(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ニューロンおよびその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20240621BHJP
C12N 5/0735 20100101ALN20240621BHJP
C12N 5/0797 20100101ALN20240621BHJP
【FI】
C12N5/0793
C12N5/0735
C12N5/0797
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501921
(86)(22)【出願日】2022-07-13
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2022069565
(87)【国際公開番号】W WO2023285514
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨナタン・ニクリス
(72)【発明者】
【氏名】ヨセフィン・ラガルド・クリスチャンセン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA21
4B065BA30
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法であって、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、細胞がニューロンに発達する傾向が高いかどうかを示す陽性細胞を選択する工程と、を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法であって、
-ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、
-PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD99、CD83、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
ニューロン前駆体を含む前記細胞集団が、神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程であって、神経系幹細胞を含む前記細胞集団の少なくとも80%が、マーカーSOX2を発現する、工程、および前記SOX2の発現が少なくとも5%減少するまで、神経系幹細胞を含む前記細胞集団を培養する工程によって取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞集団が、腹側中脳領域の神経系幹細胞を含み、マーカーCD47に対して陽性の細胞が除外される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞集団が、前脳、中脳、後脳、または脊髄領域の神経系幹細胞を含み、マーカーCD99およびCD47のうちの一方または両方に対して陽性の細胞が除外される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
細胞を選択および/または除外するときに、前記細胞集団の10~90%が、マーカーSOX2に対して陽性であり、前記細胞集団の5~50%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上に対して陽性であり、前記細胞集団の5~20%が、マーカーINA、TUBB3、STMN2、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上に対して陽性である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
細胞を選択および/または除外するときに、前記細胞集団の10~90%が、マーカーSOX2に対して陽性であり、前記細胞集団の5~50%が、マーカーASCL1のうちの1つ以上に対して陽性であり、前記細胞集団の5~20%が、マーカーINAのうちの1つ以上に対して陽性である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
ニューロン前駆体を含む前記細胞集団を取得する工程が、PSCを神経系幹細胞に分化させる工程を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PSCが、細胞を選択および/または除外する工程の前に、少なくとも20日間、神経系幹細胞に分化することができる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
細胞を選択および/または除外する工程が、MACSを使用して細胞を単離することによって実施される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法によって取得される、ニューロンおよび/またはその前駆体のインビトロ細胞集団。
【請求項11】
ニューロンおよび/またはその前駆体のインビトロ細胞集団であって、前記細胞集団の5%未満が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD99、CD83、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である、細胞集団。
【請求項12】
前記細胞集団の5%未満が、マーカーCD99に対して陽性である、請求項11に記載の細胞集団。
【請求項13】
前記細胞集団の5%未満が、マーカーCD47に対して陽性であり、前記細胞集団の少なくとも80%が、マーカーFOXA2に対して陽性である、請求項11に記載の細胞集団。
【請求項14】
前記細胞集団の少なくとも80%が、腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体である、請求項11~13のいずれか一項に記載の細胞集団。
【請求項15】
前記細胞集団の少なくとも80%が、前脳、後脳、もしくは脊髄ニューロンおよび/またはその前駆体である、請求項12に記載の細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、ヒト多能性幹細胞(hPSC)などの幹細胞の分野に関する。具体的には、細胞集団を幹細胞由来ニューロンおよびその前駆体において富化するための方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞は、人体の様々な難治性疾患および障害の治療に変革をもたらす可能性がある。治療には、パーキンソン病などの神経状態の細胞補充療法が含まれる。しかしながら、かかる治療が実行可能になるためには、中枢神経系(CNS)にそれらを送達するための幹細胞由来産物を人工的に産生するためのインビトロ方法の開発が必要である。
【0003】
hPSCの定義された細胞型への分化は、制御することが困難なプロセスであり、多くの場合、特定のプロトコルから生成された子孫は不均一であり、細胞型の混合物を含む。現在、hPSCを神経系幹細胞に、および続いてニューロンに分化させるためのいくつかの方法が説明されている。しかしながら、すべてのプロトコルは、不均一な集団を生成し、すなわち、すべての細胞が必ずしもニューロン前駆細胞であるわけではなく、異なる細胞型に特殊化する可能性があるか、またはインビトロ分化およびインビボ発達の非同調の性質が、同時に存在する異なる細胞段階をもたらす。不均一な培養は、目的の単一/特異的な細胞型における疾患および正常な生物学を調査するために、または細胞補充療法の文脈、および特にニューロンが意図される治療用細胞型である場合など、単一/特異的な細胞型の移植が必要な場合には、最適ではない。細胞の混合集団の移植は、細胞療法の安全性および有効性プロファイルを低減し、望ましくない細胞型からの望ましくない副作用のリスクを増加させる。細胞集団を分離して、より高い純度のニューロンおよびその前駆体を取得するための方法は、特許文献1に記載されている。しかしながら、ニューロンに発達する傾向が増加した神経系細胞を含む富化された細胞集団を取得するためのさらなる方法に対する必要性が、依然として存在する。
【0004】
したがって、本発明の目的は、腹側中脳ニューロンなどのニューロンおよびその前駆体に発達するように決定された細胞型を目指して、神経系細胞を含む細胞集団の均一性を改善することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
上記に概説した目的は、本発明の態様によって達成される。加えて、本発明はまた、例示的な実施形態の開示から明らかになるであろうさらなる課題を解決することができる。
【0007】
本発明の第1の態様は、ニューロンおよび/または中間前駆細胞などのその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法であって、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法に関する。
【0008】
本発明者らは、特定の細胞を単離することによって、細胞集団において、ニューロンに発達する傾向がある細胞の割合を増加させることが可能であることを発見し、特定の細胞は、ある特定の表面マーカー上で陽性および/または陰性に選択することによって単離される。さらに、本発明者らは、特にニューロンなどの神経系細胞に分化する細胞集団に適用される場合、細胞を選択および/または除外するタイミングが結果を改善し得ることを発見した。具体的には、インビトロ分化プロセスなどにおいてニューロンに発達する細胞は、異なる段階を経て進行し、最初に、細胞は神経系幹細胞になり、その後、中間前駆細胞にさらに分化した後にニューロンに変わる。本発明者らは、神経系幹細胞がニューロン運命を有するかどうかを示す特定の表面マーカーが、神経系幹細胞がさらに発達した後にのみ確実に発現されることを発見した。ニューロン同一性への分化を受けている細胞集団では、個々の細胞は、異なる発達段階にあり、細胞集団は、多能性幹細胞、神経系幹細胞、中間前駆細胞、およびニューロンなどの細胞の亜集団を含み得る。さらに、1つの段階から別の段階へと移行する個々の細胞は、両方の段階を示すマーカーを発現し得る。本発明者らは、細胞の選択および/または除外が、好ましくは細胞集団に適用され、細胞の少なくとも一部が、神経系幹細胞であることからさらに発達していることを発見した。発現マーカーSOX2は、神経系幹細胞同一性の特徴である。神経系幹細胞がさらに発達するにつれて、細胞は、ある時点でSOX2をもはや発現しない。これは、ニューロン運命を有する細胞上で発現またはサイレンシングされる特定の表面マーカーと一致する。したがって、細胞集団におけるSOX2の発現の減少は、神経系幹細胞がさらに発達していることを示し、ニューロンに発達する傾向がある細胞を単離するための絶好の機会を特定するために使用され得る。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、細胞集団からニューロンおよび/またはその前駆体を単離するための方法であって、マーカーSOX2を発現する神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程と、細胞集団におけるSOX2の発現が減少するまで、細胞集団をさらに培養する工程と、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法に関する。
【0010】
あるいは、細胞を選択および/または除外するタイミングは、神経系幹細胞の一部が中間前駆細胞および/またはニューロンにさらに発達したことを示すマーカーに基づいて確立されてもよい。一実施形態では、細胞集団は、最初に、多能性幹細胞(PSC)を神経系幹細胞に分化させることによって取得され、細胞の選択は、培養物が中間前駆細胞などの単能性細胞および/もしくは多分化能性細胞、ならびに/またはニューロンなどの最終分化細胞から成る、分化におけるある特定の段階に進行すると適用され得る。したがって、一実施形態では、細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団の少なくとも5%が、中間前駆体同一性のマーカーを発現する。一実施形態では、細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団の少なくとも5%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上に対して陽性である。本発明者らは、これらのマーカーの発現を、ニューロン発達の強い傾向がある細胞の陽性および/または陰性選択が、特定された表面マーカーに基づいて実施され得る段階まで、細胞集団が成熟しているという強力な指標として特定した。中間前駆細胞に発達する前の細胞は、細胞の単離が実施されるための特定された表面マーカーを十分に発現またはサイレンシングしない可能性がある。
【0011】
本発明者らは、特定された表面マーカーに基づいて細胞集団におけるニューロンを増加させるために、細胞を選択および/または除外することが、脳のすべての領域に適用され得ることを発見した。具体的には、表面マーカーCD47を発現する細胞を除外することが、腹側中脳神経系細胞になることに向けられた細胞集団におけるニューロンの割合を増加させることがわかった。さらに、表面マーカーCD99を発現する細胞を除外することが、前脳、後脳、または脊髄に向けられた細胞集団におけるニューロンの割合を増加させることがわかった。
【0012】
本発明の別の態様では、ニューロンおよび/またはその前駆体の細胞集団が提供され、細胞の少なくとも50%が、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性であり、かつ/または細胞の50%未満が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である。上記に従った細胞集団は、ニューロンに発達する傾向の増加を特徴とする。
【0013】
別の態様は、本発明に従った細胞集団を含む組成物に関する。さらなる態様では、神経学的状態の治療などにおいて、医薬として使用するための、本発明に従った細胞集団または組成物が開示される。均一な細胞集団の移植は、細胞療法の安全性および有効性プロファイルを高め、望ましくない細胞型からの望ましくない副作用のリスクを減少させる。本発明に従った細胞集団または組成物を用いた治療は、ニューロンおよび/またはその前駆体を有する細胞の比率を増加させ、それによって、かかる細胞の投与を必要とする状態の予防または治療にとって非常に好適なものにする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、hPSC(A)から早期NSC(B)、不均一な中間段階培養物(C)、および最終的に、最終分化細胞型(D)への分化段階を示す簡略化された概略図を示す。scRNA-seq分析を行った時間枠は、ボックス(E)でマーク付けされている。
【
図2A】
図2Aは、hESCのscRNA-seq分析によって取得されたベン図を示す。この図は、POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAのうちの1つ以上を発現する細胞の割合を示す。
【
図2B】
図2Bは、hESCのscRNA-seq分析によって取得されたt-SNEプロットを示す。このプロットは、遺伝子POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAの発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図3A】
図3Aは、DIV16腹側中脳NSCのscRNA-seq分析によって取得されたベン図を示す。この図は、POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAのうちの1つ以上を発現する細胞の割合を示す。
【
図3B】
図3Bは、DIV16腹側中脳NSCのscRNA-seq分析によって取得されたt-SNEプロットを示す。このプロットは、遺伝子POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAの発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図4A】
図4Aは、DIV24腹側中脳神経系細胞のscRNA-seq分析によって取得されたベン図を示す。この図は、POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAのうちの1つ以上を発現する細胞の割合を示す。
【
図4B】
図4Bは、DIV24腹側中脳神経系細胞のscRNA-seq分析によって取得されたt-SNEプロットを示す。このプロットは、遺伝子POU5F1、SOX2、ASCL1、およびINAの発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図5】
図5は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子LMX1A、SOX2、ASCL1、およびINAの発現プロファイルを示す。LMX1A陰性細胞は、円でマーク付けされている。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図6】
図6は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子ADGRG1、EPHB2、GAP43、ADCYAP1、C1QL1、およびNRXN1の発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図7】
