(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置
(51)【国際特許分類】
D02J 1/00 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
D02J1/00 L
D02J1/00 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580936
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022067798
(87)【国際公開番号】W WO2023275090
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】102021003390.6
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】307031976
【氏名又は名称】エーリコン テクスティル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Oerlikon Textile GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Leverkuser Strasse 65, D-42897 Remscheid, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】デニス バウアー
(72)【発明者】
【氏名】ディーター ヴィーマー
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036AA01
4L036MA33
4L036PA26
4L036PA42
4L036UA06
4L036UA21
(57)【要約】
本発明は、糸に液体を塗布する給湿装置と、給湿された糸に交絡結節点を形成する交絡装置とを備えた、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置に関する。このために、給湿装置と交絡装置とは、糸走路内に相前後して配置されている。糸の交絡の結果生じる動的な作用を給湿に利用することができるようにするために、本発明では、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が、交絡によって生じた振動が給湿装置の給湿溝内の糸に作用するように選択されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置であって、糸に液体を塗布する給湿装置(1)と、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置(2)とを備えており、前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、糸走路内に相前後して配置されている、装置において、
前記給湿装置(1)の出口(5.2)と前記交絡装置(2)の入口(10.1)との間の間隔(A)が、交絡によって生じた振動が前記給湿装置(1)の給湿溝(4)内の糸(3)に作用するように選択されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間の前記間隔(A)は、前記交絡装置(2)の作動圧力に応じて50mm~1000mmの範囲内である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間の前記間隔(A)は、前記給湿装置(1)の移動によって、かつ/または前記交絡装置(2)の移動によって調節可能に形成されている、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間に糸ガイド(15.1)が配置されており、該糸ガイド(15.1)において、前記糸(3)を0°~10°の範囲の巻付け角(a)でガイドすることができる、請求項1から3までのいずれか1項記載の装置。
【請求項5】
前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)は、溝底部(4.1)に少なくとも20mmの長さを有する接触面(4.2)を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)は、前記溝底部(4.1)内に糸走行方向で見て前記接触面(4.2)の手前に、流体源(8)に接続可能な流体通路(7)を有している、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記給湿装置(1)は取外し可能に支持体(6)に保持されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
