(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】がんの再発の予測
(51)【国際特許分類】
G01N 33/574 20060101AFI20240621BHJP
C07K 16/40 20060101ALI20240621BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240621BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
G01N33/574 A
C07K16/40 ZNA
C12N15/13
C07K17/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579474
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 SE2022050614
(87)【国際公開番号】W WO2022271069
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523482248
【氏名又は名称】アロセル エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,スタファン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンジ,パー
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、血液癌と診断された患者の身体サンプルに含まれる血清チミジンキナーゼ1(STK1)物質のレベルを、ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して測定することによって、がんの再発を予測することまたは患者の生存期間を予測することに関する。測定されたSTK1物質のレベルは、該患者の年齢に基づいて選択される閾値と比較される。がんの再発は、その後該比較に基づいて予測される。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんの再発を予測する方法であって:
血液癌と診断された患者の身体サンプルに含まれる血清チミジンキナーゼ1(STK1)物質のレベルを、ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して測定すること、
前記測定されたSTK1物質のレベルを、前記患者の年齢に基づいて選択される閾値と比較すること、及び
前記患者のがんの再発を、前記比較に基づいて予測すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
さらに、前記比較に基づいて、前記患者に関するハザード比(HR)を推定することを含み、がんの再発を予測することが、前記推定されたHRに基づいて、前記患者のがんの再発を予測することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
がんの再発を予測することが、前記身体サンプルで測定されたSTK1物質のレベルが、前記選択された閾値を超えた場合に前記患者のがんの再発に関する高リスクを予測すること、及び他の場合には、前記患者のがんの再発に関する低リスクを予測することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記患者の年齢に基づいて、前記閾値を選択することを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
さらに、
前記患者の年齢が規定の年齢以上の場合には第一の閾値を選択すること、及び
前記患者の年齢が規定の年齢未満の場合には第二の異なる閾値を選択すること
を含む、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第二の異なる閾値が、前記第一の閾値よりも高い、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記規定の年齢が67歳である、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記血液癌が、リンパ腫、白血病及び多発性骨髄腫からなる群から選択され、好ましくは、前記血液癌がリンパ腫であり、より好ましくは、前記血液癌がびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記STK1物質のレベルを測定することが、血清サンプルまたは血漿サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを、前記ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して測定することを含む、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを測定することが、
前記身体サンプルを、前記抗体またはその断片と接触させること、及び
前記STK1物質に結合した前記抗体またはその断片の量を測定すること
を含む、請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
さらに、前記STK1物質に結合した前記抗体またはその断片の前記測定された量を、STK1物質のレベルに相関させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記抗体または断片の測定された量を相関させることが、前記抗体またはその断片の測定された量を、STK1物質のレベルに、組み換えヒトTK1に結合した前記抗体またはその断片の測定された量と、組み換えヒトTK1の濃度の間の所定の相関関係を使用して相関させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記STK1物質のレベルを測定することが、前記ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して、前記患者から採取した身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを、前記血液癌の患者の診断に関連して、または前記血液癌の処置の開始前に測定することを含む、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記抗体またはその断片が、前記ヒトTK1の血清型に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその断片である、請求項1~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記モノクローナル抗体またはその断片が、
ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)に対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片、
ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つに対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片、ならびに
ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片
からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記モノクローナル抗体またはその断片が、
配列番号5のアミノ酸配列を有する可変重(VH)ドメインの相補性決定領域1(CDR1)、
配列番号6のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR2、
配列番号7のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR3、
配列番号8のアミノ酸配列を有する可変軽(VL)ドメインのCDR1、
配列番号9のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR2、及び
配列番号10のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR3
を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記モノクローナル抗体またはその断片が、
配列番号5のアミノ酸配列を有する可変重(VH)ドメインの相補性決定領域1(CDR1)、
配列番号11のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR2、
配列番号12のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR3、
配列番号13のアミノ酸配列を有する可変軽(VL)ドメインのCDR1、
配列番号9のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR2、及び
配列番号10のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR3
を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記モノクローナル抗体またはその断片が、
