(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】エチレンを製造するための方法およびフィード
(51)【国際特許分類】
C07C 4/10 20060101AFI20240621BHJP
C10G 3/00 20060101ALI20240621BHJP
C07C 9/02 20060101ALI20240621BHJP
C07C 11/02 20060101ALI20240621BHJP
C07C 2/74 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C07C4/10
C10G3/00 Z
C07C9/02
C07C11/02
C07C2/74
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580513
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 FI2022050230
(87)【国際公開番号】W WO2023275429
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505081261
【氏名又は名称】ネステ オサケ ユキチュア ユルキネン
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロッシ、オットー
(72)【発明者】
【氏名】ムニョス ガンダリリャス、アンドレス
(72)【発明者】
【氏名】ヤミエソン、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】オヤラ、アンチ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H129
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC26
4H006BC13
4H006BE20
4H129AA01
4H129BA10
4H129BA11
4H129BB05
4H129BC15
4H129NA20
(57)【要約】
プロパンと水素分子とを含むフィードの熱分解が開示される。また、熱分解フィードおよび熱分解流出物が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素分子(H
2)と、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンとを含む熱分解フィードを提供する工程であって、前記熱分解フィードにおいて、前記水素分子のmol-%量に対する前記プロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内である工程、および
エチレンを含む熱分解流出物を得るために、前記熱分解フィードを熱分解に付す工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記熱分解フィードが、前記熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、15mol-%~50mol-%、好ましくは20mol-%~45mol-%、より好ましくは20mol-%~40mol-%、さらにより好ましくは20mol-%~35mol-%、例えば20mol-%~30mol-%のプロパンを含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱分解フィードにおいて、前記水素分子のmol-%量に対する前記プロパンのmol-%量の比が0.10~2.2、より好ましくは0.18~2.2、およびさらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記熱分解フィードにおいて、前記水素分子のmol-%量に対する少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内、好ましくは0.10~2.2の範囲内、より好ましくは0.18~2.2の範囲内、さらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱分解フィードが、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、1mol-%~8mol-%、好ましくは2mol-%~8mol-%の少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を含む請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱分解フィードが、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~10mol-%、好ましくは0mol-%~6mol-%、より好ましくは0mol-%~4mol-%のエタンを含む請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱分解フィードが、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、5mol-%~80mol-%、好ましくは10mol-%~80mol-%、より好ましくは20mol-%~75mol-%、さらにより好ましくは30mol-%~70mol-%の水素分子を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱分解フィード中のメタン、CO、CO
2、NH
3、およびH
2Sのmol-%量の合計が、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~15mol-%、または0.1mol-%~15mol-%、好ましくは0mol-%~10mol-%、または0.1mol-%~10mol-%、より好ましくは0mol-%~8mol-%、または0.1mol-%~8mol-%の範囲内である請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱分解フィードの生物起源炭素含有量が、熱分解フィードの炭素の総計の重量(TC)に基づいて、少なくとも50wt-%、好ましくは少なくとも70wt-%、より好ましくは少なくとも90wt-%である(EN 16640(2017))請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱分解が、水蒸気分解である請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記熱分解が、750℃~920℃、好ましくは780℃~890℃、さらに好ましくは820℃~880℃、より好ましくは830℃~880℃、さらに好ましくは850℃~880℃の範囲内のコイル出口温度(COT)で、および/または、1.3バール(絶対)~6バール(絶対)、好ましくは1.3バール(絶対)~3バール(絶対)の範囲内のコイル出口圧力(COP)で、および/または、0.1~1、好ましくは0.25~0.85の範囲内の熱分解希釈剤、好ましくは水蒸気と前記熱分解フィードとの間の流量比(希釈剤の流量[kg/H]/熱分解フィードの流量[kg/H])で実施される請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記熱分解フィードを提供する工程が、
水素化処理流出物を得るために、再生可能な酸素含有炭化水素を、脱酸素化および任意には異性化を含む水素化処理に付す工程であって、ここで前記再生可能な酸素含有炭化水素が、好ましくは、1または複数の脂肪酸、脂肪酸エステル、樹脂酸、樹脂酸エステル、ステロール、脂肪アルコール、酸素化テルペン、および他の再生可能な有機酸、ケトン、アルコール、および無水物を含む工程、
前記水素化処理流出物からガス状留分を分離する工程、ならびに
前記ガス状留分を、任意にはその少なくとも一部を精製処理に付した後に、および任意にはガス状化石共フィードと混合して、前記熱分解フィードとして提供すること
を含む請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
熱分解流出物からエチレン留分を分離する工程、
ポリマーを製造するために、任意には前記エチレン留分を精製処理および/または誘導体化に付した後に、前記エチレン留分を重合処理に付す工程
を含む請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
熱分解流出物からプロピレン留分を分離する工程、
ポリマーを製造するために、任意には前記プロピレン留分を精製処理および/または誘導体化に付した後に、前記プロピレン留分を重合処理に付す工程
を含む請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
水素分子(H
2)と、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンとを含む熱分解フィードであって、前記熱分解フィードにおいて、前記水素分子のmol-%量に対する前記プロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内であり、および、前記水素分子のmol-%量に対する少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内である熱分解フィード。
【請求項16】
前記熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、15mol-%~50mol-%、好ましくは20mol-%~45mol-%、より好ましくは20mol-%~40mol-%、さらにより好ましくは20mol-%~35mol-%、例えば20mol-%~30mol-%のプロパンを含む請求項15記載の熱分解フィード。
【請求項17】
前記水素分子のmol-%量に対する前記プロパンのmol-%量の比が0.10~2.2、より好ましくは0.18~2.2、およびさらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である請求項15または16記載の熱分解フィード。
【請求項18】
前記水素分子のmol-%量に対する少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比が0.10~2.2の範囲内、より好ましくは0.18~2.2の範囲内、さらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である請求項15~17のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項19】
熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、1mol-%~8mol-%、好ましくは2mol-%~8mol-%の少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を含む請求項15~18のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項20】
熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~10mol-%、好ましくは0mol-%~6mol-%、より好ましくは0mol-%~4mol-%のエタンを含む請求項15~19のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項21】
熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、5mol-%~80mol-%、好ましくは10mol-%~80mol-%、より好ましくは20mol-%~75mol-%、さらにより好ましくは30mol-%~70mol-%の水素分子を含む請求項15~20のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項22】
前記熱分解フィード中のメタン、CO、CO
2、NH
3、およびH
