(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】マルチモダリティ療法の計画と最適化
(51)【国際特許分類】
A61B 34/10 20160101AFI20240628BHJP
【FI】
A61B34/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023574845
(86)(22)【出願日】2022-05-24
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 EP2022064032
(87)【国際公開番号】W WO2023274637
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
(72)【発明者】
【氏名】オデン,ヤコブ
(72)【発明者】
【氏名】フレドリクソン,アルビン
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,シェル
(57)【要約】
例えば、手術、放射線療法、及び化学療法などの全身治療のうちの1つ以上を含むマルチモダリティ治療計画は、各治療モダリティに影響を与える不確実性、及びモダリティの組み合わせから結果として得られる不確実性を考慮に入れる2つ以上の計画のロバスト共最適化によって取得され得る。シナリオは、最適化で使用される異なる不確実性に対して規定され得る。計画は、同時に最適化されてもよく、又は、別のモダリティの別の計画の予測される効果を考慮して、1つの計画が最適化されてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の治療モダリティの第1の治療計画と第2の治療モダリティの第2の治療計画とを含むマルチモダリティ治療を計画するコンピュータベースの方法であって、
-前記マルチモダリティ治療に関連する目的関数を含む最適化問題を取得するステップと、
-前記マルチモダリティ治療に関連付けられた少なくとも1つのパラメータにおける第1の不確実性に関連する少なくとも第1及び第2のシナリオを規定するステップと、
-一組のシナリオにわたってロバスト最適化を実行するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記マルチモダリティ治療は、以下の治療モダリティ、
-放射線療法
-化学療法
-手術
-温熱療法
-免疫療法
-凍結療法
-ホルモン療法、
のうちの2つ以上に対する治療計画を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つのパラメータは、前記第1及び前記第2の治療計画の予測された組み合わせ効果に関連するパラメータを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
パラメータは、以下、
-治療中の治療ボリュームの空間的位置、
-治療モダリティ間での前記治療ボリュームの前記空間的位置の変化、
-治療の過程にわたる送達量、
-治療に影響を与える任意のパラメータ(例えば、血液潅流、組織の熱及び誘電特性、前記送達される比吸収率(SAR)分布による前記温熱治療の熱伝達の不確実性など)、
-前記異なるモダリティの前記組み合わせ効果、
-治療された組織の密度、
-前記種々のモダリティの相互作用効果、
-範囲の不確実性、
-器官の動き及び/又は生物学的モデルのパラメータ値、
のうちの1つ以上を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の治療計画は既に決定されており、前記ロバスト最適化は、既存の前記第1の計画を考慮に入れた前記第2の治療計画に対する最適化関数値を最適化することを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ロバスト最適化は、前記第1及び前記第2の計画の前記組み合わせ効果を考慮に入れた前記最適化関数値を計算することにより、前記第1及び前記第2の計画を共最適化することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の治療計画は、化学療法治療計画、手術治療計画、又は温熱療法治療計画であり、前記第2の治療計画は、放射線療法治療計画である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の治療計画は、放射線治療計画であり、前記第2の治療計画は、手術治療計画、化学療法治療計画、又は温熱治療計画である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記マルチモダリティ治療計画は、1つ以上の追加の治療計画をさらに含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記最適化問題は、最適化中に維持されるパラメータを規定する制約を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記最適化問題は、生物学的又は物理的目的を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記最適化問題は、前記治療計画のうちの1つを送達するように配置された少なくとも1つの送達システムの機械パラメータを最適化するように規定される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記最適化問題は、前記送達システムのための簡易化された機械モデルを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
コンピュータで実行されると、前記コンピュータに請求項1から13のいずれか一項に記載の方法を実行させるコンピュータ可読コード手段を含む、コンピュータプログラム製品。
【請求項15】
プロセッサと、プログラムメモリと、を備え、前記プログラムメモリは、前記プロセッサにおいて実行される請求項14に記載のコンピュータプログラム製品を保持する、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[001] 本発明は、マルチモダリティ療法、例えば、がんなどの悪性疾患のマルチモダリティ療法の計画及び最適化のための方法、コンピュータプログラム製品、及びコンピュータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
[002] マルチモダリティ療法治療には、疾患のより効果的な治療のために、異なる種別の療法を組み合わせて使用することが含まれる。モダリティは、多くの場合、放射線療法(RT)、温熱療法(HT)、凍結療法、化学療法、免疫療法、ホルモン療法、及び手術のうちの2つ以上を含むが、他の局所又は組織的モダリティも含み得る。
【0003】
[003] マルチモダリティ療法治療は、複数の悪性疾患に一般的に使用されている。例えばがん患者は、手術と、化学療法、放射線療法、又はその両方を組み合わせて治療されることが多い。異なる治療は、例えば、手術の前又は後に行われる放射線療法など連続して提供されることが多いが、例えば、放射線療法又は化学療法と組み合わせた温熱療法、もしくは手術中に放射線療法治療が行われる術中放射線療法など同時に提供されてもよい。
【0004】
[004] 現在の臨床現場において、マルチモダリティ治療の各モダリティは、一般に、個別に計画され最適化されるが、これは、異なるモダリティの組み合わせの効果と、これらが互いにいかに作用し合うかが考慮に入れられていないことを意味する。同時係属中の出願PCT/EP2022/059879は、各計画の予測される組み合わせ効果を考慮に入れた、温熱療法及び放射線療法治療の同時計画に関する。
【発明の概要】
【0005】
[005] 本発明の目的は、マルチモダリティ治療のための改善された計画方法を可能にすることである。
【0006】
[006] 本発明は、第1の治療モダリティの第1の治療計画と第2の治療モダリティの第2の治療計画とを含むマルチモダリティ治療を計画するコンピュータベースの方法であって、
-マルチモダリティ治療に関連する目的関数を含む最適化問題を取得するステップと、
-マルチモダリティ治療に関連付けられた少なくとも1つのパラメータにおける第1の不確実性に関連する少なくとも第1及び第2のシナリオを規定するステップと、
-一組のシナリオにわたって最適化関数値のロバスト最適化を実行するステップと、を含む方法に関する。
【0007】
[007] 本発明は、マルチモダリティ療法治療の全体的効果の不確実性が、個々のモダリティの不確実性、及び他のモダリティの不確実性と組み合わせたこれらの伝播に影響を受けるという認識に基づいている。本発明によれば、マルチモダリティ治療に関連する不確実性は、一方のモダリティの不確実性が他のモダリティの計画にいかに影響し得るかを含む、計画プロセスにおいて既に考慮に入れられている。ロバスト最適化を利用することにより、不確実性が最適化問題に組み込まれる。これは、最適化中のそれらの効果が、種々の数学的実装を使用して緩和され得ることを意味する。これは、相乗的な利点を活用し、相乗的な悪影響を回避するため、並びに、個々のモダリティの治療に由来する不確実性を考慮するために行われる。
【0008】
