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特表2024-523730天然のライアビリティを含まないCDRを使用した抗体親和性成熟
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】天然のライアビリティを含まないCDRを使用した抗体親和性成熟
(51)【国際特許分類】
   C40B 40/10 20060101AFI20240621BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20240621BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240621BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C40B40/10 ZNA
C07K16/00
C07K16/46
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501196
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 US2022036422
(87)【国際公開番号】W WO2023283383
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】63/218,919
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524011281
【氏名又は名称】ルールズ-ベースド メディシン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー レイモン モートン ブラッドバリー
(72)【発明者】
【氏名】サラ ディアンジェロ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレ テイシェイラ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書で提供されるのは、抗体親和性成熟の改善された方法であって、低ピコモル親和性抗体を有する機能性抗体を産生するように、単一の抗原又は抗原エピトープを標的とする天然に存在する抗体の集団からの真の天然CDRを使用する、改善された方法である。また、本明細書で提供されるのは、抗体ライブラリであって、ライブラリの単一の抗体メンバー内のCDRが、天然に存在する抗体のCDR配列の組み合わせであり、1つ以上のCDRが、単一の抗原又は抗原エピトープを標的とする異なる天然に存在する抗体に由来する、抗体ライブラリである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、
-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、
前記CDR配列のうちの2つ以上が、前記複数の抗体の各抗体について同一であり(インバリアントCDR配列)、前記2つ以上のインバリアントCDR配列が、親和性成熟される親抗体に由来し、
残りの前記CDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含む(バリアントCDR配列)、抗体ライブラリ。
【請求項2】
前記2つ以上のインバリアントCDR配列が、
(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、
(iv)V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、並びに
(v)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択される、請求項1に記載の抗体ライブラリ。
【請求項3】
複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、
-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、
前記CDR配列のうちの2つ以上が、前記複数の抗体の各抗体について同一であり(インバリアントCDR配列)、前記2つ以上のインバリアントCDR配列が、親和性成熟される親抗体に由来し、
前記HCDR3を除く残りの前記CDR配列(バリアントCDR配列)の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含み、前記HCDR3が、親HCDR3の複数のバリアントを含む、抗体ライブラリ。
【請求項4】
前記2つ以上のインバリアントCDR配列が、
(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、
(iv)V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、並びに
(v)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択される、請求項3に記載の抗体ライブラリ。
【請求項5】
前記ライブラリから選択される抗体が、親抗体と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する、請求項3又は4に記載の抗体ライブラリ。
【請求項6】
複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、前記複数の抗体の各抗体が、
VH-CDR1配列、VH-CDR2配列、VH-CDR3配列、並びに
VL-CDR1配列、VL-CDR2配列、及びVL-CDR3配列を含み、
前記抗体ライブラリの前記CDR配列が、請求項3又は4において選択される複数のCDRの組み合わせに由来する、抗体ライブラリ。
【請求項7】
前記HCDR3が、前記親HCDR3の単一の変異を含む、請求項5又は6に記載の抗体ライブラリ。
【請求項8】
前記インバリアントCDR配列が、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及び/又はV-CDR3の組み合わせを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の抗体ライブラリ。
【請求項9】
前記バリアントCDR配列が、以下のライアビリティ:
(i)グリコシル化部位、
(ii)脱アミド化部位、
(iii)異性化部位、
(iv)対合していないシステイン、
(v)1を超える正味電荷、
(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、
(vii)凝集を促進するモチーフ、
(viii)ポリ特異性部位、
(ix)プロテアーゼ感受性部位、
(x)インテグリン結合部位、
(xi)リジングリコシル化部位、
(xii)金属触媒断片化部位、
(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び
(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない、請求項1~8のいずれか一項に記載の抗体ライブラリ。
【請求項10】
前記グリコシル化部位が、モチーフNXS、NXT、若しくはNXCを含み、式中、Xが、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表し、前記脱アミド化部位が、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、若しくはGNGのモチーフを含み、前記異性化部位が、DT、DH、DS、DG、若しくはDDのモチーフを含み、前記トリペプチドが、HYF若しくはHWHであり、凝集を促進する前記モチーフが、FHWのモチーフを含み、前記ポリ特異性部位が、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、若しくはWXWのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、プロテアーゼ切断部位が、DXのモチーフを含み、式中、Xが、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、若しくはDであり、前記インテグリン結合部位が、RGD、RYD、LDV、若しくはKGDを含み、前記リジングリコシル化部位が、KE、EK、若しくはEDを含み、前記金属触媒断片化部位が、HS、SH、KT、HXS、若しくはSXHのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、前記ポリ特異性凝集部位が、X1X2X3のモチーフを含み、式中、Xi、X2、及びX3の各々が、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択され、並びに/又は前記ストレプトアビジン結合モチーフが、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基GDWVFI若しくはPWPWLGを表す、請求項9に記載の抗体ライブラリ。
【請求項11】
前記抗体ライブラリが、全長抗体ライブラリ、Fab抗体ライブラリ、一本鎖抗体ライブラリ、又は単一ドメイン抗体ライブラリである、請求項1~10のいずれか一項に記載の抗体ライブラリ。
【請求項12】
前記抗体ライブラリが、ヒト抗体ライブラリである、請求項1~11のいずれか一項に記載の抗体ライブラリ。
【請求項13】
抗体ライブラリを生成するための方法であって、
(a)親和性成熟される親抗体から2つ以上のCDR配列を選択することであって、前記2つ以上のCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択される、選択することと、
(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
(i)(a)で選択された前記2つ以上のCDR配列(インバリアントCDR配列)、並びに
(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(バリアントCDR配列)の独自の組み合わせであって、前記バリアントCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択され、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法。
【請求項14】
抗体ライブラリを生成するための方法であって、
(a)親和性成熟される親抗体から2つ以上のCDR配列を選択することであって、前記2つ以上のCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択される、選択することと、
(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
(i)(a)で選択された前記2つ以上のCDR配列(インバリアントCDR配列)、並びに
(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(バリアントCDR配列)の独自の組み合わせであって、前記バリアントCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択され、VH-CDR3(HCDR3)を除く全てのCDR配列について天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来し、前記HCDR3が、親HCDR3の複数のバリアントを含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法。
【請求項15】
前記HCDR3が、前記親HCDR3配列の単一の変異を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
抗体ライブラリを生成するための方法であって、
(a)親和性成熟される親抗体から2つ以上のCDR配列を選択することであって、前記2つ以上のCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択される、選択することと、
(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
(i)(a)で選択された前記2つ以上のCDR配列(インバリアントCDR配列)であって、前記抗体ライブラリの前記CDR配列が、
[a]VL-CDR3、VH-CDR1、VH-CDR2、及びVH-CDR3、
[b]VL-CDR1、VL-CDR2、VH-CDR1、VH-CDR2、及びVH-CDR3、
[c]VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3、及びVH-CDR3、
[d]VL-CDR1、VL-CDR2、及びVH-CDR3、並びに
[e]VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3、VH-CDR1、及びVH-CDR2からなる群から選択される複数のCDRの組み合わせに由来する、前記2つ以上のCDR配列、並びに
(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(バリアントCDR配列)の独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法。
【請求項17】
標的抗原又は標的抗原エピトープに対する親和性が向上した抗体を同定する方法であって、
(a)請求項13~16のいずれか一項に記載の方法に従って抗体ライブラリを生成することと、
【請求項18】
(b)前記抗体ライブラリをスクリーニングして、対照と比較して前記標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する抗体を単離し、それによって親和性が向上した抗体を同定することと、を含む、方法。
(a)抗体ライブラリを生成する追加のステップであって、前記抗体ライブラリの前記CDR配列が、請求項16において選択される複数のCDRの組み合わせに由来する、生成する追加のステップと、
(b)前記抗体ライブラリをスクリーニングして、前記親抗体と比較して前記標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する抗体を単離し、それによって親和性が向上した抗体を同定する追加のステップと、を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
抗体の発生可能性を改善するための方法であって、
(a)請求項13~16のいずれか一項に記載の方法に従って抗体ライブラリを生成することであって、前記インバリアント及びバリアントCDR配列が、配列ライアビリティのうちの1つ以上を含まない、生成することと、
(b)前記抗体ライブラリをスクリーニングして、対照と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合し、元の抗体のCDRに見出される配列ライアビリティのうちの1つ以上を欠く抗体を単離し、それによって前記抗体の前記発生可能性を改善することと、を含む、方法。
【請求項20】
前記対照が、親抗体である、請求項17又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記2つ以上のインバリアントCDR配列が、
(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、
(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、
(iv)V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、並びに
(v)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択される、請求項13~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記インバリアント及びバリアントCDR配列が、以下のライアビリティ:
(i)グリコシル化部位、
(ii)脱アミド化部位、
(iii)異性化部位、
(iv)対合していないシステイン、
(v)1を超える正味電荷、
(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、
(vii)凝集を促進するモチーフ、
(viii)ポリ特異性部位
(ix)プロテアーゼ感受性部位、
(x)インテグリン結合部位、
(xi)リジングリコシル化部位、
(xii)金属触媒断片化部位、
(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び
(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない、請求項13~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記グリコシル化部位が、モチーフNXS、NXT、若しくはNXCを含み、式中、Xが、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表し、前記脱アミド化部位が、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、若しくはGNGのモチーフを含み、前記異性化部位が、DT、DH、DS、DG、若しくはDDのモチーフを含み、前記トリペプチドが、HYF若しくはHWHであり、凝集を促進する前記モチーフが、FHWのモチーフを含み、前記ポリ特異性部位が、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、若しくはWXWのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、プロテアーゼ切断部位が、DXのモチーフを含み、式中、Xが、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、若しくはDであり、前記インテグリン結合部位が、RGD、RYD、LDV、若しくはKGDを含み、前記リジングリコシル化部位が、KE、EK、若しくはEDを含み、前記金属触媒断片化部位が、HS、SH、KT、HXS、若しくはSXHのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、前記ポリ特異性凝集部位が、X1X2X3のモチーフを含み、式中、Xi、X2、及びX3の各々が、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択され、並びに/又は前記ストレプトアビジン結合モチーフが、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基GDWVFI若しくはPWPWLGを表す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記抗体ライブラリが、全長抗体ライブラリ、Fab抗体ライブラリ、一本鎖抗体ライブラリ、又は単一ドメイン抗体ライブラリである、請求項13~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記抗体ライブラリが、ヒト抗体ライブラリである、請求項13~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
請求項17~25のいずれか一項に記載の方法に従って得られる、抗体。
【請求項27】
組み合わせ抗体ライブラリを生成するための方法であって、
(a)請求項13~26のいずれか一項に記載の方法に従って生成される2つ以上の抗体ライブラリを得ることと、
(b)ステップ(a)で得られた2つ以上の抗体ライブラリを組み合わせて、組み合わせ抗体ライブラリを形成することと、を含む、方法。
【請求項28】
複数の抗体を含むVHHライブラリであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含み、
前記CDR1配列、CDR2配列、又はCDR3配列のうちの1つ以上が、前記複数の抗体の各抗体について同一であり(インバリアントCDR配列)、前記1つ以上のCDR1配列、CDR2配列、又はCDR3配列が、親和性成熟される親抗体に由来し、
前記複数の抗体の各抗体についての残りの前記CDRの各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDR配列を含む(バリアントCDR)、VHHライブラリ。
【請求項29】
前記ライブラリ内の各抗体が、対照と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する、請求項28に記載のVHHライブラリ。
【請求項30】
複数の抗体を含むVHHライブラリであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含み、
前記CDR1配列、CDR2配列、又はCDR3配列のうちの1つ以上が、前記複数の抗体の各抗体について同一であり(インバリアントCDR配列)、前記1つ以上のCDR1配列、CDR2配列、又はCDR3配列が、親和性成熟される親抗体に由来し、
前記HCDR3を除く残りの前記CDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDR配列を含み(バリアントCDR)、前記HCDR3が、親HCDR3配列の複数のバリアントを含む、VHHライブラリ。
【請求項31】
前記ライブラリから選択される抗体が、親抗体と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する、請求項30に記載のVHHライブラリ。
【請求項32】
前記HCDR3配列が、前記親HCDR3配列の単一の変異を含む、請求項30又は31に記載のVHHライブラリ。
【請求項33】
VHHライブラリを生成するための方法であって、
