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特表2024-523583複合電極用粒子材料及び粒子材料の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】複合電極用粒子材料及び粒子材料の作製方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240621BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240621BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240621BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240621BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/48
H01M4/36 B
H01M4/36 E
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579713
(86)(22)【出願日】2022-03-14
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 EP2022056517
(87)【国際公開番号】W WO2023001413
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】21187031.6
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510010894
【氏名又は名称】ベレノス・クリーン・パワー・ホールディング・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ペレゴ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】田中 詩郎
(72)【発明者】
【氏名】ピットルー,セドリック
(72)【発明者】
【氏名】山路 奈々
(72)【発明者】
【氏名】西島 主明
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA05
5H050CA29
5H050DA10
5H050EA08
5H050GA05
(57)【要約】
本発明は、元の酸化状態が5+、任意に4+及び/又は3+である遷移金属Mを含む電極活性成分と、Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ru又はTiからなる群から選択される少なくとも1つの第2追加酸化物と、P、Ge、Si又はSnである元素Xを含む第1含リチウムスルフィド化合物と、のボールミル粉砕を含む複合電極用粒子材料の作製方法であって、電子伝導成分を電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加して粒子材料を得る方法を開示する。更に、本発明はこの方法により得られる粒子材料、この粒子材料を含む複合カソード、及びこの複合カソードを含む電池セルを開示する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)元の酸化状態が5+、任意に4+及び/又は3+である第1遷移金属M酸化物を含む電極活性成分と、(b)Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ru又はTiからなる群から選択される少なくとも1つの第2追加酸化物と、(c)P、Ge、Si又はSnである元素Xを含む第1含リチウムスルフィド化合物とのボールミル粉砕を含むことを特徴とする、複合電極用粒子材料の作製方法であって、電子伝導成分は好ましくは含炭素成分を含み、前記電極活性成分と、前記第1酸化物及び前記少なくとも1つの第2追加酸化物と、前記第1含リチウムスルフィド化合物とに添加されて前記粒子材料が得られる、方法。
【請求項2】
前記遷移金属Mはバナジウム(V)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1含リチウムスルフィド化合物は元の状態でLi-S-X結合を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1含リチウムスルフィド化合物はL1S及びPを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の第2含リチウムスルフィド化合物が得られる前記第1含リチウムスルフィド化合物の第1ボールミル粉砕工程と、粒子材料が得られる前記第2含リチウムスルフィド化合物及び前記電極活性成分の第2ボールミル粉砕工程と、を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒は前記ボールミル粉砕中に添加され、好ましくは前記溶媒はヘプタン、キシレン又はその混合物である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
・前記粒子材料における酸化状態が3+、4+、5+である第1遷移金属M酸化物、及び1つ又は複数を含む電極活性成分と、
・Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ru又はTiからなる群から選択される少なくとも1つの追加の第2酸化物と、
・P、Ge、Si又はSnである元素Xを含む含リチウムスルフィド化合物と、
・好ましくは含炭素成分を含む電子伝導成分と、
を含む複合電極用粒子材料であって、
以下の結合:X-S-X、M、Mの1つ又は複数を含み、xは0から2、yは0から2、zは0から4、uは0から2であることを特徴とする、粒子材料。
【請求項10】
前記遷移金属はバナジウム(V)であり、前記電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む、請求項9に記載の粒子材料。
【請求項11】
前記含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む、請求項9又は請求項10に記載の粒子材料。
