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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(54)【発明の名称】不凍タンパク質に基づく植物保護剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/00 20060101AFI20240625BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240625BHJP
   A01N 63/50 20200101ALI20240625BHJP
   C07K 14/415 20060101ALN20240625BHJP
   C07K 14/405 20060101ALN20240625BHJP
【FI】
C07K14/00
A01P21/00 ZNA
A01N63/50
C07K14/415
C07K14/405
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577859
(86)(22)【出願日】2022-06-15
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022066416
(87)【国際公開番号】W WO2022263568
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】21179554.7
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】523471747
【氏名又は名称】グローバケム エヌヴイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デール,ガイ
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲルス,リスベス
【テーマコード(参考)】
4H011
4H045
【Fターム(参考)】
4H011AB03
4H011BC20
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、不凍タンパク質、特に植物保護でのその使用のための不凍タンパク質に関する。本発明はまた、不凍タンパク質をコードする核酸、不凍タンパク質を生成するための方法、不凍タンパク質またはそれをコードする核酸を含む植物、少なくとも1種の不凍タンパク質の組成物にも関する。本発明は、特に、植物保護剤としての不凍タンパク質またはそれを含む組成物の使用ならびに有害生物および/または非生物的ストレスから植物を保護する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列を含む少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物。
【請求項2】
前記不凍タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記不凍タンパク質が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記不凍タンパク質が、本質的に、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記不凍タンパク質が、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
植物保護剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
植物保護剤としての、少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の使用。
【請求項8】
前記組成物が請求項1~6のいずれか1項に記載のものである、請求項7に記載の組成物の使用。
【請求項9】
非生物的ストレスおよび/または有害生物に対する植物保護剤としての、請求項7または8に記載の組成物の使用。
【請求項10】
前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスまたは渇水ストレスである、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項11】
前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが凍結ストレスである、請求項7~10のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項12】
前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが渇水ストレスである、請求項7~11のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項13】
前記植物保護剤が有害生物に対するものである、該有害生物が、任意により、真菌または昆虫などのキチンを含有する生物である、請求項7~9のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項14】
前記植物保護剤が有害生物に対するものである、該有害生物が真菌である、請求項7~9または13のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
前記真菌がフザリウム属またはセプトリア属生物種である、請求項13または14に記載の組成物の使用。
【請求項16】
前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、請求項7~15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
植物またはその一部分に対する少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の施用を含む、非生物的ストレスおよび/または有害生物から植物を保護する方法。
【請求項18】
前記組成物が、請求項1~6のいずれか1項に記載のものである、請求項17に記載の植物を保護する方法。
【請求項19】
前記植物または植物部分が前記組成物中に浸漬される、請求項17または18に記載の植物を保護する方法。
【請求項20】
前記組成物が、植物、または種子、例えば、被覆種子などの植物の一部分の表面に対して噴霧することにより施用される、請求項17~19のいずれか1項に記載の植物を保護する方法。
【請求項21】
前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスまたは渇水ストレスである、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスである、請求項17~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、渇水ストレスである、請求項17~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記有害生物が、真菌または昆虫などのキチンを含有する生物である、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記有害生物が真菌である、請求項17~20または24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記真菌がフザリウム属(Fusarium)またはセプトリア属生物種である、請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、請求項17~26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不凍タンパク質(anti-frost protein)、特に植物保護でのその使用のための不凍タンパク質に関する。本発明はまた、不凍タンパク質をコードする核酸、不凍タンパク質を生成するための方法、不凍タンパク質またはそれをコードする核酸を含む植物、少なくとも1種の不凍タンパク質の組成物にも関する。本発明は、特に、植物保護剤としての不凍タンパク質またはそれを含む組成物の使用および植物を保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結(frost)ストレスまたは渇水ストレスなどの非生物的ストレスは、植物にとって、寒さ、渇水、塩濃度、熱、毒素などに対する適切な調整は常に可能ではないので、農業産業での大きな懸案事項である。非生物的ストレスとは、生存生物に対する非生存因子の負の影響を表わす。非生物的ストレス因子は、生物に対して損傷を及ぼし得る、激しい日光、温度または風などの天然に存在する因子である。非生物的ストレスは、動物にも同様に影響を及ぼすが、植物は特に環境因子に依存し、位置を能動的に変化させることができず、したがって、非生物的ストレスを特に受け易い。非生物的ストレスは、全世界的に、作物の生育および生産性に関する最も有害な因子である。
【0003】
例えば、渇水ストレスは、農業界内の収穫高減少の主な原因のうちの1つである。同様に、凍結もまた、少なくとも通年にわたって凍結温度を超える温度を有しない地域では、収穫高減少に顕著に寄与する。
【0004】
植物が渇水ストレスに対抗する1つの重要な方法は、その気孔を閉じることによる。気孔開閉を調節する主要なホルモンは、アブシジン酸である。渇水ストレスへの対処ならびに水の取り込みおよび持ち出し(export)での別の重要な因子は、アクアポリンである。アクアポリンは、水および他の必須の溶質を輸送する膜チャネルを構成する内在性膜タンパク質である。
【0005】
霜害に寄与する1つのメカニズムは、植物細胞の構造および機能を破壊し得る水結晶の形成である。具体的には、凍結は、植物細胞の収縮を引き起こし、水を細胞間腔へと押し込み、ここで水は凍結し、氷晶を形成することができる。膜は破壊され、漏れるようになる。温度が上昇し、融解し始めると、水は浸透圧により細胞へと吸収されて戻る。これが迅速に起こる場合、組織には損傷がないが、融解が低速である場合、細胞から水が除かれ、脱水状態になり、「凍結焼け」が生じる。凍結ストレスには、例えば、十分な水が利用可能である場合には頭上散水、または植物付近の放射熱を保つための植物の頭上防護により、対抗することができる。植物自体もまた、耐凍性を与えるために、不凍タンパク質(AFP)を分泌する。
【発明の概要】
【0006】
本出願は、驚くべきことに、一部のAFPが、同時にキチナーゼであることを示す。
【0007】
キチンは、化学式(C8H13O5N)nを有する、糖グルコースの誘導体であるN-アセチルグルコサミンの多量体である。長鎖多糖は、異なる分岐群にまたがる多様な異なる生物に存在する。例えば、キチンは、真菌の細胞壁、甲殻類および昆虫などの節足動物の外骨格、軟体動物の歯舌、ならびに魚類の鱗の主成分である。キチンは、セルロースと同等の構造を有する。
【0008】
