IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マリン,フレデリクの特許一覧

特表2024-523651血管炎の治療のためのアネトールトリチオン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】血管炎の治療のためのアネトールトリチオン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/385 20060101AFI20240621BHJP
   C07D 339/04 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20240621BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 31/222 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240621BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A61K31/385
C07D339/04
A61P9/00
A61P29/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/18
A61P43/00 121
A61K39/395 Y
A61K31/222
A61K45/00
A61K31/573
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580694
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 EP2022068064
(87)【国際公開番号】W WO2023275249
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】21305906.6
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523221913
【氏名又は名称】マリン,フレデリク
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】レ グランド,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】ルーベンヌ,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ギベール,クリステル
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZB111
4C084ZB112
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC511
4C084ZC512
4C084ZC541
4C084ZC542
4C085AA33
4C085BB31
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086BB04
4C086DA10
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZB11
4C086ZB33
4C086ZC51
4C086ZC54
4C206AA01
4C206DB04
4C206DB57
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206ZA36
4C206ZB11
4C206ZB33
4C206ZC51
4C206ZC54
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象における、特に川崎病および川崎病様疾患の血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるために使用するためのアネトールトリチオン(ATT)に関する。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における川崎病または川崎病様疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体。
【請求項2】
前記予防する、治療する、および/または重症度もしくは進行を低下させることは、マクロファージ活性化を低下させるか阻害することを含む、請求項1に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項3】
前記マクロファージ活性化を低下させるか阻害することは、前記マクロファージによる腫瘍壊死因子(TNF)-αの放出を減少させることを含む、請求項2に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項4】
前記予防する、治療する、および/または重症度もしくは進行を低下させることは、内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑えること、および/または動脈血管の血管収縮を防止すること、および/または動脈血管の血管拡張を促進することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項5】
前記予防する、治療する、および/または重症度もしくは進行を低下させることは、内皮機能が低下した動脈血管の収縮性を抑えることを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項6】
前記疾患は川崎病である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項7】
前記疾患は川崎病様疾患、好ましくはウイルス感染、より好ましくはSARS-CoV-2感染、サイトメガロウイルス感染、エプスタイン・バーウイルス感染およびヒト免疫不全ウイルス感染からなる群から選択されるウイルス感染に関連する川崎病様疾患である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項8】
前記疾患はCOVID-19を有する小児における川崎病様疾患である、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項9】
ATTはさらなる治療薬の前、それと同時またはその後に投与することができる、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項10】
前記さらなる治療薬は、静脈内免疫グロブリン(IVIg)、アスピリン、コルチコステロイド、免疫抑制剤およびアルキル化剤からなる群から選択される、請求項9に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項11】
前記さらなる治療薬はIVIgである、請求項9または10に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項12】
前記対象は小児または10代の若者である、請求項1~11のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項13】
前記ATTの構造的類似体は、式(I):
【化1】
(式中、
XはS、OまたはNHOHを表し、好ましくはXはSまたはOであり、より好ましくは、XはSであり、
YはCH、CまたはNを表し、好ましくはYはCHまたはNであり、より好ましくはYはCHであり、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表し、
はメトキシまたはヒドロキシであるか、あるいはRおよびRはそれらが結合している炭素原子と共に5員環ヘテロアリール部分を形成し、ここでは-R-R-は、-A-CR=B-または-B=CR-A-を表し、式中、
AはO、SまたはNRを表し、ここではRは水素、C~Cアルキルまたはアルキルオキシカルボニルを表し、
BはCHまたはNを表し、かつ
は、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表す)、
の化合物である、請求項1~12のいずれか1項に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項14】
それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体であって、前記疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させることは、(i)マクロファージ活性化を低下させるか阻害すること、特に前記マクロファージによる腫瘍壊死因子(TNF)-αの放出を減少させること、および/または(ii)内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑えること、および/または(iii)動脈血管の血管収縮を防止すること、および/または(iv)動脈血管の血管拡張を促進すること、および/または(v)内皮機能が低下した動脈血管の収縮性を抑えることを含む、ATTまたはその構造的類似体。
【請求項15】
前記血管炎は、川崎病、川崎病様疾患、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎、ベーチェット病、コーガン病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎および癌関連血管炎からなる群から選択される、請求項14に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項16】