【請求項12】
前記電極活性成分及び前記含リチウムスルフィド化合物を0.1から0.9、好ましくは0.5から0.85、より好ましくは0.6から0.75の比で含む、請求項9から11のいずれか一項に記載の粒子材料であって、前記比は前記電極活性成分の重量を前記電極活性成分の重量及び前記含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される、粒子材料。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法により得られる、請求項9から12のいずれか一項に記載の粒子材料。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の粒子材料を含む複合カソード。
【請求項15】
請求項14に記載の複合カソードを含む電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電極用粒子材料の作製方法に関する。更に、本発明は電池又は電池セルの複合電極用粒子材料、特に本発明の方法により得られる粒子材料に関する。更に、本発明はこの粒子材料を含む複合電極、特に複合カソード、及びこの複合電極、特に複合カソードを含む電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、固体電解質(SSE)を含む電池、いわゆる全固体電池(SSB)、例えば全固体リチウムイオン(Li-ion)電池及び全固体リチウム金属電池は次世代電池と考えられている。液体電解質を含む従来の電池は、ほとんどの液体電解質が引火性であるために使用上の安全性が限定されるが、これら全固体電池で使用される固体電解質は引火性が低いため、全固体電池はより安全に使用される。
【0003】
更に、市販の固体電解質は、特に高いイオン伝導性を有するリチウムリン硫化物(LiPS、簡潔にはLPS)などの固体電解質を含む硫化リチウムについて、性能の観点で従来用いられる液体電解質に迫りつつある。
【0004】
LPS及びLPSBrなど、硫化リチウム固体電解質の欠点の1つは1.5g/cmから2.0g/cmの比較的高い密度であり、通常0.9g/cmから1.1g/cmである従来の液体電解質よりも著しく高い。結果として、同じエネルギ密度(単位:Wh/l)として、全固体電池は従来の電池と比べると、アノード及びカソード、特にアノード及びカソードの活性物質が両電池で同一である場合に重くなる。
【0005】
硫化リチウム電解質の更なる欠点は、1.5Vから2.5V(vs.Li/Li)の熱力学的に狭い電気化学的安定性窓を示すことである。結果として、これらの固体電解質は、高電圧のカソード活性物質を使用する場合に劣化しやすい。高電圧のカソード活性物質は、例えばリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(NMC)、コバルト酸リチウム(LCO)、マンガン酸リチウム(LMO)又はリン酸鉄リチウム(LFP)である。
【0006】
高電圧のカソード活性物質による劣化から硫化リチウム固体電解質を保護するための公知の解決策は、カソード活性物質及び固体電解質間の境界面として、LiNbO、LiTiO及び/又はAlを含む被膜など、保護被膜を使用することが挙げられる。被膜使用のデメリットの1つは、電池コストの増加及びより複雑な製造プロセスである。
【0007】
別の解決策はカソード活性物質のカプセル化である。
【0008】
国際公開第97/44840号は、硫黄含有電気活性材料を含む複合カソードを開示しており、酸化状態においてmが3以上であるポリスルフィド部分-S-を含む。硫黄含有電気活性材料は、酸化バナジウムなどの電気活性な遷移金属カルコゲニド組成物にカプセル化される。電気活性な遷移金属カルコゲニド組成物は、硫黄含有電気活性材料のアニオン性還元生成物の輸送を遅延させる。
【0009】
国際公開第2009/029746号は全固体電池のカソードを開示しており、これはリチウムインターカレーション材料、例えばリチウムスズ酸化物などのカソード活性物質と、電子伝導材料と、リチウム系固体電解質などのイオン伝導性固体材料との焼結混合物である。
【0010】
米国特許出願公開第2015/0056520号明細書は、焼結した多孔性活性物質を含む固体複合カソードを開示しており、その細孔は非晶質のイオン伝導性無機固体電解質で満たされる。
【0011】
国際公開第2013/131005号は複合カソードを開示しており、バインダとして作用する非晶質のイオン伝導性無機金属酸化物に分散した活性物質である。この非晶質のイオン伝導性無機金属酸化物はリチウム、ランタン、ジルコニウム及び酸素、例えばリチウムランタンジルコニウム酸化物(ジルコン酸リチウムランタン、LiLaZr12、簡潔にはLLZO)を含む。
【0012】
上記方法の欠点/デメリットは、やや複雑であることが多く、及び/又は(例えば焼結のために)高温を必要とする場合があり、複合電極を作製するのに使用する1つ又は複数の成分を損傷させることがある。更に、イオン伝導性材料としてのLLZOの使用は、硫黄系イオン伝導性材料と比較して伝導性が低く、従って性能が低いことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開第97/44840号
【特許文献2】国際公開第2009/029746号
【特許文献3】米国特許出願公開第2015/0056520号明細書
【特許文献4】国際公開第2013/131005号
【特許文献5】欧州特許第2988360号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、1つ又は複数の上記欠点を克服することである。本発明の目標は、より単純な複合電極用粒子材料の作製方法を提供することである。
【0015】
本発明の更なる目標は、複合電極、特に複合カソード用粒子材料を提供することである。電池セルの電極に使用する場合、この粒子材料は高いカソード容量、特に優れたエネルギ密度と相まって、理論予測値より高いカソード容量を提供する。容量及びエネルギ密度はカソードの析出/剥離及び電池セルの充電/放電の繰り返しに対して安定している。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第1の態様によれば、添付の特許請求の範囲に開示するように、複合電極用粒子材料の作製方法を提供する。本方法は、電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物のボールミル粉砕を含む。