より短いオリゴマーへのキチン多糖の生物学的変換は、保存されたキチン結合性ドメインおよびキチン特異的活性部位を含む加水分解酵素を必要とする。多数のキチン分解酵素が、エネルギー源としてのキチンの分解のために、様々な細菌および真菌により産生される。それらのすべてがグリコシルヒドロラーゼであるが、反応メカニズム、熱安定性および生成物特性に関して異なる[Patil et al., Enzyme Microb. Technol., 2000. 26: p. 473-483]。キチン分解性ヒドロラーゼは、それらの作用様式に従って分類することができる。エンドキチナーゼ(EC 3.2.1.14)は、キチン多糖鎖に無作為に結合し、内部グリコシド結合を加水分解して、二量体から多量体の範囲の様々な断片サイズを生じる。対照的に、エキソキチナーゼ(EC 3.2.1.29)は、キチンの還元性または非還元性末端に結合し、単量体または比較的程度は低いが二量体GlcNAc単位を放出する。これらの酵素は、キチンの完全な分解に対して必要である。最後に、キトビアーゼ(EC 3.2.1.29)がGlcNAc二量体を切断し、GlcNAc単量体を放出する[Tews et al., Nat. Struct. Biol., 1996. 3: p. 638-648]。セルラーゼおよびリゾチームなどの他の酵素もまた、キチンを対象とするが、これらの基質に対して特異的でない幾分かの加水分解活性を示すことが公知である[Wu et al., J Food Sci Technol, 2012. 49(6): p. 695-703;Aiba, Carbohydr Res, 1994. 261: p. 297-306]。
【0009】
植物の一般的な有害生物としては、真菌、昆虫および軟体動物が挙げられる。有害生物の蔓延は、収穫高の減少および望ましくない副生成物を伴う農産物の汚染をもたらし得る。
【0010】
現在商業的に応用される化学殺虫剤は、殺昆虫剤、除草剤、殺真菌剤および殺鼠剤としての使用のための有機塩素剤、有機リン酸剤、カルバメート、ピレスロイド、トリアジンおよびネオニコチノイドの群の物質を含む。これらの殺虫剤は、農業領域に対してのみ用いられるのではなく、望ましくない生物種の存在を排除または防止するために、非農業的公衆都市緑地領域、運動場、ペットシャンプー、建築材料または船の底部に対しても用いられる。多数の健康への悪影響が化学殺虫剤に関連付けられており、高い職業的、意図的または偶発的曝露は入院または死亡につながり得る一方で、曝露は、皮膚接触、汚染消費財の摂取または吸入を介して起こり、これに際して代謝され、排出され、体脂肪中に貯蔵または蓄積される可能性があるので、これらの物質は、批判的に論評されてきた[Nicolopoulou-Stamati et al., Front. Public Health, 2016, 4:148]。
【0011】
理想的な殺虫剤は、ヒトの健康に対して無害であるべきであるだけでなく、環境に優しく、所与の有害生物からの植物の保護に対して可能な限り効果的かつ特異的でもあるべきである。さらに、殺虫剤は、理想的には有害生物中での耐性の発達を回避するべきである。これらの基準を満たす新規製品に対する必要性が未だにある。
【0012】
したがって、本出願は、AFPを用いて、非生物的ストレスおよび生物的ストレス(有害生物によるなど)の両方からの保護に対処する。
【0013】
[発明の説明]
本発明は、非生物的ストレス、特に凍結ストレスおよび渇水ストレスに対する、かつ/または有害生物防除に対する不凍タンパク質に基づくアプローチを提供することにより、現行の植物保護剤の課題を克服することを目的とする。具体的には、本発明のアプローチは、植物での防御(defence)メカニズムの活性化を誘導することにより(すなわち、植物免疫を誘導することにより)、生物的および/または非生物的ストレスから植物を保護するための不凍タンパク質に依存する。植物は、広範囲の病原体および非生物的ストレスに対してそれ自体を防御することを可能にする免疫系を有する。一部の不凍タンパク質はまた、ヒトまたは他の高等動物で産生されないキチンを特異的に分解することもでき、したがって、ヒト食物摂取に対するかまたは他の非標的生物に対するリスクをもたらさないと予期される。さらに、不凍タンパク質は、完全に生物学的に分解可能であり、したがって環境に優しい。このことの他に、キチンが真菌または昆虫などの有害生物中、ならびに軟体動物の歯舌中の主要な構造成分であることを考えると、そのような有害生物がキチン分解活性を有する不凍タンパク質に対する耐性を容易に発達させることは予期されない。
【0014】
本発明者らは、一部の不凍タンパク質が、植物免疫系を活性化することを見出した。植物は、このメカニズムにより、非生物的ストレスに対してまたは真菌もしくは昆虫などの特定の有害生物に対してより耐性になる。
【0015】
本発明者らはまた、キチン分解活性を有する一部の不凍タンパク質を、実際に、真菌、昆虫などの有害生物および非生物的ストレスから植物を保護するために用いることができることも見出した。
【0016】
本出願は、例えば、植物またはその一部分の表面に対する不凍タンパク質の施用を介して、有害生物蔓延に対抗するための植物保護剤として、どのように不凍タンパク質が適用されるかを初めて示す。
【0017】
さらに、不凍タンパク質および植物保護剤としてのそれらのその後の使用(ensuing use)が、確立された物質と比較して異なる利点を提供するので、本発明は、先行技術の植物保護剤に対して重要な貢献をする。そのような利点としては、取り扱い中の安全上の危険が存在しないことまたは食物連鎖への侵入時に病原性を有しないことが挙げられる。さらに、確立された物質と比較する場合、はるかに低濃度の本発明に係る不凍タンパク質が、植物保護を達成するために必要とされる。このことはコスト削減を導き得る。
【0018】
最後に、本発明者らは、本発明に係る不凍タンパク質の施用を、先行技術の植物保護剤の施用と組み合わせて、それにより、植物保護をさらに強化することができることを見出した。
【0019】
したがって、本発明は、以下の好ましい実施形態を提供する:
[1]配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列を含む少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物。
[2]前記第1のアミノ酸配列が、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である、[1]に記載の組成物。
[3]前記不凍タンパク質が、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記第1のアミノ酸配列が、配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である、[1]に記載の組成物。
[5]前記不凍タンパク質が、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む、[1]または[4]に記載の組成物。
[6]前記不凍タンパク質が、本質的に、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の組成物。
[7]前記不凍タンパク質が、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%、例えば100%同一である第1のアミノ酸配列からなる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の組成物。
[8]植物保護剤である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の組成物。
[9]液体組成物である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の組成物。
[10]水性組成物である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の組成物。
[11]前記不凍タンパク質が、0.01mg/L(w/v)~100mg/L(w/v)の濃度で前記組成物中に含まれる、[1]~[10]のいずれか1つに記載の組成物。
[12]前記不凍タンパク質が、0.1mg/L(w/v)~70mg/L(w/v)の濃度で前記組成物中に含まれる、[1]~[11]のいずれか1つに記載の組成物。
[13]前記不凍タンパク質が、5mg/L(w/v)~30mg/L(w/v)の濃度で前記組成物中に含まれる、[1]~[12]のいずれか1つに記載の組成物。
[14]ポリビニルアルコールを含む、[1]~[13]のいずれか1つに記載の組成物。
[15]6%(v/v)~10%(v/v)の濃度、好ましくは約8%(v/v)の濃度でポリビニルアルコールを含む、[1]~[14]のいずれか1つに記載の組成物。
[16]植物保護剤としての、少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の使用。
[17]前記組成物が[1]~[15]のいずれか1つに記載のものである、[16]に記載の組成物の使用。
[18]非生物的ストレスおよび/または有害生物に対する植物保護剤としての、[16]または[17]に記載の組成物の使用。
[19]前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスまたは渇水ストレスである、[16]~[18]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[20]前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが凍結ストレスである、[16]~[19]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[21]前記植物保護剤が非生物的ストレスに対するものである、該非生物的ストレスが渇水ストレスである、[16]~[20]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[22]前記植物保護剤が有害生物に対するものである、該有害生物が、任意により、真菌または昆虫などのキチンを含有する生物である、[16]~[18]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[23]前記植物保護剤が有害生物に対するものである、該有害生物が、任意により、真菌または昆虫である、[16]~[18]および[22]のいずれか1つに記載の組成物の使用。
[24]前記有害生物が真菌である、[16]~[18]および[22]~[23]のいずれか1つに記載の使用。
[25]前記真菌が、プッチニア属(Puccinia)、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属(Septoria)生物種である、[22]~[24]のいずれか1つに記載の使用。
[26]前記真菌がフザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、[22]~[25]のいずれか1つに記載の使用。
[27]前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)生物種、好ましくはフザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)である、[22]~[26]のいずれか1つに記載の使用。
[28]前記真菌がプッチニア属生物種である、[22]~[24]および[25]のいずれか1つに記載の使用。
[29]前記真菌がプッチニア・トリチシナ(Puccinia triticina)である、[22]~[25]および[28]のいずれか1つに記載の使用。
[30]前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、[16]~[29]のいずれか1つに記載の使用。
[31]前記植物が、コムギなどの耕地作物である、[16]~[30]のいずれか1つに記載の使用。
[32]前記組成物が、植物またはその一部分に対して施用される、[16]~[31]のいずれか1つに記載の使用。
[33]非生物的ストレスおよび/または有害生物が発生する前に、前記組成物が植物またはその一部分に対して施用される、[16]~[32]のいずれか1つに記載の使用。
[34]前記植物の一部分が、葉、果実または種子である、[16]~[33]のいずれか1つに記載の使用。
[35]前記植物の一部分が葉である、[16]~[34]のいずれか1つに記載の使用。
