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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】胸腺細胞組成物及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/078 20100101AFI20240621BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240621BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240621BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240621BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20240621BHJP
   C07K 14/71 20060101ALI20240621BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C12N5/078
C12Q1/68
C12Q1/06
C12N5/10
C07K14/705
C07K14/71
C12N9/88
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579537
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 US2022034579
(87)【国際公開番号】W WO2022271862
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】63/214,176
(32)【優先日】2021-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/256,445
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/296,250
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/321,142
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523483304
【氏名又は名称】サイミューン セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】リム ビング
(72)【発明者】
【氏名】ルメルツ ダ ローシャ エドロアルド
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QQ02
4B065AA90X
4B065BB40
4H045AA10
4H045EA54
4H045FA72
(57)【要約】
本開示はインビトロで胸腺細胞を生成及び維持するための方法を提供する。本開示において、胸腺細胞を含む細胞集団の組成物及びシステムも提供する。一態様において、本開示は、可溶性因子、ミネラル、又はそれらの組み合わせの存在下で細胞集団を培養して、胸腺細胞への前記細胞集団の分化又は成熟を誘導することによって、インビトロで胸腺細胞の集団を生成するための方法を提供し、ここで、前記細胞集団は、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように任意に操作され、かつ前記細胞集団は、多能性幹細胞(PSC)、胚体内胚葉(DE)細胞、第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞、及び前方前腸内胚葉(AFE)細胞からなる群から選択される1つ又は複数の細胞型を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)胸腺細胞の1つ又は複数の集団を生成する工程、
b)胸腺細胞の前記集団の各々からRNAを抽出及び配列決定する工程、
c)胸腺細胞の前記集団の各々について試験胸腺マップを生成するために、a)で配列決定されたRNAを分析して胸腺細胞の各集団内の亜集団を同定する工程、
d)前記試験胸腺マップの各々を参照胸腺マップと比較する工程、及び
e)約0.7~1.4の亜集団比(SPR)又は相対cTEC比(RCTR)を有する試験胸腺マップを選択することにより、胸腺細胞産物を同定する工程
によって生成される、胸腺細胞産物。
【請求項2】
胸腺細胞の各集団内の前記亜集団が、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、cTEC-高 細胞、cTEC-低 細胞、Aire+mTEC-高 細胞、mTEC-低 細胞、角質細胞様mTEC細胞、繊毛細胞、ミエリン細胞、筋様細胞、神経内分泌細胞、及びタフト/イオノサイト細胞のうちの1つ又は複数を含む、請求項1に記載の胸腺細胞産物。
【請求項3】
前記SPRが約0.7~1.4である、請求項1から2のいずれか1項に記載の胸腺細胞産物。
【請求項4】
前記SPRが、iTEC SPR、cTEC-高 SPR、cTEC-低 SPR、Aire+mTEC-高 SPR、mTEC-低 SPR、角質細胞様mTEC SPR、繊毛SPR、ミエリンSPR、筋様SPR、神経内分泌SPR、及びタフト/イオノサイトSPRである、請求項3に記載の胸腺細胞産物。
【請求項5】
前記iTEC SPR、前記cTEC-高 SPR、前記cTEC-低 SPR、前記Aire+mTEC-高 SPR、前記mTEC-低 SPR、前記角質細胞様mTEC SPR、前記繊毛SPR、前記ミエリンSPR、前記筋様SPR、前記神経内分泌SPR、及び前記タフト/イオノサイトSPRが、約0.7~1.4である、請求項1から4のいずれか1項に記載の胸腺細胞産物。
【請求項6】
前記SPRがiTEC SPRであり、かつ前記iTECが1である、請求項5に記載の胸腺細胞産物。
【請求項7】
前記RCTRが約0.7~1.4である、請求項1に記載の胸腺細胞産物。
【請求項8】
前記RCTRが1である、請求項7に記載の胸腺細胞産物。
【請求項9】
胸腺細胞の前記1つ又は複数の集団が、幹細胞の分化によって調製される、請求項1に記載の胸腺細胞産物。
【請求項10】
胸腺細胞の前記1つ又は複数の集団が、人工多能性幹細胞の分化によって調製される、請求項9に記載の胸腺細胞産物。
【請求項11】
前記参照胸腺マップが、1つ又は複数のヒト胸腺から作成される、請求項1に記載の胸腺細胞産物。
【請求項12】
前記ヒト胸腺が、胎児ヒト胸腺、生後ヒト胸腺、青年期胸腺、成体ヒト胸腺、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の胸腺細胞産物。
【請求項13】
前記亜集団がiTECを含み、かつiTECが、IGKC(ENSG00000211592)、ANAX2、LIMA1(ENSG00000050405)、EGFR(ENSG00000146648)、ASCL1(ENSG00000139352)、HES1(ENSG00000114315)、JUND(ENSG00000130522)、FOS(ENSG00000170345)、ARID5B(ENSG00000150347)、IRF1(ENSG00000125347)、MAFB(ENSG00000204103)、IFI16(ENSG00000163565) 、FOXC1(ENSG00000054598)、STAT1(ENSG00000115415)、JUNB(ENSG00000171223)、EGFR1、ZFP36(ENSG00000128016)、JUN(ENSG00000177606)、FOSB(ENSG00000125740)、IER2(ENSG00000160888)、PAX9(ENSG00000198807)、及び/又はHIF1A(ENSG00000100644)のうちの1つ又は複数の発現を含む、請求項2に記載の胸腺細胞産物。
【請求項14】
前記亜集団がcTECを含み、かつcTECが、PSMA3(ENSG00000100567)、FABP5(ENSG00000164687)、APRT(ENSG00000198931)、LSM6(ENSG00000164167)、CTSV(ENSG00000136943)、SNRPE(ENSG00000182004)、ECHS1(ENSG00000127884)、HSPE1(ENSG00000115541)、RAN(ENSG00000132341)、TMA7(ENSG00000232112)、TIMM13(ENSG00000099800)、LDHB(ENSG00000111716)、ECI1(ENSG00000167969)、GCSH(ENSG00000140905)、NOP58(ENSG00000055044)、MRPL11(ENSG00000174547)、STOML2(ENSG00000165283)、ING2(ENSG00000168556)、TOMM7(ENSG00000196683)、MRPS34(ENSG00000074071)、MRPL14(ENSG00000180992)、MRPL57(ENSG00000173141)、IMP3(ENSG00000177971)、MZT2A(ENSG00000173272)、及び/又はXRCC6(ENSG00000196419)のうちの1つ又は複数の発現を含む、請求項2に記載の胸腺細胞産物。
【請求項15】
前記亜集団が角質細胞様mTECを含み、かつ角質細胞様mTECが、CD24(ENSG00000272398)、ELF3(ENSG00000163435)、CLDN4(ENSG00000189143)、MAL2(ENSG00000147676)、ASAH1(ENSG00000104763)、TMEM123(ENSG00000152558)、TMBIM6(ENSG00000139644)、LGALS3(ENSG00000131981-)、MYL12B(ENSG00000118680)、ACADVL(ENSG00000072778)、KRT19(ENSG00000171345)、SAT1(ENSG00000130066)、RAB25(ENSG00000132698)、WFDC2(ENSG00000101443)、VAMP8(ENSG00000118640)、SPINT1(ENSG00000166145)、SERPINB1(ENSG00000021355)、CDH1(ENSG00000039068)、GSN(ENSG00000148180)、SDC4(ENSG00000124145)、MGST2(ENSG00000085871)、CAST(ENSG00000153113)、B4GALT1(ENSG00000086062)、PERP(ENSG00000112378)、及び/又はDMKN(ENSG00000161249)のうちの1つ又は複数の発現を含む、請求項2に記載の胸腺細胞産物。
【請求項16】
インビトロで胸腺細胞の集団を生成するための方法であって、
可溶性因子、ミネラル、又はそれらの組み合わせの存在下で細胞集団を培養して、胸腺細胞への前記細胞集団の分化又は成熟を誘導するステップ
を含み、
ここで、前記細胞集団が、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように任意に操作され、かつ
前記細胞集団が、多能性幹細胞(PSC)、胚体内胚葉(DE)細胞、第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞、及び前方前腸内胚葉(AFE)細胞からなる群から選択される1つ又は複数の細胞型を含む、
前記方法。
【請求項17】
胸腺細胞の前記集団が、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、cTEC-高 細胞、cTEC-低 細胞、Aire+mTEC-高 細胞、mTEC-低 細胞、角質細胞様mTEC細胞、繊毛細胞、ミエリン細胞、筋様細胞、神経内分泌細胞、及びタフト/イオノサイト細胞のうちの1つ又は複数の亜集団を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞集団が可溶性因子の存在下で培養される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記可溶性因子が、増殖因子、サイトカイン、トランスポーター、又はホルモンのうちの1つ又は複数である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記可溶性因子が増殖因子である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記増殖因子が上皮増殖因子(EGF、ENSG00000138798)である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞集団がサイトカインの存在下で培養される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記サイトカインがマクロファージ阻害因子(MIF、ENSG00000240972)である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞集団がトランスポーターの存在下で培養される、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記トランスポーターがラクトトランスフェリン(LTF、ENSG00000012223)である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞集団がミネラルの存在下で培養される、請求項16に記載の方法。
【請求項27】
