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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】試料の調製
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240621BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240621BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240621BHJP
   C12P 19/34 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C12M1/00 A
G01N1/10 V
C12Q1/686 Z
C12P19/34 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579330
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 EP2022066737
(87)【国際公開番号】W WO2022268725
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2109050.1
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】2110617.4
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522404410
【氏名又は名称】レディーゴー・ダイアグノスティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン・デイヴィッド・コッブ
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
4B064
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AD06
2G052CA02
2G052CA39
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB01
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC01
4B029CC02
4B029CC10
4B029FA15
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QQ79
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR41
4B063QR48
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX01
4B064AF27
4B064CA21
4B064CC24
4B064CD04
4B064DA13
(57)【要約】
特にDNA及びRNA分析手順の目的で生体試料を収集し処理するための、使い捨て可能なデバイスが記述されている。デバイスは、(a)第1及び第2のほぼ円筒状のセクションを含み且つ第1及び第2の開口部を先端の第1及び第2の端部に有し、第2のセクション及び第2の開口部が第1のセクション及び第1の開口部よりも小さい直径を有し、第1のセクション及び第1の開口部がサンプリング機器に取外し可能に取着されるよう構成されている、中空先端と;(b)生体試料を獲得するために露出した又は露出可能な第1の端部の作用面、そのように獲得された生体試料物質の吸収及びニブを通した液体の通過に適した多孔質構造;及びニブに洗浄流体を適用するための第2の端部の洗浄面を有する多孔質ニブと、を含む。また、後続のサンプリング処理を阻害することなく核酸の放出を支援するため、ポリビニルピロリドン、クロルヘキシジン、又はシトラルの、多孔質ニブ内での機能化剤としての使用についても記述されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用の生体試料を得るための且つ任意選択で処理するためのデバイスであって、
(a)第1のほぼ円筒状のセクション及び第2のほぼ円筒状のセクションを含む中空先端であって、前記中空先端が、前記中空先端の第1の端部及び第2の端部に第1の開口部及び第2の開口部を有し、前記第2のセクション及び前記第2の開口部が、前記第1のセクション及び前記第1の開口部よりも小さい直径を有し、前記第1のセクション及び前記第1の開口部が、サンプリング機器に取外し可能に取着されるよう構成されている、中空先端と、
(b)生体試料を獲得するために露出した又は露出可能な第1の端部に作用面を有する多孔質ニブであって、そのように獲得された生体試料物質の吸収及び前記多孔質ニブを通した液体の通過に適した多孔質構造と、前記多孔質ニブに洗浄流体を適用するための第2の端部の洗浄面と、を有する、多孔質ニブと、
を含み、前記第2のセクション及び前記第2の開口部が、前記多孔質ニブを取外し可能に受容するよう構成され、前記多孔質ニブが、幅よりも大きい長さを有する、
デバイス。
【請求項2】
前記中空先端の前記第1のセクションの長さが、同じセクションの幅よりも大きく、好ましくは前記多孔質ニブの長さよりも大きい、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記多孔質ニブが、締まり嵌めによって前記中空先端内に保持される、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記多孔質ニブが、焼結済み多孔質ニブである、請求項1から3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記多孔質ニブが、前記多孔質ニブ上に得られた試料を処理するための1種又は複数の活性剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記1種又は複数の活性剤が、凍結乾燥された又はドライダウンされた形をとる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記1種又は複数の活性剤が、ポリビニルピロリドンを含む、請求項5又は6に記載のデバイス。
【請求項8】
前記1種又は複数の活性剤が、クロルヘキシジン及び/又はシトラルを含む、請求項5から7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記1種又は複数の活性剤が、核酸を分解から保護する薬剤を含み、好ましくはアルキルポリグルコシドを含む、請求項5から8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
洗浄緩衝剤が、前記多孔質ニブの前記洗浄面に適用されたとき、重力が前記多孔質ニブを通して前記洗浄緩衝剤を引き込み、前記多孔質ニブからの処理された生体試料を変位させる、請求項5から9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記処理された生体試料が核酸を含み、前記放出され変位させられた核酸が、濃縮又は精製なしで分子診断試験に直接適合可能である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記処理された生体試料がタンパク質を含み、前記放出され変位させられたタンパク質が、免疫診断試験に直接適合可能である、請求項10に記載のデバイス。
