基づいて、特異で予測不可能な反応特性を有する2つ以上の金属原子を有する単金属種又は表面クラスターの形成に向けることができる。
【0022】
カルボニル化合物は、無機塩の前駆体の簡単なカルボニル化反応で得られるもの、例えば:Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Ru3(CO)、Ir4(CO)12、Fe2(CO)9、Fe3(CO)12、Co2(CO)8、Co4(CO)12、Co6(CO)16から選択できる。
【0023】
或いは、遷移金属と、アセチルアセトナート(Acac=CH3COCHCOCH3
-)などの有機配位子との錯体も使用でき、この場合、遷移金属は例えば、Ni、Fe、Co、又はRh、Ru、Ir、Pt、Pdなどの遷移貴金属である。
【0024】
本発明の方法は、触媒の既知の製造方法を改善するだけでなく、得られる触媒の性能も改善する。特に、i)CO2リフォーミング(CR)、ii)スチーム-CO2リフォーミング(SCR)、iii)触媒的部分酸化(CPO)又は低接触時間触媒的部分酸化(SCT-CPO)のプロセスで触媒を使用することが有利であり、これらのプロセスでは、アンモニア/尿素、メタノール及びその誘導体、水素の製造プロセスで使用できる合成ガスを製造することができ、また、鉄系鉱物の還元プロセスなど、これらの方法で製造された合成ガスを限定的に使用する他のプロセスにおいても有利である。
【0025】
本発明によれば、触媒の製造において、有機金属化合物、特にCOのみからなる配位子を含む化合物、例えばRh4(CO)12、Rh6(CO)16、Ru3(CO)12、Ir4(CO)12、Fe2(CO)9、Fe3(CO)12、Co2(CO)8、Co4(CO)12、Co6(CO)16を使用することにより、以下の利点を得ることができる:
i) 有機金属クラスターと触媒担体表面の反応性部位との間の選択的相互作用による触媒金属の堆積により、同じ遷移金属の無機塩の水溶液を使用するインシピエントウェットネスプロセスで得られる触媒に対して、触媒活性の値、したがって反応剤とCO及びH2に対する選択性との複合転換値と同等又はそれ以上の性能を維持しながら遷移金属の量を低減することが可能な高分散触媒部位の材料が得られ;
ii) 温熱処理を用いる反応器において使用する最終触媒を得ることができるため、水溶液を使用するインシピエントウェットネス法による吸着無機塩の分解に必要な高温焼成工程を回避することができ、NOx排出や他の汚染無機ガス化合物を回避することができ;
iii) 大量の工業用触媒を製造する際に、無機塩の水溶液を触媒担体のインシピエントウェットネス値に達するまで噴霧し、その後、水溶液を蒸発させて乾燥させる方法に比べ、金属廃棄物を削減でき;
iv) ペレットの形態の担体が使用される場合と、モノシリック構造の担体が使用される場合の両方において、活性金属したがって触媒中心を高分散させたモノシリック触媒を製造でき、特に、反応器内の圧力損失の低減が重要であるCPO及び/又はSCT-CPO反応器での使用に有用であり、したがって、例えば鉄系鉱物の還元プロセスにおいて、より有利な低圧運転条件の実施を可能にする。
【0026】
カルボニルクラスターの有機溶液を使用することで、
i) 有機溶液を用いたインシピエントウェットネス含浸(IWI)法による活性金属の堆積;及び
ii) カルボニルクラスターを含む有機溶液中に固体担体を分散させることによって得られる固液反応による活性金属の堆積
の両方が可能になることが強調されるべきである。
【0027】
この点に関して、n-ヘキサン又はTHF溶媒に分散させたRh12(CO)12、Ir4(CO)12、Ru3(CO)12クラスターと、MgO、a-Al2O3、CeO2、La2O3、ZrO2及びTiO2の活性表面部位との固液反応によって生成する表面金属種の形成と反応性の特徴に関する広範な研究が、科学文献に公開されている。
この点に関して、以下を参照されたい:
- “Drift and Mass Spectroscopic Studies on the Reactivity of Rhodium Clusters at the Surface of Polycrystalline Oxides” L. Basini, M. Marchionna and A. Aragno; J. Phys. Chem., Vol. 96, No. 23, 1992
- “Molecular and Temperature Aspects in Catalytic Partial Oxidation of Methane”; L. Basini, A. Guarinoni, A. Aragno; J.Catalysis, 190 (2000) pp. 284-295
- “Catalytic partial oxidation of natural gas at elevated pressure and low residence time”; L. Basini, K. Aasberg-Petersen, A. Guarinoni, M. Ostberg; Catalysis Today 64 (2001) 9-20
“In Situ EXAFS Study of Rh/Al2O3 Catalysts for Catalytic Partial Oxidation of Methane”; J.D. Grunwaldt, L. Basini, B.S. Clausen*; J. Catal. 200 (2001) pp. 321-329
“DRIFT and Mass Spectrometric Experiments on the Chemistry and Catalytic Properties of Small Ir Clusters at the Surfaces of Poly-crystalline a-Al2O3”, L. Basini and A. Aragno, J. C.S. Faraday Trans. 1994, 90(5), 787-795;
- “Molecular Aspects in Syngas Production: the CO2 Reforming Case”; L.Basini, D. Sanfilippo, J.Catal 157(1995) pp. 162-178
【0028】
[鉄鉱石の還元プロセスと合成ガスの利用]