前記血管炎は肉芽腫性血管炎である、請求項14または15に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項17】
前記肉芽腫性血管炎は、川崎病、高安動脈炎、ANCA関連血管炎、チャーグ・ストラウス症候群および原発性中枢神経系血管炎からなる群から選択される、請求項16に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。
【請求項18】
それを必要とする対象における血管収縮性障害を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体。
【請求項19】
前記血管収縮性障害は、冠状動脈血管痙攣、血管攣縮性狭心症、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、血管性頭痛、脳血管痙攣、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、レイノー病、先端チアノーゼ、バージャー病、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、網状皮斑、発作および外傷後ジストロフィーからなる群から選択される、請求項18に記載の使用のためのATTまたはその構造的類似体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それを必要とする対象における、特に多系統炎症性症候群などの川崎病および川崎病様疾患の血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるために使用するためのアネトールトリチオン(ATT)に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性血管炎は、血管壁の閉塞および/または動脈瘤形成を生じさせる可能性がある血管壁の損傷を特徴とする異種の疾患群である。
【0003】
血管炎の命名法に関するチャペルヒル・コンセンサス会議(CHCC2012)によれば、血管炎は以下に従って分類することができる。
a)血管のサイズ関連:
・大血管炎(例えば、巨細胞動脈炎、高安動脈炎など)
・中血管炎(例えば、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、川崎病など)
・小血管炎(例えば、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎など)
・多彩な血管を侵す血管炎(ベーチェット病、コーガン病など)
b)臓器または組織関連:
・単一臓器血管炎(例えば、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎など)
c)全身性疾患関連:
・全身性疾患関連血管炎(例えば、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎など)
・推定病因を有する血管炎(例えば、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎、癌関連血管炎など)
【0004】
ほぼ全ての原発性血管炎は心臓を標的にすることができる。心臓の症状が主たるものであることは稀であっても、それらは生命を脅かす恐れがあり、従って特定の診断および治療戦略を必要とする。この合併症は、小児(Weiss,2012.Pediatr Clin North Am.59(2):407-23)、全身性炎症状態を有する成人(Syら,2016.Semin Arthritis Rheum.45(4):475-82)または心血管併存症を有する患者においてより頻繁に生じる。心筋炎、冠動脈炎、冠状動脈疾患、心室性不整脈の発生および弁膜症のような血管炎の心合併症は鬱血性心不全に至る恐れがあり、積極的な治療を必要とする予後不良因子を表している。
【0005】
様々な発症機序は、細胞媒介性炎症、免疫複合体介在性炎症および自己抗体介在性炎症を含む血管炎の誘発に関わってきた。
【0006】
様々な種類の血管炎の発症への自然免疫細胞、特にマクロファージ、好中球、ナチュラルキラー(NK)細胞およびγδT細胞の寄与が当該技術分野において記載されたことがある。
【0007】
特にマクロファージは常在性食細胞であり、これは宿主防御ならびに組織修復および治癒において重要な役割を果たす。ごく最近の証拠から、マクロファージが老廃物および組織再生に対処する定常状態の組織の恒常性の中心に置かれた。マクロファージにはパターン認識受容体(PRR)が配置されており、これは病原体関連分子パターンと相互作用し、それらが病原体および感染細胞を効率的に貪食し、かつ防御関連メディエーターおよび炎症性サイトカインを分泌するのを可能にする。マクロファージは抗原提示細胞としてのさらなる役割を有し、自然および適応免疫を有効に橋渡しする。フィードフォワードループでは、抗原特異的T細胞の活性化によりマクロファージ応答の増幅が生じる。
【0008】
マクロファージは、デブリ、死細胞および異物を検出、摂食および処理するために全ての臓器に位置し、動脈硬化巣などの慢性的に炎症している非治癒性病変部に多く存在する。マクロファージは今では血管炎における中心的存在としても認識されており、血管炎症候群のいくつか(ほんの数例を挙げれば、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、川崎病、ANCA関連血管炎または原発性中枢神経系血管炎(primary central nervous system vasculitis[別名:原発性中枢神経系血管炎(primary angiitis of the central nervous system)])では、非常に活性化された組織破壊的なマクロファージおよび周囲のT細胞が複雑なリンパ様微細構造を形成することにより肉芽腫形成が生じ得る。
【0009】
マクロファージは健康な組織において長期間生存することができ、かつミクログリア、皮膚マクロファージならびに脾辺縁帯およびメタロフィリックマクロファージなどの組織常在マクロファージの複数のサブセットが同定されていることは周知である。そのような常在マクロファージとは対照的に、血管炎状態は循環単球を動員し、かつそれらをマクロファージに発達させることができる。
【0010】
現在のパラダイムは、マクロファージが循環から組織内に移行すると単球から分化すると考えている。動脈壁の特殊組織部位への単球侵入を制御する工程は、細胞源から独立しており、かつ活性化された内皮細胞(EC)への白血球接着カスケードにより循環単球の停止を媒介する分子の上方制御に依存している。
【0011】
血管炎におけるマクロファージの病原的役割は、サイトカイン、ケモカイン、増殖因子および酵素などの可溶因子を分泌するそれらの能力にある。これらの可溶因子の分泌は血管炎における主要な増幅システムを表し得る。さらにマクロファージは血管壁において肉芽腫性浸潤物を形成し、それにより壁の血管新生、中膜平滑筋細胞の喪失、中膜層における弾性の膜状ラメラおよびエラスチン線維の破壊ならびに内腔を狭窄する新生内膜の増殖が生じる。
【0012】
血管炎の形態である川崎病(KD)は最初に、1967年に川崎富作によって日本で記載され、心血管症状および合併症、特に急性段階の患者の70%~50%で生じる左心室(LV)機能不全と関連づけられ(Yuら,2010.Pediatr Cardiol.31(6):807-12;Dionneら,2018.Int J Rheum Dis.21(1):45-49)、これは罹患率および死亡率の主要な一因を表している。
【0013】
KDを有する米国患者の年間の入院発生率(19/100,000人の5歳以下の小児)は、ここ20年間に大きく変わっていない(Uehara&Belay,2012.J Epidemiol.22(2):79-85)。アジア人および黒人のアメリカ人は、白人よりもそれぞれ2.5および1.5倍多くKDを発症する可能性が高く、これは遺伝的連関を示唆している(Uehara&Belay,2012.J Epidemiol.22(2):79-85;Onouchi,2012.Circ J.76(7):1581-6)。米国における症例のおよそ75%~80%は5歳以下の小児で起きており、診断時の年齢の中央値は1.5歳であり、男性:女性の比はおよそ1.5:1.4である。ピークの発生は1月と3月との間に起き、これは環境的寄与も示唆している(Uehara&Belay,2012.J Epidemiol.22(2):79-85;Burnsら,2013.PLoS One.8(9):e74529)。
【0014】
KDの全ての誘発物質は未知なままであるが、免疫細胞による冠動脈壁の浸潤についても記載されている(Noval Rivas &Arditi,2020.Nat Rev Rheumatol.16(7):391-405)。特にヒトの死後組織の免疫組織化学分析から、単球、マクロファージおよび好中球が動脈壁に蓄積されていることが分かった(Takahashiら,2018.Int J Rheum Dis.21(1):31-35)。これらの細胞は、腫瘍壊死因子(TNF)-α、インターフェロン(IFN)-γおよびインターロイキン-6(IL-6)を含む各種炎症性サイトカインおよびケモカインを合成および分泌し、これらは内皮細胞を活性化させて血管炎症候群を引き起こす。
【0015】