【請求項13】
洗浄緩衝剤の適用及び生体試料の変位が、エアロゾルを発生するリスクが低い、請求項10から12のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
前記多孔質ニブが、前記作用面及び前記洗浄面のいずれか又は両方に、湾曲した又は丸みの付いた面を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項15】
増幅用の核酸の調製における、ポリビニルピロリドンの使用。
【請求項16】
増幅用の核酸の調製におけるクロルヘキシジン及び/又はシトラルの使用を更に含む、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
核酸を調製し増幅する方法であって、
試料を、ポリビニルピロリドンを含む溶解緩衝剤と組み合わせて、試料中の材料から核酸を放出する工程と、
前記試料を核酸増幅プロセスにさらす工程と、
を含む、方法。
【請求項18】
前記核酸増幅プロセスがPCRである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記試料が、ポリビニルピロリドンの存在下、核酸増幅プロセスにさらされる、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶解緩衝剤が、核酸増幅混合物として使用するのに適した試薬を更に含む、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記溶解緩衝剤が、クロルヘキシジン及び/又はシトラルを更に含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ポリビニルピロリドンが、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、又は1%以下で前記溶解緩衝剤中に存在する、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記溶解緩衝剤が、0.9%のPVP、及び0.1%のクロルヘキシジン又はシトラルを含む、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ポリビニルピロリドンと、核酸増幅プロセスを実施するための1種又は複数の追加の試薬と、を含む、核酸増幅混合物。
【請求項25】
クロルヘキシジン又はシトラルを更に含み、より好ましくは0.9%のポリビニルピロリドン及び0.1%のクロルヘキシジン又はシトラルを含む、請求項24に記載の核酸増幅混合物。
【請求項26】
生体試料を収集するための多孔質ニブであって、その内部で乾燥されるポリビニルピロリドンを含む、多孔質ニブ。
【請求項27】
内部で乾燥されるクロルヘキシジン又はシトラルを更に含む、請求項26に記載のニブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床試料を収集し、それらを分析用に調製すること、例えば核酸増幅及び/又は検出等の分子生物学処理技法よって調製することに関し;より詳細には、その目的のためのサンプリングデバイス、特に臨床ポイントオブケア(POC)又はポイントオブニード(PON)設定で有用であるが試験のために遠隔地の研究室に送るためにも使用される、サンプリングデバイスに関する。本発明のある特定の態様は、核酸増幅及び/又は検出のための試料の調製に有用なプロセス及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、生体試料中の特定の核酸(DNA又はRNA)の存在に関して試験するのに用いられる核酸を増幅するのに便利な方法である。これはとりわけ、病原体又は疾患に関するマーカーを同定する診断方法としての目的で使用される。核酸試料を増幅するその他の方法は、リコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)及びループ媒介型等温増幅(LAMP)等の等温増幅方法を含む。
【0003】
任意のそのような診断試験の前に、使用される増幅プロセスに適合可能な状態で核酸を提示するために、試料のある特定の量の調製物が必要である。研究室ベースの抽出方法は、一般に、高濃度の高純度核酸を提供することに向けられ、その目標は、可能な限り多くの核酸を得ることである。これは簡便さを犠牲になされるものであり、研究室ベースの抽出技法はしばしば、臨床設定に適合可能ではない試薬及び遠心分離等の設備との接触を必要とする。
【0004】
臨床試料の調製は、試験を行うのに十分なだけの核酸を必要とする。これは抽出プロセスの有意な単純化を提供するので、重要な差異である。例えば、単純な濾紙の使用は、全血等の複合試料母材からであっても、PCRを介した後続の診断のため、生体試料中の標的からの十分な核酸の捕捉を可能にすることが公知である(非特許文献1~3)。しかしながら1つの問題は、試料の調製に有用となり得るある特定の試薬が、PCR増幅等の下流の技法を妨げる可能性があることである。
【0005】
生体試料を得ることができる1つの方法では、例えばペンに似ているサンプリングデバイス内に保持することができる多孔質ニブを使用する。1つのそのようなデバイスは、特許文献1に記載されており、毛管作用を通して液体試料を吸収することができる多孔質ニブの形をとる焼結済み多孔質母材を収容するハウジングを有するデバイスについて記述している。異なるデバイスは、本発明者等の特許文献2に記載されており、これは後続の処理及び分析のためにニブからフラッシング吸着された試料用の緩衝液を収容するためのリザーバを含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0349153号明細書
【特許文献2】国際特許出願PCT/EP2021/057315号
【特許文献3】国際公開第2005/046738号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fuehrer et al. J Clin Microbiol. 2011、49(4)、1628~1630
【非特許文献2】Bu et al. Analytical Biochemistry 375(2)、370~372
【非特許文献3】Zou et al (2017) Nucleic acid purification from plants, animals and microbes in under 30 seconds、PLoS Biol 15(11)、e2003916
【非特許文献4】Popkin et al、Cetylpyridinium chloride (CPC) exhibits potent, rapid activity against influenza viruses in vitro and in vivo, Pathogens and Immunity、2017; 2(2):253~69