配列番号14のアミノ酸配列を有する可変重(VH)ドメインの相補性決定領域1(CDR1)、
配列番号15のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR2、
配列番号16のアミノ酸配列を有するVHドメインのCDR3、
配列番号17のアミノ酸配列を有する可変軽(VL)ドメインのCDR1、
配列番号18のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR2、及び
配列番号19のアミノ酸配列を有するVLドメインのCDR3
を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記STK1物質のレベルを測定することが、前記身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを、身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを測定するためのキットを使用して測定することを含み、前記キットが、
ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)、
ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つ、ならびに
ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープ
からなる群から選択されるエピトープに対して特異性を有する第一のモノクローナル抗体またはその第一の断片、ならびに
ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)、
ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つ、ならびに
ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープ
からなる群から選択されるエピトープに対して特異性を有する第二のモノクローナル抗体またはその第二の断片を含む、請求項15~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記第一のモノクローナル抗体またはその第一の断片及び前記第二のモノクローナル抗体またはその第二の断片のうちの一方が、固体支持体に固定化されるか、または前記固体支持体に固定化されることが意図される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記キットが、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)キットである、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
さらに、前記患者の予測されるがんの再発に基づいて、前記患者のための抗がん治療を選択することを含む、請求項1~21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
さらに、前記患者の予測されるがんの再発に基づいて、前記患者のための患者サーベイランススケジュールを選択することを含む、請求項1~22のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、チミジンキナーゼ1(TK1)の測定に関し、特に、測定された血清TK1レベルに基づくがんの再発の予測に関する。
【背景技術】
【0002】
2’-デオキシチミジンキナーゼ、またはATP-チミジン5’-ホスホトランスフェラーゼとも呼ばれるチミジンキナーゼ1(TK1)(EC2.7.1.21)は、デオキシリボ核酸(DNA)前駆体合成に関与する酵素である。TK1は、チミジンをリン酸化して、DNAへの組み込みを可能にする。TK1の発現は、活発な細胞増殖のマーカーであり、細胞周期のG0/G1期に細胞内濃度が低く、S/G2期に増加する。
【0003】
ある形態のTK1は、悪性腫瘍を有するヒト及び動物の血清及び血漿中に高レベルで存在する。そのため、血清TK1の活性測定は、いくつかの異なる悪性疾患におけるモニタリング及び予測目的のために使用されているが、これまでのところ、主に白血病及びリンパ腫の場合である。
【0004】
さらに、TK1は、血液中で測定することができる唯一の増殖マーカーであり、日常検査として利用可能であれば、大きな臨床的利益をもたらす可能性がある。
【0005】
血清TK1活性は、放射性基質125I-dUrd(PROLIFIGEN(登録商標)TK-REA、DiaSorin Inc.)を用いて数十年間測定されているが、この放射性酵素アッセイは、使用が限られており、悪性の血液悪性腫瘍の場合に優先的である。2000年以来、非放射測定のTK1活性アッセイ(TK LIAISON(登録商標)アッセイ、DiaSorin Inc.)が利用可能となっている。これは、高感度かつロバストなアッセイであり、特に治療のモニタリング及び再発の予測のために、ヒト及びイヌにおいて臨床的に価値のある情報を提供している。
【0006】
過去15年の間に、ヒトTK1に対する抗体が利用可能になり、TK1タンパク質レベルの測定は、TK1活性とは対照的に、血液系及び固形腫瘍疾患の両方、例えば、乳癌、ならびにいくつかの他の形態の固形腫瘍及び血液系腫瘍においても可能になった。
【0007】
TK1タンパク質の測定の1種類は、TK1のC末端部分に対して生成される抗TK1抗体に基づくドットブロット法に依存している。この抗体産生戦略を選択する主な理由は、C末端領域が、TK1の細胞周期調節に関与していることである。これは、有糸分裂中にTK1の分解を開始するための認識配列を含み、これが、抗体を生成することが可能であり得る露出領域であると想定されている。ドットブロットアッセイは、多くの研究に使用され成功しているが、大きな制限は、それが臨床検査業務における常法ではないことである。
【0008】
AroCell TK 210 ELISAは、ヒトの血液中のTK1の測定のための定量的免疫アッセイキットである。このELISA構成は、単純かつロバストであり、実施するための特殊な計装を必要とせず、標準的な実験室プロセスに容易に組み込むことができる。AroCell TK 210 ELISAは、血液サンプルからTK1をモニタリングするための迅速かつ単純な方法であるだけでなく、臨床化学における標準装備を使用して、信頼できる再現性のある結果をもたらす。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一般的目的は、がんの生存率及び/またはがんの再発を患者において正確に予測することである。
【0010】
この目的及び他の目的は、本明細書に開示する実施形態によって達成される。
【0011】
本発明の態様は、がんの再発を予測するための方法に関する。該方法は、血液癌と診断された患者の身体サンプルに含まれる血清チミジンキナーゼ1(STK1)物質のレベルを、ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して測定することを含む。該方法は、測定されたSTK1物質のレベルを、当該患者の年齢に基づいて選択される閾値と比較することも含む。該方法は、さらに、該患者のがんの再発を、該比較に基づいて予測することを含む。
【0012】
本発明は、測定されたSTK1のレベルと年齢に依存する閾値との比較に基づいて、がんの再発を予測する。本明細書に提示する実験データにより、血液癌のバイオマーカーとしてSTK1を使用した場合の精度が、年齢の異なる患者群に対して年齢関連基準または閾値範囲を使用すると著しく向上することが示される。
【0013】
実施形態は、さらなる目的及びその利点とともに、以下の説明を添付の図面とともに参照することによって最良に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1a】Ann Arbor病期に関する処置前の血清中のTK1濃度。
【
図1b】年齢調整国際予後指標に関する治療前の血清中のTK1濃度。
【
図2a】疾患の再発までの時間に関する処置前の血清中のTK1濃度。
【
図2b】生存期間に関する処置前の血清中のTK1濃度。
【
図3a】処置前に採取した血清中のTK1濃度が高い患者と低い患者の全生存の差。二分のカットオフ値は、健常者の上限、すなわち、0.45μg/Lに設定した。
【
図3b】処置前に採取した血清中のTK1濃度が高い患者と低い患者の無病生存の差。二分のカットオフ値は、健常者の上限、すなわち、0.45μg/Lに設定した。
【
図3c】処置前に採取した血清中のTK1濃度が高い患者と低い患者の疾患特異的生存の差。二分のカットオフ値は、健常者の上限、すなわち、0.45μg/Lに設定した。
【
図4a】処置前の二分したTK1(カットオフは正常値の上限である0.45μg/L)及びaaIPIスコアの多変量解析。
【
図4b】処置前の二分したTK1(カットオフは正常値の上限である0.45μg/L)及びaaIPIスコアの多変量解析。
【
図4c】処置前の二分したTK1(カットオフは正常値の上限である0.45μg/L)及びIPIスコアの多変量解析。
【
図4d】処置前の二分したTK1(カットオフは正常値の上限である0.45μg/L)及びIPIスコアの多変量解析。
【
図5】U-CAN研究プロジェクト内で収集された血液サンプルで測定されたTK1濃度。処置中の血液サンプル(第三の化学療法サイクル後)は、U CANプロジェクトの立ち上げ時には含まれていなかったが、ごく最近になって該U-CANのプロトコルに追加された。
