(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】アンチロックブレーキシステム用バルブユニット
(51)【国際特許分類】
B60T 15/36 20060101AFI20240621BHJP
B60T 15/04 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
B60T15/36 Z
B60T15/04 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579562
(86)(22)【出願日】2022-06-27
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 IB2022055943
(87)【国際公開番号】W WO2023281351
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】102021000018107
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522243484
【氏名又は名称】ライカム・ドライブライン・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】RAICAM DRIVELINE S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】ボナルド,サンドロ
(72)【発明者】
【氏名】カネストラーリ,アンドレア
【テーマコード(参考)】
3D049
【Fターム(参考)】
3D049AA01
3D049BB17
3D049CC02
3D049HH30
3D049HH34
3D049HH41
3D049HH53
3D049JJ01
3D049JJ05
3D049JJ06
3D049JJ07
3D049JJ08
3D049JJ09
3D049QQ04
(57)【要約】
アンチロックブレーキシステム用バルブユニットは、バルブ本体(10、110)と、バルブ本体の内部キャビティ(22)内で移動可能なカットオフピストン(18、118)と、カットオフピストンと内部キャビティとの間の界面に配置された摺動接触シールとを備える。内部キャビティは、ブレーキキャリパへの出側ポート(14)、流入管路(20)、および膨張室(33)と油圧接続可能である。シールは、カットオフピストンと内部キャビティとで、軸方向に移動可能な油圧室(15,115)を画定する。カットオフピストンは、油圧室が膨張室および出側ポートと流体連通し、流入管路とは流体連通しない第1の位置と、油圧室が出側ポートおよび流入管路と流体連通し、膨張室とは流体連通しない第2の位置との間で移動可能である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアンチロックブレーキシステム用のバルブユニットであって、
-ブレーキキャリパに油圧接続可能な出側ポート(14)、マスタシリンダに油圧接続可能な流入管路(20)、流入管路(20)および出側ポート(14)に油圧接続可能な軸方向に細長い内部キャビティ(22)、弾性要素(32)の作用に抗して膨張可能な膨張室(33)、内部キャビティ(22)と膨張室(33)との間の流出流路(31)、および膨張室(33)と流入管路(20)との間に配置された逆止弁(30)を備えたバルブ本体(11,110)と、
-関連する弾性要素(19)の作用に抗して、内部キャビティ(22)内で軸方向に移動可能なカットオフピストン(18、118)と、
-カットオフピストン(18、118)と内部キャビティ(22)との間の界面に配置され、カットオフピストン(18、118)と内部キャビティ(22)とで軸方向に移動可能な油圧室(15、115)を画定する摺動接触シール要素(23、24、123、124)と、
を備え、
カットオフピストン(18、118)が2つの軸方向位置の間で移動可能であり:
該2つの軸方向位置が、
カットオフピストン(18、118)が、弾性要素(19)を圧縮し油圧室(15、115)を移動させて、油圧室(15、115)が膨張室(33)および出側ポート(14)と流体連通するが、流入管路(20)とは流体連通しないように油圧室(15、115)を位置付ける第1の軸方向位置、および
