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特表2024-523537水稲のアミロース含有量を低減し水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】水稲のアミロース含有量を低減し水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 25/00 20060101AFI20240621BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240621BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20240621BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20240621BHJP
   A01H 3/00 20060101ALN20240621BHJP
   A01H 6/46 20180101ALN20240621BHJP
【FI】
A01G25/00 501Z
A01G7/00 604Z
A01G22/22 Z
C12N15/29
A01H3/00
A01H6/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579432
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 CN2022106459
(87)【国際公開番号】W WO2023001142
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110825387.4
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202210832418.3
(32)【優先日】2022-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507255592
【氏名又は名称】南京▲農業▼大学
(71)【出願人】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ウェンビャオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ペンフェイ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ゼン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,シュウ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,トン
(72)【発明者】
【氏名】ホワン,リチン
(57)【要約】
【解決手段】 本発明は、水稲のアミロース含有量を低減し水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法を開示しており、農業生産の分野に属する。該方法は、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水で、湛水灌漑及び/又はスプリンクラー灌漑によって、活着期から登熟期までの期間に水稲田を灌漑し、水稲のアミロース含有量を効率よく低減させる。本発明に記載の方法は水稲の品質を改善し、食味品質を高めることができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して水稲田を灌漑することを含むことを特徴とする、水稲のアミロース含有量を低減する方法。
【請求項2】
前記普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水中の溶解水素濃度が、特定の濃度範囲を有し、より好ましくは500~1600ppbであり、さらに好ましくは700~1400ppbであり、最も好ましくは1000~1200ppbであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の灌漑が、アミロースの含有量を4%~40%低減していることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各シーズンの、水稲の活着期から登熟期に、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を灌漑する総量が1200~5400m/hmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
