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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(54)【発明の名称】AAV産生方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20240625BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240625BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240625BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240625BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240625BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240625BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20240625BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C12N7/01
A61K48/00
A61K35/76
A61P37/04
C12N5/071
C12N5/10
C12N15/35
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577659
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 IB2022000347
(87)【国際公開番号】W WO2022263930
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/211,877
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517271175
【氏名又は名称】メイラグティーエックス ユーケー アイアイ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン ジオパ
(72)【発明者】
【氏名】アナ バリナス
(72)【発明者】
【氏名】バスティアーン リーウィス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BC02
4B065BC07
4B065BD15
4B065BD22
4B065BD33
4B065BD39
4B065BD43
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA05
4C084NA13
4C084ZB091
4C084ZB092
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA05
4C087NA13
4C087ZB09
(57)【要約】
組換えアデノ随伴ウイルス(sAAV)粒子の産生方法は、培養培地を含む少なくとも1つの培養容器内における細胞数を増加させることを含む拡大相と、AAV末端逆位反復に隣接する導入遺伝子を含む、第一のポリヌクレオチド配列と、及び任意選択的に、AAVrep及びcap遺伝子を含む、第二のポリヌクレオチド配列と、及び/または1つ以上のヘルパー遺伝子を含む、第三のポリヌクレオチド配列とを細胞内に導入することと、1つ以上のポリヌクレオチド配列が導入される細胞を培養すること、及びカルシウム(Ca)イオン(例えば、Ca2+の塩)を産生相培養培地に添加することを含む産生相と、ならびにrAAV粒子を単離することとを含む。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の産生方法であって、前記方法は、
(i)培養培地を含有する少なくとも1つの培養容器内の、細胞数を増加させることを含む、拡大相;
(ii)AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する導入遺伝子を含む、第一のポリヌクレオチド配列と、及び任意選択的に、AAVrep及びcap遺伝子を含む、第二のポリヌクレオチド配列と、及び/または1つ以上のヘルパー遺伝子を含む、第三のポリヌクレオチド配列とを、前記細胞内に導入すること;
(iii)ステップ(ii)からの前記細胞を培養し、かつ前記培養培地中のカルシウム(Ca)イオンの総濃度が、0.3mM超~10mM未満になるように、ステップ(ii)後、約0~約24時間に、前記培養培地にCaイオンを添加することを含む、産生相;ならびに
(iv)前記rAAV粒子を単離することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記産生相培養培地に前記Caイオンを添加することが、カルシウム塩を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルシウム塩が、CaClを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Caイオンが、約0.5mM~約6mMの濃度に添加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記Caイオンが、約2mM~約6mMの濃度に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Caイオンが、約2mM~約4mMの濃度に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記Caイオンが、約1mM~約3mMの濃度に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記Caイオンが、約2mMの濃度に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記Caイオンが、ステップ(ii)後、約0時間~約24時間で、前記産生相培養培地に添加される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記Caイオンが、ステップ(ii)後、約6時間~約18時間で、前記産生相培養培地に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記Caイオンが、ステップ(ii)後、約12時間後で、約2mMの前記培養培地中のCaイオン濃度に添加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記産生相(ステップiii)が、少なくとも約48時間、約72~約100時間、約90時間~約100時間、約92時間~約98時間、約94~約98時間、または約96時間である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記産生相が、(a)グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチド、及び/または(b)ソルビトールの1つ以上を、前記産生相培地に添加することを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの前記1つ以上が、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの1つ以上から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(ii)後、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、または約72時間の1つ以上で、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドのうちの少なくとも1つが、前記培養培地に添加される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(i)で、凝集抑制補助剤が、前記培養培地に添加される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記第一の、前記第二の、及び前記第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つが、前記第一の、前記第二の、及び前記第三のポリヌクレオチド配列を含む1つ以上のベクターのトランスフェクションによって、前記第一の、前記第二の、及び前記第三のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む1つ以上のウイルスの感染によって、前記1つ以上のベクターのトランスフェクションと前記1つ以上のウイルスの感染との組合せによって、または前記第一の、前記第二の、及び前記第三のポリヌクレオチド配列のエレクトロポレーションによって、前記細胞内に導入される、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の、前記第二の、及び前記第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つが、トランスフェクションによって前記細胞内に導入される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記導入遺伝子が、治療用タンパク質またはレポータータンパク質をコードする、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記導入遺伝子が、RPE65、RPGR、GAD65、GAD67、及びCNGB3からなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記AAV ITRが、AAV2 ITRである、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記AAVcap遺伝子が、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVrh10、AAV-PHP.5、AAV-PHP.B、AAV-PHP.eB、AAV2-レトロ、AAV9-レトロ、及びそれらのハイブリッドからなる群から選択される、AAV血清型またはAAV変異体に由来する、請求項1~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記細胞が、哺乳動物細胞である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記哺乳動物細胞が、HEK293細胞である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞を、懸濁液中で培養する、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つの培養容器が、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、細胞バッグ、またはバイオリアクタである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ステップ(i)で、前記培養培地が約7.2~約7.4のpHを有し、前記細胞の培養がCOスパージングを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