前記ミネラルが、鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、モリブデン、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、亜鉛、塩化物、クロム、銅、フッ化物、又はヨウ素のうちの1つ又は複数である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ミネラルが鉄である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記細胞集団が、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作される、請求項16に記載の方法。
【請求項30】
前記細胞集団が、細胞表面受容体を発現するように操作される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細胞表面受容体が、CD74(ENSG00000019582)、インテグリンベータ1(ITGB1、ENSG00000150093)、又は上皮増殖因子受容体(EGFR、ENSG00000146648)である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記細胞集団が、細胞内因子を発現するように操作される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記細胞内因子がエノラーゼ1(ENO1、ENSG00000074800)である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
インビトロで胸腺細胞の集団を維持する方法であって、
a)可溶性因子もしくはミネラルの存在下で胸腺細胞の前記集団を培養するステップ、
b)1つもしくは複数の支持細胞の存在下で胸腺細胞の前記集団を培養するステップ、及び/又は
細胞表面受容体もしくは細胞内因子を発現するように胸腺細胞の前記集団を操作するステップ
のうちの1つ又は複数を含む、前記方法。
【請求項35】
胸腺細胞の前記集団が可溶性因子の存在下で培養される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記可溶性因子が、増殖因子、サイトカイン、トランスポーター、又はホルモンのうちの1つ又は複数である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記可溶性因子が増殖因子である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記増殖因子が上皮増殖因子(EGF、ENSG00000138798)である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞集団がサイトカインの存在下で培養される、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記サイトカインがマクロファージ阻害因子(MIF、ENSG00000240972)である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
胸腺細胞の前記集団がトランスポーターの存在下で培養される、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
前記トランスポーターがラクトトランスフェリン(LTF、ENSG00000012223)である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
胸腺細胞の前記集団がミネラルの存在下で培養される、請求項34に記載の方法。
【請求項44】
前記ミネラルが、鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、モリブデン、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、亜鉛、塩化物、クロム、銅、フッ化物、又はヨウ素のうちの1つ又は複数である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記ミネラルが鉄である、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
胸腺細胞の前記集団が、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作される、請求項34に記載の方法。
【請求項47】
胸腺細胞の前記集団が、細胞表面受容体を発現するように操作される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記細胞表面受容体が、CD74(ENSG00000019582)、インテグリンベータ1(ITGB1、ENSG00000150093)、又は上皮増殖因子受容体(EGFR、ENSG00000146648)である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
胸腺細胞の前記集団が、細胞内因子を発現するように操作される、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
前記細胞内因子が、エノラーゼ1(ENO1、ENSG00000074800)である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
胸腺細胞の前記集団が、1つ又は複数の支持細胞の存在下で培養される、請求項34に記載の方法。
【請求項52】
前記支持細胞が、内皮細胞、間葉系幹細胞、マクロファージ、樹状細胞(DC)、上皮細胞、線維芽細胞、間質細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)、又はリンパ管内皮細胞のうちの1つ又は複数である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記支持細胞が間葉系幹細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記支持細胞が内皮細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
胸腺細胞の前記集団が、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、胸腺上皮細胞(TEC)、髄質胸腺上皮細胞(mTEC)、及び皮質胸腺上皮細胞(cTEC)からなる群から選択される1つ又は複数の亜集団を含む、請求項34から54のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.119(e)に基づき、2021年6月23日に出願した米国特許仮出願第63/214,176号、2021年10月15日に出願した米国特許仮出願第63/256,445号、2022年1月4日に出願した米国特許仮出願第63/296,250号、及び2022年3月18日に出願した米国特許仮出願第63/321,142号の優先権を主張し、その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景情報
胸腺は免疫系において中心的な役割を果たす主要なリンパ器官である。胸腺の微小環境はリンパ球(例えばT細胞)のようなエフェクター細胞の成熟の発達のためのユニークな訓練場を提供する。当分野において周知のように、胸腺細胞とエフェクター細胞の間の複雑な相互作用はエフェクター細胞の表現型及び機能性を決めることができる。一部の胸腺細胞-エフェクター細胞相互作用は、胸腺細胞により発現された因子の認識によってエフェクター細胞の生存が促進されるように、調整される。それに対して、他の胸腺細胞-エフェクター細胞相互作用はエフェクター細胞の死を引き起こし得る。このような相互作用を制御することで、胸腺は、自己に対する寛容を確立しながら外来侵入者に対して活性化された免疫応答を開始できるエフェクター細胞のレパートリーを確立する上で極めて重要な役割を果たす。
【0003】
胸腺細胞と胸腺細胞産物を生成するための改善された方法、及び機能的な胸腺上皮細胞に分化できる機能的な胸腺細胞が豊富な細胞集団はまだ求められている。
【発明の概要】
【0004】
概要
本開示は胸腺細胞産物及びその作製方法を提供する。本開示の胸腺産物は、(i)胸腺細胞の1つ又は複数の集団を生成すること、(ii)胸腺細胞の前記集団の各々からRNAを抽出及び配列決定すること、(iii)胸腺細胞の前記集団の各々について試験胸腺マップを生成するために、RNA配列を分析して胸腺細胞の各集団内の亜集団を同定すること、(iv)前記試験胸腺マップの各々を参照胸腺マップと比較すること、並びに(v)約0.7から約1.4の亜集団比(SPR)又は相対cTEC比(RCTR)を有する試験胸腺マップを選択することにより胸腺細胞産物を同定すること、によって調製される。いくつかの態様において、前記各胸腺細胞集団内の前記細胞亜集団は、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、cTEC-高 細胞、cTEC-低 細胞、Aire+mTEC-高 細胞、mTEC-低 細胞、角質細胞様mTEC細胞、繊毛細胞、ミエリン細胞、筋様細胞、神経内分泌細胞、及び/又はタフト/イオノサイト細胞から選択される。いくつかの態様において、前記SPRは約0.7~1.4である。いくつかの態様において、前記SPRは、iTEC SPR、cTEC-高 SPR、cTEC-低 SPR、Aire+mTEC-高 SPR、mTEC-低 SPR、角質細胞様mTEC SPR、繊毛SPR、ミエリンSPR、筋様SPR、神経内分泌SPR、及び/又はタフト/イオノサイトSPRである。いくつかの実施形態において、前記SPRはiTEC SPRである。非限定的な例として、前記iTEC SPRは1である。
【0005】
いくつかの実施形態において、前記RCTRは約0.7~1.14である。非限定的な例として、前記RCTRは1である。
【0006】
前記胸腺細胞産物の調製に用いられる本開示の胸腺細胞集団は幹細胞の分化によって調製される。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記参照胸腺マップはヒト胸腺、例えば成体又は胎児胸腺を使用して生成される。
【0008】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の前記集団の前記iTEC亜集団は、IGKC(ENSG00000211592)、ANAX2、LIMA1(ENSG00000050405)、EGFR(ENSG00000146648)、ASCL1(ENSG00000139352)、HES1(ENSG00000114315)、JUND(ENSG00000130522)、FOS(ENSG00000170345)、ARID5B(ENSG00000150347)、IRF1(ENSG00000125347)、MAFB(ENSG00000204103)、IFI16(ENSG00000163565)、FOXC1(ENSG00000054598)、STAT1(ENSG00000115415)、JUNB(ENSG00000171223)、EGFR1、ZFP36(ENSG00000128016)、JUN(ENSG00000177606)、FOSB(ENSG00000125740)、IER2(ENSG00000160888)、PAX9(ENSG00000198807)、及び/又はHIF1A(ENSG00000100644)のうちの1つ又は複数の発現を含み得る。
【0009】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の前記集団の前記cTEC亜集団は、PSMA3(ENSG00000100567)、FABP5(ENSG00000164687)、APRT(ENSG00000198931)、LSM6(ENSG00000164167)、CTSV(ENSG00000136943)、SNRPE(ENSG00000182004)、ECHS1(ENSG00000127884)、HSPE1(ENSG00000115541)、RAN(ENSG00000132341)、TMA7(ENSG00000232112)、TIMM13(ENSG00000099800)、LDHB(ENSG00000111716)、ECI1(ENSG00000167969)、GCSH(ENSG00000140905)、NOP58(ENSG00000055044)、MRPL11(ENSG00000174547)、STOML2(ENSG00000165283)、ING2(ENSG00000168556)、TOMM7(ENSG00000196683)、MRPS34(ENSG00000074071)、MRPL14(ENSG00000180992)、MRPL57(ENSG00000173141)、IMP3(ENSG00000177971)、MZT2A(ENSG00000173272)、及びXRCC6(ENSG00000196419)のうちの1つ又は複数の発現を含み得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の前記集団の前記角質細胞様mTEC亜集団は、CD24(ENSG00000272398)、ELF3(ENSG00000163435)、CLDN4(ENSG00000189143)、MAL2(ENSG00000147676)、ASAH1(ENSG00000104763)、TMEM123(ENSG00000152558)、TMBIM6(ENSG00000139644)、LGALS3(ENSG00000131981-)、MYL12B(ENSG00000118680)、ACADVL(ENSG00000072778)、KRT19(ENSG00000171345)、SAT1(ENSG00000130066)、RAB25(ENSG00000132698)、WFDC2(ENSG00000101443)、VAMP8(ENSG00000118640)、SPINT1(ENSG00000166145)、SERPINB1(ENSG00000021355)、CDH1(ENSG00000039068)、GSN(ENSG00000148180)、SDC4(ENSG00000124145)、MGST2(ENSG00000085871)、CAST(ENSG00000153113)、B4GALT1(ENSG00000086062)、PERP(ENSG00000112378)、及びDMKN(ENSG00000161249)のうちの1つ又は複数の発現を含み得る。
