(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】コードされたアジュバントを含むワクチン組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20240621BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20240621BHJP
A61K 39/235 20060101ALI20240621BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240621BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240621BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240621BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C12N15/63 Z
A61K39/39
A61K39/235
A61K39/00 H
A61P35/00
A61P37/04
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/12
C07K14/47
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578710
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2022066733
(87)【国際公開番号】W WO2022268722
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518435943
【氏名又は名称】ノイスコム アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】スカルセッリ,エリサ
(72)【発明者】
【氏名】ニコシア,アルフレード
(72)【発明者】
【氏名】モレナ ダリーゼ,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ラーム,アルミン
(72)【発明者】
【氏名】レオニ,グイド
(72)【発明者】
【氏名】サッソ,エマヌエーレ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA38
4C085BA77
4C085BB01
4C085CC08
4C085EE03
4C085EE06
4C085GG01
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG05
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA86
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセットであって、1つ以上のベクターの第1のセットはアデノウイルスベクターである、および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含む、ワクチン組成物に関する。本発明はさらに、疾患の治療または予防に使用するための前記ワクチン組成物に関する。さらに、本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする第1の核酸、または前記第1の核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または第2の抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする第2の核酸、または前記第2の核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含む、免疫応答を誘導するためのワクチン組成物またはワクチンキットに関し、ここで、(1)は第1の部位で患者に投与され、および(2)は第2の部位で患者に投与され、第1の部位は第2の部位と同じかまたは20cm以内であり、第1と第2の部位のリンパ系は同じリンパ節に流れ込むものである。本発明は、抗原およびコードされたアジュバントの投与を含む第1の投与ステップ、および、抗原および/またはコードされたアジュバントの投与を含む第2の投与ステップを含むワクチン接種計画にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセットであって、1つ以上のベクターの第1のセットはアデノウイルスベクターである、第1のセット、および
(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、
を含む、ワクチン組成物。
【請求項2】
1つ以上のベクターの第1のセットはヒトアデノウイルスベクターである、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
ヒトアデノウイルスベクターは、hAd6、hAd5、およびhAd57からなる群から選択され、好ましくは、hAd6およびhAd57からから選択され、より好ましくはhAd6である、請求項2に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
抗原もしくは抗原の組み合わせは、1つ以上のベクターの第1のセットに含まれない核酸によってコードされる、請求項1~3のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
1つ以上のベクターの第2のセットは、抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含み、好ましくは、1つ以上のベクターの第2のセットはアデノウイルベクターであり、好ましくは、非ヒト大型類人猿に由来し、より好ましくは、チンパンジー、ボノボ、またはゴリラに由来し、最も好ましくはゴリラに由来する、アデノウイルベクターである、請求項1~4のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
1つ以上のアジュバントは、
a. 免疫チェックポイント分子の調節剤、好ましくは以下からなる群から選択される:
- 腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーメンバーのアゴニストまたはB7-CD28スーパーファミリーメンバーのアゴニスト、好ましくは、CD27、CD40、OX40、GITR、CD137、CD28またはICOSのアゴニストであって、好ましくは、該アゴニストは、リガンドまたはアンタゴニスト抗体または抗体様タンパク質(例えば、CD40に対するCP-870,893)である、
- PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3(例えばMGA271)、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGITまたはVISTAのアンタゴニスト、好ましくは、該アンタゴニストは、(アンタゴニスト)抗体または抗体様タンパク質である、
b. サイトカイン、好ましくは、IL-2、IL-1β、IL-7、IL-15、IL-18、GM-CFS、または INF-γ、および/またはサイトカイン類似体
c. サイトカイン受容体、好ましくは、CD25 (IL-2α受容体)、
d. インターフェロン(IFN)遺伝子の活性化因子、好ましくは、STING、
e. アデノシンデアミナーゼ (ADA)または増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター 1-α (PGC-1α)、
f. ポリヌクレオチドアジュバント、
からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
1つ以上のアジュバントは、OX40のアゴニスト、好ましくはOX40L、ICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL、CD40のアゴニスト、好ましくはCD40L、およびアンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質、ここで、アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質は、可溶性であってよく、または膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含んでよい、からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
1つ以上のアジュバントは、膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
抗原もしくは抗原の組み合わせは、アジュバントの非存在下では、対象において免疫応答を全く誘発しないか、または最適以下の免疫応答しか誘発しない、請求項1~8のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
抗原もしくは抗原の組み合わせは、
a. 腫瘍関連抗原(TAA)、好ましくは、特定の腫瘍タイプに特異的なTAA、および/または
b. がんネオ抗原、好ましくは、単一アミノ酸変異ペプチド、フレームシフトペプチド、リードスルー変異ペプチド、およびスプライス部位変異ペプチドからなる群から選択される、がんネオ抗原、
から選択される1つ以上のがん抗原を含むまたは1つ以上のがん抗原からなる、請求項1~9のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項11】
疾患の治療または予防に使用するための、好ましくは増殖性疾患、より好ましくはがんの治療に使用するための、請求項1~10のいずれか1項に記載のワクチン組成物。
【請求項12】
(1)1つ以上のアジュバントをコードする第1の核酸、または
前記第1の核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、
を含む、第1の組成物、および
(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または
抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする第2の核酸、または前記第2の核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物、
を含む、抗原もしくは抗原の組み合わせに対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物またはワクチンキットであって、
ここで、
a. (1)は第1の部位で患者に投与され、および(2)は第2の部位で患者に投与され、ここで、第1の部位は第2の部位から20cm、17.5cm、15cm、12.5cm、10cm、7.5cm、5cm、2.5cm、1cm,0.5cm、0.25cmまたは0.1cm以内にあり、および、第1の部位のリンパ系は、第2の部位のリンパ系と同じリンパ節に流れ込むものであるか、または、第1の部位および第2の部位は同じである、および任意で
b. アジュバントは膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含む、
ワクチン組成物またはワクチンキット。
【請求項13】
(1)および(2)は、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内または胸腔内の注射によって投与され、ここで、好ましくは、(1)および(2)は同じ経路で投与される、請求項12に記載のワクチン組成物またはワクチンキット。
【請求項14】
(1)および(2)は、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、3分以下、または1分以下の時間間隔内で投与される、請求項12および13に記載のワクチン組成物またはワクチンキット。
【請求項15】
a.第1の投与ステップは、請求項1~14のいずれか1項に記載のワクチン組成物の投与を含み、および
b.第2の投与ステップは、
(1)1つ以上のアジュバントをコードする第1の核酸、または
前記第1の核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、を含む第1の組成物、および/または、
(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または
抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする第2の核酸、または
前記第2の核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物、
の投与を含む、
第1および第2の投与ステップを含むワクチン接種レジメン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原、または抗原と1つ以上のコードされたアジュバントの組み合わせを含むワクチン組成物に関する。本発明は、がん治療に使用するためのそのようなワクチン組成物にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンの分野は、さまざまな感染症や腫瘍性疾患に対する強力な免疫応答を誘導することを目的として急速に進歩している。これに関連して、遺伝子がんワクチンは、今後数年間でがん治療の重要な手段となる可能性がある。
【0003】
がんワクチンは、i)腫瘍内で過剰発現した自己タンパク質に由来する腫瘍関連抗原 (TAA)、またはii)変異した自己タンパク質に由来するネオ抗原のいずれかである腫瘍抗原に対するT細胞応答を誘導するという複雑さに向き合う必要がある。腫瘍における最も一般的な遺伝子変異は、野生型タンパク質のアミノ酸残基に隣接する単一のアミノ酸変化を引き起こす単一ヌクレオチド変異体である。したがって、ほとんどのネオ抗原には重要な「自己」成分が含まれており、弱い免疫原とみなされる。強い免疫反応を得るには、「自己」に対する免疫寛容を克服する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アジュバントはワクチンに使用される成分であり、ワクチン接種を受けた人に強力な免疫反応を引き起こすのに役立つ。しかしながら、一部の強力なアジュバントは重篤な副作用を伴う。したがって、毒性を最小限に抑えながらがんワクチンの効力を最適化することが極めて重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、抗原がコードされたアジュバントと同時投与される場合、抗原に対する免疫応答が顕著に増加する可能性があるという発見に基づいている。予期せず、本発明者らは、ワクチン組成物が1つ以上のアデノウイルスベクターのセット、好ましくは1つ以上のアジュバントをコードするヒトアデノウイルスベクターのセットを含む場合、抗原または抗原の組み合わせに対する免疫応答が増幅されることを見出した。したがって、本発明によるワクチン組成物は、特に以下を提供する:(i)抗原または抗原の組み合わせに対する免疫応答を強化すること、(ii)最適ではない弱い免疫反応をより強力な免疫反応に変えること、(iii)他の方法では免疫反応を引き起こさない抗原に対する免疫反応を可能にすること、(iv)抗原を非免疫原性から免疫原性に変えること、(v)TAAに対する免疫反応を可能にすること、(vi)単一の抗原または少数の抗原、特にTAAまたはがんネオ抗原、の組み合わせに対する免疫応答を可能にすること、(vii)自己抗原に対する免疫寛容が局所的かつ時間的に規定解除(defined breakdown)を可能にすること、(viii)アジュバントの限定的な全身曝露を可能にすること、(ix)アジュバントの限定的な非特異的活性を可能にすること、(x)限定的な毒性を可能にすること、(xi)抗原とアジュバントの容易な共製剤化を可能にすること、(xii)抗原とアジュバントの同時共局在作用が可能になること。
【0006】
第1の態様において、本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセットであって、1つ以上のベクターの第1のセットはアデノウイルスベクターである、第1のセット、および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含む、ワクチン組成物に関する。
【0007】
第2の態様において、本発明は、疾患の治療または予防に使用するための本発明の第1の態様によるワクチン組成物に関する。
【0008】