鉄鋼生産のための鉄鉱物の還元プロセスには、主に高炉(BF)が使用され、直接還元(DR)プロセスや、溶融還元法ではあまり使用されない。
より具体的には、高炉(BF)を使用する鉄鋼生産プロセスでは、コークスの生産と使用、及び破砕、焼結、ペレット化を必要とする鉄鉱物の製造に伴う汚染排出に関連する持続可能性の問題がある。
全体として、汚染物質の排出には、単環及び多環芳香族炭化水素、硫黄化合物、粒子状物質及び無機酸が含まれ、高炉では大量のCO2とNOxも発生する。高炉は、炭素含有量の高い溶融金属(鋳鉄)を製造し(通常、重量比約4%)、塩基性酸素炉(BOF)で鋼鉄に転換される。コークス炉(COG)と高炉(BFG)のガスも使用し、高炉の外で生産された合成ガスを使用することで、特にコークスの生産と使用が削減され、熱エネルギーと電気エネルギーを生産するために燃焼されるはずだったCOGとBFGの割当量が再利用されるため、上記の汚染物質の排出と温室効果ガスの生成が低減される。
【0029】
一方、鉄鉱物の直接還元(DR)プロセスでは、コークスは使用されない。還元ガスは通常、天然ガス(GN)から製造され、直接DRリアクターに供給されるか、スチーム-CO2リフォーミング装置で最初に合成ガスに変換され得る。直接還元鉄(DRI)は、鉄スポンジ(冷間直接還元鉄(CDRI)、熱間成型還元鉄(HBI)、熱間直接還元鉄(HDRI))を製造し、通常、電気アーチ炉(EAF)で溶融され、鉄鋼に転換される。一方、溶融還元プロセスは、コークスもNGも使用せず、反応器内で合成ガスを発生させる純酸素で燃焼させた石炭を使用する。この解決策はDRと同様、BFを使用するプロセスよりも環境負荷が低く、その使用は拡大している。したがって、鉄鉱物の還元プロセスで合成ガスを使用する技術は、これらの産業活動による環境への影響を低減するための有利な解決策を構成し、今後ますます比重が大きくなると考えられている。しかし、このような場合、合成ガスの製造が有利であるためには、多くの場合、CO含有量の高い混合物が必要である。この混合ガスは、既知の触媒が炭化残渣の生成のための反応に対して高い熱力学的親和性を有する条件下で、S/C比が低くCO2/C比が高い混合物を反応器に供給することによって得ることができる。熱力学的親和性は、後述するように、本発明による触媒の使用によって低下する。
【0030】
[金属カルボニルクラスターの製造]
カルボニル誘導体の製造は通常、対応する無機化合物の還元によって行われる。還元剤の選択は、この製造において最も重要な点であるが、COを使用する場合、追加の還元剤は不要であり得る。出発物質が金属酸化物又は金属塩化物の場合、酸化生成物はCO2(DG°f = -394 kJ mol-1)又はCOCl2(DG°f = -206 kJ mol-1)である。水素分子は、COの存在下で還元剤としても使用できる。
【0031】
乾式法では溶剤を使用しない。湿式法では、無水有機溶媒が使用され、通常は炭化水素又はエーテルである。例外的に、Pt(II)、Pd(II)及びAu(I)のカルボニル誘導体の場合、溶媒として塩化チオニル(SOCl2)を使用することができるが、塩化チオニルが反応生成物の残存のために厳密に無水の条件を提供するからである。場合によっては、特定の還元剤の添加の有無にかかわらず、水を反応媒体として使用することもできる。後者の場合、COは還元剤であり、炭酸塩は対応する酸化生成物である。
【0032】
文献に報告されている製造方法は、通常、高温(50~200℃)と高圧(50~200気圧)を必要とするものもある。しかし、最近の製造方法のほとんどは、室温かそれより少し高い温度及び大気圧で作動する。
特に、
i) Rh4(CO)12は、多くの場合、銅、銀、カドミウム又は亜鉛などのハロゲンアクセプターの存在下、非常に広い圧力範囲(PCO = 1-20 MPa)でRhCl3とCOから生成することができる。生成物の性質は温度に左右される。50~80℃では、四核体化合物が主に形成され、80~230℃ではRh6(CO)16が好ましい生成物となる。RhCl3.3H2O塩を用いて大気圧で80~90%の収率でクラスターを得るための詳細な方法は、“Tri-m-Carbonyl-Nonacarbonyl-Tetra-Rhodium; Rh4(CO)9(pCO)3”; S. Martinengo et Al.; Inorganic Syntheses, Volume 28, 1990, pages 243-245に記載されている。
ii) Ir4(CO)12は、ハロゲンアクセプター(銅又は銀)の存在下の、通常高温高圧でハロゲン化イリジウムをカルボニル化することにより生成することができる。しかし、低PCO、例えば0.1 MPaを必要とする製造方法もある。ここでは、“Dodeca-carbonyl-tera-Iridium: Ir4(CO)12”; S. Martinengo et Al.; Inorganic Syntheses, Volume 28, 1990, pages 245-248に記載されている、2つの段階を含む方法について述べる。第一段階で、IrCl3.3H2Oは高温カルボニル化により[Ir(CO)2Cl2]-に変換され、第二段階で[Ir(CO)2Cl2]--は形成された酸の部分的緩衝により室温でIr4(CO)12に変換される。
iii) 2-エトキシエタノール又はイソプロパノール中の水和塩化ルテニウム(III)RuCl3・xH2Oを用いる、CO大気圧におけるRu3(CO)12の生成も報告されている。“Dodeca-carbonyl-tri-Ruthenium: Ru3(CO)12” di M. Faure et al., in “Transition Metal CarbonylCompounds;2004”; pp.110-115;https://doi.org/10.1002/0471653683.ch3”に記載されている「ワンポット」法は、中程度の量のRuCl3.3H2Oを1気圧のCO下でRu3(CO)12に素早く変換(3~4時間)するのに理想的であり、収率は90%以上である。実際、簡便さ、スピード、高効率、湿度への無感受性という利点を兼ね備えているため、すべての市販試薬をそのまま使用することができる。
