(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】α1-アンチトリプシン欠乏症の処置のための組成物およびそれらの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/445 20060101AFI20240621BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A61K31/445
A61P11/00
A61P3/00
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577946
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 GB2022051502
(87)【国際公開番号】W WO2022263816
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523473165
【氏名又は名称】センテッサ ファーマシューティカルズ (ユーケー) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラムズデン, ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】フォックス, デイビッド ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ハンティントン, ジェイムズ アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086GA16
4C086MA52
4C086MA65
4C086NA14
4C086ZA59
4C086ZC21
4C086ZC41
(57)【要約】
本発明は、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を含む薬学的組成物およびそれらの医学的使用(例えば、α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)の処置における使用のための)に関する。本発明者らは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、驚くべきことに、M A1ATのまたはA1ATのSiiyama改変体のインビトロ分泌に対する効果を有しない一方で、Z A1ATのレベルの増大にあたって、インビトロおよびインビボの両方で非常に有効であることを見出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト被験体におけるα
1-アンチトリプシン(A1AT)の低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害を処置することにおける使用のための化合物、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸
【化4】
を含む薬学的組成物であって、ここで前記組成物は、約1~6mg/kgの1日用量において前記ヒト被験体に投与される、薬学的組成物。
【請求項2】
前記組成物は、前記ヒト被験体に、約2~5mg/kg、例えば、約2mg/kg、約3mg/kg、約4mg/kgまたは約5mg/kgの1日用量において投与される、請求項1に記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項3】
薬学的にまたは治療的に受容可能な賦形剤またはキャリアをさらに含む、請求項1または請求項2のいずれかに記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、経口形態においてまたは静脈に投与される、前述の請求項のいずれかに記載の使用のための薬学的組成物。
【請求項5】
ヒト被験体におけるA1ATの低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害の処置のための医薬の製造における請求項1において定義される化合物の使用であって、ここで前記医薬は、前記ヒト被験体に、約1~6mg/kgの1日用量において投与される、使用。
【請求項6】
ヒト被験体におけるA1ATの低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害を処置する方法であって、前記方法は、請求項1~4のいずれかに定義される薬学的組成物を、約1~6mg/kgの1日用量において投与する工程を包含する方法。
【請求項7】
前記疾患または障害は、α
1-アンチトリプシン欠乏症(AATD)である、請求項1~4のいずれかに記載の使用のための薬学的組成物、請求項5に記載の使用のための化合物、または請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を含む薬学的組成物およびそれらの医学的使用に関する。
【背景技術】
【0002】
α1-アンチトリプシン(A1AT)は、肝臓によって生成され、血中へと分泌されるセルピンスーパーファミリーのメンバーである。それは、種々のセリンプロテアーゼ、特に好中球エラスターゼを阻害する。A1ATの血中レベルが低い場合、過剰な好中球エラスターゼ活性が肺組織を分解し、呼吸器合併症(例えば、慢性閉塞性肺疾患(COPD))を生じる。
【0003】
血中のA1ATの基準範囲は、0.9~2.3g/Lである。これより低いレベルが、α1-アンチトリプシン欠乏症(A1ADまたはAATD)(A1ATをコードするSERPINA1遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝的障害)では代表的である。AATDの最も一般的な原因であるZ変異は、A1AT(UniProtKB - P01009(A1AT_HUMAN))の位置366(これは、成熟形態における位置342に相当する)においてグルタミンからリジンへの置換である(Z A1AT)。Z変異は、A1ATの折りたたみに影響を及ぼし、その結果、ごく一部のみが、天然の/活性な状態を獲得する。残りは、誤って折りたたまれたタンパク質として除かれるかまたは安定なポリマーとして肝臓中に蓄積するかのいずれかである。誤った折りたたみの結果として、Z変異のホモ接合性キャリア(ZZ)は、正常の10~15%であるA1ATの血漿レベルを有し、COPDの素因のあるキャリアになる。肝細胞中のZ A1ATポリマーの蓄積は、肝硬変、肝臓がん、および他の肝臓病理の素因のあるキャリアになる。
【0004】
AATDの肺発現に関する現在の処置は、血液ドナーの血漿から調製されたA1AT濃縮物を使用する増強療法を含む。米国FDAは、4種のA1AT生成物: Prolastin、Zemaira、Glassia、およびAralastの使用を承認している。投与は、1週間に1回の静脈内注入を介するものである。増強療法は、COPDの進行を遅らせることが明らかに示されている。AATDの肝臓発現(例えば、肝硬変およびがん)は、ステロイドおよび肝移植で処置される。肝臓発現の改善された処置への治験アプローチ(Investigational approach)は、Z A1AT重合の阻害およびオートファジーの活性化を介するポリマーのクリアランスの増大を含む。肺発現および肝臓発現の両方の処置の改善への治験アプローチは、Z A1AT折りたたみおよび分泌の改善に関する。
【0005】