第3の態様において、本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、を含む第1の組成物および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物;を含む、抗原または抗原の組み合わせに対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物またはワクチンキットに関し、ここで、(1)は第1の部位で患者に投与され、および(2)は第2の部位で患者に投与され、第1の部位は第2の部位の20cm以内であり、および第1の部位のリンパ系は、第2の部位のリンパ系と同じリンパ節に流れ込むものであるか、または、第1の部位および第2の部位は同じである。
【0009】
第4の態様において、本発明は、第1および第2の投与ステップを含むワクチン接種レジメン(regimen)に関するものであって、(a)第1の投与ステップは、本発明の第1、第2または第3の態様によるワクチン組成物の投与を含み、および(b)第2の投与ステップは、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、を含む第1の組成物および/または、(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物の投与を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】A) 9D9抗mCTLA4 (10^8 ウイルス粒子、vp) をコードする Ad6、Ad5、GAd20およびChAd68ベクターを投与されたマウスにおける抗mCTLA4 (クローン 9d9) の血清濃度を注射の 7 日後に測定。B) ワクチン誘導性のT細胞応答に対するコードされた抗CTLA4の効果。C57Bl6マウスに、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチン (ワクチン、用量2x10^7 vp) を単独投与で、または抗 mCTLA4をコードする Ad(9D9抗mCTLA4をコードするAd6、Ad5、GAd20およびChAd68ベクター、それぞれ10^8 vp) と組み合わせて (混合) 投与して筋肉内ワクチン接種した。IFN-γ ELISpot アッセイによって5つの実験群で測定された、ワクチンにコードされているCD8 エピトープに対する総応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図2】
図2は、混合物として1つの解剖学的部位にワクチンと同時投与した場合(混合)、混合物と同じ解剖学的部位に近接投与(時間差5分)した場合(別々)、または2つの離れた部位に投与した場合(対側)に、ワクチン誘発性T細胞応答に対するコードされた抗mCTLA4抗体(Ad-9d9)の効果を示。C57Bl6マウスに、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチン(ワクチン、用量2x10^7 vp)を筋肉内ワクチン接種し、ワクチンと混合したAd6-9d9 (10^8 vp)をマウスの大腿四頭筋に注射し、同じ解剖学的部位に別々に投与するか、または2つの異なる解剖学的部位(左側の部位にGAdワクチン、右側の反対側にAd-9d9ワクチン)に投与した。3つのレジメンすべてに同じワクチン用量が使用された。対照として、マウス群にはAd-9d9の非存在下でワクチンのみを投与した。IFN-γ ELISpot アッセイで測定した免疫応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図3】
図3は、ワクチン誘導性T細胞応答に対するコードされた抗mCTLA4 抗体 (Ad-9d9)の効果を示す。A) BalBCマウスに、31のCT26ネオ抗原(ワクチン)をコードするGAd ワクチンを単独投与で、または抗mCTLA4 (Ad-9d9 10^8 vpの用量)をコードするAd6と組み合わせて (混合) 、または、腹腔内 (ip) 送達した抗mCTLA4 抗体タンパク質 (9d9 Ab、100ug) と組み合わせて投与して、筋肉内 (im) ワクチン接種した。IFN-γ ELISpot アッセイによる3つの実験群 (ワクチン;ワクチン+ 9d9 Ab;ワクチン+Ad-9d9) で測定された、ワクチンにコードされているCD8エピトープ (薄灰色) およびCD4 (濃灰色) に対する応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図4】
図4は、ワクチンと同時投与した場合のワクチン誘導性T細胞応答に対するコードされた抗mCTLA4抗体 (Ad6-9d9) の効果、ならびにワクチンの抗腫瘍効果に対するコードされた抗mCTLA4の影響を示す。A) BalBCマウスに、62のCT26ネオ抗原(ワクチン)をコードするGAd ワクチンを単独投与で、または抗mCTLA4 (Ad-9d9 10^8 vpの用量)をコードするAd6と組み合わせて (混合)投与して筋肉内 (im) ワクチン接種した。免疫応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。B)抗mPD1と組み合わせたGAd-CT26-62の抗腫瘍効果と、抗mPD1と組み合わせてAd6-9d9と同時投与したGAd-CT26-62の抗腫瘍効果。処理は、腫瘍体積に従って無作為化されたマウスに対して0日目に開始された。経時的な腫瘍増殖を、2つの異なる処理群に属する個々のマウスについて示す。抗腫瘍反応は、完全反応と部分反応(≧40%の腫瘍縮小)の合計として評価される。
【
図5】
図5は、注射されたマウスの血清中の抗mCTLA4抗体の濃度を示す。抗mCTLA4をコードするAd6ベクター(Ad-9d9、黒色)または皮下(9d9 Ab sc、白色)または腹腔内(9d9 Ab ip、濃灰色)に注射された単回用量の抗mCTLA4抗体タンパク質(9d9 Ab、100ug)の注射後7日目のマウスにおける抗mCTLA4抗体濃度を示す。
【
図6】
図6は、TAAベースのGAdワクチンの免疫原性を高めるためのコードされた抗CTLA4の効果を示す。BalBCマウスに、CT26腫瘍から選択された4つのTAAをコードするGAdワクチン (ワクチン、用量5x10^8 vp) を、単独投与または抗mCTLA4をコードするAd6(ワクチン+Ad-9d9)と組み合わせて (混合) 投与し、筋肉内ワクチン接種した。ワクチン配列をカバーするペプチドのセットを使用して測定した、コードされた抗原 (1~4) に対する応答 (脾細胞数100万個あたりの IFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図7】
図7は、TAAに対する抗体応答を増強する、コードされた抗mCTLA4の効果を示す。hHer2トランスジェニック (Tg) マウスに、hHer2 をコードするGAdワクチン (Ad-hHer2、用量5x10^8 vp) を、単独投与または抗mCTLA4 をコードする Ad6 (Ad-hHer2 +Ad-9d9) と組み合わせて (混合) 投与し筋肉内ワクチン接種した。免疫化の2週間後、免疫化マウスから血清を調製し、TAAhHER2/neuを認識するAbの存在について分析した。wtマウスからの血清を陽性対照として使用し、hHer2に対する反応が陽性であることが予想された。
【
図8】
図8は、ワクチン誘導性T細胞応答に対するコードされたOX40Lの効果を示す。C57Bl6マウスに、MC38 腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T 細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチン (ワクチン、用量2x10^7 vp) を単独投与または OX40L をコードするAd (Ad-OX40L、10^8 vp)と組み合わせて (混合) 投与して筋肉内ワクチン接種した。陽性対照として、マウスの1つの群にワクチンを Ad-9d9と同時投与した。IFN-γ ELISpotアッセイによって測定された、ワクチンにコードされているCD8エピトープに対する総応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図9】
図9は、hHer2 Tg マウスにおけるヒトHer2に対する T 細胞寛容を破壊するためのコードされた9d9およびOX40Lの効果を示す。h-Her2をコードするGAdワクチンを単独投与で、または9D9(Ad-9D9)またはOX40L(Ad-OX40L)をコードするアデノウイルスと組み合わせて、またはAd-9D9とAd-OX40Lの等量混合物と組み合わせて、マウスに筋肉内ワクチン接種した。IFN-γELISpot アッセイによって測定されたhHer2に対するT細胞応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγを産生するT細胞の数) を示す。
【
図10】
図10は、ワクチン誘導性T細胞応答に対するコードされたICOSLの効果を示す。C57Bl6 マウスに、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチン (ワクチン、用量2x10^7 vp) を単独投与で、またはAdをコードするICOSL(Ad-ICOSL、10^8 vp) と組み合わせて (混合) 投与して筋肉内ワクチン接種した。IFN-γ ELISpot アッセイによって測定された、ワクチンにコードされているCD8エピトープに対する総応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【
図11】
図11は、アジュバントの単独投与と二重投与のレジメンにおけるワクチン抗腫瘍効果に対する、コードされたAd6 抗mCTLA4の影響を示す。マウスにCT26細胞を皮下注射で接種した。1週間後、腫瘍量に応じて動物を無作為に割り付け、0日目に非アジュバント添加ワクチンGAd-CT26-62と抗PD1を組み合わせたワクチンを投与した群(ワクチン+抗PD1)と、アジュバント添加ワクチンとコードされた抗CTLA4を単独投与するレジメン(ワクチン+Ad6-9d9+抗PD1)、またはAd6-9d9を1回目は0日目にワクチンと同時投与し、2回目は1日目にAd6-9d9を初回投与量で二重投与する群(ワクチン+Ad6-9d9 2x+抗PD1)に分けて処理した。時間経過に伴う腫瘍の増殖が示されている。抗腫瘍反応は、完全反応と部分反応(≧40%の腫瘍縮小)の合計として評価される。
【
図12】
図12は、Ad6-Ipi (10^8 ウイルス粒子、vp) を投与されたマウスにおける抗hCTLA4 (イピリムマブ) の血清濃度を ELISAアッセイにより経時的に測定したことを示す。
【
図13】
図13は、Ad6にコードされた抗mCTLA4 の膜結合型 (Ad6-9d9TM) がワクチンの抗腫瘍効果に及ぼす影響を示す。ワクチン単独(ワクチン)、ワクチンと同時投与される Ad6-9d9、またはワクチンと同時投与される Ad6-9d9TMについて、FN-γ ELISpot アッセイによって測定された、ワクチンにコードされているCD8エピトープに対する総応答 (脾細胞数100万個あたりのIFNγ産生T細胞の数) を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する前に、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されず、これらは変化し得ることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0012】
好ましくは、 本明細書で使用される用語は、「"バイオテクノロジー用語の多言語用語集(A multilingual glossary of biotechnological terms): (IUPAC Recommendations)", Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. andKoelbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)」に記載されているように、および「"医薬品物質: 合成、特許、応用(Pharmaceutical Substances: Syntheses, Patents, Applications)" by Axel Kleemann and Jurgen Engel, Thieme Medical Publishing,1999; the "Merck Index: An Encyclopedia of Chemicals, Drugs, andBiologicals", edited by Susan Budavari et al., CRC Press, 1996, and theUnited States Pharmacopeia-25/National Formulary-20, published by the UnitedStates Pharmcopeial Convention, Inc., Rockville Md., 2001」に記載されているように定義される。
【0013】
文脈上別段の要求がない限り、本明細書およびそれに続く特許請求の範囲全体にわたって, 「含む(comprise)」という単語、および「含む(comprises)」や「含む(comprising)」などの変形は、明示された特徴、整数、またはステップ、あるいは特徴、整数、またはステップのグループの包含を意味するが、他の特徴、整数、ステップ、または整数またはステップのグループ除外するものではないことを理解されたい。以下の文章では、本発明のさまざまな態様がより詳細に定義される。そのように定義された各態様では、特に反対のことが明確に示されない限り、他の任意の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された他の任意の特徴と組み合わせることができる。
【0014】
本明細書の本文全体を通じていくつかの文書が引用されている。本明細書で引用される各文書(すべての特許、特許出願、科学出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、上でも下でも、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書のいかなる内容も、本発明が先願発明のおかげでそのような開示に先立つ権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
【0015】
定義
以下に、本明細書で頻繁に使用される用語のいくつかの定義を示す。 これらの用語は、その使用のたびに、本明細書の残りの部分において、それぞれ定義された意味および好ましい意味を有することになる。
【0016】
「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、本明細書では互換的に使用され、ヌクレオチドモノマーから作られたポリマーまたはオリゴマー巨大分子として理解される。ヌクレオチドモノマーは、核酸塩基、五炭糖 (リボースまたは2’-デオキシリボースなど (ただしこれらに限定されない))、および1~3個のリン酸基で構成される。典型的には、核酸は、個々のヌクレオチドモノマー間のホスホジエステル結合を通じて形成される。本発明の文脈において、好ましい核酸分子としては、リボ核酸(RNA)、修飾RNA、デオキシリボ核酸(DNA)、およびそれらの混合物、例えば、RNA-DNA ハイブリッドなどが挙げられるが、これらに限定されない。核酸は、例えば、ホスホトリエステル法 (例えば、Uhlmann, E. & Peyman, A. (1990)Chemical Reviews, 90, 543-584を参照) により、化学的に合成され得る。
【0017】
本明細書で使用される場合、「タンパク質」、「ペプチド」、「ポリペプチド」、「ペプチド」および「ポリペプチド」との用語は、全体を通じて互換的に使用される。これらの用語は、本発明の文脈において、例えば天然タンパク質のような天然ペプチドおよび天然または非天然アミノ酸を含み得る合成ペプチドの両方を指すために使用される。
【0018】
本発明の文脈において、「免疫応答」という用語には、細胞性免疫応答および体液性免疫応答が含まれる。
【0019】
本発明の文脈において、「抗原」という用語は、免疫応答の分子、例えば抗体、T細胞受容体(TCR)などによって認識される任意の構造を指すために使用される。好ましい抗原は、特定の疾患に関連する細胞タンパク質またはその断片である。抗原は、適応免疫系の高度可変抗原受容体 (B細胞受容体またはT細胞受容体) によって認識され、体液性または細胞性免疫応答を誘発する可能性があります。このような反応を誘発する抗原は「免疫原」とも呼ばれる。細胞内のタンパク質の一部は、外来性か細胞性かに関係なく、より小さなペプチドに加工され、主要組織適合性複合体(MHC)によって提示される。
【0020】
