(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】電極の製造方法、電極、ドライコーティング組成物、電池、および電子回路
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240628BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20240628BHJP
H01M 4/1393 20100101ALI20240628BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240628BHJP
H01M 4/80 20060101ALI20240628BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240628BHJP
H01M 4/70 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/587
H01M4/1393
H01M4/13
H01M4/80 C
H01M4/66 A
H01M4/70 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577630
(86)(22)【出願日】2022-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2022065384
(87)【国際公開番号】W WO2022263227
(87)【国際公開日】2022-12-22
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513310818
【氏名又は名称】マックス-プランク-ゲゼルシャフト ツア フェーデルンク デア ヴィッセンシャフテン エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ハックナー, マクシミリアン
(72)【発明者】
【氏名】シュパッツ, ヨアヒム
(72)【発明者】
【氏名】ホッツ, ダニエル
【テーマコード(参考)】
5H017
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS02
5H017CC01
5H017CC25
5H017EE01
5H017EE09
5H017HH03
5H017HH08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA04
5H050FA13
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA22
5H050GA27
5H050HA04
5H050HA14
(57)【要約】
本発明は、電極の製造方法であって、導電性基材を準備する工程(A)と、電極活物質および任意選択でバインダーを含むコーティング組成物を準備する工程(B)であって、コーティング組成物が自由流動性粉末である、工程(B)と、工程(A)で準備した導電性基材を、工程(B)で準備したコーティング組成物でコーティングする工程(C)と、工程(C)で得られたコーティングされた導電性基材を加熱し、任意選択で、コーティングされた導電性基材(14)をカレンダー加工などにより圧縮する工程(D)とを含む、電極の製造方法に関する。また、本発明は、電極、ドライコーティング組成物、電池、および電気回路に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極(1)の製造方法であって、
導電性基材(10)を準備する工程(A)と、
電極活物質および任意選択でバインダー(104)を含むコーティング組成物(12)を準備する工程(B)であって、上記コーティング組成物(12)が自由流動性粉末である、工程(B)と、
工程(A)で準備した導電性基材(10)を、工程(B)で準備したコーティング組成物(12)でコーティングする工程(C)と、
工程(C)で得られたコーティングされた導電性基材(14)を加熱し、任意選択で、上記コーティングされた導電性基材(14)をカレンダー加工などにより圧縮する工程(D)と
を含む、電極(1)の製造方法。
【請求項2】
上記導電性基材(10)が、多孔質導電性基材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記導電性基材(10)が、金属繊維(100)のネットワークを形成する複数の金属繊維(100)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記金属繊維(100)が互いに直接接触している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記導電性基材(10)の厚さが、200μm以上であり、より好ましくは500μm以上であり、さらに好ましくは550μm以上であり、さらに好ましくは600μm以上であり、さらにより好ましくは750μm以上であり、さらにより好ましくは1000μm以上であり、さらにより好ましくは1500μm以上であり、さらにより好ましくは3000μm以上であり、最も好ましくは5000μm以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