【
図6】生存中及び罹患した患者に関する処置前後の血清中のTK1濃度の比較。
【
図7a】年齢調整国際予後指標(aaIPI)0~1の個体に関する血清中のTK1濃度。分析した血液サンプルは、処置開始前、処置中(すなわち、3回の化学療法サイクル後)及び処置終了後に血液サンプルを提示するU-CAN研究プロジェクト内で採取された。
【
図7b】aaIPI 2~3の個体に関する血清中のTK1濃度。分析した血液サンプルは、処置開始前、処置中(すなわち、3回の化学療法サイクル後)及び処置終了後に血液サンプルを提示するU-CAN研究プロジェクト内で採取された。
【
図8】処置中の血液サンプルは、立ち上げ時には採取されなかったが、ごく最近になってこのプロトコルに追加された(第三の化学療法サイクル後のサンプル)。したがって、利用可能な処置中のTK1値を有する患者の数は限られ、これが、利用可能な処置前/後のTK1比に反映されている。
【
図9a】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.25μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図9b】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.35μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図9c】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.45μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図9d】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.75μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図9e】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ1.05μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図9f】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ2.5μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。
【
図10a】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.45μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。全患者。
【
図10b】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び治療前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.45μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。66歳を超える患者。
【
図10c】再発時期、日数との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び治療前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.45μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットである。67歳未満の患者。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、概して、チミジンキナーゼ1(TK1)の測定に関し、特に、測定された血清TK1(STK1)レベルに基づくがんの再発の予測に関する。
【0016】
本発明は、測定されたSTK1のレベル及び年齢に依存する閾値との比較に基づいて、がんの再発を予測する。本明細書に提示する実験データにより、STK1の濃度が高いほど、血液癌の例としてのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の病期のさらなる進行と相関したこと、及び全患者コホートに関して、処置前のSTK1レベルの上昇が、無病生存期間及び疾患特異的生存期間の短縮と相関したことが示される。しかしながら、この患者コホートを診断時の患者の年齢に応じた群に分けた場合、異なる事態が生じた。高齢患者に関しては、測定されたSTK1レベルとがんの再発のリスクとの間に比例相関はなかった。明らかに対照的に、健常者の平均レベルを上回るSTK1レベルの比較的低い増加は、すでにがんの再発のリスクが高いことと関連していた。さらに、規定の閾値をわずかに上回るSTK1レベルを有する高齢患者と、規定の閾値を大幅に上回るSTK1レベルを有する別の高齢患者とでは、がんの再発のリスクに有意差はなかった。しかしながら、この状況は、若年のDLBCL患者では異なり、比較的高いSTK1レベルは、高齢のDLBCL患者と比較してがんの再発のリスクが高いことと相関していた。
【0017】
したがって、血液癌のバイオマーカーとしてSTK1を使用した場合の精度は、年齢の異なる患者群に対して年齢関連基準または閾値範囲を使用すると著しく向上する。
【0018】
本発明の態様は、がんの再発を予測するための方法に関する。該方法は、血液癌と診断された患者の身体サンプルに含まれる血清チミジンキナーゼ1(STK1)物質のレベルを、ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して測定することを含む。該方法は、測定されたSTK1物質のレベルを、当該患者の年齢に基づいて選択される閾値と比較することも含む。該方法は、さらに、該患者のがんの再発を、該比較に基づいて予測することを含む。
【0019】
ヒトのTK1タンパク質は、ある特定の分子の存在、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)の有無に応じて、該タンパク質の濃度、すなわち、高または低濃度に応じて、該タンパク質の型、例えば、天然型または組み換え型のTK1に応じて、及び該タンパク質の部位、すなわち、血清または細胞質に応じて様々な形態で存在する。
【0020】
一般に、細胞質及び組み換え型ヒトTK1は、ATPの存在下または高濃度では四量体として生じ、ATPの非存在下または低濃度では二量体として生じる。細胞質及び組み換え型ヒトTK1の四量体型は、高TK1活性を有するが、二量体型は、より低いTK1活性を有する。細胞TK1とも称される細胞質TK1は、細胞内部に存在するTK1であり、かかる細胞から単離され得る。
【0021】
ヒトSTK1は、明らかに対照的に、高分子量複合体、例えば、オリゴマーの形態で、またはかかるオリゴマーを含む形態でTK1活性を有する可能性があり、二量体及び四量体型は、TK1活性が極めて低いか、または活性を欠いている可能性もある。該オリゴマー化は、血液中で生じるジスルフィド架橋の形成に関連していると思われる。STK1は、患者の血液中に見られ、それにより、とりわけ、血液サンプル、血漿サンプル、または血清サンプルで測定され得る。
【0022】
本明細書で使用されるSTK1物質は、STK1のその様々な形態、例えば、二量体、四量体、オリゴマー及びSTK1を含む複合体を指す。該STK1物質は、患者の血液、血漿または血清に存在するSTK1物質である。該STK1物質は、ひいてはSTK1を上述の形態、例えば、二量体、四量体、オリゴマー及びSTK1を含む複合体で含み得る。STK1物質はまた、少なくとも1つのTK1タンパク質単位及び他の分子及び/または高分子との複合体を含む。
【0023】
当技術分野では、リンパ節生検サンプルを含めた、がん細胞サンプル及び生検におけるTK1メッセンジャーリボ核酸(mRNA)転写産物を測定するための様々な遺伝子発現アレイが提案されている。上述のように、TK1は、対象において、細胞質TK1及び血清TK1を含めた様々な形態で利用可能である。かかる生検サンプルからTK1 mRNA転写産物を測定する遺伝子発現アレイは、主に、がん細胞に存在する細胞質TK1のTK1 mRNA転写産物を測定するものである。したがって、かかる遺伝子発現アレイを、対象におけるSTK1物質のレベルを測定するために使用することはできない。
【0024】
実施形態では、該STK1物質のレベルを測定することは、該身体サンプルを、該抗体またはその断片と接触させることを含む。この実施形態はまた、該STK1物質に結合した抗体またはその断片の量を測定することを含む。
【0025】
該身体サンプルを該抗体またはその断片と接触させることは、該抗体またはその断片を、該身体サンプルに加えること及び該身体サンプルを該抗体またはその断片とインキュベートすることによって達成され得る。これにより、該抗体またはその断片が該STK1物質に結合し、該抗体またはその断片と該STK1物質の間で複合体が形成される。かかる実施形態では、該STK1物質に結合した該抗体またはその断片の量の測定は、該抗体またはその断片と該STK1物質の間の複合体を測定または定量化することにより、該STK1物質に結合した該抗体またはその断片の量を測定または定量化することを含み得る。
【0026】
実施形態では、該方法はまた、該STK1物質に結合した該抗体またはその断片の測定された量を、STK1物質のレベルに相関させることも含む。これは、基準TK1物質に結合した該抗体またはその断片の測定された量と、該基準TK1物質の濃度の所定の相関関係を使用して行われ得る。かかる所定の相関関係を生成する際に使用され得る典型的な基準TK1物質は、組み換えヒトTK1である。