【0017】
電極活性成分は少なくとも1つの遷移金属Mを含む。遷移金属Mは元の酸化状態が5+、任意に4+及び/又は3+である。
【0018】
有利には、遷移金属Mはバナジウム(V)である。遷移金属Mがバナジウムであるとき、有利には元の酸化状態は5+、任意に4+である。
【0019】
代替的には、遷移金属はチタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、ルテニウム(Ru)、マグネシウム(Mg)又はコバルト(Co)であり得る。遷移金属Mが鉄であるとき、有利には元の酸化状態は5+、4+、任意に3+である。
【0020】
有利には、遷移金属Mがバナジウムであるとき、電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む。
【0021】
第1含リチウムスルフィド化合物は元素Xを含み、XはP、Ge、Si又はSnである。
【0022】
電子伝導成分を電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加して、粒子材料が得られる。電子伝導成分は含炭素成分を含むのが好ましい。
【0023】
本発明の第1の態様における第1の実施形態によれば、有利には第1含リチウムスルフィド化合物は元の状態でLi-S-X結合を含む。有利には、第1含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0024】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0025】
本発明の第1の態様における第2の実施形態によれば、第1含リチウムスルフィド化合物はLiS及びPを含む。有利には、本発明の方法の第2の実施形態は、第1含リチウムスルフィド化合物の第1ボールミル粉砕工程を含み、第2含リチウムスルフィド化合物が得られる。有利には、第2含リチウムスルフィド化合物はLi-S-X結合を含む。有利には、第2含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0026】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0027】
第2の実施形態は、有利には更に第2含リチウムスルフィド化合物及び電極活性成分の第2ボールミル粉砕工程を含み、粒子材料が得られる。
【0028】
有利には、溶媒、好ましくは芳香族もしくは脂肪族溶媒又はその混合物をボールミル粉砕工程中に添加する。このような脂肪族溶媒は例えばヘプタンであり、芳香族溶媒は例えばキシレン又はメシチレンである。芳香族溶媒の混合物も企図することができる。
【0029】
本発明の第2の態様によれば、添付の特許請求の範囲に開示するように、複合電極用粒子材料を提供する。この粒子材料は電極活性成分、含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分を含む。粒子材料は以下の結合:X-S-X、M、Mの1つ又は複数を含み、xは0から2、yは0から2、zは0から4、uは0から2である。
【0030】
電極活性成分は少なくとも1つの遷移金属Mを含む。遷移金属Mは組成物の酸化状態が3+、4+、5+であり、又はこの2つ以上の遷移金属の混合物を有する。含リチウムスルフィド化合物は元素Xを含み、XはP、Ge、Si又はSnである。電子伝導成分は含炭素成分を含むのが好ましい。
【0031】
有利には、遷移金属Mはバナジウム(V)である。
【0032】
有利には、電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む。
【0033】
有利には、含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0034】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0035】
有利には、粒子材料は電極活性成分及び含リチウムスルフィド化合物を0.1から0.9、例えば0.25から0.9、好ましくは0.5から0.85、より好ましくは0.6から0.75の比で含み、この比は電極活性成分の重量を電極活性成分の重量及び含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される。
【0036】
粒子材料は有利には本発明の方法により得られる。
【0037】
本発明は更に、本発明の粒子材料を含む複合電極を提供する。複合電極は複合カソードであるのが好ましい。
【0038】
本発明は更に、本発明の複合電極、好ましくは複合カソードを含む電池セルを提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の方法の利点は、限定されないが、電池セルのカソードで使用する場合に、驚くほど高いカソード容量及び優れたエネルギ密度を有する粒子材料が得られることである。更に、この高い容量及びエネルギ密度値は、充電/放電の繰り返しに対して安定しており、従って電池セルの寿命延長に寄与することができる。更に、本発明の方法は最先端の方法よりも簡便であり、バインダ材料を使用する必要性がない。
【0040】
以下、本発明の態様を添付の図面を参照して詳細に記載する。同じ参照番号は同じ特徴を示す。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は典型的なコイン電池の構造を模式的に示す。
図2図2は発明の粒子材料に関するXPSの結果を示す。
図3図3は参考及び発明の電池セルのエネルギ密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の実施形態を示す添付の図面を参照して、以下、本発明をより完全に記載するが、本発明は多くの異なる形態で具体化されている場合があり、ここに示す実施形態に限定されるものとして解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は徹底性及び完全性のために提供される。