コーティング組成物(12)を準備する上記工程(B)が、上記電極活物質、ポリマーバインダー(104)、および任意選択でカーボンブラックを混合して、上記コーティング組成物を自由流動性粉末として得ることを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記電極活物質が、焼成グラファイト(102)を含み、特に、表面水酸化物基を本質的に含まない焼成グラファイト(102)を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記工程(D)が、上記コーティングされた導電性基材(14)を圧縮することをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(D)において、上記コーティングされた導電性基材(14)が、熱間圧縮、特にカレンダー加工に供され、
上記加熱が、(i)上記バインダーのTgを上回るが上記バインダーのTmを下回るように設定された加熱であり、特に、上記加熱が、上記バインダーのTmを最大で50℃、より好ましくは最大で30℃、さらにより好ましくは最大で20℃下回る範囲の温度に設定され、かつ/または、
上記加熱が、(ii)上記バインダーのTgを上回るが上記バインダーのTzを下回るように設定された加熱であり、特に、上記加熱が、上記Tgを少なくとも10℃上回る、より好ましくは上記Tgを少なくとも20℃上回る、さらにより好ましくは上記Tgを少なくとも30℃上回るが、Tzを下回る温度に設定される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
コーティングされた導電性基材(14)を含み、該コーティングされた導電性基材(14)が、電極活物質およびポリマーバインダーを含むコーティング組成物(12)でドライコーティングされている、電極(1)。
【請求項11】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる請求項10に記載の電極(1)。
【請求項12】
請求項10または11に記載の電極(1)を調製するための、および/または、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法で使用するためのドライコーティング組成物(12)であって、電極活物質およびポリマーバインダー(104)を含み、自由流動性粉末であるドライコーティング組成物(12)。
【請求項13】
上記ドライコーティング組成物(12)において、導電性向上添加剤の含有量が、上記ドライコーティング組成物の総重量に基づいて10重量%以下、特に8重量%以下、または6重量%以下である、請求項12に記載のドライコーティング組成物(12)。
【請求項14】
請求項10または11に記載の電極(1)を含む電池。
【請求項15】
請求項14に記載の電池を含む電気回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極の製造方法に関し、電極、ドライコーティング組成物、電池、および電気回路に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池などのイオン電池は、典型的には、粉末活物質を溶媒に分散させることによって製造された電極を有する。分散液を集電体基板、典型的には金属箔上にドクターブレードし、その後、乾燥させて電極を得る。そのようなコーティングプロセスでは、健康および/または環境に有害な溶媒を利用することが必要とされる。
【0003】
さらに、例えばKuangらにより“Thick Electrode Batteries:Principles,Opportunities,and Challenges”,Adv.Energy Mater.2019,9,1901457に記載されているように、厚い電極を提供して、より高い電池エネルギー面密度を可能にするのに望ましい活物質のより厚い層について、活物質を分散液として集電体基板上に塗布することで、分散液の溶媒が蒸発する乾燥プロセスに起因するいくつかの欠点がもたらされるおそれがある。特に、乾燥プロセスが速すぎると、気泡の形成や集電体基板と活物質との接触不良が生じるおそれがある。
【発明の概要】
【0004】
上記を鑑みて、上述した課題を解決する電極の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、請求項1に記載の方法、請求項10に記載の電極、請求項12に記載のコーティング組成物、請求項14に記載の電池、および請求項15に記載の回路によってこれらの課題を解決する。