前記交絡装置(2)は、前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)に整合する糸通路(9)を有している、請求項1から7までのいずれか1項記載の装置。
【請求項9】
前記交絡装置(2)は、前記糸通路(9)に横方向に開口する空気通路(12)を有しており、該空気通路(12)は、圧縮空気源(13)に接続可能である、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記給湿装置(1)は、平行に相並んで形成された複数の給湿溝(4)を有しており、前記交絡装置(2)は、各前記給湿溝(4)に対応するガイド通路(9)を有している、請求項1から9までのいずれか1項記載の装置。
【請求項11】
前記交絡装置(2)は、タングルノズルとして形成されている、請求項1から10までのいずれか1項記載の装置。
【請求項12】
前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、一体の構成群として形成されている、請求項1から11までのいずれか1項記載の装置。
【請求項13】
当該装置は、前記マルチフィラメント糸を延伸させる延伸装置に後置されており、該延伸装置は、少なくとも1つの加熱可能なゴデットを有している、請求項1から12までのいずれか1項記載の装置。
【請求項14】
少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置であって、糸に液体を塗布する給湿装置(1)と、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置(2)とを備えており、前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、糸走路内に相前後して配置されている、装置において、
前記給湿装置(1)の出口(5.2)と前記交絡装置(2)の入口(10.1)との間の間隔(A)が、50mm~1000mmの範囲内にあることを特徴とする、装置。
【請求項15】
1本のマルチフィラメント糸を加工する方法であって、完全延伸後の糸(FDY)に、給湿装置によって液体を給湿し、引き続く糸走路内で、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置によって糸を案内し、前記給湿装置の出口と前記交絡装置の入口との間の間隔を、前記交絡装置によって前記糸に生じた振動が、前記給湿装置の給湿溝内に位置する前記糸の部分の少なくとも部分的な横方向変位を生じさせ、かつ/または前記給湿装置の前記出口と前記交絡装置の前記入口との間の間隔が50mm~1000mmの範囲内にあるように選択する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載の、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上位概念に記載の、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置は、独国特許出願公開第102019116512号明細書から公知である。
【0003】
合成糸の製造に際して、これらの合成糸はそれぞれ、多数の極細のフィラメント束から形成される。糸中のフィラメント束の結束を保証するためには、基本的に、マルチフィラメント糸をプレパレーション液で濡らし、マルチフィラメント糸のフィラメント束を圧縮空気によって交絡させることが知られている。つまり、フィラメント束を押し出してフィラメントを冷却した後に、マルチフィラメントを最初に集束するために濡らして交絡させることが十分に知られている。ただし、次いで糸の延伸を可能にするために、フィラメント束は、比較的低い作動圧力の圧縮空気によって交絡させられ、これにより、いわゆる交絡結節点の形成を回避する。溶融紡糸プロセスの最後に、糸は、後処理のために糸パッケージに巻き取られる。このためにはやはり、マルチフィラメント糸を再度交絡させることが一般的であるが、この場合には、糸中に交絡結節点を形成するために、より高い作動圧力の圧縮空気が使用される。
【0004】
前掲の独国特許出願公開第102019116512号明細書からは今や、マルチフィラメント糸中の交絡結節点の形成に、前置された、糸への給湿によってポジティブな影響を及ぼすことができる、ということが知られている。このために、この公知の装置は、液体を塗布する給湿装置と、交絡結節点を形成する交絡装置とを有しており、給湿装置と交絡装置とは、糸走路内に相前後して配置されている。このようにして、液体によって濡らされた糸を、次いで圧縮空気によって交絡させ、交絡結節点を形成することができる。このために、この公知の装置は、互いに比較的大きな間隔をあけて糸走路内に配置された別体の給湿装置と、別体の交絡装置とを有している。
【0005】