図7は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子FZD1、CACNA2D1、DDC、GPR85、およびLRRC4Cの発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図8】
図8は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子TNFRSF21、TRPM8、FREM2、DLL3、DLL1、CHRNA5、およびCLDN5の発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図9】
図9は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子SLIT2、NTN1、CMTM7、CMTM8、CD36、およびCD47の発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図10】
図10は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子CD99、TNFRSF1A、TMEM123、LRP10、HLA-A、およびRAMP1の発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図11】
図11は、scRNA-seq分析のDIV22、24、および26腹側中脳神経系細胞によって取得された統合型UMAPプロットを示す。このプロットは、遺伝子CMTM6、TNFRSF12A、CRLF1、ITGB8、およびCD83の発現プロファイルを示す。発現レベルは、転写物当たりのUMI(UTP)として表され、発現なし(非常に薄い灰色)から高発現(濃い灰色)までの色のグラデーションを使用して表示される。
【
図12】
図12は、CD47陽性細胞またはCD99陰性細胞が富化された集団を取得するための蛍光活性化セルソーティング(FACS)戦略を概説する。この図は、第一に、(A)細胞を表す事象を選択し、破片を除外する、第二に、(B)単一細胞を選択し、ダブレットを除外する、第三に、(C)生細胞を選択し、死細胞を除外する、最後に、(D)CD47陽性集団またはCD47陰性集団を選択する、階層的ゲートを示す。
【
図13】
図13は、FACS直後のソーティング後純度を示す。CD47陽性(A)細胞およびCD47陰性(B)細胞の純度を、フローサイトメーターで試料を再分析することによって評価した。
【
図14】
図14は、FACS直後に細胞内フローサイトメトリーによって分析した、ソーティングされたCD47陽性(A)試料およびCD47陰性(B)試料における、CD47を発現する細胞の割合を示す。
【
図15】
図15は、FACS直後に細胞内フローサイトメトリーによって分析した、ソーティングされたCD47陽性(A)試料および陰性(B)試料における、神経系幹細胞マーカーSOX2を発現する細胞の割合を示す。
【
図16】
図16は、FACS直後に細胞内フローサイトメトリーによって分析した、ソーティングされたCD47陽性(A)試料および陰性(B)試料における、増殖マーカーKi67を発現する細胞の割合を示す。
【
図17】
図17は、FACS直後に細胞内フローサイトメトリーによって分析した、ソーティングされたCD47陽性(A)試料および陰性(B)試料における、中脳底板マーカーFOXA2を発現する細胞の割合を示す。
【
図18】
図18は、CD47陽性細胞および陰性細胞のFACS直後の細胞内フローサイトメトリーによって取得された、フローサイトメトリー結果を要約する棒グラフを示す。
【
図19】
図19は、ソーティングされたCD47陽性細胞(A、Ai)、CD47陰性細胞(B、Bi)、および「パススルー」対照細胞(C、Ci)の、FACSの24時間後に得られた低倍率(A、B、C)および高倍率(Ai、Bi、Ci)の位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。スケールバー:50μm。
【
図20】
図20は、ソーティングされたCD47陽性細胞(A、Ai)、CD47陰性細胞(B、Bi)、および「パススルー」対照細胞(C、Ci)の、FACSの5日後に得られた低倍率(A、B、C)および高倍率(Ai、Bi、Ci)の位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。スケールバー:50μm。
【
図21】
図21は、FACSの5日後にKi67およびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD47陽性細胞(A)、CD47陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図22】
図22は、FACSの5日後にFOXA2およびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD47陽性細胞(A)、CD47陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図23】
図23は、FACSの5日後にTHおよびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD47陽性細胞(A)、CD47陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図24】
図24は、CD99陽性細胞またはCD99陰性細胞が富化された集団を取得するための蛍光活性化セルソーティング(FACS)戦略を概説する。この図は、第一に、(A)細胞を表す事象を選択し、破片を除外する、第二に、(B)単一細胞を選択し、ダブレットを除外する、第三に、(C)生細胞を選択し、死細胞を除外する、最後に、(D)CD99陽性集団またはCD99陰性集団を選択する、階層的ゲートを示す。
【
図25】
図25は、FACS直後のソーティング後純度を示す。CD99陽性(A)細胞およびCD47陰性(B)細胞の純度を、フローサイトメーターで試料を再分析することによって評価した。
【
図26】
図26は、CD99発現に基づいてソーティングされた細胞のFACS後の生存率を示す。
【
図27】
図27は、ソーティングされたCD99陽性細胞(A、Ai)、CD99陰性細胞(B、Bi)、および「パススルー」対照細胞(C、Ci)の、FACSの24時間後に得られた低倍率(A、B、C)および高倍率(Ai、Bi、Ci)の位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。スケールバー:50μm。
【
図28】
図28は、ソーティングされたCD99陽性細胞(A、Ai)、CD99陰性細胞(B、Bi)、および「パススルー」対照細胞(C、Ci)の、FACSの48時間後に得られた低倍率(A、B、C)および高倍率(Ai、Bi、Ci)の位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。スケールバー:50μm。
【
図29】
図29は、ソーティングされたCD99陽性細胞(A、Ai)およびCD99陰性細胞(B、Bi)のFACSの5日後に得られた低倍率(A、B)および高倍率(Ai、Bi)の位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。スケールバー:50μm。
【
図30】
図30は、FACSの48時間後にKi67およびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD99陽性細胞(A)、CD99陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図31】
図31は、FACSの12日後にKi67およびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD99陽性細胞(A)およびCD99陰性細胞(B)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図32】
図32は、FACSの48時間後にFOXA2およびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD99陽性細胞(A)、CD99陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図33】
図33は、FACSの48時間後にTHおよびDAPIについて染色した、ソーティングされたCD99陽性細胞(A)、CD99陰性細胞(B)、および「パススルー」対照細胞(C)の代表的な免疫蛍光画像を示す。スケールバー:50μm。
【
図34】
図34は、CD47(Q3)もしくはCD99(Q1)のみ、またはCD47およびCD99(Q2)の両方を発現するDIV25 hPSC由来中脳細胞の割合を示す。
【
図35】
図35は、FACS後の免疫蛍光法によるKi67+細胞の定量化を示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47陰性およびCD47陽性のソーティングされた試料におけるDAPIによって特定された、全細胞のうちのKi67+細胞の割合を示す。
【
図36】
図36は、FACS後の免疫蛍光法によるSOX2+細胞の定量化を示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47陰性およびCD47陽性のソーティングされた試料におけるDAPIによって特定された、全細胞のうちのSOX2+細胞の割合を示す。
【
図37】
図37は、FACS直後に行われた細胞内フローサイトメトリー分析からの結果の棒グラフを示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47(CD47-およびCD47+)に基づいてソーティングされた試料、およびCD99と組み合わせたCD47(CD47+CD99+およびCD47-CD99-)に基づいてソーティングされた試料中の総生細胞のうちのCD47+細胞の割合を示す。
【
図38】
図38は、FACS直後に行われた細胞内フローサイトメトリー分析からの結果の棒グラフを示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47(CD47-およびCD47+)に基づいてソーティングされた試料、およびCD99と組み合わせたCD47(CD47+CD99+およびCD47-CD99-)に基づいてソーティングされた試料中の総生細胞のうちのCD99+細胞の割合を示す。
【
図39】
図39は、FACS直後に行われた細胞内フローサイトメトリー分析からの結果の棒グラフを示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47(CD47-およびCD47+)に基づいてソーティングされた試料、およびCD99と組み合わせたCD47(CD47+CD99+およびCD47-CD99-)に基づいてソーティングされた試料中の総生細胞のうちのSOX2+細胞の割合を示す。
【
図40】
図40は、FACS直後に行われた細胞内フローサイトメトリー分析からの結果の棒グラフを示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47(CD47-およびCD47+)に基づいてソーティングされた試料、およびCD99と組み合わせたCD47(CD47+CD99+およびCD47-CD99-)に基づいてソーティングされた試料中の総生細胞のうちのKi67+細胞の割合を示す。
【
図41】
図41は、FACS直後に行われた細胞内フローサイトメトリー分析からの結果の棒グラフを示す。このグラフは、ソーティングされていない試料、ならびにCD47(CD47-およびCD47+)に基づいてソーティングされた試料、およびCD99と組み合わせたCD47(CD47+CD99+およびCD47-CD99-)に基づいてソーティングされた試料中の総生細胞のうちのINA+細胞の割合を示す。
【
図42】
図42は、ソーティングされたCD47陰性細胞(A)およびソーティングされていない対照細胞(B)のMACSの48時間後に得られた位相コントラスト画像における細胞の形態を示す。
【
図43】
図43は、MACS直後のソーティング後純度を示す。CD47陽性細胞(A)およびCD47陰性細胞(B)の純度を、フローサイトメトリー分析によって評価した。
【
図44】
図44は、ソーティングされていない細胞(黒色の棒)およびCD47陰性細胞(白色の棒)のMACS直後の細胞内フローサイトメトリーによって取得された、フローサイトメトリーの結果を要約する棒グラフを示す。
【
図45】
図45は、フローサイトメトリーによって測定されたCD99(A)およびCD47(B)を発現するDIV35 hPSC由来前脳細胞の割合を示すヒストグラムを示す。
【
図46】
図46は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV35前脳細胞におけるKi67(A)およびINA(B)とのSOX2の共発現の割合を示す。
【
図47】
図47は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV35前脳細胞におけるCD47(A)およびCD99(B)とのSOX2の共発現の割合を示す。
【
図48】
図48は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV35前脳細胞におけるCD47(A)およびCD99(B)とのKi67の共発現の割合を示す。
【
図49】
図49は、フローサイトメトリーによって測定されたCD99(A)およびCD47(B)を発現するDIV22 hPSC由来後脳/脊髄細胞の割合を示すヒストグラムを示す。
【
図50】
図50は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV22後脳/脊髄細胞におけるKi67(A)およびINA(B)とのSOX2の共発現の割合を示す。
【
図51】
図51は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV22後脳/脊髄細胞におけるCD47(A)およびCD99(B)とのSOX2の共発現の割合を示す。
【
図52】
図52は、フローサイトメトリーによって測定されたDIV22後脳/脊髄細胞におけるCD47(A)およびCD99(B)とのKi67の共発現の割合を示す。
【
図53】
図53は、MACSの10日後にTHおよびDAPIについて染色した、ソーティングされていない対照細胞(A)およびソーティングされたCD47陰性細胞(B)の代表的な免疫蛍光画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
別段の定めのない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の指示がない限り、当業者に公知の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の従来の方法を用いる。
【0016】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0017】
本明細書で提示する任意およびすべての例または例示的な語句(例えば「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより明瞭にするという意図しかなく、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限するものではない。
【0018】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。
【0019】
定義
一般的な定義
本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つまたは2つ以上を意味し得る。本明細書に別段示されない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。
【0020】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する記載された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0021】
幹細胞
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己複製能力)を有するが、分化能を維持する未分化細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞およびこれらに類するものなどの分類を含む。
【0022】
本明細書で使用される場合、「多能性幹細胞」(PSC)とは、インビトロで培養することができ、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、内胚葉)に属する任意の細胞系統に分化する効力を有する幹細胞を指す。
【0023】
多能性幹細胞は、受精卵、体細胞核移植胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞、およびこれらに類するものから誘導または単離され得る。多能性幹細胞(PSC)の例としては、胚性幹細胞(ESC)、胚性胚細胞(EG細胞)、誘導多能性幹細胞(iPSC)、およびこれらに類するものが含まれる。
【0024】
本明細書で使用される場合、誘導多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSCとしても公知)という用語は、PSCではなく、かつ核を有する細胞から直接生成され得る1つのタイプの多能性幹細胞を意味する。多能性関連遺伝子の特定のセットの産物の導入によって、非多能性細胞は、多能性幹細胞に変換され得る。
【0025】