【0006】
本発明は、電極の製造方法であって、導電性基材を準備する工程(A)と、電極活物質および任意選択でバインダーを含むコーティング組成物を準備する工程(B)であって、上記コーティング組成物が自由流動性粉末である、工程(B)と、工程(A)で準備した導電性基材を、工程(B)で準備したコーティング組成物でコーティングする工程(C)と、工程(C)で得られたコーティングされた導電性基材を加熱し、任意選択で、上記コーティングされた導電性基材(14)をカレンダー加工などにより圧縮する工程(D)とを含む、電極の製造方法に関する。
【0007】
上記コーティングプロセスは、自由流動性粉末であるドライコーティング組成物を利用する。分散液を作製するための溶媒を必要としないため、コストおよび薬品消費においてより効率的である。原則として、これらの利点は、あらゆる種類の導電性基材に対して実現することができる。導電性基材は、集電体基板とすることができる。本発明の方法は、三次元(3D)電極を製造するのに特に適している。自由流動性粉末は、多孔質導電性基材などの空洞および細孔に容易に浸透することができる。コーティング組成物は自由流動性粉末であるので、溶媒の蒸発は必要とされず、製造プロセスが単純化される。
【0008】
三次元繊維ネットワーク電極の態様と共に、ここでは、各種の厚さの電池電極の製造方法が説明される。しかしながら、本発明は、三次元繊維ネットワークに限定されず、他の導電性基材を利用して実現することもできる。
【0009】
本発明によれば、工程(A)で準備した導電性基材は、多孔質導電性基材であることが好ましい。コーティング組成物として自由流動性粉末を用いることにより、このような多孔質導電性基材の細孔に容易に浸透することができ、厚い電極を製造することができる。
【0010】
多孔質導電性基材を使用する観点から、多孔質導電性基材の細孔は、0.1~2000μmの範囲であることが好ましい。0.1~2000μmの範囲は、平均的な平均細孔径を指す。より好ましくは0.5~1000μmの範囲、より好ましくは1~1000μmの範囲、さらにより好ましくは2~500μmの範囲、さらに好ましくは5~500μmの範囲である。平均的な平均細孔径は、マイクロコンピュータトモグラフを用いて多孔質導電性基材の3D構造を再現してから、バブルポイント法を用いて平均細孔径を評価することにより求めることができる。バブルポイント法は、細孔径と考えられる多孔質基材の空洞に適合し得る最大ボール直径を求める。より詳細には、点を導電性基材の空洞の中心、例えば2つの繊維の間に配置し、点を中心として気泡の半径を、導電性材料の空洞に隣接する各表面、例えば両繊維に接触するまで、増加させる。気泡の直径は細孔径に対応する。任意の所与のパラメータで気泡直径が1つの表面、例えば1つの繊維にのみ接触する場合、中心点を気泡が接触しなかった表面、例えば繊維の方向にずらす。
【0011】
特に金属繊維の三次元ネットワークを含むかまたはそれからなる場合、導電性基材の多孔度は、95体積%~99.5体積%の範囲、特に96体積%~99.4体積%の範囲、特に97体積%~99.0体積%の範囲であることが好ましい。このような高い多孔度は、大量の電極活物質の添加を可能にし、不活性成分の割合を減少させ、それによって質量当たりの電池性能を改善する。多孔度は、マイクロコンピュータトモグラフを用いて繊維構造を再現してから、本明細書に記載のバブルポイント法を用いて多孔度を評価することにより求めることができる。
【0012】
導電性基材は、特に限定されない。本発明は、多くの異なる導電性基材で実現できる。導電性基材が、織物、不織布、または繊維のネットワークの形態などの三次元構造を有する場合に、特定の利点を特に実現できる。繊維は、カーボンナノチューブまたはグラファイト繊維または金属繊維など、十分な導電性を有するべきである。導電性基材の導電率は、105S/m以上であることが好ましい。上限は特に限定されない。導電性基材の材質および構造によって決定される。
【0013】
本発明によれば、工程(A)で準備した導電性基材は、金属繊維のネットワークを形成する複数の金属繊維を含むことが好ましい。これらの金属繊維は、導電性基材に多孔質構造を付与し、その細孔は、工程(C)において自由流動性粉末状コーティング組成物で容易に充填することができる。金属繊維は、高い導電性を付与し、電極活物質を堆積させることができる高い表面積を付与する。これにより、活物質の質量に対する基材の質量を低く保つことができ、高いエネルギー密度を得ることができる。
【0014】
工程(A)で準備した導電性基材において、ネットワークを形成する金属繊維同士が直接接触していることが好ましい。これにより、導電性基材の厚さが非常に大きい場合でも、導電性基材全体の導電性が向上する。
【0015】