【0027】
したがって、該所定の相関関係は、該抗体またはその断片を、異なる濃度の該基準TK1物質、好ましくは、組み換えヒトTK1を含む異なるサンプルに加えることによって生成され得る。該基準TK1物質、好ましくは、組み換えヒトTK1に結合した該抗体またはその断片の量を、次いで異なるサンプルで測定することによって、基準TK1物質、好ましくは、組み換えヒトTK1の濃度と、該基準TK1物質、好ましくは、組み換えヒトTK1に結合した該抗体またはその断片の測定された量との間の標準曲線、関数または関係を得る。
【0028】
その後、この所定の相関関係、例えば、標準曲線、関数または関係を使用して、該身体サンプル中のSTK1物質に結合した該抗体またはその断片の測定された量を、該身体サンプルに含まれるSTK1物質の濃度にマッピングまたは変換することができる。
【0029】
血液癌と診断された患者の身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルを測定することに関しては、同じ型の抗体またはその断片を、該所定の相関関係を生成するために使用することが概して好ましい。したがって、好ましい実施形態では、該抗体またはその断片は、ヒトTK1の血清型だけでなく、基準TK1物質、好ましくは、組み換えヒトTK1にも特異的に結合することが可能である。
【0030】
実施形態では、該身体サンプルは、該身体サンプルを該抗体またはその断片とインキュベーションする前に、またはその間に処理される。このサンプル処理は、該身体サンプルに含まれる選択されたSTK1形態を安定化するため及び/またはより大きいSTK1複合体もしくはオリゴマーを、より小さい複合体もしくは多量体に分割するために使用され得る。
【0031】
したがって、実施形態では、サンプルの希釈または前処理緩衝液を、該身体サンプルに、該抗体またはその断片を該身体サンプルに加える前に、またはそれとの関連で加え、好ましくは、該抗体またはその断片を該身体サンプルに加える前に加える。
【0032】
実施形態では、該サンプルの希釈緩衝液は、ATPを、好ましくは、0.5mM~最大50mMの区間内で選択される濃度、例えば、0.5mM~最大20mMまたは1.5mM~最大50mMで含む。本明細書で先に記載の通り、ATPは、高い酵素TK1活性を有する四量体型のTK1を安定させる。
【0033】
別の実施形態では、該サンプルの希釈緩衝液は、還元剤を含む。該還元剤がその後、より大きいSTK1複合体及びオリゴマーに含まれるジスルフィド架橋を切断し、より小さいSTK1形態、例えば、四量体が得られる可能性がある。ジチオエリトリトール(DTE)、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオブチルアミン(DTBA)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、及びそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されないジスルフィド結合を切断することができる様々な還元剤が、該実施形態に従って使用され得る。該還元剤の量は、典型的には、0.1mM~最大10mMの区間内で選択される。
【0034】
該サンプルの希釈緩衝液は、実施形態では、ATPと還元剤の両方を含む。
【0035】
該STK1物質のレベルは、実施形態では、該患者から採取した身体サンプルに含まれる該ヒトTK1の血清型に特異的に結合する抗体またはその断片を使用して、該血液癌の患者の診断に関連して、または少なくとも該血液癌の処置開始前に測定される。したがって、好ましい実施形態では、該身体サンプルは、好ましくは、診断時に、または該患者が血液癌と診断された時点もしくは少なくとも血液癌に罹患していると疑われた時点の少なくとも直後に採取される。
【0036】
実施形態では、該方法は、測定されたSTK1物質のレベルと、選択された閾値との比較に基づいて、該患者に対するハザード比(HR)を推定することを含む。かかる実施形態では、該患者のがんの再発を予測することは、推定されたHRに基づいて、該患者のがんの再発を予測することを含む。
【0037】
実施形態では、がんの再発を予測することは、該身体サンプルで測定されたSTK1物質のレベルが、選択された閾値を超えた場合に該患者のがんの再発に関する高リスクを予測すること、及び他の場合には、該患者のがんの再発に関する低リスクを予測することを含む。
【0038】
実施形態では、該方法はまた、該患者の薬剤(agent)に基づいて閾値を選択することも含む。
【0039】
特定の実施形態では、該方法は、該患者の年齢が規定の年齢以上の場合には第一の閾値を選択すること、及び該患者の年齢が規定の年齢未満の場合には第二の異なる閾値を選択することを含む。
【0040】
したがって、この特定の実施形態では、2つの異なる年齢最適化閾値が採用され、使用する特定の年齢最適化閾値は、該患者の年齢が規定の年齢以上であるか、または規定の年齢未満であるかに依存する。
【0041】
実施形態では、該第二の異なる閾値は、該第一の閾値よりも高い。したがって、実施形態では、若年患者には、高齢患者と比較して高い閾値が使用される。
【0042】
例示的であるが現在は好ましい実施形態として、該既定の年齢は、67歳である。これは、該患者が67歳以上の場合には、第一の閾値が、測定されたSTK1物質のレベルとの比較に使用されるが、該患者が67歳より若い場合には、第二の、好ましくはより高い閾値が該比較に使用されることを意味する。
【0043】
表5に示すように、0.35μg/L~0.60μg/Lの範囲内の閾値、特に0.45μg/Lを選択することにより、67歳以上の患者に関して、再発に関する高ハザード比、ひいてはがんの再発に関して高リスクを有する患者と、再発に関する低ハザード比を有する患者との区別が可能になった。実際には、より高い閾値を使用することにより、高ハザード比と低ハザード比を区別するためのp値が実際に低下した。これは、67歳未満の患者に関して再発に関する対応するハザード比を示す表6とは明らかに対照的である。かかるより若年の患者については、より高い、少なくとも最大1.05μg/Lの閾値が、高ハザード比と低ハザード比を区別するためのp値の低下と関連していた。したがって、高齢の患者群(年齢≧67歳)では、がんの再発を予測する際の最適閾値は、0.35μg/L~0.60μg/Lの範囲内、特に0.45μg/Lであるが、若年の患者群(年齢<67歳)では、該最適閾値は、0.75μg/Lを超え、2.5μg/L未満であり、例えば、約1μg/Lである。
【0044】
本明細書に提示する実験データにより、高齢の患者では、STK1レベルの実にほぼ2倍の増加が、ハザード比の大きな増加と相関したことが示された。さらに、高齢の患者では、より高いSTK1レベルにおいて、ハザード比は中程度にさらに上昇したのみであった。これは、この高齢患者群では、より高いSTK1レベルは、高齢の患者におけるがんの再発の高リスクと比例的に関連しないことを意味する。この発見により、該STK1測定法及び特に、該STK1測定法の感度及びロバスト性に対して、生体サンプル中の比較的低いSTK1レベルの検出、及び健常者における対応するSTK1レベルからのかかる低STK1レベルの区別を可能にすることが要求される。
【0045】
該抗体またはその断片は、該STK1物質に特異的に結合し、特に、該TK1タンパク質の血清型に特異的に結合する。
【0046】
抗体またはその断片の特異性は、アフィニティー及び/またはアビディティーに基づいて特定され得る。抗原と該抗体またはその断片の解離の平衡定数(Kd)で表されるアフィニティーは、抗原決定基と該抗体またはその断片の抗原結合部位の間の結合強度の尺度である。Kdの値が小さいほど、該抗原決定基と該抗体またはその断片の間の結合強度は強い。代替的に、該アフィニティーは、1/Kdであるアフィニティー定数(Ka)としても表すことができる。当業者には明らかなように、アフィニティーは、目的の特定の抗原に応じて、それ自体既知の方法で特定され得る。
【0047】
アビディティーは、抗体またはその断片と、関連する抗原の間の結合強度の尺度である。アビディティーは、抗原決定基と、その抗体またはその断片の抗原結合部位の間のアフィニティー、及び該抗体またはその断片に存在する関連する結合部位の数の両方に関連する。
【0048】
通常、抗体は、その抗原に対して、解離定数(Kd)10-5~10-12モル/リットル(M)以下、及び好ましくは、10-7~10-12M以下、及びより好ましくは、10-8~10-12M、すなわち、結合定数(Ka)105~1012M-1以上、及び好ましくは、107~1012M-1以上、及びより好ましくは、108~1012M-1で結合する。
【0049】
一般に、10-4Mを超える任意のKd値(または104M-1未満の任意のKa値)は、概して非特異的結合を示すと考えられている。好ましくは、抗体またはその断片は、該STK1物質に対して、アフィニティー500nM未満、好ましくは、200nM未満、より好ましくは、10nM未満、例えば、5nM未満またはそれより低値、例えば、1nM未満で結合する。
【0050】
抗体またはその断片の抗原または抗原決定基に対する特異的結合は、例えば、スキャッチャード解析及び/または競合的結合アッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素免疫測定(EIA)及びサンドイッチ競合アッセイを含めたそれ自体既知の任意の適切な方法、ならびに当技術分野でそれ自体既知のその種々の変法で特定され得る。