弾性要素(19)が解放され、カットオフピストン(18、118)が、油圧室(15、115)が出側ポート(14)および流入管路(20)と流体連通するが、膨張室(33)とは流体連通しないように油圧室(15、115)を位置付ける第2の軸方向位置である、バルブユニット。
【請求項2】
軸方向に移動可能な油圧室(15)が、
カットオフピストン(18)に軸方向に間隔を隔てて取り付けられ、内部キャビティ(22)の円筒面に対して摺動接触する2つの環状シール(23、24);
カットオフピストン18上の2つの環状シール(23、24)の間に構成された、カットオフピストン(18、118)の横方向に制限された中間部(28);および
内部キャビティ(22)の円筒面で画定されている、請求項1に記載のバルブユニット。
【請求項3】
2つの環状シール(23、24)がOリング環状シールである、請求項2に記載のバルブユニット。
【請求項4】
カットオフピストン(18)に取り付けられ、2つの環状シール(23,24)に隣接してその軸方向外側の位置に配置された第3および第4の環状シール(25,26)をさらに備える、請求項2または3に記載のバルブユニット。
【請求項5】
軸方向に移動可能な油圧室(115)が軸方向に伸長可能であり、
-カットオフピストン(118)の横方向に制限された中間部(128);
-カットオフピストン(118)の制限された中間部(128)に取り付けられ、内部キャビティ(22)の円筒面に対して摺動接触する可動環状リップシール(123);
-カットオフピストン(118)の円筒面の一部(129);
-内部キャビティ(22)の横方向に拡大された部分(122)に取り付けられ、流出流路(31)と流入管路(20)との間の軸方向中間位置に配置され、カットオフピストン(118)の円筒面(129)に対して摺動接触する静的環状リップシール(124);および
-内部キャビティ(22)の部分、
によって画定されている、請求項1に記載のバルブユニット。
【請求項6】
ピストン内に延び、少なくとも2つの軸方向に間隔を置いた開口部(131、132)で開口している少なくとも1つの横流路(130a、130b)がカットオフピストン(118)に形成され、
第1の開口部(131)は、流出流路(31)に軸方向において近い位置で、ピストンの制限された中間部(128)上に配置され、第2の開口部(132)は、流出流路(31)から軸方向において遠い位置で、ピストンの円筒面(129)上に配置されている、請求項5に記載のバルブユニット。
【請求項7】
カットオフピストン(118)の内部に延び、制限された中間部(128)上およびピストンの円筒面(129)上で、制限された部分(128)から軸方向において間隔を置いた1つまたは複数の位置に開口する、相互に連通する複数の横流路(130a、130b)を備える、請求項6に記載のバルブユニット。
【請求項8】
傾斜部(130a)と少なくとも1つの半径方向部分(130b)とを有する少なくとも1つの横流路を備え、傾斜部(130a)と半径方向部(130b)とがカットオフピストン(118)の内部領域で合流する、請求項6に記載のバルブユニット。
【請求項9】
それぞれカットオフピストン(118)上および本体(11)内に、リップシール(123、124)に隣接してその軸方向外側の位置に配置された第3および第4のOリングシール(125、126)を備え、
Oリングシール(125)が、内部キャビティ(22)に対して摺動接触するように作用し、Oリングシール(126)が、カットオフピストン(118)の円筒面(129)に対して摺動接触するように作用する、請求項5から8のいずれか1項に記載のバルブユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両、特に自転車のような二輪車両の車輪のアンチロック機能を制御するための油圧ブレーキシステム用のバルブユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