ステップ(ii)前に、前記培養培地のpHを約6.9に変化させ、COのスパージングを停止させる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記rAAV粒子を単離するステップが、前記細胞を溶解させ、及び任意選択的に、得られた溶解物を清澄化し、前記清澄化された溶解物を精製ステップに供することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記精製ステップが、超遠心分離、アフィニティークロマトグラフィー、及びイオン交換クロマトグラフィーからなる群から選択される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法によって産生された、rAAV粒子の集団。
【請求項32】
請求項31に記載のrAAV粒子集団を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月17日出願の、米国仮特許出願第63/211,877号の利益を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、特定の塩、特に、カルシウム塩、例えば、塩化カルシウムを、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)産生培地に添加することによって、AAVベクターを作成するための、方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損型パルボウイルスである。AAV粒子は、3つのカプシドタンパク質-VP1、VP2、及びVP3-を有するカプシドを含み、カプシドは、約4.8kbの長さの一本鎖DNAゲノムを包含し、一本鎖DNAゲノムは、プラス鎖であってもマイナス鎖であってもよい。いずれかの鎖を含む粒子は感染性であり、親細胞が感染する一本鎖を二本鎖形態に変換し、その後に増幅することによって複製が行われ、そこから、子細胞の一本鎖が置き換えられてカプシドにパッケージングされる。
【0004】
AAVは、複製を行うためには、他のウイルス、主にアデノウイルスとの、同時感染に依存する。その一本鎖ゲノムは、3つの遺伝子、rep(複製)、cap(カプシド)、及びaap(アセンブリ)を含有し、3つのプロモーター、代替翻訳開始部位、及び差次的スプライシングの使用を通して、少なくとも9つの遺伝子産物を生じる。これらのコード配列は、ゲノムの複製及びパッケージングに必要な、末端逆位反復配列(ITR)と隣接している。rep遺伝子は、ウイルスゲノムの複製及びパッケージングに関与する、4つのタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40)をコードするのに対して、cap発現は、ウイルスゲノムを保護する外側カプシドシェルを形成し、かつ細胞の結合と内在化に積極的に関与する、ウイルスカプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)を生じる。aap遺伝子は、cap遺伝子と重なる代替リーディングフレームで、アセンブリ-活性化タンパク質(AAP)をコードする。このAAPタンパク質は、カプシドアセンブリに対する足場の機能を提供すると考えられる。
【0005】
AAV粒子は、遺伝子治療及び遺伝子ワクチンを含む、治療用途のベクターとして、魅力的となる特徴を有する。AAVは、多くの哺乳動物細胞を含む広範囲の細胞型に感染し、インビボで、多くの異なる組織を標的にする可能性を可能にする。AAVは、緩慢に分裂する細胞と、分裂しない細胞に感染する。治療用途では、組み換えAAV(rAAV)が使用され、そこでは、ゲノムが異種導入遺伝子を含み、及び、典型的には、ITRを保持しているが、ウイルスrep、cap、及びaap遺伝子を欠いている。Repタンパク質が存在しない場合、ITRに隣接した導入遺伝子は、転写活性のある核外染色体要素またはエピソームを形成することができ、この核外染色体要素またはエピソームは、本質的に、形質導入された細胞の寿命にわたり持続することができる。
【0006】
rAAVベクターを産生するための細胞培養系は、ヒト細胞株の一過性トランスフェクション及び哺乳動物または昆虫細胞株の感染を含む。rAAVベクター生成方法は、一般的に、rAAV複製及びパッケージングに必要な追加の遺伝子産物の供給源として、ヘルパーベクター(例えば、ヘルパープラスミド、ヘルパーウイルス)と組合せて、ベクター生成のための生合成機構を提供する、生殖細胞型を含む。
【0007】
rAAVベクター産生方法の重要な目標は、AAVカプシド化された残存DNA不純物や空のカプシドを含む、産生物関連不純物の生成を最小限に抑えながら、安定した、高いベクター生産性を達成することである。細胞1つ当たり生成されるベクターゲノム(VG)として測定すると、rAAVベクターの生産性は、細胞1つ当たり10未満~2×10VGの範囲で、非常に可変であり得る。高い費用対効果に加えて、高い生産性の重要な利点は、出発原料が全採取バイオマスに対するrAAVベクター生成物の比率がより高い場合に、精製がより効率的であってもよいことにある。
【0008】
産生物関連不純物は、rAAVベクター自体に類似し、精製プロセス中に、rAAVベクターから容易に分離することができない。現在のrAAVベクター産生システムでは、AAV空カプシドが高レベルで生成される。AAV2については、細胞培養中に生成された全AAV粒子の50~95%が、空カプシドである。しかしながら、AAVカプシドに対する潜在的な有害な免疫応答を制限するには、細胞培養中に空カプシドの生成を最小限に抑え、及び/またはベクター精製中にそれらを実質的に除去することが賢明である。したがって、rAAV生産性を増大させ、及び/または空カプシドなどの産生物関連不純物を低減する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、特定の塩、特に、カルシウム塩、例えば、塩化カルシウムを、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)産生培地に添加することによって、AAVベクターを作成するための、方法を提供する。本明細書では、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)粒子の産生方法であって、以下を含む方法が記載される:
(i)培養培地を含有する少なくとも1つの培養容器内の、細胞数を増加させることを含む、拡大相;
(ii)AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する導入遺伝子を含む、第一のポリヌクレオチド配列と、及び任意選択的に、AAVrep、及びcap遺伝子を含む、第二のポリヌクレオチド配列と、及び/または1つ以上のヘルパー遺伝子を含む、第三のポリヌクレオチド配列とを、細胞内に導入すること;
(iii)ステップ(ii)からの細胞を培養し、かつ培養培地中のカルシウム(Ca)イオンの総濃度が、0.3mM超~10mM未満になるように、第一のポリヌクレオチド配列の導入後、約0~約24時間に、培養培地にCaイオン(すなわち、Ca2+の塩)を添加することを含む、産生相(ここで、rAAV粒子が生成される)、ならびに
(iv)rAAV粒子を単離すること。
【0010】
本方法の実施形態では、培養培地へのCaイオンの添加は、CaClなどの、Ca塩の添加を含む。カルシウムイオンは、培養培地中のCaイオンの濃度に、約0.5mM~約9mMの間、約1mM~約9mMの間、約1mM~約8mMの間、約1mM~約7mMの間、約2mM~約9mMの間、約2mM~約8mMの間、約2mM~約7mMの間、約2mM~約6mMの間、約2m~約5mMの間、または約2mM~約4mMの間、添加される。実施形態では、カルシウムイオンは、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約3mM、約3.5mM、約4mM、約4.5mM、約5mM、約5.5mM、約6mM、約6.5mM、約7mM、約7.5mM、約8mM、約8.5mM、約9m、または約9.5mの濃度に、添加される。実施形態では、カルシウムイオンは、約0.5mM~約6mM;約2mM~約6mM、約2mM~約4mM、または約1mM~約3mMの濃度に、産生培養培地に添加される。
【0011】
いくつかの実施形態では、Caイオン(Ca塩、例えば、CaCl)は、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つの導入後、または産生相の開始時(すなわち、導入後約0時間)に添加される。実施形態では、Caイオンは、第一のポリヌクレオチド配列の導入後、または産生相の開始後、約0時間~約24時間(例えば、0、約1、約2、約5、約8、約12、約18、約23、約24、約24.5時間)の、任意の時間に添加される。実施形態では、Caイオンは、第一のポリヌクレオチド配列の導入後、または産生相の開始後、約0時間~約18時間の、任意の時間に添加される。実施形態では、Caイオンは、第一のポリヌクレオチド配列の導入または産生相の開始後、約6時間~約20時間、約6時間~約18時間、または約6時間~約12時間の、任意の時間に添加される。いくつかの実施形態では、Caイオンは、培養培地中のCaの総濃度が約2mMとなるように、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の、少なくとも1つの導入(または、産生相の開始)後、約12時間に添加される。
【0012】