【0011】
本開示は、インビトロで胸腺細胞を生成するための方法を提供する。これらの方法は、可溶性因子、ミネラル、又はそれらの組み合わせの存在下で細胞集団を培養するステップを含み得る。このような方法は、胸腺細胞への前記細胞集団の分化又は成熟を含み得る。前記細胞集団も、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作され得る。いくつかの実施形態において、前記細胞集団は多能性幹細胞(PSC)、胚体内胚葉(DE)細胞、第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞、前方前腸内胚葉(AFE)細胞であり得る。
【0012】
前記胸腺細胞は、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、cTEC-高 細胞、cTEC-低 細胞、Aire+mTEC-高 細胞、mTEC-低 細胞、角質細胞様mTEC細胞、繊毛細胞、ミエリン細胞、筋様細胞、神経内分泌細胞、及びタフト/イオノサイト細胞、又はそれらの組み合わせのうちの1つ又は複数である。可溶性因子は、増殖因子、サイトカイン、トランスポーター、ホルモン、又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。非限定的な例として、前記可溶性因子は、上皮増殖因子(EGF、ENSG00000138798)のような増殖因子である。前記可溶性因子はサイトカイン、例えば、マクロファージ阻害因子(MIF、ENSG00000240972)である。前記可溶性因子は、トランスポーター、例えば、ラクトトランスフェリン(LTF、ENSG00000012223)であってもよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞はミネラルの存在下で培養される。前記ミネラルは、鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、モリブデン、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、亜鉛、塩化物、クロム、銅、フッ化物、又はヨウ素である。一態様において、前記ミネラルは鉄である。本開示の細胞は、胸腺細胞を生成又は維持する目的で、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作される。前記細胞表面受容体は、CD74(ENSG00000019582)、インテグリンベータ1(ITGB1、ENSG00000150093)、及び/又は上皮増殖因子受容体(EGFR、ENSG00000146648)である。前記細胞内因子はENO1(ENSG00000074800)である。
【0014】
本開示はインビトロで胸腺細胞の集団を維持する方法も提供する。前記方法は、(i)可溶性因子もしくはミネラルの存在下で胸腺細胞の前記集団を培養するステップ、(ii)1つもしくは複数の支持細胞の存在下で胸腺細胞の前記集団を培養ステップ、及び/又は(iii)細胞表面受容体もしくは細胞内因子を発現するように胸腺細胞の前記集団を操作するステップを含み得る。
【0015】
本開示の細胞は1つ又は複数の支持細胞の存在下で培養される。支持細胞は内皮細胞、間葉系幹細胞、マクロファージ、樹状細胞(DC)、上皮細胞、線維芽細胞、間質細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)、又はリンパ管内皮細胞である。いくつかの実施形態において、支持細胞は間葉系幹細胞である。いくつかの態様において、前記支持細胞は内皮細胞である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
I.序論
胸腺上皮細胞はT細胞分化において重要である。本明細書に記載のように調製された胸腺細胞は、胸腺組織及び胸腺細胞の特性、例えば胸腺関連免疫機能の治療用途への利用を可能にすることができる。例えば、加齢に伴う免疫機能の低下は胸腺細胞の組成物と機能的能力の変化によって引き起こされることが知られている。加えて、アンドロゲン及びエストロゲンを含む性ホルモンの変化により、胸腺自体は萎縮するかまたは老化を示す。胸腺萎縮の発症は思春期の発症と同時に始まる場合がある。従って、胸腺上皮細胞の再生は加齢に伴う免疫機能の低下を軽減する組成物及び方法を提供する可能性がある。
【0017】
II.組成物
細胞
本開示の細胞は、胸腺細胞、エフェクター細胞、多能性幹細胞、それらの集団及びそれらに由来する細胞を限定することなく含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は多能性幹細胞に由来し得る。いくつかの実施形態において、胸腺細胞は人工多能性幹細胞に由来し得る。
【0018】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、特定の個体又は対象に関して、自己由来のもの、同種間のもの、同系間のもの、又は異種間のものであり得る。いくつかの実施形態において、胸腺細胞は、それらの臨床応用から最終的に恩恵を受ける対象に関して、自己由来のもの、同種間のもの、同系間のもの、又は異種間のものであり得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は哺乳動物細胞、特に、ヒト細胞であり得る。細胞は、初代細胞又は不死化細胞株であり得る。いくつかの態様において、本開示の細胞は同系細胞源から調製又はそれに由来し得る。本明細書に記載の任意の細胞は該当する細胞型のための当分野既知のマーカーによって特徴付けられる。
【0019】
胸腺細胞
本開示の細胞は胸腺細胞の集団を含み得る。胸腺細胞は、胸腺に由来する細胞又は胸腺の細胞になる予定の細胞と関連付けられた1つ又は複数の表現型又は遺伝子型マーカーを有する細胞である。いくつかの実施形態において、胸腺細胞の前記集団は多能性幹細胞の分化に由来する。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞はiPSCである。胸腺細胞は胚、胎児、又は成体の胸腺細胞である。いくつかの実施形態において、本開示の組成物は胸腺細胞の集団であり得る。いくつかの態様において、本開示の組成物は胸腺細胞産物である。
【0020】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞は以下のステップの1つ又は複数によって胸腺幹に分化する多能性幹細胞の分化によって調製される。PSCは胚体内胚葉(DE)に似た細胞に分化でき、かつ/又はそれに分化するように誘導できる。胚体内胚葉細胞は第3咽頭嚢内胚葉(PPE)に似た細胞に分化でき、かつ/又はそれに分化するように誘導できる。胚体内胚葉及び/又はPPE細胞は、腹側咽頭内胚葉(AFE)に似た細胞に分化でき、かつ/又はそれに分化するように誘導できる。AFEは第3咽頭嚢内胚葉(PPE)に似た細胞に分化でき、かつ/又はそれに分化するように誘導できる。胸腺上皮前駆細胞(TEPC)はPPE細胞から生成できる。TECはTEPCSに由来することができる。本明細書に記載の細胞型の各々は1つ又は複数のマーカーによって特徴付けられる。いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は、例えばOCT4、SOX2、及び/又はNanogに限定されないマーカーの発現増加に関連付けられる。いくつかの実施形態において、胚体内胚葉は、例えばSOX17、FOXA2、CXCR4、及び/又はCER1に限定されないマーカーの発現増加に関連付けられる。いくつかの実施形態において、前方前腸細胞(AFE)は、例えばFOXA2、SOX2、及び/又はPAX9に限定されないマーカーの発現増加に関連付けられる。いくつかの実施形態において、第3咽頭嚢内胚葉細胞は、例えばHOXA3、TBX1、PAX9、EYA1、SIX1、PBX1、及び/又はPAX1に限定されないマーカーの発現増加に関連付けられる。いくつかの実施形態において、胸腺上皮前駆細胞は、例えばFOXN1、K5、K8、及び/又はHOXA3に限定されないマーカーの発現増加に関連付けられる。いくつかの実施形態において、胸腺細胞はDE細胞、第3PPE細胞、AFE細胞、TEPC、及び/又はTEC細胞に由来する。
【0021】
本開示の胸腺細胞の集団を調製するために、多能性幹細胞は胚体内胚葉細胞に培養および分化される。胚体内胚葉細胞は更に前方前腸細胞に培養および分化される。いくつかの実施形態において、前方前腸細胞は咽頭内胚葉細胞に培養および分化される。いくつかの実施形態において、咽頭内胚葉細胞は胸腺細胞、例えば、胸腺上皮細胞に培養および分化される。いくつかの実施形態において、分化は約14日間から約21日間行われる。
【0022】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞はPSCから調製される。この点については、本方法は多能性幹細胞を胸腺細胞に分化させるのに十分な条件下で多能性幹細胞を一定期間培養するステップを含み得る。例えば、本方法は胸腺細胞へのPSCの分化を駆動する因子及び/又は阻害物質の存在下で多能性幹細胞を培養するステップを含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態において、PSCを胸腺細胞に分化させるための方法は当分野で既知の任意の方法である。PSCを胸腺細胞に分化させるための方法は、当分野で既知の分化用の1つ又は複数のパラメーター又はそれらの組み合わせの使用を含み得る。パラメーターは、(i)分化促進因子、(ii)分化促進阻害物質、(iii)分化促進の継続時間、(iv)温度、(v)基質、及び/又は(vi)分化を促進する支持細胞を含むが、それらに限定されない。以下の参考文献に記載のPSCを胸腺細胞に分化させるための任意の方法又はパラメーターは、本明細書に使用され、Parent et al. Cell Stem Cell. 2013 Aug 1;13(2):219-29、Soh et al. Stem Cell Rep. 2014 Vol. 2 j 925-937、Sun et al. Cell Stem Cell. 2013 Aug 1;13(2):230-6、Okabe et al. Cell. Reprog. 2015 Vol 17, No. 5、Su et al. Sci.Rep. 2015 5, 9882、Otsuka et al. Sci Rep2020 10:224、国際特許公開WO2019060336、WO2020205859、WO2020220040、WO2014134213、WO2010143529、WO2011139628、WO2022076751、WO2014134213、WO2021222297及び中国特許公開CN201110121243を含み、これらそれぞれの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0024】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の集団は、1つ又は複数の細胞型の亜集団を含み得る。細胞型はiTEC、mTEC、角質細胞様mTEC、cTEC-高、cTEC-低、mTEC-低 細胞である。
【0025】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の集団は胸腺上皮細胞(TEC)を含み得る。胸腺細胞はTECであるか又はそれに由来し得る。いくつかの実施形態において、前記TECはiPSCの分化に由来する。胚発生中、TECはCD45発現に陰性で上皮マーカーEpCAMに陽性である非造血細胞に由来する。TECは皮質胸腺上皮細胞(cTEC)及び/又は髄質胸腺上皮細胞(mTEC)である。mTECはサイトケラチン5(K5)及びサイトケラチン14(K14)発現を特徴とするが、サイトケラチン8(K8)発現のレベルが低いのに対して、cTECはK8及びK18を発現する。いくつかの実施形態において、胸腺細胞はK5及びK8(K5+K8+)の両方とも発現するTECに由来する。いくつかの態様において、K5+K8+細胞はmTEC及び/又はcTECの前駆細胞である。mTECは、Ly51(例えば、UEA-1+Ly51-)ではなく、細胞表面のハリエニシダ凝集素-1(Ulex europaeus agglutinin-1)(UEA-1)の発現にも陽性であり得るが、cTECはUEA-1-Ly51+である。いくつかの実施形態において、胸腺細胞はmTECであるか又はそれに由来し得る。
【0026】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の前記集団は髄質胸腺上皮細胞(mTEC)を含み得る。いくつかの実施形態において、mTECはiPSCの分化に由来する。いくつかの実施形態において、mTECは、例えばサイトケラチン5、サイトケラチン14、UEA-1、CD80、カテプシンL、及び/又はカテプシンSに限定されないマーカーの高発現を有し得る。
【0027】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞の集団は皮質胸腺上皮細胞(cTEC)を含み得る。いくつかの実施形態において、cTECはiPSCの分化に由来する。いくつかの実施形態において、胸腺細胞は、例えばサイトケラチン8、サイトケラチン18、Ly51、CD205、カテプシンL、及び/又は胸腺特異的セリンプロテアーゼに限定されないマーカーの高発現を有するcTECであるか又はそれに由来し得る。非限定的な例として、胸腺細胞は、例えばCCL25、及び/又はKRT5のようなマーカーを発現するcTECであるか又はそれに由来し得る。mTECは、例えばCCL19、KRT8、及び/又はAIREのようなマーカーを発現し得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞は、例えばFOXN1、PAX9、PAX1、DLIA、ISL1、EYA1、SIX1、IL7、K5、K8、及びAIREのような1つ又は複数のマーカーを発現するTECであるか又はそれに由来し得る。
