(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】研磨工具,研磨機および加工物を研磨する方法
(51)【国際特許分類】
B24D 7/18 20060101AFI20240628BHJP
B24B 13/01 20060101ALI20240628BHJP
B24D 13/02 20060101ALI20240628BHJP
B24D 15/04 20060101ALI20240628BHJP
B24B 13/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
B24D7/18 Z
B24B13/01
B24D13/02
B24D15/04 Z
B24D7/18 F
B24B13/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023575837
(86)(22)【出願日】2022-06-10
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 GB2022051459
(87)【国際公開番号】W WO2022258983
(87)【国際公開日】2022-12-15
(32)【優先日】2021-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519215809
【氏名又は名称】ジーコ イノヴェーションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】弁理士法人東京UIT国際特許
(72)【発明者】
【氏名】ブカン・アントニー
(72)【発明者】
【氏名】フリーマン・リチャード
(72)【発明者】
【氏名】キング・クリストファー・ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ジャイン・サミャク
(72)【発明者】
【氏名】パッケナム・ウォルシュ・オリバー
(72)【発明者】
【氏名】ナイトン・ハリー・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ジャスコット・フィリップ・アントニ
【テーマコード(参考)】
3C049
3C063
【Fターム(参考)】
3C049AA06
3C049AA09
3C049CA01
3C063AA06
3C063AB02
3C063EE02
3C063EE09
3C063EE10
(57)【要約】
この発明は,サブ開口研磨機に対する接続のための接続機構を含む支持部材を備えるサブ開口研磨工具に関する。支持部材の端部には研磨ヘッドがあり,研磨ヘッドは支持部材と接続されまたは一体のもので,非平坦面を形成するように構成された基部構造を含む。研磨ヘッドはまた外側シェルを備え,その外面の少なくとも一部が研磨工具の加工表面を規定し,外側シェルは基部構造に固定されて外側シェルと非平坦面の間のキャビティを囲む。外側シェルと基部構造の間に位置するキャビティには粘弾性物質が満たされる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サブ開口研磨機に対する接続のための接続機構を含む支持部材,および
上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,上記研磨ヘッドが,
上記支持部材と接続されまたは一体化され,非平坦面を形成するように構成されている基部構造,
その外面の少なくとも一部が研磨工具の加工表面を規定する外側シェルであって,上記外側シェルと上記非平坦面の間のキャビティを取り囲むように上記基部構造に固定される外側シェル,および
上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす粘弾性物質を含む,
サブ開口研磨工具。
【請求項2】
上記外側シェルが外面を形成し,かつ加工物のサブ開口研磨に適する研磨材の層を備えている,請求項1に記載のサブ開口研磨工具。
【請求項3】
上記研磨材が上記粘弾性物質と直接に接触している,請求項2に記載のサブ開口研磨工具。
【請求項4】
上記外側シェルが上記研磨材の層と上記粘弾性物質との間に位置する弾性層をさらに備え,好ましくは上記弾性層が上記粘弾性物質と直接に接触している,請求項2に記載のサブ開口研磨工具。
【請求項5】
上記非平坦面は使用中に強固であるマクロ構造を規定し,上記外側シェルのものと同じ大きさのスケールにおいて変化する表面性状を有しており,上記マクロ構造が,外面上の各位置において上記外側シェルと上記非平坦面との間の上記粘弾性物質の厚さを決定するように成形されている,請求項1から4のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項6】
上記マクロ構造および上記外側シェルが,上記粘弾性物質が上記非平坦面と上記外側シェルの間に実質的に一定の厚さを有する層を形成するように構成されており,上記マクロ構造の表面形状が好ましくは上記外側シェルの形状に追従する領域を含んでおり,最も好ましくは,上記層は2~200mmの範囲の厚さを有する,請求項5に記載のサブ開口研磨工具。
【請求項7】
上記マクロ構造および上記外側シェルが,上記粘弾性物質の厚さが上記加工表面上の様々な位置の間で変化するように互いに対して異なって成形されている,請求項5または6に記載のサブ開口研磨工具。
【請求項8】
上記マクロ構造が,少なくとも部分的に凸状または凹状の曲面形状,好ましくは,部分球状,部分楕円状,部分放物線状または部分環状を有する,請求項5~7のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項9】
上記マクロ構造が,上記外側シェルに向けて延在し,使用中に強固であるように構成可能なコアによって少なくとも部分的に形成されている,請求項1から8のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項10】
上記非平坦面が,上記サブ開口研磨工具が使用中に回転するときに剪断硬化および/または剪断増粘材料をグリップするように構成された表面テクスチャの形態のミクロ構造を規定し,好ましくは,上記ミクロ構造が上記基部構造に一体的に規定されている,および/または,上記基部構造に固定された複数の突起によって部分的に規定されている,請求項1から9のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項11】
上記加工表面が,表面に対して押圧されていないときに非平坦である,請求項1から10のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項12】
上記粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質である,請求項1から11のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項13】
上記粘弾性物質が剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質である,請求項1から11のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載のサブ開口研磨工具,
使用中に,加工物を保持するための加工物ホルダ,および
接続機構と機械的に接続する駆動機構を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が上記加工物の表面と接触している間,上記加工表面が上記加工物の表面に対して移動するように,上記工具を通る第1の回転軸に関して上記サブ開口研磨工具を回転させるように構成されている,
サブ開口研磨機。
【請求項15】
上記駆動機構は,使用中に,上記加工物に対して上記サブ開口研磨工具の位置および/または配向を変更するようにさらに制御可能である,請求項14に記載の研磨機。
【請求項16】
(a)請求項1~13のいずれかに記載のサブ開口研磨工具を用意し,
(b)加工物の表面と接触するように上記サブ開口研磨工具の加工表面を配置し,
(c)上記加工物の表面に対して上記加工表面を移動させて上記加工物表面を研磨する,
加工物を研磨する方法。
【請求項17】
ステップ(b)および(c)が上記加工物表面上の異なる位置で複数回実行され,上記加工物表面に対する上記サブ開口工具の配向が,上記複数の位置の少なくとも一部において異なっている,請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質であり,上記加工表面が,中位空間欠陥を上記加工物の表面から削減するおよび/または除去するように上記加工物の表面に対して移動する,請求項16から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ステップ(b)および(c)が上記加工物表面上の2つ以上の異なる位置で順次反復され,複数の位置のそれぞれが,他の位置の少なくとも一部のものと異なるそれぞれの波長を有する中位空間欠陥を含んでおり,ステップ(b)が,それぞれの中位空間欠陥の波長に依存して選択される研磨条件の下で各位置で実行される,請求項18に記載の方法。
【請求項20】
上記粘弾性物質は剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質であり,上記加工表面は上記加工物表面の鋭端を保持しつつ,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように上記加工物の表面に対して移動する,請求項16または17に記載の方法。
【請求項21】
請求項16~20のいずれかに記載の方法によって研磨される製品であって,
好ましくは,レンズまたはプリズム等の光学素子,回折光学素子,半導体ウエハ,電子装置用のスクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである,
製品。
【請求項22】
研磨機に対する接続のための接続機構を含む支持部材,および
上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,上記研磨ヘッドが,
上記支持部材と接続される,または支持部材と一体の基部構造,
その外面の少なくとも一部が上記研磨工具の加工表面を規定する外側シェルであって,上記外側シェルと上記基部構造の間のキャビティを取り囲むように上記基部構造に固定されている外側シェル,および
上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質を含む。
研磨工具。
【請求項23】
上記外側シェルは,上記外面を形成し,加工物の研磨に適する研磨材の層を備え,上記研磨材が,好ましくは,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーおよび/または別の適合材料のうちの少なくとも一つを含む,請求項22に記載の研磨工具。
【請求項24】
上記研磨材が上記剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質と直接に接触している,請求項23に記載の研磨工具。
【請求項25】
上記外側シェルが上記研磨材の層と上記剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質との間に位置する弾性層をさらに備え,好ましくは上記弾性層が上記粘弾性物質と直接に接触している,請求項23または24に記載の研磨工具。
【請求項26】
研磨機であって,
請求項23~25のいずれかに記載の研磨工具,
使用中に,加工物を保持するための加工物ホルダ,および
上記接続機構と機械的に接続する駆動機構を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が上記加工物の表面と接触している間,上記加工物に対して上記研磨工具を移動させるように構成されている,
研磨機。
【請求項27】
上記駆動機構は,上記工具を通る第1の回転軸に関して上記研磨工具を回転させるように構成されている,請求項26に記載の研磨機。
【請求項28】
加工物を研磨する方法であって,
(a)請求項23~25のいずれかに記載の研磨工具を用意し,
(b)上記加工物の表面と接触するように上記研磨工具の加工表面を配置し,
(c)上記加工物の表面に対して上記加工表面を移動させて上記加工物表面を研磨する,
加工物を研磨する方法。
【請求項29】
上記加工表面は,上記加工物表面の鋭端を保持しつつ,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように上記加工物の表面に対して移動する,請求項28に記載の加工物を研磨する方法。
【請求項30】
上記研磨工具がサブ開口研磨工具であり,上記加工物の表面が,少なくとも上記サブ開口研磨工具が上記加工物の表面と接触していないときに,上記サブ開口研磨工具の上記加工表面のものと異なる形状および/または表面性状を有する,請求項28または29に記載の加工物を研磨する方法。
【請求項31】
上記研磨工具が全開口研磨工具であり,研磨される上記加工物の表面が実質的に上記研磨工具の上記加工表面と同じサイズであるか,または上記研磨工具の上記加工表面より小さい,請求項28または29に記載の加工物を研磨する方法。
【請求項32】
請求項28~31のいずれかに記載の方法によって研磨される製品であって,
好ましくは,レンズまたはプリズム等の光学素子,回折光学素子,半導体ウエハ,電子装置用のスクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである,
製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,研磨工具および上記研磨工具を組み込んだ研磨機に関する。加工物(workpiece)を研磨する方法も提供される。全開口(full-aperture)およびサブ開口(sub-aperture)の両方の装置および技術が開示される。
【背景技術】
【0002】
様々な技術分野において物体(対象物)を製造するための多くの工程において,製造される加工品の各部分の研磨が必要とされている。たとえば,レンズ,鏡およびその他の光学部品,眼科装置および補装具の表面といった医学(医療)表面,ならびにジェットエンジンタービン翼のようなエンジニア部品は,一般にはすべて研磨され,欠陥および収差の少ない平滑面を持つ完成品とされる。同様にして,非常に滑らかな表面仕上げを必要とする成形部品の製造用の,たとえば,携帯電話,時計といったウェアラブル技術,ならびにタブレットおよびコンピューター画面のような消費者製品用の曲面ガラススクリーンを成形するための成形用金型は,高度に研磨しなければならない。研磨工程は,研磨される全表面に同時に研磨工具が接触する「全開口」研磨工程であっても,研磨工具が研磨される表面よりも小さい「サブ開口」研磨工程であってもよい。後者の場合,表面の各部分は加工物表面全体にわたって研磨工具を移動させることによって順次研磨される(研磨作用を実行する工具を回転,揺動または振動させることも加わる)。
【0003】
研磨される前に,形成される製品の元となる加工物は,一般に,加工物から材料を除去することができる摩耗面または物質を用いて,その表面を押圧させながら移動するときに所望形状に研削(グラインド)される。これに続いて表面を研磨(ポリッシュ)(polish)するために用いる材料は,研削に使用する研磨材よりも微細であって,加工物から大幅な割合では材料を除去しない。したがって,理論的には,加工物表面の表面の全体形状は工程の研削段階において決定され,これに続く研磨では欠陥を取り除いて肉眼で見える形状を大幅に変更することなく表面を平滑にする。
【0004】
しかしながら,研磨作用では加工表面の様々な造作(造形)を区別する,すなわち,不要な表面粗さを処理しつつも所望の形状造作を取り除かないようにすることができないので,所望の結果を得るのが難しいことが多い。たとえば,加工物の肉眼的形状がひずんだり,および/または,所望の小さな造作が損なわれたりすることがある。これらの問題は,(限定はされないが)研磨工具の加工表面の寸法(すなわち,加工物の表面を研磨することができる工具の表面の一部分または各部分)が研磨される表面の寸法よりも小さいサブ開口研磨工程(sub-aperture polishing processes)において特に見受けられる。サブ開口研磨技術は,限定された工具セットを実質的にあらゆる形状(対照的,またはその他の規則な表面との対比で「自由形状」と呼ばれることもある)の表面を研磨するために使用できるようにするので有用であるが,サブ開口技術が適用される表面の種類(たとえば,不規則だったり,鋭い造作があったり,強く湾曲したり,非対称であったりする表面)によっては正確に研磨することが特に困難になることがある。したがって,研磨工程の制御の改善を可能にする研磨工具の提供が必要である。
【発明の概要】
【0005】
この発明の第1の態様は,サブ開口研磨工具を提供するものであり,
サブ開口研磨機に対する接続のための接続機構を含む支持部材,および
上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,上記研磨ヘッドが,
上記支持部材と接続されるまたは一体化される,非平坦面を形成するように構成される基部構造,
少なくとも一部が上記研磨工具の加工表面を規定し,上記非平坦面との間のキャビティを取り囲むようにして上記基部構造に固定される外側シェル,および
上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす粘弾性物質(viscoelastic)を備える,
サブ開口研磨工具を提供する。
【0006】
粘弾性物質は非ニュートン性であり,これは一定の粘度がない(物質が流体である場合)または一定の剛性がない(物質が固体である場合)ことを意味する。むしろ,適用される剪断またはひずみ速度(shear or strain rate),あるいは負荷応力の大きさ(the amount of applied stress)に依存してパラメータが変化する。その結果として,研磨工具は,加工物表面上を移動するときに直面する様々な造作(造形)(features)に対して異なって(様々に)反応(応答)する。比較的小さいまたは密集した造作(たとえば鋭端)は工具の加工表面に対して比較的高い剪断またはひずみ速度でインパクトするが,比較的低い曲率造形はその逆になる。したがって,加工表面を支持している粘弾性物質はその見かけ粘度または剛性(apparent viscosity or stiffness)が変化し,加工物表面の様々な種類の造作に様々な研磨圧を加えることになる。その結果,工程をより良く制御することができる。