アンチロック・ブレーキ・システム(以下、「ABS」という)は、急停止の影響を低減して横滑り、すなわち制御不能な滑走を防止するために、油圧ブレーキを備えた車両に搭載されている。ABSブレーキシステムでは、車両のすべての車輪にブレーキディスクと、ブレーキディスクと回転可能に一体化された関連するフォニックホイールセンサまたは同等のエレメントが装備されている。センサは、関連する車輪の回転速度を検出し、受信した回転信号を処理する電子制御ユニット(ECU)に回転速度を示す信号を送信する。各ブレーキディスクにはブレーキキャリパが取り付けられている。制御置(自転車ではハンドレバー)によって作動するマスタシリンダが、それぞれの油圧回路を介してブレーキキャリパを作動させ、ブレーキキャリのそれぞれにABSバルブユニットが取り付けられている。各ABSバルブユニットは、電子制御ユニットからの電気制御信号に応じて、関連するブレーキキャリパに向かうブレーキフルードの流量と圧力を制御する。ECUは、車輪のロックが間近に迫っていることを示す状態を検出すると、それぞれのABSバルブを作動させて、影響を受ける車輪のブレーキ液圧を下げ、この車輪の制動力を低下させる。これにより、車輪は制動され続けるが、回転できるようになっている。このプロセスは、制動中に連続的に、1秒間に数回繰り返され、車両の横滑りを防止する。
【0003】
車両のアンチロックブレーキシステム用のバルブユニットが提案されており、このバルブユニットは、ブレーキキャリパに油圧接続可能な出側ポートと、マスタシリンダに油圧接続可能な入側ポートと、出側ポートと流体連通する第1油圧室及び第2油圧室とを備えたバルブ本体からを含む。流出流路は、第1油圧室と膨張室との間に流体連通を提供し、バイパス流路は、入側ポートと出側ポートとの間に流体連通を提供する。ピストンは、弾性要素の力に抗して、電子制御ユニットによって制御されるソレノイドによって作動し、油圧室内で軸方向に移動可能である。通常のブレーキ状態では、弾性要素の力によりピストンを、流出流路を塞ぐ位置に保持するが、バイパス流路を塞ぐことはない。ロックホイールブレーキング状態では、ピストンはバイパス流路を塞ぐ位置に移動し、一方流出流路は開放されるため、ブレーキフルードの一部が主油圧室から流出室に排出される。その結果、キャリパにかかる圧力が低下し、車輪のロックが解除される。
【0004】
最近提案されたある解決策では、第1油圧室内の可動ピストンは、出側ポートに面するピストンの端面と、ピストンの側面で終わる横流路との間に、ピストンを貫通して延びる縦方向のキャビティを有する。全体として、ピストンは、出側ポートに面する第1の横断面と、第1の横断面の反対側で出側ポートから離れる方向に面する第2の横断面とを有し、第1の横断面は、第2の横断面の面積よりも小さい面積を有する。
【0005】
可動ピストンの長手方向の貫通したキャビティにより、主油圧室内の圧力降下は、同時に、出側ポートからブレーキキャリパに延びる液圧回路の分岐部のブレーキ液の圧力も低下させる。こうしてブレーキキャリパが発揮する制動力が減少し、車輪のロックが解除される。
【発明の開示】
【0006】
本発明の主な目的は、公知のABSバルブユニットと比較して、より迅速かつ効果的に作動させることができる、改良されたABSバルブユニットを提供することである。特に、非常に短い時間間隔を有するブレーキ作動および解除サイクルのシーケンスによって特徴付けられる、より高い作動周波数を有するABSバルブユニットを提供することが望ましい。
【0007】
一態様によれば、本発明は、請求項1に定義されるように、車両の車輪のアンチロック機能を制御する液圧ブレーキシステム用のバルブユニットを提供する。好ましい実施形態は、従属請求項に定義される。
【0008】
要約すると、車両のアンチロックブレーキシステム用のバルブユニットは、バルブ本体と、バルブ本体の内部キャビティ内で移動可能なカットオフピストンと、カットオフピストンと内部キャビティとの間の界面に配置された摺動接触シール要素とを備える。バルブ本体は、ブレーキキャリパに油圧接続可能な出側ポートと、マスタシリンダに油圧接続可能な流入管路と、流入管路および出側ポートに油圧接続可能な軸方向に細長い内部キャビティとを有する。バルブ本体はさらに、弾性要素に抗して膨張可能な膨張室と、円筒形キャビティと膨張室との間の流出流路と、膨張室と流入管路との間に配置された逆止弁とを備える。カットオフピストンは、関連する弾性要素の作用に抗して内部キャビティ内で軸方向に移動可能である。摺動接触シールエレメントは、カットオフピストンおよび内部キャビティとともに、軸方向に移動する油圧室を画定する。カットオフピストンは、下記のような2つの軸方向位置の間で移動可能である:
ピストンがソレノイドのようなアクチュエータによって付勢され、関連する弾性要素を圧縮し、油圧室を移動させて、膨張室および出側ポートと流体連通し、吸入管路とは流体連通させない、第一の軸方向位置、および
ピストンがソレノイドアクチュエータによって付勢されず、関連する弾性要素が解放され、したがってピストンが、油圧室を、出側ポートおよび流入管路を流体連通させ、拡張室とは流体連通させないように位置付ける、第2の軸方向位置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図7】本発明の第2の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係るバルブユニットの異なる作動状態における縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明が明確に理解されるように、次に、いくつかの好ましい実施形態が、添付の図面を参照しながら、例示的に説明される。最初に
図1~
図4を参照すると、参照番号10は、全体として、車両、特に二輪車両、典型的には自転車の車輪用のアンチロックブレーキシステム用のABSバルブユニットを規定している。
【0011】
バルブユニット10は、長手方向軸xを画定し、本明細書において長手方向または軸方向として定義される方向に細長い形状を有する。この文脈では、「縦方向」、「横方向」、「半径方向」などの位置や方向を示す用語は、x軸を参照して構成されるべきである。
【0012】
バルブユニット10は、作動の長手方向を規定する本体11を備える。この例では、本体11は、長手方向に全体的に細長い形状を有し、第1の端部12と、第1の端部とは反対側の第2の端部13とを有する。
【0013】
本体11は、車両の車輪のブレーキのキャリパ(図示せず)に油圧接続可能な出側ポート14と、車両の駆動制御装置と作動的に関連する図示しないマスタシリンダ(または主シリンダ)に油圧接続可能な入側ポート17とを形成する。駆動制御装置は、典型的には自転車のハンドルバーに設置されたハンドレバーである。
【0014】
バルブユニットは、以下に説明するように、入側ポートと出側ポートとの間の直接的な流体連通を遮る効果を有する遮断弁を含む。
【0015】
遮断弁は、本体11に形成された軸方向に延びる円筒形キャビティ22を含み、この円筒形キャビティ22は、出側ポート14および入側ポート17と油圧的に接続可能である。円筒形キャビティ22は、ピストン18を軸方向に摺動可能に受容する。
【0016】
流入管路20は、入側ポート17と円筒形キャビティ22とを油圧で接続し、ボア21を介して円筒形キャビティ22に開口している。
【0017】
カットオフピストン18は、周知の方法で作動ソレノイド(図示せず)に接続された駆動ステム29によって円筒形キャビティ22内で軸方向に作動し、この駆動ソレノイドは、各車輪のブレーキディスクに備えられた各回転センサからの電気信号を受信して処理する電子制御ユニット(図示せず)からの電気制御によって作動する。当該電子制御ユニットの構造上および動作上の特徴は公知であり、それ自体は本発明の理解に関係しないので、本明細書では説明しない。
【0018】
円筒形キャビティ22内に配置された弾性要素19、好ましくは、圧縮ばねは、駆動ステム29によって及ぼされるスラスト作用に抗して、カットオフピストン18を本体の端部13に向かって弾性的に付勢する。
【0019】
カットオフピストンと円筒形キャビティ22との間の界面には、カットオフピストン18とバルブユニットの本体11との間で摺動接触シール作用を行う複数のシールが設けられている。
【0020】
図1~4に示す実施形態では、カットオフピストン18は、横方向に狭められた、または直径の小さい中間部28を有し、この中間部は、円筒形キャビティ22と共に、軸方向に移動可能な油圧室15を画定し、この油圧室15は、カットオフピストン18に取り付けられた第1および第2のOリングシール23、24によってそれぞれ境界を定められた2つの軸方向に対向する端部を有する。
【0021】
第3および第4のOリングシール25、26は、第1および第2のシール23、24に近接して、その軸方向外側の位置でカットオフピストン18に取り付けられている。
【0022】
