(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ヘリウム冷却供給のための予冷回路及び方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/10 20060101AFI20240625BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
F25B9/10 A
F25B9/00 J
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579098
(86)(22)【出願日】2022-07-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2022025306
(87)【国際公開番号】W WO2023280439
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522394373
【氏名又は名称】リンデ クライオテヒニク アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デッカー、ルッツ
(57)【要約】
冷却すべき少なくとも1つの負荷(72)へのヘリウム冷却供給を行うための予冷回路が提供され、この予冷回路は、冷却すべき少なくとも1つの負荷と熱交換を行うように設計されている低温放出装置(10)を介して相互に接続されている送り管(30)及び戻り管(32)と、熱を周囲に放出し、流れ戻ってきたヘリウムを圧縮し、圧縮されたヘリウムを送り管に案内するように設計されているヘリウム冷凍装置(2)と、第1の冷却槽容器(34)及び第2の冷却槽容器(36)であって、送り管が、第1の冷却槽容器(34)の底部空間に配置されている第1の熱交換器(40)を通り、続いて低温放出装置の方向において、第2の冷却槽容器(36)の底部空間に配置されている第2の熱交換器(42)を通って延びており、第1の冷却槽容器の頂部空間が、戻り供給管(18)を介してヘリウム冷凍装置に接続されている、第1の冷却槽容器(34)及び第2の冷却槽容器(36)と、エジェクタ(50)と、を含み、駆動流開口部が戻り管に接続されており、吸引開口部が第2の冷却槽容器の頂部空間に接続されており、吐出開口部が第1の冷却槽容器の頂部空間に接続されており、エジェクタは、低温放出装置から流れ戻ってきたヘリウムを駆動流として使用することによって、ヘリウム蒸気を第2の冷却槽容器から吸入し、第1の冷却槽容器の圧力まで上昇させるように設計されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却すべき少なくとも1つの負荷(72)へのヘリウム冷却供給を行うための予冷回路(100、200、300、400)において、
前記冷却すべき少なくとも1つの負荷と熱交換を行うように設計されている低温放出装置(10)を介して相互に接続されている送り管(30)及び戻り管(32)と、
熱を周囲に放出し、流れ戻ってきたヘリウムを圧縮し、圧縮されたヘリウムを前記送り管に案内するように設計されているヘリウム冷凍装置(2)と、
第1の冷却槽容器(34)及び第2の冷却槽容器(36)であって、前記送り管は、前記第1の冷却槽容器(34)の底部空間に配置されている第1の熱交換器(40)を通り、続いて前記低温放出装置の方向において、前記第2の冷却槽容器(36)の底部空間に配置されている第2の熱交換器(42)を通って延びており、前記第1の冷却槽容器の頂部空間は、戻り供給管(18)を介して前記ヘリウム冷凍装置に接続されていることによって、前記流れ戻ってきたヘリウムが前記ヘリウム冷凍装置に供給される、第1の冷却槽容器(34)及び第2の冷却槽容器(36)と、
前記戻り管に接続されている駆動流開口部、前記第2の冷却槽容器の頂部空間に接続されて吸引開口部、及び前記第1の冷却槽容器の前記頂部空間に接続されている吐出開口部を備えたエジェクタ(50)であって、前記戻り管を通り前記低温放出装置から流れ戻ってきたヘリウムを駆動流として使用することによって、ヘリウム蒸気を前記第2の冷却槽容器から吸引し、前記第1の冷却槽容器の圧力まで上昇させるように設計されているエジェクタ(50)と、を含むことを特徴とする予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項2】