本方法の実施形態では、拡大相培養培地、及び/または産生相培養培地は、血清を含まない。実施形態では、拡大相及び/または産生相は、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上を、拡大相培養培地及び/または産生相培養培地に添加することを含む。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上は、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの1つ以上であってもよい。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの少なくとも1つを含む溶液は、例えば、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つの導入後、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、及び/または約72時間に、産生相開始後、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、及び/または約72時間に、産生相培養培地に添加されてもよい。
【0013】
本方法の実施形態では、拡大相及び/または産生相は、凝集抑制補助剤を、拡大相培養培地及び/または産生相培養培地に添加することを含む。実施形態では、凝集抑制補助剤には、デキストラン硫酸、ヘパリン、及び/または細胞の凝集を抑制する他の硫酸化グリコサミノグリカンが含まれる。実施形態では、凝集抑制補助剤は、約25μg/ml~約250μg/ml、例えば、約25μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、及び/または約200μg/mlの濃度に培地に添加されてもよい、ヘパリンナトリウムを含む。実施形態では、凝集抑制補助剤は、産生相に添加されないか、または産生相の終了時、単離ステップ直前にのみ添加され、例えば、産生されたrAAV粒子を単離するステップの、約10時間以内、約5時間以内、約4時間以内、約3時間以内、約2時間以内、または約1時間以内に、添加される。
【0014】
実施形態では、産生相は、ソルビトールを産生相培地に添加することを含む。実施形態では、ソルビトールは、産生相中の1つ以上の時点で、産生相培地に添加され、例えば、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つの導入後、約6時間、約12時間、約20時間、約24時間、約48時間(すなわち、産生相開始後、約6時間、約12時間、約20時間、約24時間、約48時間)に添加される。実施形態では、ソルビトールは、約50mM~約200mM、または約80mM~約120mMの濃度に、産生培地に添加される。実施形態では、ソルビトールは、約100mMの濃度に、産生培地に添加される。
【0015】
実施形態では、産生相は、少なくとも約48時間(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、または97時間)である。好ましい実施形態では、産生相は、約72時間~約100時間、約90時間~約100時間、約92時間~約98時間、または約94時間~約98時間である。一実施形態では、産生相は、約96時間である。
【0016】
本方法の実施形態では、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つは、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列を含む1つ以上のベクターのトランスフェクションによって、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む1つ以上のウイルスベクターの感染によって、1つ以上のベクターのトランスフェクションと1つ以上のウイルスの感染との組合せによって、または第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列のエレクトロポレーションによって、細胞内に導入される。実施形態では、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つは、トランスフェクションによって細胞内に導入される。
【0017】
本方法の実施形態では、導入遺伝子は、治療用タンパク質またはレポータータンパク質をコードする。導入遺伝子の例の非排他的なリストには、RPGR、RPE65、GAD65、GAD67、及びCNGB3が含まれる。いくつかの実施形態では、2つのAAV ITRは、AAV2 ITRである。本方法では、AAVcap遺伝子は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVrh10、AAV-APHP.5、AAV-PHP.B、AAV-PHP.eB、AAV2-レトロ、AAV9-レトロ、及びそれらのハイブリッドなどの、AAV血清型またはAAV変異体であってもよい。実施形態では、1つ以上のヘルパー遺伝子には、1つ以上のアデノウイルス遺伝子、単純ヘルペスウイルス1型遺伝子、またはバキュロウイルス遺伝子の、全部または一部が含まれてもよい。
【0018】
本方法の実施形態では、細胞は哺乳動物細胞、例えば、HEK293細胞である。細胞(例えば、HEK293細胞)は、懸濁液中での培養に適合させてもよい。少なくとも1つの培養容器は、例えば、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、細胞バッグ、またはバイオリアクタの、1つ以上であってもよい。実施形態では、拡大相用の培養培地は、約7.1~約7.5(例えば、約7.2~約7.4)のpHを有してもよく、細胞を培養するステップは、COスパージングを含んでもよい。いくつかの実施形態では、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つを導入するステップの前に、培養培地のpHを、約6.9~約7.3の間でドリフトさせる。実施形態では、1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトを細胞内に導入する前に、培養培地のpHを約6.9に変化させ、COスパージングを停止させる。
【0019】
実施形態では、rAAV粒子を単離することは、産生相後に細胞を溶解するステップを含む。実施形態では、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び/または第三のポリヌクレオチド配列の導入(上記ステップ(ii))後、約48時間以上(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、97時間)に、単離されてもよい。例えば、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の導入後、約90~約100時間、約92時間~約98時間、または約94~約98時間に、単離されてもよい。実施形態では、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び/または第三のポリヌクレオチド配列の導入後、約96時間(例えば、上記ステップ(ii)後、約96時間)に、単離される(例えば、細胞を溶解する)。実施形態では、単離されたrAAV粒子は、溶解物中に存在し、溶解物は、少なくとも1つのフィルタを使用して清澄化され、清澄化された溶解物をもたらす。そのような実施形態では、方法は、清澄化された溶解物を1つ以上の精製ステップに供することを、更に含んでもよい。任意の適切な精製ステップ(複数可)、例えば、超遠心分離、アフィニティークロマトグラフィー、及び/またはイオン交換クロマトグラフィーの、1つ以上を使用してもよい。実施形態では、方法は、細胞1つ当たり少なくとも約40,000~約200,000のrAAV粒子を提供し、及び/または1リットルのトランスフェクトされた培養培地から、精製されたrAAV粒子約8×1012~約1×1014の平均収率を提供する。実施形態では、方法は、少なくとも約30%、例えば、約30%~40%、少なくとも65%、約65%~90%などの、rAAV粒子対空AAV粒子比を提供する。実施形態では、方法は、溶解物または清澄化された溶解物の一部から、カプシド濃度、ウイルスゲノム力価、及びrAAV粒子対空AAV粒子比の、少なくとも1つを決定することを更に含む。本方法の実施形態では、単離されたrAAV粒子は、空AAV粒子から分離される。
【0020】
また、本発明は、本方法によって産生されたrAAV粒子集団、及びrAAV粒子集団を含む医薬組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】RPGR導入遺伝子を含むrAAV5ベクターを産生するためのフラスコモデルにおける、Ca2+補充の結果を示すグラフである。HEK293細胞を、RPGRトランスジーンプラスミド、ヘルパープラスミド、及びRep/Capプラスミドでトランスフェクトし、0.5mMまたは2mMのCaClを、トランスフェクション後、6時間または20時間のいずれかで添加した。トランスフェクション後、72時間または96時間のいずれかで、細胞を溶解させた。72時間及び96時間のトランスフェクション後溶解物における、AAV5-RPGRの、ベクターゲノム(VG)、及びカプシドの全:空(F:E)比が提供される。
図1B】GAD67導入遺伝子を含むrAAV2ベクターを産生するためのフラスコモデルにおける、Ca2+補充の結果を示すグラフである。HEK293細胞を、GAD67トランスジーンプラスミド、ヘルパープラスミド及びRep/Capプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクション後、20時間または24時間で、100mMのソルビトール、50mMのNaCl、2mMのCaCl、2mMのMgCl、または2mMのCaCl/MgClを、培養培地に添加した。トランスフェクション後、72時間または96時間のいずれかで、細胞を溶解させた。72時間及び96時間のトランスフェクション後溶解物における、AAV2-GAD67の、ベクターゲノム(VG)が提供される。
図2】A及びBは、250mLのバイオリアクタにおける、産生相中の、Ca2+補充、凝集抑制剤(ACA)の添加、及び/または濃縮された必須栄養素フィードの添加後の、rAAV2産生を示すグラフである。Aは、(トランスフェクション後)96時間の採取からの溶解物における、VG力価をVG/mLとして示す。Bは、(トランスフェクション後)96時間の採取からの溶解物における、全対空(F:E)比(百分率)を示す。
図3】A及びBは、トランスフェクション後12時間での、異なる塩の添加からの、rAAV2産生に対する効果を示すグラフである。Aは、VG力価をVG/mLとして示し、Bは、F:E比(百分率)を示す。
図4】A及びBは、トランスフェクション後-1~24時間での、2mMへのCaCl添加からの、rAAV2産生に対する効果を示すグラフである。対照は、AAV2-無塩であった。Aは、VG力価をVG/mLとして示し、Bは、F:E比(百分率)を示す。
図5】A及びBは、トランスフェクション後12時間での、0mM(対照)~10mMの濃度へのCaClの添加からの、rAAV2産生に対する効果を示すグラフである。Aは、VG力価をVG/mLとして示し、Bは、F:E比(百分率)を示す。
