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特表2024-523939プラスチック金型鋼板及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-02
(54)【発明の名称】プラスチック金型鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/02 20060101AFI20240625BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240625BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C21D8/02 A
C22C38/00 301H
C22C38/44
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579865
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(85)【翻訳文提出日】2023-12-25
(86)【国際出願番号】 CN2021110563
(87)【国際公開番号】W WO2023272873
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】202110737282.3
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522116856
【氏名又は名称】インスティテュート オブ リサーチ オブ アイロン アンド スティール, ジィァンスー プロビンス/シャー-スティール, カンパニー リミテッド (シーエヌ)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF RESEARCH OF IRON AND STEEL, JIANGSU PROVINCE/SHA-STEEL, CO. LTD (CN)
【住所又は居所原語表記】Technology Building of Jiangsu Shagang Group, Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou, Jiangsu 215625, China
(71)【出願人】
【識別番号】523485526
【氏名又は名称】ジァンスー シャガン スティール カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU SHAGANG STEEL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang City, Suzhou, Jiangsu 215625, China
(71)【出願人】
【識別番号】521514565
【氏名又は名称】ジィァンスー シャガン グループ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JIANGSU SHAGANG GROUP CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Jinfeng Town, Zhangjiagang Suzhou,Jiangsu 215625, China
(74)【代理人】
【識別番号】100104226
【弁理士】
【氏名又は名称】須原 誠
(72)【発明者】
【氏名】チュ ジンブォ
(72)【発明者】
【氏名】ヂェン ファン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ チュンジュェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ハオ
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA05
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032BA01
4K032CA03
4K032CC04
4K032CD05
4K032CF03
(57)【要約】
本発明は、プラスチック金型鋼板及びその製造方法を開示する。前記製造方法は、鋼ビレットを均熱段階の温度1210~1250℃で加熱し、圧延開始温度1060~1140℃、最終圧延温度980~1050℃で鋼板に圧延し、鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷し、その後焼ならし温度Ac+60℃~Ac+90℃となるように焼ならしし、焼ならしした後、鋼板を冷却床に移し、B-50℃~B-20℃に空冷し、最後に、鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃~B-20℃に下がった後、デスタッキングして空冷することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃の3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である1回目の加熱工程と、
前記1回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、温度が1140~1170℃の均熱段階を有するように再加熱する、在炉時間が200min以上である2回目の加熱工程と、
前記2回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングし、室温まで自然空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層することを特徴とする、プラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板の長さL、幅W、厚さHと前記フェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たすことを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記2回目の加熱工程において、鋼ビレットを、入炉温度が700℃以上で、予熱段階の温度が950~1000℃で、加熱段階の温度が1100~1150℃となる3段階加熱することを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記圧延工程において、鋼ビレットを厚さ80mm以上の鋼板に圧延することを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記圧延後の冷却工程及び前記焼ならし後の冷却工程のいずれか又は両方は、
