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特表2024-5238596xxx合金製帯材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(54)【発明の名称】6xxx合金製帯材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20240625BHJP
   C22F 1/043 20060101ALI20240625BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C22C21/02
C22F1/043
C22F1/00 681
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692B
C22F1/00 692A
C22F1/00 694B
C22F1/00 602
C22F1/00 683
C22F1/00 686A
C22F1/00 685
C22F1/00 631Z
C22F1/00 630M
C22F1/00 623
C22F1/00 613
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 694A
C22F1/00 682
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023576336
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 FR2022051177
(87)【国際公開番号】W WO2022263782
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2106457
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ,サビーヌ
(72)【発明者】
【氏名】コッシェル,ディアナ
(57)【要約】
本発明は、6xxxシリーズのアルミニウム合金製帯材およびその製造方法の分野に関する。これらの帯材は、耐食性と成形性の間の妥協点を考慮すると、自動車用の車体部品の製作のために極めて有用である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、
1.2~1.5のSi、
0.25以下のFe、
0.05以下のCu、
0.15以下のMn、
0.20~0.45のMg、
0.002~0.09のCr、
0.15以下のNi、
0.15以下のZn、
0.15以下のTi、
0.15以下のZr、
最大で各0.05%、全体で最大0.15%の不可避的元素および不純物、
残りはアルミニウム、
という組成のアルミニウム合金製帯材。
【請求項2】
Siが、1.25~1.45、好ましくは1.25~1.40であることを特徴とする、請求項1に記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項3】
Feが、0.10~0.20、または0.10~0.15または0.15~0.20であることを特徴とする、請求項1または2に記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項4】
Mnが、0.05~0.10であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項5】
Mgが、0.39%以下、より好ましくは0.35%以下、より好ましくは0.34%以下、より好ましくは0.33%以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項6】
Cuが最大0.03、またはCuが0.01~0.04またはCuが0.02~0.04であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項7】
Tiが、0.10以下、または0.06以下、または0.02~0.08であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項8】
Crが0.005~0.03またはCrが0.01~0.05であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項9】
Niが0.002~0.01またはNiが0.005~0.02であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項10】
Mg含有量との関係におけるSi含有量の過剰が、少なくとも0.95重量%、好ましくは少なくとも1.00重量%であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項11】
質別T4における厚み0.7~1.0mmの帯材が、少なくとも26.0mmの最小LDHを有すること、または質別T4における本発明に係る厚み1.1~1.5mmの帯材が、少なくとも26.5mmの最小LDHを有することを特徴とする、請求項1から10のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項12】
未研磨ゾーンにおけるEN 3665に準じて特徴付けされた糸状腐食フィラメントの平均長さが、帯材が圧延の横断方向で2%予備変形させられその後塗装され、その後20分間180℃で塗装焼付した後、2mm未満、好適には1mm未満であること、または、未研磨ゾーンにおけるEN 3665に準じて特徴付けされた糸状腐食フィラメントの平均長さが、帯材が圧延の横断方向で2%予備変形させられその後塗装され、その後20分間180℃で塗装焼付した後、1mm未満、好適には0.8mm未満であることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材。
【請求項13】
a. 好適には竪型半連続鋳造により、スラブを鋳造するステップと、
b. 好適には500℃~600℃、より好適には540~580℃の温度で、好適には1時間~12時間スラブを均質化するステップであって、任意には最大4時間の持続時間の420℃~550℃の第2段階を含むステップと、
c. 好適には150℃/時超の冷却速度で350℃~550℃の熱間圧延開始温度までスラブを冷却するステップ、または、周囲温度までスラブを冷却し、その後前記熱間圧延開始温度までスラブを再加熱するステップと、
d. 250℃~450℃の熱間圧延終了温度で、スラブから帯材へと熱間圧延するステップと、
e. 任意には中間焼鈍により分離された2つの部分に分けて、帯材を冷間圧延するステップであって、前記焼鈍が好適にはコイルに巻取られた帯材において実施されるステップと、
f. 好適には10~60秒間、好適には500℃~600℃で、帯材を溶体化処理し、その後焼入れするステップと、
g. 50~100℃での帯材のコイリングとそれに続く周囲温度までの冷却により、一定の温度で帯材を予備時効するステップと、
h. 72時間~6ヵ月、周囲温度で帯材を自然時効するステップと、
を含む、請求項1から12のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材の製造方法。