(a)CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列からなる群から1つ以上のCDR配列を選択することと、
(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
(i)(a)で選択された前記1つ以上のCDR配列(インバリアントCDR配列)、並びに
(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(バリアントCDR配列)の独自の組み合わせであって、前記バリアントCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDR配列の配列に由来する複数のCDR配列を含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法。
【請求項34】
VHHライブラリを生成するための方法であって、
(a)CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列からなる群から1つ以上のCDR配列を選択することと、
(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、前記複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:
(i)(a)で選択された前記1つ以上のCDR配列(インバリアントCDR配列)、並びに
(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(バリアントCDR配列)の独自の組み合わせであって、HCDR3配列を除くバリアントCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDR配列の配列に由来する複数のCDR配列を含み、前記HCDR3配列が、親HCDR3配列の複数のバリアントを含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法。
【請求項35】
前記CDR3配列が、前記親HCDR3配列の単一の変異を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記インバリアント及びバリアントCDR配列が、以下のライアビリティ:
(i)グリコシル化部位、
(ii)脱アミド化部位、
(iii)異性化部位、
(iv)対合していないシステイン、
(v)1を超える正味電荷、
(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、
(vii)凝集を促進するモチーフ、
(viii)ポリ特異性部位
(ix)プロテアーゼ感受性部位、
(x)インテグリン結合部位、
(xi)リジングリコシル化部位、
(xii)金属触媒断片化部位、
(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び
(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記グリコシル化部位が、モチーフNXS、NXT、若しくはNXCを含み、式中、Xが、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表し、前記脱アミド化部位が、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、若しくはGNGのモチーフを含み、前記異性化部位が、DT、DH、DS、DG、若しくはDDのモチーフを含み、前記トリペプチドが、HYF若しくはHWHであり、凝集を促進する前記モチーフが、FHWのモチーフを含み、前記ポリ特異性部位が、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、若しくはWXWのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、プロテアーゼ切断部位が、DXのモチーフを含み、式中、Xが、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、若しくはDであり、前記インテグリン結合部位が、RGD、RYD、LDV、若しくはKGDを含み、前記リジングリコシル化部位が、KE、EK、若しくはEDを含み、前記金属触媒断片化部位が、HS、SH、KT、HXS、若しくはSXHのモチーフを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基を表し、前記ポリ特異性凝集部位が、X1X2X3のモチーフを含み、式中、Xi、X2、及びX3の各々が、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択され、並びに/又は前記ストレプトアビジン結合モチーフが、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み、式中、Xが、任意のアミノ酸残基GDWVFI若しくはPWPWLGを表す、請求項36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法(35 U.S.C.)第119条(e)の下、2021年7月7日に出願された米国仮出願第63/218,919号の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、天然のライアビリティを含まない相補性決定領域(CDR)を使用して、抗原又は抗原エピトープを標的とする抗体の抗体親和性成熟に関する。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体の品質は、多くの場合、標的抗原に対するその親和性によって測定される。したがって、治療用抗体の開発における一般的なステップは、より高い親和性がより高い薬物効力をもたらすという仮定のもと、選択されたリードを親和性成熟キャンペーンに供することである。
【0004】
キャンペーンは3つの基本的な手順に従う。(1)多様化、(2)選択、及び(3)検証、並びに多くの成功した方法が使用されている。多様化は、エラープローンPCR(Gram,Marconi et al.1992、Daugherty,Chen et al.2000)、チェーンシャッフリング(Marks,Griffiths et al.1992、Park,Lee et al.2000、Lou,Geren et al.2010)、標的CDR変異(Yang,Green et al.1995、Schier,Bye et al.1996、Schier and Marks 1996、Rajpal,Beyaz et al.2005、Barderas,Desmet et al.2008、Tiller,Chowdhury et al.2017)、及び他の技術(Low,Holliger et al.1996、Boder,Midelfort et al.2000)などによって達成されており、通常、より高い親和性を有するいくつかのバリアントを作製し、多くは変化しないか、又はより低い親和性を有する。ファージ(Yang,Green et al.1995、Schier and Marks 1996、Schier,McCall et al.1996、Lamdan,Gavilondo et al.2013)、酵母(Boder,Midelfort et al.2000、Tiller,Chowdhury et al.2017)、又はリボソームディスプレイ(Hanes,Jermutus et al.1998、Hanes,Schaffitzel et al.2000、Chan,Jenkinson et al.2020)などのディスプレイプラットフォームを使用し、選択圧力を印加することによって、親和性が向上した新たなバリアントを他のものから分離することができる。最後に、産生された集団は、追加のラウンドの多様化及び選択、又は親和性について検証された個々のクローンのいずれかを受けることができる。
【0005】
これらの多様化技術は、親和性が向上した分子を作製するのに効率的であるが、下流の開発に関する課題をもたらす場合が多い。例えば、成熟を経ている生物学的に検証されたリードは、同じエピトープを保持しなければならない。チェーンシャッフリングなどの積極的な無作為化戦略は、エピトープのドリフトをもたらす可能性があり(Ohlin,Owman et al.1996)、効力の増加の代わりに、生物学的活性の喪失をもたらす可能性がある。V又はVドメイン全体にわたるランダム変異は、必然的に、抗原結合とは無関係の領域を変異させ、発生可能性が低い不安定な分子を生成し得る(Julian,Lee et al.2015)。同じことが、全体的な抗体構造に影響を与え得る共分散違反を引き起こす不自然な配列から生じる不安定な抗体をもたらし得るCDR内の縮重配列の挿入にも当てはまる(Chou,Nemethy et al.1989、Du,Wei et al.2003)。
【0006】
更に、これらの技術はいずれも、グリコシル化、アスパラギンの脱アミド化、アスパルテート異性化、凝集傾向のあるモチーフ(aggregation prone motif)などの薬物開発に悪影響を及ぼす可能性のある配列ライアビリティの問題に対処していない。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、少なくとも部分的に、ライアビリティを実質的に含まない天然の相補性決定領域(CDR)を使用した抗体親和性成熟の改善された方法に基づいている。CDRは、天然であり、再配列された抗体遺伝子の配列決定に由来する。これらのCDRは、これらのCDRを運ぶ発現された軽鎖及び発現された重鎖からの組み立てられた抗体の発生可能性に潜在的に悪影響を及ぼすメンバー配列ライアビリティについて更にスクリーニングされる。これらのライアビリティを有するCDRは、本明細書において企図される抗体ライブラリを組み立てる際の考慮事項から外れている。ライアビリティを含まない残りの天然CDRを組み合わせて抗体に組み立て、対照の親抗体と比較して改善された抗原結合親和性についてスクリーニングすると、向上した親和性は、約ピコモル結合親和性の範囲であり得る。
【0008】
したがって、本開示の一態様は、複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、CDR配列のうちの2つ以上が、複数の抗体の各々について同一であり(「インバリアントCDR配列」)、残りのCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数の独自のCDRを含む(「バリアントCDR配列」)、抗体ライブラリを提供する。「天然に存在する抗体」は、抗体工学又は他の遺伝子工学を反映しない抗体を意味する。
【0009】
いくつかの実施形態では、2つ以上のインバリアントCDR配列は、(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、(iv)V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、並びに(v)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択され得る。
【0010】
いくつかの実施形態では、インバリアントCDR配列は、単一の抗原又は抗原エピトープに結合する親抗体に由来し得る。
【0011】
また、本開示で提供されるのは、複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、CDR配列のうちの2つ以上が、複数の抗体の各抗体について同一であり(「インバリアントCDR配列」)、HCDR3を除く残りのCDR配列(「バリアントCDR配列」)の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含み、HCDR3が、親HCDR3の複数のバリアントを含む、抗体ライブラリを提供する。いくつかの実施形態では、HCDR3は、親HCDR3の単一の変異を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、2つ以上のインバリアントCDR配列は、(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、並びに(iv)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択され得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、インバリアントCDR配列は、単一の抗原又は抗原エピトープに結合する親抗体に由来し得る。
【0014】
上記及び本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれかにおいて、インバリアントCDR配列は、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及び/又はV-CDR3の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、インバリアント及びバリアントCDR配列は、以下のライアビリティ:(i)グリコシル化部位、(ii)脱アミド化部位、(iii)異性化部位、(iv)対合していないシステイン、(v)1を超える正味電荷、(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、(vii)凝集を促進するモチーフ、(viii)ポリ特異性部位、(ix)プロテアーゼ感受性部位、(x)インテグリン結合部位、(xi)リジングリコシル化部位、(xii)金属触媒断片化部位、(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない。
【0015】
いくつかの実施形態では、グリコシル化部位は、モチーフNXS、NXT、又はNXCを含み得、式中、Xは、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表す。
【0016】
いくつかの実施形態では、脱アミド化部位は、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、又はGNGのモチーフを含み得る。
【0017】
いくつかの実施形態では、異性化部位は、DT、DH、DS、DG、又はDDのモチーフを含み得る。
【0018】
いくつかの実施形態では、トリペプチドは、HYF若しくはHWHであり得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、凝集を促進するモチーフは、FHWのモチーフを含み得る。
【0020】
いくつかの実施形態では、ポリ特異性部位は、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、又はWXWのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表す。
【0021】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼ切断部位は、DXのモチーフを含み得、式中、Xは、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、又はDである。
【0022】
いくつかの実施形態では、インテグリン結合部位は、RGD、RYD、LDV、又はKGDを含み得る。
【0023】
いくつかの実施形態では、リジングリコシル化部位は、KE、EK、又はEDを含み得る。
【0024】
いくつかの実施形態では、金属触媒断片化部位は、HS、SH、KT、HXS、又はSXHのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表す。
【0025】
いくつかの実施形態では、ポリ特異性凝集部位は、X1X2X3のモチーフを含み得、式中、X1、X2、及びX3の各々は、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態では、ストレプトアビジン結合モチーフは、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基GDWVFI若しくはPWPWLGを表す。
【0027】
いくつかの実施形態では、上記及び本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれか1つは、全長抗体ライブラリ、Fab抗体ライブラリ、一本鎖抗体ライブラリ、又は単一ドメイン抗体ライブラリであり得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、上記及び本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれか1つは、ヒト抗体ライブラリであり得る。
【0029】
別の態様では、本開示は、抗体ライブラリを生成するための方法であって、(a)2つ以上のCDR配列を選択することであって、2つ以上のCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択される、選択することと、(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:(i)(a)で選択された2つ以上のCDR配列(「インバリアントCDR配列」)、並びに(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(「バリアントCDR配列」)の独自の組み合わせであって、バリアントCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択され、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法を提供する。
【0030】
別の態様では、本開示は、抗体ライブラリを生成するための方法であって、(a)2つ以上のCDR配列を選択することであって、2つ以上のCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択される、選択することと、(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:(i)(a)で選択された2つ以上のCDR配列(「インバリアントCDR配列」)、並びに(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(「バリアントCDR配列」)の独自の組み合わせであって、バリアントCDR配列が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列からなる群から選択され、VH-CDR3(HCDR3)を除く全てのCDR配列について天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来し、HCDR3が、親HCDR3の複数のバリアントを含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、HCDR3は、親HCDR3配列の単一の変異を含み得る。
【0031】
更に別の態様では、本明細書で提供されるのは、標的抗原又は標的抗原エピトープに対する親和性が向上した抗体を同定する方法であって、(a)上記及び本明細書に記載される方法のうちのいずれかに従って抗体ライブラリを生成することであって、2つ以上のインバリアントCDR配列が、親和性成熟される親抗体に由来する、生成することと、(b)抗体ライブラリをスクリーニングして、対照と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合する抗体を単離し、それによって親和性が向上した抗体を同定することと、を含む、方法である。
【0032】
更に別の態様では、本明細書で提供されるのは、標的抗原又は標的抗原エピトープに結合する抗体の発生可能性を改善するための方法であって、(a)上記及び本明細書に記載される方法のうちのいずれかに従って抗体ライブラリを生成することであって、2つ以上のインバリアントCDR配列が、親和性成熟される親抗体に由来し、インバリアント及びバリアントCDR配列が、配列ライアビリティのうちの1つ以上を含まない、生成することと、(b)抗体ライブラリをスクリーニングして、対照と比較して標的抗原又は標的抗原エピトープにより強く結合し、元の抗体のCDRに見出される配列ライアビリティのうちの1つ以上を欠く抗体を単離し、それによって抗体の発生可能性を改善することと、を含む、方法である。
【0033】
いくつかの実施形態では、2つ以上のインバリアントCDR配列は、(i)V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(ii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、(iii)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3、(iv)V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3、並びに(v)V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、及びV-CDR2からなる群から選択され得る。
【0034】
いくつかの実施形態では、インバリアント及びバリアントCDR配列は、以下のライアビリティ:(i)グリコシル化部位、(ii)脱アミド化部位、(iii)異性化部位、(iv)対合していないシステイン、(v)1を超える正味電荷、(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、(vii)凝集を促進するモチーフ、(viii)ポリ特異性部位、(ix)プロテアーゼ感受性部位、(x)インテグリン結合部位、(xi)リジングリコシル化部位、(xii)金属触媒断片化部位、(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない。
【0035】