各シーズンの、水稲の活着期から登熟期に、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して灌漑する回数が3~8回であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノバブル水素水において、ナノバブルの直径範囲が30~600nmであり、さらに好ましくは範囲が30~500nmであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノバブル水素水中の水素ガスの半減期が3~8hであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノバブル水素水は、マイクロナノ曝気装置を利用して水素ガスを灌漑水源と混合して得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して水稲田を灌漑することを特徴とする、水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法。
【請求項10】
前記水稲のWx遺伝子の発現レベルが低減することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業生産の分野に属し、水稲のアミロース含有量を低減し水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法に関する。具体的には、本発明は、水素リッチ水の、水稲のアミロース含有量を低減し水稲のWx遺伝子の発現を調節する面での応用に関する。
【背景技術】
【0002】
水稲は、重要な、そして広範囲で栽培される穀類作物である。アジアにおける水稲の生産量は世界の90%前後を占める。水稲は、選別、籾すり、精米、製品整理等の工程を経た後に得られる米(稲米ともいう、Rice)は重要な主食である。経済発展と生活水準の絶え間ない向上に伴い、米の品質に対する人々のこだわりも高まる一方である。このため人々は、農業生産技術を絶え間なく改良して米の栄養と食味品質を高めている。
【0003】
米の中のデンプンは、ブドウ糖からなる多糖高分子化合物であり、分岐構造を主とするアミロペクチンと、線形構造を主とするアミロースとを含む。これら2つのタイプのデンプンの含有量、分子量、空間構造及びその相互関係は、米の品質の優劣に影響する重要な要素であり、蒸煮過程における米の水分吸収や体積膨張に直接影響し得る。アミロース含有量が多ければ、蒸煮後の米飯の噛み応えが弱く、粘性が小さく、弾力性が低く、つやが悪い。逆に、アミロース含有量が少なければ、蒸煮後の米飯の粘性が比較的高く、噛み応えが強く、弾力性が高く、食感が良い。通常、アミロース含有量20%以上の米は食味が悪く、アミロースが15%~20%以下であれば食味が良い。
【0004】
水稲の品質改良の進展を遅くしている主な原因の1つが、水稲の品質遺伝の複雑性と伝統的育種手段の限界である。特許番号CN105671183Bの中国発明特許は、稲米アミロース含有量微調節遺伝子AGPL3の分子標識及び応用を開示している。同特許は、伝統的育種方法は主に、有利な目標性状について定方向選択及び固定を行い、優れた新品種を育てるが、これには大きな盲目性と予測不可能性があることを開示している。このため、低アミロース含有量の水稲の品種の選抜育種過程は複雑であり、コストが高く、遺伝安定性が低く、選抜育種の結果は往々にして不十分である。遺伝子組み換え水稲の大規模な環境放出及びその商品化生産も、生物学的安全性にかかわる潜在的な問題をもたらす可能性がある。このため、農業生産技術を改良することによって水稲の品質を改善することが新たなトレンドになっている。
【0005】
水素ガス(H)は、ありふれた、還元性を有する気体である。特許番号CN102657221Bの中国発明特許は、水素リッチ液状植物成長調節剤及びその調製方法と応用を開示している。同特許は、水素リッチ液状植物成長調節剤は、作物のストレス抵抗性、ストレス耐性、農業形質及び代謝機能を高めることができ、他の化学的調節方法と比べ、優れたコストパフォーマンスと環境保護の面での優位性を有することを開示している。水素ガスは信号分子として、作物が重金属の脅威に抵抗する能力を増強することができ、作物が紫外線に抵抗する能力を高めることができる。水素ガスは、農作物の、栄養物質に対する吸収を促進し、農産物の品質を改善することもできる。ただし、水素ガスは調製するコストが高く、水素ガスの半減期は短く、作用を発揮する時間も短い。
【0006】
