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特表2024-523392生体アミンの分解のためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来の新規微生物ジアミンオキシダーゼ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】生体アミンの分解のためのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)由来の新規微生物ジアミンオキシダーゼ
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/17 20160101AFI20240621BHJP
   C12N 9/06 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 39/02 20060101ALI20240621BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20240621BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
A23L33/17 ZNA
C12N9/06 Z
A61K38/44
A61P37/08
A61P39/02
A23K20/189
C12N15/53
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577855
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-02
(86)【国際出願番号】 EP2022057431
(87)【国際公開番号】W WO2022263031
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】21179434.2
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523471666
【氏名又は名称】ウニヴェルジテート ホーエンハイム
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー ルッツ
(72)【発明者】
【氏名】ケトナー ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】セイテル イネス
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ-ヴェール サビーネ
【テーマコード(参考)】
2B150
4B018
4C084
【Fターム(参考)】
2B150DF09
4B018LB03
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB10
4B018MD20
4B018MD81
4B018ME07
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084BA44
4C084CA05
4C084DC23
4C084MA35
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZB131
4C084ZB132
4C084ZC371
4C084ZC372
(57)【要約】
本発明は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1f由来の特定のジアミンオキシダーゼ(DAO)酵素を含む機能性食品及び栄養補助食品、当該酵素の使用、及び生体アミン減少製品の製造のためのそれぞれの方法、並びに医薬品における使用のための、特に高レベルの生体アミンに関連する状態又は疾患の予防又は治療における使用のための当該酵素に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素を含む、機能性食品又は栄養補助食品であって、前記酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素を含む機能性食品又は栄養補助食品。
【請求項2】
酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、
生体アミン減少製品の産生におけるジアミンオキシダーゼ活性を有する前記酵素の使用。
【請求項3】
生体アミン減少製品の製造のための方法であって、(i)生体アミン含有製品及び/又は(ii)前記製品の生体アミン含有中間体製品を、前記製品及び/又は前記製品の前記中間体製品中に存在する生体アミンを分解するのに適した条件下及び期間にわたって、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素と接触させる工程を含み、前記酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、生体アミン減少製品の製造のための方法。
【請求項4】
医薬品に使用するためのジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素であって、前記酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、医薬品に使用するためのジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素。
【請求項5】
前記酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
からなる、請求項1に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項2に記載の使用、請求項3に記載の方法、あるいは請求項4に記載の使用のための酵素。
【請求項6】
前記(ii)のアミノ酸配列が、配列番号1と、少なくとも72%、少なくとも74%、少なくとも76%、少なくとも78%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.2%、少なくとも98.4%、少なくとも98.6%、少なくとも98.8%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.55%、少なくとも99.6%、少なくとも99.65%、少なくとも99.7%、少なくとも99.75%、少なくとも99.8%、少なくとも99.85%、少なくとも99.9%、少なくとも99.91%、少なくとも99.92%、少なくとも99.93%、少なくとも99.94%、少なくとも99.95%、少なくとも99.96%、少なくとも99.97%、少なくとも99.98%、又は少なくとも99.9%配列同一性を有する、請求項1又は請求項5に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項2又は請求項5に記載の使用、請求項3又は請求項5に記載の方法あるいは請求項4又は請求項5に記載の使用のための酵素。
【請求項7】
前記酵素が配列番号1のアミノ酸配列からなる、請求項1、5及び6のいずれか一項に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項2、5及び6のいずれか一項に記載の使用、請求項3、5及び6のいずれか一項に記載の方法、又は請求項4~6のいずれか一項に記載の使用のための酵素。
【請求項8】
前記製品が、食品及び飼料からなる群から選択される、請求項2、及び5~7のいずれか一項に記載の使用、又は請求項3、及び5~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記製品が、発酵食品、チーズ、ザワークラウト、ソーセージ、ワイン、チョコレート、酵母抽出物、魚、魚製品、生肉、野菜、乳製品、及び新鮮な乳からなる群から選択される食品である、請求項8に記載の使用又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
対象における生体アミンのレベルの増加に関連する状態又は疾患を予防又は治療する方法に使用するための、請求項4~7のいずれか一項に記載の使用のための酵素。
【請求項11】
前記生体アミンのレベルの増加が、前記生体アミンの摂取によるものである、請求項10に記載の使用のための酵素。
【請求項12】
生体アミンのレベルの増加に関連する状態又は疾患が、アレルギー、急性及び慢性アレルギー疾患、アレルギー反応、アレルギー様反応、かゆみ(掻痒)、下痢、発赤(潮紅)、嘔吐(嘔吐症)、急性及び慢性生体アミン中毒、緊張低下、呼吸困難、生体アミン不耐性、アナフィラキシー、アナフィラキシーショック、急性及び慢性蕁麻疹、喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、頭痛、片頭痛、アトピー性皮膚炎、肥満症、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、妊娠子癇、妊娠悪阻、早期分娩、消化性潰瘍、酸逆流、敗血症、線維筋痛症、慢性疲労症候群及び脊椎炎からなる群から選択される、請求項10又は請求項11に記載の使用のための酵素。
【請求項13】
前記生体アミンが、ヒスタミン、チラミン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン及びトリプタミンからなる群から選択される、請求項1、及び5~7のいずれか一項に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項2、及び5~9のいずれか一項に記載の使用、請求項3、及び5~9のいずれか一項に記載の方法、又は請求項4~7、及び10~12のいずれか一項に記載の使用のための酵素。
【請求項14】
前記生体アミンが、ヒスタミン、チラミン、プトレシン及びカダベリンからなる群から選択される、請求項13に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項13に記載の使用、請求項13に記載の方法、又は請求項13に記載の使用のための酵素。
【請求項15】
前記生体アミンがヒスタミンである、請求項14に記載の機能性食品又は栄養補助食品、請求項14に記載の使用、請求項14に記載の方法、又は請求項14に記載の使用のための酵素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1f由来の特定のジアミンオキシダーゼ(DAO)酵素を含む機能性食品及び栄養補助食品、当該酵素の使用、及び生体アミン減少製品の製造のためのそれぞれの方法、並びに医薬品における使用のための、特に高レベルの生体アミンに関連する状態又は疾患の予防又は治療における使用のための当該酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミン等の生体アミンは、L-ヒスチジンデカルボキシラーゼを産生する微生物の存在により発酵プロセスを受ける食品に特に見られる。L-ヒスチジンデカルボキシラーゼ(EC4.1.1.22)は、食品の発酵又は貯蔵中に前駆体L-ヒスチジンの脱炭酸によってヒスタミンを生成する。ヒスタミンは、ヒトにおいて多数の生理学的機能を示し、重要なホルモン及び神経伝達物質として作用する。したがって、食物中の大量の外因性ヒスタミンの消費は、嘔吐、下痢又は低血圧症等の様々な生理学的症状を伴う重篤な中毒を引き起こし得る。チラミン、プトレシン又はカダベリン等の他の生体アミンも、食物中に頻繁に見られ、人体に毒物学的影響を引き起こす可能性がある。中程度又は更には少量のヒスタミンの消費もまた、いくつかの感受性個体において有害なアレルギー様反応を引き起こし得る。全集団の約1%がヒスタミンに対して不耐性であり、それによって少量の投与量に感受性であると推定される。この不耐性は、摂取したヒスタミンの量と、小腸で利用可能なヒスタミン分解酵素DAO(EC1.4.3.22)の活性との間の不均衡に由来すると思われる。この酵素は、酸化的脱アミノ化によってヒスタミンを分解し、反応生成物(イミダゾール-4-イル)アセトアルデヒド、過酸化水素及びアンモニアをもたらす。
【0003】
ヒスタミン等の生体アミンに対する不耐性に対する実際の治療法は現在のところない。罹患者には、小腸内の内因性DAOを補助すると考えられるブタDAOを含む栄養補助食品を投与することができる。しかしながら、満足のいくヒスタミン低下に必要な活性は予想よりもかなり大きく、現在使用されているブタDAO製剤の代替物を見つけなければならないことが示されている。
【0004】
具体的には、ブタ腎臓から抽出されたDAOは、栄養補助食品として市販されており、その有効性について臨床試験で既に調査されている。しかし、最近、この酵素を十分なヒスタミン減少を達成するのに十分な量で抽出及び投与することができないことが示された。特に、ブタ腎臓DAOに関する速度論的研究は、56mg/L(0.5mM)を超えるヒスタミン濃度による基質阻害を示した。遊離ブタDAOの安定性を模擬腸液中で試験し、約19分の半減期を示した。約90%のヒスタミンのインビトロ低下のために、合計50ナノカタール(nkat)の遊離ブタDAOが必要であった。これは、約100gのブタ腎臓から単離された酵素の量に相当した。ブタ腎臓抽出物を含有する栄養補助食品は、DAO活性を示さなかった。代わりに、実験で使用したヒスタミン(0.75mg)は、5時間以内にカプセル成分に18.9±2.3%吸着することによって明らかに減少した。カプセル調製物は、模擬胃液中で少なくとも90分間その全体構造及び形状を保持したが、見かけのヒスタミン低下は、12.1±2.3%に有意に低下した(P≦0.05)。したがって、ヒスタミン不耐性個体に適切な補充を提供するために、ブタDAOの代替物が緊急に必要とされている。
【0005】
これに関連して、微生物DAOは、適切な発現系で大量に容易に生成することができる。この目的のために、いくつかの微生物DAOが当技術分野で研究され、特徴付けられている。微生物DAOは様々な特性を示し、食品からの生体アミンの分解に関して特定の利点及び欠点をもたらす。例えば、アルスロバクター・クリスタロポイテス(Arthrobacter crystallopoietes)KAIT-B-007由来のヒスタミンオキシダーゼを使用すると、ヒスタミンを高い速度論的効率で分解することができる。しかしながら、この酵素は、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のアミンオキシダーゼと同様に、生体アミンであるプトレシン、カダベリン又はスペルミジンを分解するのに適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、インビトロ及びインビボで広範囲の生体アミンを分解するための改善された手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の技術的問題に対する解決策は、特許請求の範囲において特徴付けられる実施形態によって達成される。
【0008】
特に、一態様では、本発明は、医薬品に使用するためのジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素に関し、当該酵素は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む。
【0009】
好ましい実施形態では、上記酵素は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
からなる。
【0010】
特定の実施形態では、上記酵素は、配列番号1のアミノ酸配列からなる。
【0011】
本明細書で使用される場合、「ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素」という用語は、一般的な反応
[数1]
R-CH-NH+HO+O→R-CHO+NH+H
による生体アミンの酸化を触媒する酵素に関する。
【0012】
本発明で使用されるジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素は、(i)配列番号1のアミノ酸配列を有し、その生体アミンの分解における有利な使用が本発明で発見されているヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1fジアミンオキシダーゼ-1(DAO-1)であるか、又は(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素の場合、それに由来するそれぞれのDAOであるかのいずれかである。