【0051】
実施形態では、該抗体は、モノクローナル抗体、すなわち、モノクローナル抗TK1抗体である。別の実施形態では、該抗体は、ポリクローナル抗体、すなわち、ポリクローナル抗TK1抗体である。
【0052】
実施形態では、該抗体またはその断片は、TK1、好ましくは、ヒトTK1のC末端領域からのアミノ酸配列からなるエピトープまたはペプチドに対して特異性を有する。
【0053】
該ペプチドは、好ましくは、TK1のアミノ酸位置200から末端、すなわち、ヒトにおけるアミノ酸位置234に及ぶTK1の部分(配列番号28)から選択される。特定の実施形態では、該ペプチドは、アミノ酸位置205から、好ましくは210~アミノ酸位置230、好ましくは、225に及ぶTK1タンパク質の部分から選択される。
【0054】
該ペプチドは、好ましくは、N量体であり、ここで、Nは、8~20の範囲内、好ましくは、10~最大15の範囲内の整数である。該ペプチドは、好ましくは、該TK1タンパク質のC末端におけるN個の連続したアミノ酸からなる。
【0055】
実施形態では、該ペプチドは、以下のアミノ酸配列、GEAVAARKLF(配列番号1)からなる。別の実施形態では、該ペプチドは、以下のアミノ酸配列、NCPVPGKPGE(配列番号2)からなる。さらなる実施形態では、該ペプチドは、以下のアミノ酸配列、PVPGKPGEAV(配列番号3)からなる。さらに別の実施形態では、該ペプチドは、以下のアミノ酸配列、NCPVPGKPGEAV(配列番号4)からなる。
【0056】
GEAVAARKLF(配列番号1)からなるエピトープに対して特異性を有するモノクローナル抗体は、アミノ酸配列DYEMH(配列番号5)を有する可変重(VH)ドメインの相補性決定領域1(CDR1)、アミノ酸配列AIHPGYGGTAYNQKFKG(配列番号6)を有するVHドメインのCDR2、アミノ酸配列FITKFDY(配列番号7)を有するVHドメインのCDR3、アミノ酸配列KSSQSLLDSDGKTFLN(配列番号8)を有する可変軽(VL)ドメインのCDR1、アミノ酸配列LVSKLDS(配列番号9)を有するVLドメインのCDR2及びアミノ酸配列WQGTHFPWT(配列番号10)を有するVLドメインのCDR3を有する。
【0057】
エピトープNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)に対して特異性を有するモノクローナル抗体は、アミノ酸配列DYEMH(配列番号5)を有するVHドメインのCDR1、アミノ酸配列AILPGSGGTAYNQKFKG(配列番号11)を有するVHドメインのCDR2、アミノ酸配列LITTFDY(配列番号12)を有するVHドメインのCDR3、アミノ酸配列KSSQSLLDSDGKTYLN(配列番号13)を有するVLドメインのCDR1、アミノ酸配列LVSKLDS(配列番号9)を有するVLドメインのCDR2、及びアミノ酸配列WQGTHFPWT(配列番号10)を有するVLドメインのCDR3を有する。
【0058】
別の実施形態態様では、該抗体またはその断片は、ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有する。かかるコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有するモノクローナル抗体は、アミノ酸配列SGYSWH(配列番号14)を有するVHドメインのCDR1、アミノ酸配列YIHYSGSTTYNPSLKG(配列番号15)を有するVHドメインのCDR2、アミノ酸配列WGTGHWYFDV(配列番号16)を有するVHドメインのCDR3、アミノ酸配列RSSTGAVTTTNYAN(配列番号17)を有するVLドメインのCDR1、アミノ酸配列GTNNRVP(配列番号18)を有するVLドメインのCDR2、及びアミノ酸配列ALWYSNHWV(配列番号19)を有するVLドメインのCDR3を有する。
【0059】
実施形態に従って使用され得るモノクローナル抗TK1抗体の上記に提示した3つの例は、WO2015/094106にさらに開示されている。モノクローナル抗TK1抗体に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0060】
したがって、実施形態では、該モノクローナル抗体またはその断片は、ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)に対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片、ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つに対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片、ならびにヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有するモノクローナル抗体またはその断片からなる群から選択される。
【0061】
別の実施形態では、該抗体またはその断片は、KPGEAVAARKLFAPQ(配列番号20)からなるエピトープまたはペプチドに対して特異性を有する。少なくとも1つのさらなるアミノ酸、例えば、システイン残基を、該ペプチドのN末端またはC末端、好ましくは、N末端に、他の分子、例えば、担体タンパク質へのカップリングとして使用するために付加してもよい。
【0062】
このエピトープに対して特異性を有する抗体は、WO95/29192にさらに開示されている。抗TK1抗体に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0063】
さらなる実施形態では、該抗体またはその断片は、TK1の活性部位からのアミノ酸配列からなるエピトープまたはペプチドに対して特異性を有する。該ペプチドは、好ましくは、ヒトTK1のアミノ酸位置150~アミノ酸位置190に及ぶTK1の部分から選択される。特定の実施形態では、該ペプチドは、アミノ酸位置155、好ましくは、160及びより好ましくは、161から、アミノ酸位置185、好ましくは、183に及ぶTK1の部分から選択される。
【0064】
該ペプチドは、好ましくは、M量体であり、ここで、Mは、10~最大40の範囲内、好ましくは、20~最大30の範囲内の整数及びより好ましくは、23または24である。該ペプチドは、好ましくは、該TK1タンパク質の活性部位におけるM個の連続したアミノ酸からなる。
【0065】
少なくとも1つのさらなるアミノ酸、例えば、システイン残基を、該ペプチドのN末端またはC末端、好ましくは、N末端に、他の分子、例えば、担体タンパク質へのカップリングとして使用するために付加してもよい。
【0066】
実施形態では、該TK1の活性部位からのアミノ酸配列からなるペプチドは、ヒトTK1のアミノ酸位置161~183に相当するアミノ酸配列を有する、すなわち、AYTKRLGTEKEVEVIGGADKYHS(配列番号21)のアミノ酸配列を有する。
【0067】
このエピトープに対して特異性を有する抗体は、WO2008/142664にさらに開示されている。抗TK1抗体に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
さらなる実施形態では、該抗体またはその断片は、WO2019/201901に開示されているモノクローナル抗体またはその断片であり、モノクローナル抗TK1抗体に関するその教示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0069】
例えば、該モノクローナル抗体は、mAb 6C6、mAb 4H4またはmAb 23C11であり得る。
【0070】
mAb 6C6 VHドメイン(配列番号22):
METGLRWLLLVAVLKGVQCQEQLEESGGDLVKPEGSLTLTCTASRFSFSSSYWICWVRQAPGKGLEWIACIYAGDSGSSYYASWAKGRFTVSKTSSTTVTLQTTSLTAADTATYFCARASVGAAYDYFALWGPGTLVTVSSGQPKAPSVFPLAPCCGDTPSSTVTLGCLVKGYLPEPVTVTWNSG
【0071】
mAb 6C6 VLドメイン(配列番号23):
MDTRAPTQLLGLLLLWLPGARCALVMTQTPASVEAAMGGTVTIKCQASEDVSSHLAWYQQRPGQPPKLLIYGASDLASGVPSRFTGSGSGTQFTLAISDLECADAATYYCQGYYYISDSPYVFGGGTEVVVKGDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
【0072】
mAb 4H4 VHドメイン(配列番号24):
METGLRWLLLVAVLKGVQCQSLEESGGGLVQPEGSLTLTCTASGFSFSSGYDMCWVRQTPGKGLEWIACISVDSDGVTYYASWAKGRFTISKTSSTTVTLQMTSLTAADTATYFCARGYESSSGVYIPYFTLWGPGTLVTVSSGQPKAPSVFPLAPCCGDTPSSTVTLGCLVKGYLPEPVTVTWNSG
【0073】
mAb 4H4 VLドメイン(配列番号25):