前記負荷の下流側において、前記戻り管(32)から分岐されている副戻り管(58)が、前記第1の冷却槽容器(34)の底部空間に配置されている第4の熱交換器(46)を通って延びており、且つ前記エジェクタの前記駆動流開口部の上流側において前記戻り管に開口しており、
好適には、前記副戻り管を通過する流れを制御するために、前記副戻り管、及び/又は前記副戻り管に並行な前記戻り管には、少なくとも1つのバルブ(60、62)が配置されている、請求項1記載の予冷回路(200、400)。
【請求項3】
第3の冷却槽容器(38)を含み、前記送り管(30)は、前記第2の冷却槽容器に続いて、前記第3の冷却槽容器の底部空間に配置されている第3の熱交換器(44)を通って延びており、前記第3の冷却槽容器の頂部空間は、真空ポンプに接続されており、前記真空ポンプは、前記頂部空間からヘリウム蒸気を吸い上げて前記ヘリウム冷凍装置に供給するように設計されており、好適には、吸い上げられたヘリウムの圧力レベルを前記ヘリウム冷凍装置の圧力レベルまで上昇させる圧縮機(66)が設けられていることを特徴とする、請求項1又は2記載の予冷回路(300、400)。
【請求項4】
前記第1の冷却槽容器(34)は、前記頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを前記底部空間に収容するように設計されており、1.0バールから1.5バールの範囲にあり、
前記第2の冷却槽容器(36)は、前記頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを前記底部空間に収容するように設計されており、第2の平衡状態圧力は、好適には、0.4バールから0.65バールの範囲にあり、
請求項3に従属する場合、前記第3の冷却槽容器(38)は、前記頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを前記底部空間に収容するように設計されており、第3の平衡状態圧力は、好適には、0.1バールから0.3バールの範囲にあることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項5】
前記ヘリウム冷凍装置(2)は、少なくとも1つのコンプレッサ(16)を含み、且つヘリウムを7バールから18バールの範囲、好適には10バールから15バールの範囲の圧力に圧縮するように設計されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項記載の予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項6】
前記ヘリウム冷凍装置(2)は、熱交換器システム(6)を含み、前記流れ戻ってきたヘリウムは、前記圧縮されたヘリウムとは逆方向の流れで前記熱交換器システムを通って案内されることを特徴とする、請求項5記載の予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項7】
前記低温放出装置(10)は、シールド循環系を含み、
前記ヘリウム冷凍装置は、ヘリウムシールド流を供給するように設計されており、前記ヘリウムシールド流は、前記ヘリウム冷凍装置から前記シールド循環系に案内され、前記シールド循環系から前記ヘリウム冷凍装置へと戻るように案内されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項記載の予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項8】
