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特表2024-524099電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240628BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240628BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240628BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240628BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/13
H01M10/0567
H01M4/525
H01M4/36 E
H01M4/58
H01G11/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577477
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(85)【翻訳文提出日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 CN2021126833
(87)【国際公開番号】W WO2023070401
(87)【国際公開日】2023-05-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼洋洋
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA05
5E078AA07
5E078AB06
5E078BA27
5E078BA44
5E078BA53
5E078CA06
5E078CA07
5E078DA03
5E078DA06
5E078FA02
5E078FA13
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ08
5H029HJ09
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ19
5H050AA07
5H050AA10
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA19
(57)【要約】
【要約】
本願は、電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置を提供するものである。当該電気化学装置は、負極片と正極片とを含み、前記負極片は、負極活物質層を含み、負極活物質層は、負極活物質を含み、正極片は、正極活物質層を含み、正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質は、リチウムマンガン酸化物を含み、電気化学装置のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aは、a≦8.2008Åを満たす。当該電気化学装置は、良好な高温保存性能及びサイクル性能を有するものである。当該電気化学装置を含む電子装置も良好な高温保存性能及びサイクル性能を有するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極片と負極片とを含む電気化学装置であって、
前記負極片は、負極活物質層を含み、
前記負極活物質層は、負極活物質を含み、
前記正極片は、正極活物質層を含み、
前記正極活物質層は、正極活物質を含み、
前記正極活物質は、リチウムマンガン酸化物を含み、
前記電気化学装置のSOC=15%の際に、前記リチウムマンガン酸化物の格子定数aは、a≦8.2008Åを満たす、
電気化学装置。
【請求項2】
前記電気化学装置は、
(a)前記正極活物質の質量を基準として、前記正極活物質におけるMnの質量百分率W1は、42%~47%であることと、
(b)前記負極活物質の質量を基準として、前記負極活物質におけるMnの質量百分率W2は、0.1%以下であることと、
(c)前記負極片は、第1領域と、第2領域と、前記第1領域と前記第2領域との間に位置する第3領域とを含み、前記第1領域における負極活物質の質量を基準として、前記第1領域におけるMnの質量百分率をV1とし、前記第2領域における負極活物質の質量を基準として、前記第2領域におけるMnの質量百分率をV2とし、前記第3領域における負極活物質の質量を基準として、前記第3領域におけるMnの質量百分率をV3とし、前記V1、V2及びV3における最大値と最小値との差をΔVとし、前記V1、V2及びV3の平均値をVとした場合、ΔV/V≦20%を満たすことと、
のうち少なくとも1つを満たし、
第1領域は、前記負極片において幅方向の第1側縁から前記第1側縁に10mm離れたところまでの領域を含み、前記第1側縁にはタブが設置されており、
前記第2領域は、前記負極片において幅方向の第2側縁から前記第2側縁に10mm離れたところまでの領域を含み、前記第2側縁は前記第1側縁に対向する、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記リチウムマンガン酸化物は、ドーパント元素Mを含み、
前記ドーパント元素Mは、Nb、Al、Mg、Ti、Cr、Mo、Zr、Y及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率が0.01%~2%である、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記正極活物質の粒子の粒径分布は、1.2≦(Dv90-Dv10)/Dv50≦2.2を満たす、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記電気化学装置のSOC=0%の際に、前記負極片の電位は、0.6Vより小さい、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
(d)前記正極活物質層の圧縮密度は、2.8g/cm~3.05g/cmであることと、
(e)前記負極活物質層の圧縮密度は、1.45g/cm~1.65g/cmであることと、
のうち少なくとも1つを満たす、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記正極片の空隙率αは、15%~40%である、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記電気化学装置のSOC=100%の際に、前記正極片のDSC曲線における発熱ピークの開始位置は、260℃~280℃の間にある、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
電解液をさらに含み、
前記電解液は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を含む、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記電解液の質量を基準として、前記硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の質量百分率は、0.01%~1.00%である、
請求項9に記載の電気化学装置。
【請求項11】
(f)前記リチウムマンガン酸化物は、LiMn2-yを含み、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.05であり、Mは、Al、Mg、Ti、Cr、Cu、Fe、Co、W、Zn、Ga、Zr、Ru、Ag、Sn、Au、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Nb、及びGdからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことと、
(g)前記正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物及びリチウム遷移金属リン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含むことと、