【非特許文献5】Astani et al、Comparative study on the antiviral activity of selected monoterpenes derived from essential oils. Phytother Res. 2010;24(5):673~679
【非特許文献6】Nazzaro et al、Effect of essential oils on pathogenic bacteria. Pharmaceuticals (Basel). 2013;6(12):1451~1474
【非特許文献7】Simoes et al、Mechanism of antiviral activity of triterpenoid saponins. Phytother Res. 1999 Jun;13(4):323~8
【非特許文献8】Pu et al、Polyphylla saponin I has antiviral activity against influenza A virus. Int J Clin Exp Med. 2015; 8(10):18963~18971
【非特許文献9】Kariwa et al、Inactivation of SARS coronavirus by means of povidone-iodine, physical conditions and chemical reagents. Dermatology. 2006;212 Suppl 1:119~23
【非特許文献10】Meister et al、Virucidal Efficacy of Different Oral Rinses Against Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2. J Infect Dis. 2020;222(8):1289~1292
【非特許文献11】Capriotti et al、A Novel Topical 2% Povidone-Iodine Solution for the Treatment of Common Warts: A Randomized, Double-Blind, Vehicle-Controlled Trial. Dermatol Ther (Heidelb). 2015;5(4):247~252
【非特許文献12】Nakagawa et al、The efficacy of povidone-iodine products against periodontopathic bacteria. Dermatology. 2006;212 Suppl 1:109~11
【非特許文献13】Popkin et al、Cetylpyridinium Chloride (CPC) Exhibits Potent, Rapid Activity Against Influenza Viruses in vitro and in vivo. Pathog Immun. 2017;2(2):252~69
【非特許文献14】Baker et al、Repurposing Quaternary Ammonium Compounds as Potential Treatments for COVID-19、Pharm Res (2020) 37:104
【非特許文献15】Schrank et al、Disinfectants, Effective against Severe Acute Respiratory Syndrome-Coronavirus-2? ACS Infect. Dis. 2020, 6、 1553から1557
【非特許文献16】Kersting et al、Multiplex isothermal solid-phase recombinase polymerase amplification for the specific and fast DNA-based detection of three bacterial pathogens、Microchim Acta (2014) 181:1715~1723
【非特許文献17】O'Donnell et al、Potential role of oral rinses targeting the viral lipid envelope in SARS-CoV-2 infection、Function、Volume 1、Issue 1、2020
【非特許文献18】Rabenau et al、Efficacy of various disinfectants against SARS coronavirus. J Hosp Infect. 2005;61(2):107~111
【非特許文献19】Ansaldi et al、(2004). SARS-CoV, influenza A and syncitial respiratory virus resistance against common disinfectants and ultraviolet irradiation. Journal of Preventive Medicine and Hygiene. 45
【非特許文献20】Meister et al、Virucidal Efficacy of Different Oral Rinses Against Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2. J Infect Dis. 2020;222(8):1289~1292
【非特許文献21】Martinez Lamas et al、(2020)、Is povidone-iodine mouthwash effective against SARS-CoV-2? First in vivo tests. Oral Disease Cimolai, N. (2020). Efficacy of povidone-iodine to reduce viral load. Oral Diseases、https://doi.org/10.1111/odi.13557
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書には、特に-しかし排他的ではなく-DNA及びRNA分析手順の目的で、生体試料を収集し処理するための使い捨てデバイスが記述される。デバイスは、分子診断試験に十分な核酸を提供する。デバイスは、核酸に関する分子診断試験での使用と併せて本明細書では主に記述されるが、本発明によりその他の生体分子が、例えばタンパク質、脂質、代謝産物、ビタミン、薬物、有機物、殺虫剤、小分子等;細胞膜若しくは細胞外被断片等の細胞断片、又は細胞内小器官のようなものが収集され且つ/又は処理され得ることが理解されよう。本発明者等は、特定のニブ構成が、圧力を加えることによりニブを通して緩衝液を能動的にフラッシングする必要なしに、ニブからの試料の有効な放出を可能にすることを確認した。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、分析用の生体試料を得、それを任意選択で処理するためのデバイスであって、