【0013】
「配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、酵素」という用語は、得られるポリペプチドが配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼの生物学的活性を保持するという要件を満たすならば、配列番号1のアミノ酸配列に対して、任意の数のアミノ酸置換、付加若しくは欠失、例えば、配列番号1のアミノ酸配列に対して、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は200までの任意の数(すなわち、1≦n≦200である任意の整数n)のアミノ酸置換、付加若しくは欠失を含むことができるポリペプチドに関する。これに関連して、本明細書で使用される「ジアミンオキシダーゼの生物学的活性を保持する」という用語は、当該技術分野で知られている標準的なジアミンオキシダーゼ活性アッセイで決定される場合、配列番号1のアミノ酸配列を有するY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f DAO-1の活性の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、好ましくは、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、100%、又は100%超を有するポリペプチドに関する。
【0014】
アミノ酸の置換、付加又は欠失の数は、一般に、得られるポリペプチドの配列同一性、生物学的活性、及びアミノ酸の置換、付加又は欠失の絶対数に関する上記の条件によってのみ限定されるが、得られるポリペプチドが、配列番号1に対して少なくとも72%、少なくとも74%、少なくとも76%、少なくとも78%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.2%、少なくとも98.4%、少なくとも98.6%、少なくとも98.8%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.55%、少なくとも99.6%、少なくとも99.65%、少なくとも99.7%、少なくとも99.75%、少なくとも99.8%、少なくとも99.85%、少なくとも99.9%、少なくとも99.91%、少なくとも99.92%、少なくとも99.93%、少なくとも99.94%、少なくとも99.95%、少なくとも99.96%、少なくとも99.97%、少なくとも99.98%、又は少なくとも99.9%の配列同一性を有することが好ましい。
【0015】
参照配列に対するアミノ酸配列の配列同一性を決定するための手段は、当技術分野で公知である。
【0016】
特定の実施形態では、上記酵素DAO-1は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)から精製することができる。他の特定の実施形態では、上記酵素は、適切な宿主細胞、例えば当技術分野で公知の適切な微生物宿主細胞、又は当技術分野で公知の適切な酵母宿主細胞で組換え生産することができる。この点で適切な酵母宿主細胞には、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)及びコマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)が含まれ、K.ファフィイ(K.phaffii)が特に好ましい。好適な宿主細胞における上記酵素の組換え発現のための手段は特に限定されず、当該分野で公知である。
【0017】
特定の実施形態では、上記酵素は、対象、好ましくは哺乳動物対象、より好ましくはヒト対象における生体アミンのレベル増加に関連する状態又は疾患を予防又は治療する方法に使用するためのものである。
【0018】
これに関連して、本明細書で使用される「生体アミンのレベルの増加」という用語は、インビボ、例えば、生体アミンが血流に入る前に最初に蓄積する小腸、又は対象の血液中の生体アミンのレベルの増加を指す。対象における生体アミンのレベルを決定するための手段は、特に限定されず、当技術分野で公知である。
【0019】
生体アミンのインビボレベルの増加は、体内の病的状態、例えばアレルギー反応のような調節不全の免疫機能に起因し得るか、又は例えば高レベルの生体アミンを含有する食品を消費することによる対象による生体アミンの摂取に起因し得る。
【0020】
特定の実施形態では、生体アミンのレベルの増加に関連する状態又は疾患は、アレルギー、急性及び慢性アレルギー疾患、アレルギー反応、アレルギー様反応、かゆみ(掻痒)、下痢、発赤(潮紅)、嘔吐(嘔吐症)、急性及び慢性生体アミン中毒、緊張低下、呼吸困難、生体アミン不耐性、アナフィラキシー、アナフィラキシーショック、急性及び慢性蕁麻疹、喘息、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、頭痛、片頭痛、アトピー性皮膚炎、肥満症、肥満細胞活性化症候群(MCAS)、妊娠子癇、妊娠悪阻、早期分娩、消化性潰瘍、酸逆流、敗血症、線維筋痛症、慢性疲労症候群及び脊椎炎からなる群から選択される。
【0021】
本明細書で使用される「生体アミン」という用語は、植物、動物、真菌、又は微生物の構成成分であるか、それによって分泌されるか、又は代謝産物である任意のアミン化合物に関し、ただし、当該アミンが対象に有害作用を有し得ることを条件とする。しかしながら、好ましい実施形態では、生体アミンは、ヒスタミン、チラミン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン及びトリプタミンからなる群から、好ましくはヒスタミン、チラミン、プトレシン及びカダベリンからなる群から選択される。特定の実施形態では、生体アミンはヒスタミンである。
【0022】
関連する態様では、本発明は、対象における生体アミンのレベル増加に関連する状態又は疾患を予防又は治療する方法に関し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素を対象に投与する工程を含み、当該酵素は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む。
【0023】
この態様において、本発明の使用のための酵素について上に示した全ての関連する定義及び制限は、類似の様式で適用される。特に、酵素自体、対象における生体アミンのレベル増加に関連する状態又は疾患、対象、及び生体アミンは、上に定義した通りである。
【0024】
これに関連して、本発明で使用される酵素の投与量、投与レジメン、投与様式及び適切な製剤は特に限定されず、当業者に公知であり、及び/又は当業者によって容易に決定することができる。
【0025】
更なる態様では、本発明は、当該酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、生体アミン減少製品の製造におけるジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素の使用に関する。
【0026】
この態様において、本発明の使用のための酵素について上に示した全ての関連する定義及び制限は、類似の様式で適用される。特に、酵素自体及び生体アミンは上記で定義した通りである。
【0027】
本発明で使用される酵素を生体アミン減少製品の製造に使用する手段は特に限定されず、当該技術分野で公知である。それぞれの手段は、例えば、(i)生体アミン含有製品及び/又は(ii)当該製品の生体アミン含有中間体製品を、当該製品及び/又は当該製品の当該中間体製品中に存在する生体アミンを分解するのに適した条件下及び期間で当該酵素と接触させる工程を含む。それぞれの条件及び/又は期間は特に限定されず、当業者に公知であり、及び/又は当業者によって容易に決定することができる。これらには、例えば、37±1℃の温度及びpH6~8のpH範囲で最大5時間以内に0.1nkat/mL又は0.1nkat/mgの酵素活性を提供する量の製品又はその中間製品と酵素のインキュベーションが含まれる。
【0028】
本明細書で使用される「生体アミン減少製品」という用語は、その生体アミン含有量がその元の生体アミン含有量に対して減少している製品を指す。特定の実施形態では、生体アミン含有量は、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも95.5%、少なくとも96%、少なくとも96.5%、少なくとも97%、少なくとも97.2%、少なくとも97.4%、少なくとも97.5%、少なくとも97.6%、少なくとも97.7%、少なくとも97.8%、少なくとも97.9%、少なくとも98%、少なくとも98.1%、少なくとも98.2%、少なくとも98.3%、少なくとも98.4%、少なくとも98.5%、少なくとも98.6%、少なくとも98.7%、少なくとも98.8%、少なくとも98.9%、少なくとも99%、少なくとも99.1%、少なくとも99.2%、少なくとも99.3%、少なくとも99.4%、少なくとも99.5%、少なくとも99.6%、少なくとも99.7%、少なくとも99.8%、又は少なくとも99.9%低下している。
【0029】
本発明による上記の使用に適した製品は、特に限定されず、生体アミン含有量の低下が関心の対象となり得る生体アミンを含有する任意の製品を含む。好ましくは、製品は、食品及び飼料からなる群から選択される。これに関連して、本明細書で使用される「食品」という用語は、栄養目的及び/又はレクリエーション目的で人間が摂取することができる任意の固体又は液体の可食物、例えば食物及び飲料を指す。同様に、本明細書で使用される「飼料」という用語は、栄養目的で動物が摂取することができる任意の固体又は液体の可食物、例えば食餌を指す。特定の実施形態では、上記製品は、発酵食品、チーズ、ザワークラウト、ソーセージ、ワイン、チョコレート、酵母抽出物、魚及び魚製品、生肉、野菜、乳製品、並びに新鮮な乳からなる群から選択される食品である。
【0030】
関連する更なる態様では、本発明は、(i)生体アミン含有製品及び/又は(ii)当該製品の生体アミン含有中間体製品を、当該製品及び/又は当該製品の当該中間体製品中に存在する生体アミンを分解するのに適した条件下及び期間にわたって、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素と接触させる工程を含み、当該酵素が、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む、生体アミン減少製品の製造のための方法に関する。
【0031】
この態様では、本発明の使用のための酵素及び/又は本発明の使用について上に示した全ての関連する定義及び制限が、類似の様式で適用される。特に、酵素自体、製品、「生体アミン減少製品」という用語、及び生体アミンは上で定義した通りである。
【0032】
本発明の方法に適用可能なそれぞれの条件及び/又は期間は特に限定されず、当業者に公知であり、及び/又は当業者によって容易に決定することができる。これらには、例えば、製品又はその中間製品と、本発明の使用のための上で定義した酵素とのインキュベーションが含まれる。
【0033】
更なる態様では、本発明は、上記方法によって得られた製品に関する。
【0034】
この態様では、本発明の使用のための酵素、本発明の使用、及び/又は本発明の方法について上に示した全ての関連する定義及び制限が、類似の様式で適用される。特に、酵素自体、製品、「生体アミン減少製品」という用語、及び生体アミンは上で定義した通りである。
【0035】
更なる態様では、本発明は、機能性食品、栄養補助食品又は医薬組成物に関し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素を含み、当該酵素は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む。
【0036】
この態様において、本発明の使用のための酵素について上に示した全ての関連する定義及び制限は、類似の様式で適用される。特に、酵素自体は上で定義した通りである。
【0037】
これに関連して、本明細書で使用される「機能性食品」という用語は、本発明で使用される酵素の添加によって「機能が付与された」、すなわち機能性食品の摂取時に対象、好ましくはヒト対象の生体アミンのレベルを低下させることができるという追加の効果を示すように改変された、任意の食品、例えば任意の固体又は液体商品、例えば食物及び飲料を指す。
【0038】
更に、本明細書で使用される「栄養補助食品」という用語は、ピル、カプセル、錠剤、粉末又は液体の形態の、対象の食事、好ましくはヒト対象の食事を補助することを意図した任意の製造製品を指し、錠剤、例えばスクロース系錠剤の形態が特に好ましい。それぞれの栄養補助食品は、追加の薬剤、例えばカタラーゼと共に製剤化することができる。
【0039】
特定の食品、栄養補助食品の形態、医薬組成物の形態、投与量、投薬レジメン、及び本発明で使用される酵素に適した製剤は、特に限定されず、当業者に公知であり、及び/又は当業者によって容易に決定することができる。
【0040】
注目すべきことに、本発明の生体アミン減少製品、機能性食品、栄養補助食品及び医薬組成物は、動物由来製品を使用せずに製造することができ、その結果、ベジタリアン及びビーガンの基準を満たすことができる。
【0041】
最終的な態様において、本発明は、機能性食品又は栄養補助食品における、ジアミンオキシダーゼ活性を有する酵素の使用に関し、当該酵素は、
(i)配列番号1のアミノ酸配列;又は
(ii)配列番号1と少なくとも70%の配列同一性を有し、ジアミンオキシダーゼ活性を有する、アミノ酸配列
を含む。
【0042】
この態様では、本発明の使用のための酵素について上に示した全ての関連する定義及び制限、同様にまた、本発明の機能性食品又は栄養補助食品についても、類似の様式で適用される。特に、酵素自体、機能性食品及び栄養補助食品は、上で定義した通りである。
【0043】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」/「含む(comprises)」という用語は、「から本質的になる(consisting essentially of)」/「から本質的になる(consists essentially of)」及び「からなる(consisting of)」/「からなる(consists of)」という用語を明示的に含み、すなわち、当該用語の全ては、本明細書では互いに交換可能である。
【0044】
更に、本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された値の±10%、好ましくは指定された値の±7.5%、±5%、±3%、±2%、又は±1%の修飾語を表す。したがって、例として、「約10」という用語は、9~11、9.25~10.75、9.5~10.5、9.7~10.3、9.8~10.2、及び9.9~10.1の範囲を含む。
【0045】
微生物に見られる酵素の多様性は、当技術分野で知られているように、例えばブタDOAと比較して類似又は更に良好な属性を有する競合的DAOを提供する可能性を有することができる。栄養補助食品で投与されるか、又は食品産業で一般的に使用される場合、微生物DAOの利点は、費用対効果が高く便利な酵素生産である。したがって、本発明は、代替微生物DAOの有望な産生物質としてヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)(Y.リポリティカ)PO1fを同定した。この酵母は、生乳中に最も多く見られる酵母種の1つを表し、様々な種類のチーズにも見られる。それは、そのタンパク質分解活性及び脂肪分解活性のためにチーズの熟成中の風味及び香りの発生に寄与し、したがって、製品の望ましい重要な構成要素である。酵母は、様々な製造段階(生乳、空気、塩水、表面との接触)で汚染が起こり得るため、チーズ中で自然に発生し、食品中の一般的な環境条件下で良好に増殖する。しかしながら、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)は、2018年に欧州食品安全局によって日和見病原体として分類され、製造目的のためだけに安全状態の適格な推定が与えられた。これは、酵母が生細胞として最終食品中に存在すべきではなく、新規食品として不活性化バイオマスとして使用できることを意味する。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)は、生体アミン産生物質として同定されたが、食品の熟成中に生体アミンを分解することもできると疑われた。しかしながら、生体アミンのこの分解に関与する酵素は、本発明以前には同定も記載もされていなかった。