静脈内免疫グロブリン(IVIg)および高用量アスピリンは従来からKD管理の基本となっているが、アスピリンの役割は疑問視されていた(Teraiら,1997.J Pediatr.131(6):888-93;Leeら,2013.Korean Circ J.43(3):182-6)。コルチコステロイドも急性および難治性KDの治療のために評価されてきた。メタ分析(n=1,011)により、初期治療としてIVIgに加えてコルチコステロイドを使用することにより、IVIg単独と比較して冠状動脈異常のリスクが有意に低下することが分かった(オッズ比[OR]=0.3;95%[CI]:0.20-0.46)(Chenら,2013.Heart.99(2):76-82)。IVIgは用量依存的に冠状動脈の動脈瘤の発生を防止する。その作用機構は未知であるが、効果はそのサイトカイン産生の調節、T細胞活性に対する影響、および抗体合成の抑制によるものかもしれない(Newburgerら,2016.J Am Coll Cardiol.67(14):1738-49)。しかし冠動脈の動脈瘤は、罹患小児の25%~29%において発達し続け、先進国における小児の後天性心疾患の主要原因となっている(Dionneら,2019.Pediatrics.143(6):e20183341)。
【0016】
コルチコステロイドと組み合わせたIVIgのような利用可能な治療は、冠動脈の動脈瘤の発生を少し減少させるだけであるため(Dionneら,2019.Pediatrics.143(6):e20183341)、血管炎および特にKDの発生を減少させることができる新しい化合物を特定することに依然として大きな関心が寄せられている。
【0017】
ここでは、本発明者らは驚くべきことに、アネトールトリチオン(ATT、AOLまたは5-(4-メトキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオンともいう)が、(i)内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑え、かつ動脈血管の弛緩を維持こと(言い換えると、血管の血管収縮を防止すること、または血管の血管拡張を促進すること)、ならびに(ii)マクロファージによる可溶因子、特にTNF-αの分泌を阻害することができることを証明し、故に血管のサイズに関わらず血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるための新しい治療への道を開く。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、それを必要とする対象における川崎病または川崎病様疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体に関する。
【0019】
一実施形態では、川崎病または川崎病様疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させることは、マクロファージ活性化を低下させるか阻害することを含む。
【0020】
一実施形態では、マクロファージ活性化を低下させるか阻害することは、前記マクロファージによる腫瘍壊死因子(TNF)-αの放出を減少させることを含む。
【0021】
一実施形態では、川崎病または川崎病様疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させることは、内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑えること、および/または動脈血管の血管収縮を防止すること、および/または動脈血管の血管拡張を促進することを含む。
【0022】
一実施形態では、川崎病または川崎病様疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させることは、内皮機能が低下した動脈血管の収縮性を抑えることを含む。
【0023】
一実施形態では、当該疾患は川崎病である。
【0024】
一実施形態では、当該疾患は川崎病様疾患である。一実施形態では、当該疾患はウイルス感染に関連する川崎病様疾患である。一実施形態では、当該疾患はSARS-CoV-2感染、サイトメガロウイルス感染、エプスタイン・バーウイルス感染およびヒト免疫不全ウイルス感染からなる群から選択されるウイルス感染に関連する川崎病様疾患である。
【0025】
一実施形態では、当該疾患はCOVID-19を有する小児における川崎病様疾患である。
【0026】
一実施形態では、ATTまたはその構造的類似体は、さらなる治療薬の前、それと同時またはその後に投与することができる。
【0027】
一実施形態では、さらなる治療薬は、静脈内免疫グロブリン(IVIg)、アスピリン、コルチコステロイド、免疫抑制剤およびアルキル化剤からなる群から選択される。
【0028】
一実施形態では、さらなる治療薬はIVIgである。
【0029】
一実施形態では、当該対象は小児または10代の若者である。
【0030】
一実施形態では、ATTの構造的類似体は、式(I):
【化1】
(式中、
XはS、OまたはNHOHを表し、好ましくはXはSまたはOであり、より好ましくは、XはSであり、
YはCH、CまたはNを表し、好ましくはYはCHまたはNであり、より好ましくはYはCHであり、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表し、
はメトキシまたはヒドロキシであるか、あるいはRおよびRはそれらが結合している炭素原子と共に5員環ヘテロアリール部分を形成し、ここでは-R-R-は、-A-CR=B-または-B=CR-A-を表し、式中、
AはO、SまたはNRを表し、ここではRは水素、C~Cアルキルまたはアルキルオキシカルボニルを表し、
BはCHまたはNを表し、かつ
は、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表す)
の化合物である。
【0031】
本発明は、それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体であって、当該疾患を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させることは、
(i)マクロファージ活性化を低下させるか阻害すること、特に前記マクロファージによる腫瘍壊死因子(TNF)-αの放出を減少させること、および/または
(ii)内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑えること、および/または
(iii)動脈血管の血管収縮を防止すること、および/または
(iv)動脈血管の血管拡張を促進すること、および/または
(v)内皮機能が低下した動脈血管の収縮性を抑えること
を含む、アネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体にも関する。
【0032】
一実施形態では、血管炎は、川崎病、川崎病様疾患、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎、ベーチェット病、コーガン病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎および癌関連血管炎からなる群から選択される。
【0033】
一実施形態では、血管炎は肉芽腫性血管炎である。一実施形態では、肉芽腫性血管炎は、川崎病、高安動脈炎、ANCA関連血管炎、チャーグ・ストラウス症候群および原発性中枢神経系血管炎からなる群から選択される。
【0034】
本発明は、それを必要とする対象における血管収縮性障害を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)またはその構造的類似体にも関する。
【0035】
一実施形態では、血管収縮性障害は、冠状動脈血管痙攣、血管攣縮性狭心症、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、血管性頭痛、脳血管痙攣、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、レイノー病、先端チアノーゼ、バージャー病、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、網状皮斑、発作および外傷後ジストロフィーからなる群から選択される。
【0036】
定義
「アネトールトリチオン」または「ATT」または「AOL」または「5-(4-メトキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオン」は全て、以下の式:
【化2】
を有する置換ジチオールチオンを指す。
【0037】
「皮膚粘膜リンパ節症候群」としても知られている「川崎病」は、主に5歳以下の小児を冒す血管炎の1つの形態を指す(NHSによれば、1998年から2003年に英国では川崎病に罹患している小児の72%が5歳以下であった)。典型的な症状としては、5日間以上続く高熱、ならびに場合により発疹、首のリンパ節の腫れ、乾燥した赤いひび割れた唇、腫れたブツブツした赤い舌(非公式に「いちご舌」と呼ばれる)、口内および喉の奥の赤み、腫れた赤い手足および赤眼のうちの1つ以上が挙げられる。適切な早期治療をしなければ、中度の血管炎症、特に冠状動脈炎症などの合併症が生じる恐れがある。これらの動脈炎症は、心臓合併症および最終的に後天性心疾患に至る恐れがあり、当該症例の2~3%において死亡が生じる。川崎病は、同じ年齢の健康な個体の平均収縮期血圧の一貫して20%未満の収縮期血圧の存在または末梢循環における灌流の低下の徴候の特定の診断基準により、川崎病ショック症候群(KDSS)に対して非ショック型川崎病に細分することができる。当該文献は、古典的な川崎病の症例の定義を満たすことはできないが矛盾のない検査所見を有する冠動脈異常を有する患者を記述する「異型川崎病」、「川崎病様疾患」、およびごく最近では「多系統炎症性症候群」または「MIS」という用語も造った。川崎病様疾患は典型的に、SARS-CoV-2、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタイン・バーウイルス(EBV)またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)への感染などのウイルス感染に罹患している対象において観察されてきた。