【0007】
上記のように,上記外側シェルおよび上記非平坦面によってキャビティが取り囲まれている。その結果としてキャビティは密封される。したがって,キャビティ内の粘弾性物質はキャビティから漏れ出ることができず,外側シェルが圧力の変化にさらされて使用中に変形しても,キャビティ内の粘弾性物質の量は一定である。これは,ブラダー(嚢)や同様の構造が導管を通じて導入される流体で満たされ,工具内部の流体の量および/または圧力を使用中に変化させることができる一部の周知の研磨工具とは対照的である。
【0008】
加工物の性質に応じて,キャビティ内部に密封される粘弾性物質は剪断/ひずみ速度(または負荷応力)の増加と共に粘度/剛性が増加するものであってもよく,または,逆のものであってもよい。一部の粘弾性物質は,作用する剪断/ひずみ速度(または負荷応力)の範囲に応じて,どちらの振る舞い(反応)(behaviour)も示すことができる。各振る舞いが役立つ用途の一例は以下で説明する。
【0009】
基部構造の非平坦面は,粘弾性物質およびその振る舞いに対するより良い制御を可能にするので,工具の有効性において重要な役割を果たす。たとえば,非平坦面は,使用中に粘弾性物質を外側シェルとより接触させるように構成することができる。さらに,加工表面上の任意の所与の位置において非平坦面と外側シェルの間に位置する粘弾性物質の量(すなわち,そこで加工表面に対して垂直な方向において測定される層の厚さ)が,加工物表面との接触によって生じる剪断に対する工具の反応に影響する。一般に,粘弾性物質の層が薄ければ薄いほど,加工表面の各部分が造作に接触するときに剪断を生じさせる上記物質の厚さおよび/または剛性は絶対的により大きくなる。粘弾性物質は,外側シェルと非平坦面によって取り囲まれるキャビティを満たすので,加工表面の各位置の厚さが外側シェルと非平坦面を隔てる距離によって決まる層を形成する。したがって,一部の実施形態では,工具を設計する際に外側シェルの形状を制限することなく,上記非平坦面が,加工物表面の各位置における粘弾性物質の厚さを制御することができるようにするマクロ構造を規定するように構成することができる。実施例は後述する。これに代えてまたは加えて,非平坦面をミクロ構造(あらゆるマクロ構造よりも小規模に存在する)を規定するために用いることができ,それによって表面テクスチャ(組織)において粘弾性物質を「把持」し,使用中に,より効率的に支持部材から上記物質に回転を伝えるものとなる。
【0010】
基部構造の一部としての非平坦面は,少なくともあらゆる研磨手順の間,外側シェルと比較して比較的強固(すなわち,変形しない)ものとされる。しかしながら,後述するように,多くの代替的な方法によって,非平坦面を,使用状態に構成されるまで,強固にならない箇所を含むように形成することもできる。外側シェルは,一般には非平坦面と比べて比較的柔軟であり,工具の加工表面が使用中に加工物表面の全体形状に合致することができる。非平坦面は局所的に平坦である一または複数の領域を含んでもよいことを理解されたい。もっとも,一方の周縁から他方までの全体が平坦(平面的)であるというわけでない。一般的には,この発明の実施例の非平坦面は,外側シェルを基部構造に固定する地点によって概念上の極小曲面(最小表面)(notional minimal surface)から逸脱している(すなわち,それとは非平行である)。「極小曲面」とは外側シェルが基部構造に固定される地点で囲まれている最小面積表面(the smallest area surface bounded by the points at which the outer shell is affixed to the base structure)を意味する。たとえば,一部の実施形態では,基部構造は円板の全体形状を有しており,外側シェルは上記円板の周囲に固定される。この場合の極小曲面は,円板の円周に囲まれている完全に平坦な表面であり,工具に実際に存在する非平坦面は,たとえば,非平坦面に存在するミクロ構造(たとえば,テクスチャ)や非平坦面のマクロ構造(たとえば,突出するコア)によって,この概念上の極小曲面から逸脱している。一部の実施形態では,概念上の極小曲面は,サブ開口研磨工具が使用中にその周囲を回転する軸と垂直である。一部のその他の実施形態では,概念上の極小曲面は回転軸と平行とすることができる。
【0011】
上記のように,用語「サブ開口」とは,研磨工具の加工表面の寸法が,研磨するために工具が用いられる加工物の表面よりも小さいことを意味する。したがって,「サブ開口研磨工具」は,研磨工具の加工表面の寸法よりも大きな寸法の表面を有する加工物を研磨するのに適している。一般的に,研磨工具の加工表面は研磨される表面よりも非常に小さく,たとえば,その表面積の半分未満である(これよりはるかに小さいこともある)。工具は,研磨を必要とする加工物表面のすべての地点が,(同時によりはむしろ)順番に処理されるように,一般的に高速に工具軸の周りを回転しながら,加工物表面全体を移動する。
【0012】
上記粘弾性物質が剪断増粘(shear-thickening)および/または応力硬化(stress-stiffening)材料である(すなわち,その粘度/剛性が,剪断/ひずみ速度(または負荷応力)の増加と共に増加する)上記の種類の研磨工具は,特に,加工物表面上のいわゆる「中位空間欠陥」(mid-spatial defects)の除去に役立つことが発明者によって見出された。
【0013】
加工物の表面を高レベルの精度で研削および研磨することができる技術が開発されているが,これらの製造工程の研削段階では,加工される表面にこの「中位空間欠陥」が非常に生じやすい。中位空間欠陥(または単に「中位空間」)は,一般に0.1~10ミリメートル(mm)の範囲の空間周期を有する,加工物の表面に波または波動として現れる欠陥である。中位空間は様々な理由から有害となることがある。光学部品の場合(加工物自体によって形成されるかまたはそれからその後に成形されるかどうかに関係なく),たとえば,この欠陥は部品によって形成される像の品質を低下させる可能性がある。補装具の場合,人体の組織への部品の接着を徐々に損なわせる可能性がある。典型的な研磨工具は,中位空間の大きさの造作の除去には効果がないので,その波状の外形を保持しながらこの欠陥を持った表面を単純に平滑にする傾向がある。
【0014】
中位空間を除去する従来方法は,研磨工具を用いて加工物を集中的に研磨することが関係する。これは結局は中位空間の振幅の減少をもたらすことができるが,中位空間の「ピーク」から材料が除去される速度差が「谷」に比べて一般的に小さいので,表面の肉眼的形状が変形することがある。したがって,中位空間欠陥を抑制するために,望ましくない大量の材料を研磨段階中に除去しなければならない。
【0015】
したがって,特に好ましい実施形態では,外側シェルと非平坦面とによって取り囲まれたキャビティが,剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質によって満たされている。「剪断増粘」は材料が受ける剪断速度と共に(流体)材料の粘度が増加すること(the viscosity of a (fluid) material increases with the shear rate experienced by the material)を意味する。同様に,「応力硬化」は,材料が受ける応力と共に(固い)材料の剛性が増加すること(the stiffness of a (solid) material increases with the stress experienced by the material)を意味する。材料は剪断増粘および応力硬化の両方であってもよいが,材料がこれらの特性の両方ともを持つことは重要でない。剪断増粘材料は「ダイラタント」(dilatants)と呼ぶこともできる。適切な材料の例は後述する。
【0016】
この種の研磨工具は,上記のように加工物表面のゆがみ(ひずみ)につながる集中的な適用を必要とすることなく,通常の研磨の過程で中位空間欠陥を効率的に除去することができることがわかった。剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質はそれがより高い剪断速度を受ける箇所における変形によってより耐性が増すので,表面上の中位空間欠陥のピークと繰り返し接触する加工表面の各部分(表面隆起が,表面全体のプロファイルで変化するよりもはるかに小さな距離で変化することで,上記材料と次の各ピークの間のインパクト(影響)が高頻度になる場所)は,この造作の付近において増粘および/または剛性化するが,加工表面は依然として工具が適用される領域の全体形状に全般的に合致すると考えられる。加工表面のこの選択的な増粘および/または剛性化によって,中位空間欠陥のピークが,それらと表面の周囲の任意の非欠陥部分の間の谷と比べて研磨によって優先的に除去されるようになる。
【0017】
好ましい実施形態では,外側シェルは,外面を形成しかつ加工物のサブ開口研磨に適する研磨材の層を含む。これは,従来技術において一般に「研磨パッド」と呼ばれるもので,それ自体が研磨粒子を担持してもよいし,または研磨スラリと共に使用するように設計してもよい。好ましい例では,研磨材は,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーおよび/または他の適合材料のうちの少なくとも一つを含む。「適合材料」とは,それと接触するときに加工物の表面に適合することができる材料を意味する。ポリウレタン,通気性布およびタールベース粘弾性ポリマーは適合材料の例である。研磨材は,任意ではあるが多孔性であってもよい。ピッチまたはこれに類似する追加層を必要に応じて研磨材の層の外側に設けてもよい。
【0018】
一部の好ましい実施形態では,研磨材は,キャビティ内の粘弾性物質と直接接触する。外側シェルは,たとえば研磨材だけで構成してもよい。これは,たとえば,粘弾性物質が,研磨中に研磨材を通して漏出することにはならない高粘性物質である場合とすることができる。ピッチはそのような粘弾性物質の一例である。それは,研磨材が粘弾性物質を保持することができる非多孔性材料である場合であってもよい。もっとも他の好ましい実施形態では,外側シェルは研磨材の層と粘弾性物質との間に位置する弾性層をさらに含んでもよく,好ましくは,弾性層が粘弾性物質と直接接触する。弾性層は,たとえば,外側シェルの強度を向上させて,たとえば,断裂を防止することができ,粘弾性物質の漏れを防止する障壁として役立つ。弾性層は,使用中に変形したシェルを意図した形状に戻すのも助ける。好ましい実施形態では,弾性層は,ゴム,シリコン,ネオプレンおよび高分子エラストマーのうちの少なくとも一つを含む。弾性層は,好ましくは0.1~5mmの範囲の厚さを有する。外側シェルが弾性層を含む場合は,研磨材は弾性層と同じ側方長さ(lateral extent)を有する必要がない点に留意すべきである。たとえば,必要に応じて所望の加工表面を形成するために,弾性層の外面の全部または一部のみに研磨材を配置することができる。
【0019】
上記のように,工具の構造は,基部構造の非平坦面と外側シェルとの間に粘弾性物質が層を形成するものである。一部の好ましい実施形態では,非平坦面は使用中に強固であるマクロ構造を規定し,外側シェルのものと同じ大きさのスケール(規模)で変化する表面性状(プロファイル)を有しており,マクロ構造が,外面上の各位置において外側シェルと非平坦面との間の粘弾性物質の厚さを決定するように成形されている。マクロ構造の表面性状は,外側シェルの形状のものと同じスケールで,たとえば,同様の側方空間周波数(lateral spatial frequency)を有して変化する(すなわち,ある平坦な基準面から様々な距離だけずれる(変動する)経路をたどる)。上記ずれは,たとえば,工具の横寸法の約半分にわたって一方向に単調であってもよく,そこから残りの半分にわたっては反対方向に単調であってもよい。ずれの量(たとえば,マクロ構造の最大高さ)は,基部構造で描かれる概念上の平坦な基準面に対して外側シェルの高さの少なくとも10分の1であってもよい。有利には,マクロ構造は,外側シェルが回転対称でもある軸に関して回転対称である。これは工具にいかなる偏心をももたらすことを回避するのに役立つ。マクロ構造の存在によって,粘弾性物質の厚さの制御を通して,および/または,使用中に粘弾性物質が流動/変形する方向を制御することによって,粘弾性物質と外側シェルの良好な接触を促進して工具の性能を向上させることができる。
【0020】
一部の好ましい実施形態では,マクロ構造および外側シェルは,粘弾性物質が非平坦面と外側シェルとの間に実質的に一定の厚さを有する層を形成するように構成されており,マクロ構造の表面性状は好ましくは外側シェルの形状に従う領域を含んでいる。ここで「一定の厚さ」とは,外側シェルと非平坦面の間の粘弾性物質の厚さが実質的に加工表面上のすべての位置(加工表面に対して垂直に測定される)において同じであることを意味する。これは,処理されている加工物に適用されたときの工具の振る舞い(反応)(上記のように粘弾性物質の厚さに依存する)が,工具のどの部分がどの角度で加工物と接触しているかにかかわらず,同じであることを保証する。
【0021】
しかしながら,他の好ましい実施形態では,マクロ構造および外側シェルは,加工表面上の様々な位置において粘弾性物質の厚さが変化するように,互いに異なって成形される。たとえば,外側シェルは部分球状断面を含むのに対して,マクロ構造が非球面であってもよい。これによって,加工表面の様々な部分が加工物に接触するように配置する(および/または加工物に対する工具の配向を変更する)によって,工具の振る舞いを制御することが可能になり,たとえば,上記したように様々な波長の中位空間欠陥を除去するために,または意図的な鋭端を保護するのを助けるために,工具の様々な部分が最適化されるように厚さの変化を設計してもよい。半適合材料の基本的な厚さを制御することによって,研磨圧を,加工物表面上で見られる特定の空間的内容に最も適合した加工条件を生み出すように積極的に調整することができる。好ましくは,粘弾性物質の厚さの最大値は2~200mmの範囲である。
【0022】
マクロ構造が少なくとも部分的に凸状または凹状の曲面形状,好ましくは,部分球状,部分楕円状,部分放物線状,部分環状を持つと,特に好都合である。外側シェルが基部構造に接触する(沿う)(meets)場所の近くの加工表面の各部分で,変形するような粘弾性物質の振る舞いは,下の基部構造の存在に影響され得ることがわかった。凹形状を有するマクロ構造を(非平坦面の少なくとも一部が外側シェルから離れる方向にくぼみの形状を有するように)形成することで,この効果を減少させることができる。それは,そのことによって,非平坦面が外側シェルから離れて湾曲(または傾斜)するようになり,したがって,加工表面の特性に非平坦面が干渉する程度を減少させるからである。凹部(くぼみ)は,部分球状外形を有する工具が赤道の方へ流体を押す自然な傾向に逆らうために用いることもできる。工具がその軸の周りを回転すると,非ニュートン性材料は,部分球状外側加工表面と同様および逆の効果のバランスをとるために,凹状マクロ構造の傾斜を登ろうとすることになる。他の実施形態では,たとえば,部分球状,楕円状または放物線状形状を有する凸状コアは,粘弾性物質によって形成される層の厚さを制御するのに特に適していることもわかったが,それは,これらの形状は,外側シェルによって取り囲まれた空間に突出し,したがって,キャビティに外側シェルと非平坦面との間に明確に定められた層を形成させるように構成することができるからである。
【0023】
非平坦面は様々な異なる方法で構成することができる。好ましい実施形態では,マクロ構造は,外側シェルの方へ延在して,使用中に強固であるように構成可能であるコアによって少なくとも部分的に形成される。後述するように,このコアは様々な構造によって形成することができ,非平坦面の残りと一体であっても一体でなくてもよい。最も簡単なケースでは,コアは単に基部構造の表面に機械加工することができる中実体(solid body),たとえば金属半球であってもよい。しかしながら,その他のより複雑な構造を採用してもよく,その例は後述する。したがって,好ましい実施形態では,コアは,中実体,膨張式構造,および調節可能ピストンのうちの一または複数を含む。膨張式構造は非多孔嚢(non-porous bladder)であってもよく,たとえば,それは,構造に必要な剛性を与えるために,使用中に油圧システムを用いて空気,油または水等の流体で満たされるように構成してもよい。膨張式構造の場合,支持部材は,有利には,使用中に流体を膨張式構造に供給するための導管を含んでもよい。コアの一部としての調節可能ピストンの提供によって,加工表面の形状および/または外側シェルと非平坦面との間の粘弾性物質の層の厚さを変更することができる。
【0024】
ほとんどの場合,マクロ構造は外側シェルと(外側シェルが基部構造と接続する地点まで延在する場合の非平坦面の周囲以外は)直接接触することにはならない。しかしながら,一部の実施形態では,コアは基部構造から外側シェルの一部(その部分は加工表面の一部分と合致してもしなくてもよい)まで継続的に延在することができる。これは,工具の特定の形状の場合であってもよく,たとえば,工具が使用中にその対称軸の周りを回転するように意図された円錐台の形状を有する場合,コアは基部構造から円錐台の端部まで継続的に延在してもよい。キャビティは,たとえばコアの周囲に位置する環状形まで存在することはいうまでもない。このように少なくとも1点で外側シェルと接触するマクロ構造は,工具を使用して研磨作業の前,間または後に加工物を精査することができるので有効でもある。すなわち,外側シェルのこの部分(それは,基部構造との直接接触によって強固であることになる)は,加工物表面の位置および/または形状を測定するために用いることができる。
【0025】
上記の種類のコアがマクロ構造の一部として設けられる場合,非平坦面はコアに隣り合う周辺領域をさらに含んでもよく,その場合,好ましくは周辺領域は(コアに対して)比較的平坦である。たとえば,マクロ構造は,比較的平坦な円板状の周辺領域によって取り囲まれた半球状コアを含むことができる。その場合,外側シェルは,円板状の周辺領域の外縁で基部構造と接触する(meet)ことができる。
【0026】