【0046】
本発明によれば、遺伝子改変ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1fのバイオリアクタ培養は、1301±54.2nkat/gタンパク質の比DAO活性を達成し、これはY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおける天然DAO-1産生と比較して比DAO活性の93倍の増加及びブタ腎臓からのDAO抽出と比較して比DAO活性の145倍の増加に相当した。クロマトグラフィ精製を含むその後の後処理により、4738±31nkat/gタンパク質の比DAO活性が得られ、これは、ブタ腎臓から抽出及び精製されたDAOと比較して、比DAO活性のほぼ60倍の増加に相当した。1リットルのバイオリアクタ培養は、5kgのブタ腎臓からの抽出及び部分精製後に得られたほぼ同じDAO活性を生じた。更に、DAO-1の微生物産生は、ブタ腎臓からの抽出よりもはるかに少ない作業しか必要としない。
【0047】
これに関連して、当技術分野で知られているような、特に栄養補助食品におけるブタDAO調製物は、不活性DAO調製物であることが証明された。更に、当技術分野におけるブタDAOの抽出及び部分精製は、81nkat/gタンパク質の低い比DAO活性を有する100gのブタ腎臓から、50nkatの総活性をもたらした。対照的に、本明細書に記載のコマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)におけるDAO-1の産生により、2500nkat/gタンパク質の比DAO-1活性を有する50.000nkat/L培地が得られた。実証されるように、DAO-1を更に7.2倍精製することができ、これにより、18.000nkat/gタンパク質のコマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)において産生されるDAO-1の比DAO-1活性が得られるであろう。これは、ブタの腎臓から得られた比DAO活性よりも200倍超高い。本明細書にも記載されるように、DAO-1を模擬腸条件下でそのヒスタミン分解能力について評価し、それにより690nkat DAO-1を錠剤に製剤化し、合計22mgのヒスタミンを分解した。それにより、本発明によるDAO-1は、インビボで関連する量のヒスタミンを分解することができると結論付けることができる。この全活性(690nkat)は、14mLの細胞懸濁液中でのコマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)のバイオリアクタ培養で得られた。DAO-1錠剤については、所望のDAO-1活性を達成するために44mgのタンパク質を製剤化した。
【0048】
部分的に精製されたブタDAO抽出物を使用して同等の錠剤を調製するためには、同じ全活性(690nkat)を適用するために約1.4kgのブタ腎臓が必要とされるであろう。腎臓あたり150gの平均重量(30kgのブタの場合)では、ほぼ10個の腎臓、したがって5匹のブタが、同等の錠剤を調製するために必要とされる。81nkat/gタンパク質の比DAO活性では、8gを超えるタンパク質を錠剤に製剤化しなければならない。
【0049】
結論として、DAOの微生物産生は、満足のいくDAO含有錠剤の調製にとって不可避である。DAO錠剤の調製のためのブタ腎臓からのDAOの抽出は、技術的、経済的、及び生態学的観点から妥当ではない。
【0050】
基質選択性に関して、本発明によるDAO-1及びブタDAOは両方とも、ヒスタミン、プトレシン、カダベリン及びスペルミジンの酸化的脱アミノ化を触媒する。しかしながら、基質トリプタミン及びチラミンは、ブタDAOに対して不十分な基質であるようである。対照的に、DAO-1は両方の基質を効率的に脱アミノ化し、これはその基質選択性に関してブタDAOを超える本発明によるDAO-1の利点である。これに関連して、チラミン及びトリプタミンは、食品において最も一般的に見出される生体アミンの1つであると考えられている。
【0051】
DAO-1を、ヒスタミン分解の効率に関して本明細書においてインビトロ研究で調査した。使用した最初の150mg/L(100%)のヒスタミンは、5時間(37℃)以内に37.4±0.65mg/L(25±1.7%)に分解された。ブタDAOと比較して、本発明によるDAO-1は基質ヒスタミンに対してより低い親和性を有するが、DAO-1はインビトロで同様の満足できるヒスタミン分解を示した。
【0052】
DAO-1は、ヒスタミンに加えて、チラミン、プトレシン、カダベリン、アグマチン、スペルミジン及びトリプタミン等の他の関連する生体アミンも分解するという微生物DAO間の特異性を示す。これらの生体アミンは発酵食品中にも存在し、ヒスタミンと同様にヒトに対する毒性特性を有するため、酵素によって同時に分解できると有利である。ブタ腎臓由来のDAOはまた、ヒスタミン、プトレシン及びカダベリンを分解することができる。しかしながら、生体アミンのチラミンは、この酵素によって代謝されない。したがって、ブタ腎臓からのDAOによる、幾分より効率的なヒスタミン分解は、DAO-1のより効率的で単純な産生及び広い基質スペクトルの利点に勝る。
【0053】
要約すると、本発明は、(i)優れた比活性、(ii)ヒスタミン等の生体アミンの良好なインビトロ分解、及び(iii)広範な基質選択性を有利かつ予想外に特徴とする、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1f由来ジアミンオキシダーゼ(DAO-1)の使用を提供する。更に、本発明で使用されるDAO-1酵素は、はるかにより簡単、迅速、効率的、及び経済的な方法で有利に製造することができる。更に、例えば動物由来のDAOとは対照的に酵母由来のDAOを使用することは、倫理的側面、並びにユーザの受入れ及びコンプライアンスに関して問題をあまり引き起こさない。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1】(A)相同組換えによるdao-1のY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノム(axp遺伝子座)へのインテグレーションのためのpHR_axp_dao-1プラスミドの図である。(B)相同組換えによるdao-2のY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノム(axp遺伝子座)へのインテグレーションのためのpHR_axp_dao-2プラスミドの図である。
図2】Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f由来の2つの推定DAO DAO-1(A;Uniprot:Q6CGT2)及びDAO-2(B;Uniprot:A0A371BXN9)とのブタDAOのBLASTPアミノ酸配列アラインメントの図である。
図3】YPDUra培地中でのY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1及び参照株Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのバイオリアクタ培養の図である。作業体積:0.8L、28℃、pH6.5。
図4】DAO-1の疎水性相互作用クロマトグラフィ精製の図である。カラム材料:Toyopearl phenyl 650M(CV=22mL)。
図5】塩沈殿及び疎水性相互作用クロマトグラフィによるDAO-1精製のSDS-PAGE分析の図である。Precision Plus Protein(商標)非染色タンパク質標準10~250kDa(M);破砕後の粗抽出物(CE);20%(w/v)塩沈殿後の上清(S20%);60%(w/v)塩沈殿後の懸濁ペレット(P60%)、HICフロースルー(FT);HIC溶出画分(D2~E7)。
図6】精製DAO-1のネイティブPAGE分析の図である。マーカ(M):Servaネイティブマーカ(21~720kDa);レーンあたり5μgタンパク質;基質としてヒスタミンを使用して、クーマシーブリリアントブルーG-250(C)及び活性物質(A)で染色した。
図7】DAO-1の最大活性に対する温度の影響の図である。DA-67アッセイを用いてPIPES緩衝液(25mM;pH7.2)中で測定されたDAO-1活性。最大DAO-1活性(100%)=1.88±0.01nkat/mL。
図8】DAO-1の最大活性に対するpH値及び緩衝液の影響の図である。37℃でDA-67アッセイを用いてDAO-1活性を測定した。最大DAO-1活性(100%)=1.84±0.03nkat/mL。
図9】緩衝系(各20mM)及び37℃で5時間後のpH値に応じたDAO-1の残存活性の図である。標準的なアッセイ条件下、37℃でDA-67アッセイを用いてDAO-1活性を測定した。各データポイントの残存活性を最初に適用したDAO-1活性と比較し、パーセントで示す(100%=0.156±0.01nkat/mL)。
図10】DAO-1のミカエリス・メンテン速度論の図である。DAO-1活性を、37℃のPIPES緩衝液(25mM;pH7.2)中のDA-67アッセイで測定した。
図11】Hanes-Woolfに従って線状化したDAO-1のミカエリス・メンテン速度論の図であり、PIPES緩衝液(25mM;pH7.2)中37℃でヒスタミン(0.5mM~50mM)を基質として用いたDA-67アッセイで決定された酵素活性。
図12】37℃で0.1nkat/mLのDAO-1を使用した食品関連濃度(150mg/L;1.35mM)でのヒスタミンのインビトロ低下の図である。
図13】異なるアミンオキシダーゼのパーセント同一性マトリックス(Clustal2.1により作成)の図である。
図14】ヒトDAO及びY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f DAO-1のアミノ酸配列のアラインメントの図である。青色矢印は、ヒトDAOの活性部位(位置373及び461)を示す。アライメントは、ESPript(https://espript.ibcp.fr)を用いて行った。
図15】自己構築型錠剤プレスを使用したDAO-1錠剤の調製の図である。
図16】YPDUra培地でのヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)_axp_dao-1のバイオリアクタ培養;28℃での作業体積5L(pH6.5)。ガラスビーズ(直径0.75mm)を含むTissueLyser II(Qiagen,Dusseldorf,Germany)を使用して、DAO-1活性測定のためにY.リポリティカ(Y.lipolytica)細胞を破壊した。DAO-1活性を、DA-67アッセイを使用して標準的なアッセイ条件下で測定した。
図17】純粋なSIF及び異なる食品マトリックスを補充したDAO-1の安定性の図である。食品マトリックスSIF1は、50g/LのBSA及び25g/Lのスクロースを含有する。食品マトリックスSIF2は、それぞれ25g/L及び50g/LのスクロースのBSA及びWPIを含有する。食品マトリックスSIF3は、BSA、WPI、カゼインナトリウムをそれぞれ16.67g/L及び50g/Lのスクロースで含む。標準アッセイ条件下でDA-67アッセイを用いてDAO-1活性を決定した(100%DAO-1活性=1.25±0.15nkatヒスタミン/mL)。
図18】非加水分解(A)及び加水分解(B)食品マトリックスSIF3におけるDAO-1のミカエリス・メンテン速度論の図である。1.56~50mMの範囲のヒスタミン濃度。DAO-1活性をDA-67アッセイで測定した。
図19】37℃の非加水分解(A)及び加水分解(B)条件下での食品マトリックス模擬腸液中のDAO-1のミカエリス・メンテン速度論の図である。当該技術分野で知られているような線形化。1.56~50mMの範囲のヒスタミン濃度。
図20】DAO-1錠剤の調製に使用したDAO-1調製物のSDS-PAGE分析の図である。Precision Plus Protein(商標)非染色タンパク質標準10~250kDa(M)。矢印は、DAO-1タンパク質バンドを示す。
図21】Knauer(Berlin,Germany)製Platinblue UHPLCシステムでPhenomenex製AquaC18カラム(150×4.6mm;200Å)での食品マトリックスSIF生体内変換試料(90分)中のヒスタミン(1)及びチアミン(2)の分析のためのクロマトグラム例(RP-HPLC)の図である。210nmでの検出。
図22】Phenomenex(Knauer(Berlin,Germany)製のPlatinblue UHPLCシステム)からのAquaC18カラム(150×4.6mm;200Å)での食品マトリックスSIF生体内変換試料(90分)中のヒスタミンの定量のための例示的なヒスタミン較正の図である。210nmでの検出。
図23】DAO-1錠剤(690nkat DAO-1)による食品マトリックスSIF3中の75mgヒスタミンの生体内変換の図である。対照にはDAO-1錠剤を適用しなかった。ヒスタミン濃度をRP-HPLCによって測定した。
図24】DAO-1の生産のためのコマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)のフェドバッチバイオリアクタ培養の培養プロセスの図である。矢印=指数関数的グルコース供給の開始。
【0055】
本発明は、これに限定されることなく、以下の実施例によって更に説明される。
【実施例
【0056】
材料及び方法:
材料及び試薬
リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、硫酸アンモニウム((NHSO)、1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、トリス-塩化水素(-HCl)、ヒスタミン二塩酸塩、塩化ナトリウム(NaCl)、水酸化ナトリウム(NaOH)、2-プロパノール、D(+)-スクロース及び過酸化水素30%は、Carl Roth GmbH(Karlsruhe,Germany)から購入した。リン酸二水素ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、オルト-リン酸(HPO)及びチアミンクロリド二塩酸塩はMerck(Darmstadt,Germany)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA;modified Cohn Fraction V、pH5.2)及びServa天然マーカ(21~720kDa)は、Serva electrophoresis GmbH(Heidelberg,Germany)から購入した。Bacto(商標)ペプトン、BD(商標)Difco(商標)酵母窒素塩基及びT4 DNAリガーゼは、Thermo Fisher Scientific(Waltham,USA)から購入した。酵母Synthetic Drop-out Medium Supplements(ウラシル、ロイシン、及びトリプトファンなし)、Antifoam204、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、ヒスタミン(分析的に純粋)、カダベリン、プトレシン二塩酸塩、スペルミジン三塩酸塩、トリプタミン、チラミン塩酸塩及びカタラーゼ(ミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)由来;111700U/mL)は、Sigma-Aldrich(Merck)(St.Louis,USA)から購入した。アグマチン二塩酸塩はSynthonix Inc.(Wake Forest,USA)から購入した。ウラシルはAlfa Aesar(Haverhill,USA)から購入した。(10-(カルボキシメチル-アミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム塩(DA-67)は、Fujifilm Wako Chemicals U.S.A.Corp(Richmond,USA)から購入した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(グレードI)は、AppliChem GmbH(Darmstadt,Germany)から購入した。Q5(登録商標)High-Fidelity DNA polymerase並びに制限酵素BssHII及びNheIは、New England Biolabs GmbH(Ipswich,USA)から購入した。Precision Plus Protein(商標)非染色タンパク質標準10~250kDaは、Bio-Rad laboratories GmbH(Feldkirchen,Germany)から購入した。樹脂材料Toyopearl Phenyl-650Mは、Tosoh Bioscience Inc.(SanFrancisco,USA)から購入した。
【0057】
株及び培地
推定DAO及びプラスミド増殖の遺伝子を大腸菌(Escherichia coli)XL-1にクローニングし、100μg/mLのアンピシリンを含む溶原性ブロス培地で増殖させた。
【0058】
ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1fは、International Centre for Microbial Resourcesから入手し、酵母抽出ペプトンデキストロース(YPD)培地(10g/Lの酵母抽出物、20g/Lのbacto(商標)ペプトン、20g/Lのグルコース)中で培養した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f中のdao-1及びdao-2の相同組換え組込みの陽性形質転換体のスクリーニングは、6.7g/Lの酵母窒素塩基(BD(商標)Difco(商標))、0.9g/LのCSM(ウラシル、ロイシン及びトリプトファンを含まない酵母合成液滴培地補足物)、20g/Lのグルコース及び15g/Lの寒天を含有する選択寒天上で行った。
【0059】
相同組換え(pHR)のためのベクターへのdao遺伝子のクローニング
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAを、ガラスビーズ(直径0.5~0.7mm)を使用した機械的細胞破壊及びその後の当該分野で公知のROTI(登録商標)フェノール/クロロホルム/イソアミルでのDNA抽出によって単離した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fを試験管中5mLのYPD中で30℃で20時間増殖させ、180rpmで撹拌し、DNA単離のために完全に回収した。
【0060】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f(配列番号2(dao-1)及び3(dao-2))中の2つの推定DAOをコードする遺伝子を、製造業者の指示に従って、Q5(登録商標)High-Fidelity DNAポリメラーゼを使用するPCRによってゲノムDNAから増幅した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAからのdao-1の増幅に使用したプライマーは、(5`-ATGACTCCCCACCCTTTCGATCAG-3`;配列番号4)及び(5`-CTAGATCTTGCAAGATCGACAGTCCTTG-3`;配列番号5)であった。dao-1のプライマーを69℃で30秒間アニーリングした(35サイクル)。PCR産物(2016bp)を2回目の連続PCR増幅に直接使用し、BssHII及びNheIの制限部位を追加した。この増幅に使用したプライマーは(5`-CTTGCGCGCATGACTCCCCACCCTTTC-3`;配列番号6)及び(5`-GGCGCTAGCCTAGATCTTGCAAGATCG-3`;配列番号7)であった。ゲノムDNAからのdao-2(2145bp)の増幅に使用したプライマーは、BssHII(5`-GAAGCGCGCATGCACAGACTATCAC AACTAGC-3`;配列番号8)及びNheI(5`-CAAGCTAGCCTACTTGGAACAGC ACGA-3`;配列番号9)の制限部位をPCR産物に直接導入した。dao-2のプライマーを68℃で30秒間アニーリングした(35サイクル)。得られたアンプリコンdao-1_BssHII_NheI及びdao-2_BssHII_NheIを、BssHII及びNheI制限消化に使用する前に精製した(DNA clean&concentrator-25,ZymoResearch,Irvine,USA)。消化したアンプリコンを、1%(w/v)アガロースゲルでの電気泳動分離後にGeneJETゲル抽出キット(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を用いて精製した。遺伝子を、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fの酸性細胞外ペプチダーゼ(axp)遺伝子座への相同組換え組込みのための1kbのフランキング領域を含むBssHII及びNheI消化pHR_axpベクター(図1)にライゲーションした(T4 DNAリガーゼ)。その後、化学的にコンピテントな大腸菌(Escherichia coli)XL-1細胞を、熱ショック形質転換によるライゲーションアプローチで形質転換した。細胞を溶原性ブロス寒天プレート(100μg/mLアンピシリン)に播種し、37℃で一晩増殖させた。コロニーを採取し、5mLの溶原性ブロス培地(100μg/mLアンピシリン)中、37℃で16時間培養し、180rpmで撹拌した。プラスミドpHR_axp_dao-1及びpHR_axp_dao-2を、GeneJETプラスミドミニプレップキット(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を製造者の説明書に従って使用して単離した。当技術分野で公知のように、axpフランキング領域(5`-CTAAAGATGTTGATCTCCTTGTG CC-3`;配列番号10)及び(5`-CCTCTGGGCCGAATACAACAC-3`;配列番号11)のプライマーを使用して配列決定(Eurofins Genomics GmbH,Germany)によって、dao遺伝子を分析した。
【0061】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおけるdao遺伝子の相同組換え組込み
当技術分野で公知のように、CRISPR-Cas9システムを使用して、推定DAO dao-1及びdao-2の遺伝子を、それぞれのpHRベクター(pHR_axp_dao-1及びpHR_axp_dao-2;図1)からY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノム上のaxp遺伝子座に相同組換え的に組み込んだ。
【0062】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1のバイオリアクタ培養
予備実験は、DAO-2がヒスタミンに対しては酵素活性を示さず、アグマチンに対してのみ酵素活性を示すことを示した。したがって、DAO-2は本発明では更に調査されなかった。
【0063】
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1及びY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f(陰性対照)を、Multiforsバイオリアクタシステム(1Lリアクタ体積、Infors HT)で800mLの作業体積で培養した。720mLのYPDUra培地を含有するバイオリアクタ(YPD培地+0.2g/Lのウラシル及び0.2mL/LのAntifoam204)に80mLの前培養物を接種し、これを500mLの振盪フラスコ中のYPDUraで培養し、30℃で20時間インキュベートし、115rpmで撹拌した。バイオリアクタを常に0.5vvmを通気し、28℃に加熱した。撹拌機の速度を段階的に増加させ(800rpmから開始)、酸素分圧pOを20%超に維持した。2MのHPO及び2MのNaOHを用いてpHを6.5で一定に保った。バイオリアクタ培養中のpO及びpH値を、それぞれInPro6900及び405-DPAS-SC-K8S pHセンサーを用いて監視した。培地中の光学密度(OD600)、生物乾燥質量及びグルコース濃度を監視するために、バイオリアクタ培養の過程で試料を常に採取した。細胞内DAO-1活性の測定のために、8時間毎に15mLの試料を採取した。これらの試料を遠心分離し(8000g、7分、4℃)、生理食塩水(0.9%(w/v)NaCl)で2回洗浄した後、細胞ペレットを-20℃で保存した。遠心分離(6000g、10分、4℃)による96時間の培養後に細胞塊全体を回収した。ペレットを生理食塩水で2回洗浄し、最後に8000g、15分、4℃で遠心分離した後、更に処理するまで-20℃で保存した。
【0064】
タンパク質分析及びDAO活性決定のための細胞破壊及び脱塩
酵母細胞を氷上で解凍し、0.1mMのPMSF(2-プロパノールに溶解)を含有するPIPES緩衝液(25mM、pH7.2)に懸濁した(20%(w/v)細胞懸濁液)。バイオリアクタ培養の過程で採取した酵素試料を、French press(SLM Aminco FA-078、American Instrument Exchange,Haverhill,USA)を用いて1kbarで2つの連続工程で機械的に破壊した。培養終了時に採取した細胞塊を、高圧ホモジナイザ(One Shot 20 KPSI,Constant Systems Limited,Daventry,UK)を用いて1.35kbarでの2回の連続工程で破壊した。細胞破壊後、遠心分離(8000g、5分、4℃)によって細胞残屑を除去した。酵素活性を決定するためのバイオリアクタ培養の過程で採取した試料を、製造業者の指示に従って、PIPES緩衝液(25mM、pH7.2)に対してPD-10カラム(GE Healthcare,Chicago,USA)を使用して破壊後に脱塩した。
【0065】
DAO-1の精製
DAO-1を分画した(NHSO沈殿及びその後の疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)によって精製した。したがって、上記のように、10gのY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_dao-1細胞を懸濁し、破壊した。液体(NHSO(4M)を無細胞抽出物に20%(v/v)の最終濃度まで滴下し(2mL/分)、撹拌(350rpm)しながら氷上で1時間更に平衡化した。その後、溶液を10,000gで10分間、4℃で遠心分離した。上清を再び沈殿させ、溶液中の(NHSO濃度を20%(v/v)から60%(v/v)に増加させた。溶液を10,000gで10分間、4℃で遠心分離した。得られたペレットを、1.3Mの(NHSOを含有する45mLリン酸ナトリウム緩衝液(25mM、pH7)に懸濁した。その後のHIC精製のために、樹脂Toyopearl Phenyl-650M(カラム体積(CV)=22mL)を用いて酵素溶液を濾過した(0.45μm)。試料を2mL/分の流速でカラムに適用した。カラムを4CVの結合緩衝液(25mMのリン酸ナトリウム緩衝液+1.3Mの(NHSO;pH7.0)で3mL/分で洗浄した。DAO-1を、9CVにわたって増加する(0から100%(v/v))溶出緩衝液(25mMのリン酸ナトリウム緩衝液;pH7.0)の線形勾配で溶出し、その後の勾配遅延は50mLであった。各精製工程中に採取した試料を、製造業者の指示に従って、PD-10カラム(GE Healthcare,Chicago,USA)を使用してPIPES緩衝液(25mM、pH7.2)に対して脱塩した。
【0066】
タンパク質分析
当技術分野で知られているように、BSAを標準として使用して、Bradfordに従って酵素試料のタンパク質含有量を決定した。DAO精製手順の試料を、当技術分野で公知のように、10%分離ゲルでドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって分析した。5μgのタンパク質の量をSDS-PAGEの各レーンにロードした。タンパク質分子量標準(Precision Plus Protein(商標)非染色タンパク質標準10~250kDa)を分子量決定のために使用した。当技術分野で公知のように、クーマシーブリリアントブルーG-250を使用してゲルを染色した。精製DAO-1を天然PAGE分析によって更に調査した。精製されたDAO-1をネイティブPAGE(それぞれ5μgのタンパク質)に2回適用し、それにより、一方の部分をクーマシーブリリアントブルーG-250で染色し、他方の部分を活性染色した。活性染色溶液は、30mMのヒスタミン、50μMのDA-67試薬、5.32U/mLのセイヨウワサビペルオキシダーゼ(グレードI)及び25mMのPIPES(pH7.2)を含有していた。青色バンドが見えるようになるまで、活性染色を37℃で継続した。
【0067】
DAO活性測定
DAO活性は、当技術分野で公知の比色DA-67酵素アッセイを使用して決定した。750μLのヒスタミン溶液(30mM;25mMのPIPESに溶解;pH7.2;Oで5分間フラッシングした)及び726μLのDA-67試薬(10-(カルボキシメチル-アミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム塩;50μM;25mMのPIPESに溶解;pH7.2)を含有する反応混合物を37℃で10分間インキュベートし、750rpmで撹拌した。その後、24μL(266単位/mL)のセイヨウワサビペルオキシダーゼ(グレードI)を添加した。50μLの酵素溶液を添加することによって反応を開始し、37℃で10分間インキュベートし、750rpmで撹拌した。50μLのジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(30mM)を添加して反応を停止させた。遠心分離(10,000g、20℃で3分間)後、吸収を668nmで測定した。ヒスタミン溶液を参照のために緩衝液(25mMのPIPES;pH7.2)と交換した。過酸化水素(0.5~10nmol/mL)を較正に使用した。酵素活性をnkatで計算し、それによって1nkatは37℃で1nmol基質/秒を変換する。
【0068】
DAO-1の温度及びpHプロファイルの調査
DAO-1の酵素活性に対する温度の影響を、標準的なアッセイ条件下で試験し、それにより、インキュベーション温度を20℃~47℃で変化させた。DAO-1活性のpH依存性を37℃の標準アッセイ条件下で調査し、それによって異なる緩衝系(50mMのリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.2~7.8;50mMのPIPES、pH7~7.5;50mMのTris-HCl、pH7.2~8.5)を使用した。それぞれの緩衝系を過酸化水素(0.5~10nmol/mL)で較正した。分析的に純粋なヒスタミンを温度及びpHプロファイルの基質として使用した。
【0069】
DAO-1のpH安定性の調査
DAO-1の安定性に対する緩衝液及びpH値の影響を調査して、ヒスタミン生体内変換実験のための適切な条件を決定した。その結果、DAO-1を37℃で5時間インキュベートし、以下の緩衝系において400rpmで撹拌した:20mM MES(pH5.5)、20mMのリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.2、7.0、7.2、7.8、8.0)、20mMのPIPES(pH7.0、7.2、7.5)及び20mMのTris-HCl(pH6.8、7.5、8.2)。その後、DAO-1の残存酵素活性を標準アッセイ条件下で決定し、最初に適用されたDAO-1活性と比較した。
【0070】
DAO-1の速度論的特性決定
DAO-1の見かけの速度論的パラメータを、標準的なアッセイ条件下で基質としてヒスタミンを用いたミカエリス・メンテン速度論によって決定した。ヒスタミン濃度(分析的に純粋なヒスタミン)を0.5mM~50mMの間で変化させた。初期反応速度内で速度論的調査を行った。
【0071】
DAO-1の基質選択性の調査