【0038】
血管炎に言及する際の「重症度もしくは進行を低下させる」およびそのあらゆる語形変化は、血管炎および/またはそれに関連する症状または合併症の部分的な軽減、阻害または緩和を指す。
【0039】
「薬学的に許容される賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与した場合に副作用、アレルギー反応または他の有害反応を生じることなく好適な剤形での活性薬剤の製剤のために必要とされるあらゆる不活性成分を指す。それとしては、ありとあらゆる溶媒、希釈液、担体、充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、ポリマー、滑沢剤、流動促進剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤もしくは乳化剤、安定化剤、吸収促進剤、着香料、防腐剤、抗酸化剤、緩衝剤またはそれらの任意の組み合わせが挙げられる。ヒトへの投与のために、製剤は例えばFDA局またはEMAなどの規制当局によって要求される無菌性、発熱性、一般的な安全性および純度基準を満たすものでなければならない。
【0040】
血管炎に言及する際の「予防」およびそのあらゆる語形変化は、血管炎および/またはそれに関連する症状または合併症の発生の減少または除去を指す。
【0041】
本発明の化合物の「塩」は、その酸付加および塩基性付加塩を記述するために本明細書で使用される。好適な酸付加塩は非毒性塩を形成する酸から形成される。非限定的な例としては、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アジピン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、シクラミン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2-ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素/リン酸二水素、ピログルタミン酸塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩、トリフルオロ酢酸塩およびキシノホ酸塩が挙げられる。好適な塩基性塩は非毒性塩を形成する塩基から形成される。非限定的な例としては、アルミニウム、アルギニン、ベンザチン、カルシウム、コリン、ジエチルアミン、ジオラミン、グリシン、リジン、マグネシウム、メグルミン、オラミン、カリウム、ナトリウム、トロメタミン、2-(ジエチルアミノ)エタノール、エタノールアミン、モルホリン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリンおよび亜鉛塩が挙げられる。酸および塩基の半塩、例えばヘミ硫酸塩およびヘミカルシウム塩も形成される場合がある。好ましい薬学的に許容される塩としては、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、重硫酸塩/硫酸塩、硝酸塩、クエン酸塩および酢酸塩が挙げられる。
【0042】
「溶媒和物」は、エタノールまたは水などの化学量論的もしくは準化学量論量の1種以上の薬学的に許容される溶媒分子を含む本発明中の化合物を記述するために本明細書で使用される。「水和物」という用語は、前記溶媒が水である場合を指す。
【0043】
「対象」はヒトを含む動物を指す。本発明の意味では、対象は「患者」、すなわち医療を受けている人、医学的治療を受けているか受けたことがある人または疾患の発生について観察されている人であってもよい。
【0044】
「血管炎に関連する症状」およびそのあらゆる語形変化は、血管炎の診断に対して示唆を与える臨床的徴候および特徴を指す。これらの臨床的徴候および特徴は、どの血管および従ってどの臓器系が冒されているかに応じて異なる。但し、血管炎に罹患している多くの人々が経験する一般的な症状としては、限定されるものではないが、熱、疲労、食欲不振、意図しない体重減少、筋肉および関節痛ならびに痺れまたは脱力感などの神経問題が挙げられる。いくつかの特定の種類の血管炎に関連する症状としては、以下が挙げられる。
・ベーチェット症候群:口および生殖器の潰瘍、眼の炎症、皮膚の座瘡様病変
・チャーグ・ストラウス症候群:喘息
・クリオグロブリン血症性血管炎:下肢の紫斑、関節炎、脱力感、神経損傷(神経障害)
・巨細胞動脈炎:頭痛、頭皮圧痛、咀嚼時の顎痛、霧視もしくは複視、失明
・ヘノッホ・シェーンライン紫斑病:腹痛、血尿、関節痛、殿部、脚および足の紫斑
・川崎病:熱、皮膚発疹、眼の炎症
・顕微鏡的多発血管炎:皮膚病変、熱、意図しない体重減少、糸球体腎炎、神経損傷、
・結節性多発動脈炎:紫斑、皮膚潰瘍、筋肉および関節痛、腹痛、腎機能障害
・高安動脈炎:四肢における痺れもしくは冷感、脈の低下もしくは欠損、高血圧、頭痛、視覚障害
・閉塞性血栓血管炎:手、腕、足および脚における痛み、手指および足指上の潰瘍
・ウェゲナー病:鼻詰まり、慢性副鼻腔感染、鼻血
【0045】
「治療的有効量」は、標的に対して著しい悪影響または有害な副作用を引き起こすことなく、(1)血管炎の発症を遅延させるか予防すること、(2)血管炎の1つ以上の症状の進行、増悪または悪化を減速させるか停止すること、(3)血管炎の症状の寛解をもたらすこと、(4)血管炎の重症度または発生率を低下させること、または(5)血管炎を治癒させることを目的とした薬剤のレベルまたは量を意味する。治療的有効量は予防処置のために血管炎の発症前に投与してもよい。代わりまたは追加として、治療的有効量は治療処置のために血管炎の発症後に投与してもよい。
【0046】
血管炎に言及する際の「治療」およびそのあらゆる語形変化は、血管炎および/またはそれに関連する症状または合併症の完全な軽減、阻害、発症遅延または治癒を指す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明は、それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるのに使用するためのアネトールトリチオン(ATT)に関する。本発明は、それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるための方法であって、前記対象にアネトールトリチオン(ATT)を投与することを含む方法にも関する。本発明は、それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるための薬の製造のためのアネトールトリチオン(ATT)の使用にも関する。
【0048】
本発明の文脈では、予防または治療される血管炎の種類は、限定されるものではないが、
・大血管炎(限定されるものではないが、巨細胞動脈炎、高安動脈炎が挙げられる)、
・中血管炎(限定されるものではないが、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、川崎病が挙げられる)、
・小血管炎(限定されるものではないが、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎が挙げられる)、
・多彩な血管を侵す血管炎(限定されるものではないが、ベーチェット病、コーガン病が挙げられる)、
・単一臓器血管炎(限定されるものではないが、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎が挙げられる)、
・全身性疾患関連血管炎(限定されるものではないが、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎が挙げられる)、あるいは
・推定病因を有する血管炎(限定されるものではないが、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎、癌関連血管炎が挙げられる)
などのあらゆる種類の血管炎であってもよい。
【0049】
一実施形態では、血管炎は、大血管炎、中血管炎、小血管炎、多彩な血管を侵す血管炎、単一臓器血管炎、全身性疾患関連血管炎および推定病因を有する血管炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0050】
一実施形態では、血管炎は、川崎病、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎、ベーチェット病、コーガン病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎および癌関連血管炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0051】
一実施形態では、血管炎は、川崎病、高安動脈炎、結節性多発動脈炎、ANCA関連血管炎、顕微鏡的多発血管炎、チャーグ・ストラウス症候群、抗糸球体基底膜(GBM)病、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病、クリオグロブリン血症性血管炎、低補体血症性蕁麻疹様血管炎、閉塞性血栓血管炎、コーガン病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性大動脈炎、ループス血管炎、リウマチ性血管炎、サルコイド血管炎、C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体性血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎および癌関連血管炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態では、血管炎は、川崎病、ANCA関連血管炎、巨細胞動脈炎、高安動脈炎およびベーチェット病を含むかそれらからなる群から選択される。