(a)第1のほぼ円筒状のセクション及び第2のほぼ円筒状のセクションを含み、且つ先端の第1の端部及び第2の端部に第1の開口部及び第2の開口部を有する中空先端であって、第2のセクション及び第2の開口部が、第1のセクション及び第1の開口部よりも小さい直径を有し、第1のセクション及び第1の開口部が、サンプリング機器に取外し可能に取着されるよう構成された、中空先端と、
(b)生体試料を獲得するために、露出した又は露出可能な第1の端部にある作用面、そのように獲得された生体試料物質の吸収及びニブを通した液体の通過に適した多孔質構造;及びニブに洗浄流体を適用するために第2の端部に洗浄面を有する多孔質ニブと、
を含み、
第2のセクション及び第2の開口部が、ニブを取外し可能に受容するように構成され、多孔質ニブが、幅よりも大きい長さを有する、
デバイスが、提供される。
【0010】
本発明者等は、意外にも、この先端及びニブの構成が、作用面を通して試料を多孔質構造内に吸収させるだけでなく、洗浄面に洗浄流体も適用し、それによって、純粋に毛管作用及び重力によって-例えば後続の処理又は分析に向けて-試料をニブから溶出させることを見出した。試料を溶出するのに、ニブを通して洗浄流体を能動的に押し出すように圧力を加えることは、必ずしも必要ではない。更に、デバイスが動作する手法は、潜在的には病原体を含有し得る試料からエアロゾルを発生させるリスクが低減することを意味する。試料は、毛管作用及び重力によって、最初にニブに吸着され、その後で洗い落とされるので、プロセスがエアロゾルを発生させる可能性のある、試料を勢いよくピペット分取することは、必ずしも必要ではない。
【0011】
ニブの長さ及び幅は、ニブ及び先端の構造によって定めることができることに留意されたい。一般にニブは、作用面を画定する第1の端部と、洗浄面を画定する第2の端部と、を有する。これらの第1の端部及び第2の端部の間を延びる軸は、ニブの長さを定め、一方、幅は、この軸に垂直である。ニブがほぼ円筒状である場合、幅は円筒の直径であり得るが、一部の実施形態では、ニブは、一定の幅を有することを必要とせず;この場合、最大幅の部分は長さよりも小さい。
【0012】
ニブが第2のセクション及び第2の開口部内に受容されるとき、ニブの作用面は露出し、洗浄面は先端内にある。好ましくは、洗浄面は先端の第1のセクション及び第2のセクションの間の移行のレベルで先端内にあり;即ち先端は、ニブの洗浄面の上方で-第1のセクションの形で-広くなる。
【0013】
ニブの上方の先端の高さは、ニブに保持される液体の表面張力を破壊するのに十分な洗浄流体の「ヘッド」を可能にし、重力下での材料の流れを可能にする。これは洗浄流体における粘度及び表面張力改質剤を使用して調節することができる。好ましくは、先端の第1のセクションの長さは、同じセクションの直径よりも大きく;好ましくはニブの長さよりも大きい。思いがけず、試料を吸収するために必要とされるニブの毛管は、洗浄流体を強制的にニブに通す圧力を使用することなく、ニブを飽和し且つ試料を保持することが予測されると考えられる。しかしながら本発明者等は、構成が、そこに浸み込ませた試料材料から抽出された核酸及びタンパク質を放出する飽和材料を通して、ほぼ同じ体積の液体を落下させることを見出した。放出の効率は期待されない。
【0014】
中空先端構造の使用は、先端及びニブをサンプリング機器に取着することを可能にする。好適には、これはピペット又は類似の取扱いデバイスであってもよい。例えばマルチ先端及び/又はロボティックピペットは、多数の試料の素早い取扱い及び処理に有用と考えられる。或いはサンプリング機器は、単に、取扱い及び操作を可能にするための先端に係合するハンドルであってもよい。
【0015】
使用中、先端及びニブは、下記の通り動作すると考えることができる。使用者が先端及びニブをピペットに取着する。次いでニブを患者の口に入れ、試験用の核酸を含むことになる唾液を吸収させる。次いで使用者は、試験管又は試料プレート上にピペットを保持し、ピペットから先端を排出して、先端及びニブを試験管内に放出するようにする。次いで同じピペットを使用して、洗浄流体を、先端内のニブの上面に添加することができる。次いで重力下及び/又は毛管作用の下、洗浄流体をニブ内に通し、試料をニブの下面から試験管内に溶出する。次いでニブ及び先端を除去し、溶出された試料を、任意の適切な手順を使用して分析することができる。一部の実施形態では、試験管又は試料プレートは、任意の溶出された試料を吸着することになる、吸湿性部材又は吸湿性の紙を含有していてもよい。その他の実施形態では、唾液試料が最初に試験管又はその他の容器に収集され得る。次いで先端/ニブの組合せは、口から直接であるのとほぼ同じように、唾液試料を試験管から収集することができる。更に他の変形例では、ニブのみを、唾液試料が入っている試験管に入れることができる。次いでニブは唾液を吸収することになり、次いで使用者は、ニブを、ピペット上に位置付けられた先端内に入れることができ、類似の手法で更なる処理に進めることができる。
【0016】
本発明は、特にPCR、RPA、又はLAMP等の核酸増幅プロセスによって、しかし潜在的には免疫検出等のその他の分析手法によっても、分析用の試料を得る且つ調製する都合良い手段を提供する。これは少なくとも部分的には、液体又は部分液体の吸収によって試料を収集するのに、又は生体試料を含有する表面を拭き取るのに使用されるニブによって実現される。
【0017】
ニブは、ほぼ円筒形態であってもよいが、ニブが広いと言うよりも長いことを前提として、任意の適切な形状が使用されてもよい。例えば、ほぼ円筒状のニブは、作用及び洗浄面の一方又は両方に、湾曲した又は丸みの付いた面を含んでいてもよく;或いは作用及び/又は洗浄面とニブの本体との間に形成された角度が90度より大きくてもよい。これらの構成は、試料収集を実施しながら患者の快適さを改善することができ、通常なら厳密に円筒状のニブで見られる可能性のある毛管保持に対するエッジ効果も低減し得る。1つの形態において、ニブは、微細な点で、微細なエッジで、又は広いストロークで試料の獲得を容易にする、のみ形状の又は傾いたのみ形状の作用面を有する。これは様々な表面から試料を得るため法医学で特に有用と考えられる。
【0018】
ニブは、締まり嵌めによって先端内に保持されてもよく;例えば1つ又は複数の環状リングが、先端の第2の部分の内側に形成されてもよく;これらが先端の内径を低減させるにつれ、且つニブが圧縮されるにつれ、ニブは使用中に所定の位置に保持されることになる。先端に対するニブのヒートステーキング又は接着も可能である。
【0019】
一実施形態では、液体は、ニブを湿らせるために、試料収集の前にニブに提供され得る。これは乾燥試料表面からの試料収集を容易にすることができる(例えば、接触された領域からの法医学的収集;又は外鼻孔からの収集)。好ましい実施形態では、ニブは、血液、唾液、尿等の液体試料の収集のため、乾燥させることができる。
【0020】
適切には、使用の前及び/又は後にニブを覆うよう、少なくとも1つの取外し可能なキャップが設けられる。1つのそのようなキャップは、使用前にニブ上に設けられてもよく、ニブ上で得られた試料を保護するために使用後に交換可能である。
【0021】
ニブには、獲得された水性試料の量を示すよう、ハイドロクロミックマークを設けてもよい。例えばマークは、所定量の水性試料がニブ内に引き込まれたときを示すよう、ニブの長さに沿ったある特定の点で設けられてもよい。或いはマークは、存在する水の量に比例して出現し又は消失する、ニブ全体を通した水感受性色素の形をとってもよい。