ただし基本的に、互いに比較的短い間隔をあけて糸の給湿と交絡とを行う、このようなマルチフィラメント糸を加工する装置も知られている。例えば国際公開第2009/013107号から明らかな、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置では、1つのハウジング内に給湿装置と交絡装置とが配置されている。この場合、糸は、給湿装置と交絡装置との間で糸ガイド部材によって変位させられる。これにより、糸の交絡によって生じた動的な作用が、糸走行方向とは反対の方向に伝播することが阻止される。これにより、マルチフィラメント糸の給湿時に、安定的で比較的静かな糸走行を達成することができる。給湿装置による液体の塗布は、プレパレーションピンにより行われ、プレパレーションピンは、その先端部において流体を直接糸に塗布する。ただしこれにより、流体が糸の周囲にわたってしか分配されないという問題が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の課題は、上位概念に記載の、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置を改良して、糸の内部への可能な限り集中的な流体の分配が、交絡の発生前に既に達成されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の別の目的は、濡らされた糸に交絡結節点を形成する効果を改善することにある。
【0008】
この課題は、本発明に基づき、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が、交絡によって生じた振動が給湿装置の給湿溝内の糸に作用するように選択されていることによって解決される。
【0009】
「作用する」とは、本発明の枠内では特に、交絡装置によって糸に生ぜしめられる振動が、糸走行方向に対して横方向に、しかも少なくとも部分的に給湿装置の給湿溝内に位置している糸部分において糸の変位を生じさせることを意味する。換言すると、このような、給湿装置の給湿溝内に位置する糸部分は、好適には正弦波状の拭取り動作を行う。
【0010】
上記課題は同様に、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置であって、糸に液体を塗布する給湿装置と、給湿された糸に交絡結節点を形成する交絡装置とを備えており、給湿装置と交絡装置とは、糸走路内に相前後して配置されており、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔は、50mm~1000mmの範囲内にある、装置によって解決される。
【0011】
上記課題は同様に、1本のマルチフィラメント糸を加工する方法であって、完全延伸後の糸に、給湿装置によって液体を給湿し、引き続く糸走路内で、給湿された糸に交絡結節点を形成する交絡装置によって糸を案内し、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔を、交絡装置によって糸に生じた振動が、給湿装置の給湿溝内に位置する糸部分の少なくとも部分的な横方向変位を生じさせ、かつ/または給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が50mm~1000mmの範囲内にあるように選択する、方法によって解決される。
【0012】
本発明の有利な改良は、特徴および特徴の組合せにより規定されている。
【0013】
発明者は、交絡によって生じ糸走行方向とは反対の方向に伝播する糸の動的な作用を給湿装置から遠ざける、という条件から解放される。逆に、発明者は、糸に作用する振動がまさに、糸に給湿する際の液体の吸収および分配を改善することを認識した。つまり、糸を、給湿装置内で給湿溝を通して案内し、これにより、4000~5000m/分の範囲内であり得る比較的高い糸走行速度の場合でさえ、糸のフィラメント束への集中的で均一な給湿が得られる。この場合、同時に、引き続く交絡装置内での交絡に際して形成される交絡結節点の均一性および質が改善する。したがって、本発明による装置は、溶融紡糸プロセスにおいて完全延伸された糸に、後処理のために十分な糸の集束を生ぜしめるために特に有利である。
【0014】
糸を交絡する際に生じる動的な作用および撚り作用は、実質的に交絡装置の作動圧力によって決定される。圧縮空気の作動圧力が高くなるほど、糸の交絡はより強力になる。この点で、本発明の改良は、好適には、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が、交絡装置の作動圧力に応じて50mm~1000mmの範囲内であるように形成されている。つまり、プロセスの前に、作動圧力に適合した、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔を選択することができる。作動圧力は、2bar~5barの範囲内である。作動圧力が2.5barよりも大きいと有利であることが判った。特に好適には、作動圧力は少なくとも3barである。