【請求項14】
a. 請求項1から12のいずれか一つに記載のアルミニウム合金製帯材の供給、
b. プレス加工、
c. 塗装、
d. 120~200℃の温度で15~60分間の塗装焼成、
によって得られる車体部品において、
EN 3665規格に準じた腐食試験の終了後の、研磨されたゾーン内での糸状腐食フィラメントの平均長さが、2mm未満、好適には1mm未満であること、または未研磨ゾーン内においては糸状腐食フィラメントの平均長さが、1mm未満、好適には0.8mm未満であることを特徴とする車体部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のホワイトボディの車体部品をプレス加工により製造するためのアルミニウム合金製帯材の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の重量を削減しそれによって、燃料消費量および温室効果ガスの排出を減少させるために、アルミニウム合金は、自動車の構造においてますます利用されている。
【0003】
アルミニウム合金製帯材は特に、「ホワイトボディ」の多くの部品の製造のために使用され、これらの部品としては、車体の外皮部品(または車体外部パネル)、例えばフロントフェンダ、屋根またはルーフ、ボンネット外皮、トランク外皮またはドア外皮が挙げられる。
【0004】
多くの部品がすでにアルミニウム合金帯材で製造されているが、アルミニウム合金の成形性は鋼に比べて低いことから、鋼からアルミニウムへの置換えは、依然として難しいものである。
【0005】
実際、このタイプの利用分野には、以下のような時として対立する一連の特性が求められる:
- 詳細にはプレス加工作業のための、帯材の納入時の質別、質別T4における高い成形性、
- 成形の際のスプリングバックを制御するための、帯材の納入時の質別、質別T4における制御された降伏応力、
- スポット溶接、レーザ溶接、接着、クリンチングまたはリベット締めなどの自動車車体で利用されるさまざまな組立てプロセスにおける良好な挙動、
- 部品の重量を最小限に抑えながら使用中の優れた機械強度を得るための、電気泳動および塗装焼付後の十分な機械強度、
- 完成品の腐食、特に糸状腐食に対する優れた耐性、
- 製造廃棄物またはリサイクル車両の再生利用要件との適合性、
- 大量生産のために許容可能なコスト。
【0006】
国際公開第2013/037919号は、AlMgSi合金製の帯材の製造方法において、AlMgSi合金から圧延スラブを鋳造し、前記圧延スラブを均質化に付し、圧延スラブを圧延温度にして、それを熱間圧延し、次に任意には最終厚みに達するまで冷間圧延することからなる方法を開示している。非常に優れた変形特性を有するAlMgSiアルミニウム帯材の製造プロセスを信頼性の高いものにすることを可能にするAlMgSi合金製のアルミニウム帯材の改良型製造方法を提供するという目的は、熱間圧延の最終パスから出てくる際の温度が130℃超、好ましくは135℃と最大250℃の間に含まれ、好ましくは230℃を超えないものである高温帯材を製作し、その後、前記高温帯材をこの温度で巻取ることによって、達成される。
【0007】
特開平11-172390号公報は、重量で、0.2~2.0%のMg、0.3~3.0%のSi、0.8%以下のCu、0.01~0.4%のMn、0.01~0.4%のCr、0.01~0.4%のZr、0.01~0.4%のV、0.03~0.5%のFe、0.005~0.2%のTiおよび0.01~3.0%のZnの中から選択された単数または複数のタイプ、および残部がAlと不可避的不純物からなる組成を有する合金を開示している。合金は圧延され、結果として得られた合金板材は、480℃以上で5分以内の溶体化熱処理に付される。その後、150℃/分の平均冷却速度で、50~150℃まで冷却する第1段階の冷却がシートに対し適用される。冷却の終了直後に、不等式-1<log(R)<(0.0178T-1.289)にしたがって35℃まで冷却する第2段階の冷却が行なわれ、式中、Rは第2段階の冷却における平均冷却速度(℃/時)であり、Tは、第1段階の冷却の℃での終了温度である。
【0008】
特開平10-060567号公報は、重量で、0.35~1.6%のMgおよび0.35~1.6%のSi(ここでSi/Mg≧0.65)を含み、さらに0.8%以下のCu、0.1%以下のTi、0.3%以下のFe、0.3%以下のCr、0.8%以下のMnおよび0.15%以下のZrの中から少なくとも1種類以上を含有し、残部がAlと不可避的不純物(それぞれ0.05%以下)である組成のアルミニウム合金を開示している。その後、結晶粒界におけるSiの析出物のサイズは、1.0μm以下に調節され、折出物の間隔は、5μm以上に調節され、その導電率は、40~45%に調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2013/037919号
【特許文献2】特開平11-172390号公報
【特許文献3】特開平10-060567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、求められている全ての特性の間、詳細には成形性と耐食性の間の卓越した妥協点を得ることを目的とする。帯材の成形性は、自然時効後の質別T4で評価され、自然時効は、帯材の焼入れとその部品の形へのプレス加工との間の輸送および保管の時間的長さに対応する。腐食は、完成部品、したがって帯材のプレス加工、塗装および塗装焼付の後の部品について評価される。塗装焼付は、自動車における部品の使用に必要な特性を得るためのプレス加工された帯材の時効による硬化も同時に可能とすることから、「bake hardening(焼付け硬化)」としても当業者に知られている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、重量%で:
Si:1.2~1.5、
Fe:≦0.25、
Cu:≦0.05、
Mn:≦0.15、
Mg:0.20~0.45、
Cr:0.002~0.09、
Ni:≦0.15、
Zn:≦0.15、
Ti:≦0.15、
Zr:≦0.15、
最大で各0.05%、全体で最大0.15%の不可避的元素および不純物、残りはアルミニウム、
という組成のアルミニウム合金製帯材にある。
【0012】
本発明の別の目的は、本発明に係るアルミニウム合金製帯材の製造方法において:
a. 本発明による合金製のスラブを、好適には竪型半連続鋳造により鋳造するステップと、
b. 好適には500℃~600℃、より好適には540~580℃の温度で、好適には1時間~12時間スラブを均質化するステップであって、任意には最大4時間の持続時間の420℃~550℃の第2段階が後続するステップと、
c. 好適には150℃/時超の冷却速度で350℃~550℃の熱間圧延開始温度までスラブを冷却するステップ、または、周囲温度にスラブを冷却し、その後、前記熱間圧延開始温度の温度にスラブを再加熱するステップと、
d. 250℃~450℃の熱間圧延終了温度で、スラブから帯材へと熱間圧延するステップと、
e. 任意には中間焼鈍により分離された2つの部分に分けて好適にはコイル状で、帯材を冷間圧延するステップと、