[36]前記植物の一部分が種子である、[16]~[34]のいずれか1つに記載の使用。
[37]前記組成物が、播種前に種子に対して施用される、[36]に記載の使用。
[38]前記組成物が植物免疫を誘導する、[16]~[37]のいずれか1つに記載の使用。
[39]1種以上のさらなる植物保護剤が植物またはその一部分に対して施用され、該さらなる植物保護剤が不凍タンパク質でない、[16]~[38]のいずれか1つに記載の使用。
[40]植物またはその一部分に対する少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の施用を含む、非生物的ストレスおよび/または有害生物から植物を保護する方法。
[41]前記組成物が、[1]~[15]のいずれか1つに記載のものである、[40]に記載の植物を保護する方法。
[42]非生物的ストレスおよび/または有害生物が発生する前に、前記組成物が植物またはその一部分に対して施用される、[40]または[41]に記載の植物を保護する方法。
[43]前記植物の一部分が、葉、果実または種子である、[40]~[42]のいずれか1つに記載の植物を保護する方法。
[44]前記植物の一部分が葉である、[40]~[43]のいずれか1つに記載の植物を保護する方法。
[45]前記植物の一部分が種子である、[40]~[43]のいずれか1つに記載の植物を保護する方法。
[46]前記組成物が、播種前に種子に対して施用される、[45]に記載の植物を保護する方法。
[47]前記植物または植物部分が前記組成物中に浸漬される、[40]~[46]のいずれか1つに記載の植物を保護する方法。
[48]前記組成物が、植物、または種子、例えば、被覆種子などの植物の一部分の表面に対して噴霧することにより施用される、[40]~[47]のいずれか1つに記載の植物を保護する方法。
[49]前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスまたは渇水ストレスである、[40]~[48]のいずれか1つに記載の方法。
[50]前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、凍結ストレスである、[40]~[49]のいずれか1つに記載の方法。
[51]前記方法が非生物的ストレスから植物を保護するためのものであり、該非生物的ストレスが、任意により、渇水ストレスである、[40]~[50]のいずれか1つに記載の方法。
[52]前記方法が有害生物から植物を保護するためのものであり、該有害生物が、任意により、真菌または昆虫である、[40]~[48]のいずれか1つに記載の方法。
[53]前記有害生物が、真菌または昆虫などのキチンを含有する生物である、[40]~[48]および[52]のいずれか1つに記載の方法。
[54]前記有害生物が真菌である、[40]~[48]および[52]~[53]のいずれか1つに記載の方法。
[55]前記真菌が、プッチニア属、フザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、[52]~[54]のいずれか1つに記載の方法。
[56]前記真菌がフザリウム属(Fusiarum)またはセプトリア属生物種である、[52]~[55]のいずれか1つに記載の方法。
[57]前記真菌が、フザリウム属(Fusiarum)生物種、好ましくはフザリウム・クルモルムである、[52]~[56]のいずれか1つに記載の方法。
[58]前記真菌がプッチニア属生物種である、[52]~[55]のいずれか1つに記載の方法。
[59]前記真菌がプッチニア・トリチシナである、[52]~[55]および[58]のいずれか1つに記載の方法。
[60]前記植物が、耕地作物、結実植物または野菜である、[40]~[59]のいずれか1つに記載の方法。
[61]前記植物が、コムギなどの耕地作物である、[40]~[60]のいずれか1つに記載の方法。
[62]前記組成物が植物免疫を誘導する、[40]~[61]のいずれか1つに記載の方法。
[63]植物またはその一部分に対する1種以上のさらなる植物保護剤の施用をさらに含み、該さらなる植物保護剤が不凍タンパク質でない、[40]~[62]のいずれか1つに記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】植物保護剤としてのキチナーゼ活性を有するAFPの使用を示す図である。F.クルモルム生育および植物健康状態を、キチナーゼ活性を有するAFPの存在下で評価した。(A)対照;(B)対照+F.クルモルム;(C)Vaffr-2d+F.クルモルム。
図2】凍結ストレスに対する不凍タンパク質の保護的活性(損傷減少)を示す図である。不凍タンパク質Vaffr-2dの葉面散布により試験した。結果は対照(CTL)に対して標準化されている。
図3】非生物的ストレスに対する植物保護剤としてのVaffr-2dの使用を示す図である。凍結ストレスの存在下での葉面散布後の西洋ナシの収穫量。
図4】植物免疫の誘導因子としてのAFP-6を示す図である。コムギBenchmarkでのプッチニア・トリチシナに対する種子処理としての%有効性。
図5】植物免疫の誘導因子としてのAFP-6を示す図である。(A)コムギKeitumでのプッチニア・トリチシナに対する種子処理としてのAFP-6の%有効性。(B)コムギKeitumでのプッチニア・トリチシナに対する種子処理としてのDifend extraの%有効性。
図6A】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するAFP-6の作用を示す図である。0.1g/tonまたは0.175g/tonでAFP-6を用いて種子を処理し、播種後4、7、9および14日間後(dps)に実生のサンプルを採取した。(A)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたLOX mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図6B】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するAFP-6の作用を示す図である。0.1g/tonまたは0.175g/tonでAFP-6を用いて種子を処理し、播種後4、7、9および14日間後(dps)に実生のサンプルを採取した。(B)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたOPR3 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図6C】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するAFP-6の作用を示す図である。0.1g/tonまたは0.175g/tonでAFP-6を用いて種子を処理し、播種後4、7、9および14日間後(dps)に実生のサンプルを採取した。(C)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたPR1-3 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図6D】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するAFP-6の作用を示す図である。0.1g/tonまたは0.175g/tonでAFP-6を用いて種子を処理し、播種後4、7、9および14日間後(dps)に実生のサンプルを採取した。(D)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたPR1-17 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図7A】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するVaffr-2dの作用を示す図である。0.175g/tonでVaffr-2dを用いて種子を処理し、播種後6、7、8および11日間後に植物のサンプルを採取した。(A)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたOPR3 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図7B】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するVaffr-2dの作用を示す図である。0.175g/tonでVaffr-2dを用いて種子を処理し、播種後6、7、8および11日間後に植物のサンプルを採取した。(B)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたLOX mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図7C】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するVaffr-2dの作用を示す図である。0.175g/tonでVaffr-2dを用いて種子を処理し、播種後6、7、8および11日間後に植物のサンプルを採取した。(C)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたPR1-3 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
図7D】ジャスモン酸およびサリチル酸経路に対するVaffr-2dの作用を示す図である。0.175g/tonでVaffr-2dを用いて種子を処理し、播種後6、7、8および11日間後に植物のサンプルを採取した。(D)アクチン(上側パネル)またはユビキチン(下側パネル)に対して標準化されたPR1-17 mRNAレベルでの変化倍率が示される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書中で具体的に定義されない限り、本明細書中で用いられるすべての技術用語および科学用語は、酵素学、植物保護、生化学、遺伝学、および分子生物学の分野の当業者により通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0022】
本明細書中に記載されるものと類似または同等なすべての方法および材料を、本発明の実施または試験で用いることができ、好適な方法および材料が、本明細書中に記載される。
【0023】
本発明の文脈で用いる場合、用語「約」とは、用語「約」に続く値が、±20%の範囲内、好ましくは±15%の範囲内、より好ましくは±10%の範囲内で変わり得ることを意味する。
【0024】
本明細書中で引用されるすべての刊行物、特許および特許出願は、すべての目的のために、その全体で参照により本明細書中に組み入れられる。矛盾がある場合、定義を含む本明細書が、引用される参考文献よりも優先されるであろう。さらに、材料、方法、および例は、単に例示的であり、別途明記されない限り、限定的であることは意図されない。
【0025】
本明細書中で用いる場合、「含むこと」または「含む」などの用語の各出現は、任意により、「からなること」または「からなる」を用いて置換することができる。化合物または組成物の文脈での用語「本質的に~からなる」とは、化合物または組成物の必須の特性に実質的に影響しない特異的なさらなる成分が存在し得ることを意味する。例えば、本質的に特定のアミノ酸配列からなる不凍タンパク質は、当該アミノ酸配列ならびに酵素のキチン分解活性に実質的に影響しない追加のNおよび/またはC末端配列からなることができる。
【0026】