[008] 少なくとも1つのパラメータには、第1及び第2の治療計画の組み合わせ効果に関連するパラメータが含まれ得る。少なくとも1つのパラメータには、以下のうちの1つ以上が含まれてもよい。
-治療中の治療ボリュームの空間的位置、
-治療モダリティ間での治療ボリュームの空間的位置の変化、
-治療の過程にわたる送達量、
-治療に影響を与える任意のパラメータ(例えば、血液潅流、組織の熱及び誘電特性、送達される比吸収率(SAR)分布による温熱治療の熱伝達の不確実性など)、
-予測された異なるモダリティの組み合わせ効果、
-治療された組織の密度、
-種々のモダリティの相互作用効果、
-範囲の不確実性、
-器官の動き及び/又は生物学的モデルのパラメータ値
【0009】
[009] 使用されるモダリティには、以下のうちの2つ以上の任意の組み合わせが含まれてもよい。
-放射線療法
-温熱療法
-化学療法
-手術
-免疫療法
-ホルモン療法
-凍結療法
-悪性疾患の治療に使用される他の任意の療法
【0010】
[010] 悪性状態の治療に頻繁に使用される特に好適な組み合わせには、以下が含まれてもよい。
-化学療法及び放射線療法
-化学療法及び手術
-化学療法及び温熱療法
-放射線療法及び手術
-放射線療法及び温熱療法
【0011】
[011] 上記の治療モダリティの各組み合わせにおいて、各モダリティは、計画の文脈における第1又は第2の治療モダリティであり得ることに留意されたい。第1又は第2のモダリティのうちの一方、又は第3のモダリティに関連する第3の治療計画もあり得る。例えば、手術、化学療法、及び放射線療法をともに使用することは周知である。より最近の組み合わせには、手術、温熱療法、及び放射線療法又は化学療法が含まれる。さらなる治療計画も含まれ得る。
【0012】
[012] 1つ以上の不確実性を選択するステップには、2つ以上のモダリティの一方又は両方に特有の不確実性、及び/又は、モダリティの組み合わせの結果である不確実性を選択することが含まれ得る。
【0013】
[013] 好適な実施形態において、第1の治療計画は、既に決定されており、最適化関数値を計算するステップは、既存の第1の計画を考慮した第2の治療計画に対する最適化関数値を最適化することを含む。代替として、最適化関数値を計算するステップは、第1及び第2の計画の組み合わせ効果を考慮した最適化関数値を計算することによって、第1及び第2の計画を共最適化することを含み得る。同様の手法で、1つ以上のさらなる計画を追加することができる。
【0014】
[014] 最適化は、モダリティの少なくとも1つの計画と、別のモダリティの少なくとも1つの計画とのロバスト共最適化を含み得る。代替として、最適化は、マルチモダリティ治療の予測される総合効果と、別のモダリティの少なくとも1つの既存の計画の治療不確実性とを考慮した少なくとも1つの計画のロバスト最適化を含み得る。
【0015】
[015] 異なるモダリティに関連する治療計画は、同時に、又は同日に、又は異なる日に送達するように最適化され得る。3つ以上の計画が展開される場合、一部は同日中に送達されるように最適化されてもよく、一部は他の日に送達されるように最適化されてもよい。例えば温熱治療計画は、第1の放射線療法治療計画とともに送達されるように最適化されてもよく、第2の放射線療法治療計画は、温熱療法治療がない日に実施されるように最適化されてもよい。
【0016】
[016] 少なくとも1つの最適化関数は、目的関数のロバスト最適化中に維持されるパラメータを規定する制約を含み得る。追加又は代替として、少なくとも1つの最適化関数は、生物学的又は物理的目的を含む。目的関数及び制約の両方、並びに処理最適化におけるそれらの使用自体は、既知である。
【0017】
[017] ロバスト最適化は、マルチモダリティ療法治療を構成するモダリティのうちの1つ以上に対する任意送達システムの機械パラメータ最適化を含み得る。最適化問題は、それ自体既知の手法での制約及び/又は目的関数としての機械的限定を含み得る。
【0018】
[018] いくつかの実施形態において、ロバスト最適化には、以下のうちの1つを含む。
-目的関数の期待値が最小化される、確率的プログラミングアプローチ(a stochastic programming approach)
-エラーシナリオにわたる目的関数の最大値が最小化されるミニマックスアプローチ(a minimax approach)
-一般にミニマックス確率プログラミング(minimax stochastic programming)と称される2つの任意の組み合わせ
-個々に考慮された各ボクセルに対するワーストケース値が最適化される、ボクセル単位のワーストケースアプローチ(a voxel-wise worst-case approach)