【0043】
本発明の第1の態様にかかる複合電極用粒子材料の製造方法は、電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物のボールミル粉砕を含む。
【0044】
有利には、電極活性成分は少なくとも1つの遷移金属Mを含む。遷移金属Mは有利には元の酸化状態が5+、任意に4+及び/又は3+である。遷移金属はバナジウム(V)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)、金(Au)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、カドミウム(Cd)又は白金(Pt)でよい。好ましくは、遷移金属はバナジウム(V)である。遷移金属Mがバナジウムであるとき、有利には元の酸化状態は5+、任意に4+である。遷移金属Mが鉄であるとき、有利には元の酸化状態は5+、4+、任意に3+である。
【0045】
有利には、遷移金属Mがバナジウムであるとき、電極活性成分はV(元の酸化状態5+)、V、VO、H、H(元の酸化状態4+及び5+)、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む。
【0046】
有利には、第1含リチウムスルフィド化合物は元素Xを含む。有利には、XはP、Ge、Si又はSnである。
【0047】
有利には、電子伝導成分を電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加する。ボールミル粉砕の実施前、実施中及び/又は実施後に電子伝導成分を添加することができる。例えば、電子伝導成分の第1の部分又は第1電子伝導成分をボールミル粉砕実施前に添加し、電子伝導成分の第2の部分又は第2電子伝導成分をボールミル粉砕中に添加する。
【0048】
電子伝導成分は炭素繊維、カーボンナノチューブ、粒子状炭素(例、粉末)などの含炭素成分、又はこれらの2つ以上の物質の組合せを含むのが好ましい。
【0049】
任意に、ボールミル粉砕前及び/又は粉砕中に追加成分を添加することができる。このような追加成分の好ましい例は、Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ruなどのドーパント元素、例えば1つ又は複数のドーパント元素を含む酸化物である。
【0050】
このような1つ又は複数のドーパント元素を含む酸化物は、例えばLiO、LiO、MnO、MnO、Mn、TiO、TiO、T1、RuO、NiO、Ni、Cr又はCrOである。
【0051】
任意に、電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に溶媒を添加する。溶媒の好ましい例は、ヘプタン、キシレン、アセトニトリル、メシチレン及びこれらの2つ以上の溶媒の混合物である。溶媒を添加すると、ボールミル粉砕は湿式ボールミル粉砕とみなされる。任意に、ボールミル粉砕前及び/又は粉砕中に溶媒を添加する。
【0052】
有利には、ボールミル粉砕を100rpmから1000rpm、例えば150rpmから750rpm、好ましくは200rpmから600rpmの速度で実施する。ボールミル粉砕の最適速度は、限定されないが、成分の組成及び相対量、溶媒及び/又は電子伝導成分を添加しているかどうか、溶媒の種類、並びに使用装置によって決まる。
【0053】
有利には、ボールミル粉砕を1分から240分、例えば5分から180分、10分から150分、好ましくは15分から120分、例えば30分から90分、より好ましくは45分から75分の継続時間で実施する。ボールミル粉砕の最適継続時間は、限定されないが、成分の組成及び相対量、溶媒及び/又は電子伝導成分を添加しているかどうか、溶媒の種類、ボールミル粉砕速度、並びに使用装置によって決まる。
【0054】
驚くべきことに本発明者は、ボールミル粉砕を受ける成分の混合物に関するパラメータ、例えば速度及び継続時間などの最適な組合せを使用することで、驚くほど高いエネルギ容量、特に個別の成分の混合物から計算した理論予測値より著しく高いエネルギ容量を有する粒子材料が得られることを発見している。本発明者は更に、粒子材料を電池セルのカソードで使用する場合、繰り返し充放電することができることが分かっている。
【0055】
本発明者は更に、個別の成分、特に電極活性成分と、含リチウムスルフィド化合物、つまり第1の実施形態の第1含リチウムスルフィド化合物及び第2の実施形態の第2含リチウムスルフィド化合物とが、粒子材料においてもはや区別できないことが分かっている。言い換えると、任意の理論に束縛されるものではないが、これらの成分は本発明によるボールミル粉砕中に互いに反応する。
【0056】
本発明の第1の態様における第1の実施形態によれば、第1含リチウムスルフィド化合物は有利には元の状態でLi-S-X結合を含む。有利には、第1含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0057】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0058】
LiGePS系成分の例はxが0から1であるLi4-aGe1-a、及びLi10GeP12である。LiSnPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSn1-aである。LiSiPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSi1-aである。LiSiSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Si1-bSn1-aである。LiGeSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Ge1-bSn1-aである。
【0059】
電極活性成分は有利には上記の通りである。
【0060】
電子伝導成分は有利には上記の通りであり、有利には上記の電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加される。