iv) Co2(CO)8は、炭化水素溶媒中で、有機酸又は無機酸のコバルト(II)塩を、温和な温度と高圧(10~18 MPa)で合成ガスを用いてカルボニル化することにより生成することができる。しかし、より穏やかな条件を必要とし[Co(CO)4]-を形成する合成経路があり、制御された酸化によって[Co(CO)4]-からCo2(CO)8を得ることができる。このモノメタルアニオンは、還元剤として一酸化炭素を用いて、コバルト(II)塩のアルカリ水溶液を大気圧、室温でカルボニル化することにより生成される。エチレングリコールのジエチルエーテル(1,2-ジエトキシエタン)中で、Li/ナフタレンと任意のコバルトのハロゲン化物から得られるように、細かく分割されたコバルトは、100℃、95気圧の圧力で良好な収率でCo2(CO)8に変換される。Co4(CO)12は、Co2(CO)8の熱脱炭酸反応による生成物である。
【0033】
[アセチルアセトナートの生成]
金属アセチルアセトナートは、アセチルアセトナートアニオン(CH3COCHCOCH3
-)と金属イオン、通常は遷移金属、から誘導される配位錯体である。二座アセチルアセトナート配位子はしばしば「acac」と略される。通常、両方の酸素原子が金属に結合して六員環のキレート環を形成する。しかし、場合によっては、acacは中心炭素原子を介して金属とも結合する。そのため、この結合様式は、白金(II)やイリジウム(III)のような第三遷移金属でより一般的である。最も単純な錯体は、M(acac)3とM(acac)2という式である。アセチルアセトナートの多くのバリエーションは、メチルの代わりに様々な置換基R及びR′を有するもの(一般式R′COCH2COR-を有する)も開発されており、この場合、R及びR′は同一であっても異なっていてもよく、それぞれ最大6個の炭素原子を含む。これらの錯体の多くは、関連するハロゲン化金属とは異なり、有機溶媒に可溶である。以下は既知のacac化合物の一部である:Fe(acac)3、Co(acac)3、Ni(acac)2 and [Ni(acac)2]3、e Rh(acac)3、Ru(acac)3、Ir(acac)3、e Ir(acac)(CO)2、Pt(acac)2、Pd(acac)2。
一般的な合成法は、金属塩をアセチルアセトン(acacH)で処理することである。
Mz++ z Hacac ⇔ M(acac)z + z H+
しかしながら、場合によっては、次の反応のように遷移金属の炭酸塩を使用することもできる:
2 CoCO3 + 6 Hacac + H2O2 → 2 Co(acac)3 + 4 H2O + 2 CO2
【0034】
[Rh4(CO)12、Ir4(CO)12、Ru3(CO)12及び Ni、Co、Fe、Rh、Ir、Ru、Pd、Pt Acac錯体の有機溶液と触媒担体との固液反応]
カルボニルクラスターRh4(CO)12、Ir4(CO)12、Ru3(CO)12のn-ヘキサン及びTHF溶液と、低表面積(約10 m2/g)の多結晶MgO表面、α-Al2O3、CeO2、La2O3、ZrO2及びTiO2との固液反応性については、上記で広く述べられている。要するに、α-Al2O3担体に議論を限定すると、この方法では、M-0-Rh'(CO)2、M-HIr4(CO)11、[M-O-Ru(CO)2]n(n> 2)の単層又は単層未満が生成された。この点に関して、以下を参照されたい:“Reactivity of Ruthenium Carbonyls on Metal Oxide Surfaces: Effects of the Surface Acid-Base Chemistry”; S. Uchiyama, B.C. Gates; Inorganica Chimica Acta, 147 (1988) 65-70; and “Surface characterization of the Ru3(CO)12-Al2O3system: I. Interaction with the hydroxylated surface”; A. Zecchina et Al., J. Catal., 74 (1982), pp. 225-239;
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。
また、単金属種におけるクラスターの解離反応は、CeO2やTiO2表面でより効果的であり、MgOやLa2O3ではあまり効果的でないことにも注意すべきである。いずれにせよ、適度な真空条件下での乾燥及び/又は温熱処理によって、表面のカルボニル種が分解され、触媒担体上に裸の金属原子が残る。しかし、乾燥後に得られるカルボニル化物質は、SR、SCR、CPO及びSCT-CPOの反応において既に活性を有しており、初期反応中に触媒表面で裸の金属クラスターの最終種に転換することも注目される。
有機溶媒(例えば、MeOH、THF、CHCl3)に可溶な実質ほとんどすべてのacac錯体は、担体の配位不飽和表面部位(c.u.s.)と液固相互作用を介して反応することができる。表面のOH基に関しては、acac錯体の酸/塩基感受性とこれらの基に対する反応性の間に相関関係があるようだ。すなわち、OH-の存在下で不安定なacac錯体は塩基性OHと反応し、H+に感受性のあるものは(ある程度)酸性OHと反応する。“Interaction of Transition-metal Acetylacetonates with y-Al,O, Surfaces”; J. A. Rob van Veen,” Gert Jonkers and Wim H. Hesselink, J. Chem. SOC., Faraday Trans. I, 1989, 85(2), 389413を参照されたい。
これらの反応のいくつかは、Al2O3担体の場合、以下の式で表すことができる:
Surfacen- OH + M(acac)n -> Surface-OnM + n acacH
Surface - Als
3+ + M(acac)n-> [Al(acac)n]s
(3-n) + Ms
n+
(ここで、M = Rh、Ru、Ir、Pd、Pt、Ni、Fe、Co、…)
【0035】
[Rh4(CO)12、Ir4(CO)12、Ru3(CO)12 の有機溶液及び触媒担体のNi、Co、Fe、Rh、Ru、Ir、Pt、Pd Acac錯体を用いたインシピエントウェットネス含浸(IWI)]