のうち少なくとも1つを満たす、
請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項12】
(h)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix1Niy1Coz1Mn2±aを含み、Zは、B、Mg、Al、Si、P、S、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Mo、Ag、W、In、Sn、Pb、Sb、及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Tはハロゲンであり、0.2<x1≦1.2、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k≦1、0≦q≦1であり、かつ、y1、z1、kが同時に0ではなく、及び0≦a≦1であることと、
(i)前記リチウム遷移金属リン酸化合物は、Lix2y2z2POを含み、Rは、Fe及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Nは、Al、Ti、V、Cr、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Siからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、0.6≦x2≦1.2、0.95≦y2≦1、0≦z2≦0.05であることと、
のうち少なくとも1つを満たす、
請求項11に記載の電気化学装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の電気化学装置を含む、
電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電気化学分野に関し、具体的に、電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高エネルギー貯蔵密度、高開回路電圧、低自己放電レート、長いサイクル寿命、良い安全性などの利点を有し、電気エネルギー貯蔵、携帯電子機器、電気自転車、電気自動車及び航空宇宙装置などの各分野で広く使用されている。
【0003】
リチウムイオン電池の性能は、主に、正極片、負極片、セパレータ及び電解液の特性に依存する。一般的に、正極片における正極活物質は、リチウムイオン電池の性能に影響を及ぼす要因の一つである。ここで、マンガン酸リチウムは、一般的に使用される正極活物質として、電気自転車及び電気自動車分野で広く使用されている。しかしながら、マンガン酸リチウムを単独で用いると、高温保存性能が劣り、使用寿命が短いという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能を改善するように、電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願の第1態様として、電気化学装置を提供する。前記電気化学装置は、正極片と負極片とを含み、前記負極片は負極活物質層を含み、前記負極活物質層は負極活物質を含み、正極片は正極活物質層を含み、正極活物質層は正極活物質を含み、正極活物質はリチウムマンガン酸化物を含み、電気化学装置のSOC(充電状態)=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aは、a≦8.2008Åを満たす。例えば、リチウムマンガン酸化物の格子定数aは、8.1170Å、8.1190Å、8.1289Å、8.1619Å、8.1819Å、8.1837Å、8.1881Å、8.1887Å、8.1908Å、8.1900Å、8.1905Å、8.1910Å、8.1918Å、8.1921Å、8.2008Å又は上記何れか2つの数値の範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、電気化学装置のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aを上記範囲に収めることにより、電気化学装置のSOC変化範囲の全体(即0%SOC~100%SOC範囲)でリチウムマンガン酸化物の結晶構造を安定に維持することができ、これによって、電気化学装置の高温サイクル性能を改善することができる。同時に、電気化学装置の充放電サイクル過程においてリチウムマンガン酸化物の構造のひずみが低減され、Mn(マンガン)イオンの溶出を抑制し、Mnの負極での分布をより均一にし、負極上のSEI(固体電解質界面)膜への破壊を低減することができ、これによって、電気化学装置の高温保存性能を改善することができる。また、負極のリチウム析出を改善し、電気化学装置の安全性能を高めることもできる。
【0006】
本願のいくつかの実施形態において、リチウムマンガン酸化物はLiMn2-yを含み、0.9≦x≦1.1、0≦y≦0.05であり、MはAl、Mg、Ti、Cr、Cu、Fe、Co、W、Zn、Ga、Zr、Ru、Ag、Sn、Au、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Nb及びGdからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0007】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物及びリチウム遷移金属リン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種をさらに含む。
【0008】
本願のいくつかの実施形態において、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix1Niy1Coz1Mn2±aを含み、Zは、B、Mg、Al、Si、P、S、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Mo、Ag、W、In、Sn、Pb、Sb及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Tはハロゲンであり、0.2<x1≦1.2、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k≦1、0≦q≦1であり、かつ、y1、z1、kは同時に0ではなく、0≦a≦1である。
【0009】
本願のいくつかの実施形態において、前記リチウム遷移金属リン酸化合物は、Lix2y2z2POを含み、Rは、Fe及びMnからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Nは、Al、Ti、V、Cr、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、0.6≦x2≦1.2、0.95≦y2≦1、0≦z2≦0.05である。
【0010】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質の質量を基準として、正極活物質におけるMnの質量百分率W1は42%~47%である。例えば、正極活物質の質量を基準として、Mnの質量百分率は42%、42.3%、46.9%、47%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、正極活物質におけるMnの質量百分率W1を上記範囲に収めることにより、正極活物質におけるマンガン酸リチウムの割合が適切であるため、マンガン酸リチウム材料自体の高温保存性能不良の影響を低くし、他の活物質によるMn溶出に対する改善効果を確保し、Mnの溶出及び負極への堆積を抑制することができ、これによって、電気化学装置の高温サイクル性能を高めるとともに、電気化学装置の低温放電性能をさらに高めることができる。
【0011】