Elliottら(Protein Science, 2000, 9, 1274-1281)は、A1ATのX線結晶構造を記載し、Z A1AT重合に影響を及ぼす薬剤を開発するために合理的薬物設計の潜在的標的である5つの腔を特定した。
【0006】
Parfreyら(J. Biol. Chem., 2003, 278, 35, 33060-33066)は、Z A1AT重合に影響を及ぼす薬剤を開発するために合理的薬物設計の潜在的標的である1つの腔をさらに定義した。
【0007】
Knauppら(J. Mol. Biol., 2010, 396, 375-383)は、ビス-ANS(4,4’-ジアニリノ-1,1’-ビナフチル-5,5’-ジスルホネート)が、1:1 化学量論および700nMのKdでZ A1ATに結合し得るが、野生型A1AT(M)に結合しないことを示した。
【0008】
Changら(J. Cell. Mol. Med., 2009, 13, 8B, 2304-2316)は、Z A1AT重合を阻害する一連のペプチド(Ac-TTAI-NH2を含む)を報告した。
【0009】
Burrowsら(Proc. Nat. Acad. Sci., 2000, 97, 4, 1796-1801)は、一連の非選択的シャペロン(4-フェニル酪酸、グリセロールおよびトリメチルアミンオキシドを含む)が、細胞上清およびマウスモデルにおいてZ A1ATレベルを増大し得ることを示した。
【0010】
Bouchecareilhら(Journal of Biological Chemistry, 2012, 287, 45, 38265-38278)は、細胞からのMおよびZ両方のA1ATの分泌を増大させるためのヒストンデアセチラーゼインヒビター、特に、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸)の使用を記載する。
【0011】
Berthelierら(PLOS ONE, May 11, 2015)は、S-(4-ニトロベンジル)-6-チオグアノシンがZ A1AT重合をインビボで防止し得ることを明らかに示した。
【0012】
Mallyaら(J. Med. Chem., 2007, 50, 22, 5357-5363)は、一連のフェノール(例えば、N-(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-2,5-ジメチルチオフェン-3-スルホンアミド)が、Z A1ATの重合をインビトロで遮断し得ることを記載する。
【0013】
Huntington(XIIIth International Symposium on Proteinases, Inhibitors and Biological Control, 23 September 2012および7th International Symposium on Serpin Biology, Structure and Function, 1st April 2014)は、Z A1AT重合に影響を及ぼす薬剤を開発するために合理的薬物設計の潜在的標的であるZ A1ATのX線結晶構造からの腔を考察した。
【0014】
米国特許第8,436,013B2号は、マイクロモル濃度範囲において細胞からのZ A1ATの分泌を増大させ得る広く種々の構造を開示する。
【0015】
Angewandte Chemie International Edition vol 56, no 33, 2017, 9881-9885は、除草剤としての1-((4-クロロフェニル)スルホニル)ピペリジン-4-カルボン酸を開示する。
【0016】
Journal of Applicable Chemistry vol 2, no 6, 2013, 1501-1508は、抗細菌剤としての1-(4-(トリフルオロメチル)フェニルスルホニル)ピペリジン-4-カルボン酸の合成を開示する。
【0017】
US2011/0065707A1は、試薬としての1-(2-クロロベンゼン-スルホニル)-ピペリジン-4-カルボン酸の使用を開示する。
【0018】
EP0520336A2は、1-(8-キノイル-スルホニル)-ピペリジン-4-カルボン酸を開示する。
【0019】
WO2019/243841A1は、α-1-アンチトリプシンの調節因子としてのオキソインドリン-4-カルボキサミド化合物、およびα-1-アンチトリプシンと関連する疾患を処置することにおける使用を開示する。
WO2020/081257A1は、α-1-アンチトリプシンの調節因子としてのピロロ-インダゾリル-プロパン酸化合物を開示する。
US2020/0361939A1は、α-1-アンチトリプシンの調節因子としてのピロロ-インダゾリル-プロパン酸化合物をさらに開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】米国特許第8,436,013号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2011/0065707号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0520336号明細書
【特許文献4】国際公開第2019/243841号
【特許文献5】国際公開第2020/081257号
【特許文献6】米国特許出願公開第2020/0361939号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Elliottら(Protein Science, 2000, 9, 1274-1281)
【非特許文献2】Parfreyら(J. Biol. Chem., 2003, 278, 35, 33060-33066)
【非特許文献3】Knauppら(J. Mol. Biol., 2010, 396, 375-383)
【非特許文献4】Changら(J. Cell. Mol. Med., 2009, 13, 8B, 2304-2316)
【非特許文献5】Burrowsら(Proc. Nat. Acad. Sci., 2000, 97, 4, 1796-1801)
【非特許文献6】Bouchecareilhら(Journal of Biological Chemistry, 2012, 287, 45, 38265-38278)
【非特許文献7】Berthelierら(PLOS ONE, May 11, 2015)
【非特許文献8】Mallyaら(J. Med. Chem., 2007, 50, 22, 5357-5363)
【非特許文献9】Huntington(XIIIth International Symposium on Proteinases, Inhibitors and Biological Control, 23 September 2012
【非特許文献10】Huntington(7th International Symposium on Serpin Biology, Structure and Function, 1st April 2014)
【非特許文献11】Angewandte Chemie International Edition vol 56, no 33, 2017, 9881-9885
【非特許文献12】Journal of Applicable Chemistry vol 2, no 6, 2013, 1501-1508