この場合、カルボニルクラスターの濃縮有機溶液(例えば、N-ヘキサン又はTHF)又はacac錯体の他の溶液(MeOH、THF、CHCl3)を、ネブライザーで噴霧するか、又は触媒担体上に滴下したままにし、その後、中程度の温度、通常は25~100℃で真空乾燥する。この方法は、無機塩(例えば、Rh(NO)3、Ir(NO)3、Ru(NO)3)の水溶液とともに使用されるIWI法に類似しているが、含浸後、乾燥及び熱処理は、触媒性能を得るために高温で熱分解する必要がある無機アニオン性物質を触媒が含まないため、はるかに低温で、又は単に真空下で実施される。IWI法は、化学吸着現象(有機金属化合物が分解して担体の活性部位と化学反応する)と物理吸着現象(有機金属化合物が担体に吸着されるが化学変化しない)の両方を引き起こす可能性があることに注意すべきである。
【0036】
[触媒の革新的な製造方法とそれによって得られる新製品についての説明]
新しい触媒製造プロセスと新しい触媒製品は、3つの製造方法、すなわち:
(A) 無機塩の水溶液を用いたIWIプロセス;
(B) 有機金属化合物の有機溶液を用いたIWIプロセス;及び
(C) 有機金属錯体の有機溶液と同一溶媒中に分散させた触媒担体との固液反応を適切に組み合わせることで得られる。
これらの方法を説明するブロック図を
図1に模式的に示す。
【0037】
方法(A)は、最も高い焼成温度を必要とし、大気中に自由に放出できない汚染無機ガス化合物(例えば、NOxやハロゲン)の排出につながる。
方法(B)は、焼成工程を必要としないが、有機金属化合物の製造工程を含み、その後、固体担体と有機金属化合物との化学的及び/又は物理的相互作用を可能にし、多量の触媒活性金属も含み得る触媒を得ることができる。
方法(C)は、手順(B)と同様に、焼成工程を必要とせず、有機金属化合物の製造工程を含むが、固液反応によって触媒活性金属を選択的に堆積させることができ、触媒の担体上に触媒活性種の単分子膜又は単分子膜未満の析出物を得ることもできる。
方法(B)及び(C)は、NOx及びハロゲン化物の排出を回避し、焼成工程を必要としないだけでなく、特に活性金属の量が少なく(すなわち、単分子層より低い単分子層)、触媒部位の分散性が高いことが有用な場合に、触媒表面に特定の組成の特徴を得る上で非常に効果的である。さらに、方法(B)と(C)では、より簡単で効果的な方法でバイメタル触媒やトリメタル触媒を製造することができる。
【0038】
図2、
図3及び
図4には、方法(A) + (B) = (D)又は(A) + (C) = (E)及び(B) + (C) = (F)の組み合わせが含まれており、方法(A)によるNi、Fe、Coのような比較的多量の遷移金属の堆積と、方法(B)又は(C)によるRh、Ru、Irのような比較的少量の貴金属の堆積とを組み合わせるのに特に有用である。方法(B)と(C)の組み合わせは、プロセス(A)と(B)又は(A)と(C)の組み合わせと同じ可能性があるが、高温処理の必要性とNOx放出又はハロゲン化物化合物及び同じ濃度の活性金属を含む大きな表面金属凝集体の形成を回避する。
図5及び
図6には、他の組み合わせ方法論(B) + (A) = (G)及び(C) + (A) = (H)が含まれており、方法(A)でNi、Fe、Coのような遷移金属を、方法(B)又は(C)でRh、Ru、Irのような貴金属を同程度量堆積させるのに有用であり、触媒の表面に金属合金を生成する可能性もある。
【0039】
これらの製造方法は、ペレットの形態の粉末状触媒担体、又はモノリス担体又はその他の形態の構造化担体に使用することができる。後者は、既に述べたように、触媒層全体の圧力損失を低減するために特に有用である。実際、構造化触媒を使用した場合の圧力損失は、充填層を使用した場合よりも2桁低くなることがわかっている。さらに、モノシリック担体は、より大きな実効熱伝導率と内部経路の規則性により、半径方向と軸方向の温度勾配を低減することもでき、層状領域での運用が可能になる。
【0040】
コーディエライトは、Mg、Si、Alの酸化物の混合物であり、自動車の排ガス処理用にモノリスとして成形され、高温構造化担体として一般的に使用されており、この点に関して、“Nano-Array Integrated Structured Catalysts: A New Paradigm upon Conventional Wash-Coated Monolithic Catalysts?”; Weng, J.; Lu, X.; Gao, P.-X. Catalysts 7(2017) pp. 253-280を参照されたい。
他のモノシリックセラミック材料は、異なる酸化物、例えばAl2O3やZrO2、ニトリ土、例えばSi3N4、ホウ化物、例えばBN、及びカーバイド、例えばSiCで構成される発泡構造を有する。さらに、触媒層内の伝導性熱伝達能力を高めることが有利な場合には、FeCrAl合金のようなモノシリック金属担体も使用され、この点に関して、“FeCrAl as a Catalyst Support”; Gianluca Pauletto, Angelo Vaccari, Gianpiero Groppi, Lauriane Bricaud, Patricia Benito, Daria C. Boffito, Johannes A. Lercher, and Gregory S. Patience; Chemical Reviews, 2020; https://dx.doi.org/10.1021/acs.chemrev.0c00149を参照されたい。
【0041】
これらの構造化触媒は多くの反応に使用される。最初の用途は、排気ガスの処理、NOxの電解触媒還元(SCR)、揮発性有機化合物(VOC)の破壊及び触媒燃焼であった。その他の反応としては、天然ガスやメタノールの水蒸気とCO2によるSRやSCR(SCR)、天然ガスの触媒的部分酸化(CPO)、水ガスシフト(WGS)プロセス、フィッシャー・トロプシュ合成(FT)、メタンの酸化的カップリング反応(OCM)などが現在開発されている。
【0042】
FeCrAl合金担体上で触媒を製造する最新の方法は、しばしば手間と時間がかかる。これらは、例えば、FeCrAl合金の外面上のAl2O3層の成長、場合によっては安定剤で修飾されたg-アルミナ粉末の製造、貴金属の塩を含む水溶液による含浸、空気中での焼成、水素による還元、貴金属-アルミナ粉末の懸濁液の調製、懸濁液中へのFeCrAl合金担体の反復浸漬と乾燥、及び最終的な焼成などの一連の工程を含む方法であり、この点に関して、“Premixed metal fibre burners based on a Pd catalyst”; I. Cerri, M. Pavese, G. Saracco, V. Specchia; Catal. Today 83 (2003); 19 -31を参照されたい。