図6】A及びBは、トランスフェクション後12時間での、2mMへのCaClの添加の、rAAV2、rAAV5、またはrAAV8産生に対する効果を示すグラフである。Aは、VG力価をVG/mLとして示し、Bは、F:E比(百分率)を示す。
【発明の詳細な説明】
【0022】
本開示は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の産生方法を提供する。rAAV粒子を産生する方法は、以下のステップを含む:
(i)培養培地を含有する少なくとも1つの培養容器内の、細胞数を増加させることを含む、拡大相;
(ii)AAV末端逆位反復配列(ITR)に隣接する導入遺伝子を含む、第一のポリヌクレオチド配列と、及び任意選択的に、AAVrep及びcap遺伝子を含む、第二のポリヌクレオチド配列と、及び/または1つ以上のヘルパー遺伝子を含む、第三のポリヌクレオチド配列とを、細胞内に導入するステップ;
(iii)ステップ(ii)からの細胞を培養し、かつ培養培地中のカルシウム(Ca)イオンの総濃度が、0.3mM超~10mM未満になるように、第一のポリヌクレオチド配列の導入後、約0~約24時間に、培養培地にCaイオンを添加することを含む、産生相、ならびに
(iv)rAAV粒子を単離するステップ。
【0023】
本発明はまた、本方法によって産生されたrAAV粒子集団、及びrAAV粒子集団を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
実施形態では、本方法は、増加した産生力価、及び/またはより高い全:空カプシドの比(F:E)を提供する。より具体的には、本開示は、例えば、Caイオン(例えば、CaClなどの、カルシウム塩)を産生培地に添加することによって、トランスフェクトされた細胞による、rAAVの産生力価、及び/またはF:E比を増加させる方法を提供する。実施形態では、産生力価は、Caイオンが産生培地に添加されない場合の産生力価と比較して、約1.5倍、約1.8倍、約2倍、約3倍、約5倍、約10倍、またはそれ以上、増加する。実施形態では、F:E比は、Caイオンが産生培地に添加されない場合のF:E比と比較して、約1.3倍、約1.5倍、約2倍、約5倍、約8倍、約10倍、約12倍、またはそれ以上、増加する。
【0025】
本方法は、製造規模に対して、例えば、約5~約10リットル、約10~約20リットル、約20~約50リットル、約50~約100リットル、約100~約200リットル、またはそれ以上の培養物に、拡大可能であり、多様なAAV血清型/カプシド変異体を含むrAAVに適用可能である。
【0026】
本明細書に開示される方法によって産生されたrAAVベクターは、標的細胞において導入遺伝子を発現するのに有用である。これらのrAAVベクターは、標的細胞で維持発現され得る導入遺伝子を含むポリヌクレオチドを、標的細胞内に導入することができるため、遺伝子治療に使用することが可能であり、rAAVベクターは、ヒト患者の標的細胞に異種ポリヌクレオチド配列(例えば、治療用タンパク質またはレポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、及びタンパク質発現のための調節因子)を送達することが可能である。導入遺伝子の例の非排他的なリストには、RPGR、RPE65、GAD65、GAD67、及びCNGB3が含まれる。いくつかの実施形態では、2つのAAV ITRは、AAV2 ITRである。本方法では、AAVcap遺伝子は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVrh10、AAV-PHP.5、AAV-PHP.B、AAV-PHP.eB、AAV2-レトロ、AAV9-レトロ、及びそれらのハイブリッドなどの、AAV血清型またはAAV変異体であってもよい。実施形態では、1つ以上のヘルパー遺伝子には、1つ以上のアデノウイルス遺伝子、単純ヘルペスウイルス1型遺伝子、またはバキュロウイルス遺伝子の、全部または一部が含まれてもよい。
【0027】
用語「ベクター」は、ポリヌクレオチドを標的細胞内に導入するためのビヒクルを指す。ベクターは、ウイルスベクター(例えば、rAAVベクター、HSVベクター)もしくはプラスミドなどの非ウイルスベクター、またはリポソーム、ゼラチン、もしくはポリアミンなどの化合物に関連したDNAであってもよい。発現ベクターは、宿主細胞または標的細胞における発現のための調節因子を有する、遺伝子産物(例えば、タンパク質またはRNA)をコードする、ポリヌクレオチド配列を含むベクターである。
【0028】
「rAAV」、「rAAVベクター」、「rAAV粒子」、または「rAAVビリオン」は、エクスビボ、インビトロ、またはインビボの、標的細胞のその後の感染のために、カプシドタンパク質にパッケージングされる(すなわち、カプシドタンパク質によってカプシド化される)、組換えAAVベクターゲノムを指す。これらの語句は、標的細胞で発現すべき導入遺伝子を含む、完全な組換えAAVゲノムを欠く、空のAAVカプシド及びAAVカプシドを除外している。したがって、カプシドに加えて、rAAVベクターは、rAAVゲノムを含む。「rAAVゲノム」または「rAAVベクターゲノム」は、rAAV粒子を形成するように、最終的にパッケージングまたはカプシド化される、目的の導入遺伝子を含むポリヌクレオチド配列を指す。典型的には、rAAVについては、AAVゲノム(例えば、rep、cap、及びaap遺伝子を含む)の大部分が削除されており、一方または両方のITR配列は、導入遺伝子とともにrAAVゲノムの一部として残存している。本明細書で使用される「導入遺伝子」は、遺伝子産物(例えば、治療用タンパク質またはレポータータンパク質)をコードするポリヌクレオチド配列、及び標的細胞での遺伝子産物の発現のための調節因子を指す。
【0029】
「空カプシド」及び「空粒子」は、AAVカプシドシェルを有するが、導入遺伝子配列と1つまたは2つのITRとを含む組換えAAVゲノム全体または一部が欠失している、AAV粒子を指す。そのような空カプシドは、導入遺伝子を1つ以上の標的細胞内に導入する機能はない。実施形態では、単離されたrAAV粒子は、空AAV粒子から分離される。
【0030】
rAAVゲノム(例えば、ITRを含む)は、同一の株もしくは血清型(または、サブグループもしくは変異体)に基づいていてよく、またはそれらが互いに異なっていてもよい。非限定的な例として、1つの血清型ゲノムに基づく、rAAVプラスミド、またはベクターゲノムもしくは粒子(カプシド)は、ベクターゲノムをパッケージングする1つ以上のカプシドタンパク質と同一であってもよい。更に、rAAVゲノムは、rAAVベクターゲノムをパッケージングする1つ以上のカプシドタンパク質とは異なる、AAVゲノムから誘導してもよい(例えば、AAV2ゲノムから誘導される、1つ以上のITRを含む)。
【0031】
本明細書に開示されている方法によって産生されてもよいrAAVベクターには、任意のAAV株または血清型に由来するカプシド及びゲノムを含む、任意のrAAVベクターが含まれる。非限定的な例として、rAAVベクターカプシド及び/またはゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV-PHP-5、AAV-PHP-B、AAV-PHP-eB、AAV2-レトロ、AAV9-レトロ、AAVrh74、AAVrh、AAVrh.10(すなわち、AAVrh.10 ITR及びAAVrh.10カプシドタンパク質を含むAAV)などに基づいてもよい。実施形態では、rAAVベクターは、同一のAAV株または血清型に由来するゲノム及びカプシドタンパク質を含む。例えば、rAAVベクターは、rAAV2ベクター(すなわち、AAV2 ITR及びAAV2カプシドタンパク質を含むrAAV)であってもよい。
【0032】
実施形態では、AAVベクターは、1つのAAV血清型に由来するITR、及び異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質を含む、偽型rAAVベクターである。いくつかの実施形態では、偽型rAAVは、rAAV2/5(すなわち、AAV2 ITR及びAAV5カプシドタンパク質を含むrAAV)、rAAV2/8(すなわち、AAV2 ITR及びAAV8カプシドタンパク質を含むrAAV)、rAAV2/9(すなわち、AAV2 ITR及びAAV9カプシドタンパク質を含むAAV)、rAAV2/10(すなわち、AAV2 ITR及びAAV10カプシドタンパク質を含むrAAV)である。実施形態では、rAAVベクターは、AAV2変異体rAAV2-レトロ(国際公開第2017/218842号からの配列番号44、参照により本明細書に組み込まれる)などの変異体AAVカプシドである、カプシドタンパク質を含む。
【0033】
細胞系
【0034】
本明細書に記載されるrAAVベクター産生方法は、一般的に、例えば、(i)rAAV産生のための許容宿主細胞(プロデューサー細胞)、(ii)例えば、アデノウイルスヘルパー機能を提供する遺伝子を含む適切なコンストラクトによって供給され得る、ヘルパーウイルス機能、(iii)トランスパッケージングrep/capコンストラクト、及び(iv)適切な産生培地を含む、特定の要素を必要とする。
【0035】
プロデューサー細胞は、rAAVゲノムコンストラクト、ヘルパー機能コンストラクト、及びAAV機能を提供するコンストラクト(例えば、rep及びcap)が存在する場合に、rAAVを産生するための許容宿主細胞である、任意の細胞である。この用語には、トランスフェクトされた元の細胞の子孫も含まれてもよい。したがって、プロデューサー細胞はまた、外因性DNA配列でトランスフェクトされた宿主細胞、またはそのDNA配列が宿主細胞ゲノムに組み込まれた宿主細胞の子孫である。単一の親細胞の子孫は、自然的、偶発的、または意図的な突然変異のために、形態、またはゲノムDNA補体もしくは総DNA補体において、元の親と必ずしも完全に同一である必要はないことが、理解される。
【0036】
実施形態では、rAAV粒子を産生するために使用される細胞は、HEK293細胞、BHK細胞、及びHeLa細胞を含む、哺乳動物細胞である。例示的なプロデューサー/宿主細胞には、HEK293などの、ヒト胎児腎(HEK)細胞が含まれる。好ましい実施形態では、プロデューサー細胞は、懸濁液に適合したHEK293細胞を含む、懸濁液中での成長のために適合される。更に好ましい実施形態では、プロデューサー細胞は、無血清培地中での増殖のために適合される。実施形態では、プロデューサー細胞は、例えば、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、細胞バッグ、またはバイオリアクタの、1つ以上であってもよい、少なくとも1つの培養容器内で増加する。
【0037】