第2の円筒形キャビティ34が本体11に形成され、流出流路31を介して円筒形キャビティ22と連通している。流出流路31は、入側ポート17に向かって配置された第2の円筒形キャビティ34の一端に開口している。
【0023】
第2の円筒形キャビティ34は、油圧膨張室と、入側ポート17と円筒形キャビティ22との中間に位置する流入管路上の接合部との間に介在する逆止弁30を介して、流入管路20と流体連通している。
【0024】
第2の円筒形キャビティ34には、フローティングピストン27と、フローティングピストン27を逆止弁の方へ、ひいては入側ポートの方へ付勢する第2の圧縮ばね要素32とが収容されている。第2の円筒形キャビティ34とフローティングピストン27は、一緒になって液圧膨張室33(
図2)を画定する。後述するように、軸方向に移動可能な油圧室15から流出流路31を通って膨張室33に加圧されたブレーキ液が導入されると、フローティングピストン27は、第2ばね要素32の付勢力に抗して、入側ポート17および逆止弁30から離れる方向に移動する。
【0025】
図1は、通常のブレーキ作動状態、例えばブレーキをかけた車輪をロックしていない状態のABSバルブユニットを示す。ABS作動ソレノイドは作動していない。圧縮バネ19は、カットオフピストン18を右方向に付勢し、本体11の右端13の終端部に突き当たるように保持する。流入管路のボア21は、軸方向に移動可能な油圧室15と連通している。入側ポートから入ったブレーキ液は、ABSバルブユニットを通り、流入管路20を通って軸方向に移動可能な油圧室15に入り、出側ポート14から出る。環状シール23は、軸方向に移動可能な油圧室15と流出流路31との間に介在しており、これによりブレーキ液は、空の膨張室33に達することができない。フローティングピストン27は、バネ32によって、逆止弁30側の第2円筒形キャビティの一端に突き当たるように付勢されている。
【0026】
車輪制動ロック状態(
図2)では、車両の電子制御ユニットは、車両の車輪の少なくとも1つがロックまたは横滑りしている状況を示す車輪センサからの速度信号を受信する。このような状況下で、電子制御ユニットはABSバルブユニット10の作動ソレノイドに作動信号を送る。ソレノイドのステム29は、カットオフピストン18を左方向に移動させる。シール24が流入管路20のボア21と油圧室15との間に介在しているため、流入管路のボア21は軸方向に移動可能な油圧室15と、もはや連通しない。
【0027】
したがって、マスタシリンダからブレーキキャリパへの油圧回路は一時的に遮断され、カットオフピストン18によって一時的に非連通の2つの部分に分割される。油圧室15は現在、ブレーキキャリパおよび膨張室33(
図2)と連通しているが、その上流の入側ポートおよびマスタシリンダとはもはや連通していない。
【0028】
カットオフピストンの下流側の回路部分に含まれ、油圧室15および流出流路31を介して膨張室33と連通するようになったブレーキ液の高圧により、フローティングピストン27はバネ32の弾性力に抗して左方向に移動する。膨張室33の容積が増大し、その結果、ABSユニットとブレーキキャリパとの間の回路部分に位置するブレーキフルードの圧力が瞬時に低下する。
【0029】
その後、ブレーキキャリパが解放され、ブレーキディスクと関連するホイールの回転が可能になる。ソレノイドは電子制御ユニットによって一時的に作動停止され、それによってバネ19がカットオフピストン18を右方向(
図3)へ付勢し、流入管路20から軸方向に移動可能な油圧室15を介して出側ポート14への直接の流体連通を再開する初期位置に戻す。
【0030】
ソレノイドは、公知の作動モードに従って、カットオフピストン18を再び左側に動かすことによって直ちに再作動し、ブレーキキャリパとマスタシリンダとの間の直接的な流体連通を閉じ、ブレーキキャリパと膨張室33とを再び流体連通状態にし、そこにさらに高圧のブレーキ液を噴射し、膨張室の容積をさらに増大させる。体積がさらに増加すると、ブレーキキャリパ内の液圧が再び瞬時に減少し、解放される。
【0031】
上記のシーケンスが数秒間続き、そのたびにフローティングピストン27がより左側に移動し、膨張室33の容積が徐々に増加する。ブレーキ動作が終了すると、ユーザーはブレーキ制御を解除し、それによって流入管路20内のブレーキ液圧が低下し、膨張室33内のブレーキ液圧よりも低い値に達する。この圧力差によって逆止弁30(