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の構造に基づく先行技術調査を、本発明をなした後に行った。その調査によって遡及的に特定された最も近い先行技術分子は、ラセミ化合物、1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(CAS登録番号 891392-68-0)であった。この化合物は、Aurora、ChemDivおよびthe FCH Groupから市販されているとしてリストにあるが、刊行物は記録されていない。別の近い先行技術分子は、1-(1-トシル-1,2,5,6-テトラヒドロピリジン-3-イル)エタン-1-オン(US9084782B2の実施例16)である。その化合物は、血管新生を阻害し、細胞コレステロールレベルを下げると述べられている(しかしUS9084782B2ではこの化合物に関して生物学的データは提供されていない)。
【0023】
本発明の第1の局面によれば、ヒト被験体におけるA1ATの低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害を処置することにおける使用のための化合物、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸:
【化1】
を含む薬学的組成物であって、ここで上記組成物は、約1~6mg/kg(すなわち、上記ヒト被験体の質量(kg単位)あたり約1~6mgの薬学的組成物)の1日用量において上記ヒト被験体に投与される組成物が提供される。
【0024】
上記組成物は、約2~5mg/kg、または例えば、約1mg/kg、約1.5mg/kg、約2mg/kg、約2.5mg/kg 約3mg/kg、約3.5mg/kg、約4mg/kg、約4.5mg/kg、約5mg/kg、約5.5mg/kg、もしくは約6mg/kgの1日用量において上記ヒト被験体に投与され得る。
【0025】
本発明の他の局面において、上記組成物は、上記ヒト被験体に、異なる間隔において、例えば、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごとまたは6日ごと、または1週間に1回、本明細書で特定される1日用量に等しい用量において投与され得る。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下で詳述されるように、本発明者らは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、驚くべきことに、M A1ATのまたはA1ATのSiiyama改変体のインビトロ分泌に対する効果を有しない一方で、Z A1ATのレベルの増大にあたって、インビトロおよびインビボの両方で非常に有効であることを見出した。
【0027】
さらに、実施例7、8および14に示されるように、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸は、そのエナンチオマーである(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸:
【化2】
より驚くほど低い用量においてAATDを処置するために有効であることを示す薬物動態特性を示す。
【0028】
本発明の薬学的組成物中の化合物は、薬学的に受容可能な塩形態にあり得る。
【0029】
用語「薬学的に受容可能な塩(pharmaceutically acceptable salt)」とは、本発明の化合物の薬学的に受容可能なモノ有機塩または無機塩に言及する。これは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、1-デオキシ-2-(メチルアミノ)-D-グルシトール、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄(II)もしくは水酸化鉄(III)、水酸化アンモニウムのような塩基または有機アミン(例えば、N-メチルグルカミン、コリン、アルギニンなど)に由来するものを含み得る。薬学的に受容可能な塩の他の例に関しては、Gould(1986, Int J Pharm 33: 201-217)が参照され得る。
【0030】
本発明の薬学的組成物は、薬学的にまたは治療的に受容可能な賦形剤またはキャリアをさらに含み得る。
【0031】
用語「薬学的にまたは治療的に受容可能な賦形剤またはキャリア(pharmaceutically or therapeutically acceptable excipient or carrier)」とは、活性成分の有効性または生物学的活性に干渉せずかつ宿主(これは、ヒトまたは動物のいずれかであり得、これらに投与され得る)に対して毒性でない、固体または液体の充填剤、希釈剤または被包化物質をいう。特定の投与経路に依存して、種々の薬学的に受容可能なキャリア(例えば、当該分野で周知のもの)が使用され得る。非限定的な例としては、糖、デンプン、セルロースおよびその誘導体、麦芽、ゼラチン、タルク、硫酸カルシウム、植物性油、合成油、ポリオール、アルギン酸、リン酸緩衝化塩類溶液、乳化剤、等張性塩類溶液、および発熱物質非含有水が挙げられる。
【0032】
全ての適切な投与様式は、本発明に従って企図される。例えば、上記組成物または医薬の投与は、経口経路、皮下経路、直接的な静脈内経路、ゆっくりとした静脈内注入、連続的な静脈内注入、静脈内もしくは硬膜外患者制御無痛法(PCAおよびPCEA)、筋肉内経路、髄腔内経路、硬膜外経路、大槽内(intracistemal)経路、腹腔内経路、経皮経路、局所経路、経粘膜経路、口内経路、舌下経路、経粘膜経路、吸入、鼻内経路、関節内(intra-atricular)経路、鼻内経路、直腸経路または眼経路を介するものであり得る。上記組成物または医薬は、別個の投与単位において(例えば、本発明の1日投与レジメンによって要求されるように)製剤化され得、薬学分野において周知の方法のうちのいずれかによって調製され得る。
【0033】
上記組成物は、特に、経口形態で投与され得る。あるいは、上記組成物は、静脈内投与され得る。
【0034】
全ての適切な薬学的投与形態が企図される。医薬の投与は、例えば、経口液剤および懸濁物、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ、発泡錠、経粘膜フィルム、坐剤、口内用製品(buccal products)、または口腔用粘膜保持製品(oral mucoretentive products)、局所クリーム剤、軟膏剤、ゲル、フィルムおよびパッチ、経皮パッチ、乱用抑止(abuse deterrent)製剤および乱用抵抗(abuse resistant)製剤、無菌液剤 懸濁物、ならびに非経口使用のためのデポーなどの形態にあり得、即時放出、徐放、遅延された放出、制御された放出、長期放出などとして投与され得る。
【0035】
本発明の別の局面は、ヒト被験体におけるA1ATの低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害の処置のための医薬の製造における(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の使用であって、ここで上記医薬は、約1~6mg/kgの1日用量(上記で記載されるとおりの用量のものを含む)において上記ヒト被験体に投与される、使用である。
【0036】
本発明はまた、ヒト被験体におけるA1ATの低血漿レベルによって特徴づけられる疾患または障害を処置する方法であって、上記方法は、約1~6mg/kgの1日用量(上記で記載されるとおりの用量のものを含む)において(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を含む、本明細書で定義されるとおりの薬学的組成物を投与する工程を包含する方法を含む。
