(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】抗癌特性を有する低分子量HE800エキソ多糖誘導体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08B 37/00 20060101AFI20240621BHJP
A61K 31/737 20060101ALI20240621BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240621BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20240621BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240621BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C08B37/00 P
A61K31/737
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61K31/704
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580984
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022068227
(87)【国際公開番号】W WO2023275343
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506413247
【氏名又は名称】アンスティテュ・フランセ・ドゥ・レシェルシェ・プール・レクスプローテシオン・ドゥ・ラ・メール (イエフエルウメール)
(71)【出願人】
【識別番号】524002212
【氏名又は名称】アンスティテュ・ドゥ・カンセロロジー・ドゥ・ルウェスト
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・コリエク-ジュオル
(72)【発明者】
【氏名】コリンヌ・サンカン
(72)【発明者】
【氏名】ハビエル・ムニョス・ガルシア
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・エイマン
(72)【発明者】
【氏名】アガタ・ズィクウィンスカ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
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4C086AA04
4C086EA10
4C086EA26
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4C090AA04
4C090AA09
4C090BA91
4C090BB95
4C090BC19
4C090BD01
4C090BD36
4C090CA31
4C090CA35
4C090DA09
4C090DA23
(57)【要約】
本発明は、深海熱水環境由来の中温性海洋細菌(HE800株、ビブリオ属のビブリオ・ディアボリクス種)により分泌される海洋生来型エキソ多糖から調製される低分子量非硫酸化又は硫酸化エキソ多糖誘導体を提供し、癌の治療に対するそのような低分子量エキソ多糖誘導体の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における癌の治療での使用のための低分子量エキソ多糖誘導体であって、
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型エキソ多糖(EPS)のフリーラジカル解重合からなる工程;及び
(b)解重合型EPSから低分子量エキソ多糖誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、低分子量エキソ多糖誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法により取得されるか、
又は前記低分子量エキソ多糖誘導体が低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体であり、前記低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体が、
(a')5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型エキソ多糖(EPS)のフリーラジカル解重合からなる工程;
(b')硫酸化解重合型EPSの総質量に対して5質量%~40質量%の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖を取得するために十分な量の少なくとも1種の硫酸化剤を解重合型EPSに添加する工程を含む、硫酸化解重合型EPSを取得するための解重合型EPSの硫酸化からなる後続工程;及び
(c')硫酸化解重合型EPSから低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法により取得される、低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項2】
工程(b)又は工程(c')が、分画、特に、サイズ排除クロマトグラフィーにより行われる分画により行われる、請求項1に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項3】
20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して0質量%の硫酸基置換度を有するHE800DRである、請求項1又は請求項2に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項4】
20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して20質量%の硫酸基置換度を有する低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体HE800DRS
20である、請求項1又は請求項2に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項5】
20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して30質量%の硫酸基置換度を有する低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体HE800DRS
30である、請求項1又は請求項2に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項6】
癌が、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項7】
癌が、骨癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、性器及び生殖器官の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性癌、脊髄腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項8】
癌が、骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項9】
被験体が癌患者である、請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための低分子量エキソ多糖誘導体。
【請求項10】
患者における癌の治療での使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載の有効量の低分子量エキソ多糖誘導体及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項11】
癌が、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病からなる群から選択される、請求項10に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項12】
癌が、骨癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、性器及び生殖器官の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性癌、脊髄腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫からなる群から選択される、請求項10又は請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項13】
癌が、骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択される、請求項10又は請求項11に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項14】
被験体が癌患者である、請求項10から13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも1種の追加の生物学的に活性な薬剤を更に含む、請求項10から14のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項16】
生物学的に活性な薬剤が抗癌剤である、請求項15に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項17】
抗癌剤が、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物アルカロイド、インターカレート性抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗薬、分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物応答修飾物質、抗ホルモン剤及び抗アンドロゲン剤からなる群から選択される、請求項16に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項18】
抗癌剤が、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、パクリタキセル、テモゾロミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、ダカルバジン(decarbazine)、アルトレタミン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビンリン酸エステル、クラドリビン、ペントスタチン、シタラビン、アザシチジン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルテチミド(aminogluthimide)、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタン及びアミホスチンからなる群から選択される、請求項16に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項19】
抗癌剤がドキソルビシン(doxorubicine)である、請求項18に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、その全体が参照により本明細書中に組み入れられる、2021年7月1日出願の欧州特許出願第EP 21 183 145号に対する優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌は、先進国における死亡の主な原因に含まれる。癌の管理のための現行の主要な治療としては、外科手術、細胞傷害性化学療法、標的化療法、放射線療法、内分泌療法、及び免疫療法が挙げられる。過去数十年の間に癌の治療においてなされた努力及び成果にもかかわらず、疾患再発及び進行は、療法に対する主な障害のままである。主要な臨床的課題のうちの1つは、薬物耐性の発達である。薬物耐性は、2つの形態で存在する:薬物が当初は効果的であるが、時間をかけて効果がなくなる、獲得耐性;及び治療の開始時から薬物の効果がない場合に生じる、内因性耐性。現在利用可能な療法同士を組み合わせることによるか、又は新規療法を開発することによるかのいずれかで、薬物耐性に対抗するための多数の戦略が設計されてきた。免疫療法及び標的化療法に対する新規治療剤の開発及び応用へと焦点が移動しながら、化学療法が、未だに大多数の癌の治療における標準治療であり、新規且つ有効な化学療法剤が未だに必要である。
