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特表2024-524078メタン化消化物から製造された水素を使用する、水素を添加した液体有機水素キャリア(LOHC)の合成プロセス
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  • 特表-メタン化消化物から製造された水素を使用する、水素を添加した液体有機水素キャリア(LOHC)の合成プロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】メタン化消化物から製造された水素を使用する、水素を添加した液体有機水素キャリア(LOHC)の合成プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/00 20060101AFI20240628BHJP
   C01B 3/26 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 23/40 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240628BHJP
   C01B 3/02 20060101ALI20240628BHJP
   C07C 15/06 20060101ALI20240628BHJP
   B09B 3/65 20220101ALI20240628BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C07C1/00
C01B3/26
B01J23/40 M
B01J23/755 Z
B01J23/46 301M
C01B3/02 Z
C07C15/06
B09B3/65 ZAB
C12N1/00 S
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577222
(86)(22)【出願日】2022-06-08
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 FR2022051090
(87)【国際公開番号】W WO2022263748
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】2106270
(32)【優先日】2021-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジル・ルトゥルク
(72)【発明者】
【氏名】ティボー・ドライエ
【テーマコード(参考)】
4B065
4D004
4G140
4G169
4H006
【Fターム(参考)】
4B065AC14
4B065BB40
4B065CA55
4D004AA01
4D004BA03
4D004CA18
4G140BA02
4G140BB03
4G140DA03
4G140DB05
4G169AA03
4G169BA01
4G169BA06
4G169BB02
4G169BB04
4G169BC31
4G169BC43
4G169BC68
4G169BC70
4G169BC72
4G169BC75
4G169CB02
4G169CB77
4G169CB81
4G169DA05
4H006AA02
4H006AC13
4H006BD81
4H006BD84
(57)【要約】
本発明は、水素を添加した液体有機水素キャリアHn-LOHCの合成プロセスであって、メタン化消化物が水素源として使用され、少なくとも以下の工程:a)メタン化消化物からガス状アンモニアを製造する工程;b)工程a)で生成されたガス状アンモニアを第一フローと第二フローに分割する工程;c)水素を添加していない液体有機水素キャリアであるH0-LOHCを、第一フローからのガス状アンモニアとの反応によって触媒アミノ化し、H0-LOHCをアミノ化H0-LOHCに変換して水素を生成する工程;d)第二フローからのガス状アンモニアを触媒解離させて水素を生成する工程;及びe)工程c)で得られたアミノ化H0-LOHCを、工程c)及びd)で生成された水素との反応によって触媒水素化する工程であって、これによりHn-LOHCを得る工程を含むプロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を添加した液体有機水素キャリアHn-LOHCの合成プロセスであって、少なくとも以下の工程:
a)メタン化消化物からガス状アンモニアを製造する工程;
b)工程a)で生成されたガス状アンモニアを第一フローと第二フローに分割する工程;
c)水素を添加していない液体有機水素キャリアであるH0-LOHCを、第一フローからのガス状アンモニアとの反応によって触媒アミノ化し、H0-LOHCをアミノ化H0-LOHCに変換して水素を生成する工程;
d)第二フローからのガス状アンモニアを触媒解離させて水素を生成する工程;及び