2Sのmol-%量の合計が、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~15mol-%、または0.1mol-%~15mol-%、好ましくは0mol-%~10mol-%、または0.1mol-%~10mol-%、より好ましくは0mol-%~8mol-%、または0.1mol-%~8mol-%の範囲内である請求項15~21のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項23】
前記熱分解フィードの生物起源炭素含有量が、熱分解フィードの炭素の総計の重量(TC)に基づいて、少なくとも50wt-%、好ましくは少なくとも70wt-%、より好ましくは少なくとも90wt-%である(EN 16640(2017))請求項15~22のいずれか1項に記載の熱分解フィード。
【請求項24】
プロピレンと、熱分解流出物の全乾燥重量に基づいて少なくとも20wt-%、好ましくは少なくとも25wt-%、より好ましくは少なくとも28wt-%、さらにより好ましくは少なくとも30wt-%、例えば少なくとも32wt-%のエチレンとを含み、前記熱分解流出物において、前記エチレンのwt-%量に対する前記プロパンのwt-%量の比は、0.40未満、好ましくは0.30未満、より好ましくは0.20未満、例えば0.15未満であり、および、前記熱分解流出物が、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて、5.0wt-%未満、好ましくは3.0wt-%未満、より好ましくは2.5wt-%未満の、少なくともC5の炭素数を有する炭化水素を含む熱分解流出物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に熱分解に関する。本開示は、特には、排他的ではないが、再生可能資源に少なくとも部分的に由来するプロパン含有フィードの熱分解に関する。
【背景技術】
【0002】
本項目は、本明細書中に記載されているいかなる技術も技術水準を代表するものであることを認めることなく、有用な背景情報を説明するものである。
【0003】
エチレンおよびプロピレンは、石油化学工業において原料として一般的に使用される。例えば、エチレンおよびプロピレンは、例えばポリエチレンおよびポリプロピレンなどの様々な化成品およびポリマーを製造するために使用される。
【0004】
従来、エチレンおよびプロピレンは、例えば化石エタン、化石LPG、化石ナフサなどの原油などを由来とする化石原料の水蒸気分解によって得られてきた。
【0005】
近年、再生可能資源に由来するナフサおよびディーゼル範囲で沸騰する水蒸気分解フィードが、化石対応物と比較してより環境的に持続可能である分解生成物を提供し得る代替物として提案されている。これらのナフサおよびディーゼル範囲の再生可能なフィードの製造においては、ガス状副生成物が形成される。現在、これらのガス状副生成物は主に燃料ガスとして燃焼されている。
【0006】
化石ベースの水蒸気分解フィードおよびプロセスへのさらなる代替物を提供する必要がある。また、再生可能なナフサおよびディーゼル範囲のフィードおよび製品の製造において形成されるガス状副生成物の付加価値利用を提供する必要もある。
【発明の概要】
【0007】
添付の特許請求の範囲は、保護範囲を定義するものである。特許請求の範囲に包含されない明細書および/または図面に記載されている装置、製品および/または方法の例および技術の記載は、発明を理解するための有用な例として提示される。
【0008】
第1の例示的態様において、
水素分子(H2)と、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンとを含む熱分解フィードを提供する工程であって、前記熱分解フィードにおいて、水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内である工程、ならびに
エチレンを含む熱分解流出物を得るために、前記熱分解フィードを熱分解に付す工程、
を含む方法が提供される。
【0009】
第2の例示的態様において、水素分子(H2)と、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンとを含む熱分解フィードであって、前記熱分解フィードにおいて、水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内であり、および、水素分子のmol-%量に対する少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内である熱分解フィードが提供される。
【0010】
第3の例示的態様において、プロピレンと、熱分解流出物の物質の総計の乾燥量をベースとして少なくとも20wt-%、好ましくは少なくとも25wt-%、より好ましくは少なくとも28wt-%、さらにより好ましくは少なくとも30wt-%、例えば少なくとも32wt%のエチレンとを含む熱分解流出物であって、前記熱分解流出物において、エチレンのwt%量に対するプロパンのwt%量の比が、0.40未満、好ましくは0.30未満、より好ましくは0.20未満、例えば0.15未満であり、および、前記熱分解流出物が、熱分解フィードの総計の重量をベースとして5.0wt%未満、好ましくは3.0wt%未満、より好ましくは2.5wt%未満の、少なくともC5の炭素数を有する炭化水素を含む熱分解流出物が提供される。
【0011】
第4の例示的態様において、第1の例示的態様の方法を用いて得られるまたは得られ得る熱分解流出物が提供される。
【0012】
本発明の方法および熱分解フィードは、それらが高いプロパン転化率、C2炭化水素である高価値炭化水素あたりの高い比収率、エチレンへの良好な選択性、および低いコーキング速度を提供するという点において有利である。また、本発明の方法および熱分解フィードの有利な点は、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からのガス状副生成物の付加価値のある利用が提供され得ることである。したがって、本発明の方法および熱分解フィードは、再生可能なオイルおよび脂肪から高価値の炭化水素を製造するための簡潔かつ低コストの方法を提供し得る。
【0013】
種々の非限定的な例示的態様および実施形態が、前述された。前述の実施形態は、単に、種々の実施において使用され得る選択された態様および工程を説明するために使用される。いくつかの実施形態は、特定の例示的態様を参照してのみ提示され得る。対応する実施形態は、他の例示的態様にも同様に適用され得ることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
いくつかの例示的な実施形態が添付の図を参照して説明されるであろう。
【0015】
【
図1】
図1は、本開示の方法の例示的な実施形態を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の記載において、同様の参照符号は同様の要素または工程を示す。
【0017】
他に言及しない限り、本開示の文脈において、mol-%およびwt%は、乾燥組成物をベースに与えられ、すなわち、そこから可能なH2O含有量が除外された物質の総計の重量または総計の量(可能なH2O含有量無しの物質の総重量または総量)である。このような、そこから可能なH2O含有量が除外された物質の総計の重量または総計の量は、本明細書において、物質の乾燥重量または乾燥量と称される。
【0018】
本開示の文脈において、エチレンへの選択性とは、熱分解流出物中のエチレンのwt%量に対するプロピレンのwt%量の比を指し、ここで、wt%量は、熱分解流出物の総計の乾燥重量(可能なH2O含有量の重量を除外した熱分解流出物の総計の重量)をベースにしている。熱分解流出物中のエチレンwt%量に対するプロピレンのwt%量のより低い比は、エチレンへ向上された選択性を意味する。
【0019】
本開示の文脈において、高価値な炭化水素あたりの比収率は、化合物のwt%量、または熱分解流出物中の特定の化合物のwt%量の和を熱分解フィード中の少なくともC2の炭素数を有する炭化水素(C2+炭化水素)のwt%量の合計によって割ったもの指し、ここで、wt%量は、それぞれ、熱分解フィードおよび熱分解流出物の総計の乾燥重量に基づいている。高価値炭化水素あたりの比収率は、貴重な炭化水素あたりの比収率は、高価値な炭化水素あたりの比収率に100%を乗じたパーセントで表され得る。
【0020】
本明細書で使用されるC2+とは、少なくともC2(C2以上)の炭素数を有する化合物を指す。C2+炭化水素は、本開示の文脈において、少なくともC2の炭素数を有する炭化水素を指す。
【0021】
本明細書で使用されるC4+とは、少なくともC4(C4以上)の炭素数を有する化合物を指す。C4+炭化水素は、本開示の文脈において、少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を指す。
【0022】
本明細書で使用されるC5+とは、少なくともC5(C5以上)の炭素数を有する化合物を指す。C5+炭化水素は、本開示の文脈において、少なくともC5の炭素数を有する炭化水素を指す。
【0023】
本明細書で使用されるC6+とは、少なくともC6(C6以上)の炭素数を有する化合物を指す。C6+炭化水素は、本開示の文脈において、少なくともC6の炭素数を有する炭化水素を指す。
【0024】
本明細書で使用されるC10+とは、少なくともC10(C10以上)の炭素数を有する化合物を指す。C10+炭化水素は、本開示の文脈において、少なくともC10の炭素数を有する炭化水素を指す。
【0025】
パラフィンとは、本明細書において、ノルマルパラフィン(n-パラフィン)、イソパラフィン(i-パラフィン)、またはその両方を指す。
【0026】
酸素含有炭化水素とは、本開示の文脈において、炭素、水素および酸素の有機分子を指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、再生可能という用語は、菌類および/または藻類から入手可能、誘導可能、または由来する材料および製品を含む、植物および/または動物から入手可能、誘導可能、または由来する化合物または組成物を指す。本明細書で使用されるように、再生可能な原料は、遺伝子操作された再生可能な原料を含んでもよい。再生可能な原料は、また、生物学的原料または生物学的プロセスによる原料とも呼ばれる。
【0028】
本明細書で使用される場合、化石という用語は、例えば原油、石油オイル/ガス、シェールオイル/ガス、天然ガス、または石炭層などの、地中/地下資源から利用できる炭化水素に富んだ鉱床を含む、天然に存在する非再生可能な組成物またはそれらの組み合わせから得られ得る、由来され得る、または起源とし得る化合物または組成物を指す。用語化石はまた、再生不可能な資源に由来するリサイクル物質を指す。
【0029】
該再生可能なおよび化石の化合物または組成物は、その起源および環境問題へのインパクトに基づいて、互いに異なるものとみなされる。したがって、これらは、法律および規制の枠組みにおいて異なる扱いを受ける。
【0030】
典型的には、再生可能なおよび化石の化合物または組成物は、製造者によって提供されるそれらの起源および情報に基づいて区別される。しかしながら、化学的に、炭化水素を含む任意の有機化合物の再生可能源または化石起源は、ASTM D6866:2018に記載されているように、14C、13Cおよび/または12Cを含む同位体炭素分布によって決定することができる。再生可能な化合物もしくは組成物、または少なくとも部分的に再生可能な組成物は、化石資源に由来する類似の成分よりも高い14C同位体の含有量を強制的に有することによって特徴付けられる。当該14C同位体の高い含有量は、再生可能な化合物または組成物を特徴付ける、および、化石化合物および組成物からそれを区別する固有の特徴である。
【0031】