【0015】
給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が50mm~1000mmの範囲内であると有利であることが判った。この間隔が50mm~250mmであると有利であることが判った。1つの特に好適な構成では、この間隔は100mm超かつ/または200mm未満である。
【0016】
可能な限りフレキシブルなプロセスを実施することができるようにするために、本発明の改良では、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間の間隔が、給湿装置の移動および/または交絡装置の移動によって調節可能に形成されていることが想定されている。つまり、プロセス中に間隔の変更を行うことができ、これにより、交絡装置のそのときどきの作動圧力に応じた微調整を行うことができる。
【0017】
糸の走行を糸ガイドによって支援すべき場合に使用される本発明の改良では、糸ガイドが、給湿装置の出口と交絡装置の入口との間に配置されており、糸ガイドにおいて、糸を0°~10°の範囲の巻付け角でガイドすることができる。より大きな巻付けは回避されねばならない。それというのも、さもなければ糸の振動の通り越しが妨げられるからである。糸ガイドにおける糸の小さな巻付けは、振動の支障のない通り越しと、糸の内部における撚り作用とを可能にする。
【0018】
比較的高い糸走行速度においても糸に液体を均一に分配するために使用される本発明の有利な改良では、給湿装置の給湿溝が、溝底部に少なくとも20mmの長さを有する接触面を有している。これにより、流体をより大きな距離にわたり、糸に供給することができる。
【0019】
この場合、液体は、好適には接触面の直前で溝底部に開口しかつ流体源に接続可能な流体通路を介して、給湿装置の溝底部に供給される。
【0020】
合成糸の様々な溶融紡糸プロセスに関して可能な限りフレキシブルな使用を達成するために、さらに、給湿装置は、取外し可能に支持体に保持されていることが想定されている。
【0021】
交絡によって生じる動的な作用を、その強度において最大限に給湿に利用することができるようにするために、特に有利な本発明の改良では、交絡装置が、給湿装置の給湿溝に整合する糸通路を有している。よって、糸を、給湿溝から進出した後、非接触で直接糸通路内に導入することができる。
【0022】
動的な作用は、特に交絡装置が、糸通路に横方向に開口する空気通路を有しており、空気通路が圧縮空気源に接続可能であることにより、交絡時に達成することができる。例えば空気通路は、糸走行方向にまたは糸走行方向とは反対の方向に傾けられて、糸通路に開口していてよい。特に糸通路内への、空気通路を介した圧縮空気の偏心的な供給は、糸における加撚を促進させる。
【0023】
1回の溶融紡糸プロセスにおいて複数の糸の並列的な加工を同時に実施することができるようにするために好適に用いられる本発明の改良では、給湿装置が、平行に相並んで形成された複数の給湿溝を有しており、交絡装置は、各給湿溝に対応するガイド通路を有している。これにより、紡糸ステーションにおいて生ぜしめられた糸群に、並行して同時に液体を給湿し、次いで圧縮空気によって交絡させることができる。
【0024】
ただし、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する、本発明による装置は、あらゆる周知の製造プロセスに対するそのフレキシビリティに基づき、特にいわゆる完全延伸糸の製造に適している。
【0025】
1つの特に好適な構成では、交絡装置は、タングルノズルとして形成されている。交絡装置は、特にマイグレーションノズルとして形成されてはいない。
【0026】
1つの別の特に好適な構成では、給湿装置と交絡装置とは、一体の構成群として形成されている。
【0027】
装置が、マルチフィラメント糸を延伸させる延伸装置に後置されていると有利であることが判った。延伸装置が、少なくとも1つの加熱可能なゴデットを有していると有利であることが判った。延伸装置は、FDY延伸エリアとして形成されていてよい。延伸装置は、溶融紡糸装置に後置されていてよい。
【0028】
延伸装置の最後のゴデットの糸引継ぎ点と給湿装置の入口との間の間隔が1000mm未満であると有利であることが判った。この間隔が、50mm~1000mmの範囲内、特に好適には100mm~500mmの範囲内、さらに好適には250mm~350mであると有利であることが判った。
【0029】
以下に本発明を、マルチフィラメント糸を加工する本発明による装置のいくつかの実施例に基づき、添付の図面を参照しながらより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】1本のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置の第1の実施例を概略的に示す縦断面図である。