f. 好適には10~60秒間、好適には500℃~600℃で、帯材を溶体化処理し、その後焼入れするステップと、
g. 50~100℃での帯材のコイリングとそれに続く周囲温度までの冷却により、一定の温度で帯材を予備時効するステップと、
h. 72時間~6ヵ月、周囲温度で帯材を自然時効するステップと、
を含む方法にある。
【0013】
本発明の別の目的は、
a. 本発明に係るアルミニウム合金製帯材の供給、
b. プレス加工、
c. 塗装、
d. 120~200℃の温度で15~60分間の塗装焼付、
によって得られる車体部品において、
EN 3665に準じた腐食試験の終了後の、研磨されたゾーン内での糸状腐食フィラメントの平均長さが、2mm未満、好適には1mm未満であること、または糸状腐食フィラメントの平均長さが、未研磨ゾーン内においては1mm未満、好適には0.8mm未満であることを特徴とする車体部品にある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ストリーキング試験後の帯材の試料の写真である。
図2】材料のプレス加工適性の特徴である、当業者にはLDH(限界張出し高さ)として知られているパラメータの値を決定するために使用される工具のmmでの寸法を明示している。
図3】表5のデータを用いた、自然時効の持続時間中の伸びの変動を示す。
図4】表6のデータを用いた、自然時効の持続時間中の歪硬化係数の変動を示す。
図5】表5のデータを用いた、自然時効の持続時間中の降伏応力および引張強さの変動を示す。
図6】表9のデータを用いた、自然時効の持続時間中の曲げ角度の変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下で言及される全てのアルミニウム合金は、別段の記載の無いかぎり、「アルミニウム協会」が定期的に刊行している「登録記録シリーズ」中で定義している規則および名称に準じて呼称される。別段の記載の無いかぎり、組成は重量%で表わされている。1.4Cuなる表現は、重量%で表現された銅含有量に1.4が乗じられることを意味する。
【0016】
言及される冶金学的質別は、欧州規格EN-515に準じて呼称される。静止引張り機械特性、換言すると引張強さRm、0.2%の伸びにおける従来の降伏応力Rp0.2、断面収縮時伸びAg%および破断伸びA%は、NF EN ISO 6892-1規格に準じた引張り試験によって決定され、採取および試験の方向は、EN 485-1規格によって定義されている。
【0017】
歪硬化係数nは、EN ISO 10275規格に準じて評価される。
【0018】
弾性率は、ASTM 1876規格に準じて測定される。
【0019】
ランクフォード異方性係数は、EN ISO 10113規格に準じて測定される。
【0020】
糸状腐食は、EN 3665規格に準じて特徴付けされる。この特徴付けのための試料は、以下のように調製される:圧延横方向での2%の予備引張り、表面欠陥修復の典型的研磨、その後、自動車産業の通常の表面処理および、20分間180℃の典型的処理を伴う塗装焼付。研磨は、10秒間、P150のサンドペーパーで実施される。一部の試料は、研磨対象ではない。腐食試験の前に、塗装済み試料は、塗料層を通してアルミニウム帯材試料の金属を露出させるため、1mmの幅で傷がつけられる。
【0021】
アルファノルムと呼ばれる曲げ角度は、NF EN ISO 7438規格およびプロシージャVDA238-100およびVDA239-200、2017年バージョンに準じて3点曲げ試験により決定される。
【0022】
別段の記載の無いかぎり、EN 12258規格の定義が適用される。薄帯材、または簡略化して帯材は、均一な厚みが0.20mm~6mmである矩形横断面を有する圧延製品である。
【0023】
パラメータLDHは、帯材のプレス加工適性を評価するために広く用いられている。
これは、多くの刊行物、特にR.Thompsonの刊行物、「The LDH test to evaluate sheet metal formability - Final Report of the LDH Committee of the North American Deep Drawing Research Group」、SAE conference、Detroit、1993、SAE Paper n°930815の主題となっている。これは、リングにより周囲が固定されたブランクのプレス加工試験である。ブランク押えの圧力は、リング内の摺動を回避するために調整される。120mm×160mmの寸法のブランクは、平面変形に近い形態で応力付加される。使用されるポンチは、半球形である。図2は、このテストを実施するために使用される工具の寸法を明示している。半球形ポンチは、50.8mmの半径を有する。ダイとブランク押えの間のリングは、132.6mmの直径を有し、その軸はポンチの軸および、ブランク押えとダイのボアの軸と共通である。ブランク押えおよびダイのボアは、直径101.6mmである。ボアの周囲で、ブランク押えと対面して、ダイ上に半径6.3mmの面取りが配置されている。ポンチと帯材の間の潤滑は、黒鉛グリース、例えばShell HDM2グリースによって提供される。ポンチの下降速度は、50mm/分である。LDHと呼ばれる値は、破断時のポンチの変位値、つまりプレス加工の限界深さである。破断は、20daNのプレス加工応力の減少によって検出される。LDHと呼ばれる値は、実際、3回の試験の平均に対応し、0.2mmの計測値に対して95%の信頼区間を提供する。
【0024】
本発明は、銅の存在に寛容な適応された組成によって、溶体化処理、焼入れおよび周囲温度での自然時効の後の優れたプレス加工適性と塗装焼付の処理後の非常に優れた耐食性とを組合わせた帯材を得ることが可能である、という事実に基づくものである。詳細には糸状腐食耐性は、車体の部品上での用途にとって重要な特性である。これらの部品は、隅発的なさらには悪意による擦り傷または衝撃にさらされる。擦り傷または衝撃が塗装において十分な深さに及ぶ場合、金属は外部環境にさらされ、糸状腐食が出現する可能性がある。糸状腐食は、擦り傷または衝撃に端を発して塗装下の金属表面にまで伝播する腐食の一形態である。したがって、小さな擦り傷または衝撃が、極めて目立つ大きな損傷表面を誘発する可能性がある。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明に係る帯材は、変形、塗装および塗装焼付後、糸状腐食に対する優れた耐性を有する。変形は、圧延方向に直交する方向で2%である。試料の表面の一部分は研磨されるが、その理由は、それが車体部品の生産の際の表面欠陥のための修復に対応するからである。これらの研磨された表面は概して、糸状腐食に対しより敏感である。塗装には、電気泳動そして次に塗装といった、それ自体公知の表面前処理作業全てが含まれる。bake hardening(焼付硬化)という用語でも知られている塗装焼付は、180℃で20分間の処理によってシミュレートすることができる。研磨されたゾーン内の糸状腐食フィラメントの平均長さは、2mm未満、好適には1mm未満である。未研磨ゾーンにおいて、糸状腐食フィラメントの平均長さは1mm未満、好適には0.8mm未満である。
【0026】