e)工程c)で得られたアミノ化H0-LOHCを、工程c)及びd)で生成された水素との反応によって触媒水素化する工程であって、これによりHn-LOHCを得る工程
を含むプロセス。
【請求項2】
メタン化消化物が液体消化物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ガス状アンモニアの製造が、液体消化物中に含まれるアンモニア性窒素を、ガス状アンモニアの形態で脱着することを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
脱着が、充填カラム中で、液体消化物を、窒素または本質的に窒素からなるガスの流れに対して循環させることを含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
生成されたガス状アンモニアの精製をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ガス状アンモニアの触媒解離が、450℃から800℃の温度に加熱された反応器中で実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
ガス状アンモニアの触媒解離により生成された水素の精製をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
H0-LOHCが、芳香族またはヘテロ芳香族の単環式または多環式の化合物であって、1つまたは複数のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、またはヘテロアリールアルキル基で任意に置換されている、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
H0-LOHCが、トルエン、2-ベンジルトルエン、4-ベンジルトルエン、2,3-ジベンジルトルエン、2,4-ジベンジルトルエン、ナフタレン、N-エチルカルバゾール、インドール、1-メチルインドール、2-メチルインドール 3-メチルインドール、4-メチルインドール、5-メチルインドール、6-メチルインドール、1,2-ジメチルインドール、2,3-ジメチルインドール、2,5-ジメチルインドール、ジベンゾフラン、フェナジン、2-(N-メチルベンジル)ピリジン、または4,4'-ビピペリジンである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
H0-LOHCの触媒アミノ化が、200℃から800℃の温度及び0.1MPaから90MPaの圧力で加熱された反応器中で実施される、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
H0-LOHCの触媒アミノ化によって生成された水素の精製をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
アミノ化H0-LOHCの触媒水素化が、5MPaから10MPaの水素圧で実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
反応器が、メタン化バイオガスから生成される熱及び/または電力によって加熱される、請求項6または10に記載のプロセス。
【請求項14】
有機廃棄物のリサイクルプロセスであって、少なくとも以下の工程:
・有機廃棄物をメタン化して、メタン化消化物及びバイオガスを生成する工程;
・請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセスを実施することにより、メタン化消化物から、Hn-LOHCと表記される水素を添加した液体有機水素キャリアを合成する工程;及び
・バイオガスから熱及び/または電気を生産する工程
を含むプロセス。
【請求項15】
水素を製造するためのプロセスであって、少なくとも以下の工程:
・請求項1から13のいずれか一項に記載のプロセスを実施することにより、Hn-LOHCと表記される水素を添加した液体有機水素キャリアを合成する工程;
・貯蔵及び/または輸送のためにHn-LOHCを包装する工程;及び
・かくして包装されたHn-LOHCを触媒脱水素する工程:
を含むプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の製造、貯蔵、及び輸送の分野に関する。
より具体的には、本発明は、水素源としてメタン化消化物を使用する、水素を添加(charge)した液体有機水素キャリア(LOHC)の合成プロセスに関する。
本発明はまた、有機廃棄物のリサイクルプロセス、並びに、この合成プロセスを実施する水素の製造プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、その高い質量エネルギー密度(33kWh/kg)と、酸素の存在下、純水の形態で、CO2を放出することなく酸化される能力から、特に化石燃料を代替することによってエネルギー転換を完了するための、重要なエネルギーキャリアとみなされる。