多くの実施形態において,粘弾性物質層の厚さ(すなわち,基部構造と外側シェルとの間のあらゆる地点の粘弾性物質の量)を制御するために基部構造の非平坦面を使用することは望ましいが,上記したように,非平坦面は他の目的のために利用することができる。一部の好ましい実施形態では,非平坦面は,サブ開口研磨工具が使用中に回転するときに粘弾性物質を把持するように構成された表面テクスチャの形のミクロ構造を規定する。「ミクロ構造」とは,外側シェルのものよりも(そして,同様に存在し得る任意のマクロ構造と比べて)はるかに小さな規模の表面起伏プロファイル(形状)を意味する。この明細書における「ミクロ」は,任意の特定の(たとえば,1ミリメートル未満の空間周波数を有する)サイズ制限を課すために保持されてはならない(should not be held)点,および/または,この構造はとても小さく肉眼では見えない点に留意すべきであるが,これらの特徴のいずれも実際にあり得るケースである。このように,基部構造上のこの表面起伏の存在は,加工表面上の様々な地点で粘弾性物質層の厚さにごくわずかな(もしあれば)変化だけをもたらす。しかしながら,ミクロ構造は粘弾性物質層と係合し,それによって,支持部材から材料までのトルクの伝達を改善し,使用中の材料と工具との回転を確実にする。溝または線の格子等の規則的または不規則的なパターンを含む,いかなる形状の表面起伏もこの目的のために利用することができる。好ましい例では,表面テクスチャは非平坦面に複数の突出および/または陥凹造作を含み,突出および/または陥凹造作は好ましくはスタッドおよび/またはピットテクスチャを形成する。非平坦面がマクロ構造も規定する場合,表面テクスチャはマクロ構造上の全部または一部に存在することができる。たとえば,マクロ構造がコアおよび周辺領域を含む場合,ミクロ構造はコアだけの表面かつ周辺領域ではない表面に,またはその逆に,設けることができる。
【0027】
好ましくは,ミクロ構造は,基部構造に一体的に規定されるか,および/または基部構造に固定された複数の突起によって部分的に規定される。したがって,ミクロ構造は,基部構造自体の適切な成形たとえば固体材料に対する機械加工,または所望の起伏を形成するための材料の成型によって,形成することができる。これに代えて,ミクロ構造は,要望通りの起伏の突起を形成するために,局所的に一または複数の材料を基部構造に固定することによって形成することができる。そのような突起を形成する材料は,適合または非適合材料であってもよいが,残りの非平坦面のように使用中は(外側シェルと比較して)好ましくは強固である。たとえば,突起は,それが適所に残存して,使用中に著しくはその形状または摩擦特性を変化させないならば,粘弾性物質から形成することができる。突起は,ゴムのような弾性材から形成して接着剤を用いて残りの基部構造に結合することもできる。好ましいケースでは,突起は,非平坦面(たとえば,鋼)を形成している残りの材料と少なくとも同程度に強固とされる。たとえば,突起(またくぼみ)は,基部構造材料に直接に機械加工することができる。したがって,ミクロ構造を,アディティブマニュファクチャリング技術および/またはサブトラクティブマニュファクチャリング技術によって形成することができる。
【0028】
好ましい実施形態では,ミクロ構造の形状は0.1mm~10mmの範囲の,あるいは大きな工具ではより大きな振幅(すなわち,ピーク-谷の高さ)(peak to trough height)を有してもよい。振幅は,キャビティを満たしている粘弾性物質の厚さと関連して小さくなる。突起は,たとえば,円筒突起または細長い溝といった任意の形状を有することができ,たとえば,疑似ランダム,またはライングリッド,六角形配置,同心円等の一次元または二次元の規則的パターンで配設することができる。各突起の横方向サイズ(たとえば,線幅または直径)は好ましくは0.1mm~10mmの範囲であり,これについても大きな工具ではより大きくなり得る。平均中心間間隔(または,規則的配列で配設された場合には周期性)は0.1mm~10mmの間であるか,大きな工具ではより大きくてもよい。表面テクスチャが基部構造に形成されたくぼみからなる場合には,これらの寸法上の要件のすべてがくぼみに等しく当てはまることになる。
【0029】
加工表面は,加工物表面に対して圧接されないときには平坦またはほぼ平坦であってもよい。しかしながら,好ましくは,表面に対して圧接されないときに上記工具の加工表面は非平坦(non-flat)である。換言すれば,外側シェル,粘弾性物質および基部構造は,工具が静止し,材料が自由に平衡状態まで弛緩するときに加工表面が非平坦であるように配設される。一般に,外側シェルは,使用中は加工物に適合するが,静止状態では所望の形状を保持するように製造される。たとえば,工具の加工表面は球の断面として成形することができる。曲線状(凸状,凹状またはそれ以外の非平坦状であろうとなかろうと)の加工表面は,それらが一般的に平坦な加工表面であるよりも大きな形状および曲率の範囲を有する表面に適用することが可能であるので,サブ開口研磨に特に適している。たとえば,球の断面の形状をした加工表面は,原理的には,曲率半径が加工表面のものより大きいあらゆる凹状面を研磨することができる。
【0030】
好ましい実施形態では,加工表面の少なくとも一部は,部分球状,部分楕円状,部分円筒状,部分円錐状または環状である。これらの形状はトポロジーの範囲(a range of topologies)を有する研磨表面に適していることが分かったものであり,したがって,自由曲面(free-form surfaces)の研磨に特に適している。それぞれが異なる形状(前述した形状のいずれか1つなど)の複数の横方向にオフセットされた領域を含む加工表面にも可能である。
【0031】
好ましくは,加工表面は,0.5ミリメートル(mm)~1メートル(m),好ましくは0.5mm~0.5m,より好ましくは0.5mm~200mm,最も好ましくは0.5~5mmの範囲の横方向幅(lateral width)を持つ。様々な寸法および/または形状を有するそのような研磨工具の範囲は,様々な加工物に適合するために,または1つの加工物の様々な部分の研磨のために,利用可能とすることができる。
【0032】
粘弾性物質の好ましい実施形態を,(i)「剪断増粘」および/または「応力硬化」,(ii)「剪断減粘」および/または「応力弱化」のどちらかとして説明したが,両者は相互に排他的ではない点に留意すべきである。すなわち,上記のように,一部の粘弾性物質は,様々な範囲で適用される剪断/ひずみ速度(または負荷応力)において両方のタイプの振る舞いを呈することができる。それゆえ,上記の用語のそれぞれは,たとえ他の範囲で逆の特性を呈する場合であっても,剪断/ひずみ速度(または負荷応力)の少なくとも一範囲の下で,それぞれの特性を呈する任意の粘弾性物質を含む。例として,コーンスターチと水の混合物の一部は,剪断速度の一範囲では剪断増粘反応を,剪断速度の異なる範囲では剪断減粘反応を呈し,したがって定義(i)および(ii)の両方を満たすと考えることができる。もちろん,実際には,研磨工具は,材料に適用される剪断/ひずみ速度(または負荷応力)が所望の粘弾性振る舞い(反応)を誘発するために必要な範囲内(すなわち,(i)または(ii)のいずれか)であるように制御されることになる。一部の好ましい実施形態では,粘弾性物質は,振る舞い(i)または(ii)のいずれかのみを呈する,すなわち,その反応タイプが全剪断/ひずみ速度(または負荷応力レベル)において同じであるように選択される。好ましい例では,粘弾性物質は,ピッチ,非ニュートン流体,ポリマー,シリコンポリマー,デンプン,粘土,メタ物質,溶剤中の粒子の懸濁液,または(たとえば,均一混合物内の)それらの任意の組み合わせのうちの少なくとも一つを含む。剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質の好ましい例は,少なくともポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。たとえば,上記材料は,ジメチルシロキサン,二酸化ケイ素,ヒマシ油およびポリジメチルシロキサンの懸濁液であってもよい。剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質の好ましい例は,石鹸,シャンプー組成物,コーンスターチと水の混合物,および微粒子(たとえば,タルク)と溶剤との混合物を含む。たとえば,構成粒子が十分に小さい(たとえば,5ミクロン粒子)場合,一部の塗料は剪断減粘の振る舞いを呈する。適切な市販品の一例は,カルボマおよびカルボキシポリメチレンを含有する,カーボポール(Carbopol)940ゲル(米国オハイオ州ルーブリゾール(Lubrizol)社から入手可能)である。
【0033】
この発明の第1の態様は,
上述した上記サブ開口研磨工具,
使用中に加工物を保持するための加工物ホルダ,および
上記接続機構と機械的に接続する駆動機構を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が加工表面が加工物の表面に対して移動するように加工物の表面と接触している間,工具を通過する第1の回転軸に関して上記サブ開口研磨工具を回転させるように構成されているサブ開口研磨機をさらに提供する。
【0034】
これにより,研磨工具に関してすでに上記で説明したすべての利点がもたらされる。
【0035】
好ましくは,駆動機構は,使用中に,加工物に対するサブ開口研磨工具の位置および/または配向を変更するようにさらに制御可能である。望ましくは,駆動機構は,3つの直交する空間方向に沿って研磨工具を移動するように制御可能である。駆動機構は,それぞれが第1の回転軸および互いと直交する第2の回転軸および/または第3の回転軸に関して研磨工具の配向を変更するように制御可能であってもよい。たとえば,3軸,4軸または5軸のCNC機械を利用することができる。これに代えて,研磨機は,複合工作機械(たとえば,ファナック ロボドリル(FANUC Robodrill)),産業用ロボット(たとえば,ファナック LR Mate)またはベルト駆動機構(すなわち,工具に何らかの反復パターンで表面を横切らせるために用いる歯車およびプーリのシステム)であってもよい。
【0036】
有利には,駆動機構は,粘弾性物質が(i)剪断増粘および/または応力硬化の振る舞い,または(ii)剪断減粘および/または応力弱化の振る舞いのいずれかを呈するように,加工物の表面に対して工具の移動を駆動するようにさらに制御可能である。工具の粘弾性物質が両タイプの振る舞いを呈することができる場合,同じ工具から各タイプの振る舞い(i)および(ii)を順次もたらすために,工具の移動が加工物の異なる領域で異なって駆動される(たとえば,異なる速度で駆動される)ように機械を構成することも可能である。
【0037】
この発明の第1の態様は,
(a)上述のサブ開口研磨工具を用意し,
(b)加工物の表面と接触するように上記サブ開口研磨工具の加工表面を位置決め(配置)し(placing),
(c)加工物の表面に対して加工表面を移動させて加工物表面を研磨する,
加工物を研磨する方法をさらに提供する。
【0038】
好ましくは,加工物の表面に対する加工表面の移動は,サブ開口研磨工具を通過する第1の回転軸に関するサブ開口研磨工具の回転を含む。これは,一般的に,外側シェル(および加工表面)が360度の回転対称を有する軸であることになる。有利な実施形態では,ステップ(b)および(c)が加工物表面上の様々な位置で複数回実行され,加工物表面に対するサブ開口工具の配向が少なくとも一部の位置で異なっている。これは,異なるタイプの表面造作を構成するために,加工物表面上の異なる位置において異なる研磨の振る舞いを得るために用いることができる。
【0039】
一部の好ましい実施形態では,粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質であり,加工表面は加工物の表面から中位空間欠陥を削減するおよび/または除去するように加工物の表面に対して移動する。加工表面に対する工具の移動は,好ましくは,粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の振る舞いを呈するように(たとえば,その速度について)制御される。
【0040】
工具は,研磨条件がすべての地点で一定(たとえば,工具と加工物表面の一定な相対配向,一定圧等)であるようにして加工物表面を横断する(moved across)ことができる。これは,表面欠陥が全表面にわたって同様である場合に望ましいことになる。しかしながら,他の好ましい実施形態では,ステップ(b)および(c)を加工物表面上の2つ以上の異なる位置において順次反復してもよく,複数の位置のそれぞれが,他の位置の少なくとも一部のものと異なる波長のそれぞれを有する中位空間欠陥を含んでおり,その場合,ステップ(b)はそれぞれの中位空間欠陥の波長に依存して選択される研磨条件下において各位置において実行される。すなわち,研磨の性質を,研磨が各地点に存在する特定のタイプの欠陥を除去するように「調整される」ように,加工物表面全体で変更することができる。有利には,中位空間欠陥の波長に依存して変化する研磨条件は,サブ開口研磨工具の回転速度,サブ開口研磨工具の加工表面と加工物表面間の圧力,および加工物表面に対するサブ開口研磨工具の配向のうちの少なくとも一つを含む。
【0041】
加工物表面に対するサブ開口工具の配向が少なくとも一部の位置で異なる場合,それが特に役立つとわかった。好ましくは,各位置における加工物表面に対するサブ開口研磨工具の配向が,中位空間欠陥それぞれの波長に依存して選択される。これは,加工物の表面とコアの間の上記材料の厚さが2つ以上の異なる配向の間で変化するように粘弾性物質が配設される工具を使用するときに,特に効果的である。このようにして,両者間の接触は工具の加工表面の異なる地点に関与することになるので,異なる配向で加工物に適用されるときに研磨ヘッドの特性は異なることになる。
【0042】
他の好ましい実施形態では,粘弾性物質は剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質であり,加工表面は加工物表面の鋭い造作(たとえば,縁部)を保持すると共に,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように加工物の表面に対して移動する。粘弾性物質が剪断減粘および/または応力弱化の振る舞いを呈するように加工表面に対する工具の移動が好ましくは(たとえば,その速度に関して)制御される。そのような工程の例示的な用途には,フレネルレンズ,回折光学素子または半導体ウエハの研磨が含まれる。
【0043】
好ましくは,加工物の表面は,少なくともサブ開口研磨工具が加工物の表面と接触していないときに,サブ開口研磨工具の加工表面のものと異なる形状および/または表面性状(surface profile)を有する。有利には,サブ開口研磨工具の加工表面は,加工物の表面の表面積より小さい,好ましくは半分未満,より好ましくは10%未満である表面積を有する。好ましい例では,サブ開口研磨工具の加工表面は,加工物の表面の最大横方向寸法より小さい,好ましくは半分未満,より好ましくは10%未満である最大横方向寸法を有する。望ましくは,サブ開口研磨工具の加工表面の少なくとも一部分は,加工物の表面の最小曲率半径未満の曲率半径を有する。これにより,必要であれば同一工具を用いて加工物の全表面を研磨することが可能になる。開示される研磨工具および方法は,特に加工物が回転対称でない場合および/または加工物の表面が少なくとも一つの凸状領域および少なくとも一つの凹状領域を含むか,または凸および凹カーブの両方が同じ領域に存在する場合(たとえば,「鞍」状(サドル)表面)に特によく適している。
【0044】
さらに好ましい実施形態では,加工物の表面に対する加工表面の移動は,加工物の表面上の第1の位置と接触しているときはサブ開口研磨工具を第1の回転速度で回転させ,加工物の表面上の第2の位置と接触しているときはサブ開口研磨工具を第2の回転速度で回転させて,加工表面の形状が第1の位置のときと第2の位置のときで異なるようにする。外側シェルの柔軟な性質と粘弾性物質の適合する性質とによって,工具が高速で回転しているとき,遠心力によって加工表面の形状を変化させることができ,これを,工具の研磨特性を変化させるのに利用することができる。
【0045】
この発明は,上記の方法によって研磨される製品をさらに提供し,この製品は,好ましくはレンズまたはプリズム等の光学素子,半導体ウエハ,電子装置用のスクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである。たとえば,本書に開示される装置および方法は,精密光学部品(撮像,顕微鏡検査,分光法用のレンズおよび鏡),精密金型(プラスチック射出またはガラス加圧による複製用),医療表面(眼科装置,補装具),ならびにスマートフォン,スマートウォッチ,眼鏡等の精密研磨面を含む大衆消費者市場における超精密な研磨に使用することができる。
【0046】
上記したように,ある種の加工物は,研磨工程の間,保持される必要のある高空間周波数の造作を持つ。これらは,フレネルレンズ,回折光学素子および半導体ウエハを含む。従来の研磨工具は,これらのケースについて鋭端を研磨する危険を冒すが,それは完成品にとって不利益である。この問題は,サブ開口および全開口の設定の両方で直面する。
【0047】
したがって,この発明の第2の態様は研磨工具を提供し,上記研磨工具は,研磨機への接続のための接続機構を含む支持部材,および上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,上記研磨ヘッドは,上記支持部材と接続されるまたは一体化される基部構造,少なくとも一部が上記研磨工具の加工表面を規定する外側シェルであって,上記基部構造に固定されて上記外側シェルと上記基部構造の間のキャビティを取り囲む外側シェル,ならびに上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質を備えている。
【0048】
「剪断減粘および/または応力弱化」とは,キャビティ内に密封された粘弾性物質が,上述のように,少なくとも剪断/ひずみ速度(または負荷応力)のある範囲において,好ましくはすべての剪断/ひずみ速度(または負荷応力レベル)において,この種の振る舞いを呈することを意味する。既に説明したように,この種の粘弾性物質は,剪断/ひずみ速度の上昇(または応力の増加)に対して薄くなるまたは弱くなる。これによって研磨中に加工物表面の鋭端およびその他の高周波数造作を保存する結果がもたらされる。研磨工具は,サブ開口研磨工具であってもよいし,同時に加工物(または1つ以上の加工物)の全表面を研磨するように設計された全開口研磨工具であってもよい。
【0049】