【0053】
一実施形態では、血管炎は、川崎病、ANCA関連血管炎および高安動脈炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0054】
一実施形態では、血管炎は肉芽腫性血管炎である。
【0055】
一実施形態では、肉芽腫性血管炎は、川崎病、巨細胞動脈炎、高安動脈炎、ANCA関連血管炎、ウェゲナー病、チャーグ・ストラウス症候群および原発性中枢神経系血管炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0056】
一実施形態では、肉芽腫性血管炎は、川崎病、高安動脈炎、ANCA関連血管炎、チャーグ・ストラウス症候群および原発性中枢神経系血管炎を含むかそれらからなる群から選択される。
【0057】
一実施形態では、血管炎は川崎病である。
【0058】
一実施形態では、血管炎は川崎病様疾患である。
【0059】
川崎病様疾患の例はKawa-COVID-19である。Kawa-COVID-19(「小児COVID-19関連多系統炎症性症候群」[MIS-C]、「COVID-19に時間的に関連する小児および青少年多系統炎症性症候群[MIS]」、「SARS-CoV-2感染に時間的に関連する小児多系統炎症性症候群[PIMS]」[PIMS-TS]、「COVID-19関連全身性炎症性症候群」[SISCoV]または「COVID-19を有する小児における川崎病様疾患」ともいう)は、2019~2021年のCovid-19の世界的大流行の原因となるSARS-CoV-2ウイルスに感染している若い対象(典型的には小児および10代の若者、特に5歳以下の小児)を冒す川崎病様疾患である(Poulettyら,2020.Ann Rheum Dis.79(8):999-1006;Dharら,2021.Pediatr Res.発行前にオンライン公開)。
【0060】
本発明の文脈では、アネトールトリチオンという用語は、5-(4-メトキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオンを指すが、その薬学的に許容される塩または溶媒和物ならびに国際公開第2018162581号に記載されている式(I)、(II)または(III)の化合物などの構造的類似体も包含することが意図されており、これらの化合物は参照により本明細書に組み込まれる。
【0061】
一実施形態では、アネトールトリチオンの構造的類似体は、式(I):
【化3】
(式中、
XはS、OまたはNHOHを表し、好ましくはXはSまたはOであり、より好ましくはXはSであり、
YはCH、CまたはNを表し、好ましくはYはCHまたはNであり、より好ましくはYはCHであり、
、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表し、
はメトキシまたはヒドロキシであるか、あるいはRおよびRはそれらが結合している炭素原子と共に5員環ヘテロアリール部分を形成し、ここでは-R-R-は-A-CR=B-または-B=CR-A-を表し、式中、
AはO、SまたはNRを表し、ここではRは水素、C~Cアルキルまたはアルキルオキシカルボニルを表し、
BはCHまたはNを表し、かつ
は、水素、ヒドロキシ、ハロ、アミノ、アルキルスルホニル、アミノスルホニル、シアノ、ニトロ、カルボキシ、アリール、アルコキシ、ハロアルキル、アルキルアミノ、アミノアルキル、ニトロオキシアルキルまたはカルボキシアルキルを表す)
の化合物またはその薬学的に許容される互変異性体、塩もしくは溶媒和物である。
【0062】
一実施形態では、アネトールトリチオンの構造的類似体は、5-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオン、5-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-オン、5-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-オンオキシム、5-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2,4-ジチアゾール-3-チオン、4-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオン、5-(2-ヒドロキシベンゾ[d]オキサゾール-5-イル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオン、5-(2-ヒドロキシベンゾ[d]チアゾール-6-イル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオン、5-(ベンゾフラン-5-イル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオンおよび5-(3-チオキソ-3H-1,2-ジチオール-5-イル)-1H-インドール-1-カルボン酸メチルを含むかそれらからなる群から選択される化合物である。
【0063】
一実施形態では、アネトールトリチオンの構造的類似体は、5-(4-ヒドロキシフェニル)-3H-1,2-ジチオール-3-チオンである。
【0064】
本発明は、それを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるための方法であって、前記対象にアネトールトリチオン(ATT)を含む組成物を投与することを含む方法、およびそれを必要とする対象における血管炎を予防する、治療する、および/またはその重症度もしくは進行を低下させるためのアネトールトリチオン(ATT)を含むそのような組成物の使用も包含する。
【0065】
一実施形態では、アネトールトリチオン(ATT)を含む組成物は医薬組成物であり、かつ薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0066】
一実施形態では、アネトールトリチオンはそれを必要とする対象への投与のために製剤化されている。
【0067】
一実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は、全身もしくは局所投与することができる。
【0068】
一実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は、注射、経口、局所、経鼻、口腔内、直腸内、膣内、気管内、内視鏡、経粘膜または経皮投与により投与することができる。
【0069】
一実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は注射、好ましくは全身注射することができる。
【0070】
全身注射の例としては、限定されるものではないが、静脈内(iv)、皮下(sq)、皮内(id)、筋肉内(im)、動脈内、非経口内(intraparenteral)、リンパ節内(intranodal)、リンパ管内(intralymphatic)、腹膜内(ip)、頭蓋内、心臓内、病巣内、前立腺内、膣内、直腸内、クモ膜下腔内、鼻腔内、腫瘍内(it)、小胞内および灌流が挙げられる。
【0071】
全身注射に適したアネトールトリチオンの製剤の例としては、国際公開第2020049166号に記載されているスルホブチルエーテル-β-シクロデキストリンを含むものが挙げられ、この製剤は参照により本明細書に組み込まれる。
【0072】
一実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は経口投与することができる。
【0073】
経口投与に適したアネトールトリチオンの製剤の例としては、フェルビテン(Felviten)、Halpen、ヘパサルフォル(Hepasulfol)、Heporal、Mucinol(Sanofi Aventis社)、Sialor(Paladin Laboratories社、Pharmascience社、Solvay社、Zuoz Pharma社)、Sonicur(Solvay社)、スルファレム(Sulfarlem)(Solvay社、Aguettant社、Edward Keller社、Sanofi-Aventis社)、スルファレム S(EG Labo社)、TiopropenおよびTiotrifarが挙げられる。
【0074】
一実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は、中枢神経系へのアネトールトリチオンの送達を容易にする送達システムと共に使用してもよい。例えば各種血液脳関門(BBB)透過性増強剤を使用して、薬物に対する血液脳関門の透過性を一時的および可逆的に高めてもよい。そのようなBBB透過性増強剤としては、限定されるものではないが、ロイコトリエン、ブラジキニン作動薬、ヒスタミン、密着結合破壊剤(例えば、ゾヌリン、ゾット(zot))、高浸透圧溶液(例えば、マンニトール)、細胞骨格収縮剤、および短鎖アルキルグリセロール(例えば、1-O-ペンチルグリセロール)が挙げられる。経口、舌下、非経口、埋め込み、経鼻および吸入経路は、中枢神経系へのアネトールトリチオンの送達を提供することができる。いくつかの実施形態では、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物は、末梢神経系への影響を最小限に抑えながら対象の中枢神経系に投与することができる。
【0075】