特許番号CN106699330Aの中国発明特許は、徐放性/放出制御水素肥料又は複合水素肥料の調製方法と応用を開示している。同特許は、二水素化マグネシウム(MgH)等を徐放性肥料として農地に応用し、作物の成長を促進することを開示している。ただし、二水素化マグネシウムを土壌中に施用すればアルカリ性物質を生じるため、土壌の局所的な塩類化の深刻化につながりやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願は、水稲のアミロース含有量を低減する方法、及び水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法を開示している。従来技術において採用されている、水稲育種により品質を改良する方法とは異なり、本願は水素リッチ水を採用して水稲田を灌漑する。さらには、本願はマイクロナノ曝気装置を採用して、水素ガス濃度が高く、半減期が長く、コストが低いナノバブル水素水を調製しており、生物学的効果がさらに顕著である。
【0008】
本発明の第1の態様は、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して水稲田を灌漑することを含む、水稲のアミロース含有量を低減する方法を提供している。
【0009】
さらには、前記普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水中の溶解水素濃度が、特定の濃度範囲を有し、より好ましくは500~1600ppbであり、さらに好ましくは700~1400ppbであり、最も好ましくは1000~1200ppbである。
【0010】
さらには、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の灌漑が、アミロースの含有量を4%~40%低減している。
【0011】
さらには、各シーズンの、水稲の活着期から登熟期に、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を灌漑する総量が1200~5400m/hmである。
【0012】
さらには、各シーズンの、水稲の活着期から登熟期に、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して灌漑する回数が3~8回である。
【0013】
さらには、前記ナノバブル水素水において、ナノバブルの直径範囲が30~600nmであり、さらに好ましくは範囲が30~500nmである。
【0014】
さらには、前記ナノバブル水素水中の水素ガスの半減期が3~8hである。
【0015】
さらには、湛水灌漑及び/又はスプリンクラー灌漑の方式によって水稲を灌漑する。
【0016】
さらには、前記ナノバブル水素水は、マイクロナノ曝気装置を利用して水素ガスを灌漑水源と混合して得られる。
【0017】
本発明の第2の態様は、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して水稲田を灌漑する、水稲のWx遺伝子の発現を調節する方法を提供している。具体的には、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水を使用して水稲田を灌漑すれば、水稲のWx遺伝子の発現レベルを低減することにより、水稲中アミロースの含有量を低減することができる。
【0018】
このため、本発明の第1の態様が提供する、水稲のアミロース含有量を低減する方法は、Wx遺伝子の発現を調節することにより、水稲中のアミロース含有量を低減することができる。
【0019】
本願の技術的解決策は、農作物の発育生理研究のために実践の拠り所を提供するだけでなく、しかも、農産物の化学調節及び農産物開発のためにも新たな実践の理念を提供することができると同時に、以下の利点も有する。
【0020】
1.出願人は、特定濃度(飽和濃度未満)の、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の灌漑は、水稲のアミロースの含有量を効率よく低減し、米の栄養と食味品質を高めることができることを見出した。異なる水稲の品種に対し、該特定濃度の範囲は、ある程度変動するが、出願人は、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の、生物学的効果を発揮するときの、この顕著な特性を依然として観察した。
【0021】
2.出願人は、ナノバブル水素水中の水素ガスは、可能な限り多く溶解され、水中での滞留時間がより長く、半減期がより長いことを見出した。このためナノバブル水素水で灌漑した後に、稲米のアミロース含有量がさらに顕著に減少し、農地生産において灌漑面積が大きく灌漑にかかる時間が長いという実際の状況に、さらに適合する。
【0022】
3.普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水はそのまま灌漑水源とすることができ、人体に対して刺激性はない。農地灌漑後に速やかに拡散する。化学的特性が安定しており、安全性が高く、水素ガスが爆発する最低限度(約4%)をはるかに下回っている。
【0023】