【0022】
一実施形態における多孔質ニブは、焼結済み多孔質ニブであってもよい。
【0023】
多孔質ニブは、多孔質プラスチック、多孔質金属、多孔質セラミック、及び繊維、又は内部チャネルで押し出されたプラスチック若しくは金属を含むことができる。特定の実施形態では、多孔質プラスチックは、焼結済み多孔質プラスチックである。プラスチックニブは、ポリエチレン等の様々なプラスチックから作製されてもよい。用いられ得るポリエチレンには、限定するものではないが高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)が含まれる。ニブは、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリアクリル酸ニトリル(PAN)、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリエステル、ポリカーボネート、又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から作製されてもよい。プラスチックニブは、前述のプラスチックの複数から作製されてもよい。一実施形態では、プラスチックニブは、約30%のPP及び約70%のPE(wt:wt%)から作製される。その他の実施形態では、PP及びPEが組み合わされたとき、PPは約100%から約0%の範囲で存在していてもよく、PEは、約0から約100%の範囲(100%から0%:0%から100%wt:wt%)で存在していてもよい。PEがその他のポリマーと組み合わされるとき、PEは、少なくとも約50%(wt%)で存在する。一実施形態では、プラスチックがHDPEである。他の実施形態では、プラスチックはUHMWPE、PP、ポリアミド、又はポリアクリル酸ニトリルである。その他の適切なニブ材料は、特許文献1に記載されるものを含む。
【0024】
以下に更に詳細に記述されるように、ニブは、ニブ上で得られた試料を処理するための活性剤を含んでいてもよく、好ましくはニブは、前記活性剤で機能化されている。活性剤は好ましくは、細胞(例えば、細菌)又はウイルス、それらを放出する成分を溶解させる能力を有する、1種又は複数の膜破壊試薬を含む。例えば溶解した細胞のDNA及び/又はRNAは、更なる処理又は分析のために収集されてもよく;或いは、脂質、タンパク質、又はペプチドが収集されてもよく、又は細胞内小器官、又は細胞膜を含む細胞断片、又は細胞壁断片が収集されてもよい。好ましくは、活性剤はヒトに対して無毒性である。1つの好ましい活性剤は、第四級アンモニウム化合物(QAC)を含み、より好ましい活性剤はセチルピリジニウムクロリドであるが、代替例(例えば、個々に又は組み合わせてTable 1(表2)に列挙されたもの)が使用されてもよい。一部の実施形態では、活性剤は、凍結乾燥された又はドライダウンされた(dried-down)形をとり、薬剤は、ニブを湿らせることによって再水和されてもよく;例えば、ニブが、血液又は唾液等の液体試料の収集に使用されるとき、再水和されてもよい。活性剤に関するその他の使用は、分析プロセスに対して抑制的であり得る、ある特定の成分を捕捉することであってもよい。
【0025】
本明細書で更に詳細に記述されるように、本発明者等は意外にも、ある特定の活性剤がヒトに無毒性であるだけでなく、後続の核酸増幅を妨げない濃度で細胞及び/又はウイルスから核酸を放出するときに有効であることを見出した。この特徴の組合せは、本明細書に記述されるサンプリンング及び処理技法に関して、これらの活性剤を特に適切にするが、核酸分析用の試料の調製におけるこれら薬剤のより一般的な使用への道も拓いた。
【0026】
一実施形態では、活性剤は、ポリビニルピロリドン(PVP;ポビドン)を含む。ポリビニルピロリドン(PVP)は、フェノール化合物の除去を支援するため、抽出緩衝剤で既に使用されており;DNA精製中にポリフェノールを吸収するときに並外れて良好である。ポリフェノールは、多くの植物組織に一般的であり、除去されない場合にタンパク質を不活性化し、したがってPCRのような多くの下流の反応を阻害する。分子生物学では、デンハルト緩衝液の成分として、サザンブロット解析中にPVPを遮断剤として使用することができる。しかしながら本発明者等は、PVPが、増幅を阻害することなく、ウイルスを破裂させて核酸(及び/又はその他のウイルス成分)を放出できることを決定し;したがって意外にも本発明者等は、PVPを、本明細書に記述される収集デバイスのニブ内で乾燥することができることを見出した。
【0027】
一実施形態では、活性剤は、クロルヘキシジン及び/又はシトラルを含む。ニブは、この薬剤を多孔質母材に乾燥することによって;例えばクロルヘキシジンの溶液をニブに吸収させることによって、次いでそれを使用前に乾燥することによって、機能化されてもよい。好ましくは、ニブ上で乾燥させることになる溶液は、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、又は1%以下の活性剤を含む。多数の活性材が使用される場合、これは全ての活性剤に関する合計であってもよい。活性剤%は、ニブが再水和されるとき(試料から、又は緩衝剤若しくは洗浄流体の添加から)、最終溶液が5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、又は1%以下の活性剤を含有するように選択される。例えば、これは公知の体積の試料を吸着する公知の体積のニブを有することによって実現することができ、公知の体積の緩衝剤でフラッシングすることができる。本発明の実施形態では、試料の初期溶解は、液体試料がニブに吸収されたときに生じ;次いで溶解した試料は、緩衝剤(例えば、トリス緩衝剤)によりニブからフラッシングされる。これには、活性剤の濃度が、洗浄後の後続の増幅におけるよりも溶解工程で更に高いという効果があり;それによって濃度は、溶解のため最適化されると共に、その後、増幅を妨げないように低減される。
【0028】
好ましい実施形態では、活性剤は、PVPと、クロルヘキシジン及びシトラルのいずれか又は両方と、を含む。PVPは、ウイルスから核酸を放出するのに特に有用であるが、クロルヘキシジン及びシトラルは、細菌等の微生物に対して活性であり;これらの活性剤の組合せは、核酸の広帯域放出を提供する。1つの好ましい実施形態では、活性剤は、0.9%のPVP及び0.1%のクロルヘキシジン又はシトラルを含む。クロルヘキシジン及びシトラルの両方は、より高い濃度で増幅を妨げる可能性があるので、上述の、より高い濃度での初期溶解及び濃度を低減させる洗浄は、この実施形態においてより重要である。
【0029】