【0061】
任意に、上記の溶媒を上記の電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加する。
【0062】
有利には、電極活性成分及び第1含リチウムスルフィド化合物の比は0.1から0.9、好ましくは0.5から0.85、より好ましくは0.6から0.75であり、この比は電極活性成分の重量を電極活性成分の重量及び含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される。
【0063】
有利には、電子伝導成分の重量は電極活性成分、第1含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分の重量の合計に基づき0.5重量%から20重量%であり、例えば1重量%から15重量%、好ましくは2重量%から10重量%、より好ましくは2.5重量%から7.5重量%、例えば4重量%から6重量%である。
【0064】
溶媒を使用する場合、溶媒と、電極活性成分、第1含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分との比は有利には0.5から4、好ましくは0.75から3、より好ましくは1から2である。この比は、ボールミル粉砕前又は粉砕中に添加する場合、溶媒の重量を電極活性成分、第1含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分の重量の合計で割ったものとして表される。
【0065】
本発明の第1の態様における第2の実施形態は、第1含リチウムスルフィド化合物がLiS及びPを含む点、LiS及びPを含む第1含リチウムスルフィド化合物の第1ボールミル粉砕工程を実施して、第2含リチウムスルフィド化合物が得られる点で第1の実施形態と異なる。第1ボールミル粉砕を欧州特許第2988360号明細書に記載される速度及び継続時間で実施することができる。
【0066】
第2含リチウムスルフィド化合物は、有利には第1の実施形態における第1含リチウムスルフィド化合物と同じ組成を有する。有利には、第2含リチウムスルフィド化合物はLi-S-X結合を含む。有利には、第2含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0067】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0068】
LiGePS系成分の例はxが0から1であるLi4-aGe1-a、及びLi10GeP12である。LiSnPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSn1-aである。LiSiPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSi1-aである。LiSiSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Si1-bSn1-aである。LiGeSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Ge1-bSn1-aである。
【0069】
第2の実施形態は更に、電極活性成分及び第2含リチウムスルフィド化合物の第2ボールミル粉砕工程を含む。有利には、継続時間及び速度に関して、第1の実施形態におけるボールミル粉砕に従って第2ボールミル粉砕工程を実施する。
【0070】
電極活性物質は有利には上記の通りである。
【0071】
有利には、電極活性成分及び第2含リチウムスルフィド化合物は、第2ボールミル粉砕工程において0.1から0.9、好ましくは0.5から0.85、より好ましくは0.6から0.75の比で存在している。この比は、電極活性成分の重量を電極活性成分の重量及び含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される。
【0072】
電子伝導成分は有利には上記の通りである。電子伝導成分を第1ボールミル粉砕工程前及び/又は工程中に第1含リチウムスルフィド化合物に、並びに/或いは第2ボールミル粉砕工程前、工程中及び/又は工程後に第2含リチウムスルフィド化合物に添加することができる。
【0073】
電子伝導成分を第1含リチウムスルフィド化合物に添加するとき、電子伝導成分の重量は、第1含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分の重量の合計に基づき0.5重量%から20重量%、例えば1重量%から15重量%、好ましくは2重量%から10重量%、より好ましくは2.5重量%から7.5重量%、例えば4重量%から6重量%である。
【0074】
電子伝導成分を第2含リチウムスルフィド化合物、従って電極活性化合物にも添加するとき、電子伝導成分の重量は、電極活性物質、第2含リチウムスルフィド化合物及び電子伝導成分の重量の合計に基づき0.5重量%から20重量%、例えば1重量%から15重量%、好ましくは2重量%から10重量%、より好ましくは2.5重量%から7.5重量%、例えば4重量%から6重量%である。
【0075】
任意に、上記の溶媒を第1ボールミル粉砕前及び/又は粉砕中に添加する。任意に、上記の溶媒を第2ボールミル粉砕前及び/又は粉砕中に添加する。
【0076】
溶媒を第1含リチウムスルフィド化合物に、及び第2含リチウムスルフィド化合物に添加するとき、溶媒は有利には同じである。代替的には、第1の溶媒を第1含リチウムスルフィド化合物に添加することができ、第2の溶媒を第2含リチウムスルフィド化合物に添加することができる。
【0077】
溶媒を第1含リチウムスルフィド化合物に添加するとき、溶媒と、第1含リチウムスルフィド化合物、及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加される場合の電子伝導成分との比は、有利には0.5から1.5、好ましくは0.75から1.25、より好ましくは0.9から1.1である。この比は、溶媒の重量を第1含リチウムスルフィド化合物、及び第1含リチウムスルフィド化合物に添加される場合の電子伝導成分の重量の合計で割ったものとして表される。