図4)が開き、バネ32が伸びてフローティングピストン27を流入管路20側に偏らせ、膨張室33を空にし、膨張室に溜まっていたブレーキ液をブレーキ回路に戻すことができる。
【0032】
理解されるように、ABSバルブユニットの作動は、薄い低質量のカットオフピストンの短い長さと急速な動きとを交互に行い、膨張室内に急速に排出される微小量のブレーキ液の時間にわたる緊密な変位を伴うので、非常に急速な作動が可能になる。
【0033】
図5~
図8には、本発明によるABSバルブユニット10の第2の実施形態が示されている。
図5~
図8に描かれたバルブユニットの一般的な構成は、カットオフピストンおよび関連するシールの配置を除いて、
図1~
図4の実施形態と同様であると考えられる。従って、以下の説明は、ほぼ専ら、第1の実施形態に対する第2の実施形態の相違点を参照して行われるが、説明されていない部品は、
図1~4を参照して既に説明された部品と同一または実質的に同一であると見なされることが理解される。
【0034】
第2の実施形態のカットオフ弁は、出側ポート14、入側ポート17及び膨張室33と流体連通する軸方向に延びた円筒形キャビティ22を提供する。円筒形キャビティ22は、カットオフピストン118を軸方向に摺動可能に受容する。
【0035】
カットオフピストン118は、横方向に絞られた、または小径の中間部128を備え、その上に可動リップシール123が取り付けられ、円筒形キャビティ22に対して摺動接触を行う。
【0036】
カットオフピストン118には、少なくとも1つの横方向流路130a、130bが形成され、ピストンの内部へと延び、少なくとも2つの軸方向に間隔を隔てた開口部131、132で開口している。第1の開口部131は、流出流路31に近いピストンの狭い部分に配置され、第2の開口部132は、流出流路31から離れたピストンの円筒面129に配置されている。
【0037】
好ましくは、
図5~8の実施例に示すように、カットオフピストン内に延在し、狭小部128から軸方向に間隔を置いた1つまたは複数の位置で狭小中間部128およびピストンの側方円筒面129上に開口する、相互に連絡する複数の横方向流路130a、130bが設けられる。
【0038】
横方向流路130a、130bは、ピストンの幅狭部128上に開口し、ピストンの中央ゾーンで合流する傾斜部130aを有する少なくとも1つの流路と、カットオフピストンの内側ゾーンで傾斜部130aに合流する少なくとも2つの半径方向部130bとを含むことができる。図示されたものとは別の様々な配置が可能である。複数の内部流路は、ピストンの狭い部分およびその円筒面に複数の円周方向に間隔をあけた開口を提供するために、x軸に対して角度をもって間隔をあけた軸方向平面に配置されてもよい。横方向流路を構成する部分の半径方向または傾斜方向の配置、ならびにそれらの数および大きさは、ピストンの狭い部分とその円筒表面との間の流体連通が達成されるのであれば、さまざまな配置に従って行うことができる。
【0039】
静的リップシール124は、キャビティ22の半径方向に拡大された部分122において本体11に取り付けられ、流出流路31と流入管路20との間の軸方向中間位置に配置される。
【0040】
カットオフピストン118は、円筒形キャビティ22とともに、軸方向に移動可能な、または軸方向に伸長可能な油圧室115を画定し、油圧室115は、カットオフピストン118と円筒形キャビティ22との間の界面で摺動接触して作用するリップシール123、124によって囲まれた2つの軸方向に対向する端部を有する。
【0041】
第3および第4のOリングシール25、26は、それぞれリップシール123、124に近接して、カットオフピストン118上および本体11上に、それらに対して軸方向に外側の位置で取り付けられている。シール125は、円筒形キャビティ22に対して摺動接触し、シール126はカットオフピストン118の円筒面129に対して摺動接触する。
【0042】