まず、鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がB+15℃≦T≦B+35℃を満たす温度Tに下がるまで自然空冷し、
その後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御することを含み、ファンの送風方向は鋼板の下面に平行であるか、又は鋼板の下面から遠ざかるように斜め下向きであることを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項6】
得られた鋼板の凹凸度が4mm/2m以下であることを特徴とする、請求項5に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記圧延後の冷却工程において、最終冷却温度が100~200℃であり、前記焼ならし工程の入炉温度が100℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項8】
使用される鋼ビレットの化学成分が質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項9】
得られた鋼板は降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCで、表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下であることを特徴とする、請求項1に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項10】
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である加熱工程と、
前記加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングし、室温まで自然空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層することを特徴とする、プラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記鋼板の長さL、幅W、厚さHと前記フェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たすことを特徴とする、請求項10に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記圧延後の冷却工程及び前記焼ならし後の冷却工程のいずれか又は両方は、
まず、鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がB+15℃≦T≦B+35℃を満たす温度Tに下がるまで自然空冷し、
その後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御することを含み、ファンの送風方向は鋼板の下面に平行であるか、又は鋼板の下面から遠ざかるように斜め下向きであることを特徴とする、請求項10に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項13】
使用される鋼ビレットの化学成分が質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物であることを特徴とする、請求項10に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項14】
得られた鋼板は降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCで、表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下であることを特徴とする、請求項10に記載のプラスチック金型鋼板の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の製造方法で製造されることを特徴とする、プラスチック金型鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料製造の技術分野に属し、プラスチック金型鋼板の製造方法、及び前記製造方法により製造されたプラスチック金型鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学プロセスの急速な発展に伴い、プラスチックの生産量は急速に増加している。多くのプラスチック製品は生産過程では金型でプレスして成形する必要があり、金型の材料は金型の品質、性能及び使用寿命に影響を与える重要な要素である。
【0003】
プラスチック金型の材料は主に金型鋼であり、金型鋼は、主に注湯システム、キャビティ、金型コア等の様々な金型フレーム部品に加工される。構造が複雑であるため、プラスチック材料と金型フレームの内部キャビティ面の接触では、摩耗や衝撃等が発生しやすく、よって、金型鋼板について断面組織及び力学的性質が均一で、加工中に変形しないことが求められている。しかし、従来のプラスチック金型鋼板は、均質性を改善するために、例えばダイ鋳造、鍛造、焼入れ工程等のプロセスフローが長くコストが高い生産方式を採用しているか、又は表層と芯部の組織の均質性が非常に低く、断面のロックウェル硬さの差が4HRC以上である。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、上記技術的問題を解決するために、プロセスルートが短く、組織の均質性を向上させることができる、プラスチック金型鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である1回目の加熱工程と、