好ましい一実施形態において、質別T4における本発明に係る厚み0.7~1.0mmのアルミニウム合金製帯材は、少なくとも26.0mmの最小LDHを有する。別の実施形態において、質別T4における本発明に係る厚み1.1~1.5mmの帯材は、少なくとも26.5mmの最小LDHを有する。この特性は、複雑な幾何形状のプレス加工にとっては重要である。
【0027】
好適な実施形態において、質別T4における本発明に係る帯材は、14~16%の比較的高い変形における歪硬化係数が0.26超であることによって特徴付けされる。
【0028】
一実施形態においては、自然時効の間の質別T4における帯材の平均的異方性rm=(r0+2r45+r90)/4は、0.54~0.66であり、平面異方性Δr=(r0-2r45+r90)/2は0.25未満である。この特性は、プレス加工における挙動の安定性にとって重要である。計測は、8~12%の変形について、ISO EN 10113規格に準じて実施される。
【0029】
一実施形態において、質別T4における本発明に係る帯材は、少なくとも100°、好適には少なくとも120°の曲げ角度TT、または少なくとも120°、好適には少なくとも145°の曲げ角度TLを有する。
【0030】
このタイプの合金の構成元素に課せられる濃度範囲について、以下で説明する:
Si:ケイ素は、マグネシウムと共に、塗装焼付の間の合金の構造的硬化に寄与する金属間化合物MgSiまたはMgSiを形成するためのアルミニウム-マグネシウム-ケイ素系(AA6xxx族)の第1の合金元素である。Si含有量は、1.2~1.5%である。それより高い含有量では、Siが適正に溶体化処理され得ないことから、塗装焼付後の曲げ適性および機械強度が劣化する。Si含有量が前述の最大値に近い場合、Siの良好な溶体化処理を保証するために溶体化処理の持続時間を延長する必要があり、これが生産性を低減させる。成形性と生産性の間の妥協点は、1.25%~1.45%、好ましくは1.25%~1.40%、より好ましくは1.30%~1.35%のSi含有量である。一実施形態において、Siの最小含有量は、1.25%であり、最大値は1.50%または1.45%または1.40%または1.35%または1.30%である。別の実施形態において、Siの最小含有量は、1.30%、最大値は1.50%または1.45%または1.40%または1.35%である。別の実施形態において、Siの最小含有量は、1.35%であり、最大値は1.50%または1.45%または1.40%である。別の実施形態において、Siの最小含有量は、1.40%であり、最大値は1.50%または1.45%である。別の実施形態において、Siの最小含有量は、1.45%であり、最大値は1.50%である。好ましくは、Si含有量は、所望の成形性を得るために、Mg含有量との関係において過剰である。Mg含有量との関係におけるSi含有量の過剰は、Si含有量とMg含有量の差である。好ましくは、Mg含有量との関係におけるSi含有量の過剰は、少なくとも0.95重量%、好ましくは少なくとも1.00重量%である。
【0031】
Fe:鉄は、概して、望ましくない不純物とみなされる。鉄を含有する金属間化合物の存在は、概して、局所的成形性の低下と結び付けられる。しかしながら、非常に純度の高い合合は、高価である。1つの妥協点は、0.25%以下、好ましくは0.20%以下、そして好ましくは0.05%以上、より好ましくは1.10%以上のFe含有量である。一実施形態において、Fe含有量は、最小で0.05%、最大で0.25%または0.20%または0.15%または0.10%である。別の実施形態においては、Fe含有量は、最小で0.10%、最大で0.25%または0.20%または0.15%である。別の実施形態においては、Fe含有量は、最小で0.15%、最大で0.25%または0.20%である。別の実施形態においては、Fe含有量は、最小で0.20%、最大で0.25%である。
【0032】
Mn:マンガンは、共通の金属間析出物に対するその寄与を通じて、鉄と類似の効果を有する。Mnの最大含有量は、0.15%である。一実施形態において、Mn含有量は、最小で0.05%、最大で0.15%または0.10%である。別の実施形態において、Mn含有量は、最小で0.10%、最大で0.15%である。
【0033】
Mg:概して、AA6xxx族の合金の機械特性レベルは、マグネシウム含有量と共に増大する。金属間化合物MgSiまたはMgSiを形成するためにケイ素と組合わされて、マグネシウムは、塗装焼付後の機械強度といった機械特性の増大に寄与する。Mg含有量は、0.20~0.45%である。Mg含有量が過度に高いと、溶体化処理の際のSiの溶解度を低下させ、これが帯材の成形性を劣化させる。Siの溶解度と塗装焼付後の機械強度の増加との間の妥協点は、好ましくは0.39%以下、より好ましくは0.35%以下、より好ましくは0.34%以下、より好ましくは0.33%以下の含有量である。一実施形態において、Mg含有量は、最小で0.25%、最大で0.45%または0.40%または0.35%または0.30%である。一実施形態において、Mg含有量は、最小で0.30%、最大で0.45%または0.40%または0.35%である。一実施形態において、Mg含有量は、最小で0.35%、最大で0.45%または0.40%である。一実施形態において、Mg含有量は、最小で0.40%、最大で0.45%である。
【0034】
MgとSiの間のバランスもまた、意外にも、以下で説明するように合金中のCuの存在を許容することから、重要である。
【0035】
Cu:AA6000族の合金中、銅は、硬化析出に参与する元素であるが、耐食性を劣化させるものとして知られている。銅含有量は、最大で0.05%である。合金中に銅の存在を許容することは、それを含有するアルミニウムのスクラップおよび廃棄物の再生利用を可能にすることから、経済的に有利である。銅の存在は、スクラップおよび廃棄物自体に由来するだけでなく、偶発的な混入の結果でもあり得る。例えば、使われなくなった車両の解体の際には、不注意からアルミニウム製部品と共に銅製電線を放置するだけで、リサイクルアルミニウム合金を用いて得たスラブを汚染するのに十分である。一実施形態において、Cu含有量は、最小で0.01%、最大で0.05%または0.04%または0.03%または0.02%である。一実施形態において、Cu含有量は、最小で0.02%、最大で0.05%または0.04%または0.03%である。一実施形態において、Cu含有量は、最小で0.03%、最大で0.05%または0.04%である。一実施形態において、Cu含有量は、最小で0.04%、最大で0.05%である。
【0036】