【0078】
溶媒を第2含リチウムスルフィド化合物に添加するとき、溶媒と、電極活性成分、第2含リチウムスルフィド化合物、及び電極活性成分、第2含リチウムスルフィド化合物に添加される場合の電子伝導成分との比は有利には0.5から4、好ましくは0.75から3、より好ましくは1から2である。この比は、溶媒の重量を電極活性物質、第2含リチウムスルフィド化合物、及び添加される場合、電子伝導成分の重量の合計で割ったものとして表される。
【0079】
本発明の第1の態様における第3の実施形態は、第1ボールミル粉砕工程及び第2ボールミル粉砕工程が1つのボールミル粉砕工程に組み合わされる点で第2の実施形態と異なる。言い換えると、本方法は上記のような電極活性成分、並びにLiS及びPを含む第1含リチウムスルフィド化合物のボールミル粉砕を含む。
【0080】
有利には、ボールミル粉砕を上記のような速度及び/又は継続時間で実施する。
【0081】
有利には、上記の電子伝導成分を第1の実施形態に記載するように添加する。
【0082】
上記の溶媒を第1の実施形態に記載するように添加することができる。
【0083】
本発明の第2の態様は複合電極用粒子材料を開示している。粒子材料は電極活性成分、含リチウムスルフィド化合物、及び電子伝導成分を含む。粒子材料は以下の結合:X-S-X、M、Mの1つ又は複数を含み、xは0から2、yは0から2、zは0から4、uは0から2である。
【0084】
電極活性成分は、粒子材料における酸化状態が3+、4+、5+である少なくとも1つの遷移金属M、又はこの2つ以上の遷移金属の混合物を含む。有利には、遷移金属は上記の通りであり、好ましくはバナジウム(V)である。有利には、電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む。
【0085】
含リチウムスルフィド化合物は元素Xを含み、XはP、Ge、Si又はSnである。有利には、含リチウムスルフィド化合物はLiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む。
【0086】
LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。LiPS系成分の例はLiPS(LPS)、YがCl、Br又はIであるLiPSY(LPSY)、Y及びZが異なり、Y及びZがCl、Br又はIであるLiPS0.50.5、並びにLi11である。LiPS0.50.5の例はLiPSCl0.5Br0.5である。
【0087】
LiGePS系成分の例はxが0から1であるLi4-aGe1-a、及びLi10GeP12である。LiSnPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSn1-aである。LiSiPS系成分の例はxが0から1であるLi4-aSi1-aである。LiSiSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Si1-bSn1-aである。LiGeSnPS系成分の例はxが0から1、bが0から1であるLi4-a(Ge1-bSn1-aである。
【0088】
有利には、電子伝導成分は上記の通りである。電子伝導成分は、炭素繊維又はカーボンナノチューブなどの含炭素成分を含むのが好ましい。
【0089】
有利には、粒子材料は、電極活性成分及び含リチウムスルフィド化合物を0.1から0.9、好ましくは0.5から0.85、より好ましくは0.6から0.75の比で含む。この比は電極活性成分の重量を電極活性成分の重量及び含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される。
【0090】
粒子材料は本発明の方法で得るのが好ましい。
【0091】
本発明者は本発明の粒子材料、特に本発明の方法で得られる粒子材料において、粒子材料の2つ以上の成分をもはや一つ一つ区別できないことが分かっている。特に、電極活性成分及び含リチウムスルフィド化合物は、粒子材料において区別できず、これは粒子材料の製造中にこれらの成分間の反応が起こり、成分間に結合が形成されることを示している。
【0092】
特に、遷移金属がバナジウムであるとき、3+、4+、5+である粒子材料の酸化状態の存在は、電極活性成分及び別の成分間に化学反応が起こることを示す。
【0093】
驚くべきことに本発明者は、本発明の方法で得られる粒子材料が驚くほど高いエネルギ容量、特に個別の成分の混合物から計算した理論予測値より著しく高いエネルギ容量を有することを発見している。更に、本発明者は、粒子材料を電池セルのカソードで使用する場合、繰り返し充放電することができることが分かっている。
【0094】
更に、本発明はこの粒子材料を含む複合電極を開示している。この電極はカソード、つまり粒子材料を含む複合カソードであるのが好ましい。有利には、カソードはこの粒子材料からなる。
【0095】
更に、本発明はこのような複合電極、好ましくはこのような複合カソードを含む電池又は電池セルを開示している。
【0096】
図1は電池セル10の例示的な実施形態を示す。電池セル10はCR2032型構造として当技術分野で公知のコインセル構造を有する。電池セル10はアノード11及びカソード12を含む。カソード12は本発明による電極である。電池セル10は更にアノード11及びカソード12間に固体電解質13を含む。アノードは例えばグラファイト系アノードでよい。有利には、電池セル10は更にコインセルキャップ14、コインセルベース15、スペーサ16及びスプリング17を含む。スペーサ16及びスプリング17は電池セル10の他の部品11、12、13、14、15を良好に接触させる。
【0097】
固体電解質は固体ポリマー、或いは固体無機ガラス又はセラミック材料などの固体無機材料、例えばガーネット材料でよい。例えば、固体電解質は硫化リチウム固体電解質、好ましくはLiPS又はLiPSBrでよい。代替的には、そのポリマーマトリックスに分散したリチウム塩を有するポリ(エチレンオキシド)(PEO)でよい。代替的には、固体電解質はリチウム含有ガーネット材料などのガーネットセラミック、例えばリチウムランタンジルコニウム酸化物(LiLaZr12、略称LLZO)でよい。
【0098】