本願のいくつかの実施形態において、負極活物質の質量を基準として、負極活物質におけるMnの質量百分率W2は0.1%以下である。例えば、負極活物質の質量を基準として、Mnの質量百分率は0.0050%、0.0100%、0.0150%、0.0201%、0.0230%、0.0265%、0.0280%、0.0294%、0.0300%、0.0320%、0.0340%、0.0350%、0.0450%、0.0550%、0.0650%、0.0750%、0.0850%、0.0950%、0.1%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、負極活物質におけるMnの質量百分率W2は0.1%以下であることにより、負極SEI膜の安定性を破壊するおそれを低くして、電気化学装置の高温保存性能を高めることができる。
【0012】
本願のいくつかの実施形態において、負極片は、第1領域と、第2領域と、第1領域と第2領域との間に位置する第3領域とを含み、第1領域における負極活物質の質量を基準として、第1領域におけるMnの質量百分率をV1とし、第2領域における負極活物質の質量を基準として、第2領域におけるMnの質量百分率をV2とし、第3領域における負極活物質の質量を基準として、第3領域におけるMnの質量百分率をV3とし、V1、V2及びV3のうちの最大値と最小値との差をΔVとし、V1、V2及びV3の平均値をVとした場合、ΔV/V≦20%を満たす。例えば、ΔV/Vの値は、0%、1.45%、3%、4%、5%、7.8%、9.2%、10.4%、10.5%、10.8%、11%、11.5%、11.8%、11.9%、12.1%、12.3%、12.4%、12.5%、13%、17%、19%、20%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値であってもよい。いかなる理論に制限されるものではなく、ΔV/Vの値を上記範囲に収めることにより、負極片におけるMn分布の差異性を低くすることができる。Mnを均一に分布することは、負極表面動力学及び安定性の差異を小さくさせ、負極副反応及びリチウム析出のおそれを低くし、電気化学装置の高温使用寿命及び安全性と信頼性を高めることができる。ここで、第1領域は、負極片において幅方向の第1側縁から第1側縁に10mm離れたところまでの領域を含み、第1側縁にはタブが設置されており、第2領域は、負極片において幅方向の第2側縁から第2側縁に10mm離れたところまでの領域を含み、第2側縁は第1側縁に対向する。
【0013】
本願において、第1領域におけるMnの質量百分率V1、第2領域におけるMnの質量百分率V2、及び第3領域におけるMnの質量百分率V3は、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、第1領域におけるMnの質量百分率V1は0.1020%~0.1100%である。第2領域におけるMnの質量百分率V2は0.0950%~0.1000%である。第3領域におけるMnの質量百分率V3は0.1020%~0.1100%である。
【0014】
本願のいくつかの実施形態において、リチウムマンガン酸化物は、ドーパント元素Mを含み、ドーパント元素Mは、Nb、Al、Mg、Ti、Cr、Mo、Zr、Y、及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率が0.01%~2%である。例えば、リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率が0.014%、0.42%、0.70%、1.39%、1.74%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率が大き過ぎる(例えば、2%より大きい)と、電気化学装置の高温サイクル性能及び高温保存性能が著しく向上しない場合があるとともに、電気化学装置の容量が低下するおそれがある。リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率が小さ過ぎる(例えば、0.01%より小さい)と、電気化学装置の高温サイクル性能及び高温保存性能に対する改善効果は明らかでない場合がある。リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素M及びMnのモル百分率を上記範囲に収めることにより、リチウムマンガン酸化物の粒子密度が向上し、リチウムマンガン酸化物におけるMn3+/Mn4+の割合が低下し、リチウムマンガン酸化物の構造安定性が向上するため、Mnの負極での堆積量を効果的に改善することができ、これによって、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能を高めることができる。
【0015】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質の粒子の粒径分布は、1.2≦(Dv90-Dv10)/Dv50≦2.2を満たす。例えば、(Dv90-Dv10)/Dv50の値は1.2、1.32、1.48、2.2又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、(Dv90-Dv10)/Dv50の値を上記範囲に収めることにより、正極活物質の粒子分布の範囲がより広くなり、大粒径粒子と小粒径粒子との合理的なマッチングにより寄与し、同じ圧縮密度である場合、正極材料粒子にかかる圧力及び破砕の程度が低下し、Mnの正極での溶出の低減により寄与し、Mnの負極での堆積量及びMnの負極片での分布の均一性を改善することができ、これによって、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能をさらに高めることができる。
【0016】
本願において、正極活物質のDv10、Dv50及びDv90は、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、正極活物質のDv10は0.9μm~6μmである。正極活物質のDv50は9μm~18μmである。正極活物質のDv90は19μm~35μmである。
【0017】
本願では、Dv10とは、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの累積体積が10%となる粒径を表す。Dv50とは、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの累積体積が50%となる粒径を表す。Dv90とは、体積基準の粒度分布において、小粒径側からの累積体積が90%となる粒径を表す。
【0018】
本願のいくつかの実施形態において、電気化学装置のSOC=0%の際に、Liに対する負極片の電位は0.6Vより小さい。Liに対する負極片の電位が電気化学装置の放電過程において徐々高まるため、電気化学装置のSOC=0%の際に、Liに対する負極片の電位が最も高く、SEI膜が高電位で不安定となり、分解やガス産生が起こることがやすく、負極表面の安定性が低下するおそれが高まってしまう。そのため、電気化学装置のSOC=0%の際に、Liに対する負極片の電位が0.6Vより小さいことにより、電気化学装置の負極界面の高温での副反応が低減し、電気化学装置の高温サイクル性能及び使用寿命が向上することができる。
【0019】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質層の圧縮密度は2.8g/cm~3.05g/cmである。例えば、正極活物質層の圧縮密度は2.8g/cm、2.95g/cm、3.05g/cm又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、正極活物質層の圧縮密度を上記範囲に収めることにより、正極活物質粒子の破砕のおそれが低下し、Mnの溶出を抑制し、正極活物質層の界面安定性を向上することができる。また、正極活物質層の圧縮密度を上記範囲に収めることにより、正極活物質粒子同士の接触がより良く、導電ネットワークの導電性の改善に寄与し、Mnの溶出及び正極活物質層の界面安定性をより良く制御し、これによって、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能の改善により寄与する。
【0020】