【0003】
炭水化物、及び特にヘパリン又はヘパラン硫酸は、現在、癌を治療するための良好な候補であると考えられている。しかしながら、それらは両方とも抗凝固活性を示し、したがって、有害な出血性合併症を誘導し得るので、それらの治療的使用は限定される。ヘパリン及びヘパラン硫酸の別の欠点は、未知の異種間汚染の高いリスクをもたらし得る、それらの動物起源である(Stevensonら、Research、2007、120:S107~S111;Velascoら、Drug Discov.Today、2010、15:553~560)。結果として、ヘパリン類似体の治療能力の探索が急発展している。PI-88と命名されたホスホマンノペンタオース及びホスホマンノテトラオースの硫酸化形態(Ferroら、Carbohydr.Res.、2001、332:183~189);並びにマルトヘキソースの硫酸化形態及び硫酸化マルトトリオース(Vismaraら、Molecules、2012、17:9912~9930)等の硫酸化オリゴ糖が研究されてきた。プルネラ・ブルガリスL.(Prunella vulgaris L.)から抽出された2種類の多糖もまた、それらの抗肺腺癌活性に関して記載されてきた(Fengら、Molecules、2010、15:5096~5103)。
【0004】
近年、多様な産業における新たな用途を有し得るであろう新規微生物多糖の単離及び特定が注目を集めてきた。それらは、海藻、甲殻類、動物又は植物等の他の供給源由来の多糖と競り合う。海洋環境由来の微生物の大量培養への関心が著しく増加してきており、これは、十分に活用されていない資源のバイオテクノロジー用途に対する革新的アプローチを代表する。硫酸化される場合、様々な供給源由来の多糖が、同じ出血のリスクを伴わず、大きな「生物種障壁」に起因するプリオン又は新規出現ウイルス等の非従来的な伝染性物質による汚染の低いリスクを伴って、グリコサミノグリカン(GAG)、特にヘパラン硫酸又はヘパリンと一部の生物学的特性を共有し得る(DeAngelis、Appl.Microbiol.Biotechnol.、2012、94:295~305)。
【0005】
深海熱水条件に関連付けられる海洋細菌は、好気性炭水化物添加培地中で、通常とは異なる細胞外ポリマーを産生する能力が実証されてきた。それらの細菌は、生物活性化合物を設計し、それらの特異性を改善するために改変することができる、独特な構造的特徴を提示する(Rehmら、Rev.Microbiol.、2010、8:578~592;Colliec-Jouaultら、Handbook of Exp.Pharmacol.、2012、423~449)。特に、生物学的活性を促す目的で、深海熱水性細菌(ビブリオ属(Vibrio)のビブリオ・ディアボリクス(Vibrio diabolicus))により産生されるエキソ多糖HE800 EPSの化学的修飾(解重合及び置換反応)が行われた。線維芽細胞増殖を効率的に刺激する、そのようにして取得された低分子量(<25,000Da)HE800 EPS誘導体は、結合組織、特に、皮膚及び歯肉組織の疾患の治療又は予防における創傷治癒剤として有用であることが見出された(国際公開第2006/003290号)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/003290号
【特許文献2】国際公開第2007/066009号
【特許文献3】国際公開第02/002051号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Stevensonら、Research、2007、120:S107~S111
【非特許文献2】Velascoら、Drug Discov.Today、2010、15:553~560
【非特許文献3】Ferroら、Carbohydr.Res.、2001、332:183~189
【非特許文献4】Vismaraら、Molecules、2012、17:9912~9930
【非特許文献5】Fengら、Molecules、2010、15:5096~5103
【非特許文献6】DeAngelis、Appl.Microbiol.Biotechnol.、2012、94:295~305
【非特許文献7】Rehmら、Rev.Microbiol.、2010、8:578~592
【非特許文献8】Colliec-Jouaultら、Handbook of Exp.Pharmacol.、2012、423~449
【非特許文献9】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990、Mack Publishing社:Easton、PA
【非特許文献10】Delbarre-Ladratら、Microorganisms、2017、5(3):53
【非特許文献11】Raguenesら、Int.J.Syst.Bacteriol.、1997、47:989~995
【非特許文献12】Rougeauxら、J.Carbohydr.Res.、1999、322:40~45
【非特許文献13】Senniら、Mar.Drugs、2011、9:1664~1681
【非特許文献14】Senniら、Mar.Drugs、2013、11:1351~1369
【非特許文献15】Heymannら、Molecules、2016、21:309
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、菌株HE800(ビブリオ属のビブリオ・ディアボリクス菌種)により分泌される海洋生来型エキソ多糖(EPS)から誘導される3種類の低分子量多糖HE800DR、HE800DRS20及びHE800DRS30が、癌細胞生存率を効率的に低減させ、骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌細胞株を含む多様なヒト癌細胞株において癌細胞増殖を顕著に阻害することを示した。3種類の低分子量HE800 EPS誘導体は、同じ分子量(20,000Da)を有するが、異なる硫酸基置換度を有する(多糖の総質量に対して、HE800DRに関して0質量%、HE800DRS20に関して20質量%及びHE800DRS30に関して30質量%)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、第1の態様では、本発明は、被験体における癌の治療での使用のための低分子量エキソ多糖誘導体に関し、ここで、前記低分子量エキソ多糖誘導体は、
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型エキソ多糖(EPS)のフリーラジカル解重合からなる工程;及び
(b)解重合型EPSから低分子量エキソ多糖誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、低分子量エキソ多糖誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法により取得されるか、
又は前記低分子量エキソ多糖誘導体が低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体であり、前記低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体は、
(a')5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型エキソ多糖(EPS)のフリーラジカル解重合からなる工程;
(b')硫酸化解重合型EPSの総質量に対して5質量%~40質量%の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖を取得するために十分な量の少なくとも1種の硫酸化剤を解重合型EPSに添加する工程を含む、硫酸化解重合型EPSを取得するための解重合型EPSの硫酸化からなる後続工程;及び
(c')硫酸化解重合型EPSから低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法により取得される。
【0010】
特定の実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体を取得するために用いられる方法は、工程(b)が、分画、特に、サイズ排除クロマトグラフィーにより行われる分画により行われるものである。
【0011】
他の実施形態では、低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体を取得するために用いられる方法は、工程(c')が、分画、特に、サイズ排除クロマトグラフィーにより行われる分画により行われるものである。
【0012】
特定の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体は、20,000g/molの分子量及び解重合型EPSの総質量に対して0質量%の硫酸基置換度を有するHE800DRである。
【0013】
他の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体は、20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して20質量%の硫酸基置換度を有する低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体HE800DRS20である。
【0014】
更に他の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体は、20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して30質量%の硫酸基置換度を有する低分子量硫酸化エキソ多糖誘導体HE800DRS30である。
【0015】
特定の実施形態では、本明細書中に記載される通りの低分子量エキソ多糖誘導体は癌の治療において用いられ、ここで、癌は、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病からなる群から選択される。
【0016】
癌は、骨癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、性器及び生殖器官の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性癌、脊髄腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫からなる群から選択することができる。
【0017】
特定の実施形態では、癌は、固形悪性腫瘍である。特に、固形癌は、骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択することができる。
【0018】
特定の実施形態では、癌は転移性癌である。
【0019】
特定の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体はHE800DR、HE800DRS20又はHE800DRS30であり、癌は骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択される。特定の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体はHE800DRであり、癌は肺癌及び黒色腫から選択される。他の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体はHE800DRS20であり、癌は骨肉腫である。更なる他の詳細な実施形態では、低分子量エキソ多糖誘導体はHE800DRS30であり、癌は骨肉腫、乳癌又は結腸癌である。
【0020】
特定の好ましい実施形態では、被験体は癌患者である。癌患者は、癌に罹患していることができるか、又は癌に対する療法を以前に受けていることができる。癌患者が癌に罹患している場合、癌患者は、癌に対する療法を受けている最中であり得る。
【0021】
同じ第1の態様では、本発明は、それを必要とする被験体に本明細書中で規定される通りの治療有効量の低分子量エキソ多糖誘導体を投与する工程を含む、被験体における癌を治療するための方法を提供する。特に、低分子量エキソ多糖誘導体は、HE800DR、HE800DRS20又はHE800DRS30であり得る。本発明の治療方法の特定の好ましい実施形態では、被験体は、上記の通りの癌患者である。特定の好ましい実施形態では、治療対象である癌は、上記の通りである。
【0022】
