(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/14 20060101AFI20240621BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240621BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240621BHJP
A23L 17/40 20160101ALI20240621BHJP
【FI】
C12N1/14 B
A23L23/00
A23L27/00 D
A23L27/00 Z
A23L17/40 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579771
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 CN2022142877
(87)【国際公開番号】W WO2023226430
(87)【国際公開日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】202210571850.1
(32)【優先日】2022-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517405840
【氏名又は名称】江▲蘇▼大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 瑞昌
(72)【発明者】
【氏名】李 影
(72)【発明者】
【氏名】劉 慧▲ジエ▼
(72)【発明者】
【氏名】袁 麗
(72)【発明者】
【氏名】石 ▲トン▼
【テーマコード(参考)】
4B036
4B042
4B047
4B065
【Fターム(参考)】
4B036LE02
4B036LF03
4B036LH04
4B036LH37
4B036LH45
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4B065AA58X
4B065BB15
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4B065BC03
4B065BC08
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】本発明は、水産物加工の技術分野に属し、具体的に複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法に関する。
【解決手段】本発明は、低塩分のアキアミペーストを原料とし、プロテアーゼ及びリパーゼ生成能が良好なクラドスポリウムZ3を用いてアキアミを一段発酵させて一次発酵生成物を得た後、プロテアーゼ生成能が強い大便連鎖球菌X1を用いて一次発酵生成物を二段発酵させ、風味の良いエビソース製品を得る。本発明は、異なる菌株を用いてアキアミを二段階で発酵させることにより、異なる菌種特性を十分に利用して発酵能を最大化して、発酵速度を高め、発酵品質を安定させることができると共に、菌種強化発酵によって他の雑菌による汚染を抑制することができ、さらに従来の発酵エビソースの塩含有量が高く、発酵時間が長く、風味が不安定で、安全性が低いなどの欠点を解決し、エビソースの製造時間を大幅に短縮し、製造効率を向上させ、製造コストを削減する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキアミを粉砕してエビペーストを取得し、食塩を比例的に加え、均一に撹拌してエビすり身の混合物を取得する工程(1)、
クラドスポリウムZ3をまずYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養液をYPD固体培地にコートして二次培養し、培養後プレートに滅菌生理食塩水を加え、培地表面から掻き取り、取得された溶液を振とうしてろ過して菌糸を除去し、ろ液を取得して滅菌生理食塩水で希釈し、クラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液を取得し、前記のクラドスポリウムZ3の寄託番号はCCTCC NO:M 2022487である工程(2)、
大便連鎖球菌X1をYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養後種子液を取得し、種子液を遠心分離して菌スラリーを取得し、滅菌生理食塩水に再懸濁し、大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液を取得し、前記の大便連鎖球菌X1の寄託番号はCCTCC NO:M 2022486である工程(3)、
工程(2)で調製されたクラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液を工程(1)で調製されたエビすり身の混合物に接種して一段発酵させて、一次発酵生成物を取得する工程(4)、及び
工程(3)で調製された大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液を工程(4)で調製された一次発酵生成物に接種して二段発酵させ、得られる製品は急速発酵エビソース製品である工程(5)
が含まれることを特徴とする、複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項2】
工程(1)における前記の食塩の添加量は、エビペーストの質量の5%~10%であることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項3】
工程(2)における前記のクラドスポリウムZ3の活性化培養時間は、2~4日であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、前記のYPD固体培地の二次培養時間は、2~6日であり、温度は、20~30℃であることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項4】