【0029】
胸腺細胞は、Park et al. 2020 Science Vol. 367, Issue 6480(その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)に記載の任意の細胞型であるか又はそれに由来し得る。例えば、胸腺細胞は、例えばMYOD1及びMYOG発現筋様細胞(本明細書ではTEC(myo)という)のような筋様細胞、及び/又はNEUROD1、SYP、CHGA-発現TECS(本明細書ではTEC(neuro)という)に由来する。
【0030】
胸腺細胞は、その全ての内容が参照によって本明細書に組み込まれるBautista et al. 2021 Nat Commun 12, 1096に記載の細胞型に由来する。いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の前記集団は、Bautista et al. 2021に記載の「cTEC」細胞を含み得、より低いレベルの機能遺伝子(HLAクラスII)及びより多くのKI67-増殖細胞の含有を特徴とする。胸腺細胞は、Bautista et al. 2021に記載の「mTEC」細胞に由来し、CLDN4の発現、より低いレベルのHLAクラスII、PSMB11、PRSS16、CCL25の発現、及び高レベルのケモカインCCL21を特徴とする。
【0031】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、Bautista et al. 2021に記載の「mTEC」細胞を含み得、SPIB、AIRE、FEZF2、より高いレベルのHLAクラスIIの発現を特徴とする。胸腺細胞は、Bautista et al. 2021に記載の角質細胞様mTECであるか又はそれに由来し得、KRT1、及び/又はIVLの発現を特徴とする。
【0032】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、標準的なTECアイデンティティ遺伝子、例えば、FOXN1、PAX9、SIX1を発現する、Bautista et al. 2021に記載の未成熟TEC(iTEC)を含み得る。
【0033】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、例えばKRT5、KRT8、AIRE、PSMB11、及び/又はPRSS16に限定されない1つ又は複数のマーカーを発現するTECを含み得る。
【0034】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、例えばAIRE、CK5、CK8、CXCL12、CCL25、DLL4、及び/又はHLA-DRに限定されない1つ又は複数のマーカーを発現するTECを含み得る。
【0035】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、例えばCTSV、SLC46A2、HLA-DMA、CXCL12、THY1、ENO1、CALR、ALCAM、ATPIF1、及び/又はHSPA5に限定されない細胞表面マーカーの発現を特徴とするcTEChi(又はcTEC高)細胞を含み得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、例えばLTF、HLA-DRA<CD74、HLA DRB1、HLA-DPA、HLA-DPB1、IL2RG、及び/又はFCER2に限定されない1つ又は複数のマーカーの発現を特徴とするAIRE+mTEC高 細胞を含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態において、iPSCの分化に由来する胸腺細胞の集団は、角質細胞様mTECを含み得る。該細胞は、皮膚の角質細胞(最終分化ケラチノサイト)でも発現するケラチン細胞骨格1(KRT1)、KRT10、SPINKSのような遺伝子を発現するため、角質細胞様と呼ばれる。角質細胞様細胞は、AIREのような、mTECと重複する転写物をも発現する。そのため、それらは角質細胞様mTECと呼ばれる。それらは、ヒト胸腺内のユニークな細胞であるハッサル小体を生じさせる前駆体である可能性が高い。これらの細胞はmTEC前駆細胞に由来するとも考えられる(Noam Kadouri et al Nature Review Immunology 2020 v20:239。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0038】
多能性幹細胞(PSC)
いくつかの実施形態において、本開示の細胞は多能性幹細胞に由来する。
【0039】
多能性幹細胞は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉といった3つの胚葉のいずれかを生じさせる能力を有する。多能性幹細胞は、例えば、胚性幹細胞、核移植由来胚性幹細胞、人工多能性幹細胞(iPSC)のような幹細胞を含み得る。多能性幹細胞は、(i)自己複製の能力と(ii)多能性とを含む幹細胞表現型を有し得る。多能性関連遺伝子は、Oct-3/4、Sox2、Nanog、GDF3、REXI、FGF4、ESGI、DPPA2、DPPA4、hTERT及びSSEAIを含み得るが、それらに限定されない。
【0040】
本明細書に記載の細胞は胚性幹細胞に由来し得る。ES細胞は、(a)自己複製し、(b)生物内の全ての細胞型を産生するように分化し、かつ/又は(c)発生中の生物に由来する、細胞を含み得る。ES細胞は、発生中の生物の胞胚の内部細胞塊に由来し得る。ES細胞は、発生中の生物の8細胞期から単一割球の除去を含む単一割球生検(SBB)によって生成された割球にも由来し得る。ES細胞は、例えばSSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、及び/又はアルカリホスファターゼに限定されないマーカーの発現を特徴とする。ES細胞を生成及び特徴決定する方法は当分野で既知であり、例えば、米国特許第7,029,913号、US5,843,780、US6,200,806に見出すことができる(これらそれぞれの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0041】
人工多能性幹細胞(iPSC)は本開示の細胞の生成にも使用され得る。iPSCは、例えば(a)自己複製、(b)生物内の細胞の全てのタイプを産生するように分化する能力、及び/又は(c)体細胞由来、に限定されない1つ又は複数の特性を有する細胞を含み得る。iPSCは、例えばSSEA3、SSEA4、SOX2、OCT3/4、Nanog、TRA160、TRA1818、TDGF1、Dnmt3b、FoxD3、GDF3、Cyp26al、TERT、Zpf42に限定されないマーカーを発現し得る。iPS細胞を生成及び特徴決定する方法は、例えば、米国特許公開番号US20090047263、US20090068742、US2009191159、US20090227032、US20090246875、及びUS20090304646に見出される(これらそれぞれの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態において、iPSCは、T細胞もしくは非T細胞、B細胞、あるいは末梢血単核細胞、造血前駆細胞、又は任意の他の体細胞型からの任意の他の細胞に由来する。
【0042】
いくつかの実施形態において、多能性幹細胞は成体幹細胞に由来する。成体幹細胞は、対象、例えば対象の内耳、骨髄、間葉、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、及び/又は血液から得られる。PSCは、胎盤又は臍帯由来の胚性幹細胞と、前駆細胞(例えば、内耳、骨髄、間葉、皮膚、脂肪、肝臓、筋肉、及び/又は血液に由来する前駆細胞)も含み得る。
【0043】
支持細胞
いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、胸腺細胞の生成及び/又は培養下での胸腺細胞の維持を助ける支持細胞を含み得るか又は該支持細胞で培養される。支持細胞の非限定的な例としては、マクロファージ及び樹状細胞(DC)のような造血非T細胞前駆細胞、上皮細胞及び線維芽細胞のような非造血細胞、骨格組織の前駆細胞のような間質細胞、骨、軟骨、造血支持間質、及び脂肪細胞のような構成要素を含む。いくつかの実施形態において、支持細胞は、胸腺細胞の増殖、生存、成熟、又は機能を促進する。いくつかの実施形態において、支持細胞は間葉系由来である。1つの実施形態において、間葉系細胞は間葉系幹細胞である。
【0044】
支持細胞は胸腺微小環境に存在し得る非免疫細胞である。例えば、支持細胞は線維芽細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)、内皮細胞、及び/又はリンパ管内皮細胞である。
【0045】
いくつかの実施形態において、支持細胞は、その全ての内容が参照によって本明細書に組み込まれるBautista et al. 2021 Nat Commun 12, 1096 (2021)に記載の神経内分泌細胞(BEX1、NEUROD1を発現)、筋肉様筋様細胞(MYOD1、DESを発現)、及びミエリン陽性上皮細胞(SOX10、MPZを発現)である。いくつかの実施形態において、間葉系細胞は、例えばLAMA2、LAMA4、PDGFRA、PDGFRB、LUM、CSPG4、COL1A2、COL3A1、IGF1、FGF7、FGF10、FST、BMP4、SFRP2、WNT5Aに限定されないマーカーに関連付けられる。間葉系細胞は、これらのマーカーの1つ又は複数に対して陽性又は陰性である。いくつかの実施形態において、間葉系細胞は本明細書に記載のいくつかのマーカーに陽性であるが、他のマーカーに陰性である。
【0046】
いくつかの実施形態において、内皮細胞は、例えばVEGFC、PECAM1、APLNR、PROXI、LYVE1、ACKR1、SELE、SELP、FN1、及び/又はTGFB1に限定されない1つ又は複数のマーカーに関連付けられる。内皮細胞はこれらのマーカーの1つ又は複数に対して陽性又は陰性である。いくつかの実施形態において、内皮細胞は本明細書に記載のいくつかのマーカーに陽性であるが、他のマーカーに陰性である。
【0047】
胸腺細胞産物
いくつかの実施形態において、本開示は胸腺細胞産物を提供する。胸腺細胞産物は本明細書に記載の方法によって調製される。本明細書で使用されるように、「胸腺細胞産物」とは、表現型的にもしくは能的にヒト胸腺もしくはその亜集団との類似点を有し、かつ/又は治療、診断、もしくは研究用途に適する、胸腺細胞の集団を指す。本開示の胸腺産物は、(i)胸腺細胞の1つ又は複数の集団を生成すること、(ii)胸腺細胞の前記集団の各々からRNAを抽出及び配列決定すること、(iii)胸腺細胞の前記集団の各々について試験胸腺マップを生成するために、RNA配列を分析して胸腺細胞の各集団内の前記亜集団を同定すること、(iv)前記試験胸腺マップの各々を参照胸腺マップと比較すること、並びに(v)約0.7から約1.4の亜集団比(SPR)又は相対cTEC比(RCTR)を有する試験胸腺マップを選択することにより胸腺細胞産物を同定すること、によって、調製される。本明細書で使用されるように、SPRとは、参照胸腺マップ中の細胞の亜集団の割合に対する試験胸腺マップ中の亜集団(本明細書では「細胞型」ともいう)の割合の比を指す。本明細書で使用されるように、cTEC比とは、特定の胸腺マップ内のcTEC低 細胞に対するcTEC高 細胞の割合の比を指す。
【0048】
胸腺細胞産物は胸腺マップを分析することによって調製される。本明細書で使用されるように、「胸腺マップ」とは、胸腺細胞又は胸腺組織の集団の分子プロファイルを指す。分子プロファイルは、胸腺細胞又は胸腺組織の集団の全転写プロファイル、前記胸腺細胞又は胸腺組織内の細胞の亜集団、及び/又は同定された亜集団の転写プロファイルを含み得る。いくつかの実施形態において、胸腺マップは、本明細書で使用されるように、胸腺組織及び前記胸腺組織内の既知の細胞型の転写プロファイルによって生成されるヒト胸腺の代表的なマップを指す参照胸腺マップである。1つの実施形態において、参照胸腺マップはBautista et al. 2021に記載の転写プロファイリングデータを使用して生成され得る。本明細書で使用されるように、試験胸腺マップとは、分子プロファイルが参照胸腺マップと比較される胸腺細胞の集団の特徴を指す。
【0049】
1つの実施形態において、SPRは0.70、0.75、0.8、0.85、0.9、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.06、0.97、0.98、0.99、1.0、1.1、1.2、1.3、及び/又は1.4であり得る。非限定的な例として、SPRは1である。
【0050】