前記低温放出装置(10)は、冷却すべき複数の負荷(72)と熱交換するように設計されており、前記負荷は、相互に独立して、前記送り管及び前記戻り管に接続可能及び切り離し可能であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項記載の予冷回路(100、200、300、400)。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項記載の、閉じられた予冷回路と、前記冷却すべき少なくとも1つの負荷として前記低温放出装置に接続されている少なくとも1つの混合クライオスタットと、を含み、好適には、前記低温放出装置は、前記送り管及び前記戻り管が前記少なくとも1つの混合クライオスタットの少なくとも1つのヘリウム槽に接続されているように設計されていることを特徴とする、低温装置。
【請求項10】
少なくとも1つのサンプルが、請求項9記載の低温装置の前記少なくとも1つの混合クライオスタット内に配置されており、1Kを下回る温度まで冷却されることを特徴とする、低温方法。
【請求項11】
冷却すべき少なくとも1つの負荷へのヘリウム冷却供給を行うための方法において、
流れ戻ってきたヘリウムを圧縮するステップと、
圧縮されたヘリウムを、第1の冷却槽(34)と、後段の第2の冷却槽(36)とを通るように案内して、超臨界状態のヘリウムを得るステップと、
前記超臨界ヘリウムを、前記冷却すべき少なくとも1つの負荷と熱交換する低温放出装置(10)に案内するステップと、
前記ヘリウムの戻り流を前記低温放出装置からエジェクタ(50)の駆動流開口部へと案内するステップと、
前記第2の冷却槽と平衡状態にある第2のヘリウム蒸気を前記エジェクタを用いて吸引して、前記第1の冷却槽と平衡状態にある第1のヘリウム蒸気に供給するステップと、
流れ戻ってきた前記ヘリウムを得るために、前記第1のヘリウム蒸気を誘導するステップと、を有することを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記戻り流の少なくとも一部を分岐させて、副戻り流を形成するステップと、
前記副戻り流を前記第1の冷却槽を通して案内し、続いて前記戻り流へと案内するステップと、を有することを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記圧縮されたヘリウムを前記第2の冷却槽の下流側にある第3の冷却槽を通して案内するステップを含む、請求項11又は12記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却すべき少なくとも1つの負荷へのヘリウム冷却供給を行うための予冷回路及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータを冷却するためのような基礎研究においては、1Kを遥かに下回る冷却温度が必要になる。このために、現状の従来技術によれば、混合クライオスタットが使用され、それらの混合クライオスタットは、パルスチューブ冷凍機、スターリング冷凍機又はギフォード・マクマホン冷凍機でもって、3~4Kまでの範囲において予冷を行う。低い予冷温度は、混合クライオスタットの効率についての前提条件である。これらの予冷凍機の冷却能力は、シールド冷却としての50Kの付加的な冷却能力も含め、僅か数ワットの範囲である。従って、混合クライオスタットには、例えばそれぞれ2つのパルスチューブ冷凍機が装備されている。
【0003】
特に量子コンピュータの研究の進展に伴い、予冷における所要電力が大幅に増大している。しかしながら、上述の予冷システムの効率は非常に低い。このことは、比較的小型の用途では特に重要ではなく、ここでは、混合クライオスタットの一般的に高額なイニシャルコストが決定的な要因となる。しかしながら、予冷システムが複数個配置される場合には、エネルギ消費が線形に上昇するので、結果として生じる運転コストは顕著なものとなる。更に、例えば複数の量子コンピュータのために複数の混合クライオスタットが運転される場合には、この問題はより深刻になる。
【0004】
つまり、1つ以上の混合クライオスタットが可能な限り低い温度での冷凍、特にヘリウム冷凍を行うことができる効率的な予冷システムの需要があり、特に複数の混合クライオスタットの場合には、冷却供給又は冷却能力が可変であることが望ましい。
【発明の開示】
【0005】