その他の活性剤は、核酸を分解から保護する薬剤を含んでいてもよい。例えば、アルキルポリグルコシドはDNAを結合することが示されており、収集された試料をヌクレアーゼの活性に対して保護するのを及び収集された試料の保存時間を延ばすのを助けてもよく;実施形態では、薬剤は更に、アルキルポリグルコシドを含む。PEG、特に分岐状PEG(分岐状、星型及び櫛型、及び伸長がより少ない直鎖状PEG)は、PEG化のプロセスを通してオリゴヌクレオチドを安定化させることも示されている。一実施形態では、ニブは、膜破裂剤に加えて保護剤を含んでいてもよく;例えば、1%のPEG 6000は、クロルヘキシジンに加えてニブ内に乾燥されてもよい。このことは、試料をバイオセーフ(biosafe)にするのに放出される核酸の分解なしに試験施設に流通させるため、自己収集と、後にバイオセーフになる収集された試料の安定化と、を可能にすると考えられる。PEG 6000は、粘液/繊維との疎水性タンパク質相互作用も低減させ、ニブからの放出を強化する。
【0030】
それらの特徴的核酸含量の分析用の試験試料を得る且つ使用することに関して、主に本明細書に記述されるが、本発明は、免疫学的(抗体/抗原)試験手順に適用することもでき、又は確かに、適切な検出試薬が存在する生体試料中に見出され得るその他の分析物を収集及び/又は検出するのに適用することもできる。例えば、脂質、タンパク質、ペプチド、細胞内小器官若しくは断片、細胞膜若しくは細胞壁断片等は全て、本発明の適切な適用例で収集され処理されてもよい。
【0031】
本発明は、試験サンプリングデバイス及びその使用方法を提供することができ、このデバイスは、定められた体積で試験試料を吸収する、且つ乾燥プロセスを通してニブ内に事前に機能化されている活性成分に試料を曝露する、多孔質母材を含む。試料は、ニブ内に浸出されるにつれてそれらの成分を再水和する。そこから、抽出された核酸(又は免疫診断の場合はタンパク質、又は脂質等)は即座に利用可能であり、又は緩衝剤を元のニブに通すことによる緩衝剤の交換を通して後続の溶出のために輸送中にドライダウンすることができる。
【0032】
本発明の更なる態様は、増幅のための核酸の調製におけるPVPの使用を提供する。好ましくはこの態様は、増幅のための核酸の調製におけるクロルヘキシジン及び/又はシトラルの使用を更に含む。
【0033】
本発明の更に他の態様は、核酸を調製し増幅する方法であって、
試料を、PVPを含む溶解緩衝剤と組み合わせて、試料中の材料から核酸を放出する工程と、
試料を、核酸増幅プロセスにさらす工程と、
を含む、方法を提供する。
【0034】
好ましくは、核酸増幅プロセスはPCRである。好ましくは、試料はPVPの存在下、核酸増幅プロセスにさらされる。溶解緩衝剤は、核酸増幅混合物として、適切な試薬(例えば、プライマー、dNTP、酵素等)を含むことにより、使用されてもよい。これらの試薬は、初期工程で溶解緩衝剤中に存在していてもよく、又は引き続き添加されてもよい。
【0035】
好ましくは、溶解緩衝剤はクロルヘキシジン及び/又はシトラルを更に含む。
【0036】
PVPは、溶解緩衝剤中に、5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、又は1%以下で存在していてもよい。1つの好ましい実施形態では、溶解緩衝剤は、0.9%のPVP及び0.1%のクロルヘキシジン又はシトラルを含む。
【0037】
本発明の更に他の態様は、PVPを含む核酸増幅混合物と、核酸増幅プロセスを実施するための1種又は複数の追加の試薬と、を提供する。好ましくは、核酸増幅プロセスは、PCRである。好ましくは、追加の試薬は、プライマー、dNTP、及び酵素から選択される。増幅混合物は、クロルヘキシジン又はシトラルを更に含んでいてもよく;より好ましくは0.9%のPVP及び0.1%のクロルヘキシジン又はシトラルを含んでいてもよい。
【0038】
本発明の更に他の態様は、生体試料を収集するための多孔質ニブであって、多孔質ニブが、内部で乾燥されるPVPを含む、多孔質ニブを提供する。ニブは更に、内部で乾燥されるクロルヘキシジン又はシトラルを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】試料の収集及び調製のためのデバイスの斜視図である。
図2】デバイスの断面図である。
図3】デバイスの使用からの結果を示す図である。
図4A】いくつかの異なる溶解剤(lysis agent)での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図4B】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図4C】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図4D】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図4E】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図4F】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5A】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5B】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5C】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5D】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5E】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図5F】いくつかの異なる溶解剤での試料に関するqPCR増幅曲線を示すグラフである。
図6】いくつかの異なる溶解緩衝剤での増幅からの結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1及び図2に示されるように、デバイスは、両端に開口部を有する大部分が円筒状の先端を含む、従来のピペット先端の一般的な形及びサイズを有する。第1の、より大きい直径のセクションは、ハンドルとして作用するようプラスチックピペット又はその他のデバイスに係合することができる第1の開口部を含む。第2の、より狭い直径のセクションは、その内部に多孔質プラスチック円筒状ニブを受容する第2の開口部を有する。実施形態では、ニブは、それを保護するように取外し可能な保護キャップ(図示せず)で覆われていてもよく;しかしその他の実施形態では、多数の先端/ニブデバイスは、使用されないときは保護がなされるように且つピペットへの接続を容易にするように、ラックに保持され得る。多数の先端/ニブをラックに置くことで、多数のピペット又はロボティックディスペンサー等を使用することにより、増大したスループットを可能にすることもできる。
【0041】
先端は、両方の開口部で締まり嵌めをもたらすように構成され-クリップ、リブ、環状リング、戻り止め、又は類似のものを、これらの目的で提供してもよい。より大きい第1の開口部は、ピペット又はその他のデバイスと係合するように構成される。その他のデバイスは、一部の実施形態では単にハンドルであってもよいが、その他のデバイスが、使用した先端の、デバイスからの容易な排出を可能にすることが好ましく;例えば、これはその他のデバイスを押し退けるように更に大きい開口部の外側リムと係合することができる、レバー又はプッシュロッド又はその他の機械的手段であってもよい。
【0042】
ニブは、先端から突出するサンプリング端面と、先端内に露出する洗浄端面と、を有する。
【0043】