【0043】
他の方法としては、貴金属を含むハイドロタルサイト化合物を調製し、次いで焼成し、ガルバニック置換反応又は電着反応によって自然堆積させる方法があり、この点に関して、“Preparation of 3D electrocatalysts and catalysts for gas-phase reactions, through electrodeposition or galvanic displacement”; M. Musiani, S. Cattarin, S. Cimino, N. Comisso, L. Mattarozzi, L. Va´zquez-Go´mez, E. Verlato; J. Appl. Electrochem.; 45(2015) pp. 715-725.DOI 10.1007/s10800-015-0808-1を参照されたい。
【0044】
本発明の方法において、カルボニルクラスター及び/又はアセチルアセトナートのような有機金属化合物の有機溶液の使用は、IWI法及び上述の固液反応法を用いて、セラミック担体(例えばコーディエライト)上及び金属担体(例えばFeCrAl合金)上の両方における貴金属種の析出に特に適用することができる。これらの方法を用いることで、乾燥・焼成処理や還元処理の複雑さを軽減することができ、完全に回避することも可能である。また、貴金属の分布やグラフト化に対して触媒特性の質を改善することができ、性能と寿命を向上させることができる。
【0045】
同様に、説明した方法論は、触媒種でコーティングされた壁を含む壁反応器にも適用できる。場合によっては、これらの反応器は、壁の片側で燃焼などの発熱反応を行い、もう片側で吸熱反応を行うように設計されており、この点に関して、“Thermal and hydrothermal stability of a metal monolithic anodic alumina support for steam reforming of methane”; Yu Guo, Lu Zhou, Hideo Kameyama; Chem.Eng. J. 168 (2011) 341-350; doi:10.1016/j.cej.2011.01.036を参照されたい。
【0046】
この場合、発熱反応によって放出された熱は、壁の反対側に直接伝わり、吸熱反応を促進する。この構成により、境界層の伝熱抵抗が大幅に減少するため、触媒反応が行われる環境への熱伝達の速度と効率が向上する。最近では、メタンのスチームリフォーミング(SR)用にこのタイプの電化リアクターも提案されており、この点に関して、“Electrified methane reforming: A compact approach to greener industrial hydrogen production”; Wismann et al., Science 364 (2019) 756-759; e “Thermal and hydrothermal stability of a metal monolithic anodic alumina support for steam reforming of methane”; Yu Guo, Lu Zhou, Hideo Kameyama; Chemical Engineering Journal 168 (2011) 341-350; doi:10.1016/j.cej.2011.01.03を参照されたい。
【0047】
有機金属化合物を用いた製造方法は、これらの用途にも特に適している。
一般に、記載された方法は、高分散金属種(分散度100%)を有する触媒を製造することを可能にし、したがって、活性金属、特に貴金属の含有量が低い触媒系を使用したい場合に特に好都合であることが報告されている。
さらに、これらの触媒は、SR、CR、大量のCO2存在下でのSCR及び低接触時間(SCT-CPO)での触媒的部分酸化(CPO)に対してより高い活性を示した。これらの場合、有機金属前駆体を用いて製造された触媒は、既知の材料よりも高い固有の活性を示し、炭素種形成に対する熱力学的親和性が高い反応条件、例えば、S/C比の値が低く、したがって試薬混合物中のスチーム量が少ない条件において、合成ガス製造反応に対して良好な反応特性を示す。
実際、Ni、Co、Feのような元素と、Rh、Ir、Ruのような比較的少量の貴金属の有機金属前駆体を使用する方法によって製造された触媒は、既知の方法で製造された触媒が炭化残渣の生成によって不活性化される条件下で、SR、CPOのSCR、SCT-CPOの反応を実施できることが判明している。
【0048】
次に、本発明を、非限定的な例として提供される以下の実施例を参照して説明する。
【実施例】
【0049】
[実施例1(比較)]
Ni/α-Al
2O
3試料は、
図1Aのスキームに代表されるスキーム従って、インシピエントウェットネス(IWI)による含浸法及びその後の乾燥・焼成処理によって得られた。インシピエントウェットネス含浸は、直径2 mm、表面積11 m
2/g、気孔率0.57 cm
3/g(平均気孔径350 A)の球体からなるα-Al
2O
3試料上に滴下させたNi(NO
3)
2(Ni 27% wt)の水溶液を用いて行った。表面積は、市販の装置を用い、Brunauer, Emmet and Teller(BET)法(J.Am.Chem. Soc. 1938, 60 (2), 309)に従って測定し、気孔率と孔径の測定には水銀ポロシメトリーとガス種(N
2)の物理吸着測定を用いた。試料を120℃、加熱速度3℃/分で2時間乾燥させた。IWIと乾燥の手順を2回繰り返した後、試料を750℃、昇温速度3℃/分で2時間加熱し、硝酸塩を分解した。
X線回折(XRD)と走査型電子顕微鏡(SEM)測定によって、Ni種は主に15~25 nmのNiOクラスターとして存在していることが明らかになった。
得られた原料は、Niを2.9重量%含有し、H
2を10 v/v%含有するH
2+N
2流で還元処理する必要があり、3℃/分の加熱速度で温度を25~500℃の間で上昇させ、触媒を500℃で3時間放置した。この処理により、α-Al
2O