当然のことながら、他の好適な投与経路も本発明において考えられ、投与様式は最終的に、正しい医学的判断の範囲内で担当医によって決定される。注射による投与(iv、ip、imなど)以外に、噴霧または皮下投与などの他の経路が利用可能である。
【0076】
対象に投与される用量は最終的に、正しい医学的判断の範囲内で担当医によって決定され、かつ各対象に個人的に合わせられる。任意の特定の対象のための具体的な治療的有効量は、治療されている具体的な状態および当該状態の重症度、用いられる具体的な組成物、対象の年齢、体重、一般的健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路、治療期間、アネトールトリチオンまたはそれを含む組成物と併用または同時に使用される薬物、ならびに医療分野で周知の同様の因子などの様々な因子によって決まることも理解すべきである。
【0077】
一実施形態では、アネトールトリチオンはさらなる治療薬の前、それと同時またはその後に投与することができる。
【0078】
一実施形態では、アネトールトリチオンは、さらなる治療薬の後にアドオン治療として投与することができる。
【0079】
本明細書で使用される「アドオン治療」という用語は、以前の治療(さらなる治療薬)の治療効果を支持または増強するため、および/または以前の治療(さらなる治療薬)に関連する副作用を軽減するために与えられる治療を指す。
【0080】
好適なさらなる治療薬としては、限定されるものではないが、静脈内免疫グロブリン(IVIg)、アスピリン、コルチコステロイド、免疫抑制剤およびアルキル化剤が挙げられる。
【0081】
本明細書で使用される、「静脈内免疫グロブリン」または「IVIg」は、「正常なヒト免疫グロブリン」(NHIG)の混合物を用いる免疫グロブリン治療を指す。IVIgは典型的に、少なくとも1000人のヒト血漿の寄付からなるプールから調製され、それは一般的な集団において流行している多くのウイルスに対する免疫グロブリンG(IgG)抗体を含む。IVIgは、Aragam(登録商標)(Oxbridge社)、フレボガンマ(Flebogamma)(登録商標)DIF(Grifols社)、ガンマガード(Gammagard)S/D(登録商標)(Baxter社)、Gammaplex(登録商標)(BPL社)、Gamunex(登録商標)(Grifols社)、Intratect(登録商標)(Biotest UK社)、Kiovig(登録商標)(Baxter社)、オクタガム(Octagam)(登録商標)(Octapharma社)、ピリヴィジェン(Privigen)(登録商標)(CSL Behring社)およびVigam(登録商標)(BPL社)などのいくつか商品名で商業的に入手可能である。
【0082】
コルチコステロイドの好適な例としては、解剖治療化学分類法のサブグループH02に記載されているものが挙げられる。
【0083】
コルチコステロイドのさらなる好適な例としては、限定されるものではないが、
(i)例えば、
a.コルチゾン、コルトドキソン、デスオキシコルトン、ヒドロコルチゾン、プレベジオロン(prebediolone)およびプレグネノロンなどを含む天然グルココルチコイド
b.クロロプレドニゾン、クロプレドノール、ジフルプレドナート、フルドロコルチゾン、酢酸フルゲストン(flugestone acetate)、フルオシノロン、フルオロメトロン、フルペロロン、フルプレドニゾロン、ロテプレドノール、メドリゾン、メチルプレドニソロン、プレドニカルベート、プレドニソロン、プレドニゾン、チキソコルトール、アルクロメタゾン、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、コルチバゾール、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、フルクロロロン、フルメタゾン、フルオコルチン、フルオコルトロン、フルプレドニデン、フルチカゾン、ハロメタゾン、メプレドニゾン、モメタゾン、パラメタゾン、プレドニリデン、リメキソロン、トリアムシノロン、ウロベタゾール、アムシノニド、ブデソニド、シクレソニド、デフラザコート、デソニド、フルクロニド、フルドロキシコルチド、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、ホルモコータル、ハルシノニドおよびトリアムシノロンアセトニドなどを含む合成グルココルチコイド
などのグルココルチコイド、
(ii)例えば、デスオキシコルトン、ヒドロコルチゾン、フルドロコルチゾン、メチルプレドニソロン、プレドニソロンおよびプレドニゾンなどのミネラルコルチコイド
が挙げられる。
【0084】
免疫抑制剤の好適な例としては、解剖治療化学分類法のサブグループL04に記載されているものが挙げられる。
【0085】
免疫抑制剤のさらなる好適な例としては、限定されるものではないが、以下が挙げられる。
(i)例えば、
a.アミノプテリン、メトトレキサート、ペメトレキセド、プララトレキサート、プテロプテリン、ラルチトレキセド、デノプテリン、トリメトレキサートおよびペメトレキセドなどを含む葉酸代謝拮抗薬、
b.アザチオプリン、ミコフェノール酸、ミコフェノール酸モフェチル、ペントスタチン、クラドリビン、クロファラビン、フルダラビン、ネララビン、チオグアニンおよびメルカプトプリンなどを含むプリン類似体、
c.レフルノミド、テリフルノミド、フルオロウラシル、カペシタビン、ドキシフルリジン、テガフール、テガフール/ギメラシル/オテラシル、カルモフール、フロクスウリジン、シタラビン、ゲムシタビン、アザシチジンおよびデシタビンなどを含むピリミジン類似体、および
d.ヒドロキシカルバミド
などの代謝拮抗薬
(ii)例えば、タクロリムス、シクロスポリン、ピメクロリムス、アベチムス(abetimus)およびグスペリムスなどのマクロライド
(iii)、例えば、レナリドマイド、ポマリドミド、サリドマイドおよびアプレミラストなどの免疫調節イミド薬
(iv)例えばアナキンラなどのIL-1受容体拮抗薬
(v)例えば、シロリムス、エベロリムス、リダホロリムス、テムシロリムス、ウミロリムス(umirolimus)およびゾタロリムスなどのmTOR阻害剤
(vi)例えば、抗補体成分5抗体(例えば、エクリズマブ)、抗TNF抗体(例えば、アダリムマブ、アフェリモマブ、セルトリズマブペゴール、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ネレリモマブ(nerelimomab)、ペグスネルセプト)、抗インターロイキン5抗体(例えば、メポリズマブ)、抗免疫グロブリンE抗体(例えば、オマリズマブ)、抗インターフェロン抗体(例えば、ファラリモマブ(Faralimomab))、抗インターロイキン6抗体(例えば、エルシリモマブ(Elsilimomab)、フィルゴチニブ)、抗インターロイキン12/インターロイキン23抗体(例えば、レブリキズマブ、ウステキヌマブ)および抗インターロイキン17A抗体(例えば、セクキヌマブ)などの血清標的化抗体
(vii)例えば、抗CD3抗体(例えば、ムロモナブ-CD3、オテリキシズマブ、テプリズマブ、ビジリズマブ)、抗CD4抗体(例えば、クレノリキシマブ、ケリキシマブ、ザノリムマブ)、抗CD11a抗体(例えば、エファリズマブ)、抗CD18抗体(例えば、エルリズマブ)、抗CD20抗体(例えば、オビヌツズマブ、リツキシマブ、オクレリズマブ、パスコリズマブ)、抗CD23抗体(例えば、ゴミリキシマブ(gomiliximab)、ルミリキシマブ)、抗CD40抗体(例えば、テネリキシマブ(teneliximab)、トラリズマブ)、抗CD62L抗体(例えば、アセリズマブ(Aselizumab))、抗CD80抗体(例えば、ガリキシマブ)、抗CD147抗体(例えば、ガビリモマブ(gavilimomab))、抗CD154抗体(例えば、ルプリズマブ)、抗BLysS抗体(例えば、ベリムマブ、ブリシビモド(blisibimod))、抗CTLA-4抗体(例えば、アバタセプト、ベラタセプト)、抗インターロイキン2受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ、イノリモマブ(inolimomab))、抗インターロイキン6受容体抗体(例えば、トシリズマブ)および抗インテグリン抗体(例えば、ナタリズマブ、ベドリズマブ)などの細胞標的化抗体
【0086】
アルキル化剤の好適な例としては、限定されるものではないが、ナイトロジェンマスタード(例えば、クロルメチン、シクロホスファミド、イホスファミド、トロホスファミド、クロラムブシル、メルファラン、プレドニムスチン、ベンダムスチンおよびウラムスチン(uramustine)など)、ニトロソ尿素(例えば、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、フォテムスチン、ニムスチン、ラニムスチンおよびストレプトゾシンなど)、アルキルスルホン酸塩(例えば、ブスルファン、マンノスルファンおよびトレオスルファンなど)、アジリジン(例えば、カルボコン、チオテパ、トリアジコン、トリエチレンメラミン、ベンゾドーパ(benzodopa)、メツレドーパ(meturedopa)およびウレドーパ(uredopa)など)、ヒドラジン(例えば、プロカルバジンなど)、トリアゼン(例えば、ダカルバジンおよびテモゾロミドなど)、アルトレタミン、ミトブロニトール、ピポブロマン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシンおよびプリカマイシンが挙げられる。
【0087】
一実施形態では、アネトールトリチオンは、静脈内免疫グロブリン(IVIg)の前、それと同時またはその後に投与することができる。
【0088】
一実施形態では、当該対象は動物、好ましくは哺乳類、より好ましくは霊長類、さらにより好ましくはヒトである。