この課題は、独立請求項の特徴を備えた、冷却すべき少なくとも1つの負荷のヘリウム冷却供給のための予冷回路及び方法によって解決される。従属請求項は、好適な実施形態に関する。
【0006】
冷却すべき少なくとも1つの負荷へのヘリウム冷却供給を行うための(閉じられた)予冷回路は、冷却すべき少なくとも1つの負荷と熱交換を行うように設計されている低温放出装置を介して相互に接続されている送り管及び戻り管と、熱を周囲に放出し、流れ戻ってきたヘリウムを圧縮し、圧縮されたヘリウムを送り管に案内するように設計されているヘリウム冷凍装置と、第1の冷却槽容器及び第2の冷却槽容器であって、送り管が、第1の冷却槽容器の底部空間に配置されている第1の熱交換器を通り、続いて低温放出装置の方向において、第2の冷却槽容器の底部空間に配置されている第2の熱交換器を通って延びており、第1の冷却槽容器の頂部空間が、戻り供給管を介してヘリウム冷凍装置に接続されていることによって、流れ戻ってきたヘリウムがヘリウム冷凍装置に供給される、第1の冷却槽容器及び第2の冷却槽容器と、戻り管に接続されている駆動流開口部、第2の冷却槽容器の頂部空間に接続されている吸引開口部、及び第1の冷却槽容器の頂部空間に接続されている吐出開口部を備えたエジェクタであって、戻り管を通り低温放出装置から流れ戻ってきたヘリウムを駆動流として使用することによって、ヘリウム蒸気を第2の冷却槽容器から吸入し、第1の冷却槽容器の圧力まで上昇させるように設計されている、エジェクタと、を含む。用語「底部空間」は、「サンプ空間」としても公知である。
【0007】
本発明による予冷回路によって、コンプレッサシステムによって圧縮されたヘリウムを超臨界状態で負荷に案内することが実現されるので、制御が困難な二相混合物(気体のヘリウム及び液体のヘリウム)の発生が回避される。この場合、エジェクタを用いて第2の冷却槽容器のヘリウム蒸気を第1の冷却槽容器の圧力まで上昇させるために、ヘリウムは負荷の通過後であっても十分な圧力を依然として有する。つまり総じて、多段式の槽冷却部の使用が実現されるので、低温を達成することができる。
【0008】
好適には、冷却すべき少なくとも1つの負荷は、混合クライオスタットである。
【0009】
好適には、副戻り管が設けられており、この副戻り管は、負荷の下流側において、戻り管から分岐されており、第1の冷却槽容器の底部空間に配置されている第4の熱交換器を通って延びており、且つエジェクタの駆動流開口部の上流側において戻り管に開口しており、この場合、更に好適には、副戻り管を通過する流れを制御するために、副戻り管、及び/又は副戻り管に並行な戻り管には、少なくとも1つのバルブが配置されている。このことは、予冷回路の部分負荷動作を実現するので、特に、可変数の負荷に低温を供給することができる。
【0010】
好適には、予冷回路は、第3の冷却槽容器を含み、この場合、送り管は、第2の冷却槽容器に続いて、第3の冷却槽容器の底部空間に配置されている第3の熱交換器を通って延びており、また第3の冷却槽容器の頂部空間は、真空ポンプに接続されており、この真空ポンプは、頂部空間からヘリウム蒸気を吸い上げてヘリウム冷凍装置に供給するように設計されており、好適には、吸い上げられたヘリウムの圧力レベルをヘリウム冷凍装置の圧力レベルまで上昇させる圧縮機が設けられている。これによって、より低い温度を達成することが実現される。
【0011】
好適には、第1の冷却槽容器は、頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを底部空間に収容するように設計されており、この場合、1.0バールから1.5バールの範囲にあり、また第2の冷却槽容器は、頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを底部空間に収容するように設計されており、この場合、第2の平衡圧力は、好適には、0.4バールから0.65バールの範囲にあり、また必要に応じて、第3の冷却槽容器は、頂部空間におけるヘリウム蒸気と平衡状態にある液体のヘリウムを底部空間に収容するように設計されており、この場合、第3の平衡圧力は、好適には、0.1バールから0.3バールの範囲にある。2段式の場合には、3.6K以下の温度を達成することができる。3段式の場合には、3Kを下回る温度を達成することができる。