別の態様では、本発明は、被験体における癌の治療での使用のための、本明細書中に規定される通りの有効量の低分子量エキソ多糖誘導体、及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。例えば、医薬組成物中に存在する低分子量エキソ多糖誘導体は、HE800DR、HE800DRS20又はHE800DRS30であり得る。特定の好ましい実施形態では、本明細書中に記載される医薬組成物を用いて治療される対象である被験体は、上記の通りの癌患者である。特定の好ましい実施形態では、治療対象である癌は、上記の通りである。
【0023】
特定の実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1種の追加の生物学的に活性な薬剤を更に含む。生物学的に活性な薬剤は、抗癌剤、例えば、アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物アルカロイド、インターカレート性抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗薬、分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物応答修飾物質、抗ホルモン剤及び抗アンドロゲン剤からなる群から選択することができる抗癌剤であり得る。特に、抗癌剤は、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、パクリタキセル、テモゾロミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、ダカルバジン(decarbazine)、アルトレタミン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビンリン酸エステル、クラドリビン、ペントスタチン、シタラビン、アザシチジン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルテチミド(aminogluthimide)、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタン又はアミホスチンであり得る。特定の実施形態では、抗癌剤は、ドキソルビシン(doxorubicine)である。
【0024】
本発明のこれら及び他の対象、利点及び特徴は、好ましい実施形態の以下の詳細な説明を読んだ当業者には明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1-1】ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)及び(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図1-2】ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)及び(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図2-1】ヒトA549肺癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)及び(B)HE800DR、(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図2-2】ヒトA549肺癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)及び(B)HE800DR、(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図3-1】ヒトMDA-MB-231乳癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(C)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(D)HE800DR、(E)HE800DRS及び(F)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図3-2】ヒトMDA-MB-231乳癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(C)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(D)HE800DR、(E)HE800DRS及び(F)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図4-1】ヒトA375黒色腫細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(C)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(D)HE800DR、(E)HE800DRS及び(F)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図4-2】ヒトA375黒色腫細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(C)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(D)HE800DR、(E)HE800DRS及び(F)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図5-1】ヒトCaco2結腸癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)及び(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図5-2】ヒトCaco2結腸癌細胞株における低分子量HE800エキソ多糖の作用を示す図である。異なる濃度での(A)HE800DR、(B)及び(C)HE800DRS(すなわち、HE800DRS
20)及び(D)高度硫酸化HE800DRS(すなわち、HE800DRS
30)の存在下での細胞生存率、並びに時間の関数としての(E)HE800DR、(F)HE800DRS及び(G)高度硫酸化HE800DRSの存在下での標準化細胞指数。
【
図6A】癌細胞に対するHE800DR及びドキソルビシンの相加作用を示す図である。ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞を、100μg/mLのHE800DRの存在下又は非存在下で、漸増用量のドキソルビシンを用いて処理した。(A)72時間のMTTアッセイにより、細胞生存率/増殖を測定した。
【
図6B】癌細胞に対するHE800DR及びドキソルビシンの相加作用を示す図である。ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞を、100μg/mLのHE800DRの存在下又は非存在下で、漸増用量のドキソルビシンを用いて処理した。(B)細胞増殖を、xCelligence技術によりリアルタイムで追跡した。
【
図7A】HE800DRがヒトA549肺腺癌細胞のトランスクリプトームプロフィールを調節することを示す図である。(A)対照群と比較したHE800DR処理A549細胞における差次的に発現された遺伝子のボルケーノプロット解析。顕著に変化させられた遺伝子のみが色付きで示される。
【
図7B】HE800DRがヒトA549肺腺癌細胞のトランスクリプトームプロフィールを調節することを示す図である。(B)HE800DRにより変化させられた20種類の遺伝子の機能解析。
【
図7C】HE800DRがヒトA549肺腺癌細胞のトランスクリプトームプロフィールを調節することを示す図である。(C)HE800DRにより調節される遺伝子に関連付けられる機能的分子ネットワーク。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
本明細書中で用いる場合、用語「被験体」とは、癌を発症することができるが、疾患に罹患していてもよく又は罹患していなくてもよい、ヒト又は他の哺乳動物(例えば、霊長類、イヌ、ネコ、ヤギ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ等)を意味する。非ヒト被験体は、トランスジェニック又はそれ以外の方法で改変された動物であり得る。本発明の多数の実施形態では、被験体はヒトである。そのような実施形態では、被験体は、多くの場合に「個体」又は「患者」と称される。これらの用語は、特定の年齢を意味せず、したがって、新生児、小児、10代、及び成人を包含する。より具体的には、用語「患者」とは、疾患に罹患している個体を意味する。つまり、用語「癌患者」とは、癌に罹患している個体を意味する。癌患者は、癌を有すると診断されていてもよく、又は診断されていなくてもよい。この用語はまた、癌に対する療法を以前に受けている個体も含む。
【0027】
本明細書中で用いる場合、用語「癌」とは、典型的には、調節されない細胞生育、分化の欠損及び局所組織に浸潤し且つ転移する能力により特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を意味するか又は記載する。癌は、いずれかの器官のいずれかの組織中で発達し得る。癌の例としては、限定するものではないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が挙げられる。より詳細には、そのような癌の例としては、骨癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、性器及び生殖器官の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性癌、脊髄腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫が挙げられる。
【0028】
用語「侵攻性」及び「浸潤性」は、本明細書中で相互に交換可能に用いられる。癌を特徴付けるために本明細書中で用いる場合、これらの用語は、隣接組織へとその境界を越えて拡大する腫瘍の傾向を意味する。浸潤性癌は、腫瘍が特定の器官へと限局している器官限局型癌と対比させることができる。腫瘍の浸潤特性は、多くの場合、マトリックス物質及び基底膜物質を分解して、腫瘍が被膜の境界を越えて、且つ腫瘍が局在する特定の組織の境界を越えて拡大することを可能にする、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素の生産を伴う。
【0029】
本明細書中で用いる場合、用語「転移」とは、1つの器官又は組織から別の部位への腫瘍細胞の拡散を意味する。この用語はまた、転移の結果として新たな部位に形成された腫瘍組織も意味する。「転移性癌」は、その元の、又は原発部位から拡散する癌であり、「二次性癌」又は「二次性腫瘍」とも称される場合がある。一般的に、転移性腫瘍は、それらが由来する原発腫瘍の組織に基づいて命名される。腫瘍転移のプロセスは、局所的浸潤及び細胞間マトリックスの破壊、血管、リンパ管又は他の輸送導管への侵入、循環中での生存、二次的部位への血管からの溢出並びに新規部位での生育を含む、多段階事象である。
【0030】
用語「治療」は、(1)疾患若しくは状態(ここでは、癌)の発症を遅延若しくは予防すること;(2)疾患若しくは状態の症状の進行、重症化、若しくは悪化を減速若しくは停止させること;(3)疾患若しくは状態の症状の改善を引き起こすこと;又は(4)疾患若しくは状態を治癒させることを目的とする方法又はプロセスを特徴付けるために、本明細書中で用いられる。治療は、治療的作用に関しては、疾患又は状態の開始後に投与することができる。代替的に、治療は、予防的又は防止的作用に関しては、疾患又は状態の発症前に投与することができる。この場合、用語「予防」が用いられる。
【0031】
「医薬組成物」は、本明細書中に記載される有効量の低分子量エキソ多糖、及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含むものとして、本明細書中で定義される。
【0032】
本明細書中で用いる場合、用語「有効量」とは、その意図される目的、例えば、細胞、組織、系又は被験体における所望の生物学的又は医学的応答を実現させるために十分である、化合物、薬剤、又は組成物のいずれかの量を意味する。
【0033】