前記1回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、温度が1140~1170℃の均熱段階を有するように再加熱する、在炉時間が200min以上である2回目の加熱工程と、
前記2回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングし、室温まで自然空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層する、プラスチック金型鋼板の製造方法を提供する。
【0006】
さらに好ましくは、前記鋼板の長さL、幅W、厚さHと前記フェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たす。
【0007】
さらに好ましくは、前記2回目の加熱工程において、鋼ビレットを3段階加熱する。このとき、入炉温度が700℃以上で、予熱段階の温度が950~1000℃で、加熱段階の温度が1100~1150℃である。
【0008】
さらに好ましくは、前記圧延工程において、鋼ビレットを厚さ80mm以上の鋼板に圧延する。
【0009】
さらに好ましくは、前記圧延後の冷却工程及び前記焼ならし後の冷却工程のいずれか又は両方は、
まず、鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がB+15℃≦T≦B+35℃を満たす温度Tに下がるまで自然空冷し、
その後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御することを含む。
【0010】
さらに好ましくは、ファンの送風方向は鋼板の下面に平行であるか、又は鋼板の下面から遠ざかるように斜め下向きである。
【0011】
さらに好ましくは、得られた鋼板の凹凸度が4mm/2m以下である。
【0012】
さらに好ましくは、前記圧延後の冷却工程において、最終冷却温度が100~200℃であり、前記焼ならし工程の入炉温度が100℃以上である。
【0013】
さらに好ましくは、得られた鋼板の表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下である。
【0014】
さらに好ましくは、使用される鋼ビレットの化学成分が質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物である。
【0015】
さらに好ましくは、得られた鋼板は降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCである。
【0016】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、製造方法が、
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である1回目の加熱工程と、
前記1回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、温度が1140~1170℃の均熱段階を有するように再加熱する、在炉時間が200min以上である2回目の加熱工程と、
前記2回目の加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングし、室温まで自然空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層する、プラスチック金型鋼板を提供する。
【0017】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である加熱工程と、
前記加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングして空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層する、プラスチック金型鋼板の製造方法を提供する。
【0018】
さらに好ましくは、前記鋼板の長さL、幅W、厚さHと前記フェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たす。
【0019】
さらに好ましくは、前記圧延後の冷却工程及び前記焼ならし後の冷却工程のいずれか又は両方は、
まず、鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がB+15℃≦T≦B+35℃を満たす温度Tに下がるまで自然空冷し、
その後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御することを含む。
【0020】
さらに好ましくは、ファンの送風方向は鋼板の下面に平行であるか、又は鋼板の下面から遠ざかるように斜め下向きである。
【0021】
さらに好ましくは、使用される鋼ビレットの化学成分が質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物である。
【0022】
さらに好ましくは、得られた鋼板は降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCで、表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下である。
【0023】
上記発明の目的を実現するために、本発明の一実施形態は、製造方法が、
鋼ビレットを加熱炉に入れて、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で3段階加熱を行う、在炉時間が240min以上である加熱工程と、
前記加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃で鋼板に圧延する圧延工程と、
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する圧延後の冷却工程と、
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を、焼ならし温度TがAc+60℃≦T≦Ac+90℃となるように焼ならし処理する焼ならし工程と、