したがって、部分的に化石ベースの材料および部分的に再生可能な成分に組成物が基づいているような組成物において、再生可能な成分は14C活性を測定することによって決定することができる。14Cの分析(炭素年代測定または放射性炭素測定とも称される)は、12Cと比較した同位体14Cの崩壊速度に基づいて遺物の年代を決定する確立された方法である。この方法は、再生可能な材料が化石材料よりもはるかに古くならず、したがって様々:タイプの材料は異なる14C:12C比を含むため、バイオ/化石混合物中の再生可能材料の物理的な割合を決定するために使用することができる。したがって、該同位体の特定の同位体比は、再生可能な炭素化合物を同定し、および非再生可能な炭素化合物からそれを区別するための「タグ(tag)」として使用することができる。再生可能成分は、近代の大気中の14C活性を反映している一方、例えばオイル、石炭およびそれらの誘導体などの化石材料中には14Cはほとんど存在しない。したがって、組成物または成分の再生可能な割合は、その14C炭素含有量に比例する。組成物のサンプルは、組成物中の再生可能資源炭素の量を決定するために分析され得る。この方法は、共処理された組成物に、または、混合フィードストックから製造される組成物に、同等に作用し得る。組成物の再生可能含有量は、直接測定され得るため、この方法を用いる場合、必ずしも投入原料や配合成分を試験する必要はないことに留意されたい。同位体比は化学反応の過程で変化しない。したがって、同位体比は、再生可能な化合物、成分および組成物を同定するため、ならびに、再生不可能な化石材料からそれらを区別するため、使用され得る。
【0032】
生物学的材料は、約100wt%の再生可能な(すなわち、同時代の、またはバイオベースの、または生物学プロセスによる)炭素14C含有量(例えばASTM D6866(2018)に記載されているように、14C、13C、12Cを含む同位体分布による放射性炭素分析を用いて決定され得る)を有し得る。生物由来または再生可能由来の炭素の含有量を分析するための適切な方法の他の例は、以下の通りである。生物学的由来または再生可能由来の炭素含有量を分析するための他の適切な方法の例は、DIN 51637(2014)またはEN 16640(2017)である。
【0033】
用語水素化処理(hydrotreatment)は、水素化処理(hydroprocessing)とも称されるが、本開示の文脈において、水素分子によって有機材料を処理する触媒プロセスを指す。好ましくは、水素化処理は有機酸素化合物から水として酸素を除去すなわち水素脱酸素化(HDO)し、硫化二水素(H2S)として有機硫黄化合物から硫黄を除去すなわち水素化脱硫(HDS)し、アンモニア(NH3)として有機窒素化合物から窒素を除去すなわち水素化脱窒素(HDN)し、塩酸(HCl)として有機塩素化合物からハロゲン、例えば塩素を除去すなわち水素化脱塩素化(HDCl)し、水素化脱金属により金属を除去し、および、存在する不飽和結合を水素化する。本開示の文脈で使用される場合、水素化処理は、ヒドロ異性化もまた含むまたは包含する。
【0034】
用語水素脱酸素化(HDO)は、本開示の文脈において、触媒の影響下、水素分子によって水としての有機分子からの酸素の除去を指す。
【0035】
用語脱酸素化は、本開示の文脈において、上述した任意の方法によってまたは脱炭酸もしくは脱カルボニル化によって、例えば脂肪酸誘導体、アルコール、ケトン、アルデヒドまたはエーテルなどの有機分子からの酸素の除去を意味する。
【0036】
本開示は、水素分子(H2)と、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンとを含む熱分解フィードを提供する工程であって、前記熱分解フィードにおいて、水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内である工程、ならびにエチレンを含む熱分解流出物を得るために、前記熱分解フィードを熱分解に付す工程、を含む方法を提供する。
【0037】
驚くべきことに、10mol-%~60mol-%のプロパンと水素分子(H2)とを、熱分解フィード中に水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内であるように含む熱分解フィードは、良好なプロパン転化率およびエチレンへの選択性(熱分解流出物中のエチレンのwt%量に対するプロピレンのwt%量の低い比率)を提供し、および、産業規模で高価値なプロセスエコノミーを提供しつつ、特に、より高いmol-%のプロパンをH2の含有無しでまたは低いH2含有量で含む熱分解フィードと比較して、熱分解のあいだのコーク生成を顕著に低減する。
【0038】
物質の総計の乾燥量をベースとして10mol-%~60mol-%のプロパンを含む熱分解フィードを提供することは、熱分解フィード中のより高いプロパン含有量(60より高いmol-%)がコーキング速度を促進し、プロパン転化率を減少させ、およびエチレンへの選択性を低下させる一方で、より低いプロパン含有量(10mol-%未満)は、工業的規模では感知できないプロセスエコノミーの悪さにつながるであろうという点で有利である。0.10~2.5の範囲内である熱分解フィード中のH2のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が、例えば、H2に対するプロパンの比が高い熱分解フィードと比較して、および例えば、H2を含有しないフィードと比較して、熱分解のあいだのコーク生成を有意に減少させることが意外にも見出された。また、H2に対するプロパンのより低い比は、工業的規模では賢明なプロセスエコノミーを提供しないであろう。十分な量の高価値の炭化水素(例えばプロパンなどのC2+炭化水素)を含まない高容量のフィードを処理することは、全体のプロセスエコノミーに影響し、同時に、望ましい生成物(例えばエチレン、プロピレン)の生産を低下させる。さらに、高いH2含有量を有する熱分解フィードは、圧縮によってこのようなフィードを液化させることは産業規模では実施可能ではないかまたは少なくともプロセスエコノミーの観点から懸命なものではないため、製造施設間の運搬がより困難である。
【0039】
熱分解フィード中のH2のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比が0.10~2.5の範囲内にあるような量で、10mol-%~60mol-%のプロパンおよびH2を含有する熱分解フィードを提供することのさらなる利点は、前記範囲外のプロパンおよび/またはH2含有量を有するフィードと比較して:ブタジエン、熱分解ガソリン(C5~C9炭化水素)、アセチレン、芳香族、特にBTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)、特にはベンゼン、MAPD汚染物質(メチルアセチレンおよびプロパジエン)、C10+化合物のより低い収率、ならびに、熱分解流出物中の全C3化合物のwt-%量に対するプロピレンのwt-%量のより高い比率が含まれる。熱分解流出物中の全C3化合物のwt-%量に対するプロピレンのwt-%量のより高い比率は、それが他の沸点の近いC3化合物、特にはプロパンからのプロピレンの分離(精製)を容易にする点において有利である。また、プロピレンの精製に必要なエネルギーが削減される。ベンゼンのより低い収率は、ベンゼンは、典型的には、交通系燃料における厳格なベンゼン規制のため燃料成分として使用可能なC5~C9炭化水素から除去される必要があることから有利である。C5~C9炭化水素およびC10+化合物の収率が低いことは、コーク生成の低減に寄与する。本発明の方法はまた、高いC2+C3炭化水素(特にはC2炭化水素)の有価炭化水素あたりの比収率(C2炭化水素とC3炭化水素との有価炭化水素あたりの比収率の合計)を提供する。このことは、エチレンおよびプロピレンが高価値および望ましい生成物であり、ならびにエタンおよびプロパンが任意にはより高価値な炭化水素を製造するために熱分解プロセスへとリサイクルして返され得ることから有利である。任意には、プロパンは分離され、および、例えばオンパーパス技術によって価値ある化学品に転換され得る。
【0040】
熱分解フィード中のHが熱分解フィード中の炭化水素含有量を希釈するだけでなく、熱分解のあいだの化学に影響を与えるということが驚くべきことに発見された。したがって、本開示の熱分解フィードの利点は、プロパン含有量(またはC2+炭化水素の含有量)だけによって得られるのではなく、H2の存在および含有量もまた重要である。いかなる理論にも拘束されないが、熱分解フィード中のH2は、不飽和化合物のような反応種の形成および/またはさらなる反応を制御すると考えられるが、その基礎となるメカニズムは知られていない。熱分解フィード中のH2の存在にも関わらず、不飽和化合物、特にエチレンおよびプロピレンが良好な収率で得られること、すなわちH2の存在がこれらの二重結合の飽和を導かないこともまた非常に驚くべきことである。
【0041】
H2は、熱分解において、例えば熱分解流出物の約1wt-%から2wt-%未満の量で、生成されることがあるが、熱分解のあいだに生成されるH2だけでは、熱分解の初期から既に熱分解フィード中にH2が存在しているという利点を得るには十分ではない。いかなる理論にも束縛されることなく、および、基礎となるメカニズムは知られていないが、熱分解におけるH2の初期の存在は、高反応性化学種の形成を防止または減少させ、またはそれらをクエンチし、それによって後続反応の連鎖を制御すると考えられる。いかなる理論に束縛されることなく、前記後続反応の連鎖を制御することが、水蒸気分解流出物中のC10+化合物の量を比較的少なくすることにつながっていると考えられる。
【0042】
本開示のフィードの熱分解の主な利点は、コークス形成の低減、すなわちコーキング速度の低減である。コーキングは、例えば水蒸気分解のような熱分解における望ましくない副反応であり、および、熱分解装置、例えば水蒸気分解装置、特に水蒸気分解炉の輻射セクションおよび移送ライン交換器における主要な操作上の問題である。コークスは種々の方法および形態で形成され得、例えばフィラメント状コークスは、例えば装置の合金表面上のニッケルおよび鉄によって引き起こされる表面触媒反応によって形成され得、および、非晶質コークスは気相で形成され得る。
【0043】
コークスの形成は、圧力損失の増大、熱伝達の障害、およびフィードの炭素含有量の一部が形成されたコークスとして失われることによるフィード消費量の増大により、高い生産損失を引き起こす可能性がある。コークス生成は、外部チューブ表面の連続的な温度上昇を引き起こし得、それによってプロセスの選択性に影響を与え、およびコークス生成速度をさらに上昇させる。コークスの生成を抑えることで、これらの問題が軽減される。
【0044】
形成されたコークスは、デコーキングサイクルにおいて、例えば水蒸気および空気を用いる制御燃焼によって除去され得る。しかしながら、これは、デコーキングサイクルは、装置によっては熱分解と同時に行われ得ないため、非生産的なダウンタイムによる生産損失引き起こす。デコーキングサイクルはまた、装置の摩耗を引き起こし、および熱分解炉のコイル寿命を縮める。低下されたコーキング速度は、デコーキングサイクル間の時間を延長し(装置のダウンタイムが短縮され)、および、より少ない頻度のデコーキングサイクルを可能にし、これゆえ装置の摩耗が減少する。
【0045】
好ましくは、本開示の熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、15mol-%~50mol-%、さらに好ましくは20mol-%~45mol-%、より好ましくは20mol-%~40mol-%、さらにより好ましくは20mol-%~35mol-%、例えば20mol-%~30mol-%のプロパンを含む。熱分解フィード中のプロパンのこのような量は、良好なプロパン転化率、エチレンへの良好な選択性を提供し、低いコーキング速度および良好なプロセスエコノミーに寄与する。
【0046】
好ましくは、本開示の熱分解フィードにおいて、水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量の比は、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0.10~2.2、より好ましくは0.18~2.2、およびさらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である。このようなH2に対するプロパン比は、コーキング速度を制御しながらプロセスエコノミーを向上させる。下限値のまたはそれより少し上のH2に対するプロパン比は、コークス制御を向上させ(コーキング速度を低下させ)、一方、上限値のまたはそれより少し下のH2に対するプロパン比は、プロセスエコノミーを向上させる。好ましい範囲は、コーキング速度の制御(低下)と望ましいプロセスエコノミーの確保との間の望ましいバランスを提供する。
【0047】
ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、5mol-%~80mol-%のH2を含む。熱分解フィード中のこのようなmol-%のH2は、工業的規模での賢明なプロセスエコノミーを提供しながらも、H2を含まないかまたは低い含有量のフィードと比較してコーキング速度を低下させる。前記範囲内において、熱分解フィードのH2含有量が高いほどコーキング速度は低下し、および、熱分解フィードのH2含有量が低いほど全体的なプロセスエコノミーが向上することが見出された。好ましくは、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、10mol-%~80mol-%、より好ましくは20mol-%~75mol-%、およびさらに好ましくは30mol-%~70mol-%のH2を含む。好ましい範囲は、コーキング速度を低下させることと良好なプロセスエコノミーを提供することとの間のバランスを提供する。
【0048】
ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~10mol-%、好ましくは0mol-%~6mol-%、より好ましくは0mol-%~4mol-%のエタンを含む。本発明の方法が、熱分解フィードがエタン含有量を有さないか、または単に低量のエタンしか含まない場合であっても、エチレン形成を促進することが驚くべきことに見出された。
【0049】
ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~8mol-%、好ましくは1mol-%~8mol-%、より好ましくは2mol-%~8mol-%の少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を含む。8mol-%以下であるC4+炭化水素の含有量は、C4+炭化水素の含有量が多い類似のフィードと比較して、熱分解条件を最適化しやすい、より均一な熱分解フィードを提供する。また、例えばコークス生成を増大させる熱分解プロセスにおけるC4+炭化水素の凝縮のリスクは、より高いC4+含有量を有する熱分解フィードに比べて低い。しかしながら、幾分かのC4+炭化水素の存在は、熱分解におけるエチレン収率を高めるために有益である。熱分解フィードが幾分かのC4+炭化水素を含む場合、例えば純粋なプロパンの熱分解フィードと比較して、熱分解におけるエチレン生産が向上される。
【0050】
熱分解では、熱分解フィードが気化し、および、熱分解プロセスのあいだに気相に維持されることが重要である。C5+およびC6+化合物は凝縮しやすく(より軽質な種と比較して)、これは例えば増大されたコークス生成などの問題を引き起こす可能性がある。したがって、熱分解フィード中のC5+およびC6+化合物の量を制御することが有益である。典型的には、C6+炭化水素の量を低減することは、C5炭化水素の量を低減することと比較して容易である。
【0051】
好ましくは、本開示の熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~8mol-%、好ましくは0mol-%~6mol-%、より好ましくは0mol-%~4mol-%の、少なくともC5の炭素数を有する炭化水素(C5+炭化水素)を含む。これは、熱分解のあいだのフィードの一部の凝縮のリスクを低下させ、および、プロセス条件の最適化を容易にする、より均一な熱分解フィード組成を提供する。
【0052】
ある実施形態において、熱分解フィード中の、水素分子のmol-%量(熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして)に対する、少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量(熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして)の比は、0.10~2.5の範囲内、好ましくは0.10~2.2の範囲内、より好ましくは0.18~2.2の範囲内、さらにより好ましくは0.18~2.0の範囲内である。熱分解フィード中の少なくともC2の炭素数を有する炭化水素(プロパン、任意にはエタン、および任意にはC4+炭化水素を含む)の総計の含有量は、フィード中の高価値な炭化水素の総計の含有量とみなすことができる。H2のwt-%量に対する、少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比の前記範囲は、それらがオレフィンに分解する際に、実行可能なプロセスエコノミーを提供しつつ、C2+炭化水素と相互作用するのに十分なH2を提供するという点で有益である。
【0053】
熱分解フィードは、メタン、CO、CO2、NH3、およびH2Sのようなガス状不純物を含んでいてもよい。ある実施形態において、熱分解フィード中のメタン、CO、CO2、NH3、およびH2Sのmol-%量の合計は、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~15mol-%、または0.1mol-%~15mol-%、好ましくは0mol-%~10mol-%、または0.1mol-%~10mol-%、より好ましくは0mol-%~8mol-%、または0.1mol-%~8mol-%の範囲内である。熱分解フィード中のメタン、CO、CO2、NH3およびH2Sの存在は、予想されたよりも熱分解プロセスおよび熱分解流出物の生成物分布に対して有害でないことが、驚くべきことに見出された。実際、メタン、CO、CO2、NH3、およびH2Sのmol-%量の合計が熱分解フィードの15mol-%までである場合でさえ、本開示の方法は良好に機能することが見出された。このことは、これらの不純物の精製が回避され得るか、またはより広範囲でなくなり得るため有益である。また、驚くべきことに、少なくともCO2およびメタンの希釈効果により、熱分解フィード中の高価値な炭化水素(C2+炭化水素)の目的生成物(例えばエチレンおよびプロピレンなど)への転化率が増加することが見出された。
【0054】
ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、0mol-%~2mol-%、好ましくは0.2mol-%~1.8mol-%のCOを含む。本発明の方法は、COのこのような量を驚くほど良好に許容し、および、CO精製の必要性が低減され得るか、または省略され得る。熱分解フィード中のCOは、典型的には、熱分解流出物に持ち越され、したがって熱分解フィード中のCOの低い量が、熱分解生成物からCOを精製する必要性も低減され得るか、または省略され得る。COは重合触媒毒であるため、熱分解生成物中のCO量が少ないことは、特に生成物が重合プロセスにおける出発材料として使用される場合に望ましい。
【0055】
好ましくは、本開示の熱分解フィードにおいて、少なくともC2の炭素数を有する炭化水素(C2+炭化水素)および水素分子(H2)のmol-%量の合計は、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、少なくとも85mol-%、より好ましくは少なくとも90mol-%、さらにより好ましくは少なくとも92mol-%である。このような熱分解フィードは、有益な熱分解生成物分布および低いコーキング速度を提供する。
【0056】
ある特に好ましい実施形態において、熱分解フィード中の炭素数C2を有する炭化水素(C2炭化水素)、炭素数C3を有する炭化水素(C3炭化水素)および水素分子(H2)のmol-%量の合計は、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、少なくとも85mol-%、好ましくは少なくとも90mol-%、より好ましくは少なくとも92mol-%である。このような熱分解フィードは、特に有益な熱分解生成物分布、低いコーキング速度を提供し、および、熱分解フィードの均一な組成によりプロセス条件の最適化を容易にする。
【0057】
ある好ましい実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量をベースとして、10mol-%~60mol-%のプロパン、0mol-%~10mol-%のエタン、および0mol-%~8mol-%の少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を含み、この熱分解フィードにおいて、水素分子のmol-%量に対するプロパンのmol-%量のモル比は、0.10~2.5の範囲内であり、熱分解フィード中の水素分子のmol-%量に対する少なくともC2の炭素数を有する炭化水素のmol-%量の比は、0.10~2.5の範囲内であり、および、メタン、CO、CO2、NH3およびH2Sのmol-%量の合計は0mol-%~15mol-%の範囲内である。
【0058】
mol-%からwt-%への、またはwt-%からmol-%への変換は、単一の成分について単独で行うことはできず、組成物全体を考慮する必要がある。例えば、組成物(熱分解フィード)中の、例えばC4+炭化水素などのより重質の化合物の量は、mol-%からwt-%へのまたはwt-%からmol-%への変換に有意に影響する。
【0059】
ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの総乾燥重量に基づいて、39.5wt-%~97wt-%のプロパンを含む。ある実施形態において、熱分解フィードは、熱分解フィードの総乾燥重量に基づいて、2wt-%~15wt-%のH2を含む。
【0060】
例として、本開示の熱分解フィードは、熱分解フィードの総乾燥重量に基づいて、39.5wt-%~97wt-%のプロパン、2wt-%~15wt-%のH2、0wt-%~18wt-%、例えば0wt-%~10wt-%のエタン、0wt-%~37wt-%、例えば0wt-%~15wt-%の、少なくともC4の炭素数を有する炭化水素を含み、この熱分解フィードにおいて、CO、CO2、NH3およびH2Sのwt-%量の合計は0wt-%~8wt-%の範囲内である。
【0061】
好ましくは、本開示の文脈において、熱分解フィードは、再生可能または部分的に再生可能な熱分解フィードであり、ここで、生物起源炭素含有量は、熱分解フィードの炭素の総計の重量(TC)に基づいて、少なくとも50wt-%、好ましくは少なくとも70wt-%、より好ましくは少なくとも90wt-%、さらにより好ましくは約100wt-%である(EN 16640(2017))。再生可能な熱分解フィードは、化石フィードと比較して、環境的により持続可能であるとみなされ得る。再生可能または部分的に再生可能な熱分解フィードは、それぞれ、再生可能または部分的に再生可能な熱分解流出物をもたらし、この再生可能または部分的に再生可能な熱分解フィードは、次いで、再生可能または部分的に再生可能な組成物、化合物、および他の製品へとさらに加工され得、典型的には、それぞれは化石対応物と比較して環境的により持続可能であるとみなされる。好ましくは、熱分解流出物の生物起源炭素含有量は、熱分解流出物の総計の炭素重量(TC)に基づいて、少なくとも50wt-%、好ましくは少なくとも70wt-%、より好ましくは少なくとも90wt-%、さらにより好ましくは約100wt-%である(EN 16640(2017))。
【0062】
ある実施形態において、熱分解フィードの少なくとも一部は、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理のガス状副生成物として、任意には、前記ガス状副生成物を精製処理に付した後に得られる。本明細書で使用される場合、前記ガス状副生成物は、NTP(常温常圧、すなわち20℃および1atm(101.325kPa)の絶対圧)においてガス状である化合物および水の組成物を指す。
【0063】
ある実施形態において、熱分解フィードは、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理のガス状副生成物(任意には、当該ガス状副生成物を精製に付した後)と、本質的にプロパンおよび/またはブタンからなる例えば化石LPGなどの市販の化石ガスまたは従来の化石精製所からの任意の炭化水素含有ガス流であって、好ましくは例えば流動接触分解(FCC)または化石油精製所水素化処理からのガス状流出物(任意には精製後)などの少なくとも50wt-%のC2-C4炭化水素を含むガス流との共フィードである。
【0064】