用語「薬学的に許容される担体又は賦形剤」とは、有効成分の生物学的活性の有効性に干渉せず、投与される濃度で宿主に対して過度に毒性でない、担体媒体を意味する。この用語は、溶媒、分散媒、コーティング剤、抗微生物剤及び抗真菌剤、等張化剤、及び吸収遅延剤等を含む。薬学的に活性な物質に対するそのような媒体及び薬剤の使用は、当技術分野で周知である(例えば、その全体で参照により本明細書中に組み入れられる「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990、Mack Publishing社:Easton、PAを参照されたい)。
【0034】
数字に関連して本明細書中で用いられる場合、用語「概ね」及び「約」は、一般的に、別途明記されるか又はそれ以外に文脈から明らかでない限り(そのような数字が考えられる値の100%を超過する場合を除いて)、数字の両方向(数字を超えるか又は数字未満)での10%の範囲内に入る数字を含む。
【0035】
特定の好ましい実施形態の詳細な説明
上記で言及した通り、本発明は、抗癌特性を示す生来型HE800エキソ多糖の低分子量誘導体、及び癌の治療での低分子量HE800エキソ多糖誘導体の使用を提供する。
【0036】
I - 低分子量HE800エキソ多糖誘導体
本発明で用いられる低分子量(LMW)エキソ多糖誘導体は、深海熱水環境由来の中温性海洋細菌により分泌される生来型エキソ多糖(EPS)であるHE800 EPSから誘導される。近年、海洋起源の新規多糖の単離及び特定が注目を集めてきた。海洋細菌EPS及びその誘導体は、適正製造規範に従う制御された条件において実行可能な経済的コストで製造することができ、大きな「生物種障壁」に起因してプリオン又は新規出現ウイルス等の非従来的な伝染性物質により患者が感染することに関する非常に低いリスクを示すので、治療用化合物として幾分かの大きな利点を有する。
【0037】
3種類の主要な属(ビブリオ属、アルテロモナス属(Alteromonas)及びシュードアルテロモナス属(Pseudoalteromonas))に属する深海熱水噴出孔環境由来の海洋細菌は、好気性炭水化物添加培地中で、通常とは異なる細胞外ポリマーを産生する能力が実証されてきた。分泌されるエキソ多糖は、生物活性化合物を設計し、それらの特異性を改善するために改変することができる、独特な構造的特徴を提示する(Rehmら、Rev.Microbiol.、2010、8:578~592;Colliec-Jouaultら、Handbook of Exp.Pharmacol.、2012、423~449;Delbarre-Ladratら、Microorganisms、2017、5(3):53)。特に、活動性深海熱水噴出孔サンプルから単離される対象であるビブリオ属の最初のEPS産生菌株は、ビブリオ・ディアボリクスと命名された(Raguenesら、Int.J.Syst.Bacteriol.、1997、47:989~995)。この菌株は、直鎖四糖(tretrasaccharide)反復単位:2個のグルクロン酸残基、1個のN-アセチル化グルコサミン残基及び1個のN-アセチル化ガラクトサミン残基からなる、HE800 EPSと称される高分子量(>106g/mol - Rougeauxら、J.Carbohydr.Res.、1999、322:40~45)エキソ多糖を産生する。
【0038】
海洋生来型エキソ多糖HE800 EPS由来のLMW EPS誘導体及びLMW硫酸化EPS誘導体が、本発明者らにより以前に調製されている(国際公開第2006/003290号;同第2007/066009号;同第02/002051号;Senniら、Mar.Drugs、2011、9:1664~1681;Senniら、Mar.Drugs、2013、11:1351~1369;Heymannら、Molecules、2016、21:309)。LMW EPS誘導体及びLMW硫酸化EPS誘導体は、それぞれ、ラジカル解重合の工程並びにラジカル解重合の第1工程及びそれに続く硫酸化反応を用いて調製され、それにより、30kg/mol(30,000Da)未満の分子量を有する生物活性分子を生じる。
【0039】
本発明の実務において、LMW EPS誘導体は、
(a)5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型EPSのフリーラジカル解重合からなる工程;及び
(b)解重合型EPSからLMW EPS誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、LMW EPS誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法を用いて調製される。
【0040】
本発明の実務において、LMW硫酸化EPS誘導体は、
(a')5,000~100,000g/molの分子量を有する解重合型EPSを取得するための、ビブリオ・ディアボリクス属の菌株HE800由来の海洋生来型EPSのフリーラジカル解重合からなる工程;
(b')硫酸化解重合型EPSの総質量に対して5%~40質量%の硫酸基置換度を有する硫酸化多糖を取得するために十分な量の少なくとも1種の硫酸化剤を解重合型EPSに添加する工程を含む、硫酸化解重合型EPSを取得するための解重合型EPSの硫酸化からなる後続工程;及び
(c')硫酸化解重合型EPSからLMW硫酸化EPS誘導体を単離する工程からなる後続工程であって、LMW硫酸化EPS誘導体が、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する、後続工程
を含む方法を用いて調製される。
【0041】
特定の実施形態では、工程(a)の終了時又は工程(a')の終了時に取得される解重合型誘導体は、凍結乾燥される。
【0042】
他の実施形態では、プロセスの工程(b')には、透析工程が続く。
【0043】
フリーラジカル解重合工程(工程(a)又は工程(a'))において、生来型HE800 EPSは、液体形態で、すなわち、培養培地中へと細菌により分泌されるままで、用いることができる。好ましくは、培養培地が遠心分離され、生来型HE800 EPSを含有し、細菌残渣を含まない上清のみが回収される。生来型HE800 EPSは、例えば、膜限外ろ過等の当業者に公知のいずれかの好適な技術により回収することができ、続いて、任意により、そのままで又は付加塩の形態で凍結乾燥することができる。
【0044】
生来型HE800 EPSのフリーラジカル解重合からなる工程(工程(a)又は工程(a'))は、好ましくは、金属触媒の存在下で、生来型HE800 EPSを含む反応混合物へと酸化剤の溶液を添加することにより、好ましくは行われる。酸化剤は、好ましくは、過酸化物、特に過酸化水素、並びに過酸、特に過酢酸及び3-クロロ過安息香酸から選択される。添加は、好ましくは、30分間~10時間の時間にわたって、連続的且つ撹拌しながら行われる。反応混合物は、好ましくは、フリーラジカル解重合反応の持続時間全体を通して、例えば、水酸化ナトリウム等の塩基性化剤の添加により6~8のpHで、且つ約30℃~70℃の温度で維持される。
【0045】
本発明の具体的実施形態に従えば、本工程において、生来型HE800 EPSは、約2mg/mL~約10mg/mL反応混合物の濃度で、反応混合物中に存在する。
【0046】
好ましい実施形態では、酸化剤は、好ましくは約0.1質量%~約0.5質量%、好ましくは0.1質量%~0.2質量%の程度の濃度を有する過酸化水素(H2O2)の溶液であり、V1/1000~V1/10mL/分、好ましくはV1/50~V1/500mL/分、より好ましくはV1/100mL/分の程度の流速で添加され、ここで、V1は、それに対して過酸化水素の溶液が添加される海洋エキソ多糖を含有する反応媒体の体積である。
【0047】
フリーラジカル解重合工程中に用いることができる金属触媒は、好ましくは、特に特許出願EP 0 221 977に記載される通り、Cu2+、Fe2+及びCr3+イオン並びにCr2O7
2-アニオンから選択される。具体的実施形態に従えば、金属触媒は、約10-3M~約10-1Mの濃度で、好ましくは約0.001M~約0.05Mの濃度で、反応混合物中に存在する。
【0048】
上記の通りのフリーラジカル解重合プロセスは、単一工程において、且つ良好な収率で、均一なLMW EPS誘導体を取得することを可能にする。本発明の文脈では、用語「均一な誘導体」は、高速サイズ排除クロマトグラフィーを用いて評価される場合に、5未満の多分散指数I(Mw/Mn)(式中、Mwは質量平均分子量であり、Mnは数平均分子量である)により特徴付けられる、サイズに関して均一である、多糖鎖の優勢な集団を表す単一主要ピークを示す誘導体を意味することが意図される。
【0049】
特定の実施形態では、解重合反応が終了した時点で、取得される解重合型EPSは、還元剤を用いて還元され、それにより、その還元性末端が非常に反応性である鎖が安定化され、特に、「ピーリング」反応による鎖加水分解が回避される。この作用に対して用いることができる還元剤の性質は、必須ではない。特に、還元剤は、水素化ホウ素ナトリウムであり得る。
【0050】
フリーラジカル解重合工程において用いられる金属触媒は、いずれかの好適な方法を用いて、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、好ましくは事前に不動態化された弱カチオン交換樹脂により、又はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)を用いる処理により、解重合反応の終了時(又は還元工程が行われる場合には還元反応の終了時)に取り除くことができる。
【0051】
フリーラジカル解重合(及び任意によりそれに続く還元工程)から生じる解重合型EPSは、必要な場合、例えば、膜限外ろ過又は透析による等、当業者に周知のいずれかの好適な技術を用いて、取り出すことができる。続いて、解重合型EPSは凍結乾燥され、後続の硫酸化工程(行われる場合)を改善するために必要なそれらの純度を増加させるために、サイズ排除クロマトグラフィーにより分画される。最後に、精製された解重合型EPSを、例えば、ピリミジン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、水酸化テトラブチルアンモニウム及び水酸化ナトリウムから選択することができる、弱又は強塩基の添加により、塩形態で調整することができる。この凍結乾燥塩は、例えば、Dow Chemical社により商品名DOWEX(登録商標)の下で販売されているもの等のイオン交換樹脂カラムに対して、例えば、1~8mg/mLの濃度での多糖誘導体の水溶液の溶出により、調製することができる。pHが酸性、例えば、5未満に留まる限り溶出液を回収し、続いて、上記で規定される通りの所望の塩基を用いて、pHが約6.5へと調整される。続いて、塩の形態でのEPS誘導体が、限外ろ過及び凍結乾燥される。
【0052】
LMW硫酸化EPS誘導体が調製される場合、付加塩の形態である可能性がある凍結乾燥EPS誘導体は、好ましくは、硫酸化工程(工程(b'))の開始時に無水溶媒中に溶解される。溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ホルムアミド、及びそれらの混合物から選択される。無水溶媒中に存在するEPS誘導体の量は、約1~10mg/mL、好ましくは約1mg/mL~約5mg/mLであり得、更により好ましくは、この量は約2.5mg/mLである。無水溶媒中でのEPSの溶解は、好ましくは、分子篩を含むアルゴン又は窒素下において、約1時間~約2時間にわたって室温で、及び続いて40℃~50℃の温度で、好ましくは約45℃で約2時間にわたって、撹拌しながら行われる。
【0053】
硫酸化工程中に用いられる1つ又は複数の化学的硫酸化剤を、凍結乾燥形態にあるか又は溶液の形態にある、解重合型及び/又は還元型EPSへと添加することができる。
【0054】
硫酸化剤は、好ましくは、ピリジン硫酸塩(遊離又はポリマーへとカップリングされた)、ジメチルホルムアミド硫酸塩、トリエチルアミン硫酸塩及びトリメチルアミン硫酸塩の錯体から選択することができる。1つ又は複数の化学的硫酸化剤は、好ましくは、溶液中のEPS誘導体の質量の約4~約6倍、更により好ましくは約5倍に相当する質量で、EPS誘導体の溶液へと添加される。続いて、化学的硫酸化反応が、好ましくは、所望の硫酸化度に応じて2~24時間の時間にわたって、撹拌しながら行われる。所望の硫酸化度に達したら、反応媒体の冷却後に硫酸化反応が停止される:
- 塩化ナトリウム飽和アセトン若しくはメタノールの存在下での沈殿、及びそれに続く水中での沈殿物の溶解によるか;
- 又は、好ましくは、反応体積の1/10に対して好ましくは同等な割合での水の添加及び、例えば、水酸化ナトリウム(3M)等の塩基性化剤を用いる9への反応媒体のpHの調整により。
【0055】