RCTRはcTEC比を計算することによって作成される。本明細書で使用されるように、cTEC比とは、特定の胸腺マップ(参照又は試験胸腺マップ)内のcTEC低 細胞に対するcTEC高 細胞の割合の比を指す。cTEC比は胸腺マップ間で異なる場合があり、RCTRは0.70、0.75、0.8、0.85、0.9、0.91、0.92、0.93、0.94、0.95、0.06、0.97、0.98、0.99、1.0、1.1、1.2、1.3、及び/又は1.4であり得る。いくつかの実施形態において、RCTRは約0.7から約1.14であり得る。非限定的な例として、RCTRは1であり得る。いくつかの実施形態において、胸腺細胞集団の各々内の細胞亜集団は、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、cTEC-高 細胞、cTEC-低 細胞、Aire+mTEC-高 細胞、mTEC-低 細胞、角質細胞様mTEC細胞、繊毛細胞、ミエリン細胞、筋様細胞、神経内分泌細胞、及び/又はタフト/イオノサイト細胞であり得る。いくつかの実施形態において、SPRは約0.7から約1.4であり得る。いくつかの実施形態において、SPRは、iTEC SPR、cTEC-高 SPR、cTEC-低 SPR、Aire+mTEC-高 SPR、mTEC-低 SPR、角質細胞様mTEC SPR、繊毛SPR、ミエリンSPR、筋様SPR、神経内分泌SPR、及び/又はタフト/イオノサイトSPRであり得る。いくつかの実施形態において、SPRはiTEC SPRであり得る。非限定的な例として、iTEC SPRは1であり得る。
【0051】
III.方法
本開示は胸腺細胞、胸腺細胞を作製する方法及び/又は培養下で胸腺細胞を維持する方法を提供する。
【0052】
本開示はインビトロで胸腺細胞を生成するための方法を提供する。これらの方法は、可溶性因子、ミネラル、又はそれらの組み合わせの存在下で細胞集団を培養するステップを含み得る。このような方法は、胸腺細胞への細胞集団の分化又は成熟を含み得る。細胞集団は細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作されてもよい。いくつかの実施形態において、細胞集団は多能性幹細胞(PSC)、胚体内胚葉(DE)細胞、第3咽頭嚢内胚葉(PPE)細胞、前方前腸内胚葉(AFE)細胞、胸腺上皮前駆細胞(TEPC)、未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)、胸腺上皮細胞(TEC)、髄質胸腺上皮細胞(mTEC)、皮質胸腺上皮細胞(cTEC)、又はそれらの組み合わせであり得る。
【0053】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞は未成熟胸腺上皮細胞(iTEC)であり得る。いくつかの態様において、iTECは少なくとも1つの細胞表面受容体を発現し得、ここで、前記少なくとも1つの細胞表面受容体は、IGKC(ENSG00000211592)、ANAX2、LIMA1(ENSG00000050405)、又はEGFR(ENSG00000146648)であり得る。いくつかの実施形態において、iTECは少なくとも1つの細胞内因子を発現し得、ここで、前記少なくとも1つの細胞内因子は、ASCL1(ENSG00000139352)、HES1(ENSG00000114315)、JUND(ENSG00000130522)、FOS(ENSG00000170345)、ARID5B(ENSG00000150347)、IRF1(ENSG00000125347)、MAFB(ENSG00000204103)、IFI16(ENSG00000163565) 、FOXC1(ENSG00000054598)、STAT1(ENSG00000115415)、JUNB(ENSG00000171223)、EGFR1、ZFP36(ENSG00000128016)、JUN(ENSG00000177606)、FOSB(ENSG00000125740)、IER2(ENSG00000160888)、PAX9(ENSG00000198807)、又はHIF1A(ENSG00000100644)であり得る。
【0054】
可溶性因子は、増殖因子、サイトカイン、トランスポーター、ホルモン、又はそれらの組み合わせを含むが、それらに限定されない。
【0055】
非限定的な例として、可溶性因子は上皮増殖因子(EGF、ENSG00000138798)のような増殖因子であり得る。
【0056】
可溶性因子はサイトカイン、例えば、マクロファージ阻害因子(MIF、ENSG00000240972)であり得る。
【0057】
可溶性因子はトランスポーター、例えば、ラクトトランスフェリン(LTF、ENSG00000012223)であってもよい。
【0058】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞は、ミネラルの存在下で培養され得る。ミネラルは鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、モリブデン、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、亜鉛、塩化物、クロム、銅、フッ化物、又はヨウ素であり得る。一態様において、ミネラルは鉄であり得る。
【0059】
本開示の細胞は胸腺細胞を生成又は維持する目的で、細胞表面受容体又は細胞内因子を発現するように操作され得る。細胞表面受容体は、CD74(ENSG00000019582)、インテグリンベータ1(ITGB1、ENSG00000150093)、及び/又は上皮増殖因子受容体(EGFR、ENSG00000146648)であり得る。
【0060】
細胞内因子はENO1(ENSG00000074800)であり得る。
【0061】
本開示はインビトロで胸腺細胞の集団を維持するための方法も提供する。前記方法は、(i)可溶性因子もしくはミネラルの存在下で胸腺細胞の前記集団を培養するステップ、(ii)1つもしくは複数の支持細胞の存在下で胸腺細胞の前記集団を培養するステップ、及び/又は(iii)細胞表面受容体もしくは細胞内因子を発現するように胸腺細胞の前記集団を操作するステップを含み得る。
【0062】
本開示の細胞は1つ又は複数の支持細胞の存在下で培養され得る。支持細胞は内皮細胞、間葉系細胞、マクロファージ、樹状細胞(DC)、上皮細胞、線維芽細胞、間質細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、血管平滑筋細胞(VSMC)、又はリンパ管内皮細胞であり得る。いくつかの実施形態において、支持細胞は間葉系細胞であり得る。いくつかの態様において、支持細胞は内皮細胞であり得る。
【0063】
胸腺細胞の調製及び維持
いくつかの実施形態において、本開示は本明細書に記載の1つ又は複数の細胞又は細胞型を調製するための方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は胸腺細胞であり得る。
【0064】
公共データベースに蓄積されている一連のデータは初代ヒト及びマウス胸腺の単一細胞トランスクリプトームを提供する(Bautista et al. 2021 Nat Commun 12, 1096、Kernfeld, et al. Immunity. 2018 Jun 19;48(6):1258-1270.e6、Zeng et al. Immunity. 2019 Nov 19;51(5):930-948.e6を参照。これらそれぞれの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。これは本開示の細胞の胸腺細胞への分化及び/又は成熟を促進する因子を同定するための豊富な材料源を提供する。scRNA配列決定データの分析により、本開示は胸腺細胞表現型を促進及び/又は維持し得る潜在的な因子及び/又は支持細胞を同定する。
【0065】
いくつかの実施形態において、本開示の細胞は生物から単離され得る。いくつかの実施形態において、生物は哺乳動物であり得る。哺乳動物細胞はヒト、齧歯動物、ブタ及び/又はウシの供給源のから単離され得る。本開示の細胞のヒト供給源は自己由来又は同種間のものであり得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞を含有する組織は本明細書に記載の用途にそのまま採取及び使用され得る。本開示の細胞は胚、胎児、成体生物から得られ得る。いくつかの態様において、生物は生きているものであってもよいか、又は死体生物であってもよい。
【0066】
本明細書に記載の細胞は他の細胞型に由来し得る。非限定的な例として、本開示の細胞は多能性幹細胞(PSC)に由来し得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞は前駆細胞に由来し得る。いくつかの実施形態において、本開示の細胞はPSC及び/又は前駆細胞の分化に由来し得る。
【0067】
いくつかの実施形態において、胸腺細胞はPSCから調製され得る。この点については、本方法は多能性幹細胞を胸腺細胞に分化させるのに十分な条件下で多能性幹細胞を一定期間培養するステップを含み得る。例えば、本方法はPSCの胸腺細胞への分化を駆動する因子及び/又は阻害物質の存在下で多能性幹細胞を培養するステップを含み得る。PSCを胸腺細胞に分化させるための方法は当分野で既知である。PSCを胸腺細胞に分化させるための方法は当分野で既知の分化用の1つ又は複数のパラメーター又はそれらの組み合わせの使用を含み得る。パラメーターは、(i)分化促進因子、(ii)分化促進阻害物質、(iii)分化促進の継続時間、(iv)温度、(v)基質、及び/又は(vi)分化を促進する支持細胞を含むが、それらに限定されない。以下の参考文献に記載のPSCを胸腺細胞に分化させる任意の方法又はパラメーターは本明細書で使用され得、Parent et al. Cell Stem Cell. 2013 Aug 1;13(2):219-29、Soh et al. Stem Cell Rep. 2014 Vol. 2 j 925-937、Sun et al. Cell Stem Cell. 2013 Aug 1;13(2):230-6、Okabe et al. Cell. Reprog. 2015 Vol 17, No. 5、Su et al. Sci.Rep. 2015 5, 9882、Otsuka et al. Sci Rep 2020 10:224、国際特許公開WO2019060336、WO2020205859、WO2020220040、WO2014134213、WO2010143529、WO2011139628、及び中国特許公開CN201110121243を含み、これらそれぞれの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0068】
可溶性因子
本明細書に記載の因子は、本開示の細胞の成熟、運命の特異化を誘導するために、及び/又は特定の細胞状態の維持を助けるために使用され得る。可溶性因子は細胞表面分子に結合できるか又は細胞に取り込むことができるタンパク質又はペプチドを含み得る。細胞による可溶性因子の取り込みは受動拡散、トランスポーター、及び/又はエンドサイトーシスによって行われ得る。可溶性因子は増殖因子、ホルモン、トランスポーター、及びサイトカインを含み得る。細胞に提供される時、可溶性因子は細胞にシグナルを生成し得る。シグナルは生存、増殖及び分化等の1つ又は複数の細胞作用を引き起こし得る。
【0069】
いくつかの実施形態において、可溶性因子はリガンドであり得る。
【0070】
いくつかの実施形態において、可溶性因子は増殖因子であり得る。増殖因子は、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経増殖因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、増殖刺激因子(MSF)、エリスロポエチン、トロンボポエチン(TPO)、骨形成タンパク質(BMP)、肝細胞増殖因子(HGF)、GDF、ニューロトロフィン、肉腫増殖因子(SGF)、及び/又は増殖/分化因子(GDF)であり得る。
【0071】
非限定的な例として、増殖因子は上皮増殖因子(EGF、ENSG00000138798)であり得る。
【0072】
いくつかの実施形態において、可溶性因子はサイトカインであり得る。当分野で既知のいかなるサイトカインも用いられ得る。非限定的な例として、サイトカインはインビボで胸腺細胞又はエフェクター細胞によって産生され得る。Yan F, et al. Mol Med Rep16: 7175-7184, 2017は、本開示に有用であり得る、T細胞又は胸腺細胞によって生成されるサイトカインを提供する(その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。非限定的な例として、サイトカインはマクロファージ阻害因子(MIF、ENSG00000240972)であり得る。
【0073】
いくつかの実施形態において、可溶性因子はトランスポータータンパク質であり得、第2コンパニオンタンパク質又はミネラルに結合し1つの場所から別の場所へのその転移を容易にすることができる。転移は、細胞外環境から細胞内へ、又は生物体内の1つの場所から別の場所へと発生し得る。いくつかの実施形態において、トランスポータータンパク質はミネラルトランスポータータンパク質であり得る。非限定的な例として、トランスポータータンパク質はラクトトランスフェリン(LTF、ENSG00000012223)であり得る。
【0074】
ミネラル
いくつかの実施形態において、本開示の細胞はミネラルの存在下で調製又は培養され得る。ミネラルは鉄、マグネシウム、カルシウム、マンガン、モリブデン、リン、カリウム、ナトリウム、硫黄、亜鉛、塩化物、クロム、銅、フッ化物、又はヨウ素であり得る。いくつかの実施形態において、ミネラルは鉄、又はその塩もしくは誘導体であり得る。
【0075】
細胞表面受容体
可溶性因子又はリガンドはリガンドに特異的な対応物受容体と相互作用し、共にメッセージ又はシグナルを細胞に伝達して特定の機能又は表現型を持たせることができる。いくつかの実施形態において、細胞は胸腺細胞であり得る。細胞表面受容体はGタンパク質共役受容体、酵素共役受容体、及びイオンチャネル結合受容体受容体であり得る。
【0076】