本明細書に開示されるrAAV産生方法で使用されてもよい、プロデューサー細胞株には、哺乳動物または昆虫細胞株が含まれる。用語「細胞株」は、適切な培養条件下で、インビトロで、連続的または長期の増殖及び分裂が可能な細胞集団を指す。細胞株は、単一の前駆細胞に由来するクローン集団であってもよいが、必ずしもそうである必要はない。細胞株では、このようなクローン集団の保管または移動の間、ならびに組織培養における長期の継代の間、核型において、自発的または誘発される変化が生じてもよい。したがって、細胞株に由来する子孫細胞は、先祖細胞または培養物と、正確に同一ではなくてもよい。
【0038】
rAAV産生を行うためには、プロデューサー細胞株は、rAAVゲノム産生コンストラクト、ヘルパー機能コンストラクト、及び/またはAAVrep/capコンストラクトの1つ以上が、プロデューサー細胞内に存在することが必要となる場合がある。これらは、3つのコンストラクト(例えば、3つのプラスミド)として導入されてもよく、またはプロデューサー細胞は、これらの機能の一部または全てを安定的にプロデューサー細胞ゲノムに組み込む、1つ以上のコンストラクトを既に有していてもよい。本明細書で使用される場合、細胞に関する用語「安定した」または「安定的に組み込まれた」は、選択可能なマーカー、及び/または異種核酸配列もしくはプラスミドもしくはベクター(もしくは、その一部)などの核酸配列が、(例えば、相同組換え、非相同末端結合、トランスフェクションなどによって)染色体に挿入されているか、または染色体外でレシピエント細胞もしくは宿主生物に保持されており、染色体内に残存していたか、もしくは染色体外に一定時間保持されていることを、意味する。
【0039】
プロデューサー細胞株の拡大
【0040】
本明細書に記載の方法の実施形態では、(rAAVゲノムを含む)rAAVゲノム産生コンストラクト、及び/またはヘルパーウイルス機能及びAAV機能を提供する他のコンストラクトを導入するステップ前に、拡大相または拡大ステップを使用して、プロデューサー細胞の数を増加させる。拡大相または拡大ステップを、1つ以上の細胞培養容器において実施してもよい。例えば、拡大相または拡大ステップを、体積が増加する一連の細胞培養容器において実施してもよい。プロデューサー細胞株の拡大に使用される細胞培養培地は、プロデューサー細胞の増殖(すなわち、数の増加)に適切な、任意の培地であってもよい。好ましい実施形態では、拡大相培養培地は動物成分を含まず、例えば、血清または動物由来の他の成分を含まない。化学的に規定された、動物成分を含まない培地は、市販されている。
【0041】
実施形態では、本明細書では時に凝集抑制剤(ACA)と呼ばれる、凝集抑制補助剤が、細胞凝集を低減するために拡大培地に添加される。ACAは、例えば、Irvine Scientific社から市販されている。凝集抑制補助剤は、1つ以上の時点で、拡大相培養培地に添加されてもよい。実施形態では、凝集抑制補助剤には、デキストラン硫酸、ヘパリン、及び/または細胞の凝集を抑制する他の硫酸化グリコサミノグリカンが含まれる。実施形態では、凝集抑制補助剤は、約25μg/ml~約250μg/ml、例えば、約25μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、及び/または約200μg/mlの濃度に培地に添加されてもよい、ヘパリンナトリウムを含む。
【0042】
実施形態では、拡大相培養培地は、約2mM~約6mM(例えば、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、または約6mM)の濃度の、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上を含み、及び/またはこれらを含むように補充される。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上は、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの、1つ以上であってもよい。ジペプチドL-アラニル-L-グルタミンとして提供されるグルタミン補充剤の、市販されている例は、GlutaMAX(ThermoFisher)である。
【0043】
実施形態では、拡大相培養培地は、非イオン性ポリオール界面活性剤、例えば、ポロキサマー188(ポリエチレン及びポリプロピレンエーテルグリコールのコポリマー)を含み、及び/またはこれを含むように補充される。実施形態では、非イオン性ポリオール界面活性剤は、拡大相培養培地中に、約0.05%~約0.2%(w:v)(例えば、約0.05%、約0.1%、約0.1%、または約0.2%)で存在する。実施形態では、拡大相培養培地は、約4mMのL-アラニル-L-グルタミンジペプチド、及び0.1%(w:v)のポロキサマー188を含む。
【0044】
実施形態では、拡大相培養培地のpHは、約7.1~約7.5(例えば、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4または約7.5)のpHで維持される。実施形態では、pHは、COスパージングによって、約7.2~約7.4で維持される。実施形態では、1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトを細胞内に導入する前に、培養培地のpHを約6.9に変化させ、COのスパージングを停止させる。
【0045】
1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトの導入
【0046】
rAAVベクターの産生は、典型的には、基本的な生合成機構を提供するプロデューサー細胞株、ならびに(i)rAAVゲノム(目的の導入遺伝子及びAAV ITRに隣接する関連する調節因子)を提供するコンストラクト、及び(ii)rAAVベクター産生を指示するのに必要な遺伝子産物を提供する追加の遺伝子を含む1つ以上のコンストラクト、を必要とする。これらの追加の遺伝子には、ベクターゲノムの複製及びパッケージングを支援するのに必要な、AAV由来の遺伝子(例えば、AAVrep及びcap)、ならびにヘルパーウイルス由来の遺伝子(例えば、アデノウイルスE1a、E1b、E2a、E4、及びVA)が含まれる。
【0047】
本方法の実施形態では、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の少なくとも1つは、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列を含む1つ以上のベクターのトランスフェクションによって、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の1つ以上を含む1つ以上のウイルスの感染によって、1つ以上のベクターのトランスフェクションと1つ以上のウイルスの感染との組合せによって、または第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列のエレクトロポレーションによって、細胞内に導入される。
【0048】
「ヘルパーウイルス遺伝子」または「ヘルパーウイルス由来の遺伝子」とは、AAV遺伝子産物が複製に依存している、非AAV由来のウイルス遺伝子を指す。この用語には、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的AAV mRNAスプライシング、及びAAV DNA複製に関与するものを含む、AAV複製において必要なタンパク質及び/またはRNAが含まれる。ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、及びワクシニアウイルスなどの、既知のAAVヘルパーウイルスのいずれかから、誘導されてもよい。したがって、「ヘルパーウイルス機能」は、AAV産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子(例えば、アデノウイルスE1a、E1b、E2a、E4、及びVA)によって提供されるこれらの機能を指す。これらのヘルパーウイルス機能は、プロデューサー細胞内に導入された1つ以上のベクター上に提供してもよく、安定的にプロデューサー細胞によって発現してもよく、あるいは両者の組合せとしてもよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、「AAV機能」または「AAVアクセサリ機能」は、産生的AAV複製及びパッケージングのために、トランスで機能するAAV遺伝子産物を提供するために、プロデューサー細胞で発現され得るAAV由来のコード配列を指す。したがって、AAV機能には、rep及びcapを含めたAAVオープンリーディングフレーム(ORF)と、特定のAAV血清型のaapなどの他のものとが含まれる。このようなAAV機能は、1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトによって提供されており、これは、プラスミドベクター、非プラスミドベクター、またはAAVヘルパー機能を提供する、プロデューサー細胞の染色体に組み込まれたポリヌクレオチドコンストラクトであってもよい。本明細書に開示された方法で使用されてもよいAAV機能を提供するプラスミドは、市販されている。
【0050】
本方法の実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子は、プロデューサー細胞(例えば、HEK293細胞)によって構成的に発現され、一方、他のヘルパーウイルス遺伝子は、例えば、AAV産生に必要な残りのヘルパーウイルス遺伝子をコードする1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトのトランスフェクションによって、プロデューサー細胞内に導入される。AAV由来の遺伝子(例えば、rep及びcap)は、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子を含む同一のポリヌクレオチドコンストラクト中に含まれてもよく、別々のポリヌクレオチドコンストラクト上に含まれてもよく、rAAVゲノムを含むポリヌクレオチドコンストラクト(例えば、rAAVゲノム産生ベクター)がプロデューサー細胞株に導入された後に、rAAV粒子が生成される。実施形態では、rAAV粒子は、(i)rAAVゲノム産生ベクターと、ならびに(ii)ヘルパーウイルス遺伝子(例えば、E4、E2a、及びVA)及びAAV遺伝子(例えば、rep及びcap)を提供する1つ以上のベクターとを、プロデューサー細胞に一過的にトランスフェクトした後に産生される。実施形態では、これらのベクターは、プラスミドである。
【0051】
本明細書に開示された方法の実施形態では、拡大相に続いて、ITRに隣接する導入遺伝子を含む第一のポリヌクレオチドコンストラクトと、ならびにヘルパーウイルス遺伝子及びAAVrep及びcap遺伝子とを含む第二のポリヌクレオチドコンストラクトとが、拡大されたプロデューサー細胞内に導入される。第一の、及び第二のポリヌクレオチドコンストラクトがプラスミドである場合、この系は、2プラスミド系と呼ばれてもよい。