固体電解質はカソードに含まれる粒子材料の含リチウムスルフィド化合物と同じでよい。
【実施例
【0099】
比較例1
溶媒としてヘプタン20gにおいて、電極活性成分としてリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(LiNiMnCoO)(NMCと略す)6.9gと、第1含リチウムスルフィド化合物としてリチウムリン硫化物(LiPS)(LPSと略す)2.6gと、電子伝導成分としてVGCF(昭和電工株式会社製気相成長炭素繊維)0.5gとをボールミル粉砕することにより第1参考カソードを作製した。4mm径ジルコニアボール1058gを使用し、500rpmで1時間、ボールミル装置(フリッチュ、P6)によりボールミル粉砕を実施した。その後、得られた混合物を圧力100MPaでプレスしてペレットにし、φ10mm×90μmのカソードを作製した。第1参考カソードと、固体電解質としてLPSと、アノードとしてInLi(インジウムリチウム合金)を用いて図1の電池セルを作製した。電池セルを圧力80MPaの空気圧プレスで封止した。
【0100】
比較例2
溶媒としてヘプタン20gにおいて、電極活性成分としてV6.9gと、第1含リチウムスルフィド化合物としてリチウムリン硫化物(LiPS)(LPSと略す)2.6gと、電子伝導成分としてVGCF(昭和電工株式会社)0.5gとを混合することにより第2参考カソードを作製した。乳鉢を用いて15分間手動で混合した。その後、得られた混合物を圧力500MPaでプレスしてペレットにし、φ10mm×90μmのカソードを作製した。第2参考カソードを使用して比較例1に記載するように電池セルを作製した。
【0101】
実施例1
電極活性成分としてVと、第1含リチウムスルフィド化合物としてLPSとを様々な量で用いて、本発明による4つのカソードを作製した。表1はカソードの組成を示し、実施例1-1から実施例1-4は本実施例の4つのカソードを示す。V及びLPSの総量を9.5gとし、電子伝導成分の量及び種類(0.5gのVGCF(昭和電工株式会社))並びに溶媒(ヘプタン20g)を一定とした。実施例1-5及び1-6は実施例1-1で得られるようなカソードであり、溶媒としてヘプタン20gの代わりにそれぞれキシレン20g及びメシチレン20gを使用している。ボールミル粉砕を比較例1に記載するように実施した。本発明のカソードを使用し、比較例1に記載するように4つの電池セルを作製した。
【0102】
実施例1’
電極活性成分としてV及びNiOと、第1含リチウムスルフィド化合物としてLPSとを様々な量で用いて、本発明による4つのカソードを作製した。表1はカソードの組成を示し、実施例1’-1から実施例1’-4は本実施例の4つのカソードを示す。V、NiO及びLPSの総量を9.5gとし、電子伝導成分の量及び種類(0.5gのVGCF(昭和電工株式会社))並びに溶媒(ヘプタン20g)を一定とした。実施例1’-5は実施例1’-1で得られるようなカソードであり、溶媒としてヘプタン20gの代わりにメシチレン又はキシレン20gを使用している。ボールミル粉砕を比較例1’に記載するように実施した。本発明のカソードを使用し、比較例1に記載するように4つの電池セルを作製した。
【0103】
実施例1’’
電極活性成分としてV及びMnOと、第1含リチウムスルフィド化合物としてLPSとを様々な量で用いて、本発明による4つのカソードを作製した。表1はカソードの組成を示し、実施例1’’-1から実施例1’’-4は本実施例の4つのカソードを示す。V、MnO及びLPSの総量を9.5gとし、電子伝導成分の量及び種類(0.5gのVGCF(昭和電工株式会社))並びに溶媒(ヘプタン20g)を一定とした。実施例1’’-5は実施例1’’-1で得られるようなカソードであり、溶媒としてヘプタン20gの代わりにメシチレン又はキシレン20gを使用している。ボールミル粉砕を比較例1に記載するように実施した。本発明のカソードを使用し、比較例1に記載するように4つの電池セルを作製した。
【0104】
実施例1’’’
電極活性成分としてV及びMnと、第1含リチウムスルフィド化合物としてLPSとを様々な量で用いて、本発明による4つのカソードを作製した。表1はカソードの組成を示し、実施例1’’’-1から実施例1’’’-4は本実施例の4つのカソードを示す。V、Mn及びLPSの総量を9.5gとし、電子伝導成分の量及び種類(0.5gのVGCF(昭和電工株式会社))並びに溶媒(ヘプタン20g)を一定とした。実施例1’’’-5は実施例1’’’-1で得られるようなカソードであり、溶媒としてヘプタン20gの代わりにメシチレン又はキシレン20gを使用している。ボールミル粉砕を比較例1に記載するように実施した。本発明のカソードを使用し、比較例1に記載するように4つの電池セルを作製した。
【0105】
実施例2
電極活性成分としてVと、第1含リチウムスルフィド化合物としてLiPSBrとを様々な量で用いて、本発明による4つのカソードを作製した。表1はカソードの組成を示し、実施例2-1から実施例2-4は本実施例の4つのカソードを示す。V及びLiPSBrの総量を9.5gとし、電子伝導成分の量及び種類(0.5gのVGCF(昭和電工株式会社))並びに溶媒(ヘプタン20g)を一定とした。ボールミル粉砕を比較例1に記載するように実施した。本発明のカソードを使用し、固体電解質としてLiPSBrを用いて、比較例1に記載するように4つの電池セルを作製した。
【0106】
表1


【0107】
実施例3
バイオロジックのポテンショスタットVMP-300によりカソード容量、平均電圧及びエネルギ密度を測定すること、測定カソード容量を理論カソード容量と比較することにより電池セルの性能を測定した。
【0108】
表2は、2つの各参考電池セル(「比較1」及び「比較2」)並びに本発明の各電池セルについて、理論容量、カソード容量、平均電圧及びエネルギ密度の値を示す。
【0109】
電極活性成分1グラムあたりのmAhで表される理論容量は、カソード作製に使用する成分に基づき計算されるカソード容量値であり、これらの成分の混合物では任意の相互作用又は反応が2つ以上の成分間で起こらないと仮定している。
【0110】
測定容量は測定された通りのカソード容量である。
【0111】
表2

メシチレン及びキシレンを使用して調製したカソードに関し、容量及びエネルギ密度測定値はほぼ同一の値であった。