本発明は、非生物的ストレスに対する、かつ/または有害生物防除に対するタンパク質に基づくアプローチを提供することにより、現行の植物保護剤の課題を克服することを目的とする。具体的には、本発明のアプローチは、植物を保護するための不凍タンパク質に依存する。これらのタンパク質は、ストレスに対する植物防御(defence)の活性化を誘導し、一部のものはまた、ヒトまたは他の高等動物で産生されないキチンを特異的に分解もし、したがって、ヒト食物摂取に対するかまたは他の非標的生物に対するリスクをもたらさないと予期される。本出願では、用語「キチン分解酵素」は、用語「キチナーゼ」と同義的に用いられる。
【0027】
本開示は、以下の通りにより詳細に説明される。
【0028】
不凍タンパク質
本発明は、不凍タンパク質、1種以上の不凍タンパク質を含む組成物、ならびに1種以上の不凍タンパク質を含むかまたは(本質的に)それからなる植物保護剤に関する。本発明は特に、配列番号1もしくは2のAFP、その変異体またはそれを含むポリペプチドに関する。配列番号1は、Vaffr-2dとも称される、ニンジン由来のAFPを規定する。驚くべきことに、本発明者らは、Vaffr-2dが、キチン分解活性も有することを見出した。配列番号2は、AFP-6と命名されたAFPを規定する。
【0029】
本明細書中に開示される通りの不凍タンパク質は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むことができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、タンパク質は、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0030】
これに従って、好ましい不凍タンパク質はまた、本質的に、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列からなることもできる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、タンパク質は、本質的に、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0031】
したがって、不凍タンパク質はまた、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列からなることもできる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%同一である。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも98%、または少なくとも99%同一、最も好ましくは100%同一である。つまり、タンパク質は、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0032】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0033】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号2に対して少なくとも70%同一であり得る。
【0034】
本明細書中に開示される通りの不凍タンパク質は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列を含むことができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、タンパク質は、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列を含むことができる。
【0035】
これに従って、本明細書中に開示される通りの不凍タンパク質は、本質的に、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列からなることができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、タンパク質は、本質的に、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0036】
したがって、本明細書中に開示される通りの不凍タンパク質は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示す(例えば、アミノ酸差異を示さない)第1のアミノ酸配列からなることができる。例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大10箇所、最大5箇所、または最大3箇所、2箇所もしくは1箇所のアミノ酸差異を示す。好ましくは、第1のアミノ酸配列は、配列番号1~2の群から選択されるアミノ酸配列に対して最大3箇所、2箇所または1箇所のアミノ酸差異を示し、最も好ましくはアミノ酸差異を示さない。つまり、タンパク質は、配列番号1~2の群から選択される第1のアミノ酸配列からなることができる。
【0037】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号1に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0038】
例えば、第1のアミノ酸配列は、配列番号2に対して最大15箇所のアミノ酸差異を示すことができる。
【0039】
第1のアミノ酸配列が上記に規定される通りの参照アミノ酸配列に対して100%未満同一であり、かつ/またはアミノ酸差異を有する場合、不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)参照配列からなる対応する不凍タンパク質と同じかまたはよりよい保護作用(例えば、凍結ストレスおよび/または渇水ストレスに対して)を有する。例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%(かつ100%未満)同一である場合、不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなる不凍タンパク質と同じかまたはよりよい保護作用を有する。同様に、例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して最大15箇所(かつ少なくとも1箇所)のアミノ酸差異を有する場合、不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなる不凍タンパク質と同じかまたはよりよい保護作用を有する。同じことが、配列番号2に準用される。
【0040】
第1のアミノ酸配列が上記に規定される通りの参照アミノ酸配列に対して100%未満同一であり、かつ/またはアミノ酸差異を有する場合、キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)参照配列からなるキチン分解活性を有する対応する不凍タンパク質と同じかまたはよりよい分解速度を有する。例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも70%(かつ100%未満)同一である場合、キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなるキチン分解活性を有する不凍タンパク質と同じかまたはよりよいキチン分解速度を有する。同様に、例えば、第1のアミノ酸が配列番号1のアミノ酸配列に対して最大15箇所(かつ少なくとも1箇所)のアミノ酸差異を有する場合、キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、好ましくは、(本質的に)配列番号1からなるキチン分解活性を有する不凍タンパク質と同じかまたはよりよいキチン分解速度を有する。
【0041】
第1のアミノ酸配列が配列番号1のアミノ酸配列に対して100%未満同一であり、かつ/またはアミノ酸差異を有する場合、当業者は、(本質的に)アミノ酸配列からなる参照、すなわち、未改変配列と比較して、保護作用(例えば、凍結ストレスおよび/または渇水ストレスに対して)および/またはキチン分解速度を維持または改善するために、元の配列をどのように改変するかを知っている。保護作用は、例えば、問題のAFPの水性溶液(または対照としてAFPを含まない同じ溶液)を植物の一部分に噴霧すること、および凍結温度(凍結ストレスに関して)または限定された水供給を含む条件(渇水ストレスに関して)で植物をインキュベートすることにより、決定することができる。キチン分解速度は、例えば、問題のAFPの水性溶液と共に基質としてのキチン粉末をインキュベートすることにより、決定することができる。典型的には、改変型酵素の作用および参照配列の作用を決定するために、同じ方法が用いられる。
【0042】
第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列との間での「配列同一性」のパーセンテージまたは「%同一」は、[第2のアミノ酸配列中の対応する位置でのアミノ酸残基に対して同一である第1のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の数]を[第1のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の総数]により除算し、[100%]を乗算することにより算出することができ、第1のアミノ酸配列と比較した第2のアミノ酸配列中のアミノ酸残基の各欠失、挿入、置換または付加は、単一アミノ酸残基での(すなわち、単一位置での)差異と見なされる。同じことが、ヌクレオチド配列に準用される。
【0043】
本明細書中で用いる場合、「アミノ酸差異」は、アミノ酸挿入、欠失または置換であり得、好ましくは、置換である。アミノ酸置換は、好ましくは、当技術分野で公知である通りの保存的置換である。そのような保存的置換は、以下の群(a)~(e)内の1つのアミノ酸が、同じ群内の別のアミノ酸残基により置換される置換であり得る:(a)小型脂肪族、非極性またはわずかに極性の残基:Ala、Ser、Thr、ProおよびGly;(b)極性、負に荷電した残基およびそれらの(非荷電)アミド:Asp、Asn、GluおよびGln;(c)極性、正に荷電した残基:His、ArgおよびLys;(d)大型脂肪族、非極性残基:Met、Leu、Ile、ValおよびCys;ならびに(e)芳香族残基:Phe、TyrおよびTrp。
【0044】
より具体的には、保存的置換は、以下の通りであり得る:AlaからGlyへもしくはSerへ;ArgからLysへ;AsnからGlnへもしくはHisへ;AspからGluへ;CysからSerへ;GlnからAsnへ;GluからAspへ;GlyからAlaへもしくはProへ;HisからAsnへもしくはGlnへ;IleからLeuへもしくはValへ;LeuからIleへもしくはValへ;LysからArgへ、GlnへもしくはGluへ;MetからLeuへ、TyrへもしくはIleへ;PheからMetへ、LeuへもしくはTyrへ;SerからThrへ;ThrからSerへ;TrpからTyrへ;TyrからTrpへ;および/またはPheからValへ、IleへもしくはLeuへ。
【0045】
キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、エンドキチナーゼまたはエキソキチナーゼであり得る。好ましくは、キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、真菌および/または昆虫の構造成分として存在するキチンを切断することが可能である。真菌の構造成分は、細胞壁であり得る。昆虫の構造成分は、外骨格であり得る。最も好ましくは、キチン分解活性を有する不凍タンパク質は、真菌の細胞壁中に存在するキチンを切断することが可能である。
【0046】
不凍タンパク質は、第1のアミノ酸配列のN末端に融合された第2のアミノ酸配列をさらに含むことができる。第2のアミノ酸配列は、典型的には、タンパク質のN末端に位置する。
【0047】