【0089】
一実施形態では、当該対象は男性である。一実施形態では、当該対象は女性である。
【0090】
一実施形態では、当該対象は小児、すなわち思春期の年齢未満または成人年齢未満の若いヒトである。一実施形態では、小児は新生児すなわち生後28日未満の日齢の若いヒトである。一実施形態では、小児は乳児すなわち1~12ヶ月の月齢の若いヒトである。一実施形態では、小児はよちよち歩きの幼児すなわち12~36ヶ月の月齢の若いヒトである。一実施形態では、当該対象は10代の若者、すなわち思春期と18、19、20または21歳などの成人年齢との間の年齢の若いヒトである。
【0091】
一実施形態では、当該対象は3、4、5、6、7、8、9、10、11または12カ月以下の月齢の小児である。一実施形態では、当該対象は2、3、4、5、6、7、8、9または10歳の年齢の小児である。
【0092】
一実施形態では、当該対象は3~12ヶ月の月齢の小児である。一実施形態では、当該対象は5歳以下の年齢の小児である。
【0093】
一実施形態では、当該対象は成人、すなわち成人年齢を超える(例えば18、19、20または21歳を超える)ヒト、あるいは代わりとして思春期の年齢を超えるヒトである。
【0094】
一実施形態では、当該対象は血管炎と診断されている/されていた。一実施形態では、当該対象は川崎病と診断されている/されていた。一実施形態では、当該対象はKawa-COVID-19と診断されている/されていた。
【0095】
本発明は、それを必要とする対象における内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑え、かつ動脈血管の弛緩を維持ための方法であって、前記対象にアネトールトリチオン(ATT)またはそれを含む組成物を投与することを含む方法、および内皮機能不全を有する動脈血管の収縮性を抑え、かつ動脈血管の弛緩を維持ためのアネトールトリチオン(ATT)またはそれを含む組成物の使用にも関する。
【0096】
「動脈血管の弛緩を維持する」とは、動脈血管の血管収縮を防止することおよび/または動脈血管の血管拡張を促進することを意味する。
【0097】
一実施形態では、内皮機能不全は動脈血管の内皮機能の低下である。
【0098】
故に本発明は、内皮機能不全を有する動脈血管、特に内皮機能が低下した動脈血管の過剰収縮に関連するかそれを特徴とする疾患、および/または動脈血管の血管収縮に関連するかそれを特徴とする疾患の予防、治療および/またはその重症度もしくは進行の低下における用途も有する。
【0099】
「血管収縮性障害」または「血管攣縮性疾患」ともいうそのような疾患としては、限定されるものではないが、冠状動脈血管痙攣、血管攣縮性狭心症、心臓発作、糖尿病性神経障害、糖尿病性壊疽、血管性頭痛、脳血管痙攣、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)、レイノー病、先端チアノーゼ、バージャー病、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、網状皮斑、発作および外傷後ジストロフィーが挙げられる。
【0100】
本発明は、アネトールトリチオン(ATT)を用いてマクロファージによる可溶因子、特にTNF-αの分泌を阻害するための方法、およびマクロファージによる可溶因子、特にTNF-αの分泌を阻害するためのアネトールトリチオン(ATT)の使用にも関する。
【0101】
故に本発明は、マクロファージによる可溶因子、特にTNF-αの分泌に関連するかそれを特徴とする疾患の予防、治療および/またはその重症度もしくは進行の低下における用途も有する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
図1図1A図1Cはマクロファージによるサイトカイン産生に対するATTの効果を示す3つのグラフのセットである。図1Aは、LPS活性化マクロファージにおけるTNF-α産生のATT阻害を示す。ダネットの多重比較検定:**p<0.01;***p<0.001。図1Bは、ATTと共に培養したLPS活性化ヒトマクロファージによるTNF-αの産生の減少を示す。ダネットの多重比較検定:p<0.05;**p<0.01。図1Cは、ATTと共に培養したLPS活性化ヒトマクロファージによるIL-10の産生の減少を示す。ダネットの多重比較検定:**p<0.01;****p<0.0001。
図2図2A図2Bは、CHAPSまたはL-NAMEによって媒介される内皮機能不全の存在下での肺動脈リングの5-HT反応性に対するATTの効果を示す2つのグラフのセットである。図2Aは、CHAPSによって媒介される内皮機能不全の存在下での5-HT反応性を示す。ダネットの多重比較検定:**p<0.01;ns:有意でない。図2Bは、L-NAMEによって媒介される内皮機能不全の存在下での5-HT反応性を示す。ダネットの多重比較検定:p<0.05;**p<0.01;ns:有意でない。
図3】CHAPSまたはL-NAMEによって媒介される内皮機能不全の存在下での肺動脈リングのフェニレフリン誘発収縮に対するATTの弛緩効果を示すグラフである。張力%は、各群について対照張力%に対して正規化されている(ATT対対照、L-NAME+ATT対L-NAME、CHAPS+ATT対CHAPS)。ダネットの多重比較検定:p<0.05;**p<0.01;ns:有意でない。
図4】PHを有するラットからの肺動脈リングの5-HT反応性に対するATTによる急性もしくは予防的治療の効果を示すグラフである。データは対照収縮の割合で表されている。統計分析:二元配置ANOVAおよびボンフェローニ事後検定。p<0.05;**p<0.01;***p<0.001;ns:有意でない。
図5】LCWE誘発性川崎病マウスモデルにおいてATTの効果を評価するために使用したインビボプロトコルのスキームである。
図6図6A図6Fは、川崎病患者からの血清[KD血清]、1μMのATTが添加された川崎病患者からの血清[KD血清+ATT1μM]、ウェゲナー病患者からの血清[WD血清]、または回復期すなわち疾患寛解から少なくとも1年後の川崎病患者からの血清[回復期血清]への12時間の曝露後のヒト一次心筋細胞をベースとするアッセイの結果を示す6つのグラフのセットである。図6Aは4つの条件下でのピーク高さ(単位:μm)を示す。図6Bは4つの条件下でのサルコメア短縮%を示す。図6Cは4つの条件下での最大サルコメア離反速度(単位:μm/秒)を示す。図6Dは4つの条件下での最大サルコメア復帰速度(単位:μm/秒)を示す。図6Eは4つの条件下での90%弛緩までの減衰時間(単位:秒)を示す。図6Fは4つの条件下での30%弛緩までの減衰時間(単位:秒)を示す。p<0.05;**p<0.01(一元配置ANOVA)。
【実施例
【0103】
以下の実施例によって本発明をさらに例示する。
【0104】
実施例1:マクロファージによるサイトカイン産生に対するATTの評価
材料および方法
健康なドナーから単離したCD14ヒトマクロファージをLPS(1μg/mL)およびATT(10μM)と共に48時間培養した。培養の終了時に上澄みを回収し、サイトカイン産生を評価した。
【0105】
ELISAによりTNF-αの産生を測定した。多重検出技術を用いてTNF-αおよびIL-10の産生を測定した。
【0106】
結果
血管炎は、炎症性サイトカイン放出を引き起こすマクロファージおよびリンパ球の活性化を特徴とする。マクロファージ活性化により炎症性サイトカイン放出が生じるため、この研究の目的は、これらのサイトカインの産生を阻害するその能力に対するATT(10μM)の効果を評価することにある。
【0107】
図1Aに示すように、ATTはLPS活性化ヒトマクロファージにおいてTNF-αの産生を有意に減少させた(LPS活性化条件に対して-88%;ダネットの多重比較検定:p=0.001)。
【0108】
多重アッセイによりELISAの結果、すなわちATTの存在下でLPS活性化ヒトマクロファージにおいてTNF-αレベルが低下した(-51.2%)ことを確認した(図1B)。さらにATTはIL-10の産生を有意に低下させた(-60.3%)(図1C)。
【0109】
結論
TNF-αは、川崎病などの血管炎などの多くの異常な状態に関与していることが知られている多面発現性分子である(Shenら,2013.Biochem Biophys Res Commun.437(2):250-5)。
【0110】
本結果は、ATTにより活性化ヒトマクロファージのサイトカイン放出を減少させることができることを実証しており、血管炎および特に川崎病に対するATTの可能な治療効果を明らかに示唆している。
【0111】
実施例2:内皮機能不全の存在下での血管反応性に対するATTの評価
材料および方法
ウィスターラット(雄、300g)の一次の肺内動脈(IPA1)を約1.5~2mmの外径を有する短い管状セグメントに分割し、等尺性収縮測定のために使用した。
【0112】
動脈リングを37℃のKrebs溶液(118mMのNaCl、4.7mMのKCl、1.2mMのMgSO、2.5mMのNaHCO、1.2mMのKHPO、2.5mMのCaClおよび11mMのD-グルコース、pH7.4)を含む単離臓器浴システム(EMKA TECHNOLOGIES社)の中に置き、15%O/5%COにより連続的に泡立てた。
【0113】
動脈リングをそれらの直径に従って、0.8~1.0gの基礎張力まで引き伸ばした。組織をKrebs溶液中で1時間平衡化させ、15分ごとに洗い流した。その後の収縮反応を正規化するために使用する参照収縮を得るために、高KCl溶液(80mM)を適用した。
【0114】