4.普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水は水素ガス及び水のみから構成され、汚染がなく、人体や環境に対して悪影響を生じるおそれがない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願の具体的実施例について詳しく説明する。しかしながら、本願は以下に記述するような実施形態に限定されないと理解しなければならず、しかも、本願の技術理念は、他の公知の技術又は機能、それら公知の技術と同じ他の技術と組み合わせて実施することができる。
【0025】
なお、「第1の」、「第2の」という用語は、記述する目的にのみ用いられ、時間的順序、数量、若しくは重要性に対する限定を指すものではなく、相対的な重要性を指示又は暗示しているか若しくは指示されている技術的特徴の数を黙示的に指していると理解してはならず、本技術的解決策中の1つの技術的特徴を、もう1つの技術的特徴と区別するためのものであるに過ぎない。これにより、「第1の」、「第2の」と限定されている特徴は、1つ又は複数の該特徴を明示的又は黙示的に含むことができる。本願の記述では、明確且つ具体的な規定が別途ある場合を除き、「複数の」は、2つ又は2つ以上という意味である。同様に、本明細書中に出現する、「一」に類する限定語は、数量に対する限定を指すものではなく、前文において出現していない技術的特徴を記述するものである。同様に、特定の数量の助数詞で修飾された名詞でない限り、本明細書においては単数形も複数形も含むと見なさなければならず、該技術的解決策においては、単数の該技術的特徴を含むことができ、複数の該技術的特徴を含むこともできる。同様に、本明細書において数詞の前に出現する、「約」、「近似的には」に類する修飾語は通常、その数を含み、しかも、その具体的意味については、文脈と結び付けて理解しなければならない。
【0026】
本願では、「少なくとも1つの(1項目の)」は1つ若しくは複数を指し、「複数の」は2つ又は2つ以上を指すことを理解しなければならない。「及び/又は」は、関連する対象の関連関係を記述するために用いられ、3種類の関係が存在し得ることを表しており、例えば、「A及び/又はB」は、Aのみ存在する、Bのみ存在する、AとBが同時に存在する、という3種類の状況を表すことができ、ここでA、Bは単数若しくは複数であってよい。記号「/」は一般に、前後の関連する対象が、一種の「又は」という関係であることを表す。「以下の少なくとも1項目(1つ)」又はそれに類する表現は、それらの項目中の任意の組み合わせを指し、単数の項目(1つ)又は複数の項目(複数個)の任意の組み合わせを含む。例えば、a、b又はcのうち少なくとも1項目(1つ)は、a、b、c、「a及びb」、「a及びc」、「b及びc」、又は「a及びb及びc」を表すことができ、ここでa、b、cは単数であってよく、複数であってもよい。
【0027】
逆の場合が明確に指摘されていない限り、ここで限定される個々の態様又は実施形態は、他の1つ又は複数のあらゆる態様、若しくは、1つ又は複数のあらゆる実施形態と組み合わせることができる。特に、指摘された、好ましいか又は有利であるあらゆる特徴は、他の、指摘された、好ましいか又は有利であるあらゆる特徴と組み合わせることができる。
【0028】
マイクロバブル(すなわちミリメートル、マイクロメートル及びナノメートルサイズの気泡)を含有する気液混合物流体は、様々な業種に用いられている。本願において記述されたマイクロナノ曝気装置は、気体を高速旋回切断方式で液体に溶け込ませ、直径が600nm未満のマイクロナノバブルを発生させることにより、気体を急速且つ効率よく液体に溶け込ませる。マイクロナノ曝気装置は気体の溶解効率を高めることができる。マイクロナノバブルは、気泡が小さい、比表面積が大きい、上昇速度が遅い、滞留時間が長い等の強みを有する。研究により、マイクロナノバブルの減衰速度が遅くなるほど、曝気のニーズに、より適応できることが明らかになっている。本願で使用されるマイクロナノ曝気装置は、当業者が熟知しているマイクロナノバブル技術を採用した装置であってよく、管路、マイクロナノ気液混合タンク、マイクロナノ曝気ヘッド、制御システム及びインターロックシステム等を主に備える。該装置の定格水調製量の範囲は約25~40トン/時間であり、水素ガスの入口流量は30~50SLMPに達し得る。該装置が調製することができるナノバブル水素水中の気泡の平均直径は30~500nmの間に分布し、さらには250nm~350nmの間に分布し、そしてさらには平均直径が約300nmに達し得る。該装置が調製するナノバブル水素水の溶解水素濃度は、0~1600ppbの範囲で必要に応じて調節可能である。
【0029】
本明細書で用いられているように、「半減期」が指すのは、濃度が半減するのに要する時間である。水素ガスは水に溶けた後、開放容器の中でも水からゆっくりと分離し、水の中の水素ガス濃度は徐々に低減する。これは「皙溶」現象と呼ばれる。開放容器の中で、普通の中の水素ガス半減期は1~2時間前後であり、ナノバブル水素水(Nano bubble Hydrogen Water)の中の水素ガス半減期は濃度により異なり、約3時間~8時間である。