MDMRAPTQLLGLLLLWLPGARCADIVLTQTPASVEAAVGGTVTIKCQASQSIYSYLAWYQHKPGQPPKLLIYKASTLASGVPSRFKGSGSGTEYTLTISDLECADAATYYCQHYYYSSTSGGGVFGGGTEVVVKGDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
【0074】
mAb 23C11 VHドメイン(配列番号26):
METGLRWLLLVAVLKGVQCQSLEESGGRLVTPGTPLTLTCTASGFSLSNYYMSWVRQAPGKGLEWIGIIYGDDNTYCANWTKGRFTISKTSTTVDLTITSPTTEDTATYFCARGPDYIAAKMDIWGPGTLVTVSLGQPKAPSVFPLAPCCGDTPSSTVTLGCLVKGYLPEPVTVTWNSG
【0075】
mAv 23C11 VLドメイン(配列番号27):
MDTRAPTQLLGLLLLWLPGARCDVVMTQTPASVEAAVGGTVTIKCQASQSISGYLSWYQQKPGQRPKLLIYRASTLESGVPSRFKGSGSGTEFTLTISDLECADAATYYCQCTYGSSTFSSYGNAFGGGTEVVVKGDPVAPTVLIFPPAADQVATGTVTIVCVANKYFPDVTVTWEVDGTTQTTGIENSKTPQNSADCTYNLSSTLTLTSTQYNSHKEYTCKVTQGTTSVVQSFNRGDC
【0076】
実施形態では、該身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルは、キットを使用して測定される。該キットは、好ましくは、第一の抗体またはその第一の断片及び第二の抗体またはその第二の断片を含む。該第一及び第二の抗体は、上記の例示的なモノクローナル及びポリクローナル抗TK1抗体の例から選択され得る。
【0077】
特定の実施形態では、該キットは、i)ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)、ii)ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つ、ならびにiii)ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープからなる群から選択されるエピトープに対して特異性を有する第一のモノクローナル抗体またはその第一の断片を含む。該キットはまた、i)ヒトTK1のGEAVAARKLF(配列番号1)、ii)ヒトTK1のNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)のうちの少なくとも1つ、ならびにiii)ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープからなる群から選択されるエピトープに対して特異性を有する第二のモノクローナル抗体またはその第二の断片も含む。
【0078】
実施形態では、該第一の抗体またはその第一の断片は、支持体に固定化された、または支持体に固定化されることが意図されたいわゆる捕捉抗体であり、該第二の抗体またはその第二の断片は、いわゆる検出抗体である。別の実施形態では、該第二の抗体またはその第二の断片は、支持体に固定化された、または支持体に固定化されることが意図された捕捉抗体であり、該第一の抗体またはその第一の断片は、検出抗体として使用される。
【0079】
実施形態では、該第一及び第二の抗体または該第一及び第二の断片は、該STK1物質中の異なるエピトープに対して特異性を有する。
【0080】
別の実施形態では、該第一及び第二の抗体または該第一及び第二の断片は、該STK1物質中の同じエピトープに対して特異性を有する。これは、同じエピトープが、複数のTK1タンパク質単位の高分子量複合体中の複数のコピーに存在し得るために起こり得る。したがって、該STK1物質は、複数の、すなわち、少なくとも2つのTK1タンパク質単位の多価複合体であり得る。実際には、同じ型の抗体またはその断片を、該第一及び第二の抗体または第一及び第二の断片として使用することができる。
【0081】
実施形態では、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの一方は、該TK1の活性部位からのアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有し、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの他方は、該TK1のC末端領域からのアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有する。
【0082】
別の実施形態では、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの一方は、該TK1のC末端領域からの第一のアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有し、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの他方は、該TK1のC末端領域からの該第一のアミノ酸配列、または該TK1のC末端領域からの第二の異なるアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有する。
【0083】
さらなる実施形態では、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの一方は、該TK1のC末端領域からの第一のアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有し、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの他方は、ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有する。
【0084】
さらに別の実施形態では、該第一及び該第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの一方は、該TK1の活性部位からのアミノ酸配列からなるペプチドに対して特異性を有し、該第一及び第二の抗体または該第一及び第二の断片のうちの他方は、ヒトTK1のコンフォメーション依存性エピトープに対して特異性を有する。
【0085】
本明細書で使用される抗体の断片は、一本鎖抗体、Fv断片、scFv断片、Fab断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fd断片、シングルドメイン抗体(sdAb)、scFv-Fc断片、ジ-scFv断片及びCDR領域からなる群から選択され得る。
【0086】
実施形態では、該キットは、サンドイッチアッセイキットである。特定の実施形態では、該キットは、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)キットであり、好ましくは、サンドイッチELISAである。
【0087】
以下の考察では、該第一の抗体または第一の断片は、捕捉抗体であると仮定され、該第二の抗体または第二の断片は、検出抗体として作用する。該実施形態は、しかしながら、これに限定されるものではなく、捕捉及び検出の抗体を交換することができる。
【0088】
サンドイッチELISAを使用して、支持体、例えば、固体支持体の表面を調製し、それに該第一の抗体または該第一の断片を、いわゆる捕捉抗体として結合させることにより、身体サンプルに含まれるSTK1物質を検出することができる。好ましい実施形態では、既知量の該第一の抗体または該第一の断片を、該支持体の表面に結合させる。該表面上の任意の非特異的結合部位は、任意にではあるが、好ましくは、ブロックされる。次いで、該身体サンプルが該表面に載せられ、その中に存在する任意のSTK1物質が、固定化された第一の抗体または第一の断片によって捕捉される。未結合の物質は、好ましくは1回または複数回の洗浄ステップにより除去される。その後、通常は検出抗体と称される第二の抗体または第二の断片を添加し、該第一の抗体または該第一の断片に捕捉された任意のSTK1物質に結合させる。
【0089】
次いで、結合した第二の抗体または第二の断片の量を、直接または間接的な検出方法によって測定する。例えば、標識または酵素が、該第二の抗体または該第二の断片に直接、または結合、例えば、ビオチン-ストレプトアビジンもしくはビオチン-アビジン結合を介して間接的に取り付けられ得る。代替的に、標識されているか、または酵素に結合されており、該第二の抗体または第二の断片に特異的に結合する第二の抗体または第二の断片を使用することも可能である。
【0090】
したがって、実施形態では、該第二の抗体または第二の断片は、共有結合したビオチンを有する。代替的に、該第二の抗体または第二の断片は、共有結合したストレプトアビジンまたはアビジンを有する。
【0091】
該キットは、好ましくは、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ストレプトアビジンまたはHRP標識アビジンも含む。代替的に、該キットは、HRP標識ビオチンも含む。該キットはまた、HRPの基質、例えば、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)基質または2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)基質も含む。かかる場合、該サンプルに含まれるSTK1物質のレベルは、HRPによる該発色基質の検出可能な着色生成物への変換を検出する分光光度法によって測定され得る。