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、B-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに空冷する焼ならし後の冷却工程と、
前記鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びB-50℃≦T≦B-20℃を満たす温度Tに下がった後、デスタッキングして空冷するクロススタッキング自己焼戻し工程と、を含み、
前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層する、プラスチック金型鋼板を提供する。
【0024】
従来技術と比較して、本発明は次のような有益な効果を含む。加熱、制御された圧延及びクロススタッキング自己焼戻しのプロセス手段により、簡単なプロセスルートで組織の均質性を著しく改善することができ、得られた鋼板の芯部と表層のロックウェル硬さの差が1.6HRC以内であり、生産過程全体のプロセスフローが簡単で、生産周期が短く、効率が高く、コストが低い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施例1における鋼板の断面の金属顕微鏡組織写真であり、図1aは鋼板の断面1/4の位置であり、図1bは鋼板の断面1/2の位置である。
図2】本発明の実施例2における鋼板の断面の金属顕微鏡組織写真であり、図2aは鋼板の断面1/4の位置であり、図2bは鋼板の断面1/2の位置である。
図3】本発明の実施例3における鋼板の断面の金属顕微鏡組織写真であり、図3aは鋼板の断面1/4の位置であり、図3bは鋼板の断面1/2の位置である。
図4】本発明の実施例4における鋼板の断面の金属顕微鏡組織写真であり、図4aは鋼板の断面1/4の位置であり、図4bは鋼板の断面1/2の位置である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
背景技術で述べたように、従来のプラスチック金型鋼板の製造では、均質性を改善するために、例えばダイ鋳造、鍛造、焼入れ工程等のプロセスフローが長くコストが高い生産方式を採用しているか、又は表層と芯部の組織の均質性が非常に低く、断面のロックウェル硬さの差が4HRC以上である。つまり、生産効率及びコストと組織の均質性の両方を両立することができない。そこで、本発明は、ダイ鋳造、鍛造、焼入れ等の工程を利用した従来のプロセスフローが長いプロセスルートを打破し、短いプロセスルートだけでも組織の均質性を向上させることができる、プラスチック金型鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0027】
以下において、本発明の技術的解決手段を具体的な実施形態によりさらに説明するが、保護を請求する範囲は以下の説明に限定されるものではない。
【0028】
<第1実施形態>
本実施形態は、化学成分が質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物である、プラスチック金型鋼板を提供する。
【0029】
以下において、本発明の鋼板の化学成分中の各元素の役割を簡単に説明する。
【0030】
Cは強化元素であるが、Cの増加は、塑性と靭性の低下を招きやすい。本発明において、Cの質量パーセントを0.33~0.38%に制御することで、強度と靱性の良好な整合を実現することができる。
【0031】
Siは脱酸元素であるが、Siの増加により連続鋳造ビレットの表面にファイアライトが形成され、鋼板の表面品質に影響を与えることがある。本発明において、Siの質量パーセントを0.11~0.19%に制御する。
【0032】
Mn、Cr、Ni、Moについて、MnとCrは、パーライト変態を遅らせることができ、Crは、パーライト変態の温度範囲を拡大し、Mnは、パーライト変態の温度範囲を縮小し且つ中心偏析を招きやすい。本発明において、Cr/Mnの比を2±0.05に制御することで、鋼板の芯部が遅い冷却速度でパーライト変態しないように促進することができる。Moは、パーライト変態を遅らせ、パーライト変態の温度範囲を高めることができ、Niは、オーステナイトの化学自由エネルギーを低減し、ベイナイト変態を遅らせることができる。本発明において、Cr/(Mn+Ni)の比を1±0.05に制御する。さらに、Mn、Cr、Ni、Moの共同作用により、フェライト及びパーライト変態を強力に抑制し、鋼板は大きな冷却速度範囲内で表層から芯部までベイナイト変態することができ、全厚が均一な組織が得られる。
【0033】
PとSは不純物元素であり、本発明において、Pの質量パーセントを0.014%以下、好ましくは0.008~0.014%に制御し、Sの質量パーセントを0.004%以下、好ましくは0.002~0.004%に制御する。
【0034】
従来技術と比較して、本発明の鋼板は、上述した化学成分の最適化設計により、特にC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo合金元素の共同作用により、鋼板は生産過程で大きな冷却速度範囲内でベイナイト変態することができ、これにより、鋼板、特に厚さ80mm以上の厚さの大きい鋼板は、表層と芯部の冷却速度に大きな差がある場合でも、均一な組織を形成して、組織の均質性を保証することができる。さらに、緩やかなプロセスと大きなプロセスウィンドウで鋼板の組織均質性を改善するのに有利である。
【0035】
なお、本発明は上記化学成分の最適化設計により、従来技術におけるNb、V、Ti等の析出元素及び高焼入性元素Bを省くこともでき、合金コストを節約するだけでなく、これらの元素に起因する亀裂欠陥を解決することもできる。例えば、従来技術において、Ti元素の添加により、亀裂の原因となるTiNハードスポットが生成しやすく、B元素の添加により、Bの粒界への偏析による金型鋼板の火炎切断時の亀裂形成が発生しやすい。
【0036】
さらに、本実施形態において、前記鋼板は降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCで、表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下であり、力学的性質に優れ、硬度が良好で、組織が均一である。