いくつかの実施形態では、グリコシル化部位は、モチーフNXS、NXT、又はNXCを含み得、式中、Xは、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表す。
【0036】
いくつかの実施形態では、脱アミド化部位は、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、又はGNGのモチーフを含み得る。
【0037】
いくつかの実施形態では、異性化部位は、DT、DH、DS、DG、又はDDのモチーフを含み得る。
【0038】
いくつかの実施形態では、トリペプチドは、HYF若しくはHWHであり得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、凝集を促進するモチーフは、FHWのモチーフを含み得る。
【0040】
いくつかの実施形態では、ポリ特異性部位は、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、又はWXWのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表す。
【0041】
いくつかの実施形態では、プロテアーゼ切断部位は、DXのモチーフを含み得、式中、Xは、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、又はDである。
【0042】
いくつかの実施形態では、インテグリン結合部位は、RGD、RYD、LDV、又はKGDを含み得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、リジングリコシル化部位は、KE、EK、又はEDを含み得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、金属触媒断片化部位は、HS、SH、KT、HXS、又はSXHのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表す。
【0045】
いくつかの実施形態では、ポリ特異性凝集部位は、X1X2X3のモチーフを含み得、式中、X1、X2、及びX3の各々は、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択される。
【0046】
いくつかの実施形態では、ストレプトアビジン結合モチーフは、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基GDWVFI若しくはPWPWLGを表す。
【0047】
いくつかの実施形態では、上記及び本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれか1つは、全長抗体ライブラリ、Fab抗体ライブラリ、一本鎖抗体ライブラリ、又は単一ドメイン抗体ライブラリであり得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、上記及び本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれか1つは、ヒト抗体ライブラリであり得る。
【0049】
本明細書に開示される抗体ライブラリのうちのいずれかは、好適なフォーマット、例えば、全長抗体のライブラリ、Fab断片などの抗原結合断片のライブラリ、一本鎖抗体のライブラリ、又は単一ドメイン抗体(例えば、VHH抗体)のライブラリのものであってもよい。いくつかの例では、本明細書に開示される抗体ライブラリは、ヒト抗体ライブラリであり得る。他の実施例では、本明細書に開示される抗体ライブラリは、ラクダ科動物VHH抗体ライブラリであり得る。
【0050】
更に別の態様では、本開示は、複数の抗体を含むVHHライブラリであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含み、CDR配列のうちの1つ以上が、複数の抗体の各抗体について同一であり(インバリアントCDR配列)、残りのCDRの各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDR配列を含む(バリアントCDR)、VHHライブラリを提供する。
【0051】
いくつかの実施形態では、インバリアントCDR配列は、単一の抗原又は抗原エピトープに結合する親VHHに由来する。
【0052】
更に別の態様では、本開示は、複数の抗体を含むVHHライブラリであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列を含み、CDR配列のうちの1つ以上が、複数の抗体の各抗体について同一であり(「インバリアントCDR配列」)、HCDR3を除く残りのCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含み(「バリアントCDR」)、HCDR3が、親HCDR3配列の複数のバリアントを含む、VHHライブラリを提供する。いくつかの実施形態では、HCDR3は、親HCDR3の単一の変異を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、インバリアントCDR配列は、単一の抗原又は抗原エピトープに結合する親VHHに由来する。
【0054】
更に別の態様では、本開示は、VHHライブラリを生成するための方法であって、(a)CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列からなる群から1つ以上のCDR配列を選択することと、(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:(i)(a)で選択された1つ以上のCDR配列(「インバリアントCDR配列」)、並びに(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(「バリアントCDR配列」)の独自の組み合わせであって、バリアントCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法を提供する。
【0055】
更に別の態様では、本開示は、VHHライブラリを生成するための方法であって、(a)CDR1配列、CDR2配列、及びCDR3配列からなる群から1つ以上のCDR配列を選択することと、(b)複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、以下のCDR配列:(i)(a)で選択された1つ以上のCDR配列(「インバリアントCDR配列」)、並びに(ii)(a)で選択されていない残りのCDR配列(「バリアントCDR配列」)の独自の組み合わせであって、HCDR3配列を除くバリアントCDR配列の各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する複数のCDRを含み、HCDR3が、親HCDR3の複数のバリアントを含む、独自の組み合わせを含む、生成することと、を含む、方法を提供する。いくつかの実施形態では、CDR3は、親HCDR3の単一の変異を含み得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、CDR配列は、以下の配列ライアビリティ:(i)グリコシル化部位、(ii)脱アミド化部位、(iii)異性化部位、(iv)対合していないシステイン、(v)1を超える正味電荷、(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、(vii)凝集を促進するモチーフ、(viii)ポリ特異性部位、(ix)プロテアーゼ感受性部位、(x)インテグリン結合部位、(xi)リジングリコシル化部位、(xii)金属触媒断片化部位、(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない。
【0057】
例えば、グリコシル化部位は、モチーフNXS、NXT、又はNXCを含み得、式中、Xは、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表し、脱アミド化部位は、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、又はGNGのモチーフを含み得、異性化部位は、DT、DH、DS、DG、又はDDのモチーフを含み得、トリペプチドは、HYF又はHWHであり、凝集を促進するモチーフは、FHWのモチーフを含み得、ポリ特異性部位は、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、又はWXWのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表し、プロテアーゼ切断部位は、DXのモチーフを含み得、式中、Xは、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、又はDであり、インテグリン結合部位は、RGD、RYD、LDV、又はKGDを含み得、リジングリコシル化部位は、KE、EK、又はEDを含み得、金属触媒断片化部位は、HS、SH、KT、HXS、又はSXHのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表し、ポリ特異性凝集部位は、X1X2X3のモチーフを含み得、式中、Xi、X2、及びX3の各々は、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択され、ストレプトアビジン結合モチーフは、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基GDWVFI又はPWPWLGを表す。
【0058】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴又は利点は、以下の図面及びいくつかの実施形態の詳細な説明から、並びに添付の特許請求の範囲からも明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0059】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示のある特定の態様を更に実証するために含まれており、本明細書に提示される特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて図面を参照することによってよりよく理解することができる。
【0060】
図1A】フェーズ1において産生された親抗体scFv及び3つのライブラリの概略図を示す。L1L2、L3、及びH1H2。各ライブラリは、示されたCDRに導入された多様性を有する。これらのフェーズ1ライブラリは、それぞれの試験されたCDRに対する最良の親和性のプールのスクリーニング及び選択を可能にし、次いで、最良の親和性CDRのプールは、少なくとも3つのCDRが置換され、3つの天然の非置換CDRを有する組み合わせライブラリを生成するためにフェーズ2において後で使用されるものである。
図1B】抗原濃度(0.16nM~100nM、各ステップで5倍増加させる)を増加させる表面プラズモン共鳴によって生成される抗原に結合する親抗体のセンサーグラムを示す。
図1C】フェーズ1におけるL1L2ライブラリを作製するための概略図を示す。これは、L3及びHIH2ライブラリも作製するための例示である。L1サブライブラリプールは、本明細書に記載の特定のプライマーを使用してPCRによって生成される(LCDR1プール)。同様に、L2サブライブラリは、PCRによって生成される(LCDR2プール)。選択された設計されたプライマーを用いたPCRは、次いで、これらの2つのサブライブラリからL1L2ライブラリを生成し、L1L2を親抗体scFv(LCDR3及びHCDRが変化していない)へと組み立てることを可能にし、それにより、フェーズ1でL1L2ライブラリを産生した。各ライブラリは、示されたCDRに導入された多様性を有する。
図2A】平衡及び動態プロトコルを使用した酵母ディスプレイ選択の概略図を示す。
図2B】3つのフェーズ1ライブラリ(L1L2、L3、H1H2)を用いてフェーズ1で実行される選択ラウンドの概要を示す。
図2C】フローサイトメトリーによって評価される増加する抗原濃度における親scFv及び3つのフェーズ1ライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。抗原への結合(APC蛍光)がY軸に示され、scFvディスプレイ(PE蛍光)がX軸に示される。
図2D】5ラウンドの選択後の親scFv及びライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。比較のために、親集団を表すゲートを全てのプロットに示す。最後の2つのカラムでは、標識抗原インキュベーション後、細胞を洗浄し、非標識抗原とともに2時間及び4時間インキュベーションして、結合の安定性を評価した。
図3A】親抗体scFv及び産生された2つのコンボライブラリの概略図を示す。コンボ1は、LCDR1~3及びHCDR1~2に多様性を有し、コンボ2は、LCDR3及びHCDR1~2に多様性を有する。
図3B】2つのコンボライブラリを用いてフェーズ2で実行された選択ラウンドの概要を示す。
図3C】任意の選択ラウンドが実行される前のコンボライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。抗原への結合(APC蛍光)がY軸に示され、scFvディスプレイ(PE蛍光)がX軸に示される。
図3D】3ラウンドの選択後の親scFv及びコンボライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。
図4A】コンボライブラリ1及び2から来るサンガー配列決定によって同定される独自のクローンの数を表すベン図を示す。
図4B】同定されたCDRの各々の間の接続を示すコード図を示す。
図4C】ライブラリのために設計され、配列決定されたクローンにおいて観察される、親scFvからのCDRを比較する配列ロゴを示す。文字高さは、所与のアミノ酸の頻度を示し、文字幅は、位置における非ギャップの頻度を表す。破線四角形は、親とは異なるアミノ酸に収束した領域を示す。
図4D】各CDRにおける親からのアミノ酸変化の数及びクローン当たりの総数を示すヒートマップを示す。各行は、同定されたクローンを表す。クローンは、変化の合計が最も少ないものから最も多いものの順に並べられている。
図4E】同定された各CDRにおけるアミノ酸変化の数及びクローン当たりの変化の総数を表すヒストグラムを示す。
図4F】親クローンと比較した、選択されたクローンごとの総編集距離を示すヒストグラムである。各CDRについて距離を個別に計算し、次に合計して、総距離を求める。
図5A】23個の親和性成熟クローン(A01~B12)及び無関係のscFv-Fc(対照)と競合するときに親scFvを提示する酵母への抗原結合を示す。全ての値は、対照によって正規化されて表示される。
図5B】親及び同定されたクローンについて観察されたオンレート(ka)及びオフレート(kd)を示す。等親和性曲線は、破線対角線として示される。
図5C】重複して(並べて)示される同定されたクローンのうちの23個についてのSPRセンサーグラムを示す。クローンの名前及び計算されたKDを各プロットに示す。計算されたオフレート(kd)が10-5-1未満であると推定される測定を、黒で囲む。
図6】23個の親和性成熟クローン(A01~B12)及び無関係のscFv-Fc(対照)と競合するときに親scFvを示す酵母への抗原結合のフローサイトメトリー分析を示す。scFv-Fc上清を、標識抗原(10nM)で15分間インキュベートし、次いで、親分子を示す酵母細胞を添加し、続いて蛍光染色して、抗原への結合を検出した。
図7A】フェーズ1で産生された親抗体scFv及び4つのライブラリの概略図を示す。H1H2、H3、L1L2、及びL3。各ライブラリは、示されたCDRに導入された多様性を有する。これらのフェーズ1ライブラリは、それぞれの試験されたCDRに対する最良の親和性のプールのスクリーニング及び選択を可能にし、次いで、最良の親和性CDRのプールは、6つのCDRを置き換えた組み合わせライブラリを生成するためにフェーズ2において後で使用されるものである。
図7B】フェーズ1におけるH1H2ライブラリを作製するための概略図を示す。これは、H3、L1L2及びL3ライブラリも作製するための例示である。H1サブライブラリプールは、本明細書に記載の特定のプライマーを使用してPCRによって生成される(HCDR1プール)。同様に、H2サブライブラリは、PCRによって生成される(HCDR2プール)。選択された設計されたプライマーを用いたPCRは、次いで、これらの2つのサブライブラリからH1H2ライブラリを生成し、H1H2を親抗体scFv(HCDR3及びLCDRが変化していない)へと組み立てることを可能にし、それにより、フェーズ1でH1H2ライブラリを産生した。各ライブラリは、示されたCDRに導入された多様性を有する。
図8A】フローサイトメトリーによって評価される増加する抗原濃度における4つのフェーズ1ライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。抗原への結合(APC蛍光)がY軸に示され、scFvディスプレイ(PE蛍光)がX軸に示される。
図8B】4つのフェーズ1ライブラリ(H1H2、H3、L1L2及びL3)を用いてフェーズ1で実行される選択ラウンドの概要を示す。
図8C】3ラウンドの選択後の4つのフェーズ1ライブラリ(H1H2、H3、L1L2及びL3)の酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。
図9A】親抗体scFv及び産生されたコンボライブラリの概略図を示す。コンボ1は、LCDR1~3及びHCDR1~3の多様性を有し、一方、コンボ2のHCDR3は、一定のままである。
図9B】2つのコンボライブラリを用いてフェーズ2で実行された4つの選択ラウンドの概要を示す。
図9C】任意の選択ラウンドが実行される前のコンボライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。抗原への結合(APC蛍光)がY軸に示され、scFvディスプレイ(PE蛍光)がX軸に示される。
図9D】1nM及び1μMの抗原における、4ラウンドの選択後の親scFv及びコンボライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを示す。
図9E】750nMの抗原で染色された場合、及び異なる放出時点で、4ラウンドの選択後に、親scFv及びコンボライブラリの酵母ディスプレイ結合プロファイルを比較する。
図10A】4つのフェーズ1ライブラリに由来する、コンボライブラリ1及び2からのサンガー配列決定によって同定される独自のクローンの数を表すベン図を示す。
図10B】各CDRにおける親からのアミノ酸変化の数及びクローン当たりの総数を示すヒートマップを示す。各行は、同定されたクローンを表す。クローンは、変化の合計が最も少ないものから最も多いものの順に並べられている。
図10C】同定された各CDRにおけるアミノ酸変化の数及びクローン当たりの変化の総数を表すヒストグラムを示す。
図10D】ライブラリのために設計され、配列決定されたクローンにおいて観察される、親scFvからのCDRを比較する配列ロゴを示す。文字高さは、所与のアミノ酸の頻度を示し、文字幅は、位置における非ギャップの頻度を表す。HCDR3の変異頻度は、配列ロゴにおいて視覚化するには低すぎた。
【発明を実施するための形態】
【0061】
親和性成熟は、抗原又は抗原エピトープを標的とし、結合するナイーブ抗体のライブラリからの強力な治療用分子の開発のために必要なステップである。モノクローナル抗体の品質は、標的抗原又は標的抗原エピトープに対するその親和性によって測定されることが多い。したがって、治療用抗体の開発における一般的なステップは、より高い親和性がより高い薬物効力をもたらすという仮定のもと、選択されたリードを親和性成熟キャンペーンに供することである。エラープローンPCR、チェーンシャッフリング、標的CDR変異などの多くの技術が、抗体親和性成熟に使用される。これらは有効であるが、抗体の安定性に悪影響を及ぼすか、又はエピトープ認識を変化させる可能性がある。更に、それらは、グリコシル化、アスパラギン脱アミド化、アスパルテート異性化、凝集モチーフ、及び抗原を標的とするナイーブライブラリから生じるリード抗体の発生可能性に潜在的に影響を与える可能性のある他のものなどの配列ライアビリティの存在に対処していない。これら全てにより、潜在的に、新たな工学ラウンドの必要性が生じるか、又は更には治療用分子としての抗体の有用性が喪失する可能性がある。
【0062】
本開示は、配列ライアビリティを実質的に含まない天然の相補性決定領域(CDR)を使用する抗体親和性成熟の改善された方法、並びにそのように産生された抗体ライブラリを提供する。高機能メンバーから構成されるため、本開示の抗体ライブラリは、配列ライアビリティのうちのいずれかを含有する抗体が存在する、類似の遺伝子サイズのライブラリよりも機能的にはるかに大きい。換言すると、本明細書に開示される抗体ライブラリは、はるかに大きな有効多様性を有する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「ライアビリティ」という用語は、抗体の1つ以上の所望の特徴(例えば、安定性、発現若しくはディスプレイシステムにおける良好な発現、適切な折り畳み、凝集がないか若しくは低下した凝集、溶解性、インテグリン結合がないか若しくは低下したインテグリン結合、グリコシル化がないか若しくは低下したグリコシル化、脱アミド化がないか若しくは低下した脱アミド化、異性化がないか若しくは低下した異性化、対合していないシステイン、又はプロテアーゼ感受性がないか若しくは低下したプロテアーゼ感受性など)に悪影響を及ぼす抗体中のモチーフを指す。
【0064】