【0030】
本明細書で用いられているように、「水素リッチ水」、すなわちHydrogen Rich Water(HRW)は、水素ガスを豊富に含む水を指す。水素ガスの溶解度が指すのは、水素ガス(圧力は1標準大気圧)が一定の温度下で1体積の水に溶解する体積数である。標準条件(1大気圧、20°C)の下で、水素ガスの溶解度は1.83%であり、すなわち、水100ミリリットルにつき1.83ミリリットルの水素ガスが溶解可能である。上記の体積比と質量比は換算可能であり、水1リットルにつき1.6mgの水素ガスが溶解たとは、つまり、水素水の飽和濃度は1.6ppmである。
【0031】
普通水素リッチ水:水素ガス発生器(型番はSHC-500、賽克賽斯、山東、中国)が直流電流で水酸化カリウム溶液を電解し水と気体が分離した後に水素ガス(純度>99.999%)を得、さらに灌漑水源に一定時間通入して、水素ガスの気泡直径が1μm以上である普通水素リッチ水を得る。普通水素リッチ水は、単独で、若しくは灌漑水源と混和することで、所要の濃度にすることができる。
【0032】
ナノバブル水素水:マイクロナノ曝気装置を利用して水素ガスを灌漑水源と混合することによりナノバブル水素水を調製する。ナノバブル水素水の中では、超微細気泡が水素ガスを包み込み、水素ガスが抜けるのを阻止する。本願は農地灌漑のニーズに応じ、ナノバブル水素水を、単独で、若しくは灌漑水源と混和することで所要の濃度にすることができる。上記水素ガスは、ボンベガスに由来するか、又は物理的/化学的方法で調製された水素ガスであってよい。本明細書で用いられているように、「ナノバブル水素水」は、直径が30nm~600nmの範囲のナノバブルを有する水素リッチ水であると理解することができる。ナノバブルは、600nm未満の平均直径、又は500nm未満の平均直径、又は範囲約30nm~400nmの平均直径、又は範囲約50nm~約350nmの平均直径、又は範囲約75nm~約300nmの平均直径、又は範囲約100nm~250nmの平均直径、又は範囲約100nm~200nmの平均直径を有していてよい。ナノバブル水素水の溶解水素濃度は200~1600ppbに達してよく、より好ましくは300~1500ppbに達してよく、さらに好ましくは600~1400ppbであり、最も好ましくは800~1300ppbである。いくつかの実施形態では、環境圧力と温度の下、これらのナノバブルは液体担体中で少なくとも15時間前後にわたり安定可能である。
【0033】
本明細書で用いられているように、普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水中の「溶解水素濃度」は「出口水素濃度」であると理解することができ、指しているのは、水素ガス発生器若しくはマイクロナノ曝気装置の出口で測定される溶解水素濃度である。水素ガスの散逸を考慮するが、当業者が知っているのは、水素水を継続的に加える等の方式を採用して、農地で灌漑する普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の濃度を可能な限り該出口水素濃度に近付けられることであり、例えば80%以上の出口水素濃度であり、より好ましくは85%以上の出口水素濃度であり、さらに好ましくは90%以上の出口水素濃度であり、最も好ましくは95%~99.9%の出口水素濃度である。
【0034】
本明細書で用いられているように、「農地」という用語は、農業生産の用地、耕作する田畑を指し、食糧作物、経済作物(油脂原料作物、野菜作物、花卉、牧草、果樹)、工業原料作物、飼料作物、漢方薬材を栽培する土地又は田畑を含むが、それらに限定されない。好ましくは、大量に成長するか又は大面積で収穫することができ、利益を得るか又は糧食用の植物栽培地(例えば穀物、野菜、綿花、亜麻等)を指す。さらに好ましくは、水稲、トウモロコシ、豆類、芋類、ハダカムギ、ソラマメ、小麦、アブラナ、カブ、タカナ、落花生、ゴマ、大麻、ヒマワリ、大根、ハクサイ、キンサイ、ニラ、ニンニク、ネギ、ニンジン、シロウリ、キャベツ、キクイモ、ナタマメ、コリアンダー、ステムレタス、金針菜、トウガラシ、キュウリ、トマト、香菜等を栽培する田畑又は土地を指す。本願では、「田畑」という用語は「農地」と等しく、田畑又は農地の面積又は形状について特別な要件はない。
【0035】
アミロース含有量(Amylose Content)の測定については、試料に含まれるアミロースの含有量が試料の総質量に占める百分率、というGB/T1354-2018における規定を参照した。
【0036】