化学的硫酸化反応は、硫酸化度(又は硫酸基置換度)が、硫酸化解重合型EPSの総質量に対して5質量%~40質量%に含まれる値、例えば、硫酸化解重合型EPSの総質量に対して約5質量%、又は約10質量%、又は約15質量%、又は約20質量%、又は約25質量%又は約30質量%又は約35質量%、又は約40質量%に達するまで継続される。特定の実施形態では、化学的硫酸化反応は、硫酸化度が、硫酸化解重合型EPSの総質量に対して20質量%の値に達するまで継続される。他の実施形態では、化学的硫酸化反応は、硫酸化度が、硫酸化解重合型EPSの総質量に対して30質量%の値に達するまで継続される。
【0056】
特定の実施形態に従えば、硫酸化EPS誘導体の溶液は、好ましくは、様々な塩を除去するために透析され、続いて、凍結乾燥される。典型的には正確な分子量及び低い多分散指数を有する最終生成物は、工程(a)で取得されるLMW解重合型EPSからの、又は工程(b')で取得されるLMW硫酸化解重合型EPSからの単離により取得される。単離(工程(b)又は工程(c'))は、当技術分野で公知のいずれかの好適な方法により行うことができる。好ましくは、単離は、サイズ排除クロマトグラフィーにより行われる分画により行われる。
【0057】
単離(工程(b))後に取得されるLMW EPS誘導体、又は単離(工程(c'))後に取得されるLMW硫酸化EPS誘導体は、5,000~30,000g/mol、好ましくは10,000~25,000g/mol、より好ましくは15,000~22,000g/molに含まれる分子量、更により好ましくは約20,000g/molの分子量を有する。特定の好ましい実施形態では、単離(工程(b))後に取得されるLMW EPS誘導体、又は単離(工程(c'))後に取得されるLMW硫酸化EPS誘導体は、20,000g/molの分子量を有する。
【0058】
単離(工程(b))後に取得されるLMW EPS誘導体、又は単離(工程(c'))後に取得されるLMW硫酸化EPS誘導体は、5未満、好ましくは1.5~4、より好ましくは2未満の低い多分散指数を有する。多分散指数(PDI)は、誘導体の分子量の分布の尺度である。算出されるPDIは、数平均分子量により除算された質量平均分子量である。PDIは、典型的には、サイズ排除クロマトグラフィーにより測定される。
【0059】
特定の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体は、20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して0質量%の硫酸基置換度を有するHE800DRである。
【0060】
他の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体は、20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して20質量%の硫酸基置換度を有するLMW硫酸化EPS誘導体HE800DRS20である。HE800DRS20はまた、用語「HE800DRS」によっても本明細書中で指定される(特に、実験セクション及び図面において)。
【0061】
更に他の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体は、20,000g/molの分子量及び硫酸化解重合型EPSの総質量に対して30質量%の硫酸基置換度を有するLMW硫酸化EPS誘導体HE800DRS30である。HE800DRS30はまた、用語「高度硫酸化HE800DRS」によっても本明細書中で指定される(特に、実験セクション及び図面において)。
【0062】
II - 低分子量HE800エキソ多糖誘導体の使用
治療用途
A.適応
癌細胞生存率を効率的に低減させ、多様なヒト癌細胞株において癌細胞増殖を顕著に阻害するそれらの能力に起因して、本明細書中に記載される通りのLMW EPS誘導体(例えば、HE800DR)又はLMW硫酸化EPS誘導体(例えば、HE800DRS20又はHE800DRS30)は、被験体における癌の治療で用いることができる。
【0063】
本発明に従う被験体における癌の治療は、本明細書中に記載される通りのLMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物を用いて、遂行することができる。これらの方法は、一般的に、それを必要とする被験体への、本明細書中に記載される通りの有効量のLMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物の投与を含む。投与は、当業者に公知の方法のうちのいずれかを用いて行うことができる。特に、本明細書中に記載される通りのLMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、限定するものではないが、エアロゾル、非経口、経口又は局所経路を含む様々な経路のうちのいずれかにより、投与することができる。
【0064】
一般的に、被験体は、ヒト癌患者である。癌患者は、癌に罹患していることができるか、又は癌に対する療法を以前に受けていることができる。
【0065】
本発明の実務において、癌は、いずれかの器官のいずれかの組織中で発達したいずれかの癌であり得る。つまり、癌は、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病であり得る。癌の例としては、限定するものではないが、骨癌、肺癌、肝臓癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門領域の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、子宮癌、性器及び生殖器官の癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系の癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、膀胱癌、腎臓癌、腎細胞癌、腎盂癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性癌、脊髄腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫が挙げられる。
【0066】
特定の実施形態では、癌は、固形悪性腫瘍である。特に、固形癌は、骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択することができる。
【0067】
特定の実施形態では、癌は転移性癌である。
【0068】
特定の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体はHE800DR、HE800DRS20又はHE800DRS30であり、癌は骨肉腫、肺癌、乳癌、黒色腫及び結腸癌からなる群から選択される。特定の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体はHE800DRであり、癌は肺癌及び黒色腫から選択される。他の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体はLMW硫酸化EPS誘導体HE800DRS20であり、癌は骨肉腫である。更なる他の詳細な実施形態では、LMW EPS誘導体はLMW硫酸化EPS誘導体HE800DRS30であり、癌は骨肉腫、乳癌又は結腸癌である。
【0069】
一般的に、本明細書中に記載される通りのLMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、有効量、すなわち、その意図される目的を実現するために十分である量で、投与されるであろう。投与対象であるLMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又は医薬組成物の正確な量は、治療対象の被験体の年齢、性別、体重及び全身健康状態、所望の生物学的又は医学的応答等に応じて、被験体毎に異なるであろう。特定の実施形態では、有効量は、癌の発症を遅延若しくは予防するもの、並びに/又は癌の症状の進行、重症化、若しくは悪化を減速若しくは停止させるもの、並びに/又は癌の症状の改善を引き起こすもの、並びに/又は転移形成の発生の確率を予防、遅延及び/若しくは低減させるもの、並びに/又は転移が被験体において既に存在する場合、転移の個数、生長速度、サイズ等を低減させるものである。本発明に従う治療の効果は、当技術分野で公知の診断的アッセイ、試験及び手順のうちのいずれかを用いてモニタリングすることができる。
【0070】
特定の実施形態では、LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、本発明に従う治療方法において単独で投与することができる。他の実施形態では、LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、少なくとも1種の追加の治療剤又は治療手順と組み合わせて投与することができる。LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、治療剤若しくは治療手順の投与に先立って、治療剤若しくは手順と同時に、且つ/又は治療剤若しくは手順の投与後に、投与することができる。
【0071】
LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物と組み合わせて投与することができる治療剤は、癌の治療において又は患者全般に対して有益な作用を有することが公知である、多様な生物学的に活性な化合物(例えば、抗癌剤、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗生物質、抗酸化剤、防腐剤、及びそれらの組合せ)の中から選択することができる。LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物の投与と組み合わせて行うことができる治療手順としては、限定するものではないが、外科手術、放射線療法等が挙げられる。
【0072】
LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物と組み合わせて投与することができる抗癌剤としては、以下の群のうちの1つに慣用的に分類される薬物が挙げられる:アルキル化剤、プリン拮抗薬、ピリミジン拮抗薬、植物アルカロイド、インターカレート性抗生物質、アロマターゼ阻害剤、代謝拮抗薬、分裂阻害剤、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、生物応答修飾物質、抗ホルモン剤及び抗アンドロゲン剤。そのような抗癌剤の例としては、限定するものではないが、BCNU、シスプラチン、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、パクリタキセル、テモゾロミド、トポテカン、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、プロカルバジン、ダカルバジン(decarbazine)、アルトレタミン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、フルダラビンリン酸エステル、クラドリビン、ペントスタチン、シタラビン、アザシチジン、エトポシド、テニポシド、イリノテカン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ブレオマイシン、タモキシフェン、フルタミド、ロイプロリド、ゴセレリン、アミノグルテチミド(aminogluthimide)、アナストロゾール、アムサクリン、アスパラギナーゼ、ミトキサントロン、ミトタン及びアミホスチンが挙げられる。
【0073】
そのような抗癌剤の他の例としては、限定するものではないが、慢性リンパ性白血病の治療において用いられるアレムツズマブ(CAMPATH(商標))等の抗CD52抗体;結腸直腸癌及び乳癌の治療において用いられるベバシズマブ(AVASTIN(商標))等の抗VEGF抗体;急性骨髄性白血病の治療において用いられるゲムツズマブ オゾガマイシン(MYLOTARG(商標))等の抗CD33抗体;リンパ腫の治療において用いられるイブリツモマブ(ZEVALIN(商標))、ホジキンリンパ腫の治療において用いられるリツキシマブ(RITUXAN(商標))、ホジキンリンパ腫の治療において用いられるトシツモマブ(BEXXAR(商標))及び慢性リンパ性白血病の治療において用いられるアツムマブ(ARZERRA(商標))を含む抗CD20抗体;結腸直腸癌、頭頸部癌、及び扁平上皮細胞癌の治療において用いられるセツキシマブ(ERBITUX(商標))、並びに結腸直腸癌の治療において用いられるパニツムマブ(VECTIBEX(商標))等の抗EGFR抗体;乳癌及び胃癌の治療において用いられるトラスツズマブ(HERCEPTIN(商標))を含む抗Her2抗体;黒色腫の治療において用いられるイピリムマブ(YERVOY(商標))を含む抗CTLA4抗体;アドネクチン;並びにドメイン抗体を含む、癌の治療において用いられる治療用抗体が挙げられる。これらの抗体の活性断片及び融合体もまた、本明細書中での用途を見出すであろう。