本明細書で使用される場合、「胚性幹細胞」という用語は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する多能性幹細胞を意味する。多能性胚性幹細胞はまた、例えば、国際公開第2003/046141号に記載されるような単為生殖生物に由来してもよい。胚性幹細胞は、単一の割球から、または胚を破壊することなく取得された内部細胞塊を培養することによって産生され得る。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、市販されている。好ましくは、本発明の方法および産物は、ヒトPSC、すなわち、ヒト誘導多能性幹細胞、または単為生殖生物を含むヒト胚性幹細胞のいずれかに由来する幹細胞に基づく。
【0026】
本明細書で使用される場合、「多分化能性幹細胞」という用語は、すべての種類ではないが、複数のタイプの組織または細胞に分化する効力を有する幹細胞を意味し、典型的には1つの胚葉に限定されない。神経系幹細胞は、神経系統に限定される多分化能性幹細胞の一例である。
【0027】
本明細書で使用される場合、「単能性幹細胞」という用語は、1つの特定の細胞型のみに分化する効力を有する幹細胞を意味する。
【0028】
本明細書で使用される場合、「インビトロ」という用語は、細胞が、フラスコ、マルチウェル、またはペトリ皿のような容器などにおいて、ヒトまたは動物の体外で提供および維持されることを意味する。したがって、細胞は、細胞培養培地中で培養されるということになる。
【0029】
本明細書で使用される場合、「非天然」という用語は、多能性幹細胞に由来するが、ヒト起源であり得る細胞が、自然界には存在しない人工構築物であることを意味する。一般に、幹細胞療法の分野では、ヒト身体の細胞にできるだけ似た細胞を提供することが目的である。しかしながら、多能性幹細胞が胚性および胎児段階に受ける発達を、成熟細胞がヒト身体の天然細胞と区別できない程度まで模倣することは、可能とならないかもしれない。本質的に、本発明の一実施形態では、細胞は人工的である。
【0030】
本明細書で使用される場合、細胞に関する「人工」という用語は、自然界で自然発生であるが、自然発生ではない構築物に改変された材料を含み得る。これは、人体の細胞を模倣する非自然発生の細胞に分化する、ヒト幹細胞を含む。
【0031】
細胞集団のある特定の割合、例えば、細胞集団のX%が、ある特定のマーカーを発現することを指す場合、その細胞集団における細胞の割合、すなわち、その細胞集団における細胞のX%を意味する。
【0032】
プロトコル
本出願全体を通して、細胞を培養するまたは分化させるためのプロセスを指す場合の「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用され得る。
【0033】
本明細書で使用される場合、プロトコルに関する「日」および同様にインビトロでの日数(DIV)という用語は、分化手順中のある特定の工程を実施するための特定の時間を指す。
【0034】
一般的に、かつ別段の定めのない限り、「0日目」は、プロトコルの開始を指し、これは例えば、幹細胞をプレーティングすること、または幹細胞をインキュベーターに移すこと、または幹細胞の移植前に、現在の細胞培養培地中の幹細胞を化合物と接触することによるが、これらに限定されない。典型的には、プロトコルの開始は、未分化幹細胞を別の細胞培養培地および/または容器に移すことにより、例えば、限定されないが、プレーティングもしくはインキュベートすることにより、および/または未分化幹細胞を、分化プロセスが開始されるような方法で未分化幹細胞に影響を及ぼす化合物(複数可)と最初に接触させることによって行われる。
【0035】
方法における「細胞」を指す場合、細胞型に関係なく、細胞集団のすべての細胞を意味する。
【0036】
1日目、2日目などの「X日目」に言及する場合、これは、0日目のプロトコル開始に関連するものである。当業者は、別段の指定がない限り、工程を実施するための正確な日時が変動し得ることを認識するであろう。したがって、「X日目」は、±10時間、±8時間、±6時間、±4時間、±2時間、または±1時間などの時間範囲を包含することを意味する。
【0037】
幹細胞の培養
本明細書で使用される場合、「培養」という用語は、連続的手順を指し、これは、細胞の様々な段階での生存率を維持するために、方法全体を通して用いられる。目的の細胞が、例えば、限定されないが、生体組織または胚から単離された後、それらは続いて、注意深く制御された条件下で維持される。これらの条件は、各細胞型によって異なるが、一般に、必須栄養素(アミノ酸、炭水化物、ビタミン、ミネラル)、増殖因子、ホルモン、および気体(CO2、O2)を供給し、物理化学的環境(pH緩衝液、浸透圧、温度)を調節する基質および/または培地を備えた適切な容器から成る。
【0038】
本明細書で使用される場合、「細胞培養培地」という用語は、細胞の増殖を支持するように設計された液体またはゲルを指す。細胞培養培地は概して、細胞周期を調節する適切なエネルギー源および化合物を含む。
【0039】
本明細書で使用される場合、「インキュベーター」という用語は、細胞培養を支持し得る任意の好適なインキュベーターを指す。非限定的な例としては、培養皿、ペトリ皿、およびプレート(6ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェル、384ウェル、9600ウェルおよびこれらに類するもののマイクロタイタープレート、マイクロプレート、ディープウェルプレートなど)、フラスコ、チャンバースライド、チューブ、Cell Factoryシステム、ローラーボトル、スピナーフラスコ、中空繊維、マイクロキャリア、またはビーズが挙げられる。
【0040】
本明細書で使用される場合、プロトコルにおいて言及される場合「幹細胞を提供する」という用語は、上述のような方法によって細胞のバッチを取得すること、および任意選択で、細胞を新しい基質上に播種することなどによって、異なる環境に移動させることを意味する。当業者は、幹細胞がそのような移動に対して脆弱であり、手順が注意を必要とすること、および幹細胞を元の細胞培養培地中で維持することが、細胞培養培地をさらなる分化プロセスにより適した別の細胞培養培地で置き換える前に、細胞のより持続可能な移動を促進し得ることを容易に認識するであろう。
【0041】
幹細胞の分化
本明細書で使用される場合、遺伝子またはタンパク質に関連して「発現する」という用語は、逆転写定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)、RNAシークエンシング、およびこれに類するものなどのアッセイを使用して検出され得るRNA分子、ならびに/または例えば、フローサイトメトリー、免疫細胞化学/免疫蛍光法、およびこれに類するものなどの抗体ベースのアッセイを使用して検出され得るタンパク質の存在を指す。アッセイの感度および特異性に応じて、遺伝子またはタンパク質は、RNAシークエンシングなどにおいて最低1つの分子が検出されたときに発現されるとみなされてもよく、またはバックグラウンド/ノイズレベルを超える検出限界が、フローサイトメトリーなどの対照試料に関連して定義されてもよい。細胞または細胞集団におけるマーカーの発現は、実施例9に記載される方法によって決定され得る。
【0042】
本明細書で使用される場合、「マーカー」という用語は、細胞によって作製された自然発生の特定可能な発現を指し、これは、細胞のある特定の特性と相互に関連付けられ得る。好ましい実施形態では、マーカーは、検出することができ、細胞の同一性と相互に関連付けることができる、遺伝子発現またはプロテオミクス発現である。マーカーは、遺伝子と呼ばれる場合がある。これは、対応するmRNAおよびタンパク質の発現に容易に翻訳され得る。
【0043】
本明細書で使用される場合、本明細書に開示される表面タンパク質または転写因子などの任意のマーカーに関して使用される「陰性」または「-」という用語は、細胞または細胞集団において発現されていないマーカーを指し、一方で、「弱い」または「低い」という用語は、細胞集団におけるマーカーの平均発現と比較して、または参照試料と比較して、細胞において低減されたレベルで発現されているマーカーを指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、本明細書に開示される表面タンパク質または転写因子などの任意のマーカーに関して使用される「陽性」または「+」という用語は、細胞または細胞集団で発現されているマーカーを指し、一方で、「高い」または「強い」という用語は、細胞集団におけるマーカーの平均発現と比較して、または参照試料と比較して、細胞において増加したレベルで発現されるマーカーを指す。
【0045】
本明細書で使用される場合、「分化」という用語は、例えば、未成熟状態から低い未成熟状態へ、または未成熟状態から成熟状態へ、細胞が未分化状態または意図された分化状態とは異なる状態から特定の分化状態に進行するプロセスを広く指し、これは、方法の実施中に継続的に生じ得る。多能性幹細胞に関する「分化」という用語は、細胞が未分化状態から特定の分化状態へ、すなわち、未成熟状態から低い未成熟状態または最終状態へと進行するプロセスを指す。細胞相互作用および成熟における変化は、細胞が未分化細胞のマーカーを喪失するまたは分化細胞のマーカーを獲得するときに生じる。単一マーカーの喪失または獲得は、細胞が「完全に分化」または「最終分化」されたことを示し得る。「最終分化」細胞は、発達系統の最終段階であり、さらに分化することができない。
【0046】
本明細書で使用される場合、細胞を培養するまたは分化させることに関する「接触」という用語は、特定の化合物を、それが細胞に触れて「接触した」細胞を産生することを可能にする場所に配置することによって、細胞を、例えば、特定の化合物に曝露することを意味する。接触は、任意の好適な手段を使用して達成され得る。接触の非限定的な例は、化合物を細胞の細胞培養培地に添加することによる。細胞の接触は、細胞および特定の化合物が近接している限り、例えば、化合物が細胞培養培地中に好適な濃度で存在する限り、起こるものと想定される。
【0047】
本明細書で使用される場合、「阻害剤」という用語は、細胞分化を促進することができるシグナル伝達経路などのプロセスを低減または抑制または下方制御する化合物を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「活性剤」という用語は、細胞分化を促進することができるシグナル伝達経路などのプロセスを誘導または刺激または上方制御する化合物を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、プロトコルの工程を説明するとき、細胞は、「細胞」、「分化細胞」、または場合によってはPSCもしくは「PSC由来細胞」と呼ばれてもよい。当業者であれば、PSCを特殊化細胞に分化させるためのプロトコルの間、ある時点で細胞が多能性を喪失することを認識するであろう。したがって、例えば、細胞を化合物と接触させる工程において「細胞」または「PSC」に言及する場合、最初に多能性幹細胞であった細胞を意味する。
【0050】
幹細胞産物
本明細書で使用される場合、「分化細胞」という用語は、未分化状態から低い未成熟状態へと進行した多能性幹細胞などの細胞を指す。分化細胞は、例えば、前駆細胞などの低い未成熟状態の特殊化細胞であってもよく、または特殊化/最終細胞型に完全に成熟していてもよい。
【0051】
本明細書で使用される場合、「細胞集団」という用語は、同じ培養物中の複数の細胞を指す。細胞集団は、例えば、異なるタイプの細胞、または同一もしくは類似の特殊化した特徴に向かって様々な成熟段階にある細胞などの様々な発達段階にある細胞の混合物であってもよく、あるいは共通マーカーを有する細胞のより均一な組成物であってもよい。本明細書で使用される場合、「細胞集団のX%」および「細胞のX%」など、細胞集団または細胞の割合への言及は、互換的に使用され得る。
【0052】
本明細書で使用される場合、「神経系細胞集団」という用語は、神経系細胞を含む細胞集団を指す。
【0053】
本明細書で使用される場合、細胞に関する「遺伝子改変された」という用語は、遺伝子編集に供され、もはや自然発生の細胞とはみなすことができない細胞を指す。遺伝子改変された幹細胞の場合、幹細胞が特殊化細胞にさらに分化するときでさえも、遺伝子編集から生じる形質は持続し、したがって、特殊化細胞を遺伝子改変され、人工的な状態、すなわち、非自然発生の状態にする。遺伝子改変された幹細胞の一例は、HLA欠失幹細胞であり、これはユニバーサルドナー細胞とも呼ばれ、移植片拒絶の問題を克服することを意図する。HLA欠失幹細胞を取得するための方法は、国際公開第2020/260563号に開示されている。
【0054】
神経外胚葉細胞
本明細書で使用される場合、「神経系(neural)」という用語は、神経系(nervous system)を指す。
【0055】
本明細書で使用される場合、「神経系細胞」という用語は、非天然細胞を指し、天然の対応部分は、天然に外胚葉の胚葉、より具体的には神経外胚葉の一部を形成し、神経系幹細胞からニューロンおよび他の最終分化細胞型(例えば、グリア細胞)に至るまで、すなわち、神経系幹細胞段階および神経芽細胞段階などの細胞段階など、この胚葉内の任意の発達段階の細胞を包含することを意味する。したがって、ニューロンおよびその前駆体は、特定のタイプの神経系細胞とみなされる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「ニューロン」および「神経細胞」という用語は、有糸分裂後であり、最終的に特殊化細胞に分化した神経系細胞を指すために互換的に使用され得る。ニューロン同一性は、マーカーINA、STMN2、TUBB3、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上の発現を特徴とする。
【0057】
本明細書で使用される場合、「神経芽細胞」という用語は、典型的には多分化能性または単に単能性であり、限られた程度までのみ自己再生することができる、中間前駆細胞を指す。神経芽細胞は、最終的に、ニューロンまたは星状細胞などの最終分化細胞型を生じさせる。「神経芽細胞」および「中間前駆細胞(intermediate precursor cell)」および「中間前駆細胞(intermediate progenitor cell)」という用語は、互換的に使用され得る。中間前駆細胞同一性は、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上の発現を特徴とする。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ニューロン前駆体(neuron progenitor)」、「ニューロンの前駆体」、および「ニューロン前駆体(neuron precursor)」という用語は、互換的に使用され得、ニューロンにさらに特殊化する可能性または傾向を有する神経系細胞を指す。「ニューロン前駆体」および「非天然ニューロン前駆体」という用語は、互換的に使用され得る。
【0059】
本発明に従った神経系細胞は、前脳、中脳、後脳、脊髄などに特異的な細胞などの特定の局所的同一性を有し得る。
【0060】
本明細書で使用される場合、「前脳」という用語は、大脳皮質および線条体を含む構造を生じさせる神経系管およびCNSの吻側領域を指す。
【0061】
本明細書で使用される場合、「中脳」という用語は、黒質を含む構造を生じさせる(吻側尾側軸上の)神経系管およびCNSの内側領域を指す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「後脳」および「脊髄」という用語は、峡部オーガナイザーに対して尾側である神経系管の尾側領域を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「ドーパミン作動性(DA)細胞」または「ドーパミン作動性ニューロン」または「ドーパミンニューロン」という用語は、神経伝達物質ドーパミンを合成することができる細胞を指す。
【0064】
細胞集団をニューロンおよび/またはその前駆体において富化するための方法
本発明の一態様は、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法であって、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法に関する。
【0065】
本発明の別の態様は、細胞集団をニューロンおよび/またはその前駆体において富化するための方法であって、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、1つ以上の陽性マーカーに対して陽性の細胞を選択する工程、および/または1つ以上の陰性マーカーに対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法に関する。
【0066】
本明細書で使用される場合、細胞集団に関する「~において富化する」という用語は、細胞集団における所望の細胞型の割合を増加させることを意味する。具体的には、本明細書で使用される場合、「細胞集団をニューロンおよび/またはその前駆体において富化する」という用語は、細胞集団中のニューロンおよび/またはその前駆体の割合を増加させることを意味する。したがって、「~が富化された」細胞集団とは、その細胞集団が、所望の細胞型において富化する方法に供されていない参照細胞集団と比較して、当該所望の細胞型の増加した割合を有することを意味するということになる。好ましい実施形態では、細胞集団は、所望の細胞型を単離することによって富化される。本明細書で使用される場合、細胞集団に関する「単離」という用語は、細胞集団から望ましくない細胞を除去すること、または細胞集団から所望の細胞型を回収することのいずれかによって、望ましくない細胞から所望の細胞型を分離することを意味する。したがって、細胞集団をニューロンおよび/またはその前駆体において富化するための方法は、代替的に、細胞集団からニューロンおよび/またはその前駆体を単離するための方法として表されてもよく、本明細書に記載される実施形態は、両方に等しく適用される。