本願のいくつかの実施形態において、負極活物質層の圧縮密度は1.45g/cm~1.65g/cmである。例えば、負極活物質層の圧縮密度は1.45g/cm、1.55g/cm、1.65g/cm又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、負極活物質層の圧縮密度を上記範囲に収めることにより、負極活物質粒子の破砕のおそれが低下するとともに、正極から溶出したMnの負極での堆積量及び分布の均一性を制御するのにより寄与し、これによって、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能の改善により寄与する。
【0021】
本願のいくつかの実施形態において、正極活物質層の空隙率αが15%~40%である。例えば、空隙率αは15%、20%、25%、30%、35%、40%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、空隙率αを上記範囲に収めることにより、電気化学装置の充放電サイクル過程中の正極活物質粒子同士の接触不良による電気化学装置のサイクル性能及びエネルギー密度の低下することを抑制することができる。また、空隙率αを上記範囲に収めることにより、正極活物質が電解液によって十分に浸潤されることを確保し、リチウムイオンの伝送距離を小さくし、電気化学装置の動力学的性能を高めることができる。
【0022】
本願において、正極活物質層の空隙率αとは、正極活物質層の見かけ体積に対する正極活物質層における各成分の間の空隙の体積の割合である。
【0023】
本願のいくつかの実施形態において、電気化学装置のSOC=100%の際に、正極片のDSC(示差走査熱量法)曲線における発熱ピークの開始位置は260℃~280℃の間にある。これは、電気化学装置の熱安定性が良いことを示しており、その結果、高温保存性能、高温サイクル性能及び安全性能が良好である。
【0024】
本願のいくつかの実施形態において、電気化学装置は、電解液をさらに含み、電解液は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物を含み、電解液の質量を基準として、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の質量百分率は0.01%~1.00%である。例えば、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の質量百分率は0.01%、0.50%、1.00%又は上記何れか2つの数値範囲の間にある何れか1つの数値である。いかなる理論に制限されるものではなく、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の質量百分率を上記範囲に収めることにより、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能をさらに改善するのにより寄与し、これによって、電気化学装置の総合的な性能をさらにバランスさせることができる。
【0025】
本願は、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の種類に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物は、1,3-プロパンスルトン及び硫酸ビニルのうち少なくとも1種を含んでもよい。
【0026】
本願の電解液は、リチウム塩と非水溶媒とをさらに含む。本願は、リチウム塩の種類に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、LiCHSO、LiCFSO、LiN(SOCF、LiC(SOCF及びLiSiFからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。好ましくは、LiPFを含んでもよい。これは、LiPFが高いイオン電気伝導度を与え、リチウムイオン電池の高温サイクル性能を改善させることができるからである。本願は、非水溶媒に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、非水溶媒は、炭酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、エーテル化合物、及び他の有機溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。上記炭酸エステル化合物は、鎖状炭酸エステル化合物及び環状炭酸エステル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。上記鎖状炭酸エステル化合物は、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、及びメチルエチルカーボネート(MEC)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。環状炭酸エステル化合物は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)及びブチレンカーボネート(BC)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。上記カルボン酸エステル化合物は、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル及びプロピオン酸プロピルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。上記エーテル化合物は、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、エトキシメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン及びテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。上記他の有機溶媒は、ジメチルスルホキシド、1,2-ジオキソラン、シクロブタンスルホン、メチルシクロブタンスルホン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル、及びリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0027】
本願は、負極活物質の種類に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、負極活物質は、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、シリコン-炭素複合体、SiO(0<x<2)、Li-Sn合金、Li-Sn-O合金、Sn、SnO、SnO、スピネル構造を有するチタン酸リチウムLiTi12、Li-Al合金及び金属リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。
【0028】
本願の負極片は、負極集電体をさらに含む。本願は、負極集電体に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、負極集電体は、銅箔、銅合金箔、ニッケル箔、ステンレス箔、チタン箔、ニッケルフォーム、銅フォーム又は複合集電体などを含んでもよい。本願は、負極集電体及び負極活物質層の厚さに対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、負極集電体の厚さは、6μm~10μmであり、片面の負極活物質層の厚さは、30μm~130μmである。本願において、負極活物質層は、負極集電体の厚さ方向の片側の表面に設置されてもよく、負極集電体の厚さ方向の両側の表面に設置されてもよい。なお、ここでの「表面」は、負極集電体全体の領域であってもよく、負極集電体の一部の領域であってもよく、本願は特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。負極片は、任意に導電層をさらに含んでもよく、導電層は、負極集電体と負極活物質層との間に位置する。本願は、導電層の組成に対して、特に限定されず、本分野で一般的に使用される導電層であってもよい。例えば、導電層は、導電剤とバインダーとを含む。