【0037】
本実施形態では、鋼ビレットを、加熱工程-圧延工程-圧延後の冷却工程-焼ならし工程-焼ならし後の冷却工程-クロススタッキング自己焼戻し工程を順次通過させることにより、前記鋼板を製造する。つまり、前記鋼板の製造方法は、順次行われる加熱工程-圧延工程-圧延後の冷却工程-焼ならし工程-焼ならし後の冷却工程-クロススタッキング自己焼戻し工程を含む。以下において、各工程について詳細に説明する。
【0038】
(1)加熱工程
鋼ビレットを加熱炉に入れて3段階加熱を行う。つまり、予熱段階、加熱段階及び均熱段階の順に加熱され、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で、在炉時間が240min以上である。
【0039】
このように、一方では、鋼ビレットの昇温速度が制御され、鋼ビレットが緩やかで均一に昇温されることで、鋼ビレットの表面品質が保証され、微小亀裂の発生が回避される。他方では、均熱段階で高温に保持されることで、鋼ビレット中の合金元素の完全な固溶化が促進され、鋼ビレット中の柱状結晶組織が解消され、芯部の偏析欠陥が改善される。
【0040】
ここで、鋼ビレットは、好ましくは連続鋳造ビレットを使用するが、これに限定されない。なお、鋼ビレットの化学成分は前記鋼板の化学成分と同様であることが理解可能であり、同様に、質量パーセントで、C 0.33~0.38%、Si 0.11~0.19%、Mn 0.70~0.90%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr 1.40~1.80%、Ni 0.70~0.90%、Mo 0.16~0.24%であり、且つCr/Mnの比が2±0.05で、Cr/(Mn+Ni)の比が1±0.05で、Mn+Cr+Ni+Moが3.0%~3.8%であり、残部がFe及び不可避的不純物である。鋼ビレットの化学成分はこれらに限定されず、本発明の前記製造方法に適した他の化学成分に変更して実施することができる。
【0041】
さらに好ましくは、該加熱工程は、前述した3段階加熱を1回目の加熱とし、1回目の加熱が完了した後、前記1回目の加熱で炉から排出された鋼ビレットに2回目の加熱を行い、均熱段階の温度が1140~1170℃で、在炉時間が200min以上であるようにしてもよい。このように、2回目の加熱を行い、均熱段階の温度を制御することで、エネルギー消費を削減し、酸化皮膜と酸化燃焼損失を回避するとともに、さらに鋼ビレット内の合金成分の完全な固溶化と均質化を実現し、偏析を改善し、その後の圧延における等軸結晶粒組織の取得と再結晶粒の微細化のために基礎を築く。
【0042】
前記2回目の加熱では、好ましくは、鋼ビレットを3段階加熱する。このとき、入炉温度が700℃以上で、予熱段階の温度が950~1000℃で、加熱段階の温度が1100~1150℃である。このように、高温で入炉することにより、2回目の加熱工程の予熱時間と加熱時間が短縮され、省エネルギーと消費量削減の効果がある。当然ながら、変形実施において、2回目の加熱は、鋼ビレットを入炉温度700℃以上で均熱段階に直接投入するように実施してもよい(即ち、2回目の加熱では予熱段階及び加熱段階がない)。
【0043】
また、前記1回目の加熱は第1加熱炉で行われ、前記2回目の加熱は第2加熱炉で行われる。つまり、前記1回目の加熱と前記2回目の加熱は同一の加熱炉で行われるのではない。このように、迅速な生産とプロセス操作の簡略化が可能になる。
【0044】
(2)圧延工程
前記加熱工程で炉から排出された鋼ビレットを鋼板に圧延する。このとき、圧延開始温度は1060~1140℃で、最終圧延温度は980~1050℃である。つまり、鋼ビレットは、加熱工程の処理が完了した後、圧延機によって鋼板に圧延される。
【0045】
このように、圧延開始温度と最終圧延温度を制御することにより、前記圧延工程において再結晶域圧延プロセスが実現され、圧延全体が再結晶域で行われ、最終的に等軸結晶粒が得られて帯状組織が回避され、中心偏析が低減され、帯状組織が解消され、鋼板の組織最適化が実現される。また、圧延過程において圧延機の負荷が小さいことを保証することができ、一方では圧延機の損傷を軽減し、他方では圧延の効率とリズムを向上させる。
【0046】
該圧延工程において、具体的には鋼ビレットを厚さ80mm以上の鋼板に圧延することができる。つまり、本実施形態で提供される製造方法は、厚さ80mm以上の厚さの大きいプラスチック金型鋼板の製造に適し、且つ厚さの大きいプラスチック金型鋼板の製造には、従来技術に対してより顕著な優位性がある。好ましくは、本実施形態において、該圧延工程では、鋼ビレットを厚さ100~165mmの鋼板に圧延することができ、このように、得られた鋼板の厚さは100~165mmである。
【0047】
(3)圧延後の冷却工程
最終圧延で得られた鋼板を冷却床に移し、200℃以下に空冷する。
【0048】
本実施形態において、該圧延後の冷却工程は、具体的には、鋼板を冷却床上で200℃以下になるまで自然空冷することであってもよい。つまり、いかなる介入手段も行わない。当然ながら、該圧延後の冷却工程の具体的な実施はこれに限定されず、例えば後述する第2実施形態で実施することもできる。
【0049】
ここで、該圧延後の冷却工程の最終冷却温度(即ち終了温度)は200℃以下である。具体的には、室温であってもよく、その後に後続の焼ならし工程を行う。つまり、鋼板の前記焼ならし工程の入炉温度は室温である。又は好ましくは100~200℃であってもよく、その後に後続の焼ならし工程を行う。つまり、鋼板の前記焼ならし工程の入炉温度が100℃以上であり、このような温度で焼ならしすることにより、鋼板の焼ならし工程での時間を減らし、エネルギー消費を削減することができる。
【0050】
本実施形態において、該圧延後の冷却工程は、具体的には、鋼板を冷却床上で200℃以下になるまで自然空冷することであってもよい。つまり、いかなる介入手段も行わない。当然ながら、該圧延後の冷却工程の具体的な実施はこれに限定されず、例えば後述する第3実施形態で実施することもできる。
【0051】
(4)焼ならし工程