【0067】
したがって、本発明は、細胞集団からニューロンおよび/またはその前駆体を単離するための方法であって、神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程と、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法に関する。
【0068】
一実施形態では、神経系幹細胞は、前脳、中脳、後脳、または脊髄領域のものである。一実施形態では、神経系幹細胞は、腹側中脳神経系幹細胞である。
【0069】
本明細書で使用される場合、神経系幹細胞および/またはニューロン前駆体を含む細胞集団に関する「取得」という用語は、PSCなどの細胞の分化を誘導するための任意の方法に従って取得可能な細胞のバッチを得ることを意味し、細胞は、神経系幹細胞および/またはニューロン前駆体を含む神経系細胞に分化する。
【0070】
本明細書で使用される場合、ある特定のマーカーを発現する細胞を含む細胞集団に関する「選択」という用語は、工程を実施する前の初期細胞集団と比較して、マーカーを発現しない細胞の画分と比較して、マーカーを発現する細胞の画分が増加した細胞集団をもたらすことが意図される工程を実施することを意味する。マーカーを発現する細胞を単離すること、または細胞を分離することなど、ある特定のマーカーを発現する細胞を選択するための任意の好適な方法が使用され得る。
【0071】
本明細書で使用される場合、ある特定のマーカーを発現する細胞に関する「除外」という用語は、工程を実施する前の初期細胞集団と比較して、マーカーを発現しない細胞の画分と比較して、マーカーを発現する細胞の画分が減少した細胞集団をもたらすことが意図される工程を実施することを意味する。マーカーを発現する細胞を激減させること、または細胞を分離することなど、ある特定のマーカーを発現する細胞を除外するための任意の好適な方法が使用され得る。ある特定のマーカーを発現する細胞を選択および/または除外するための方法の非限定的な例は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、磁気活性化セルソーティング(MACS)、またはイムノパニングなどの抗体媒介ソーティングである。したがって、好ましい実施形態では、陽性および陰性マーカーは、表面マーカーであるということになる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「陽性マーカー」という用語は、細胞を選択するために使用され得るマーカーを指し、マーカーPTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85を含む。
【0073】
本明細書で使用される場合、「陰性マーカー」という用語は、細胞を除外するために使用され得るマーカーを指し、マーカーSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1を含む。
【0074】
一実施形態では、方法は、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得することを含む。ニューロン前駆体を含む細胞集団は、マーカーSOX2を発現する神経系幹細胞を含む細胞集団を最初に取得することによって得られてもよく、細胞集団は、細胞集団におけるSOX2の発現が減少するまでさらに培養され、それによって、神経系幹細胞が中間前駆細胞にさらに分化し、そのうちの一部がニューロン前駆体であることを示す。この段階では、方法に従った表面マーカーは、ニューロン運命を有する細胞を単離するための細胞の選択および/または除外に適している。したがって、一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団は、マーカーSOX2を発現する神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程、および神経系幹細胞を含む細胞集団におけるSOX2の発現が減少するまで、神経系幹細胞を含む細胞集団を培養する工程によって取得される。一実施形態では、神経系幹細胞を含む取得された細胞集団の少なくとも80%、例えば、少なくとも85%、90%、または95%、好ましくは少なくとも95%が、SOX2を発現する。一実施形態では、神経系幹細胞を含む細胞集団は、細胞集団におけるSOX2の発現が、少なくとも5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%、好ましくは少なくとも20%減少するまで培養される。一実施形態では、神経系幹細胞を含む取得された細胞集団の少なくとも90%が、SOX2を発現し、細胞は、少なくとも90%未満がマーカーSOX2を発現するまで、好ましくは80%未満がSOX2を発現するまで、より好ましくは70%未満がマーカーSOX2を発現するまで、さらに培養される。
【0075】
一実施形態では、工程c)での選択および/または除外は、神経系幹細胞を含む細胞集団の80%未満がマーカーSOX2を発現した後5日以内、例えば、4日、3日、または2日以内に実施される。
【0076】
別の実施形態では、細胞を選択および/または除外するためのタイミングは、SOX2の代わりにCD99の発現に基づいて決定される。したがって、一実施形態では、工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも80%が、CD99を発現する。一実施形態では、細胞集団は、少なくとも、神経系幹細胞を含む細胞集団におけるCD99の発現が、5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%減少するまで、工程b)でさらに培養される。一実施形態では、工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも90%が、CD99を発現し、細胞は、少なくとも90%未満がマーカーCD99を発現するまで、好ましくは80%未満がマーカーCD99を発現するまで、より好ましくは70%未満がマーカーCD99を発現するまで、工程b)でさらに培養される。一実施形態では、工程c)の選択および/または除外は、神経系幹細胞を含む細胞集団の80%未満がマーカーCD99を発現した後5日以内、例えば、4日、3日、または2日以内に実施される。
【0077】
好ましい実施形態では、陽性マーカーおよび陰性マーカーに基づいて細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団は、中間前駆細胞および/またはニューロンを含む。一実施形態では、細胞を選択および/または除外する工程を実施するときに、細胞集団の少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%が、中間前駆体同一性またはニューロン同一性を発現する。一実施形態では、細胞集団は、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上の発現が、少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%になるまで培養される。一実施形態では、細胞集団は、マーカーINA、STMN2、TUBB3、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上の発現が、少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、または少なくとも20%になるまで培養される。
【0078】
一実施形態では、細胞を選択および/または除外する工程を実施するときに、細胞集団の少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、または少なくとも40%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、NHLH1、INA、STMN2、TUBB3、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上に対して陽性である。
【0079】
一実施形態では、細胞を選択および/または除外する時点で、細胞集団の10~90%、例えば、10~80%、10~70%、10~60%、または10~50%が、SOX2に対して陽性であり、細胞集団の5~50%、例えば、5~40%、5~30%、5~20%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上に対して陽性であり、細胞集団の5~20%、例えば、5~15%、または5~10%が、マーカーINA、TUBB3、STMN2、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上に対して陽性である。
【0080】
一実施形態では、神経系細胞は、腹側中脳同一性のものであり、細胞集団の少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、または少なくとも40%が、細胞を選択および/または除外する工程を実施するときに、マーカーASCL1およびINAのうちの一方または両方に対して陽性である。
【0081】
一実施形態では、マーカーCD47に対して陽性の細胞は、除外される。一実施形態では、マーカーCD99に対して陽性の細胞は、除外される。
【0082】
一実施形態では、方法は、選択および/または除外の工程の後にニューロンおよび/またはその前駆体を成熟させるさらなる工程を含む。
【0083】
一実施形態では、方法は、選択および/または除外の工程の後に、ならびに任意選択でニューロンおよび/またはその前駆体を成熟させるさらなる工程の後に、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された神経系細胞集団を回収するさらなる工程を含む。
【0084】
一実施形態では、回収された細胞は、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陰性である。
【0085】
一実施形態では、細胞集団は、神経系細胞集団である。一実施形態では、細胞集団の少なくとも50%、より好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、またはより好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、さらにより好ましくは少なくとも99%が、神経系細胞である。
【0086】
一実施形態では、富化された細胞集団は、ニューロンに発達する傾向が増加している。本明細書で使用される場合、細胞特殊化に関する「傾向」という用語は、細胞がある特定の細胞型に発達する可能性を指す。したがって、ある特定の細胞型に発達する細胞集団の傾向を増加させることは、その細胞型に発達する可能性が高い細胞の割合を増加させることを意味する。
【0087】
一実施形態では、ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%が、腹側中脳、腹側脊髄、背側前脳、または腹側前脳領域のものである。
【0088】
特定の実施形態では、ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が、腹側中脳領域のものである。
【0089】
ある特定の実施形態では、腹側中脳領域の細胞集団、およびマーカーCD47に対して陽性の細胞は、細胞集団の少なくとも5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、または70%が、マーカーASCL1およびINAのうちの1つを発現する時点で除外される。さらなる実施形態では、マーカーCD47およびCD99のいずれかに対して陽性の細胞は、除外される。
【0090】
別の実施形態では、腹側脊髄、背側前脳、または腹側前脳の細胞集団、およびマーカーCD99に対して陽性の細胞は、除外される。
【0091】
ある特定の実施形態では、細胞の選択および/または除外は、抗体媒介セルソーティングによって実施される。さらなる実施形態では、細胞の選択および/または除外は、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、磁気活性化セルソーティング(MACS)、もしくはイムノパニングを使用して、または参照試料と比較して実施され、好ましくは、選択および/または除外は、MACSを使用して実施される。
【0092】
一実施形態では、神経系細胞集団は、インビトロ細胞培養物である。一実施形態では、神経系細胞集団の細胞は、非天然である。
【0093】
当業者は、細胞段階を示すある特定のマーカーの発現が細胞において内部で発現され得、例えば、単一細胞RNA-seqによって分析され得るが、他のマーカーは、細胞表面上に発現され、FACSなどの抗体媒介分析が使用され得ることを認識するであろう。表面マーカーに基づく細胞の選択および/または除外のタイミングは、例えば、SOX2の発現について試料を分析することによって確立され得る。典型的には、例えば、神経系幹細胞を取得するためのプロトコルの設計中に、プロトコル中の細胞発現が分析され、その結果、プロトコルにおける選択および/または除外のタイミングは、産生設定中のマーカーの発現をさらにモニタリングする必要なく決定され得る。
【0094】
ニューロン前駆体を含む神経系細胞を取得するための方法
一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団は、PSC、好ましくはhPSCに由来する。ある特定の実施形態では、hPSCは、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である。
【0095】
方法の一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程は、PSCがニューロン前駆体を含む神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む。ある特定の実施形態では、PSCは、SMADシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤と接触する。
【0096】
本明細書で使用される場合、「SMADシグナル伝達経路」という用語は、Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路を指す。一実施形態では、SMADシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤は、Noggin、LY364947、SB431542、およびLDN-193189から選択される。一実施形態では、PSCは、SMADシグナル伝達経路の2つ以上の阻害剤と接触する。当業者は、PSCをSMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤と接触させることが、細胞を神経系統に分化させるための堅牢な技法であることを認識するであろう。
【0097】
一実施形態では、PSCは、0日目にSMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤と接触する。さらなる実施形態では、PSCは、少なくとも5日間、例えば、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、または少なくとも10日間、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤と接触する。
【0098】
方法の一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得することは、PSCが前脳、中脳、後脳、または脊髄領域の神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む。細胞が中脳、後脳、または脊髄領域に分化する一実施形態では、細胞は、WNT経路の少なくとも1つの活性剤と接触する。一実施形態では、細胞は、0日目~5日目、好ましくは0日目に、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性剤と接触する。一実施形態では、細胞は、少なくとも5日間、例えば、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性剤と接触する。一実施形態では、細胞は、細胞をSMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤と接触させることと同時に、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性剤と接触する。
【0099】
本明細書で使用される場合、「WNT経路」という用語は、WNTシグナル伝達経路を指す。一実施形態では、WNT経路の少なくとも1つの活性剤は、CHIR99021などのGSK3阻害剤である。したがって、一実施形態では、PSCは、CHIR99021と接触する。
【0100】
方法の一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得することは、PSCが神経系管の腹側領域の神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む。かかる実施形態では、細胞は、SHHシグナル伝達経路の活性剤と接触してもよい。本明細書で使用される場合、「SHH」という用語は、ソニックヘッジホッグを指す。一実施形態では、細胞は、Sonic Hedgehog C24II、プルモルファミン、およびSAG(平滑化作動薬)から選択される化合物と接触する。一実施形態では、細胞は、少なくとも7日目、例えば、少なくとも6日目、少なくとも5日目、少なくとも4日目、少なくとも3日目、少なくとも2日目、少なくとも1日目、または0日目から、SHHシグナル伝達経路の活性剤と接触する。好ましい実施形態では、細胞は、細胞をSMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤と接触させることと同時に、SHHシグナル伝達経路の活性剤と接触する。