DAO-1の基質選択性を、標準的なアッセイ条件下で基質として異なる食品産業関連の生体アミン(トリプタミン、カダベリン、プトレシン、アグマチン、スペルミジン、ヒスタミン、及びチラミン)を用いて試験した。アミノ酸L-トリプトファン、L-リジン、L-ヒスチジン、及びL-アルギニンも試験した。最終アッセイアプローチでは、トリプタミンを除いて、各基質を1、10及び50mMの濃度で使用したが、トリプタミンは、より高い濃度におけるその不溶性のために1mMでのみ試験した。
【0072】
DAO-1によるヒスタミンの生体内変換
ヒスタミン低下実験は、当技術分野で公知のように、150mg/Lのヒスタミンの食品関連ヒスタミン濃度で行った。ヒスタミンの低下を、PIPES緩衝液(20mM、pH7)中37℃で5時間行った。食品マトリックスをシミュレートするために、5g/LのBSA及び25g/Lのスクロースの量をアプローチに添加した。更に、カタラーゼ(30nkat/mL)を添加して過酸化水素を除去した。0.1nkat/mLのDAO-1活性の添加によって実験を開始した。このDAO活性を、緩衝系(20mMのPIPES、pH7)、基質濃度(最終アッセイアプローチでは1.35mMのヒスタミン)及び添加剤(5g/LのBSA及び25g/Lのスクロース)を生体内変換条件に調整した改変アッセイ条件下で測定した。ヒスタミン低下は、当技術分野で公知のように、チアミン(1.35mM)を内部標準として用いた逆相高速液体クロマトグラフィによって決定した。
【0073】
統計分析
バイオリアクタでのDAO-1産生を除く全ての実験を少なくとも2回行い、Excel(Microsoft,Redmond,USA)で標準偏差を決定することによって評価した。データは、標準偏差を有する平均値として提示される。酵素速度論を、データ分析ソフトウェアSigmaplot 12.5(Systat Software GmbH,Erkrath,Germany)を使用して非線形回帰によって評価した。
【0074】
実施例1:
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおけるdao遺伝子の同定及び振盪フラスコ実験におけるそれらの発現
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fは、BLASTプログラム(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov)を使用して2つの推定DAOの所有者として同定された。どちらの遺伝子もイントロンを含有しなかった。ブタDAO(Uniprot:Q9TRC7)と2つの推定DAOとのアミノ酸配列比較は、DAO-1について54%のクエリカバー及び25%の同一性、並びにDAO-2について53%のクエリカバー及び25%の同一性を示した(図2A、B)。両方の推定DAOを互いに比較すると、97%のクエリカバー及び35%の同一性が示された。更に、ブタ及びヒト(Uniprot:P19801)DAOと2つの推定DAOとのアミノ酸配列比較は、DAO-1及びDAO-2の両方について約21%のコンセンサスを示した(図13図14)。両方の推定DAOを互いに比較すると、約34%の類似性が示された。両方の遺伝子をY.リポリティカ(Y.lipolytica)株PO1fのゲノムから増幅し、ゲノムのaxp遺伝子座への組み込みに成功し(組み込み効率約20%)、組換え株Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1及びY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-2が得られた。当技術分野で知られているように、相同組換え組込みのために選択された戦略で所望されるタンパク質の効率的な発現を可能にしたので、遺伝子をaxp遺伝子座に組み込んだ。それにより、強力な構成的プロモータUAS1B8_TEF(136)を用いて遺伝子発現を行った。野生型Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f細胞抽出物と比較して、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-2の細胞抽出物は、基質ヒスタミン、プトレシン、カダベリン、チラミン、スペルミジン及びトリプタミンについてDAO活性の増加を示さなかった。基質アグマチンについてのみ、活性の5.5倍の増加が測定された(約50nkatアグマチン(14.5mM)/L培養)。組換えY.リポリティカ(Y.lipolytica)株におけるDAO-2の過剰発現はSDS-PAGEでは見えず(データは示さず)、酵素はヒスタミンに対する活性を示さなかったので、DAO-1のみをこの試験で更に調査した。
【0075】
実施例2:
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおけるDAO-1の産生
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1を、0.2g/Lのウラシルを補充したYPD培地中、800mLの作業体積で96時間、Multiforsバイオリアクタシステムで培養した。元のY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f株を参照として同様に並行して培養した。両方の株は、図3に示すように、16時間後に約24g/Lの最大生物乾燥質量に達する同様の増殖挙動を示した。これは、約60の最大光学密度(0.32h-1の最大比増殖速度μ)に相当した。生物乾燥質量は、両方の株について96時間後に約15g/Lに明らかに減少し、これはバイオリアクタ培養の過程で不均一な試料が採取されたことに起因した。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1株の体積測定DAO-1活性(細胞内)は、バイオリアクタ培養の過程にわたって直線的に増加し、56時間後に最大2784±75nkat/L培養に達した。その後、DAO-1活性はわずかに減少し、1301±54.2nkat/gタンパク質の比DAO-1活性を有する2343±98nkat/L培養の最終体積DAO-1活性に達した。参照Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fは、58±0.6nkat/L培養の最大体積DAO活性を有し、48時間の培養後に14.1±0.14nkat/gタンパク質の比DAO活性を有した。DAO-2はDAO活性の測定に使用された基質ヒスタミンに対して活性を示さなかったので、参照株Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのDAO活性はネイティブDAO-1発現に起因することが示唆される。したがって、dao-1遺伝子のY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのaxp遺伝子座への相同組換え組込みは、DAO-1の効率的な発現を可能にした。
【0076】
粗抽出物で得られた1301±54.2nkat/gタンパク質の比DAO-1活性は、81nkat/gタンパク質を有する当技術分野で公知の部分精製ブタDAOのDAO活性よりも約16倍高かった。DAOを栄養補助食品として使用する場合、DAOのかなり高い活性を使用して食品関連ヒスタミン量を分解しなければならない。75mgヒスタミンの分解に必要なブタDAOの酵素活性は、インビトロ条件下で5時間以内で50nkatであった。このDAO活性を得るために、十分なDAO抽出のために100gのブタ腎臓が必要であった。比較すると、ほぼ5kgのブタ腎臓からのDAOの単離及び部分的精製は、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1の1リットルのバイオリアクタ培養から得られる同じ量のDAO-1活性をもたらすであろう。したがって、微生物DAO産生は費用対効果が高いようであり、特に倫理的及び文化的考慮の点で、ブタ腎臓からのDAOの使用と比較していくつかの利点を提供する。
【0077】
実施例3:
細胞破壊後の粗抽出物からのDAO-1の精製
酵母DAO-1を、分画した(NHSO沈殿及びその後のHICによって精製した。10gの湿酵母バイオマスから、高圧ホモジナイザを用いた細胞破壊後に108±5nkatのDAO-1活性(660±28nkat/gタンパク質の比DAO-1活性)が得られた。(NHSO沈殿及びHIC(図4)の後、DAO-1を7.2倍(4738±31nkat/gタンパク質の比酵素活性)の収率46.6±0.31%で精製した。比較すると、ブタ腎臓からのDAOの精製は、熱処理、塩沈殿及びHICを用いる同様の精製戦略で、81±1nkat/gタンパク質の比酵素活性をもたらした。したがって、微生物産生宿主におけるDAOの産生及びその後の精製は、はるかに高い比DAO活性を達成した。DAO-1の精製をSDS-PAGE分析(図5)によって評価したところ、DAO-1の理論的単量体分子量(アミノ酸配列から計算して75.4kDa)に従った、約75kDaの精製手順にわたって強度が増加したタンパク質バンドを示していた。SDS-PAGEはまた、DAO-1調製物が依然として他のタンパク質を含有することを示した。しかし、活性染色されたネイティブPAGE(図6)では、約146kDaの1つのタンパク質バンドのみが基質ヒスタミンに対して活性であることが示された。これは、DAO-1調製物の純度が更なる生化学的特性決定に十分であることを示した。DAO-1は、それぞれSDS-PAGE及びネイティブPAGE分析で観察されたサイズに基づいて、ホモ二量体酵素であると思われた。これは、当該分野で記載されているヒト及びブタのDAOを含む銅アミンオキシダーゼの大部分で観察されたホモ二量体構造と一致していた。
【0078】
実施例4:
DAO-1の生化学的調査
精製されたDAO-1を、DAO-1活性に対する温度、pH値及び緩衝液の影響に関して調べた。DAO-1は40℃で最大活性を有した(図7)。温度を42℃又は45℃に増加させると、相対DAO-1活性がそれぞれ76±1%及び31.7±1%に減少した。相対DAO-1活性は、30℃~42℃の温度範囲で50%超であった。したがって、DAO-1の温度プロファイルは、他のDAO、例えばブタ及びヒト由来のものの温度プロファイルに匹敵したが、これらのDAO活性は、プトレシンを基質として用いて決定された。DAO-1は、Tris-HCl緩衝液(50mM)中のpH7.2で最大DAO活性を示した(図8)。このpH値でのTris-HClの緩衝能が限られているため、以下の実験をPIPES緩衝液中で行ったところ、pH7.2でのTris-HCl中の最大活性と比較して、92.2±3.9%のわずかに低いDAO-1活性が得られた。pHプロファイルはまた、ヒト及びブタのDAOに匹敵するようである。先行技術は、基質としてプトレシンを用いたヒトDAO(血清由来)の最大DAO活性がリン酸緩衝液中pH7.5であることを見出した。ブタ腎臓由来のDAOは、それぞれ6.3及び7.4のpH値でリン酸カリウム緩衝液中のヒスタミン及びカダベリンに対して最大DAO活性を示した。DAO-1の最も高い安定性は、37℃で5時間のインキュベーション後に89.5±0.8%の残存DAO-1活性でpH7.0のPIPES緩衝液(20mM)中で決定された(図9)。DAO-1は、37℃で24時間後もその活性の53.7±1.2%を保持していた(データは示さず)。DAO-1は、6.2~7.5のpH範囲において37℃で5時間のインキュベーション後に390のうち60%超の活性を維持した。
【0079】
実施例5:
DAO-1の速度論的調査
DAO-1の速度論的調査を、0.5~50mMの範囲のヒスタミン濃度で行った(図10)。Hanes-Woolfによるミカエリス・メンテン曲線の直線化を図11に示す。ヒスタミンによる基質阻害は、12.5mMを超えるヒスタミン濃度で認識された。ヒスタミンに対するDAO-1のK値は2.3±0.2mM(R=0.985)であり、Vmaxは9.09±0.37nkat/mgであった。更に、61.89±8.51mMのKが決定された。したがって、基質ヒスタミンに対するDAO-1の親和性は、それぞれ0.027及び0.0028mMのヒスタミンに対するK値を有するブタ又はヒト由来の哺乳動物DAOと比較して低い。しかしながら、微生物アミンオキシダーゼは、一般に、哺乳動物DAOと比較してヒスタミンに対する親和性が低いようである。当技術分野では、アルスロバクター・クリスタロポイテス(Arthrobacter crystallopoietes)KAIT-B-007由来のヒスタミンオキシダーゼ及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のアミンオキシダーゼについて、ヒスタミンを基質としてそれぞれ0.5及び0.6mMのK値が決定された。ヒスタミンに対する微生物DAOの比較的低い親和性は、哺乳動物DAOが非常に低い濃度において高効率で生体アミンを必ず分解することができる解毒酵素であるという事実に由来し得る。しかしながら、微生物におけるDAOは、窒素代謝にとって主に重要であると思われ、したがって、ヒスタミンに対して非常に高い親和性を有する必要はない。
【0080】
ブタ及びヒトのDAOもまた、ヒスタミンによって阻害される基質であるが、それぞれK=5.71及び0.28mMの明確に低い濃度で阻害される。したがって、DAO-1は、より高い反応速度でより高い濃度でヒスタミンを分解する。
【0081】
実施例6:
DAO-1の基質選択性の調査
DAO-1は、基質として異なる食品関連生体アミンを用いて広い基質選択性を示した(表1)。最も高いDAO-1活性を、基質として1mMのチラミンを用いて測定した。DAO-1は、基質濃度の増加がDAO-1活性の低下を引き起こすので、チラミンによって基質阻害されるようであった。他の基質:ヒスタミン、プトレシン、カダベリン、アグマチン及びスペルミジンについても同じ阻害効果が観察された。3番目に高いDAO-1活性は、基質としてヒスタミンを用いて10mMで測定され、これは、本発明との関連性が最も高い生体アミンであったため、参照(100%)として設定された。DAO-1は、試験したアミノ酸L-トリプトファン、L-リジン、L-ヒスチジン及びL-アルギニンに対していかなる活性も示さなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
アミノ酸L-トリプトファン、L-リジン、L-ヒスチジン、及びL-アルギニンを試験したが、DAO-1活性を示さなかった。
【0084】
生体アミンであるチラミン、ヒスタミン、プトレシン及びカダベリンは、食品からの生体アミン誘発毒性に関して特に関連性が高い。DAO-1は、これらの関連する生体アミンの全てを高効率で分解することができた。食品関連の生体アミンに対するこの広範な基質選択性は、微生物アミンオキシダーゼの稀にしか見られない特徴であるようである。例えば、アルスロバクター・クリスタロポイテス(Arthrobacter crystallopoietes)KAIT-B-007由来のヒスタミンオキシダーゼ及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)由来のアミンオキシダーゼは、基質プトレシン、カダベリン、スペルミン及びスペルミジンに対して活性を示さなかったが、ヒスタミンに対して活性を示した。アルスロバクター・グロビフォルミス(Arthrobacter globiformis)由来のフェニルエチルアミンオキシダーゼも、当該分野でチラミンに対して活性であるが、ヒスタミンに対してはあまり活性でなく、プトレシンに対しては活性でないことが見出された。
【0085】
ブタ腎臓由来の哺乳動物DAOは、いずれも1mMで、当該技術分野において脂肪族ジアミンであるプトレシン及びカダベリンに対して最も高い活性を示した。ここで、ヒスタミンで測定されたDAO活性は、プトレシンで測定された最大活性と比較して19%であった。
【0086】
実施例7:
DAO-1によるヒスタミンの生体内変換