好ましくは、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理のガス状副生成物は、例えば再生可能なオイルおよび/または脂肪などの再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からの水素化処理流出物の気液分離からのガス状留分である。本明細書で使用される場合、気体留分は、NTP(常温常圧)でガス状である化合物および水を含むか、または本質的にそれらからなる。
【0065】
好ましくは、本開示の熱分解フィードは、例えば再生可能なオイルおよび/または脂肪などの再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からの水素化処理流出物の気液分離からのガス状留分として得られ得るか、または得られ、このガス状留分は、少なくとも部分的に精製処理に付されている。好ましくは、精製処理は、水素化処理流出物の気液分離からのガス状留分からの水素分子(H2)の分離を少なくとも含む。分離されたH2は回収され、そして再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理に戻されて再利用され得る。ガス状留分に含まれるH2の一部を分離および再利用することは、プロセスエコノミーを向上させる。他の精製処理としては、例えばH2Sなどの硫黄含有化合物の除去、および任意には、例えばアミン洗浄(アミンスクラバー)によるCO2の除去が挙げられ得る。
【0066】
ある実施形態において、熱分解フィードを提供することは、水素化処理流出物を得るために、再生可能な酸素含有炭化水素を脱酸素化および任意には異性化を含む水素化処理に付すこと(ここで再生可能な酸素含有炭化水素は、好ましくは、1または複数の脂肪酸、脂肪酸エステル、樹脂酸、樹脂酸エステル、ステロール、脂肪アルコール、酸素化テルペン、および他の再生可能な有機酸、ケトン、アルコール、および無水物を含む)、水素化処理流出物からガス状留分を分離すること、ならびに、ガス状留分を、任意にはその少なくとも一部を精製処理に付した後に、任意には化石LPGなどのガス状化石共フィードと混合して、熱分解フィードとして提供すること、を含む。好ましくは、異性化は、ヒドロ異性化である。好ましくは、水素化処理は、HDOを含む触媒水素化処理である。ガス状化石共フィードは、例えば化石LPGなどのプロパンおよび/またはブタンから本質的になる市販の化石ガス、または従来の化石精製所からの任意の炭化水素含有ガス流であり得、前記流は、好ましくは、例えばFCCまたは化石オイル精製水素化処理からのガス状流出物(任意には精製後)などの、少なくとも50wt-%のC2~C4炭化水素を含む。
【0067】
本開示の方法の利点は、それが、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からのガス状副生成物の付加価値のある使用を提供し得ることである。従来、これらのガス状副生成物は、任意にはリサイクル流を分離した後、燃焼されていた。再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からの水素化処理流出物の気液分離からのガス状留分の組成は、水素化処理工程が主生成物としてナフサ、ディーゼル、または航空用範囲のパラフィンのいずれを製造するように調整されているかにかかわらず、および、それらの所望の異性化度にかかわらず、むしろ一定に保持されている。したがって、本発明の方法は、再生可能な酸素含有炭化水素の広範な水素化処理工程からのガス状副生成物の付加価値のある利用を提供することができる。また、本発明の方法は、様々なパラフィン留分の市場需要の変化に合うように水素化処理工程を調整するための柔軟性を制限しない。
【0068】
再生可能な酸素含有炭化水素はまた、生物学的酸素含有炭化水素、バイオベース酸素含有炭化水素、または生物起源酸素含有炭化水素とも呼ばれ得る。好ましくは、再生可能な酸素含有炭化水素の生物起源炭素含有量は、再生可能な酸素含有炭化水素中の炭素の総計の重量(TC)に基づいて、少なくとも90wt-%、より好ましくは少なくとも95wt-%、さらにより好ましくは約100wt-%である(EN 16640(2017))。典型的には、例えば原油ベースの鉱油などの化石資源に由来する有機化合物は、約0wt-%の生物起源炭素含有量を有する。
【0069】
ほとんどの再生可能原料は、高い酸素含有量を有する材料を含む。再生可能な酸素含有炭化水素は、遊離または塩形態のどちらかである脂肪酸;脂肪酸エステル、例えばモノ-、ジ-およびトリグリセリド、例えばメチルまたはエチルエステルなどのアルキルエステルなど;遊離または塩形態のどちらかである樹脂酸;樹脂酸エステル、例えばアルキルエステル、ステロールエステルなど;ステロール;脂肪アルコール;酸素含有テルペン;および、他の再生可能な有機酸、ケトン、アルコールおよび無水物の1または以上を含み得る。
【0070】
好ましくは、再生可能な酸素含有炭化水素は、菜種油(rapeseed oil)、キャノーラ油(canolaoil)、大豆油、ヤシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ピーナッツ油、アマニ油、ゴマ油、トウモロコシ油、ケシ種子油、綿実油、大豆油、トール油、コーン油、ヒマシ油、ジャトロファ油、ホホバ油、オリーブ油、亜麻仁油、カメリナ油、サフラワー油、ババス油、Brassica種または亜種の種子油、例えばBrassica carinata種子油、Brassica juncea種子油、Brassica oleracea種子油、Brassica nigra種子油、Brassica napus種子油、Brassica rapa種子油、Brassica hirta種子油、Brassica alba種子油、および、米ぬか油、または、パームオレインなどの前記植物油の留分または残渣、パームステアリン、パーム脂肪酸蒸留物(PFAD)、精製トール油、トール油脂肪酸、トール油樹脂酸、蒸留トール油、トール油不けん化物、トール油ピッチ(TOP)、および、好ましくは植物由来である使用済み食用油;動物性脂肪、例えば獣脂、ラード、イエローグリース、ブラウングリース、魚脂、鶏脂、および動物由来の使用済み食用油;微生物油、例えば藻類脂質、真菌脂質、およびバクテリア脂質などの植物油の1または複数を起源とするか、またはそれ(ら)に由来する。
【0071】
任意には、酸素含有炭化水素を起源とするかまたは由来する植物油、動物油脂および/または微生物油は、例えば、前記オイルおよび/または脂肪から、不純物、好ましくはS、Nおよび/またはPおよび/または金属含有不純物を除去するための前処理に付されていてもよい。ある実施形態において、前処理は、洗浄、脱ガム、漂白、蒸留、分画、レンダリング、熱処理、蒸発、濾過、吸着、水素化脱酸素、遠心分離、沈殿、グリセリドの加水分解/トランスエステル化、および/または、部分的もしくは完全な水素化のうちの1またはそれ以上を含む。
【0072】
再生可能なオイルおよび/または脂肪に由来する再生可能な酸素含有炭化水素は、典型的には、例えば脂肪酸のエステル、グリセリド、すなわち脂肪酸のグリセリンエステルなどを含む、C10~C24脂肪酸およびその誘導体を含む。グリセリドとしては具体的には、モノトリグリセリド、ジトリグリセリドおよびトリグリセリドが挙げられ得る。任意には、再生可能な酸素含有炭化水素は、少なくとも部分的に、例えば使用済み食用油、遊離脂肪酸、パーム油副産物またはプロセス副流、スラッジ、植物油加工からの副流、またはそれらの組合せなどの、リサイクル可能な廃棄物および/またはリサイクル可能な残渣に由来またはそれから得られ得る。
【0073】
化石石油精製所の水素化処理流出物から分離される気体流と比較して、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からの水素化処理流出物の気液分離からのガス状留分は、典型的には、より多くのCO2、より少ない芳香族、より多くのCO、より多くのプロパン、およびより多くのH2Oを含む。
【0074】
プロパンおよびH2は通常、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からの水素化処理流出物中に存在し、および、気液分離におけるガス状留分になる。プロパンおよびH2がガス状留分の主成分であってもよい。水素化処理流出物中のプロパンは、主にトリグリセリドを含む脂肪フィードストックのグリセリド骨格に由来するが、水素化処理中に起こる分解反応を介して形成されてもよい。H2は、未反応の水素化処理試薬として水素化処理流出物へと持ち越される。
【0075】
通常、気液分離のガス状留分に終わる水素化処理流出物の他の化学種には、エタン、例えばメタン、CO、CO2、NH3、およびH2Sなどのガス状不純物、ならびに比較的少量のC4+炭化水素、主にC4~C6炭化水素、特にブタンが含まれる。また、再生可能な酸素含有化合物の水素化処理でしばしば起こる水素化脱酸素反応に主に由来するH2Oも、ガス状留分に含まれるか、または、H2Oは気液分離で除去されることがある。また、NH3が気液分離で除去されることもある。
【0076】
水素化処理流出物のガス状留分は、最大で10wt-%のエタンを含み得る。より高い量のエタンの存在は、水素化処理中の過度の望ましくない過分解の兆候であり得る。
【0077】
メタン、CO、CO2、NH3、およびH2Sのような種は、水素化処理流出物のガス状留分中の典型的な不純物(ガス状不純物)である。COおよびCO2は主に、脱炭酸/脱カルボニル化反応に、NH3は脱窒素反応に、およびH2Sは、例えば脂肪フィードストックなどの再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理のあいだの水素化脱硫反応に由来する。メタンは、分解反応によって水素化処理中に生成され得、この分解反応は、可能性のある水素化分解ステップの間だけではなく、水素化脱酸素およびヒドロ異性化ならびに例えば分解を目的としない同様の水素化処理ステップに関連しても起こり得る。
【0078】
本開示の方法の利点は、一般的には不純物とみなされるこれらの種(メタン、CO、CO2、NH3およびH2S)は、本開示にしたがってガス状留分を熱分解フィードとして使用するために、水素化処理流出物のガス状留分から除去される必要がないかもしれないことである。本方法は、これらの不純物(メタン、CO、CO2、NH3およびH2S)を、熱分解フィードの物質の総計の乾燥量の15mol-%まで許容する。驚くべきことに、熱分解フィード中の前記不純物の存在は、少なくともCO2およびメタンが熱分解フィード中のプロパンの含有量を希釈し得、その結果熱分解のあいだのプロパン転化率を向上させ得るという点で有益ですらある。
【0079】
酸素含有炭化水素が付される水素化処理は、本開示の文脈において、再生可能な酸素含有炭化水素の脱酸素反応および/または異性化反応を含み得る。好ましくは、水素化処理は、再生可能な酸素含有炭化水素の少なくとも脱酸素化反応、好ましくは少なくとも水素化脱酸素反応を含む。
【0080】
酸素含有炭化水素の水素化処理には、水素分子が他の成分と反応したり、水素分子および触媒の存在下で成分が分子転換を受けたりする様々な反応が含まれる。この反応としては、水素化、水素化脱酸素、水素化脱硫、水素化脱窒素、水素化脱金属、水素化分解、水素化ポリッシング、水素化異性化および水素化脱芳香族化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
脱酸素とは、本明細書において、水素化脱酸素、脱炭酸および/または脱カルボニル化により、酸素含有炭化水素からH2O、CO2および/またはCOとして酸素を除去することをいう。好ましくは、水素化処理は、水素化脱酸素(HDO)反応による脱酸素化、および任意には水素化異性化反応による異性化を含む。水素化脱酸素は、本明細書において、炭化水素を得るために、触媒の影響下、水素分子によって酸素含有炭化水素からH2Oとして酸素を除去することを意味し、一方、水素化異性化は、HDOと同じかまたは異なる触媒の影響下、水素分子によって炭化水素に分岐を形成することを意味する。
【0082】
水素化処理が脱酸素化および異性化を含む実施形態において、脱酸素反応および異性化反応は、同じまたは連続した触媒床において脱酸素化および異性化を行う単一のリアクター内で行われてもよく、または別個のリアクターで行われてもよい。好ましくは、水素化処理の脱酸素反応と異性化反応は、同一のリアクターまたは別個のリアクター、好ましくは別個のリアクターの連続した触媒層で、別々の脱酸素工程および異性化工程で実施される。
【0083】