【0037】
本発明の関連する局面に従う処置に適した疾患または障害は、A1ATの低血漿レベルによって特徴づけられるもの(例えば、α1-アンチトリプシン欠乏症(AATD))である。
【0038】
この説明の中での数値範囲の使用は、本発明の範囲内に、上記範囲内の全ての個々の整数ならびに所定の範囲の最も広い範囲内の上限および下限の数字の組み合わせ全て含むことが明確に意図される。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「含む、包含する(comprising)」は、含むおよびからなるの両方を意味すると読んで理解されるべきである。結論として、本発明が化合物を「活性成分として含む薬学的組成物」に関連する場合、この用語法は、他の活性成分が存在し得る組成物および定義されるとおりの1つの活性成分のみからなる組成物も、両方を網羅することが意図される。
【0040】
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の通常の専門家によって通常理解されるものと同じ意味を有する。同様に、全ての刊行物、特許出願、全ての特許および本明細書で言及される全ての他の参考文献は、(法的に許容される場合には)それらの全体において本明細書に参考として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明の特定の非限定的な例は、以下の図面を参照しながらここで記載される。
【0042】
【
図1】
図1は、Z A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の用量依存性効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAを、各プレート上でコントロールとして試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび漸増濃度の(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【0043】
【
図2】
図2は、M A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける10μMの(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAをコントロールとして試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【0044】
【
図3】
図3は、Siiyama A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける1μMおよび10μMの(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAを、コントロールとして試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび2種の濃度の(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【0045】
【
図4】
図4は、ヒトZ A1ATを発現するマウス(huZマウス)におけるZ A1ATレベルに対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を示すグラフである。マウスを、ビヒクル、5mg/kg、15mg/kgおよび50mg/kgの(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸で1日に2回、14連続日にわたって強制経口投与で処置した。血液を、-12日目、-7日目および-5日目に採取し、ヒトZ A1ATの循環基底レベルを決定するために血漿を調製した。試験の最後の3日間(12日目、13日目および14日目)に収集した血漿サンプルを、基底レベルと比較して、循環ヒトZ A1ATレベルに対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸処置の効果を決定するために使用した。x軸は、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の処置用量(mg/kg単位)である;y軸は、各処置群に関するベースラインレベルと比較した、ヒトZ A1ATの平均パーセンテージレベルである。
【0046】
【
図5】
図5は、Z A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の用量依存性効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAを、コントロールとして各プレート上で試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび漸増濃度の(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【0047】
【
図6】
図6は、M A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける10μMの(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAを、コントロールとして試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【0048】
【
図7】
図7は、Siiyama A1ATプラスミドを含むHEK-EBNA細胞を使用するインビトロA1AT細胞分泌アッセイにおける1μMおよび10μMの(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を示すグラフである。ビヒクルおよび10μM SAHAを、コントロールとして試験した。x軸は、上記細胞の種々の処理:ビヒクル、SAHAおよび2種の濃度の(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を示し、y軸は、細胞上清中のヒトA1ATの濃度(ng/ml単位)である。
【実施例】
【0049】
実験
実施例1: (S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を、以下の合成手順を使用して調製した。
【化3】
(S)-ピペリジン-3-カルボン酸(1g, 7.7mmol)、水酸化カリウム(434mg, 7.7mmol)および炭酸カリウム(2.14g, 15.4mmol)を、水(20ml)に添加し、撹拌した。2-(トリフルオロメチル)ベンゼンスルホニルクロリド(1.89g, 7.7mmol)を添加し、その反応物を、室温において3時間撹拌した。その反応物を0℃へと冷却し、2M 塩酸で酸性化して、白色沈殿を得た。この沈殿を乾燥させ、n-ペンタンで粉砕して、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を得た。
【0050】
Tlc Rf 0.3 ヘキサン中70% 酢酸エチル。
m/z: 337.98 (計算値338.03)
1H NMR (400 MHz, d6 DMSO) δ 12.33 (1H, s), 8.04 (2H, m), 7.90 (2H, m), 3.69 (1H, dd), 3.50 (1H, dd), 2.93 (1H, m), 2.81 (1H, m), 1.91 (1H, m), 1.72 (1H, m), 1.50 (2H, m).