【0101】
方法の一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得することは、PSCが中脳または後脳領域の神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む。かかる実施形態では、細胞は、FGF8、好ましくはFGF8bと接触してもよい。本明細書で使用される場合、「FGF」という用語は、線維芽細胞増殖因子を指す。一実施形態では、細胞は、5日目~15日目、好ましくは8日目~10日目、例えば、9日目にFGF8と接触する。一実施形態では、細胞は、少なくとも2日間、例えば、少なくとも5日間または6日間、FGF8と接触する。一実施形態では、細胞は、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤への細胞の曝露を終了するときに、FGF8と接触する。
【0102】
方法の一実施形態では、ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得することは、PSCが腹側中脳領域の神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む。
【0103】
神経系細胞を腹側中脳領域に分化させるための一実施形態では、細胞は、L-アスコルビン酸などのアスコルビン酸と接触する。一実施形態では、細胞は、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤への細胞の曝露を終了するときに、アスコルビン酸と接触する。一実施形態では、細胞は、9日目、10日目、11日目、12日目、または13日目から、好ましくは11日目からアスコルビン酸と接触する。好ましい実施形態では、細胞は、神経系細胞を回収する工程までアスコルビン酸と接触する。
【0104】
神経系細胞を腹側中脳領域に分化させるための一実施形態では、細胞は、BDNFと接触する。本明細書で使用される場合、「BDNF」という用語は、脳由来の神経栄養因子を指す。一実施形態では、細胞は、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤への細胞の曝露を終了するときに、BDNFと接触する。一実施形態では、細胞は、9日目、10日目、11日目、12日目、または13日目から、好ましくは11日目からBDNFと接触する。好ましい実施形態では、細胞は、神経系細胞を回収する工程までBDNFと接触する。一実施形態では、細胞は、アスコルビン酸およびBDNFと同時に接触する。
【0105】
神経系細胞を腹側中脳領域に分化させるための一実施形態では、細胞は、GDNFと接触する。本明細書で使用される場合、「GDNF」という用語は、グリア由来の神経栄養因子を指す。一実施形態では、細胞は、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤への細胞の曝露を終了するときに、GDNFと接触する。一実施形態では、細胞は、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、16日目、17日目、または18日目から、好ましくは16日目からGDNFと接触する。好ましい実施形態では、細胞は、神経系細胞を回収する工程までGDNFと接触する。
【0106】
神経系細胞を腹側中脳領域に分化させるための一実施形態では、細胞は、DAPTまたはNotch経路の他の阻害剤と接触する。本明細書で使用される場合、「DAPT」という用語は、(2S)-N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニン-2-フェニル]グリシン1,1-ジメチルエチルエステルを指す。一実施形態では、細胞は、SMADシグナル伝達経路の1つ以上の阻害剤への細胞の曝露を終了するときに、DAPTと接触する。一実施形態では、細胞は、11日目、12日目、13日目、14日目、15日目、16日目、17日目、または18日目から、好ましくは16日目からDAPTと接触する。好ましい実施形態では、細胞は、神経系細胞を回収する工程までDAPTと接触する。一実施形態では、細胞は、GDNFおよびDAPTと同時に接触する。
【0107】
一実施形態では、PSCは、ポリ-L-リシン、ポリ-D-リシン、ポリ-L-オルニチン、ラミニン、フィブロネクチン、iMatrixおよび/もしくはコラーゲン、ならびに/またはそれらの断片などの細胞外マトリックスを含む基質上で培養され、分化する。一実施形態では、基質は、ラミニンまたはその断片、例えば、ラミニン-111、ラミニン-521、および/またはラミニン-511を含む。
【0108】
一実施形態では、PSCは、細胞を選択および/または除外する工程の前に、少なくとも10日間、例えば、少なくとも15日間、少なくとも18日間、少なくとも20日間、少なくとも22日間、少なくとも25日間、または少なくとも30日間、好ましくは少なくとも20日間、ニューロン前駆体を含む神経系細胞に分化することができる。
【0109】
一実施形態では、PSCは、細胞を選択および/または除外する工程の前に、15日間~50日間、好ましくは18日間~40日間、より好ましくは20日間~40日間、より好ましくは20日間~30日間、ニューロン前駆体を含む神経系細胞に分化することができる。一実施形態では、残りのニューロンおよび/またはその前駆体は、細胞を選択および/または除外する工程の後に、さらに分化/成熟することができる。
【0110】
一実施形態では、細胞を選択および/または除外する工程は、ニューロン前駆体を含む神経系細胞へのPSCの分化の開始から15日目~40日目に実施される。
【0111】
一実施形態では、神経系細胞は、腹側中脳神経系細胞に分化し、細胞を選択および/または除外する工程は、22日目~25日目に実施される。
【0112】
ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団
本発明の別の態様は、ニューロンおよびその前駆体の細胞集団に関し、細胞の少なくとも50%が、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性であり、かつ/または細胞の50%未満が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である。
【0113】
一実施形態では、少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%の細胞が、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である。
【0114】
一実施形態では、細胞の50%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、またはさらにより好ましくは1%未満が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である。
【0115】
一実施形態では、細胞の50%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、またはさらにより好ましくは1%未満が、マーカーCD47に対して陽性である。
【0116】
一実施形態では、細胞の50%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、またはさらにより好ましくは1%未満が、マーカーCD99に対して陽性である。
【0117】
一実施形態では、細胞の50%未満、好ましくは45%未満、より好ましくは40%未満、より好ましくは35%未満、より好ましくは30%未満、より好ましくは25%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満、より好ましくは5%未満、またはさらにより好ましくは1%未満が、マーカーCD47およびCD99に対して陽性である。
【0118】
一実施形態では、細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%が、腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体、腹側脊髄ニューロンおよび/またはその前駆体、背側前脳ニューロンおよび/またはその前駆体、ならびに腹側前脳ニューロンおよび/またはその前駆体から選択される。
【0119】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%が、マーカーFOXA2に対して陽性である。
【0120】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%が、腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体である。
【0121】
ある特定の実施形態では、細胞の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%が、神経芽細胞および/またはニューロンである。
【0122】
一実施形態では、細胞集団の少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも65%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、またはさらにより好ましくは少なくとも99%が、マーカーASCL1およびINAのうちの一方または両方に対して陽性である。
【0123】
一実施形態では、細胞集団は、ニューロンに発達する傾向が増加している。
【0124】
一実施形態では、細胞集団は、インビトロである。
【0125】
一実施形態では、細胞集団は、神経系細胞集団である。
【0126】
一実施形態では、細胞集団は、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化される。
【0127】
一実施形態では、細胞集団の細胞は、インビトロ分化細胞である。
【0128】
一実施形態では、細胞集団の細胞は、非天然細胞である。
【0129】
一実施形態では、細胞集団の細胞は、hPSCに由来する。
【0130】
一実施形態では、細胞集団の細胞は、遺伝子改変されている。さらなる実施形態では、遺伝子改変細胞は、HLA欠失である。
【0131】
一実施形態では、細胞集団は、少なくとも1,000個の細胞、例えば、少なくとも100,000個の細胞、少なくとも1,000,000個の細胞、または少なくとも10,000,000個の細胞を含む。
【0132】
一実施形態では、細胞集団は、上述の方法のいずれかによって取得される。
【0133】
医薬組成物および医薬としての使用
本発明の一態様は、本明細書に記載される富化された細胞集団を含む組成物に関する。組成物は、凍結保護剤および/または生体材料、例えば、細胞外マトリックスなど、薬理学的に許容可能である任意の好適な添加剤を含んでもよい。
【0134】
別の態様は、医薬として使用するための本発明に従った組成物または細胞集団に関する。したがって、一実施形態では、組成物または細胞集団は、ニューロンおよび/またはその前駆体の投与を必要とする状態の予防または治療のためのものである。
【0135】
一実施形態では、組成物または細胞集団は、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷、ハンチントン病、認知症、てんかん、失明、アルツハイマー病、およびニューロンが失われるまたは機能不全となる他の神経学的状態などの神経学的状態の治療で使用するためのものである。
【0136】
特定の実施形態では、細胞集団は、パーキンソン病の治療のための腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体を含む。
【0137】
特定の実施形態では、細胞集団は、脳卒中による損傷の治療のための皮質ニューロンおよび/またはその前駆体を含む。
【0138】
別の態様では、本発明に従った有効量の細胞集団または組成物の患者への投与を含む、神経学的状態の治療または予防方法が提供される。
【0139】
特定の実施形態
本発明の態様を、これより、以下の非限定的な実施形態によってさらに記載する。
1.細胞集団からニューロンおよび/またはその前駆体を単離するための方法であって、
a)SOX2を発現する神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程と、
b)神経系幹細胞を含む細胞集団をさらに培養する工程と、
c)PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/またはSLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法。
2.工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも80%が、SOX2を発現する、実施形態1に記載の方法。
3.細胞集団が、少なくとも、神経系幹細胞を含む細胞集団におけるSOX2の発現が、5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%減少するまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1または2に記載の方法。
4.工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも90%が、SOX2を発現し、細胞集団が、少なくとも90%未満がマーカーSOX2を発現するまで、好ましくは80%未満がマーカーSOX2を発現するまで、より好ましくは70%未満がマーカーSOX2を発現するまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1~3のいずれか1つに記載の方法。
5.工程c)での選択および/または除外が、神経系幹細胞を含む細胞集団の80%未満がマーカーSOX2を発現した後5日以内、例えば、4日、3日、または2日以内に実施される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の方法。
6.工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも80%が、CD99を発現する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.細胞集団が、少なくとも、神経系幹細胞を含む細胞集団におけるCD99の発現が、5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%減少するまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.工程a)で取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも90%が、CD99を発現し、細胞集団が、少なくとも90%未満がマーカーCD99を発現するまで、好ましくは80%未満がマーカーCD99を発現するまで、より好ましくは70%未満がマーカーCD99を発現するまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.工程c)での選択および/または除外が、神経系幹細胞を含む細胞集団の80%未満がマーカーCD99を発現した後5日以内、例えば、4日、3日、または2日以内に実施される、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.細胞集団が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上の発現が、少なくとも5%、例えば、10%、15%、または20%になるまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.細胞集団が、マーカーINA、STMN2、TUBB3、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上の発現が少なくとも5%、例えば、10%、15%、または20%になるまで、工程b)でさらに培養される、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.工程c)で細胞を選択および/または除外する時点で、細胞集団の10~90%が、SOX2に対して陽性であり、細胞集団の5~50%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上に対して陽性であり、細胞集団の5~20%が、マーカーINA、TUBB3、STMN2、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上に対して陽性である、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.細胞集団が、神経系細胞集団である、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
14.工程a)の神経系幹細胞を含む細胞集団が、少なくとも14日間、PSCの神経誘導によって取得される、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
15.神経系幹細胞が、前脳、中脳、後脳、または脊髄領域のものである、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