Ti:この元素は、所望の機械特性レベルに導く固溶体による硬化を促進することができ、この元素は、さらに、使用中の延性および耐食性に対して有利な効果を有する。しかしながら、要求される特性全体に不利な効果を有する竪型鋳造の際の初晶形成条件を回避するためには、Tiの最大含有量を0.15%にする必要がある。一実施形態において、Ti含有量は、最小で0.01%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.02%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.03%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.03%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.04%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.06%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.08%、最大で0.15%または0.12%または0.10%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.10%、最大で0.15%または0.12%である。別の実施形態において、Ti含有量は、最小で0.12%、最大で0.15%である。
【0037】
Cr:Crは、硬化元素として使用されるため、Cr含有量は、最小で0.002%、最大で0.09%である。Crは、結晶粒を微細化し組織を安定化するために添加され得る。一実施形態において、Cr含有量は、最小で0.002%、最大で0.09%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.01%、最大で0.09%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.02%、最大で0.09%または0.08%または0.06%、または0.04%または0.03%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.03%、最大で0.09%または0.08%または0.06%または0.04%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.04%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.06%、最大で0.09%または0.08%である。別の実施形態において、Cr含有量は、最小で0.08%、最大で0.09%である。
【0038】
Ni:Ni含有量は、最大で0.15%である。合金は、再生利用によって導入され得るニッケルの存在に対し寛容である。一実施形態において、Ni含有量は、最小で0.002%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%または0.005%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.005%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.01%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.02%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.03%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.04%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.06%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.08%、最大で0.15%または0.12%または0.10%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.10%、最大で0.15%または0.12%である。別の実施形態において、Ni含有量は、最小で0.12%、最大で0.15%である。
【0039】
Zn:含有量は、耐食性を劣化させないために最大で0.15%である。Znは、アルミニウム合金における添加元素であることから、特に使われなくなった車両のアルミニウムのスクラップおよび廃棄物の再生利用を目的としてZnを受容することが有利である。実際、Znは、熱交換器などのいくつかの構成要素のいくつかの合金において使用されている。一実施形態において、Zn含有量は、最小で0.001%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%または0.005%または0.002%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.002%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%または0.005%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.005%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%または0.01%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.01%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%または0.02%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.02%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%または0.03%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.03%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%または0.04%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.04%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%または0.06%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.06%、最大で0.15%または0.12%または0.10%または0.08%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.08%、最大で0.15%または0.12%または0.10%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.10%、最大で0.15%または0.12%である。別の実施形態において、Zn含有量は、最小で0.12%、最大で0.15%である。
【0040】