【0029】
本願の正極片は、正極集電体をさらに含む。本願は、正極集電体に対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、正極集電体は、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔又は複合集電体などを含んでもよい。本願は、正極集電体及び正極活物質層の厚さに対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、正極集電体の厚さは、5μm~20μmであり、好ましくは、6μm~18μmである。片面の正極活物質層の厚さは、30μm~120μmである。本願において、正極活物質層は、正極集電体の厚さ方向の片側の表面に設置されてもよく、正極集電体の厚さ方向の両側の表面に設置されてもよい。なお、ここでの「表面」は、正極集電体全体の領域であってもよく、正極集電体の一部の領域であってもよく、本願は特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。正極片は、任意に導電層をさらに含んでもよく、導電層は、正極集電体と正極活物質層との間に位置する。本願は、導電層の組成に対して、特に限定されず、本分野で一般的に使用される導電層であってもよい。例えば、導電層は、導電剤とバインダーとを含む。
【0030】
本願は、上記導電剤及びバインダーに対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、導電剤は、導電性カーボンブラック(Super P)、カーボンナノチューブ(CNTs)、カーボンナノファイバー、鱗片状黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ及びグラフェンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。例えば、バインダーは、ポリプロピレンアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム、ポリアクリル酸リチウム、ポリイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニリデンフルオライド、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルブチラール(PVB)、水性アクリル樹脂、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
【0031】
本願の電気化学装置は、セパレータをさらに含み、前記セパレータは、正極片と負極片とを離隔させ、リチウムイオン電池の内部短絡を防止し、電解質イオンを自由に通過させ、電気化学充放電過程を完成させる作用を発揮する。本願は、セパレータに対して、特に限定されず、本願の目的を達成できればよい。例えば、セパレータは、ポリビニル(PE)、ポリプロピレン(PP)を主とするポリオレフィン(PO)系セパレータ、ポリエステルフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)、セルロースフィルム、ポリイミドフィルム(PI)、ポリアミドフィルム(PA)、スパンデックス、アラミドフィルム、織布フィルム、非織布フィルム(不織布)、微孔質膜、複合フィルム、セパレータ紙、圧延フィルム及び紡糸フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種である。例えば、セパレータは、基材層と表面処理層とを含んでもよい。基材層は、多孔質構造を有する不織布、フィルム又は複合フィルムであってもよく、基材層の材料は、ポリビニル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリイミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。任意に、ポリプロピレン多孔質膜、ポリビニル多孔質膜、ポリプロピレン不織布、ポリビニル不織布またはポリプロピレン-ポリビニル-ポリプロピレン多孔質複合膜を用いてもよい。任意に、基材層の少なくとも1つの表面に表面処理層が設けられる。表面処理層は、重合体層または無機物層であってもよく、重合体と無機物とを混合してなる層であってもよい。例えば、無機物層は、無機粒子とバインダーとを含み、前記無機粒子は特に限定されず、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、二酸化ハフニウム、酸化錫、二酸化セリウム、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、炭化ケイ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム及び硫酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。前記バインダーは、特に限定されず、例えば、ポリビニリデンフルオライド、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレン及びポリヘキサフルオロプロピレンからなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。重合体層は、重合体を含み、重合体の材料は、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、アクリル酸エステルの重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニリデンフルオライド、及びポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【0032】
本願の電気化学装置は、特に限定されず、電気化学反応が発生する任意の装置を含んでもよい。いくつかの実施例において、電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池又はリチウムイオン重合体二次電池などを含んでもよいが、これらに限定されない。
【0033】
電気化学装置の製造過程は、当業者に一般的に知られているものであり、本願では特に限定されない。例えば、電気化学装置は、正極片、セパレータ及び負極片をこの順に積層し、必要に応じて、巻く、折るなどの操作によって巻取構造である電極アセンブリを得て、電極アセンブリを包装ケース内に入れて、包装ケースに電解液を注入して封口することで製造し得る。又は、電気化学装置は、正極片、セパレータ及び負極片をこの順に積層し、そして、積層構造全体の四角をテープによって固定し、積層構造である電極アセンブリを得て、電極アセンブリを包装ケース内に入れて、包装ケースに電解液を注入して封口することで製造し得る。また、電気化学装置内部の圧力上昇、過充放電を防ぐために、必要に応じて、包装ケースに過電流防止素子、リード板などを入れてもよい。
【0034】
本願の第2態様として、本願の前記何れか1つの技術案に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。当該電子装置は、良好な高温保存性能及び高温サイクル性能を有するものである。
【0035】
本願の電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ大型家庭用ストレージバッテリー、及びリチウムイオンコンデンサーなどを含んでもよいが、これらに限定されない。
【発明の効果】
【0036】