【0052】
本明細書に開示された方法の実施形態では、拡大相に続いて、ITRに隣接する導入遺伝子を含む第一のポリヌクレオチドコンストラクトと、ヘルパーウイルス遺伝子を含む第二のポリヌクレオチドコンストラクトと、ならびにAAVrep及びcap遺伝子とを含む第三のポリヌクレオチドコンストラクトとが、拡大されたプロデューサー細胞内に導入される。第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチドコンストラクトがプラスミドである場合、この系は、3プラスミド系と呼ばれてもよい。
【0053】
1つ以上の組換えプラスミドを使用してrAAVベクターを産生する場合、「rAAVゲノム産生プラスミド」は、導入遺伝子(調節配列に作動可能に連結されている)、及びrAAVへのパッケージングを意図した1つ以上のITRを含むプラスミド、ならびにプラスミドのクローニング及び増幅に重要であるが、rAAVベクターにパッケージングまたはカプシド化されない非rAAVゲノム成分(プラスミド骨格)を指す。
【0054】
用語「導入」及び「トランスフェクト」は、宿主細胞または標的細胞へのポリヌクレオチドの導入を指す。実施形態では、宿主細胞は、プロデューサー細胞、例えば、HEK293細胞である。実施形態では、rAAVゲノム産生プラスミドは、ヘルパーウイルス機能及びAAV機能を提供する1つ以上のプラスミドと一緒に、一過性トランスフェクション法によってプロデューサー細胞内に導入される。導入遺伝子及びITR(複数可)(例えば、rAAVゲノム産生ベクター)を含む第一のポリヌクレオチドコンストラクト、ならびに任意選択的に、AAV機能(rep及びcap遺伝子)及びヘルパーウイルス機能を提供する、第二の、及び/または第三のポリヌクレオチドコンストラクトを導入する、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム共沈、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション、及びカチオン性ポリマーベースのトランスフェクションを含む、標準的なトランスフェクション法によって達成されてもよい。カチオン性脂質ベースのトランスフェクションには、例えば、リポフェクタミン(DOSPA(2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンジニウムトリフルオロアセート)、及びDOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)の、3:1混合物)が含まれる。カチオン性ポリマーベースのトランスフェクションには、例えば、直鎖状、及び/または分枝鎖状の、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、及びポリアミドアミンデンドリマーなどが含まれる。実施形態では、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションは、PEIベースのトランスフェクション試薬を使用して行われる。PEIは、直鎖状または分枝鎖状ポリマーであってもよい。実施形態では、PEIは、20~25kDの直鎖状PEIである。例えば、実施形態では、PEIは、jetPEIまたはPEIpro(Polyplusから入手可能)である。加えて、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションを、カチオン性脂質とカチオン性ポリマーとの両方を含むトランスフェクション試薬を使用して行ってもよい。
【0055】
rAAVは、代替的には、バキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞(例えば、sf9細胞)内で、またはHSV感染ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞(例えば、BHK21)内で、産生されてもよい。いずれの方法でも、rAAV産生は、rAAVゲノムを保有する2つ以上の組換えウイルスと、1つ以上のAAVrep及びcap、ならびにrAAV複製及びパッケージングに必要なヘルパーウイルス機能との同時感染によって、宿主細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞内で各々誘発される。
【0056】
rAAV粒子の産生
【0057】
本明細書に開示される方法は、rAAVゲノムベクター、及び/またはヘルパーウイルス機能及び/またはAAV機能を提供するベクターを、プロデューサー細胞内に導入するステップ後、産生相(産生ステップとも呼ばれる)を含む。本明細書に記載の方法では、rAAVゲノムベクターの導入後、少なくとも約48時間(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、または97時間)にわたり細胞を培養することによって、rAAV粒子を産生する。実施形態では、トランスフェクトされたプロデューサー細胞を、約72~約100時間、約90時間~約100時間、約92時間~約98時間、または約94~約98時間培養する(すなわち、産生相を維持する)。実施形態では、産生相は、約96時間維持される。
【0058】
産生相培地は、プロデューサー細胞におけるrAAVの産生に適切な、任意の細胞培養培地であってもよい。実施形態では、産生培地は、血清などの動物性産物を含まない。この文脈において「含まない」とは、培地が、血清などの動物性産物の検出不可能なレベルを有することを意味する。実施形態では、産生培地のpHは、拡大相培地のpHと比較して低下している。実施形態では、産生培地は、約6.8~約7.4(例えば、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、または約7.14)のpHで維持される。実施形態では、pHは、約6.9~約7.3で維持される。
【0059】
本方法の実施形態では、産生相は、産生相細胞培養培地へのカルシウムイオンの添加を含む。従来技術では、細胞凝集を低減または防止するために、懸濁細胞培養プロセスで使用される培地製剤において、カルシウムイオンのレベルは、典型的には、低レベル(通常は、約0.1mM)で維持される。細胞接着に関与するタンパク質、例えば、E-カドヘリンは、カルシウム依存性である。E-カドヘリンの細胞外ドメインは、カルシウム依存性の同種親和性トランス-ダイマーを形成し、隣接する細胞との特異的な相互作用をもたらす一方で、細胞質ドメインはアクチン細胞骨格に結合している。したがって、本技術分野では、一般的に、低レベルのカルシウムを維持することが望ましいと考えられる。
【0060】
本明細書ではカルシウム補充とも呼ばれる、産生培地にカルシウムイオンを添加することは、カルシウムイオン(Ca2+)をカルシウム塩、例えば、CaClの形態で添加することを含む。カルシウムイオンは、産生相中、rAAVゲノムベクターの導入後(例えば、トランスフェクション後)に1回以上添加されてもよい。例えば、カルシウムイオンは、産生相開始から(すなわち、トランスフェクション後)、約0時間~約48時間の間の1つ以上の時間、例えば、約1時間、約6時間、約10時間、約12時間、約20時間、約24時間、約30時間、約36時間、及び/または約48時間で、添加されてもよい。実施形態では、カルシウムイオンは、産生相開始後(すなわち、トランスフェクション後)、約0時間~約24時間の間の1つ以上の時間、約0時間~約20時間、約0時間~約18時間、または約6時間~約12時間で、産生培地に添加される。実施形態では、カルシウムイオンは、トランスフェクション後、約6時間で、産生相培地に添加される。
【0061】
培養培地中のカルシウムイオンの総濃度が、0.3mM超~10mM未満となるように、カルシウムイオンを産生培地に添加してもよい。実施形態では、カルシウムイオンは、約1mM~約9mMの間、約1mM~約8mMの間、約1mM~約7mMの間、約2mM~約9mMの間、約2mM~約8mMの間、約2mM~約7mMの間、約2mM~約6mMの間、約2m~約5mMの間、または約2mM~約4mMの間の総濃度に添加される。実施形態では、カルシウムイオン(例えば、CaCl)は、約1mM、約1.5mM、約2mM、約2.5mM、約3mM、約3.5mM、約4mM、約4.5mM、約5mM、約5.5mM、約6mM、約6.5mM、約7mM、約7.5mM、約8mM、約8.5mM、約9mM、または約9.5mMの濃度に添加される。
【0062】
実施形態では、産生相は、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上を、産生相培地に添加することを含む。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上は、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの、1つ以上であってもよい。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの少なくとも1つを含む溶液は、例えば、トランスフェクション後、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、または約72時間の1つ以上で、産生相培地に添加されてもよい。
【0063】
実施形態では、産生相は、ソルビトールを産生相培地に添加することを含む。ソルビトールは、産生相の間の1つ以上の時点で、例えば、トランスフェクション後、約6時間、約12時間、約20時間、約24時間、及び/または約48時間で、産生相培地に添加されてもよい。実施形態では、ソルビトールは、約50mM~約200mM、または約80mM~約120mMの濃度に、産生培地に添加される。実施形態では、ソルビトールは、約100mMの濃度に、産生培地に添加される。
【0064】
実施形態では、産生相は、凝集抑制補助剤を産生相培地に添加することを含む。凝集抑制補助剤は、1つ以上の時点で(例えば、トランスフェクション後、約6時間、約10時間、約12時間、約20時間、約24時間、約48時間または約72時間の1つ以上で)、産生相培養培地に添加されてもよい。実施形態では、凝集抑制補助剤は、デキストラン硫酸、ヘパリン、及び/または細胞の凝集を抑制する他の硫酸化グリコサミノグリカンを含む。実施形態では、凝集抑制補助剤は、約25μg/ml~約250μg/ml、例えば、約25μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、及び/または約200μg/mlの濃度に培地に添加されてもよい、ヘパリンナトリウムを含む。
【0065】