この発明の第1の態様とは異なり,基部構造の非平坦面を設けることは重要でない点に留意すべきである。しかしながら,これは任意選択的に含まれてもよく,特にサブ開口工具の場合に上述したのと同じ付随する利点のすべてを提供する。そのような非平坦面は,第1の態様に関してすでに述べた好ましい特徴のいずれかを有するマクロ構造および/またはミクロ構造を規定することができる。これに代えて,非平坦面を,特に全開口研磨工具の場合に研磨される加工物表面の外形(輪郭)に整合するように構成してもよい。
【0050】
この発明の第1の態様のように,外側シェルと基部構造によって囲まれるキャビティは密封される。したがって,キャビティを満たす剪断減粘および/または応力弱化の材料はキャビティから漏出できず,キャビティ内部の量は使用中に一定のままである。
【0051】
外側シェルは,この発明の第1の態様に関してすでに説明した方法のいずれかで構築することができる。同様に,加工表面は,この発明の第1の態様に関して説明した形状のいずれかを有することができる。加工表面は,加工物表面に対して圧接されないときに平坦またはほぼ平坦であってもよい。
【0052】
この発明の第2の態様はさらに研磨機を提供し,研磨機は,上記第2の態様の研磨工具,使用中に加工物を保持する加工物ホルダ,上記接続機構と機械的に接続する駆動機構を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が加工物の表面と接触している間,加工物に対して研磨工具を移動させるように構成される。上記駆動機構の性質は,機械がサブ開口研磨を実行するように構成されるか,または全開口研磨を実行するように構成されるかに依存してもよい。好ましい実施形態では,駆動機構は工具を通過する第1の回転軸に関して研磨工具を回転させるように構成される。
【0053】
有利には,駆動機構は,上記粘弾性物質が剪断減粘および/または応力弱化の振る舞いを呈するように,加工物の表面に対して工具の移動を駆動するようにさらに制御可能である。これは,一の範囲の剪断/ひずみ速度(または負荷応力)で剪断減粘および/または応力弱化の振る舞いを呈し,他の範囲ではそうではない粘弾性物質が選択される場合に必要となる可能性がある。これはたとえば工具の回転速度を制御することを含んでもよい。
【0054】
この発明の第2の態様は,(a)上記第2の態様による研磨工具を用意し(設け),(b)加工物の表面と接触するように研磨工具の加工表面を配置し,(c)加工物の表面に対して加工表面を移動させて加工物表面を研磨する,加工物研磨方法をさらに提供する。好ましい実施形態では,加工表面は,加工物表面の鋭端,たとえば,フレネルレンズまたは回折光学素子の鋭いピーク,あるいは半導体ウエハの鋭端を保持すると共に,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように,加工物の表面に対して移動する。加工表面に対する工具の移動は,好ましくは,粘弾性物質が,(常にそうではない場合に)剪断減粘および/または応力弱化の振る舞いを呈するように(たとえば,その速度に関して)制御される。
【0055】
一部の好ましい実施形態では,研磨工具はサブ開口研磨工具であり,加工物の表面は,少なくともサブ開口研磨工具が加工物の表面と接触していないときに,サブ開口研磨工具の加工表面のものと異なる形状および/または表面性状を有する。
【0056】
これに代えて,研磨工具は全開口研磨工具であってもよく,研磨される加工物の表面が実質的に研磨工具の加工表面と同じサイズであるか,または研磨工具の加工表面より小さい。全開口工具は,加工物表面の全体を同時に研磨する,または複数の加工物さえも同時に研磨するために用いることができる。
【0057】
この発明の第2の態様は上述の方法によって研磨される製品をさらに提供し,上記製品は,好ましくは,レンズまたはプリズム等の光学素子,回折光学素子,半導体ウエハ,電子装置用スクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである。
【0058】
この発明による研磨工具,研磨機および方法の例を,添付図面を参照して以下に説明し,周知技術と比較する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】この発明の一実施形態によるサブ開口研磨機の一例を示す。
【
図2】この発明の一実施形態によるサブ開口研磨機の一例を示す。
【
図3】この発明の一実施形態によるサブ開口研磨機の一例を示す。
【
図4】この発明の一実施形態によるサブ開口研磨機の一例を示す。
【
図5(a)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(b)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(c)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(d)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(e)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(f)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図5(g)】この発明の実施形態による様々な幾何学的形状のサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図6(a)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(b)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(c)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(d)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(e)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(f)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(g)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(h)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(i)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図6(j)】この発明の実施形態による,いくつかのサブ開口研磨工具における使用に適する基部構造の一例を示す。
【
図7(a)】加工物の研磨に使用中のこの発明によるサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図7(b)】加工物の研磨に使用中のこの発明によるサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図7(c)】加工物の研磨に使用中のこの発明によるサブ開口研磨工具の例を示す。
【
図8(a)】この発明による第1の例示的なサブ開口研磨工具を示すフォトグラフである。
【
図8(b)】
図8(a)のサブ開口研磨工具の内部構造を示すフォトグラフである。
【
図9】(a),(b)および(c)は,この発明による第2の例示的な研磨工具を示すフォトグラフである。
【
図10(a)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図10(b)】この発明の実施形態によるサブ開口研磨工具のさらなる例を示す。
【
図11(a)】この発明の実施形態における使用に適する剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質の振る舞いを概略的に示す。
【
図11(b)】この発明の実施形態における使用に適する例示的な剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質の特性の測定値を示す。
【
図11(c)】この発明の実施形態における使用に適する例示的な剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質の特性の測定値を示す。
【
図12(a)】3つの例示的な材料組成の振る舞いを示すグラフであり,そのうちの1つは剪断増粘および/または応力硬化の振る舞いを呈する。
【
図12(b)】この発明の実施形態における使用に適する例示的な粘弾性物質の振る舞いを示すグラフであり,ある条件下では剪断増粘および/または応力硬化反応を,他の条件下では剪断減粘および/または応力弱化反応を呈する。
【
図13】(a)は,例示的な加工物の研磨中のこの発明の一実施形態によるサブ開口研磨の一例を,(b)は,従来の研磨工具を用いて過剰に研磨された加工物の拡大詳細図を,(c)は,
図13(a)の研磨工具を用いて研磨された加工物の拡大詳細図を示す。
【
図14】(a)は,使用中の,この発明の一実施形態による全開口研磨装置の一実施形態の一部を,(b)は,その研磨ヘッドの概略断面図を示す。
【
図15】2つの異なる研磨ヘッド(a)および(b)について,
図14に示す種類の例示的な研磨工程における,材料除去率と加工物中心からの距離を示すグラフであり,研磨ヘッド(a)は従来のものであり,研磨ヘッド(b)はこの発明の一実施形態によるものである。
【実施例】
【0060】
図1~4は,この発明の一実施形態によるサブ開口研磨機の一例を示している。サブ開口研磨機は振動に強い頑丈なテーブル1を含む。テーブル1上にx方向に移動するXスライド機構2が取り付けられている。Xスライド機構2上にはy方向に移動するYスライド機構3が取り付けられている。Yスライド機構3上には符号Cで示す軸の周りを回転するターンテーブル4が取り付けられている。ターンテーブル4は,ターンテーブル4をz方向に移動させるZ移動機構(図示略)を介してYスライド機構3上に取り付けられている。ターンテーブル4は,その上に加工物を研磨のために載置することができる加工物ホルダを持つ。この構成によって,加工物の4つの軸の動き,すなわち,x,yおよびz方向の線形移動,ならびにC軸周りの回転がもたらされる。いうまでもなく,図示の構成では,回転軸Cは移動軸Zと平行である。
【0061】
テーブル1には,概略水平の基部6aおよび概略垂直の直立部6bを有する概略「L」字状のアーム6も取り付けられている。アーム6は,直立部6bから離れた基部6aの端部においてテーブル1に取り付けられており,垂直軸Aの周りを回転する。直立部6bの上端には,工具ホルダ7が,直立部に対して水平軸Bの周りを回転可能であるように直立部に取り付けられている。工具ホルダ7には,サブ開口研磨工具8がその支持部材によって取り付けられ,工具ホルダ7が直立部6bに対してその周りを回転する軸Bに対して角度をなして設定される回転軸Hの周りを工具ホルダに対して回転する。
【0062】
この実施例のサブ開口研磨工具8は部分球状加工表面(a part-spherical working surface)を有しており,回転軸A,BおよびHが部分球状表面の中心で一致するように配設されている。しかしながら,上記のように,この発明によるサブ開口研磨工具は,そのいくつかは球状または部分球状ではない,ある範囲の幾何学的形状を有してもよく,そのような幾何学的形状を有するサブ開口研磨工具のいくつかの例を後述する。この実施例のサブ開口研磨工具8は,以下の例で説明されるサブ開口研磨工具の実施形態のいずれかと置き換えることができる。
【0063】
この実施例では,サブ開口研磨機の構成は,軸Aの周りの工具アーム6の回転はサブ開口研磨工具を並進移動させることなく部分球状面を回転させ,同様に軸Hの周りの工具ホルダ7の回転はサブ開口研磨工具を並進移動させず,単に工具回転軸Bと工具ホルダ軸H間の歳差角の平面(the plane of the precession angle between the tool rotation axis B and the tool holder axis H)を変更するようになっている。
【0064】
x,yおよびz方向の加工物の移動と,c軸に関する回転の制御,ならびに工具アーム6,工具ホルダ7およびサブ開口研磨工具8の回転の制御は,
図4に概略的に示すプロセッサ装置9によって制御されるアクチュエータおよびドライブを含む駆動機構に影響される(affected)。プロセッサ装置9は,キーボード等の入力手段10と,加工物および工具の動きを制御するためのプロセスパラメータおよび制御命令を受信する外部入力信号用のポートまたはディスクドライブとを含んでもよい。表示手段11,たとえばスクリーンは,機械操作者に表示情報を提供することができる。
【0065】
加工物および工具の動きを制御することによって,サブ開口研磨工具8を加工物の任意の部分と接触するように配置(位置決め,ポジショニング)することができ,軸Hに関する工具ホルダ7の回転を制御することによって,工具と加工物間の接触範囲における加工物に対する工具の相対移動方向を選択することができる。接触範囲内の加工物表面全体のサブ開口研磨工具8の加工表面の移動は,接触範囲における加工物表面の垂線と工具が回転する軸との間の角度である歳差角を変更することによって制御される。後述するように,一部のサブ開口研磨工具は,加工物と接触する加工表面の地点の粘弾性物質の厚さが歳差角に依存して変化するように構成される。
【0066】
サブ開口研磨工具8は変形可能な外側シェルを有するので,研磨する加工物に対してサブ開口研磨工具を押し付けることによってサブ開口研磨工具の加工表面と加工物の間の接触領域を増加させることができる。
【0067】
この発明の実施例による方法では,加工物は上述した研磨機の加工物ホルダに取り付けることができる。サブ開口研磨工具8は開口によって回転させられ,その加工表面は加工物表面に対して移動するように加工物の表面と接触させられ,それによって加工物を研磨する。研磨作業を実行するこの明細書に開示される研磨工具と共に用いることができる他の機械が国際公開公報WO00/32353号(
図1~3)に開示されている。
【0068】
この発明の実施例によるサブ開口研磨工具の実施例を,
図5(a)~
図6(j)を参照して説明する。
図5(a)~
図5(f)の実施例は,この発明によるサブ開口研磨工具を構築し得る例示的な幾何学的形状の(包括的でない)選択肢を示し,
図6(a)~
図6(j)は,この発明の好ましい実施形態による工具に存在し得る様々なその他の特徴を示す。
【0069】
例示的な工具のすべては,それらの「休止」状態,すなわち,静止していて他の何かと接触していない状態で図示および説明されることはいうまでもない。使用中,工具の形状は工具が休止しているときの形状と異なる。特に,工具が加工物表面と接触しているとき,工具は変形し,加工物表面の形状に局所的に適合することになる。(たとえば)球状工具の楕円状または環状形状への伸長によって,丸まったエッジのような,加工表面の圧延エッジなどの折り重なった領域内における工具と加工物の接触範囲を最大化することができるので,表面の平滑化において有利に働く(実際,接触範囲は中~高空間周波数の除去における重要な要素であり,接触範囲の増加によって平滑化が速くなる)。さらに,工具が高速で回転すると,遠心力によってその形状を変化させることもできる。多くの場合,工具は,その回転速度に依存して工具の表面を正しい形状にする力を発生させる。粘弾性物質は,工具の口(the sack)を共形形状(コンフォーマル形状)に形づけるように十分に軟らかいものであることが好ましい。そして,後述するように,その加工表面を硬化または軟化する(使用する粘弾性物質の種類によって決まる)ための加工物表面の造作(造形)(たとえば,中位空間または鋭端)を横切る(across)工具の移動に依存して,それらの造作を除去または保存する。
【0070】
図5(a)は,この発明の一実施例による例示的なサブ開口研磨工具501aの断面図である。工具501aは,
図1~
図4に示すような研磨機に接続するのに適する支持部材503と,その回転軸が回転軸Hに沿って整列して配向され,支持部材503の端部と接続される(または一体の)円筒状基板505を備える基部構造とを有する。支持部材503および基部構造は,一般に,ステンレス鋼等の金属または合金から形成することができる。この例では,基板505は支持部材503と反対側に概略平坦な面505’を持つ。半球状コア511aが平坦面505’と同じ側で基板505に固定されており,平坦面505’と中実コア511aの表面が一緒になって非平坦面を規定する。これに代えて,たとえば,その形状を表面505’に機械加工することによって,または基板505をそれに応じて鋳造することによって,コア511aを基板505と一体的に形成することができる。したがって,この非平坦面の中心部は(半球状コア511aの存在のために)半球状であり,平坦なリング状周辺領域によって取り囲まれる。
【0071】
組み合わせにおいて,半球状コア511aの表面および平坦面505’の周辺部の形状は,非平坦面のマクロ構造(macro-structure),すなわち,全体としてのサブ開口研磨工具501aの寸法に対して同じまたは同様のオーダーの距離にわたる変化を規定する。特に,上記マクロ構造は,外側シェル507’の表面形状と同様の規模の高さで変化する表面形状を有する。この例のマクロ構造は,サブ開口研磨工具の回転軸Hに関して(外側シェル507のように)完全な回転対称性も有する。一部の実施形態では,非平坦面は,たとえば,平坦面505’および/またはコア511aの表面に形成されたテクスチャ(組織)の結果として,ミクロ構造を規定することもできる。この例のコア511aは,使用中は強固であるように構成され,工具501aが加工物に適用されているときの使用中に引き起こされる応力を受けたときに変形しない。最も簡単なケースでは,上記コア511aを金属,硬質ポリマーまたはセラミックといった硬質材料から形成される固体構造とすることができる。もっとも,より複雑な構造を用いて必要とされる剛性を有するコアを形成してもよく,その例は後述する。
【0072】
外側シェル507は基板505の周囲(its periphery)に(好ましくは周囲のみで,周囲の全長に沿って)固定されている。この例では,外側シェル507は,半球状の形状であり,上記半球状コア511aと同心状に配置される。外側シェル507は,たとえば,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーまたはその他の任意の適切な適合材料も含む,少なくとも一層の研磨材(業界では「研磨パッド」と呼ばれることが多い)を備え,これが使用中に加工物を研磨するのに適する外側シェル507の加工表面507’を形成する。研磨材は多孔性のもの(porous)であってもよく,そうでなくてもよい。一部の実施形態では研磨材は研磨粒子を含んでもよく,そうではなければ研磨スラリと一緒に使用するように設計することもできる。