【0012】
好適には、ヘリウム冷凍装置は、少なくとも1つのコンプレッサを含み、またヘリウムを7バールから18バールの範囲、好適には10バールから15バールの範囲の圧力に圧縮するように設計されている。高い圧力によって、二相ヘリウム混合物の発生を阻止することができる。
【0013】
好適には、ヘリウム冷凍装置は、熱交換器システムを含み、この場合、流れ戻ってきたヘリウムは、圧縮されたヘリウムとは逆方向の流れで熱交換器システムを通って案内される。
【0014】
更に好適には、低温放出装置はシールド循環系を含み、またヘリウム冷凍装置は、ヘリウムシールド流を供給するように設計されており、この場合、ヘリウムシールド流は、ヘリウム冷凍装置からシールド循環系に案内され、このシールド循環系からヘリウム冷凍装置へと戻るように案内される。これによって、負荷の外部シールド冷凍を行うことができる。
【0015】
好適には、低温放出装置は、冷却すべき複数の負荷と熱交換するように設計されており、この場合、負荷は、相互に独立して、送り管及び戻り管に接続可能及び切り離し可能である。即ち、負荷の数を可変にすることが実現される。
【0016】
本発明による低温装置は、本発明による(閉じられた)予冷回路と、冷却すべき少なくとも1つの負荷として低温放出装置に接続されている少なくとも1つの混合クライオスタットと、を含み、好適には、低温放出装置が、送り管及び戻り管が少なくとも1つの混合クライオスタットの少なくとも1つのヘリウム槽に接続されているように設計されている。
【0017】
本発明による低温方法では、少なくとも1つのサンプルが、本発明による低温装置の少なくとも1つの混合クライオスタット内に配置されており、また1Kを下回る温度まで冷却される。
【0018】
冷却すべき少なくとも1つの負荷へのヘリウム冷却供給を行うための本発明による方法は、流れ戻ってきたヘリウムを圧縮するステップと、圧縮されたヘリウムを、第1の冷却槽と、後段の第2の冷却槽とを通るように案内して、超臨界状態のヘリウムを得るステップと、超臨界状態のヘリウムを、冷却すべき少なくとも1つの負荷と熱交換する低温放出装置に案内するステップと、ヘリウムの戻り流を低温放出装置からエジェクタの駆動流開口部へと案内するステップと、第2の冷却槽と平衡状態にある第2のヘリウム蒸気をエジェクタを用いて吸入して、第1の冷却槽と平衡状態にある第1のヘリウム蒸気に供給するステップと、流れ戻ってきたヘリウムを得るために、第1のヘリウム蒸気を誘導するステップと、を含む。
【0019】
好適には、本方法は更に、戻り流の少なくとも一部を分岐させて、副戻り流を形成するステップと、副戻り流を第1の冷却槽を通して案内し、続いて戻り流へと案内するステップと、を含む。
【0020】
とりわけ、本方法は、圧縮されたヘリウムを第2の冷却槽の下流側にある第3の冷却槽を通して案内するステップを含む。
【0021】
本明細書では、簡略化のために、予冷回路による「冷却供給」若しくは「低温出力」、又は「負荷に冷却供給される」若しくは「負荷に低温が出力される」ということについて言及する。このことは、それぞれ、予冷回路によって、負荷の熱が(それぞれの熱交換装置を用いて)吸収又は排出されることを意味すると解される。
【0022】
「管」又は「案内する」という語句は、流体、特にはヘリウム、とりわけ気体のヘリウムのための管に関連する。つまり、チューブは、チューブ管を意味する。同様に、「接続されている」という語句は、(チューブ)管を介した流体接続が存在することに関連する。いずれの場合にも、管を通って流れる流体に影響を及ぼす又は流体を制御するバルブが設けられていてもよい。
【0023】
以下では、従来技術に対する本発明及びその特徴を示す添付の図面を参照しながら、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の好適な実施形態による、2段式の槽冷却部を備えた予冷回路を示す。
【
図2】本発明の別の好適な実施形態による、可変に設計された2段式の槽冷却部を備えた予冷回路を示す。
【