3担体表面のNiの酸化種が金属Niの凝集体に変化し、合成ガス製造のための触媒活性部位を生成した。
【0050】
[実施例2(比較)]
直径2 mm、表面積11 m
2/g、気孔率0.57 cm
3/g、平均気孔径350Åの球状からなるα-Al
2O
3試料に、Rh(NO
3)
2(Rh 12.5重量%)を含む水溶液を滴下し、
図1Aのスキームに従ってIWIプロセス及び乾燥・焼成熱処理を行い、Rh/α-Al
2O
3試料を得た。含浸後、120℃、加熱速度3℃/分で2時間乾燥させた。IWIと乾燥の手順を3回繰り返した後、試料を3℃/分の加熱速度で750℃まで加熱し、最高到達温度で2時間放置して硝酸塩を分解した。室温まで冷却した最終材料は、1.0重量%のRhを含んでいた。XRD及びSEM測定から、Rh種は表面Rh
2O
3クラスターとして存在し、その大きさは10~50 nmであることが明らかになった。合成ガス製造反応に使用する前に、10 v/v%のH
2を含むH
2+N
2フローで還元し、3℃/分の加熱速度で温度を25~500℃の間で上昇させ、触媒を500℃で3時間放置した。
【0051】
[実施例3(比較)]
直径2 mm、表面積11 m
2/g、気孔率0.57 m
3/g、平均細孔直径350 Aの球体からなるα-Al
2O
3試料に、Ni(NO
3)
3(Ni 27重量%)とRh(NO
3)
2(Rh 12.5重量%)の2つの水溶液を滴下し、
図1Aに記載したスキームに従ってIWI手順及び乾燥・焼成熱処理を行い、Rh-Ni/α-Al
2O
3試料を得た。Ni(NO
3)
3とRh(NO
3)
3の溶液の体積は、Rh/Ni比が0.25 g/gと0.14 mol/molになるように調整した。試料を120℃、加熱速度3℃/分で2時間乾燥し、IWIと乾燥手順を2回繰り返した後、試料を750℃、加熱速度3℃/分で2時間加熱し、硝酸塩を分解した。
10℃/分で室温まで冷却した最終材料は、2.6重量%のNiと0.7重量%のRhを含んでいた。XRD及びSEM測定により、Ni種はほとんどの場合10~15 nmのサイズを持つNiO種として存在し、Rh種はほとんどが推定困難な大きさを持つ表面Rh
2O3クラスターとして存在することが明らかになった。合成ガス製造反応に使用する前に、10 v/v%のH
2を含むH
2+N
2フローで還元し、3℃/分の加熱速度で温度を25~500℃の間で上昇させ、触媒を500℃で3時間放置した。
【0052】
[実施例4~6]
Rh、Ru、Irをα-Al
2O
3担体に堆積させた試料(実施例1~3に記載したものと同じ特徴を持つ)を調製し、貴金属を1重量%含む触媒を得た。従った手順は
図1Bの図に記載されており、貴金属Rh
4(CO)
12(実施例4)、Ru
3(CO)
12(実施例5)又はIr
4(CO)
12(実施例6)を10重量%含む無水THFの溶液をα-Al
2O
3の担体上に滴下することによって実施されるIWI工程を含んでいた。より具体的には、回転容器(20 rpm)内で、インシピエントウェットネスによる含浸工程を行った。貴金属クラスターは表面と反応して、配位不飽和表面部位(cus)が消費されるまで、主にM(I)ジカルボニル(M=Rh、Ru、Ir)の表面種の単分子膜を生成し、余剰の金属クラスターは物理吸着種として表面に蓄積した。この情報は、こうして得られた試料に拡散反射赤外スペクトル(DRIFT)を実施することによって得られた。溶媒をわずかな真空下で除去し、材料を空気中で加熱速度3℃/分で150℃まで加熱した。熱処理中、カルボニルクラスターは分解し、主にCO
2とH
2O種を生成し、α-Al
2O
3の表面には小さなRhの凝集体が残った。こうして得られた材料は、水素を含む混合物の流動処理において焼成や還元を必要とせず、そのまま合成ガス(SR、SCR、CPO、SCT-CPO)の製造反応に使用された。
【0053】
[実施例7~12]
Rhを含む試料は、
図1Cのスキームに従って、n-ヘキサン中のRh
4(CO)
12(Rh 5重量%)の赤色溶液を、同じ溶媒でペレット化した酸化物の懸濁液に滴下することにより、室温で調製した。ペレットは粒径2 mmで、5~20 m
2/gの低表面積であった。ペレットは、i)α-Al
2O
3(実施例7)、ii)スピネル酸化物MgAlOx(実施例8)、iii)CeO
2(実施例9)、La
2O
3(実施例10)、iv)ZrO
2・3Y
2O
3・CeO
2(実施例11~12)からなった。有機金属化合物を含む溶液と酸化表面との固液反応後、カルボニルクラスターを含む溶液の脱色を行った。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。こうして得られた試料のDRIFTスペクトル(拡散反射赤外フーリエ変換分光法)により、Rh/MgAO
x試料では2085 cm
-1と2008 cm
-1に、Rh/α-Al
2O
3試料では2090 cm
-1と2010 cm
-1に、カルボニル基の伸縮吸収帯が観察された。これらのバンドは、多結晶酸化物表面のOH基が関与するロジウムクラスターの酸化的解離によって形成されたRh(I)(CO)
2表面種に帰属された。
Rh
4(CO)
12+ [M]-OH →[M]-0-Rh'(C0)
2 + H2 + CO
Ce0
2、ZrO
2・3Y
2O
3・CeO
2及びZrO
2・3Y
2O
3の担体上に堆積したRh試料のIRスペクトルでは、2095 cm
-1と2010 cm
-1に同じRhの単金属種に帰属されるピークが見つかり、2110 cm
-1付近に+I以上の酸化状態のロジウム原子を持つカルボニル錯体に帰属されるショルダーが見つかった。この触媒は、合成ガス製造反応に使用する前に、それ以上の熱処理を必要としなかった。
La
2O
3とZrO
2・3Y
2O
3に吸着されたRhの量は0.15重量%に相当した。ZrO
2・3Y
2O
3・CeO
2に吸着したRhは0.2%に相当した。MgAlO
xの試料中のRhの含有量は0.5重量%に相当し、α-Al
2O
3とCeO
2の試料中のRhの量はそれぞれ0.3重量%と0.4重量%に相当した。これらのRh含有量と分光学的情報から、この方法で各試料上にRh分散液が100%生成され、その表面は1層以下のRh単分子層を含むことが示された。
【0054】
[実施例13]
図2に記載した製造手順(D)を採用し、最初に、実施例1及び3と同様に、直径2 mm、表面積11 m
2/g、気孔率0.57 cm