16.神経系幹細胞が、腹側中脳神経系幹細胞である、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
17.ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団を提供するための方法であって、
-ニューロン前駆体を含む細胞集団を取得する工程と、
-PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を選択する工程、ならびに/または
-SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性の細胞を除外する工程と、を含む、方法。
18.ニューロン前駆体を含む細胞集団が、マーカーSOX2を発現する神経系幹細胞を含む細胞集団を取得する工程、および神経系幹細胞を含む細胞集団におけるマーカーSOX2の発現が減少するまで、神経系幹細胞を含む細胞集団を培養する工程によって取得される、実施形態17に記載の方法。
19.取得された神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも80%が、マーカーSOX2を発現する、実施形態18に記載の方法。
20.細胞集団が、少なくとも、神経系幹細胞を含む細胞集団におけるSOX2の発現が、5%、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%減少するまでさらに培養される、実施形態19に記載の方法。
21.神経系幹細胞を含む細胞集団の少なくとも80%が、SOX2に対して陽性であり、神経系幹細胞を含む細胞集団が、SOX2の発現が80%未満になるまで培養される、実施形態18または19に記載の方法。
22.マーカーCD47に対して陽性の細胞が除外される、実施形態1~21のいずれか1つに記載の方法。
23.マーカーCD99に対して陽性の細胞が除外される、実施形態1~22のいずれか1つに記載の方法。
24.マーカーCD99およびCD47のいずれかに対して陽性の細胞が除外される、実施形態1~23のいずれか1つに記載の方法。
25.細胞集団の少なくとも80%が、神経系細胞である、実施形態1~24のいずれか1つに記載の方法。
26.細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団の少なくとも5%が、中間前駆体同一性またはニューロン同一性を発現する、実施形態1~25のいずれか1つに記載の方法。
27.細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団の少なくとも5%が、マーカーASCL1、NEUROD1、NEUROD2、NEUROD4、NEUROD6、NEUROG1、NEUROG2、NEUROG3、EOMES、CHX10、ISL1、SOX4、SOX11、NKX2.1、NFE2L2、およびNHLH1のうちの1つ以上に対して陽性である、実施形態1~26のいずれか1つに記載の方法。
28.細胞を選択および/または除外するときに、細胞集団の少なくとも5%が、マーカーINA、TUBB3、STMN2、MAP2、およびRBFOX3のうちの1つ以上に対して陽性である、実施形態1~27のいずれか1つに記載の方法。
29.細胞集団が、PSC、好ましくはhPSCに由来する、実施形態1~28のいずれか1つに記載の方法。
30.細胞集団を取得することが、PSCがニューロン前駆体を含む神経系細胞に分化することを可能にする工程を含む、実施形態29に記載の方法。
31.PSCが、前脳、中脳、後脳、または脊髄領域の神経系細胞に分化する、実施形態30に記載の方法。
32.PSCが、15日間~50日間、神経系細胞に分化することができる、実施形態30または31に記載の方法。
33.PSCが、少なくとも20日間、神経系細胞に分化することができる、実施形態30または31に記載の方法。
34.PSCが、SMADシグナル伝達経路の少なくとも1つの阻害剤と接触する、実施形態30~33のいずれか1つに記載の方法。
35.細胞が、WNTシグナル伝達経路の少なくとも1つの活性剤と接触する、実施形態30~34のいずれか1つに記載の方法。
36.細胞が、SHHシグナル伝達経路の活性剤と接触する、実施形態30~35のいずれか1つに記載の方法。
37.細胞が、FGF8と接触する、実施形態30~36のいずれか1つに記載の方法。
38.細胞が、ラミニンまたはその断片、好ましくはラミニン-521および/またはラミニン-511および/またはラミニン-111でコーティングされた基質上で培養される、実施形態30~37のいずれか1つに記載の方法。
39.細胞が、アスコルビン酸と接触する、実施形態30~38のいずれか1つに記載の方法。
40.細胞が、BDNFおよび/またはGDNFと接触する、実施形態30~39のいずれか1つに記載の方法。
41.細胞が、DAPTと接触する、実施形態30~40のいずれか1つに記載の方法。
42.選択および/または除外の工程の後に、ニューロンおよび/またはその前駆体を成熟させるさらなる工程を含む、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
43.選択および/または除外の工程の後に、ならびに任意選択でニューロンおよび/またはその前駆体を成熟させるさらなる工程の後に、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団を回収する工程を含む、実施形態1~42のいずれか1つに記載の方法。
44.ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された回収された細胞集団が凍結保存される、実施形態43に記載の方法。
45.回収された細胞が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陰性である、実施形態43または44に記載の方法。
46.ニューロンおよび/またはその前駆体が富化された細胞集団が、ニューロンに発達する傾向が増加している、実施形態1~45のいずれか1つに記載の方法。
47.ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%が、前脳、中脳、後脳、または脊髄領域のものである、実施形態1~46のいずれか1つに記載の方法。
48.ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%が、腹側中脳領域のものである、実施形態1~47のいずれか1つに記載の方法。
49.ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%が、前脳領域のものであり、選択および/または除外する工程が、30~70日目、好ましくは30~40日目に実施される、実施形態31~47のいずれか1つに記載の方法。
50.ニューロンおよび/またはその前駆体の少なくとも50%が、脊髄領域のものであり、選択および/または除外する工程が、20~40日目、好ましくは20~30日目に実施される、実施形態31~47のいずれか1つに記載の方法。
51.細胞の選択および/または除外が、抗体媒介セルソーティングによって実施される、実施形態1~50のいずれか1つに記載の方法。
52.細胞の選択および/または除外が、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、磁気活性化セルソーティング(MACS)、またはイムノパニングを使用して実施される、実施形態1~51のいずれか1つに記載の方法。
53.マーカーが、表面マーカーである、実施形態1~52のいずれか1つに記載の方法。
54.細胞集団が、インビトロである、実施形態1~53のいずれか1つに記載の方法。
55.細胞集団の細胞が、非天然である、実施形態1~54のいずれか1つに記載の方法。
56.細胞集団が、神経系細胞集団である、実施形態1~55のいずれか1つに記載の方法。
57.実施形態1~56のいずれか1つに記載の方法によって取得される細胞集団。
58.ニューロンおよび/またはその前駆体の細胞集団であって、細胞集団の少なくとも50%が、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性であり、かつ/または細胞の50%未満が、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性である、細胞集団。
59.細胞集団の少なくとも50%が、PTPRO、ADGRG1、EPHB2、DCC、DLL3、DLL1、ADCYAP1、GPM6A、GAP43、C1QL1、NRXN1、LRRC4C、TNFRSF21、FZD1、FREM2、TRPM8、CACNA2D1、CLDN5、CHRNA5、およびGPR85から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陽性であり、SLIT2、NTN1、CMTM6、CMTM8、CMTM7、CRLF1、CD36、CD47、CD83、CD99、TNFRSF1A/CD120a、TNFRSF12a/CD266、TMEM123、LRP10、ITGB8、HLA-A、およびRAMP1から選択されるマーカーのうちの1つ以上に対して陰性である、実施形態58に記載の細胞集団。
60.細胞集団の少なくとも50%が、腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体、腹側脊髄ニューロンおよび/またはその前駆体、背側前脳ニューロンおよび/またはその前駆体、ならびに腹側前脳ニューロンおよび/またはその前駆体から選択される、実施形態58または59に記載の細胞集団。
61.細胞集団の80%超が、マーカーCD47に対して陰性である、実施形態58~60のいずれか1つに記載の細胞集団。
62.細胞集団の80%超が、マーカーCD99に対して陰性である、実施形態58~61のいずれか1つに記載の細胞集団。
63.細胞集団の80%超が、マーカーCD47およびCD99に対して陰性である、実施形態58~62のいずれか1つに記載の細胞集団。
64.細胞集団の少なくとも60%が、マーカーFOXA2に対して陽性である、実施形態58~63のいずれか1つに記載の細胞集団。
65.細胞集団の少なくとも50%が、腹側中脳ニューロンおよび/またはその前駆体である、実施形態58~64のいずれか1つに記載の細胞集団。
66.細胞集団の少なくとも80%が、マーカーASCL1およびINAのうちの一方または両方に対して陽性である、実施形態58~65のいずれか1つに記載の細胞集団。
67.細胞集団が、ニューロンに発達する傾向が増加している、実施形態58~66のいずれか1つに記載の細胞集団。
68.細胞集団の細胞が、インビトロ分化細胞である、実施形態58~67のいずれか1つに記載の細胞集団。
69.細胞集団が、インビトロである、実施形態58~68のいずれか1つに記載の細胞集団。
70.細胞集団の細胞が、非天然細胞である、実施形態58~69のいずれか1つに記載の細胞集団。
71.細胞集団の細胞が、hPSCに由来する、実施形態58~70のいずれか1つに記載の細胞集団。
72.細胞集団の細胞が、遺伝子改変されている、実施形態58~71のいずれか1つに記載の細胞集団。
73.遺伝子改変細胞が、HLA欠失である、実施形態72に記載の細胞集団。
74.細胞集団が、少なくとも1,000個の細胞を含む、実施形態58~73のいずれか1つに記載の細胞集団。
75.細胞集団が、ニューロンおよび/またはその前駆体が富化される、実施形態58~74のいずれか1つに記載の細胞集団。
76.細胞集団が、神経系細胞集団である、実施形態58~75のいずれか1つに記載の細胞集団。
77.実施形態1~56のいずれか1つに記載の方法によって取得される、実施形態58~76のいずれか1つに記載の細胞集団。
78.実施形態57~77のいずれか1つに記載の細胞集団を含む組成物。
79.医薬として使用するための、実施形態57~77のいずれか1つに記載の細胞集団または実施形態78に記載の組成物。
80.ニューロンおよび/またはその前駆体の投与を必要とする状態の予防または治療のための、実施形態79に記載の細胞集団または組成物。
81.パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷、ハンチントン病、認知症、てんかん、失明、アルツハイマー病、およびニューロンが失われるまたは機能不全となる他の神経学的状態から選択される神経学的状態の治療で使用するための、実施形態57~77のいずれか1つに記載の細胞集団または実施形態78に記載の組成物。
82.有効量の実施形態79に記載の細胞集団または組成物の患者への投与を含む、神経学的状態の治療または予防方法。
【実施例】
【0140】
以下は、本発明を実施するための非限定的な実施例である。
【0141】
実施例1:ヒト多能性幹細胞のニューロンへの分化
ヒト胚性幹細胞(hESC)株RC17(Roslin CT)および3053(Novo Nordisk A/S)を、ヒトラミニン-521マトリックス(0.7~1.2μg/cm2、Biolamina)でコーティングされた培養器具上で60U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン(P-S、Thermo Fisher Scientific)を補充したiPS Brew XF培地(Miltenyi Biotec)中で培養した。培地は毎日交換し、細胞は4~6日毎にEDTA 0.5mM(Thermo Fisher Scientific)で継代した。培養物を37℃、湿度95%、および5% CO2レベルで維持した。
【0142】
hESCを、確立されたプロトコル(Nolbrant et al.,2017、Kirkeby et al.,2017)に従って、腹側中脳ニューロンに分化させた。簡潔に述べると、hESCを70~90%のコンフルエンシーまで増殖させ、次いで0.5mMのEDTAで解離した。細胞を、ヒトラミニン-111(1.2μg/cm2、BioLamina)でコーティングした細胞培養フラスコまたはプレートに104個の細胞/cm2で播種し、直ちに分化培地と接触させた。細胞を、インビトロでの日数(DIV)0~8に、N2系培地;SMAD阻害剤SB431542(10μM、Miltenyi Biotec)、神経誘導のためのNoggin(100ng/mL、Miltenyi Biotec)、腹側運命のためSonic Hedgehog C24II(SHH、500ng/mL、Miltenyi Biotec)、尾状化を促進するためGSK3β阻害剤CHIR99021(CHIR、0.5~0.6μM、Miltenyi Biotec)を補充した、50% DMEM/F12+Glutamax(Gibco)、50% Neurobasal(Gibco)、1% N2サプリメントCTS(Thermo Fisher Scientific)、5% GlutaMAX(Thermo Fisher Scientific)、0.2% P-S(Thermo Fisher Scientific)に曝露した。N2系培地に、DIV9~11の線維芽細胞増殖因子8b(FGF8b、100ng/mL、Miltenyi Biotec)を補充した。DIV11に、細胞をアキュターゼ(Thermo Fisher Scientific)で解離し、10μMのY-27632(Miltenyi Biotec)を補充したDIV11~16培地(FGF8b(100ng/mL)、L-アスコルビン酸(AA、200μM、Sigma)、ヒト脳由来神経栄養因子(BDNF、20ng/mL、Miltenyi Biotec)を補充したNeurobasal、2% B27サプリメント、ビタミンAなしCTS(Thermo Fisher Scientific)、5% GlutaMAX、0.2% P-S)においてヒトラミニン-111(1.2μg/cm2)でコーティングした細胞培養フラスコまたはプレートに、0.8×106個の細胞/m2で播種した。インビトロ日数(DIV)16に、細胞をアキュターゼで解離し、BDNF(20ng/mL)、GDNF(20ng/mL)、L-アスコルビン酸(200μM)、dcAMP(500μM)、DAPT(10μM)、およびY-27632(10μM)を補充したB27培地中のポリ-L-オルニチン(0.002%)およびラミニン-521(1.5μg/cm2)でコーティングした細胞培養フラスコ/プレート中で凍結保存または再播種して、インビトロ培養を延長し、腹側中脳神経系幹細胞のニューロンへのさらなる分化および成熟を可能にした。
【0143】
参考資料:
●Nolbrant S,Heuer A,Parmar M,Kirkeby A.Generation of high-purity human ventral midbrain dopaminergic progenitors for in vitro maturation and intracerebral transplantation.Nat Protoc.2017 Sep;12(9):1962-1979.doi:10.1038/nprot.2017.078.Epub 2017 Aug 31.PMID:28858290.
●Kirkeby A,Nolbrant S,Tiklova K,Heuer A,Kee N,Cardoso T,Ottosson DR,Lelos MJ,Rifes P,Dunnett SB,Grealish S,Perlmann T,Parmar M.Predictive Markers Guide Differentiation to Improve Graft Outcome in Clinical Translation of hESC-Based Therapy for Parkinson’s Disease.Cell Stem Cell.2017 Jan 5;20(1):135-148.doi:10.1016/j.stem.2016.09.004.Epub 2016 Oct 27.PMID:28094017;PMCID:PMC5222722.