第2のアミノ酸配列は、好ましくは、50アミノ酸長未満、より好ましくは30未満、さらにより好ましくは25アミノ酸未満、例えば、22アミノ酸である。
【0048】
第2のアミノ酸配列は、典型的には、細菌細胞などの細胞からの分泌を引き起こす配列である。したがって、第2のアミノ酸は、シグナルペプチドであり得る。第2のアミノ酸配列の具体例としては、PelBシグナルペプチド(配列番号3)が挙げられる。
【0049】
不凍タンパク質は、第1のアミノ酸配列に対してC末端に融合された第3のアミノ酸配列をさらに含むことができる。第3のアミノ酸配列は、典型的には、タンパク質のC末端に位置する。
【0050】
第3のアミノ酸配列は、好ましくは、50アミノ酸長未満、より好ましくは30未満、さらにより好ましくは20アミノ酸未満である。最も好ましくは、第3のアミノ酸配列は、10アミノ酸長未満、例えば、6アミノ酸である。
【0051】
第3のアミノ酸配列は、典型的には、細菌細胞などの細胞による産生後の不凍タンパク質の精製を促進する配列である。したがって、第3のアミノ酸は、精製タグであり得る。精製タグの具体例としては、6×Hisタグ(配列番号4)またはTag54/6×His複合タグが挙げられる。好ましくは、第3のアミノ酸配列は、6×Hisタグである。
【0052】
したがって、本発明はまた、第1のアミノ酸配列、第2のアミノ酸配列および第3のアミノ酸配列を含むかまたは(本質的に)それらからなる不凍タンパク質も提供し、このとき、第2のアミノ酸配列はPelBシグナルペプチドであり、かつ第3のアミノ酸配列は6×Hisタグである。
【0053】
不凍タンパク質は、好ましくは、精製された不凍タンパク質である。この文脈での「精製された」とは、5%未満の不純物、例えば、2%未満または1%未満でさえある不純物が存在することを意味する。この文脈での不純物とは、タンパク質および任意により溶媒以外のいずれかの物質を意味する。
【0054】
配列番号1またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性もしくは最大15箇所のアミノ酸差異を有するアミノ酸配列を含む不凍タンパク質が、特に好ましい。
【0055】
配列番号2またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性もしくは最大15箇所のアミノ酸差異を有するアミノ酸配列を含む不凍タンパク質もまた、特に好ましい。
【0056】
核酸、ベクターおよび宿主(細胞)
本発明はまた、不凍タンパク質をコードする核酸にも関する。より具体的には、本発明は、本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質をコードする核酸を提供する。
【0057】
不凍タンパク質をコードする核酸はまた、本明細書中に記載される通りの2種以上のタンパク質もコードすることができる。つまり、本発明は、配列番号1に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むAFPおよび配列番号2に対して少なくとも70%同一(例えば、100%同一)である第1のアミノ酸配列を含むAFPをコードする核酸を提供する。
【0058】
核酸は、例えば、DNA、RNA、またはそれらのハイブリッドであり得、かつPNAなどの(例えば、化学的に)修飾されたヌクレオチドもまた含むことができる。核酸は、一本鎖または二本鎖DNAであり得る。例えば、本開示のヌクレオチド配列は、ゲノムDNA、cDNAであり得る。
【0059】
本発明は、不凍タンパク質をコードする核酸を含むベクターをさらに提供する。本明細書中で用いる場合、ベクターは、細胞へと遺伝物質を運ぶために好適なビヒクルである。ベクターとしては、プラスミドもしくはmRNAなどの裸の核酸、またはリポソームもしくはウイルスベクターなどのより大きな構造中に埋め込まれた核酸が挙げられる。
【0060】
ベクターは、一般的に、例えば、1つ以上の好適なプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等などの1つ以上の調節エレメントに任意により連結されている、少なくとも1つの核酸を含む。ベクターは、発現ベクター、すなわち、例えば、ベクターが(例えば、細菌または植物)細胞へと導入される場合に、好適な条件下でコードされたポリペプチドまたは構築物を発現するために好適なベクターであり得る。DNAに基づくベクターに関して、これは、通常は、転写(例えば、プロモーターおよびポリAシグナル)および翻訳(例えば、Kozak配列)のためのエレメントの存在を含む。
【0061】
ベクター中では、当該少なくとも1つの核酸および当該調節エレメントは、互いに「機能的に連結」されていることができ、この表現は、一般的に、それらが互いに機能的な関係にあることを意味する。例えば、当該プロモーターがコード配列の転写および/または発現を開始するかまたはそれ以外に制御/調節することができる場合(このとき、当該コード配列は、当該プロモーター(promotor)の「制御下」にあると理解されるべきである)、プロモーターは、コード配列に「機能的に連結」されていると考えられる。
【0062】
また、好ましくは、不凍タンパク質をコードする核酸は、発現系の一部分を構成することができ、このとき、核酸は、オープンリーディングフレームを表わす。オープンリーディングフレームは、特定の生物に対してコドン最適化することができる。
【0063】
本発明はさらに、核酸またはベクターを含む(非ヒト)宿主または宿主細胞を提供する。好適な宿主細胞は、植物細胞または微生物細胞であり得る。
【0064】
例えば、農作植物または観賞植物由来の植物細胞を用いることができる。微生物細胞は、例えば、酵母または細菌細胞、例えば、大腸菌(E.Coli)であり得る。好適な酵母の例は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)である。
【0065】
本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質、それをコードする核酸、または核酸を含むベクターを含む植物もまた提供される。好ましくは、核酸またはベクターは、植物のゲノム中に含められることができる。植物の例としては、コムギなどの耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。植物の例としては、穀類、トウモロコシ、ナタネ、イネ、ダイズまたはジャガイモが挙げられる。
【0066】
典型的には、植物(細胞)は、配列番号1または配列番号2をコードする遺伝子を天然に含まないものであろう。例えば、植物(細胞)は、ノラニンジン(Daucus carota)でない。例えば、植物(細胞)は、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)などの緑藻でない。
【0067】
生成方法
本発明はまた、本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質を生成するための方法も提供する。典型的には、方法は、本明細書中に記載される通りの宿主細胞、特に細菌宿主細胞、例えば大腸菌を培養するステップを少なくとも含む。培養は、宿主細胞の生育に対して好適な培地中で行なうことができる。
【0068】
方法は、培養中および/または培養後に宿主細胞および/または培養上清を回収するステップをさらに含むことができる。好ましくは、上清が、(好適な時間の)培養後に回収される。
【0069】
方法は、不凍タンパク質を精製するステップをさらに含むことができる。例えば、不凍タンパク質は、最初の硫酸アンモニウム沈殿ステップおよび可溶化されたタンパク質沈殿物の逐次的固相化金属アフィニティークロマトグラフィー精製により、培養上清から精製することができる。
【0070】
不凍タンパク質を生成するための方法は、例えば、1種以上の不凍タンパク質を発現する宿主細胞を培養することを含む発現系の構築を含むことができる。
【0071】
好ましくは、方法により生成される不凍タンパク質は、培養培地中への酵素の分泌および/または培養上清からの精製を促進するために、Nおよび/またはC末端改変を含む。例えば、方法により生成される不凍タンパク質は、本明細書中に記載される通りの第2および/または第3のアミノ酸配列を含むことができる。
【0072】
したがって、方法は、最初の硫酸アンモニウム沈殿ステップにより培養上清から不凍タンパク質を精製するステップを含むことができ、このとき、可溶化されたタンパク質沈殿物の逐次的固相化金属アフィニティークロマトグラフィー精製が、酵素中に含められる6×Hisタグなどのアミノ酸タグを用いて行われる。
【0073】
組成物
本発明はまた、本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質のうちの少なくとも1種を含む組成物も提供する。好ましくは、組成物は、植物免疫を誘導する。
【0074】
好ましくは、組成物は、本明細書中に記載される通りの少なくとも2種の異なる不凍タンパク質を含む。
【0075】
組成物は、例えば、配列番号1を含む本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質および配列番号2を含む本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質を含むことができる。
【0076】
組成物は、例えば、本質的に配列番号1からなる本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質および本質的に配列番号2からなる本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質を含むことができる。
【0077】
組成物は、例えば、配列番号1からなる本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質および配列番号2からなる本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質を含むことができる。
【0078】
組成物は、液体または乾燥組成物、好ましくは液体組成物であり得る。液体組成物は、好適には、水性組成物であり得る。組成物は、商業的な種子処理で用いられる標準的な増粘剤であるポリビニルアルコール(PVOH)を含むことができる。組成物中のポリビニルアルコールの濃度は、例えば、5%(v/v)~15%(v/v)、好ましくは6%(v/v)~10%(v/v)、より好ましくは約8%(v/v)であり得る。
【0079】
典型的には、組成物は、配列番号1または配列番号2をコードする遺伝子を天然に含有する植物由来の抽出物を含まない。例えば、組成物は、ノラニンジン、またはクロレラ・ブルガリスなどの緑藻由来の抽出物を含まない組成物であり得る。
【0080】
組成物中の不凍タンパク質(例えば、キチン分解酵素)の濃度は、例えば、0.01mg/L~250g/L、例えば、0.025mg/L~100g/Lであり得る。代替的に、組成物中の不凍タンパク質(例えば、キチン分解酵素)の濃度は、例えば、最大1g/L(w/v)、例えば最大100mg/L(w/v)、または0.01mg/L(w/v)~100mg/L(w/v)、例えば0.1mg/L(w/v)~70mg/L(w/v)、または1mg/L(w/v)~50mg/L(w/v)、または5mg/L(w/v)~30mg/L(w/v)、または7mg/L(w/v)~25mg/L(w/v)、または約9mg/L(w/v)、または約13mg/L(w/v)、または約22mg/L(w/v)であり得る。濃度のさらなる具体例は、本明細書中にさらに記載される通りの用途に応じて、以下の通りである:
殺昆虫用途:0.01%~5%(w/v)、例えば0.05%~2.5%(w/v)、好ましくは0.1~1%(w/v)