好ましくは、工程(A)で準備した、特に三次元構造を有する場合の、導電性基材の厚さは、200μm以上、より好ましくは500μm以上、さらに好ましくは550μm以上、さらにより好ましくは600μm以上、さらにより好ましくは750μm以上、さらにより好ましくは1000μm以上、さらにより好ましくは1500μm以上、さらにより好ましくは3000μm以上、最も好ましくは5000μm以上である。導電性基材の厚さは、特に三次元構造を有する場合、特に限定されない。10mm以下、好ましくは8mm以下、さらに好ましくは5mm以下、さらにより好ましくは3mm以下であってよい。
【0016】
工程(A)で準備した導電性基材を構成する該金属繊維同士の接触点は、広い範囲で変動し得る。好ましくは、接触点の密度は、1mm-3~5000mm-3の範囲である。より好ましくは、接触点の密度は、3mm-3~2000mm-3、さらに好ましくは5mm-3~500mm-3の範囲である。接触点の密度は、特に金属繊維が接触点で互いに固定されている場合、すなわち金属繊維が互いに直接固定され、接触点で互いに電気的に接触している場合、繊維間の架橋密度と見なすこともできる。1mm-3以上、特に5mm-3以上の接触点密度により、電位の均一な分布が実現され、高い過電圧、または高抵抗による局所的なホットエリアの生成などの有害な影響が回避される。一方、5000mm-3以下、特に2000mm-3以下、さらに特に500mm-3以下の接触点密度は、導電性基材を形成する金属繊維の三次元ネットワークに柔軟性を付与するのに有用であり、その結果、かなり厚い三次元ネットワーク、すなわち、200μm以上、500μm以上、または550μm以上、または600μm以上、または750μm以上の厚さであっても、ネットワークを破壊することなく変形、例えば圧延できる。
【0017】
導電性基材、特に金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率は、0.075体積%以上、特に1.3体積%以上、特に2.0体積%以上であることも好ましい。より低い体積分率を有するネットワークでは、局所電位を均一に分布させることが困難である可能性があり、その結果、ホットスポットの形成および高い過電圧をもたらす可能性がある。したがって、上記のように特定された金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率により、電池寿命を延ばすことができる。金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率は、マイクロコンピュータトモグラフを用いて繊維構造を再現してから、本明細書に記載のバブルポイント法を用いて分率を評価することにより求めることができる。
【0018】
工程(A)で準備した導電性基材は、特に金属繊維の三次元ネットワークを含むまたはそれからなる場合、導電率が1×105S/m以上、特に5×105S/m以上、特に1×106S/m以上であり、多孔度が95体積%~99.5体積%の範囲、特に96体積%~99.4体積%の範囲、特に97体積%~99.0体積%の範囲であり、金属繊維の三次元ネットワーク中の金属繊維の体積分率が0.075体積%以上、特に1.3体積%以上、特に2.0体積%以上であることが特に好ましい。
【0019】
好ましくは、導電性基材において、繊維、特に金属繊維は、導電性を最大限に高めることができるように互いに直接電気的に接触している。これに関して、追加のバインダー、例えばポリマーバインダーまたははんだを必要とせずに、すべての金属繊維が他の金属繊維に焼結されることが特に好ましく、他の金属繊維に直接焼結されることが最も好ましい。したがって、金属繊維は、ポリマーバインダーなしで互いに固定されることがさらに好ましい。というのも、このようなポリマーバインダーは、導電性および高温性能が低いことが多いからである。
【0020】
金属繊維は、銅、銀、金、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、ケイ素、リチウム、マンガン、ホウ素、上記の組み合わせ、および上記の1種以上を含む合金、例えば、CuSn8、CuSi4、AlSi1、Ni、ステンレス鋼、Cu、Al、またはVitrovac合金のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい場合がある。Vitrovac合金は、Fe系およびCo系のアモルファス合金である。金属繊維が銅またはアルミニウムまたはステンレス鋼合金で作製されていることが特に好ましい場合がある。異なる種類の金属繊維を互いに組み合わせることができ、その結果、導電性基材は、例えば、銅、1種以上のステンレス鋼合金、および/またはアルミニウムで作製された金属繊維を含むことができる。ネットワークが、銅、アルミニウム、コバルト;銅、アルミニウム、ケイ素、および/またはコバルトを含むステンレス鋼合金からなる金属繊維で作製されることが特に好ましい。