前記圧延後の冷却工程で冷却された鋼板を焼ならし処理する。このとき、焼ならし温度TはAc+60℃≦T≦Ac+90℃である。
【0052】
ここで、Acは、加熱中にフェライトが全てオーステナイトに変態された時の温度であり、具体的には鋼ビレットの化学成分中のC、Ni、Si、V、Moの質量パーセント含有量[C]、[Ni]、[Si]、[V]、[Mo]から算出することができ、例えば、本実施形態において、
【数1】
である。
【0053】
本実施形態において、焼ならし工程、特に焼ならし温度の控制と前述した最終圧延温度の控制を組み合わせることによって、鋼板の組織均質性と力学的性質を高め、鋼板の組織と力学的性質を最適化することができる。
【0054】
好ましくは、前述したように、該焼ならし工程において、入炉温度を100℃以上とすることで、鋼板の焼ならし工程での時間を減らし、エネルギー消費を削減することができる。
【0055】
(5)焼ならし後の冷却工程
前記焼ならし工程を出た鋼板を冷却床に移し、温度Tに空冷する。ここでB-50℃≦T≦B-20℃であり、具体的には、好ましくはT=B-30℃であり得る。Bは、冷却中にベイナイト変態が終了する時の温度であり、具体的には、過冷却オーステナイトの連続冷却変態曲線(即ちCCT曲線)から得てもよいし、又は鋼板中の化学成分の元素含有量から算出してもよい。
【0056】
このように、鋼板を温度T(即ちベイナイト変態終了温度Bより20~50℃低い)に空冷することで、鋼板は、前記焼ならし後の冷却工程の後に表層から芯部まで完全にベイナイト変態し、また、表面の微小亀裂を回避することもでき、その後の組織均質性のさらなる最適化に有利である。
【0057】
本実施形態において、該焼ならし後の冷却工程は、具体的には、鋼板を冷却床上でTに自然空冷することであってもよい。つまり、いかなる介入手段も行わない。当然ながら、該焼ならし後の冷却工程の具体的な実施はこれに限定されず、例えば後述する第2実施形態で実施することもできる。
【0058】
(6)クロススタッキング自己焼戻し
前述した焼ならし後の冷却工程の直後、つまり、前記焼ならし後の冷却工程により鋼板をTに冷却した時、鋼板(本発明で提供/製造される鋼板をいう)と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせ、鋼板の温度が再びTに下がった後、デスタッキングし、室温まで自然空冷する。
【0059】
ここで、B-50℃≦T≦B-20℃であり、Tの具体的な値は前述したTと同じであっても異なっていてもよく、好ましい値は具体的にはT=B-30℃としてもよい。なお、前記クロススタッキングにおいて、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、且つ鋼板とフェライトパーライト鋼板を1層ずつ交互に積層している。このように、各鋼板の上面はその上層のフェライトパーライト鋼板で覆われ、下面はその下層のフェライトパーライト鋼板で覆われている。
【0060】
このように、温度がTの鋼板と温度がTよりも高いフェライトパーライト鋼板をクロススタッキングし、鋼板の温度が再びTに下がった後にデスタッキングする。つまり、デスタッキングの温度はT(ベイナイト変態終了温度Bより20~50℃低い)である。これにより、スタッキング期間中に、鋼板のベイナイト組織は安定した焼戻し変態が発生し、ベイナイト組織中のMAが分解され、ベイナイトフェライト中の炭化物が析出し、さらに、本実施形態において得られた鋼板は組織と性能が均一であり、また、スタッキング時間が約18~24hであるため、高い生産効率を保証することもできる。
【0061】
ここで、クロススタッキング期間中に、鋼板の側端の温度を測定した結果を鋼板の温度とすることで、デスタッキングの温度Tに達したか否かを判断することができる。当然ながら、最上層のフェライトパーライト鋼板を吊り上げて、上層の鋼板の上面の温度を測定した結果を鋼板の温度とすることで、デスタッキング温度に達したか否かを判断することもできる。
【0062】
好ましくは、鋼板の長さL、幅W、厚さHと前記フェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たす。このように、フェライトパーライト鋼板のサイズが鋼板のサイズよりも大きいため、鋼板の端部でも効果的にスタッキング焼戻しすることができ、組織と性能の均一性をさらに保証する。
【0063】
以上より、本実施形態は従来技術と比較して次の有益な効果を有する。
【0064】
一方では、加熱、制御された圧延及びクロススタッキング自己焼戻しのプロセス手段により、簡単なプロセスルートで組織の均質性を著しく改善することができ、得られた鋼板の芯部と表層のロックウェル硬さの差が1.6HRC以内であり、生産過程全体のプロセスフローが簡単で、生産周期が短く、効率が高く、コストが低い。
【0065】
他方では、化学成分の最適化設計、特にC、Si、Mn、Cr、Ni、Mo合金元素の共同作用と、前記製造方法の改善とを組み合わせることにより、大きな冷却速度範囲内でベイナイト変態を起こすことができ、緩やかなプロセスと大きなプロセスウィンドウで、鋼板の組織均質性を改善する。厚さの大きい鋼板、特に厚さ80mm以上の厚さの大きい鋼板の場合に、その優位性はより明らかである。また、従来技術におけるNb、V、Ti等の析出元素及び高焼入性元素Bを省いたため、合金コストを節約し、これらの元素に起因する亀裂欠陥を解決している。
【0066】
<第2実施形態>
本実施形態は同様にプラスチック金型鋼板及びその製造方法を提供する。前述した第1実施形態のさらなる最適化として、前記第1実施形態に対する本実施形態の相違点は主に前記焼ならし後の冷却工程にある。以下において、該相違点のみを説明し、その他の共通部分の説明を省略する。
【0067】
まず、前記第1実施形態の焼ならし後の冷却工程では、鋼板を冷却床上でTに自然空冷するが、これとは異なり、本実施形態において、前記焼ならし後の冷却工程は次の通りである。
【0068】