Zr:Zr含有量は、最大で0.15%である。結晶粒サイズに対する効果を考慮して、Znの含有量は、制限されなければならない。Zrは、いくつかのアルミニウム合金における添加元素であることから、アルミニウムのスクラップおよび廃棄物の再生利用を目的としてZrを受容することが有利である。一実施形態において、Zrの最小含有量は、0.0005%であり、最大で0.15%または0.10%または0.05%または0.02%または0.01%または0.005%または0.001%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.001%であり、最大では0.15%または0.10%または0.05%または0.02%または0.01%または0.005%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.005%であり、最大で0.15%または0.10%または0.05%または0.02%または0.01%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.01%であり、最大で0.15%または0.10%または0.05%または0.02%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.02%であり、最大で0.15%または0.10%または0.05%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.05%であり、最大で0.15%または0.10%である。別の実施形態において、Zrの最小含有量は、0.10%であり、最大で0.15%である。
【0041】
他の元素は典型的には不純物であり、それらの含有量は、0.05%未満に維持され、合計で0.15%未満であり、残りはアルミニウムである。
【0042】
本発明に係る帯材の製造方法は、好適には直接チル鋳造またはDC鋳造の名前でも知られている竪型半連続鋳造による、スラブの鋳造、好適には鋳造皮層を除去するためのこのスラブのスカルピングとそれに続くスラブの均質化を、典型的には含む。
【0043】
スラブは、上述の組成にしたがった合金で鋳造される。本発明に係るスラブの好適な寸法は、厚み200mm~600mm、幅1000~3000mmそして長さ2000~8000mmである。スラブはその後、長さ調整されスカルピングされる。
【0044】
スラブは、その後、均質化される。均質化温度が低すぎたり、また持続時間が短すぎたりすると、溶体化処理の持続時間の延長が強制されることになる。持続時間が長すぎると、生産性は低下する。温度が高すぎると、塗装焼付後の機械強度および帯材の成形性を劣化させる燃焼(初期溶融)が発生する可能性がある。スラブの均質化は、500℃~600℃の温度で実施される。均質化の持続時間は、有利には最短で1時間である。有利な妥協点は、1~4時間の持続時間にわたり540℃~580℃の均質化を行うことである。一実施形態において、均質化温度は、520℃と600℃または580℃または560℃または540℃との間である。別の実施形態において、均質化温度は、540℃と600℃または580℃または560℃との間である。別の実施形態において、均質化温度は560℃と600℃または580℃との間である。別の実施形態において、均質化温度は、560℃~600℃である。
【0045】
均質化持続時間は、好適には最短で1時間である。一実施形態において、最大均質化持続時間は、12時間または10時間または8時間または6時間または4時間または2時間である。別の実施形態において、最大均質化持続時間は、最短で2時間、最長で12時間または10時間または8時間または6時間または4時間である。別の実施形態において、最大均質化持続時間は、最短で4時間、最長で12時間または10時間または8時間または6時間である。別の実施形態において、最大均質化持続時間は、最短で6時間、最長で12時間または10時間または8時間である。別の実施形態において、最大均質化持続時間は、最短で8時間、最長で12時間または10時間である。別の実施形態において、最大均質化持続時間は、最短で10時間、最長で12時間である。
【0046】
均質化は任意には、最大持続時間4時間の420℃~550℃の第2段階を含むことができる。この第2段階は、生産を減速させる生産上の不測の事態が存在する場合に、スラブの温度をその熱間圧延温度へと低下させることを可能にする。一実施形態において、この第2段階は、550℃と440℃または460℃または480℃または500℃または520℃または540℃の最高温度を有する。別の実施形態において、この第2段階は、540℃と440℃または460℃または480℃または500℃または520℃の最高温度を有する。別の実施形態において、この第2段階は、520℃と440℃または460℃または480℃または500℃の最高温度を有する。別の実施形態において、この第2段階は、500℃と440℃または460℃または480℃の最高温度を有する。別の実施形態において、この第2段階は、480℃と440℃または460℃の最高温度を有する。別の実施形態において、この第2段階は、460℃と440℃の最高温度を有する。この第2段階の有用性は、国際公開第2016/012691号に記載されているような後続する冷却機内への二重の通過が回避されるという点にある。
【0047】
次に、スラブは周囲温度まで冷却され、その後、均質化温度より低い熱間圧延開始温度まで再加熱されるか、または、スラブは均質化温度から熱間圧延開始温度まで直接冷却され、こうすることによって熱間圧延を直ちに開始できるため、生産性を改善することができる。熱間圧延開始温度への直接冷却は、好適には、一時間につき少なくとも150℃の直接冷却速度で実施される。有利には、直接冷却速度は、最大で500℃/時である。直接冷却は、典型的には、国際公開第2016/012691号に記載されているような機械によって実施可能である。好適には、この直接冷却は、一方の散布段階と他方の均一化段階という2段階で行なわれる。任意には、この直接冷却を、国際公開第2016/012691号に記載されているように機械を介して2回の通過で実施することが可能である。
【0048】
スラブはその後、熱間圧延開始温度で熱間圧延機に向かって移送される。熱間圧延開始温度は、350℃~550℃である。好ましくは、熱間圧延開始温度は、500℃~400℃である。過度に高い熱間圧延開始温度を制限すると、スラブの廃棄を誘発し得る熱間圧延中のスラブ上のクラックの危険性が誘発される。低すぎる熱間圧延開始温度は、熱間圧延終了温度を不十分なものにしてスラブを過度に圧延困難なものにする可能性がある。一実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で350℃、最高で500℃または480℃または460℃または440℃または420℃または400℃または380℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で380℃、最高で550℃または500℃または480℃または460℃または440℃または420℃または400℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で400℃、最高で550℃または500℃または480℃または460℃または440℃または420℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で420℃、最高で550℃または500℃または480℃または460℃または440℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で440℃、最高で550℃または500℃または480℃または460℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で460℃、最高で550℃または500℃または480℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は最低で480℃、最高で550℃または500℃である。別の実施形態において、熱間圧延開始温度は、最低で500℃、最高で550℃である。