細胞表面受容体の非限定的な例は、CD74(ENSG00000019582)、インテグリンベータ1(ITGB1、ENSG00000150093)、及び/又は上皮増殖因子受容体(EGFR、ENSG00000146648)を含む。一態様において、細胞表面受容体はCD74であり得る。CD74は、NFカッパBを活性化することで胸腺細胞の細胞性及び成熟を調節することが証明されている(Wang et al. FASEB J. 2021 May;35(5):e21535。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0077】
細胞内因子
本開示の方法は本明細書に記載の細胞集団を1つ又は複数の細胞内因子とともに培養するステップを含み得る。細胞内因子は細胞質又は核に存在するあらゆるタンパク質又はペプチドであり得る。
【0078】
いくつかの実施形態において、細胞内因子は細胞質細胞内因子である。非限定的な例として、細胞内因子はエノラーゼ1(ENO1、ENSG00000074800)であり得る。他の態様において、細胞内因子は核に存在する因子であり得る。例えば、因子は転写因子又は転写関連因子であり得る。細胞内核因子の非限定的な例は、NFKB1、PAX1、PRDX15、PSIP1、AIRE、DLX5、FEZF2、LTF、SPIBを含み得る。
【0079】
胸腺細胞集団の分析
幹細胞の分化に由来する胸腺細胞集団は、本明細書に記載の1つ又は複数の方法によって分析され得る。いくつかの実施形態において、胸腺細胞集団は、例えばcTEC-高、cTEC-低、未成熟TEC、mTEC-低、Aire+mTEC高、ケラチノサイト様mTEC、神経内分泌細胞、筋様細胞、ミエリン細胞に限定されない細胞型の1つ又は複数を含み得る。胸腺細胞型の各々は1つ又は複数のマーカーに関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、cTEC-高 細胞は、例えばPSMB11、PRSS16、及びCCL25に限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、cTEC-低 細胞は、例えばPSMB11、PRSS16、CCL25(HLAクラスII、PSMB11、PRSS16、CCL25のレベルが低く、KI67+増殖細胞が増加)に限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、未成熟TEC細胞は、cTEC/mTEC機能遺伝子を欠く、例えばFOXN1、PAX9、SIX1に限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、mTEC-低 細胞は、例えば、CLDN4、低レベルのHLAクラスII、高レベルのケモカインCCL21に限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、Aire+mTEC高 細胞は、例えばSPIB、AIRE、FEZF2、高レベルのHLAクラスIIに限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、ケラチノサイト様mTEC細胞は、例えばKRT1、IVLに限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、神経内分泌細胞は、例えばBEX1、NEUROD1に限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、筋様細胞は、例えばMYOD1、DESに限定されないマーカーの発現に関連付けられ得る。いくつかの実施形態において、ミエリン細胞は、例えばMPZの発現に関連付けられ得る。この説明全体を通じて使用されるように、細胞亜集団内のマーカー遺伝子発現の「低い」又は「より低い」レベルへの言及は、細胞集団全体にわたるマーカー遺伝子の平均発現レベルよりも約1.5倍低い、約2倍低い、約2.5倍低い、約3倍低い、約3.5倍低い、約4倍低い、約4.5倍低い、又は約5倍低い、又は5倍以下低いことを意味する。同様に、この説明全体を通じて、細胞亜集団内のマーカー遺伝子発現の「高い」又は「より高い」レベルへの言及は、細胞集団全体にわたるマーカー遺伝子の平均発現レベルよりも約1.5倍高い、約2倍高い、約2.5倍高い、約3倍高い、約3.5倍高い、約4倍高い、約4.5倍高い、又は約5倍高い、又は5倍以上高いことを意味する。
【0080】
いくつかの実施形態において、da Rocha et al. Nature Communications. 2018 Mar 1;9(1):892(その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)に記載のように、CellRouterを使用して(細胞周期及びストレス細胞の潜在的な交絡効果を明らかにするために)品質管理、細胞周期、及びミトコンドリア含有量の回帰を行い、その後、可変遺伝子の同定、次元削減(UMAP=一様多様体近似と投影)及びクラスタリングを行い得る。CellRouterは胸腺細胞集団内の転写クラスターを同定するために使用され得る。いくつかの実施形態において、単一細胞及びクラスターはUMAP空間内で視覚化され得る。いくつかの系統の標準的なマーカー遺伝子は各転写クラスターに細胞型同一性を割り当てるために使用され得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、インビトロで生物に由来する又はインビボで生物から得られる胸腺細胞のscRNA配列データは比較され得る。様々な技術を使用する大規模な単一細胞トランスクリプトームデータセットは、データ統合に課題をもたらすバッチ固有の系統的変動を含む。バッチ修正の方法は回帰ベースのバッチ修正(da Rocha et al. Nature Communications. 2018 Mar 1;9(1):892 (その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)及び調和ベースのバッチ修正(Korsunsky et al. Nature Methods; 16, pages 1289-1296 (2019))を含み得る。
【0082】
いくつかの実施形態において、バッチ修正はSingle Cell Net、Symphony(Kang, J.B., et al. Nat Commun 12, 5890 (2021)。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)及びLabel Transfer(パッケージSeurat(Stuart et al., 2019, Cell 177, 1888-1902。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)で実施されるように)を使用して行うことができる。
【0083】
IV.定義
発現:本明細書で使用されるように、「発現」及びその文法上の等価物は、マーカーの文脈において、マーカーの産生並びにマーカーのレベル又は量を指す。例えば、細胞におけるマーカーの発現又はマーカーの存在又は細胞がマーカーに対して陽性であるとは、陽性対照レベルと同様のレベルでのマーカーの発現を指す。陽性対照レベルは、マーカーと関連する細胞運命を有することが知られている細胞によって発現されるマーカーのレベルによって決定され得る。同様に、マーカーの発現がない、又は細胞がマーカーに対して陰性であるとは、陰性対照レベルと同様のレベルでのマーカーの発現を指す。陰性対照レベルは、マーカーと関連する細胞運命を持たないことが知られている細胞によって発現されるマーカーのレベルによって決定され得る。そのため、マーカーが存在しないということは、マーカーの発現が検出不可のレベルであることを単に意味するものではなく、特定の場合において、細胞がマーカーを発現している可能性があるが、その発現が陽性対照と比較して低いか、又は陰性対照のそれに類似したレベルであり得る。
【0084】
エフェクター細胞:本明細書で使用されるように、「エフェクター細胞」は、胸腺細胞に接触又は近接すると、シグナル又は細胞細胞死トリガーを実行、開始又は伝播する能力を獲得する任意の細胞又は細胞型を指す。「接触又は近接」とは、細胞内在性又は細胞外来性(例えば、細胞間)シグナル伝達又は他のコミュニケーション又は相互作用を可能にするのに十分な時空間的接近を指す。
【0085】
リンパ球:本明細書で使用されるように、「リンパ球」は、当業者がこの用語を理解するであろう意味及び使用を包含し、更に、リンパ組織又は血液中に存在する、骨髄に由来する1つの種類の免疫細胞を指す。いくつかの実施形態において、リンパ球は胸腺内で成熟する。
【0086】
陰性:本明細書で使用されるように、用語「陰性」(「-」と略す場合がある)は、示された細胞マーカーの発現に関して本明細書で使用される場合、細胞が示された細胞マーカーを検出可能なレベルで発現しないことを意味する。
【0087】
陽性:本明細書で使用されるように、用語「陽性」(「+」と略す場合がある)は、示された細胞マーカーの発現に関して本明細書で使用される場合、細胞が示された細胞マーカーを検出可能なレベルで発現することを意味し、例えば、低い(ただし検出可能)レベルでの発現及び高い(高)レベルでの発現を含み得る。
【0088】
プレT細胞:本明細書で使用されるように、「プレT細胞」とは、T細胞に成熟又は分化できるリンパ球を指す。
【0089】
可溶性因子:本明細書で使用されるように、「可溶性因子」とは細胞表面分子に結合できる又は細胞に取り込むことができる任意のタンパク質又はペプチドを指す。細胞による取り込みは受動拡散、トランスポーター、及び/又はエンドサイトーシスによって行われ得る。
【0090】
亜集団比(SPR):本明細書で使用されるように、SPRとは参照胸腺マップ中の胸腺細胞亜集団の割合に対する試験胸腺マップ中の胸腺細胞亜集団(本明細書では「細胞型」ともいう)の割合の比を指す。いくつかの実施形態において、SPRはiTEC SPR、cTEC-高 SPR、cTEC-低 SPR、Aire+mTEC-高 SPR、mTEC-低 SPR、角質細胞様mTEC SPR、繊毛SPR、ミエリンSPR、筋様SPR、神経内分泌SPR、又はタフト/イオノサイトSPRであり得る。
【0091】
cTEC比及び相対cTEC比(RCTR):本明細書で使用されるように、cTEC比とは、特定の胸腺マップ(参照又は試験胸腺マップ)内のcTEC低 細胞に対するcTEC高 細胞の割合の比を指す。RCTRとは、参照胸腺マップ中のcTEC比に対する試験胸腺マップ中のcTEC比の比を指す。
【0092】
胸腺細胞又は起源又は系統:本明細書で使用されるように、「胸腺細胞又は胸腺起源又は胸腺系統」とは、胸腺由来の細胞又は胸腺の細胞になる予定の細胞に関連付けられた1つ又は複数の表現型又は遺伝子型マーカーを有する細胞を指す。本明細書で使用されるように、胸腺は胚、胎児又は成体胸腺であり得る。
【0093】
胸腺細胞産物:本明細書で使用されるように、「胸腺細胞産物」とは、表現型的にもしくは機能的にヒト胸腺もしくはその亜集団との類似点を有し、かつ/又は治療、診断、もしくは研究用途に適する、胸腺細胞の集団を指す。
【0094】
胸腺マップ:本明細書で使用されるように、「胸腺マップ」とは、胸腺細胞又は胸腺組織の集団の分子プロファイルを指す。分子プロファイルは、胸腺細胞又は胸腺組織の集団の全転写プロファイル、胸腺細胞又は胸腺組織内の細胞の亜集団、及び/又は同定された亜集団の転写プロファイルを含み得る。いくつかの実施形態において、胸腺マップは、本明細書で使用されるように、胸腺組織及び胸腺組織内の既知の細胞型の転写プロファイルによって生成されるヒト胸腺の代表的なマップを指す参照胸腺マップであり得る。1つの実施形態において、参照胸腺マップはBautista et al. 2021に記載の転写プロファイリングデータを使用して生成され得る。本明細書で使用されるように、試験胸腺マップとは、分子プロファイルが参照胸腺マップと比較される胸腺細胞の集団の特徴を指す。
【0095】
変異体:生体分子(例えば、訓練因子又は最終因子)に関して使用される用語「変異体」とは、親分子に関連する又は親分子に由来する生体分子を指す。変異体は、例えば、親分子の修飾型、切断型、突然変異型、相同型、又は他の改変型であってもよい。用語変異体はポリヌクレオチド又はポリペプチドのいずれかを説明するために使用できる。
【0096】
本開示の1つ又は複数の実施形態の詳細は以下の添付の説明に記載される。本明細書に記載のものと類似又は同等の任意の材料及び方法は本開示の実施又は試験に用いることができるが、好ましい材料及び方法をここに記載する。本開示の他の特徴、目的、及び利点は、本説明から明らかになろう。本説明において、単数形は、文脈が特に示さない限り、複数形も含む。他に定義されない限り、本説明で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合には、本説明が統制する。
【0097】
本開示を以下の非限定的な例によって更に説明する。
【実施例
【0098】
実施例1.胸腺細胞の単一細胞RNA配列決定分析
Bautista, J. et al.に発表された生後19日の胎児及び25歳の成体の胸腺のscRNA-seqデータの分析を行った(ヒト胸腺間質の単一細胞転写プロファイリングにより、胸腺髄質における新規な細胞不均一性が明らかになる。Nat Commun 12, 1096 (2021)。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0099】
da Rocha et al. Nature Communications. 2018 Mar 1;9(1):892(その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)に記載のように、CellRouterを使用して(細胞周期及びストレス細胞の潜在的な交絡効果を明らかにするために)品質管理、細胞周期、及びミトコンドリア含有量の回帰を行い、その後、可変遺伝子の同定、次元削減(UMAP)及びクラスタリングを行った。CellRouterは24個の転写クラスターを同定した。単一細胞及びクラスターをUMAP空間内で視覚化した。各転写クラスターに細胞型同一性を割り当てるためにいくつかの系統の標準的なマーカー遺伝子を使用した。各クラスター内の各遺伝子の平均発現を示すヒートマップを生成した。