研究により、胚乳中のアミロースは、Wx遺伝子にコードされた顆粒結合性(GBSS1)によって触媒され合成されることが明らかにされている。近年、育種家たちは、Wx遺伝子の、稲米の品質・性状に対する関係について幅広く遺伝研究を行い、水稲品質の改良と新品種の育成のためにさらに用いるために、様々なWx対立遺伝子の、米のアミロース含有量に対する様々な効果を把握した。本願において使用される普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水は、水稲Wx遺伝子及びその対立遺伝子等の発現レベルを調節することができる。研究により、胚乳中のアミロースは、Wx遺伝子がデンプン粒子上にコードしたデンプン合成酵素により触媒され合成されることが明らかにされている。
【0037】
Wx対立遺伝子の遺伝子発現レベルの測定は、Livak、K.J.らがAnalysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2-△△CTMethod.Methods 2001,25,402-408において記述した方法を参照して行った。リファレンスとして内部標準遺伝子を採用し、内部標準遺伝子の発現レベルは、初期材料のロード量を正確に定量化することができる。内部標準遺伝子は、発現レベルが研究条件の影響を受けず、且つ、複数種のサンプルの間で定常的に発現可能な既知の標準遺伝子のことを指す。
【0038】
水稲の成長段階は通常、浸種、催芽、播種、苗期、移植、活着期、分蘗期、幼稲分化期、出穂開花期、登熟期及び成熟期を概ね経る必要がある。
【0039】
本願の技術的解決策では、湛水灌漑及び/又はスプリンクラー灌漑の方式によって、活着期から登熟期までの期間に3~8回のナノバブル水素水及び/又は普通水素リッチ水灌漑を行う。各シーズンに水稲に用いられるナノバブル水素水及び/又は普通水素リッチ水の総量は約1200~5400m/hmである。好ましい実施形態は、活着期、分蘖期、出穂期、開花期、登熟期にナノバブル水素水及び/又は普通水素リッチ水を灌漑する、というものである。毎回の灌漑水量は、現地の気候、地表水の基準、土壌の質、水稲の品種、降雨量の変化のすべてと関係する。指摘しておかなければならないのは、農地農業は、面積の広い田畑で作物を栽培することを指す、という点である。実験室栽培との主な違いは、農地の環境は複雑であり、管理可能性が低く、高精度の管理が容易ではない、という点にある。本願における灌漑水量は、土壌表面から2~10cm程度の水位まで湛水するのが適切である。具体的な灌漑水量については、農業の実践及び経験に基づいて調整する必要がしばしばある。
【0040】
溶存水素計ENH-2000(TRUSTLEX、日本;ガスクロマトグラフィーで補正も行う)を使用して出口水素濃度を測定する。
【0041】
「米又は稲米(Rice)」という用語は、水稲(Oryza sativa)の種類に属する植物種子を加工して得られる製品を指す。
【実施例
【0042】
実施例1:普通水素リッチ水及びナノバブル水素水の灌漑の、水稲「南粳5055」のアミロース含有量に対する影響
本実施例では、水稲「南粳5055」を試験対象とする。水稲田については分割試験区法を採用し、以下の群ごとに、同じ分割区を3つずつ設定する。各分割区の面積は4m×4mであり、各分割区は40穴で、苗を1穴につき10株ずつ栽培し、それぞれの分割区の間に保護列がさらに設けられている。栽培期間には、以下の異なる灌漑方式をそれぞれ採用し、活着期から登熟期までの期間に6回灌漑を行い、灌漑水量は1回につき450m/hmであり、総灌漑水量は2700m/hmである。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。水稲の収穫後に、米の中のアミロースの含有量を測定する。
【0043】
各群の農地の灌漑方式は次の通りである。
1-1群:平常の地表水を灌漑水源として採用する。
1-2群:出口水素濃度が200~300ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
1-3群:出口水素濃度が500~700ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
1-4群:出口水素濃度が1000~1200ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
1-5群:出口水素濃度が1400~1600ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
1-6群:出口水素濃度が200~300ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
1-7群:出口水素濃度が500~700ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
1-8群:出口水素濃度が1000~1200ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