例えば脂肪酸および/または脂肪酸誘導体などの再生可能な酸素含有炭化水素の水素化脱酸素および異性化に適した反応条件および触媒は公知である。そのようなプロセスの例は、国際公開第2015/101837号の段落[0032]~[0037]、F1100248の実施例1~3、EP 1741768の段落[0038]~[0070]、特に段落[0056]~[0070]および実施例1~6、ならびにEP 2141217の段落[0055]~[0093]、特に段落[0071]~[0093]および実施例1に記載されている。また、他の方法を採用してもよく、特に別のBTL(Biomass-To-Liquid)法を選択してもよい。
【0084】
再生可能な酸素含有炭化水素の水素化脱酸素は、好ましくは1MPa~20MPa、好ましくは1MPa~15MPa、より好ましくは3MPa~10MPaの範囲から選択される圧力(全圧)、および、200~500℃、好ましくは280~400℃の範囲から選択される温度、および任意には0.1~10h-1(v/v)の範囲から選択されるフィード速度(液体時空間速度)で行われる。
【0085】
水素化脱酸素は、周期系の第VIII族および/または第VIB族からの金属を含む公知の水素化脱酸素触媒の存在下で実施することができる。触媒は、例えばアルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、アモルファスカーボン、モレキュラーシーブ、またはそれらの組み合わせなどの任意の適切な担体に担持され得る。好ましくは、水素化脱酸素触媒は、担持されたPd、PT、Ni、またはNiW触媒、または担持されたMo含有触媒、例えばNiMoまたはCoMo触媒であり、担体はアルミナおよび/またはシリカであるか、またはこれらの触媒の組み合わせである。典型的には、NiMo/Al2O3および/またはCoMo/Al2O3触媒が使用される。再生可能な酸素含有炭化水素の水素化脱酸素(HDO)は、好ましくは、水素ガス(H2)の存在下、硫化NiMo触媒または硫化CoMo触媒の存在下で実施される。HDOは、1MPa~20MPaの範囲から選択される水素圧力下、200℃~400℃の範囲から選択される温度、および0.2h-1から10h-1(v/v)の範囲から選択される液体時空間速度で実施することができる。
【0086】
硫化触媒を使用する場合、触媒の硫化状態は、気相中の硫黄の添加によって、または再生可能な酸素含有炭化水素と混合された硫黄含有鉱油を含むフィードストックを使用することによって、HDO工程のあいだ維持することができる。水素化脱酸素に付される総計のフィードストックの硫黄含有量は、例えば50wppm(重量ppm)~20000wppmの範囲内、好ましくは100wppm~1000wppmの範囲内とすることができる。
【0087】
水素化脱酸素のための効果的な条件は、例えば脂肪酸または脂肪酸誘導体などの再生可能な酸素含有炭化水素の酸素含有量を20wt-%未満、例えば0.5wt-%未満または0.2wt-%未満に低下させ得る。
【0088】
任意的な異性化は特に限定されず、異性化反応をもたらす任意の適切なアプローチを使用することができる。しかし、触媒的水素化異性化処理が好ましい。異性化処理は、好ましくは200℃~500℃、好ましくは280℃~500℃、例えば300℃~350℃の範囲から選択される温度、および1MPa~15MPa、好ましくは3MPa~10MPaの範囲から選択される圧力(全圧)で行われる。
【0089】
異性化処理は、公知の異性化触媒、例えば、モレキュラーシーブおよび/または周期系第VIII族から選択される金属および担体を含む触媒の存在下で行うことができる。好ましくは、異性化触媒は、SAPO-11またはSAPO-41またはZSM-22またはZSM-23またはフェリエライトと、Pt、PdまたはNiと、Al2O3またはSiO2とを含む触媒である。典型的な異性化触媒は、例えば、Pt/SAPO-11/Al2O3、Pt/ZSM-22/Al2O3、Pt/ZSM-23/Al2O3および/またはPt/SAPO-11/SiO2である。触媒は、単独でまたは組み合わせて使用することができる。異性化処理中の触媒の失活は、異性化処理中の水素分子の存在によって低減され得る。ある好ましい実施形態において、異性化触媒は、例えばPt-SAPOおよび/またはPt-ZSM触媒などの貴金属二官能性触媒であり、水素分子と組み合わせて使用される。
【0090】
異性化反応は、再生可能な酸素含有炭化水素の脱酸素反応を介して得られるn-パラフィンの少なくとも一部を異性化する役割を果たす。異性化は、例えば精製工程および/または分画工程などの中間工程を含んでいてもよい。脱酸素反応および異性化反応は、同時にまたは連続して行うことができる。
【0091】
ある実施形態において、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理は、再生可能な酸素含有炭化水素を、この組み合わされた工程のための例えばNiWなどの単一の触媒、または、担体に担持されたMo触媒、例えばアルミナに担持されたNiMoなどとの混合物中のPt/SAPOなどのPt触媒を使用して、同じ触媒床上で単一ステップで水素化脱酸素反応および水素化異性化反応に付すことを含む。
【0092】
水素化処理が脱酸素および異性化を含み、ならびに脱酸素および異性化が連続して行われる実施形態では、脱酸素の後に異性化が行われる。
【0093】
酸素含有炭化水素を水素化処理に付した後、水素化処理流出物はガス状留分と液体留分とに分留される。水素化処理流出物からガス状留分を分離することは、水素化処理流出物からガス状化合物(NTPにおいてガス状)と水とを分離することを含むか、または本質的それからになる。ガス状化合物(NTP)とは、本明細書において、常温常圧下、すなわち20℃および1気圧(101.325kPa)の絶対圧下で、気体の形態である化合物を指す。
【0094】
ある実施形態において、水素化処理流出物からガス状留分を分離することは、水素化処理流出物を気液分離に付すことによって実施される。気液分離は、別個の段階(例えば、水素化処理生成物が水素化処理反応器または反応ゾーンを出た後)として、および/または、水素化処理工程の一体的な工程として、例えば、水素化処理反応器または反応ゾーン内で、実施され得る。例えば再生可能な酸素含有炭化水素の水素化脱酸素の間などに形成される、水素化処理流出物中に含まれる水の大部分は、例えばウォーターブーツを介して気液分離工程において水素化処理流出物から除去され得る。
【0095】
ある実施態様において、気液分離は、0℃~500℃、例えば15℃~300℃、または15℃~150℃、好ましくは15℃~65℃、例えば20℃~60℃などの範囲から選択される温度で、および、好ましくは水素化処理と同じ圧力で、行われる。一般的に、気液分離工程における圧力は、0.1~20MPa、好ましくは1~10MPa、または3~7MPaの範囲内であってよい。
【0096】
好ましくは、水素化流出物のガス状留分の少なくとも一部は、精製処理に付される。好ましくは、精製処理は、ガス状留分から水素分子(H2)を分離することを少なくとも含む。精製処理はまた、硫黄含有化合物、好ましくはH2S、および任意にはCO2の除去を含んでもよい。
【0097】
ある実施形態において、精製処理は、H2Sおよび任意にはCO2が枯渇されたガス状流を得るため少なくともH2Sおよび任意にはCO2を除去するために、ガス状留分の少なくとも一部を精製処理に付すことと、H2Sおよび任意にはCO2が枯渇されたガス状流をH2分離および任意には乾燥に付すこととを含む。H2Sおよび任意にはCO2が枯渇されたガス状流は、少なくともH2Sおよび任意にはCO2を除去するために精製処理に付されるガス状留分の部分よりもより少ないH2Sおよび任意にはより少ないCO2を含有する。すなわち、すべてでなくとも少なくともいくらかのH2Sおよび任意にはCO2が、少なくともH2Sおよび任意にはC02を除去するために、精製処理において、除去される。
【0098】
好ましくは、少なくともH2Sを除去するための精製処理は、アミンスクラビングであるか、またはアミンスクラビングを含む。H2S枯渇ガス状流は、ある実施形態において、多くとも50重量ppm、好ましくは多くとも10重量ppm、より好ましくは多くとも5重量ppm、さらに好ましくは多くとも1重量ppmのH2Sを含み得る。ガス状留分またはその一部からCO2が除去される場合、CO2枯渇気体流は、多くとも50000重量ppm、好ましくは多くとも5000重量ppm、より好ましくは多くとも500重量ppm、さらに好ましくは多くとも100重量ppmのCO2を含む。例えば、アミンスクラビングは、ガス状留分から(H2Sに加えて)CO2を除去し得る。ガス状留分の少なくとも一部が精製処理に付すことが、H2Sおよび任意にはCO2の除去を含む実施形態では、この工程は、H2分離の前に実施される。
【0099】
ガス状留分からの分子H2の分離は、好ましくは、膜分離技術、好ましくは選択的膜分離を用いて、ガス状留分の少なくとも一部からH2を分離することを含む。しかしながら、H2(および任意には同時に他のガス状成分)を分離するための他の方法は、例えば低温蒸留またはスイング吸着などの任意の他の適切な方法を用いて達成され得る。
【0100】
再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理プラントでは、一般に、水素化処理流出物のガス状留分からH2の大部分を回収し、および、回収したH2を水素化処理にもどしてリサイクルすることが望まれる。ガス状留分は、ガス状留分の物質の総計の乾燥量をベースとして、5mol-%~80mol-%、好ましくは10mol-%~80mol-%、より好ましくは20mol-%~75mol-%、さらにより好ましくは30mol-%~70mol-%のH2を含んでいてもよい。例えば、ガス状留分は、ガス状留分の総乾燥重量をベースとして、2wt-%~15wt-%のH2を含んでいてもよい。
【0101】
膜分離プロセスで使用される膜は、H2を選択的に透過する水素選択性であることが好ましい。膜は供給側と透過側とを有する。H2に富んだガスは透過液として回収される。
【0102】
さまざまな水素透過膜が当技術分野で知られており、膜の一部は、例えばポリスルホン、ポリイミド、ポリアミド、酢酸セルロース、ゼオライト、パラジウムなど、膜科学の分野でよく知られた高分子、セラミック、または金属材料をベースにしている。膜は、例えば、スパイラル巻き膜、中空糸膜、チューブ膜、または板状膜の形状など、多くの様々の形およびサイズを有し得る。例えばプロパンに対するH2の実際の選択性は、膜を作っている材料や、供給側と透過側とのそれぞれの温度および圧力などのプロセス条件に依存する。
【0103】
膜透過の駆動力は、透過側よりも供給側における高い圧力によってもたらされる。例えば、供給側の圧力としては、1MPa以上、例えば2MPa以上、例えば3MPa以上、例えば4MPa以上、例えば5MPa以上の圧力が挙げられ得、および、透過側の圧力としては、供給側の圧力よりも少なくとも0.1MPa低い、例えば少なくとも0.5MPa低い、または少なくとも1MPa低い、または少なくとも2MPa低い、または少なくとも3MPa低い圧力が挙げられ得る。
【0104】
好ましくは、膜分離技術に採用される膜は、プロパンよりもH2に選択的である(水素分子の大部分を透過し、およびプロパンの大部分を拒絶する)。膜がプロパンよりもH2に選択的である実施形態において、プロパンに富んだガス(膜分離の前のプロパン含有量と比較して)が膜保持液として得られる。保持液は、任意にはさらなる精製のあと、および任意には共フィードと共に熱分解に付される。膜分離のための膜材料および条件は、好ましくは、膜が、純粋な成分の透過比(vol/vol)として測定されて、少なくとも5倍、例えば少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、または少なくとも60倍である、プロパンよりも高いH2への選択性を示すように選択される。
【0105】
ガス状留分中に存在する場合、COおよびプロパン以外の炭化水素(メタン、エタン、および/またはC4+炭化水素)もまたプロパンと共に拒絶されることがあり、一方、H2O、CO2、H2SおよびNH3は、膜の種類および膜分離の条件(例えば温度および圧力)に応じて拒絶されるか、部分的に拒絶され得る。
【0106】
ある実施形態において、精製処理は乾燥を含む。乾燥は、H2分離の前または後に実施することができる。好ましくは、乾燥はH2分離後に行われる。乾燥は、従来公知の化学的および/または物理的方法、例えば吸着剤および/または吸水剤を用いて行うことができる。特に好ましい実施形態は、モレキュラーシーブ脱水床を用いる乾燥を含む。