本発明で使用される「ベクター」という用語は、外来遺伝物質(特にDNAまたはRNA)を細胞(好ましくは哺乳動物細胞)に導入することができるポリヌクレオチド、またはポリヌクレオチドとタンパク質の混合物を指し、細胞中で複製されおよび/または発現されることが可能である。ベクターの例には、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスまたは人工染色体が含まれるが、これらに限定されない。発現ベクターは、宿主細胞内での発現ベクターの自律複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含み得る。発現ベクターは宿主細胞に入ると宿主染色体 DNA とは独立して、または宿主染色体 DNA と同時に複製することができ、ベクターおよびその挿入 DNA のコピーがいくつか生成される。複製能力のない発現ベクターが使用される場合(安全上の理由でよくあること)、ベクターは複製せず、単に核酸の発現を指示するのみであってよい。発現ベクターの種類に応じて、発現ベクターは細胞から失われる場合、例えば、核酸によってコードされる抗原またはアジュバントを一時的にのみ発現する場合があり、または細胞内で安定である場合がある。発現ベクターは通常、発現カセット、たとえば核酸のmRNA分子への転写を可能にする必要な要素を含んでいる。
【0021】
「アデノウイルスベクター」および「アデノベクター」という用語は、本願全体を通じて同じ意味で使用される。
【0022】
「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語は、パルボウイルス科に属するウイルスを指し、パルボウイルス、エリスロウイルス、ディペンドウイルス、アムドウイルス、ボカウイルスを含むパルボウイルス科ならびにデンソウイルス、イテラウイルス、ブレビデンソウイルス、ペフデンソウイルス、およびコントラウイルスを含むデンソウイルス科のファミリーに細分できるいくつかの属を含み得る。AAV の独特なライフサイクルと、持続発現による非分裂細胞および分裂細胞の両方に感染する能力により、AAV は魅力的なベクターとなっている。野生型AAVウイルスのさらなる魅力的な特徴は、明らかな病原性がないことである。
【0023】
「アデノ随伴ウイルスベクター」または「AAVベクター」という用語は、本願全体を通じて互換的に使用される。
【0024】
本発明として記載のワクチン組成物は、抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターを含む。ワクチン組成物は、1つ以上のコードされたアジュバントをさらに含み、さらに、安定化剤、さらなるアジュバント、抗生物質、および保存剤を含み得る。
【0025】
本発明によるワクチン組成物に関して、「抗原」という用語は、免疫応答を誘導するために対象に送達される1つ以上のタンパク質またはその断片を指す。抗原は、タンパク質の形態で送達されてもよく、またはコードされてもよく、抗原をコードする核酸はベクターに含まれていても含まれていなくてもよい。
【0026】
「アジュバント」という用語は、本発明の文脈において、ワクチン組成物に含まれる抗原に対する免疫応答を増強、刺激、活性化、強化、または調節する薬剤を指すために使用される。このようなアジュバントの例としては、サイトカイン、サイトカイン類似体、サイトカイン受容体、チェックポイント分子の調節剤、合成ポリヌクレオチドアジュバント(例えば、ポリアルギニンまたはポリリシン)、インターフェロン(IFN)遺伝子活性化因子、インドールアミド2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)のアンタゴニスト、アデノシンデアミナーゼ(ADA)または増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター1-アルファ(PGC-1)などが挙げられるが、これらに限定されない。好ましいアジュバントは、OX40のアゴニスト、好ましくはOX40L、ICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL、CD40のアゴニスト、好ましくはCD40L、およびアンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質からなる群から選択される。本発明の文脈において、ワクチン組成物は、1つ以上のコードされたアジュバントを含む。したがって、本発明によるワクチン組成物に関して、アジュバントという用語は、コードされたアジュバントを指す。本発明の第1の態様のワクチン組成物において、1つ以上のアジュバントは、アデノウイルスベクター、好ましくはヒトアデノウイルスベクターに含まれる核酸によってコードされる。本発明の第3の態様の使用のためのワクチン組成物またはワクチンキット、および本発明の第4の態様のワクチン接種レジメンにおいて、1つ以上のコードされたアジュバントの送達はウイルスベクターに限定されない。
【0027】
当業者は、コードされた抗原および/またはアジュバントを送達するためのさまざまな適切な方法をよく知っている。送達は、例えば、DNA、特にプラスミドDNA; RNA、特にインビトロ転写(IVT)RNA、非複製メッセンジャーRNA、および/または自己増幅RNA(SAM);ウイルスベクター;アルファウイルスベクター、ベネズエラ馬脳炎(VEE)ウイルスベクター、シンドビス(SIN)ウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(SFV)ウイルスベクター、また好ましくは、複製能のあるもしくは複製能のない、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターまたは改変ワクシニアアンカラ(MVA)ベクター、サルまたはヒトサイトメガロウイルス(CMV)ベクター、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)ベクター、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクターによって達成することができる。
【0028】
抗原またはアジュバントがRNAによってコードされる場合、投与は、裸の核酸として、または担体との複合体として達成される。RNAは、RNase阻害剤などの安定化物質と組み合わせて投与することもできる。本発明による有用な担体としては、例えば、カチオン性脂質、リポソーム、ミセル、脂質ナノ粒子、および脂質-ポリマーハイブリッドナノ粒子などの脂質含有担体が挙げられる。RNAの投与に好ましい担体は、脂質ナノ粒子または脂質-ポリマーハイブリッドナノ粒子である。典型的な脂質ナノ粒子製剤は、ポリアニオン性mRNAをカプセル化するためのpH応答性脂質または3級アミンまたは4級アミンを有するカチオン性脂質;両性イオン脂質などの中性ヘルパー脂質[すなわち、 1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン (DOPE)または 1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン (DSPC)]および/または脂質ナノ粒子の脂質二重層を安定化し、mRNA 送達効率を高めるためのステロール脂質(すなわち、コレステロール);および血漿タンパク質の非特異的吸収を低減し、ナノ粒子上に水和層を形成することにより、生物学的環境におけるコロイドの安定性を向上させるポリエチレングリコール (PEG) 脂質で構成される。脂質-ポリマーハイブリッドナノ粒子は、脂質層でコーティングされた生分解性mRNAをロードしたポリマーコアで構成される。通常、脂質エンベロープは、カチオン性またはイオン性脂質、ヘルパー脂質、およびペグ化脂質の混合物を含む脂質二重層または脂質単層に組織化されている(Guevara et al., 2020, Advances in Lipid Nanoparticles form RNA-Based Cancer Immunotherapy. Front. Chem. 8:589-959)。
【0029】
「免疫調節剤」という用語は、チェックポイント分子の調節剤およびサイトカインまたはサイトカイン類似体からなる群から選択される化合物を指す。本発明の文脈において、免疫調節剤は、本発明のワクチン組成物と組み合わせて、ワクチン組成物の前または後に、または同時に投与され得る。したがって、免疫調節剤が存在する場合、アジュバントに加えて、免疫調節剤はワクチン組成物のさらなる成分である。アジュバントはコードされており、免疫調節剤はタンパク質として投与されることが好ましい。好ましい免疫調節剤は、アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質、アンタゴニスト性PD-1特異的抗体または抗体様タンパク質、およびIL-2またはその類似体からなる群から選択される。
【0030】
「抗体」という用語は、本発明の文脈においては、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する糖タンパク質を指すために使用される。抗体は、形質細胞によって産生されてよく、細菌やウイルスなどの異物を同定して中和するために免疫系によって使用されるタンパク質分子を指す。抗体は、外来標的の固有の部分である、抗原を認識する。「抗体」という用語は、抗体、例えばIgG抗体の全体構造を有する分子を指す。一般に IgG というときは、別段の定義がない限り、IgG1、IgG2、IgG3、および IgG4 が含まれる。IgG 抗体分子は、4つのポリペプチド鎖 (2つの重鎖と 2つの軽鎖) を含むY 字型の分子である。各軽鎖は2つのドメインで構成され、N末端ドメインは可変またはVLドメイン(または領域) として知られ、C末端ドメインは定常 (または CL) ドメイン (定常カッパ (Cκ) または定常ラムダ(Cλ) ドメイン) として知られている。各重鎖は4 つのドメインで構成されている。重鎖のN末端ドメインは可変 (またはVH) ドメイン (または領域) として知られており、その後に1番目の定常ドメイン (CH1)、ヒンジ領域、そして2番目と3番目の定常ドメイン (CH2およびCH3) が続く。組み立てられた抗体では、VLドメインとVHドメインが結合して抗原結合部位を形成する。また、CLドメインとCH1ドメインは結合して、1つの重鎖と1つの軽鎖の関連付けを維持する。2つの重鎖と軽鎖のヘテロ二量体は、CH2ドメインとCH3ドメインの相互作用、および 2つの重鎖のヒンジ領域間の相互作用によって会合する。本明細書で使用される「抗体」という用語には、キメラドメイン置換(すなわち、少なくとも1つのドメインが異なる抗体由来のドメインによって置換したもの)、例えば、IgG3ドメイン(例えば、IgG3のCH3ドメイン)を含むIgG1抗体のようなもの、を有する可能性のある分子も含まれる。さらに、この用語は一般に、多重特異性、例えば二重特異性または三重特異性抗体を指す。抗体という用語には、重鎖定常ドメイン内に1つ以上の変異を有する分子も含まれる。
【0031】
本明細書の文脈内で使用される「抗体様分子」という用語は、抗体誘導体および抗体模倣物を含む。
【0032】
「抗体模倣物」という用語は、抗体と同様に抗原に特異的に結合できるが、構造的には抗体に関連していない化合物を指す。通常、抗体模倣物は、抗原に特異的に結合する1つ、2つ以上の露出ドメインを含む、分子量約3~20kDaの人工ペプチドまたはタンパク質である。典型的には、このような抗体模倣物は、タンパク質足場の両端に結合した少なくとも1つの可変ペプチドループを含む。この二重構造の制約により、抗体様タンパク質の結合親和性が抗体の結合親和性に匹敵するレベルまで大幅に増加する。可変ペプチドループの長さは、通常、10~20個のアミノ酸からなる。足場タンパク質は、良好な溶解特性を有する任意のタンパク質であり得る。好ましくは、足場タンパク質は小さな球状タンパク質である。例としては、特に、LACI-D1 (リポタンパク質関連凝固阻害剤);アフィリン、例えばヒト-γ B 結晶またはヒトユビキチン;シスタチン; Sulfolobus Acidocaldarius 由来の Sac7D; リポカリンおよびリポカリンから誘導されるアンチカリン;DARPins (設計されたアンキリンリピートドメイン); FynのSH3ドメイン;プロテアーゼ阻害剤のKunitzドメイン;モノボディ、例えばフィブロネクチンの10番目の III 型ドメイン;アドネクチン: ノッティン (システインノットミニタンパク質);アトリマー(atrimers); エビボディー(evibodies)、例えばCTLA4ベースのバインダー、アフィボディ(affibodies)、たとえばStaphylococcus aureusのプロテインAのZドメインの3ヘリックスバンドル;トランスボディ(Trans-bodies)、例えばヒトトランスフェリン; テトラネクチン、例えば単量体または三量体のヒトC型レクチンドメイン;ミクロボティー(microbodies)、例えばトリプシンインヒビター II;アフィリン;アルマジロリピートタンパク質を含む。核酸や小分子もときには抗体模倣物 (アプタマー) とみなされることがあるが、人工抗体、抗体断片、およびこれらから構成される融合タンパク質とはみなされない。抗体と比較した一般的な利点は、より優れた溶解性、組織浸透、熱や酵素に対する安定性、および比較的低い製造コストである。
【0033】
本発明による「結合」という用語は、好ましくは特異的結合に関する。「結合親和性」という用語は、一般に、分子(例えば、抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば、標的または抗原)との間の非共有結合性相互作用の合計の強さを指す。特に明記しない限り、本明細書で使用する「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのパートナーYに対する親和性は、一般に解離定数 (Kd)で表すことができる。 「特異的結合」とは、結合部分(例えば、抗体)が、別の標的への結合と比較して、それが特異的であるエピトープなどの標的に強く結合することを意味する。結合部分は、第2の標的の解離定数よりも低い解離定数(Kd)で第1の標的に結合する場合、結合部分は第2の標的より強く第1の標的に結合する。結合部分が特異的に結合する標的の解離定数(Kd)は、結合部分が特異的に結合しない標的の解離定数(Kd)よりも、10倍を超え、好ましくは20倍を超え、より好ましくは50倍を超え、さらにより好ましくは100倍、200倍を超え、500倍または1000倍を超えて低い。
【0034】
すなわち、「Kd」という用語(「mol/L」(「M」と略されることもある)で測定される)は、結合部分(例えば、抗体またはその断片)と標的分子(例えば、抗原またはそのエピトープ)との間の特定の相互作用の解離平衡定数を指すことを意図する。親和性は、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ(BIAcoreアッセイなど);水晶微量天秤アッセイ (Attana アッセイなど);酵素結合免疫吸着検定法 (ELISA);および競合アッセイ (RIA など)などを含むがこれに限定されない、当技術分野で知られている一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体は一般に抗原にゆっくりと結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は一般により速く抗原に結合し、より長く結合したままになる傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野で知られており、そのいずれも本発明の目的に使用することができる。
【0035】
典型的には、抗体または抗体模倣物は、十分な結合親和性、例えば、500 nM~1 pM、すなわち、約500nM、約450nM、約400nM、約350nM、約300nM、約250nM、約200nM、約150nM、約100nM、約50nM、約10nM、約1nM、約900pM、約800pM、約700pM、約600pM、約500pM、約400pM、約300pM、約200pM、約100pM、約50pM、または約1pM、例えば、500 nM、450 nM、400nM、350 nM、300nM、250 nM、200nM、150 nM、100nM、50 nM、10 nM、1 nM、900 pM、800 pM、700 pM、600 pM、500 pM、400 pM、 300pM、200pM、100pM、50pMまたは1pM、のKd値で標的に結合する。
【0036】
本明細書で使用される「免疫グロブリン(Ig)」という用語は、免疫グロブリンスーパーファミリーの免疫を与える糖タンパク質を指す。「表面免疫グロブリン」は、例えば、エフェクター細胞または内皮細胞の膜貫通領域によって膜に結合しており、新生児Fc受容体、B細胞受容体、T細胞受容体、クラスIおよびII 主要組織適合性複合体(MHC) タンパク質、ベータ 2 ミクログロブリン(β2M)、CD3、CD4、および CD8などの分子を包含するが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で使用される「抗体誘導体」という用語は、少なくともそれが含むと規定されているドメインを含むが、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、IgYまたはIgWなどの抗体の全体構造をもたないが、依然として標的分子に結合することができる、分子を指す。前記誘導体は、機能的(すなわち、標的結合、特に特異的標的結合)抗体断片またはそれらの組み合わせであってもよいが、これらに限定されない。本発明はまた、さらなる可変ドメインなどのさらなる抗体ドメインが付加された抗体にも関する。したがって、抗体誘導体という用語には、多重特異性(二重特異性、三重特異性、四特異性、五重特異性、六価特異性など)および多価(二価、三価、四価など)抗体も含まれる。