【0051】
実施例2: (R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸
(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸と同じように、しかし(R)-ピペリジン-3-カルボン酸を使用して調製した。
Tlc Rf 0.3 ヘキサン中70% 酢酸エチル
m/z: 338.03 (計算値338.03)
1H NMR (400 MHz, d6 DMSO) δ 12.53 (1H, s), 8.04 (2H, m), 7.90 (2H, m), 3.69 (1H, dd), 3.49 (1H, dd), 2.93 (1H, m), 2.81 (1H, m), 1.90 (1H, m), 1.72 (1H, m), 1.49 (2H, m).
【0052】
実施例3: HEK-Z細胞を使用するA1AT細胞分泌アッセイにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0053】
方法
HEK-Z細胞(ヒトZ A1AT遺伝子で安定してトランスフェクトされたヒト胚性腎細胞株)を、5% CO2を含む加湿雰囲気中、96ウェルプレート(3.0×105 細胞/mlと200μlの培地/ウェル)へと、一晩、37℃においてプレートした。インキュベーション後、細胞を、200μl 無血清培地で3回洗浄し、四連で48時間、37℃ インキュベーター中、最終容積200μlにおいて、ビヒクル、10μM スベロイルアニリドヒドロキサム酸(suberanilohydroxamic acid)(SAHA)、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸または(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(10nM、33nM、100nMおよび333nMの濃度で)を含む無血清培地を使用する処理で、培地を交換した。インキュベーション工程の最後に、その上清をウェルから取り出し、1000×gで、4℃において10分間遠心分離し、ELISA(Human Serpin A1/α1 antitrypsin duo set ELISA, R& D Systems, DY1268)によって、製造業者の説明書に従ってヒトA1ATレベルをアッセイした。
【0054】
簡潔には、96ウェルプレートを、ヒトA1AT捕捉抗体で一晩、室温においてコーティングした(ストックから1:180希釈、100μl 最終容積/ウェル)。次いで、その捕捉抗体を除去し、ウェルを300μl 洗浄緩衝液(PBS中0.05% Tween(登録商標) 20)で3回洗浄し、次いで、200μl 試薬希釈物(PBS中25% Tween(登録商標) 20)を、各ウェル中で1時間、室温でインキュベートした。次いで、希釈したサンプル、標準物質(125pg/ml、250pg/ml、500pg/ml、1000pg/ml、2000pg/ml、4000pg/mlおよび8000pg/mlのA1AT)またはブランクを、各ウェルに二連で添加し、そのプレートを、プレートシーラーで覆い、室温で2時間放置した。サンプルインキュベーション工程の最後に、サンプルを除去し、全てのウェルを先のように洗浄し、100μl 検出抗体(ストックから1:180希釈)を各ウェルに添加し、さらに2時間、室温でインキュベートした。検出抗体とのインキュベーションの後、上清を除去し、ウェルを先のように洗浄し、100μl ストレプトアビジン-HRP溶液(ストックから1:200希釈)を各ウェルに20分間、遮光して添加した。その後、50μl 停止溶液(2M H2SO4)を添加し、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーを使用して、570nm ブランクを各ウェルから差し引いて450nmで読み取った。4パラメーターロジスティック曲線を、GraphPad Prism 7を使用して構築し、A1AT濃度を、標準曲線からの内挿および適切な希釈率を乗算することによって、各サンプルで決定した。
【0055】
結果
トランスフェクトしたHEK-EBNA細胞から培地へと分泌されたヒトA1ATの量を、ELISAによって測定した。10μMのSAHAを、全てのインビトロA1AT分泌実験に関して陽性コントロールとして使用した。
【0056】
図1中のデータは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、用量依存性様式においてヒトZ A1ATの分泌を刺激することを示す。
【0057】
図5中のデータは、(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、用量依存性様式においてヒトZ A1ATの分泌を刺激することを示す。
【0058】
実施例4: HEK-M細胞を使用するA1AT細胞分泌アッセイにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0059】
方法
HEK-M細胞(M A1ATで安定してトランスフェクトされたヒト胚性腎細胞株)を、5% CO2を含む加湿雰囲気中、96ウェルプレート(3.0×105 細胞/mlと200μlの培地/ウェル)へと、一晩、37℃においてプレートした。インキュベーション後、細胞を、200μl 無血清培地で3回洗浄し、六連で48時間、37℃ インキュベーター中、最終容積200μlにおいて、ビヒクル、10μM スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(10μMで)または(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(10μMで)のいずれかを含む無血清培地で培地を交換した。インキュベーション工程の最後に、その上清をウェルから取り出し、1000×gで、4℃において10分間遠心分離し、ELISA(Human Serpin A1/α1 antitrypsin duo set ELISA, R& D Systems, DY1268)によって、製造業者の説明書に従ってヒトA1ATレベルをアッセイした。
【0060】