図3】本発明の別の好適な実施形態による、3段式の槽冷却部を備えた予冷回路を示す。
【
図4】本発明の別の好適な実施形態による、可変に設計された3段式の槽冷却部を備えた予冷回路を示す。
【
図5】冷却すべき負荷、特に混合クライオスタットに接続されている低温放出装置を示す。
【
図6】好適な実施形態による、本発明による方法を示す。
【発明の実施形態】
【0025】
図1は、本発明の好適な実施形態による、2段式の槽冷却部を備えた予冷回路100を示す。予冷回路は、コンプレッサシステム4又は圧縮機システム及び熱交換器システム6を含むヘリウム冷凍装置2と、第1の冷却槽容器34及び第2の冷却槽容器36を含む槽冷却システム8と、を含む。冷却すべき少なくとも1つの負荷との熱交換を行うように設計されている低温放出装置10と共に、(更に冷却すべき負荷のための)閉じられた予冷循環系が形成され、ここでは冷媒としてヘリウムが使用される。
【0026】
コンプレッサシステム4は、少なくとも1つのコンプレッサ16を含み、このコンプレッサ16は、戻り供給管18を通って流れ戻ってきたヘリウムを圧縮する。流れ戻ってきたヘリウムの圧力は、典型的には、約1.05バールである。圧縮されたヘリウムの圧力は、典型的には、7から18バール、とりわけ10から15バールの範囲にある。更に、コンプレッサシステム内又はコンプレッサシステム上には、熱を周囲に放出することができる、詳細には示していない熱放出装置が設けられていてもよい。
【0027】
圧縮されたヘリウムは、供給管20を介して送り管30に供給される。戻り供給管18及び供給管20は、熱交換器システム6を通って延びているので、流れ戻ってきたヘリウムと、逆方向に流れる圧縮されたヘリウムとの間で熱交換が実現される。
【0028】
更に、冷凍装置2内には1つ以上のタービン22が設けられていてもよく、タービン22を介して、熱交換器システム6内のある箇所において供給管から取り出される、圧縮されたヘリウムが、供給管の圧力レベルまで減圧され、また熱交換器システム内のある箇所(場合によっては別の箇所)において、戻り供給管において流れ戻ってきたヘリウムに再び供給されるので、原理的には、ブレイトンサイクルが形成される。
【0029】
槽冷却システム8を通って延びる送り管30は、先ず、第1の冷却槽容器34の底部空間に配置されている第1の熱交換器40を通り、続いて、第2の冷却槽容器36の底部空間に配置されている第2の熱交換器42を通って延びている。冷却槽容器はそれぞれ、底部空間には、ヘリウム槽、即ち液体状態のヘリウムが存在し、頂部空間には、底部空間における液体のヘリウムと平衡状態にあるヘリウム蒸気が存在するように設計されている。つまり、冷却槽容器内の圧力、即ち平衡圧力には、(蒸気圧曲線に対応する)相応の温度を対応付けることができる。第1の冷却槽容器34では、圧力がとりわけ約1.25バールである。即ち、圧力は、1.0バールから1.5バールの範囲にある。第2の冷却槽容器36では、圧力がとりわけ約0.5バールである。即ち、圧力は、0.4バールから0.65バールの範囲にある。第1の冷却槽容器34の底部空間は、管を介して、第2の冷却槽容器36又はその頂部空間に接続されており、それにより、第2の冷却槽容器36又はその頂部空間にヘリウムを供給することができ、この場合、管内には、このヘリウム供給を制御できるようにバルブ54が設けられている。
【0030】
総じて、(第1の冷却槽容器34及び第2の冷却槽容器36内での)2段式の槽冷却によって、低温放出装置10に供給されるヘリウムの温度を3.6K以下に低下させることができる。
【0031】
ヘリウムが送り管30を介して低温放出装置10に供給され、低温放出装置によって、少なくとも1つの負荷を冷却するために使用された後、ヘリウムは低温放出装置から戻り管32に案内される。
【0032】