ニブ
適切なニブ材料は、綿をベースにした材料、又は好ましくは、種々の粘度の生体検体を吸収し保持するようにある範囲の密度で製造することができるPE若しくはPVDF等のプラスチックをベースにした母材を含む。ニブ構成の厳密な詳細は、本発明で使用される特定の適用例に応じて様々であってもよく、当業者なら、適切な材料及び密度を選択することができるようになる。例えば、収集される試料が唾液の場合、1つのそのような適切な材料は、約90%の多孔度の円筒状PE/PP芯である。
【0044】
マーカーペンのニブは、開放細孔構造を創出するために、フェルト又はセルロース等の多孔質の加圧された繊維、又は多孔質の加圧されたプラスチック球でしばしば作製される。本発明のニブは、適切には類似の材料又は構造のものであってもよく、好ましくは定められた多孔度(空隙分率)を有する。
【0045】
ニブは、特定タスク用になるよう、又はある範囲の種々のタスクに対処するように設計することができる。法医学の仕事では、いくつかの適用例では表面の細かい拭取りを可能にするニブの設計、又はより広い領域からサンプリングするための広範な表面を有することが好都合である。例えば表面拭取りから乾燥試料を又は外鼻孔若しくは表皮から試料を収集するために、湿ったときに使用され得るニブを提供することも好都合と考えられ;又は血液、尿、唾液等の液体試料を収集するために、乾燥したときに使用され得るニブを提供することも、好都合と考えられる。
【0046】
フェルトペンのニブは、同じ単一のニブよりも細かい又は大きいインクのストロークを可能にするように、しばしば設計される。同じ設計原理は、本明細書ではニブで用いられてもよく;例えば、端面の傾いたのみの形態は、試料を微細な点、微細なエッジ、又は広範なストロークとして表面から得ることを可能にする。しかしながらニブは、そこに記述され例示される構造的特徴を有する必要がない。その最も単純な状態では、単に平滑な又は丸みの付いた端部を提示し得る。
【0047】
ニブの多孔質形態は、液体試験試料の吸収用の毛管空間を提供することになる。多孔質構造は、公知の体積の試料流体、例えば唾液を、その毛管空間内に引き込むように、それによって、得られた試料の量が調節され、試験がより一貫したものになるように設計することができる。
【0048】
ニブは、標的核酸成分から試料の細胞又はウイルス成分を溶解し又は除去する手段を提供するため、負に帯電した表面を形成するように処理されていてもよく、且つ/又はアニオン性洗浄剤で処理されていてもよく、且つ/又は殺生物剤で処理されていてもよい。
【0049】
セルロース繊維は、僅かに負(アニオン)の電荷を有する。セルロースのヒドロキシル基(-OH)は、様々な試薬と部分的に又は完全に反応して、有用な性質を持つ誘導体を提供することもできる。ニブはしたがって、試験試料からの正に帯電したイオン(Fe3+等)と結合し保持する負に帯電した表面と、中性又は負に帯電したイオン及び分子(DNA等)をニブから流してカチオン性成分から離すように使用されるバルブと、が設けられてもよい。
【0050】
細菌等のほとんどの生細胞は、脂肪脂質二重層により囲まれている。脂質組成物は、同じ細胞内膜全体にわたり同じではなく-哺乳類原形質膜はより高いコレステロール及びスフィンゴ脂質含量を有している。ウイルスは、宿主膜と同じと見なされるエンベロープ脂質も有する(リン脂質、スフィンゴ脂質、一部のコレステロール)。
【0051】
細胞の脂質層を破壊し、その結果、抗菌又は抗ウイルス性を示す、いくつかの異なる化学基がある。これらがデバイスのニブを機能化するのに使用される場合、ニブに浸漬される細胞(細菌を含む)又はウイルスは破裂することになり、それらのDNA及びRNA(又はその他の細胞若しくはウイルス成分、例えば脂質、タンパク質、細胞内小器官若しくは断片、膜若しくは細胞壁断片等)を放出する。
【0052】
以下のTable 1(表2)は、ニブを機能化するための例を与える。マウスウォッシュ製剤(影の付いた領域)は、バイオセーフであり且つ有効であることが公知であり、消費者はデバイスを自分の口の中に入れて試験のために唾液を自分で収集することが可能になるので、特に有用であるように見える。例えばセチルピリジニウムクロリド(CPC)は、様々なマウスウォッシュの活性成分であり、膜破壊剤であることが示されている(非特許文献4)。特に好ましい製剤は、クロルヘキシジンである。
【0053】
組合せは、ある範囲の標的全体にわたって同じ製剤を使用することができるように、異なる生物の脂質二重層に対し目標とされる活性を提供してもよく、又は試料をその使用後にバイオセーフにするため追加の抗菌又は抗ウイルス活性を持つ目標とされる調製物の両方を提供してもよい。
【0054】
試薬は、官能化を通して(例えば、-OH基)、適切な化学結合によってニブに共有結合されてもよく、又はニブ材料内に乾燥され、試料との水和で活性になってもよい。
【0055】
ニブ上での製剤のドライダウンは、唾液(又はその他の試験試料)の希釈を最小限に抑え、したがって切断された材料は元のニブ母材中に吸収される。Table 1(表2)に示されるマウスウォッシュ製剤は、あっという間にウイルス及び細菌に作用することが示された。したがってニブは、以下の支持機能を提供する:
1. 抗ウイルス及び/又は抗菌製剤を必要に応じてドライダウンし、処理により唾液試料を希釈する必要性をなくすための母材;
2. 口内に挿入したときに唾液の生成を引き出す;
3. 引き出された唾液を吸収する;
4. 公知の体積の唾液を収容する。
【0056】
唾液試料は、後続の処理のための試験管に収集され導入されてもよい。或いは口内のサンプラー(ニブ)に挿入し、その場で唾液を収集することが望ましいと考えられる。その場合、ニブは、細胞(例えば、細菌)又はウイルスを破裂させ、DNA及び/又はRNA及び/又はその他の細胞若しくはウイルス成分を放出するが、無毒性であり、したがって生成物を、その手法で使用するのに安全にする能力を有する化合物で処理されてもよい。
【0057】
デバイスの使用
デバイスに関して特に好ましい適用例は、唾液試料の収集であり;例えばSARS-CoV-2等のウイルス感染を試験するための収集である。クロルヘキシジン等の無毒性化学物質の使用は、唾液を吸収するために、デバイスを患者の口に配置できることを意味する。使用中、操作者は、取扱いを容易にするために先端をピペットに接続し、次いでサンプリング端部を口内の唾液に接触させてもよい。次いでこれを多孔質ニブに吸収させ、そこでクロルヘキシジンが、存在する場合にはウイルスカプシドを溶解して、ウイルス核酸をニブ上に放出する。この時点でニブは、唾液によって完全に湿らせることになる。
【0058】
次いで操作者は、先端及びニブと共にピペットを患者の口から取り出し、先端をピペットから放出させて、試験管又はその他の収集デバイス内に落とすことができる。この段階で、先端及びニブは、図2に示される上向き状態にあり;即ち、より大きい開口部が上方に向き、一方、ニブの試料表面は最も低い点にある。
【0059】