【0038】
二重特異性抗体は複数の形式で存在する(Brinkmann and Kontermann, Mabs2017, Vol. 9, No. 2, 182-212)。抗原結合ドメインのみからなる二重特異性抗体の例としては、二価Fab(bi-Fab)である。別の例は、可変ドメイン(Fv)のみを含み、定常ドメインを含まない形式である。可変ドメインのみを含む形式には、分子量が非常に低いため、良好な腫瘍浸透率が得られるという利点があり、これは腫瘍学的用途にとって重要である。FcRnへの結合を媒介する定常ドメインが欠如しているため、このような形式では血漿半減期が短くなる。
【0039】
抗原決定基としても知られる「エピトープ」という用語は、本発明の文脈において、抗原のセグメント、好ましくは免疫系の分子、例えばB細胞受容体、T細胞受容体、または抗体によって結合されるペプチドを指すために使用される。抗体またはB細胞が結合するエピトープは「B細胞エピトープ」と呼ばれ、T細胞が結合するエピトープは「T細胞エピトープ」と呼ばれる。 これに関連して、「結合」という用語は、好ましくは、抗体またはT細胞受容体(TCR)とそれぞれのエピトープとの間の結合定数が1×105M-1以上、好ましくは1×106M-1、1×107M-1、1×108M-1以上、である結合として定義される特異的結合に関する。当業者は結合定数を決定する方法をよく知っている(例えば、Caoili, S.E. (2012) Advances in Bioinformatics Vol. 2012を参照)。好ましくは、エピトープへの抗体の特異的結合は、抗体のFab (断片、抗原結合) 領域によって媒介され、B細胞の特異的結合は、B細胞受容体と特異的結合によって構成される抗体の Fab 領域によって媒介され、T細胞の特異的結合はT細胞受容体の可変 (V) 領域によって媒介される。T細胞エピトープは抗原提示細胞の表面に提示され、そこで主要組織適合性 (MHC) 分子に結合する。MHC分子には少なくとも2つの異なるクラスがあり、それぞれ MHC クラス I、II と呼ばれる。MHC-I 経路を通じて提示されるエピトープは細胞傷害性Tリンパ球 (CD8+ 細胞) による応答を誘発し、MHC-II 経路を通じて提示されるエピトープはヘルパーT細胞 (CD4+ 細胞) による応答を誘発する。MHC クラスI分子によって提示されるT細胞エピトープは、通常、長さ8~12アミノ酸のペプチドであり、MHC クラスII分子によって提示されるT細胞エピトープは、通常、長さ13~17アミノ酸のペプチドである。MHC クラスIII分子は、糖脂質として非ペプチド性エピトープも提示する。すなわち、「T細胞エピトープ」という用語は、好ましくは、MHCクラスI分子またはMHCクラスII分子のいずれかによって提示され得る、8~11または13~17アミノ酸長のペプチドを指す。エピトープは通常、化学的に活性なアミノ酸の表面グループで構成されており、糖側鎖を持っている場合と持っていない場合があり、通常は特定の三次元構造特性と特定の電荷特性を持っている。立体構造エピトープと非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合は失われるが、後者への結合は失われないという点で区別される。
【0040】
本発明の文脈において、「CTLA4特異的抗体」および「抗CTLA4抗体」という用語は互換的に使用される。
【0041】
本発明の文脈において、「アンタゴニスト抗体」という用語は、結合する分子の生物活性を阻害することができる抗体を指す。アンタゴニスト抗体が特定の受容体に結合すると、受容体の下流のシグナル伝達経路を遮断または弱めることができ、あるいは受容体リガンドと競合することができる。当業者は、拮抗活性の決定が複数のパラメーター、例えば使用されるアッセイまたは細胞型に依存することをよく知っている。本発明の文脈において、CTLA-4に特異的なアンタゴニスト抗体は、以下の活性によって特徴付けられる:CTLA4によって媒介されるT細胞応答の負のシグナル伝達の除去、すなわち、T細胞活性化に対するCTLA4シグナル伝達の阻害効果の除去により、免疫応答の増強がもたらされる。
【0042】
本発明の文脈において、「アゴニスト抗体」という用語は、受容体に結合し、受容体リガンドと同等の方法で受容体の下流のシグナル伝達経路を活性化する抗体を指す。アゴニスト抗体の例としては、受容体CD40に結合して活性化するCP-870,893 がある。当業者は、アゴニスト活性の決定が複数のパラメーター、例えば使用されるアッセイまたは細胞型に依存することをよく知っている。
【0043】
本発明の文脈において、「アゴニストリガンド」という用語は、受容体に結合し、受容体の下流のシグナル伝達経路を活性化する可溶性リガンドを指す。アゴニストリガンドの例は、受容体OX40に結合して活性化するOX40Lである。
【0044】
「腫瘍関連抗原(TAA)」という用語は、本発明の文脈において、腫瘍内で過剰発現される自己タンパク質に由来する抗原、すなわち、健康な組織ではまったく発現されないか、または低レベルでのみ発現され、腫瘍組織では発現レベルが増加するタンパク質を指すために使用される。TAAは、全長タンパク質またはその断片であり得る。
【0045】
がん精巣 (CT) 抗原という用語は、発生およびがん免疫療法における重要性によってまとめられたタンパク質のグループを指す。一般的に、これらのタンパク質の発現は、成体動物では雄の生殖細胞に限定される。しかしながら、がんでは、これらの発生抗原が再発現されることがよくある。したがって、それらは腫瘍関連抗原のカテゴリーを表す。CT 抗原は、黒色腫、肝臓がん、肺がん、膀胱がん、および神経芽腫などの小児腫瘍を含むいくつかの腫瘍で報告されている。定期的に更新される CT 抗原のリストは、http://www.cta.lncc.br/index.phpで確認することができる。がん治療における重要なCT抗原には、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、NY-ESO-1、PRAME、CT83、および SSX2が含まれる。
【0046】
「ネオ抗原」という用語は、本発明の文脈において、正常細胞/生殖系列細胞には存在しないが、形質転換された細胞、特にがん性細胞に存在する抗原を指すために使用される。ネオ抗原は、1つまたは複数、例えば、2、3、4、5またはそれ以上のネオエピトープを含み得る。本発明の抗原に含まれる各ネオ抗原の長さは、正常細胞/生殖系列細胞に生じるエピトープを含む可能性が低いことを確認するような方法で選択されることが好ましい。典型的には、これは、ネオ抗原が、ネオエピトープを生成したアミノ酸変化のC末端および/またはN末端に12個以下のアミノ酸を含むという点で確認できる。
【0047】
ネオ抗原を構成する突然変異がんタンパク質は、DNAレベルで発生する変異によって生成されるものであって、該変異タンパク質は以下を含み得る:
a)非同義単一ヌクレオチド変異 (SNV) を表す1つ以上の点変異によって引き起こされる1つ以上の単一のaa変化;および/または
b)フレームシフトペプチドまたは1つ以上の非野生型アミノ酸のフレーム内挿入または1つ以上の野生型アミノ酸の欠失をもたらす挿入/欠失によって引き起こされる非野生型アミノ酸配列;および/または
c)エクソン境界の変化またはイントロン保持を引き起こす突然変異によって引き起こされる非野生型アミノ酸配列;および/または
d)遺伝子融合イベントによって生成される突然変異がんタンパク質。
【0048】
ゲノムの非同義SNV点変異によって引き起こされる1つ以上の単一アミノ酸変化の結果であるネオ抗原は、本発明の文脈では単一アミノ酸変異ペプチドと呼ばれる。
【0049】
「フレームシフトペプチド」という用語は、本発明の文脈において、オープンリーディングフレーム(ORF)のシフトを引き起こす挿入変異または欠失変異を含む、核酸のタンパク質コードセグメントの完全な非野生型翻訳産物を指すために使用される。
【0050】
「オープンリーディングフレーム」略して「ORF」という用語は、本発明の文脈において、連続したアミノ酸の文字列に翻訳できるヌクレオチドの配列を指すために使用される。典型的には、ORFには開始コドンが含まれており、後続の領域は通常3ヌクレオチドの倍数の長さを持つが、所定のリーディングフレーム内に終止コドン (TAG、TAA、TGA、UAG、UAA、または UGA) は含まれない。ORFは、翻訳されるアミノ酸がペプチド結合鎖を形成するタンパク質をコードします。
【0051】
エクソン境界の変化またはイントロン保持を生じさせる変異によって引き起こされる非野生型アミノ酸配列の結果であるネオ抗原は、本発明の文脈ではスプライス部位変異ペプチドと呼ばれる。
【0052】
遺伝子融合イベントによって生成される突然変異がんタンパク質の結果であるネオ抗原は、本発明の文脈ではリードスルー突然変異ペプチドと呼ばれる。
【0053】
「サイトカイン類似体」という用語は、本発明の文脈では、例えば、より堅牢である、好ましい薬物動態学的特性を有する、半減期が延長される、特定の送達システムおよび製剤により適する、または強化されたまたはより選択的な生物学的活性を有するなどの、改善された物理化学的特性を示すように修飾されたサイトカインを指すために使用される。サイトカイン類似体は、未修飾のサイトカインと比較したアミノ酸の変化を含んでもよく、または、例えばペグ化などの翻訳後修飾を含んでもよい。
【0054】
「発現カセット」という用語は、本発明の文脈では、発現される少なくとも1つの核酸配列、例えば、転写および翻訳制御配列に作動可能に連結された、本発明の抗原またはその一部をコードする核酸、を含む核酸分子を指すために使用される。好ましくは、発現カセットには、例えば、プロモーター、開始部位、および/またはポリアデニル化部位など、所与の遺伝子を効率的に発現させるためのシス調節要素が含まれている。好ましくは、発現カセットは、患者の細胞内での核酸の発現に必要なすべての追加要素が含まれている。したがって、典型的な発現カセットには、発現される核酸配列に作動可能に連結されたプロモーター、ならびに転写物の効率的なポリアデニル化、リボソーム結合部位、および翻訳終結に必要なシグナルが含まれる。該カセットの追加要素には、例えば、エンハンサーまたはイントロン要素が含まれ得る。発現カセットは、好ましくは、効率的な終結を提供するために、コードされた抗原の下流に転写終結領域も含む。終結領域はプロモーター配列と同じ遺伝子から得てもよいし、異なる遺伝子から得てもよい。
【0055】
「作動可能に連結」されたという用語は、本発明の文脈では、作動可能に連結されたと記載された要素が、通常の機能を実行するように構成されている、要素の配置を指すために使用される。ある核酸が、別の核酸配列と機能的な関係に配置される場合、「作動可能に連結され」ている。例えば、プロモーターが1つ以上の導入遺伝子の転写に影響を及ぼす場合、プロモーターは1つ以上の導入遺伝子に作動可能に連結されている。さらに、コード配列に作動可能に連結された調節エレメントは、コード配列の発現に影響を与えることができる。調節エレメントは、それらがその発現を指示するように機能する限り、コード配列と連続している必要はない。したがって、例えば、プロモーター配列とコード配列との間に、翻訳されないが転写される介在配列が存在する可能性があり、そのようなプロモーター配列は依然としてコード配列に「作動可能に連結」されている」とみなすことができる。
【0056】
本発明の文脈で使用される、「医薬製剤」または「医薬組成物」という用語は、本発明によるワクチン組成物、すなわち、抗原または抗原の組み合わせ(タンパク質またはコードされたもの)、1つ以上のアジュバント(タンパク質またはコードされたもの)、任意で、免疫調節剤、および薬学的に許容される担体および/または賦形剤を包含するものを意図している。
【0057】
本発明の文脈で使用される「薬学的に許容される」とは、連邦政府または州政府の規制当局によって承認されているか、または米国薬局方に収載されている、または動物、より具体的にはヒトでの使用が他の一般的に認められている薬局方によって承認されていることを意味する。
【0058】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」という用語は、治療活性成分と一緒に投与されるものであって、限定されるものではないが、希釈剤、賦形剤、界面活性剤、安定剤、生理学的バッファーまたはビヒクルなどの薬理学的に不活性な物質を指す。このような薬学的担体は、液体であっても固体であってもよい。液体担体には、水および油中の生理食塩水などの滅菌液体が含まれるが、これらに限定されず、油には、ピーナツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物または合成由来のものが含まれるが、これらに限定されない。生理食塩水、ブドウ糖およびグリセロール水溶液は、特に注射用溶液の液体担体としても使用することができる。生理食塩水は、医薬組成物を静脈内投与する場合に好ましい担体である。適切な医薬担体の例がE. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている
【0059】
適切な医薬用「賦形剤」には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。
【0060】
「界面活性剤」には、限定されないが、デオキシコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、トリトンX-100などのアニオン性、カチオン性、および非イオン性界面活性剤、ならびにポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65およびポリソルベート80などのポリソルベートが含まれる。
【0061】
「安定剤」には、マンニトール、スクロース、トレハロース、アルブミン、ならびにプロテアーゼおよび/またはヌクレアーゼアンタゴニストが含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
本発明の文脈において使用され得る「生理的バッファー」には、塩化ナトリウム溶液、脱塩水、ならびに、例えば、限定されなるものではないが、リン酸バッファー、クエン酸バッファー、トリスバッファー(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPESバッファー([4(2ヒドロキシエチル)ピペラジノ]エタンスルホン酸)、またはMOPSバッファー(3モルホリノ-1プロパンスルホン酸)のような適切な有機または無機バッファーが含まれるが、これらに限定されない。一般に、それぞれのバッファーの選択は、所望のバッファーのモル濃度によって異なる。リン酸バッファーは、注射液や輸液などに適している。
【0063】
「有効量」または「治療有効量」は、意図された目的を達成するのに十分な治療薬の量である。所与の治療薬剤の有効量は、薬剤の性質、投与経路、治療薬剤を受ける動物の大きさおよび種、および投与の目的などの要因によって変化する。個々の場合における有効量は、当技術分野で確立された方法に従って当業者によって経験的に決定され得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、疾患または障害の「処置する」、「治療する」、「治療」または「療法」は、以下の1つまたは複数を達成することを意味する:(a)障害の重症度を軽減する;(b)治療中の疾患に特徴的な症状の発症を制限または予防する;(c) 治療中の疾患に特徴的な症状の悪化を抑制する;(d)以前に障害を患っていた個人における障害の再発を制限または予防する;および(e)以前に障害の症状があった個人の症状の再発を制限または予防する。
【0065】
本発明の態様および好ましい実施形態
第1の態様において、本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセットであって、1つ以上のベクターの第1のセットはアデノウイルスベクターである、第1のセット、および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含む、ワクチン組成物に関する。
【0066】
ベクター
ベクターの第1のセットは、好ましくはヒトアデノウイルスベクターであり、より好ましくは複製不能ヒトアデノウイルスベクターである。ベクターの第1のセットはグループCヒトアデノウイルスベクターであることが好ましい。ヒトアデノウイルスのグループC(種Cとも呼ばれる)は、hAd1、hAd2、hAd5、hAd6およびhAd57を含む。好ましい実施形態において、ベクターの第1のセットは、hAd6、hAd57、およびhAd5からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、ベクターの第1のセットは、hAd6およびhAd5から選択される。好ましくは、ベクターの第1のセットは、hAd6およびhAd57から選択され、より好ましくはhAd6である。