戻り管32は、エジェクタ50に接続されているので、低温放出装置から戻り管を介して案内されて戻ってきたヘリウムを、エジェクタにおける駆動流として使用し、それによって、ヘリウム蒸気を第2の冷却槽容器36から吸入し、第1の冷却槽容器34の圧力まで上昇させ、第1冷却槽容器34に吐出することができる。相応に、エジェクタの駆動流開口部は、戻り管に接続されており、エジェクタの吸引開口部は、第2の冷却槽容器の頂部空間に(管を介して)接続されており、またエジェクタの吐出開口部は、第1冷却槽容器の頂部空間に(管を介して)接続されている。このようにして、ヘリウムの更なる液化を、予冷回路では回避することができる。第2の冷却槽容器36の頂部空間とエジェクタ50又はその吸引開口部との間の接続管には、第2の冷却槽容器の頂部空間からエジェクタへの蒸気流を制御できるようにするために、とりわけバルブ52が設けられている。
【0033】
第1の冷却槽容器34の頂部空間は、ヘリウム循環系が閉じられるように、冷凍装置2の戻り供給管20に接続されている。
【0034】
更には、外部冷却のために負荷によって使用することができるシールド冷却流を提供することができる。このために、例えば、シールド流送り管80及びシールド流戻り管82が設けられており、この場合、シールド流送り管80を介して、熱交換器システム6又は供給管18から取り出された、圧縮されたヘリウムが負荷に案内され、またヘリウムが、シールド流戻り管82を介して、例えばタービン22を介して再び熱交換器システム6に供給される。
【0035】
予冷回路の構成要素は、コンプレッサシステム4を除き、とりわけ冷凍ボックス12内に配置されている。即ち、予冷回路の構成要素は、コンプレッサシステム4を除き、断熱壁によって包囲されている。同様に、低温放出装置10への管、及び低温放出装置10からの管も断熱壁によって包囲されている。それぞれ破線によって示唆されている。
【0036】
図2は、本発明の別の好適な実施形態による、可変に設計された2段式の槽冷却部を備えた予冷回路200を示す。この実施形態は、
図1に示した実施形態に大部分対応している。従って、以下では実質的に、異なる要素又は付加的な要素のみを説明し、
図1と関連させて既に説明した要素についての再度の説明は省略する。
【0037】
図1とは異なり、ここでは付加的に、副戻り管58が設けられている。副戻り管は、戻り管32の分岐に接続されているので、低温放出装置10から到来するヘリウムの一部を戻り管から誘導乃至分岐させることができる。副戻り管及び戻り管には、それら副戻り管又は戻り管へのヘリウム流を制御できるようにするために、バルブ60、62が設けられている。
【0038】
副戻り管58は、第1の冷却槽容器34の底部空間に配置されている第4の熱交換器46を通って案内され、続いて、エジェクタ50の上流側において戻り管32に再び合流する。副戻り管を通って案内されるヘリウムの一部を冷却することによって、エジェクタの駆動流開口部の温度に影響を及ぼすことができ、このことは、エジェクタ50の動作点の(副戻り管又は戻り管におけるバルブ60、62を用いた間接的な)調整を実現する。従って、ヘリウム流は実質的にエジェクタの動作点によって決定されているので、予冷回路を種々の負荷と共に利用することができる。例えば、冷却すべき多数の異なる負荷に、低温放出装置10を介して低温を供給することができる。
【0039】
図3は、本発明の別の好適な実施形態による、3段式の槽冷却部を備えた予冷回路300を示す。この実施形態は、
図1に示した実施形態に大部分対応している。従って、以下では実質的に、異なる要素又は付加的な要素のみを説明し、
図1と関連させて既に説明した要素についての再度の説明は省略する。
【0040】
この実施形態は、付加的に、第3の冷却槽容器38を含み、この場合、送り管32は、第2の冷却槽容器36の下流側において、第3の冷却槽容器38の底部空間に配置されている第3の熱交換器44を通ってガイドされる。第3の冷却槽容器38においてもまた、底部空間における液体のヘリウムと、頂部空間におけるヘリウム蒸気とは平衡状態にある。圧力はとりわけ約0.2バールである。即ち、圧力は、0.1バールから0.3バールの範囲にある。このようにして、送り管を介して低温放出装置に供給されるヘリウムの更なる温度低下を達成することができる。例えば、3Kを下回る温度を達成することができる。
【0041】