1-9群:出口水素濃度が1400~1600ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
【0044】
実験結果は表1に示す通りである。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示す通り、地表水灌漑と比較して、普通水素リッチ水又はナノバブル水素水を使用して水稲を灌漑した後、水稲「南粳5055」のアミロース含有量がいずれも、ある程度減少している。ナノバブル水素水灌漑がアミロース含有量を低減する効果が、より顕著であることが分かる。濃度が1000~1200ppbの普通水素リッチ水とナノバブル水素水を例にすると、ナノバブル水素水で灌漑された水稲のアミロース含有量は、さらに8.3%減少している。しかも、ナノバブル水素水で灌漑された水稲のアミロース含有量はいずれも、同じ水素ガス濃度の普通水素リッチ水で灌漑した水稲のアミロース含有量よりも少ない。
【0047】
本出願人はさらに、普通水素リッチ水又はナノバブル水素水は、アミロース含有量を低減する効果において、濃度が高いほど良いわけではないことを予想外に見出した。表1から、普通水素リッチ水又はナノバブル水素水はいずれも1000~1200ppbの範囲のときにアミロース含有量が最も大きく減少しており、1-1群と比べてそれぞれ約19%ならびに27.3%低減していることが分かる。普通水素リッチ水若しくはナノバブル水素水の濃度が1400~1600ppbの範囲まで上昇するのに伴い、アミロース含有量を低減する効果が、さらに優れたものになってはいない。
【0048】
実施例2:普通水素リッチ水及びナノバブル水素水灌漑の、水稲「▲かん▼晩▲せん▼35」のアミロース含有量に対する影響
本実施例では、水稲「▲かん▼晩▲せん▼35」を試験対象とする。水稲田については分割試験区法を採用し、以下の群ごとに、同じ分割区を3つずつ設定する。各分割区の面積は4m×4mであり、各分割区は40穴で、苗を1穴につき10株ずつ栽培し、それぞれの分割区の間に保護列がさらに設けられている。栽培期間には、以下の異なる灌漑方式をそれぞれ採用し、活着期から登熟期までの期間に8回灌漑を行い、灌漑水量は1回につき600m/hmであり、総灌漑水量は4800m/hmである。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。水稲の収穫後に、米の中のアミロースの含有量を測定する。
【0049】
各群の農地の灌漑方式は次の通りである。
2-1群:平常の地表水を灌漑水源として採用する。
2-2群:出口水素濃度が200~300ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
2-3群:出口水素濃度が500~700ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
2-4群:出口水素濃度が1000~1200ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
2-5群:出口水素濃度が1400~1600ppbの普通水素リッチ水を灌漑水源として採用する。
2-6群:出口水素濃度が200~300ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
2-7群:出口水素濃度が500~700ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
2-8群:出口水素濃度が1000~1200ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
2-9群:出口水素濃度が1400~1600ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
【0050】
実験結果は表2に示す通りである。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示す通り、地表水灌漑と比較して、普通水素リッチ水及びナノバブル水素水を使用して水稲を灌漑した後、水稲「▲かん▼晩▲せん▼35」のアミロース含有量がいずれも、ある程度減少している。ナノバブル水素水灌漑がアミロース含有量を低減する効果が、より顕著であることが分かる。濃度が1000~1200ppbの普通水素リッチ水とナノバブル水素水を例にすると、ナノバブル水素水で灌漑された水稲のアミロース含有量は、さらに3.4%減少している。しかも、ナノバブル水素水で灌漑された水稲のアミロース含有量はいずれも、同じ水素ガス濃度の普通水素リッチ水で灌漑した水稲のアミロース含有量よりも少ない。
【0053】