【0049】
熱間圧延の終了時点で、スラブは、3~10mmの熱間圧延最終厚みの帯材に圧延された。熱間圧延終了温度は、250℃~450℃である。熱間圧延の開始と終了の間の冷却は、スラブそして次に帯材と、工場の周囲温度の空気、非限定的な例としてシリンダまたは搬送用ロールなどの熱間圧延機の設備、ならびに通常の潤滑用流体または冷却用流体との、通常の熱交換に由来する。一実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で270℃、最高で450℃または400℃または380℃または360℃または340℃または320℃または300℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で300℃、最高で450℃または400℃または380℃または360℃または340℃または320℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で320℃、最高で450℃または400℃または380℃または360℃または340℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で340℃、最高で450℃または400℃または380℃または360℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で360℃、最高で450℃または400℃または380℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で380℃、最高で450℃または400℃である。別の実施形態において、熱間圧延終了温度は、最低で400℃、最高で450℃である。
【0050】
第1の実施形態は、400~450℃、好ましくは400~430℃の熱間圧延開始温度、350~450℃、好ましくは350~420℃の圧延終了温度、100℃未満好ましくは70℃の熱間圧延中の冷却ならびに冷間圧延中の中間焼鈍の不在の組合せである。この組合せは、塗装後に優れた表面品質を得るために、溶体化処理の際に再結晶化する再結晶化状態を熱間圧延の出口で得ることを可能にする。
【0051】
第2の実施形態は、450~500℃、好ましくは460~500℃の熱間圧延開始温度、250~350℃、好ましくは260~320℃の熱間圧延終了温度、100℃超好ましくは125℃超、より好ましくは150℃超の熱間圧延中の冷却ならびに冷間圧延中の中間焼鈍の組合せである。この組合せは、塗装後に優れた表面品質を得るために、溶体化処理の際に再結晶化する繊維化状態を熱間圧延の出口で得ることを可能にする。
【0052】
第1の実施形態は、中間焼鈍作業が無くより経済的であるため、第2の実施形態より好ましい。
【0053】
帯材はその後、0.8~2mmの最終厚みまで冷間圧延される。任意には、冷間圧延は、300℃~500℃、好適には300℃~400℃、より好適には340~380℃の中間焼鈍で分離された2つの部分で行われる。この中間焼鈍は、コイルアニーリング用の炉がより簡単に建設できることから、好適には連続炉の代りにコイルに巻取られた帯材において実施される。帯材はその後、連続炉の中で溶体化処理され、次に焼入れされる。溶体化処理温度は、500℃~600℃である。一実施形態において、溶体化処理温度は、最低で520℃、最高で580℃または570℃または560℃または550℃または540℃である。別の実施形態において、溶体化処理温度は、最低で540℃、最高で580℃または570℃または560℃または550℃である。別の実施形態において、溶体化処理温度は、最低で550℃、最高で580℃または570℃または560℃である。別の実施形態において、溶体化処理温度は、最低で560℃、最高で580℃または570℃である。別の実施形態において、溶体化処理温度は、最低で570℃、最高で600℃である。溶体化処理持続時間は、10秒~60秒である。10秒未満の溶体化処理持続時間では、帯材の十分な溶体化処理は不可能であり、成形性および塗装焼付後の機械強度という帯材の特性は達成されない。長すぎる溶体化処理持続時間は、生産性を低下させひいては生産コストを悪化させる。焼入れは、好ましくは空気で行なわれる。空気焼入れは、車体外皮部品に使用するための重要な特性である帯材の表面品質にとって有利である。水焼入れは、帯材を変形させる高い冷却速度を誘発する。このとき、水焼入れの結果としてもたらされる変形のため、表面品質を損なう危険性のある平削り盤の使用が強制される。100℃の温度に至るまでの焼入れ速度は、少なくとも15℃/秒、好ましくは20℃/秒超、好ましくは30℃/秒超である。空気焼入れが好ましいことを考慮すると、好ましい最大焼入れ速度は95℃/秒である。
【0054】
その後、帯材は予備時効される。予備時効は、50℃~100℃の予備時効温度で帯材をコイリングし、続いて周囲温度まで冷却することによって達成される。この予備時効は、自然時効中の帯材の機械特性および成形性を安定化するのに使用される。好ましい実施形態において、帯材は、予備時効温度に再加熱され、その後直接この温度でコイリングされる。この再加熱は、コイリング温度を制御するために有利である。実際、一方では、焼入れなどの高速冷却後の温度は制御がむずかしく、再加熱は、帯材の温度の獲得を微妙に制御することを可能にする。その上、通常は、溶体化処理および焼入れ用機械は、アキュムレータによって予備時効のための再加熱を実施する機械からは分離されており、この機械の中で帯材は、蓄積された帯材の長さに応じて、冷却を続行する。他方では、当業者には公知であり自動車メーカによる帯材の使用のために有用である表面処理ステップが、多くの場合、焼入れの後そして予備時効の前に行なわれる。このとき、再加熱により、表面処理の最終温度とは無関係に予備時効温度を選択することが可能になる。一実施形態において、予備時効温度は、最低で60℃、最高で100℃または95℃または90℃または85℃または80℃または75℃または70℃または65℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で65℃、最高で100℃または95℃または90℃または85℃または80℃または75℃または70℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で70℃、最高で100℃または95℃または90℃または85℃または80℃または75℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で75℃、最高で100℃または95℃または90℃または85℃または80℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で80℃、最高で100℃または95℃または90℃または85℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で85℃、最高で100℃または95℃または90℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で90℃、最高で100℃または95℃である。別の実施形態において、予備時効温度は、最低で95℃、最高で100℃である。予備時効は、8時間~24時間の持続時間の間、工場の周囲温度におけるコイルの自然冷却の間に行われる。