【0112】
表2から、カソードの電極活性成分としてNMCを含む参考電池セル(「比較1」)について、測定カソード容量は理論カソード容量と同じであるのが明らかである。また、カソードの電極活性成分としてVを含み、このカソードが手動混合により得られた粒子材料で作製されている参考電池セル(「比較2」)は、理論カソード容量と等しい測定カソード容量を有する。
【0113】
しかしながら、本発明のボールミル粉砕で得られた粒子材料を含むカソードを用いた電池セルは、すべてが理論容量より高い測定カソード容量を有する。第2参考電池セル(「比較2」)を同じ開始組成(各成分の種類及び質量)のカソードを有する電池セル(「実施例1-4」)と比較すると、カソードを作製するのに使用する粒子材料がボールミル粉砕で得られる場合、測定カソード容量が著しく高いことは明らかである。
【0114】
ボールミル粉砕中、電極活性成分及び含リチウムスルフィド化合物間に新しい結合が形成されて粒子材料の性質が改善されるため、これらの高い値が得られる。
【0115】
図2は、Vと、LPSと、実施例1-2に使用する成分をボールミル粉砕することで得られる粒子材料とのX線光電子分光分析(XPS)の結果を示す。LPSにLi-S-P結合の存在が確認されることは明らかである。しかしながら、ボールミル粉砕で得られた粒子材料には、Li-S-P結合だけでなく、P-S-P結合又はV結合及びV結合が特定される。P-S-P(硫黄架橋)又はV結合は、LPSがVと化学反応することで生じる。
【0116】
更に、電極材料1グラム当たりで表される測定カソード容量は、電極における電極活性成分の比が増加するのに伴って高くなる。
【0117】
表2から、含リチウムスルフィド化合物として、及び固体電解質としてLiPSBrを含む電池セルの値は、含リチウムスルフィド化合物として、及び固体電解質としてLPSを含む電池セルより高いという結果になる(それぞれ実施例2-1から2-4対実施例1-1から1-4)。
【0118】
図3は電池セルの測定エネルギ密度を示す。手動混合ではなく、ボールミル粉砕を行い、同じ開始混合物から得られた電池セルのカソード(実施例1-4)は、手動混合サンプル(比較例2)より高いエネルギ密度を示すだけでなく、ボールミル粉砕したNMCの参考サンプル(比較例1)より高いエネルギ密度を示すことが明らかである。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)元の酸化状態が5+、任意に4+及び/又は3+である第1遷移金属M酸化物を含む電極活性成分と、(b)Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ru又はTiからなる群から選択される少なくとも1つの第2追加酸化物と、(c)P、Ge、Si又はSnである元素Xを含む第1含リチウムスルフィド化合物とのボールミル粉砕を含むことを特徴とする、複合電極用粒子材料の作製方法であって、電子伝導成分は、好ましくは、含炭素成分を含み、前記電極活性成分と、前記第1酸化物及び前記少なくとも1つの第2追加酸化物と、前記第1含リチウムスルフィド化合物とに添加されて前記粒子材料が得られる、方法。
【請求項2】
前記遷移金属Mはバナジウム(V)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1含リチウムスルフィド化合物は元の状態でLi-S-X結合を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1含リチウムスルフィド化合物は、LiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1含リチウムスルフィド化合物はL1S及びPを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の第2含リチウムスルフィド化合物が得られる前記第1含リチウムスルフィド化合物の第1ボールミル粉砕工程と、粒子材料が得られる前記第2含リチウムスルフィド化合物及び前記電極活性成分の第2ボールミル粉砕工程と、を含む請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶媒は前記ボールミル粉砕中に添加され、好ましくは、前記溶媒は、ヘプタン、キシレン又はその混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
・前記粒子材料における酸化状態が3+、4+、5+である第1遷移金属M酸化物、及び1つ又は複数を含む電極活性成分と、
・Li、Al、Cu、Fe、Cr、Mn、Sn、Mo、Ni、Sn、Ag、Ru又はTiからなる群から選択される少なくとも1つの追加の第2酸化物と、
・P、Ge、Si又はSnである元素Xを含む含リチウムスルフィド化合物と、
・好ましくは、含炭素成分を含む電子伝導成分と、
を含む複合電極用粒子材料であって、
以下の結合:X-S-X、M、Mの1つ又は複数を含み、xは、0から2、yは、0から2、zは、0から4、uは0から2であることを特徴とする、粒子材料。
【請求項10】
前記遷移金属はバナジウム(V)であり、前記電極活性成分はV、V、VO、H、H、又はこれらの任意の2つ以上の化合物の混合物を含む、請求項9に記載の粒子材料。
【請求項11】
前記含リチウムスルフィド化合物は、LiPS系成分、LiGePS系成分、LiSiPS系成分、LiSnPS系成分、LiSiSnPS系成分、LiGeSnPS系成分、又はこれらの任意の2つ以上の成分の混合物を含む、請求項9に記載の粒子材料。
【請求項12】
前記電極活性成分及び前記含リチウムスルフィド化合物を0.1から0.9、好ましくは、0.5から0.85、より好ましくは、0.6から0.75の比で含む、請求項9に記載の粒子材料であって、前記比は、前記電極活性成分の重量を前記電極活性成分の重量及び前記含リチウムスルフィド化合物の重量の合計で割ったものとして表される、粒子材料。
【請求項13】
請求項1に記載の方法により得られる、請求項9に記載の粒子材料。
【請求項14】
請求項9に記載の粒子材料を含む複合カソード。
【請求項15】
請求項14に記載の複合カソードを含む電池セル。
【国際調査報告】