工程(2)における前記のプレート中の滅菌生理食塩水の使用量は、培地表面のコロニーを覆うのに十分な量でよく、前記のクラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液の濃度は、1×10
6~1×10
7CFU/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項5】
工程(2)又は工程(3)における前記のYPD液体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、121℃で20分間滅菌することを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項6】
工程(2)又は工程(3)における前記のYPD固体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、寒天粉末が10g/Lであり、121℃で20分間滅菌することを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項7】
工程(3)における前記の大便連鎖球菌X1の活性化培養時間は、24~48時間であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、前記の大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液の濃度は、1×10
7~1×10
8CFU/mLであり、前記の遠心分離の条件は、4℃、6000~8000r、10~15分間であることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項8】
工程(4)における前記の一段発酵のプロセスパラメーターは、発酵温度が20~25℃であり、発酵時間が10~20日であり、前記のクラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液とエビすり身の混合物との使用量比は、1~6mL:100gであることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項9】
工程(5)における前記の二段発酵のプロセスパラメーターは、発酵温度が20~30℃であり、発酵時間が2~15日であり、前記の大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液と一次発酵生成物との使用量比は、1~6mL:100gであることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一つの項に記載の方法によって調製されたエビソース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産物加工の技術分野に属し、具体的に複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エビソースは、中国の沿岸部、中国香港地域、東南アジア地域でよく使われている調味ソースで、エビと塩を混ぜてすりつぶしてとろみをつけ、長時間自然発酵させて作る伝統的な発酵食品である。発酵プロセスでは、微生物や各種酵素の働きにより、エビソース中のタンパク質がアミノ酸に分解され、独特の風味と旨味、そしていつまでも続く後味が生まれる。又、発酵プロセスでは、各種の脂肪酸やピラジンなどの発酵前にはなかったさまざまな栄養素が生成される。独特の風味と栄養価で人々に深く愛されている。エビペーストは塩味があり、一般的に缶詰の調味料として販売されており、ブロック状に乾燥させてより濃厚な味わいのエビペーストとしても販売されている。
【0003】
従来のエビソースの製造プロセスは、長い時間がかかるため、外的要因の影響を受けやすく、品質が不安定であり、発酵法が開放的であるため、発酵プロセスで有害な微生物が混入しやすく、生体アミン、亜硝酸塩などの有害物質が生成され、健康に影響を与え、工業化が困難である。天然発酵のエビソースは、有害な微生物の増殖を抑えるために多量の塩を添加する必要があり、調味料として少量しか食べられず、長期の摂取には適さないため、エビソースの生産・販売が大きく制限されている。
【0004】
エビソースの急速生産プロセスには、通常、酵素法と接種法という二つの方法がある。酵素発酵法は、エビペーストの原料に中性プロテアーゼ、アルカリ性プロテアーゼなどを主成分とする一種以上のタンパク質分解酵素を添加し、エビのタンパク質のアミノ酸への分解を促進することにより、減塩、発酵時間の短縮などの利点があるが、製造されたエビソースは、市販のエビソースの味とある程度のギャップがある。接種発酵法は、生物的発酵スターターである一種以上の細菌株を原料エビペーストに添加して、エビソース中の優位な微生物となされ、合成微生物群集を樹立することにより、他の有害な微生物の増殖を抑制し、最終的に発酵時間の短縮、製品の品質と安全性の向上という目的を達成するが、現在のエビソースの接種発酵は、主に単一細菌発酵又は共発酵であり、製品の風味が改善されているが、まだ不十分である。
【0005】