3/gを有するα-Al
2O
3の球状試料に滴下したNi(NO
3)
2(Ni 27重量%)の水溶液を用いて、IWIによって得られたNi/α-Al
2O
3の試料を作製した。含浸工程を2回繰り返し、各含浸工程の後に、実施例1及び3に記載したように、120℃で2時間の熱処理を行った。その後、試料を750℃で2時間焼成した。冷却後、得られた材料を、実施例4と同様に、THF中のRh
4(CO)
12の溶液を用いてIWI相で再度処理した。最後の含浸工程の後、実施例4に記載したように、真空乾燥工程と、加熱速度3℃/分で、空気中120℃で2時間の熱処理を行った。最終的に得られた触媒は、Niが2.9重量%、Rhが0.9重量%含まれており、それ以上の還元工程を経ることなく合成ガス製造反応に使用された。
【0055】
[実施例14]
図3に記載した製造手順(E)を採用し、最初に、実施例13と同様に、直径2 mm、表面積11 m
2/g、気孔率0.57 cm
3/gを有するα-Al
2O
3の球状試料に滴下したNi(NO
3)
2(Ni 27重量%)の水溶液を用いて、IWIによってNi/α-Al
2O
3の試料を作製した。含浸工程を2回繰り返し、各含浸工程の後に、実施例13に記載したように、120℃で2時間の熱処理を行った。その後、試料を750℃で2時間焼成し、冷却後、n-ヘキサン中のRh
4(CO)
12溶液に浸漬し、実施例7~12と同様に化学吸着させ、α-Al
2O
3/NiO表面の配位不飽和部位(cus)と反応させた。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。この触媒を合成ガス製造反応に使用するにあたり、他の熱処理や還元処理は必要なかった。最終材料は、2.9重量%のNiと0.5重量%のRhを含んでいた。
【0056】
[実施例15]
図4に記載した製造手順(F)を採用し、最初のIWI工程には先の実施例1~14に記載したα-Al
2O
3球体を使用したが、THF中のNi(acac)
3の溶液を使用した。真空下で乾燥させ、その後150℃に2時間、加熱速度3℃/分で加熱した試料を得た。冷却後、球体をn-ヘキサン中のRh
4(CO)
12溶液に浸し、Niを含むα-Al
2O
3の表面の配位不飽和部位(cus)とカルボニルクラスターとの固液反応を可能にした。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。こうして製造されたNiを2.7重量%、Rhを0.5重量%含む触媒を合成ガス製造反応に使用する前に、他の熱処理や還元処理は行わなかった。
【0057】
[実施例16]
THF中のNi(acac)
3の溶液を用いた最初のIWI工程に先の実施例15に記載したα-Al
2O
3球体を用いて、
図4及び2に記載した製造手順(F及びD)を採用した。得られた試料を真空下で乾燥させ、その後150℃まで2時間、加熱速度3℃/分で加熱した。冷却後、球体をn-ヘキサン中のRh
4(CO)
12溶液に最初に浸し、Niを含むα-Al
2O
3表面の配位不飽和部位(cus)とカルボニルクラスターとの固液反応を可能にした。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。乾燥させた試料を、Ru
3(CO)
12のn-ヘキサン溶液を用いてIWI法で処理した。こうして製造されたNiを2.6重量%、Rhを0.4重量%、Ruを0.3重量%含む触媒を合成ガス製造反応に使用する前に、他の熱処理や還元処理は行わなかった。
【0058】
[実施例17]
THF中のNi(acac)
3の溶液を用いた最初のIWI工程に、先の実施例15及び16に記載したα-Al
2O
3球体を用いて、
図4及び2に記載した製造手順(F及びD)を採用した。得られた試料を真空下で乾燥させ、その後150℃まで2時間、加熱速度3℃/分で加熱した。冷却後、球体をn-ヘキサン中のRh
4(CO)
12溶液に最初に浸し、Niを含むα-Al
2O
3表面の配位不飽和部位(cus)とカルボニルクラスターとの固液反応を可能にした。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。乾燥させた試料を、Ir
4(CO)
12のn-ヘキサン溶液を用いてIWI手順で処理した。こうして製造されたNiを2.6重量%、Rhを0.4重量%、Ruを0.3重量%含む触媒を合成ガス製造反応に使用する前に、他の熱処理や還元処理は行わなかった。
【0059】
[実施例18]
THF中のNi(acac)
3及びCo(acac)の溶液を用いた最初のIWI工程に、先の実施例15~17に記載したα-Al
2O
3球体を用いて、
図4及び2に記載した製造手順(F及びD)を採用した。得られた試料を真空下で乾燥させ、その後、加熱速度3℃/分で150℃まで2時間加熱した。冷却後、球体をn-ヘキサン中のRh
4(CO)
12溶液に最初に浸し、Niを含むα-Al
2O
3の表面の配位不飽和部位(cus)とカルボニルクラスターとの固液反応を可能にした。2時間後、固体を濾過により単離し、真空下、室温で乾燥させた。こうして製造されたNiを2重量%、Coを1重量%、Rhを0.5重量%含む触媒を合成ガス製造反応に使用する前に、他の熱処理や還元処理は行わなかった。
【0060】
[実施例19~36:CO2リフォーミング及び触媒的部分酸化の反応性試験]
CO2リフォーミングとCPO反応による合成ガス製造反応における触媒組成と反応性試験で観察された主な特徴を表1に示す。
【0061】
[CO2リフォーミング試験]
各試験は100時間で、0.5 Mpaの圧力下、内径15 mmのプラグフロー反応器内で行い、触媒層の長さは100 mmであった。予熱したCH4/CO2=1/1v/vの混合物を反応器に供給することにより、ガスの時間空間速度値[GHSV = (NL x hours-1 of reagent)/L CAT]を5000時間1に調整した。電気的予熱と反応器加熱は、触媒層の第1層の入口温度を750℃に維持するように調整した。実施例1~3で製造した触媒を、H2+90%N2、10%の流量で、25~400℃の加熱サイクルで、約5時間かけて予備還元した。実施例1と同様に製造したNi系触媒は、炭化残渣の形成反応によって1時間以内に失活した。実施例3で製造したNi-Rh触媒は部分的に失活しており、排出後100時間の反応中に10.4重量%の炭化残渣を含んでいた。対照的に、有機金属カルボニル化合物を用いて製造した同量のNi-Rh金属を含む触媒は、コークス形成反応に対する親和性がはるかに低かった(実施例13、14、15及び表1を参照)。実施例4~15のように、Rhを含む触媒(有機金属前駆体からα-Al2O3及びMgAlOx上に0.1~0.5%のRhを堆積)は、H2+N2での還元の前処理で活性化されていないにもかかわらず失活せず、平衡アプローチ値が5℃より低い反応性の特徴を維持していたことに留意すべきである。