【0055】
周囲温度は、人間の活動に適合する温度である。周囲温度は、典型的には0~45℃である。予備時効温度のコイルを45℃の温度まで冷却することは、暑い季節の間の冷房といった冷却手段の使用が必要とされないことから、有利である。
【0056】
結果として、帯材は、質別T4にあり、72時間~6カ月の間、周囲温度で自然時効する。この持続時間は、車体部品の製造前の通常の保管持続時間に対応する。
【0057】
帯材はその後、車体部品の製造に使用される。したがって、車体部品の製造方法には、以下の連続的ステップが含まれる。
・ 本発明に係る帯材の供給、
・ 帯材のプレス加工、
・ 塗装、このステップには、表面処理、電気泳動、次に塗装という、当業者にとって公知の全ての作業が含まれる、
・ 170~200℃の温度で15~30分間の、当業者には「焼付硬化」の名称で知られている塗装焼付。
【0058】
車体部品は、EN 3665規格に準じた腐食試験の終了時に、糸状腐食に対する優れた耐性を有する。研磨されたゾーン内での糸状腐食フィラメントの平均長さは、2mm未満、好適には1mm未満である。未研磨ゾーン内で糸状腐食フィラメントの平均長さは、1mm未満、好適には0.8mm未満である。研磨は、部品の生産中に出現する表面欠陥の修復を代表するものである。研磨によるこれらの修復は、生産工場において職人によって実施され、当業者には周知である。
【実施例
【0059】
表1の質量百分率で表わした組成にしたがったアルミニウム合金製スラブを、竪型半連続鋳造によって鋳造した。合金C、D、EおよびFは、本発明に係る組成を有する。スラブの寸法は、1820×520×3500であった。
【0060】
【表1】
【0061】
次に、スラブを長さ調整し、スカルピングし、その後560℃で2時間均質化した。その後、均質化炉を540℃に調節した。2時間後に、540℃でスラブを均質化炉から出し、表2にしたがって熱間圧延開始温度に冷却した。冷却は、国際公開第2016/012691号に記載されているような機械により行なった。スラブA、BおよびCは、前記機械内を介して二重の通過を必要とし、他は1回しか通過させなかった。冷却速度は、約350℃/時であった。冷却は、散布ステップとそれに続く均一化ステップの2ステップで実施された。その後、スラブを帯材へと熱間圧延した。スラブA、BおよびCの圧延開始温度は400~450℃であり、一方、他のスラブの圧延開始温度は、450~500℃である。熱間圧延の終りで、スラブA、BおよびCは、350~400℃の温度を有しているのに対し、他のスラブは、300℃未満の熱間圧延終了温度を有している。帯材の熱間圧延終了厚みは、表2に記されている。その後、帯材を、中間冷間圧延厚みに冷間圧延する。いくつかの帯材は、表2にしたがって、コイルの形で1時間、350℃で熱処理する。その後、帯材を表2の最終厚みに圧延する。
【0062】
【表2】
【0063】
その後、帯材を溶体化処理し、次に連続炉内で空気焼入れした。溶体化処理持続時間は、表3に示されている。その後、帯材を予備時効した。予備時効は、予備時効温度で帯材をコイリングすることによって実施し、得られたコイルは12時間で周囲温度まで自然に冷却した。これは工業的条件で生産される帯材であることから、周囲温度は15~26℃の間で変動した。予備時効温度は、表3に記されている。その後、コイルを周囲温度で自然時効させ、異なる特徴付け用に試料を採取した。
【0064】
【表3】
【0065】
質別T4における帯材のプレス加工性能を、LDH(限界張出し高さ)試験を用いてテストする。
【0066】
試験片は、120×160mmの寸法を有し、このうち160mmの寸法は、圧延方向である長手方向か、圧延方向に直交する方向である幅方向か、またはこれら2つの方向の間の45°方向に位置付けされていた。結果は、表4に提示されている。
【0067】
本発明に係るコイルEおよびFは、コイルGよりも優れたプレス加工適性を有し、この適性は、自然時効の持続時間に伴って劣化しない。
【0068】
【表4】
【0069】
成形適性は同様に、以下の分析により観察可能である。
【0070】
表5および6は、異なる自然時効持続時間の終了時における機械特性の結果を示している。これらの結果は、帯材の保管持続時間にかかわらず、成形、詳細にはプレス加工のために不可欠な特徴である自然時効中の機械特性の安定性を実証している。静的引張り機械特性は、NF EN ISO 6892-1規格に準じた引張り試験によって決定される。
【0071】
これらの機械特性は、成形性を保証するため、自然時効中はほとんど変動しない。詳細には、14~16%の強烈な伸びの歪硬化係数の変動は、自然時効中、0.04未満である。歪硬化係数の異方性もまた小さい。
【0072】
図3は、表5の自然時効中の伸びの時間に対する感度が低いことを示している。
【0073】
図4は、表6の14~16%の強烈な伸びの歪硬化係数の時間に対する感度が低いことを示している。
【0074】
図5は、表5の引張強さおよび降伏応力の自然時効に対する感度が低いことを示している。
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
圧延方向、圧延に対する横断方向およびこれらの2つの方向の間の45°で8~12%のランクフォード係数を用いて、質別T4における帯材について、異方性もまた評価された。したがって、平均異方性ならびに平面異方性を、自然時効の間に計算することができた。結果は表8に示されており、これらの特性は、自然時効の持続時間中安定したものであり続ける。
【0078】
【表7】
【0079】
糸状腐食試験を実施する目的でも試料を採取した。腐食は、糸状腐食フィラメントの平均長さならびに糸状腐食の長さを測定することによって、表7に定量化された。これらの結果は、糸状腐食に対する銅の影響を明らかに示している。
【0080】
【表8】
【0081】
ストリーキングを、以下のように測定する。(圧延方向に対する横断方向で)約270mm×(圧延方向で)50mmの試料を帯材からカットする。次に、圧延方向に直交する方向、すなわち試料の長さ方向で15%の引張り予備変形を適用する。その後、試料を、P800タイプのサンドペーパーの作用に付して、ストリーキングを出現させるようにする。ストリーキングを試料Dについて測定しており、その結果は、図1に示されている。したがって、帯材は、この帯材で製造した部品の塗装後の表面品質として満足のいく表面品質を有する。
【0082】
質別T4における帯材DおよびFも、曲げについて特徴付けした。帯材D、EおよびFは、圧延の長手方向で少なくとも120°の曲げ角度TTおよび少なくとも145°の曲げ角度TLを有している。図6は、表9のデータと共に、自然時効に対する曲げ角度の感度が低いことを示している。
【0083】
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】