【
図2】
図1に示した実施例の給湿装置を概略的に示す横断面図である。
【
図3】
図1に示した実施例の交絡装置を概略的に示す横断面図である。
【
図4】1本のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置の1つの別の実施例を概略的に示す縦断面図である。
【
図5】複数のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置の1つの別の実施例を概略的に示す図である。
【
図6】延伸装置に後置された、
図1に示した装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1、
図2および
図3には、1本のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置100の第1の実施例が複数の視点で示されている。
図1には縦断面図が示されており、
図2には給湿装置の横断面図が示されており、
図3には交絡装置の横断面図が示されている。装置全体を説明するために、最初に
図1に示した実施例を参照する。
【0032】
1本のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置100の、
図1に示す実施例では、糸3の糸走路内に、給湿装置1と交絡装置2とが、互いに間隔をあけて相前後して配置されている。給湿装置1は、一方の端面に入口5.1を有しており、反対側に位置する端面に出口5.2を有している。これに対応して、交絡装置2は、入口10.1と出口10.2とを有している。交絡装置2の入口10.1と給湿装置1の出口5.2とは、互いに向かい合って位置しておりかつ互いに間隔をあけて配置されている。
図1では、この間隔は符号Aで示されている。
【0033】
給湿装置1を説明するために、
図1の他に、追加的に
図2も参照する。この点で、以下の説明は
図1および
図2に当てはまる。
【0034】
給湿装置1は、入口5.1と出口5.2との間に延びる給湿溝4を有している。入口5.1の領域では、給湿溝4の溝底部4.1に流体通路7が開口している。流体通路7は、流体源8に接続されている。流体源8は、この実施例では調量ポンプ8.1とタンク8.2とにより形成されており、タンク8.2には、糸3を濡らすための液体が含まれている。溝底部4.1では、出口5.2と流体通路7との間に接触面4.2が延びている。接触面4.2は、この実施例では符号Lで示す長さを有している。接触面4.2の一般的な長さは、少なくとも20mmである。給湿装置1は移動可能に支持体6に保持されており、これにより、間隔Aを変化させることができる。この場合、給湿装置1を、任意の位置で支持体6に位置固定することができる。
【0035】
ここで、交絡装置2を説明するために、
図1および
図3を参照する。この点で、以下の説明は両方の図に当てはまる。
【0036】
交絡装置2は、入口10.1と出口10.2との間に延びる糸通路9を有している。糸通路9に対応して、側方の糸通しスリット11が配置されており、糸通しスリット11は、交絡装置2の長辺にわたり延びて、糸通路9内への糸の挿入を可能にする。交絡装置2の中間領域には、糸通路9に対して横方向に形成された空気通路12が設けられている。空気通路12は、糸通路9に開口しており、制御弁14を介して圧縮空気源13に接続されている。空気通路12は、この実施例では糸走行方向に傾斜して糸通路9に開口している。
【0037】
今、この実施例の機能を説明するために、
図1のみを参照する。
【0038】
運転中、給湿装置1には液体、例えば水溶液が、流体源8によって流体通路7に供給される。液体は、流体通路7を経て、給湿溝4の溝底部4.1に達する。連続的に走行する糸3が、接触面4.2に沿って液体を引きずり、これにより、液体を吸収する。この場合、マルチフィラメント糸の内部への液体の分配が、糸の交絡によって生じ、かつ糸走行方向とは反対の方向に広がる振動および撚り現象によって支援される。
【0039】
交絡のために、交絡装置2では空気通路12を介して圧縮空気が糸通路9内に導入される。圧縮空気は、圧縮空気源13および制御弁14を介して2~5barの範囲の所定の作動圧力で、空気通路に供給される。作動圧力に応じて、糸3は糸通路内で交絡させられる。これにより、糸の内部に、糸走行方向とは反対の方向に伝播する振動および撚り作用が生じる。糸の内部のこの動的な作用および振動は、
図1に破線の糸走路によって概略的に示されている。その他の点では、糸3は、非作動の交絡装置2と共に図示されている。
【0040】