まず、焼ならしした後の鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がTに下がるまで自然空冷する。つまり、いかなる介入手段も行わない。ここで、B+15℃≦T≦B+35℃であり、具体的には、好ましくはT=B+30℃であり得る。Bは、冷却中にベイナイト変態が開始する時の温度であり、具体的には過冷却オーステナイトの連続冷却変態曲線(即ちCCT曲線)から得てもよいし、又は鋼板中の化学成分の元素含有量から算出してもよい。
【0069】
その直後、つまり、鋼板の上面の温度がTに下がった後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御する。
【0070】
すなわち、本実施形態の焼ならし後の冷却工程において、鋼板の上面の温度がT~Tの時、ファンを介入する空冷方式で冷却する。このように、変態領域全体において、鋼板下方の空気をファンで撹乱させることで、鋼板の上面の温度と下面の温度をほぼ同じにし、両者の差を常に5℃以内に維持し、これにより、鋼板の上面と下面の冷却速度、変態開始時間、変態終了時間、変態過程が全て一致していることを実現し、さらに、変態過程における鋼板の微変形を回避し、最終的に得られた鋼板の凹凸度が小さいことを保証する。また、ファンで空気を撹乱させる方式によって温度を制御することは、従来の矯正、ピット入りスタッキングの方式に比べて、設備コストを削減し、生産効率を高めることができるとともに、鋼板の表面亀裂を回避し、低いエネルギー消費コストと緩やかなプロセス条件を保証し、生産の難易度を下げることもできる。
【0071】
さらに、冷却床には、鋼板の下方に位置する風量調整可能なファンが複数設けられている。このように、該焼ならし後の冷却工程において、鋼板の上面の温度と下面の温度の差の大きさに応じて、オンにするファンの数とファンの風量を調節することができ、これにより、変態領域全体において鋼板の上面の温度と下面の温度の差が常に5℃以内に保たれることを保証する。
【0072】
例えば選択的に、上面の温度と下面の温度の差が30℃よりも大きい時、10台のファンをオンにし、ファンの風量を80000~100000m/hとし、上面の温度と下面の温度の差が15℃よりも大きく且つ30℃以下の時、7台のファンをオンにし、ファンの風量を70000~90000m/hとし、上面の温度と下面の温度の差が5℃よりも大きく且つ15℃以下の時、3台のファンをオンにし、ファンの風量を70000~90000m/hとし、上面の温度と下面の温度の差が5℃以下の時、ファンをオンにしなくてもよい。当然ながら、これは一例に過ぎず、実際には他の方法で実施することもでき、基本的には、上面の温度と下面の温度の差が段階的に大きくなるにつれて、ファン全体の風量が段階的に大きくなるように制御する。当然ながら、ファンの風量の具体的なパラメータ値及び上面の温度と下面の温度の差の段階的な変化はこれに限定されない。
【0073】
さらに、ファンの送風方向は鋼板の下面に平行であるか、又は鋼板の下面から遠ざかるように斜め下向きである。このように、ファンは鋼板の下面に向かって直接送風するのではなく、鋼板下方の気流の流れを加速するだけである。これにより、鋼板の下面の各所の温度が均一で局部的に低くならないことを保証し、板形状をさらに最適化し、表面亀裂を回避する。
【0074】
このように、従来技術と比較して、本実施形態は、前記第1実施形態の有益な効果に加えて、簡単なプロセスフローで板形状を低コストで改善することもでき、得られたプラスチック金型鋼板は、GB/T 709-2019標準に従って検出された結果、凹凸度が4mm/2m以下で、さらには3mm/2m以下であり、板形状品質が従来技術のプラスチック金型鋼板の品質に達しているか、又はそれを上回ることさえある。
【0075】
<第3実施形態>
本実施形態は同様にプラスチック金型鋼板及びその製造方法を提供する。前記第1実施形態又は第2実施形態のさらなる最適化として、前記第1実施形態又は第2実施形態に対する本実施形態の相違点は主に前記圧延後の冷却工程にある。以下において、該相違点のみを説明し、その他の共通部分の説明を省略する。
【0076】
まず、前記第1実施形態、第2実施形態の圧延後の冷却工程では、鋼板を冷却床上で200℃以下に自然空冷するが、これとは異なり、本実施形態の圧延後の冷却工程は、第2実施形態の焼ならし後の冷却工程と類似し、次のように設定する。
【0077】
まず、最終圧延された鋼板を冷却床に移し、鋼板の上面の温度がTに下がるまで自然空冷する。
【0078】
その直後、つまり鋼板の上面の温度がTに下がった後、鋼板の上面の温度がTに下がるまで、ファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以下であるように制御する。
【0079】
その後、ファンを閉じたまま(即ちファンで気流を撹乱するのを停止する)、鋼板を上面温度Tから200℃以下に自然空冷する。
【0080】
つまり、本実施形態の圧延後の冷却工程では、前述した第2実施形態の焼ならし後の冷却工程と同様に、鋼板の上面の温度がT~Tの時、ファンを介入する空冷方式で冷却する。このように、変態領域全体において、鋼板の上面の温度と下面の温度をほぼ同じにし、鋼板の微変形を回避し、鋼板の凹凸度が小さいことを保証する。
【0081】
その他のファンの調節及び風向設定については、第2実施形態の焼ならし後の冷却工程を参照することができ、ここでは説明を省略する。
【0082】
このように、従来技術と比較して、本実施形態は、前記第1実施形態の有益な効果に加えて、簡単なプロセスフローで板形状を低コストで改善し、得られたプラスチック金型鋼板は、GB/T 709-2019標準に従って検出された結果、凹凸度が4mm/2m以下で、さらには3mm/2m以下であり、板形状品質が従来技術のプラスチック金型鋼板の品質に達しているか、又はそれを上回ることさえある。
【0083】
以下において、本発明のいくつかの実施例を提供して本発明の技術的解決手段をさらに説明する。
【0084】
まず、実施例1~7で提供される鋼板は、いずれも同一の炉鋼で鋳造された連続鋳造ビレットを使用して製造され、前記連続鋳造ビレットの化学成分が質量パーセントで、C:0.35%、Si:0.15%、Mn:0.81%、P≦0.014%、S≦0.004%、Cr:1.60%、Ni:0.80%、Mo:0.18%であり、残部がFe及び不可避的不純物である。ここでCr/Mnの比が1.98で、Cr/(Mn+Ni)の比が0.99で、Mn+Cr+Ni+Moが3.39%である。