【0074】
B.投与
所望の投与量でのLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体(任意により1つ若しくは複数の適切な薬学的に許容される担体又は賦形剤を用いる製剤化後)は、いずれかの好適な経路により、それを必要とする被験体に投与することができる。錠剤、カプセル剤、注入可能溶液剤、リポソーム中の封入、微小粒子剤、微小カプセル剤等を含む様々な送達系が公知であり、本発明のLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体を投与するために用いることができる。投与方法としては、限定するものではないが、経皮、皮内、筋内、肺内、硬膜外、眼内、及び経口経路が挙げられる。LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、いずれかの簡便又は他の適切な経路により、例えば、輸液又はボーラス注入により、上皮又は皮膚粘膜内膜(例えば、口腔、粘膜、直腸及び腸粘膜等)を介する吸収により、投与することができる。投与は、全身性又は局所的であり得る。非経口投与は、カテーテル挿入による等、患者の所与の組織を対象とし得る。当業者により理解されるであろう通り、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体が追加の治療剤と共に投与される実施形態では、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び治療剤は、同じ経路により(例えば、経口的に)又は異なる経路により(例えば、経口的及び静脈内的に)、投与することができる。
【0075】
C.投与量
本発明に従うLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体(又はその医薬組成物)の投与は、送達される量が意図される目的に対して有効であるような投与量で行われるであろう。投与経路、製剤化及び投与される投与量は、所望の治療効果、治療対象の障害の重症度、いずれかの感染の存在、患者の年齢、性別、体重及び全身健康状態並びにLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体の効力、バイオアベイラビリティ及びインビボ半減期、併用療法の使用(又はそれがないこと)、及び他の臨床的因子に依存するであろう。これらの因子は、療法の経過中に担当医師により容易に決定可能である。代替的、又は追加的に、投与対象である投与量は、動物モデルを用いる研究から決定することができる。これら又は他の方法に基づく最大有効性を達成するための用量の調整は当技術分野で周知であり、訓練された医師の能力の範囲内である。LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体を用いて研究が行われる場合、適切な投与量レベル及び治療の持続期間に関して、更なる情報が明らかになるであろう。
【0076】
本発明に従う治療は、単回用量又は複数回用量からなることができる。つまり、LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物の投与は、一定期間にわたって一定であるか、又は断続的且つ特定の間隔で、例えば、毎時間、毎日、毎週(又は一部の他の複数日間隔で);毎月、毎年(例えば、持続放出形態で)でのものであり得る。代替的に、送達は、所与の期間中に複数回、例えば、1週間に2回以上、1か月間に2回以上等で行うことができる。送達は、一定時間にわたる持続的送達、例えば、静脈内送達であり得る。
【0077】
III - 医薬組成物
上記で言及した通り、本明細書中に記載されるLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体は、それ自体で又は医薬組成物として投与することができる。したがって、本発明は、有効量のLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。一部の実施形態では、組成物は、1つ又は複数の追加の生物学的に活性な薬剤を更に含む。
【0078】
LMW EPS誘導体若しくはLMW硫酸化EPS誘導体、又はその医薬組成物は、所望の予防的治療効果を達成するために有効である、いずれかの量で、且ついずれかの投与経路を用いて、投与することができる。最適な医薬製剤は、投与経路及び所望の投与量に応じて変わり得る。そのような製剤は、投与される有効成分の物理的状態、安定性、インビボ放出の速度、及びインビボクリアランスの速度に影響を及ぼし得る。
【0079】
本発明の医薬組成物は、投与の容易さ及び投与量の均一性のために、単位剤形で製剤化することができる。本明細書中で用いる場合、表現「単位剤形」とは、治療対象である患者に対して単位投与量として好適な物理的に分離した単位を意味する。しかしながら、組成物の合計一日投与量は、合理的な医学的判断の範囲内で担当医師により決定されるであろうことが理解されるであろう。
【0080】
A.製剤化
注入可能調製物、例えば、無菌注入可能水性又は油性懸濁液を、好適な分散剤又は湿潤化剤、及び懸濁化剤を用いて、公知の技術に従って製剤化することができる。無菌注入可能調製物はまた、例えば、2,3-ブタンジオール中の溶液として、無毒の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の無菌注入可能溶液剤、懸濁液剤又はエマルジョン剤でもあり得る。水、リンゲル液(米国薬局方)及び等張塩化ナトリウム溶液が、利用することができる許容可能なビヒクル及び溶媒の中に入る。加えて、無菌固定油が、溶液又は懸濁化媒体として慣用的に利用される。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含むいずれかの無味固定油を利用することができる。オレイン酸等の脂肪酸もまた、注入可能製剤の調製において用いることができる。無菌液体担体は、非経口投与のための無菌液体形態組成物において有用である。
【0081】
注入可能製剤は、例えば、細菌保持性フィルターを通したろ過によるか、又は使用前に無菌水若しくは他の無菌注入可能媒体中に溶解若しくは分散させることができる無菌固体組成物の形態中に滅菌剤を組み込むことにより、滅菌することができる。無菌溶液剤又は懸濁液剤である液体医薬組成物は、例えば、静脈内、筋内、腹腔内、又は皮下注入により、投与することができる。注入は、単回押し出しを介するか、又は段階的輸液によることができる。必要又は所望である場合、組成物は、注入部位での疼痛を和らげるために、局所麻酔薬を含むことができる。
【0082】
有効成分の作用を延長するために、皮下又は筋内注入からの成分の吸収を減速させることが多くの場合に望ましい。非経口的に投与された有効成分の吸収の遅延は、油ビヒクル中に成分を溶解又は懸濁することにより、遂行することができる。注入可能デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリド等の生分解性ポリマー中に有効成分のマイクロカプセルマトリックスを形成させることにより作製される。有効成分とポリマーとの比率及び利用される特定のポリマーの性質に応じて、成分放出速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例としては、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)が挙げられる。デポー注入可能製剤もまた、身体組織と適合性であるリポソーム又はマイクロエマルジョン中に有効成分を捕捉することにより、調製することができる。
【0083】
経口投与のための液体剤形としては、限定するものではないが、薬学的に許容されるエマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、溶液剤、懸濁液剤、シロップ剤、エリキシル剤、及び加圧組成物が挙げられる。LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体に加えて、液体剤形は、例えば、水又は他の溶媒等の当技術分野で一般的に用いられる不活性希釈剤、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、及びソルビタンの脂肪酸エステル並びにそれらの混合物等の可溶化剤及び乳化剤を含有することができる。不活性希釈剤とは別に、経口組成物はまた、湿潤化剤、懸濁化剤、保存料、甘味料、香味料、及び香料、増粘剤、着色料、粘度調節剤、安定化剤又は浸透圧調節剤等の補助剤も含むことができる。経口投与のための好適な液体担体の例としては、水(上記の通りの添加剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム溶液等のセルロース誘導体を含有する可能性がある)、アルコール(一価アルコール及びグリコール等の多価アルコールを含む)及びそれらの誘導体、並びに油(例えば、分留ココナッツ油及びラッカセイ油)が挙げられる。加圧組成物に関して、液体担体は、ハロゲン化炭化水素又は他の薬学的に許容される噴射剤であり得る。
【0084】
経口投与のための固体剤形としては、例えば、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、及び顆粒剤が挙げられる。そのような固体剤形において、本明細書中に記載されるLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体は、クエン酸ナトリウム又はリン酸二カルシウム等の少なくとも1種の不活性な薬学的に許容される賦形剤又は担体及び以下のうちの1つ又は複数と混合することができる:(a)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸等の充填剤又は増量剤;(b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアラビアガム等の結合剤;(c)グリセロール等の保湿剤;(d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモ又はタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、及び炭酸ナトリウム等の崩壊剤;(e)パラフィン等の溶解遅延剤;(f)第4級アンモニウム化合物等の吸収促進剤;(g)例えば、セチルアルコール及びモノステアリン酸グリセロール等の湿潤化剤;(h)カオリン及びベントナイトクレイ等の吸収剤;並びに(i)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤、並びにそれらの混合物。固体製剤に対して好適な他の賦形剤としては、非イオン性及びアニオン性表面改質剤等の表面改質剤が挙げられる。表面改質剤の代表例としては、限定するものではないが、ポロキサマー188、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びトリエタノールアミンが挙げられる。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合、剤形はまた、緩衝剤も含むことができる。
【0085】
類似のタイプの固体組成物はまた、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコール等の賦形剤を用いる、軟及び硬ゼラチンカプセル中の充填剤として利用することもできる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固体剤形は、腸溶コーティング、制御放出コーティング及び薬学的製剤化分野で周知の他のコーティングを用いて、調製することができる。固体剤形は、任意により乳白剤を含有することができ、任意により遅延様式で、有効成分を腸管の特定の部分でのみ、又は好ましくは特定の部分で放出するような、組成物のものでもあり得る。用いることができる包埋組成物の例としては、ポリマー性物質及びワックスが挙げられる。
【0086】
特定の実施形態では、本発明の組成物を特定の領域へと局所的に投与することが望ましい場合がある。これは、例えば、限定ではなく、外科手術中の局所注入、局所的塗布により、注入により、カテーテルを用いて、坐剤を用いて、又は皮膚パッチ若しくはステント若しくは別の埋め込み剤を用いて、達成することができる。