【0092】
実施形態では、該キットはまた、該第一の抗体または第一の断片が固定化される、または固定化されることが意図される支持体としてマイクロタイタープレート(MCP)も含む。
【0093】
実施形態では、該第一の抗体または該第一の断片及び該第二の抗体または該第二の断片のうちの一方は、GEAVAARKLF(配列番号1)からなるエピトープに対して特異性を有し、アミノ酸配列DYEMH(配列番号5)を有するVHドメインのCDR1、アミノ酸配列AIHPGYGGTAYNQKFKG(配列番号6)を有するVHドメインのCDR2、アミノ酸配列FITKFDY(配列番号7)を有するVHドメインのCDR3、アミノ酸配列KSSQSLLDSDGKTFLN(配列番号8)を有するVLドメインのCDR1、アミノ酸配列LVSKLDS(配列番号9)を有するVLドメインのCDR2、及びアミノ酸配列WQGTHFPWT(配列番号10)を有するVLドメインのCDR3を有する。
【0094】
特定の実施形態では、該第一の抗体または該第一の断片及び該第二の抗体または該第二の断片のうちの他方は、エピトープNCPVPGKPGE(配列番号2)、PVPGKPGEAV(配列番号3)及びNCPVPGKPGEAV(配列番号4)に対して特異性を有し、アミノ酸配列DYEMH(配列番号5)を有するVHドメインのCDR1、アミノ酸配列AILPGSGGTAYNQKFKG(配列番号11)を有するVHドメインのCDR2、アミノ酸配列LITTFDY(配列番号12)を有するVHドメインのCDR3、アミノ酸配列KSSQSLLDSDGKTYLN(配列番号13)を有するVLドメインのCDR1、アミノ酸配列LVSKLDS(配列番号9)を有するVLドメインのCDR2、及びアミノ酸配列WQGTHFPWT(配列番号10)を有するVLドメインのCDR3を有する。
【0095】
該キットは、必ずしもELISAキットである必要はない。別の実施形態では、該キットは、アフィニティークロマトグラフィーを使用し、ここでは、該第一の抗体は、該固定相、例えば、カラムに含まれるゲルマトリクスまたはビーズに結合する。例えば、該ゲルマトリクスまたはビーズは、アガロース、例えば、SEPHAROSE(登録商標)で作製され得る。
【0096】
かかる場合、身体サンプルに存在するTK1物質は、固定化された第一の抗体または第一の断片への結合を介して、該カラムに捕捉される。洗浄後、結合したSTK1物質は、溶出され、該第二の抗体または第二の断片を使用して検出され得る。例えば、溶出されたSTK1物質の量は、ウェスタンブロッティングを使用し、該STK1検出用の第二の抗体または第二の断片で、直接または間接的な検出法を使用して測定され得る。
【0097】
該支持体は、代替的に、磁気ビーズ、例えば、DYNABEADS(登録商標)磁気ビーズであってもよい。
【0098】
さらなる実施形態では、該キットは、化学ルミネセンス免疫検定(CLIA)キットである。CLIAは、その標識が発光性分子である免疫測定技術である。CLIA法は、発光団マーカーを使用した直接の場合もあれば、酵素マーカーを使用した間接的の場合もある。いずれの方法も、競合的でも非競合的でもよい。直接CLIA法では、使用される発光団マーカーは、通常、アクリジニウム及びルテニウムエステルである一方、間接的な方法で使用される酵素マーカーは、通常、アダマンチル1,2-ジオキセタンアリールホスフェート(AMPPD)を基質とするアルカリホスファターゼ、及びルミノールまたはその誘導体を基質とするHRPである。
【0099】
該キットは、必ずしも2つの抗体または断片を含む必要はないが、その代わりに、1つの型の抗体または断片のみを含み得る。
【0100】
さらに、該キットは、必ずしも、いわゆる捕捉抗体または断片を含む必要はない。明らかに対照的に、複数の、すなわち、少なくとも2つの異なる抗体または断片を使用して、該抗体または断片の少なくとも1つを固定化する必要なく、該STK1物質のレベルを測定することができる。
【0101】
実施形態では、該方法はまた、予測されるがんの再発のリスクに基づいて、当該患者のための抗がん治療を選択することも含む。したがって、最適なまたは少なくとも適切な抗がん治療が、血液癌患者のために、測定された身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルに基づいて、ひいては測定された身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルと、選択された閾値の比較に基づいて該患者に関して推定された予測されるがんの再発のリスクに基づいて選択される。これは、測定されたSTK1物質のレベルが、選択された閾値よりも高い、ひいてはがんの再発の高リスクが予測される患者には、STK1物質のレベルが該閾値よりも低い、ひいてはがんの再発の低リスクが予測される患者と比較して、より積極的な抗がん治療が選択され得ることを意味する。選択され得る抗がん治療の例としては、対症療法、例えば、輸血、化学療法、放射線療法、免疫療法及び骨髄移植のうちの1つ以上が挙げられる。
【0102】
例えば、先に言及した選択された閾値を超える測定されたSTK1物質のレベルを有する患者には、第一の抗がん治療が選択され得る一方、選択された閾値未満のSTK1物質のレベルが測定された他の患者には、第二の異なる抗がん治療が選択される。
【0103】
実施形態では、該方法は、当該患者の予測されるがんの再発のリスクに基づいて、該患者のための患者サーベイランススケジュールを選択することを含む。したがって、最適なまたは少なくとも適切な患者サーベイランススケジュールまたはスキームが、該患者のために、測定された身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルと、選択された閾値の比較に基づいて、ひいては測定された身体サンプルに含まれるSTK1物質のレベルに基づいて該患者に関して推定された予測されるがんの再発のリスクに基づいて選択される。これは、測定されたSTK1物質のレベルが、選択された閾値よりも高い、ひいてはがんの再発の高リスクが予測される患者には、より頻繁なサーベイランス及び経過観察(第一のサーベイランススケジュール)が選択され得ることと比較して、STK1物質のレベルが、選択された閾値よりも低い、ひいてはがんの再発の低リスクが予測される患者は、その代わりにより低頻度のサーベイランス及び経過観察(第二のサーベイランススケジュール)に従い得ることを意味する。
【実施例】
【0104】
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に罹患しており、かつR-CHOPで処置された146名の患者(64名の女性、82名の男性)からのチミジンキナーゼ1(TK1)の血清レベルを、処置前、処置中、及び処置後に、免疫測定法によって測定した。血清中のTK1濃度は、リンパ腫患者では、健常者のTK1濃度と比較して、有意に上昇することが分かった(p<0.00001)。より高い濃度は、より進行した病期及び高い国際予後指標(IPI)と相関した(p<0.00001)。処置前のTK1の上昇は、生存期間の短縮と相関した(p<0.001)。全体として、TK1濃度は、処置中に約10倍に増加し、その後低下した。この変化は、1期及び2期の患者で最も顕著であった。結論として、免疫測定法により測定されたTK1は、DLBCLの特徴及びアウトカムと相関する可能性があり、処置の評価において重要な基準値を提示する可能性がある。
【0105】
材料及び方法
試験デザイン及び設定
2010年~2016年にDLBCLと診断された146名の患者の血清及び臨床データを、Uppsala-Umea Comprehensive Cancer Consortium(U-CAN)から入手した。U-CANプロジェクトの中心は、将来の研究のために、がん患者からのインフォームド・コンセントを得ながら、データ、血液及び組織サンプルの長期的な収集を確立することである。U-CANの枠内で、血液サンプルは、バイオバンキング用に、がんの診断及びその後の処置の過程のいくつかの所定の時点で採取される。DLBCLを有する患者の場合、これらの時点は、診断時(または少なくとも処置開始前)、処置中(すなわち、3回の処置サイクル後)、処置終了後3か月及び1年、ならびに再発時と定義されている。処置中の血液サンプルは、U-CANの立ち上げ時には含まれていなかったが、ごく最近になってプロトコルに追加された。この試験の対象とされるすべての患者を、治癒目的で標準的化学療法レジメンであるR-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾン)、または同等のもので処置し、14日または21日間隔で投与した。
【0106】
ベースラインのデータは、U-CANを介して取得し、診断時の年齢、性別、Ann Arbor病期、B-症状(発熱>38℃、寝汗、直近6か月で体重減少>10%)、巨大病変(横径>7.5cmの腫瘍として定義される)、米国東海岸がん臨床試験グループによる一般状態(ECOG-PS)、国際予後指標(IPI)スコア、年齢調整IPI(aaIPI)、治療の種類、国際治療効果判定基準に従って定義された治療のアウトカム(Cheson et al.,Revised Response Criteria for Malignant Lymphoma.J Clin Oncol.2007;25:579-586)で構成した。
【0107】