-バリューアットリスク(value-at-risk)又は条件付きバリューアットリスクを含む、他の種別のロバスト最適化方法
【0019】
[019] 治療効果は、等価放射線量(EQD)、等価均一分布(EUD)、生物学的等価放射線量(BED)、熱増強比(TER)、腫瘍制御確率(TCP)、正常組織障害発生確率(NTCP)、合併症のない治癒(CFC)、二次がん(SC)、細胞生存率、及び/又は全生存率(OS)を含む生物学的モデルを使用して定量化され得る。
【0020】
[020] いくつかの実施形態によると、最適化問題は、最適化中に維持されるパラメータを規定する制約を含む。制約の使用は、当技術分野で周知である。最適化問題は、生物学的目的又は物理的目的も含み得る。
【0021】
[021] いくつかの実施形態において、最適化問題は、計画のうちの1つの送達において変数として使用される少なくとも1つの送達システムの機械パラメータを最適化するように規定される。機械パラメータを直接最適化することで、最適化後に機械パラメータに変換する必要がなくなる。これは例えば、制約又は目的として温熱療法治療及び/又は放射線治療を実施するために使用される少なくとも1つの送達機械の機械的限界に関連する少なくとも1つの制約及び/又は少なくとも1つの目的を含む最適化問題によって達成され得る。
【0022】
[022] 最適化問題は、好適には、加熱システムのための放射線フルエンス最適化及び出力最適化など、パラメータが最適化される1つ又は複数の送達システムに対する簡易化された機械モデルを含む。
【0023】
[023] 本開示はまた、コンピュータで実行されると、以上に検討した実施形態のいずれか1つによる方法をコンピュータに実行させる、コンピュータ可読コード手段を含むコンピュータプログラム製品に関する。コンピュータプログラム製品は、好ましくは、非一時的記憶媒体に記憶される。
【0024】
[024] 本開示はまた、プロセッサとプログラムメモリとを備え、プログラムメモリが、プロセッサにおいて実行される上記に係るコンピュータプログラム製品を保持する、コンピュータシステムにも関する。
【0025】
頭字語
[025] 本文書中、以下の頭字語を使用する。
BED 生物学的等価放射線量
DVH 線量ボリュームヒストグラム
EQD 等価放射線量
EQD2 2-Gyフラクションにおける等価放射線量
EUD 等価均一線量
HT 温熱療法
LQ 線形二次
NTCP 正常組織障害発生確率
RT 放射線療法
RTHT 熱放射線療法
TCP 腫瘍制御確率
TER 熱増強比
【図面の簡単な説明】
【0026】
[026] 本発明を、例示として、添付の図面を参照して、以下にさらに詳細に説明する。
【0027】
【
図1】本発明の実施形態に係る一般的な方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態に係るより具体的な方法のフローチャートである。
【
図3】本発明が実行され得るコンピュータシステムの概要である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[027] 上記で説明したように、多くの疾患は、2つ以上の異なる種別の治療又は治療モダリティの組み合わせで治療される。例えばがん患者は、がんの種別及び他の要因に応じて、手術、化学療法、放射線療法、温熱療法、凍結療法、ホルモン療法、及び免疫療法のうちの1つ以上の組み合わせで治療され得る。これらのモダリティの各々は、患者の正確な体位又は動き、又は特定の治療に対する応答性等、正確に把握又は制御できない要因によって生じる不確実性に関連付けられる。
【0029】
[028] 本開示によると、両方又はすべてのモダリティの不確実性を個々に考慮に入れ、且つそれらが患者の治療において互いにいかに影響し得るかに関する不確実性を考慮に入れるような方式で、ロバスト最適化方法がマルチモダリティ治療計画に適用される。マルチモダリティ療法治療のロバスト最適化は、少なくとも2つの異なる治療モダリティの組み合わせ効果及び不確実性を考慮に入れる。
【0030】
[029]
図1は、患者のマルチモダリティ治療を計画するための本発明の一実施形態に係る方法の全体的なフローチャートを示している。第1のステップS11において、使用される2つ以上の治療モダリティが選択される。第2のステップS12では、少なくとも2つの治療モダリティの組み合わせ効果を考慮に入れた生物学的モデルに基づく少なくとも1つの最適化関数を含む、最適化問題が規定される。モデルには、以下のうちの1つ以上が含まれる。等価放射線量EQD、等価均一分布EUD、生物学的有効線量BED、熱増強比TER、腫瘍制御確率TCP、正常組織障害確率NTCP、合併症のない治療の可能性、二次がん、及び/又は全生存率である。
【0031】