【0067】
抗原または抗原の組み合わせがコードされる場合、抗原または抗原の組み合わせは、1つ以上のベクターの第1のセットに含まれない核酸によってコードされる。
【0068】
ワクチン組成物は、抗原または抗原の組み合わせをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットを含むことが好ましい。ベクターの第2のセットは、アデノウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであることが想定できる。
【0069】
1つ以上のアジュバントは、1つ以上のベクターの第1のセットに含まれる核酸によってコードされるものであって、(ベクターに含まれる核酸によってコードされる場合)抗原または抗原の組み合わせは、1つ以上のベクターの第2のセットに含まれる。換言すると、抗原は、1つ以上のベクターの第1のセットに含まれる核酸によってコードされない。
【0070】
好ましくは、ベクターの第2のセットは、複製能のあるアデノウイルスベクターまたは複製能を持たないアデノウイルスベクターであり、好ましくは複製能を持たないアデノウイルスベクターである。アデノウイルスベクターは大型類人猿、好ましくは非ヒト大型類人猿に由来することが好ましい。アデノウイルスが由来する好ましい非ヒト大型類人猿は、チンパンジー(Pan)、好ましくはボノボ(Pan paniscus)および一般的なチンパンジー(Pan troglodytes)、ゴリラ(Gorilla)およびオランウータン(Pongo)である。好ましい実施形態において、ベクターの第2のセットは、チンパンジー、ボノボ、またはゴリラ由来のアデノウイルスベクターであり、最も好ましくはゴリラ由来のアデノウイルスベクターである。典型的には、天然に存在する非ヒト大型類人猿アデノウイルスは、それぞれの大型類人猿の糞便サンプルから分離される。
【0071】
最も好ましいベクターは、ゴリラアデノウイルスベクターに基づく非複製アデノウイルスベクターである。
【0072】
他の適切なベクターは、hAd4、hAd5、hAd6、hAd7、hAd11、hAd26、hAd35、hAd49、hAd57、ChAd3、ChAd4、ChAd5、ChAd6、ChAd7、ChAd8、ChAd9、ChAd10、ChAd11、ChAd16、ChAd17、ChAd19、ChAd20、ChAd22、ChAd24、ChAd26、ChAd30、ChAd31、ChAd37、ChAd38、ChAd44、ChAd55、ChAd63、ChAd73、ChAd82、ChAd83、ChAd146、ChAd147、PanAd1、PanAd2、およびPanAd3ベクター、または複製能力のあるAd4およびAd7ベクターに基づく非複製アデノウイルスベクターである。ヒトアデノウイルスhAd4、hAd5、hAd6、hAd7、hAd11、hAd26、hAd35、hAd49およびhAd57は当技術分野でよく知られている。天然に存在するChAd3、ChAd4、ChAd5、ChAd6、ChAd7、ChAd8、ChAd9、ChAd10、ChAd11、ChAd16、ChAd17、ChAd19、ChAd20、ChAd22、ChAd24、ChAd26、ChAd30、ChAd31、ChAd37、ChAd38、ChAd44、ChAd63およびChAd82に基づくベクターは、WO 2005/071093に詳細に記載されている。天然に存在するPanAd1、PanAd2、PanAd3、ChAd55、ChAd73、ChAd83、ChAd146、およびChAd147に基づくベクターは、WO 2010/086189に詳細に記載されている。
【0073】
好ましいAAV ベクターは、AAV-1、AAV-2、AAV-2-AAV-3 ハイブリッド、AAV-3a、AAV-3b、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-6.2、AAV-7、AAV-8、AAV-9、AAV-10、AAVrh.10、AAV-11、AAV-12、AAV-13およびAAVrh32.33からなる群から選択される AAV 血清型に基づいている。
【0074】
抗原
抗原または抗原の組み合わせは、タンパク質の形態で送達されてもよく、または核酸によってコードされてもよい。核酸はベクターに含まれていても含まれていない場合もある。いくつかの実施形態において、抗原または抗原の組み合わせはRNAによってコードされ、脂質ナノ粒子または脂質ポリマーハイブリッドナノ粒子によって送達される。抗原または抗原の組み合わせは、ベクターの第2のセットに含まれる核酸によってコードされることが好ましい。
【0075】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、抗原または抗原の組み合わせは、がん抗原、ウイルス抗原、細菌抗原および真菌抗原から選択されるか、または、抗原の組み合わせは、がん抗原、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原からなる群から選択される1つ以上の抗原を含む。
【0076】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、抗原または抗原の組み合わせは、ベクターの第1のセットのヒトアデノウイルスベクターによってコードされる1つ以上のアジュバントの非存在下では、対象において免疫応答を全く誘発しないか、あるいは最適以下の免疫応答しか誘発しない。換言すると、好ましい態様において、抗原または抗原の組み合わせは弱い抗原、すなわち免疫原性が低い抗原である。抗原の免疫原性に影響を与える要因は、外来性(抗原は非自己であると認識できる必要がある)、分子サイズ、化学組成および不均一性、および細胞表面上のMHC分子と複合体を形成して提示される能力である。上述した通り、腫瘍関連抗原および腫瘍ネオ抗原は、多くの場合弱い抗原である。最適以下の免疫応答は、「弱い免疫応答」とも呼ばれる。当業者は、免疫応答を定量化し、免疫応答を「最適以下」または免疫応答「なし」として分類するかどうかを決定する方法をよく知っている。特に、免疫応答は、抗原または抗原の組み合わせに対するT細胞応答を分析することによって定量化される。抗原または抗原の組み合わせに応答した T細胞の活性化は、サイトカイン分泌、特にIFNγ、IL-2、TNF-α、IL-4、IL-5、および/またはIL-13の分泌を測定することによって分析できる。好ましい態様において、免疫応答は、抗原または抗原の組み合わせに応答して 106 脾細胞あたりのIFNγを産生するT細胞の数を測定することによって定量化される。免疫応答の決定に使用され得る例示的なアッセイは、実施例11に記載されるIFN-γELISpotアッセイである。体液性免疫応答は、抗原に対する血清抗体レベルを測定することによって分析できる。
【0077】
「最適以下の」免疫応答は、好ましくは、脾細胞106個当たり600未満、500未満、400未満、300未満、200未満、最も好ましくは150未満のIFNγ産生T細胞として定義される。
【0078】
免疫応答「なし」は、好ましくは、脾細胞106個当たりのIFNγ産生T細胞数が100未満、60未満、40未満、より好ましくは30未満として定義される。
【0079】
本発明者らは、抗原または抗原の組み合わせ(単独または全身投与された非コードアジュバント、すなわちタンパク質アジュバントとの併用)の投与が「最適以下の」免疫応答をもたらした場合、1つ以上のアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントを同じ抗原または抗原の同じ組み合わせで同時投与すると、免疫反応が有意に増加(特にもはや「最適以下の」とは分類されなくなった反応の増加において)することを発見した(
図3、
図8、
図9)。
【0080】
さらに、本発明者らは、抗原または抗原の組み合わせの投与(単独または全身投与された非コードアジュバントとの併用)が本質的に免疫応答を生じない(すなわち、免疫応答「なし」)場合には、1つ以上のアデノウイルスベクターによってコードされたアジュバントを同じ抗原または抗原の同じ組み合わせで同時投与すると、免疫応答が生じることを発見した(
図4、
図6、
図7)。
【0081】
本発明者らはさらに、抗原または抗原の組み合わせの投与(単独または全身投与された非コードアジュバントとの併用)が適切な免疫応答(すなわち、「最適以下の」と分類される免疫反応よりも強い免疫反応)を生じた場合、1つ以上のアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントを同じ抗原または抗原の同じ組み合わせで同時投与すると、さらに強力な免疫応答が生じることを発見した。
【0082】
驚くべきことに、本発明者らは、記載された効果がアジュバントをコードするために使用されたアデノウイルスの種類によって異なることを発見した。ヒトアデノウイルスベクター、特にヒトグループCアデノウイルスベクターは、より高いレベルのアジュバント(
図1A)および増大した免疫応答(
図1B)をもたらした。アデノウイルスベクター hAd5、hAd6、および hAd57(hAd6と非常に高い配列類似性を有する) が特に有利であることが判明した。
【0083】
本発明者らは、コードされたアジュバントを、好ましくはヒトアデノウイルスベクターに提供すると、タンパク質として投与される同じアジュバントと比較して、全身曝露の減少につながることも示した(
図5)。これは、コードされたアジュバント、特にアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントの安全性が向上していることを実証している。理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、アデノウイルスベクター、特にヒトアデノウイルスベクター、より具体的にはヒトグループCアデノウイルスベクター、より具体的には、hAd5、hAd6およびhAd57、さらに具体的には、hAd6およびhAd57、最も具体的には、hAd6が、高い全身レベルのアジュバントを付随することなく、免疫応答が増加するように十分に高い局所レベルのアジュバントを生成することを提案する。
【0084】
好ましい実施形態において、抗原または抗原の組み合わせは、腫瘍関連抗原(TAA)および/またはがんネオ抗原から選択される1つ以上のがん抗原を含むか、またはそれらからなる。
【0085】
好ましい実施形態において、TAAは、特定の腫瘍タイプ、特に膀胱がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、黒色腫、胸腺腫、結腸がん;乳がん、卵巣がん、肝臓がん;または腎臓がんに特異的である。いくつかの実施形態において、TAAは、健康な組織ではまったく発現されないか、低レベルでのみ発現され、腫瘍組織では発現レベルが増加するタンパク質によって特徴付けられる。TAAの一般的なクラスは、たとえばがん精巣 (CT) 抗原である。一般的に、これらのタンパク質の発現は、成体動物では雄の生殖細胞に限定される。しかしながら、がんでは、これらの発生抗原がしばしば再発現される。
【0086】
好ましい実施形態において、癌ネオ抗原は、単一アミノ酸変異ペプチド、フレームシフトペプチド、イントロンリードスルー変異ペプチド、およびスプライス部位変異ペプチドからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、がんネオ抗原は、がん組織で発現した変異タンパク質の断片であり、その断片は、両側にそれぞれの野生型アミノ酸配列が隣接する(好ましくは両側に12アミノ酸)、変異(1つ以上の非同義単一ヌクレオチド変異)によって引き起こされる中央の非野生型アミノ酸を含む。いくつかの実施形態において、がんネオ抗原には複数の非野生型アミノ酸が含まれる場合がある。
【0087】
同様に、抗原の組み合わせをコードする核酸は、単一のベクター内に存在することも、ベクターの第2のセットの複数のベクター間に分散することもできる。単一の抗原は、リンカーの有無にかかわらず頭と尾で結合できる。存在する場合、抗原間または抗原グループ間のリンカーは、天然に存在するマルチドメインタンパク質に由来することも、設計によって生成することもできる。リンカーには、細胞プロテアーゼによって処理され得る柔軟なリンカーおよび/または生体内で切断可能なリンカーが含まれる。適切なリンカー配列は当技術分野で周知であり、好ましくは1~10個のアミノ酸を含むか、またはそれらからなる。リンカーは、好ましくは、SerおよびGlyのような小さなアミノ酸からなる、またはそれらを含む。
【0088】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、ベクターの第2のセットは、少なくとも1、少なくとも3、少なくとも5、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50のTAAをコードする核酸を含む。
【0089】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、ベクターの第2のセットは、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも100のがんネオ抗原をコードする核酸を含む。
【0090】
一般的に、ウイルス、細菌、または真菌感染に対する予防的または治療的ワクチン接種は、増殖性疾患の治療におけるワクチン接種ほど効果を発揮するために多くの異なる抗原を必要としない。それにもかかわらず、たとえば HIVなど、特にコートタンパク質に大きなエピトープ多様性を持つウイルスがいくつかある。幅広い免疫応答を誘発するために、複数の抗原を含めることができる。本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、ベクターの第2のセットは、少なくとも1、少なくとも3、少なくとも5、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも100のウイルス、細菌または真菌の抗原をコードする核酸を含む。
【0091】
通常、より多くの抗原を含むワクチン組成物は、少数の抗原のみを含むワクチン組成物よりも強力な免疫応答を誘発するものであり、ここで、「少数の抗原」とは、10個以下の抗原、特に5個以下の抗原を指す。
【0092】
アジュバント
本発明の第1の態様によるワクチン組成物は、1つのコードされたアジュバントまたはいくつかのコードされたアジュバントを含み得る。1つ以上のアジュバントをコードする核酸は、単一のベクター中に存在してもよく、またはベクターの第1のセットの複数のベクター間に分散してもよい。例えば、アジュバントが抗体である場合、重鎖は1つのベクターにコードされ、軽鎖は別のベクターにコードされ得るか、または重鎖と軽鎖が同じベクターにコードされ得る。複数のコードされたアジュバントが存在する場合、それらは単一のベクターまたは一連のベクターに含まれ得る。
【0093】
本発明のあらゆる態様において、1つ以上のコードされたアジュバントは、膜結合性または可溶性であり得る。当業者は、膜結合アジュバントが膜貫通ドメインおよびER選別シグナルを含む核酸によってコードされることを知っている。本発明のすべての態様の好ましい実施形態では、1つ以上のアジュバントは、チェックポイント分子の調節剤、サイトカイン、好ましくはIL-2、IL-1β、IL-7、IL-15、IL-18、GM-CFS、およびINF-γ、またはサイトカイン類似体、サイトカイン受容体、好ましくは、CD25(IL-2α受容体)、合成ポリヌクレオチドアジュバント、ポリアミノ酸アジュバント、好ましくは、ポリアルギニンまたはポリリシン、インターフェロン遺伝子の活性化因子、好ましくは、STING (インターフェロン遺伝子の刺激因子、MITA および MPYS としても知られる)、アデノシンデアミナーゼ (ADA)、または増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター 1-α (PGC-1α)から選択される。好ましい実施形態において、チェックポイント分子の調節剤は、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーメンバーのアゴニストまたはB7-CD28スーパーファミリーメンバーのアゴニストからなる群から選択され、ここで好ましくは該アゴニストは、(可溶性) リガンドまたはアゴニスト抗体または抗体様タンパク質 (例えば、CD40に対するCP-870,893);およびPD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3(例えばMGA271)、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、TIGITまたはVISTAのアンタゴニストであり、ここで好ましくは該アンタゴニストはアンタゴニスト抗体または抗体様タンパク質である。好ましい実施形態において、TNF受容体スーパーファミリーメンバーのアゴニストは、CD27、CD40(例えばCP-870,893)、OX40、GITRまたはCD137である。好ましい実施形態において、B7-CD28 スーパーファミリーメンバーのアゴニストはCD28またはICOSである。