実施形態では、凝集抑制補助剤は、産生相培地に添加されないか、または産生相の終了直前に、例えば、産生相の終了の、約24時間以内、約12時間以内、約6時間以内、約3時間以内、約2時間以内、または約1時間以内にのみ、産生相培地に添加される。
【0066】
rAAVの単離
【0067】
本明細書に記載される方法の実施形態は、産生相の終了時にrAAV粒子を単離するステップを含む。実施形態では、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び/または第三のポリヌクレオチド配列の導入後(上記ステップ(ii)後、換言すれば、産生相の開始後)、約48時間以上(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、97時間)で、単離されてもよい。例えば、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び第三のポリヌクレオチド配列の導入後、約90~約100時間、約92時間~約98時間、または約94~約98時間で、単離されてもよい。実施形態では、rAAV粒子は、第一の、第二の、及び/または第三のポリヌクレオチド配列の導入、約96時間(例えば、上記ステップ(ii)後、約96時間)で、単離される(例えば、細胞が溶解される)。rAAVの単離は、例えば、プロデューサー細胞を溶解するステップ、溶解物を清澄化するステップ、及び後続する精製ステップを含む、複数のステップを含んでもよい。
【0068】
rAAV粒子は、生成後にプロデューサー細胞内に保持されてもよく、細胞内rAAVベクターを放出する方法は、物理的及び化学的破壊、例えば、界面活性剤の使用、マイクロ流動化、及び/または均質化を含む。細胞溶解の間、及び/または細胞溶解の後同時に、夾雑物DNAを分解するために、ベンゾナーゼのようなヌクレアーゼが添加されてもよい。
【0069】
典型的には、得られた溶解物を清澄化することで、細胞破片が除去され、清澄化された細胞溶解物が提供される。濾過技術は、細胞破片などの比較的大きな粒子からrAAVベクターを分離する(精密濾過)のに有用であり、可溶性タンパク質不純物などの比較的小さな分子からrAAVベクターを分離する(限外濾過)のにも有用である。例えば、破壊されたrAAVベクター含有細胞は、1つ以上のミクロン径の細孔径のフィルタ(例えば、0.1~10.0μmの細孔径のフィルタ、例えば、0.45μm、及び/または細孔径0.2μmのフィルタ)を通過させてもよい。2段階の0.45/0.2μmカートリッジフィルタを使用して、フィルタ透過液に回収されるrAAVベクターを、フィルタによって保持される細胞破片から、分離してもよい。実施形態では、本方法は、溶解物または清澄化された溶解物の一部から、カプシド濃度、ウイルスゲノム力価、及びrAAV粒子と空AAV粒子との比の、少なくとも1つを決定することを更に含む。
【0070】
清澄化された溶解物中のrAAVベクターは、超遠心分離、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、及び接線流濾過(TFF)を含む、1つ以上の追加の精製方法を使用することによって、更に単離(精製)されてもよい。
【0071】
実施形態では、単離されたrAAV粒子は、空AAV粒子から分離され、方法は、少なくとも約30%、例えば、約30%~40%、少なくとも65%、約65%~90%などの、rAAV粒子対空AAV粒子との比を提供する。ヌクレアーゼ抵抗性AAVカプセル化DNA不純物のレベルは、ヘルパープラスミド中の関連する配列用に設計された、プライマー及びプローブを使用するqPCRによって、または高コピー数ゲノム配列に対して、評価されてもよい。qPCR前に行われるヌクレアーゼ処理への感受性により、ヌクレアーゼ感受性の「裸の」残留DNA不純物と、ヌクレアーゼ不感受性のカプセル化された残留DNA不純物とを、区別することができる。全AAVカプシドは、カプシド特異的ELISAアッセイ、及びカプシド粒子力価とVG力価との比較により決定された空カプシドの量を使用して、測定してもよい。分光光度法は、非AAVカプシド不純物が実質的に除去された試料に、使用してもよい。
【実施例
【0072】
実施例1.シェーカーフラスコモデルでのAAV産生における、塩化カルシウム添加の評価
【0073】
E125シェーカーフラスコ内で培養したHEK293細胞に適合させた懸濁液において、異なる産生時点及び濃度での塩化カルシウム添加、ならびに産生長さを評価した。フラスコ法の終了時に、培養物を採取し、化学的に溶解させた。条件間の成績を、物理的カプシド及びウイルスゲノム力価に基づいて評価した。
【0074】
シードトレイン及び拡大:
【0075】
HEK293細胞を、エルレンマイヤーフラスコ(E1000)中での試験に十分な数まで拡大させ、CO振盪培養器(New Brunswick S41i)中で培養した。シードトレインフラスコに、(200mlのシード体積中1mLあたり)2×10個の生存細胞(VC)の播種密度で播種した。このシード培地は、4mMのGlutaMAX、及び0.1%w:vのPoloxamer 188を補充した、化学的に規定された培地であった。播種後48時間で、化学的に規定された培地180mLを添加した(9:10、フィード:シード培地体積比)。
【0076】
細胞凝集を制御するために、凝集抑制剤(ACA、Fujifilm Irvine Scientific)を、最初の継代の間1mL/Lで、その後周期的に添加した。
【0077】
HEK293細胞を、1インチ軌道回転150rpmで撹拌しながら、37°C、CO8%で培養した。4mMのGlutaMAX、及び0.1%w:vのPoloxamer 188を補充した、化学的に規定された培地中で、細胞を培養した。
【0078】
AAV5-RPGRに対するトランスフェクション条件:
【0079】
E1000のバッフルなしフラスコ(Corning)中のHEK293細胞を、約1.8~2.4×10VC/mLの細胞密度で、接種後96時間で、プラスミド:ヘルパー(pFD6k,15.4kb);Rep/Cap(pRC2~5k,8.1kb);導入遺伝子(pRPGR-k,7.7kb)を、1:1:2のプラスミドコピー数比で、トランスフェクション時10個の生存細胞あたり総DNA量0.95μgで、トランスフェクトした。
【0080】
トランスフェクション混合物を、30mg/LのDNA濃度を有する、1.3:1(v:w)のPEI:DNA比で調製した。トランスフェクション混合物用の培地を、化学的に規定された培養培地とした(補充なし)。ヘルパー、Rep/Cap、及び導入遺伝子コンストラクトを、培地に添加した。PEIを培地に添加して混合し、次いで、混合物をDNAミックスに添加し、続いて、15分間回転及びインキュベートした。15分間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスをフラスコに添加し、これを、振盪培養器に戻した。
【0081】
rAAV2-GAD67に対するトランスフェクション条件:
【0082】
E1000のバッフルなしフラスコ(Corning)中のHEK293細胞を、約1.8~2.4×10VC/mLの細胞密度で、接種後96時間で、プラスミド:ヘルパー(pFD6k,15.4kb);Rep/Cap(pNLRep2-2~2k,10.3kb);導入遺伝子(pGAD67k,7.1kb)を、2:1.5:1のプラスミドコピー数比で、トランスフェクション時10個の生存細胞あたり総DNA量1.0μgで、トランスフェクトした。
【0083】
トランスフェクション混合物を、80mg/LのDNA濃度を有する、1.5:1(v:w)のFectoVIR:DNA比で調製した。トランスフェクション混合物用の培地を、化学的に規定された培養培地とした(補充なし)。ヘルパー、Rep/Cap、及び導入遺伝子コンストラクトを、培地に添加した。FectoVIRを培地に添加して混合し、次いで、混合物をDNAミックスに添加し、続いて、15分間回転及びインキュベートした。15分間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスをフラスコに添加し、これを、振盪培養器に戻した。
【0084】
AAV産生条件:
【0085】
AAV5-RPGRプラスミドでトランスフェクトしたHEK293細胞については、トランスフェクション後1時間の細胞を、E125のバッフルなしフラスコ(Corning)に投下して、1インチ軌道回転150RPMで、37℃、CO8%でインキュベーションを継続した。トランスフェクトされたHEK293細胞を、1インチ軌道回転180RPMで、37°C、8%のCOでインキュベートして、及び1MのCaClストック溶液を、トランスフェクション後、6時間または24時間のいずれかで、0.5mMまたは2.0mMの濃度に添加した。対照フラスコについては、ストック溶液を添加しなかった。
【0086】
AAV5-GAD67プラスミドでトランスフェクトしたHEK293細胞については、トランスフェクション後1時間の細胞を、E125のバッフルなしフラスコ(Corning)に投下して、1インチ軌道回転150RPMで、37℃、CO8%でインキュベーションを継続した。トランスフェクトしたHEK293細胞を、1インチ軌道回転150RPMで、37°C、CO8%でインキュベートして、以下の1つ:トランスフェクション後20時間で、4M D-ソルビトールを100mMソルビトール濃度に;トランスフェクション後20時間で、4M NaClストック溶液を50mM NaCl濃度に;トランスフェクション後24時間で、1M CaClストック溶液を2mM CaCl濃度に;トランスフェクション後24時間で、1M MgClストック溶液を2mM MgCl濃度に;トランスフェクション後24時間で、1M CaCl及び1M MgClストック溶液を2mM CaCl及び2mM MgCl濃度に、添加した。対照フラスコについては、ストック溶液を添加しなかった。
【0087】
溶解条件:
【0088】
細胞をトランスフェクション後96時間で採取した。50X溶解緩衝液(0.1%のTriton(商標) X-100、2mMのMgCl、1mMのトリス、125U/10個のベンゾナーゼ細胞の、最終濃度を達成するように配合)を、細胞培養に2%v/vで添加し、37°C及び150RPMで2時間インキュベートした。
【0089】
ウイルスカプシド及びウイルスゲノム力価の測定:
【0090】
ウイルスカプシド(VC)力価は、製造業者のガイドラインに従って、Progen(登録商標)製のAAV滴定ELISAキット、またはGyros Protein Technologies製のGYROLAB(登録商標)AAVX滴定キットを使用して、ELISAによって行った。
【0091】