【0073】
上記のように,この発明の実施形態の「非平坦」面は,外側シェルが基部構造に固定される地点に囲まれている概念上の極小曲面(最小面)(notional minimal surface)から逸脱する(すなわち,非平行である)。
図5(a)の例では,外側シェル507が基板505に固定される地点(points)(基板505の周辺部がこの平面にあるリングの形を有するので,この例の場合,概念上の極小曲面自体も)は,線A-A’と平行で回転軸Hと垂直の平坦面に位置する。基部構造の非平坦面はコア511aの存在によってこの極小曲面から逸脱する。
【0074】
外側シェル507と,コア511aおよび基板505によって形成される非平坦面は一緒に(非ニュートン性)粘弾性物質509で満たされる密封キャビティを取り囲む。この例では,キャビティは,粘弾性物質が加工表面507’上のすべての位置においてコア511aと外側シェル507の間で同じ厚さを有する層を形成するように形付けられている(コア511a,基板505および外側シェル507の形状および構成の結果である)。ここで層の「厚さ」は,当該の位置における加工表面507’に垂直な方向に沿う外側シェル507とコア511aの表面の間の距離を意味する。この構成の結果として,工具501aが使用中に回転軸Hの周りを回転し,加工物に適用されるときに,加工表面507’のどの部分が加工物表面と接触位置になるかにかかわらず,その振る舞い(反応)は実質的に同じである。この工具501aに用いるのに適する粘弾性物質509は,2つの一般的なカテゴリー:(i)剪断増粘(shear-thickening)および/または応力硬化(stress-stiffening),(ii)剪断減粘(shear-thinning)および/または応力弱化(stress-weakening)に入る振る舞い(反応)をもたらす。第1のカテゴリーの反応を呈する粘弾性物質は,加工物が研磨される必要がある比較的高周波数の造形(特徴)を含む場合の用途のために選択されることになり,第2のカテゴリーの反応を呈する粘弾性物質は,加工物上の比較的高周波数の造作(たとえば,鋭端)を保持する必要がある場合に選択されることになる。上記のように,粘弾性物質のなかには,異なる範囲の適用剪断/ひずみ速度(または負荷応力)において,両方のカテゴリーの振る舞い(反応)を呈することができ,この一例は以下で後述する。このタイプの材料が選択される場合,それが呈する振る舞いのタイプは,加工物に対する工具の動きパラメータ(たとえば,その回転速度)の変化を通じて制御することができる。
【0075】
上記のように,外側シェル507と基部構造によって取り囲まれるキャビティは密封される。上記工具を製造するために,粘弾性物質509を,たとえば,ピンまたはネジの挿入によって実質的に閉鎖される基部構造中の導管を通して(たとえば,基板505を通して)導入することができ,その後にキャビティが密封される。
【0076】
例示的な粘弾性物質は,ピッチ,非ニュートン流体,ポリマー,シリコンポリマー,デンプン,粘土,メタ物質,溶剤中の粒子の懸濁液,または(たとえば,均一混合物内の)それらの任意の組み合わせを含む。剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質の好ましい例は,少なくともポリジメチルシロキサン(PDMS)を含む。たとえば,上記物質は,ジメチルシロキサン,二酸化ケイ素,ヒマシ油およびポリジメチルシロキサンの懸濁液であってもよい。剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質の好ましい例は,石鹸,練り歯磨き,シャンプー組成物,コーンスターチと水の混合物,および微粒子(たとえば,タルク)と溶剤との混合物を含む。たとえば,それらの構成粒子が十分に小さい(たとえば,5ミクロン粒子)場合,一部の塗料は剪断減粘反応を呈する。適切な商品の一例は,カルボマおよびカルボキシポリメチレンを含有する,カーボポール940ゲル(米国オハイオ州ルーブリゾール社から入手可能)である。適切な粘弾性物質509のさらなる詳細は,後述する。
【0077】
オプションとして,外側シェル507はゴム,シリコン,ネオプレンまたは別の高分子エラストマー等の弾性材の層を含んでもよく,その場合には,研磨材の層がこの弾性層の外側に配設される。弾性層を設けることによっていくつかの利点をもたらすことができる。まず,弾性層は,加工物の研磨の過程で変形した後の外側シェル507の形状を復元するのを助けることができる。弾性層は,粘弾性物質509を保持し,漏出を防止するのを助けることもでき,これは加工表面507’を形成する研磨材が多孔性である場合に有利である。外側シェルは,オプションとして,必要に応じてその外面に適用されるピッチ等の材料の追加層を有することができる。
【0078】
外側シェル507は,様々なやり方で基部構造に固定することができる。たとえば,外側シェルを基板505の周囲に接着(adhered)または締着(clamped)することができる。これに代えて,外側シェル507を基板505の一部分の周りに係着(フィット)させてそれ自身の弾性によって保持してもよく,および/または基部構造上で熱収縮させてもよい。
【0079】
工具は,研磨される加工物に適合するようにいかなるサイズにも製造することができる。たとえば,外側シェルの直径は,0.5mm~1m,好ましくは0.5mm~0.5m,より好ましくは0.5mm~200mm,最も好ましくは0.5~5mmの範囲であってもよい。様々な寸法および/または形状を有する研磨工具の範囲によって,様々な加工物,または1つの加工物の様々な部分の研磨に利用できるようにすることができる。好ましくは,工具の最小曲率は,加工物表面上の考えられる限りの位置(たとえば,曲線状のスマートフォンまたはスマートウォッチ画面,サングラス等の凸状および凹状面)と自由に接触することができるように選択される。同じ寸法上の要件は,本願明細書において開示されるすべての実施形態にあてはまる。
【0080】
図5(b)は,この発明によるサブ開口研磨工具501bの2番目の例を示している。この工具501bは,
図5(a)の工具501aと同様の支持部材503,基板505および半球状外側シェル507を有する。しかしながら,この例では,工具501bは非球面であるコア511bを有しており,たとえば,長球(換言すると,回転軸Hの方向に沿って伸ばされた球)の一部の形状を有し,楕円状の断面を有している。このコア511bの形状は半球状外側シェル507の形状と合致しないので,基部構造の非平坦面(基板505の平坦面505’とコア511bの表面によって形成される)と外側シェルの間のキャビティは,粘弾性物質の厚さが加工表面507’の位置間で変化するように成形されている。たとえば,上記厚さは,工具501bの「先端部」(tip)に対応する加工表面507’上の地点L1で最も小さい。粘弾性物質層が薄ければ薄いほど,加工表面は所定の剪断速度の変形に対して耐性が上がる傾向がある。これは,工具の研磨の振る舞い(反応)を,工具が加工物に適用される配向に依存して変化させることができるので,有効である。
【0081】
したがって,たとえば,中位(mid)(ミドル)の空間欠陥(粘弾性物質509が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性特性を呈するように選択されることになる)を除去するために設計される工具では,粘弾性物質層がより薄い加工表面507’の部分が,より小さい空間周波数の中位空間欠陥を除去するのに適している。同じ理由から,粘弾性層がより薄い部分(たとえば,地点L2)は,比較的より大きな空間周波数の中位空間欠陥を除去するのに最適である。この例では,コア511bおよび外側シェル507が回転軸Hに関して完全な回転対称を有するので,加工表面507’が加工物表面と接触する点における粘弾性物質層の厚さは,以下で実証するように,単に回転軸Hと,工具501bが適用される加工物表面の部分との間の角度を変更することによって制御することができる。したがって,この例の工具501bは,異なる空間周波数の中位空間欠陥を含むことが分かっている,または含むと思われる加工物の研磨に適している。これとは対照的に,
図5(a)のサブ開口研磨工具501aは,加工表面507’のどの部分が加工物表面と接触しているかにかかわらず同様に振る舞うので,空間周波数が大幅に変化しない中位空間欠陥を含む(剪断増粘および/または応力硬化粘弾性物質509も含む場合であっても)複雑な幾何学的形状を有する加工物(または加工物の一部)の研磨に適している。
【0082】
図5(a)および5(b)のサブ開口研磨工具間の機能の差異を示すために,
図7(a)は,加工物701の曲面上の2つの異なる位置において使用中の
図5(a)のサブ開口研磨工具501aを示している。加工物の表面701’は,その上に存在する中位空間欠陥による「波状」形状を有している(図面は正確な縮尺ではなく,中位空間欠陥は,分かりやすくするために,一般的に実際よりもはるかに大きく示されていることを理解されたい)。第1の位置C1および第2の位置C2の両方において,加工物701と接触する加工表面507’の部分とコア511aの間の粘弾性物質層の厚さは同じである。
図7(b)は,異なる加工物の表面703’上の2つの異なる位置に適用される
図5(b)のサブ開口研磨工具501bを示している。この表面703’上の第1の位置C3に,第1の空間周期P1を有する中位空間欠陥が存在する。粘弾性層がより厚い工具501bの部分はより大きい空間周期(したがって,より小さい空間周波数)の中位空間欠陥を除去するのに最適であるので,工具501bは表面703’の平面に斜角の第1の位置C3で表面に適用される。同じ表面703’上の第2の位置C4では,存在する中位空間欠陥がP1未満のより小さな空間周期P2を有しており,工具501bは,その回転軸Hを表面703’に実質的に垂直となるようにして適用される。このため,第2の位置C4では,第1の位置C3と比べて加工物の加工物表面703’と接触する加工表面701’の部分と工具501bとの間の粘弾性層の厚さは減少し,最も効率的な考えられる方法で高周波数の中位空間欠陥を除去する。
【0083】
工具形状の例に戻って,
図5(c)は,この発明の一実施形態による3番目の例示的なサブ開口研磨工具501cを示している。ここでも,この工具501cは前述の例と同じ支持部材503および外側シェル507を有するが,このケースでは,工具501cは,凹状面513’(本願明細書では逆円錐の形状)を規定するように成形された基部構造513を有している。先の例では,基部構造の非平坦面はコアの存在による非平坦であるのに対して,このケースでは,非平坦面は単に凹状面513’によって提供され,非平坦面のマクロ構造はそれに応じて凹状である。非平坦面513’の凹形状のために,加工表面507’と基部構造間の粘弾性物質の厚さは,加工表面507’上の位置間で仮に同じ表面が平坦であった場合よりも変化がより少ない。これにより,工具501cの振る舞いが,研磨される加工物に工具が適用される角度にかかわらず確実に比較的均一に振る舞うようになる。しかしながら,前述のように,振る舞いの多少の変化は,異なる周波数の中位空間欠陥(またはその他の造作)を処理するためには望ましく,凸状面513’の正確な形状は多少の変化を許容するように選択することができる。
【0084】
図5(d)は,この発明の一実施形態による第4の例示的なサブ開口研磨工具501dを示す。この工具501dは
図5(a)のものと類似しているが,このケースでは,コア515は,基板517から回転軸Hの方向に沿って延在する円筒状部分515aと,基板517より遠位のコア515の端部を形成する半球部分515bとを備えるように成形されている。コア519は平坦な基板521に固定され,この基板はコア519と共に,コア519の表面と,基板521の表面521’の周囲のリング状部分とから形成される非平坦面を規定する。
【0085】
外側シェル519の形状はコア515の形状と整合し,したがって外側シェル519とコア515の間の粘弾性物質509の厚さは一定であり,加工表面519’は,基板517に隣接する円筒状領域519’aと,工具501dの先端部を形成するドーム状領域519’bとを有する。この種の工具(その加工表面519’が異なって成形された領域を有する)は,加工物の表面の異なって成形された部分を研磨するのに適している。たとえば,円筒状領域519’aは凸状特徴を研磨するのに適しており,他方ドーム状領域519’bはドーム状領域519’bよりも大きな曲率半径を有する凹状領域に達することができる。
【0086】
図5(e)は,この発明の一実施形態による第5番目の例示的なサブ開口研磨工具501eを示している。この工具501eは,互いに接続される支持部材503および基板527を持つ。基板527の支持部材503とは反対側にはコア523が接続され,コア523はその回転軸が工具の回転軸Hと整列する円錐台形(the form of a truncated cone)を有している。外側シェル525(先に説明した外側シェルを形成するのに用いた同じ材料から形成することができる)は,その周囲で基板527に固定されて,コア523の周りに円周方向にのびている。先の例のように,コア523の周りに円周方向に延在する外側シェル525の部分は,工具501eが回転軸Hの周りを回転するので,使用中に加工物を研磨するのに適する加工表面525’を形成する。外側シェルの端部525”はこの実施例では加工表面の一部ではなく,これも工具501eの先端を横切って延在し,コア523のより狭い方の端部(すなわち,基板527に対する遠端)と接触している。このように,コア523は,基板527から外側シェル525の端部525”まで連続してのびている。コア523が外側シェルと接触する所では,下記の
図10(b)に関連してさらに説明するように,外側シェルは強固な状態に保たれることになるので,必要に応じて加工物を精査するために用いることができる。この実施例では,キャビティ内の粘弾性物質の厚さ(当該の位置で加工表面525’と垂直な方向に沿って測定する)が,外側シェル525が基板527と接触する場所で最も大きくなり,基板527からの距離と共に減少するように,外側シェル525は成形されている。
【0087】
図5(f)は,この発明の一実施形態による第6番目の例示的なサブ開口研磨工具501fの断面図である。先の例のように,この工具は研磨機への接続のための支持部材503を有し,使用時には回転軸Hの周りを回転するように構成されている。基部構造531が支持部材503に取り付けられている。基部構造531は回転軸Hに関して完全に回転対称である。その中心部533によって基部構造531は支持部材503に取付けられる。中心部533は略一定の厚さの円板の形を有している。中心部533を取り囲むのは中間部分535であり,これは回転軸Hに垂直な半径方向に沿って先細っている。基部構造531の外側部分537は,回転軸Hの周囲に延在する円周方向に対して湾曲しており,半楕円状断面を有している。
【0088】
外側シェル541は,中間部分535のテーパー表面に固定され,基部構造531の円周の周りに完全に延在する。その結果として,外側シェル541は,回転軸Hについて完全な回転対称を有する環状の加工表面541’を規定する。このケースでは,外側部分537と,外側シェル541によって形成されるキャビティによって取り囲まれる中間部分535の部分は非平坦面を形成し,そのマクロ構造は中間部分535のテーパー表面と外側部分537の曲面とによって規定される。
【0089】
上記のように,この発明の実施形態の「非平坦」面は,外側シェルが基部構造に固定される地点に囲まれた概念上の極小曲面から逸脱する(すなわち,非平行である)。
図5(f)の例において,外側シェルは,各々が回転軸Hの周りに円周方向に延在する2本の輪状線に沿って基部構造に固定される。概念上の極小曲面はこれらの2本の線を接続する円筒状面であり(線B-B’は概念上の極小曲面にある),外側部分537と中間部分535によって形成される実際の非平坦面は,この表面から半径方向に突出するので,この概念上の極小曲面から逸脱する。
【0090】
本願明細書において説明したすべての研磨工具の実施形態と同じように,
図5(f)の工具の上記非平坦面は,サブ開口研磨工具が使用中に回転しているときに,キャビティ内の粘弾性物質を把持するように構成された表面テクスチャ(組織)を規定するミクロ構造を有してもよい。表面ミクロ組織の例は,
図6(a)~6(c)を参照して後述する。
図5(g)は,この発明の一実施形態による第7番目の例のサブ開口研磨工具501gを示している。この工具501gは,
図5(a)に示す例と同じように支持部材503,基板505,外側シェル507および粘弾性物質を有している。しかしながら,このケースでは,基板の略平坦面505’上にコアがない。その代わりに,基部構造は,基板505の平坦面505’上に配設された突出表面要素(突起)551の配列(アレイ)を備えている。表面要素551は,基板505と一体的であってもよく,または別に形成して平坦面505’に接着その他によって固定されてもよい。表面要素551は,基板の平坦面505’と共に表面要素551によって形成される組織(テクスチャ)に対応するミクロ構造を有する非平坦面(突出表面要素551によって非平坦である)を規定する。
【0091】
このテクスチャは先に定義した意味における「ミクロ構造」を規定するものであり,粘弾性物質と接触している基部構造の表面を非平坦にするが,外側シェルと基部構造の非平坦面の間の粘弾性物質層の厚さに大幅な変化を引き起こさない。表面要素は,外側シェル507によって囲まれるキャビティ内の粘弾性物質に向けて突出し,工具501gが回転軸Hの周りを回転するときに粘弾性物質と係合する効果があり,このため回転している工具からキャビティ内の粘弾性物質へのトルクの伝達の助けとなる。ここで表面要素551は平坦面505’に対して突出しているように示されているが,これに代えてまたは加えて,平坦面505’にくぼみが存在してもよく,これは粘弾性物質と接触している表面の非平坦特性に寄与する。上記ミクロ構造は基部構造505と一体的に形成してもよく(たとえば,表面505’に機械加工または成型する),または表面505’に固定される材料を備えてもよい。そのような材料は適合(compliant)材料でも非適合材料でもよい。たとえば,材料の分離した部分を表面505’に局所的に接着させて,必要に応じて互いに分離させて所望の表面テクスチャを形成することができる。
【0092】