【0094】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態において、1つ以上のアジュバントは、OX40、好ましくはOX40Lのアゴニスト、ICOS、好ましくはICOSLのアゴニスト、CD40、好ましくはCD40Lのアゴニスト、およびアンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質からなる群から選択され、ここでアンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質は可溶性である場合もあれば、膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナル、すなわち膜結合抗体を含む場合もある。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインは配列番号4に示されるマウス膜貫通ドメインである。好ましい実施形態において、膜貫通ドメインは配列番号5に示されるヒト膜貫通ドメインである。
【0095】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態において、1つ以上のアジュバントは、以下である:
(1) アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質;
(2) OX40のアゴニスト、好ましくはOX40L;
(3) ICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL;
(4) CD40のアゴニスト、好ましくはCD40L;
(5) アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質およびOX40のアゴニスト、好ましくはOX40L;
(6) アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質およびICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL;
(7) アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質およびCD40のアゴニスト、好ましくはCD40L;
(8) OX40のアゴニスト、好ましくはOX40LおよびICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL;
(9) OX40のアゴニスト、好ましくはOX40LおよびCD40のアゴニスト、好ましくはCD40L;または
(10) ICOSのアゴニスト、好ましくはICOSLおよびCD40のアゴニスト、好ましくはCD40L。
【0096】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態において、アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質は、イピリムマブである。
【0097】
本発明のすべての態様の好ましい実施形態において、1つ以上のアジュバントは、膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含む。換言すると、コードされたアジュバントが発現されると、それは膜結合タンパク質になる。
【0098】
CTLA-4受容体分子の発現と機能は、本質的にT細胞の活性化と関連する。CTLA4は、T細胞受容体(TCR)の結合後すぐに上方制御され(シグナル1)、その発現は活性化後2~3日でピークに達する。CTLA4は、B7リガンドB7-1(CD80)およびB7-2(CD86)への結合に関して共刺激分子CD28と競合するTCRシグナル伝達を弱め、これらに対してCTLA4はより高い結合力および親和性を有する。B7-1とB7-2はどちらもCD28を介して(シグナル2)、TCRに関与するT細胞(シグナル1)に正の共刺激シグナルを提供するため、両方の分子とCTLA4の相互作用を阻害する必要がある。したがって、CTLA-4の阻害活性をブロックする抗CTLA-4抗体は、T細胞の活性化を強化する。抗CTLA4抗体 (イピリムマブ; BMS) は、一部の黒色腫患者に対する長期持続的な防御の誘導に基づくがん免疫療法の開発に成功した。しかしながら、抗CTLA-4抗体の全身送達の治療可能性は、免疫療法に関連する重大な副作用によって制限される。
【0099】
本発明の文脈におけるOX40Lは、OX40リガンド(ヒトOX40:NP_003317、マウスOX40L:NP_033478)を指す。OX40LはOX40(CD134またはTNFRSF4としても知られる) のリガンドであり、DC2(樹状細胞のサブタイプ)、マクロファージ、活性化Bリンパ球などの多くの抗原提示細胞で安定して発現される。OX40LのOX40への結合はT細胞の生存シグナル源となり、メモリーT細胞の発生を可能にする。
【0100】
本発明の文脈におけるICOSLは、ICOSリガンド(ヒトICOSL:NP_056074、マウスICOSL:NP_056605)を指す。
【0101】
本発明の文脈におけるCD40Lは、CD40リガンド(ヒトCD40L:NP_000065、マウスCD40L:NP_035746)を指す。
【0102】
実施例では、ICOSL、CD40L、OX40Lのマウスバージョンを使用した。
【0103】
いくつかの実施形態において、アジュバントは、2A配列を含む1つの連続したアミノ酸配列としてコードされる抗体であり、これにより、別々の重鎖と軽鎖の生成が可能になる。いくつかの実施形態において、アジュバントは、第1のシグナルペプチド、重鎖、フューリン部位、2A配列、第2のシグナルペプチドおよび軽鎖を含む1つの連続したアミノ酸配列としてコードされる抗体である。このようなコンストラクトは、実施例セクションのイピリムマブおよび9D9に使用された。
【0104】
本発明者らは、コードされたアジュバントのアジュバント活性が、腹腔内注射によって全身に送達されるタンパク質アジュバントのアジュバント活性よりも著しく優れていることを実証した(
図3)。いかなる理論にも束縛されるものではないが、これらの結果は、アデノウイルスベクターにコードされたアジュバントの同時投与により、効果的な免疫賦活作用のために抗原とアジュバントが適時に共局在化することが保証されることを示す。さらに、本発明者らは、コードされたアジュバントでは、皮下または腹腔内に注射されたタンパク質アジュバントと比較して、血清中のアジュバントの濃度が著しく低下することを実証した(
図5)。したがって、コードされたアジュバントのアジュバント効果は、非常に限定的な全身曝露で達成される。
【0105】
本発明の以下の態様に関して使用されるすべての用語は、特に別段の定義がない限り、本発明の第1の態様に関して定義された意味を有する。さらに、他の態様に適用可能な第1の態様について特定されたすべての実施形態は、特に別段の定義がない限り、それらの態様についても想定される。
【0106】
第2の態様において、本発明は疾患の治療または予防に使用するための本発明の第1の態様によるワクチン組成物に関する。
【0107】
好ましい態様において、ワクチン組成物は、対象における増殖性疾患の治療に使用するためのものである。好ましくは、増殖性疾患はがんおよび/または腫瘍である。
【0108】
一般に、腫瘍は少なくともステージTisまたはT1(TxおよびT0を除く)であることが好ましく、少なくともステージT2、T3またはT4であることが好ましい。それは同時に、すべてのステージN(例えば、NxまたはN0)およびM(例えば、M0)のものであってもよく、好ましい実施形態では、少なくともステージN1、N2またはN3および/またはM1)であってもよい。これはTNM分類を指し、腫瘍の病期を次のように定義する:
T: 原発腫瘍の大きさまたは直接的な広がり
Tx: 腫瘍の評価不可
Tis: 上皮内癌
T0: 腫瘍の証拠なし
T1, T2, T3, T4: 原発腫瘍の証拠、病期が進むにつれてサイズおよび/または伸展が増大
N: 所属リンパ節への転移の程度
Nx: リンパ節は評価不可
N0: 所属リンパ節転移なし
N1: 所属リンパ節転移が存在; 一部の部位では、腫瘍が最も近いリンパ節または少数の所属リンパ節に転移
N2: 腫瘍はN1とN3の間の範囲に広がっている (N2はすべての部位で使用されるわけではない)
N3: 腫瘍がより遠くのリンパ節または多数の所属リンパ節に転移(N3 はすべての部位で使用されるわけではない)
M: 遠隔転移の存在
M0: 遠隔転移なし
M1: 遠隔臓器(所属リンパ節を超えた)への転移
【0109】
特に本発明から利益を得ることが想定される例示的な段階は、TiおよびNのいずれか(好ましくはN1、N2、またはN3)、およびMのいずれか(好ましくはM1)、T1およびNのいずれか (好ましくはN1、N2、またはN3)、およびMのいずれか(好ましくはM1) 、T2およびNのいずれか(好ましくはN1、N2、またはN3)、およびMのいずれか (好ましくはM1) 、T3およびNのいずれか (好ましくはN1、N2、またはN3)、およびMのいずれか(好ましくはM1)、ならびにT4およびNのいずれか(好ましくはN1、N2、またはN3)、およびMのいずれか(好ましくはM1)である。患者における腫瘍の存在とその広がりは、画像化方法、例えば、コンピューター断層撮影 (CT) スキャン、磁気共鳴画像法 (MRI)、陽電子放射断層撮影 (PET) のシンチグラフィーによって検出される放射性トレーサーを使用した同位体診断またはこれらの組み合わせを使用して検出できる。画像化方法は、例えば、超音波検査、内視鏡検査、マンモグラフィー、血液中のバイオマーカー検出、細針生検、またはそれらの組み合わせなどの他の方法と組み合わせることもできる。画像化方法で検出できる腫瘍のサイズは使用する方法によって異なり、同位体画像法では直径約1.5cm、CTおよびMRIでは直径約3mm、PETベースの方法では直径約7mmである (Erdi. (2012) Molecular Imaging and Radionuclide Therapy 21(1): 23)。
【0110】
好ましくは、腫瘍の存在(「証拠」)は、循環腫瘍細胞遊離 DNA の検出、コンピューター断層撮影 (CT) スキャン、磁気共鳴画像法 (MRI)、陽電子放射断層撮影法 (PET) のシンチグラフィーによって検出される放射性トレーサーを使用した同位体診断、および上記の組み合わせからなる群から選択された方法で判定された。1つの実施形態では、前述の方法のうちの1つ以上、またはそれらの組み合わせが、超音波検査、内視鏡検査、マンモグラフィー、血液中のバイオマーカー検出、細針生検、およびこれらの任意の組み合わせからなる群の方法と組み合わせたものである。
【0111】
第2の態様の好ましい実施形態において、がんは、唇、口腔、咽頭、消化器官、呼吸器、胸腔内器官、骨、関節軟骨、皮膚、中皮組織、軟部組織、乳房、女性生殖器、男性生殖器、尿路、脳および中枢神経系の他の部分、甲状腺、内分泌腺、リンパ組織、および造血組織の悪性新生物からなる群から選択される。
一般に、対象は上述のようにTNMステージで腫瘍を有することが好ましい。
【0112】
1つの実施形態において、腫瘍は、直径少なくとも約3mm、好ましくは直径少なくとも7mm、より好ましくは直径少なくとも1.5cmの病変を特徴とする。
【0113】
好ましい実施形態において、ワクチン組成物は、1つ以上の免疫調節剤、より具体的には抗PD1と組み合わせて投与される。1つ以上の免疫調節剤、特に抗PD1は、好ましくはタンパク質として投与される。
【0114】
1つ以上の免疫調節剤の投与は、ワクチン組成物の投与の開始前に開始される、またはワクチン組成物の投与の開始後に開始される、またはワクチン組成物の投与の開始と同時に開始されることが想定できる。
【0115】
本発明の第2の態様の別の実施形態において、ワクチン組成物は、ウイルス、細菌または真菌の感染などの感染症の治療のために提供される。
【0116】
第3の態様において、本発明は、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、を含む第1の組成物および(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物;を含む、抗原または抗原の組み合わせに対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物またはワクチンキットに関し、ここで、(1)は第1の部位で患者に投与され、および(2)は第2の部位で患者に投与され、第1の部位は第2の部位の20cm以内であり、および第1の部位のリンパ系は、第2の部位のリンパ系と同じリンパ節に流れ込むものであるか、または、第1の部位および第2の部位は同じである。
【0117】
本発明の文脈において、「免疫応答を誘導する」という表現は、本明細書に記載の細胞性免疫応答および/または体液性免疫応答を指す。いくつかの実施形態において、ワクチン組成物またはワクチンキットは、疾患の治療または予防に使用するために提供され、好ましくは増殖性疾患または感染症、より好ましくはがんの治療または予防に使用するために提供される。
【0118】
抗原または抗原の組み合わせは、タンパク質の形で送達されてよく、またはコードされて送達されてよいものであって、抗原または抗原の組み合わせをコードする核酸は、ベクターに含まれていても含まれてなくてもよい。1つ以上のアジュバントはコードされているものであって、1つ以上のアジュバントをコードする核酸(すなわち、第1の核酸)は、ベクターに含まれていても含まれていなくてもよい。1つ以上のアジュバントをコードする核酸(すなわち、第1の核酸)は、1つの分子であってもよく、または2つ以上の核酸分子などの1つ以上の分子であってもよい。「1つの核酸分子」、「2つの核酸分子」などの用語は、核酸分子の絶対数を示すものではなく、異なる核酸分子(すなわち、異なる配列を有する核酸分子)の量を示すものであることは当業者に知られている。アジュバントが抗体である場合、重鎖は1つの核酸分子によってコードされ、および軽鎖は別の核酸分子によってコードされてよく、または重鎖および軽鎖が1つの核酸分子によってコードされてよい。複数のコードされたアジュバントが存在する場合、それらは1つの核酸分子またはいくつかの核酸分子によってコードされてよい。同様に、1つ以上のアジュバントをコードする核酸(すなわち、第1の核酸)は、単一のベクター中に存在してもよく、またはベクターの第1のセットの2つ以上のベクター間に分布してもよい。例えば、アジュバントが抗体である場合、重鎖は1つのベクターにコードされ、および軽鎖は別のベクターにコードされてよく、または重鎖と軽鎖が同じベクターにコードされてよい。複数のコードされたアジュバントが存在する場合、それらは単一のベクターまたは一連のベクターに含まれてよい。本発明の第3の態様のいくつかの実施形態において、1つ以上のアジュバントおよび/または抗原もしくは抗原の組み合わせは、RNAによってコードされ、脂質ナノ粒子または脂質ポリマーハイブリッドナノ粒子によって送達される。本発明の第3の態様の好ましい実施形態において、1つ以上のアジュバントおよび/または抗原もしくは抗原の組み合わせは、それぞれベクターの第1のセットおよびベクターの第2のセットに含まれる核酸によってコードされる。最も好ましくは、ベクターは、本発明の第1の態様について記載されたものである。
【0119】
驚くべきことに、本発明者らは、抗原とアジュバントが、両方の場所のリンパ系は、対側の四肢などの同じリンパ節に流れ込まない、離れた場所に投与されると、コードされたアジュバントの効果が失われることを発見した(
図2)。理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、効果的な免疫賦活作用のためには、抗原とアジュバントが同時にかつ近接して、特に1つのリンパ節内で作用することが重要であると仮定している。これは、コードされたアジュバント、好ましくはアデノウイルスベクターにコードされたアジュバント、より好ましくはヒトアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントを使用することによって達成され得る。さらに、抗原、好ましくはコードされた抗原およびコードされたアジュバントが、混合物として、または(同じリンパ節に排出される)近い場所で短期間に投与される場合、近接した状態での同時作用は強化される。抗原とアジュバントの両方がコードされる場合、抗原とアジュバントをコードする核酸配列は同じ分子内に含まれず、例えば、同じベクター内または同じRNA分子上に含まれない。本発明の第3の態様のワクチン組成物またはワクチンキットは、第1および第2の組成物を混合物として、または2つの別個の成分として含み得る。換言すると、ワクチン組成物またはワクチンキットは、第1および第2の組成物の同時または別々の投与のために製剤化され得る。第1の組成物および第2の組成物の成分は、1つの組成物内に含まれていてもよいが、別個の分子である。第1の核酸と第2の核酸は、同じ核酸分子に含まれない。1つ以上のベクターの第1のセットと1つ以上のベクターの第2のセットは、異なるベクターのセットである。したがって、抗原とアジュバントは別個の分子として送達されるが、これらの別個の分子は時間的および空間的に近接して送達される。