次いで操作者は、従来の先端をピペットに接続し、これを使用して洗浄緩衝剤を、先端のより大きい開口部内に吐出して、緩衝剤がニブの上方の洗浄面に接触するようにしてもよい。重力の下、洗浄緩衝剤はニブを通過することになる。これはニブの飽和を維持するが、意外にも重要なことは、溶解した核酸をニブから試験管又はその他の収集デバイス内に溶出することである。通常なら流体が圧力の下で強制的に通過しなければならず、且つ重力が十分ではない可能性があると想定された。例えば、従来の試料調製は、しばしば、試料を毛管母材から放出するのに遠心分離を必要とする。試料がそのような高効率で現行デバイスから容易に放出され得ることは、完全に予測されなかった。
【0060】
或いは、試料収集と操作との両方でピペットを使用するのではなく、試料収集のための先端を代替のクリップ又はハンドルに固定し、次いで試験管に移すことができた。
【0061】
次いで先端及びニブを試験管から取り出し、放出された試料を試験に使用することができる。
【0062】
本明細書に記述される先端及びニブデバイスの特定の利点は、使用することができる試料のタイプと適切な下流の処理との両方における、その多様性である。特にデバイスは、通常、フロック、綿、若しくはフォームスワブ、又はキューティクルスティックにより様々に収集されると考えられる全てのタイプの試料に使用することができる。先端及びニブデバイスは、試料の抽出及び希釈に使用することができ、バイオセーフであり、単一の一体化された収集及び取扱いデバイスを使用して、湿潤及び乾燥試料の収集に使用することができる。この多様性、及びその他の試料収集技法との比較を、以下の表にまとめる。
【0063】
【表1】
【0064】
このように先端及びニブデバイスは、単一製品で多数の機能を組み合わせ、種々のタイプの試料及び試験プロトコルに関して種々の試料デバイスを使用する必要性を低減させる。
[実施例]
【0065】
図3は、異なる官能性を持つニブからコロナウイルス229Eが混ぜられた唾液試料のRT-qPCR分析からの結果を示す。試料はニブに吸収され、次いでTris緩衝剤pH 7.5をニブの洗浄面に添加して、試料をニブから放出するようにした。次いで放出された試料を、従来のプロトコルに従いRT-qPCRにさらした。
【0066】
縦軸は、ウイルスを検出するのに必要とされるサイクル数を示し、したがってより低いサイクル数はより感受性が高くなる。左から右に、ニブ上の種々の官能化薬剤が、CIT-シトラル、PP-ポビドン-ヨウ素、BE-塩化ベンザルコニウム、CE-セチルピリジニウム、CH-クロルヘキシジンジグルコレートである。最後の2つのプロットは、核酸を放出する対照方法であり:95C-10分間、95℃に加熱、TDI50-ウイルスを死滅させる独自の方法である。
【0067】
溶解剤の試験
本発明者等は、検出のための核酸の放出における種々の活性剤の使用を更に調査することを決め、その目的は、無毒性の、核酸を試料から放出するのに有効であり且つ増幅を妨げない薬剤を同定することであった。初期試験は、セチルピリジニウムクロリド(CPC)、ポビドン(PVP)、シトラル、ポビドン-ヨウ素、及びクロルヘキシジンで実施した。各薬剤を、2%、0.6%、0.2%、及び0.02%の濃度で試験し;且つ溶出緩衝剤対照(Tris-HCl、活性剤なし)で試験した。
【0068】
SARS-CoV-2を検出するよう設計され、SARS-CoV-2標的遺伝子であるE遺伝子、RdRP遺伝子、及びヒトRP(内部対照として)を含有する陽性対照を含む、YouSeq製のE-RdRPキットを使用した。各反応は、下記を含んだ:
10uL MasterMix
1uL プライマー/プローブ
3uL 水
1uL テンプレート又は水
5uL 緩衝剤
【0069】
PCRを、下記の条件下で実施した:
55Cで10分間のRT工程
95Cで3分間の変性
×45サイクル
95Cで15秒間
60Cで60秒間
【0070】
増幅を、Quantstudio Q5を使用してモニターした。
【0071】
結果を、図4及び図5のグラフに示す。CPC及びポビドン-ヨウ素は、増幅を強力に阻害することがわかり;シトラル及びクロルヘキシジンは、より高い濃度で阻害し;且つポビドンは、増幅を阻害しない。より詳細には、グラフは、以下を示す:
【0072】
図4A.溶出緩衝剤対照。全ては増幅を示す。これは全ての対照が合格し、したがってデータは有効であることを意味する。図4B.塩化セチル。全ては平らな線であり、明らかなPCR阻害である。図4C.ポビドン。全ては増幅を十分に示し、有意な阻害がないことを意味する。2%~0.2%の間にパターンはない。図4D.シトラル。全ては増幅を示す。しかしながら、2%~0.2%の間に明らかな阻害効果がある。図4E.ポビドンヨウ素。全ては平らな線であり(しかし、1つの弱いレプ(rep)がある)、明らかなPCR阻害である。図4F.クロルヘキシジン。僅か0.2%が十分増幅された。より弱いCt値がある。明らかなPCR阻害である。
【0073】
図5A.溶出緩衝剤対照。全ては増幅を示す。これは全ての対照が合格し、したがってデータは有効であることを意味する。図5B.塩化セチル。全ては平らな線であり、明らかなPCR阻害である。図5C.ポビドン。全ては増幅を十分に示し、有意な阻害がないことを意味する。0.06%が、0.2%と比較して改善されたCt値を有する。図5D.シトラル。全ては増幅を十分に示し、有意な阻害がないことを意味する。0.06%が、0.2%と比較して改善されたCt値を有する。図5E.ポビドンヨウ素。全ては平らな線であり(しかし、2つの弱いレプがある)、明らかなPCR阻害である。図5F.クロルヘキシジン。全ては増幅を十分に示し、有意な阻害がないことを意味する。0.06%が、0.2%と比較して改善されたCt値を有する。
【0074】
次いで後者の3種の薬剤を、照射された全SARS-CoV-2粒子から核酸を放出し、次いで阻害なしで増幅を受ける能力に関して試験した。対照は、この目的に適した公知の緩衝剤、Mswab緩衝剤を使用した。薬剤の種々の組合せを試験した:
A = 1% ポリビニルピロリドン(10,000)
B = 0.9% ポリビニルピロリドン+0.1%クロルヘキシジン
C = 0.9% ポリビニルピロリドン+0.1%シトラル
D = 1% クロルヘキシジン
E = 1% シトラル
【0075】
結果を図6に示す。全てが有効であることがわかり;しかしながら、緩衝剤B及びCが好ましい。血漿タンパク質に近い物理的類似性を保持するポビドン(ポリビニルピロリドン、PVP)を、医薬産業で、薬物を吐出し懸濁するための合成ポリマービヒクルとして使用する。崩壊剤及び錠剤結合剤としても作用する。その純粋形態では白色からオフホワイトの吸湿性粉末のように見え、水に容易に溶解する。ポビドン自体は、報告された微生物活性を持たないが、ポビドン-ヨウ素は、急速で強力な、広範囲にわたる抗菌特性を示す。ポビドンは、動物に対して著しい毒性を出現させることなく、ウイルスに対して強力な阻害作用を有することが見出された。抗菌活性を持たないPVPと、抗菌活性を有するクロルヘキシジン及びシトラルと、の組合せは、qPCRのための核酸を放出する、広範囲にわたる破壊物質を作製する。これは以前離されておらず、確かに、クロルヘキシジン等の化合物は一般にPCR阻害剤として見られている。本発明者等は、組合せが、qPCRに対するそれらの影響を低減させ且つ破壊物質として有効のままにするのに使用できることを決定した。
【0076】
【表2A】
【表2B】
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6
【国際調査報告】