【0107】
ある実施形態において、本開示の方法は、低温蒸留なしで行われ、とくには、精製処理は低温蒸留工程を含まないか、それなしで行われる。
【0108】
本開示は、過剰な精製工程を伴わずに、再生可能な酸素含有炭化水素の水素化処理からのガス状副流から価値ある化学物質を製造する簡単な方法を提供する。所望のプロパン/H2比(mol-%/mol-%)を含む熱分解フィードの所望の組成は、種々の水素化処理流出物からのプロパンおよび水素含有ガス状留分を組み合わせることによって、および/または、任意の精製処理を調整することによって、および/または、例えば化石LPGなどの適切なガス状組成物と混合することによって得ることができる。
【0109】
水素化処理が脱酸素および異性化を含み、および、脱酸素および異性化が別々の反応器において実施されるある実施形態において、水素化処理流出物からのガス状留分の分離は、脱酸素流出物および異性化流出物について別々に実施することができる。脱酸素処理流出物のガス状留分と異性化流出物のガス状留分とは、その後、任意には少なくとも脱酸素流出物のガス状留分を精製処理に付した後に、合わせてもよく、この精製処理は、好ましくは、少なくともH2の分離を含む。
【0110】
水素化処理流出物からガス状留分を分離することが、脱酸素処理流出物および異性化処理流出物について別々に実施されるある実施形態において、異性化処理流出物のガス状留分は、(分留)蒸留によって、異性化処理流出物の液体留分から分離される。異性化流出物のガス状留分は、ディーゼル安定化プロセスのオーバーヘッド生成物として分離することができる。ある実施形態において、異性化流出物のガス状留分は、精製処理に供されることなく、好ましくは、脱酸素流出物の任意には精製されたガス状留分および任意にはガス状化石共フィードとの共フィードとして、熱分解に供給される。
【0111】
ある実施形態において、任意に精製処理に供された脱酸素流出物のガス状留分は、共フィードなしで熱分解に供給される。換言すると、ある実施形態において、任意には精製処理に供された脱酸素流出物のガス状画分は、熱分解フィードである。ある他の実施形態において、任意には精製処理に供された脱酸素流出物のガス状画分は、例えばガス状化石共フィードなどの他の炭化水素との今日フィードとして熱分解に供給される。
【0112】
任意の従来の熱分解希釈剤が、本開示の熱分解プロセスにおいて使用され得る。そのような熱分解希釈剤の例は、水蒸気、分子状窒素(N2)、またはそれらの混合物を含む。熱分解フィードの希釈は、熱分解コイル内の炭化水素分圧を低下させ、および、例えばエチレンおよびプロピレンなどの第1の反応生成物の形成を促進する。希釈はまた、熱分解コイル上のコーク堆積をさらに減少させる。好ましくは、熱分解は水蒸気分解であり、すなわち熱分解希釈剤は水蒸気である。
【0113】
好ましくは、本開示の文脈において、熱分解は(固体)触媒の存在なしに実施され、および/または熱分解は水蒸気分解である。
【0114】
任意の従来の熱分解添加剤が、本開示の熱分解フィードに添加され得るか、または本開示の熱分解フィードと共に熱分解炉に共供給され得る。このような従来の熱分解添加剤の例としては、例えばジメチルジスルフィド(DMDS)などの、または二硫化炭素(CS2)などの硫黄含有種(硫黄添加剤)が挙げられる。DMDSは特に好ましい硫黄添加剤である。硫黄添加剤は、熱分解フィードを熱分解に供給する前に、熱分解フィードと混合することができる。任意には、硫黄添加剤は、硫黄添加剤を含む希釈剤、好ましくは水蒸気を熱分解炉に注入することによって添加することができる。
【0115】
本開示の熱分解フィードは既にコークス形成を低減しているため、熱分解フィードを硫黄で添加する必要はないか、または低量の硫黄添加剤で十分である。硫黄含有量が低いことの利点は、分解生成物、特に重質炭化水素留分も硫黄含有量が低いことである。一般に、熱分解流出物から分離または分画された重質炭化水素留分(C5+炭化水素)は、広範な精製に供されないため、熱分解に由来する硫黄は、これらの留分に実質的に残存する。熱分解からのC5~C9炭化水素は、燃料成分として使用することができる。硫黄含有量の低い燃料または硫黄を含まない燃料は、硫黄含有量の高い燃料または燃料成分と比較して、燃焼時に有害な排出物を生じにくいため、低硫黄または超低硫黄の燃料および燃料成分が好ましい。
【0116】
本開示の熱分解は、広い温度範囲から選択されるコイル出口温度(COT)で実施することができる。COTは、通常、サーマルクラッカーにおける熱分解フィードの最高温度である。熱分解は、750℃~920℃の範囲から選択されるCOTで実施されてもよい。好ましくは、COTは、750℃~890℃、さらに好ましくは820℃~880℃、より好ましくは830℃~880℃、さらに好ましくは850℃~880℃の範囲から選択される。エチレンへの選択性が特に良好であり(熱分解流出物中のエチレンのwt-%量に対するプロピレンのwt-%量の比が特に低い)、および、COTが850℃~880℃の範囲から選択される場合、特にCOTが880℃である場合、プロパン転化率およびエチレン収率が特に高い。
【0117】
熱分解は、1.3バール(絶対)~6バール(絶対)、好ましくは1.3バール(絶対)~3バール(絶対)の範囲内のコイル出口圧力(COP)、または/および、0.1~1、好ましくは0.25~0.85の範囲内の熱分解希釈剤、好ましくは水蒸気と熱分解フィードとの間の流量比(希釈剤の流量[kg/H]/熱分解フィードの流量[kg/H])で実施することができる。
【0118】
熱分解プロセスは、例えばプロパンおよび/またはエタンなどの未転化反応物を熱分解炉に戻してリサイクルすることを含んでいてもよい。未転化反応物をリサイクルすることにより、全体的な収益性、および熱分解プロセスの全体的な収率、および/または所望の生成物であるエチレンおよびプロピレンの全体的な収率が向上する。
【0119】
熱分解は、複数の熱分解炉で実施することができる。複数の熱分解炉の流出物は、例えば精製および/または分画および/または誘導体化および/または重合などのさらなる処理工程に任意には輸送または搬送される1または複数の流出物流を形成するために組み合わされてもよい。あるいは、熱分解は、単一の熱分解炉で実施され、および、単一の熱分解炉からの流出物は、例えば精製および/または分別および/または誘導体化および/または重合などのさらなる処理工程に任意には輸送または搬送され得る。
【0120】
図1は、本開示の方法の例示的な実施形態の概略図である。
図1において、再生可能な酸素含有炭化水素110のフィードは、水素化脱酸素リアクター120に供給され、ここで再生可能な酸素含有炭化水素110のフィードは、水素化脱酸素流出物130を生成するために、水素化脱酸素に付される。水素化脱酸素流出物130は気液分離器140に供給され、ここで水素化脱酸素流出物は、ガス状留分150と液体留分160とに分留される。水素化脱酸素流出物のガス状留分150は、
図1では、アミン吸収器170に供給され、ここで水素化脱酸素流出物のガス状留分150中のH
2SおよびCO
2の含有量が低下され、その後、水素化脱酸素流出物のH
2SおよびCO
2枯渇ガス状留分180が、そこからH
2ストリーム200を分離し、水素化脱酸素流出物のH
2SおよびCO
2枯渇ガス状留分180中のH
2の含有量を減少させるために、膜分離190に供給される。任意には、H
2ストリーム200は、水素化脱酸素反応器120に戻されてリサイクルされる。水素化脱酸素流出物のH
2、H
2S、およびCO
2が枯渇したガス状留分210は、水蒸気分解流出物230を得るために、次にスチームクラッカー220に供給される。
【0121】
任意には、
図1では、水素化脱酸素流出物の液体留分160は、水素化異性化流出物250を生成するために、水素化異性化反応器240に供給され、そこで水素化異性化に付される。水素化異性化流出物250は、水素化異性化流出物250から少なくともガス状留分270と液体留分280とを分離するために、例えばディーゼル安定化などの分留260に供給される。水素化異性化流出物のガス状留分270は、その後、任意には、水素化脱酸素流出物のH
2、H
2S、およびCO
2が枯渇したガス状留分210と共に、水蒸気分解に付されるために、スチームクラッカー220に供給される。
【0122】
本開示は、本開示の方法で得られる熱分解流出物を提供する。本開示の熱分解流出物は、プロピレンと、熱分解流出物の全乾燥重量に基づいて少なくとも20wt-%、好ましくは少なくとも25wt-%、より好ましくは少なくとも28wt-%、さらにより好ましくは少なくとも30wt-%、例えば少なくとも32wt-%のエチレンとを含み、この熱分解流出物において、エチレンのwt-%量に対するプロパンのwt-%量の比は、0.40未満、好ましくは0.30未満、より好ましくは0.20未満、例えば0.15未満であり、および、熱分解流出物は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて、5.0wt-%未満、好ましくは3.0wt-%未満、より好ましくは2.5wt-%未満の、少なくともC5の炭素数を有する炭化水素を含む。
【0123】
ある実施形態において、熱分解流出物は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて、50wt-%未満のエチレン、例えば45wt-%未満、または40wt-%未満のエチレンを含む。
【0124】
ある実施形態において、熱分解流出物中のエチレンのwt-%量に対するプロパンのwt%量の比は、少なくとも0.05、少なくとも0.075、または少なくとも0.10である。
【0125】
ある実施形態において、熱分解流出物は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて、0.5wt-%より多い、好ましくは1.0wt-%より多い少なくともC5の炭素数を有する炭化水素を含む。
【0126】
ある実施形態において、熱分解流出物中のベンゼン、トルエン、およびキシレン(BTX)のwt-%量の合計は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて2.0wt-%未満、好ましくは1.5wt-%未満である。
【0127】
ある実施形態において、熱分解流出物は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて2.5wt-%未満、好ましくは2.0wt-%未満のブタジエンを含む。
【0128】
ある実施形態において、熱分解流出物中のメチルアセチレンおよびプロパジエン(MAPD)のwt-%量の合計は、熱分解流出物の総乾燥重量に基づいて0.3wt-%未満である。
【0129】
ある好ましい実施形態において、熱分解流出物は、プロピレンと、熱分解流出物の全乾燥重量に基づいて少なくとも20wt-%であってかつ50wt-%未満のエチレンと、0.5wt-%より多くかつ5.0wt-%未満である少なくともC5の炭素数を有する炭化水素と、2.5wt-%未満のブタジエンとを含み、この熱分解流出物において、エチレンのwt-%量に対するプロパンのwt-%量の比は、少なくとも0.05であってかつ0.40未満であり、および、熱分解流出物の全乾燥重量に基づいて熱分解流出物中のベンゼン、トルエンおよびキシレン(BTX)のwt-%量の合計が2.0wt-%未満であり、および、熱分解流出物中のメチルアセチレンおよびプロパジエン(MAPD)のwt-%量の合計が0.3wt-%未満である。
【0130】
熱分解流出物は、精製および/または分留に付され得る。任意の従来の精製および/または分留方法を採用することができる。
【0131】
ある実施形態において、本方法は、熱分解流出物を分留することを含む。分留は、熱分解流出物からC2留分(エチレン留分)、C3留分(プロピレン留分)、および/またはC4留分を分離することを含み得る。さらに、C5~C9(PyGaS)留分および/またはC10+(PFO)留分が分離されてもよい。ある実施形態において、分解流出物から少なくともC2留分およびC3留分が分離される。
【0132】