【0085】
このように、本実施例の鋼板の化学成分は上記と同様である。鋼ビレットの化学成分中のC、Ni、Si、V、Moの質量パーセント含有量[C]、[Ni]、[Si]、[V]、[Mo]に基づき、式
【数2】
を用いて計算した結果、Acは790℃であった。CCT曲線により、B=487℃で、B=346℃であった。
【0086】
実施例1~7の鋼板は、いずれも、加熱工程-圧延工程-圧延後の冷却工程-焼ならし工程-焼ならし後の冷却工程-クロススタッキング自己焼戻し工程で製造され、具体的には次の通りである。
【0087】
(1)加熱工程
実施例1~7でそれぞれ使用する鋼ビレットを第1加熱炉に入れて3段階加熱を行った。このとき、予熱段階の温度が850~950℃で、予熱段階の滞留時間が60min以上で、加熱段階の温度が1100~1220℃で、均熱段階の温度が1210~1250℃で、在炉時間が240min以上であった。
【0088】
第1加熱炉から鋼ビレットを取り出した後、第2加熱炉で3段階加熱を行った。このとき、入炉温度が700℃以上で、予熱段階の温度が950~1000℃で、加熱段階の温度が1100~1150℃で、均熱段階の温度が1140~1170℃で、在炉時間が200min以上であった。
【0089】
(2)圧延工程
実施例1~7でそれぞれ使用した鋼ビレットを第2加熱炉から取り出した後、鋼板に圧延した。このとき、圧延開始温度が1060~1140℃で、最終圧延温度が980~1050℃であった。実施例1~7の鋼板の厚さは表1に示す通りである。
【0090】
(3)圧延後の冷却工程
前記圧延工程の直後に、実施例1~5の鋼板を冷却床に移し、100℃~200℃に自然空冷した。
【0091】
一方、実施例6~7の鋼板を冷却床に移し、まず、鋼板の上面の温度が517℃に冷却されるまで自然空冷した。この時温度を検出した結果、実施例6と7の鋼板の下面の温度がそれぞれ541℃、549℃であり、実施例6と7の鋼板の上面の温度と下面の温度の差がそれぞれ24℃、32℃であった。実施例6と7でそれぞれ7台、10台のファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以内に減少するように制御した。その後、鋼板の上面の温度と下面の温度に応じて、オンにするファンの数及びファンの風量を調整して、鋼板の上面の温度と下面の温度の差を5℃以内に維持し、鋼板の上面の温度が296~326℃に冷却された後、100℃~200℃に自然空冷した。
【0092】
(4)焼ならし工程
前記圧延後の冷却工程の直後に、実施例1~7の鋼板をそれぞれ焼ならし処理した。このとき、入炉温度が100℃以上で、焼ならし温度が870℃であった。
【0093】
(5)焼ならし後の冷却工程
前記焼ならし工程の直後に、実施例1~4、6の鋼板を冷却床に移し、296~326℃に自然空冷し、該工程を終了した。
【0094】
実施例5、7の鋼板を冷却床に移し、まず、鋼板の上面の温度が517℃に冷却されるまで自然空冷した。この時温度を検出した結果、実施例5、7の鋼板の下面の温度がそれぞれ537℃、546℃であり、実施例5、7の鋼板の上面の温度と下面の温度の差がそれぞれ20℃、29℃であった。実施例5、7でそれぞれ7台、7台のファンをオンにして鋼板下方の空気をファンで撹乱させ、鋼板の上面の温度と下面の温度の差が5℃以内に減少するように制御した。その後、鋼板の上面の温度と下面の温度に応じて、オンにするファンの数及びファンの風量を調整して、鋼板の上面の温度と下面の温度の差を5℃以内に維持し、鋼板の上面の温度が296~326℃に冷却された後、該工程を終了した。
【0095】
(6)クロススタッキング自己焼戻し
前記焼ならし後の冷却工程の直後に、実施例1~7の各鋼板と温度450~550℃のフェライトパーライト鋼板を、最下層と最上層がともにフェライトパーライト鋼板であり、鋼板とフェライトパーライト鋼板が1層ずつ交互に積層されているように、クロススタッキングを行い、スタッキング期間中に鋼板を自己焼戻しさせて昇温させ、鋼板の温度が再び296℃に下がると、デスタッキングし、その後、室温まで自然空冷した。
ここで、鋼板の長さL、幅W、厚さHとフェライトパーライト鋼板の長さL、幅W、厚さHは、L≧L+500mm、W≧W+300mm、H≧Hを満たしていた。
【0096】
実施例1~7の各鋼板をそれぞれサンプリングして検出したところ、優れた組織と良好な組織均質性を有することが分かった。実施例1~4の金属組織図はそれぞれ図1a~図4bに示す通りである。また、各実施例で得られた鋼板の厚さ、力学的性質、組織性能、凹凸度(GB/T 709-2019標準による)は、具体的には表1に示す通りであった。
【0097】
[表1]
【0098】
各実施例から分かるように、本発明の鋼板は、優れた組織均質性を有し、表層と芯部のロックウェル硬さの差が1.6HRC以下であり、また、力学的性質と組織性能が良好であり、降伏強度が700MPa以上で、引張強度が1050MPa以上で、V型シャルピー衝撃エネルギーが15J以上で、ロックウェル硬さが31~34HRCである。実施例5~7から、圧延後の冷却工程及び/又は焼ならし後の冷却工程における変態領域の温度制御により、板形状の制御を実現することもでき、凹凸度が2mm/2m以下であることも分かる。
【0099】
本明細書は、実施形態に基づいて説明されているが、各実施形態が1つの独立した技術的解決手段のみを含むわけではないことを理解すべきである。明細書のこのような記載方式は単に明瞭にするためであり、当業者が明細書を1つの全体としてみなすべきである。各実施形態における技術的解決手段は、適宜に組み合わせて、当業者に理解され得る他の実施形態を形成することができる。
【0100】
上で列挙した詳細な説明は、本発明の実行可能な実施形態に関する具体的な説明に過ぎず、本発明の保護範囲を制限するためのものではなく、本発明の技術的精神から逸脱しない等価な実施形態又は変更は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるものとする。
図1a
図1b
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
【国際調査報告】