【0021】
繊維は、例えば国際公開第2020/016240A1号に記載されているように、互いに焼結させることができる。
【0022】
本発明によれば、工程(A)で準備した導電性基材の金属繊維は、互いに固定する前に、DSC測定で加熱されたときに発熱事象を示すことが好ましく、該発熱事象は、0.1kJ/g以上の量、より好ましくは0.5kJ/g以上の量、さらにより好ましくは1.0kJ/g以上の量、最も好ましくは1.5kJ/g以上の量のエネルギーを放出する。絶対量は、使用した金属または金属合金に非常に大きく依存する。発熱事象の程度は、熱平衡前後の金属繊維のDSC測定値を比較することによって求めることができる。言い換えれば、そのような発熱事象を示す金属繊維は、周囲温度で熱力学的平衡状態にない。DSC測定における加熱中、金属繊維は、結晶化、再結晶、または金属原子の格子中の欠陥を減少させる他の緩和プロセスなどによって、準安定状態から熱力学的により安定な状態に移行し得る。DSC測定中などに加熱されるときに金属繊維で観察される発熱事象は、金属繊維が熱力学的平衡状態にないこと、例えば、金属繊維が、結晶化または再結晶が起こることによって金属繊維の加熱中に放出される欠陥エネルギーおよび/または結晶化エネルギーを含むアモルファスまたはナノ結晶状態にあり得ることを示している。そのような事象は、DSC測定などを用いて認識できる。そのような発熱事象を示す金属繊維のネットワークは、金属繊維が互いに固定された後に強度が向上することが見出された。
【0023】
任意選択で、導電性基材の金属繊維は、非円形断面、特に、長方形、正方形、部分円形、または長軸および短軸を有する楕円形の断面を有する。そのような断面は、通常、熱平衡状態にない、すなわち準安定状態にある繊維をもたらし、これは、一部の用途では有益であり得る。非円形断面は、金属繊維の質量当たりの表面積をさらに増加させ、それによって質量当たりの電極の性能にも寄与する。
【0024】
これに関連して、明らかに、短軸の値は、長軸の値よりも小さくなければならないことが留意される。短軸が長軸よりも大きい値、すなわち長い長さを有する場合、「短」および「長」の定義は単純に入れ替えられなければならない。
【0025】
長軸に対する短軸の比は、1~0.05の範囲、好ましくは0.7~0.1の範囲、特に0.5~0.1の範囲にあることが好ましい場合がある。一般に知られているように、楕円の短軸と長軸の長さの比は、楕円が円のように見えるようになるほど大きくなり、円の場合に比は1になるであろう。比の値が小さいほど、平坦な楕円となる。したがって、長軸に対する短軸の比は、特に1未満である。
【0026】
あるいは、金属繊維が円形断面を有することも可能である。そのような断面では、「長」軸と「短」軸との比は明らかにちょうど1になるであろう。円形断面は、アスペクト比が1未満の断面に比べてエネルギー的により好ましい状態を有する。故に、円形断面を有する繊維は、他の形状の断面を有する繊維よりもエネルギー的に平衡状態に近い。
【0027】
好ましくは、導電性基材の金属繊維は、特に垂直または水平の溶融紡糸によって、金属繊維の溶融材料を102Kmin-1以上の冷却速度に供することにより得ることができる。溶融紡糸によって製造されたこのような金属繊維は、溶融紡糸プロセス中に適用される急速冷却のため、高エネルギー状態(すなわち準安定状態)の空間的に限られた領域を含み得る。この関連での急速冷却とは、102K・min-1以上、好ましくは104K・min-1以上、より好ましくは105K・min-1以上の冷却速度をいう。したがって、導電性基材を準備する工程(A)は、前述のような金属繊維の製造と、金属繊維のネットワークの形成とを含むことが好ましい。
【0028】
また、工程(A)で準備した導電性基材の場合、溶融紡糸によって得られた繊維は、長方形または半楕円形の断面を有することが多いが、これは平衡状態からかけ離れているので、特定の用途分野では好ましい。そのような繊維を製造することができる溶融紡糸機の例は、例えば、まだ公開されていない国際出願PCT/EP2020/063026号および公開された出願WO2016/020493A1号およびWO2017/042155A1号(これらは参照により本明細書に組み込まれる)から知られている。
【0029】
別の例によれば、複数の金属繊維のうちの少なくとも一部の金属繊維はアモルファスであるか、または複数の金属繊維のうちの少なくとも一部の金属繊維はナノ結晶性である。ナノ結晶性金属繊維は、結晶領域を含む。ナノ結晶性金属繊維の融点の約20~60%の温度に加熱すると、これらの領域は再結晶化を受け、その結果、加熱前のナノ結晶性金属繊維中の初期結晶領域の平均サイズと比較して、結晶領域の平均サイズが増加する。非平衡化繊維(例えば、ナノ結晶性またはアモルファス繊維)を平衡化繊維(例えば、アニール処理した繊維)と混合することも可能である。