ウイルスゲノム(VG)濃度及び力価を、qPCRによって決定した。試料をDNAse I処理に供し、続いてプロテイナーゼ K処理に供した。適量のサンプルを、各導入遺伝子の特定の領域を標的とするヌクレオチド、フォワードプライマー、リバースプライマー、及びTaqmanプローブを含む、qPCRマスターミックスと混合することによって、4つの系列希釈を評価した。標的領域を含むプラスミドDNAまたはDNAオリゴヌクレオチドを使用して、7点標準曲線を作成し、これを使用して、試料1つあたりのウイルスゲノム数を評価した。
【0092】
結果:
【0093】
トランスフェクション後、6時間または20時間で、0.5mMまたは2mMのCaClを添加した後、ウイルスゲノム(VG)力価は、補充なしの対照培養と比較して、rAAV5に関して3.5倍増加した。図1Aを参照のこと。Ca2+補充は、rAAV2に関するウイルスゲノム(VG)力価を、補充なしの対照培養と比較して、約4~5倍増加させた。図1Bを参照のこと。加えて、全対空カプシド(F:E)比は、対照培養において10~15%から、rAAV5に関して30~40%に増加した。図1Aを参照のこと。Ca2+補充を、トランスフェクション後96時間へと延長された産生時間と組合せた場合、ウイルスゲノム力価及びF:E比は、共に有意に増加した。図1A及び図1Bを参照のこと。NaClまたはMgClの補充は、対照と比較して、VG力価を増加させなかったが、ソルビトールの補給は、トランスフェクション後96時間で採取した場合、rAAV2のVG力価に何らかの改善を提供するよう見られる。図1Bを参照のこと。
【0094】
実施例2:バイオリアクタにおけるAAV産生時の塩化カルシウムの添加の評価(250mlスケール)
【0095】
この試験では、AAV産生相の間に、250mLのスケールの撹拌槽バイオリアクタを使用して、CaClの添加、CaClの添加時間、ACA添加、GlutaMAXの添加、及び特定のフィードの添加を評価する。
【0096】
シードトレイン:
懸濁液に適合されたHEK293細胞を、エルレンマイヤーフラスコ(E125、E250、E500、及びE1000)中での試験に十分な数まで拡大させ、CO振盪培養器(New Brunswick S41i)中で培養した。シードトレインフラスコに、播種密度1.5または3.0×10VC/mLのいずれかで播種し、各々、96時間及び72時間の培養時間にわたって拡大させた。
【0097】
細胞凝集を制御するために、凝集抑制剤(ACA、Irvine Scientific)を、最初の継代の間1mL/Lで、その後周期的に添加した。
【0098】
HEK293細胞を、1インチ軌道回転150rpmで撹拌しながら、37°C、CO8%で培養した。4mMのGlutaMAX、及び0.1%w:vのPoloxamer 188を補充した、化学的に規定された培地中で細胞を培養した。
【0099】
バイオリアクタ細胞拡大
【0100】
250mLの撹拌タンクバイオリアクタ中で拡大させるためのシード培地に、4mMのGlutaMAX、及び0.1%w:vのPoloxamer 188を補充した、化学的に規定された培地を添加した。HEK293細胞を、総作業体積(113mL)の45%の体積で、2.0×10VC/mLの標的シード密度で播種した。
【0101】
接種後48時間で、細胞に、化学的に定義された培地(補充なし培地)を、総作業体積(100mL)の40%の供給体積で供給した。
【0102】
温度設定値は、37℃であり、pH設定値は、7.30±0.05であり、DO設定値は、50%であった。バイオリアクタ中の空気と純粋な酸素をスパージングして、DO濃度を制御し、CO(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を添加して、pHを制御した。撹拌を、総作業体積45%で7.5W/mと、総作業体積85%で17.5W/mとの間で変化させた。
【0103】
トランスフェクション
【0104】
HEK293細胞を、約1.6~2.2×10VC/mLの細胞密度で、接種後96時間で、プラスミド:ヘルパー(pFD6k,15.4kb);Rep/Cap(pNLRep2-2-k,10.3kb);導入遺伝子(pGAD67k,7.1kb)を、2:1.5:1のプラスミドコピー数比で、トランスフェクション時10個の生存細胞あたり総DNA量1.0μgで、トランスフェクトした。
【0105】
トランスフェクション混合物を、FectoVIR:DNA比1.5:1(v:w)、及びトランスフェクション混合物中のDNA濃度80mg/Lで調製した。トランスフェクション混合物用の培地は、化学的に規定された培養培地(補充なし)であった。ヘルパー、Rep/Cap、及び導入遺伝子コンストラクトを、培地に添加した。FectoVIRを培養培地に添加して混合し、次いで、混合物をDNAミックスに添加し、続いて、15分間回転及びインキュベートした。15分間のインキュベーション後、トランスフェクションミックスをバイオリアクタに添加した。
【0106】
rAAV産生
【0107】
rAAV産生パラメータ:温度を37°Cに設定;DO設定値を50%;pH設定値を6.9、CO添加なし;ならびに撹拌設定値を17.5W/m、及び総作業体積を85%とした。試験した産生条件は表1に記載される。
【0108】
フィードを添加した条件について、BalanCD HEK293フィードを、産生相の間に、添加当たり3%v/v(添加当たり6.4mL)で、4回(第一のカルシウム添加時、トランスフェクション後24時間、48時間、及び72時間で)添加した。CaClを添加した試験では、CaClの1Mストック溶液を、トランスフェクション後、6時間、12時間、または20時間のいずれかで、2mMCaClの濃度に添加した。ACAを添加した試験では、2mL/LのACAをトランスフェクション後20時間で添加した。産生相の間にGlutaMAXを添加した試験では、GlutaMAXを、4回(トランスフェクション後、6時間、24時間、48時間、及び72時間)添加して、バイオリアクタ中、添加量当たり1mM(添加量あたり1.1mL)の、GlutaMAXの濃度を達成した。CaCl、ACA、BalanCD HEK293フィード、またはGlutaMAXを同時に添加する場合には、個々の溶液を組合せた。
【表1】
【0109】
細胞溶解
【0110】
細胞をトランスフェクション後96時間で採取した。50X溶解緩衝液(0.1%のTriton(商標) X-100、2mMのMgCl、及び1mMのトリスの最終濃度を達成するように配合)を、ベンゾナーゼ125U/10全細胞と共に2%v/vでバイオリアクタに添加し、37℃、及び17.5W/m3で、全作業体積85%で、2時間インキュベートした。
【0111】
ウイルスカプシド及びウイルスゲノム力価の決定
【0112】
ウイルスカプシド及びウイルスゲノム力価の決定は、上記のように行った、
【0113】
結果:
【0114】
バイオリアクタスケールダウンモデルでの、rAAV産生相中のカルシウム補充は、rAAV2について、VG力価を、対照と比較して7~8倍増加させ、F:E比を、5~10%から65~90%に増加させた。図2A及び2Bを参照のこと。Ca2+(ACA)補充に加えて、産生相中に、ACA及びグルコースベースのフィードを添加すると、ACAまたはグルコースベースのフィードを含まないCa2+(ACA)補充と比較して、F:E比が低下した。しかしながら、F:E比は、対照よりも依然として約4倍高かった。図2Bを参照のこと。グルタミン補充は、産生相中に、(CaClを含む)同一の補充を含むがグルタミンを含まない試験と比較して、VG力価が改善すると見られる。図2Aを参照のこと。
【0115】
実施例3:rAAV産生時の塩添加のタイミング及び濃度の評価
【0116】
異なる時点または異なる濃度でCaClを添加した後の、VG力価とF:Eカプシド比を試験することによって、及び他の塩を添加した効果を評価することによって、rAAV2及びrAAV5血清型の産生を評価した。CaCl(2mMの最終濃度に)の添加のタイミングを、CaClを、トランスフェクション前1時間で(-1時間)、トランスフェクション時で(0時間)、またはトランスフェクション後、6時間、12時間、18時間、及び24時間で添加して評価した。CaCl濃度の範囲を、CaClを、トランスフェクション後12時間で、0.3mM、2mM、4mM、6mM、または10mMの最終濃度に添加して試験した。更に、2mMの最終濃度へのCaClの添加を、2mMの最終濃度へのMgClの添加、または4mMの最終濃度へのNaClの添加(各々、トランスフェクション後12時間での添加)と比較した、
【0117】
シードトレイン及び拡大、トランスフェクション、産生、並びに溶解の方法は、ACAをトランスフェクション後いかなる条件にも添加しなかったことを除いて、rAAV2-GAD67及びrAAV5-RPGRについて上記されたものと、実質的に同一であった。産生相を終了し、トランスフェクション後96時間で、細胞を溶解させた。
【0118】
結果:
NaClまたはMgClを産生相培養培地に添加しても、VG力価またはF:Eカプシド比は増加しなかった(図3A及び3B)。トランスフェクション前1時間で、CaClを2mMに添加することによるカルシウム補充は、対照(カルシウム補充なし)と比較して、VG力価及びF:Eカプシド比が有意に低下させた。図4A及び4Bを参照のこと。トランスフェクション後、0~18時間で、CaClを2mMに添加することによるカルシウム補給は、対照と比較して、VG力価を1.5倍上昇させた。図4Aを参照のこと。トランスフェクション後0時間で、CaClを添加した場合、F:Eカプシド比の増加が観察された。図4Bを参照のこと。VG力価の改善は、CaClを、2~6mMの最終濃度に添加した場合(図5A)に観察され、最も高いF:E比は、CaClを、2mMまたは4mMの濃度に添加した場合に生じた(図5B)。
【0119】
実施例4:250mlのバイオリアクタにおける、AAV2、AAV5、及びAAV8の産生
【0120】
rAAV2-GAD67、rAAV5-RPE65、及びrAAV8-CNGB3の産生を、撹拌槽タンクバイオリアクタ中で、250mLのスケールで実施し、VG力価及びF:E比に対するCaClの添加の影響を評価した。シードトレイン、拡大、トランスフェクション、産生、及び溶解の方法を、上記の実施例3に記載されるようにして実施した。具体的には、トランスフェクション後12時間で、CaClを産生培養物に添加し2mMにした。トランスフェクション後いかなる条件にも、ACAを添加しなかった。産生相を終了し、トランスフェクション後96時間で細胞を溶解させた。
【0121】
結果:
【0122】
12時間のトランスフェクション後で、CaClを2mMに添加することによるカルシウム補充は、rAAV2、rAAV5、及びrAAV8に対して、各々、1.5倍、1.4倍、及び1.5倍の、VG力価の改善をもたらした(図6A)。更に、カルシウム補充は、rAAV5について、F:E比を3倍に増加させた(図6B)。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】