殺真菌用途:0.25μg/100μL~25.0μg/100μL、例えば0.7μg/100μL~15.0μg/100μL、好ましくは1.25μg/100μL~10.0μg/100μL
間接的殺真菌用途:0.25μg/100μL~25.0μg/100μL、例えば0.7μg/100μL~15.0μg/100μL、好ましくは0.65μg/100μL~5μg/100μL
非生物的ストレス:0.01mg/L~1mg/L、例えば0.025mg/L~0.5mg/L、好ましくは0.05mg/L~0.25mg/L。
【0081】
好ましくは、組成物は、保護作用および/またはキチン分解活性の阻害剤を含まない。そのような阻害剤は、金属イオン(例えば、二価イオン、例えば、Zn2+、Cu2+、Ni2+)、界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、Triton X100またはポリソルベート20)、または特定の他の化学物質(例えば、EDTA、イミダゾール)であり得る。つまり、例えば、組成物は、金属イオンおよび/またはSDSを含まない。
【0082】
植物保護
本発明者らは、驚くべきことに、凍結ストレスおよび渇水ストレスをはじめとする様々な非生物的ストレスから植物を保護するために、不凍タンパク質を用いることができることを見出した。さらに、驚くべきことに、AFP、特にキチン分解活性を有するものはまた、真菌などの有害生物から植物を保護するためにも用いることができる。
【0083】
本発明者らはまた、不凍タンパク質、特に、AFP-6およびVaffr-2dが、植物免疫系を活性化すること、すなわち、植物免疫を誘導することも見出した。用語「植物免疫を誘導する」および「植物免疫系を活性化する」は、本明細書中で相互に交換可能に用いられる。植物免疫の誘導は、例えば、植物でのジャスモン酸経路および/またはサリチル酸経路の活性化に関して試験することにより、試験することができる。これらの経路は、生物的および非生物的ストレスに対する植物防御(defence)の調節因子として重要な役割を果たす。当業者は、ジャスモン酸経路および/またはサリチル酸経路の活性化に関してどのように試験するかに十分に気づく。例えば、ジャスモン酸経路の活性化は、ジャスモン酸経路を活性化するためにアップレギュレーションされる、LOXおよび/またはOPR3遺伝子のmRNAレベルでの変化を評価することにより試験することができる(Chini, 2018: “An OPR3-independent pathway uses 4, 5-didehydrojasmonate for jasmonate synthesis”; Nature chemical biology, 14(2), 171-178; doi: https://doi.org/10.1038/nchembio.2540)(Leon, 1999: “Molecular biology of jasmonic acid biosynthesis in plants”; Plant physiology and Biochemistry, 37(5), 373-380; doi: https://doi.org/10.1016/S0981-9428(99)80043-6)。サリチル酸経路の活性化は、PR1-3および/またはPR1-17遺伝子のmRNAレベルでの変化を評価することにより試験することができる。PR1-3およびPR1-17タンパク質の産生は、植物ホルモンサリチル酸と関連付けられる(Van Loon, 1999: “The families of pathogenesis-related proteins, their activities, and comparative analysis of PR-1 type proteins”; Physiological and molecular plant pathology, 55(2), 85-97; doi: https://doi.org/10.1006/pmpp.1999.0213)。ジャスモン酸経路および/またはサリチル酸経路の活性化に関して試験する例示的な方法は、以下の実施例7にさらに記載される。植物免疫系はすべての植物で保存されており、したがって、本発明に係る不凍タンパク質は、すべての植物で免疫系を活性化することが推測され得る。有利には、植物免疫は、非生物的ストレスおよび/または有害生物により植物が損傷される前に誘導される。したがって、好ましくは、本発明に係る不凍タンパク質(またはそれを含む組成物)は、非生物的ストレスおよび/または有害生物が発生する前に、例えば、非生物的ストレスおよび/または有害生物により植物が損傷される前に、植物またはその一部分に対して施用される。
【0084】
さらに本発明者らは、本発明に係る不凍タンパク質の施用を、先行技術の植物保護剤の施用と組み合わせて、それにより、植物保護をさらに強化することができることを見出した。したがって、不凍タンパク質でないさらなる植物保護剤を、本発明に係る不凍タンパク質の施用に加えて、植物またはその一部分に対して施用することができる。そのようなさらなる植物保護剤は、例えば、殺昆虫剤、除草剤、殺真菌剤および殺鼠剤としての使用のための、有機塩素剤、有機リン酸剤、カルバメート、ピレスロイド、トリアジンおよびネオニコチノイドの群の物質などの化学殺虫剤であり得る。例えば、そのようなさらなる植物保護剤は、Difend extra(25g/Lジフェノコナゾール(difeconazole)および25g/Lフルジオキソニル(fludioxinil))および/またはProtendo(プロチオコナゾール 300g/L EC)および/またはVelogy era(EC 75g/Lベンゾビンジフルピル+150g/Lプロチオコナゾール)であり得る。そのようなさらなる植物保護剤はまた、例えば、以下で言及されるさらなる薬剤アスコルビン酸、ベタインおよび/またはサリチル酸でもあり得る。
【0085】
真菌および非生物的ストレスに対する植物での天然防御(defence)メカニズムを誘導することによる有害生物および非生物的ストレスに対する作用とは別に、不凍タンパク質のキチン分解活性もまた、有害生物および植物の病害に対する直接的な作用を有し得る。
【0086】
つまり、本発明は、植物保護剤である本明細書中に記載される通りの少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物を提供する。本発明はさらに、植物保護剤である本明細書中に記載される通りの少なくとも2種の不凍タンパク質を含む組成物を提供する。
【0087】
本発明はまた、植物保護剤としての本明細書中に記載される通りの少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の使用も提供する。本発明はまた、植物保護剤としての本明細書中に記載される通りの少なくとも2種の不凍タンパク質を含む組成物の使用も提供する。
【0088】
植物保護剤は、好ましくは、非生物的ストレスに対して植物を保護するための、かつ/または有害生物に対して、例えば、キチンを含有する生物に対して植物を保護するためのものである。
【0089】
つまり、植物保護剤は、非生物的ストレスに対して植物を保護するためのものであり得る。非生物的ストレスとしては、例えば、凍結ストレス、渇水ストレス、塩ストレス、湛水ストレスまたは熱ストレスが挙げられる。好ましくは、非生物的ストレスは、凍結ストレスまたは渇水ストレスである。
【0090】
植物保護剤は、有害生物に対して、例えば、キチンを含有する生物に対して植物を保護するためのもので(も)あり得る。例えば、キチンは、真菌の細胞壁、昆虫などの節足動物の外骨格および軟体動物の歯舌の主成分である。したがって、植物保護剤は、真菌、昆虫または軟体動物、好ましくは真菌または昆虫、最も好ましくは真菌の蔓延に対するものであり得る。
【0091】
真菌の例としては、例えば、ベニアワツブタケ科(Nectriaceae)またはコタマカビ科(Mycosphaerellaceae)由来の子嚢菌が挙げられる。ベニアワツブタケ科由来の真菌の例としては、フザリウム属由来の真菌、例えば、フザリウム・オキシスポルム(Fusiarum oxysporum)、フザリウム・グラミネアルム(Fusiarum graminearum)、フザリウム・クルモルム(Fusarium culmorum)が挙げられる。コタマカビ科由来の真菌の例としては、セプトリア属由来の真菌、例えば、セプトリア・トリチシ(Septoria tritici)が挙げられる。他の例としては、アルテルナリア・ソラニ(Alternaria solani)、フィトフソラ・インフェスタンス(Phytophtora infestans)、フハイカビ属(Pythium)、マグナポルテ・オリザエ(Magnaporthe oryzae)、リンゴ黒星病菌(Venturia inaequalis)、オオムギ網斑病菌(Pyrenophora teres)、リンコスポリウム・セカリス(Rhynchosporium secalis)、プッチニア・トリチシナおよびラムラリア・コロ-シグニ(Ramularia collo-cygni)が挙げられる。真菌は、糸状菌であり得る。真菌は、典型的には、病原性真菌である。
【0092】
昆虫の例としては、アブラムシ科(Aphididae)、ゴミムシダマシ科(Tenebrionidae)、ショウジョウバエ科(Drosophilidae)またはアワフキムシ科(Aphrophoridae)由来の昆虫が挙げられる。アブラムシ科由来の昆虫の例としては、シトビオン属(Sitobion)由来の昆虫、例えば、シトビオン・アバナエ(Sitobion avanae)が挙げられる。ゴミムシダマシ科由来の昆虫の例としては、トリボリウム属(Tribolium)由来の昆虫、例えば、コクヌストモドキ(Tribolium castaneum)が挙げられる。ショウジョウバエ科由来の昆虫の例としては、ショウジョウバエ属(Drosophila)由来の昆虫、例えば、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)が挙げられる。アワフキムシ科由来の昆虫の例としては、フィラエヌス属(Philaenus)由来の昆虫、例えば、ホソアワフキ(Philaenus spumarius)が挙げられる。
【0093】
保護対象である植物は、特に限定されず、例えば、コムギなどの耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。
【0094】
植物の例としては、穀類、トウモロコシ、ナタネ、イネ、ダイズまたはジャガイモが挙げられる。
【0095】
本発明はさらに、植物またはその一部分に対する、本明細書中に記載される通りの不凍タンパク質などの不凍タンパク質または少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物の施用を含む、非生物的ストレスおよび/または有害生物から植物を保護する方法を提供する。典型的には、組成物は、植物またはその一部分の表面へと施用される。
【0096】
非生物的ストレスとしては、例えば、凍結ストレス、渇水ストレス、塩ストレスまたは熱ストレスが挙げられる。好ましくは、非生物的ストレスは、凍結ストレスまたは渇水ストレスである。
【0097】
有害生物としては、例えば、真菌、昆虫または軟体動物が挙げられる。その例は、上記に与えられる。好ましくは、有害生物は、真菌または昆虫、最も好ましくは真菌である。有害生物は、生体栄養性(biotrophic)または死体栄養性(necrotrophic)であり得る。
【0098】