エビソースの発酵プロセスは、緩やかな細菌叢遷移過程であり、これらの細菌叢はさまざまな発酵段階でそれぞれの役割を果たし、現在、中華ザワークラウト、ポークソース、ワイン、ホースラディッシュソースなどの伝統的な発酵食品にはさまざまな段階発酵法があるが、異なる菌種強化の二段階急速発酵エビソースの方法はまだ見られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エビソース発酵において、従来技術の欠点を克服するために、本発明は、異なる菌株を用いてアキアミを二段階で発酵させることにより、異なる菌種の特性を十分に活用して、発酵能を最大限に発揮させて発酵速度を高め、発酵品質を安定させることができると共に、菌種強化発酵によって他の雑菌による汚染を抑制することにより、塩の添加量を低減する複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明で使用される二つの発酵スターター菌株は、クラドスポリウム(Cladosporium)Z3、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1であり、いずれも河北省滄州黄▼ホワ▲市衆信水産有限会社によって作製されたエビソースのサンプル(製品名は海エビソースである)からスクリーニングされ、サンプルの作製時期は、2020年7月であり、菌種のスクリーニング時期は、2020年7月(スクリーニング場所:中国鎮江、江蘇大学)である。クラドスポリウム(Cladosporium)Z3は、プロテアーゼ生成能及びリパーゼ生成能が強く、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1は、プロテアーゼ生成能が強く、酸を生成しながらクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の成長増殖を抑制することができる。
【0008】
その中で、クラドスポリウム(Cladosporium)Z3は、寄託場所が中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)であり、寄託時期が2022年4月25日であり、寄託番号がCCTCC NO:M 2022487であり、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1は、寄託場所が中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)であり、寄託時期が2022年4月25日であり、寄託番号がCCTCC NO:M 2022486である。
【0009】
本発明の技術的手段は、
アキアミを粉砕してエビペーストを取得し、食塩を比例的に加え、均一に撹拌してエビすり身の混合物を取得する工程(1)、
クラドスポリウム(Cladosporium)Z3をまずYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養液をYPD固体培地にコートして二次培養し、培養後プレートに滅菌生理食塩水を加え、培地表面から掻き取り、取得された溶液を振とうしてろ過して菌糸を除去し、ろ液を取得して滅菌生理食塩水で希釈し、クラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液を取得し、上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の寄託番号はCCTCC NO:M 2022487である工程(2)、
大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1をYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養後種子液を取得し、種子液を遠心分離して菌スラリーを取得し、滅菌生理食塩水に再懸濁し、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の芽胞懸濁液を取得し、上記の大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の寄託番号はCCTCC NO:M 2022486である工程(3)、
工程(2)で調製されたクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液を工程(1)で調製されたエビすり身の混合物に接種して一段発酵させて、一次発酵生成物を取得する工程(4)、及び
工程(3)で調製された大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の芽胞懸濁液を工程(4)で調製された一次発酵生成物に接種して二段発酵させ、得られる製品は急速発酵エビソース製品である工程(5)
が含まれる複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法である。
【0010】
好ましくは、工程(1)における上記の食塩の添加量は、エビペーストの質量の5%~10%である。
【0011】
好ましくは、工程(2)における上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の活性化培養時間は、2~4日であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、上記のYPD固体培地の二次培養時間は、2~6日であり、温度は、20~30℃である。
【0012】
好ましくは、工程(2)における上記のプレート中の滅菌生理食塩水の使用量は、培地表面のコロニーを覆うのに十分な量でよく(添加量は3~8mLである)、上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液の濃度は、1×106~1×107CFU/mLである。
【0013】
好ましくは、工程(2)又は工程(3)における上記のYPD液体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、121℃で20分間滅菌する。
【0014】
好ましくは、工程(2)又は工程(3)における上記のYPD固体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、寒天粉末が10g/Lであり、121℃で20分間滅菌する。
【0015】
好ましくは、工程(3)における上記の大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の活性化培養時間は、24~48時間であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、上記の大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の芽胞懸濁液の濃度は、1×107~1×108CFU/mLである。