[030] 第3のステップS13において、治療の成果に影響を与え得る、マルチモダリティ治療における少なくとも1つの不確実性が判定され、少なくとも1つの不確実性の異なる可能な実現をカバーした一組のシナリオが規定され、最後に、ステップS14において、ロバスト最適化が実行され、一組のシナリオにわたって評価される。
【0032】
[031] 1つ以上の不確実性を選択するステップは、2つ以上のモダリティのそれぞれに特有の不確実性と、モダリティの組み合わせの結果である不確実性とを選択することを含み得る。マルチモダリティ療法治療の計画に関連する典型的な不確実性は、以下を含む。
-治療中の治療ボリュームの空間的位置
-治療モダリティ間での治療ボリュームの空間的位置の変化
-治療の過程にわたる送達量
-治療に影響を与える任意のパラメータ(例えば、血液潅流、組織の熱及び誘電特性、送達される比吸収率(SAR)分布による温熱治療の熱伝達の不確実性など)
-異なるモダリティの組み合わせ効果
-治療された組織の密度
-種々のモダリティの相互作用効果
-器官の動き
-放射線療法の場合、粒子が停止する位置に関する範囲の不確実性
-生物学的モデルのパラメータ値
【0033】
[032] ステップS14における最適化は、異なるモダリティの2つ以上の治療計画の共最適化、又は1つ以上の異なるモダリティの1つ以上の既存の計画を考慮に入れた1つの治療計画の最適化のいずれかを含み得る。前者の場合、ステップは、少なくとも2つの計画の組み合わせ効果を考慮した最適化関数値のロバスト共最適化によって、マルチモダリティ計画を生成することを含む。
【0034】
[033] 最適化問題は、最適化関数を含み、通常、生物学的又は物理的目的に関連する少なくとも1つの目的関数を含む。さらに最適化関数は、最適化中に維持されるパラメータを規定する1つ以上の物理的及び/又は生物学的制約を含み得る。
【0035】
[034] 本開示によれば、マルチモダリティ治療に関連する不確実性の具体的な実現のシナリオを使用して、含まれるモダリティの不確実性を考慮に入れたマルチモダリティ療法治療の(生物学的)効果に基づく、ロバスト最適化関数が使用される。マルチモダリティ治療の効果は、関心対象等価量、例えば、等価放射線線量(EQD)、及び/又は、等価均一分布(EUD)、生物学的等価放射線量(BED)、熱増強比(TER)、腫瘍制御確率(TCP)、正常組織障害発生確率(NTCP)、合併症のない治療(CFC)、二次がん(SC)、細胞生存率、及び/又は全生存率(OS)を含む生物学的モデルを使用して定量化される任意の治療効果の数学的表現による定量化であってもよい。
【0036】
[035] 考慮される不確実性は、モダリティごとに異なる。また、モダリティの異なる組み合わせは、それらが互いにいかに影響を与え得るかにおいて異なる不確実性をもたらす。化学療法、免疫療法、及びホルモン療法において、治療の生物学的効果の不確実性は、薬剤の取り込み、薬剤の分布、組織の酸素化等の不確実性によって生じ得る。手術の場合、腫瘍の範囲が不確実であること、及び大きな切除マージンを必要とする固形腫瘍を超えた悪性細胞の顕微鏡的広がりの可能性があることにより、関心対象ボリューム内のすべての悪性細胞が成功裏に除去されたかどうかが不確実である。切除マージンの増加に伴い、周囲構造を損傷する可能性が増加するにつれて、NTCPが増加する。
【0037】
[036] 一例として、温熱療法と放射線療法の組み合わせ治療を計画する際に考慮され得る典型的な不確実性を以下に列挙する。
【0038】
[037] HT治療における不確実性には、通常、例えば以下のようなものがある。
-治療中の患者の体位又は解剖学的構造の不確実性
-熱伝達に影響を与えるものの不確実性(例えば、血液潅流、組織の熱及び誘電特性、送達される比吸収率(SAR)分布)
-HT治療にわたる温度送達(すなわち、温熱線量)の不確実性
-直接的な細胞死滅の量の不確実性
【0039】
[038] RT治療における不確実性には、例えば以下のようなものがあり得る。
-治療中の患者の体位又は解剖学的構造の不確実性
-組織の組成と密度の不確実性
-例えば、呼吸、種々の器官の内容などによる器官の動きに起因する不確実性
-粒子が停止する位置に関する範囲の不確実性
【0040】
[039] RTHT治療における2つのモダリティの組み合わせによって引き起こされる不確実性には、以下のようなものがあり得る。
-DNA修復、再酸素化などの阻害による放射線増感の温度依存性の不確実性
-温熱療法治療と放射線療法治療との間の患者の体位又は解剖学的構造の変化の不確実性
-RTHT治療の生物学的効果の組み合わせの計算における不確実性
【0041】