DAO-1をヒスタミンの生体内変換実験において使用して、当技術分野で公知のように、緩衝系に関する改変(20mMのPIPES;pH7)及び食品マトリックスをシミュレートするための添加物(5g/LのBSA、25g/Lのスクロース、30nkat/mLのカタラーゼ)を用いて、食品関連濃度(150mg/L;1.35mM)でのヒスタミンの低下に対するその有効性を評価した(図12)。DAO-1調製物は、0.1nkat/mLを使用して37℃で5時間以内にヒスタミンを74.9±1.73%減少させて37.4±0.65mg/L(0.34±0.01mM)にした。ヒスタミンの生体内変換実験を、DAO-1のK値よりわずかに高いヒスタミン濃度(2.3±0.2mM)で行ったが、ヒスタミンは、43.5±0.76mg/L(0.39±0.01mM)のヒスタミン濃度で約4時間から始まって、停滞が認識されるまで着実に低下した。この5時間の生体内変換後のDAO-1の残存活性は57.4±1.3%であった(RP-HPLCによって測定)。したがって、停滞は、DAO-1の酵素速度論に起因しており、これは、低下したヒスタミン濃度で酵素触媒作用を減速させた。それにもかかわらず、DAO-1速度論は、適用されたヒスタミンの約75%の変換に十分であった。適用されたヒスタミン(150mg/L)の約90%が、ブタDAOを用いた以前の研究において本明細書で使用されたのと同じ酵素活性を用いて低下した。したがって、ブタDAOはまた、実験設定においてヒスタミンを完全に分解することができず、これは(イミダゾール-4-イル)アセトアルデヒドによる潜在的な製品阻害効果に起因していた。しかし、この効果は、反応生成物が他の化合物と更に反応する可能性があり、したがって実際のヒスタミン変換を妨害しないので、実際の食品におけるヒスタミン変換について評価することが困難であるとも述べられた。
【0087】
実施例8:
経口補充によるヒスタミン不耐性の治療のためのDAO錠剤
要約:
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)由来のDAO-1を、模擬腸条件下(SIF)でのそのヒスタミン分解能力について調べた。そこで、DAO-1をカタラーゼと共にスクロース系錠剤として製剤化した。錠剤(9×7mm;400mg)は、690nkatのDAO-1活性を含有しており、これは、下流処理が最適化された遺伝子組換えY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのバイオリアクタ培養から得られた。模擬食物マトリックスを添加したSIF条件下で、DAO-1錠剤をヒスタミン生体内変換実験で試験したところ、22mgの最初に適用した75mgのヒスタミンが分解された。この量は、ヒスタミン不耐性の症状を回避するのに既に十分であり得る。更に、SIF中のDAO-1の安定性は食品マトリックスの存在によって明確に影響を受けることが見出され、消費される食品の量及び種類がDAOによる経口補給に影響を及ぼし得ることを示している。この研究は、微生物DAOが経口補充によるヒスタミン不耐性の治療の可能性を有し得ることを初めて示した。
【0088】
序論:
European Food and Safety Authority(EFSA)及びthe European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC)によると、生体アミンヒスタミンは、欧州連合における食品媒介疾患のアウトブレイク数の増加に関連している。それにより、500mg/kg以上のヒスタミンレベルを含有する食品は、ヒトの健康にとって有害であると考えられ得る。しかしながら、中程度又は更には低いヒスタミン濃度を有する食物の消費もまた、ヒスタミン不耐性に苦しむヒトに悪影響を及ぼし得る。これは、全人口の約1%に当てはまると思われる。この状態の典型的な症状は、胃腸障害、頭痛、喘息、潮紅及びくしゃみであり得る。少量の外来性ヒスタミンに対する不耐性は、ヒスタミンの取込みとヒスタミン分解酵素DAOとの間の不均衡に起因する。DAOは、主に小腸粘膜に位置するが、循環中にも見出すことができる分泌酵素である。これは、ヒスタミン又は他の生体アミンの、対応するアルデヒド、アンモニア及び過酸化水素への酸化的脱アミノ化を触媒する。いくつかの要因が、ヒトにおけるDAOの利用可能な活性に影響を及ぼし得る。第1に、DAOのDNA配列における一塩基多型は、DAOの生産性又は速度論的を低下させ、血清DAO活性を低下させる可能性がある。血清DAO活性は、ヒスタミン不耐性の症状を患っている患者では有意に低いことが分かっており、ヒスタミン不耐性の診断ツールとして使用できることを示唆している。更に、血清DAO活性は腸粘膜の状態と直接相関しているようであることが示された。したがって、様々な胃腸障害及び損傷について活性の低下を観察することができる。しかし、これは、化学療法を受けている患者では数週間以内に血清DAO活性の低下から回復することができたことが示されたので、一時的な効果であり得る。更に、利用可能なDAO活性は、他の生体アミン、薬物、又はアルコールの摂取によって影響を受ける。外因性ヒスタミンは主に小腸で体内に入り、腸壁を通って循環を超えることができるので、現場でのDAOによる効率的な分解は重要である。したがって、解決策アプローチは、小腸における不十分な内因性DAOを支援するためのDAOの補充であり得る。ブタ腎臓抽出物由来のDAOを含有する市販の栄養補助食品を、いくつかの臨床研究においてヒスタミン不耐性の治療における可能性について調べた。それにより、ヒスタミン不耐性関連症状の治療に有効であることが分かった。しかし、調製物は最近、インビトロヒスタミン生体内変換実験で試験され、DAO活性は決定できなかった。更に、食物関連ヒスタミン量を分解するためには、かなり高いDAO活性(50nkat)を補充しなければならないことが示された。したがって、ブタ腎臓等の天然源からの抽出によってこのレベルのDAO活性を提供することは困難であり得る。代替的なアプローチとして、微生物宿主における過剰発現及びその後の下流処理は、経口補充のための非常に効率的なDAO錠剤の製造に適したはるかに高いDAO生産性をもたらし得る。本明細書に記載のY.リポリティカ(Y.lipolytica)のDAO-1は、いくつかの食品関連の生体アミン(チラミン、プトレシン、カダベリン、ヒスタミン)を分解することができるため、食品産業での投与又は栄養補助食品としての投与に有望な特徴を示した。
【0089】
この研究の目的は、経口補充としてのヒスタミン不耐性の治療に対する、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)から新たに発見されたDAO-1の可能性を調査することであった。したがって、DAO-1を錠剤として製剤化し、模擬腸条件下で食品関連ヒスタミン量の変換に適用した。更に、これらの条件下でのDAO-1の安定性及び速度論を評価した。
【0090】
材料及び方法:
材料及び試薬:
1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸(PIPES)、ヒスタミン二塩酸塩、水酸化ナトリウム(NaOH)、D(+)-スクロース、一塩基性リン酸カリウム(KHPO)、塩酸(HCl)及び過酸化水素(30%)は、Carl Roth GmbH(Karlsruhe,Germany)から購入した。リン酸二水素ナトリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、オルト-リン酸(HPO)及びチアミンクロリド二塩酸塩はMerck(Darmstadt,Germany)から購入した。ウシ血清アルブミン(BSA;modified Cohn Fraction V、pH5.2)は、Serva electrophoresis GmbH(Heidelberg,Germany)から購入した。カタラーゼ(ミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)由来;111700U/mL)及びブタ膵臓由来のパンクレアチン(8x USP仕様)は、Sigma-Aldrich(Merck)(St.Louis,USA)から購入した。(10-(カルボキシメチル-アミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム塩(DA-67)は、Fujifilm Wako Chemicals U.S.A.Corp(Richmond,USA)から購入した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(グレードI)は、AppliChem GmbH(Darmstadt,Germany)から購入した。ホエータンパク質単離物(90%(w/w)タンパク質)をSachsenmilch Leppersdorf GmbH(Leppersdorf,Germany)から得た。カゼインナトリウム(90.6%(w/w)タンパク質)は、FrieslandCampina(Amersfoort,Netherlands)から入手した。
【0091】
DAO-1の製造及び精製:
DAO-1の産生は、遺伝子改変Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f株(Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1)を使用して行った。ここでは、CRISPR-cas9システムを使用して、天然DAO-1遺伝子をY.リポリティカ(Y.lipolytica)のゲノム上のaxp遺伝子座に組み込んだ。DAO-1発現は、強力かつ恒常的なUAS1B8-TEF(136)プロモータを使用して行った。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f_axp_dao-1を、Labfors5バイオリアクタシステム(Infors GmbH,Einsbach Germany)で5Lの作業体積で培養した。細胞を56時間の培養後に回収し、破壊されるまで-20℃で保存した。破壊のために、150gの細胞を氷上で解凍し、PIPES緩衝液(25mM、pH7)中の20%(w/w)懸濁液を調製するために使用した。細胞破壊を、直径0.75mmのガラスビーズを使用して2500rpmで撹拌媒体ミル(Dyno(登録商標)-Mill Typ KDL A;Willy A.Bachofen AG Maschinenfabrik,Muttenz,Swiss)で行った。Ultra-Kryomat(登録商標)RUK50(Lauda Dr.R.Wobser GmbH&Co.KG,Lauda-Konigshofen,Germany)を用いて、システムを5℃に冷却した。細胞懸濁液を、約14mL/分の速度の蠕動ポンプを備えたDyno(登録商標)-Millシステムに連続的に供給し、18分の滞留時間を与えた。その後、ガラスビーズを750mLのPIPES緩衝液(25mM、pH7)で約14mL/分で、依然として2500rpmで作動する撹拌媒体ミルで洗浄した。初期細胞溶解物並びにガラスビーズを洗浄するために使用した緩衝液をプールし、遠心分離した(8,000g、4℃、10分)。約800mLの上清を回収し、当技術分野で公知の硫酸アンモニウム沈殿(60%(v/v)4M(NHSO)及び疎水性相互作用クロマトグラフィによって更に精製した。精製DAO-1を-80℃で保存した。
【0092】
DAO-1活性決定:
DAO-1活性を、比色DA-67酵素アッセイを使用して決定した。375μLのヒスタミン溶液(30mM;25mMPIPESに溶解;pH7.2)及び363μLのDA-67試薬(10-(カルボキシメチル-アミノカルボニル)-3,7-ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジンナトリウム塩;50μM;25mMPIPESに溶解;pH7.2)を含有する反応混合物を37℃で10分間インキュベートし、750rpmで撹拌した。その後、12μL(266単位/mL)のセイヨウワサビペルオキシダーゼ(グレードI)を添加した。25μLのDAO溶液を添加することによって反応を開始し、37℃で10分間インキュベートし、750rpmで撹拌した。50μLのジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(30mM)を添加して反応を停止させた。遠心分離(10,000g、20℃で3分間)後、吸収を668nmで測定した。ヒスタミン溶液を参照のために緩衝液(25mMのPIPES;pH7.2)と交換した。過酸化水素(0.5~10nmol/mL)を較正に使用した。酵素活性をnkatで計算し、それによって1nkatは37℃で1nmol基質/秒を変換する。
【0093】
タンパク質分析:
DAO-1調製物のタンパク質含有量を、標準としてBSAを使用してBradfordに従って決定した。更に、錠剤の作製に使用したDAO-1調製物を、10%分離ゲル上のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって調べた。5μgの量のタンパク質をSDS-PAGEにロードした。タンパク質分子量標準(Precision Plus Protein(商標)非染色タンパク質標準10~250kDa)を分子量決定のために使用した。クーマシーブリリアントブルーG-250を使用してゲルを染色した。
【0094】
模擬腸液中のDAO-1の安定性:
模擬食物マトリックスの添加の有無にかかわらず、模擬腸液(SIF)中でDAO-1の安定性を試験した。したがって、パンクレアチン含有SIFは、米国薬局方(USP42)に記載されているように調製した。200g/Lのウシ血清アルブミン(BSA)及び100g/Lのスクロース(=食品マトリックス1)、100g/LのBSA、100g/Lのホエータンパク質単離物(WPI)及び200g/Lのスクロース(=食品マトリックス2)並びにBSA、WPI、カゼインナトリウムをそれぞれ66.68g/L及び200g/Lのスクロース(=食品マトリックス3)として、異なる食品マトリックスストック溶液(4倍濃縮)を調製した。各ストック溶液のpHを1MのNaOHで6.8に調整した。新たに調製した2倍濃縮SIF、食品マトリックスストック溶液並びにDAO-1(PD MidiTrap G-25カラムを使用してHddに対して脱塩;GE Healthcare,Chicago,USA)を、サーモシェーカ中37℃で5分間個々にインキュベートした。続いて、500μLの2倍濃縮SIF、250μLのDAO-1及び250μLの食品マトリックスストック溶液を合わせ、サーモシェーカ中37℃、500rpmでインキュベートした。安定化化合物の存在なしでDAO-1の安定性を試験するために、食品マトリックスストック溶液の代わりにHddを添加した。溶液を合わせた直後に、100μLの試料を採取し、DA-67アッセイを使用してDAO-1活性測定に使用した。
【0095】
模擬腸液中のDAO-1の速度論:
DAO-1の見かけの速度論的パラメータは、非加水分解条件下(パンクレアチンなし)及び加水分解条件下でSIFを含有する食品マトリックス中の基質としてヒスタミン(1.56~50mM)を用いたミカエリス・メンテン速度論によって決定した。DA-67アッセイを使用してDAO-1活性を決定した。非加水分解条件のために、DA-67試薬(50μM)を、BSA、WPI、カゼインナトリウムをそれぞれ35.6g/L及び106.8g/Lのスクロース(pH6.8)で含有するSIF中で調製した。ヒスタミン及びセイヨウワサビペルオキシダーゼをSIFに溶解した。ヒスタミンについては、1MのNaOHを用いてpHを6.8に再調整した。DAO-1を、PD MidiTrap G-25カラムを使用してSIFに対して脱塩した。
【0096】
加水分解された条件のために、BSA、WPI、カゼインナトリウムをそれぞれ16.67g/L及び50g/Lスクロースで、最初にSIF(パンクレアチンを含む)中、37℃及び130rpmで90分間インキュベートした。溶液を95℃で15分間加熱することによって加水分解を停止した。その後、遠心分離した(8,000g、4℃、10分)。次いで、上清を使用して、DA-67試薬(50μM)、ヒスタミン、セイヨウワサビペルオキシダーゼを溶解し、DAO-1を希釈した。ヒスタミン溶液のpHを、1MのNaOHを使用して6.8に再調整した。較正のために、ヒスタミンを過酸化水素(0.5~20nmol/mL)に置き換えた。初期反応速度内で速度論的調査を行った。
【0097】
DAO-1錠剤の調製:
精製DAO-1を最初に硫酸アンモニウム沈殿によって濃縮した。したがって、液体硫酸アンモニウム(4M)を撹拌下及び氷上で335mLの精製DAO-1溶液に最終濃度60%(v/v)になるように滴下した。液体硫酸アンモニウムの添加が完了した後、アプローチを氷上で更に60分間インキュベートした。その後、遠心分離した(8,000g、4℃、25分)。上清を完全に除去し、ペレットを3mLのリン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7)に溶解した。スクロース粉末を40g/Lの最終濃度まで添加した。更に、ミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)由来のカタラーゼ60μkatを添加した。最終的なDAO-1溶液を4つの部分に分割し、それらを秤量した2mLエッペンドルフ反応管で分離した。これらを凍結乾燥する前に-80℃で凍結した。凍結乾燥粉末を50/50(w/w)の比でスクロースと混合した後、それらを使用して、自己構築型錠剤プレスを備えたDAO-1錠剤を調製した(図15)。
【0098】
DAO-1錠剤を使用した食品マトリックスSIFにおけるヒスタミンの生体内変換:
当技術分野で公知のように、1.35mM(150mg/L)の食品関連ヒスタミン濃度でDAO-1錠剤を使用してヒスタミンの生体内変換を行った。食物マトリックスSIF3(SIF(pH6.8)中のBSA、WPI、16.67g/Lのカゼインナトリウム及び50g/Lのスクロース)及び75mgヒスタミンを含有する1Lの三角フラスコ中、500mLアプローチ体積で実験を行った。生体内変換を3連で行った。アプローチを37℃で2時間プレインキュベートした。パンクレアチン(SIF中20g/L)を37℃で5分間プレインキュベートし、1.25g/Lの最終濃度に添加した。アプローチを混合した直後に、2mLの試料を採取し、水浴中で95℃で5分間不活性化し、次いで、本明細書に記載のように処理した。更に、初期ヒスタミン濃度の逆相高速液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)分析のためのヒスタミン較正のその後の調製のために氷水浴で冷却した参照生体内変換アプローチ(ヒスタミンなし)から20mLの試料を採取した。したがって、ヒスタミンストック溶液を参照アプローチ培地で0.25~2mMのヒスタミン濃度に希釈した。これらの較正試料を水浴中で95℃で5分間加熱し、次いで以下に記載されるように処理した。各アプローチに1つのDAO-1カプセルを添加することによって、ヒスタミンの生体内変換を開始した。更に、DAO-1錠剤も参照アプローチに追加した。DAO-1カプセルを陰性対照アプローチに添加しなかった。フラスコを回転シェーカ上、37℃及び130rpmで90分間インキュベートした。2mLの試料を30、50、70及び90分後に採取し、水浴中95℃で5分間不活性化し、以下に記載されるように処理した。90分後、参照アプローチから20mLの試料を採取し、氷水浴で冷却した。その後、生体内変換試料(30~90分)中のヒスタミン濃度のRP-HPLC分析のためのヒスタミン較正試料(0.1~1.5mM)を上記のように調製した。
【0099】
RP-HPLC分析のための生体内変換試料の試料調製:
ヒスタミン生体内変換からの熱不活性化試料を氷上で冷却した後、遠心分離した(10,000g、4℃、3分)。上清(1mL)を、Hddで平衡化したPD MidiTrapG-25カラムにロードした。未消化タンパク質及び大型ペプチドを、1.5mLのHddを使用してカラムから溶出し、廃棄した。ヒスタミン及び低分子量の分子を2mLのH2Oddに溶出し、回収した。35μLのHCl(1M)を使用して、これらの試料のpH値を約2に調整した。試料を更に精製するまで、サーモシェーカ中20℃に保った。
【0100】
カチオン交換物質Lewatit(登録商標)S100(275mg)を1mLのピペットチップに充填し、これを底部及び上部を綿ウールでゆるく密封した。次いで、材料を4mLのHddで洗浄した。その後、これを4mLのHCl(10mM)で平衡化した。次いで、pH調整した生体内変換試料をカチオン交換材料に適用した(それぞれ1mL)。材料を5mLのHddで洗浄した。次いで、600μLのアンモニア(4M)を材料に添加し、廃棄した。更に600μLのアンモニア(4M)を添加してヒスタミンを溶出した。アンモニア水をサーモシェーカ中、70℃、500rpmで一晩蒸発させた。残留物を200μLのHCl(10mM)に溶解した。次いで、50μLの内部標準溶液(チアミンクロリド二塩酸塩;Hdd中6mM)をRP-HPLC分析のために添加した。5μLのHCl(1M)を添加することによって、各試料のpHを約2に調整した。試料を遠心分離(20,000g、4℃、5分)した後、RP-HPLCによって分析した。
【0101】
生体内変換試料中のヒスタミンのRP-HPLC分析:
当該分野で公知のRP-HPLCによって、生体内変換試料中のヒスタミン濃度を決定した。移動相は、92.5%(v/v)の20mMのNaHPO及び10mMのオクタン-1-スルホン酸ナトリウム塩(4MのHPOを使用してpHを2.2に調整)及び7.5%(v/v)アセトニトリルからなっていた。注入体積は5μLに設定した。分離は、40℃で1mL/分の一定流量で25分間行った。
【0102】
統計分析:
全ての実験を少なくとも2回行い、標準偏差をExcelで決定することによって評価した。データは、標準偏差を有する平均値として提示される。酵素速度論を、データ分析ソフトウェアSigmaplot 12.5(Systat Software GmbH,Erkrath,Germany)を使用して非線形回帰によって評価した。
【0103】
結果及び考察:
DAO-1錠剤の調製のためのDAO-1の大規模生産:
以前の研究において、高いDAO活性(50nkat)を有するDAO含有錠剤が、経口補充によってヒスタミン不耐性を治療するために必要とされるかもしれないことが示され得る。したがって、本明細書中に記載されるような、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)由来のDAO-1を、当該技術分野において知られているように、800mLの作業体積を有するバイオリアクタにおいて酵母Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f中で組換え産生した。回収した細胞塊をより小規模の高圧ホモジナイザで破壊して、合計で約800nkatのDAO-1活性に等しい湿酵母細胞1グラム当たり10.8nkatのDAO-1活性を得た。しかしながら、この活性は、高活性DAO-1錠剤の調製には十分ではない。したがって、バイオリアクタ培養を5L規模で繰り返し、それによって培養56時間後に光学密度(OD600)53、生物乾燥質量22g/L及び湿酵母質量93g/Lに達した(図16)。これに続いて、撹拌培地ミルを使用して大規模な細胞破壊を行った。それにより、150gの湿酵母細胞を破壊し、約4.8μkatのDAO-1活性を得た。これは、前の研究よりも約3倍高い湿細胞1グラム当たり32nkatの収率に相当した。DAO-1を硫酸アンモニウム沈殿及び疎水性相互作用クロマトグラフィによって精製し、15μkat/gタンパク質の比DAO-1活性を有する合計3μkatを得た。したがって、比DAO-1活性もまた、最近の研究(4.7nkat/gタンパク質)と比較して3倍増加した。この増加した比DAO-1活性は、錠剤の限られた容量で高度に活性なDAO-1抽出物を提供するために重要である。
【0104】
模擬腸液(SIF)中のDAO-1の安定性:
DAO-1はヒトの腸内のヒスタミンを分解するために適用されるので、これらの条件下でのDAO-1の安定性は高い関連性を有する。腸内環境は、米国薬局方(USP42)に記載されているように、模擬腸液(SIF)で模倣することができる。このSIFには、アミラーゼ、ペプチダーゼ、リパーゼのように酵素活性の異なる酵素製剤であるパンクレアチンが含まれている。精製DAO-1を、37℃で模擬食品マトリックスの存在の有無にかかわらず、このSIF中で試験した(図17)。それにより、DAO-1は、5分未満の半減期期間を有する純粋なSIFにおいて弱い安定性を示した。50g/LのBSA及び25g/Lのスクロース(食品マトリックスSIF1)の添加は、DAOの安定性を約15分の半減期期間に改善した。この安定性の改善は、膵臓ペプチダーゼに利用可能な基質の数が増加したためである可能性が最も高かった。25g/LのBSA、25g/LのWPI及び50g/Lのスクロース(食品マトリックスSIF2)の添加は、DAO-1安定性を約30分の半減期期間まで更に改善した。総スクロース及びタンパク質濃度を50g/Lに維持するが、第3のタンパク質(食品マトリックスSIF3;それぞれ16.67g/L及び50g/LのスクロースのBSA、WPI及びカゼインナトリウム)としてカゼインナトリウムを導入すると、SIF中のDAO-1の長期安定性が更に改善された。それにより、90分のインキュベーション後に8±0.1%の残存DAO-1活性が測定された。この食品マトリックスSIFでは、最初に適用されたDAO-1活性の約43%が90分にわたって利用可能であった。結果は、SIF中のDAO-1の安定性が、添加されるタンパク質の量だけでなく、タンパク質の種類にも依存することを示している。例えば、BSAは、ホエータンパク質の部分画分であるα-ラクトアルブミン又はβ-ラクトグロブリンよりもSIFにおいて高い安定性を示す。α-カゼインは、上述のホエータンパク質部分画分よりもSIFにおいて更に弱い安定性を示した。β-ラクトグロブリンは、標的アミノ酸をペプシン消化から保護する現在のpHでのその立体配座状態のために、模擬胃液中で高い安定性を示した。より高いpHでは、β-ラクトグロブリンの立体配座状態により、β-ラクトグロブリンはトリプシン及びキモトリプシンのような膵臓酵素の消化を受けやすくなる。
【0105】
結論として、DAO-1の安定性は、食品マトリックス中に存在する各化合物の明確な影響のために、実際のインビボ条件下で評価することが困難である。しかしながら、最も複雑な食品マトリックスであり、十分なDAO-1安定性を提供するために、食品マトリックスSIF3を全ての更なる実験に使用した。
【0106】
模擬腸液中のDAO-1の速度論:
DAO-1の安定性に加えて、SIFを含有する食品マトリックス中の速度論もまた、ヒスタミン分解能力にとって非常に重要である。したがって、DAO-1を用いた速度論的研究を、1.56~50mMの範囲のヒスタミン濃度を有するパンクレアチンを含まない食品マトリックスSIF3(非加水分解SIF)で行った(図18A)。Hanes-Woolfによるミカエリス・メンテン速度論の線形化を図19に示す。更に、速度論的調査の前に、パンクレアチンによる加水分解を伴う食品マトリックスSIF3において37℃で90分間、速度論的調査も行った(図18B)(加水分解SIF)。DAO-1の場合、基質阻害が、加水分解されていないSIF食品マトリックス及び加水分解されたSIF食品マトリックスの両方について、12.5mMを超えるヒスタミン濃度で認識された。非加水分解条件下でのヒスタミンに対するDAO-1のK値は5.7±0.5mM(R=0.99)であり、それにより、2.3±0.2mMのK値を有するPIPES緩衝液(25mM、pH7.2)中の最適条件下でのDAO-1のK値よりも高い。加水分解SIFでは、DAO-1は、非加水分解SIFと比較して、4.2±0.5mM(R=0.97)のわずかに低いK値を示した。したがって、模擬食品マトリックスの膵臓消化からの遊離アミノ酸及びペプチドの蓄積は、DAO-1の速度論に悪影響を及ぼさなかった。基質ヒスタミンに対するDAO-1の親和性は、0.0028mMのK値を有するヒト腎臓由来のDAOと比較した場合、はるかに低い。しかしながら、ヒトDAOは、小腸における外因性ヒスタミンの分解に関連するだけでなく、血漿中の内因性ヒスタミンの調節においても重要な役割を果たすようである。それぞれの研究では、100ng/mLの血漿ヒスタミン濃度は、ヒトにおいて重度のアナフィラキシー反応を誘発し得る濃度であると考えられた。したがって、ヒトDAOは、高効率で低濃度のヒスタミンを分解することができなければならない。食品、特に発酵食品に見られるヒスタミン濃度は、ヒト血清中のヒスタミン濃度をはるかに超えている。様々な種類のチーズについて、<0.1mg/kg~2500mg/kgの濃度が見出された。赤ワイン及び乾式発酵ソーセージの試料については、それぞれ55mg/kg及び358mg/kgの最大ヒスタミン濃度が報告された。DAOのその基質に対する高い親和性は、より高い変換率をもたらすので有利である。しかし、腸の条件下では、DAOの速度論は、存在するヒスタミン濃度がはるかに高いため、血清中のものと同じ関連性を有するようには見えない。
【0107】
DAO-1の打錠:
1つのDAO-1錠剤の調製のために、約370mLのバイオリアクタ体積からの湿酵母細胞の破壊及び精製から得られたDAO-1活性を使用した(690nkat)(表2)。このDAO-1調製物のSDS-PAGE分析は、DAO-1を示す約75kDaの明確なバンドを示した(図20)。精製されたDAO-1は、硫酸アンモニウム沈殿によってほぼ90倍濃縮され、それによってDAO-1活性は失われなかった。凍結乾燥の前に、ミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)由来のカタラーゼを添加して、蓄積している過酸化水素を除去することにより、生体内変換条件下でのDAO-1の安定性及び活性を改善した。予備実験では、使用したカタラーゼが凍結乾燥プロセスに耐え、大きな酵素活性の損失がないことが観察された。40g/Lスクロースを含むリン酸ナトリウム緩衝液(20mM、pH7)中での精製DAO-1の凍結乾燥は、DAO-1活性の損失を何らもたらさなかった。DAO-1含有粉末を、自己構築式錠剤プレスで錠剤長9mm(直径7mm)に圧縮した。完成したDAO-1錠剤は十分な安定性を示し、錠剤プレスから抽出した後にそれらの形状を維持した。
【0108】
【表2】
【0109】
RP-HPLCによる食品マトリックスSIF試料中のヒスタミンの定量:
SIFを含有する食品マトリックス中のヒスタミンの定量は、複雑な試料マトリックスのために困難な作業である。そこでは、高いサッカロース及びタンパク質含有量であるが、より重要なことには、タンパク質分解消化から生成された異なるペプチド及び遊離アミノ酸の数が、RP-HPLCによるヒスタミンの分析を乱す。オルト-フタルアルデヒド(OPA)によるヒスタミンの誘導体化は、様々な加水分解製品の誘導体化をもたらし、それによってこの分析問題には適用できない。したがって、RP-HPLC分析の前に試料を精製して、外来化合物の大部分を除去しなければならない。
【0110】
PD MidiTrap G-25カラムを用いたサイズ排除によって、大きな分子を粗試料から除去した。次いで、この試料中のヒスタミンは、その正電荷のために酸性条件下でカチオン交換材料に結合することができる。それにより、全ての未結合化合物を洗い流し、アルカリ性条件へのpHシフトでヒスタミンを溶出することによって、ヒスタミンを他の物質から分離することができる。得られたヒスタミン試料を誘導体化せずにRP-HPLCで分離した(図21)。較正のためのヒスタミン標準をそれぞれのSIFマトリックス中で行い、上記のように処理した。較正は、0.1~2mMのヒスタミン(R=>0.994)の範囲内で十分な直線性を示した(図22)。検出及び定量の限界は、それぞれ0.5及び0.65mMであった。ヒスタミン標準(1.35mM)の回収率は106.7%であり、DAO-1錠剤を使用したヒスタミンの生体内変換の調査に十分な精度を提供した。
【0111】
DAO-1錠剤を使用した模擬腸液中でのヒスタミンの生体内変換:
小腸における内因性DAOを支持するためのブタDAOの補充は、いくつかの臨床研究において評価されており、それは、ヒスタミン関連の生理学的症状を軽減するためのDAO補充を見出した。ある研究における知見とは対照的に、最近、インビトロ研究において、DAO活性がブタDAO補充において検出可能でなく、少なくとも50nkatのDAO活性が食品関連ヒスタミン量(75mg)の分解に必要であることが示された。このヒスタミン量は、ヒスタミン不耐性ヒトを同定するために臨床試験で使用されている。しかしながら、必要なDAO活性は、使用した緩衝系についてのみ推定され、SIF条件下での低下したDAO活性及び速度論的、又は膵臓消化による低い安定性を含まなかった。したがって、SIF条件下で満足のいくヒスタミン低下を得るためには、更に高いDAO-1活性が必要とされ得る。
【0112】