本願は、電気化学装置及び当該電気化学装置を含む電子装置を提供し、当該電気化学装置は、負極片と正極片とを含み、負極片は、負極活物質層を含み、負極活物質層は、負極活物質を含み、正極片は、正極活物質層を含み、正極活物質層は、正極活物質を含み、正極活物質は、リチウムマンガン酸化物を含み、電気化学装置のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aは、a≦8.2008Åを満たす。電気化学装置が15%SOCの状態にある時、正極活物質におけるリチウムマンガン酸化物の格子定数aをa≦8.2008Åの範囲に収めることにより、リチウムマンガン酸化物が適切なSOCでも比較的安定な結晶構造を維持することができ、これによって、電気化学装置の高温サイクル性能を改善することができる。また、電気化学装置が15%SOCの状態にある時、正極活物質におけるリチウムマンガン酸化物の格子定数aをa≦8.2008Åの範囲に収めることにより、リチウムマンガン酸化物の結晶構造が充放電サイクル中により安定し、Mnイオンの溶出が効果的に抑制され、さらに、電気化学装置の高温保存性能を効果的に高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本願の目的、技術案、及び利点をより明らかに説明するためには、以下、実施例を参照して、本願をさらに詳しく説明する。勿論、説明される実施例は単に本発明の一部の実施例に過ぎず、すべての実施例ではない。本願実施例に基づいて、当業者が想到し得るほかの実施例はすべて本願の保護範囲に属する。
【0038】
なお、本願の具体的な実施形態では、リチウムイオン電池を電気化学装置の例として本願を説明するが、本願の電気化学装置は、リチウムイオン電池のみに限定されない。
【0039】
実施例
以下、実施例及び対比例を挙げて、本願の実施形態についてより具体的に説明する。各試験及び評価は、後述の方法に従って行われる。なお、「%」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0040】
測定方法及びデバイス:
リチウムマンガン酸化物の格子定数aの測定:
リチウムイオン電池を、25℃の雰囲気で30分間静置して、0.2Cで4.2Vになるまで定電流充電し、4.2Vで0.05Cになるまで定電圧充電し、30分間静置して、0.5Cで2.8Vになるまで放電し、この時の放電容量をリチウムイオン電池の実容量として記録した。そして、実容量に応じて、0.1Cで9分間定電流充電し、リチウムイオン電池のSOC=15%になるまで調整した。リチウムイオン電池を分解し、正極片を得て、正極片をDMC(ジメチルカーボネート)溶液に24時間浸し、乾燥し、後で使うために取っておいた。XRD(X線回折装置)を使用して、調製された極片を測定し修正して、リチウムマンガン酸化物の格子定数aを得た。
【0041】
正極活物質における各元素の含有量の測定:
リチウムイオン電池を2.8Vになるまで完全放電し、分解して正極片を得て、正極片をDMC溶液に24時間浸し、乾燥した後、正極片から正極活物質層を削り取って、火炎焼灼によってバインダー及び導電剤を除去して、正極活物質粉末を得て、後で使うために取っておいた。処理された正極活物質粉末から同じ仕様の6つのサンプルを取って、それぞれ秤量し、溶解し、希釈して、型式がThermo ICAP6300である誘導結合プラズマ発光分析装置によって各元素の質量百分率を測定し、平均値を算出した。ここで、各元素の質量百分率は正極活物質における質量百分率であった。
【0042】
負極活物質におけるMnの含有量の測定:
リチウムイオン電池を2.8Vになるまで完全放電し、分解して負極片を得て、負極片をDMC溶液に24時間浸し、乾燥して、後で使うために取っておいた。極片の幅方向に沿って極片を3つの領域に分けて、第1領域はタブ側縁から極片の中心方向へ10mmの領域であり、第2領域は非タブ側縁から極片の中心方向へ10mmの領域であり、第3領域は極片の残る部分であった。処理された負極片の第1領域、第2領域及び第3領域のそれぞれから、同じ仕様の6つのサンプルを取って、それぞれ秤量し、溶解し、希釈して、型式がThermo ICAP6300である誘導結合プラズマ発光分析装置によってMn元素の質量百分率を測定し、平均値を算出した。測定された第1領域、第2領域、第3領域におけるMnの質量百分率の平均値は、それぞれV1、V2、V3とした。V1、V2及びV3の平均値を負極のMnの含有量Vとして定義し、V1、V2及びV3のうちの最大値と最小値との間の差値をΔVとして定義した。
【0043】
正極活物質のDv10、Dv50及びDv90の測定:
正極活物質のDv10、Dv50及びDv90は、レーザー粒度計によって測定された。
【0044】
Liに対する負極片の電位の測定:
Liに対する負極片の電位は、リチウムイオン電池を2.8Vになるまで完全放電し、マルチチャンネルデータレコーダーによって測定された。
【0045】
正極活物質層の圧縮密度の測定:
正極活物質層の圧縮密度Pcは、式Pc=mc/Vcによって算出された。式において、mcは、正極活物質層の質量であって、その単位はgであり、Vcは正極活物質層の体積であって、その単位はcmであった。ここで、体積Vcは、正極活物質層の面積Scと正極活物質層の厚さとの積であった。
【0046】
負極活物質層の圧縮密度の測定:
負極活物質層の圧縮密度Paは、式Pa=ma/Vaによって算出された。式において、maは、負極活物質層の質量であって、その単位はgであり、Vaは負極活物質層の体積であって、その単位はcmであった。ここで、体積Vaは、負極活物質層の面積Saと負極活物質層の厚さとの積であった。
【0047】
正極活物質層の空隙率αの測定:
半径がdである正極片を打ち抜き、正極片の厚さh1をマイクロメーターによって測定され、AccuPyc 1340の試料室に入れて、密閉された試料室に極片がヘリウムガス(He)で充填されることで、ボイルの法則PV=nRTによって正極片の真体積Vを測定した。測定完了後、正極片表面の正極活物質層を洗浄し、マイクロメーターによって集電体の厚さh2を測定し、正極活物質層の見かけ体積πd×(h1-h2)を算出した。最後に、正極活物質層の空隙率αは、式α=1-(V-πd×h2)/[πd×(h1-h2)]によって算出された。
【0048】
DSCの測定:
DSCは、試料と参照物との熱流差及び温度の関係を測定するためのものである。型式がSTA449F3である同時熱分析装置によって、以下の方法でDSC曲線を測定した。リチウムイオン電池のSOC=100%に調整し、リチウムイオン電池を分解し、正極片を取り出して、DMCによって清浄して、10cm×10cmの規格に切断し、測定温度範囲150℃~400℃、昇温速度10℃/minで測定し、DSC曲線を得た。
【0049】
高温サイクル性能の測定:
45℃の雰囲気で、リチウムイオン電池を0.5Cで上限電圧が4.2Vになるまで定電流充電して、1Cで最終電圧が2.8Vになるまで定電流放電し、初回サイクルの放電容量を記録した。そして、同様なステップで充放電サイクルを500回行い、500回目のサイクルリチウムイオン電池の放電容量を記録した。
リチウムイオン電池のサイクル容量維持率(%)=(500回目のサイクルの放電容量/初回サイクルの放電容量)×100%
各実施例又は対比例は、それぞれ4つのサンプルを測定し、平均値を算出した。
【0050】
高温保存性能の測定:
リチウムイオン電池を25℃の雰囲気で30分間静置して、0.2Cで4.2Vになるまで定電流充電し、4.2Vで0.05Cになるまで定電圧充電し、30分間静置して、0.5Cで2.8Vになるまで放電し、この時の放電容量をリチウムイオン電池の実容量として記録した。当該容量は保存前容量であった。そして、完全充電状態の電池を60℃のオーブン内に7日保存した後、同様なステップでその可逆容量を測定した、当該容量は保存後容量であった。
リチウムイオン電池の高温保存容量維持率(%)=保存后容量/保存前容量×100%
【0051】
低温性能の測定:
リチウムイオン電池を25℃の雰囲気で30分間静置して、0.2Cで4.2Vになるまで定電流充電し、4.2Vで0.05Cになるまで定電圧充電し、30分間静置して、0.5Cで2.8Vになるまで放電し、この時の放電容量をリチウムイオン電池の25℃での実容量C1として記録した。そして、リチウムイオン電池を-10℃の雰囲気で60分間静置した後、0.2Cで4.2Vになるまで定電流充電し、4.2Vで0.05Cになるまで定電圧充電し、30分間静置して、0.5Cで2.8Vになるまで放電し、この時の放電容量をリチウムイオン電池の-10℃での実容量C2として記録した。-10℃の放電容量維持率は、式:放電容量維持率=C2/C1×100%によって算出された。