突起551は,それが適所に残存して,使用中に著しくはその形状または摩擦特性を変化させないならば,必要に応じて,それ自身粘弾性物質から形成することができる。突起551は,代替的には,ゴムのような弾性材から形成し,接着剤を用いて基部構造上に結合することができる。好ましいケースでは,突起551は,非平坦面を形成する残りの材料(たとえば,鋼)と少なくとも同程度に強固なものとされる。たとえば,突起(またはくぼみ)は,直接に基部構造505の表面505’に機械加工することができる。したがって,ミクロ構造は,アディティブ製造技術(additive manufacturing technique)および/またはサブトラクティブ製造技術(subtractive manufacturing technique)によって形成することができる。
【0093】
ミクロ構造の形状は0.1mm~10mmの範囲の振幅(すなわち,ピーク-谷の高さ)を有してもよく,大きな工具ではより大きくてもよい。振幅はキャビティを満たしている粘弾性物質の厚さと関連して小さくしてもよい。突起は,あらゆる形状,たとえば,円筒突起または細長い溝を有してもよく,たとえば,ライングリッド,六角形配置,同心円等の1または2次元の疑似ランダムまたは規則的なパターンで配設することができる。ここでも大きな工具ではより大きくなり得るが,各突起の横方向サイズ(たとえば,線幅または直径)は好ましくは0.1mm~10mmの範囲である。平均中心間間隔(または,規則的配列で配設された場合,周期性)は0.1mm~10mmの間であるか,大きな工具ではより大きくてもよい。表面テクスチャが基部構造に形成されたくぼみからなる場合には,これらの寸法上の要件のすべてがくぼみに等しく当てはまることになる。
【0094】
図7(c)は,フリー形状の加工物711の表面の様々な造作の研磨に用いられている,
図5(d),
図5(e)および
図5(f)のサブ開口研磨工具の断面図を示している。概略的には,本願明細書において開示されるサブ開口研磨工具は,曲率を急に変更することおよび/またはそれ自体(鞍点)を反転することができる複雑なフリーダム表面(たとえば人工膝関節または眼鏡用の成型インサート等)を研磨するのに特によく適している。たとえば,
図5(d)の工具501dの部分球状加工表面は比較的低い曲率の造作を研磨するのに適しており,他方
図5(f)の環状工具501fは強く湾曲して到達困難な領域を研磨するのによく適している。直線状の傾斜した面については,
図5(e)の円錐状工具501eが,単一方向に平坦なまたはカーブしている造作(たとえば,円筒の部分のトポロジーを有する隆起)を研磨するのに特に適している。
【0095】
この発明によるサブ開口研磨工具を構築するのに適した幾何学的形状範囲の例を説明したが,次に,
図6(a)~6(j)を参照して,この発明の好ましい実施形態によるサブ開口研磨工具の特徴の考えられる変更態様および特定の実施態様の例を以下に示す。これらの好ましい特徴のいずれかが
図5(a)~5(g)に示すすべての選択肢を含むあらゆる形状の(および/またはあらゆる形のマクロ構造を有する)工具に適用されるが,簡潔にするために,半球状工具のみを参照することで説明することを理解されたい。
【0096】
上記のように,基部構造によって形成される非平坦面は,マクロ構造およびミクロ構造の一方または両方を規定することができる。ここで
図6(a),6(b)および6(c)は,それぞれ
図5(a),5(b)および5(c)のサブ開口研磨工具の改良型を示しており,いずれのケースについても,それぞれの基部構造のマクロ構造上にミクロ構造を形成するように構成された,上記した種類の表面要素651を備えている。これらは
図5(g)の実施例と同じ利点を有しており,すなわち,それらは粘弾性物質と係合することによって,工具が回転するときにトルクの粘弾性物質への伝達を助ける。図示する例では,ミクロ構造はマクロ構造全体に延在しているが,これは必須ではなく,ミクロ構造はその一部のみに設けられてもよい。
【0097】
図6(d)および
図6(e)は,好ましい形状のコアを有するサブ開口研磨工具601dの例を示している。この例では,工具601dは,回転軸Hの方向に沿って移動可能であるピストン611を含む。ピストン611は,支持部材613中の孔を通って延在する軸612を有しており,かつ基板605中の対応する形状の凹所を占めるヘッド611’を有している。ヘッド611’および基板の周囲面605’が一緒に非平坦面(この例では,段状)を規定し,外側シェル507は基板605の周囲に固定されている。ピストンが外側シェル507に向かって移動すると,非平坦面の形状,および非平坦面と外側シェル507の間のキャビティの形状が変化する。これによって加工表面507’も形状を変化させ,使用中の加工物に適用されたときに剪断に応じて工具の振る舞いを修正することになる。したがって,ピストン611の位置は,工具の振る舞いを変更するように,たとえば,加工物の様々に形付けられた領域により良く適合する,および/または様々な空間周波数の中位空間欠陥を最適に除去するために,使用中に選択することができる。ピストン611の移動は,たとえば,力をピストン軸612に伝達するように構成された油圧機構によって作用させることができる。
【0098】
図6(f)および
図6(g)は,使用中の剛性が流体によってもたらされるコアを有する,さらなる例示的なサブ開口研磨工具601fを示している。工具601fは,基板621に取り付けられた支持部材625を有しており,これらは先に説明したものと構造上同様である。しかしながら,この例では,導管625が支持部材625および基板621を通って延在しており,基板621の平坦面621’に固定される膨張嚢(袋)(ブラダー)627の内部に接続されている。使用中,
図6(g)に示すように,嚢は流体629で満たすことができ,これによって嚢が膨張して強固になる。嚢はその後,先に説明した,たとえば,
図5(a)に示すコアと同じようにして剛性コアとして作用することになる。流体は,たとえば,工具601fが使用される研磨機を構成するタンクから導管625を通じて導入される。嚢627の膨張によって嚢は拡大しまたは形状が変化し,これによって粘弾性物質層509および外側シェル507の形状に対応する変化が生じる。この目的に適した流体には水または油等の液体,および空気等の気体が含まれる。
【0099】
先に説明したように,一部の実施形態の研磨工具の外側シェルは,単純に研磨材,たとえば,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーまたは何らかのそれらの組み合わせの層(「研磨パッド」)によって形成することができる。
図6(h)は,その構造が
図5(a)のものと対応する,この発明の一実施形態によるサブ開口研磨工具601hを示しており,外側シェル647はその周囲で基板505に固定される研磨材の層のみによって形成されている。研磨材の層が粘弾性物質と直接接触するこの種の実施形態は,材料の振る舞いがほとんど変更を加えずに(with little or no modification)加工物表面に伝達されるので,良い結果をもたらすことがわかった。これは,比較的小さいサイズ(たとえば,5mm以下の半径)の工具で,および/または粘弾性物質が固いかまたは非常に粘調であり,研磨材を通して漏出することができない工具で,特にうまく機能する。
【0100】
図6(i)は,同じくこの発明の一実施形態による,
図5(a)のものに基づく,別のサブ開口研磨工具601iを示しているが,外側シェル657が弾性層659を含んでおり,弾性層が外側シェル657にその半球形状を与え,基板505の周囲に固定されている。基板505と反対側の外側シェルの領域は,外側シェル657の全領域には延在しない研磨材671の層によって覆われている。本実施形態では,研磨材が工具601iの加工表面671’を規定し,ここでは加工表面671’は全体として外側シェル657よりも小さな領域を有する。弾性層659を設けることは,中型から大型の研磨工具,たとえば,5mmより大きな半径を有する研磨工具において特に有益であることがわかった。弾性層は工具の所望の形状の保持を助け,かつ粘弾性物質の漏出の防止を助ける。弾性層は好ましくは,工具のサイズに応じて,0.1~5mmの範囲の厚さを持つ。弾性層659は,たとえば,ニトリルゴム,シリコンゴム,ポリエチレン,またはその他の非透過性のシート材料のいずれかから形成することができる。
【0101】
図6(j)は,この発明の一部の実施形態によるサブ開口工具への組み込みに適した基部構造564の一例を示している。基部構造564は,先に説明した種類の支持部材563に固定される。この基部構造564を組み込んでいる工具では,リングの形状の外側シェル(図示略)は,基部構造の表面564’と外側シェルが一緒に基部構造564の周りに円周方向に延在し,粘弾性物質で満たされている環状キャビティを取り囲むように,基部構造564の縁部567,568に固定されることになる。
【0102】
使用中,この基部構造を組み込んでいる工具は,回転軸Hの周りを回転する。この基部構造564の幾何学的形状は,基部構造564が軸Hに関して回転対称である円板の一般形状を有する点において,
図5(f)に示す工具のものと同様であるが,このケースの場合,キャビティを取り囲む表面564’はこの表面の縁部567,568によって囲まれる極小曲面に概して対応する。しかしながら,この例では,表面564’の周囲に周期的に配設されたフィン565があり,これは,外側シェルが基部構造564に固定されたときにキャビティの内部になる。フィン565の存在によって,キャビティを取り囲む基部構造の表面は,(これらのフィン565は基部構造の縁部567,568によって囲まれた極小曲面から逸脱するので)非平坦である。使用中に工具が回転すると,フィン565はキャビティ内部の粘弾性物質と係合し,キャビティ内部の粘弾性物質の回転を助ける。当然のことながら,この種のフィン,またはその他の突起は,
図5(f)の実施形態の表面535および537によって形成されたようなマクロ構造上に設けて,基部構造と粘弾性物質間の相互作用をさらに強化することもできる。
【0103】
図8(a)は,この発明の一実施形態にしたがって製造された第1のサンプルのサブ開口研磨工具801のフォトグラフである。
図8(b)は,部分的に分解された状態の同じ工具801を示しており,その外側シェル807の一部が内部構造を明らかにするために切り取られている。工具801は,研磨機,たとえば
図1~4に示す種類のものの一つに接合するように構成された細長い支持部材803を有している。基部構造805が支持部材803に取付けられている(この例では一体的である)。基部構造は一般的な円筒形状を有し,支持部材803と遠位の端部は概略平坦面805’であり,その上に先に説明した種類の複数の突出表面要素(見ることができない)が配設されている。上記表面要素の存在のために,支持構造のこの端部は,表面要素の配置によってミクロ構造が規定される非平坦面を形成している。
図5(g)に示す例と同様に本実施形態ではマクロ構造はない。
【0104】
基部構造805の非平坦面によって囲まれ,かつこの実施例ではピッチである粘弾性物質809によって満たされている半球状キャビティを取り囲むように外側シェル807は構成されている。外側シェル807は,基部構造805の長手方向に沿って延在し,それ自身の弾性によって適所に保持される弾性層815を含む(オプションで,図示を省略するクランプを設けてもよい)。弾性層815の端部に,支持部材803の遠位の外側シェル807の一部を形成する,研磨材ここではポリウレタン製の部分球状キャップ813がある。研磨材813は使用中には回転軸Hの周りを回転するように構成された工具801の加工表面を規定する。
【0105】
図9(a)~
図9(c)は,この発明の一実施形態にしたがって製造された第2のサンプルのサブ開口研磨工具901を示すフォトグラフである。
図9(a)は組み立てられた状態の工具901を示しており,他方
図9(b)および9(c)はその構造の特徴を明らかにするために,分解された工具の構成要素を示している。
【0106】
工具901は支持部材903を有しており,これに基部構造905が取り付けられている。この実施例の基部構造は,階段状のプロファイルの非平坦面905’を規定するように成形されており,かつ工具901の回転軸Hに関して完全に回転対称である。段状状のプロファイルは突出環状領域905’aと,それよりも高い円形中央メサ(circular central mesa)905’bとを規定する。工具901は外側シェル907も含み,外側シェルは基部構造905の端部に配置され,工具901が組み立てられると,非平坦面905’が片側を囲むキャビティを取り囲む。外側シェルはその基部に剛性リング917を有しており,それは工具901が組み立てられると非平坦面905’と接触して配置される。上記リング917にはキャビティを取り囲む弾性層915が取り付けられ,上記キャビティは剪断増粘パテ909(この実施例の粘弾性物質)で満たされている。上記弾性層はドーム状端部を有しており,その上に研磨材(この例ではポリウレタン)から形成される研磨パッド913が配設されて工具901の加工表面907’を形成する。基部構造905はねじ切り端部921(
図9(c)に見える)を有しており,これに対応してねじ切りされた内面を有するカラー919がその上にねじ止めされて,工具901が組み立てが完了する。カラー919は開口部を有するように成形されており,加工表面が研磨に利用できるようにする研磨パッド913を担持している外側シェル907の一部が上記開口部から外に出る。開口部の直径はリング917の直径よりも小さく,
図9(a)に示すように,工具が組み立て状態のとき,外側シェル907が適所に保持される。
【0107】
組み立てられると,環状領域905’aおよび円形メサ905’bは剪断増粘パテ909と接触する。円形メサ905’bは,実質的に円筒コア,したがって,上記した付随する利点を有する非平坦マクロ構造を規定する。
【0108】
図10(a)および
図10(b)は研磨工具の2つのさらなる実施形態を示している。いずれのケースも研磨ヘッドのみを示すが,実際には前述したように支持部材の端部に固定される。
図10(a)の実施形態は研磨工具941を示しており,基部構造945が環状リング945aの形体であり,環状リング中に,たとえばねじ固定によって,コア945bが固定されている。リング945aおよびコア945bの両方は鋼(または別の金属もしくは合金)といった硬質材料製とすることができる。コア945bは曲面状である凸状面945’を備え,ここが上述したマクロ構造を規定する。上記曲面945’はたとえば部分球状面であってもよく,工具941の軸に関して回転対称である。外側シェル947が基部構造945の周囲のリング945aに固定されている。外側シェル947は工具の加工表面を規定し,研磨材を備えてもよいし,または前述したような弾性層を含んでもよい。後者の場合,加工表面は外側シェル947の全体にわたって延在してはならない。外側シェル947とコア945bによって規定される基部構造の非平坦面945’との間にキャビティが存在し,ここが粘弾性物質949によって満たされている。この実施例では,マクロ構造945’の形状が外側シェル947の形状と実質的に整合(マッチ)しており,2つの構成要素間の材料949の厚さ(量)が実質的に加工表面上のすべての地点で同じである。これは上記の
図7(a)について説明した利点を有する。
【0109】
図10(b)に示す研磨工具961の構造は
図10(a)のものと類似している。すなわち,外側シェル967と基部構造965のコア965bによって規定される非平坦マクロ構造965’との間に形成されたキャビティ内に粘弾性物質969が位置する。しかしながら,この実施形態では,非平坦面965’がより複雑であり,工具の中心に,外側シェル967と接触する延長部965”を含んでいる。したがって物質969を含有するキャビティは環状であり,外側シェル967と延長部965”の間に粘弾性物質969は存在しない。この構成は,工具961をプローブとして追加的に利用することを可能にする,すなわち,研磨作業の前,間または後のいずれでも,加工物の形状を測定するために使用することができるので,有利である。これは,延長部965”と整列する外側シェルの部分を加工物と接触するように位置決めして接触が起こっているかを感知し,工具961を担持するCNC機械(または同等物)を用いてその接触点の正確な位置を確認することによって達成される。外側シェルと接触している延長部965”によって与えられるこの点の工具の剛性が測定の正確性を確保する。一般には,加工物と工具との接触が上記延長部965”から離れるように選択される配向の上記工具を用いて研磨作業は行われる。
【0110】
図11(a)は,加工表面の平面と実質的に平行な方向Mにおいて加工物1001の表面を横断する加工表面上の点について,研磨工具の粘弾性物質の振る舞いを概略的に示している。実際には,この相対的な動きは工具の回転によるものなので,表面上の各点は工具の傾斜に応じて直線状の経路または曲線状の経路をたどることになる。しかしながら,説明を簡単にするため,ここでは直線経路を考える。
図10でわかるように,加工物1001の表面は中位空間欠陥の存在のため「波状」のプロファイル(形状)を有しており,これは前述のように研削工程によって取り込むことができる。工具の外側シェル1007は,前述のように研磨材または他の何らかのより複雑な構造の層によって単純に形成することができ,加工物1001の表面上の欠陥の形状に適合し,合致する。工具の加工表面1007’が移動方向Mに沿って移動すると,外側シェルの内面1007”に近い粘弾性物質の各部分が,図面において概略的にスプリングによって示すように,周期的に圧縮(表面形状の「ピーク」,たとえば位置M1に位置しているとき)および膨張(表面形状の「谷」,たとえば位置M2に位置しているとき)する。すなわち,粘弾性物質1009の表面上の各位置は,欠陥の空間周期Pによって区別される加工物1001の表面に対して加工表面1007’が移動する速度VMに対応する周波数fで周期的に変形する。重要なのは,この周波数はサブ開口研磨工具の回転速度に直接依存していることである。
【0111】
上記変形の周波数(the frequency of deformation)に対する粘弾性物質1009の応答(反応)は,粘弾性物質の性質(nature),および特に問題の周波数の範囲において剪断増粘または剪断減粘の振る舞いを呈するかどうかによって決まる。使用中の動作状態の下において粘弾性物質1009が剪断増粘および/または応力硬化材料である場合,周波数が増加するにつれて硬化し,加工物表面上の小規模の造作(中位空間欠陥等)が優先的に研磨されることを意味する。対照的に,粘弾性物質1009が使用中の動作状態の下において剪断減粘および/または応力弱化材料である場合,周波数が増加するにつれて軟化し,小規模の造作(鋭端等)が優先的に保持されることを意味する。