表2から、普通水素リッチ水又はナノバブル水素水はいずれも1000~1200ppbの範囲のときに、アミロース含有量が最も大きく減少しており、2-1群と比べてそれぞれ約20.7%ならびに35%低減していることが分かる。普通水素リッチ水若しくはナノバブル水素水の濃度が1400~1600ppbの範囲まで上昇するのに伴い、アミロース含有量を低減する効果がさらに良くなってはいない。
【0054】
実施例3:ナノバブル水素水灌漑の、水稲「滬軟1212」のアミロース含有量に対する影響
本実施例では、水稲「滬軟1212」を試験対象とする。2つ試験区を設け、各試験区の面積は0.8hmである。異なる試験区の間に保護列が設けられている。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。栽培期間には、以下数種の、異なる灌漑方式をそれぞれ採用し、活着期から登熟期までの期間に6回灌漑を行い、灌漑水量は1回につき300m/hmであり、総灌漑水量は1800m/hmである。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。水稲の収穫後に、米の中のアミロースの含有量を測定する。
【0055】
各群の農地の灌漑方式は次の通りである。
3-1:平常の地表水を灌漑水源として採用する。
3-2:出口水素濃度が1000~1200ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
【0056】
実験結果は表3に示す通りである。
【0057】
【表3】
【0058】
表3から、特定濃度のナノバブル水素水で灌漑された後、米「滬軟1212」のアミロース含有量は約18.6%、顕著に減少していることが分かる。ナノバブル水素水で処理された後、「滬軟1212」中のWx遺伝子の相対的発現レベルは約65%低減している。
【0059】
実施例4:ナノバブル水素水灌漑の、水稲「花優14」のアミロース含有量に対する影響
本実施例では、水稲「花優14」を試験対象とする。2つ試験区を設け、各試験区の面積は0.667hmである。異なる試験区の間に保護列が設けられている。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。栽培期間には、以下数種の、異なる灌漑方式をそれぞれ採用し、活着期から登熟期までの期間に3回灌漑を行い、灌漑水量は1回につき375m/hmであり、総灌漑水量は1125m/hmである。水稲の収穫後に、米の中のアミロースの含有量を測定する。
【0060】
各群の農地の灌漑方式は次の通りである。
4-1:平常の地表水を灌漑水源として採用する。
4-2:出口水素濃度が1000~1200ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
【0061】
実験結果は表4に示す通りである。
【0062】
【表4】
【0063】
表4から、特定濃度のナノバブル水素水で灌漑された後、水稲「花優14」のアミロース含有量は約16.8%、顕著に減少していることが分かる。
【0064】
実施例5:ナノバブル水素水灌漑の、水稲「清香軟粳」のアミロース含有量に対する影響
本実施例では、水稲「清香軟粳」を試験対象とする。2つ試験区を設け、各試験区の面積は0.8hmである。異なる試験区の間に保護列がさらに設けられている。栽培期間には、以下数種の、異なる灌漑方式をそれぞれ採用し、活着期から登熟期までの期間に6回灌漑を行い、灌漑水量は1回につき675m/hmであり、総灌漑水量は4050m/hmである。農地管理は、現地の平常の病虫害防除等の方式に従って行う。水稲の収穫後に、米の中のアミロースの含有量を測定する。
【0065】
各群の農地の灌漑方式は次の通りである。
5-1:平常の地表水を灌漑水源として採用する。
5-2:出口水素濃度が1000~1200ppbのナノバブル水素水を灌漑水源として採用する。
【0066】
実験結果は表5に示す通りである。
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示す通り、特定濃度のナノバブル水素水で灌漑された後、水稲「清香軟粳」のアミロース含有量は約38.1%、顕著に減少している。
【0069】
従って、本願の技術的解決策は、特定濃度の普通水素リッチ水及び/又はナノバブル水素水の灌漑は、水稲のアミロースの含有量を効率よく低減し、米の栄養と食味品質を高めることができることを示している。特に、ナノバブル水素水中の水素ガスの半減期はより長く、農地生産における実際の状況に非常に適合する。
【0070】
本明細書に記載したのは、本願の、より好ましい具体的実施例であるに過ぎず、以上の実施例は、本願の技術的解決策を説明するためにのみ用いられ、本願に対する制限ではない。当業者が本願の趣旨に基づき、論理的分析、推理若しくは有限な実験によって得ることのできる技術的解決策はすべて、本願の範囲内になければならない。
【国際調査報告】