【0030】
工程(A)で準備した導電性基材に含まれることが好ましい金属繊維は、長さが1.0mm以上、および/または幅が100μm以下、および/または厚さが50μm以下であることが好ましい場合がある。このような寸法を有する金属繊維であれば、金属繊維を融点に近い温度まで30分を超える時間加熱する必要なく、金属繊維が互いに固定されたネットワークを製造することが可能である。従来の接続技術、例えば焼結または溶接または混合技術では、金属の融点に近いまたはわずかに上回る温度を比較的長時間維持する必要がある。これにより、金属繊維の材料がある程度溶融または少なくとも軟化し得るため、その結果、特に焼結中に比較的高い圧力が加えられた場合に、金属繊維がネットワークではなく金属箔を形成する。金属繊維のネットワークは金属箔ではないので、すなわち、金属繊維のネットワークを製造するために使用される金属繊維の構造は、金属繊維のネットワークにおいて依然として認識できる。したがって、金属繊維のネットワークの断面図において、金属繊維の一部ではなく、ネットワーク繊維の金属繊維間にある空隙が存在する。
【0031】
また、金属繊維の幅は、80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが最も好ましい。また、金属繊維の厚さは、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましく、5μm以下であることが最も好ましい。
【0032】
工程(A)については、上記のように、特に導電性基材が多孔質構造を有する場合には、導電性基材を支持体上に設けることが好ましい。支持体は、自由流動性粉末が導電性基材を通って流出することを防止し、その結果、その細孔または空洞をコーティング組成物で充填できる。支持体は、特に限定されない。好ましくは、支持体は、工程(D)を実施した後に容易に取り外すことができるように非粘着支持体である。さらに、支持体は、工程(D)の条件下で熱的に安定であるべきである。この文脈において熱的に安定であるとは、工程(D)を実施するときに支持体が溶融または分解しないことを意味する。すなわち、工程(D)を実施した後に、支持体が導電性基材および電極活物質に付着しない。支持体は、例えば、シリコン処理紙、ポリマーシート、金属箔、または繊維(例えば天然繊維)の不織布もしくは織布シートであってもよい。
【0033】
本発明によれば、コーティング組成物を準備する工程(B)において、電極活物質、任意選択でポリマーバインダー、および任意選択で導電性向上添加剤(例えばカーボンブラック)を混合して、自由流動性粉末としてコーティング組成物を得ることが好ましい。コーティング組成物は、電極活物質、ポリマーバインダー、および導電性向上添加剤(例えばカーボンブラック)を含むことができる。
【0034】
工程(B)で準備したコーティング組成物は、工程(A)で準備した多孔質導電性基材について上述した平均的な平均細孔径よりも小さい粒径を有することが特に好ましい。粒径は、平均的な平均細孔径と比較して、好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下、最も好ましくは20%以下の範囲である。自由流動性コーティング組成物の粒径は、レーザー回折またはシフティングなどの一般的に適用される方法によって求めることができる。
【0035】
工程(B)で準備したコーティング組成物は、好ましくは、バインダーとしてポリマーバインダーを含む。ポリマーバインダーは、特に限定されず、フッ素含有ポリマー、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム等のゴムであってもよい。バインダー、特にポリマーバインダーは、好ましくは、コーティング組成物の0~30重量%の量、より好ましくはコーティング組成物の0.5~20重量%の量、さらにより好ましくはコーティング組成物の1~15重量%の量、さらにより好ましくは1.5~7重量%の量で含むことができる。このようなフッ素含有ポリマーバインダーは、優れた電気化学的安定性を有すると同時に、電極活物質と導電性基材との密着性を良好にすることができる。フッ素含有ポリマーバインダーの好適な例として、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)およびポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)が挙げられるが、他のポリマーバインダーも使用できる。PVDF-HFP(ポリ(フッ化ビニリデン-co-ヘキサフルオロプロピレン))などのPVDF誘導体またはPTFE誘導体を使用することも可能である。しかしながら、バインダーを用いずに、あるいは他のバインダーを用いて本発明を実現することも可能である。溶媒の使用を避けることにより、バインダーの分解リスクが低減され、それにより、バインダーとして多くの異なる種類のポリマーを使用することが可能になる。これに関連して、ポリマーバインダーは好ましくは熱可塑性である。