本開示は、a)HCDR3を除く全てのCDRを既知のヒトCDRの集合に置き換えること、及びb)HCDR3を限られたバリアントに置き換えることによって、低ナノモル親和性抗体~低ピコモルの範囲に対する親和性成熟を実行する可能性を実証した。より具体的には、ナイーブな天然に存在する抗体ライブラリから得られた既知のCDRの集合から1つ以上のCDRを切り替えることによって、及びHCDR3における限定されたバリアントについて、向上したエピトープ結合親和性、10のオーダーでの改善を伴う組み合わせ抗体ライブラリを生成するための方法が、本明細書に提供される。
【0065】
同じ標的抗原を結合する全ての抗体の中で、このナイーブな天然に存在する抗体ライブラリからの単一のリード抗体が、以下に記載のCDRを置き換えるためのV及びV足場フレームワークを提供する親抗体として選択される。その低親和性のリード抗体は、その「天然」又は親CDRとして3つのV-CDR及び3つのV-CDRを有する。V及び/又はV内のCDRを置き換えるために、天然のCDRの集まりは、全てのV-CDR1~3及びV-CDR1~3の配置が、天然に存在する抗体ライブラリ、すなわち、天然のCDRの人工的な組み合わせとは異なるように混合され、それぞれのV又はVに組み立てられる。
【0066】
本明細書で使用される場合、「発生可能性」という用語は、それらの物理化学的特性の評価により、発見から開発まで成功裏に進むための分子の実現可能性を包含する。
【0067】
更に、本開示は、複数の抗体を含む抗体ライブラリであって、その中の各抗体が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3からなる群から選択される1つ以上のCDR配列が、複数の抗体の各抗体について同一であり、V及びVを構成する残りの選択されていないCDRの各々が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する、抗体ライブラリを提供する。
【0068】
既知のナイーブ抗体ライブラリからの天然CDRの定義された集合から配列ライアビリティを除去し、思い出させるライアビリティを含まないCDRを、これを一度に1つ又は2つの部位(LCDR1~2、LCDR3、HCDR1~2)で元の天然に存在する抗体ライブラリからリード抗体分子(親、変更されていない、図1A及び図3Aを参照されたい)に挿入するが、HCDR3及びフレームワーク領域はプロセス全体を通して一定のままである。例えば、様々なLCDR1~2をリード抗体に挿入するが、LCDR3/HCDR1~3は一定のままである。したがって、可変LCDR1~2及び同一のLCDR3/HCDR1~3(図1A、L1L2ライブラリを参照されたい)を用いて、組み合わせ抗体ライブラリを生成する。
【0069】
代替的に、様々なLCDR3を使用して、LCDR1/2及びHCDR1~3が一定のままであるリード抗体に挿入する。したがって、可変LCDR3及び同一のLCDR1~2/HCDR1~3(図1A、L3ライブラリを参照されたい)を用いて、組み合わせ抗体ライブラリを生成する。
【0070】
別の例として、様々なHCDR1~2をリード抗体に挿入してもよいが、LCDR1~3/HCDR3は一定のままである。したがって、可変HCDR1~2及び同一のLCDR1~3/HCDR3(図1A、H1H2ライブラリを参照されたい)を用いて、組み合わせ抗体ライブラリを生成する。
【0071】
一実施形態では、様々なLCDR3及び様々なHCDR1~2を使用して、LCDR1/2及びHCDR3が一定のままであるリード抗体に挿入してもよい。したがって、可変LCDR3、可変HCDR1~2、及び同じLCDR1~2/HCDR3(図3A、コンボ2ライブラリを参照されたい)を用いて、組み合わせ抗体ライブラリを生成する。
【0072】
別の実施形態では、様々なLCDR1~3及び様々なHCDR1~2を使用して、HCDR3のみが一定のままであるリード抗体に挿入してもよい。したがって、可変LCDR1~3、可変HCDR1~2、及び同一のHCDR3(図3A、コンボ2ライブラリを参照されたい)を用いて、組み合わせ抗体ライブラリを生成する。
【0073】
好ましくは、全ての可変LCDR1~3及びHCDR1~2並びにHCDR3は、ライアビリティを含まない。
【0074】
記載の方法を用いて80個超の独自のバリアントを作製し、このうち少なくとも23個はピコモル親和性を有し、抗原結合について親と競合するものであった(図4Eを参照されたい)。
【0075】
I.親抗体又はリード抗体
本明細書に開示されるのは、抗体の親和性成熟のための改善された方法である。本方法は、最初に、所望の結合及び/又は生物学的特徴を有する親抗体又はリード抗体を選択することを伴う。目的の標的に結合するリード抗体の最初の同定後、抗体クローンを、所望の生物学的活性を達成する能力について試験してもよい。そのような活性は、アゴニスト又はアンタゴニストであり得る。リードの所望の活性が同定されると、本明細書に開示される方法により、親和性を高めながら、エピトープ特異性及び所望の生物学的活性を維持する抗体を生成することが可能になり、これはおそらく効力を増加させるであろう(例えば、Rosenfeld et al.,2017、Hurlburt et al.2020を参照されたい)。任意の抗体又はその断片は、本開示における使用のために選択され得る。抗体(複数形で互換的に使用)は、免疫グロブリン分子の可変領域に位置する少なくとも1つの抗原認識部位を介して、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ポリペプチドなどの標的に特異的に結合することが可能な免疫グロブリン分子である。本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、無傷の(例えば、全長)ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体だけでなく、その抗原結合断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvなど)、一本鎖抗体(scFv)、単鎖Fab(scFab)、抗体部分を含む融合タンパク質、ヒト化抗体、キメラ抗体、ダイアボディ、単ドメイン抗体(ナノボディ、例えば、ラクダ科動物に見られるVhH若しくはVHH抗体などのVのみ抗体としても知られる)、若しくは多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び/又は抗体のグリコシル化バリアント、抗体のアミノ酸配列バリアント、及び共有結合改変抗体を含む、必要とされる特異性の抗原認識部位を含む免疫グロブリン分子の任意の他の改変形態も包含する。本明細書に開示される抗体は、IgD、IgE、IgG、IgA、若しくはIgM(又はそれらのサブクラス)などの任意のクラスの抗体を含み、抗体はいずれかの特定のクラスのものである必要はない。その重鎖の定常ドメインの抗体アミノ酸配列に応じて、免疫グロブリンを異なるクラスに割り当てることができる。免疫グロブリンには、5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと称される。免疫グロブリンの異なるクラスのサブユニット構造及び三次元形態は周知である。
【0076】
典型的な抗体分子は、重鎖可変領域(V)及び軽鎖可変領域(V)を含み、これらは通常、抗原結合に関与する。V領域及びV領域は、「相補性決定領域」(「CDR」)としても知られる超可変領域に更に細分することができ、「フレームワーク領域」(「FR」)として知られる、より保存された領域が点在する。各V及びVは、典型的には、3つのCDR及び4つのFRから構成され、これらは、アミノ末端からカルボキシ末端へと以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置されている。フレームワーク領域及びCDRの範囲は、当技術分野で既知の方法論を使用して、例えば、Kabat定義、Chothia定義、AbM定義、及び/又は接触定義(これら全ては当技術分野で周知である)によって正確に同定できる。例えば、Kabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242、Chothia et al.,(1989)Nature 342:877、Chothia,C.et al.(1987)J.Mol.Biol.196:901-917、Al-lazikani et al(1997)J.Molec.Biol.273:927-948、及びAlmagro,J.Mol.Recognit.17:132-143(2004)を参照されたい。また、hgmp.mrc.ac.uk及びbioinf.org.uk/absも参照されたい。
【0077】
本明細書に記載の抗体は、各々が可変ドメイン及び定常ドメインを含む、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含有する全長抗体であってもよい。代替的に、本明細書に記載される抗体は、全長抗体の抗原結合断片であり得る。全長抗体の「抗原結合断片」という用語の範囲内に包含される結合断片の例としては、(i)Fab断片、V、V、C及びC1からなる一価断片、(ii)F(ab’)断片、ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片、(iii)V及びC1ドメインからなるFd断片、(iv)抗体の単一アームのV及びVドメインからなるFv断片、(v)VドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546)、及び(vi)機能性を保持する単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、Fv断片の2つのドメインV及びVが別個の遺伝子によってコードされるが、それらは、組換え法を使用して、V領域及びV領域が対合して一本鎖Fv(scFv)として知られる一価分子を形成する単一タンパク質鎖としてそれらが作製されることを可能にする合成リンカーによって連結され得る。例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい。同じことが、Fab断片を構成する4つのドメインにも当てはまり、これらはまた、合成リンカーと一緒に接合して、単鎖Fab(scFab)を形成してもよい。Hust et al.BMC Biotechnol.2007;7:14を参照されたい。
【0078】
本明細書に記載の抗体のうちのいずれも、モノクローナル又はポリクローナルのいずれかであり得る。「モノクローナル抗体」は同種の抗体集団を指し、「ポリクローナル抗体」は異種の抗体集団を指す。これらの2つの用語は、抗体の供給源又は抗体の作製方法を制限するものではない。
【0079】
ナノボディとしても知られている単一ドメイン抗体も本開示の範囲内にある。いくつかの実施形態では、単一ドメイン抗体は、重鎖(VHH)のみを含有する。重鎖のみの抗体(HcAb)は、ラクダ科動物及びサメによって自然に産生される。HcAbの抗原結合部分は、VHH断片から構成される。例えば、Vincke et al.,Methods Mol Biol.911:15-26(2012)を参照されたい。
【0080】
本明細書に開示される抗体ライブラリは、任意の好適なフォーマットの抗体の集団を含有し得る。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体ライブラリは、任意の好適なファミリー(例えば、IgG又はIgA)のものであり得る全長抗体の集団を含む。他の実施形態では、本明細書に開示される抗体ライブラリは、抗原結合断片、例えば、Fab断片の集団を含む。更に他の実施形態では、本明細書に開示する抗体ライブラリは、一本鎖抗体の集団を含む。代替的に、本明細書に開示される抗体ライブラリは、VHH断片などの単一ドメイン抗体の集団を含み得る。
【0081】
II.ライアビリティを含まないCDRを有する部分的に多様化された抗体ライブラリ
本開示では、高親和性抗体が生成され、部分的に多様化された抗体ライブラリから選択される。本明細書で使用される場合、「部分的に多様化された抗体ライブラリ」という用語は、複数の抗体を含む抗体ライブラリを指し、各抗体は、少なくとも6つのCDR領域(例えば、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3)を含む。当該部分的に多様化された抗体ライブラリ内の各抗体は、特定の「インバリアントCDR領域」及び特定の「バリアントCDR領域」を含む。本明細書で使用される場合、「インバリアントCDR領域」という用語は、抗体ライブラリ内の全ての抗体について同一ヌクレオチド及びアミノ酸配列を含み、親抗体又はリード抗体に由来するCDR領域を指す。本明細書で使用される場合、「バリアントCDR領域」という用語は、そのヌクレオチド及び/又はアミノ酸配列が、抗体ライブラリ内の個々の抗体又は抗体のサブセットに独自のCDR領域を指す。
【0082】
いくつかの実施形態では、部分的に多様化された抗体ライブラリは、少なくとも2つのインバリアントCDR領域(例えば、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、又はV-CDR3)を含み得る。いくつかの実施形態では、部分的に多様化された抗体ライブラリは、少なくとも3つ、4つ、又は5つのインバリアントCDR領域を含む。所与の抗体ライブラリ内のバリアントCDR領域の数を制限することは、CDR領域間の組み合わせ多様性を減少させ、単一のCDR領域でより多くのバリアントを生成及びスクリーニングすることを可能にする。2つ以上のインバリアントCDR領域を維持することはまた、親抗体の生物学的活性を保持するために不可欠である、同じ方法で抗原に結合する新たなバリアントを見つける可能性を増加させる。
【0083】
いくつかの実施形態では、親HCDR3領域は、変動しない。いくつかの実施形態では、V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3は、抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である。いくつかの実施形態では、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3は、抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である。いくつかの実施形態では、V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3は、抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である。いくつかの実施形態では、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3は、抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である。いくつかの実施形態では、抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である2つ以上のCDR配列のうちの1つは、V-CDR3である。いくつかの実施形態では、CDR配列は、天然に存在する抗体ライブラリに由来する。
【0084】
いくつかの実施形態では、真の天然CDRのみが、抗体ライブラリの複数の抗体に組み込まれる。かかる手法の1つの利点は、CDRが天然抗体に由来しているために正しく折り畳まれることが知られているため、共分散違反を回避することである。ライブラリのメンバーが、潜在的なライアビリティを含有するメンバーを除外しながら、免疫系によって機能性について事前スクリーニングされるように天然多様性を含む抗体ライブラリを構築することにより、共通のスクリーニングシステム(例えば、酵母ディスプレイ、ファージディスプレイ、若しくはβラクタマーゼなどのフォールディングレポーター(例えば、Saunders et al.,Nat.Che Biol.,12:94-101;1988及びD’Angelo et al.,BMC genomics 12,suppl.1,S1-S5;2011を参照されたい)、又は緑色蛍光タンパク質(例えば、Waldo,et al.,Nat.Biotechnol.,17:691-5;1999、Cabantous,et al.,PLoS ONE.,3:e2387;2008、及びCabantous,et al.,J Struct Funct Genomics,6:113-9;2005を参照されたい))において不十分に発現される、凝集している、並びに/又は不十分に折り畳まれるであろう。したがって、本開示は、いくつかの実施形態では、抗体ライブラリのメンバーが良好に発現及び/又は折り畳まれ、ライアビリティを欠いていると予想されるように、抗体足場内で、インビボで生成される体細胞変異を含む天然に存在するCDRを含む、天然に存在するCDRを組み合わせることによって、非常に多様で高機能の抗体ライブラリを作製する方法を特徴とする。
【0085】
本明細書で使用される場合、「ライアビリティ」という用語は、(例えば、重鎖又は軽鎖CDR領域に位置する)抗体の1つ以上の所望の特徴(例えば、安定性、発現若しくはディスプレイシステムにおける良好な発現、適切な折り畳み、凝集がないか若しくは低下した凝集、溶解性、インテグリン結合がないか若しくは低下したインテグリン結合、グリコシル化がないか若しくは低下したグリコシル化、脱アミド化がないか若しくは低下した脱アミド化、異性化がないか若しくは低下した異性化、対合していないシステイン、又はプロテアーゼ感受性がないか若しくは低下したプロテアーゼ感受性など)に悪影響を及ぼす抗体中のモチーフを指す。高機能メンバーから構成されることにより、そのような抗体ライブラリは、これらのライアビリティのうちのいずれかを含有する抗体が存在する、類似の遺伝子サイズのライブラリよりも機能的にはるかに大きいと予想されるであろう。換言すると、本明細書に開示される抗体ライブラリは、はるかに大きな有効多様性を有するであろう。
【0086】
本明細書に記載の抗体ライブラリの生成及び親和性成熟の改善に使用するための重鎖(V)及び/若しくは軽鎖(V)-CDR1、CDR2、並びに/又はCDR3配列を更に分析して、ライアビリティを含むものを除去してもよい。例示的なライアビリティを表1に列挙する。いくつかの実施形態では、任意の配列ライアビリティを含有する天然に存在するCDRは破棄され、抗体ライブラリに含まれない。
【表1-1】
【表1-2】
【0087】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように同定されたCDR(例えば、CDR1、CDR2、CDR3、又はそれらの組み合わせ)を、良好な折り畳み及び/又は発現について実験的にスクリーニングするか、又は選択し、不良な折り畳み、不良な発現、多反応性又は凝集などのライアビリティに対してスクリーニングするか、又は選択してもよい。選択されたCDRは、足場との関連で、完全なVドメインに挿入されてもよい。得られた完全なVドメインを、良好な折り畳み及び/若しくは発現について更にスクリーニングして選択することができ、かつ/又は不十分な折り畳み若しくは発現、多反応性若しくは凝集などのライアビリティに対してスクリーニングして選択することができる。
【0088】
いくつかの事例では、表1に列挙されたライアビリティ(例えば、グリコシル化部位、脱アミド化部位、異性化部位、対合していないシステイン、1より大きい正味電荷(例えば、LCDR1~2及び/若しくはHCCDR1~2)、少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ(粘度に影響を及ぼし得る)、凝集を促進するモチーフ、(viii)GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、若しくはWXWのモチーフを含有するものなどのポリ特異性部位(式中、Xは任意のアミノ酸残基を表す)、プロテアーゼ感受性部位(断片化感受性部位)、又はインテグリン結合部位)のうちの1つを含むV-及び/又はV-CDR配列を除去することができ、結果として生じる抗体ライブラリは、除外されたライアビリティを含むメンバーを含まない(実質的に含まないか、又は完全に含まない)。
【0089】
代替的に又は追加的に、リジングリコレーション部位などの潜在的なグリコシル化部位を除去し得る。グリコレーション部位は、非酵素プロセスを介して糖分子に連結され得るタンパク質分子内の部位を指す。例示的なグリコレーション部位としては、KE、EK、及びEDが挙げられるが、これらに限定されない。追加のライアビリティには、金属触媒断片化部位(例えば、HS、SH、KT、HXS、又はSXH、式中、Xは任意のアミノ酸残基を表す)、多特異性凝集部位(例えば、X1X2X3のモチーフを有し、式中、Xi、X、及びX3の各々は、独立して、F、I、L、V、W、又はYである)、及びストレプトアビジン結合モチーフ(例えば、HPQ、EPDW、PWXWL、式中、Xは任意のアミノ酸残基、GDWVFI、及びPWPWLGを表す)が含まれる。
【0090】
「実質的に含まない」とは、ライアビリティを含むVH及び/又はVH CDR配列の数が、ライブラリ内で20%未満、例えば15%未満、又は10%未満であることを意味する。
【0091】
いくつかの例では、上記のライアビリティのうちの2つ以上(例えば、3、4、5、6、7、又はそれ以上)を含むVH及び/若しくはVL CDR1、CDR2、並びに/又はCDR3配列は、結果として生じるライブラリが、除外されたライアビリティを含むメンバーを含まない(実質的に含まないか、又は完全に含まない)ように除去することができる。好ましい実施形態では、表1に列挙されるライアビリティの全ては、結果として生じるライブラリが、ライアビリティのうちのいずれかを含むメンバーを含まない(実質的に含まないか、又は完全に含まない)ように除去することができる。
【0092】
1つ以上のライアビリティを含む配列を除くか、又は全ての配列を維持するかのいずれかの、天然に存在する抗体から得られる重鎖及び/又は軽鎖CDR1、CDR2、及び/又はCDR3配列を、抗体ライブラリを組み立て、本明細書に記載の方法で使用するためのCDR配列をコードし、複製する核酸を合成するためのテンプレートとして使用することができる。そのような核酸は、抗原エピトープを標的とするナイーブな天然に存在する抗体ライブラリから同定されたリード抗体のVH及び/又はVL鎖の対応するCDR位置に挿入することができる。