【0112】
粘弾性物質は,粘性の振る舞いおよび弾性の振る舞い(viscous and elastic behaviours)の両方を同時に呈する。材料の振る舞いの弾性成分によって周期的に(たとえば
図11(a)に示すように)変形するとき,材料にエネルギーが保存され,パスカル(Pa)の単位で測定される剪断貯蔵弾性率(shear storage modulus)G’と呼ばれるパラメータによって表される。同様に,その振る舞いの粘性側面によって,変形するときに,材料はエネルギーを消失させ,これは同じくPaの単位で剪断損失弾性率(shear loss modules)G”によって表される。G’およびG”のそれぞれは,材料が受ける周期的変形の周波数にしたがって変化し得る。G’の値がG”の値よりも大きい場合,材料の振る舞いの弾性成分が優勢である(同様にして,G”がG’を上回る場合は粘性振る舞いが優勢である)。所定の材料に関してG’とG”が等しい周波数は粘弾性転移(viscoelastic transition)と呼ばれる。(材料のなかには,複数の粘弾性転移点を有するものがあることを指摘しておく。)材料の振る舞いは弾性の振る舞いが優勢であるときに硬化するものとして特徴付けることができるので,粘弾性転移が生じる周波数はこの議論に関連しており,したがって,サブ開口研磨工具の回転速度を,剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質が所定の空間周波数の中位空間欠陥を除去するのために十分な剛性をもって振る舞うことを確実にするように制御することができる。または,反対に,剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質を含む工具においては,十分に薄くして所定の空間周波数の造作を保存するのを確実にする。
【0113】
2つのサンプルの剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質について,変形周波数の範囲にわたるG’およびG”の測定値を
図11(b)に示す。横軸はヘルツ(Hz)を単位とする変形周波数,縦軸はPaを単位とする剪断貯蔵および剪断損失弾性率を表す。「サンプルC」で示す第1のサンプルでは,剪断貯蔵弾性率G’の測定値が線1101aが付けられたダイヤモンドとしてプロットされており,剪断損失弾性率G”の測定値は線1101bが付けられた十文字としてプロットされている。より低い周波数(グラフの左手側)ではG”がG’よりもかなり大きいことがわかる。周波数が約2Hzに近づくと,G’およびG”の両方が増加するが,G”の増加率は下がり始める。2.516Hzにおいて弾性率は等しくなり,より高い周波数ではG’がG”を上回る。したがって,サンプルCは約2.516Hzにその粘弾性転移点を有する。
図11(b)は第2のサンプル「サンプルD」に関するG’およびG”の測定値も示している。サンプルDのG’の測定値は線1103aが付けられたダイヤモンドとしてプロットされており,G”の測定値は線1103bが付けられた十文字としてプロットされている。サンプルDはオレンジサンプルのものよりわずかに大きい周波数に粘弾性転移点1005bを有することがわかる。
【0114】
図11(c)は,さらなる2つのサンプル「サンプルA」および「サンプルB」の剪断損失および剪断貯蔵の弾性率の測定値を示している。サンプルAでは,G’は線1111aが付けられたダイヤモンドによってプロットされ,G”は線1111bが付けられた十文字によってプロットされている。サンプルBでは,G’は線1113aが付けられたダイヤモンドによってプロットされ,G”は線1113bが付けられた十文字によって描かれている。サンプルBは約3.981Hzの周波数に粘弾性転移点1115aを有しており,他方サンプルAは同様であるがわずかに高い周波数に粘弾性転移点を有する。
【0115】
前述のサンプル材料はすべてこの発明の実施例の剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質として用いるのに適している。各材料は,主にジメチルシロキサン,二酸化ケイ素,ヒマシ油および/またはポリジメチルシロキサンの懸濁液から構成される。割合を変化させて
図11のグラフに示すように特性を変更することができる。例示的な組成の1つは,65%のジメチルシロキサン(ホウ酸によるヒドロキシ末端ポリマー),17%のシリカ(結晶石英),9%のThixatrol ST(ヒマシ油誘導体),4%のポリジメチルシロキサン,1%のデカメチルシクロペンタシロキサン,1%のグリセリン,および1%の二酸化チタンである。別の適切な例示的材料は様々な割合で水と混合したコーンスターチ(コーンフラワー)からなる。
【0116】
より一般的には,この発明の実施形態に用いられる適切な剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質は,ダイラタント(剪断増粘流体)およびペンタモードメタマテリアル(メタ流体)を含む。ダイラタント(剪断増粘とも呼ばれる)材料は粘度が剪断ひずみ速度と共に増加する材料である。そのような剪断増粘流体は非ニュートン流体の一例である。この振る舞いは通常は純物質では観察されず懸濁液において発生させることができる。ダイラタントは,剪断粘度が負荷剪断応力と共に増加する非ニュートン流体である。この振る舞いはニュートンの法則からの唯一の逸脱であり(only one type of deviation),粒径,形状,および分布等の因子によって制御される。これらの懸濁液の特性はハマカー(Hamaker)理論とファンデルワールス力によって決まり,静電的または立体的に安定化させることができる。コロイド懸濁液が安定状態から凝集状態まで移行するときに,剪断増粘反応の振る舞いが生じる。この系(システム)の特性の大部分はコロイドとして知られる分散中の粒子の界面化学(surface chemistry of particles in dispersion)に起因する。これはコーンスターチと水の混合物で容易に見られ,表面に対してぶつけられるかまたは投げつけられるとき(when struck or thrown against a surface)に常識に反して作用する。水で完全にずぶ濡れの砂はダイラタント材料としても振る舞う。
【0117】
この発明の実施形態に用いられる好適な剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質の例は,石鹸,練り歯磨き,シャンプー組成物,コーンスターチと水の混合物,および微粒子(たとえば,タルク)と溶剤との混合物を含む。たとえば,一部の塗料は,その構成粒子が十分に小さい(たとえば,5ミクロン粒子)場合,剪断減粘の振る舞いを呈する。適切な商品の一例は,カルボマおよびカルボキシポリメチレンを含有する,カーボポール940ゲル(米国オハイオ州ルーブリゾール社から市販)である。
【0118】
図12(a)は,負荷応力レベルの範囲にわたる3つの異なる材料(i),(ii)および(iii)の見かけ粘度(apparent viscosity)を示すグラフである。材料(i)は,分散する粒子がない純溶媒である。材料(ii)および(iii)は,溶解した同じものを主成分としているがタルク粒子の懸濁液を担持している塗料組成物である。材料(ii)の塗料は29%の粗タルク(D50=19ミクロン)を含み,他方材料(iii)の塗料は29%の微細タルク(D50=5ミクロン)を含む。材料(i)および(ii)は,検査した応力レベルの範囲にわたって実質的に一定の粘度を示す(すなわち,粘弾性特性はない)ことがわかる。しかしながら,材料(iii)は負荷応力の増加と共に見かけ粘度が減少しており,この発明の実施形態において用いるのに適する剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質の一例である。
【0119】
上記したように,材料のなかには,適用される剪断/ひずみ速度(または負荷応力)のある範囲にわたって剪断増粘の振る舞いを呈し,異なる範囲にわたって剪断減粘の振る舞いを呈するものがある。
図12(b)は,この種の例示的な材料であるコーンスターチおよび水の混合物の振る舞いを示している。約10
-3から0.1s
-1の剪断速度である第1の領域iでは剪断速度が増加するにつれて材料の見かけ粘度が減少することがわかるので,ここでの材料は剪断減粘として特徴付けられる。これとは対照的に,約0.1から1s
-1の剪断速度の間(第2の領域ii)では,剪断速度が増加するにつれて見かけ粘度が増加しており,ここでの材料は剪断増粘として特徴付けられる。剪断速度が約1s-1を超えると(第3の領域iii),材料は再び剪断減粘の振る舞いを呈する。このような材料は,本願の開示の目的としては,「剪断増粘および/または応力硬化」および「剪断減粘および/または応力弱化」の両方であると考えられる。材料は,正しい剪断速度体制内(within the correct shear rate regime)において作用するのを確実にするために,工具と加工物表面の間の移動の制御,たとえば回転速度の制御を通じて,所望のタイプの振る舞いを呈するように制御される。
【0120】
ペンタモードメタマテリアルは,固体であるにもかかわらず,理想的には流体のように振る舞う,人工的な三次元構造である。すなわち,それは有限体積(finite bulk)を持つが剪断弾性率は消失する(vanishing shear modules)。換言すれば圧縮するのは難しいが,変形するのは容易である。より数学的に言えば,ペンタモードメタマテリアルは1つだけの非ゼロ固有値と5つ(ペンタ)の消失固有値を有する弾性テンソル(an elasticity tensor with only one non-zero eigenvalue and five (penta) vanishing eigenvalues)を持つ。理論によれば,ペンタモードメタマテリアルは完全に任意の弾性特性を有する材料の構成単位(the building blocks for materials with completely arbitrary elastic properties)として用いることができ,したがって,必要に応じて「剪断増粘および/または応力硬化」または「剪断減粘および/または応力弱化」であるように設計することができる。ペンタモード構造の異方性バージョンは変態弾性力学(transformation elastodynamics)および弾性動的クローキング(elastodynamic cloaking)の候補である。
【0121】
図13(a),(b)および(c)は,剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質を利用する,この発明のさらなる実施形態を示している。ここでは,フレネルレンズまたは回折光学素子といった光学構造の形態の加工物1210を研磨するサブ開口工程において使用中の研磨工具1201が示されている。加工物1210は,同様にそのような光学構造用の金型であってもよい。加工物1210は,光学構造のピークに対応する鋭い造形1211を含んでおり,それは完成品において正確に保持される必要がある。
図13(b)は,典型的な従来の研磨工具を用いて処理されたこの種の被研磨加工物を示している。鋭端の造形が除去されて丸みを帯びている(カーブしている)ことが示されており,これは光学構造の性能に支障をきたす。
【0122】
しかしながら,研磨工具1201は,光学構造体のフランク(flanks)を優先的に研磨し,ピーク1211は研磨せず,
図13(b)に示すような鋭端を残している。これは,工具1201が剪断減粘および/または応力弱化粘弾性物質1209を含有するからであり,この物質は上記のように受ける剪断速度が増加するにつれて軟化することになるものである。サブ開口研磨工具1201の構造はすでに記述したものと同様であり,研磨機(図示しないが,
図1~4のものが適している)への接続用の支持部材1203と,硬質材料(たとえば,鋼)の基部構造1205とを有している。キャビティは,基部構造1205と,工具の加工表面を規定する外側シェル1207との間に形成される。この実施例では,加工表面は工具が加工物と接触していないときには実質的に平坦であり,
図13(a)に示すように使用中の加工物の大まかな外形に合致する。この実施例の外側シェル1207は,弾性層1207aおよび研磨パッド1207bの両方を備えるが,上述と同様に,弾性層1207aは任意である。キャビティ内に剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質1209が密封されており,これは上述した例示的な組成物のいずれであってもよい。
【0123】
この実施例では,基部構造1205は粘弾性物質1209に対する平坦面を呈している。しかしながら,変形例では,基部構造は上記した種類のいずれかのマクロ構造および/またはミクロ構造を規定する上記したような非平坦面を備えるものであってもよく,上記したように粘弾性物質1209の移動をより良く制御する。
【0124】
使用中,工具1201は研磨機によってその軸Hの周りを回転し,接触している加工物の領域の研磨を行う。工具1201は,異なる領域を研磨するために加工物表面を横方向(矢印D)にも横断する。
【0125】
図14(a)および(b)はさらなる実施形態を示すもので,全開口研磨工程における使用中の研磨工具1301を示している。
図14(a)は研磨装置の選択された他の部分と共に,加工物1310の研磨に使用中の工具の斜視図を示す。加工物1310,たとえばレンズまたは半導体ウエハが加工物ホルダ1311上に載置される。研磨工具1301は,ここでは加工物の直径より大きい直径を有する円板の形をとっている。これによって工具は加工物表面の全体を同時に研磨することができ,複数の加工物(図示略)を同時に研磨するために用いることもできる。変形例では,工具を研磨される加工物表面と実質的に同じ直径にすることができる。
【0126】
研磨工具1301は,たとえば鋼製の強固な基部構造(または「基板」)1305を備えており,これが使用時にアクチュエータと連結されてその中心軸周りに研磨工具を回転させる支持部材1303に固定されるまたは一体化される。
図14(b)に示すように,基部構造1305の周縁が外側シェル1307に結合し,外側シェルが剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質1309によって満たされる内部キャビティを規定する。上述した例示的な剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質のいずれかをこの目的のために用いることができる。上述したように,外側シェル1307は研磨材層1307bのみを備える単層であってもよいが,この実施例では,弾性層(または「膜」)1307aおよび研磨パッド1307bの2つの層から形成されるものとして示されている。外側シェル1307は,剪断減粘物質が内部に密封されるところにおいて,基部構造1305に結合される,フランジにねじ止めされるか,または何か他の方法とすることができる。この実施例では,加工表面は外側シェル1307の全面にわたって延在しており,円錐台状である。しかしながら,他のケースでは,必要に応じて,研磨材1307bを外側シェルの平坦な上方領域に限定してもよく,その場合加工表面は同様に平坦となる。
【0127】
使用中,加工物1310は加工物ホルダ1311によって工具の研磨パッド1307bに対向して保持され,それ自体は加工物ホルダの軸の周りを回転してもしなくてもよい。研磨パッド1307bはそれ自体が研磨材であってもなくてもよく,図示するバージョンでは,研磨を実行するために研磨スラリ1314が導管1312によって加工表面に供給されている。
【0128】
上述した実施形態のように,ここでは,加工表面の反対側の基部構造の表面は平坦である。しかしながら,変形例では,上述したように非平坦面を有する基部構造を設けることもできる。これによって粘弾性物質1309の移動を制御することができ,および/または加工物の形状に合致することができ,研磨される加工物表面と実質的に同じサイズである全開口研磨工具の場合に特に役立つ。たとえば,研磨される加工物がレンズ(または他の物体)の曲面である場合,実質的に同じ曲面形状,たとえば,部分球状または非球面状の基部構造を用意してもよい。
【0129】
この状況における剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質1309の使用は,加工物の比較的平坦な造作が縁部のような鋭い造作に優先して研磨されることになる利点をもたらす。
図15はこの効果の一例を示すもので,半導体ウエハが
図14に示す種類の工程によって研磨される場合であり,(a)は従来の研磨工具を用いた場合,(b)は上記のように剪断減粘および/または応力硬化の粘弾性物質1309を含む,この発明の一実施形態による研磨工具を用いた場合である。従来工具(a)を用いると材料除去率(速度)はウエハの縁部に向けて急激に上昇し,その縁部でピークに達し,縁部に丸みを帯びさせ,所望形状を失わせることがわかる。対照的に,本願明細書において開示された工具(b)を用いた材料除去率はウエハの半径全体にわたって比較的一定であり,縁部で著しいピークを示さない。そのため,鋭い端部が保存される。
【0130】
この発明の一部の好適な態様を以下の条項で述べる。
【0131】
条項1
サブ開口研磨機に対する接続のための接続機構(attachment feature)を含む支持部材,ならびに
上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,上記研磨ヘッドが,
上記支持部材と接続されまたは一体化され,非平坦面(non-flat surface)を形成するように構成される基部構造,
その外面の少なくとも一部が研磨工具の加工表面を規定する外側シェルであって,上記外側シェルと上記非平坦面の間のキャビティを取り囲むように上記基部構造に固定される外側シェル,および
上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす粘弾性物質を含む,
サブ開口研磨工具。
【0132】
条項2
上記外側シェルが,上記外面を形成し,かつ加工物のサブ開口研磨に適する研磨材の層を備えている,条項1に記載のサブ開口研磨工具。
【0133】
条項3
上記研磨材は,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーおよび/または別の適合材料のうちの少なくとも一つを備えている,条項2に記載のサブ開口研磨工具。