【0016】
好ましくは、工程(3)における上記の遠心分離の条件は、4℃、6000~8000r、10~15分間である。
【0017】
好ましくは、工程(4)における上記の一段発酵のプロセスパラメーターは、発酵温度が20~25℃であり、発酵時間が10~20日であり、上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液とエビすり身の混合物との使用量比が1~6mL:100gである。
【0018】
好ましくは、工程(5)における上記の二段発酵のプロセスパラメーターは、発酵温度が20~30℃であり、発酵時間が2~15日であり、上記の大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の種子液と一次発酵生成物との使用量比が1~6mL:100gである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有益な効果について、菌種強化二段階のエビソース急速発酵法は、効率が高いという利点があり、エビソースの製造時間を大幅に短縮し、製造効率を向上させ、製造コストを削減する。本発明の方法は、特定の機能性菌株を接種してエビソース発酵環境における優位な菌株となされ、製品の品質の安定性を向上させると共に、他の有害菌株の増殖を抑制することによりエビソースの安全性を向上させる。本発明の方法によって急速発酵されて製造したエビソースは、製品中の塩含有量が低減され、健康食品の要求にさらに適合する。菌種強化二段階のエビソース急速発酵法は、エビソースの急速安定発酵を実現し、エビソースの工業製造に理論的及び技術的サポートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】は、三つの群の発酵エビソースサンプル中の揮発性成分のレーダーチャートである。
【
図2】は、三つの群の発酵エビソースサンプル中の揮発性成分の主成分分析図である。
【
図3】は、三つの群の発酵エビソースサンプルの官能評価スコアのレーダーチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明をより全面的に理解するために、以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0022】
本発明は、従来の発酵エビソースからスクリーニングされたプロテアーゼとリパーゼの生成能が良好なカビ菌株Z3(Cladosporium、クラドスポリウム)とプロテアーゼの生成能が強い細菌菌株X1(Enterococcus faecalis、大便連鎖球菌)を発酵に使用し、発酵プロセスの最適化により二段階のエビソース急速発酵法を樹立し、その中で、クラドスポリウム(Cladosporium)Z3は、寄託場所が中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)であり、寄託時期が2022年4月25日であり、寄託番号がCCTCC NO:M 2022487であり、工程4における上記の大便連鎖球菌は、具体的に大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1であり、寄託場所が中国典型培養物保蔵センター(CCTCC)であり、寄託時期が2022年4月25日であり、寄託番号がCCTCC NO:M 2022486である。
【0023】
発酵エビソース製品の物理化学的指標の評価については、エビソース製品のpH値はpHメーターによって測定され、アミノ態窒素(AAN)の含有量の測定法は、GB5009.235-2016を参考にしてカルバルデヒド滴定法を使用し、揮発性塩基窒素(TVB-N)の含有量の測定法は、GB/T5009.228-2016を参考にして微量拡散法を使用し、発酵エビソースの揮発性化合物の全体的な風味プロファイルは、電子鼻システムによって検出され、発酵エビソースサンプルの揮発性風味物質は、固相マイクロ抽出-ガスクロマトグラフィー-質量分析法(SPME-GC-MS)によって検出される。
【0024】
官能評価の方法については、エビソース風味官能評価パネルは、風味評価に関する専門的なトレーニングを受けたボランティア15名で構成され、急速発酵エビソースのサンプルのエビ味、旨味、塩味、甘味、発酵味、腥味、アンモニア味、苦味の八つを0~9点のスコアで採点し、最後にエビソースの総合的な好みを最終スコアとする。
【0025】
本発明に係る上記の方法によって製造されたエビソース製品は、発酵スターター菌株を添加せずに発酵させて製造されたエビソース製品及びクラドスポリウム(Cladosporium)Z3のみを添加して発酵させて製造されたエビソース製品と比較して、同様の検出方法によって異なるエビソース製品間の違いを検出する。
【0026】
比較例1 発酵スターター菌株を添加せずに発酵させる(D群)。
アキアミを粉砕してエビペーストを取得し、エビペーストの質量6%の食塩を加え、均一に撹拌し、恒温インキュベーター内で21℃で12日発酵させてから、25℃で4日発酵させ、回転数を100rpmに設定する。発酵終了後、エビソースを取得し、製造されたエビソース製品に物理化学的指標評価及び官能評価を行う。
【0027】
比較例2 クラドスポリウム(Cladosporium)Z3のみを添加して発酵させる(K-Z3群)。
アキアミを粉砕してエビペーストを取得し、エビペーストの質量6%の食塩を加え、均一に撹拌し、濃度が2*106CFU/mLであるクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液をエビペーストに接種し、上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液とエビすり身の混合物との使用量比は、4mL:100g(V/W)である。恒温インキュベーター内で21℃で12日発酵させ、回転数を100rpmに設定する。発酵終了後、製造されたエビソース製品に物理化学的指標評価及び官能評価を行う。