【0093】
例えば、初期抗体ライブラリは、正しい抗体折り畳みを検出するコンフォメーションプローブで染色された酵母を示す抗体について選別され得る。Traxlmayr et al,Arch Biochem Biophys.526(2):174-80,2012。そのようなコンフォメーションプローブの例としては、それぞれVH3及びVKドメインに結合することができるプロテインA(Hillson et al,The Journal of experimental medicine.178(l):331-6,1993、Akerstrom et al,1994;J.Imm Methods,177(1-2):151-63,1994、及びRoben et al,J.Immunology 154(12):6437-45,1995)又はプロテインL(Charbit et al,Gene,70(1):181-9,1988、Graille et al,Structure,9(8):679-87,2001及びEnever et al,Journal of molecular biology,347(1):107-20,2005)、及び全ての抗体中に見られる「ヌクレオチド結合部位」に結合するインドール3-酪酸の誘導体(Alves et al,Langmuir,28(25):9640-8,2012、Alves et al,Anal Chem,84(l8):772l-8,2012、Alves et al,Bioconjug Chem,25(7):1198-202,2014、及びMustafaoglu et al,Biotechnol Bioeng.,112(7):1327-34,2015)(Rajagopalan et al,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,93(l2):60l9-24,1993)が挙げられる。
【0094】
コンフォメーションプローブの以前の使用は、酵母ディスプレイにおいて高い発現及び熱安定性を予測することが示されている(Traxlmayr et al,2012、Shusta et al,J Mol Biol.292(5):949-56,1999、Traxlmayr et al,Biochim Biophys Acta.,1824(4):542-9,2012、Traxlmayr et al,Protein Eng Des Sel,26(4):255-65,2013、及びHasenhindl et al,Protein Eng Des Sel,26(l0):675-82,2013)。このアプローチによって、良好に発現され、良好に折り畳まれた抗体断片を選択する。良好なディスプレイのための肯定的な選択の代わりに、各個々のCDRライブラリでは、ライアビリティを含有するCDRを枯渇させることができる。例えば、抗体スクリーニングに使用されるスクリーニングを酵母ディスプレイ選別に適合させること(Yang et al,MAbs.,5(5):787-94,2013、Kelly et al,MAbs,7(4):770-7,2015、Kohli et al,MAbs.7(4):752-8,2015、Obrezanova et al,MAbs.,7(2)352-63,2015、Wu et al,Protein Eng Des Sel,28(l0):403-l4,2015、Yang et al,MAbs.,9(4):646-53,2017、Xu et al,Protein Eng Des Sel,26(l0):663-70,2013、及びKelly et al,MAbs.,9(7)3036-40,2017)、及びより「発生可能な」表現型に対応する抗体を提示する酵母を単離することにより、高機能ライブラリを作製するために組み合わせることができる好適なCDRを選択する。
【0095】
重及び/若しくは軽CDR1、CDR2、並びに/又はCDR3の機能メンバーをコードする配列は、そのような機能メンバーをコードする核酸を合成するためのテンプレートとして使用することができるか、又は直接使用することができる。次いで、得られた核酸を、本明細書に記載の抗原エピトープを標的とするナイーブな天然に存在する抗体ライブラリから同定されたリード抗体のVH及び/又はVL鎖に挿入して、本明細書に記載の抗体ライブラリを生成することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される抗体ライブラリは、非機能メンバーを実質的に含まず、例えば、10%未満(例えば、8%未満、5%未満、3%未満、1%未満、又はそれ以下)の非機能メンバーを有する。
【0096】
III.組み合わせ抗体ライブラリ
いくつかの実施形態では、高親和性抗体を開発するための方法は、配列ライアビリティを除去した天然CDRの定義された集合を使用する2相多様化戦略を伴う。第1のフェーズでは、1つ以上の抗体ライブラリ(すなわち、部分的に多様化された抗体ライブラリ)は、CDRのこの定義された集合を、一度に1つ以上の部位でリード又は親抗体分子に挿入することによって生成されるが、CDR領域の少なくとも2つは、各抗体において一定に保たれる。次いで、得られた抗体を、標的に対するそれらの結合親和性及びそれらのエピトープ特異性(すなわち、それらがリード又は親抗体と同じエピトープを維持すること)に基づいて選択する。第2のフェーズでは、選択された抗体のCDR領域を組み合わせて、「組み合わせ抗体ライブラリ」を作製し、次いで、この組み合わせ抗体における得られた抗体を、それらの結合親和性及びエピトープ特異性に基づいて選択する。この2段階の親和性成熟戦略により、各CDR部位における多様性をより完全に探索することができる。ライブラリのサイズは、ライブラリ生成中に便利に得ることができる形質転換体の数によって制限されるため、任意の種類のインビトロ進化を実行するときにしばしば懸念される。各初期の部分的に多様化された抗体ライブラリ内のCDR領域のサブセットのみを変えることで、標的に対するエピトープ特異性を維持しながら、配列空間をより効果的に探索することができる。本明細書に開示されるように、この方法論により、抗体の親和性が改善され、低ピコモルK値が得られる。
【0097】
いくつかの実施形態では、本発明は、組み合わせ抗体ライブラリを生成する方法であって、各々が複数の抗体を含む少なくとも2つの抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及び-CDR3配列を含み、各抗体ライブラリが、2つ以上のCDR配列をインバリアントCDR配列として選択することによって生成され、当該インバリアントCDR配列が、指定された標的抗原に結合することが知られている親抗体に由来する、生成することと、複数の抗体を含む抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、選択された2つ以上のインバリアントCDR配列と、選択されていないバリアントCDR配列の独自の組み合わせと、を含み、CDR配列が、天然に存在する抗体に見出されるCDRの配列に由来する、生成することと、当該特定の標的への結合について、当該抗体ライブラリ内の各抗体をスクリーニングすることと、抗体を選択することであって、選択された抗体が、当該親抗体よりも高い親和性で特異的標的抗原に結合する、選択することと、複数の抗体を含む組み合わせ抗体ライブラリを生成することであって、複数の抗体の各抗体が、V-CDR1配列、V-CDR2配列、V-CDR3配列、V-CDR1配列、V-CDR2配列、及びV-CDR3配列を含み、複数の抗体の各抗体が、バリアントCDR配列の独自の組み合わせを含み、バリアントCDR配列が、選択された抗体のCDR配列から選択される、生成することと、を含む、方法を提供する。
【0098】
いくつかの実施形態では、組み合わせライブラリは、少なくとも2つの部分的に多様化された抗体ライブラリから選択される高親和性抗体のCDR領域を組み合わせることによって生成される。いくつかの実施形態では、組み合わせライブラリは、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個の部分的に多様化された抗体ライブラリから選択される選択された高親和性抗体のCDR領域を組み合わせることによって生成される。いくつかの実施形態では、部分的に多様化された抗体ライブラリの各々は、インバリアントCDR領域の以下のセット:
(i)(V-CDR3、VH-CDR1、VH-CDR2、及びVH-CDR3)、
(ii)(V-CDR1、VL-CDR2、VH-CDR1、VH-CDR2、及びV-CDR3)、
(iii)(V-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3、及びV-CDR3)、
(iv)(V-CDR1、VL-CDR2、及びV-CDR3)、並びに
(v)(V-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3、VH-CDR1、及びVH-CDR2)のうちの1つを含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、部分的に多様化された抗体ライブラリの各々は、インバリアントV-CDR3ドメインを含む。
【0100】
組み合わせ抗体ライブラリは、いかなるインバリアントCDR領域をも含有しない場合がある。いくつかの実施形態では、組み合わせ抗体は、1つ以上のインバリアントCDR領域を含有するであろう。いくつかの実施形態では、組み合わせ抗体は、1つ、2つ、3つ、4つ、又は5つのインバリアントCDR領域を含む。いくつかの実施形態では、組み合わせ抗体ライブラリは、インバリアントV-CDR3ドメインを含み得る。
【0101】
組み合わせ抗体ライブラリは、任意の形態のものであることができる。例えば、いくつかの実施形態では、全長抗体ライブラリ、Fab抗体ライブラリ、一本鎖抗体ライブラリ、又は単一ドメイン抗体ライブラリである。いくつかの実施形態では、抗体ライブラリは、ヒト抗体ライブラリである。組み合わせ抗体ライブラリは、部分的に多様化された抗体ライブラリと同じ種類の抗体ライブラリのものである必要はない。例えば、組み合わせ抗体ライブラリは、全長抗体ライブラリであってもよく、CDR領域が組み合わせライブラリを構成する選択された抗体を生成するために使用される部分的に多様化された抗体ライブラリは、一本鎖抗体ライブラリであってもよい。
【0102】
本開示では、方法及び抗体ライブラリの複数の抗体の各抗体について同一である選択された1つ以上のCDR配列(「インバリアントCDR配列」)は、(V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3)[L1L2ライブラリについて]、(V-CDR1、V-CDR2、V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3)[L3ライブラリについて]、(V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、及びV-CDR3)[H1H2ライブラリについて]、(V-CDR3)[コンボ1ライブラリについて]、並びに(V-CDR1、V-CDR2、及びV-CDR3)[コンボ2ライブラリについて]であってもよい。CDR配列は、天然に存在する抗体ライブラリに由来し、その中の抗体は、単一の抗原又は単一の抗原エピトープに結合し、結合親和性は、少なくとも9.5nMである。選択された1つ以上のCDR配列は、組み立てられた組み合わせ抗体中のインバリアントCDRを形成する。
【0103】
いくつかの実施形態では、複数の抗体(「バリアントCDR」)の各抗体について変化する残りの選択されていないCDRは、(V-CDR1及びV-CDR2)[L1L2ライブラリについて]、(V-CDR3)[L3ライブラリについて]、(V-CDR1及びV-CDR2)[H1H2ライブラリについて]、(V-CDR1、V-CDR2、V-CDR3、V-CDR1、V-CRD2)[コンボ1ライブラリについて]、並びに(V-CDR3、V-CDR1、V-CDR2)[コンボ2ライブラリについて]であってもよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、CDR配列は、以下の配列ライアビリティ:(i)グリコシル化部位、(ii)脱アミド化部位、(iii)異性化部位、(iv)対合していないシステイン、(v)1を超える正味電荷、(vi)少なくとも2つの芳香族残基を含有するトリペプチドモチーフ、(vii)凝集を促進するモチーフ、(viii)ポリ特異性部位、(ix)プロテアーゼ感受性部位、(x)インテグリン結合部位、(xi)リジングリコシル化部位、(xii)金属触媒断片化部位、(xiii)ポリ特異性凝集部位、及び(xiv)ストレプトアビジン結合モチーフのうちの1つ以上を含まない。
【0105】
いくつかの実施形態では、グリコシル化部位は、モチーフNXS、NXT、又はNXCを含み得、式中、Xは、プロリンを除く任意の天然に存在するアミノ酸残基を表し、脱アミド化部位は、NG、NS、NT、NN、NA、NH、ND、GNF、GNY、GNT、又はGNGのモチーフを含み得、異性化部位は、DT、DH、DS、DG、又はDDのモチーフを含み得、トリペプチドは、HYF又はHWHであり得、凝集を促進するモチーフは、FHWのモチーフを含み得、ポリ特異性部位は、GG、GGG、RR、VG、W、WV、WW、WWW、YY、又はWXWのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表し、プロテアーゼ切断部位は、DXのモチーフを含み得、式中、Xは、P、G、S、V、Y、F、Q、K、L、又はDであり、インテグリン結合部位は、RGD、RYD、LDV、又はKGDを含み得、リジングリコシル化部位は、KE、EK、又はEDを含み得、金属触媒断片化部位は、HS、SH、KT、HXS、又はSXHのモチーフを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基を表し、ポリ特異性凝集部位は、X1X2X3のモチーフを含み得、式中、Xi、X2、及びX3の各々は、独立して、F、I、L、V、W、及びYからなる群から選択され、ストレプトアビジン結合モチーフは、モチーフHPQ、EPDW、PWXWLを含み得、式中、Xは、任意のアミノ酸残基GDWVFI又はPWPWLGを表す。
【0106】
IV.高親和性抗体を選択する方法
様々な実施形態では、特定のエピトープに対する1つ以上の高親和性抗体が選択されるように、親抗体の親和性成熟の方法が本明細書に記載される。かかる方法は、部分的に多様化された抗体ライブラリの生成及びスクリーニングを含み得る。かかる方法はまた、組み合わせ抗体ライブラリの生成及びスクリーニングも含み得る。
【0107】
本明細書に開示される抗体ライブラリは、当該技術分野で既知の技術を使用して作製することができる。例えば、ファージディスプレイライブラリを生成し、そのようなライブラリを所望の結合特徴を有する抗体についてスクリーニングするための様々な方法が当該技術分野で既知である。そのような方法は、例えば、Hoogenboom et al.in Methods in Molecular Biology 178:1-37(O’Brien et al.,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2001)に記載されており、例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-554、Clackson et al.,Nature 352:624-628(1991)、Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992)、Marks and Bradbury,in Methods in Molecular Biology 248:161-175(Lo,ed.,Human Press,Totowa,N.J.,2003)、Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004)、Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004)、Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004)、及びLee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)に更に記載されている。
【0108】
本明細書に記載の抗体ライブラリのいずれかを使用して、目的の抗原に結合特異性を有する抗体をスクリーニングしてもよい。ライブラリ中の核酸によってコードされる抗体は、好適な発現/ディスプレイシステム、例えば、無細胞ディスプレイシステム(例えば、リボソームディスプレイ)、ファージディスプレイシステム、原核細胞ベースのディスプレイシステム(例えば、細菌ディスプレイ)、又は真核細胞ベースのディスプレイシステム(例えば、酵母ディスプレイ又は哺乳動物細胞ディスプレイ)を使用して発現及び提示することができる。ある特定の実施形態では、抗体ライブラリを発現させ、酵母細胞上に提示する。他の実施形態では、抗体ライブラリを発現させ、ファージ粒子上に提示する(ファージディスプレイ)。他の実施形態では、2つ以上のディスプレイシステム、例えば、ファージディスプレイ、続いて酵母ディスプレイを使用する。
【0109】
抗体のライブラリは、任意のフォーマットで、好適なシステム、例えば、本明細書に記載されるもので発現/提示され得る。例としては、無傷抗体(全長抗体)、その抗原結合断片(例えば、Fab)、又は一本鎖抗体(scFv又はscFab)が挙げられる。ファージディスプレイは、バクテリオファージ(例えば、ファージfl、fd、及びM13)を使用するタンパク質ディスプレイフォーマットである。このシステムにおいて、少なくとも1つの抗体鎖(例えば、重鎖及び/又は軽鎖)は、典型的には、バクテリオファージコートタンパク質、例えば、遺伝子IIIタンパク質、遺伝子VIIIタンパク質、又はメジャーコートタンパク質に共有結合している(例えば、WO00/71694を参照されたい)。ファージディスプレイは、例えば、U.S.5,223,409、Smith(1985)Science 228:1315-1317、WO92/18619、WO91/17271、WO92/20791、WO92/15679、WO93/01288、WO92/01047、WO92/09690、WO90/02809、de Haard et al.(1999)J Biol.Chem 274:18218-30、Hoogenboom et al.(1998)Immunotechnology 4:1-20、Hoogenboom et al.(2000)Immunol Today 2:371-8、Fuchs et al.(1991)Bio/Technology 9:1370-1372、Hay et al.(1992)Hum Antibod Hybridomas 3:81-85、Huse et al.(1989)Science 246:1275-1281、Griffiths et al.(1993)EMBO J 12:725-734、Hawkins et al.(1992)JMol Biol 226:889-896、Clackson et al.(1991)Nature 352:624-628、Gram et al.(1992 )PNAS 89:3576-3580、Garrard et al.(1991)Bio/Technology 9:1373-1377、及びHoogenboom et al.(1991)Nuc Acid Res 19:4133-4137に記載されている。
【0110】
タンパク質成分を提示するバクテリオファージは、標準的なファージ調製方法、例えば、成長培地からのPEG沈殿物を使用して成長及び収穫され得る。個々のディスプレイファージの選択後、選択したタンパク質成分をコードする核酸は、増幅後に、選択したファージに感染した細胞から、又はファージ自体から単離することができる。個々のコロニー又はプラークを選択し、核酸を単離し、配列決定することができる。
【0111】
他の実施形態では、真核発現/ディスプレイシステム、例えば、酵母細胞又は哺乳類細胞を使用して、本明細書に記載の抗体のライブラリを発現及び提示することができる。酵母ディスプレイは、タンパク質成分(例えば、抗体成分)が酵母細胞壁タンパク質(例えば、Agalp又はAga2p)に直接的又は間接的に連結されるタンパク質ディスプレイフォーマットである。いくつかの場合において、抗体の1つの鎖は、直接提示のために酵母細胞壁タンパク質に共有結合的に融合され得る。他の事例では、抗体成分と酵母細胞壁成分との会合は、中間剤によって媒介され得る。酵母ディスプレイは、例えば、Cho et al.,J.Immunol.Methods,220(1-2):179-188,1998、Boder et al,Methods Enzymol.l92(2):243-248,2000、van den Beucken et al.,FEBS Lett 546(2-3):288-294,2003、及びBoder et al,Arch Biochem Biophys 526(2):99-106,2012に記載されている。標的抗原に結合することができる抗体を単離するために本明細書に記載の抗体ライブラリをスクリーニングするために、抗体のライブラリは、抗体-抗原結合を可能にする好適な条件下で標的抗原と接触することができる。標的抗原に結合する抗体を提示するファージ粒子又は宿主細胞は、例えば、保持又は標的抗原が固定化された支持体によって単離され、必要に応じて増幅され、提示された抗体をコードする核酸を決定することができる。スクリーニングプロセスは、複数回繰り返すことができ、ディスプレイシステムは、組み合わせて使用できる。必要に応じて、所望の結合特異性を有する抗体メンバーを選択するため、又は非標的抗原への結合活性を有する抗体メンバーを除外するための負の選択のために、異なる抗原を使用することができる。