【0144】
実施例2:新規の選択候補および技術的方法を特定するためのscRNAシークエンシング実験設計
単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)を行うために、細胞培養物をアキュターゼで単一細胞懸濁液に解離し、3000~10000個の細胞を10X Genomics Chromium Platformを使用して処理し、NextSeq550でシークエンシングした。データをキュレートして、アポトーシスおよびストレス、ならびにマルチプレットを除去した。
【0145】
確立されたプロトコルに従って、ヒト多能性幹細胞(hPSC)を腹側中脳ドーパミンニューロンに分化させることは、細胞に、いくつかの基本的な細胞発達段階を移行させる。最初に、hPSCは、神経系幹細胞(NSC)(
図1A~B)に移行し、その後、中間前駆細胞(IP)(
図1C)に移行し、最終的に、最終分化細胞型(
図1D)に移行する。しかしながら、このプロセスは正確ではなく、NSC段階後、培養物はその均一性を失い、典型的には、様々な細胞型に分化し始め、混合細胞培養物を形成する(
図1C)。この混合培養組成物は、分化が完了し、細胞が最終的な運命を得るまで持続する(
図1D)。遺伝子の異なる発現の組み合わせ(典型的には、細胞運命指示転写因子タンパク質)が、これらの様々な細胞型を特定するために使用され、
図1A~Dに示される。
【0146】
単一細胞RNA-シークエンシング(scRNA-seq)分析を、分化に沿ったいくつかの時点で適用し、均一な培養物から不均一な混合培養物への移行の観察およびモニタリングを可能にした。分化に使用されるhPSCおよびそれが形成するNSCは、そのトランスクリプトームプロファイルによって見られるように、非常に均一である。hPSCは、高レベルでその多能性同一性のマーカーを発現し、分析されたhPSCの99.5%が、多能性マーカーPOU5F1および多能性/NSCマーカーSOX2を発現し、これらの遺伝子は、高レベルで発現される(
図2A、2B)。さらに、hPSCは、中間前駆体(IP)マーカーASCL1またはニューロンマーカーINAなどの、分化細胞の運命を示す最低レベルまたは低レベルの他の遺伝子を発現する(
図2A、2B)。同様に、NSCは、非常に均一であり、NSCマーカーSOX2を発現するが、多能性マーカーPOU5F1を発現せず、IPマーカーASCL1およびニューロンマーカーINAの最低かつ低い発現を有する(
図3A、3B)。
【0147】
NSC段階後に培養物に現れる不均一性は、転写レベルで明らかであり、DIV24のscRNA-seq分析の一例として示される(
図4A、4B)。この時点で、細胞集団は、様々な細胞型および段階のマーカー、例えば、20.4%のNSC(POU5F1-/SOX2+/ASCL1-/INA-細胞、
図4A)、ならびに48.2%の中間前駆細胞(POU5F1-/SOX2+または-/ASCL1+/INA+または-、
図4A)、および16.3%のニューロン(POU5F1-/SOX2-/ASCL1+または-/INA+または-、
図4A)を発現する。多能性幹細胞は、NSC、IP、およびニューロンへのその分化により、この段階では存在しない(POU5F1+/SOX2+/ASCL1-/INA-、
図4A、4B)。
【0148】
実施例3:混合培養段階のscRNAシークエンシング、ならびに細胞集団および精製候補の特定
scRNA-seq時間経過研究を、細胞が均一である時点(DIV16 NSC)から混合培養物(DIV26混合培養物、
図1E)に発達した時点まで、48時間毎に試料採取して行った。この枠(DIV16、18、22、24、26)内で48時間毎に試料採取することにより、異なる細胞段階および細胞型への細胞分化および多様化の軌道が観察され、これらの集団に限定される表面抗原で目的または非目的の集団を分離するのに役立ち得るマーカーについて検索されることを可能にするために、一連のデータが取得されたことを確実にした。
【0149】
DIV22~26の間の混合培養を特定し、これらのデータセットをアライメントして、サブタイプ限定表面抗原を検索した(
図5)。ここで、すべての細胞(単一のドットによって表される)は、t-SNEプロット(SOX2+、
図5)の下半分に主に存在していたNSCおよびオフターゲット、t-SNEプロットの中央に位置するIP(ASCL1+、
図5)、ならびにt-SNEプロットの上部に位置するニューロン(INA+、
図5)など、異なる細胞段階に対応する遺伝子を発現することがわかる。これらの培養物の不均一性をさらに示すと、胚の腹側中脳底板領域に対応するマーカー(LMX1A)は、すべての細胞で発現されず、かつt-SNEプロットの下部にある2つのクラスターにおいて選択的に不在であった(
図5、丸で囲まれている)。これらの異なる細胞型および段階に対応するクラスターを比較することによって、それらの発現がこれらの同一性に限定される遺伝子を特定することができた。
【0150】
実施例4:NSC、IP、およびニューロン単離のための候補遺伝子の発現プロファイル
ニューロンクラスターにおける最もスコアが高い差次的に発現された表面マーカー遺伝子は、ニューロンマーカーINAと類似したt-SNEプロット全体にわたる分布を有することが確認され(
図6~7)、これらの遺伝子は、混合培養物からのニューロンの単離に適しているとみなされる。これには、遺伝子ADGRG1、EPFHB2、GAP43、ADCYAP1、C1QL1、およびNRXN1(
図6)、ならびにFZD1、CACNA2D1、DCC、GPR85、およびLRRC4Cが含まれる。
【0151】
IP細胞クラスターにおける最もスコアが高い差次的に発現された表面マーカー遺伝子は、ドーパミンニューロン系統ASCL1のIP細胞マーカーと類似したt-SNEプロット全体にわたる分布を有することが確認され(
図8)、これらの遺伝子は、混合培養物からのニューロンの単離に適しているとみなされる。これには、遺伝子TNFRSF21、TRPM8、FREM2、DLL3、DLL1、CHRNA5、およびCLDN5が含まれる。
【0152】
NSC/オフターゲットクラスターにおける最もスコアが高い差次的に発現された表面マーカー遺伝子は、NSC/オフターゲットマーカーSOX2と類似したt-SNEプロット全体にわたる分布を有することが確認され(
図9~11)、これらの遺伝子は、混合培養物からのNSC/オフターゲット細胞の単離に適しているとみなされる。これには、遺伝子SLIT2、NTN1、CMTM7、CMTM8、CD36、CD47、CD99、TNFRSF1A、TMEM123、LRP10、HLA-A、RAMP1、CMTM6、TNFRSF12A、CRLF1、ITGB8、およびCD83が含まれる。
【0153】
実施例5:CD47およびCD99に対する抗体を使用した中脳神経系細胞の蛍光活性化セルソーティング(FACS)
腹側中脳ドーパミン作動性(vmDA)前駆細胞を、実施例1に記載されるように、2Dインビトロ培養物においてhESCから生成した。分化開始の25日後、細胞培養物を、アキュターゼを使用して単一細胞懸濁液に解離し、N2培地(1%CTS(商標)N-2サプリメントを補充したCTS(商標)Neurobasal(商標)培地)中に収集した。死細胞を、LIVE/DEAD(商標)Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kitを使用して標識した。次いで、細胞を、B27培地(1% B-27(商標)サプリメント、ビタミンAなし、2mMのGlutaMAX(商標)、60U/mLのペニシリン-ストレプトマイシン、10μMのROCK阻害剤を補充したCTS(商標)Neurobasal(商標)培地)中に再懸濁し、1:2500の濃度でCD47に対するAPCコンジュゲート抗体を使用して染色した。CD47陽性細胞および陰性細胞を、BD FACSAria(商標)Fusion機器を使用した蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって精製した(
図12)。全生細胞集団をソーティングすることによって、「パススルー」対照試料を取得した(
図12C)。FACS後、純度が、CD47陽性細胞画分および陰性細胞画分について、それぞれ87%超および91%超であることを確認した(
図13)。FACSの直後に、ソーティングされた細胞を、BDNF(20ng/mL)、GDNF(20ng/mL)、L-アスコルビン酸(200μM)、dcAMP(500μM)、DAPT(10μM)、およびY-27632(10μM)を補充したB27培地中のポリ-L-オルニチン(0.002%)およびラミニン-521(1.5μg/cm
2)でコーティングした96ウェルプレート中で、450,000個の細胞/cm
2の密度で再播種した。24時間後(
図19)および5日後(
図20)に得られた位相コントラスト画像は、ソーティングされた細胞の高い生存率、およびCD47陽性細胞と陰性細胞との間の形態の明らかな差を示した。CD47陽性細胞は、突起がほとんどまたは全くない、大きく、低コントラストの細胞体を有すると見られる一方で(
図19A~Ai、20A~Ai)、CD47陰性細胞は、明確に画定された突起を有する、小さく、高コントラストの円形/楕円形細胞体を特徴とする典型的なニューロン形態を示し、これらは、5日間の培養期間にわたって数および長さが増加することがわかる(
図19B~Bi、20B~Bi)。予想通り、「パススルー」対照試料は、これら2つの別個の形態を有する細胞の混合物を含有する(
図19C~Ci、20C~Ci)。さらに、セルソーティングの直後に、ソーティングされた細胞の試料を、BD転写因子緩衝液セットを使用した細胞内フローサイトメトリーのために処理し、SOX2(1:30)、Ki-67(1:100)、およびFOXA2(1:320)に対する抗体で染色し、BD FACSymphony(商標)フローサイトメーターを使用して記録し、FlowJo 10.7.2ソフトウェアを使用して分析した。最初に、ソーティングされた試料の純度が、91%超であることを確認した(
図14、18)。CD47陽性のソーティングされた画分が、神経系幹細胞マーカーSOX2(71.1%、
図15A、18)ならびに増殖マーカーKi-67(26.3%、
図16A、18)を発現する細胞について富化されることがわかった一方で、CD47陰性のソーティングされた画分は、SOX2(16.2%、
図15B、18)およびKi-67(2.67%、
図16B、18)の両方の顕著により低いレベルを示し、それぞれ77.2%および89.8%のSOX2およびKi67を発現する細胞の割合の差に対応する。これらの結果は、CD47抗体ベースの選択が、発達している底板のマーカーであるFOXA2を発現する細胞の割合によってわかるように、ニューロンの富化、ならびに目的の系統の枯渇なしの増殖性神経系幹細胞およびその誘導体の枯渇に使用され得るという仮説を裏付ける(
図17、18)。これらの結果は、インビトロで再播種された細胞の免疫蛍光(IF)染色によって裏付けられた。ソーティングの5日後、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、Ki-67(1:250)、FOXA2(1:100)、およびチロシンヒドロキシラーゼ(TH、1:500)に対する一次抗体で染色し、続いて、蛍光標識された二次抗体で染色した。CellSensソフトウェアを使用して、Olympus IX81顕微鏡で画像を得た。IF染色は、CD47陰性細胞の富化が、FOXA2およびドーパミンニューロン特異的マーカーTH(
図22、23)によってわかるように、目的の細胞を枯渇させることなく、Ki67+増殖性細胞(
図21、
図35)およびSOX2+細胞(
図36)の数を低減することを示すフローサイトメトリーの結果を確認した。
【0154】
類似の実験では、25日目のvmDA培養物を単一細胞懸濁液に解離し、1:500の濃度のCD99に対するPEコンジュゲート抗体を使用して染色した。CD99陽性細胞および陰性細胞を、BD FACSAria(商標)Fusion機器を使用した蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって精製した(
図24)。全生細胞集団をソーティングすることによって、「パススルー」対照試料を取得した(
図24C)。FACS後、純度が、CD99陽性細胞画分および陰性細胞画分について、それぞれ79%および100%であることを確認し(
図25)、すべてのソーティングされた画分で高い生存率(85%超)が観察された(
図26)。ソーティングされた細胞を、BDNF(20ng/mL)、GDNF(20ng/mL)、L-アスコルビン酸(200μM)、dcAMP(500μM)、DAPT(10μM)、およびY-27632(10μM)を補充したB27培地中のポリ-L-オルニチン(0.002%)およびラミニン-521(1.5μg/cm
2)でコーティングした96ウェルプレート中で、450,000個の細胞/cm
2の密度で再播種した。24時間後(
図27)、48時間後(
図28)、および5日後(
図29)に得られた位相コントラスト画像は、ソーティングされた細胞の良好な回収、およびCD99陽性細胞と陰性細胞との間の形態の明らかな差を示し、CD99陰性画分は、大きく、低コントラストの細胞体、および突起がほとんどまたは全くないことを特徴とする非ニューロン細胞を含有することが見出された(
図27A~Ai、28A~Ai、29A~Ai)。これらの非ニューロン細胞は、CD99陰性のソーティングされた画分において不在であり、その代わりに細胞は、明確に画定された突起を有する小さく、高コントラストの円形/楕円形の細胞体を特徴とする典型的なニューロン形態を示し、これらは、5日間の培養期間にわたって数および長さが増加することがわかる(
図27B~Bi、28B~Bi、29B~Bi)。予想通り、「パススルー」対照試料は、これら2つの別個の形態を有する細胞の混合物を含有する(
図27C~Ci、28C~Ci)。
【0155】
ソーティングの48時間後および12日後、細胞を、Ki-67、FOXA2、およびTHに対する抗体を用いてIFによって定性的に評価した。IF染色は、CD99陰性のソーティングされた画分が、CD99陽性および「パススルー」対照細胞と比較して、Ki-67を発現する細胞の低減された数を含有したが(
図30、31)、ドーパミンニューロン系統特異的マーカーFOXA2およびTHを発現する大量の細胞をなおも示している(
図32、33)ことを示した。まとめると、これらの結果は、CD99抗体ベースの選択がニューロンの富化、ならびに増殖性神経系幹細胞およびその非ニューロン誘導体の枯渇に使用され得るという仮説を裏付ける。
【0156】
CD47陰性細胞またはCD99陰性細胞のFACS富化は、ニューロン細胞の富化、および増殖性NSC/非ニューロン細胞型の数の実質的な低減を可能にしたが、CD47もCD99も単独では、これらの望ましくない増殖性細胞型の完全な枯渇を可能にしなかった。興味深いことに、インビトロ日数(DIV)25 vmDA培養物のフローサイトメトリー分析により、細胞の大部分(34.5%)が、この段階でCD47およびCD99の両方を発現したが(
図34 Q2)、CD47(8.28%、
図34 Q3)またはCD99(6.42%、
図34 Q1)のみを発現する細胞集団も存在したことが明らかになり、富化のためのこれらのマーカーの組み合わせが、それ自体で使用される場合よりもさらに純粋なニューロン集団をもたらすことを示唆している。一実験では、25日目のvmDA培養物を単一細胞懸濁液に解離し、CD47に対する抗体を単独で、またはCD99に対する抗体と組み合わせて用いて染色し、陽性(CD47+)および陰性(CD47-)または二重陽性(CD47+CD99+)および二重陰性(CD47-CD99-)細胞集団をそれぞれ、FACSによって精製し、前述のように細胞内フローサイトメトリーによって分析した。第一に、単離された画分中のCD47および/またはCD99を発現する細胞の割合を決定した。ソーティングされていない対照試料は、細胞の約60%においてCD47およびCD99の発現を示した(
図37、38)。予想通り、CD47を発現する細胞の割合は、CD47+試料およびCD47+CD99+試料で増加し(94%超、