水素は、燃料電池の試薬として使用されて電気を作ることができるが、現在の主な用途は工業用にとどまっている。実際、年間7,500万トンが化学工業によって消費されており、そのうちの45%近くが石油精製用である。
【0003】
今日まで、炭化水素(基本的にはメタン)の水蒸気改質は、最も経済的であるために、産業界に水素を供給するための最も一般的な水素製造プロセスである。水蒸気改質は、温度と触媒の存在下でメタンを水と反応させ、H2、CO2、CO、及び水の混合物を生成することからなる。水蒸気反応器の出口で、水素は、水蒸気改質に必要な熱を供給する燃料として使用される、CO、メタン、及び水蒸気の過剰混合物(合成ガスとして既知)及びCO2から分離される。
【0004】
しかしながら、水蒸気改質によって生産される水素1トン当たり、約10トンのCO2が排出され、一般的には大気中に放出される。
【0005】
したがって、温室効果ガス、特にCO2の排出を、制限または抑制する水素製造プロセスが、水蒸気改質による水素製造を補完するため、あるいは段階的に水素改質にとって代わるために研究されている。
【0006】
これらのプロセスの中で、水の電気分解は、電流(これ自体が、理想的には、温室効果ガス排出の少ない電力生産セクター、例えば、原子力、風力、太陽光発電から得られるものでなければならない)によって水を酸素と水素に分解するものであるが、選択すべき技術である。
【0007】
2種の主な電気分解が検討され、一方は、プロトン伝導性高分子膜(プロトン交換膜のPEMとし既知)の使用に基づく、いわゆる「低温」プロセスであり、他方は、SOEC(固体酸化物電解セル)システムにおけるアニオン性またはプロトン伝導性セラミック膜の使用に基づく、いわゆる「高温」プロセスである。
【0008】
しかしながら、石油化学以外の産業分野並びに、輸送及び住宅分野における水素の利用を一般化するためには、低二酸化炭素排出量の製造方法とは別に、2つの技術的障壁、すなわち、その貯蔵及び輸送の問題を取り除く必要がある。
【0009】
実際のところ、その質量密度が非常に低いことから、水素の貯蔵及び輸送には、現在、大気圧ではあるが極低温(-253℃)での液化と、非常に高圧(70MPa)での圧縮とのいずれかが必要であり、いずれの場合も、その小サイズ、引火性、爆発性、並びに封入された機器の組成に含まれる金属及び合金への有害な作用のために漏出しがちであることに関連するリスクを制御する必要がある。
このため、現在ではLOHCの開発に向けた研究が進められている。
【0010】
LOHCは、常温で液体または半固体の有機化合物であり、触媒的水素化反応及び脱水素反応によって、交互に水素を添加及び放出することができる。LOHCは、高い水素貯蔵密度を有し、水素を安全に輸送することができる。
【0011】
LOHCの典型的な例は、芳香族炭化水素、例えば、トルエン及びナフタレンであり、水素化によって、メチルシクロヘキサン及びデカリンを生成する。後者は、包装し、触媒的脱水素によって水素を生成するために使用される場所まで、貯蔵及び/または輸送することができる。かくして、数サイクルの水素化及び脱水素プロセスを、これらの化合物を用いて(以下にトルエン/メチルシクロヘキサンの組み合わせについて示される通り)収率を大幅に低下させることなく実施することができる。
【0012】
【化1】
【0013】
LOHCに関する近年の進展については、Energies 2020, 13(22), 1-23) に、Purna Chandra Rao及びMinyoung Yoonの名で掲載された論文を参照されたい。
【0014】
LOHCが非常に興味深い水素貯蔵及び輸送オプションを呈することは明らかであるが、これらをエネルギー及び環境転換戦略に組み込むには、脱炭酸するのみならず安価でもある製造流(production stream)から得られる水素でLOHCを水素化することの実現性が含まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Purna Chandra Rao and Minyoung Yoon, Energies 2020, 13(22), 1-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、まさに、メタン化消化物から生成される水素を使用して、Hn-LOHCと表記される水素を添加したLOHCを合成することを可能にするプロセスを提案することにより、これらの問題に対する解決策を提供することである。
【0017】
このプロセスは、少なくとも次の工程:
a)メタン化消化物からガス状アンモニアを製造する工程;
b)工程a)で生成されたガス状アンモニアを第一フローと第二フローに分割する工程;
c)水素を添加していない液体有機水素キャリア(H0-LOHCと表記)を、第一フローからのガス状アンモニアとの反応によって触媒アミノ化し、H0-LOHCをアミノ化H0-LOHCに変換して水素を生成する工程;