C2留分(エチレン留分)およびC3留分(プロピレン留分)は、それぞれ、任意には精製処理および/または誘導体化に付した後に、ポリマーを製造するために使用され得る。したがって、ある実施形態において、本方法は、熱分解流出物からC2留分、C3留分、またはその両方を分離することと、C2留分、C3留分、またはその両方を、任意には共重合可能なモノマーおよび/または添加剤の存在下で重合処理に付すこととを含む。C2画分、C3画分、またはその両方の少なくとも一部は、任意には共重合可能なモノマーおよび/または添加剤の存在下で、重合処理に付される前に、精製処理付され、および/または、少なくとも部分的に誘導体化され得る。
【0133】
精製は、例えば、例えば蒸留、抽出、MAPDを除去するための選択的水素化処理などの公知の精製技術によって実施することができる。精製処理は、C2留分またはC3留分のエチレンまたはプロピレン含有量をそれぞれ増加させ、および/または、各留分からの不純物/汚染物質を除去する。
【0134】
任意には、熱分解流出物に含まれる炭化水素の少なくとも一部は、各化合物の誘導体または複数の誘導体へとさらに処理されてもよい。誘導体化は、例えば、アニオン性および/またはカチオン性荷電基、疎水性基、または他の所望の特性を有するモノマーを提供する公知の化学修飾技術によって実施され得る。
【実施例】
【0135】
以下の実施例は、特許請求される本発明をより良く説明するために提供されるものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。特定の材料が言及される範囲において、それは単に説明の目的であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0136】
蒸気分解シミュレーションがCOILSIM1Dを用いて行われた。
【0137】
4つの異なるフィードがシミュレートされた:100wt-%のプロパンフィード(F1)、95.9wt-%のプロパンを含み、および水素分子を含まない再生可能プロパン組成物(F2)、66wt-%のプロパンおよび9.1wt-%の水素分子を含む再生可能プロパン組成物(F3)、ならびに、66wt-%のプロパンを含むが水素分子が窒素分子で置換されている再生可能プロパン組成物(F4)。シミュレートされたフィードは表1に記載されている。表1に示す重量パーセントは、各フィードの乾燥組成に基づいており、すなわち可能なH2O含有量は除かれている。
【0138】
【0139】
表1において、isoは分岐分子を、およびnはノルマルまたは分岐無しの分子を意味している。
【0140】
表2は、フィード組成(表1のwt-%値)のmol-%への算出された変換を示している。表2に示されているモルパーセントは、それぞれのフィードの乾燥組成に基づいている。
【0141】
【0142】
表2において、isoは分岐分子を、およびnはノルマルまたは分岐無しの分子を意味している。
【0143】
シミュレーションは、wt-%値で定義されたフィード組成、すなわち表1のフィード組成を用いて実施された。各フィードの、水蒸気分解は、3つの異なるコイル出口温度(COT)でシミュレートした:830℃,850℃,880℃。シミュレーションにおいて、コイル出口圧力(COP)は2.093atm(約2.12 bar(絶対圧))に維持され、コイル入口温度645℃に維持され、フィード流量は625kg/hに維持され、蒸気希釈は0.4(kg/hフィードに対するkg/h水蒸気)に維持された。シミュレーションで得られた蒸気分解流出物が表3(F1およびF2)および表4(F3およびF4)に示されている。
【0144】
【0145】
【0146】
C10+は、少なくともC10の炭素数を有する化合物(C10以上)を意味する。プロパン転化率の値はシミュレーションから得られた値である。プロパン転化率の比較的良い近似値は、以下のように計算することによっても得られ得る:100%×(熱分解フィード中のプロパンのwt-%量-熱分解流出物中のプロパンのwt-%量)/(熱分解フィード中のプロパンのwt-%量))。表3および4におけるエチレンに対するプロピレンの比は、水蒸気分解流出物中のエチレンのwt-%量に対するプロピレンのwt-%量の比として与えられる。C1~C5の炭化水素は、熱分解ガソリン(PygaS)と称され得、および、少なくともC10の炭素数を有する炭化水素は、熱分解燃料油(PFO)と称されることがある。表3および4の重量パーセントは、それぞれの熱分解流出物の乾燥重量に基づいて計算され、すなわち可能性のあるH2Oの含有量を除いている。表3および表4からわかるように、驚くべきことに、フィードF1およびF2(それぞれ、プロパン100wt-%およびプロパン95.9wt-%)よりも少ないプロパン(66wt-%)を含むフィードF3およびF4の水蒸気分解は、フィードF1およびF2と比較して非常に高いプロパン転化率を達成した。COTを830℃から850℃に、および850℃から880℃に上昇させると、プロパン転化率は上昇した。
【0147】
また、プロパン含有量のより低いフィードF3およびF4のエチレン収率は、前記フィードの炭化水素組成に基づいて予想されたものよりも顕著に高かった。フィードF3およびF4のC2化合物の総計の収率もまた、前記フィード中のC2+炭化水素の量に基づいて予想されたよりも高かった。フィードF3およびF4において、フィードF1およびF2中で100wt-%であったC2+炭化水素の量は、86.3wt-%であった。すなわち、フィードF3およびF4では、水蒸気分解においてエチレンおよび/またはプロピレンに転化できる化合物のwt-%が、フィードF1およびF2よりも顕著に低かった。
【0148】
さらに、フィードF3およびF4は、高プロパンフィードであるF1およびF2と比較して、エチレンへの選択性が控除された(水蒸気分解流出物中のエチレンのwt-%量に対するプロピレンのwt-%量の比率がより低い)。より高いCOT温度、例えば880℃では、フィードF3中のH2の存在は、H2含有のないF4と比較して、エチレンへの選択性をさらに高めた。
【0149】
水蒸気分解流出物中のC3化合物の総計のwt-%量に対するプロピレンのwt-%量の比率は、高プロパンフィードであるF1およびF2と比較して、フィードF3およびF4でより高かった。総計のC3化合物に対するプロピレンのより高い比率は、近い沸点のC3化合物、特にプロパンからのプロピレンの精製を容易にさせ、かつ、エネルギー消費を低下させる。フィードF3およびF4はまた、フィードF1およびF2よりもより少ない熱分解ガソリン(C5~C9)を与えた。
【0150】
F3およびF4の水蒸気分解流出物およびコーキング速度の比較は、フィードF3がF4では得られない有益な効果を有することを示している。したがって、F3の有益な効果は、フィードF1およびF2単独と比較してより低いプロパン含有量により得られるのではなく、フィードF3中の水素分子の存在がまた重要である。表3および4の結果に基づいて、たとえプロパン含有量の単なる希釈が予想外に良好なエチレン収率を提供しながらプロパン転化率を改善したのだとしても、他の利点および特にはコークス形成を低減するために、水蒸気分解フィード中のH2の存在が必要であったと結論づけられる。
【0151】
表3および表4に見られるように、驚くべきことに、フィードF3は、フィードF1、F2およびF4のそれぞれと比較して顕著に低いコーキング速度を示した。また、フィードF3は、他のフィードF1、F2、およびF4と比較して、ブタジエン、MAPD汚染物質(メチルアセチレンおよびプロパジエン)、芳香族化合物、特にBTX化合物(ベンゼン、トイルエン、キシレン)、およびC10+化合物のより低い収率を有していた。芳香族化合物の収率が低いことは、理論に縛られることなく、より低いF3のコーキング速度に寄与していると考えられる。MAPD汚染物質は反応性が高いため、したがって水蒸気分解流出物中には望ましくない。
【0152】
表4からわかるように、驚くべきことに、H2を含まないがそれ以外はF3と同様のF4の水蒸気分解流出物の組成およびコークス速度は、9.1wt-%のH2を含むF3の水蒸気分解流出物の組成およびコークス速度と比較して、実質的に異なっている。特に、フィード中にH2が存在しない場合、水蒸気分解流出物中のC10+化合物の量が非常に多くなる。F4のコークス生成は、高プロパンフィードF1およびF2の範囲でより多く、および、F4ではコークス速度における低下は見られない。また、MAPD汚染物質(メチルアセチレンおよびプロパジエンの混合物)の収率は、(F4中のN2の存在と比較して)H2存在下でより低かった。したがって、F3におけるH2の存在は、H2がN2で置換された以外は類似組成のF4と比較して、水蒸気分解流出物中のより少ないブタジエン、より少ないBTX、より少ないMAPD、およびより少ない熱分解燃料油(C10+炭化水素)、ならびにより低いコーキング速度を結果としてもたらすと結論づけることができる。
【0153】
C2+炭化水素あたりの比収率(高価値の炭化水素あたりの比収率)は、特定の熱分解生成物について算出された。算出された高価値の炭化水素あたりの比収率が表5に示されている。
【0154】
【0155】
表5に示される結果は、熱分解フィード中の水素分子の存在が、C3より重質の生成物の収率が著しく低下させるという観察を裏付けるものである。一方、エチレン収率はわずかに向上した。さらに、熱分解フィード中の水素分子の存在は、コークス形成を著しく減少させる。F3はまた、例えばエタンなどのC2化合物の高価値の炭化水素あたりの高い比収率を有している。
【0156】
したがって、H2は水蒸気分解のあいだの化学反応に影響を及ぼし、単なる希釈剤としては機能している訳ではないと結論づけられ得る。F4によってではなくF3によって得られた利点は、理論に拘束されることなく、根本的なメカニズムは不明であるが、H2が不飽和化合物のような反応種の生成および/または更なる反応を制御しているためであると考えられる。水蒸気分解フィード中のH2は、多くの不飽和炭化水素を転化し、二次反応およびそれによる重質生成物の生成を防いでいるようである。F3中におけるH2の存在にもかかわらず、特にエチレンが、およびプロピレンもまた、良好な収率で得られること、すなわちH2の存在が該化合物中の二重結合の飽和を導かない、ということもまた驚くべきことである。
【0157】
表3および4の結果から、H2含有のないフィード(F1、F2、F4)において、高いまたは低いプロパン含有量であっても、これらのフィードの水蒸気分解の間にH2が生成される(少なくとも1.3wt-%から1.74wt-%まで)ことがわかる。しかしながら、明らかに、水蒸気分解のあいだに生成されるH2だけでは、水蒸気分解の初期からすでにフィード中に存在しているH2を含んでいるという利点を得るには不十分である。根拠となるメカニズムは不明であり、およびいかなる理論にも拘束されるものではないが、早い段階でのH2の存在が、高反応性化学種の形成を防止または低減し、またはそれらをクエンチし、それによって後続の反応の連鎖が制御されているということは可能である。
【0158】
驚くべきことに、フィードF3は、高プロパンフィードF1およびF2、ならびにH2の含有のないF4の両方と比較して、明らかな利点を有する。驚くべきことに、フィードF1およびF2の非常に高いプロパン含有量からフィード中のプロパン含有量を減少させ、および、水蒸気分解フィード中に水素分子を含有させることによって、有益な水蒸気分解化学反応と低いコーキング速度が達成される。COTを830℃から850℃に、および850℃から880℃に上昇させることにより、エチレンの生成がさらに促進され、エチレンへの選択性が上昇し、そしてプロパン転化率が増大する。
【0159】
様々な実施形態が提示されている。本明細書において、comprise、include、およびcontainという語は、それぞれ、排他性を意図しないオープンエンドな表現として使用されていることを理解されたい。
【0160】
前述の説明は、特定の実施および実施形態の非限定的な例によって、本発明を実施するために本発明者らによって現在考えられている最良の態様の完全かつ有益な説明を提供された。しかしながら、当業者であれば、本発明は、前述に示した実施形態の詳細に限定されるものではなく、本発明の特徴から逸脱することなく、同等の手段を用いて、または実施形態の異なる組み合わせを用いて、他の実施形態で実施することができることは明らかである。
【0161】
さらに、前述の開示された例示的な実施形態の特徴のいくつかは、他の特徴の対応する使用なしに有利に使用され得る。このように、前述の説明は、本発明の原則を単に例示するものであり、それを限定するものではないと考えられる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【国際調査報告】