振動を給湿装置1の給湿溝4によって吸収し、糸3に液体を分配するために利用することができるようにするためには、給湿装置1の出口5.2と交絡装置2の入口10.1との間の間隔Aが保たれねばならない。交絡装置2の作動圧力に応じて、この間隔は、50mm~最大1000mmの範囲内にある。実際の使用中、糸における振動はオペレータによって認識することができるため、交絡装置2の作動圧力に応じた間隔Aの調整が可能である。
【0041】
図1に示す実施例では、糸3は、直線的な糸走路内で非接触式に給湿装置1と交絡装置2との間を案内される。ただし、基本的に、交絡装置2内での糸案内のために、入口10.1および出口10.2に対応して各1つの糸ガイドを配置する可能性もある。これに関して
図4には、少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置の1つの別の実施例が縦断面図で概略的に示されている。
図4に示す実施例は、
図1に示した実施例と実質的に同一であるため、ここでは相違点についてのみ説明し、その他の点は上述の説明を参照されたい。
【0042】
図4に示す実施例では、給湿装置1の出口5.2と交絡装置2の入口10.1との間に、糸ガイド15.1が配置されている。交絡装置2の反対に位置する出口側には、第2の糸ガイド15.2が配置されている。これにより、糸3は、交絡装置2の入口10.1の上流側と、交絡装置2の出口10.2の下流側とにおいて、各1つの糸ガイド15.1,15.2によってガイドされる。給湿装置1と交絡装置2との間の糸ガイド15.1では、糸は、比較的小さな巻付け角でもってガイドされる。巻付け角は、
図4に概略的に図示されており、符号aで示されている。巻付け角aは、10°の最大値を有しており、これにより、通り越しおよび糸3の内部での振動のフィードバックを妨げることはない。0~最大10°の範囲内にあるこのような小さな巻付け角aにより、間隔の大きさに応じて、糸3の内部で後退する振動の伝達が保証されている。
【0043】
よって、
図4に示す本発明による装置の実施例の機能は、
図1に示した実施例と同一であるため、反復を避けるために上述の説明を参照されたい。
【0044】
溶融紡糸プロセスでは、複数の糸を1つの糸群として紡糸ステーション内で同時に紡糸し、延伸し、かつ巻き取ることが一般的である。これに関して
図5には、複数のマルチフィラメント糸を加工する本発明による装置の1つの別の実施例が示されている。
図5には、この実施例の概略図が示されている。この場合、糸走路内に相前後して配置された給湿装置1と交絡装置2とが示されている。給湿装置1は、複数の給湿溝4を有している。交絡装置2内には、複数の糸通路9がそれぞれ各給湿溝4に対応して配置されている。糸通路9は、各1つの側方の糸通しスリット11を有しており、これにより、プロセス開始時に糸を糸通路9内に導入することができる。この場合、給湿装置1の給湿溝4の構成および交絡装置2の糸通路9の構成は、上述の実施例と同一である。給湿溝4の流体源への接続部は、ここでは詳細には示されていない。基本的に、全ての給湿溝4に、1つの中央供給通路から同時に液体を供給することができる。ただし、基本的に、各給湿溝に、個々に調量された流体量を供給することもできる。
【0045】
交絡装置2において圧縮空気は、好適には1つの共通の圧縮空気接続部を介して複数の空気通路(ここには図示せず)に供給され、これにより、各糸通路9内に糸3の交絡を生ぜしめる。
【0046】
図5に示す実施例では、給湿装置1と交絡装置2とが定置に位置決めされているため、給湿装置1の出口側16と交絡装置2の入口側17との間の間隔Aは、固定的に設定されている。この場合、調節手段は設けられていない。
【0047】
上述の、
図1および
図4に示した実施例では、間隔Aを調節するために、給湿装置1が移動可能に支持体6に保持されている。ただし、基本的に、代替的に交絡装置2を支持体において変位可能に形成する可能性もある。つまり、給湿装置1が定置に形成され、かつ交絡装置2が移動可能に形成されていてもよい。ただしまた、別の代替的な構成では、両方の装置が変位可能に形成されている。
【0048】
追加的に、
図1および
図4に示した実施例では、支持体6に設けられた給湿装置1が、取外し可能に形成されている可能性もある。本発明による装置のこのような構成は、好適には、マルチフィラメント糸を製造するために極めて様々なプロセスを利用することができるようにするために使用される。
【0049】
可能な限り多くの数の均一に分配された交絡結節点を糸の内部に生ぜしめることができるようにするために、糸への給湿は、水性の液体の給湿装置によって行われる。
【0050】
最後に
図6には、延伸装置200に後置された、
図1に示した装置が示されている。延伸装置200は、この実施例では概略的に複数のゴデット201,202,203,204により示されている。この場合、ゴデット201,202,203,204の数および配置は、そのときどきの溶融紡糸法に応じて変更することができ、ゴデット201,202,203,204は、加熱式または非加熱式に形成されていてよい。ゴデット201,202,203,204は、例えばゴデット202,203間で延伸ゾーンに到達するために、それぞれ異なる回転数で運転されていてよい。