d)第二フローからのガス状アンモニアを触媒解離させて水素を生成する工程;及び
e)工程c)で得られたアミノ化H0-LOHCを、工程c)及びd)で生成された水素との反応によって触媒水素化する工程であって、これによりHn-LOHCを得る工程
を含む。
【課題を解決するための手段】
【0018】
したがって、本発明によれば、
・ガス状アンモニア(NH3)は、メタン化消化物から生成されるが、これは、有機廃棄物(農業、都市、工業、またはその他の起源)の発酵または消化の嫌気性残渣からなり、
・かくして生成されたガス状アンモニアの一部は、水素を添加していないLOHC(H0-LOHC)のアミノ化に使用され、その一方で、
・ガス状アンモニアの他の一部は、アミノ化H0-LOHCの水素が添加されたLOHC、Hn-LOHCへの変換に使用可能な水素を生成するために使用される。
【0019】
工程c)及びd)は、同時に実施することも、または連続して実施することができ、その場合にはこれらは任意の順序で実施することが可能であること、すなわち、工程c)が、工程d)の後でも工程d)の前でも同等に実施可能であることは明らかである。
【0020】
本発明によれば、メタン化消化物は、好ましくは液体消化物であり、すなわち、メタン化消化物を、例えばスクリュープレス、ベルトプレス、フィルタープレスまたは遠心分離機を用いて、固相/液相メタン化消化物に付した際に得られる液相に相当する。
【0021】
工程a)において、ガス状アンモニアは、有利には、液体メタン化消化物中に存在するアンモニア性窒素(すなわち、分子形態NH3のアンモニアとイオン化形態NH4 +のアンモニアとによって形成される集合体)の、ストリッピングとしても既知の脱着によって生成される。
【0022】
この脱着は、好ましくは、液体消化物を、充填物、例えば、ラシヒリング、ポールリング、ベルルサドルなどを備えたカラム内で、窒素または本質的に窒素からなるガス、例えば空気である移送ガスと呼称されるガスの流れに逆らって循環させることにより実施される。移送ガスは、例えば50℃から70℃の温度に予熱して、アンモニア性窒素の脱着を促進することができる。
【0023】
あるいは、前記脱着は、排気(真空ストリッピングと呼称)によっても実施することができる。
【0024】
いずれにしても、このプロセスは、有利には、例えば膜ろ過を用いて実施される、生成されたガス状アンモニアの精製をさらに含む。
【0025】
本発明によれば、H0-LOHCは、典型的には、芳香族またはヘテロ芳香族の単環式または多環式の化合物であって、1つまたは複数のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、またはヘテロアリールアルキル基で任意に置換された化合物であり、好ましくは、以下の基準を満たす:
・触媒プロセスにより、完全に可逆的な水素貯蔵が可能である;
・良好な熱安定性、熱力学、及び水素化/脱水素速度を有する;
・十分に低い、理想的には-30℃未満の融点を有して、周囲温度(25℃)で液体または半液体であるため、液体または半液体とするために溶媒を使用する必要がない;
・高い、理想的には300℃超の沸点を有して、水素化から生じるHn-LOHCが脱水素される際に生成される水素の精製が簡略化される;
・常温(25℃)及び常圧(100kPa)の条件下で、無毒性、不燃性、及び非爆発性である;
・広く入手可能であり、安価である;且つ
・現在液体及び半液体燃料に使用されているインフラ(パイプライン、タンクローリーなど)を使用して、常温及び常圧の条件下で輸送できる。
【0026】
従って、これは特に、以下:
・水素化によりメチルシクロヘキサンをもたらすトルエン、
・水素化により、それぞれペルヒドロ-2-ベンジルトルエン及びペルヒドロ-4-ベンジルトルエンをもたらす、2-ベンジルトルエンまたは4-ベンジルトルエン、
・水素化により、それぞれペルヒドロ-2,3-ジベンジルトルエン及びペルヒドロ-2,4-ジベンジルトルエンをもたらす、2,3-ジベンジルトルエンまたは2,4-ジベンジルトルエン、
・水素化によりデカリンをもたらすナフタレン、
・水素化によりペルヒドロ-N-エチルカルバゾールをもたらす、N-エチルカルバゾール、
・水素化によりペルヒドロインドールをもたらす、インドール、
・水素化後に、それぞれペルヒドロ-1-メチルインドール、ペルヒドロ-2-メチルインドール、ペルヒドロ-3-メチルインドール、ペルヒドロ-4-メチルインドール、ペルヒドロ-5-メチルインドール、及びペルヒドロ-6-メチルインドールをもたらす、1-メチルインドール、2-メチルインドール、3-メチルインドール、4-メチルインドール、5-メチルインドール、または6-メチルインドール、
・水素化後に、それぞれペルヒドロ-1,2-ジメチルインドール、ペルヒドロ-2,3-ジメチルインドール、及びペルヒドロ-2,5-ジメチルインドールをもたらす、1,2-ジメチルインドール、2,3-ジメチルインドール、または2,5-ジメチルインドール