簡潔には、96ウェルプレートを、ヒトA1AT捕捉抗体で一晩、室温においてコーティングした(ストックから1:180希釈、100μl 最終容積/ウェル)。次いで、その捕捉抗体を除去し、ウェルを300μl 洗浄緩衝液(PBS中0.05% Tween(登録商標) 20)で3回洗浄し、次いで、200μl 試薬希釈物(PBS中25% Tween(登録商標) 20)を、各ウェル中で1時間、室温でインキュベートした。次いで、希釈したサンプル、標準物質(125pg/ml、250pg/ml、500pg/ml、1000pg/ml、2000pg/ml、4000pg/mlおよび8000pg/mlのA1AT)またはブランクを、各ウェルに二連で添加し、そのプレートを、プレートシーラーで覆い、室温で2時間放置した。サンプルインキュベーション工程の最後に、サンプルを除去し、全てのウェルを先のように洗浄し、100μl 検出抗体(ストックから1:180希釈)を各ウェルに添加し、さらに2時間、室温でインキュベートした。検出抗体とのインキュベーションの後、上清を除去し、ウェルを先のように洗浄し、100μl ストレプトアビジン-HRP溶液(ストックから1:200希釈)を各ウェルに20分間、遮光して添加した。その後、50μl 停止溶液(2M H2SO4)を添加し、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーを使用して、570nm ブランクを各ウェルから差し引いて450nmで読み取った。4パラメーターロジスティック曲線を、GraphPad Prism 7を使用して構築し、A1AT濃度を、標準曲線からの内挿および適切な希釈率を乗算することによって、各サンプルで決定した。
【0061】
結果
トランスフェクトしたHEK-EBNA細胞から培地へと分泌されたヒトA1ATの量を、ELISAによって測定した。10μMのSAHAを、全てのインビトロA1AT分泌実験に関して陽性コントロールとして使用した。
【0062】
図2中のデータは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、10μMにおいてヒトM A1ATの分泌を刺激しないことを示す。対照的に、陽性コントロールである10μM SAHAは、M A1AT分泌の増大を刺激する。
【0063】
図6中のデータは、(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、10μMにおいてヒトM A1ATの分泌を刺激しないことを示す。対照的に、陽性コントロールである10μM SAHAは、M A1AT分泌の増大を刺激する。
【0064】
実施例5: HEK-Siiyama細胞を使用するA1AT細胞分泌アッセイにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0065】
希なSiiyama変異(Ser 53からPheへ, 成熟A1AT番号付けによる)を、AATDを有する日本人男性において特定した(Seyamaら(J Biol Chem (1991) 266:12627-32)。Ser53は、1つの保存されたセルピン残基であり、A1AT分子の内部コアの組織化にとって重要であると考えられる。タンパク質の保存された骨格上での荷電されていない極性アミノ酸から大きな非極性アミノ酸への変化は、折りたたみおよびSiiyama A1ATの細胞内プロセシングに影響を及ぼす。
【0066】
方法
HEK-Siiyama細胞(Siiyama A1AT遺伝子で安定してトランスフェクトされたヒト胚性腎細胞株)を、5% CO2を含む加湿雰囲気中、96ウェルプレート(3.0×105 細胞/mlと200μlの培地/ウェル)へと、一晩、37℃においてプレートした。インキュベーション後、細胞を、200μl 無血清培地で3回洗浄し、八連で48時間、37℃ インキュベーター中、最終容積200μlにおいて、ビヒクル、10μM スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(1μMまたは10μMで)または(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸(1μMまたは10μMで)を含む無血清培地で培地を交換した。インキュベーション工程の最後に、その上清をウェルから取り出し、1000×gで、4℃において10分間遠心分離し、ELISA(Human Serpin A1/α1 antitrypsin duo set ELISA, R& D Systems, DY1268)によって、製造業者の説明書に従ってヒトA1ATレベルをアッセイした。
【0067】
簡潔には、96ウェルプレートを、ヒトA1AT捕捉抗体で一晩、室温においてコーティングした(ストックから1:180希釈、100μl 最終容積/ウェル)。次いで、その捕捉抗体を除去し、ウェルを300μl 洗浄緩衝液(PBS中0.05% Tween(登録商標) 20)で3回洗浄し、次いで、200μl 試薬希釈物(PBS中25% Tween(登録商標) 20)を、各ウェル中で1時間、室温でインキュベートした。次いで、希釈したサンプル、標準物質(125pg/ml、250pg/ml、500pg/ml、1000pg/ml、2000pg/ml、4000pg/mlおよび8000pg/mlのA1AT)またはブランクを、各ウェルに二連で添加し、そのプレートを、プレートシーラーで覆い、室温で2時間放置した。サンプルインキュベーション工程の最後に、サンプルを除去し、全てのウェルを先のように洗浄し、100μl 検出抗体(ストックから1:180希釈)を各ウェルに添加し、さらに2時間、室温でインキュベートした。検出抗体とのインキュベーションの後、上清を除去し、ウェルを先のように洗浄し、100μl ストレプトアビジン-HRP溶液(ストックから1:200希釈)を各ウェルに20分間、遮光して添加した。その後、50μl 停止溶液(2M H2SO4)を添加し、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーを使用して、570nm ブランクを各ウェルから差し引いて450nmで読み取った。4パラメーターロジスティック曲線を、GraphPad Prism 7を使用して構築し、A1AT濃度を、標準曲線からの内挿および適切な希釈率を乗算することによって、各サンプルで決定した。
【0068】
結果
トランスフェクトしたHEK-EBNA細胞から培地へと分泌されたヒトA1ATの量を、ELISAによって測定した。10μMのSAHAを、全てのインビトロA1AT分泌実験に関して陽性コントロールとして使用した。
【0069】
図3中のデータは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、1μMまたは10μMにおいてヒトSiiyama A1ATの分泌を刺激しないことを示す。対照的に、陽性コントロールである10μM SAHAは、Siiyama A1AT分泌の増大を刺激する。
【0070】