【0028】
実施例1 菌種強化二段階急速発酵(K-X1群)
アキアミをペースト状に粉砕し、6%の食塩を比例的に加え、均一に撹拌し、濃度が2*106CFU/mLであるクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液をエビペーストに接種し、上記のクラドスポリウム(Cladosporium)Z3の芽胞懸濁液とエビすり身の混合物との使用量比は、4mL:100g(V/W)であり、恒温インキュベーター内で21℃で12日発酵させ、回転数を100rpmに設定し、一段発酵終了後、大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の種子液を接種し、上記の大便連鎖球菌(Enterococcus faecalis)X1の種子液と一次発酵生成物混合物との使用量比は、4mL:100g(V/W)であり、恒温インキュベーター内で25℃で4日発酵させ、回転数を100rpmに設定する。発酵終了後、製造されたエビソース製品に物理化学的指標評価及び官能評価を行う。
【0029】
本発明に係る方法によって製造されたエビソース製品と、発酵スターター菌株を添加せずに発酵させて製造されたエビソース製品及びクラドスポリウム(Cladosporium)Z3のみを添加して発酵させて製造されたエビソース製品とを比較し、同様の検出方法によって異なるエビソース製品間の違いを検出し、具体的な結果は、表1~2及び
図1~3に示される。
【0030】
具体的に表1に示されるように、発酵エビソースのpH値は、弱アルカリ性であり、菌株Z3は、アルカリ性物質を生成し得、菌株X1を接種するとpH値の上昇はある程度緩やかになる。発酵スターターを接種して発酵させたエビソースのAAN含有量が接種していない対照群よりも高いのは、発酵スターターを接種して発酵させることにより発酵エビソース中のAANの含有量が効果的に増加し、エビソース中のタンパク質がより十分に加水分解され、発酵の度合いが向上させ得ることが示される。TVB-Nは、エビソースの腐壊の度合いを反映する主な指標であり、その含有量が高いほど、発酵製品の変敗の度合いが高く、発酵スターターを接種した後のTVB-Nの含有量が有意に低下し、強化接種発酵スターターが優位な細菌叢となり得て腐敗菌の増殖を抑制することが示される。従って、菌種強化二段階急速発酵法は、エビソースの発酵速度を向上させると共に、製品の品質を向上させることができる。
【表1】
【0031】
図1は、三つの群の発酵エビソースサンプル中の揮発性成分のレーダーチャートであり、レーダーチャートの結果は、三つの群のサンプルの硫化物の含有量(W1W)に大きな違いがあり、比較例2のサンプルの硫化物の含有量は実施例1のサンプル及び比較例1のサンプルよりも低いことを示した。同時に、比較例2のサンプル中の長鎖アルカンの含有量も、実施例1と比較例1のサンプルよりも低い。
【0032】
図2は、三つの群の発酵エビソースサンプル中の揮発性成分の主成分分析図であり、その結果は、PC1とPC2の分散寄与率がそれぞれ51.30%と36.59%であり、二つの主成分の累積合計寄与率が87.89%にも達し、元データのほとんどの情報を効果的に反映することができる。三つの群のサンプルは、相対的に独立しており、三つの群のサンプル中の揮発物の種類と含有量に一定の違いがあることが示され、実施例1のサンプルは、比較例2のサンプル及び比較例1のサンプルとは大きく異なり、発酵スターターの接種はサンプル中の揮発物の生成に大きな影響を及ぼすことが示される。
【0033】
表3は、GC-MSによって検出された三つの群の発酵エビソースのサンプル中の揮発性化合物の種類及び相対含有量であり、その結果は、18種のアルコール、8種のケトン、7種のエステル、2種の酸、10種の炭化水素、3種のアミン、4種のピラジン、2種のアルデヒド、及び10種の他の化合物を含む65種の揮発性化合物が検出されることを示した。実施例1のエビソースのサンプルは、揮発性化合物の種類及び含有量が共に増加した。エステル類は、通常花や果物の香りがあり、エビソース全体の風味の形成に一定の影響を与え、実施例1のエビソースのサンプルは、エステル類の種類及び含有量が共に増加しており、本発明の発酵法によってエビソース中のエステル類物質の生成が促進され得ることを示した。アルデヒド類及びピラジン類の物質は、成熟したエビソースの風味の形成に重要な影響を与える。比較例1のエビソースサンプルにはアルデヒド類の物質が検出されていないが、これは、発酵時間が短く且つ機能性菌種が接種されていないため、アルデヒド類の物質は短期で合成できず、比較例2と実施例1のサンプルに2種のアルデヒドが検出されており、急速発酵エビソース製品の風味がある程度で向上させることによると推測される。トリメチルアミンは、水産中の主なアミン類化合物であり、通常魚腥味があるが、実施例1のエビソースのサンプル中のトリメチルアミンの含有量が低下した。実施例1のエビソースのサンプル中の2,5-ジメチルピラジン、2,3,5-トリメチルピラジン、及び3-エチル-2,5-メチルピラジンの含有量は、いずれも比較例1、2におけるエビソースのサンプルよりも高い。その結果は、本発明に係る方法によって急速発酵エビソース製品の風味を向上させ得ることを示した。
【表2-1】
【表2-2】
【0034】
図3は、三つの群の発酵エビソースのサンプルの官能評価スコアのレーダーチャートであり、その結果は、異なるサンプル間に一定の違いがあることを示しており、その中で、比較例1の全体的な風味は、主にアンモニア味と発酵味であり、比較例1のサンプル中のTVB-Nの含有量が高い結果と一致し、これは、対照群のエビペーストの原料中の塩含有量が低く且つ発酵スターターが添加されず、発酵プロセスで腐敗して微生物が大量に増殖して、エビソースサンプルを過剰に発酵させること及び生物アミンなどの物質が大量に生成されることになり、エビソースのサンプルの腐敗・変敗が促進されることによるものである。実施例1と比較例2のサンプルの全体的な風味は、主にエビ味、旨味、甘味、及び発酵味であり、この二つの群のサンプル中のAANの含有量が高く且つTVB-Nの含有量が低い結果と一致し、これは、発酵スターターが強化された細菌叢が速やかに優位な細菌叢となり、エビ原料中で腐敗して微生物の生長が抑制され、生物アミン類の物質がより少なく生成されると共に、腐敗微生物による過剰な発酵と腐敗・変敗が抑制され得るためと推測され、発酵スターターの強化は、原料中のタンパク質及び脂肪酸の加水分解が促進され、さらに風味物質がより多く生成され、エビソースにより高い旨味の風味が付与される。実施例1のサンプルは、比較例2のサンプルよりも、旨味と甘味のスコアが高く、全体的な風味が柔らかである。