【0120】
好ましい実施形態において、第1の部位は、第2の部位から17.5cm、15cm、12.5cm、10cm、7.5cm、5cm、2.5cm、1cm、0.5cm、0.25cm、または0.1cm以内にある。最も好ましい実施形態において、第1の部位および第2の部位は同じである。当業者は、(1)と(2)が混合物として投与される場合を認識しており、最第1の部位とおよび第2の部位は同じであり、(1)と(2)の投与の間に時間間隔はない。
(1)および(2)は、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内または胸腔内の注射によって投与されることが想定できる。好ましい実施形態において、(1)と(2)は同じ経路で投与され、例えば、両方とも筋肉注射により投与される。しかしながら、(1)が第1および第2の組織に投与され、第1および第2の組織のリンパ系が同じリンパ節に流入する限り、投与は必ずしも同じ経路である必要はない。
【0121】
本発明の第3の態様の好ましい実施形態において、(1)および(2)、すなわち、コードされたアジュバントおよび(タンパク質またはコードされた)抗原は、30分以下、20分以下、15分以下、10分以下、5分以下、3分以下、または1分以下の時間間隔内に投与される。本発明の第3の態様の最も好ましい実施形態において、(1)および(2)は混合物として患者に投与され、すなわち、(1)および(2)は同じ場所に同時に投与される。
【0122】
さらに、近接した状態での同時作用は、膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含むコードされたアジュバントを使用することによって増強することができる。このようなアジュバントは発現すると膜に結合する。可溶性アジュバントとは異なり、それらは拡散できないが、それらが発現される細胞に結合しているため、近接した作用が促進される。さらに、膜結合アジュバントは局所的な効果のみを発揮するため、可溶性アジュバントの全身曝露による望ましくない効果を制限する。このように、好ましい実施形態において、アジュバントは膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナルを含む。膜結合アジュバントの例としては、OX40L、CD40L、ICOSL、または抗CTLA4の膜結合型が挙げられる。
【0123】
抗原または抗原の組み合わせに対する免疫応答を誘導するためのワクチン組成物またはワクチンキットは、好ましくは、対象における疾患の治療に使用するためのものである。疾患は、感染症または増殖性疾患であってもよく、好ましくは増殖性疾患である。好ましくは、増殖性疾患は癌および/または腫瘍である。
【0124】
第2および第3の態様の好ましい実施形態において、ウイルスベクター、特に1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターは、好ましくは筋肉内投与により、10^10vp以上の、2x10^10vp以上の、4x10^10vp以上の、および10^11vp以下の、8x10^10vp以下の、6x10^10vp以下の、ウイルス粒子負荷(vp)で対象、特にヒト対象に投与され、そして、抗原または抗原の組み合わせをコードするアデノウイルスベクターは、好ましくは筋肉内投与により、5x10^10vp以上の、6x10^10vp以上の、7x10^10vp以上の、8x10^10vp以上の、および2x10^11vp以下の、10^11vp以下の、9x10^10vp以下の、ウイルス粒子負荷(vp)で、対象、特にヒト対象に投与される。
【0125】
第4の態様において、本発明は、第1および第2の投与ステップを含むワクチン接種レジメンに関するものであって、(a)第1の投与ステップは、本発明の第1、第2または第3の態様によるワクチン組成物の投与を含み、および(b)第2の投与ステップは、(1)1つ以上のアジュバントをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセット、を含む第1の組成物および/または、(2)抗原もしくは抗原の組み合わせ、または前記抗原もしくは抗原の組み合わせをコードする核酸、または前記核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセット、を含む第2の組成物の投与を含む。
【0126】
第1の投与ステップで投与されるワクチン組成物は、本発明の第1の態様によって提供されるワクチン組成物であってもよい。第1の投与ステップで投与されるワクチン組成物は、本発明の第2または第3の態様によって使用するために提供されるワクチン組成物であってもよい。
【0127】
第1および第2の投与ステップで投与される1つ以上のコードされたアジュバントは、同じであっても異なっていてもよく、好ましくは同じである。それらは、本発明の第1の態様に関して記載されたアジュバントから選択されてよい。好ましい実施形態において、第1および第2のワクチン組成物に含まれる1つ以上のアジュバントは、OX40のアゴニスト、好ましくはOX40L、ICOSのアゴニスト、好ましくはICOSL、CD40のアゴニスト、好ましくはCD40L、およびアンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質からなる群から選択され、ここで、アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質は可溶性であってもよく、または膜貫通ドメインおよびERソーティングシグナル、すなわち膜結合抗体を含んでもよい。
【0128】
抗原または抗原の組み合わせが第2の投与ステップ(タンパク質またはコードされた)で投与される場合、抗原または抗原の組み合わせは第1の投与ステップにおけるものと同じである。
【0129】
第2の投与ステップが(タンパク質またはコードされた)抗原の投与を含む場合、その投与はプライムブーストレジメン(prime boost regimen)と表現することができる。
【0130】
いくつかの実施形態において、ワクチン接種レジメンは、2つの異なるウイルスベクターを使用した異種プライムブーストレジメン(heterologous prime boost regimen)である。このような実施形態では、第1および第2の投与は、好ましくは少なくとも1週間、好ましくは6週間の間隔をあけて行われる。
【0131】
第1および第2の投与ステップの両方が、1つ以上のアジュバントをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第1のセットの投与を含むことが好ましい。換言すると、第1および第2の投与ステップは両方とも、1つ以上のコードされたアジュバントの投与を含み、コードされたアジュバントはベクターに含まれる。さらに、第1および第2の投与ステップの両方が、抗原または抗原の組み合わせをコードする核酸を含む1つ以上のベクターの第2のセットの投与を含むことが好ましい。換言すると、第1および第2の投与ステップは両方とも、コードされた抗原または抗原の組み合わせの投与を含み、コードされた抗原または抗原の組み合わせはベクターに含まれる。
【0132】
第2の投与ステップのベクターの第1および第2のセットは、アルファウイルスベクター、ベネズエラ馬脳炎(VEE)ウイルスベクター、シンドビス(SIN)ウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(SFV)ウイルスベクター、サルまたはヒトサイトメガロウイルス(CMV)ベクター、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)ベクター、レトロウイルスまたはレンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、AAVベクター、ポックスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、または改変ワクシニアアンカラ(MVA)ベクター からなる群から選択されるウイルスベクターであってよい。
【0133】
第1および第2の投与ステップのベクターの第1のセット(「アジュバントベクター」)がアデノウイルスベクターであることが好ましい。より好ましくは、それらはヒトアデノウイルスベクターであり、好ましくは本発明の第1の態様のベクターの第1のセットについて記載したものから選択される。好ましい実施形態において、第1の投与ステップのベクターの第1のセットは、第2の投与ステップのベクターの第1のセットとは異なるアデノウイルスベクター、好ましくは異なるヒトアデノウイルスベクターである。
【0134】
第1および第2の投与ステップのベクターの第2のセット(「抗原ベクター」)が、本発明の第1の態様のベクターの第2のセットについて記載したものから選択されることがさらに好ましい。しかしながら、第1の投与ステップのベクターの第2のセットは、第1の投与ステップのベクターの第2のセットとは異なる。換言すると、第1および第2の投与ステップのベクターの第2のセット(「抗原ベクター」)は、異なるベクターであるが、同じ抗原または抗原の組み合わせを含む。
【0135】
第1の投与ステップの好ましい実施形態では、ベクターの第1のセット(「アジュバントベクター」)はヒトアデノウイルスベクターであり、ベクターの第2のセット(「抗原ベクター」)はアデノウイルスベクターである。
【0136】
第2の投与ステップの好ましい実施形態では、ベクターの第1のセット(「アジュバントベクター」)はアデノウイルスベクター、AAVベクターまたはMVAベクター、好ましくはアデノウイルスベクターであり、ベクターの第2のセット(「抗原ベクター」)はMVAベクターである。
【0137】
驚くべきことに、本発明者らは、アジュバント単独の再投与、好ましくはアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントの再投与が、ネオ抗原ワクチンの抗腫瘍効果を高めることを発見した(
図10)。したがって、いくつかの実施形態では、第2の投与ステップは、抗原ではなく、アジュバント、好ましくはアデノウイルスベクターにコードされたアジュバント、より好ましくはヒトアデノウイルスベクターにコードされたアジュバントの投与を含む。そのような実施形態において、ベクターの第1のセットは、第1および第2の投与ステップにおいて同じであることが好ましい(すなわち、同じベクター内の同じアジュバント)。さらに、そのような実施形態において、第1および第2の投与ステップは、好ましくは約1日の間隔をあけて行われる。好ましくは、第1および第2の投与は同じ経路を介して行われる。
【0138】
ワクチン接種レジメンの好ましい実施形態では、第1および/または第2の投与ステップは、少なくとも1つの免疫調節剤の投与をさらに含む。
【0139】
別の態様において、本発明は、第1の態様によるワクチン組成物と、薬学的に許容される担体および/または賦形剤とを含む医薬調製物または医薬組成物に関する。医薬調製物または医薬組成物は、少なくとも1つの免疫調節剤をさらに含んでもよい。本発明はまた、対象における増殖性疾患の予防または治療、特に治療に使用するための前記医薬調製物または医薬組成物にも関する。
【0140】
本発明の医薬組成物を調製するために、薬学的に許容される担体は固体または液体のいずれかであり得る。固体形態の組成物には、粉末、錠剤、丸剤、カプセル、トローチ剤、カシェ剤、坐剤、および分散性顆粒が含まれる。固体賦形剤は、希釈剤、着香剤、結合剤、保存剤、錠剤崩壊剤、またはカプセル化材料としても機能し得る、1つ以上の物質であり得る。粉末の場合、賦形剤は好ましくは、本発明の微粉化阻害剤(finely divided inhibitor)との混合物である微粉化固体(finelydivided solid)である。錠剤では、有効成分は、必要な結合特性を有する担体と適切な割合で混合され、所望の形状およびサイズに圧縮される。適切な賦形剤は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、乳糖、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバターなどである。坐剤を調製するには、脂肪酸グリセリドまたはカカオバターの混合物などの低融点ワックスを最初に溶かし、撹拌などによって活性成分をその中に均一に分散させる。次いで、溶融した均質な混合物を適当な大きさの型に注ぎ、放冷し、それによって固化させる。錠剤、散剤、カプセル、丸剤、カシェ剤、およびトローチ剤は、経口投与に適した固体剤形として使用することができる。
【0141】
液体形態の組成物には、溶液、懸濁液、および乳濁液、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、グリセロール溶液または水/プロピレングリコール溶液が含まれる。非経口注射(例えば、静脈内、動脈内、骨内注入、筋肉内、皮下、腹腔内、皮内、およびくも膜下腔内の注射)の場合、液体製剤は、例えばポリエチレングリコール水溶液中の溶液として製剤化することができる。生理食塩水は、医薬組成物を静脈内投与する場合に好ましい担体である。
【0142】
好ましくは、医薬組成物は単位剤形である。 このような形態では、組成物は、適切な量の活性成分を含む単位用量に細分され得る。単位剤形は、包装された組成物であってもよく、このパッケージは、バイアルまたはアンプルに入った包装された錠剤、カプセル、および粉末などの個別量の組成物を含む。また、単位剤形は、カプセル、注射バイアル、錠剤、カシェ剤、またはトローチ自体であってもよく、またはこれらのいずれかの適切な数を包装された形態であってもよい。
組成物は、必要に応じて、少量の湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤を含有することもできる。
【0143】
さらに、このような医薬組成物は、他の薬理学的に活性な物質も含み得る。
【0144】
別の態様において、本発明は、(i)第1の態様によるワクチン組成物;および(ii)少なくとも1つの免疫調節剤、を別個のパッケージ内に含むワクチンキットに関する。
【0145】
本明細書の文脈において、アジュバントはコードされたアジュバントであり、免疫調節剤は好ましくはタンパク質である。
【0146】
さらに別の態様において、本発明は、増殖性疾患または感染症、好ましくは増殖性疾患を治療または予防する方法に関し、該方法は、本発明の第1の態様のワクチン組成物または本発明の第3の態様に関して記載したワクチン組成物の有効量を、それを必要とする患者に投与することを含む。
【0147】
上記の態様のいずれかの好ましい実施形態において、1つ以上の免疫調節剤は、IL-2、IL-1β、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、GM-CFS、およびINF-γから選択されるサイトカイン;またはIL-2、IL-1β、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、GM-CFS、およびINF-γの類似体から選択されるサイトカイン類似体;腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリーメンバーのアゴニスト、B7-CD28スーパーファミリーメンバーのアゴニストからなる群から選択される、チェックポイント分子の調節剤;PD-1、PD-L1、A2AR、B7-H3(例えばMGA271)、B7-H4、BTLA、CTLA-4、IDO、KIR、LAG3、TIM-3、またはVISTAのアンタゴニストである。
【0148】
上記の態様のいずれかの好ましい実施形態において、少なくとも1つの免疫調節剤は、アンタゴニスト性CTLA-4特異的抗体または抗体様タンパク質、アンタゴニスト性PD-1特異的抗体または抗体様タンパク質、および/またはIL-2またはその類似体から選択される。1つ以上の免疫調節剤は、好ましくはタンパク質として投与される。
【実施例】
【0149】
実施例1:Ad コードされたα-mCTLA4 を腫瘍ネオ抗原をコードするアデノウイルスワクチンと筋肉内投与すると、ワクチン誘発性T細胞応答が増強されるが、効率は大きく異なる (Ad6、Ad5 >> GAd20 および ChAd68)(
図1)。
【0150】
例えば、MC38腫瘍モデル(Yadav et al.,Nature. 2014 Nov 27;515(7528):572-6; D'Alise et al, Nat. Commun. 2019 Jun19;10(1):2688)から選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチンをマウスに単独で注射するか、抗mCTLA4をコードする異なるアデノウイルスベクター(クローン9d9、配列番号1)(Ad6-9d9; Ad5-9d9; GAd20-9d9;ChAd68-9d9)と混合してワクチン接種した。抗mCTLA4をコードするアデノウイルスベクターを10^8vp(10