[040] これらの不確実性は、治療計画最適化プロセスにおいて、例えば、以下のうちの1つ以上の異なる方法を使用して考慮することができる。
-HT治療の不確実性の異なる実現の結果として生じる複数の温度分布を使用するシナリオベースの方法
-シナリオにわたるワーストケースの最適化
-シナリオにわたる期待値最適化
-CVaR、ミニマックス確率最適化、その他など他の種別のロバスト最適化
-例えば、シナリオにわたるボクセル単位の最高及び最低温度など、シナリオの結果として生じる少なくとも1つの集積温度分布を使用した最適化
-例えば、高温又は低温を拡張するための温度分布のスミアなど、不確実性の効果を集積した単一の温度分布を使用すること
-単一の温度分布を使用するが、RT治療中の不確実性の複数の実現を使用するシナリオベースの方法
【0042】
[041] したがって、HTRT計画の最適化は、他の計画、すなわち、RT又はHT計画をそれぞれ最適化する際に、既存のHR計画又は既存のRT計画の予測される効果を考慮することによって実行され得る。これは、HT計画が既存のものであると想定して、
図2に示されるように、例えば以下に従って行われ得る。入力データS21には、この既存の温熱療法計画の結果として生じる予測温度分布が含まれる。不確実性を伴う生物学的パラメータの温度依存が関心対象のボクセルごとに含まれるロバスト最適化関数を含む、最適化問題S22も取得される。入力データS21は、組み合わせられたRTHT治療における不確実性(HT及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む)を考慮に入れた最適化問題S22を使用して、放射線療法計画のロバスト最適化S23のための入力として使用される。結果として、温熱療法計画と新たに最適化された放射線療法計画とを含む最適化されたマルチモダリティ治療が取得されるS24。この手順は、モダリティの他の組み合わせに容易に適合され得る。
【0043】
[042] 最適化問題S22は、当業者に知られている原理に従って規定され得る。例えば、組み合わせ治療の2-GyフラクションでのEQD(EQD2)は、細胞生存の線形二次(LQ)モデルを使用して最適化され得る。LQパラメータα及びβは、温度が上昇すると放射線感度が上昇するため、温度とともに変化することが知られている。LQパラメータの温度依存性のモデルを組み込むことにより、放射線量と温度の組み合わせ効果について、EQD2に直接最適化することができる。さらにEQD2は、最適化のために、例えばTCPモデル及び/又はNTCPモデルに組み込むことができる。このようにして、温度依存性EQD2、TCP、及び/又はNTCPは、記載された臨床目標を満たすように最適化され得る。
【0044】
[043] 例えば、
図2に示されるプロセスの代替として、放射線療法計画の既存の線量分布が、組み合わせRTHT治療における不確実性(HT及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む)を考慮に入れた温熱療法計画のロバスト最適化に対する入力として使用され得る。目的関数は、放射線量の効果が関心対象の各ボクセルに含まれるロバスト最適化関数を含む。上記のように、例えば、EQD2、TCP、及びNTCPモデルを使用した最適化戦略は、温熱療法計画の最適化に使用され得る。
【0045】
[044] 治療モダリティの別の一般的な組み合わせは、手術と放射線療法である。場合によっては、より簡単に除去できるように腫瘍を小さくするために、放射線療法が手術前に使用される。他の場合において、がん細胞が残っている場合に備えて、腫瘍を取り囲む領域を治療するために、放射線療法が手術後に使用される。以下の例では、RT計画及び手術計画からなるマルチモダリティ療法治療のロバスト最適化について検討する。
【0046】
[045] 既存のRT計画の場合、手術は、上記の手術固有の不確実性、並びに上記のRT固有の不確実性に起因するRT治療の効果の不確実性を考慮に入れた、放射線後に残った任意の悪性細胞を確実に除去するように最適化することができる。
【0047】
[046] 既存の手術計画の場合、セットアップや粒子範囲などのRT固有の不確実性、並びに、例えば、外科的除去マージンに応じた腫瘍境界及び器官のNTCPにおける悪性細胞の外科的除去などにおける不確実性を考慮に入れて、すべての悪性細胞を根絶するように、RT計画はロバストに最適化されることができる。肝臓のような平行構造の器官の場合、NTCPは、除去される器官のボリュームに強く依存するが、他の機能は、例えば神経経路の温存に直結される。手術の既存の計画は、手術+RT治療の組み合わせにおける不確実性(手術及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む)を考慮に入れた放射線療法計画のロバスト最適化のための入力として使用される。