全ての結果は、強化発酵スターターの二段階発酵法によってエビソース製品の塩含有量を低減し、発酵時間を短縮し、エビソース製品の品質を向上させることができることを示している。
【0035】
上記の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明に記載される技術的手段を限定するものではない。したがって、本発明は、上記の実施例を参照して詳細に説明されたが、当業者は、本発明が依然として修正又は同等の代替が可能であることを理解すべきであり、本発明の精神及び範囲から逸脱しないすべての技術的手段及び改良は、本発明の特許請求の範囲に含まれるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキアミを粉砕してエビペーストを取得し、食塩を比例的に加え、均一に撹拌してエビすり身の混合物を取得
し、前記の食塩の添加量は、エビペーストの質量の5%~10%である工程(1)、
クラドスポリウムZ3をまずYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養液をYPD固体培地にコートして二次培養し、培養後プレートに滅菌生理食塩水を加え、培地表面から掻き取り、取得された溶液を振とうしてろ過して菌糸を除去し、ろ液を取得して滅菌生理食塩水で希釈し、クラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液を取得し、前記のクラドスポリウムZ3の寄託番号はCCTCC NO:M 2022487である工程(2)、
大便連鎖球菌X1をYPD液体培地に接種して活性化培養し、培養後種子液を取得し、種子液を遠心分離して菌スラリーを取得し、滅菌生理食塩水に再懸濁し、大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液を取得し、前記の大便連鎖球菌X1の寄託番号はCCTCC NO:M 2022486である工程(3)、
工程(2)で調製されたクラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液を工程(1)で調製されたエビすり身の混合物に接種して一段発酵させて、一次発酵生成物を取得
し、その中で、クラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液とエビすり身の混合物との使用量比は、1~6mL:100gであり、発酵温度が20~25℃であり、発酵時間が10~20日である工程(4)、及び
工程(3)で調製された大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液を工程(4)で調製された一次発酵生成物に接種して二段発酵させ、
その中で、大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液と一次発酵生成物との使用量比は、1~6mL:100gであり、発酵温度が20~30℃であり、発酵時間が2~15日であり、得られる製品は急速発酵エビソース製品である工程(5)
が含まれることを特徴とする、複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項2】
工程(2)における前記のクラドスポリウムZ3の活性化培養時間は、2~4日であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、前記のYPD固体培地の二次培養時間は、2~6日であり、温度は、20~30℃であることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項3】
工程(2)における前記のプレート中の滅菌生理食塩水の使用量は、培地表面のコロニーを覆うのに十分な量でよく、前記のクラドスポリウムZ3の芽胞懸濁液の濃度は、1×10
6~1×10
7CFU/mLであることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項4】
工程(2)又は工程(3)における前記のYPD液体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、121℃で20分間滅菌することを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項5】
工程
(2)における前記のYPD固体培地の配合は、1Lで酵母クリームが10g/Lであり、トリプトンが10g/Lであり、グルコースが10g/Lであり、寒天粉末が10g/Lであり、121℃で20分間滅菌することを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項6】
工程(3)における前記の大便連鎖球菌X1の活性化培養時間は、24~48時間であり、活性化培養の温度は、20~30℃であり、回転数は、100~170rpmであり、前記の大便連鎖球菌X1の芽胞懸濁液の濃度は、1×10
7~1×10
8CFU/mLであり、前記の遠心分離の条件は、4℃、6000~8000r、10~15分間であることを特徴とする、請求項1に記載の複合菌種強化急速発酵に基づくエビソースの調製方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一つの項に記載の方法によって調製されたエビソース。
【国際調査報告】