8ウイルス粒子)の用量で投与したが、これは臨床現場で人間の患者に投与される用量に相当する。異なる群においてAd注射後(7日目)に循環するコードされた抗mCTLA4のレベルを測定したところ、GAd20 および ChAd68 と比較して、Ad6およびAd5でコードされる場合に、より高いレベルの抗 mCTLA4 が示された(
図1A)。ワクチンベクターに存在する各ネオ抗原の配列に対応するペプチドのプールを抗原として使用し、ワクチン接種後2週間で免疫応答を ex vivo IFN-γ ELISpotアッセイによって測定した。ワクチンの免疫原性は、Ad6および Ad5で発現されるコードされた抗mCTL4の存在下で増強されたが、GAd20 および ChAd68では増強されなかった(
図1B)。
【0151】
実施例2:ワクチン誘導性のT細胞応答を増強するAdコードα-mCTLA4の効果には、ワクチンとの同時投与が必要である(
図2)。
Ad でコードされたα-mCTLA4 の効果がワクチンと混合して同時投与する必要があるかどうかを理解するため、C57Bl6マウスに、Ad6-α-mCTLA4 を投与したMC38腫瘍モデルから選択した7つのCD8ネオ抗原をコードするGAdワクチンを3つの異なるレジメンモダリティ(modalities)でワクチン接種した:i)1つの解剖学的部位(大腿四頭筋)に混合物として同時投与、ii)i)と同じ解剖学的部位に5分以内に隣接する2回の別々の投与として投与およびiii)2つの対側の離れた部位での別々の投与として投与。ワクチン接種後2週間で免疫応答をex vivo IFN-γ ELISpotアッセイによって測定し、ワクチンとAd6-α-mCTLA4を別個の成分として投与した場合にはアジュバント効果が失われることが示された(
図2)。アジュバントα-mCTLA4をコードするアデノウイルスベクターを10^8vpの用量で投与した。免疫応答の増強に対する最良の効果は、ワクチンとアジュバント Ad6-9d9 を混合物として同時投与した場合に達成された。
【0152】
実施例3:抗mCTLA4をコードしたアデノウイルスベクターとマウス腫瘍ネオ抗原をコードするアデノウイルスベクターを筋肉内に同時投与すると、ワクチン誘発性のT細胞反応(CD8およびCD4)が増強され、タンパク質として全身に送達される同じ抗体よりも優れた性能を発揮する(
図3)。
【0153】
本実施例では、CT26マウス腫瘍(D'Alise etal, Nat. Commun. 2019 Jun 19;10(1):2688)から選択された31個のネオ抗原をコードするポリネオ抗原GAd ワクチンをマウスにワクチン接種した。ワクチンは単独で筋肉内投与(10^8 vp)、または抗マウスCTLA4(クローン9d9)をコードするAd6抗mCTLA4と10^8vpの用量で同時投与した。マウスの並行群を、腹腔内投与された抗mCTLA4 (クローン9d9) タンパク質(BioXcell)と組み合わせた同じワクチンで処理した。免疫応答は、ワクチンベクターに存在する各ネオ抗原の配列に対応するペプチドのセットを抗原として使用することにより、ex vivo IFN-γ ELISpotアッセイによって2週間後に測定した。GAd ネオ抗原ワクチンと同時投与されたAd コード抗 mCTLA4 抗体は、腫瘍ネオ抗原に対するワクチン誘導性のCD8+およびCD4+ T細胞応答の両方を増加させた(
図3)。この効果は、タンパク質として送達された抗m-CTLA4の存在下で観察された効果よりも強力だった。
【0154】
実施例4:抗CTLA4をコードしたアデノウイルスベクターは、62のネオ抗原を2つの別々の発現カセットにコードする遺伝子ワクチンの免疫応答を増強し、より強力な抗腫瘍活性を示す(
図4)。
【0155】
コードされたアジュバントの性能は、より多くのネオ抗原をコードするより複雑なコンストラクトでも試験した(
図4A)。この目的のために、WO2020/099614 A1に開示されているマウス結腸癌細胞株CT26において同定された62個のネオ抗原をコードするGAdワクチンベクター(GAd-CT26-62と名付けた)を使用した。マウスに低用量(2x10^7 vp)のGAd-CT26-62を筋肉内ワクチン接種し、単独で投与するか、または用量10^8vpの抗マウス抗CTLA4(クローン9D9)をコードするAd6-抗CTLA4と同時投与した。免疫応答は、ベクター内に存在する各ネオ抗原の配列に対応するペプチドのセットを抗原として使用することにより、ex-vivo IFN-γ ELISpot アッセイによって2週間後に評価した。アデノベクターにコードされた抗 mCTLA4 抗体をGAd-CT26-62と同時投与すると、腫瘍ネオ抗原に対するワクチン誘導性のT細胞応答が増加した(
図4A)。同じ組み合わせをCT26がんマウスモデルでも試験し、GAdワクチンと同時投与された抗CTLA4をコードするアデノウイルスベクターの抗腫瘍活性に及ぼす影響を、抗mPD1処理(クローンRMP1-14 BioXcell)の存在下でのワクチン単独(アジュバントなし)の効果と比較して評価した。その結果、ワクチンにコードされたAd6-9d9をアジュバントとして添加すると、ワクチンおよび抗mPD1の抗腫瘍活性が増強されることが示された(
図4B)。
【0156】
実施例5:抗体医薬の全身および局所送達と比較して、アデノウイルスベクターによって送達される場合の抗CTLA4への全身曝露は限定される(
図5)。
【0157】
本実施例では、抗mCTLA4をコードするAd6ベクター(Ad-9d9)を10^8vpの用量でマウスに注射するか、同じ抗mCTLA4抗体を腹腔内または皮下で単回注射した(9d9 Ab、100μg)。Ad6投与後の循環抗mCTLA4の血清レベルの測定により、タンパク質としての抗mCTLA4 (クローン9D9 BioXcell) の注射と比較して全身曝露が非常に限定されていることが実証され、コードされた抗体の生物学的安全性の向上が裏付けられた(
図5)。
【0158】
実施例6:抗CTLA4をコードしたアデノウイルスベクターと、マウス代替(surrogate)腫瘍関連抗原(TAA)をコードするアデノウイルスベクターを筋肉内に同時投与すると、免疫寛容が解除される(
図6)。
【0159】
腫瘍関連抗原(TAA)の免疫寛容を回避する際の抗mCTLA4をコードするアデノウイルスベクターの効果を調べるために、本発明者らは、マウスCT26腫瘍では発現するが健康な組織では発現しない抗原ファミリーに属する代替(surrogate)TAA遺伝子を選択した。ヒト組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)シグナルペプチドに先行する4つのマウスTAA(Slc9b1、Psg17、Gm773、Tcp11x2)をコードするベクターを作製し、単独で、または10^8vp用量のAd6にコードされた抗mCTLA4と混合してin vivoで注射した。免疫応答は、ワクチンベクターにコードされたTAAの配列に対応するペプチドのセットを抗原として使用し、ワクチン接種2週間後にex-vivo IFN-γ ELISpotアッセイにより測定した。結果は、Ad-9D9 をワクチンTAAと同時注射すると免疫応答が大幅に増強されることを示した(
図6)。
【0160】
実施例7:腫瘍関連抗原をコードするアデノウイルスベクターワクチンと一緒に筋肉内に同時投与される抗CTLA4をコードするアデノウイルスベクターもまた、自己抗原に対する抗体反応を増大させる(
図7)。
本実施例において、ワクチン誘発性の抗体反応の増加における抗mCTLA4をコードするアデノウイルスベクターの効果も調査された。hHer2に耐性があり、Her2ワクチンの試験に広く使用されている既知のマウスモデルである、hHer2 トランスジェニック (Tg) マウスに、hHer2 をコードするGAdワクチンを単独またはAd6-9d9と混合して10^8vpの用量で注射して免疫化した。免疫化マウスから調製した血清を、hHer2タンパク質に対してELISAで分析し、処理後の抗体レベルを測定した。その結果、ワクチン単独ではhHer2に対する抗体の誘導レベルが低い一方で、Ad6で発現されるコードされた抗mCTL4の存在下では抗体応答の関連した増加が観察されたことを示した。
【0161】
実施例8:Adベースのネオ抗原ワクチンと同時投与されたmOX40Lをコードしたアデノウイルスベクターは免疫原性を増強する(
図8)。
【0162】
本実施例では、マウスに、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチンを単独で注射するか、抗mCTLA4をコードするアデノウイルスAd6(Ad-9d9)およびmOX40LをコードするアデノウイルスAd6(Ad-OX40L)と混合してワクチン接種した。抗mCTLA4およびmOX40Lをコードするアデノウイルスベクターを10^8vpの用量で投与した。免疫応答は、ワクチンベクターに存在する各ネオ抗原の配列に対応するペプチドのプールを抗原として使用し、各実験群においてex-vivo IFN-γ ELISpotアッセイによりワクチン接種2週間後に測定した。その結果、OX40LをコードしたAd6は、Ad-9d9と同レベルのワクチン免疫原性を増強する強力な効果を示した。
【0163】
実施例9:コードされた2つのアジュバント抗mCTLA4およびOX40Lを使用すると、厳密な(stringent)T細胞寛容マウスモデルにおけるTAAに対するワクチン効力を高める(
図9)。
【0164】
本実施例において、抗mCTLA4およびAd-OX40Lをコードしたアデノウイルスベクターの効果を、ヒトHer2に対する厳密な(stringent)T細胞寛容マウスモデルで調査した。hHer2耐性のhHer2トランスジェニック(Tg)マウスを、hHer2をコードするGAdワクチンを単独で注射して、10^8vpの用量のAd6-9d9もしくはAd6 OX40Lと混合したhHer2をコードするGAdワクチンで注射して、または、hHer2をコードするGAdワクチンを2つのアジュバントの混合物とともに注射して、免疫した。各実験群において、ワクチン接種の2週間後に、ex vivo IFNγ ELISpotアッセイによって免疫応答を測定したところ、2つのコードされたアジュバントがワクチンと同時投与された場合に、ヒトHer2に対するT細胞寛容を解除する効果が示された。
【0165】
実施例10: Ad ベースのネオ抗原ワクチンと同時投与されたICOSL をコードしたアデノウイルスベクターは免疫原性を増強する(
図10)。
【0166】
本実施例において、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8T細胞ネオ抗原をコードするGAdワクチンをマウスに単独で、またはマウスICOS-L(Ad-ICOSL)をコードするアデノウイルスAd6と混合して10^8vpの用量でマウスに注射してワクチン接種した。免疫応答は、ワクチンベクターに存在する各ネオ抗原の配列に対応するペプチドのプールを抗原として使用し、各実験群のex vivo IFN-γ ELISpotアッセイによりワクチン接種2週間後に測定した。その結果、コードされた Ad-ICOSL によるワクチン誘発T細胞応答の増強が示された。
【0167】
実施例11:抗CTLA4をコードしたアデノウイルスベクターの再投与は、抗PD1と組み合わせたGAdネオ抗原ワクチンの抗腫瘍効果を増強する(
図11)。
【0168】
大いに確立されたCT26腫瘍のマウスモデルにおいて、チェックポイント阻害剤(抗PD1)と組み合わせたGAdワクチンの抗腫瘍活性に対する、コードされたアジュバント抗CTLA4の影響を、単独投与(ワクチン+Ad6-9d9、0日目)と二重投与(0日目にワクチン+Ad6-9d9、1日目にAd6-9d9)のレジメンで試験した。腫瘍を有するマウスに、抗mPD1 (クローン RMP1-14 BioXCell)の存在で、0日目に62個のCT26ネオ抗原をコードするGAdワクチンベクター(GAd-CT26-62)を単独で投与するか、抗mCTLA4をコードするAd6抗CTLA4(クローン9D9 10^8vp)と同時投与して処理した。並行してマウスの一群に翌日、Ad6-抗CTLA4の2回目の用量を投与した。その結果、コードされたAd6-9d9をアジュバントとしてワクチン投与すると、ワクチンおよび抗 PD1の抗腫瘍活性が増強され、Ad6-9d9を2回投与したマウスで最高の抗腫瘍反応率が観察されたことが示された。
【0169】
実施例12:ヒト抗CTLA4をコードするAd6を注射した後のマウスにおける循環抗hCTLA4の測定(
図12)。
【0170】
抗hCTLA4イピリムマブの配列(配列番号2)をAd6にコードし、生体内で試験してAd6によるその発現を評価した。C57Bl6マウスにAd6-イピリムマブを10^8 vpの用量で注射した。循環抗hCTLA4レベルをAd注射後に経時的に測定したところ、コードされたイピリムマブの検出可能で良好な発現が示され、Ad注射後7日目にピークが観察された。
【0171】
実施例13: ex vivo IFN-γ ELISpotアッセイ
IFN-γ ELISpot アッセイは、脾臓の単一細胞懸濁液に対して実行された。MSIP S4510プレート(Millipore, Billerica, MA)を10μg/mlの抗マウスIFN-γ抗体(Cat. Number: CT317-C; U-CyTech)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。バックグラウンドを避けるために前記プレートを洗浄し培地でブロッキングした後、マウス脾細胞を2つの異なる細胞密度で二重に播種し、単一の25-merペプチドまたは最終濃度1μg/mlのペプチドプールで一晩刺激した。ペプチド希釈剤のジメチルスルホキシド (Sigma-Aldrich) およびコンカナバリンA (Sigma-Aldrich)をそれぞれ陰性および陽性対照として使用した。続いて、ビオチン化抗マウスIFN-γ抗体(1/100希釈、Cat. Number: CT317-D; U-CyTech)、結合ストレプトアビジン-アルカリホスファターゼ(1/2500希釈、Cat. Number 554065; BD Biosciences)、および最後に5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル-リン酸/ニトロブルーテトラゾリウム1ステップ溶液(Thermo Fisher Scientific)とのインキュベーションによってプレートを発色させた。自動酵素結合免疫吸着スポットアッセイビデオ分析システム自動プレートリーダー(automated enzyme linked immunosorbent-spot assay video analysis system automated plate reader)を使用してプレートを分析した。ELISpot データは、脾細胞100万個あたりのIFN-γ SFCとして表された。以下の条件がすべて発生した場合、ELISpot反応は陽性とみなされる:(i)ConA刺激ウェルに存在するIFN-γ産生、(ii)陽性ウェルで見られたスポットの数は、モック対照ウェル (ジメチルスルホキシド) で検出された数の3倍だった、(iii)脾細胞100万個あたり少なくとも30個の特異的スポット。
【0172】
実施例14:Adベースのネオ抗原ワクチンと同時投与される膜結合型抗CTLA4 をコードするアデノウイルスベクターは、ワクチンの免疫原性を高める
C57Bl6マウスに、MC38腫瘍モデルから選択された7つのCD8 T細胞ネオ抗原をコードする GAd ワクチン(ワクチン、用量2x10^7 vp)を接種し、膜結合型の9d9抗mCTLA4(Ad-9d9TM)をコードするAd6(配列番号3)を用量10^8 vpで投与した。膜結合は、配列番号2の9d9重鎖のC末端に膜貫通ドメインセグメントを付加することによって達成された。陽性対照として、マウスの一群にワクチンをAd6-9d9と同時投与した。可溶型の9d9と同様に、膜結合型もIFN-γ ELISpotアッセイで測定したところワクチン免疫原性を高めた(
図13)。
【0173】
図面の用語
Blood levels of encoded αCTLA4 コードされたαCTLA4の血液レベル
splenocytes 脾細胞
Vaccine ワクチン
mix 混合
separate 別々
contralateral 対側
Tumor volume 腫瘍体積
anti-PD1 抗PD1
response 反応
days 日
sc 皮下
ip 腹腔内
Response to TAA TAAへの応答
Pool プール
Antibodies 抗体
anti-hHER2 抗hHER2
T cell response to hHER2 hHER2に対するT細胞応答
hHER2 Tg mice hHER2 Tgマウス
Blood level Ipi encodedコードされたイピリムマブの血液レベル
【配列表】
【国際調査報告】