図37)、CD47-試料およびCD47-CD99-試料でほぼ完全に枯渇し(2.5%未満、
図37)、集団の分離の成功を確認した。同様に、CD99を発現する細胞の割合は、CD47+試料およびCD47+CD99+試料の両方において増加し(83%超、
図38)、CD47-試料およびCD47-CD99-試料でほぼ完全に枯渇し(3.5%未満、
図38)、CD47抗体ベースのFACSによるCD47-細胞の富化が、CD99+細胞の枯渇をもたらすことを示している。CD47-画分およびCD47-CD99-画分の両方が、SOX2(
図39)およびKi67(
図40)を発現する細胞の割合の著しい低減、ならびにINA(
図41)によってマーク付けされるニューロンのレベルの増加を示す。
【表1】
【0157】
実施例6:CD47に対する磁気ソーティング抗体を使用した中脳神経系細胞の磁気活性化セルソーティング(MACS)
腹側中脳ドーパミン作動性(vmDA)前駆細胞を、実施例1に記載されるように、2Dインビトロ培養物においてhESCから生成した。分化開始の24日後、細胞培養物を、アキュターゼを使用して単一細胞懸濁液に解離し、B27培地(ビタミンAなしの1% B-27(商標)サプリメント、2mMのGlutaMAX(商標)、60U/mLペニシリン-ストレプトマイシン、10μMのROCK阻害剤を補充したCTS(商標)Neurobasal(商標)培地)中に収集した。次いで、細胞を、0.5% BSAを含むハンクス平衡塩溶液中に再懸濁し、1:50の濃度のCD47に対するAPCコンジュゲート抗体を使用して染色し、その後、抗APCマイクロビーズで標識した。CD47陽性細胞および陰性細胞を、LS MACSカラムを使用した磁気活性化セルソーティング(MACS)によって精製した。標識されていない細胞を含有する通過した画分を収集した。磁気的に保持された細胞を溶出し、陽性に選択された画分として収集した。MACS後、CD47陰性細胞画分および陽性細胞画分の両方について、生存率が90%超であることを確認した。MACSの直後に、ソーティングされた細胞を、BDNF(20ng/mL)、GDNF(20ng/mL)、L-アスコルビン酸(200μM)、dcAMP(500μM)、DAPT(10μM)、およびY-27632(10μM)を補充したB27培地中のポリ-L-オルニチン(0.002%)およびラミニン-521(1.5μg/cm
2)でコーティングした96ウェルプレート中で、200,000個の細胞/cm
2の密度で再播種した。ソーティングされていない細胞を対照として使用した。48時間後に得られた位相コントラスト画像(
図42)は、ソーティングされた細胞の高い生存率、およびソーティングされていない細胞とCD47陰性細胞との間の形態の明らかな差を示した。CD47陰性細胞が、明確に画定された突起を有する小さく、高コントラストの円形/楕円形の細胞体を特徴とする典型的なニューロン形態を示した一方で(
図42A)、ソーティングされていない細胞は、ニューロン細胞、および突起がほとんどまたは全くない、大きく、低コントラストの細胞体を有する細胞との混合物を有すると見られる(
図42B)。さらに、セルソーティングの直後に、ソーティングされた細胞の試料を、BD転写因子緩衝液セットを使用した細胞内フローサイトメトリーのために処理し、SOX2(1:130)、Ki-67(1:2500)、FOXA2(1:320)、LMX1A(1:2500)、ASCL1(1:2500)、およびINA(1:3000)に対する抗体で染色し、CytoFLEX(商標)フローサイトメーターを使用して記録し、FlowJo 10.7.2ソフトウェアを使用して分析した。最初に、ソーティングされた試料の純度が、68%超であることを確認した(
図43)。CD47陰性画分が、より低いレベルの神経系幹細胞マーカーSOX2(52.7%、
図44)ならびに増殖マーカーKi-67(7.9%、
図44)を発現することがわかった一方で、ソーティングされていない対照は、SOX2(78.6%、
図44)およびKi-67(23.1%、
図44)の両方のより高いレベルを示し、それぞれ33%および65.8%のSOX2およびKi67を発現する細胞の割合の差に対応する。さらに、CD47陰性画分は、ソーティングされていない対照と比較して、発達している底板のマーカーであるFOXA2を発現する細胞の同等の数を維持することがわかった(76%、
図44)。CD47陰性画分がまた、早期腹側中脳マーカーLMX1A(78%、
図44)、中間前駆体マーカーASCL1(51.2%、
図44)、およびニューロンマーカーINA(59.8%、
図44)を発現する細胞が富化されていることがわかった一方で、ソーティングされていない対照は、3つすべてのマーカーのより低いレベルを示し(LMX1A 61%、ASCL1 28,8%、INA 23.3%、
図44)、それぞれ21.8%、43.8%、および61%のLMX1A、ASCL1、およびINAを発現する細胞の割合の差に対応する。これらの結果は、CD47抗体ベースの選択が、ニューロンの富化、ならびに増殖性神経系幹細胞およびその誘導体の枯渇に使用され得ることを示す。これらの結果は、インビトロで再播種された細胞の免疫蛍光(IF)染色によって裏付けられた。ソーティングの10日後、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、ドーパミン作動性ニューロンマーカーチロシンヒドロキシラーゼ(TH、1:500)に対する一次抗体で染色し、続いて、蛍光標識された二次抗体で染色した。ZEN 3.2 Proソフトウェアを使用して、Zeiss Axio Observer顕微鏡で画像を得た。IF染色は、CD47陰性細胞の富化が、ドーパミン作動性ニューロンが富化された細胞集団をもたらすことを確認した(
図53)。
【表2】
【0158】
実施例7:ヒト多能性幹細胞の前脳神経系細胞への分化、ならびにこれらの細胞におけるCD47およびCD99発現の測定
hESCを、確立されたプロトコル(Shi et al.,2012(a)、Shi et al.,2012(b))に従って分化させた。hESCを播種し、ラミニン-521(1.2μg/cm
2、BioLamina)でコーティングした培養器具で培養し、95~100%コンフルエントな単層を形成すると、分化培地に曝露した。DIV0-10から、細胞を、N2/B27系培地:神経誘導のためのBMP経路阻害剤LDN-193189(100nM、Miltenyi Biotec)、およびNoggin(100ng/mL、Miltenyi Biotec)を補充した、50% DMEM/F12+Glutamax(Gibco)50% Neurobasal(Gibco)、2% B27サプリメント、ビタミンAありCTS(Thermo Fisher)、1% N2サプリメントCTS(Thermo Fisher)、5% GlutaMAX(Thermo Fisher)、0.2%ペニシリンストレプトマイシン(P/S、Thermo Fisher)、1% NEAA(Gibco)、0,089% β-メルカプトエタノール(Gibco)で培養した。DIV11に、細胞を、0.5mMのEDTAで解離し、1:2比率で継代した。N2/B27系培地を、DIV11~18の線維芽細胞増殖因子b(20ng/mL、R&D)で補充した。DIV18で、細胞を、0.5mMのEDTAで解離し、凍結保存または1:2比率で継代した。DIV20以降、細胞を、サプリメントなしでN2/B27ベースの培地中で培養し、DIV32に継代した。DIV35に、前脳神経系細胞を、アキュターゼを使用して単一細胞懸濁液に解離し、CD47およびCD99に対するフルオロフォアコンジュゲート抗体で染色し、実施例5に記載されるようにフローサイトメトリーによって分析した。分化のこの段階では、細胞のおよそ50%が、神経系幹細胞マーカーSOX2を発現した一方で(
図46)、およそ20%が、増殖マーカーKi67を発現し(
図46A)、これらの細胞が依然として有糸分裂の神経系幹細胞であることを示し、およそ60%が、ニューロンマーカーINAを発現し(
図46B)、これらが分化しているか、またはニューロンに分化する過程にあることを示している。分析は、細胞の63%がCD99を発現し(
図45A)、78%がCD47を発現した(
図45B)ことを示した。さらに、CD99およびCD47を発現する細胞の大部分が、SOX2(
図47)およびKi67(
図48)の両方を共発現したことがわかった。これらの結果は、FACSまたはMACSによって、CD99およびCD47が、前脳ニューロンの富化および増殖性細胞の枯渇のための抗体標的として使用され得るという仮説を強く裏付ける。
【0159】
参考資料:
●Shi Y,Kirwan P,Livesey FJ.Directed differentiation of human pluripotent stem cells to cerebral cortex neurons and neural networks.Nat Protoc.2012 Oct;7(10):1836-46.doi:10.1038/nprot.2012.116.Epub 2012 Sep 13.PMID:22976355.(a)
●Shi Y,Kirwan P,Smith J,Robinson HP,Livesey FJ.Human cerebral cortex development from pluripotent stem cells to functional excitatory synapses.Nat Neurosci.2012 Feb 5;15(3):477-86,S1.doi:10.1038/nn.3041.PMID:22306606;PMCID:PMC3882590.(b)
【0160】
実施例8:ヒト多能性幹細胞の後脳/脊髄神経系細胞への分化、ならびにこれらの細胞におけるCD47およびCD99発現の測定
80~90%コンフルエンスでの未分化hESCを、室温で5~7分間、EDTA 0.5mM(Thermo Fisher)を用いて解離して、再播種のためにフラスコから分離した。hESCの凝集体を、ラミニン-521(1.2μg/cm
2)で予めコーティングされた24ウェルプレートまたはT25フラスコ(Sarstedt)上に播種し、均等に分配した。最初の24時間、細胞をiPS Brew XF(Miltenyi Biotec)中で維持し、10μMのY27632(ROCKi、Miltenyi Biotec)を補充して、細胞生存を促進した。培地を24時間毎に交換し、細胞を90~100%コンフルエンスまで増殖させ、この時点で分化が開始された。分化の最初の6日間、細胞を、神経誘導のためのBMP経路阻害剤LDN-193189(100nM、Miltenyi Biotec)およびNoggin(100ng/mL、Miltenyi Biotec)を補充した、45% Neurobasal(Gibco)、45% DMEM/F12+GlutaMAX(Gibco)、5% B27サプリメント(Thermo Fisher)、1% N2サプリメント(Thermo Fisher)、1% MEM非必須アミノ酸(NEAA、Gibco)、0,5% GlutaMAX(Gibco)、0.2%ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S、Thermo Fisher)から成る汎ニューロン基本培地中で維持した。尾状化のために3μMのCHIR99021(CHIR、Miltenyi Biotec)を添加し、培地を毎日交換した。6日目に、細胞を、アキュターゼを使用して解離し、1:6の比率で継代した。DIV6~12に、細胞を、BMP経路阻害剤LDN-193189(100nM、Miltenyi Biotec)およびNoggin(100ng/mL、Miltenyi Biotec)、ならびに1μMのCHIR、100nMのプルモルファミン(PM、Tocris)、および500nMのレチノイン酸(RA、Sigma)を補充した汎ニューロン基本培地中で増殖させた。12日目~18日目に、細胞を、100nMのPMおよび500nMのRAを補充した汎ニューロン基本培地(ビタミンAなし)中で増殖させた。DIV15に、細胞を、アキュターゼを使用して解離し、1:6の比率で継代した。DIV18以降、成熟、およびニューロン形成の促進のために、汎ニューロン基本培地(-VitA)中で培養物を維持した。培地を毎日交換し、培地交換の前に細胞をDPBS-/-で洗浄して、細胞死を除去した。DIV24に、後脳/脊髄神経系細胞を、アキュターゼを使用して単一細胞懸濁液に解離し、CD47およびCD99に対するフルオロフォアコンジュゲート抗体で染色し、実施例5に記載されるようにフローサイトメトリーによって分析した。分化のこの段階では、細胞のおよそ37%が、神経系幹細胞マーカーSOX2を発現した一方で(
図50)、およそ15%が、増殖マーカーKi67を発現し(
図50A)、これらの細胞が依然として有糸分裂の神経系幹細胞であることを示し、およそ60%が、ニューロンマーカーINAを発現し(
図50B)、これらが分化しているか、またはニューロンに分化する過程にあることを示している。分析は、細胞の39%がCD99を発現し(
図49A)、92%がCD47を発現した(
図49B)ことを示した。さらに、CD99およびCD47を発現する細胞の大部分が、SOX2(
図51)およびKi67(
図52)の両方を共発現したことがわかった。これらの結果は、FACSまたはMACSによって、CD99およびCD47が、後脳/脊髄ニューロンの富化および増殖性細胞の枯渇のための抗体標的として使用され得るという仮説を強く裏付ける。
【0161】
実施例9:富化または枯渇のマーカーを特定するためのRNAシークエンシング方法および実験設計
所望の細胞集団(すなわち、ASCL1によってマーク付けされる腹側中脳中間前駆体/神経芽細胞)および望ましくない集団(すなわち、非腹側中脳底板同一性細胞、非ニューロン前駆体、非神経系細胞型)に固有であるか、または上方制御された遺伝子を、偏りのない様式で特定する目的で、不均一なhPSC由来の腹側中脳細胞培養物のトランスクリプトームシグネチャを調査するために、hPSC由来の腹側中脳神経系細胞のインビトロ時系列を、単一細胞RNAシークエンシングを用いて試料採取した(
図1および実施例2)。
【0162】
所望の集団および望ましくない集団(または単一細胞RNAシークエンシングおよびトランスクリプトミクスの分野で説明されるクラスター)を、公知の遺伝子の遺伝子発現プロファイルに基づいて、シークエンシングデータセット(すなわち、
図5に示されるtSNEプロット)において特定した。これらのクラスター間の比較を行って、所望の集団または望ましくない集団の新規の遺伝子/マーカーを特定した。
【0163】
単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq)を行うために、未分化PSCの細胞クラスターならびに分化細胞の細胞クラスターを、アキュターゼ、Tryple Select、または他のそのような試薬で単一細胞懸濁液に解離し、3000~10000個の細胞を10X Genomics Chromium Platformを使用して処理し、NextSeq550でシークエンシングした。データを、10X CellrangerおよびSeurat分析パッケージを使用して、Rプログラム言語で処理した。試料を分析し、低品質細胞またはマルチプレット細胞についてフィルタリングし、各個別の実験について別個に分析した後、選択した選択された分化細胞系統ならびにhPSCの細胞を1つのデータセットに組み合わせ、次いでこれを、Seuratバージョン3について概説されるような標準的なSeuratワークフローを使用して、すなわち、SCTransformを使用した正規化、および最終的に、統合tSNEプロットの最初の29個の主要成分(
図5に示されるものなど)を使用して分析した。
【0164】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例証および記載されているが、ここで、多くの修正、代用、変更、および均等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が本発明の真の趣旨の範囲内に含まれるすべての修正および変更を包含するよう意図されていることを理解されたい。
【国際調査報告】