【0087】
局所的投与に対して、組成物は、好ましくは、水、グリセロール、アルコール、プロピレングリコール、脂肪族アルコール、トリグリセリド、脂肪酸エステル、又は鉱油等の担体を含むことができる、ゲル剤、軟膏剤、ローション剤、又はクリーム剤として製剤化される。他の局所的担体としては、液状石油、パルミチン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、エタノール(95%)、水中ポリオキシエチレンモノラウレート(5%)、又は水中ラウリル硫酸ナトリウム(5%)が挙げられる。抗酸化剤、加湿剤、粘度安定化剤、及び類似の薬剤等の他の材料を、必要な場合に添加することができる。
【0088】
加えて、特定の例では、本発明の組成物を、皮膚上、皮膚中、又は皮膚下に置かれた経皮デバイス内に配置することができることが予期される。そのようなデバイスとしては、受動的又は能動的放出メカニズムのいずれかにより有効成分を放出する、パッチ剤、埋め込み剤、及び注入剤が挙げられる。経皮投与としては、身体の表面並びに上皮及び粘膜組織を含む身体の管の内膜を越える全ての投与が挙げられる。そのような投与は、ローション剤、クリーム剤、フォーム剤、パッチ剤、懸濁液剤、溶液剤、及び坐剤(直腸及び膣内)中の本発明の組成物を用いて行うことができる。
【0089】
経皮投与は、有効成分(すなわち、本明細書中に記載されるLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体)及び皮膚に対して無毒であり且つ皮膚を介する血流への全身性吸収に対する成分の送達を可能にする担体を含有する経皮パッチの使用を介して遂行することができる。担体は、クリーム剤及び軟膏剤、パスタ剤、ゲル剤、及び密封デバイス等のいずれかの様々な形態を採ることができる。クリーム剤及び軟膏剤は、水中油型又は油中水型のいずれかの粘稠液体又は半固体エマルジョンであり得る。有効成分を含有する石油又は親水性石油中に分散された吸収性粉末から構成されるパスタ剤が好適であり得る。担体を含むか若しくは含まずに有効成分を含有するリザーバ、又は有効成分を含有するマトリックスを覆う半透膜等の様々な密封デバイスを、血流へと有効成分を放出させるために用いることができる。
【0090】
坐剤製剤は、坐剤融点を変化させるためのワックスの添加を伴うか又は伴わないカカオバター、及びグリセリンを含む慣用の材料から製造することができる。様々な分子量のポリエチレングリコール等の水溶性坐剤基剤もまた、用いることができる。
【0091】
様々な製剤を製造するための材料及び方法が当技術分野で公知であり、本発明を実施するために適合させることができる。抗体の送達に対して好適な製剤は、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E.W.Martin、第18版、1990、Mack Publishing社:Easton、PAに見出すことができる。
【0092】
B.追加の生物学的に活性な薬剤
特定の実施形態では、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体は、本発明の医薬組成物中の唯一の有効成分である。他の実施形態では、医薬組成物は、1つ又は複数の追加の生物学的に活性な薬剤を更に含む。好適な生物学的に活性な薬剤の例としては、限定するものではないが、抗癌剤、抗炎症剤、免疫調節剤、鎮痛剤、抗微生物剤、抗細菌剤、抗生物質、抗酸化剤、防腐剤、及びそれらの組合せが挙げられる。抗癌抗体薬剤を含む具体的な抗癌剤の例は、上記に列挙されている。
【0093】
そのような医薬組成物において、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び少なくとも1種の追加の生物学的に活性な薬剤を、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び生物学的に活性な薬剤の同時、別個又は逐次的投与のために、1つ又は複数の調製物中で組み合わせることができる。より具体的には、本発明の組成物は、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び生物学的に活性な薬剤を、一緒に又は互いに独立して投与できる様式で、製剤化することができる。例えば、LMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体及び生物学的に活性な薬剤は、単一組成物中に一緒に製剤化することができる。代替的に、それらを維持し(例えば、異なる組成物及び/又は容器中に)、別個に投与することができる。
【0094】
C.医薬パック又はキット
別の態様では、本発明は、本発明のLMW EPS誘導体又はLMW硫酸化EPS誘導体の投与を可能にする、本発明の医薬組成物の1つ又は複数の成分を含有する1つ又は複数の容器(例えば、バイアル、アンプル、試験管、フラスコ又はボトル)を含む医薬パック又はキットを提供する。
【0095】
医薬パック又はキットの異なる成分は、固体(例えば、凍結乾燥)又は液体形態で供給することができる。各成分は、一般的に、そのそれぞれの容器中に分配されるか又は濃縮形態で提供される場合に好適であろう。本発明に従うパック又はキットは、凍結乾燥成分の再調製のための媒体を含むことができる。キットの個別の容器は、好ましくは、商用販売のための厳密な密閉中に維持されるであろう。
【0096】
特定の実施形態では、パック又はキットは、1つ又は複数の追加の治療剤を含む。任意により、医薬製品又は生物学的製品の製造、使用又は販売を規制する政府機関により規定される形式での案内又は添付文書が容器に伴うことができ、案内は、ヒト投与に対する製造、使用又は販売の機関による承認を反映する。添付文書の案内は、本明細書中に開示される治療方法に従う医薬組成物の使用に関する説明書を含むことができる。
【0097】
識別子、例えば、バーコード、無線周波数、IDタグ等が、キット中又はキット上に存在することができる。識別子は、例えば、品質管理、在庫管理、ワークステーション間での移動を追跡する等の目的のためにキットを一意的に特定するために、用いることができる。
【0098】
本発明の更なる態様及び利点が、以下の図面及び実施例中に開示され、それらは例示的であり、本出願の範囲を限定するものではないと考えられるべきである。
【実施例】
【0099】
以下の実施例は、本発明の製造及び実施の好ましい様式のうちの一部を記載する。しかしながら、実施例は、例示目的のみのためのものであり、本発明の範囲を限定することを意味しないことが理解されるべきである。更に、実施例中の記載が過去形で提示されない限り、本明細書の残余の部分等のテキストは、実験が実際に行われたこと又はデータが実際に取得されたことを示唆することを意図しない。
【0100】
(実施例1)
癌細胞に対する異なる低分子量HE800分子の作用
本研究の目的は、様々な腫瘍細胞株:MNNG/HOS(骨肉腫)、A549(肺癌)、MDA-MB-231(乳癌)、A375(黒色腫)及びCaco2(結腸癌)の細胞の生存率及び増殖に対する、異なる濃度での3種類の異なる低分子量HE800分子:HE800DR、HE800DRS(又はHE800DRS20)及び高度硫酸化HE800DRS(又はHE800DRS30)の作用を分析することであった。
【0101】
材料及び方法
化学物質
HE800DR(Mw=20,000Da、硫酸(S)%=0%)、HE800DRS(Mw=20,000Da、S%=6又は7%、OSO3
-=20%)及び高度硫酸化HE800DRS(Mw=20,000Da、S%=10%、OSO3
-=30%)は、IFREMERのLEMMMB研究室により粉末形態で供給され、5mg/mLの最終濃度へとPBS中に再調製し(Table 1(表1))、アリコートに分け、-20℃で保存した。
【0102】
【0103】
腫瘍細胞株及び培養培地
本研究で用いた全てのヒト腫瘍細胞株は、American Tissue Cell Collection(ATCC、Molsheim、France)から取得した。MNNG/HOS骨肉腫細胞株、A375黒色腫細胞株及びCaco2結腸癌細胞株由来の細胞は、グルタミン(Thermo-Fisher社)及び5%胎児ウシ血清(FBS、Thermo-Fisher社)を添加した、Gibco(Thermo-Fisher社)からのDMEM 4.5g/L高グルコース、ピルビン酸塩、非グルタミンを用いて培養した。A549細胞株由来の細胞は、グルタミン(Thermo-Fisher社)及び5%胎児ウシ血清(FBS、Thermo-Fisher社)を添加したDEMEM/F12(Sigma Aldrich社)を用いて培養した。MDA-MB-231細胞株由来の細胞は、グルタミン(Thermo-Fisher社)及び5%胎児ウシ血清(FBS、Thermo-Fisher社)を添加した、Gibco(Thermo-Fisher社)からのL-15培地を用いて培養した。全ての実験は、湿度飽和制御雰囲気及び5%CO2中、37℃で行った。
【0104】
MTT細胞生存率試験
細胞生存率アッセイを、96ウェル平底組織培養プレート(Falcon社)中で4時間にわたって、25μLの培養培地を含むウェル(25μL)当たり3,000細胞の示される細胞タイプを三重反復で播種し、その後、1、5、10、50、100、500μg及び1mg mL-1の濃度で50μLのHE800 EPS誘導体を添加することにより行った。
【0105】
プレートを、湿度飽和制御雰囲気及び5%CO2中、37℃で72時間インキュベートした。処理の3日間で、10μLの体積の5mg/mL MTT(Sigma-Aldrich社)を添加し、37℃及び5%CO2で少なくとも3時間インキュベートした。この時間後、液体を除去し、200μLのDMSOを各ウェルに添加し、形成されたホルマザン結晶を溶解させ、その後、500~600nmの波長で、マルチウェル分光光度計(PerkinElmer社からのVictor 3x)を用いる比色定量化に進めた。
【0106】
増殖アッセイ
細胞増殖を、xCELLigence技術(Agilent社)により分析した。E-Plate view 96(Chem Agilent社)へと50μLの対応する培地を添加することにより、バックグラウンドを測定した。細胞処理の開始前に、細胞を、4時間にわたってウェル(50μL)当たり5,000細胞で、三重反復で播種した。続いて、100μLのHE800 EPS誘導体を、MNNG/HOS、A549及びMDA-MB-231細胞に関して100及び500μg mL-1、並びにA375及びCaco2細胞に関して25及び50μg mL-1の濃度で添加した。各特定の細胞株に対するこれらの濃度の選択は、MTTアッセイにより確立されたIC50の関数として決定した。増殖曲線を、薬物取り込みの時点に関して標準化した。プレートを、RTCA機器(Agilent社及びACEA社)を用いて、100時間(MNNG/HOS、A549及びMDA-MB-231細胞に関して)又は120時間(A375及びCaco2細胞に関して)、モニタリングした。
【0107】
結果
ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞株生存率及び細胞増殖におけるHE800 EPS誘導体の作用
ヒトMNNG/HOS骨肉腫細胞生存率における3種類のエキソ多糖の作用を決定するために、MTTアッセイを用いた。1μg~1mg mL
-1の濃度範囲を、各分子に関して試験した。HE800DRは、対照と比較して1mg mL
-1での70%から、試験された最低濃度(1μg mL
-1)での作用なしになったMNNG/HOS細胞生存率の阻害を伴う従来の用量/応答プロフィールを示した(
図1A)。50%細胞生存率阻害が、500~100μg mL
-1で観察された。HE800DRSエキソ多糖の場合、1mg mL
-1、500及び100μg mL
-1の用量濃度での30%の細胞生存率のプラトーを有する同様の用量/応答作用が観察された(
図1B)。続いて、細胞生存率は、1μg mL
-1の濃度で90%まで徐々に増加した。50%の細胞生存率阻害の作用は、50及び10μg mL
-1の用量で決定された。HE800DRSの臨界濃度のよりよい解像度を得るために、より詳細な濃度範囲を試験した(
図1C)。以前に観察された通り、HE800DRSは、25μg mL
-1に近い細胞生存率に関するIC
50を有する用量/応答プロフィールを提示した。高度硫酸化HE800DRSエキソ多糖は、MNNG/HOS細胞株において細胞生存率の比較的低い有効阻害分子をもたらした(
図1D)。MTTアッセイは、500μg mL