【0112】
本明細書に記載のライブラリに由来する抗体のスクリーニングは、任意の適切な手段によって実施することができる。例えば、結合活性は、標準的なイムノアッセイ及び/又はアフィニティークロマトグラフィーによって評価することができる。治療標的に結合する候補抗体の能力を決定することは、例えば、表面プラズモン共鳴に基づいて所与の標的抗原に対する抗体の結合速度を測定するBIACORE(商標)機器を使用してインビトロでアッセイすることができる。インビボアッセイは、いくつかの動物モデルのうちのいずれかを使用して実施し、その後、必要に応じてヒトで試験することができる。細胞ベースの生物学的アッセイも企図される。
【0113】
更なる詳細なしに、当業者は、上記の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の特定の実施形態は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる方法であれ、本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用される全ての刊行物は、本明細書で参照される目的又は主題のために参照により組み込まれる。
【0114】
一般的な技術
本発明の実施は、他に示されない限り、当技術分野の範囲内である、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を使用する。かかる技術は、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,second edition(Sambrook,et al.,1989)Cold Spring Harbor Press;Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.1984);Methods in Molecular Biology,Humana Press;Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1989)Academic Press;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.1987);Introuction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press;Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.1993-8)J.Wiley and Sons;Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.);Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.):Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubel,et al.eds.1987);PCR:The Polymerase Chain Reaction,(Mullis,et al.,eds.1994);Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991);Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999);Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997);Antibodies(P.Finch,1997);Antibodies:a practice approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989);Monoclonal antibodies:a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000);Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999);The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.Harwood Academic Publishers,1995);DNA Cloning:A practical Approach,Volumes I and II(D.N.Glover ed.1985);Nucleic Acid Hybridization(B.D.Hames&S.J.Higgins eds.(1985≫;Transcription and Translation(B.D.Hames&S.J.Higgins,eds.(1984≫;Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.(1986≫;Immobilized Cells and Enzymes(lRL Press,(1986≫;及びB.Perbal,A practical Guide To Molecular Cloning(1984);F.M.Ausubel et al.(eds.)などの文献で十分に説明されている。記載された本発明をより完全に理解できるように、以下の実施例を記載する。本出願に記載の実施例は、本明細書に提供される方法及び組成物を説明するために提供され、それらの範囲を限定するものとしていかようにも解釈されるべきではない。
【実施例
【0115】
親和性成熟は、強力な治療用分子の開発のために必要なステップである。タンパク質に多様性を導入する技術は長い間存在しており、所望の特徴(インビトロでの抗体の親和性成熟を含む)を有する分子を進化させるために広く使用されてきた(Kang,Jones et al.1991、Hawkins,Russell et al.1992、Marks,Griffiths et al.1992、Jackson,Sathe et al.1995、Yang,Green et al.1995、Low,Holliger et al.1996、Schier and Marks 1996、Schier,McCall et al.1996、Thompson,Pope et al.1996、Hanes,Jermutus et al.1998、Hemminki,Niemi et al.1998、Wu,Beuerlein et al.1998、Boder,Midelfort et al.2000、Hanes,Schaffitzel et al.2000、Rader,Popkov et al.2002,Lu,Shen et al.2003、Rajpal,Beyaz et al.2005、Garcia-Rodriguez,Levy et al.2007、Lippow,Wittrup et al.2007、Yang,Yoon et al.2007、Barderas,Desmet et al.2008、Gonzalez-Munoz,Bokma et al.2012、Votsmeier,Plittersdorf et al.2012、Thakkar,Nanaware-Kharade et al.2014、Frigotto,Smith et al.2015、Hu,Hu et al.2015、Tiller,Chowdhury et al.2017、Cannon,Shan et al.2019)。
【0116】
親和性を向上させるために天然のCDR多様化を模倣するアプローチは、所与の位置での天然に存在するアミノ酸の頻度をシミュレートするために変性を使用する代わりに、オリゴヌクレオチドプールの大規模かつ低コストの産生を可能にした合成生物学の最近の進歩を利用して(Kosuri and Church 2014)、ヒトレパートリーからの完全な自然のCDR配列が救出され、合成されたという点で、以前に公開された著作(Julian,Li et al.2017、Tiller,Chowdhury et al.2017)と類似性を共有している。このようにして、単に天然のCDRの多様性に類似する多様性ではなく、真の天然CDRのみが組み込まれる。かかる手法の1つの考えられる利点は、CDRが天然抗体に由来しているために正しく折り畳まれることが知られているため、共分散違反を回避することである(Chou,Nemethy et al.1989、Du,Wei et al.2003)。注目すべきことに、我々の供給源の多様性のために使用された配列決定されたライブラリは、ナイーブCD19+B細胞に由来し、完全に成熟したIgGレパートリーと比較すると、ほとんどのV領域がより少ない変異を有する。
【0117】
本開示は、同一のエピトープ結合を保持しながら、配列ライアビリティの数を減少させながら、低ピコモルK値に対するリード抗体の親和性改善を実証する。これは、配列ライアビリティが除去された天然CDRの定義された集合を使用する新たな多様化戦略の使用に基づく。第一に、CDR配列を、ナイーブライブラリのNGSによって同定した(Erasmus,D’Angelo et al.2021、米国特許第10,954,508号(その内容はその全体が本明細書に参照により組み込まれる)を参照されたい)。同定された個々のCDRを、変性することなく、全ての配列ライアビリティを除去して化学的に合成し、一度に1つ又は2つの部位でリード分子に挿入した(フェーズI:LCDR1~2、LCDR3、HCDR1~2)(図1A及び図7Aを参照されたい)。HCDR3及びフレームワーク領域は、プロセスを通して一定に保たれた。代替的に、HCDR3を変異スキャンし、このアプローチでは、HCDR3配列内の各アミノ酸位置を19アミノ酸(システインを除く)に変異させ、合計でY×19個のオリゴヌクレオチドとした。式中、Yは、変異させるHCDR3アミノ酸の数である(図7Aを参照されたい)。酵母ディスプレイを使用して向上した親和性バリアントを選択した後、各ライブラリの得られた可変領域をフェーズ2の間に組み合わせ、1つ又は2つのコンボライブラリを生成し、これらのコンボライブラリを更に選択する(図1A及び図7Aを参照されたい)。
【0118】
実施例1:3つのフェーズ1ライブラリについての親抗体の同定及びCDR設計
治療目的の単量体ヒトタンパク質に対する抗体を、改善された親和性成熟法を使用して親和性成熟させるように選択した。VH3重鎖及びVλ3軽鎖を含む抗体を、ナイーブヒトscFvファージディスプレイライブラリをバイオパニングすることによって最初に同定した(Erasmus,D’Angelo et al.2021)。CDRの分析により、下流の臨床開発に影響を与える可能性のある3つの配列ライアビリティを明らかにした:LCDR2及びLCDR3における、化学的劣化及び効力の損失を引き起こす可能性がある(Sydow,Lipsmeier et al.2014)2つの異なるアスパルテート酸異性化部位、並びにHCDR2におけるGG非特異性モチーフ(Kelly,Le et al.2018)。scFv親和性(K)は、表面プラズモン共鳴(図1B)によって、9.5nM(k=4.6x10-1-1、k=4.3x10-3-1)であると決定した。
【0119】
同じ抗体ライブラリからのディープシーケンシングデータ(MiSeq及びNovaSeq)を使用して、親和性成熟のために親配列にシャッフルされ得るCDRを同定した。LCDR1~2のみについては、Vλ3生殖細胞系ファミリーに由来するCDR配列が考慮され、HCDR1~2のみについては、親抗体と同じ生殖細胞系遺伝子に属しているため、これらの配列がより良好に耐容され、潜在的な構造的混乱を最小限に抑えると仮定して、VH3ファミリーに由来する配列が考慮された。しかしながら、LCDR3については、理論上、CDR3領域がより多様な配列のセットをサポートすることができるはずであるため、特定のファミリー又は生殖細胞系にかかわらず、全てのλ軽鎖LCDR3配列を含めた。
【0120】
好ましくない発生可能性プロファイルを有する抗体を選択する可能性を最小限に抑えるために、グリコシル化部位及び対合していないシステインなどの好ましくないライアビリティを含有する配列を排除した(親和性成熟ライブラリのために設計されたCDRから除去された配列ライアビリティの完全なリストについては、表2を参照されたい)。列挙されたモチーフのうちのいずれかを含有する同定された全てのCDRを破棄した。最後に、同定されたCDRを、親抗体と一致する隣接フレームワーク配列で生成し、アレイベースのDNA合成(Agilent)を使用して生成した。これにより、フレームワークプライマーを使用することによって、各個々のCDR部位における完全な多様性の救済が可能になった。
【表2】
【0121】
実施例2:3つのフェーズ1ライブラリの構築
ライブラリのサイズは、ライブラリ生成中に便利に得ることができる形質転換体の数によって制限されるため、任意の種類のインビトロ進化を実行するときにしばしば懸念される:ファージ及びE.coliディスプレイについては10~1010、S.cerevisiaeにおける酵母ディスプレイについては10~10。本開示は、段階的アプローチ(Hemminki,Niemi et al.1998)を選択した。これは、配列空間をより効果的に探索することを可能にするためである。フェーズ1では、LCDR1をLCDR2、HCDR1、及びHCDR2と組み合わせ、LCDR3を単独で残した(表3)が、ともかくもこれが最適なアプローチであると信じる理由はなかった。これは、ライブラリ構築のための最も便利な組み合わせと思われるものから行われた。これらのライブラリは、各々についての最大の組み合わせ多様性(1.7×10~3.2×10の範囲の理論的多様性)よりも多くの形質転換体の生成を可能にした。また、各ライブラリにおいて、極めて重要なHCDR3を含む少なくとも4つの親CDRを固定することによって、探索空間が減少し、生物学的活性を保持するのに不可欠な、同じ方法で抗原に結合する新たなバリアントを見つける可能性が増加した。組み込まれたCDRの多様性に加えて、各ライブラリは、配列ライアビリティを含んでいても、他の導入されたCDRと同じ存在量で親CDR配列も含んでいた。これは、特定の親CDR配列が結合に不可欠である場合に、保持された活性を確実にするためであった。
【表3】
【0122】
CDR配列の5つの異なる集合(LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、及びHCDR2)を、Q5ポリメラーゼ(NEB#M0491L)を使用するPCRによって特異的プライマーで増幅した。残りの領域を親scFvから増幅し、PCRによってCDRと組み立てた(図1A及び1Cを参照されたい)。新たに生成されたCDRプールをscFvの残りの部分と組み合わせることによって、ライブラリを組み立てた。例えば、L1L2ライブラリを、(1)合成オリゴプールからの隣接フレームワークを用いてLCDR1及びLCDR2を増幅すること、(2)親クローンからのscFvの残りの部分を増幅すること、(3)重複PCRによって生成された断片を組み立てること、及び(4)生成されたscFvカセットを、消化された酵母ディスプレイベクターとともにS.cerevisiaeに形質転換すること(図1C)によって組み立てた。各ライブラリからのscFvアンプリコンを、前述の方法(Benatuil,Perez et al.2010)を使用するエレクトロポレーションによって、以前にBssHII及びNheI(NEB#R0199S及び#R0131S)酵素で消化された酵母ディスプレイベクターpSYDとともに酵母に形質転換した。
【0123】
本開示は、フローサイトメトリーと組み合わせたときに所望の集団を回収する高い精度が得られるので、scFv酵母ディスプレイを使用することを選択した。しかしながら、この多様化アプローチは、ファージ又はリボソームのディスプレイとの関連で等しく有効であり、ライブラリサイズがより大きいために可能性を拡大し得ることさえ期待された。しかしながら、酵母が多価の性質であるのとは違って、一価の性質であるために異なる挙動を示すことが期待されるため、選択中の実験設計は、これらのプラットフォームに適応されなければならないであろう:多価の酵母細胞は、抗体オフレートに比例して時間の経過とともに変化する抗原飽和から抗原結合なしまでの連続体に存在するのに対し、一価のシステムは、二価の結合状態又は非結合状態にのみ存在することができる。この違いは、例えば、より多くの提示粒子を使用し、単一細胞の崩壊ではなく、時間の経過に伴う集団結合の崩壊に依存することによって克服することができる。本開示は、抗体の発見及び工学のためにscFvフォーマットを日常的に使用し、IgGフォーマットへの変換が70~90%成功して生じることを見出した。しかしながら、変換が懸念される場合、本明細書に記載される技術は、Fabディスプレイシステムを使用して容易に適用されるであろう。
【0124】
実施例3:3つのフェーズ1ライブラリを使用した酵母ディスプレイによる抗体選択
酵母ディスプレイ選択は、Ferrara et al(2012)と同様に実行した。簡潔に述べると、細胞を、2%ガラクトースを含有する選択培地中で、20℃で一晩誘導した。10個の誘導細胞を、冷洗浄緩衝液(PBS pH7.4 0.5% BSA)で2回洗浄し、PBS中で希釈したビオチン化抗原で室温でインキュベートした。このフェーズでは、2つの異なる選択戦略、すなわち平衡選択及び動態選択を使用した(図2A~2B)(Boder and Wittrup 1998、Boder,Midelfort et al.2000)。より従来のアプローチである平衡選択を、scFvを提示する酵母細胞を、定義された濃度の標識抗原(この場合、ビオチン化抗原)とともにインキュベートし、平衡に達した直後に標識細胞を選別することによって実行した。インキュベーションは、多くの場合、選択ラウンドが進むにつれて抗原濃度を低下させて実行される。ビオチン化抗原インキュベーションステップの後、細胞を洗浄し、PE(フィコエリスリン;scFvを提示する細胞を標識する)で標識した抗SV5及びAlexa Fluor 633(Thermo Scientific;ビオチン化抗原に結合した細胞を標識する)で標識したストレプトアビジンで速やかに染色し、次いで、抗原を結合する細胞を、FACS(蛍光活性化細胞選別)又はMACS(磁気活性化細胞選別)のいずれかによって選別する。MACS手順のために、ストレプトアビジンでコーティングされた常磁性ビーズを使用した(Miltenyi Biotec)。
【0125】
酵母表面上に提示される抗体は、平衡に達する前に溶液から抗原を枯渇させるため、抗原濃度を無期限に低下させることはできない(VanAntwerp and Wittrup 2000)。これを回避するには、最小限の抗原が除去され、有効濃度が一定のままであることを確実にするために、少数の細胞での大規模かつ非実用的なインキュベーション容積の使用が必要である。平衡選択の代替は、動態選択である:scFvを提示する酵母細胞を、非標識抗原とともにインキュベートし、洗浄し、非標識抗原(ビオチン化抗原よりも10倍高い濃度)とともにインキュベートして、抗原への安定した結合を有するクローンのみを選択する(遅いオフレート-k)。非標識抗原は、置換された標識抗原の再結合を防止するために使用される。定義された期間の後、標識抗原に依然として結合している細胞を、以前に記載されているように染色し、選別した。
【0126】
本開示は、減少する抗原濃度を使用して、ライブラリの初期フローサイトメトリー評価を実行した(図2C)。軽鎖ライブラリL1L2及びL3は、使用する示唆するであっても、抗原に結合する小さな集団(100nMで、それぞれ3%及び1.5%の結合集団)を示した。重鎖ライブラリH1H2については、1.2nM(集団の2.9%)から100nM(集団の8.3%)まで顕著な結合が観察され、この特定のクローンについて、軽鎖ではなく、重鎖CDRの改善の可能性が高いことを示唆する。
【0127】
これらのライブラリの各々のサイズを考慮して、本開示は、それぞれ10nM及び1nMの抗原濃度で、磁気支援細胞選別(MACS)を使用して、第1及び第2の選択ラウンドを実行した。これにより、本開示は、フローサイトメーターを使用して実用的であろう細胞よりも多くの細胞を標識及び分類することが可能になった。その後のラウンドでは、本開示は、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、目的の細胞のより正確な選別を可能にした。平衡選別の最初の3ラウンドの後、本開示は、L3及びH1H2ライブラリについて、4時間の競合を伴う2ラウンドの動態選別を実行した。L1L2ライブラリについては、4時間の動態選別のみを実行し、最終ラウンドを陰性選別として実行し、集団を二次試薬のみとともにインキュベートし、陰性細胞を選別した。これは、(他のものではなく)このライブラリの動態選別では抗原の不在下で弱い陽性が同定されたため、多反応性抗体がこのライブラリから濃縮される場合があるとの懸念から行われた(図2D)。
【0128】
5ラウンド後にこれらのライブラリの各々について得られた集団の評価は、全ての場合において親和性の顕著な向上が観察され得ることを示し(図2D)、生成された全ての集団は、標識抗原が溶液から除去されてから4時間後でも抗原への顕著な結合を示し、この時点で親抗体は最小限の結合を示す。個々のクローンの親和性はこの段階で評価されていないが、酵母ディスプレイの染色プロファイルを考慮すると、プロジェクトの要件に応じて満足のいく親和性を有する結合剤を既に見出すことができると仮定することは不合理ではない。
【0129】
実施例4:フェーズ2のコンボライブラリ 3つのフェーズ1ライブラリからの構築
結合の改善を示した3つの初期ライブラリの各位置でCDRを選択した後、本開示は、選択出力を、更に遅いオフレートに向かって結合を更に改善するという目標と組み合わせた。2つの「コンボ」ライブラリをPCRによって組み立てた:第1の(コンボ1-2.27×10個の形質転換体)は、3つのライブラリ(L1L2、L3、及びH1H2)全ての出力を組み合わせることによって作製し、第2の(コンボ2-1.04×10個の形質転換体)は、L1L2出力を省略し、LCDR1及びLCDR2で親CDRを使用した(図3A)。再び、平衡選別及び動態選別を組み合わせるアプローチを使用した。それぞれ非標識抗原を用いて4時間及び16時間での2回の連続的な動態選別を行い、続いて0.1nMの抗原濃度での最終平衡ラウンドを行った(図3B)。