【0100】
5つの間葉系細胞(MC)状態が同定された(MC1、MC2、MC3、MC4、及びMC5と呼ばれる)。更なる細胞間コミュニケーション不偏分析により、間葉-上皮相互作用、例えばMC2とmTECの間の相互作用が同定された。
【0101】
細胞間コミュニケーション/相互作用をヒートマップとして視覚化して、異なる細胞間の相互作用の程度を分析した。細胞間コミュニケーション不偏分析により、間葉-上皮相互作用、特にMC2とmTECの間の相互作用が同定された。Endo1及びEndo3と命名された細胞は特定のTECサブセットと相互作用すると考えられた。このような相互作用の同定は相互作用遺伝子候補及び調節遺伝子候補の同定を容易にする可能性がある。
【0102】
内皮細胞はTEC細胞、特に、mTECと強く相互作用し、リガンドを潜在的に発現する胸腺上皮細胞及び細胞型の発生に重要であると報告されているシグナル伝達経路につながるリガンド-受容体相互作用を優先していることが見出された。そのような例の1つはcTEC及びmTECにおけるEGF受容体(EGFR)経路である。これらのデータは、胸腺細胞培養におけるEGFの使用の潜在的な有用性を強調する。細胞型発現リガンドを、細胞型発現受容体と対にし、かつ分析した。内皮細胞とTEC細胞(特にmTEC)の間の強い相互作用が同定された。EGFR、ITGB1のような受容体が分析において同定された。
【0103】
リガンド-受容体相互作用の更なる優先順位付けにより、胸腺上皮細胞(例えば、MIF及びCD74)及び潜在的なエフェクター(例えばCD74からLTF)の発達に重要である可能性があるシグナル伝達分子及びネットワークが同定された。活性スコアを使用して遺伝子調節ネットワーク分析に基づいて報告されている転写調節因子によって制御されると予測される遺伝子セットにおける細胞型特異的遺伝子サインの濃縮を研究した。
【0104】
受容体及び下流エフェクターのマッチングにより、受容体の活性を媒介する推定上のシグナル伝達分子及びネットワークが同定された。TECの発生に重要である可能性がある特定の細胞表面受容体に応答する転写調節因子も同定された。例えば、CD74に応答するLTF及びENO-1が同定された。Eno-1(エノラーゼ)はT細胞の代謝に重要であると知られている。LTF(ラクトフェリン)は鉄の輸送に関与する。これらの発見はインビトロで培養されたTECにおける鉄補給の有用性を示唆する。MIF(マクロファージ阻害因子)はCD74の既知のリガンドであるため、この発見は1つ又は複数の細胞型の胸腺細胞への分化誘導及び/又は胸腺細胞維持におけるMIFの添加の有用性を示す。
【0105】
実施例2.胎児胸腺と成体胸腺の比較
若い(又は本明細書で胎児という)(19週)対年長(25歳)の胸腺(thymuses)(又は胸腺(thymi))の転写プロファイルの比較は、著しく異なるプロファイルを示した。若い胸腺の転写プロファイルは、mTEC高、cTEC高、mTEC低、cTEC低、iTEC、神経内分泌、内皮細胞(Endo1、Endo2、Endo3、Endo4、Endo5)、間葉系細胞(MC1、MC2、MC3、MC4、MC5)、及び周皮細胞(周皮細胞-1、周皮細胞-2、周皮細胞-3)を含む複数の亜集団を示した。対照的に、年長の胸腺の転写プロファイルは、内皮、上皮、周皮細胞、及び間葉系細胞の亜集団を示した。上皮細胞の存在量は胎児胸腺(19週齢)と比較して、成体胸腺(25歳)において大幅に減少した。上皮細胞にも未成熟TECがあると考えられる。内皮細胞サブセット、及び一部の周皮細胞サブセットは、19週齢と25歳の間の胸腺に保存されると考えられたが、間葉系細胞サブセットは年齢間で異なると考えられた。これらのデータは、胸腺欠損が25歳でも発生することを示す。
【0106】
実施例3.転写調節因子
細胞分化の軌跡を追跡するためのアルゴリズムを使用したところ、初期iTECからのmTEC対cTECの発生の異なる動態が示された。軌跡の各々は、mTEC又はcTECのいずれかへの分化に寄与し得る特定の顕著な遺伝子ネットワーク、シグナル伝達分子及び調節因子を強調した。優先順位付けされた転写調節因子の動態パターンは、iTECからmTECと比較して異なるiTECからcTECの分化パターンを示した。
【0107】
実施例4.胸腺組織とiPSC由来胸腺細胞のscRNA配列データセットの比較
Bautista, J. et al. Nat Commun 12, 1096 (2021)からの胸腺組織のscRNA配列データをPark et al. 2020 Science Vol. 367, Issue 6480からの胸腺組織のscRNA配列データを比較した(それらの全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。様々な技術を使用する大規模な単一細胞トランスクリプトームデータセットは、データ統合に課題をもたらすバッチ固有の系統的変動を含む。バッチ変動から生じる差異を考慮せず、データを細胞型ではなく胸腺組織(胎児対成体)の年齢でクラスター化した。バッチ修正の2つの方法、即ち回帰ベースのバッチ修正(da Rocha et al. Nature Communications. 2018 Mar 1;9(1):892(その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる))及び調和ベースのバッチ修正(Korsunsky et al. Nature Methods; 16, pages 1289-1296 (2019))を実行した。これらのデータは、回帰ベースのバッチ修正と比較して、調和ベースのバッチ修正が2つの研究間のデータのクラスター化により効果的であることを示した。
【0108】
Bautista et al. and Park et al.におけるscRNA seqデータにおいて同定された胎児及び成体胸腺中の異なる集団での細胞類似性を定量化するために、平均分類スコア(MCS)を採用した。
【0109】
Park et alからの細胞型を使用すること(本明細書では「Teichmann研究」という)で、単一細胞遺伝子発現プロファイル及びSingleCellNetアルゴリズムを使用して細胞型を同定するように機械学習モデルを訓練した(Tan Y, et al. Cell Syst. 2019 Aug 28;9(2):207-213.e2。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。そのため、これらのモデルはトランスクリプトームが与えられた細胞型の同一性を表す。次に、これらのモデルをクエリして(query)、Bautista et al.に含まれるデータセット(本明細書では「親」データセットという)内の細胞型間でどのようなトランスクリプトーム類似性が存在するか(存在する場合)を識別した。視覚化を容易にするために、スコアの平均分類を計算した。親データセットからの各単一細胞亜集団はスコアを有し、ヒートマップは親のデータからの以前に注釈付けられた細胞型の平均スコアを示す。分類スコアの範囲は0~1であり、0は類似性なしを示し、1は高類似性を示す。Teichmannデータセットに記載の亜集団を親データセットにおける高MCSで同定した。バッチ修正後に同定された両方の研究間で観察された細胞型の保存は、公開されている胸腺組織のscRNA配列データセットの調和において重要なステップを表す。そして、これらのデータセットから得られた洞察は、多能性幹細胞の分化に由来する胸腺集団の特徴決定に使用される。
【0110】
多能性幹細胞から分化した胸腺細胞に対してscRNA配列決定を行った。これらのTEP由来物から7つの細胞亜集団が同定された。インビトロ由来の胸腺細胞由来物からのscRNA配列データをBautista et al.におけるscRNA配列データセットと比較し、平均分類スコアを計算した。この比較は、インビトロ由来物内に存在する細胞集団、及びインビボで胸腺組織に存在する細胞型とのそれらの相関性についての洞察を提供する。平均分類スコアに基づくヒートマップは、TEP由来物中の集団が神経内分泌細胞(集団5、3、及び4)と高い類似性を持ち、且つ角質細胞-mTEC様細胞(集団1、及び2及び集団6、7)との類似性がより低いcTEC-低、イオノサイト及びミエリン細胞と高い類似性を持つことを明らかにした。集団中の神経内分泌細胞の濃縮は45%胚体内胚葉細胞のみの存在に起因する可能性が高く、神経内分泌細胞への分化は胚体内胚葉の前方前腸への分化中にSMAD阻害によって促進され得る。神経内分泌細胞は、神経内分泌表現型を発生する神経細胞であってもよい。由来物中の角質細胞様mTECの存在は望ましい。TEP誘導条件は調整してもよく、scRNAseqデータの比較によって決定されたiTECの濃縮をサポートする培養条件は望ましい場合がある。
【0111】
mTECに類似する角質細胞様細胞(集団1、2)について、この集団はBautista et al 2021で同定され、本明細書の分析に基づくと、Park et al.2020に記載のmTEC IIIと同等であり得る。該細胞は、皮膚角質細胞(最終分化ケラチノサイト)でも発現されるケラチン細胞骨格1(KRT1)、KRT10、SPINKS等の遺伝子を発現するため、角質細胞と呼ばれる。角質細胞様細胞は、AIREのようなmTECと重複する転写物も発現する。そのため、それらは角質細胞様mTECと呼ばれる。それらはヒト胸腺におけるユニークな細胞であるハッサル小体を生じさせる前駆体である可能性が高い。これらの細胞はmTEC前駆細胞に由来するとも考えられる((Noam Kadouri et al Nature Review Immunology 2020 v20:239。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。角質細胞に似た集団1及び2もタフト/イオノサイト細胞といくつかの類似点を有すると考えられる(Miller C et al 2018 Nature 559:627。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。胸腺タフト細胞は角質細胞様に隣接して局在することが示された(Kadouri N, et al. Nat Rev Immunol. 2020 Apr;20(4):239-253。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。
【0112】
実施例5.胸腺細胞表面受容体及び転写調節因子
scRNA配列の比較分析の目的の1つは、インビトロでの多能性幹細胞の分化中に最終的にTEP細胞を生じさせる細胞の前駆細胞又は前駆体を同定することである。mTECとcTEC集団の両方を生じさせるiTEC細胞とも呼ばれる「二能性」前駆細胞の存在は当分野で推測されているが、決定的に同定されていない。本明細書で行われる細胞結合性のコンピューターによる追跡は、iTEC集団が、更に「cTEC」及び「mTEC」細胞に発達する「cTEC」及び「mTEC」細胞を生じさせる可能性があると示唆する。胸腺細胞の亜集団の認識を助けるために、様々な亜集団において優先的に発現される表面マーカー及び転写因子を同定していた。特に、前記分析により、2グループのiTEC細胞の表面マーカー及び転写因子が同定された。細胞表面マーカーは、iTEC-1についてIGKC(ENSG00000211592)を、iTEC-2についてANAX2、LIMA1(ENSG00000050405)、EGFR(ENSG00000146648)を含む。転写調節因子は、iTEC-1についてASCL1(ENSG00000139352)、HES1(ENSG00000114315)、JUND(ENSG00000130522)、FOS(ENSG00000170345)、ARID5B(ENSG00000150347)、IRF1(ENSG00000125347)、MAFB(ENSG00000204103)、IFI16(ENSG00000163565)、FOXCI(ENSG00000054598)、STAT1(ENSG00000115415)を、iTEC-2についてJUNB(ENSG00000171223)、EGFR1、ZFP36(ENSG00000128016)、JUN(ENSG00000177606)、FOSB(ENSG00000125740)、IER2(ENSG00000160888)、PAX9(ENSG00000198807)、HIF1A(ENSG00000100644)を含む。
【0113】
実施例6.細胞同一性分析のワークフロー
この研究の目的は、Bautista et al. 2021及びPark et al. 2020に発表された参照細胞アトラスに対するiPSC由来胸腺細胞の分子類似性を決定するためのアルゴリズムを使用するワークフローを開発することであった。iPSC由来胸腺細胞の分析は、標的細胞型へのiPSCの指向性分化中の実質的な不均一性と非同期的な細胞挙動により、多くの場合困難である。前記アルゴリズムは異なる仮定に基づいて構築され、データの一部の側面を捕捉しながらその他の側面を見逃す方が好ましい場合があるため、インビトロiPSC由来胸腺細胞のインビボ対応物に対するその分子類似性を決定するには、直交的且つ相補的なアプローチを採用することが重要である。前記ワークフローはSingleCellNet、Symphony(Kang, J.B., et al. Nat Commun 12, 5890 (2021)。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)及びLabel Transfer(パッケージSeurat(Stuart et al., 2019, Cell 177, 1888-1902。その全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる)で実施されるように)を用いた。前記アルゴリズムはiPSC由来胸腺細胞から細胞を分類し(SingleCellNet。iPSC由来細胞を参照UMAPにマッピングし、訓練データセットに由来するクラスラベルに基づいて細胞を分類する(Symphony))、訓練データセットから学習したラベルをクエリデータセット内の個々の細胞に転送するために用いられた。