-1の濃度のみが対照と比較して40%に近い細胞生存率の最大阻害をもたらした谷形プロフィールの傾向を示した。より高いか又はより低い濃度の高度硫酸化HE800DRSは80%の細胞生存率をもたらした一方で、より低い濃度(50~1μg mL
-1)は、細胞生存率に対していかなる作用も示さなかった。
【0108】
HE800 EPS誘導体のそれぞれの存在下でのMNNG/HOS細胞増殖を、xCELLigence技術により分析した。3種類の分子に関して、500及び100μg mL
-1の濃度を用いた(
図1E~
図1G)。それらの選択された濃度は、MTTアッセイからの結果に基づいた。各曲線に関して、エキソ多糖処理の時間に対してデータを標準化した(標準化細胞指数)。
【0109】
MTTアッセイと合致して、HE800DR分子はMNNG/HOS細胞増殖の阻害を示した(
図1E)。この阻害は、試験した2種類の濃度に関して略同一であった。HE800DRSの場合、500μg mL
-1での処理がHE800DRと類似の阻害を生じた一方で、100μg mL
-1の濃度での処理は、他の分子及び濃度と比較して細胞増殖の強力な阻害をもたらした(
図1F)。このデータは、MTT試験において観察された作用と合致した。高度硫酸化HE800DRSに関して、細胞増殖の結果もまたMTT試験と類似し、HE800DR処理が示したものと類似の細胞増殖の阻害を示した(
図1G)。
【0110】
ヒトA549細胞株生存率及び細胞増殖におけるHE800 EPS誘導体の作用
上記の骨肉腫細胞株を用いて行った実験と同様に、同じ濃度範囲での細胞生存率における3種類のエキソ多糖誘導体の作用を決定するために、MTTアッセイを用いた。HE800DRは、骨肉腫細胞株と比較してA549細胞生存率における強い影響を示した(
図2A)。より低い範囲のHE800DR濃度を試験した(
図2B)。この試験は、A549細胞株由来の細胞が、2.5μg mL
-1での50%の生存率を伴って、より低い濃度の分子に対して感受性であったことを示した。HE800DRSエキソ多糖は、50μg mL
-1の用量での細胞生存率の50%の阻害を伴う従来の用量/応答プロフィールを示した(
図2C)。高度硫酸化HE800DRSエキソ多糖もまた、50μg mL
-1のHE800 EPS誘導体濃度で作用なしのプラトーに達した用量/応答プロフィールを示した(
図2D)。
【0111】
A549細胞増殖(500及び100μg mL
-1の濃度でxCELLigence技術により分析された)に関して、3種類の分子は、100μg mL
-1の用量で、A549細胞増殖の小さな低減を誘導した(
図2E~
図2G)。しかしながら、高度硫酸化HE800DRS分子は、500μg mL
-1で肺腫瘍細胞増殖のよりよい減速を生じた(
図2G)。
【0112】
ヒトMDA-MB-23乳癌細胞株生存率及び細胞増殖におけるHE800 EPS誘導体の作用
ここでもまた、ヒトMDA-MB-231乳癌細胞株の細胞生存率におけるエキソ多糖誘導体の作用を決定するために、MTTアッセイを用いた。3種類の分子は、MNNG/HOS骨肉腫細胞株に関して観察されたものと類似の挙動を示した。HE800DRは、対照と比較して1mg mL
-1での60%から、試験された比較的低い濃度(1μg mL
-1)での略作用なしになったMDA-MB-231細胞生存率の阻害を伴う用量/応答プロフィールに従った(
図3A)。500~100μg mL
-1で、50%の細胞生存率阻害が観察された(
図3A)。HE800DRSは、用量500μg及び1mg mL
-1で50%超の細胞生存率の阻害を誘導した。それにもかかわらず、細胞生存率に対するその負の影響は、最大100μg mL
-1の濃度で低減した(
図3B)。高度硫酸化HE800DRSエキソ多糖の場合、MDA-MB-231細胞生存率は、500μg mL
-1の用量処理でのみ損なわれた。他の試験された濃度は、生存率の阻害をもたらさなかった(
図3C)。
【0113】
xCELLigenceアッセイは、MDA-MB-231細胞増殖が、HE800 EPS誘導体を用いる処理によりほとんど影響を受けなかったことを示した(
図3D~
図3F)。500μg mL
-1での高度硫酸化HE800DRS分子のみが、MDA-MB-231細胞増殖における顕著な低減を生じた(
図3F)。
【0114】
ヒトA375黒色腫細胞株生存率及び細胞増殖におけるHE800 EPS誘導体の作用
各エキソ多糖誘導体の存在下でのA375細胞株由来の細胞の生存率の分析を、MTTアッセイを用いて行った。1μg mL
-1の濃度を除いて、HE800DRを用いるヒト黒色腫細胞の処理は、試験した全ての濃度に関して細胞生存率の強い低減(70%)を引き起こした(
図4A)。HE800DRSエキソ多糖を用いる細胞処理の場合、A375細胞生存率は、500μg及び1mg mL
-1の濃度での細胞生存率阻害の最大値を伴う用量/応答プロフィールに従うことが見出された(
図4B)。HE800DRSの50μg mL
-1未満の用量は、A375細胞生存率に対する影響を有しなかった。骨肉腫及び乳房腫瘍細胞株において観察された通り、高度硫酸化HE800DRSエキソ多糖が、500μg mL
-1の用量処理で細胞生存率を損なわせた。より低い濃度は、細胞生存率の阻害を生じなかった(
図4C)。
【0115】
エキソ多糖処理中のA375細胞株の細胞の増殖の分析を、50及び25μg mL
-1のEPS誘導体濃度でのxCELLigenceアッセイを用いて行った(
図4D~
図4F)。2種類の異なる用量での3種類の化合物は細胞増殖を低減させることができた一方で、HE800DRエキソ多糖はA375細胞株の増殖の若干良好な阻害を生じた(
図4D)。
【0116】
ヒトCaco2結腸細胞株生存率及び細胞増殖におけるHE800 EPS誘導体の作用
ヒトCaco2結腸細胞株を、腫瘍細胞生存率及び増殖に対する3種類のエキソ多糖HE800DR、HE800 DRS及び高度硫酸化HE800DRSの作用を研究するためのモデルとして用いた。MTTアッセイの結果は、Caco2細胞株の場合に、3種類の分子が用量/応答プロフィール曲線を示したことを示した(
図5A~
図5C)。HE800DR及びHE800DRSに関して、50μg mL
-1の用量濃度で、50%の細胞生存率が得られた(
図5A~
図5B)。HE800DRSプロフィールは試験した濃度の関数としてそれ程変化しなかったので、よりよい濃度分解を行った(
図5C)。データは、試験したHE800DRSの全ての濃度間での細胞生存率の顕著な変動を示さなかった。一方で、10倍多くの高度硫酸化HE800DRS(500μg mL
-1)が、細胞生存率の50%阻害に達するために必要であった(
図5D)。
【0117】
50及び25μg mL
-1の濃度でのHE800 EPS誘導体のそれぞれの存在下でのCaco2細胞株の細胞の増殖を、xCELLigence技術を用いて分析した(
図5E~
図5G)。高度硫酸化HE800DRSを用いる処理は、試験した両方の用量でCaco2細胞の増殖のよりよい阻害を生じたことが見出された(
図5G)。試験した濃度のうちのいずれにおいても、対照と2種類のEPS誘導体HE800DR及びHE800DRSのそれぞれとの間で有意差は観察されなかった(
図5E及び
図5F)。
【0118】
結論
HE800DRは、試験した全ての癌細胞株において細胞生存率を低減させた。特に、A549肺癌細胞株は、低濃度のHE800DRに対して非常に感受性であることが見出された。黒色腫A375細胞株由来の細胞の生存率もまた、HE800DRエキソ多糖により損なわれた。
【0119】
HE800DR及びHE800DRSは、MNNG/HOS骨肉腫細胞株における細胞生存率及び細胞増殖に対する重要な阻害剤作用を誘導することが見出された。
【0120】
高度硫酸化HE800DRSは、試験した癌細胞株のうちの全てにおいて、細胞生存率を阻害するための最も低効率の分子であることが見出された。しかしながら、MDA-MB-231乳癌及びCaco2結腸癌細胞株由来の細胞の増殖は、高用量のエキソ多糖で細胞増殖の低減を示した。
【0121】
(実施例2)
癌細胞に対するHE800DRとドキソルビシンとの組合せの作用及び遺伝子発現に対するHE800DRの作用
材料及び方法
1ウェル当たり750×103個のヒトA549肺腺癌細胞を、6マルチウェルプレート中に播種した。各実験条件を、三重反復で実行した。接着後、細胞を、100μg/mLのHE800DRを用いて処理するか又は処理しなかった。24時間後、総mRNAを抽出し、760種類の内因性遺伝子、40種類のハウスキーピング遺伝子及び14種類の対照遺伝子を含む多重遺伝子発現解析(NS_Hs_TumorSig_v1.0;Nanostring社)を、ヒトA549肺腺癌細胞から行った。Amarinder Singh ThindのgitHub上に提示されたスクリプトに基づいて、Rstudioソフトウェアを用いて、バイオインフォマティクス解析を行った。nSolverソフトウェアパッケージ中に実装された方法を用いて、NanostringNCToolsによって標準化を行った。NanostringNCToolsパッケージ中に実装されたnSolver標準化は、データを標準化するためにスケーリングに関する陽性対照及び内部対照を用い、nSolverソフトウェアにおいてデフォルトにより行われる標準化を模倣する。RUVg手順は、検討中のサンプル間で差次的に発現(DE)しないことが推測的に公知である陰性対照遺伝子の適切に選択されたサブセットに基づいて、リードカウントの因子解析を行う。ハウスキーピング遺伝子、急上昇配列(例えば、ERCC)、又は経験的「インシリコ」対照(例えば、UVR標準化に先立って行われたDE解析に基づいて最も有意性低く発現される遺伝子)を含む、数種類の対照を用いることができる。陰性対照遺伝子の想定は、サンプル間での推定的に公知の発現変化倍率を用いる、陽性又は陰性対照のセットの特定を代わりに必要とすることにより、緩和することができることが注記される。望ましくない変動の1つ又は複数の次元を除去した(k)。差次的発現分析を、DESeq2を用いて行った。log2(log2FC)へと変換された対応する絶対変化倍率が0.5未満でなく、加えて、偽発見率(FDR)が0.05の値を超過しなかった場合に、遺伝子は差次的に発現していると考えられた。差次的発現遺伝子セット中の過剰に選択された経路の検出を、ClusterProfilerを用いて行った。
【0122】
全ての統計学的検定に関して、p<0.05の場合に有意性が考慮された。一般的に、多重比較補正をNanoStringデータに対して行う場合、遺伝子有意性レベルが正に又は負に相関することを可能にする比較的保守性が低い方法を用いることが好ましい(すなわち、相関する独立した発現経路に関して探索する場合)。Benjamini-Yekutieli偽発見率法は、遺伝子における有意な変化が互いに相関又は依存する場合があるという予想を考慮し、得られるFDR調整済みp値は、ファミリーに関するエラー率を制御するより保守的な検定(ボンフェローニ補正等の検定に代表される)と、より寛大な無補正p値との間の妥協点を提供する。遺伝子セット解析を、ClusterProfilerを用いて行い、GSA(経路)の結果を、差次的遺伝子解析の結果と共にプロットした[有意遺伝子の変化倍率(調整済みp値<0.05)]。
【0123】
結果
予期される通り、ドキソルビシンは用量依存的様式でMNNG/HOS癌細胞生存率の顕著な低下を誘導することが見出され、驚くべきことに、相加作用が100μg/mLのHE800DRの存在下で観察され(
図6を参照されたい)、このことは、治療的アプローチにおいて両方の化合物を組み合わせる潜在的な関心を実証した。
【0124】
階層的クラスター化は、HE800DRの存在下で有意に差次的に発現した760種類のうちの20種類の遺伝子(調整済みp値<0.05)を特定した(
図7を参照されたい)。合計4種類及び16種類の遺伝子が、それぞれ、過小発現及び過剰発現した。4種類の過小発現遺伝子は:MYC、ADM、CS274、及びIL-11であった。16種類の過剰発現遺伝子は:BHLHE40、B4GALT1、LAMC2、SERPINE-1、RELB、SKIL、COL4A2、ITGAV、HSPB1、IGFBP3、NFKB2、COL4A1、TNFRSF9、HMOX1、TNS4及びFSTL1であった。
【0125】
これらの遺伝子の機能解析を、Cyoscapeソフトウェア及びSRINGデータベースを用いて行い(
図7Bを参照されたい)、最も差次的に発現された遺伝子は、MAPキナーゼシグナル伝達経路、細胞接着/移動及び細胞外マトリックス相互作用に関与する機能的経路に関連付けられた(
図7B、
図7Cを参照されたい)。
【0126】
本出願全体を通して、様々な参考文献が、本発明が属する分野の状況を説明する。これらの参考文献の開示は、参照により本開示へと組み入れられる。
【国際調査報告】