【0048】
[047] この場合、目的関数は、不確実性をともなう生物学的パラメータの手術依存性が関心対象の各ボクセルごとに含まれる、ロバスト最適化関数を含む。例えば組み合わせ治療のEQD2は、細胞生存のためのLQモデルを使用して最適化され得る。悪性細胞の外科的除去のモデルを組み込むことにより、悪性細胞の根絶を確実にするために、放射線量と手術との組み合わせ効果のためのEQD2に直接基づいて最適化を行うことができる。さらにEQD2は、最適化のために、例えばTCPモデル及び/又はNTCPモデルに組み込むことができる。このようにして、RT+手術治療について記載された臨床目標を満たすように、EQD2、TCP、及び/又はNTCPを最適化する。
【0049】
[048] 以下において、共最適化の2つの例、すなわち、異なるモダリティの2つの治療計画の同時最適化について示す。
【0050】
[049] RTHT治療計画を共最適化するために、温熱療法及び放射線療法計画の温度及び線量分布は、各々、HT及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む、組み合わせたRTHT治療における不確実性を考慮してロバストに共最適化される。最適化問題は、温度と線量の組み合わせ効果が関心対象の各ボクセルごとに含まれる、ロバスト最適化関数を含む。上記の例にあるように、例えば、EQD2、TCP、及びNTCPモデルを使用した最適化戦略が使用され得るが、この例において、温度及び線量分布は、最適な治療の検索においてロバストに共最適化される。
【0051】
[050] 代替として、マルチモダリティ治療は、手術及びRT治療を含むことができ、手術計画及びRT計画は、両方のモダリティの不確実性を同時に考慮に入れるように最適化される。この場合、放射線療法計画の既存の線量分布は、手術及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む、RT+手術治療の組み合わせにおける不確実性を考慮に入れた手術計画のロバスト最適化のための入力として使用され得る。最適化問題は、手術と放射線量の組み合わせ効果が関心対象の各ボクセルごとに含まれるロバスト最適化関数を含む。手術の計画及び放射線療法計画の線量分布は、組み合わせたRT手術の不確実性(手術及び/又はRT治療に由来する不確実性を含む)を考慮してロバストに共最適化されている。上記の例にあるように、例えば、EQD2、TCP、及びNTCPモデルを使用した最適化戦略が使用され得るが、この例において、手術及び線量分布は、最適な治療の検索においてロバストに共最適化される。
【0052】
[051] 一般に、本発明の文脈において、最適化関数には、放射線システムの放射線フルエンス最適化及び加熱システムの出力最適化など、パラメータが最適化されるモダリティのシステムの簡易化された機械モデルが含まれ得る。1つ又は複数の物理的目的は、治療モダリティに応じて選択され、通常は、放射線量、温熱線量、治療ボリューム内の標的及びリスク器官(OAR)への薬物取り込み限度、ボリュームヒストグラム限度、放射線療法の場合の線形エネルギー伝達(LET)限度、粒子が停止する位置及び/又は均一性及び適合指標を含む。手術について、物理的目的には、外科的切除ボリューム、腫瘍とリスク器官との間の重なりの程度、及び切断表面及び/又は平面が含まれ得る。
【0053】
[052]
図3は、本発明による方法が実行され得るコンピュータ31を概略的に示している。コンピュータ31は、プロセッサで実行される1つ以上のコンピュータプログラムを保持するように配置されたプログラムメモリ35に接続されたプロセッサ33を備える。コンピュータはまた、プログラムの実行において使用されるデータと、実行の結果として得られるデータとを保持するように配置されたデータメモリ36を備える。当技術分野で一般的であるように、スクリーン、キーボード、及び他の好適なユニットを含む、多数の入力及び出力ユニット38、39が、通常、コンピュータ31に接続される。理解される通り、プログラムメモリ及び/又はデータメモリは、コンピュータ31の内部又は外部、例えばクラウドにおいて、1つ又はいくつかのメモリユニットとして実装され得る。本発明において、データメモリは、通常は異なる組織に関する組織学的データを含む患者データなど、入力データを保持するように配置され得る。データメモリ36は、異なるシナリオについての情報、計画の組について、及び最適化への入力として使用された以前に取得された計画の情報も保持し得る。データメモリ36は、方法からの出力を形成する、結果として得られた計画の組を保持し得る。
【国際調査報告】