真空ポンプ64は、管を介して、第3の冷却槽容器38の頂部空間に接続されており、また頂部空間からヘリウム蒸気を吸い上げるように設計されている。吸い上げられたヘリウムは、圧縮機66が配置されている管68を介して、冷凍装置2の戻り供給管18に案内される。圧縮機は、ヘリウムの圧力を戻り供給管内のレベルまで上昇させるために用いられる。
【0042】
第1の冷却槽容器34の底部空間は、第3の冷却槽容器38又はその頂部空間にヘリウムを供給できるように、管を介して、第3の冷却槽容器38又はその頂部空間に接続されており、この場合、管内には、このヘリウム供給を制御できるようにするためにバルブ56が設けられている。
【0043】
同様に、
図2及び
図3の実施形態を組み合わせることも可能である。即ち、
図2による実施形態において、付加的に、
図3による第3の冷却段、即ち第3の冷却槽容器、真空ポンプ、圧縮機、及び相応の管/バルブを設けることも可能である。相応の予冷回路400が
図4に図示されている。この予冷回路のいずれの要素も、
図1から
図3との関係において既に説明している。
【0044】
図5は、冷却すべき負荷72、特に混合クライオスタットに接続されている低温放出装置10を示す。この低温放出装置10は、特に、
図1、
図2、
図3に対応する実施形態のいずれにも使用することができる。接続の対応関係は、図中、文字「A」、「B」、「C」及び「D」が付された矢印によって表されている。
【0045】
低温放出装置10は、複数の(ここでは、例えば3つ)のバルブグループ74を含み、それらのバルブグループ74においてはそれぞれ、送り管32又は戻り管34に接続されている、個々の負荷又は負荷グループ72に対する管が設けられている。それらの管には、バルブグループにおいてバルブが設けられているので、ヘリウムを、送り管から所期のように個々の負荷に案内し、またそれらの負荷から戻り管に案内することができる。即ち、負荷72は、送り管(「A」)及び戻り管(「B」)に、相互に独立して接続可能及び切り離し可能である。このことは、特に、部分負荷動作を実現する、
図2及び
図4の予冷回路200、400との関係において有利である。
【0046】
バルブグループ74には、同様に、シールド冷却流のための管及びバルブも設けられ、それらを介して、シールド冷却流を、シールド流送り管(「C」)から負荷に案内し、またシールド流戻り管(「D」)に再び案内することができる。従って、シールド循環系が形成される。
【0047】
とりわけ、ここでもまた1つ以上の冷凍ボックスが設けられており、その内部に、バルブグループ、またとりわけ負荷、特に混合クライオスタットが配置されている。
【0048】
図6は、好適な実施形態による、本発明による方法を示す。個々のステップは、ヘリウムが通過する循環系の一部である。ステップ602では、流れ戻ってきたヘリウムが(例えばコンプレッサシステムを用いて)圧縮される。この際に達成される圧力は、7から18バール、好適には10から15バールの範囲にある。
【0049】
ステップ604では、圧縮されたヘリウムが、超臨界状態のヘリウムを得るために、第1の冷却槽と、後段の第2の冷却槽とを通って案内される。好適なステップ606では、ヘリウムが第2の冷却槽の通過後に第3の冷却槽に案内される。冷却槽は、対応する第1、第2又は第3のヘリウム蒸気と平衡状態にある。この場合、平衡圧力は、第1、第2又は第3の冷却槽容器との関係において前述した圧力にそれぞれ対応する。
【0050】
ステップ610では、超臨界ヘリウムが、冷却すべき少なくとも1つの負荷との熱交換を行う低温放出装置に案内される。
【0051】
ステップ612では、ヘリウムの戻り流が、低温放出装置からエジェクタの駆動流開口部へと案内される。オプションとして、ステップ614では、戻り流の少なくとも一部が分岐されることによって、副戻り流が形成され、その副戻り流が第1の冷却槽を取って案内され、それに続いて、戻り流へと案内される。
【0052】
ステップ616では、第2の冷却槽と平衡状態にある第2のヘリウム蒸気がエジェクタによって吸入され、第1の冷却槽と平衡状態にある第1のヘリウム蒸気に供給される。
【0053】
ステップ618では、ステップ602において圧縮された、流れ戻ってきたヘリウムを得るために、第1のヘリウム蒸気が誘導され、その結果、循環系が完全なものとなる。
【国際調査報告】