調製されたDAO-1錠剤は、食品マトリックスSIF3中の最初に適用されたヒスタミン濃度(1.35mM;150mg/L;75mg)を37℃で90分で29.3±0.8%低下させた(図23)。これは、22mgのヒスタミンの総分解に相当した。DAO-1は、類似の生体内変換実験において緩衝液条件下で以前に試験されている。これにより、ヒスタミンは75%低下した。DAO-1の速度論のために、ヒスタミンの完全な変換は不可能であった。タンパク質分解消化によるDAO-1活性の損失を補償するために、1つの錠剤の代わりに2つの錠剤を投与することができる。これは、より効率的な総ヒスタミン分解をもたらす可能性が最も高い。しかしながら、この必要とされるDAO-1活性を得るためには、最初に、DAO-1産生のための代替発現宿主を調査して、産生を更に改善すべきである。75mgヒスタミンの適用されたベンチマークは理論値にすぎず、ヒスタミン含有食事の消費はより低い総ヒスタミン量を伴い得ることを理解することが重要である。更に、この量は、健康な個体においてヒスタミン不耐性の典型的な症状を引き起こすのに十分であるとさえ思われる。したがって、1つのDAO-1錠剤を使用して達成された22mgの総分解は、ヒト小腸における内因性DAO媒介性ヒスタミン分解を支持するのに既に十分であり得る。臨床研究を含む更なる研究を行って、ヒスタミン不耐性ヒトにおけるDAO-1錠剤の実際の影響を評価しなければならない。
【0113】
実施例9:
コマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)におけるDAO-1の組換え産生
酵母コマガタエラ・ファフィイ(Komagataella phaffii)を、DAO-1(Y.リポリティカ(Y.lipolytica)由来)の産生のために遺伝子改変した。この目的のために、K.ファフィイ(K.phaffii)にコドン最適化されたDAO-1遺伝子を、GAPプロモータの制御下でGAP遺伝子座に組み込んだ。組込み後、最も強いDAO-1発現能について活性ベースのスクリーニングによって異なるクローンを選択した。次いで、得られたK.phaffii_DAO-1クローンをDAO-1の組換え発現に使用することができた。構成的で強力なGAPプロモータの制御下でのDAO-1の発現は、グルコース含有最小培地中で行うことができる。更に、K.ファフィイ(K.phaffii)のゲノムへの組込みは、産生中の抗生物質の必要性を完全に排除することができる。
【0114】
K.ファフィイ(K.phaffii)はまた、EFSA-issued(European Food Safety Authority)QPS(Qualified Presumption of Safety)ステータス及びFDA(Food and Drug Administration)GRAS(Generally Recognized As Safe)ステータスを有し、したがってヒトへの投与を目的としたDAO-1産生に使用することができる。
【0115】
K.phaffii_DAO-1をグルコース含有最小培地中のバイオリアクタで培養した。グルコース溶液及び微量元素からなる指数関数的フィード(フェドバッチ培養)を使用して、それぞれ約450g/L及び115g/Lの最大生物湿潤質量及び生物乾燥質量を、わずか36時間未満の培養期間後に達成することができた。2500nkat/gタンパク質の比DAO-1活性を有する約50,000nkat/L培地の最大DAO-1活性を達成することができた。したがって、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおけるDAO-1産生と比較して、最大DAO-1活性を達成するための培養時間を20時間短縮することができただけでなく、活性収率も18倍増加させることができた。
【0116】
DAO-1の生産性は、メタノール誘導性AOX1プロモータを使用することによって、K.ファフィイ(K.phaffii)において更に増加させることができる。β-ガラクトシダーゼ参照酵素を使用すると、GAPプロモータと比較してAOX1プロモータを使用することによって発現能力を2倍増加させることができることが既に示され得る。したがって、100,000nkat/L培地 DAO-1までの生産性が期待できる。
【0117】
考察:
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fは、最も関連する生体アミンであるヒスタミン、プトレシン、カダベリン及びチラミンを含む広い基質選択性を示すDAO(DAO-1)の産生物質として同定された。これは、微生物DAOには稀にしか見られない特徴のようであり、DAO-1を食品産業における投与のための興味深い酵素にしている。DAO-1は、ブタ及びヒトDAOと比較して、温度及びpHプロファイルに関して同様の生化学的特性を示した。他の微生物DAOについて観察されたように、DAO-1は、哺乳動物のブタ及びヒトDAOと比較して、基質ヒスタミンに対してより低い親和性(K=2.3±0.2mM)を示した。それにもかかわらず、DAO-1は、ヒスタミンの生体内変換実験において適用されたヒスタミン(150mg/L)の約75%を低下させることができた。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fにおけるDAO-1の費用対効果が高く簡便な生産及びその生化学的特徴により、DAO-1は、ヒスタミン等の生体アミンの分解のための食品産業における用途、並びに生体アミンの摂取に関連する状態及び疾患の予防及び治療における一連の医療用途のための興味深い酵素となる。
【0118】
具体的には、本発明では、ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)PO1f(DAO-1)由来の推定ジアミンオキシダーゼ(DAO)を、バイオリアクタにおけるその後のDAO産生のためにCRISPR-Cas9システムを使用して、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムに相同組換え的に組み込んだ。これにより、製造されたDAO-1が実際に機能性DAOであることが証明された。培養により、1301±54.2nkat/gタンパク質の比DAO活性を有する2343±98nkat/L培養物が得られ、これは天然のY.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f DAO-1産生と比較して比DAO活性の93倍の増加であった。DAO-1は、Tris-HCl緩衝液(50mM)(基質としてヒスタミンを含む)中、40℃、pH7.2で最も活性であり、これはヒト及びブタのDAOに匹敵する。Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのDAO-1は、食品中の最も関連性の高い生体アミンに対するその広範な選択性により、生体アミンの分解のための食品産業における用途、並びに生体アミンの摂取に関連する状態及び疾患の予防及び治療における一連の医療用途のための興味深い酵素である。
【0119】
更に、Y.リポリティカ(Y.lipolytica)由来のDAO-1を、模擬腸条件下でのヒスタミンの低下におけるその可能性について調べた。したがって、精製DAO-1を、690nkatのDAO-1活性を含有するスクロース系錠剤として製剤化した。錠剤はまた、ミクロコッカス・リゾデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus)由来のカタラーゼを含有し、蓄積する過酸化水素がヒスタミン分解中にDAO-1を不活性化しないことを確実にした。このDAO-1錠剤を使用して、実際の食品関連ヒスタミン量(22mg)がSIF条件下で微生物DAOによって分解され得ることが初めて示された。これは、ヒスタミン不耐性の症状を回避するために既に十分であり得る量であり、内因性ヒスタミン分解を支持する。
【0120】
本発明は、以下のアミノ酸及びヌクレオチド配列に関する。
配列番号1
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f由来のDAO-1のアミノ酸配列
MTPHPFDQLSVQEMESVVRVVKSNHSGKSLHLKSIGTEEPPKALMAPFLAAKRAGKNPVPPPRIAHVIYYVLEDKLVNQCWVDVPSAKVVKSEVLKKGIHPPIDPWEANEAFEAAFDHPLVKDAIKKCGVEHLIDNLTIDGWMYGCDSEIDMPRYLQMLVYCRDPKTNHQDSNMYAFPVPFVPVYDVLEKKLVRVDYCATGGDDDDAAVEGVGNYDTRPEGKNCIEHCVTNDYLPELQDKMRTDLKPYNVLQPEGPSYHIDSDGYINWQKWHFKVGFTPREGLVIHDVHYDGRSTFYRLSMSEMAVPYADPRPPLHRKMAFDFGDCGGGKCANELTLGCDCLGTIRYFDGNVCDPEGNVFTRKNVICMHEQDDGIGWKHTNYRTDVVAITRRRILVLQTILTVGNYEYIFAWHFDQSAGIQLEIRATGIVSTQLIDAGKKSKFGTIVSPGVMAASHQHIFNVRMDPAIDGHQNTVVVNDTVALPWDAKNPHGIAFENTKTPIEKSCYLDSDIQKNRYLKICNENKINPISGNPVGYKIGGLATAMLYAQPGSVSRNRAAFATHHYWVTKYKDQELFAGGVWTNQSANEVGGVQDAVARNENVRNDDVVLWHSFGLTHHPRVEDFPVMPCEIMKIHLSPNDFFTGNPSVDVPKSNQTFNRSVEVKDCRSCKI
配列番号2
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fの遺伝子dao-1
【0121】
下線付きの太字の大文字のヌクレオチドは、NCBIデータベースに示されている推定DNA配列に関してサイレント変異を示す。
配列番号3
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1f由来の遺伝子dao-2
atgcacagactatcacaactagctacacaaacaaccgcggccaccatcaccgcaggtcatcctcttgatcctctctctccctccgaaatcgaacatgccgcttccatcgtcaaatcgcagatgcgagactcgtctccgtaccggttcaatctcatcacgctgatcgagccgcccaaggccgagcttcttgcgtgggaggcgtcgccttcctcggtggccaaacctcctcgacgagcggaggtcgtactcgttgtgagaggcaagaagggcgtcaccgagggccgggtctgtctcaccggctcaaaggtgctttcgtggtccgaaattgagggcgtccagcctattcttaccgttgacgacctccaaaaggtcgaggaaattgtgcgacaggaccccgaagtcatcaagcagtgcaaactcattggagttgacaacatgtcccaggtgtactgtgatccctggactattggctatgacgaaagatggggtgccgaacgacgtctacagcaggcgttcctctacttccgagcccaccaggacgactcccagtactcccatcctcttgacttcactccaatctacgacgccacggagcagaaagtcatctttattgatattcctcccgttcgtcgacctctctccaagcttaagaattccaacttcaaccctcaggatatctccaagactaccggttacagagacgtgaagcccatcgacgtgtctcagcccgaaggagtcaacttcaagatgaccggtcgaatcatggagtggcagggattccgatttcacgtgggattcaactacagagagggaattgtgctgtctcagatctctttcaacgaccatggtaaccagcgaaacatgttccatcgtctctctctcgttgaaatggttgttccctacggaaaccccgagcaccctcaccagcgaaagcacgcctttgatctgggagagtacggagccggtctcatgaccaatcctctttccctcggatgtgattgcaagggagtcattcactaccttgatgcgcacttttccgacgccgaaggaaagcctctcactgttcccaacgctgtgtgtatccacgaggaggacaatggtctgcttttcaagcactctgacttccgagacgagttccagacttcgatcgtcactcgagctaccaagctcattttgtcgcagattttcaccgccgcaaactacgaatactgcgtctactggattttccaccaggacggtaccatccagctggagattaagctcaccggcatcctcaacactttcccctgcaatcccggagaagatttgcatggctggggcacagaggtgtaccctggtaccaacgcccacaaccatcagcatctcttttctctgcgaatccatcctgccattgattcccagctgcatccaggtaattctgtggcaatggtggacgctgagcggtcacccttcccgcctggacacccagaaaacctgcacggcaatggtttccggcccaagcgaacggtcttcaacaacccgatcgaggctatgacggattatgatggtaatacatcgcgaacttgggactttttcaacccgaagtccatcaaccagtactccaagaagcccgcttcttacaagctggtgtctcgtgagtgccctcctctgcttcctcagcctggtggactggtttggaaccgagctggttttgcacgacaccatatgcatgttgttccgtatgtggacggccagctgtaccctgctggacggtttgtttgccagacaagtggaaagccctcaaggggtctccccgagtggattgagcagtgcggagagaaggccaatatcaacgataccgatgttgttgcctatcacacttttggtctgacccatttccctgctcccgaggacttccctttgatgcctgccgagcccatgactctacttttgcgacccagaaacttcttcctgcagaacccggctttggacgtgcctccttcgcatgctcgaaccaccacagaggcccaggctgcttccggtgctaaggttgtctctcttaccgacaaggtgtcgcagctggctttcaataagtcgtgctgttccaagtag
配列番号4:
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAからdao-1を増幅するためのフォワードプライマー
atgactccccaccctttcgatcag
配列番号5
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAからdao-1を増幅するためのリバースプライマー
ctagatcttgcaagatcgacagtccttg
配列番号6
dao-1の第2の増幅及び制限部位の付加のためのフォワードプライマー
cttgcgcgcatgactccccaccctttc
配列番号7
dao-1の第2の増幅及び制限部位の付加のためのリバースプライマー
ggcgctagcctagatcttgcaagatcg
配列番号8
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAからのdao-2の増幅及び制限部位の付加のためのフォワードプライマー
gaagcgcgcatgcacagactatcacaactagc
配列番号9
Y.リポリティカ(Y.lipolytica)PO1fのゲノムDNAからのdao-2の増幅及び制限部位の付加のためのリバースプライマー
caagctagcctacttggaacagcacga
配列番号10
dao遺伝子用のフォワード配列決定プライマー
ctaaagatgttgatctccttgtgcc
配列番号11
dao遺伝子用のリバース配列決定プライマー
cctctgggccgaatacaacac
図1A
図1B
図2
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図24
【配列表】
2024523392000001.app
【国際調査報告】