【0114】
前記ワークフローはiPSC細胞から分化した胸腺細胞集団(本明細書では「iPS由来胸腺細胞」ともいう)に適用した。2つのiPSC由来胸腺細胞集団サンプル、即ち2-179及びExp21 iPS-TEPを使用した。まず、クエリ及び訓練細胞がUMAP空間(UMAP=一様多様体近似と投影)内の同様な位置に配置されるように、Symphonyアルゴリズムをクエリ細胞(サンプル2-179)の投影及びBautista et al. 2021で生成された参照UMAP細胞アトラスに適用した。細胞同一性も特定の基準に基づいてこのアプローチを使用して決定した。SingleCellNet分析と一致して、Symphonyもクエリ細胞を神経内分泌状態に割り当てた。しかし、サンプル2-179からのiPSC由来細胞の大部分がcTEC-低かcTEC-高かを決定する角質細胞様の類似性は、Symphonyでは捕捉されなかった。Label Transferアプローチ(ソフトウェアパッケージSeuratで使用可能)も用い、このアプローチでは、訓練データセット、例えば、Bautista et al. 2021から学習したクラスラベル(細胞型)がクエリ細胞、例えば、サンプル2-179及び4-191に転送された。iPSCサンプル2-179(クエリ)のUMAP分析後、ラベルが参照からクエリ細胞に転送された。Symphony及びSeurat分析は、神経内分泌細胞集団とcTEC-低又はcTEC-高 細胞集団の割り当てに関して良好な一致を示した。
【0115】
次に、Symphonyを使用して、またSingleCellNetからの以前の結果も示して、サンプルExp21 iPS-TEPを分析して比較を確立した。Symphony分析は、サンプル2-179の同じ分析との比較において神経内分泌細胞の数が増加するが(SingleCellNet結果と一致)、cTEC-低 細胞の数がより多いことを示した。これらの予測によれば、このサンプルにおいてcTEC-高 細胞の数はより少ないが、ミエリン及び筋様細胞は実質的により多く、これはSingleCellNet分析と部分的に一致する。加えて、Symphonyを使用してExp21 iPS-TEPを分析することでi-TEC集団が検出された。
【0116】
胸腺細胞由来物(実験21)とクエリ間の異なる細胞型の百分率頻度を、Bautista et al. 2021で初代ヒト胸腺において同定された細胞型、即ち参照の頻度と比較した。この比較は、神経内分泌細胞の百分率が参照に比べてクエリにおいてより高いことを明らかにした。Aire+mTECは参照においてのみ存在し、クエリでは存在しなかった。それに対して、クエリにおけるiTEC及びcTEC高集団の頻度は参照におけるiTECの頻度に非常に似ていた。従って、iPS細胞に由来するTEPにおいて同定された細胞型の頻度は初代ヒト胸腺組織において同定された細胞型と同等であった。クエリ及び参照における各細胞型の細胞の数を表1に示す。
【0117】
(表1)クエリ及び参照における細胞数
【0118】
実施例7.iPSC由来胸腺細胞における胸腺多様性の再現
アルゴリズムCellRouter及びSymphonyを使用してヒト胸腺からの上皮細胞の参照単一細胞アトラス(本明細書ではBautista et al. 2021に記載の「参照胸腺マップ」ともいう)を生成した。iPSC由来胸腺細胞を前記参照単一細胞アトラス上にマッピングし、iPSC由来胸腺細胞をヒト胸腺におけるそれらのインビボ対応物に対する分子類似性に基づいて分類して試験胸腺マップを生成した。本明細書で使用されるように、「分子類似性」は、分類子と呼ばれる教師あり機械学習アルゴリズムによって計算される分類スコアと定義されてもよく、0に近いスコアは所与の細胞が特定の細胞型に類似する確率が低いことを意味し、1に近いスコアは所与の細胞がヒト胸腺におけるそれらのインビボ対応物に類似する確率が高いことを意味する。
【0119】
このアプローチは、iPSCから胸腺上皮細胞を分化させるインビトロプロトコール(例えば、実験21及び実験23)が、ヒト胸腺の細胞型多様性の再現により優れていることを示した(データは示さず)。サンプル全体にわたってiPSC細胞由来の細胞型の割合を調査することで、実験21及び23は、cTEC(cTEC-高、cTEC-低を含む)、mTECのサブセット、未成熟TEC、及び他の細胞型(下記表2参照)等、胸腺における重要な細胞型に転写的に類似する細胞を含むことを明らかにした。
【0120】
(表2)iPSC細胞に由来する異なる細胞型の割合
【0121】
表2におけるサンプルについて亜集団比(SPR)を計算し、結果を表3に示す。本明細書で使用されるように、SPRとは、参照胸腺マップ中の細胞亜集団の割合に対する試験胸腺マップ中の亜集団(本明細書では「細胞型」ともいう)の割合の比を指す。いくつかの実施形態において、SPRはiTEC SPR、cTEC-高 SPR、cTEC-低 SPR、Aire+mTEC-高 SPR、mTEC-低 SPR、角質細胞様mTEC SPR、繊毛SPR、ミエリンSPR、筋様SPR、神経内分泌SPR、又はタフト/イオノサイトSPRであり得る。実験21/22におけるiTEC SPRの値は1に近く、この実験におけるiTECの割合がヒト胸腺(参照胸腺マップ)におけるiTECの割合に類似することを示唆した。
【0122】
表2に記載のサンプルについてcTEC比及び相対cTEC比(RCTR)を計算し、結果を表4に示す。本明細書で使用されるように、cTEC比とは、特定の胸腺マップ中のcTEC低 細胞に対するcTEC高 細胞の割合の比を指す。RCTRとは、参照胸腺マップに対する試験胸腺マップのcTEC比の比を指す。実験23におけるRCTRの値は1に近く、この実験におけるcTEC比がヒト胸腺(参照胸腺マップ)におけるcTEC比に類似することを示唆した。
【0123】
(表3)胸腺細胞由来物のSPR
【0124】
(表4)胸腺細胞由来物のRCTR
【0125】
特に実験23について、分析は、iPSC由来胸腺細胞が、転写の観点から、主にcTEC、iTEC、角質細胞様mTEC及び神経内分泌細胞に類似することを示した。
【0126】
iPSC由来胸腺細胞のUMAP及びクラスタリング分析を行った。この分析は、16個の不偏転写クラスターの存在を明らかにした。ヒト胸腺のscRNA seq分析に由来する遺伝子発現サインとのこれらのサインの重複を同定したアルゴリズムCellRouterを使用してクラスター特異的遺伝子サインを計算した(Bautista et al. 2021に記載)。ヒートマップは、このような濃縮の統計的有意性を示す。クラスター16特異的遺伝子はヒト胸腺からの神経内分泌遺伝子サインに著しく濃縮されたが、クラスター11は角質細胞様mTECとの重複遺伝子プログラムを有し、そしてクラスター1、4及び5はcTECとの顕著なサインの重複を示した。まとめると、これらの結果は、iPSCクラスターとヒト胸腺におけるインビボ細胞型の間で転写プログラムが共有されることを示した。各転写クラスターで表される推定上の細胞型を同定するために、クラスタリング及びSymphony分析を統合した。この分析はSymphony予測細胞型がどのように転写クラスター全体に分布するかを調査した(表5)。
【0127】
(表5)異なるクラスターにおける異なる細胞型の割合
【0128】
クラスター16内の細胞の大部分はSymphonyによって神経内分泌細胞として分類され、クラスター1、3、4、5、及び14はcTECとして分類された細胞を高割合で含み、クラスター6はcTEC-低として分類された細胞を主に含む。これらのデータは、Symphony予測が転写クラスターからの細胞型の同定をガイドするために使用できることを示し、それは探索的なデータ分析においてよく採用されるステップである。
【0129】
神経内分泌細胞に関連付けられたマーカーを同定するために、クラスター16内で発現された細胞マーカーを分析した。CellRouterを使用して、iPSC由来胸腺細胞においてクラスター16によって特異的に発現された細胞表面マーカーを分析した。神経内分泌細胞のための細胞表面マーカーは、PDPN(ENSG00000162493)、CNTN2(ENSG00000184144)、NCAM1(ENSG00000149294)、CXCR4(ENSG00000121966)、NGFR(ENSG00000064300)、L1CAM(ENSG00000198910)、CNTNAP2(ENSG00000174469)、ANK3(ENSG00000151150)、NTRK1(ENSG00000198400)、及び/又はSLC1A2(ENSG00000110436)を含んだ。これらの細胞表面マーカーを使用することで、神経内分泌細胞をiPSC由来胸腺細胞集団から除去して他の胸腺細胞型が豊富な細胞集団、例えばcTEC、及び/又はiTECに限定さらない細胞集団を生成することができる。
【0130】
実施例8:iPSC由来胸腺細胞とヒト胸腺の間の重複する遺伝子発現パターン
iPSC細胞とヒト胸腺における細胞型の分子類似性の潜在的な原因である遺伝子発現プログラムを調査した。ヒートマップから、iPSC由来胸腺細胞クラスターとヒト胸腺における細胞型の間の重複遺伝子セットを抽出し、それらの平均発現レベルをヒト胸腺の発現レベル上にプロットした。この分析は、ヒト胸腺においてiPSCクラスター1及びcTEC-高で発現される遺伝子が、他の全ての細胞型と比較して実際にこの細胞型でより高度に発現されることを示した(遺伝子及び関連ENSEMBL遺伝子識別子のリストについては表6を参照)。また、クラスター11と角質細胞様mTEC集団の間で共有される遺伝子発現プログラムはヒト胸腺からの角質細胞様TECで実際により高度に発現される(遺伝子及び関連ENSEMBL遺伝子識別子のリストについては表7を参照)。同様に、クラスター16と神経内分泌細胞の間で共有される遺伝子プログラムは明らかであり、この場合、標準的な神経内分泌マーカーがiPSC細胞、例えばNEUROD1で同定され、これは本アプローチの妥当性を裏付けている(遺伝子及び関連ENSEMBL遺伝子識別子のリストについては表8を参照)。まとめると、この分析は、iPSC由来TEPとそれらのインビボ対応物の間の分子類似性を示した。
【0131】
(表6)ヒト胸腺におけるiPSC-胸腺細胞クラスター1とcTEC-高群の重複部分において発現される遺伝子
【0132】
(表7)ヒト胸腺におけるiPSC-胸腺細胞クラスター11と角質細胞様mTEC群の間の重複部分において発現される遺伝子
【0133】
(表8)ヒト胸腺におけるiPSC-胸腺細胞クラスター16と神経内分泌細胞群の間の重複部分において発現される遺伝子
【0134】
同等物及び範囲
当業者は、本明細書に記載された本開示による具体的な実施形態に対する多くの同等物を、通常の実験のみを使用して認識するか、又は確認することができる。本開示の範囲は、上記の明細書に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に記載されている通りである。
【0135】
特許請求の範囲において、「一つの(a)」、「一つの(an)」、及び「その(the)」等の冠詞は、反対の指示がない限り、又は文脈から明らかでない限り、1つ又は1つ超を意味する場合がある。グループの1つ以上のメンバー間の「又は」を含む特許請求の範囲又は明細書は、反対の指示がない限り、又は文脈から明らかでない限り、グループメンバーの1つ、2つ以上、又は全てが所与の産物又はプロセスに存在するか、用いられているか、又はそうでなければ関連する場合に満たされると考えられる。本開示は、正確にグループの1つのメンバーが所与の産物又はプロセスに存在するか、用いられるか、又はそうでなければ関連する実施形態を含む。本開示は、複数の、又はグループメンバー全体が、所与の産物又はプロセスに存在するか、用いられるか、又はそうでなければ関連する実施形態を含む。
【0136】
「含む」という用語は、オープンであることを意図しており、追加の要素又はステップを許容するが含める必要はないことにも留意されたい。従って、「含む」という用語が本明細書で使用される場合、「からなる」という用語も包含され、開示される。
【0137】
範囲が指定されている場合は、エンドポイントが含まれる。更に、別段の指示がない限り、又は文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表される値は、文脈が明らかにそうでないとする場合を除いて、本開示の異なる実施形態において記載された範囲内の任意の特定の値又は下位範囲を範囲の下限の単位の10分の1まで想定することができることを理解されたい。
【0138】
更に、従来技術の範囲内にある本開示の任意の特定の実施形態は、任意の1つ以上の特許請求の範囲から明示的に除外され得ることが理解されるべきである。そのような実施形態は、当業者に知られているとみなされるので、除外が本明細書に明示的に記載されていなくても、それらは除外され得る。本開示の組成物の任意の特定の実施形態(例えば、任意の抗生物質、治療又は活性成分、任意の製造方法、任意の使用方法など)は、理由の如何を問わず、従来技術の存在に関連するか否かにかかわらず、任意の1つ以上の特許請求の範囲から除外することができる。
【0139】
使用されている用語は、限定ではなく説明の用語であり、添付の特許請求の範囲内で、より広い側面における本開示の真の範囲及び意図から逸脱することなく変更を加えることができることを理解されたい。
【0140】
本開示は、いくつかの記載された実施形態に関して、いくらか詳細に、またある程度詳細に説明されてきたが、本開示は、そのような詳細又は実施形態、又は特定の実施形態に限定されるべきではなく、先行技術を考慮してそのような特許請求の範囲の可能な限り広い解釈を提供し、従って本開示の意図された範囲を効果的に包含するように、添付の特許請求の範囲に対して解釈されるべきである。
【国際調査報告】