【0134】
条項4
上記研磨材が上記粘弾性物質と直接に接触している,条項2または条項3に記載のサブ開口研磨工具。
【0135】
条項5
上記外側シェルが上記研磨材の層と上記粘弾性物質との間に位置する弾性層をさらに備え,好ましくは上記弾性層が上記粘弾性物質と直接接触している,条項2または条項3に記載のサブ開口研磨工具。
【0136】
条項6
上記弾性層は,ゴム,シリコン,ネオプレンおよび高分子エラストマーのうちの少なくとも一つを備えている,条項5に記載のサブ開口研磨工具。
【0137】
条項7
上記弾性層が0.1~5ミリメートル(mm)の範囲の厚さを有している,条項5または6に記載のサブ開口研磨工具。
【0138】
条項8
上記非平坦面は使用中に強固であるマクロ構造(macro-structure which is rigid in use)を規定し,上記マクロ構造が上記外側シェルのものと同じ大きさのスケール(規模)で変化する表面性状(表面プロファイル)(a surface profile which varies on a scale of the same order of magnitude as that of the outer surface)を有しており,上記マクロ構造が,上記外面上の各位置において上記外側シェルと上記非平坦面との間の上記粘弾性物質の厚さを決定するように成形されている,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0139】
条項9
上記マクロ構造が,上記外側シェルが回転対称でもある軸に関して回転対称である,条項8に記載のサブ開口研磨工具。
【0140】
条項10
上記マクロ構造および上記外側シェルが,上記粘弾性物質が上記非平坦面と上記外側シェルの間に実質的に一定の厚さを有する層を形成するように構成されており,上記マクロ構造の表面性状が好ましくは上記外側シェルの形状に追従する領域(region which follows the shape of the outer shell)を含んでおり,最も好ましくは上記層が2~200mmの範囲の厚さを有する,条項8または条項9に記載のサブ開口研磨工具。
【0141】
条項11
上記マクロ構造および上記外側シェルが,上記粘弾性物質の厚さが上記加工表面上の様々な位置の間で変化するように互いに異なって成形されている(shaped differently relative to one another),条項8~10のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0142】
条項12
上記粘弾性物質の厚さの最大値が2~200mmの範囲である,条項11に記載のサブ開口研磨工具。
【0143】
条項13
上記マクロ構造が,少なくとも部分的に凸状または凹状の曲面形状,好ましくは,部分球状,部分楕円状,部分放物線状または部分環状を有している,条項8~12のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0144】
条項14
上記マクロ構造が,上記外側シェルに向けて延在し,使用中に強固であるように構成可能なコアによって少なくとも部分的に形成されている,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0145】
条項15
上記コアが,中実体(solid body),膨張構造(inflatable structure),および調節可能ピストン(adjustable piston)の一または複数を備えている,条項14に記載のサブ開口研磨工具。
【0146】
条項16
上記支持部材が,使用中に,流体を上記膨張構造に供給するための導管を備えている,条項15に記載のサブ開口研磨工具。
【0147】
条項17
上記コアが,上記基部構造から上記外側シェルの一部まで連続して延びている,条項14~16のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0148】
条項18
上記コアが上記支持部材に対して移動可能である,条項14~17のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0149】
条項19
上記非平坦面の上記マクロ構造が上記コアに隣り合う周辺領域をさらに含み,好ましくは上記周辺領域が比較的平坦である,条項14~18のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0150】
条項20
上記非平坦面が,上記サブ開口研磨工具が使用中に回転するときに剪断硬化および/または剪断増粘材料をグリップ(把持)するように構成された表面テクスチャ(表面組織)の形態のミクロ構造を規定し,好ましくは,上記ミクロ構造が上記基部構造に一体的に規定されている,および/または,上記基部構造に固定された複数の突起によって部分的に規定されている,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0151】
条項21
上記表面テクスチャは,上記非平坦面に複数の突出および/または陥凹特徴を含んでおり,上記突出および/または陥凹特徴は好ましくはスタッドおよび/またはピット組織を形成している,条項20に記載のサブ開口研磨工具。
【0152】
条項22
条項8~19のいずれかに従属する場合,上記表面テクスチャが上記マクロ構造の全部または一部に存在する,条項20または条項21に記載のサブ開口研磨工具。
【0153】
条項23
上記加工表面が,表面に対して押圧されていないとき(when not pressed against a surface)に非平坦である,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0154】
条項24
上記加工表面の少なくとも一部が,少なくとも一方向に,好ましくは二方向に湾曲している,条項23に記載のサブ開口研磨工具。
【0155】
条項25
上記加工表面の少なくとも一部が,部分球状,部分楕円状,部分円筒状,部分円錐状または環状である,条項23または条項24に記載のサブ開口研磨工具。
【0156】
条項26
上記加工表面が,0.5ミリメートル(mm)~1メートル(m),好ましくは0.5mm~0.5m,より好ましくは0.5mm~200mm,最も好ましくは0.5~5mmの範囲の横幅(lateral width)を有している,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0157】
条項27
上記粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質(shear-thickening and/or stress-stiffening viscoelastic material)である,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0158】
条項28
上記粘弾性物質が剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質(shear-thinning and/or stress-softening material)である,条項1~26のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0159】
条項29
上記粘弾性物質は,ピッチ,非ニュートン流体,ポリマー,シリコンポリマー,デンプン,粘土,メタ物質,溶剤中の粒子の懸濁液,またはそれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも一つを含む,上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具。
【0160】
条項30
上記条項のいずれかに記載のサブ開口研磨工具,
使用中に,加工物を保持するための加工物ホルダ,および
接続機構と機械的に接続する駆動機構(actuating mechanism)を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が上記加工物の表面と接触している間,上記加工表面が上記加工物の表面に対して移動するように,上記工具を通る第1の回転軸に関して上記サブ開口研磨工具を回転させるように構成されている,
サブ開口研磨機。
【0161】
条項31
上記駆動機構は,使用中に,上記加工物に対して上記サブ開口研磨工具の位置および/または配向を変更するようにさらに制御可能である,条項30に記載の研磨機。
【0162】
条項32
上記駆動機構は,上記研磨工具を3つの直交空間方向(three orthogonal spatial directions)に沿って移動するように制御可能である,条項31に記載の研磨機。
【0163】
条項33
上記駆動機構は,第1の回転軸に対してそれぞれ直交し,かつ互いに直交する第2の回転軸および/または第3の回転軸に関して上記研磨工具の配向を変更するように制御可能である,条項30または条項31に記載の研磨機。
【0164】
条項34
(a)条項1~29のいずれかに記載のサブ開口研磨工具を用意し,
(b)加工物の表面と接触するように上記サブ開口研磨工具の加工表面を配置し(placing),
(c)上記加工物の表面に対して上記加工表面を移動させて上記加工物表面を研磨する,
加工物を研磨する方法。
【0165】
条項35
上記加工物の表面に対する上記加工表面の移動が,上記サブ開口研磨工具を通る第1の回転軸に関して上記サブ開口研磨工具を回転させることを含む,条項34に記載の方法。
【0166】
条項36
上記ステップ(b)および(c)が上記加工物表面上の異なる位置で複数回実行され,上記加工物表面に対する上記サブ開口工具の配向が,上記複数の位置の少なくとも一部において異なっている,条項34または35に記載の方法。
【0167】
条項37
上記粘弾性物質が剪断増粘および/または応力硬化の粘弾性物質であり,上記加工表面が,中位空間欠陥(mid-spatial defects)を上記加工物の表面から削減するおよび/または除去するように上記加工物の表面に対して移動する,条項34~36のいずれかに記載の方法。
【0168】
条項38
ステップ(b)および(c)が上記加工物表面上の2つ以上の異なる位置で順次反復され,複数の位置のそれぞれが,他の位置の少なくとも一部と異なるそれぞれの波長を有する中位空間欠陥を含んでおり,ステップ(b)が,それぞれの中位空間欠陥の波長に依存して選択される研磨条件の下で各位置で実行される,条項37に記載の方法。
【0169】
条項39
上記中位空間欠陥の波長に依存して変化する上記研磨条件が,上記サブ開口研磨工具の回転速度,上記サブ開口研磨工具の上記加工表面と上記加工物表面間の圧力,および上記加工物表面に対する上記サブ開口研磨工具の配向のうちの少なくとも一つを含む,条項38に記載の方法。
【0170】
条項40
上記サブ開口研磨工具が上記加工物表面上の複数の位置に対して移動し,上記複数の位置の少なくとも一部が,他の位置に存在するものと異なる各波長の中位空間欠陥を含んでおり,各位置における上記加工物表面に対する上記サブ開口研磨工具の配向が,各中位空間欠陥の波長に依存して選択される,条項37~39のいずれかに記載の方法。
【0171】
条項41
上記粘弾性物質が,上記加工物の表面とコアの間の上記粘弾性物質の厚さが上記2つ以上の異なる配向の間で変化するように配設されている,条項40に記載の方法。
【0172】
条項42
上記粘弾性物質が剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質であり,上記加工表面は,上記加工物表面の鋭端を保持しつつ,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように上記加工物の表面に対して移動する,条項34~36のいずれかに記載の方法。
【0173】
条項43
少なくとも上記サブ開口研磨工具が上記加工物の表面と接触していないときに,上記加工物の表面が上記サブ開口研磨工具の上記加工表面のものと異なる形状および/または表面性状(profile)を有している,条項34~42のいずれかに記載の方法。
【0174】
条項44
上記サブ開口研磨工具の上記加工表面が,上記加工物の表面の領域より小さい,好ましくは半分未満,より好ましくは10%未満である領域を有している,条項34~43のいずれかに記載の方法。
【0175】
条項45
上記サブ開口研磨工具の上記加工表面が,上記加工物の表面の最大横方向寸法(greatest lateral dimension)より小さい,好ましくは半分未満,より好ましくは10%未満である最大横方向寸法を有する,条項34~44のいずれかに記載の方法。
【0176】
条項46
上記サブ開口研磨工具の上記加工表面の少なくとも一部が,上記加工物の表面の最小曲率半径未満の曲率半径(radius of curvature)を有している,条項34~45のいずれかに記載の方法。
【0177】
条項47
上記加工物の表面に対する上記加工表面の移動が,上記サブ開口研磨工具を上記加工物の表面上の第1の位置と接触しているときは第1の回転速度で回転させ,上記サブ開口研磨工具を上記加工物の表面上の第2の位置と接触しているときは第2の回転速度で回転させて,上記加工表面の形状が上記第1の位置のときと上記第2の位置のときで異なるようにするものである,条項34~46のいずれかに記載の方法。
【0178】
条項48
上記加工物が回転対称ではなく,および/または上記加工物の表面が少なくとも一つの凸状領域および少なくとも一つの凹状領域を含む,条項34~47のいずれかに記載の方法。
【0179】
条項49
条項34~48のいずれかに記載の方法によって研磨される製品であって,上記製品が,好ましくは,レンズまたはプリズム等の光学素子,回折光学素子,半導体ウエハ,電子装置用のスクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである,製品。
【0180】
条項50
研磨機に対する接続のための接続機構を含む支持部材,および
上記支持部材の端部の研磨ヘッドを備え,
上記研磨ヘッドが,
上記支持部材と接続される,または支持部材と一体の基部構造,
その外面の少なくとも一部が上記研磨工具の加工表面を規定する外側シェルであって,上記外側シェルと上記基部構造の間のキャビティを取り囲むように上記基部構造に固定される外側シェル,および
上記外側シェルと上記基部構造の間に位置する上記キャビティを満たす剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質を含む,
研磨工具。
【0181】
条項51
上記外側シェルが,上記外面を形成し,加工物の研磨に適する研磨材の層を備え,上記研磨材が,好ましくは,ポリウレタン,通気性布,タールベース粘弾性ポリマーおよび/または別の適合材料のうちの少なくとも一つを含む,条項50に記載の研磨工具。
【0182】
条項52
上記研磨材が上記剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質と直接に接触している,条項51に記載の研磨工具。
【0183】
条項53
上記外側シェルが上記研磨材の層と上記剪断減粘および/または応力弱化の粘弾性物質との間に位置する弾性層をさらに備え,好ましくは上記弾性層が上記粘弾性物質と直接接触している,条項50または51に記載の研磨工具。
【0184】
条項54
上記弾性層は,ゴム,シリコン,ネオプレンおよび高分子エラストマーのうちの少なくとも一つを備えている,条項53に記載の研磨工具。
【0185】
条項55
上記弾性層が0.1~5ミリメートル(mm)の範囲の厚さを有する,条項53または条項54に記載の研磨工具。
【0186】
条項56
上記研磨工具がサブ開口研磨工具または全開口研磨工具である,条項50~55のいずれかに記載の研磨工具。
【0187】
条項57
上記基部構造が非平坦面を形成するように構成されており,上記キャビティが上記外側シェルと上記非平坦面の間に囲まれている,条項50~56のいずれかに記載の研磨工具。
【0188】
条項58
上記加工表面が,表面に対して押圧されていないときに非平坦であり,好ましくは上記加工表面の少なくとも一部が少なくとも一方向に,最も好ましくは二方向に湾曲している,条項50~57のいずれかに記載の研磨工具。
【0189】
条項59
上記加工表面の少なくとも一部が,円錐台状,部分球状,部分楕円状,部分円筒状,部分円錐状または環状である,条項58に記載の研磨工具
【0190】
条項60
条項50~59のいずれかに記載の研磨工具,
使用中に,加工物を保持するための加工物ホルダ,および
接続機構と機械的に接続する駆動機構を備え,上記駆動機構が,使用中,加工表面の少なくとも一部分が上記加工物の表面と接触している間,上記加工物に対して上記研磨工具を移動させるように構成されている,
研磨機。
【0191】
条項61
上記駆動機構は,上記工具を通る第1の回転軸に関して上記研磨工具を回転させるように構成されている,条項60に記載の研磨機。
【0192】
条項62
上記研磨機が,上記加工物のサブ開口研磨用または全開口研磨用に構成されている,条項60または61に記載の研磨機。
【0193】
条項63
加工物を研磨する方法であって,
(a)条項50~62のいずれかに記載の研磨工具を用意し,
(b)上記加工物の表面と接触するように上記研磨工具の加工表面を配置し,
(c)上記加工物の表面に対して上記加工表面を移動させて上記加工物表面を研磨する,
加工物を研磨する方法。
【0194】
条項64
上記加工表面は,上記加工物表面の鋭端を保持しつつ,比較的平坦な領域を優先的に平滑にするように上記加工物の表面に対して移動する,条項63に記載の加工物を研磨する方法。
【0195】
条項65
上記研磨工具がサブ開口研磨工具であり,上記加工物の表面が,少なくとも上記サブ開口研磨工具が上記加工物の表面と接触していないときに,上記サブ開口研磨工具の上記加工表面のものと異なる形状および/または表面性状を有している,条項63または64に記載の加工物を研磨する方法。
【0196】
条項66
上記研磨工具が全開口研磨工具であり,研磨される上記加工物の表面が実質的に上記研磨工具の上記加工表面と同じサイズであるか,または上記研磨工具の上記加工表面よりも小さい,条項63または64に記載の加工物を研磨する方法。
【0197】
条項67
条項63~66のいずれかに記載の方法によって研磨される製品であって,上記製品が,好ましくは,レンズまたはプリズム等の光学素子,回折光学素子,半導体ウエハ,電子装置用のスクリーン,医療用補装具,または金型のいずれかである,製品。
【国際調査報告】