・水素化後にペルヒドロベンゾフランをもたらすジベンゾフラン、
・水素化後にペルヒドロフェナジンをもたらすフェナジン、
・水素化後にペルヒドロ-2-(N-メチルベンジル)ピリジンをもたらす2-(N-メチルベンジル)ピリジン、または
・水素化後にペルヒドロ-4,4’-ビピペリジンをもたらす4,4’-ビピペリジン
からなる。
【0027】
工程c)では、H0-LOHCの触媒アミノ化により、下記の反応に従ってアミノ化H0-LOHC及び水素が生成する:
【化2】
これが例えばトルエンの場合には、下記の通りである。
【化3】
【0028】
このアミノ化反応により、同一のH0-LOHC分子上に複数のNH2基が存在し得ることに留意すべきである。
【0029】
このアミノ化は、好ましくは、使用される触媒に応じて選択されるが、典型的には200℃から800℃、より具体的には350℃から500℃の温度に加熱された反応器中、典型的には0.1MPaから90MPa、より具体的には1.5MPaから11MPaの圧力で実施されることが有利である。触媒は、例えば、金属酸化物、例えば、ジルコニウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、希土類の酸化物(例えば、酸化イットリウムまたは酸化セリウム)と、ニッケル、銅、亜鉛、白金族金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金)、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、及びアクチニド(特に、ウラン及びトリウム)から選択される1種以上の活性金属とをベースとするセラミック-金属複合体である。
【0030】
H0-LOHCのアミノ化からの収率を増加させるために、この反応の化学平衡を、このアミノ化によって生成した水素の一部を消費することにより、水素の生成にシフトさせることが可能であり、この場合、アミノ化は、酸化性ガス、例えば、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、過酸化水素、または空気の存在下で実施される。
【0031】
有利には、このプロセスは、H0-LOHCの触媒的アミノ化により生成された水素の精製をさらに含み、この精製は、例えば膜ろ過を用いて行われる。
【0032】
工程d)では、ガス状アンモニアの触媒解離により、下記の反応に従って窒素及び水素が生成される:
【化4】
【0033】
この解離は、好ましくは使用される触媒に応じて選択されるが、典型的には450℃から800℃、より具体的には550℃から700℃の温度に加熱された反応器中で、有利に実施される。触媒は、例えば、ルテニウム、ニッケル、または銅などの活性金属と、アルミナもしくはマグネシアなどの酸化物、またはセリンなどの希土類酸化物を含む、セラミック-金属複合体である。
【0034】
ここでもまた、このプロセスは、有利には、ガス状アンモニアの触媒解離によって生成された水素の精製をさらに含むが、この精製は、例えば膜ろ過によって実施される。
【0035】
水素化しようとするアミノ化H0-LOHCにかかわらず、その水素化は、典型的には高い水素圧、好ましくは5MPaから10MPaの圧力で実施される。この反応は発熱性であり、しかるに熱を放出するため、水素化が実施される反応器は、典型的には100℃から200℃の温度に到達する。これらの条件は、明らかに、アミノ化H0-LOHC及び使用される触媒に応じて変化し得る。触媒は、活性金属、例えばルテニウム、ニッケル、またはコバルトと、酸化物、例えばアルミナ、ジルコニア、もしくは希土類酸化物、例えばセリンとを含む、セラミック-金属複合体である。
【0036】
水素圧は、有利には、NH2基から最初に生じるであろう水素化分解に到達することなく、水素化反応に限定するために制御される。
【0037】
本発明によれば、ガス状アンモニアの触媒解離が実施され、且つ場合によってH0-LOHCの触媒アミノ化が実施される反応器は、有利には、メタン化バイオガスを使用して製造される熱及び/または電力によって加熱される。同じことが、アンモニア性窒素の脱着に使用される移送ガスに、この移送ガスが予め加熱されている場合には、有利に適用される。
【0038】
したがって、以上に定義されるHn-LOHCの合成プロセスは、有機廃棄物をリサイクルするプロセスの一部とすることができ、このプロセスは、少なくとも以下の工程:
・有機廃棄物をメタン化して、メタン化消化物及びバイオガスを生成する工程;
・前記合成プロセスを実施することにより、メタン化消化物からHn-LOHCを合成する工程;及び
・バイオガスから熱及び/または電気を生産する工程
を含む。
したがって、本発明は、有機廃棄物をリサイクルするためのこうしたプロセスにも関する。
【0039】
本発明はさらに、少なくとも以下の工程:
・上記で定義したHn-LOHCの合成プロセスを実施することによる、Hn-LOHCを合成する工程;
・貯蔵及び/または輸送のためにHn-LOHCを包装する工程;及び