TK1を、AroCell AB,Uppsala,Swedenが提供する免疫測定法(AroCell TK 210 ELISA)によって血清で測定した。このアッセイを、製造業者の説明書に従って実行した。このアッセイの不正確さは、二連サンプルの測定により判断して、10%未満の標準偏差(CV)であった。定量化の下限、すなわち、CV%が二連について20%を超えたのは、0.20μg/Lであった(Kumar et al.,AroCell TK 210 ELISA for determination of TK1 protein:age-related reference ranges and comparison with other TK1 assays.BioTechniques.2020;btn-2019-0148.41)。
【0108】
非感染の外見上健常者を対照とした。57名の男性(年齢の中央値42歳、四分位(IQ)範囲29.7~52.2歳)及び88名の女性(中央値45.5、IQ範囲34.5~57.5歳)を試験対象とした。
【0109】
統計データ
無病生存期間(DFS)を、診断日から文書化された再発または直近の経過観察までで計算した。完全寛解を達成しなかった患者は、DFSゼロ日と見なされた。疾患特異的生存期間(DSS)を、診断日から残存リンパ腫を伴う死亡日または直近の経過観察までで計算した。全生存期間(OS)を、診断日から死亡または直近の経過観察までで計算した。
【0110】
特に断りのない限り、実施例全体を通してノンパラメトリック統計を用いた。マン・ホイットニーU検定を2群の比較のため使用し、クラスカル・ウォリス分散分析を2群を超える比較に使用した。ウィルコクソン検定を使用して、対応のあるサンプルを比較した。p値は、本文または図に示されており、p<0.05を有意であると見なした。変数間の相関をスピアマンの順位により計算した。DFS、DSS及びOSの推定値を、カプラン・マイヤーの統計及び関連するログランク検定によって算出した。Cox比例ハザード検定を多変量時間依存解析に使用した。統計プログラムMedcalc(MedCalc Statistical Software version 19.2.6(MedCalc Software Ltd,Ostend,Belgium;https://www.medcalc.org;2020)及び統計プログラムRバージョン3.4.3(R Foundation for Statistical Computing;https://www.R-project.org/)を、すべての分析に使用した。
【0111】
倫理
本試験は、Uppsala,Swedenにおける施設倫理委員会により承認された(Dnr 2014/233)。この試験はまた、U-CAN試験選考委員会によっても承認された。したがって、書面によるインフォームド・コンセントは、U-CANプログラム内で以前に取得されていた。
【0112】
結果
患者及び処置
患者の特徴を表1にまとめる。経過観察中に44名の患者が死亡したが、31名は残存するリンパ腫により死亡した。
【表1】
DLBCL:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、TK1:チミジンキナーゼ1、n:数、ECOG:米国東海岸がん臨床試験グループ、NA:該当なし、IPI:国際予後指標、aaIPI:年齢調整IPI、GC:胚中心
【0113】
血清中のTK1と疾患の関係
処置前の血清中のTK1濃度は、リンパ腫患者において、健常者における濃度に対して有意に高く、中央値0.44μg/L(IQ範囲0.22~1.06μg/L)対中央値0.22μg/L(IQ範囲0.18~0.29μg/L)、p<0.00001であった。
図1aは、TK1濃度と病期の関係を示し、より進行した疾患でTK1濃度が増加する。最も高い濃度は、4期の患者で見出された(p<0.00001)。
図1bでは、国際予後指標(IPI)との強い関係も示された。p<0.00001。
【0114】
アウトカムに対するTK1の関係
疾患の再発までの期間(
図2a)及び死亡までの期間(
図2b)は、両方とも、処置前の血清中のTK1濃度の血清濃度と有意に相関し(それぞれ、rs=-0.30及びrs=-0.29、両相関に関してp<0.001)、濃度が最高の患者が最短であった。処置前のTK1濃度を、健常者の上限、すなわち、0.45μg/Lで二分することにより、カプラン・マイヤー及び関連するログランク検定によって推定されたOS、DFS及びDSS(
図3a~3c)が、正常濃度を有する患者にとって最も好ましくなった(それぞれ、p=0.03、p=0.0006及びp=0.0009)。多変量解析では、二分したTK1はまた、DFS及びDSSに関して、aaIPI及びIPIの各々とともに重要な予後因子であることが分かった(それぞれ、p<0.01及びp<0.025)(
図4a~4d)。表2には、B-症状を有する患者が、有意に高濃度(p<0.0001)の血清TK1を有したことが示される。
【表2】
【0115】
処置に関するTK1
患者の一部(40/146、27%)で、3回の処置サイクルの後、TK1濃度を積極的治療の最中に測定した。全体として、濃度は処置中に約10倍上昇し(p<0.00001)(
図5)、その後初期値よりも低下した(表3)。疾患が再発した患者(n=18)またはリンパ腫によって死亡した患者(n=12)は、再発も死亡もしていない患者と比較して、処置後に有意に高いTK1濃度を有していた(それぞれ、p=0.002及びp=0.0001)(
図6)。aaIPIに関する処置中のTK1濃度の変化は、表3ならびに
図7a及び7bに示されている。3回目の処置サイクル後の測定値と比較した診断時の測定値の間のTK1濃度の相対的変動は、1期及び2期では3832%であったのに対して、3期及び4期では302%であった(p=0.0008)。病期に関する相対的変動は、
図8にも示されている。
【表3】
【0116】
プロトコルに従って、血液サンプルは、1診断時(または少なくとも処置の開始前)、23回の化学療法サイクル後(処置サイクルが14日の長さであるか21日の長さであるかにかかわらない)、及び3処置の終了後3か月及び1年で採取した。これらの血液サンプルでTK1を分析した。
【0117】
以下の表4は、全患者について、0.25μg/L~最大2.5μg/Lに及ぶ様々なカットオフ値を使用したDLBCL患者における再発に関するハザード比及び計算されたp値をまとめている。
【表4】
【0118】
表5及び表6は、全患者について、0.25μg/L~最大2.5μg/Lに及ぶ様々なカットオフ値を使用した66歳を超えるDLBCL患者(表5)または67歳未満のDLBCL患者(表6)における対応する再発に関するハザード比及び計算されたp値を記載している。
【表5】
【表6】
【0119】
図9は、再発時期との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ(
図9a)0.25μg/L、(
図9b)0.35μg/L、(
図9c)0.45μg/L、(
図9d)0.75μg/L、(
図9e)1.05μg/L及び(
図9f)2.5μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットを示す。
【0120】
図10は、再発時期との関連で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者における診断時及び処置前のTK1の血清濃度に関するカットオフ0.45μg/Lでの疾患の再発の確率のカプラン・マイヤープロットを示す。
図10aは、全患者についての結果を示しており、
図10bは、66歳を超える患者についての結果を示しており、
図10cは、67歳未満の患者についての結果を示している。
【0121】
考察
本試験は、リンパ腫の患者において、カプラン・マイヤー曲線及び関連するログランク検定ならびに多変量解析で明らかなように、疾患の重症度及びアウトカムに極めて強い関係を有するTK1測定の有用性を検証した。
【0122】
本試験における発見は、処置中の血清TK1の増加であった。この増加は、疾患の再発または死に見舞われる患者では有意に高かったが、低病期のリンパ腫の患者でも若干顕著であった。対照的に、aaIPI 0~1とaaIPI 2~3を比較した場合、明らかな違いは見られなかった。
【0123】
本発明者らは、本試験において、処置を受けたDLBCL患者の大部分で血清TK1の増加及び疾患の明らかな完全寛解を観察した。本試験では、本発明者らは、TK1の反応が低い群においてネガティブ事象の差を観察しなかったが、本発明者らは、これを、利用可能なTKサンプルを有する患者間の事象(再発及び/または死亡)の全体数の少なさと関連付けた。
【0124】
表5及び6からの結果により、高齢の患者では、STK1レベルの実にほぼ2倍の増加が、ハザード比の大きな増加と相関したことが示された。さらに、高齢の患者では、より高いSTK1レベルにおいて、ハザード比は中程度にさらに上昇したのみであった。これは、この患者群では、より高いSTK1レベルは、高齢の患者におけるがんの再発の高リスクと比例的に関連しないことを意味する。
【0125】
前述した実施形態は、本発明のいくつかの例示的な実施例として理解すべきである。当業者には、本発明の範囲から逸脱することなく、該実施形態に種々の修正、組み合わせ、及び変更がなされ得ることが理解されよう。特に、技術的に可能であるならば、異なる実施形態における異なる部分の解決策を他の構成において組み合わせることができる。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】