不凍タンパク質または組成物の施用は、例えば、本明細書中に記載される通りの組成物中の植物または植物部分の浸漬を含むことができる。不凍タンパク質の別の例示的施用は、例えば、本明細書中に記載される通りの組成物を用いる、例えば、実施例中に記載されるコーティング法を用いる、不凍タンパク質による植物または植物部分(例えば、種子)のコーティングを含むことができる。不凍タンパク質の別の例示的施用は、植物または植物部分へと本明細書中に記載される通りの組成物を噴霧することを含むことができる。例えば、不凍タンパク質は、1ha当たり約200Lの水を用いて(すなわち、約0.35mg/Lの濃度で不凍タンパク質を含む組成物を用いて)、または1000Lもしくは1500L水/haを用いて、約70mg/haの用量率で噴霧することができる。
【0099】
植物部分は、例えば、葉、果実または種子(穀類など)であり得る。植物部分が種子である場合、本発明に係る不凍タンパク質(またはそれを含む組成物)は、好ましくは、播種前に種子に施用することができる。種子は、被覆種子または非被覆種子であり得る。被覆種子技術は、当業者に対して一般的に公知であり、かつ容易に修正可能である。
【0100】
保護対象である植物は、特に限定されず、例えば、耕地作物、結実植物または野菜が挙げられる。例は、上記に記載される。
【0101】
植物保護はまた、植物または植物細胞中で本明細書中に記載される通りの少なくとも1種の不凍タンパク質を発現させることにより達成することもできる。したがって、本発明はまた、植物または植物細胞中で不凍タンパク質を発現させるための、本明細書中に記載される通りの核酸またはベクターの使用も提供する。発現は、構成的または誘導性であり得る。例えば、発現は、外部刺激、例えば、非生物的ストレスおよび/または有害生物蔓延に応答して誘導性であり得る(例えば、非生物的ストレスおよび/または組織損傷を検出することができる植物中の内因性知覚機構を介して)。
【0102】
さらなる薬剤
不凍タンパク質は、植物保護剤として作用し得るさらなる薬剤、例えば、非生物的ストレスに対する薬剤、殺真菌剤および/または殺昆虫剤と好適に組み合わせることができる。そのようなさらなる薬剤は、例えば、アスコルビン酸、ベタインおよび/またはサリチル酸であり得る。
【0103】
つまり、本発明はまた、アスコルビン酸、ベタインおよび/またはサリチル酸をさらに含む、本明細書中に記載される通りの少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物およびその使用も提供する。
【0104】
本発明はまた、殺真菌剤および/または殺昆虫剤をさらに含む、本明細書中に記載される通りの少なくとも1種の不凍タンパク質を含む組成物およびその使用も提供する。
【0105】
【表1】
【実施例
【0106】
本出願の以下の実験セクションは、本発明の非限定的な例示的実施形態に関する。
【0107】
実施例1
真菌蔓延に対する不凍タンパク質の保護的活性を試験した。この目的のために、不凍タンパク質を、大腸菌BL21細胞で生成させた。酵素を培養上清から精製した。
【0108】
不凍タンパク質を、発芽試験でのそれらの保護的活性に関して試験した。簡潔には、以下のステップを行なった:
1. 安全キャビネット中、10分間の10%漂白剤を用いるコムギ種子の殺菌
2. ろ紙上での発芽
3. 葉面散布3dps(播種後日数)および1dbi(感染前日数)
4. 4dps:病原体フザリウム・クルモルムを添加する
5. 発芽および植物健康状態/植物毒性のモニタリング。
【0109】
結果を図1に示す。結果は、キチン分解活性を有する不凍タンパク質Vaffr-2dの添加が、真菌生育の強力な阻害および植物健康状態の改善(対照と比較したバイオスティミュラント効果)をもたらしたことを示す。
【0110】
つまり、これらの結果は、キチン分解活性を有する不凍タンパク質、特に本明細書中に記載される不凍タンパク質が、植物上での真菌などの有害生物の生育を効率的に阻害できることを示す。それにより、植物健康状態が改善され得る。つまり、不凍タンパク質は、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができる。
【0111】
実施例2
凍結ストレスに対する不凍タンパク質の保護的活性を、リンゴ植物体に対する不凍タンパク質Vaffr-2d(示される濃度で不凍タンパク質を含む200L/haの水性製剤)の葉面散布および植物体を凍結ストレスに供することにより試験した。結果を、以下の表2および図2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
結果は、Vaffr-2dの添加が、投薬量の増加に伴い減少した霜害および改善された植物健康状態をもたらしたことを示す。
【0114】
つまり、これらの結果は、不凍タンパク質、特に本明細書中に記載される不凍タンパク質が、霜害を効率的に減少させることができることを示す。それにより、植物健康状態が改善され得る。つまり、不凍タンパク質は、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができる。
【0115】
実施例3
凍結ストレスに対する不凍タンパク質の保護的活性を、西洋ナシ植物体に対する不凍タンパク質Vaffr-2dまたはAFP-6の葉面散布および植物体を凍結ストレスに供することにより試験した。結果を、図3に示す。
【0116】
結果は、Vaffr-2dまたはAFP-6の添加が、対照と比較して増加した西洋ナシ収穫量をもたらしたことを示す。
【0117】
つまり、これらの結果は、不凍タンパク質、特に本明細書中に記載される不凍タンパク質が、霜害を効率的に減少させることができることを示す。それにより、植物健康状態が改善され得る。つまり、不凍タンパク質は、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができる。
【0118】
実施例4
様々な植物を、Vaffr-2dまたはAFP-6の葉面散布を伴うかまたは伴わずに、様々な種類の非生物的ストレスに供した。
【0119】
塩ストレス実験に対する設定:
植物をトレイ中に筋蒔きする
25℃/15℃(日/夜)明16時間、暗8時間での発芽
10日間後の施用
2日間後に、8×8cmの植木鉢に植え替える
3種類の考えられるレジメン(3 possible regimes regimes)
*植え替えの瞬間の直接的塩ストレス
*植え替え4日間後の塩ストレス
*植え替え7日間後の塩ストレス
塩ストレス=100mLの120g/L NaClの溶液。
【0120】
結果を、以下の表3に示す。
【0121】
【表3】
【0122】
これらの結果は、不凍タンパク質、特に本明細書中に記載される不凍タンパク質が、塩ストレス、渇水ストレスまたは湛水ストレスなどの様々な非生物的ストレスから植物を効率的に保護することができることを示す。それにより、植物健康状態が改善され得る。つまり、不凍タンパク質は、本明細書中に記載される通りの植物保護剤として用いることができる。
【0123】
実施例5
真菌感染に対する酵素AFP-6の保護的活性を調べるために、2種類の温室試験を行なった。
【0124】
両方の試験に関して、以下のステップ(例えば、市販の機器へと外挿することができる)に従って、Satec ML2000、8L/tonコーター中で種子をコーティングした:
- バッチコーター中の必要量の種子(Satec ML2000中の最小50gおよび最大2kg)
- 投薬開始:約10~15秒間かかる
- 続いて、機器を稼働させながらさらに15秒間乾燥させる
- 機器から取り出す
- 回転速度ローター:500~1000RPM
- 回転速度回転円板:2100~3000RPM
- プロセス全体の間のコーティング温度:±20℃
- コーティングプロセスに含まれる投入、投薬、乾燥、および取り出しは、合計で約1分間かかる。
【0125】
1トンの種子当たり8%(v/v)PVOHを含む8Lの水中(すなわち、7.36L水+640mL PVOH中)の0.07gのAFP-6(Fraunhofer-Gesellschaftにより生成)を用いて、コーティングを行なった。したがって、コーティング後のAFP-6の最終濃度は、0.07g/ton種子であった。ポリビニルアルコール(PVOH)は、商業的な種子処理で用いられる標準的な増粘剤である。未処理対照は、水および8%PVOHのみであり、有効成分は添加されなかった。植木鉢当たり4個の種子を6回反復で播種した。第2試験では、代替的に、比較のために2L/tonの濃度でのDifend extra(25g/Lジフェノコナゾール(difeconazole)および25g/Lフルジオキソニル(fludioxinil))を用いて種子をコーティングした。Difend extraは市販の種子処理である。
【0126】
第1試験は、コムギ品種Benchmarkを用いて行なった。播種の2週間後、赤サビを有する重度感染コムギ植物体(プッチニア・トリチシナ感染)を、天然感染を模倣するために試験に入れた。8日間後、処理対象および未処理対象での赤サビ斑点のパーセンテージを植物体の3枚の上葉に対して決定した。酵素処理対象の結果を未処理対照と比較し、未処理対照と比較した酵素の有効性パーセンテージを、感染パーセンテージに基づいて算出した。最も幼若な葉(葉1)は、処理対象および未処理対照で感染しなかった。したがって、葉2および3を評価した。未処理対照と比較して、葉2は69%少なく感染し、葉3は44%少なく感染した(図4を参照されたい)。これは、0.07g/tonの酵素AFP-6を用いてコーティングされた品種Benchmarkでの、両方の葉に関して57%少ない感染の平均有効性である。
【0127】
第2試験に関して、コムギ品種Keitumを用いた。播種の2週間後、植物に、赤サビ胞子懸濁物(3×105胞子/mLの濃度)を用いて、流れ落ちるまで接種した。赤サビ斑点のパーセンテージを、4枚の上葉に対して、上記の通りの感染の12日間後に評価した。AFP-6またはDifend extra処理対象の結果を未処理対照と比較し、未処理対照と比較した処理対象の有効性パーセンテージを、感染パーセンテージに基づいて算出した。最も幼若な葉(葉1)は、処理対象および未処理対照で感染しなかった。したがって、葉4~3および2を赤サビに関してスコア付けした。AFP-6処理植物を未処理対照と比較すると、葉2は100%少なく感染し、葉3は32%少なく感染した。最も古い葉(4)は、27%多く保護された。これは、0.07g/tonの酵素AFP-6を用いてコーティングされた品種Keitumでの、すべての葉に関して31%の平均有効性であった(図5Aを参照されたい)。はるかに高濃度が用いられたにもかかわらず、Difend extraを用いてコーティングされた種子に関して、保護が観察されないかまたはわずかな保護のみが観察された(図5Bを参照されたい)。
【0128】
これらの結果は、AFP-6を用いる種子処理がプッチニア・トリチシナによる真菌感染から植物を保護したこと、およびAFP-6による保護が市販の種子処理Difend extraによる保護よりもはるかに優れていたことを示した。AFP-6を用いた種子の処理により(すなわち、間接的殺真菌用途により)保護が達成され、用いたAFP-6濃度は非常に低く、かつ比較的幼若な葉が古い葉よりも良好に保護されたので、これらの結果は、酵素AFP-6が、試験した両方のコムギ品種に対して、植物免疫を誘導することにより保護作用(「間接的殺真菌作用」)を発揮したことを示唆した。
【0129】
実施例6
標準的な化学的処理に加えてAFP-6を用いて植物を処理する場合に、酵素AFP-6が葉の病害に対する植物保護をさらに改善し得るか否かを調べるために、2種類のさらなる試験を行なった。これらの試験は、実務的な現場環境で行なわれ、化学的種子処理(2L/tonの濃度でのDifend extra、25g/Lジフェノコナゾール(difeconazole)および25g/Lフルジオキソニル(fludioxinil))を用いて農業従事者によりコムギを処理し、時季中に化学物質を用いて少なくとも2回の茎葉処理を行なった:T1=BBCH 32およびT2=BBCH 39。T1 Protendoに関してプロチオコナゾール 300g/L EC(400mL/ha)を用い、T2 Velogy eraに関してEC 75g/Lベンゾビンジフルピル+150g/Lプロチオコナゾール(1000mL/ha)を用いた。