・かくして包装されたHn-LOHCを触媒脱水素する工程:
を含む、水素を製造するためのプロセスに関する。
【0040】
それ自体公知であるが:
・Hn-LOHCの包装は、炭化水素の包装に使用されるものと同じタイプの容器で、常温及び大気圧で実施することができ;一方で
・Hn-LOHCの触媒脱水素は、好ましくは、使用される触媒及びHn-LOHCに応じて選択されるが、典型的には100℃から350℃、より具体的には150℃から300℃の温度に加熱された反応器中で、実施することができる。反応は、典型的には大気圧で行われる。触媒は、例えば、白金またはパラジウムのようなプラチノイドと、アルミナのような酸化物とを含むセラミック-金属複合体である。
【0041】
本発明の別の特徴及び利点は、添付の図を参照する以下の説明を読むことで明らかになるであろう。
むろん、このさらなる説明は、本発明の主題を詳説するためにのみ与えられるものであり、決してこの主題の限定を意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、本発明によるHn-LOHCの合成プロセスの好ましい実施態様及びこの実施態様のために設計された設備の実施形態を概略的に示す。
図2図2は、本発明による有機廃棄物のリサイクルプロセスの好ましい実施態様及びこの実施態様のために設計された設備の実施形態を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明によるHn-LOHCの合成プロセスの好ましい実施態様、及びこの実施態様のために設計された設備10の実施形態を概略的に表す図1が、参照される。
この実施態様では、このプロセスは、以下の工程:
1.液体消化物からのアンモニア性窒素の脱着(またはストリッピング)によるガス状アンモニアNH3を製造する工程;
2.かくして製造されたガス状アンモニアを精製し、第一フローと第二フローに分割する工程;
3.H0-LOHCを、第一フローからのガス状アンモニアによって触媒アミノ化し、このH0-LOHCをアミノ化H0-LOHCに変換して水素を生成する工程;
4.第二フローからのガス状アンモニアを触媒解離させ、水素を生成する工程;
5.H0-LOHCの触媒アミノ化及びアンモニアの触媒解離によって生成された水素を精製する工程;及び
6.かくして精製された水素を用いて、アミノ化H0-LOHCを触媒水素化し、このアミノ化H0-LOHCをアミノ化Hn-LOHCに変換する工程
を含む。
【0044】
この目的のため、図1に見られるように、設備10は脱着カラム11を含み、この脱着カラム11には、充填物12、例えばラシヒリングまたはポールリングが充填されており、ここでガス状アンモニアの製造が実施される。
【0045】
この脱着に供される液体消化物は、メタン化消化物の固相と液相への分離から得られる。
【0046】
この液体消化物は、本質的に、アンモニア性窒素の窒素、酸化物形態のリン(P2O5)、酸化物形態のカリウム(K2O)、酸化物形態のカルシウム(CaO)、及び同じく酸化物形態のマグネシウム(MgO)を含み、これらの濃度は、メタン化消化物を得た有機廃棄物に応じて異なる。
【0047】
カラム11には:
・上部ではポンプ(図1には示されていない)から液体消化物が供給され、また、
・下部では、窒素または本質的に窒素からなるガス、例えば空気であってよいが、図1に示されるプロセスの実施態様の場合には窒素である、窒素源13からカラム11内に加圧注入される移送ガスが、供給される。
【0048】
従って、液体消化液及び窒素は、カラム11内を逆流循環する。
窒素は、カラム11に入る前に、アンモニア性窒素の脱着を促進するために、例えば50℃から70℃の温度で加熱することができる。
【0049】
カラム11の上部では、本質的にアンモニア及び窒素から形成される気相が回収され、カラム11の下部では、アンモニア性窒素が除去された液体消化物が回収される。
かくして回収された気相は、例えば膜ろ過タイプの精製装置14に導かれ、窒素及び脱着によって発生した任意の他のガスから分離することによってアンモニアを精製することが可能となり、一方では、アンモニア性窒素が除去された消化物は、例えば、その後の散布のために貯蔵ユニット(図1には図示せず)に導かれつつ、当該プロセスから除去される。
【0050】
図1に見られるように、精製装置14から出る窒素を、それ自体の任意の精製を経た後に、カラム11への再注入のために窒素源13に導くことができる。あるいは、他の用途に再利用するため、またはより単純に大気中に放出するために、当該プロセスから除去することもできる。
【0051】
精製装置14から出るアンモニアに関しては、二つのフロー:H0-LOHCの触媒アミノ化を目的とする反応器15に導かれ、しかるにこのH0-LOHCが供給される第一フローと、アンモニアの触媒解離を目的とする反応器16に導かれる第二フローに分割される。
【0052】