図5では、ABSバルブユニットが通常のブレーキ作動状態、つまりブレーキをかけている車輪をロックしていない状態を示している。ABS作動ソレノイドは作動していない。圧縮ばね19は、カットオフピストン118を右側に偏らせて保持し、本体11の右端13にある端部ベアリングに突き当たっている。流入管路20のボア21は、流路130を介して油圧室115と連通している。入側ポート17から入ったブレーキ液は、ABSバルブユニットを通過して流入管路20から流路130bおよび130aを介して油圧室115に入り、その後、出側ポート14から出る。可動リップシール123は、油圧室115を流出流路31から分離し、ブレーキ液が空の膨張室33に達しないようにしている。フローティングピストン27は、バネ32によって付勢され、逆止弁30側の第2円筒形キャビティの一端に突き当たる。
【0043】
車輪制動ロック状態(
図6)では、車両の電子制御ユニットは、車輪センサから、車両の車輪の少なくとも1つがロック状態または横滑り状態であることを示す速度信号を受信する。これらの条件下で、電子制御ユニットは、ABSバルブユニット110の作動ソレノイドに作動信号を送る。ソレノイドのステム29は、カットオフピストン118を流出流路側(左側、矢印A方向)へ移動させる。リップシール124がボア21とカットオフピストン118の流路130bとの間に介在しているため、流入管路20はもはや油圧室115と連通していない。
【0044】
したがって、マスタシリンダからブレーキキャリパに至る油圧回路は、カットオフピストン118によって一時的に遮断され、一時的に非連通の2つの部分に分割される。油圧室115は現在、ブレーキキャリパおよび膨張室33(
図6)と連通しているが、入側ポートおよびその上流のマスタシリンダとはもはや連通していない。
【0045】
カットオフピストンの下流側の回路部分に含まれ、油圧室115および流出流路31を介して膨張室33と連通するようになったブレーキ液の高圧により、フローティングピストン27はバネ32の弾性力に抗して左方向に移動する。膨張室33の容積が増大し、その結果、ABSユニットとブレーキキャリパとの間の回路部分に含まれるブレーキフルードの圧力が瞬時に低下する。
【0046】
その後、ブレーキキャリパが解放され、ブレーキディスクと関連する車輪が回転できるようになる。ソレノイドは電子制御ユニットによって瞬間的に作動停止され、それによってバネ19がカットオフピストン118を右(
図7、矢印B)に偏らせ、初期位置に戻すことができる。流路130bの開口部132はリップシール124を越えたので、流入管路20から軸方向に移動可能な油圧室115を通って出側ポート14への直接の流体連通が回復される。
【0047】
ソレノイドは、公知の作動モードに従って、カットオフピストン118を再び左に移動させることにより直ちに再作動され、これにより開口部132がリップシール124の左に戻され、ブレーキキャリパとマスタシリンダとの間の直接的な流体連通が閉じられ、ブレーキキャリパが膨張室33と再び流体連通するように設定される。こうして、追加量の高圧ブレーキ液がこの室に注入され、膨張室の容積がさらに増大する。容積がさらに増加すると、ブレーキキャリパ内の液圧が瞬時に減少し、解放される。
【0048】
上記のシーケンスが数秒間続き、そのたびにフローティングピストン27がさらに左側に移動し、膨張室33の容積が漸増する。ブレーキ動作が終了すると、使用者はブレーキ制御を解除し、それによって流入管路20内のブレーキ液の圧力が低下し、膨張室33内のブレーキ液の圧力よりも低い値に達する。この圧力差によって逆止弁30が開き、バネ32が解放されてフローティングピストン27を流入管路20に向けて偏らせることができ、膨張室33が空になり、膨張室に溜まっていたブレーキ液がブレーキ回路に戻される。
【0049】
図5~
図8の実施形態では、カットオフピストン118の作動ストロークが極めて短くなり、流路130bの開口部132をリップシール124の一方の側から他方の側に移動させるのに必要であることが理解されよう。リップシールは、非常に短い軸方向長さを有する接触領域に沿って摺動接触シール作用を発揮するので、カットオフピストンの作動ストロークは、それに応じて非常に短くすることができ、最小体積のブレーキ液が膨張室内に急速に排出される時間的に近い変位で、非常に迅速な作動を可能にする。
【0050】
本発明の具体的な実施形態について説明してきたが、この開示は単に例示を目的として提供されたものであり、それによって本発明が何ら限定されるべきものではないことを理解されたい。前述の実施例を考慮すれば、当業者には様々な変更が明らかであろう。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】