図7中のデータは、(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、ELISAによって測定されるように、1μMまたは10μMにおいてヒトSiiyama A1ATの分泌を刺激しないことを示す。対照的に、陽性コントロールである10μM SAHAは、Siiyama A1AT分泌の増大を刺激する。
【0071】
実施例6: huZマウスにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
huZマウス(PiZZマウスともいわれる)は、2つの別個のグループ(Dycaicoら(Science (1988) 242:1409-12)およびCarlsonら(J. Clin Invest (1989) 83:1183-90))によって開発された、ヒトA1AT遺伝子のZ改変体の多数のコピーを含むトランスジェニックマウス系統である。HuZマウスは、C57Bl/6がバックグラウンドであり、ヒトZ A1ATタンパク質を肝臓組織中に発現する。この試験において使用されるマウスは、Carlsonおよび同僚らの子孫に由来する(トランスジェニック系統Z11.03)。HuZマウスをツールとして使用して、血漿中のZ A1ATの循環レベルの増大に対する化合物の効果、または肝臓中のZ A1ATポリマーの蓄積および関連の肝臓病理に対する化合物の効果のいずれかを評価する。
【0072】
200~600μg/mlの間の基底ヒトA1AT血漿レベルを有するHuZマウス(n=4/群; 雄性または雌性)を、ビヒクル、または5mg/kg、15mg/kgもしくは50mg/kgの(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸のいずれかで、1日に2回、14連続日にわたって強制経口投与によって処置した。マウスは、飼料(標準的なマウス飼料、SAFE飼料)および水に自由にアクセスできた。試験14日目に、各マウスに、最後の手順の1時間前に投与した。血液を、投与前の-12日目、-7日目および-5日目、および投与している12日目、13日目および14日目に各マウスの尾静脈から採取した。EDTAを含むマイクロベットの中に血液を採取し、血漿を、2700×gで、4℃において10分間遠心分離することによって調製した。血漿をアリコートに分け、-80℃で生体分析のために貯蔵した。投与前の-12日目、-7日目および-5日目の血漿サンプルを使用して、各マウスに関するヒトZ A1ATの平均基底レベルを決定した。試験の投与日の最後の3日間(12日目、13日目および14日目)に収集した血漿サンプルを、ヒトZ A1ATレベルを測定し、各マウスに関して基底レベルと比較することによって、ヒトZ A1AT分泌に対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を決定するために使用した。マウス血漿サンプル中のヒトA1ATレベルを、ELISA(Human Serpin A1/α1 antitrypsin duo set ELISA, R& D Systems, DY1268)によって、製造業者の説明書に従ってアッセイした。
【0073】
簡潔には、96ウェルプレートを、ヒトA1AT捕捉抗体で一晩、室温においてコーティングした(ストックから1:180希釈、100μl 最終容積/ウェル)。次いで、その捕捉抗体を除去し、ウェルを300μl 洗浄緩衝液(PBS中0.05% Tween(登録商標) 20)で3回洗浄し、次いで、200μl 試薬希釈物(PBS中25% Tween(登録商標) 20)を、各ウェル中で1時間、室温でインキュベートした。次いで、希釈したサンプル、標準物質(125pg/ml、250pg/ml、500pg/ml、1000pg/ml、2000pg/ml、4000pg/mlおよび8000pg/mlのA1AT)またはブランクを、各ウェルに二連で添加し、そのプレートを、プレートシーラーで覆い、室温で2時間放置した。サンプルインキュベーション工程の最後に、サンプルを除去し、全てのウェルを先のように洗浄し、100μl 検出抗体(ストックから1:180希釈)を各ウェルに添加し、さらに2時間、室温でインキュベートした。検出抗体とのインキュベーションの後、上清を除去し、ウェルを先のように洗浄し、100μl ストレプトアビジン-HRP溶液(ストックから1:200希釈)を各ウェルに20分間、遮光して添加した。その後、50μl 停止溶液(2M H2SO4)を添加し、各ウェルの光学密度(OD)を、マイクロプレートリーダーを使用して、570nm ブランクを各ウェルから差し引いて450nmで読み取った。4パラメーターロジスティック曲線を、GraphPad Prism 7を使用して構築し、A1AT濃度を、標準曲線からの内挿および適切な希釈率を乗算することによって、各サンプルで決定した。
【0074】
結果
ヒトZ A1ATの循環レベルに対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の効果を、huZマウスモデルにおいて評価した。マウスを、14連続日にわたって、5mg/kg、15mg/kgまたは50mg/kgで1日2回の強制経口投与によって処置した。
【0075】
図4中のデータは、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸が、用量依存性様式において、huZマウスでのベースラインレベルと比較して、ヒトZ A1ATの分泌を刺激することを示す。
【0076】
実施例7: マウスにおける(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の薬物動態
【0077】
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を、雄性C57BI/6マウスに、静脈内に(2mg/kg)または強制経口投与(10mg/kg)によって投与した。水で希釈した全血を、投与後24時間までの時間経過にわたってこれらの投与した動物から調製して、薬物の血中濃度を、UPLC-MS/MSによって測定することを可能にした。測定した薬物レベルによって、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸に関して以下のパラメーターの計算が可能になった。
【0078】
血中半減期(t1/2)=1.2時間
実測クリアランス=4.7ml/分/kg
分布容積(Vz)=0.49 l/kg
経口Cmax=33520ng/ml
AUCall=54234ng.h/ml
AUCINF=54372ng.h/ml
【0079】
実施例8: マウスにおける(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の薬物動態
【0080】