反応器15において、H0-LOHCの触媒アミノ化は、例えば、Ni/CeO2型触媒を用いて、350℃から500℃の温度及び1.5MPaから11MPaの圧力で実施される。
【0053】
上述したように、H0-LOHCのアミノ化による収率は、反応器15に、酸化性ガス、例えば酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、過酸化水素、または空気を供給することにより、このアミノ化によって生成する水素の一部を消費することによって、増大させることができる。この場合、H0-LOHCの触媒アミノ化によって生成する水素のうち、反応器15で消費されなかった部分は、この反応器から、例えば膜ろ過により酸化性ガスから分離されて、排出される。
【0054】
H0-LOHCの触媒アミノ化に酸化性ガスが使用されるか否かによらず、反応器15から出る水素は、例えば膜ろ過タイプの精製装置18に導かれ、一方で、アミノ化されたH0-LOHCは、水素化を目的とする反応器17に導かれる。
【0055】
並行して、反応器16では、精製装置14からの第二フローからのガス状アンモニアの触媒解離が実施される。この解離は、例えば、550℃から700℃の温度で、Ni/MgO触媒を用いて行われる。
反応器16で生成された水素は、次いで精製装置18に導かれ、ここで、反応器15から排出された水素と合流する。
【0056】
精製装置18で精製されると、水素は反応器17に導かれ、アミノ化H0-LOHCの触媒水素化に使用される。
この水素化は、例えば、5MPaから10MPaの水素圧で、Ru/Al2O3型触媒を用いて行われる。
【0057】
反応器17で製造されたアミノ化Hn-LOHCは、その後、貯蔵及び/または輸送のためにその包装を目的としたゾーン(図1には示されていない)に送られる。
本発明による有機廃棄物をリサイクルするためのプロセスの好ましい実施態様及びこの実施態様のために設計された設備20を概略的に示す、図2が参照される。
【0058】
この実施態様において、有機廃棄物をリサイクルするためのプロセスは、以下の工程:
1.有機廃棄物をメタン化して、一方ではメタン化消化物を、他方ではバイオガスを生成する工程;
2.メタン化消化物を、固体消化物と呼称される固相と、液体消化物と呼称される液相に分離する工程;
3.本発明によるHn-LOHCの合成プロセスにより、液体消化物からHn-LOHCを合成する工程;及び
4.バイオガスからの熱電供給、すなわち電気及び熱を同時製造する工程
を含む。
【0059】
この目的のため、図2に見られるように、特に、牛糞、豚糞、または穀物残渣などの農業廃棄物、家庭廃棄物または廃水処理場の汚泥などの都市廃棄物、農業食品産業廃棄物などの工業廃棄物、あるいは異なる供給源からの廃棄物の混合物である有機廃棄物は、メタン化ユニット21の消化装置とも呼称されるメタン化器に導入され、ここで典型的には20℃から60℃の温度で嫌気性発酵に処され、結果として、一方ではメタン化消化物と呼称されるペースト状生成物を、他方では本質的にCH4とCO2からなるバイオガスを生成する。
【0060】
ひとたびメタン化器21から排出されたメタン化消化物は、固体/液体分離ユニット22に導かれ、ここで、例えば1つ以上のスクリュープレス、ベルトプレス、フィルタープレスまたは遠心分離機タイプの装置によって、固形消化物と液体消化物とに分離される。
【0061】
かくして得られた固形消化物は、その後の散布のために貯蔵ユニット(図2には図示せず)、及び/または乾燥もしくは堆肥化ユニットタイプの後処理ユニット(図2には図示せず)に送ることができる。
【0062】
液体消化物に関しては、Hn-LOHCの合成を目的とした設備23に導かれるが、これは特に図1に示されるタイプの設備であってよい。かくして合成されたHn-LOHCは、次いで貯蔵及び/または輸送のための包装を目的としたゾーン(図2には図示せず)に導かれる。
【0063】
これと並行して、メタン化器21で生成されたバイオガスは、例えば、オルタネータ及び熱回収ユニットを連結したガスタービンを含む、熱電供給ユニット24に導かれる。
【0064】
図2に示されるように、かくして生成された電気及び/または熱は、特に、下記:
・メタン化ユニット21、特にメタン化器の加熱の実施、
・固体/液体分離ユニット22の運転、及び/または
・Hn-LOHCの合成を目的とし、特に、ガス状アンモニアが脱着により生成される場合には、アンモニア性窒素の脱着に使用される移送ガスの加熱を目的とし、また、ガス状アンモニアの触媒解離、及び場合によってH0-LOHCの触媒アミノ化が実施される反応器の加熱を目的とする、設備23の運転、
のために使用することができる。
かくして、有機廃棄物の最適なリサイクルが実施される。
【0065】
引用文献
Purna Chandra Rao and Minyoung Yoon, Energies 2020, 13(22), 1-23