【0130】
初期評価は、形質転換の直後に、ライブラリが、0.1nMでも既に抗原への結合を示していたことを示した(コンボ1及び2について、それぞれ集団の51.8%及び62.9%)(図3C)。3ラウンドの選別の後、コンボライブラリと親抗体との差は顕著である(図3D):0.1nMで、親抗体の55%とは違って、両方のライブラリについては、抗原に結合した酵母集団の>80%。1nMの抗原で染色し、4時間脱染した場合、両方のコンボライブラリは、脱染期間のない1nMの抗原での染色と比較して非常に少ないシグナル損失を示すが、親はこれらの条件下で完全に結合を喪失した。
【0131】
実施例5:親和性成熟クローンの配列スクリーニング
得られたクローンを評価するために、本開示は、コンボライブラリの第3の選択ラウンド後に得られた集団をscFv-Fc形式に変換して、親和性スクリーニングを容易にした。最終集団(ラウンド3、コンボライブラリ)からのscFvを、scFv-Fcフォーマットで発現されるヒトIgG1 Fc領域を含有する酵母発現ベクターにバルククローニングした。このために、scFv領域をPCRによって増幅し、BssHII及びNheI制限酵素(New England Biolabs)で消化し、pDNL9ベクターにクローニングした。92個のクローン(コンボ1から45個及びコンボ2から47個)を配列決定し、81個の独自の配列を同定した。コンボ1から38個、コンボ2から39個、及び両方のライブラリに含まれるのは4個(図4A)。これらの独自の配列は、多くの場合、同じCDRの異なる組み合わせによって形成された(図4B):LCDR1~3及びHCDR1~2については、それぞれ12、5、5、20、及び45個の独自のCDRが見出された(表4)。92個の配列決定されたクローンのうち、81個の独自のクローンを同定した。親和性を向上重鎖CDRは、軽いCDRよりも多様であった。これは、H1H2ライブラリ(図2C)についてより高い結合シグナルを示した第1のナイーブライブラリの観察された結合パターンに関連し、重いCDRは確かに配列変化により耐容性が高いことを示唆する。
【表4】
【0132】
親抗体、成熟ライブラリ、及び同定されたクローンに存在するCDRの配列比較(図4C)は、クローンが数回の選択ラウンドの後に同じ配列に収束するため、多くの場合、親抗体中のアミノ酸が最適であったことを示す。全体的に多様性に対する寛容性が高かったが、LCDR1及びLCDR2が寛容する変化は、他のCDRよりもはるかに少ないようであり、LCDR2については、ほぼ全てのクローンが親配列に収束し、これにより、親CDR配列をライブラリに含めることが正当化される。LCDR3では、全てのλ生殖細胞系に由来する166,196個の異なるCDRの多様性を導入したにもかかわらず、5つの異なる配列のみが同定され、最も豊富なものは、配列決定された92個のクローンのうち76個に存在し、長さの多様性に対する耐性が低かった。HCDR1及びHCDR2に関しては、見出される多様性の多くは、いくつかの位置/ホットスポットに集中しており、これらが結合にあまり関連しない場合があることを示唆する(例えば、HCDR2の両方のHCDR1の6位)が、いくつかの他の位置は、親とは異なるアミノ酸への明確な収束を示した(図4C、破線四角形)。更に、3つの異性化モチーフのうちの2つが除去されてもよく、GG多反応性モチーフが除去されてもよく、4つの配列ライアビリティのうちの3つの潜在的な除去をもたらす。
【0133】
抗体中のCDR変異の数は、わずか3個の全変異から15個のアミノ酸変化までの範囲であった(図4D)。最も頻繁な変異数は、11~12であった(図4E)。ここで注意すべきことは、クローンの約半数が、LCDR1及びLCDR2が一定に保たれたコンボ2ライブラリに由来することである。とはいえ、唯一LCDR1のみが親由来の4つの変異を有し、他の全ては2以下を有する(図4E)。LCDR3については、優性配列は親からの4つの変異を有し、HCDR1及びHCDR2については、3つの変異が最も頻繁に観察された変化であった。
【0134】
親和性成熟抗体はいずれも、LCDR1、HCDR1、HCDR2、及びHCDR3に配列ライアビリティを有していなかった(この最後のものは、親から変化しないままであった)。親HCDR2に存在したGGは、最も頻繁に、GS、GA、GT、及びGD(それぞれ21、19、13、及び11個の独自クローンに存在する)に置き換えられた。LCDR3については、81個のクローンのうち67個は、いかなるライアビリティも有しておらず、13個は、親と同じ配列を有し、したがって、DSアスパルテート異性化部位を有し、1つは、同じ異性化部位に加えてVV多反応性モチーフを有した。このCDRが初期設計に含まれていなかったため、これはおそらく、合成又はPCRエラーから生じたものである。LCDR2については、81個の独自のクローンのうち1個のみがDDアスパルテート異性化モチーフを持たず、EDに置き換えられ、一方、72個が親LCDR2の正確な配列を有していた。他の8つは、親配列からの単一変異であり、依然として同じモチーフを有していた(やはり、合成/PCRエラーに由来する可能性が高い)。要約すると、68の親和性成熟クローンは、単一のCDRライアビリティ(Asp異性化)を有し、12個のクローンは2つ有し、1個のクローンは3つ有し、これは、この方法が親和性成熟と同時に発生可能性問題を低減するために効果的に使用することができることを示している。
【0135】
本開示では、LCDR3及びHCDR2に存在した配列ライアビリティが排除されながら、それらのリードの親和性が向上した。ほとんどのLCDR2は、依然として元の異性化モチーフを有していたが、この部位について1つのライアビリティを含まない配列が同定された。このライアビリティが問題であると証明された場合には、この配列を最終的な分子において使用することができる。理論的には、親和性成熟ライブラリ内の配列ライアビリティを含有する元の親CDRを省略することができるが、このクローンのLCDR2内のDDの場合と同様に、排除されたモチーフは結合に不可欠である可能性があるため、クローンを成熟させることができないリスクがある。治療用mAbからライアビリティを取り除くことにより、一連の利点が得られる:リードのリスクを事前に取り除くことにより、発生可能性が改善され、分子特性が悪いために臨床的失敗の可能性を最小限に抑えることができる(Jain,Sun et al.2017)。更に、免疫原性リスクの増加(例えば、グリコシル化)及び効力の喪失(例えば、アスパラギン脱アミド化)は、追跡及びリスク管理戦略を実施する必要がある重要な品質属性(CQA)であり、開発プロセス及び薬物ライフサイクル全体のリソース負荷を増加させる。親和性と発生可能性を独立して向上させるために別々の工学キャンペーンを実施することは、時間とリソースを消費するだけでなく、無限の発生ループにつながる可能性がある。これは、親和性の向上が発生可能性の問題につながる可能性があり、またその逆も同様であるからである(Pepinsky,Silvian et al.2010、Wu,Luo et al.2010、Tiller,Li et al.2017)。配列ライアビリティを欠く天然のCDR配列の定義された集合を使用することにより、最終的な抗体に存在するモチーフを容易に調節することができる。
【0136】
注目すべきことに、本抗体の親和性成熟において、本開示は、HCDR1及びHCDR2が、LCDR1及びLCDR2よりもはるかに置換に適していたことを観察した。これは、プロセスの開始時にH1H2よりも有意に低い結合を示したナイーブL1L2ライブラリ、及び最後に各位置について同定された異なるCDRの最終的な数にも反映された。L1L2ライブラリでの顕著な向上が見られないことは、これらのCDRに最適な配列の(に近い)存在を反映している場合があると仮定して、本開示は、親配列をLCDR1~2に使用した第2のコンボライブラリを構築した。両方のコンボライブラリの性能は、選別中に同等であり、親和性測定も同様の結果を示した(実施例8)。実際、最初のコンボライブラリから同定された45個の独自のクローンのうち17個は、変異していない親LCDR1~2も有しており、結合におけるこれらのCDRの重要性を確認しているが、最初の3つのライブラリ(L1L2、L3、H1H2)間の交差汚染の可能性は完全には除外できない。
【0137】
実施例6:親和性成熟クローンのエピトープスクリーニング
同定されたクローンのうち、23個は、S.cerevisiae酵母株YVH10(ATCC MYA-4940)においてscFv-Fcとして発現した。コンボ1ライブラリから11個(A01~A06、B01~B06)、及びコンボ2ライブラリから12個(A07~A12、B07~B12)。これらは、親からのアミノ酸変化を3~13個有した。それらが最初のリードと同じエピトープを保持しているかどうかを決定するために、これらが親scFvの抗原への結合を阻害することができるかどうかを試験した。本開示は、scFv上清を、標識抗原(10nM)とともに15分間インキュベートした。親分子を示す約2×10個の酵母細胞を混合物に添加し、室温で30分間インキュベーションした。細胞を2回洗浄し、染色して、PE(フィコエリスリン;scFvを提示する細胞を標識する)で標識した抗SV5及びAlexa Fluor 633で標識したストレプトアビジンを使用して結合を検出した。集団を、結合について、フローサイトメトリーによって分析した。23個の親和性成熟クローンは全て、親による抗原への検出可能な結合を排除したが、無関係の標的に対して指向される対照scFv上清はそうではなかった(図5A及び図6)。全てのクローンによって認識されるエピトープの正確な決定は、構造解析を必要とするが、これら全てが親分子に由来し、同じHCDR3及びフレームワーク領域を保持し、抗原結合について競合するという事実は、それらが標的分子における同じエピトープを実際に認識することを示唆する。
【0138】
目的の標的に結合するリードの最初の同定後、クローンを、所望の生物学的活性を達成する能力について試験する場合が多い。この段階で、抗体によって認識されるエピトープは、抗体がアゴニストであるか、アンタゴニストであるか、又は全く活性を有しないかを決定する。所望の活性を有するリードが同定された後、親和性の増加も効力を増加させると想定され(Rosenfeld et al.2017、Hurlburt et al.2020)、認識部位を保持することは、この仮定の基本的な要件の1つである。チェーンシャッフリング(特に重鎖又はその一部)などのより積極的な成熟技術は、エピトープのドリフト及び活性の喪失を引き起こし、以前には価値があった分子が役に立たなくなる可能性が高い。本開示は、少なくとも4つのCDRが一定のままであり、非常に重要なことに、HCDR3が変化しないままである段階的なアプローチが、同じエピトープの認識を維持しながら、非常に高い親和性を得るのに有効であったことを示した。全ての抗体-抗原対は独自の特異性を有していたが、エピトープ認識におけるHCDR3の中心性(Xu and Davis 2000、Akbar,Robert et al.2021)は、エピトープのドリフトを回避するための親HCDR3の保持を正当化すると考えられた。
【0139】
実施例7:親和性成熟クローンの親和性スクリーニング
最後に、本開示は、高スループットSPRを使用して、同じ23個のクローンの親和性を決定した。親和性測定には、Carterra LSA表面共鳴システムを使用した。簡潔に述べると、抗ヒトIgG Fc(Southern Biotech、#2048-01)を、製造プロトコルに従ってHC30Mチップに化学的にカップリングした。scFv-Fc融合物を含有する粗酵母上清をチップ上に配列した。非ビオチン化抗原を様々な濃度(0.08nM~50nM)で注入して、会合及び解離速度を決定した。全ての分析はCarterraソフトウェアを使用して実行し、センサーグラムは疑似一次運動学モデルを使用して適合した(Lundstrom 1994)。評価された全てのクローンは、親抗体(図5B~5C)よりも10~200倍遅い解離速度(kd)を有したが、それらの会合速度(ka)は基本的に変化しなかった。実際、その値での成熟した抗体のバンチングによって示されるように、試験された抗体のいくつかのオフレートがおそらく10-5、すなわち500倍(図5B~5C)よりも優れていることは注目に値する(図5C)。そのような遅いオフレートは、この技術を使用して正確に測定することが困難である。一方のコンボライブラリからのクローンと他方のコンボライブラリからのクローンとの間に親和性の差異は観察されなかった。オンレートではなく、オフレートの改善は、ライブラリパニング中に使用されるプロトコルと選択圧力を反映している。長期間の抗原放出は、オフレートが長い安定した結合剤に有利であったが、より速い会合を有するクローンを救出するための努力は行われなかった。複製物の解離定数(KD)は、絶対用語で良好な一致を示し、クローンB09における最大偏差は0.18nMである(図5C)。
【0140】
この研究は、HCDR3を除く全てのCDRを既知のヒトCDRの集合に置き換えることによって、低ナノモル親和性抗体~低ピコモルの範囲の親和性成熟を実行する可能性を実証する。フェーズ1における2つ以下のCDRを、HCDR3を保持するとともに、類似の抗体からの適合性CDRで置き換えることは、抗体結合におけるHCDR3の重要性を考慮して、エピトープ結合を維持することが期待される(Xu and Davis 2000)。親和性の増加は、主に、親和性自体(KD)よりも生物学的活性とより良好に相関することが示唆されている改善されたオフレート(kd)から生じた(Rosenfeld et al.2017、Hurlburt et al.2020)。約半数の抗体についてのオフレートは、SPRの測定限界である<10-5として測定した。動態除外アッセイなどの代替方法を使用して測定すると、オフレートが実際には長くなり、対応する親和性が高くなる可能性がある(Darling and Brault 2004)。この研究では、内部ライブラリに由来する一連のCDRを使用したが、公的に利用可能なデータセットから簡単に配列を得ることができた(Kovaltsuk,Leem et al.2018)。各抗体-抗原対は、異なる位置での変異に対する独自の特異性及び耐容性を有することが予想される。それにもかかわらず、本明細書で提案される概念及び全体的な実験設計は、本明細書に開示される結果に基づいて、他の抗体にも等しく有用であると予想される。
【0141】
実施例8:HCDR3を含む親抗体の同定及びCDRの設計
場合によっては、限られた多様性をHCDR3にも導入することが望ましくあり得る。HCDR3は、最も重要なCDR媒介抗体結合特異性と考えられるので、HCDR3における広範な変異は、試験中の抗体の結合特異性が改変され得るという点で、有害であり得る。治療目的の単量体ヒトタンパク質に対する抗体を、改善された親和性成熟法を使用して親和性成熟させるように選択した。抗体は、VH3重鎖及びVK1-39軽鎖を含む。CDRの分析は、下流の臨床開発に影響を与える可能性のある3つの配列ライアビリティを明らかにした:HCDR3及びLCDR3における凝集及び非特異性をもたらす可能性のある2つの異なるYY多反応性部位、並びにLCR2における1つの疎水性部位。scFv親和性(K)を、酵母ディスプレイフローサイトメトリーによって決定した。手短に言えば、細胞を冷洗浄緩衝液(PBS pH7.4 0.5% BSA)で2回洗浄し、4nM~3μMの異なる濃度のビオチン化抗原で室温でインキュベートした。ビオチン化抗原インキュベーションステップの後、細胞を洗浄し、PE(フィコエリスリン;scFvを示す細胞を標識する)で標識した抗SV5及びAlexa Fluor 633(Thermo Scientific;ビオチン化抗原に結合した細胞を標識する)で標識したストレプトアビジンで染色し、次いでフローサイトメトリーによって細胞を分析する。親クローン親和性は、413.7±33.27nM(n=3)で推定した。
【0142】
親和性成熟のために親配列にシャッフルされ得るCDRを同定するために、本開示は、ナイーブ半合成ライブラリ(Azevedo Reis Teixeira,Andre et al.2021,Bradbury,A.R.M. et al.2020)からのディープシーケンシングデータ(MiSeq及びNovaSeq)を使用した。このライブラリでは、B細胞受容体抗体由来のCDRを、挙動良好な臨床抗体足場内に埋め込み、HCDR3を、それらの高い多様性のために、B細胞mRNAから直接増幅し、残りの天然に複製されたCDRを、多数のドナーの次世代配列決定(NGS)から同定し、以前に同定した配列ライアビリティを排除した後、アレイ上で合成する。LCDR1~3のみについては、VK1生殖細胞系ファミリーに由来するCDR配列が考慮され、HCDR1~2のみについては、親抗体と同じ生殖細胞系遺伝子に属しているため、これらの配列がより良好に耐容され、潜在的な構造的混乱を最小限に抑えると仮定して、VH3ファミリーに由来する配列が考慮された。好ましくない発生可能性プロファイルを有する抗体を選択する可能性を最小限に抑えるために、グリコシル化部位及び対合していないシステインなどの好ましくないライアビリティを含有する配列を排除した(完全なリストについては、表5を参照されたい)。表5は、4つのフェーズIライブラリを使用して親和性成熟のために設計されたCDRから除去された配列ライアビリティのリストを示す。列挙されたモチーフのうちのいずれかを含有する同定された全てのCDRを破棄した。
【表5】
【0143】
HCDR3については、変異スキャンアプローチを取った:各アミノ酸位置を19個のアミノ酸(システインを除く)に変異させ、合計でY×19個のオリゴヌクレオチドとした。式中、Yは、変異させるHCDR3アミノ酸の数である。本開示は、エピトープ認識におけるHCDR3の中心性(Xu and Davis 2000、Akbar,Robert et al.2021)が、より良好に忍容される変異を同定し、同時にエピトープのドリフトを回避し、潜在的な構造的破壊を最小限に抑えるための変異スキャンアプローチの適用を正当化すると考えている。
【0144】
同定されたCDRを、親抗体と一致する隣接フレームワーク配列で生成し、アレイベースのDNA合成(Agilent)を使用して生成した。これにより、フレームワークプライマーを使用することによって、各個々のCDR部位における完全な多様性の救済が可能になった。
【0145】
実施例9:4つのフェーズ1ライブラリの構築
ライブラリのサイズは、ライブラリ生成中に便利に得ることができる形質転換体の数によって制限されるため、任意の種類のインビトロ進化を実行するときにしばしば懸念される:ファージ及びE.coliディスプレイについては10~1010、S.cerevisiaeにおける酵母ディスプレイについては10~10。本開示は、段階的アプローチ(Hemminki,Niemi et al.1998)を選択した。これは、配列空間をより効果的に探索することを可能にするためである。フェーズ1では、HCDR1をHCDR2、LCDR1、及びLCDR2と組み合わせ、HCDR3及びLCDR3を単独で残した(表6)が、ともかくもこれが最適なアプローチであると信じる理由はなかった。これは、ライブラリ構築のための最も便利な組み合わせと思われるものから行われた。これらのライブラリは、本開示が、各ライブラリの最大組み合わせ多様性(4.0×10~2.8×10の範囲の理論的多様性)よりも多くの形質転換体を生成することを可能にした。また、各ライブラリにおいて少なくとも4つの親CDRを固定することによって、探索空間が減少し、生物学的活性を保持するのに不可欠な、同じ方法で抗原に結合する新たなバリアントを見つける可能性が増加した。組み込まれたCDRの多様性に加えて、各ライブラリは、配列ライアビリティを含んでいても、他の導入されたCDRと同じ存在量で親CDR配列も含んでいた。これは、特定の親CDR配列が結合に不可欠である場合に、保持された活性を確実にするためであった。表6は、4つのフェーズIライブラリの軽鎖及び重鎖の各CDR位置に導入された異なる配列の数を示す。理論的多様性は、CDRの組み合わせ可能性によって計算され、報告された形質転換体の数は、作製された酵母ディスプレイライブラリに対応する。
【表6】
【0146】
CDR配列の6つの異なる集合(HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、及びLCDR3)を、Q5ポリメラーゼ(NEB#M0491L)を使用するPCRによって特異的プライマーで増幅した。残りの領域を親scFvから増幅し、PCRによってCDRと組み立てた(図7A~7Bを参照されたい)。新たに生成されたCDRプールをscFvの残りの部分と組み合わせることによって、ライブラリを組み立てた。例えば、H1H2ライブラリを、(1)合成オリゴプールからの隣接フレームワークを用いてHCDR1及びHCDR2を増幅すること、(2)親クローンからのscFvの残りの部分を増幅すること、(3)重複PCRによって生成された断片を組み立てること、及び(4)生成されたscFvカセットを、消化された酵母ディスプレイベクターとともにS.cerevisiaeに形質転換すること(図7B)によって組み立てた。各ライブラリからのscFvアンプリコンを、前述の方法(Benatuil,Perez et al.2010)を使用するエレクトロポレーションによって、以前にBssHII及びNheI(NEB#R0199S及び#R0131S)酵素で消化された酵母ディスプレイベクターpSYDとともに酵母に形質転換した。
【0147】