この点に関して、CO2リフォーミング及びスチームリフォーミング反応の平衡へのアプローチ温度(Tapproach CR及びTapproach SR)は、反応器を出るガスの実際の温度(Tg)と反応器を出るガスの実験組成が平衡になる温度(Teq)の差として定義されることが報告されている。
CH4+ CO2 = 2CO + 2H2 DH°298= 247 kJ/mole (CR)
CH4+ H2O = CO + 3H2 DH°298= 206 kJ/mole (SR)
ΔTapproach SR = Tg - Teq SR
ΔTapproach CR = Tg - Teq SR
【0062】
[SCT-CPO低接触時間触媒的部分的酸化試験]
反応性試験は100時間で、0.5 MPaの圧力下、反応器出口温度750~850°Cで実施され、CH
4/O
2/H
2O = 2/1.2/1 v/v o CH
4/O
2/CO
2 = 2/1.2/1 v/v及びGHSV = 85,000 h
-1を含む試薬混合物を供給した。試薬混合物は、WO97/37929及びdx.doi.org/10.1021/ie402463m, Ind. Eng. Chem. Ris. 2013, 52, 17023-17037に記載されているように、円錐台形に設計された触媒床に入る前に150℃に予熱された。特に、円錐台の入口直径は5 mm、出口直径は25 mm、円錐台の高さは30 mmに相当した。炭化残渣の形成による不活性化現象は、実施例1及び3で強調され、実施例10及び11ではより少ない程度である(表1参照)。いくつかの反応性試験では、平衡温度への接近が負の値を示したが、これは、dx.doi.org/10.1021/ie402463m, Ind. Eng. Chem. Ris. 2013, 52, 17023-17037に論述されているように、触媒の表面温度が気体出口温度よりも高い局所領域で反応が起きたことを示していることに留意すべきである。
【表1】
【手続補正書】
【提出日】2023-07-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体上に担持された、1又は2以上の遷移金属又は該遷移金属の化合物からなる触媒種を含む、化学プロセスのための触媒の製造方法であって、下記:
a)有機溶媒中の、前記触媒種を生成する前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を調製し、該溶液を前記担体と接触させること、ここで、前記有機金属化合物は金属-カルボニル及び前記遷移金属の有機配位子との錯体から選択され、前記担体は無機の酸化物、ニトリド、オキシニトリド、カーバイド、ホウ化物、及び酸化物構造がその表面に形成された金属化合物からなる群より選択され、
b)前記遷移金属の有機金属化合物の前記溶液を、化学吸着又は物理吸着プロセスで前記担体の表面に担持させること
、ここで、前記担持は
(i)前記遷移金属の前記有機金属化合物の前記溶液での前記担体のインシピエントウェットネス含浸によって前記遷移金属の前記有機金属化合物の前記溶液を接触させるか、又は
(ii)前記担体を、前記遷移金属の前記有機金属化合物の前記溶液中に分散させる
ことにより行われ、
c)前記担体の表面に担持された、前記遷移金属の前記有機金属化合物の前記溶液中の前記有機溶媒を除去し、少なくとも1つの熱処理によって該担体の表面に残存する前記遷移金属の前記有機金属化合物を完全に又は部分的に分解することにより、前記遷移金属の1又は2以上の触媒種が前記担体上に担持されること
、ここで、前記熱処理の前に、前記担体と前記遷移金属の有機金属化合物の前記溶液とを分離する工程が行われる、
を含
み、
ここで、前記遷移金属の有機金属化合物の溶液を前記担体と接触させる工程a)を行う前に、1又は2以上の遷移金属の第1の担持が前記担体上で、該担体を前記遷移金属の無機塩の水溶液又は該遷移金属の有機金属化合物の有機溶液に含侵させ、続いて前記有機塩又は前記有機金属化合物の分解及び前記遷移金属の前記担体上への担持まで乾燥及び加熱された後、該担体上で、工程a)がRh、Ru、Irから選択される遷移金属の有機複合体を用いて行われる、製造方法。
【請求項2】
前記金属-カルボニルがRh
4(CO)
12、Rh
6(CO)
16、Ru
3(CO)
12、Ir
4(CO)
12、Fe
2(CO)
9、Fe
3(CO)
12、Co
2(CO)
8、Co
4(CO)
12、Co
6(CO)
16からなる群より選択され
る請求
項1による方法。
【請求項3】
前記遷移金属の有機配位子との前記有機金属化合物が、前記遷移金属がCo、Fe、Ni、Rh、Ru、Ir、Pt、Pdから選択され、前記配位子がRCOCHCOR'-基(式中、R及びR'は同一であっても異なってもよく、C1~C6アルキル基、好ましくは少なくとも1つのメチル基を有するC1~C6アルキル基である)である錯体である、前記請求項の1又は2以上による方法。
【請求項4】
前記担体がペレットの形態又はモノシリック構造の形態であり、MgO、α-Al
2O
3、MgAlO
x、CeO
2、La
2O
3、ZrO
2、TiO
2、ペロブスカイト、コーディエライト及びFeCrAl合金からなる群より選択される、前記請求項の1又は2以上による方法。
【請求項5】
前記請求項の1又は2以上による方法で得られる触媒。
【請求項6】
CO
2リフォーミング、スチーム-CO
2リフォーミング、スチームリフォーミング、触媒的部分酸化及び低接触時間触媒的部分酸化プロセスにおける及び合成ガスの製造における請求項
5に記載の触媒の使用。
【請求項7】
炭化残渣の形成に関する熱力学的親和性の条件を低減させ、反応剤混合物中の水蒸気の原子と炭素の原子との比及び/又は酸素原子と炭素原子との比
もまた低減
させる、合成ガスの製造における請求項
6に記載の触媒の使用。
【国際調査報告】