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-02-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を添加した液体有機水素キャリアHn-LOHCの合成プロセスであって、少なくとも以下の工程:
a)メタン化消化物からガス状アンモニアを製造する工程;
b)工程a)で生成されたガス状アンモニアを第一フローと第二フローに分割する工程;
c)水素を添加していない液体有機水素キャリアであるH0-LOHCを、第一フローからのガス状アンモニアとの反応によって触媒アミノ化し、H0-LOHCをアミノ化H0-LOHCに変換して水素を生成する工程;
d)第二フローからのガス状アンモニアを触媒解離させて水素を生成する工程;及び
e)工程c)で得られたアミノ化H0-LOHCを、工程c)及びd)で生成された水素との反応によって触媒水素化する工程であって、これによりHn-LOHCを得る工程
を含むプロセス。
【請求項2】
メタン化消化物が液体消化物である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ガス状アンモニアの製造が、液体消化物中に含まれるアンモニア性窒素を、ガス状アンモニアの形態で脱着することを含む、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
脱着が、充填カラム中で、液体消化物を、窒素または本質的に窒素からなるガスの流れに対して循環させることを含む、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
生成されたガス状アンモニアの精製をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
ガス状アンモニアの触媒解離が、450℃から800℃の温度に加熱された反応器中で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
ガス状アンモニアの触媒解離により生成された水素の精製をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
H0-LOHCが、芳香族またはヘテロ芳香族の単環式または多環式の化合物であって、1つまたは複数のアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、またはヘテロアリールアルキル基で任意に置換されている、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
H0-LOHCが、トルエン、2-ベンジルトルエン、4-ベンジルトルエン、2,3-ジベンジルトルエン、2,4-ジベンジルトルエン、ナフタレン、N-エチルカルバゾール、インドール、1-メチルインドール、2-メチルインドール 3-メチルインドール、4-メチルインドール、5-メチルインドール、6-メチルインドール、1,2-ジメチルインドール、2,3-ジメチルインドール、2,5-ジメチルインドール、ジベンゾフラン、フェナジン、2-(N-メチルベンジル)ピリジン、または4,4'-ビピペリジンである、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
H0-LOHCの触媒アミノ化が、200℃から800℃の温度及び0.1MPaから90MPaの圧力で加熱された反応器中で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
H0-LOHCの触媒アミノ化によって生成された水素の精製をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
アミノ化H0-LOHCの触媒水素化が、5MPaから10MPaの水素圧で実施される、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
反応器が、メタン化バイオガスから生成される熱及び/または電力によって加熱される、請求項6に記載のプロセス。
【請求項14】
反応器が、メタン化バイオガスから生成される熱及び/または電力によって加熱される、請求項10に記載のプロセス。
【請求項15】
有機廃棄物のリサイクルプロセスであって、少なくとも以下の工程:
・有機廃棄物をメタン化して、メタン化消化物及びバイオガスを生成する工程;
・請求項1に記載のプロセスを実施することにより、メタン化消化物から、水素を添加した液体有機水素キャリアH n -LOHCを合成する工程;及び
・バイオガスから熱及び/または電気を生産する工程
を含むプロセス。
【請求項16】
水素を製造するためのプロセスであって、少なくとも以下の工程:
・請求項1に記載のプロセスを実施することにより、水素を添加した液体有機水素キャリアH n -LOHCを合成する工程;
・貯蔵及び/または輸送のためにHn-LOHCを包装する工程;及び
・かくして包装されたHn-LOHCを触媒脱水素する工程:
を含むプロセス。
【国際調査報告】