【0052】
実施例1-1
<正極活物質の調製>
原料である炭酸リチウム及び二酸化マンガンを、Li:Mnのモル比0.545:1で混合し、添加剤として一定の量の五酸化ニオブ(Nb)を入れて、リチウムマンガン酸化物におけるNb及びMnのモル百分率が0.42%になるように、リチウムマンガン酸化物を反応生成した。
上記リチウムマンガン酸化物と層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムLi(Ni0.55Co0.15Mn0.30)Oとを質量比80:20で混合し、正極活物質を得た。
【0053】
<正極片の調製>
調製して得られた正極活物質、導電剤であるアセチレンブラック、及びバインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を96.5:2:1.5の重量比で混合し、溶媒としてNMP(N-メチルピロリドン)を入れて、固形分含有量が75%であるスラリーに調合し、真空撹拌機で正極スラリーが均一になるまで撹拌した。正極スラリーを厚さ10μmの正極集電体であるアルミニウム箔の片側の表面に均一に塗布し、90℃で乾燥させ、塗布層の厚さが110μmである片面に正極活物質層が塗布された正極片を得た。その後、当該正極片の他の表面に対して、以上のステップを繰り返すことにより、両面に正極活物質層が塗布された正極片を得た。90℃で乾燥させて、2.95g/cmの圧縮密度で冷間プレスした後、切断し、タブを溶接して、正極片を得た。
【0054】
<負極片の調製>
負極活物質である人造黒鉛、導電剤であるアセチレンブラック、バインダーであるSBR、及び増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウムを95:2:2:1の重量比で混合し、脱イオン水を入れて、固形分含有量が70%である負極スラリーに調合し、真空撹拌機で負極スラリーが均一になるまで撹拌した。負極スラリーを厚さ8μmの負極集電体である銅箔の片側の表面に均一に塗布し、90℃で乾燥させ、塗布層の厚さが130μmである片面に負極活物質層が塗布された負極片を得た。その後、当該負極の他の表面に以上のステップを繰り返し、両面に負極活物質層が塗布された負極片を得た。90℃で乾燥させて、1.55g/cmの圧縮密度で冷間プレスした後、切断し、タブを溶接して、負極片を得た。
【0055】
<セパレータの調製>
厚さ14μmのPE多孔質重合体フィルムを使用した。
【0056】
<電解液の調製>
含水率10ppm未満のアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の質量比で均一に混合して、有機溶媒を得た。リチウム塩LiPFを入れて、均一に混合して、ベース電解液を得た。ここで、LiPFの質量濃度が12.5%であった。
【0057】
<リチウムイオン電池の調製>
セパレータが正極片と負極片との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記の調製された正極片、セパレータ及び負極片をこの順に積層して、巻いて、電極アセンブリを得た。電極アセンブリをアルミニウムプラスチック複合フィルム包装ケース中、85℃の真空オーブン内に12時間乾燥し、水分を除去し、上記の調製された電解液を注入し、真空封止、静置、フォーメーション、脱気、整形などの工程を行うことにより、リチウムイオン電池を得た。
【0058】
実施例1-2において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとのモル比Li:Mnが0.560:1であったことを除き、実施例1-1と同様にした。
【0059】
実施例1-3において、正極活物質として、リチウムマンガン酸化物、リン酸鉄リチウムLiFePO及び層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムLi(Ni0.55Co0.15Mn0.30)Oを80:15:5の質量比で混合したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0060】
実施例1-4において、正極活物質として、リチウムマンガン酸化物、リン酸鉄リチウムLiFePO及び層状ニッケルコバルトマンガン酸リチウムLi(Ni0.55Co0.15Mn0.30)Oを80:10:10の質量比で混合したことを除き、実施例1-3と同様にした。
【0061】
実施例1-5において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとのモル比Li:Mnが0.575:1であったことを除き、実施例1-4と同様にした。
【0062】
実施例1-6において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとのモル比Li:Mnが0.575:1であったことを除き、実施例1-1と同様にした。
【0063】
実施例1-7において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとのモル比Li:Mnが0.580:1であったことを除き、実施例1-1と同様にした。
【0064】
実施例1-8において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとのモル比Li:Mnが0.580:1であったことを除き、実施例1-5と同様にした。
【0065】
実施例2-1において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、添加剤である五酸化ニオブがないことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0066】
実施例2-2において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、添加剤として酸化マグネシウム(MgO)を使用し、リチウムマンガン酸化物におけるMg及びMnのモル百分率が0.42%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0067】
実施例2-3において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、添加剤として酸化アルミニウム(Al)を使用し、リチウムマンガン酸化物におけるAl及びMnのモル百分率が0.42%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0068】
実施例2-4において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、添加剤として二酸化チタン(TiO)を使用し、リチウムマンガン酸化物におけるTi及びMnのモル百分率が0.42%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0069】
実施例2-5において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、リチウムマンガン酸化物におけるNb及びMnのモル百分率が0.014%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0070】
実施例2-6において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、リチウムマンガン酸化物におけるNb及びMnのモル百分率が0.70%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0071】
実施例2-7において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、リチウムマンガン酸化物におけるNb及びMnのモル百分率が1.39%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0072】