(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を、雄性C57BI/6マウスに、静脈内に(2mg/kg)または強制経口投与(10mg/kg)によって投与した。水で希釈した全血を、投与後24時間までの時間経過にわたってこれらの投与した動物から調製して、薬物の血中液濃度を、UPLC-MS/MSによって測定することを可能にした。測定した薬物レベルによって、(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸に関して以下のパラメーターの計算が可能になった。
【0081】
血中半減期(t1/2)=0.54時間
実測クリアランス=8.2ml/分/kg
分布容積(Vz)=0.38 l/kg
経口Cmax=15599ng/ml
AUCall=24158ng.h/ml
AUCINF=24736ng.h/ml
【0082】
実施例9: (S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸のマウスおよびヒト肝細胞安定性
【0083】
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の固有クリアランス(CLint)および半減期を、凍結保存された雄性C57BL6マウス肝細胞の肝細胞懸濁物または凍結保存されたヒト肝細胞の混合肝細胞懸濁物中で測定した。簡潔には、上記化合物を、肝細胞懸濁物とともに37℃で一定の時間経過にわたってインキュベートし、各時点で残っている化合物を、質量分析計(UPLC-MS/MS)によって評価した。両方の化合物に関して、マウス肝細胞におけるCLintは、<3μl/分/106 細胞であり、ヒト肝細胞では、<3μl/分/106 細胞であった。両方の化合物に関して、マウス肝細胞における半減期は、>460分であり、ヒト肝細胞では、>460分であった。
【0084】
実施例10: (S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の血漿タンパク質結合
【0085】
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸がヒトまたはマウス血液内のアルブミンおよびα-1酸性糖タンパク質のような血漿タンパク質に結合している程度を、迅速平衡透析法(rapid equilibrium dialysis)によって決定した。化合物を、5μMで4時間、37℃においてインキュベートした。(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸に関しては、マウス血漿中で結合している血漿タンパク質は、78.1%であり、ヒト血漿中では、91.5%であった。(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸に関しては、マウス血漿中で結合している血漿タンパク質は、83.8%であり、ヒト血漿中では、90.5%であった。
【0086】
実施例11: シトクロムP450に対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0087】
特定のプローブ基質と組み合わせてE.coli CYPEX膜を使用して、(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸による個々のCYPsの阻害を評価した(Weaverら, 2003, Drug Metab Dispos 31:7, 955-966を参照のこと)。
【0088】
【0089】
実施例12: HERGチャネルに対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0090】
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸を、Patchliner自動パッチクランプを使用して、心臓カリウム(hERG)チャネルの阻害に関して試験した。6点濃度応答曲線を、100μMの最大最終試験濃度からの半対数系列希釈(half-log serial dilution)を使用して生成した。IC50値を、濃度応答データの4パラメーターロジスティック適合から得た。(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸は、100μMにおいて7% 阻害でIC50>100μMを有することを示した。参照化合物値は、文献中に示されたものと一致した(Elkinsら, 2013 J.Pharm.Tox.Meth. 68:11-122)。
【0091】
実施例13: 酵素、イオンチャネル、およびレセプターのパネルに対する(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の活性
【0092】
(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸および(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸は、10μMにおいてDiscoverX Safety47TMパネルに対して試験した場合に、非常にきれいなオフターゲットプロフィールを示した。いずれの化合物についても、この濃度で25%超阻害した標的はなかった。
【0093】
実施例14: ヒト等価用量の決定
【0094】
現在まで有効性試験に使用したマウスでの(S)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸の最高用量は、50mg/kgである(データは示さず)。これを、US FDA Center for Drug Evaluation and Research(CDER) 「Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers」(2005公開 - https://www.fda.gov/media/72309/downloadを参照のこと)の表1を使用してヒト等価用量に変換すると、4mg/kgというヒト等価用量(HED)が示される。
【0095】
比較によれば、実施例7および8に示されるように、エナンチオマーである(R)-1-((2-(トリフルオロメチル)フェニル)スルホニル)ピペリジン-3-カルボン酸は、マウスにおいて2.2倍短いt1/2。および2.2倍低いAUCを有する。臨床的有効性が、所定の濃度を上回ってAUCまたは時間のいずれかによって駆動されることを期待して、本発明者らは、Rエナンチオマーの等価な有効性が、Sエナンチオマーと比較して、2.2倍高い用量または8.8mg/kgにあると結論づける。
【国際調査報告】