【0130】
以前の実験は酵素AFP-6が植物免疫を誘導することにより保護作用を発揮したことを示唆したので、両方の試験で、時季中の可能な限り早く酵素AFP-6を添加し、その後、植物を真菌病原体により感染させた。試験は、400種子/m2で筋蒔きした。1区画は24m2であり、すべての対象が4回反復を有した。各区画中、葉面病害および穀類に関して穂の病害に関して、4本の植物体をEPPOガイドラインPP(1)/026(4)に従って評価した。葉の病害の感染パーセンテージを、植物体の3枚の上葉に対してスコア付けした。結果:abbott。16本の植物体の平均感染パーセンテージを算出した(4植物体/区画)。有害生物重症度の有効性のパーセンテージを、Difend extraを用いて化学的にコーティングされた対象(以下に記載される通りの第1試験の場合)またはT0処理を行なわなかった対象(以下に記載される通りの第2試験の場合)の関数で算出した。
【0131】
第1試験では、酵素AFP-6を、種子処理として0.07g/tonの濃度で用いた。本試験での品種は、Keitumであった。対照は、2L/tonの濃度で化学的種子処理Difend extra(25g/Lジフェノコナゾール(difeconazole)および25g/Lフルジオキソニル(fludioxinil))を用いてコーティングした。種子は、上記の実施例5に関して記載される通り、Satec ML2000、8L/tonコーター中でコーティングした。酵素を用いるコーティングは、1トンの種子当たり8%(v/v)PVOHを含む8Lの水中(すなわち、7.36L水+640mL PVOH中)の0.07gのAFP-6(Fraunhofer-Gesellschaftにより生成)を用いて行なった。つまり、コーティング後の酵素の最終濃度は、0.07g/ton種子であった。ポリビニルアルコールは、商業的な種子処理で用いられる標準的な増粘剤である。葉の病害を、播種の169日間後に評価し、化学物質Difend extraを用いてコーティングされた対象と比較した。
【0132】
第2試験では、BBCH 32前のAFP-6を用いる早期処理(すなわち、BBCH 30での「T0」処理)が葉の病害に対する植物保護をさらに改善し得るか否かを調べた。品種Ragnarを本試験で用いた。種子には、defend extraを用いる化学的種子処理がなされた。1L/haを用いて、水製剤中の0.07g/L AFP-6の濃度を用いて、植物体に噴霧した。茎葉処理は、BBCH 30に行なった。T0処理の13日間後に葉の病害に関して植物体を評価し、T0処理を行なわなかった対象と比較した。
【0133】
両方の試験を、同日に評価した。葉3のみが、葉の病害を引き起こす真菌セプトリア・トリチシによる感染を示した。両方の試験で、酵素AFP-6が植物保護を改善させたことが観察された。品種Keitumでの0.07g/ton種子の濃度での種子処理(第1試験)として、酵素AFP-6の有効性は、化学的種子処理Difend extraと比較して24%であった。品種Ragnar(第2試験)では、BBCH 30でのT0処理が、T0処理なしと比較して25%の有効性を示した。低濃度のAFP-6を用いて得られたこれらの結果は、AFP-6が、植物免疫を誘導することにより保護作用を発揮することを確認する。
【0134】
実施例7
AFP-6およびVaffr-2dが、植物免疫を誘導することにより保護作用を発揮することを確認するために、さらなる試験を行なった。これに関して、植物が曝露されるストレスの種類に応じて、異なる植物免疫経路が惹起され得ることを注記することが重要である:
植物ホルモンであるジャスモン酸およびサリチル酸は、生物的および非生物的ストレスに対する植物防御(defence)の調節因子として重要な役割を果たす。生体栄養性病原体に対する植物免疫への作用は、サリチル酸に依存する。死体栄養性病原体に関しては、ジャスモン酸がより重要である(Glazebrook, 2005: “Contrasting mechanisms of defense against biotrophic and necrotrophic pathogens”; Annual review of phytopathology, 43, 205; doi: doi. 10.1146/annurev.phyto.43.040204.135923)。異なるタイプの非生物的ストレスもまた、植物で異なる経路を惹起するであろう(Peleg, 2011: “Hormone balance and abiotic stress tolerance in crop plants”; Current opinion in plant biology, 14(3), 290-295; doi: https://doi.org/10.1016/j.pbi.2011.02.001)。
【0135】
したがって、以下の試験に関して、AFP-6およびVaffr-2dが植物免疫に対する作用を有することを証明するために、4種類の異なる遺伝子、すなわち、LOX、OPR3、PR1-3およびPR1-17遺伝子を選択した。LOXおよびOPR3遺伝子は、ジャスモン酸経路を活性化するためにアップレギュレーションされる(Chini, 2018: “An OPR3-independent pathway uses 4, 5-didehydrojasmonate for jasmonate synthesis”; Nature chemical biology, 14(2), 171-178; doi: https://doi.org/10.1038/nchembio.2540)(Leon, 1999: “Molecular biology of jasmonic acid biosynthesis in plants”; Plant physiology and Biochemistry, 37(5), 373-380; doi: https://doi.org/10.1016/S0981-9428(99)80043-6)。上記に示される通り、ジャスモン酸は、死体栄養性病原体に対する植物免疫を調節する重要な植物ホルモンである。PR1-3およびPR1-17は、生体栄養性病原体に対してそれらを防御するために植物により産生されるPRタンパク質である。これらの化合物の産生は、植物ホルモンサリチル酸と関連付けられる(Van Loon, 1999: “The families of pathogenesis-related proteins, their activities, and comparative analysis of PR-1 type proteins”; Physiological and molecular plant pathology, 55(2), 85-97; doi: https://doi.org/10.1006/pmpp.1999.0213)。
【0136】
AFP-6
AFP-6の植物免疫誘導能を調べるために、実験室試験を行なった。上記の実施例5に概要が示されるステップに従って、コムギ(品種chamsin)に対して、2種類の濃度のAFP-6を用いて、Satec ML2000、8L/tonコーター中で種子をコーティングした。1トンの種子当たり8%(v/v)PVOHを含む8Lの水中(すなわち、7.36L水+640mL PVOH中)の0.1gまたは0.175gのAFP-6(Fraunhofer-Gesellschaftにより生成)を用いて、コーティングを行なった。したがって、コーティング後の酵素の最終濃度は、0.1g/tonおよび0.175g/ton種子であった。PVOHは、商業的な種子処理で用いられる標準的な増粘剤である。未処理対照は、水および8%PVOHでコーティングした。ペトリ皿中のmoisterろ紙上に、5個の種子を置いた。12時間明/12時間暗レジメンで、20℃のインキュベーター中で種子を発芽させた。各対象に関して、3回の反復を行ない、これは各サンプル採取時点に関する。実生のサンプルを、ろ紙上の「播種」後の異なる時点で採取した:4~7~9および14日間。
【0137】
総mRNAを、TRI試薬(Sigma-Aldrich社、St. Louis、MO、USA)を用いて植物組織から単離した。総RNA濃度を、NanoDrop法(ND-1000分光光度計、Thermo Scientific社、USA)を用いて定量化した。TranscriptorファーストストランドcDNA合成キット(Roche社)の説明書に従って、アンカー付きオリゴ(dT)18プライマーおよびヘキサマープライマーを用いることにより、各サンプルの1mgのRNAからcDNAを生成した。対象となる遺伝子を標的化するプライマーと共にqPCR Mastermix Plus for SYBR Green I(Eurogentec社、San Diego、CA、USA)を用いて、StepOnePlusTM PCR機器(Applied Biosystems社、UK)上でqRT-PCRを行なった。様々なサンプルからの転写産物の発現レベルを、規格化された参照遺伝子アクチンおよびユビキチンに対して標準化し、PCRデータを、2-ΔCt法を用いて解析した。
【0138】
結果を図6に示す。これらの結果は、AFP-6が、ジャスモン酸経路(LOXおよびOPR3;それぞれ、図6Aおよび図6Bを参照されたい)およびサリチル酸経路(PR1-3およびPR1-17;それぞれ、図6Cおよび図6Dを参照されたい)の両方をアップレギュレートすることを示す。このことは、AFP-6が、死体栄養性病原体および生体栄養性病原体の両方(すなわち、様々な種類の有害生物に対する)ならびに様々な種類の非生物的ストレスに対する植物免疫をプライミングすることを意味する。
【0139】
Vaffr-2d
Vaffr-2dの植物免疫誘導能を調べるために、温室試験を行なった。上記の実施例5に概要が示されるステップに従って、コムギ(品種chamsin)に対して、1種類の濃度のVaffr-2dを用いて、Satec ML2000、8L/tonコーター中で種子をコーティングした。1トンの種子当たり8%(v/v)PVOHを含む8Lの水中(すなわち、7.36L水+640mL PVOH中)の0.175gのVaffr-2dを用いて、コーティングを行なった。したがって、コーティング後の酵素の最終濃度は、0.175g/ton種子であった。PVOHは、商業的な種子処理で用いられる標準的な増粘剤である。未処理対照は、水および8%PVOHでコーティングした。40個の種子/植木鉢を、鉢植え用土中に播種し、4個の植木鉢を用いた。植物のサンプルを、播種後の異なる時点で採取した:6~7~8および11日間。mRNAの抽出およびqRT-PCRを、上記でAFP-6に関して記載された通りに行なった。AFP-6試験と同じ遺伝子を選択した。
【0140】
結果を図7に示す。これらの結果は、Vaffr-2dもまた、ジャスモン酸経路およびサリチル酸経路の両方のアップレギュレーションを示すことを示す。これらの結果は、例えば、予防的処理としてVaffr-2dを用いることにより、様々な生物的および非生物的ストレスに対して植物免疫をプライミングすることができることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本明細書中に記載される不凍タンパク質、特に植物保護でのその使用のための不凍タンパク質、ならびに関連する製品および本明細書中に記載される使用は、例えば、農業での使用のための、例えば、商業的植物保護剤に応用することができる。したがって、本開示は、産業上利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
【配列表】
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【国際調査報告】