実験の終了時に、1μMもしくは30nMのPheにより誘発された予め収縮された肺動脈リングについてカルバミルコリン、強力な血管弛緩剤(100μM;Sigma社)によって誘発された弛緩を調べることにより、各リングに対して内皮機能を試験した。データ取得および分析を容易にするために、IOX2ソフトウェア(v2.10.8、EMKA TECHNOLOGIES社、フランスのパリ)に接続されたトランスデューサーシステムを用いて、受動的および能動的な機械的特性を評価した。次いで、ボンフェローニ事後検定と共に二元配置ANOVAを用いてデータを分析した(Prism 5v.5.01)。
【0115】
収縮機能
5-ヒドロキシトリプタミン[5-HT](10nM~100μM;Sigma社)に対する累積濃度反応曲線(CCRC)を構築することにより収縮反応を試験した。適応があれば、組織をATT(10μM)と共に30分間プレインキュベートし、次いで5-HTへのCCRCを薬物の存在下および非存在下で構築した。
【0116】
一酸化窒素依存的弛緩を阻害するためのNω-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル[L-NAME](100μM、30分間のプレインキュベーション;Sigma社)、または内皮を物理的に損傷させるための3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート[CHAPS](水中に0.3%、装着前に灌流;Sigma社)を用いて、ATT効果に対する内皮の役割の評価を行った。
【0117】
血管の弛緩
収縮がその定常状態に達した場合にフェニレフリン[Phe](30nM;Sigma社)により予め収縮された肺動脈リングにATT(10μM)を注射することにより、弛緩を評価した。
【0118】
L-NAMEプレインキュベーションまたはCHAPS灌流により先に述べたように、ATT弛緩効果に対する内皮の役割を評価した。1μMもしくは30nMのPheによって誘発された予め収縮された肺動脈リングについて100μMのカルバミルコリン(Sigma社)によって誘発される弛緩を調べることにより、各リングに対して内皮機能を試験した。データ取得および分析を容易にするために、IOX2ソフトウェア(v2.10.8、EMKA technologies社、フランスのパリ)に結合されたトランスデューサーシステムを用いて、受動的および能動的な機械的特性を評価した。次いで、ボンフェローニ事後検定と共に二元配置ANOVAを用いてデータを分析した(Prism 5v.5.01)。
【0119】
慢性内皮機能不全
慢性内皮損傷に対するATTの保護効果を調べるために、ラットを低圧低酸素室(50kPaまたは10%O)中に3週間収容した。
【0120】
全低酸素中に、腹腔内に置かれたミニポンプより連続的治療を誘導して、ATT(0.7mg/mL)またはそのプラセボ(スルホブチルエーテル-β-シクロデキストリン)を送達した。
【0121】
動物の安楽死後に、肺動脈リングを臓器浴の中に置き、5-HT(10nM~100μM)を用いた累積濃度反応曲線を使用することにより血管の反応性を調べた。この研究のこのエクスビボ部分は臓器浴にATTを全く添加せずに行なったが、これはその効果がミニポンプによる慢性インビボ治療にのみ関連していることを意味している。
【0122】
結果
内皮機能不全の存在下での収縮機能に対するATTの保護効果
図2Aに示すように、CHAPS誘発性内皮機能不全の存在下での濃度反応曲線は左にシフトしたが、これは当該リングが5-HT活性化に対してより感受性が高いことを意味している。さらに、最大の5-HT有効性はCHAPSインキュベーションによって有意に増強された。
【0123】
驚くべきことに、ATTおよびCHAPSの存在下での濃度反応曲線ならびに最大有効性は正常な内皮機能の存在下で得られたものと有意に異ならなかった。従って本結果は、ATTがCHAPSによって誘発される内皮損傷を防止することができ、かつ当該リングの正常な収縮性を回復させることができたことを実証している。
【0124】
図2Bに示すように、L-NAME誘発性内皮機能不全の存在下での濃度反応曲線も左にシフトしたが、これは当該リングが5-HT活性化に対してより感受性が高いことを意味している。
【0125】
ATTの存在下で、L-NAMEを用いた濃度反応曲線は顕著にシフトし、最大効果は有意に減少した。従って本結果は、ATTがL-NAMEによって誘発される一酸化窒素弛緩経路の変化を防止することができ、かつ5-HTによって誘発される当該リングの過剰収縮を抑えることができたことを実証している。
【0126】
内皮機能不全の存在下での血管の弛緩に対するATTの保護効果
単独またはL-NAMEもしくはCHAPSの存在下でのATTに対する弛緩の振幅は、対照条件またはL-NAMEもしくはCHAPSのそれぞれの存在下で100%に正規化された30nMのフェニレフリンに対する最大収縮の割合として表した。図3に示すように、弛緩の振幅はATTまたはCHAPS+ATTで処理したリングの群と同様であった。
【0127】
驚くべきことに、内皮機能不全を誘発するためのL-NAMEまたはCHAPSによる前処理は、ATT(図3、L-NAME+ATTおよびCHAPS+ATTのそれぞれ)によって媒介される弛緩に影響を与えることができなかった。それどころか、同様の条件下でのカルバミルコリンの弛緩は、L-NAMEまたはCHAPSによって誘発される内皮機能不全によって完全に消滅した(データは示さず)。
【0128】
まとめると、これらの結果は、ATT誘発性血管弛緩がCHAPSまたはL-NAMEによって誘発される内皮機能不全によって影響を受けないことを実証している。
【0129】
慢性内皮機能不全の存在下での収縮機能に対するATTのインビボでの保護効果
図4に示すように、低酸素によって誘発される慢性内皮機能不全により5-HTによって誘発される血管の反応亢進が生じた。ATTによる慢性治療により、5-HTによって誘発される血管のこの活動亢進は完全に消滅し、これによりインビボモデルにおける内皮機能不全に対するATTの保護効果が確認された。
【0130】
結論
川崎病を含む血管炎症候群は、心血管症状および合併症、特に動脈血管の機能不全に関連していることが知られている。
【0131】
本結果は、ATTが内皮機能不全を有する動脈血管の過剰収縮を抑え、かつ血管弛緩を維持できることを実証しており、故にこれは血管炎および特に川崎病に対するATTの可能な治療効果を明らかに示唆している。
【0132】
実施例3:川崎病のインビボマウスモデルに対するATTの評価
ラクトバチルス・カゼイは、ヒトおよび動物の両方の胃腸管および尿生殖路にコロニーを形成するグラム陽性細菌である。ラクトバチルス・カゼイ細胞壁抽出物(LCWE)によってマウスにおいて誘発される心血管病変は、ヒトの血管炎症候群において観察されるものと組織学的に類似している。LCWE誘発性川崎病は、大動脈基部における自然免疫細胞の浸潤、冠動脈における壊死性動脈炎の発生、その後の完全な冠動脈狭窄に至る恐れがある内腔閉塞を特徴とする。
【0133】
従って、LCWEマウスモデルはKDにおける心血管病変の組織病理学的および免疫病理学的特徴を密接に模倣しており、臨床試験において現在試験されている薬物候補の有効性評価において使用されてきた(Lauら,2009.Clin Exp Immunol.157(2):300-9;Gorelikら,2019.Clin Exp Immunol.198(1):101-110)。
【0134】
図5は、LCWE誘発性KDに対するATTの効果を評価するためにLCWEマウスモデルに対して行ったプロトコルを示す。
【0135】
実施例4:川崎病のインビトロヒトモデルに対するATTの評価
材料および方法
AnaBios社(米国のサンディエゴ)により、独自のプロトコルであるそれらのCardioPRIME(商標)を用いて、成人のヒト原発性心室心筋細胞を2人の健康なドナーから単離した。
【0136】
これらの単離した心筋細胞を、1μMのATTが添加された/添加されていない重篤(2~6日間)な川崎病患者から得られた血清に12時間曝露した。並行して、心筋細胞をウェゲナー病患者または回復期の川崎病患者からの血清に同じ条件下で曝露した。
【0137】
IonOptix社製のMultiCellプラットフォーム上で実行されるCardioPRIME(商標)プロトコルは、いくつかパラメータを測定するのを可能にする。収縮(光学式明視野顕微鏡下で個々の心筋細胞における形状変化によって追跡される)を引き起こすための電場刺激時に、異なる条件下での収縮の変化について収縮トランジェントを分析することができた(サルコメア短縮の振幅、ピーク高さ、最大サルコメア離反速度、最大サルコメア復帰速度ならびに30%および90%の弛緩までの減衰時間)。
【0138】
結果
図6A図6Fに示すように、川崎病患者からの血清への12時間の曝露によりヒト心筋細胞の収縮期機能が低下し、弛緩速度を遅らせた。
【0139】
ATTは、この収縮性の喪失を防止し(図6A図6C)、かつ弛緩の喪失も防止する(図6D図6F)ことが分かった。
【0140】
これらのパラメータは、回復期の川崎病患者からの血清に曝露された心筋細胞の収縮および弛緩パラメータと一貫していた(ここでは患者のマクロファージはもはや活性化されているとはみなされない)。
【0141】
逆に、ウェゲナー病患者からの血清に曝露した場合、心筋細胞は収縮および弛緩時にどんな特定の変化も示さなかったが、これはウェゲナー病と比較して川崎病の異なる生理病理学的特性を示唆している。
【0142】
全体的に見て、これらのデータはマクロファージ活性化、内皮機能不全を有する動脈血管(特に内皮機能が低下した動脈血管)の過剰収縮、および/または川崎病などの動脈血管の血管収縮を伴う血管炎に対するATTの治療および予防的関心を示唆している。

図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
【国際調査報告】