本開示は、フローサイトメトリーと組み合わせたときに所望の集団を回収する高い精度が得られるので、scFv酵母ディスプレイを使用することを選択した。しかしながら、この多様化アプローチは、ファージ若しくはリボソームのディスプレイとの関連で、又は任意の他のディスプレイプラットフォームにおいて等しく有効であり、ライブラリサイズが大きいために可能性を拡大することさえ期待された。しかしながら、酵母が多価の性質であるのとは違って、一価の性質であるために異なる挙動を示すことが期待されるため、選択中の実験設計は、これらのプラットフォームに適応されなければならないであろう:多価の酵母細胞は、抗体オフレートに比例して時間の経過とともに変化する抗原飽和から抗原結合なしまでの連続体に存在するのに対し、一価のシステムは、二価の結合状態又は非結合状態にのみ存在することができる。この違いは、例えば、より多くの提示粒子を使用し、単一細胞の崩壊ではなく、時間の経過に伴う集団結合の崩壊に依存することによって克服することができる。本開示は、抗体の発見及び工学のためにscFvフォーマットを日常的に使用し、IgGフォーマットへの変換が70~90%成功して生じることを見出した。しかしながら、変換が懸念される場合、本明細書に記載される技術は、Fabディスプレイシステムを使用して容易に適用されるであろう。
【0148】
実施例10:4つのフェーズ1ライブラリを使用した酵母ディスプレイによる抗体選択
酵母ディスプレイ選択は、Ferrara et al(2012)と同様に実行した。簡潔に述べると、細胞を、2%ガラクトースを含有する選択培地中で、20℃で一晩誘導した。10個の誘導細胞を、冷洗浄緩衝液(PBS pH7.4 0.5% BSA)で2回洗浄し、PBS中で希釈したビオチン化抗原で室温でインキュベートした。平衡選択は、選択ラウンドが進行するにつれて、ビオチン化された抗原の濃度が低下するscFv提示酵母細胞をインキュベートし、平衡に達した直後に標識細胞を選別することによって実行した(図2A)。ビオチン化抗原インキュベーションステップの後、細胞を洗浄し、PE(フィコエリスリン;scFvを提示する細胞を標識する)で標識した抗SV5及びAlexa Fluor 633(Thermo Scientific;ビオチン化抗原に結合した細胞を標識する)で標識したストレプトアビジンで速やかに染色し、次いで、抗原を結合する細胞を、FACS(蛍光活性化細胞選別)又はMACS(磁気活性化細胞選別)のいずれかによって選別する(図2A)。MACS手順のために、ストレプトアビジンでコーティングされた常磁性ビーズを使用した(Miltenyi Biotec)。
【0149】
本開示は、減少する抗原濃度を使用して、ライブラリの初期フローサイトメトリー評価を実行した(図8A)。軽鎖ライブラリL1L2は、使用した最高濃度であっても、抗原に結合する減少された集団(400nMで、0.031%の結合集団)を示した。ライブラリH1H2及びL3は、400nMで抗原に結合する小さな集団(それぞれ0.63%及び0.2%の結合集団)を示した。重鎖ライブラリH3については、100nMであっても抗原に結合する6.81%の有意な集団が同定され、この特定について、クローンの軽鎖ではなく、重鎖CDRの改善の可能性が高いことを示唆する。
【0150】
これらのライブラリのそれぞれのサイズを考慮して、本開示は、400nMの抗原濃度で磁気支援細胞選別(MACS)を使用して第1の選択ラウンドを実行した(図8B)。これにより、本開示は、フローサイトメーターを使用して実用的であろう細胞よりも多くの細胞を標識及び分類することが可能になった。その後の2ラウンドでは、本開示は、蛍光活性化細胞選別(FACS)を使用して、目的の細胞のより正確な選別を可能にした(図8B)。3ラウンド後にこれらのライブラリのそれぞれについて得られた集団の評価は、全ての場合において、親和性の顕著な向上が観察され得ることを示し(図8C)、生成された全ての集団は、親抗体が結合しない濃度である10nMであっても、抗原に対して顕著な結合を示す。個々のクローンの親和性はこの段階で評価されていないが、酵母ディスプレイの染色プロファイルを考慮すると、プロジェクトの要件に応じて満足のいく親和性を有する結合剤を既に見出すことができると仮定することは不合理ではない。
【0151】
実施例11:フェーズ2のコンボライブラリ 4つのフェーズ1ライブラリからの構築
結合の改善を示した4つの初期ライブラリの各位置でCDRの集団を選択した後、本開示は、選択出力を、更に遅いオフレートに向かって結合を更に改善するという目標と組み合わせた。2つの「コンボ」ライブラリをPCRによって組み立てた:第1の(コンボ1-6.8E+08形質転換体)は、4つのライブラリ(H1H2、H3、L1L2、及びL3)全ての出力を組み合わせることによって作製し、第2の(コンボ2-6.5E+08形質転換体)は、H3出力を省略し、親HCDR3(図3A及び図9A)を使用した。この相では、2つの異なる選択戦略を使用した:平衡選択、フェーズIで使用されるより伝統的なアプローチ、及び動態選択(図9B)(Boder and Wittrup 1998,Boder,Midelfort et al.2000)。平衡選択は、選択ラウンドが進行するにつれて、ビオチン化された抗原の濃度が低下するscFv提示酵母細胞をインキュベートすることによって実行した。酵母表面上に提示される抗体は、平衡に達する前に溶液から抗原を枯渇させるため、抗原濃度を無期限に低下させることはできない(VanAntwerp and Wittrup 2000)。これを回避するには、最小限の抗原が除去され、有効濃度が一定のままであることを確実にするために、少数の細胞での大規模かつ非実用的なインキュベーション容積の使用が必要である。平衡選択の代替は、動態選択である:scFvを提示する酵母細胞を、標識抗原とともにインキュベートし、洗浄し、非標識抗原(ビオチン化抗原よりも10倍高い濃度)とともにインキュベートして、抗原への安定した結合を有するクローンのみを選択する(遅いオフレート-k)。非標識抗原は、置換された標識抗原の再結合を防止するために使用される。定義された期間の後、標識抗原に依然として結合している細胞を、以前に記載されているように染色し、選別した。
【0152】
平衡選別及び動態選別を組み合わせたアプローチ(図2A及び9C)を使用し、それぞれ5nM及び1nMの抗原濃度での2ラウンドの連続した平衡選別、続いて非標識抗原を用いた4時間での2ラウンドの動態選別を行った。初期評価は、形質転換の直後に、ライブラリが、5nMでも既に抗原への結合を示していたことを示した(コンボ1及びコンボ2ライブラリについて、それぞれ集団の19.0%及び29.0%)(図9C)。4ラウンドの選別の後、コンボライブラリと親抗体との差は顕著であり、親抗体の1.18%とは対照的に、1nMで、酵母集団の>90%及び>85%が、それぞれ、コンボ1及び2ライブラリの抗原に結合する(図9D)。750nMの抗原で染色し、4時間脱染した場合、コンボライブラリは、脱染期間のない750nMの抗原での染色と比較して非常に少ないシグナル損失を示すが、親は、これらの条件下で結合を完全に失い、選択されたコンボライブラリのオフレート(kd)の顕著な改善を示した(図9E)。
【0153】
実施例12:4つのフェーズIライブラリからの親和性成熟クローンのサンガー配列スクリーニング
得られたクローンを評価するために、本開示は、サンガー配列決定のための各コンボライブラリの最終選択ラウンドから60個のコロニーを提出した。52個のクローンを配列決定し、51個の独自の配列を同定したが、ライブラリ間に重複はなかった(コンボ1からの39個の独自のクローン、及びコンボ2からの21個の独自のクローン(図10A))。興味深いことに、重鎖CDRは、軽いCDRよりも多様であった(表7)。これは、H1H2及びH3ライブラリに対してより高い結合シグナルを示した第1のナイーブライブラリ(図8A)の観察された結合パターンに関連しており、重CDRは確かに配列変化に対してより耐性があり、したがって抗体親和性を向上することにより大きな貢献を有する可能性があることを示唆する。
【表7】
【0154】
抗体中のCDR変異の最小数は、合計8個の変化であり、最大15個のアミノ酸変化であった(図10B)。最も頻度の高い変異数は12であり(図10B及びC)、ここで注意すべきことは、クローンの一部が、HCDR3が一定に保たれたコンボ2ライブラリに由来することである。HCDR1については、優性配列は親から5つの変異を有し、HCDR2については、4つの変異が最も頻繁に観察された変化であった(図10C)。コンボライブラリ1HCDR3については、親からの2つ以下の変異が最も頻繁に観察された変化であった(図10C)。ライブラリ設計は、コンボ1 HCDR3に1つの変異のみを含んだが、高親和性クローンの選択中に追加の変異が生成され、優先されたようであった。コンボライブラリ設計にかかわらず、LCDR1及びLCDR2について親配列への変化は観察されなかった(図9B)。LCDR3に関して、優性配列は、親からの3つの変異を有した(図10C)。
【0155】
親抗体、成熟ライブラリ、及び同定されたクローンに存在するCDRの配列比較(図10D)は、クローンが数回の選択ラウンドの後に同じ配列に収束するため、多くの場合、親抗体中のアミノ酸が最適であったことを示す。全体的に多様性に対する寛容性が高かったが、LCDR1及びLCDR2は全く変化を寛容せず、全てのクローンが親配列に収束し、これにより、親CDR配列をライブラリに含めることが正当化される。また、発見された多様性の多くは、いくつかの位置/ホットスポットに集中しており、これらが結合にあまり関連しない場合があることを示唆する(例えば、LCDR3の4位及び5位、図10D)が、いくつかの他の位置は、親とは異なるアミノ酸への明確な収束を示した(例えば、LCDR3の3位(Y~F)、図10D)。
【0156】
親和性成熟抗体には、HCDR1、HCDR2、LCDR1、及びLCDR3に配列ライアビリティがなかった。全ての同定されたクローンが親LCDR2配列に収束したため、LCR2における疎水性部位が維持された。HCDR3は、コンボライブラリ2において親から変化しないままであり、そのライブラリに由来するクローンは、YY多反応性部位を保持した。コンボライブラリ1に関して、同定されたクローンは、HCDR3上の多様性に対して高い耐性を有したが、ほとんどのクローンは、第2のYY多反応性部位を保持し、異なる位置で変異した。それにもかかわらず、コンボライブラリ1に由来する11個のクローンは、HCDR3においてライアビリティを含まなかった。要約すると、11の親和性成熟クローンは、単一のCDRライアビリティ(LCR2における疎水性部位)を保持し、40のクローンは、2つの配列ライアビリティ(LCR2における疎水性部位及びHCDR3におけるYY多反応性部位)を有し、一方、親クローンは、3つの配列ライアビリティを有し、この方法が親和性成熟と同時に発生可能性問題を低減するために効果的に使用することができることを示す。
【0157】
理論的には、親和性成熟ライブラリ内の配列ライアビリティを含有する元の親CDRを省略することができるが、このクローンのLCDR2内の疎水性モチーフの場合と同様に、排除されたモチーフは結合に不可欠である可能性があるため、クローンを成熟させることができないリスクがある。この抗体の親和性成熟において、本開示は、HCDR1、HCDR2、HCDR3、及びLCDR3が、LCDR1及びLCDR2よりもはるかに置換に適していたことを観察した。これは、プロセスの開始時に有意に少ない結合を示すナイーブL1L2ライブラリに反映された(図8A)。L1L2ライブラリによる向上が見られないことは、これらのCDRのための最適な配列の存在を反映している場合があるという仮説。実際、コンボライブラリから同定された全ての独自のクローンは、変異していない親LCDR1~2を有し、これは、結合の際のこれらのCDRの重要性を確認する。
【0158】
実施例13:4つのフェーズIライブラリからの親和性成熟クローンのスクリーニング
モノクローナル親和性を評価するために、コンボ1及びコンボ2ライブラリの最終選択ラウンドからの12個の独自のクローンを、フローサイトメトリーによる酵母ディスプレイとして、モノクローナル結合検証のためにランダムに選択した。細胞を冷洗浄緩衝液(PBS pH7.4 0.5% BSA)で2回洗浄し、500~2nMの異なる濃度のビオチン化抗原で室温でインキュベートした。ビオチン化抗原インキュベーションステップの後、細胞を洗浄し、PE(フィコエリスリン;scFvを示す細胞を標識する)で標識した抗SV5及びAlexa Fluor 633(Thermo Scientific;ビオチン化抗原に結合した細胞を標識する)で標識したストレプトアビジンで染色し、次いでフローサイトメトリーによって細胞を分析する。コンボ1ライブラリから選択されるクローンに対する平均親和性は、5.609±0.4931nMであり、3.879~9.927nMの範囲であった。コンボ2ライブラリから選択された12個のクローンについて、平均親和性は、4.215~24.84nMの範囲で、8.075±1.758nMであった(表8)。酵母ディスプレイによって測定された413.7±33.27nMの親和性を有する親クローンと比較して、コンボ1ライブラリからの3つの親和性成熟クローンは、親和性が100倍以上向上していたが、コンボ2ライブラリからの2つの親和性成熟クローンは、親和性が90倍以上向上していた(表8)。両方のコンボライブラリの性能は、モノクローナルアフィニティースクリーニング中に同等であった(テューキーの多重比較検定を伴う一元ANOVA:統計的に有意ではなかった)が、両方のコンボライブラリからの平均親和性は、親とは有意に異なっていた(テューキーの多重比較検定を伴う一元ANOVA:コンボ1P≦0.01、コンボ2P≦0.05)。
【表8】
【0159】
この研究は、HCDR3を変異的に走査しながら、全てのCDRを既知のヒトCDRの集合体に置き換えることによって、抗体の親和性成熟を行う可能性を実証する。フェーズ1における2つ以下のCDRを、HCDR3の点変異のみとともに、類似の抗体からの適合性CDRで置き換えることは、抗体結合におけるHCDR3の重要性を考慮して、エピトープ結合を維持することが期待される(Xu and Davis 2000)。親和性自体(KD)よりも生物学的活性とより良好に相関することが示唆されている改善されたオフレート(kd)は、両方のコンボライブラリについて実証された(Rosenfeld et al.2017、Hurlburt et al.2020)。この研究では、内部ライブラリからのCDRのセットが使用されたが、公開されているデータセットから配列を簡単に得ることができた(Kovaltsuk,Leem et al.2018)。各抗体-抗原対は、異なるCDR内の異なる位置での変異に対する独自の特異性及び耐性を有することが予想される。それにもかかわらず、本明細書で提案される概念及び全体的な実験設計は、本明細書に開示される結果に基づいて、他の抗体にも等しく有用であると予想される。
【0160】
他の実施形態
本明細書に開示されている全ての特性は、任意の組み合わせで組み合わせてもよい。本明細書で開示されている各特性は、同一、同等、又は類似の目的を果たす代替の特性に置き換えてもよい。したがって、特に明記しない限り、開示される各特性は、同等又は類似の特性の一般的なシリーズの例に過ぎない。
【0161】
上記の説明から、当業者は、本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示を様々な使用法及び条件に適合させるために様々な変更及び修正を行うことができる。したがって、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
【0162】
等価物
いくつかの本発明の実施形態が本明細書に記載及び図示されているが、当業者は、機能を実行するため、並びに/又は結果及び/若しくは本明細書に記載される1つ以上の利点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定し、そのような変形及び/又は修正の各々は、本明細書に記載される本発明の実施形態の範囲内であるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載の全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、本発明の教示が用いられる特定の適用又は複数の適用に依存することを容易に理解するであろう。当業者は、本明細書に記載の特定の本発明の実施形態と等価なものを日常的な実験だけで多く認識し、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲及びそれに等価なものの範囲内で、本発明の実施形態は、具体的に記載及び請求される以外の方法で実施できることを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に記載の個々の特性、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の各々を対象とする。更に、そのような特性、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、そのような特性、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の2つ以上の任意の組み合わせが、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0163】
本明細書で定義及び使用される全ての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書内の定義、及び/又は定義された用語の通常の意味を制御するように理解されるべきである。
【0164】
本明細書に開示される全ての参考文献、特許、及び特許出願は、各々が引用される主題に関して参照により組み込まれ、場合によっては、文書全体を包含する場合がある。
【0165】
本明細書及び特許請求の範囲で本明細書で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、反対に明確に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0166】
本明細書及び特許請求の範囲において本明細書で使用される句「及び/又は」は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合には結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素の「いずれか又は両方」を意味すると理解されるべきである。「及び/又は」で列挙される複数の要素は、同じ方法で、すなわち、そのように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に同定される要素以外の他の要素は、具体的に同定される要素に関連するか否かにかかわらず、任意選択で存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などの制限のない言語と組み合わせて使用される場合、一実施形態では、Aのみを指し(任意選択で、B以外の要素を含む)、別の実施形態では、Bのみを指し(任意選択でA以外の要素を含む)、更に別の実施形態では、A及びBの両方などを指し得る(任意選択で他の要素を含む)。
【0167】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、「又は」は、上記で定義された「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離する場合、「又は」又は「及び/又は」は包括的であると解釈され、すなわち、いくつかの要素又は要素のリスト、及び任意選択で追加の列挙されていない項目のうちの少なくとも1つを含むが、2つ以上も含むと解釈される。「~のうちの1つのみ」又は「~のうちの正確に1つ」、又は特許請求の範囲で使用される場合は「~からなる」など、反対に明確に示される用語のみが、要素の数又はリストのうち正確に1個の要素を含むことを指すだろう。概して、本明細書で使用される「又は」という用語は、「いずれか」、「~のうちの1つ」、「~のうちの1つのみ」、又は「~のうちの正確に1つ」などの排他性の用語が先行する場合、排他的な選択肢(すなわち、「両方ではないが、一方である」)を示すものと解釈されるべきである。「から本質的になる」は、特許請求の範囲で使用される場合、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0168】
本明細書の明細書及び特許請求の範囲で使用される場合、1つ以上の要素のリストに関連する「少なくとも1つ」という句は、要素のリスト内の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、要素のリスト内に具体的に列挙されるありとあらゆる要素のうちの少なくとも1つを含む必要はなく、要素のリスト内の要素の任意の組み合わせを除外するものではない。この定義はまた、「少なくとも1つ」という句が指す要素のリスト内で具体的に同定される要素以外の要素が、具体的に同定される要素に関連するか否かにかかわらず、任意選択で存在し得ることを可能にする。したがって、非限定的な例として、「A及びBのうちの少なくとも1つ」(又は、同等に「A又はBのうちの少なくとも1つ」、又は同等に「A及び/又はBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、少なくとも1つのA(任意選択で2つ以上のAを含む)と、Bが存在しないこと(かつ任意選択でB以外の要素を含む)とを指し、別の実施形態では、少なくとも1つのB(任意選択で2つ以上のBを含む)と、Aが存在しないこと(かつ任意選択でA以外の要素を含む)とを指し、更に別の実施形態では、少なくとも1つのA(任意選択で2つ以上のAを含む)及び少なくとも1つのB(任意選択で2つ以上のBを含む)(かつ任意選択で他の要素を含む)を指すことができるなどである。
【0169】
反対に明確に示されない限り、2つ以上のステップ又は行為を含む本明細書で請求される方法において、本方法のステップ又は行為の順序は、必ずしも、本方法のステップ又は行為が列挙される順序に限定されないことも理解されたい。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C-1】
図5C-2】
図5C-3】
図5C-4】
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10A
図10B
図10C
図10D
【国際調査報告】