図6に示した延伸装置200は、例えば、ここには図示されていない溶融紡糸装置に後置されていてよいFDY延伸エリアである。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置であって、糸に液体を塗布する給湿装置(1)と、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置(2)とを備えており、前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、糸走路内に相前後して配置されている、装置において、
前記給湿装置(1)の出口(5.2)と前記交絡装置(2)の入口(10.1)との間の間隔(A)が、交絡によって生じた振動が前記給湿装置(1)の給湿溝(4)内の糸(3)に作用するように選択されていることを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間の前記間隔(A)は、前記交絡装置(2)の作動圧力に応じて50mm~1000mmの範囲内である、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間の前記間隔(A)は、前記給湿装置(1)の移動によって、かつ/または前記交絡装置(2)の移動によって調節可能に形成されている、請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記給湿装置(1)の前記出口(5.2)と前記交絡装置(2)の前記入口(10.1)との間に糸ガイド(15.1)が配置されており、該糸ガイド(15.1)において、前記糸(3)を0°~10°の範囲の巻付け角(a)でガイドすることができる、請求項
1記載の装置。
【請求項5】
前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)は、溝底部(4.1)に少なくとも20mmの長さを有する接触面(4.2)を有している、請求項
1記載の装置。
【請求項6】
前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)は、前記溝底部(4.1)内に糸走行方向で見て前記接触面(4.2)の手前に、流体源(8)に接続可能な流体通路(7)を有している、請求項5記載の装置。
【請求項7】
前記給湿装置(1)は取外し可能に支持体(6)に保持されている、請求項
1記載の装置。
【請求項8】
前記交絡装置(2)は、前記給湿装置(1)の前記給湿溝(4)に整合する糸通路(9)を有している、請求項
1記載の装置。
【請求項9】
前記交絡装置(2)は、前記糸通路(9)に横方向に開口する空気通路(12)を有しており、該空気通路(12)は、圧縮空気源(13)に接続可能である、請求項8記載の装置。
【請求項10】
前記給湿装置(1)は、平行に相並んで形成された複数の給湿溝(4)を有しており、前記交絡装置(2)は、各前記給湿溝(4)に対応するガイド通路(9)を有している、請求項
1記載の装置。
【請求項11】
前記交絡装置(2)は、タングルノズルとして形成されている、請求項
1記載の装置。
【請求項12】
前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、一体の構成群として形成されている、請求項
1記載の装置。
【請求項13】
当該装置は、前記マルチフィラメント糸を延伸させる延伸装置に後置されており、該延伸装置は、少なくとも1つの加熱可能なゴデットを有している、請求項
1記載の装置。
【請求項14】
少なくとも1本のマルチフィラメント糸を加工する装置であって、糸に液体を塗布する給湿装置(1)と、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置(2)とを備えており、前記給湿装置(1)と前記交絡装置(2)とは、糸走路内に相前後して配置されている、装置において、
前記給湿装置(1)の出口(5.2)と前記交絡装置(2)の入口(10.1)との間の間隔(A)が、50mm~1000mmの範囲内にあることを特徴とする、装置。
【請求項15】
1本のマルチフィラメント糸を加工する方法であって、完全延伸後の糸(FDY)に、給湿装置によって液体を給湿し、引き続く糸走路内で、給湿された前記糸に交絡結節点を形成する交絡装置によって糸を案内し、前記給湿装置の出口と前記交絡装置の入口との間の間隔を、前記交絡装置によって前記糸に生じた振動が、前記給湿装置の給湿溝内に位置する前記糸の部分の少なくとも部分的な横方向変位を生じさせ、かつ/または前記給湿装置の前記出口と前記交絡装置の前記入口との間の間隔が50mm~1000mmの範囲内にあるように選択する、方法。
【国際調査報告】