実施例2-8において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、リチウムマンガン酸化物におけるNb及びMnのモル百分率が1.74%であったことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0073】
実施例3-1~実施例3-5において、表3のように(Dv90-Dv10)/Dv50を調整したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0074】
実施例4-1~実施例4-3において、表3のように正極片の圧縮密度を調整したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0075】
実施例4-4~実施例4-5において、表3のように負極片の圧縮密度を調整したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0076】
実施例5-1~実施例5-2において、正極片と負極片の初回効率をマッチングすることによって、調製されたリチウムイオン電池の充電状態が0%SOCである時のLiに対する負極片の電位を調整したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0077】
実施例6-1~実施例6-4において、<電解液の調製>に硫黄-酸素二重結合を含有する化合物1,3-プロパンスルトンを加入し、電解液の質量を基準として、表5のように硫黄-酸素二重結合を含有する化合物の質量百分率を調整したことを除き、実施例1-2と同様にした。
【0078】
対比例1-1において、リチウムマンガン酸化物の調製中に、原料である炭酸リチウムと二酸化マンガンとの割合が0.540:1であったことを除き、実施例1-1と同様にした。
【0079】
実施例1-1~実施例1-8、対比例1-1の性能パラメータを表1に示す。実施例2-1~実施例2-8の性能パラメータを表2に示す。実施例3-1~実施例3-5、実施例4-1~実施例4-5の性能パラメータを表3に示す。実施例5-1~実施例5-2の性能パラメータを表4に示す。実施例6-1~実施例6-4の性能パラメータを表5に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例1-1~実施例1-8及び対比例1-1から分かるように、SOC=15%の際のリチウムマンガン酸化物の格子定数aの変化に伴って、リチウムイオン電池の高温保存性能及び高温サイクル性能が変化する。リチウムイオン電池のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aがa≦8.2008Åを満たす実施例1-1~実施例1-8は、より優れた高温保存性能及び高温サイクル性能を有し、特に高温サイクル性能については、リチウムマンガン酸化物の格子定数aがa≦8.2008Åを満たさない対比例1-1と比較して著しく向上する。いかなる理論に制限されるものではなく、その可能な原因は、以下の通りである。リチウムイオン電池のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aを上記範囲に収めれば、当該SOCでのリチウムマンガン酸化物のリチウム脱離量がより適度であり、結晶構造自体の変化がより小さく、低SOCでのリチウムマンガン酸化物の急激な保存減衰を抑制でき、リチウムイオン電池サイクル過程において(即ち、0%SOC~100%SOCの変化範囲内に)リチウムマンガン酸化物を安定な結晶構造に維持することに寄与し、これによって、電気化学装置の高温サイクル性能を改善する。また、リチウムイオン電池のSOC=15%の際に、リチウムマンガン酸化物の格子定数aを上記範囲に収めれば、リチウムイオン電池充放電サイクル過程においてリチウムマンガン酸化物の構造のひずみが低減され、Mn(マンガン)イオンの溶出が抑制されることができ、負極のMnの分布をより均一にし、負極でのSEI(固体電解質界面)膜への破壊を低減し、これによって、リチウムイオン電池の高温保存性能を改善する。
【0082】
【表2】
【0083】
リチウムマンガン酸化物におけるドーパント元素の種類及びドーパント元素であるM及びMnのモル百分率は、一般的に、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能に影響を与える。実施例1-2、実施例2-1~実施例2-8から分かるように、実施例2-1のドープしない技術案と比較して、Nb、Mg、Al、Ti元素をドープすることにより、正極活物質粒子の密度を増加し、Mn3+/Mn4+の割合を低減し、構造安定性を向上させ、Mnの負極での堆積量を改善し、これによって、電池の高温保存性能及び高温サイクル性能を著しく改善する。実施例1-2及び実施例2-5~実施例2-8を比較して、ドープした量の増加に伴って、高温性能の改善がさらに著しく、低温性能がやや低くなることがわかる。
【0084】
【表3】
【0085】
実施例1-2、実施例3-1~実施例3-5から分かるように、一定の範囲内に、(Dv90-Dv10)/Dv50の増加に伴って、粒子分布の範囲がより広くなり、大粒径粒子と小粒径粒子との合理的なマッチングにより寄与し、同じ圧縮密度である場合、粒子にかかる圧力及び破砕の程度が低下し、Mnの正極での溶出の低減に寄与し、Mnの負極での堆積量及びMnの負極片での分布の均一性を改善し、これによって、高温保存性能及び高温サイクル性能をさらに高める。しかしながら、粒子分布が広すぎることも狭すぎることも、不利な影響を及ぼす。例えば、実施例3-4において、(Dv90-Dv10)/Dv50が比較的低いため、大粒径粒子と小粒径粒子とのマッチングが不適切になり、極片の冷間プレス中、一部の粒子の間では隙間が多くなり、又は、一部の粒子が過圧により割れてしまい、これによって、Mnの溶出が増加し、高温性能が低下した。例えば、実施例3-5において、(Dv90-Dv10)/Dv50が比較的高いため、大粒径粒子と小粒径粒子とのマッチングも不適切になり、高温保存性能及び高温サイクル性能が低下した。
【0086】
実施例1-2、実施例4-1~実施例4-5から分かるように、一定の範囲内に、正極片の圧縮密度の増加に伴って、材料粒子間の接触がより良く、導電ネットワークの改善に寄与するが、粒子の破砕が増加するため、Mn溶出が増加し、材料表面の安定性が低下し、これによって、高温保存性能及び高温サイクル性能が低下する。なお、負極片の圧縮密度の増加に伴って、Mnの負極での堆積や分布不均になり、一部の領域でリチウム析出などの副反応が起こり、電池界面に影響を与え、これによって、サイクル寿命が短くなる場合がある。
【0087】
【表4】
【0088】
Liに対する負極片の電位は、一般的に、電気化学装置の高温保存性能及び高温サイクル性能に影響を与える。実施例1-2、実施例5-1~実施例5-2から分かるように、Liに対する負極片の電位が0.56V以下である実施例1-2及び実施例5-2は、より優れた高温サイクル性能を有する。それは、負極電位が放電過程において徐々高まり、リチウムイオン電池は0%SOCの完全放電状態で負極電位が最も高く、SEIが高電位で不安定となり、分解やガス産生が起こることがやすく、これによって、高温サイクル性能が低下するからである。
【0089】
【表5】
【0090】
実施例1-2、実施例6-1~実施例6-4から分かるように、電解液の質量を基準として、硫黄-酸素二重結合を含有する化合物1,3-プロパンスルトンの含有量が0.01%~1.00%である場合、リチウムイオン電池の高温保存性能及び高温サイクル性能をさらに改善することができ、これによって、リチウムイオン電池の総合的な性能をさらにバランスさせることができる。電解液における1,3-プロパンスルトンの含有量が高すぎる場合(実施例6-4)、高温保存性能及び高温サイクル性能はさらに著しく改善せず、逆に低温性能が低下する。
【0091】
以上は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明の精神及び原則を逸脱せずに行われる変更、同等置換、改良等は、すべて本発明の保護範囲に属する。
【国際調査報告】