【0036】
好ましくは、ポリマーバインダーのガラス転移温度および/または融点、特に融点は、30℃超、より好ましくは50℃超、さらにより好ましくは70℃超である。ガラス転移温度および/または融点が上記温度を上回る場合、ポリマーバインダーは、室温で非粘着性であり、それにより、工程(B)において、固結防止剤を利用しなくても、自由流動性粉末を準備することが可能になる。ポリマーバインダーのガラス転移温度(Tg)および融点(Tm)は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定できる。動作中、二次電池、例えばリチウムイオン電池は熱くなる可能性がある。ガラス転移温度および/または融点が上記範囲であることにより、電池動作中のバインダーの広範な軟化および流動を防止できる。そして、これにより、対応する電池の寿命を延ばすことができる。
【0037】
本発明による方法の工程(B)において、一価または多価イオン、特にリチウムイオンをインターカレートすることができる電極活物質を準備することが好ましい。
【0038】
好ましくは、本発明による方法の工程(B)において、コーティング組成物は、電極活物質がコーティング組成物の最大100重量%、より好ましくはコーティング組成物の最大99重量%、より好ましくは70~99重量%、さらにより好ましくは80~98重量%、最も好ましくは80~95重量%を構成するように、該組成物の成分を混合することによって準備される。多孔質導電性基材、特に金属繊維のネットワークを使用することにより、バインダーおよび導電性向上添加剤の使用を最小限に抑えることができるため、非常に大量の電極活物質を使用することが可能である。したがって、多孔質導電性基材を使用する場合、コーティング組成物は、電極活物質が、好ましくはコーティング組成物の80~100重量%、より好ましくはコーティング組成物の90~100重量%、さらにより好ましくはコーティング組成物の95~100重量%、さらに好ましくはコーティング組成物の98~100重量%、さらにより好ましくはコーティング組成物の99~100重量%、最も好ましくはコーティング組成物の100重量%を構成するように、該組成物の成分を混合することによって準備される。また、特に好ましい範囲は、コーティング組成物の95~98重量%である。
【0039】
好ましい一実施形態によれば、電極活物質は、グラファイト、グラフェン、ケイ素、炭化ケイ素(SiC)および酸化スズ(SnO)、二酸化スズ(SnO2)およびリチウムチタン酸化物(LTO)、またはそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つである。別の実施形態では、電極物質は、グラファイトと、グラフェン、ケイ素、炭化ケイ素(SiC)および酸化スズ(SnO)、二酸化スズ(SnO2)およびリチウムチタン酸化物(LTO)からなる群から選択される少なくとも1つとの混合物、特にグラファイトとケイ素および/または炭化ケイ素との混合物である。これは、本発明の方法で製造された電極が一価または多価イオン電池、特にリチウムイオン電池のアノードとして利用される場合に特に好ましい。
【0040】
別の好ましい実施形態によれば、電極活物質は、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(NMC)、リチウム・ニッケル・マンガン酸化物(NMO)、リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物(NCA)、リチウム・コバルト酸化物(LiCoO2)、およびリチウム鉄リン酸塩(LFP)からなる群から選択される少なくとも1つである。これは、本発明の方法で製造された電極が一価または多価イオン電池、特にリチウムイオン電池のカソードとして利用される場合に特に好ましい。
【0041】
本発明に従って製造された電極が、上述のように、電池のカソードまたはアノードとして利用されることが意図されているかどうかにかかわらず、電極活物質は、熱的に前処理されている、すなわち焼成されているグラファイトを含むことが好ましい。グラファイトの熱処理によって、グラファイトが自由流動性、すなわち非粘着性になることが分かった。例えば、保護ガス雰囲気(アルゴン等)下または真空中で1000℃以上に加熱することにより、熱処理を行うことができる。理論に束縛されるものではないが、熱前処理は、表面水酸化物基の数を減少させ、したがって水に対する親和性を減少させると想定される。そして、これにより、グラファイトの自由流動性挙動が改善される。製造される電極がアノード用に意図されている場合、グラファイトは電極活物質の大部分または全体であってもよく、コーティング組成物の最大100重量%を構成してもよい。あるいは、例えば上に示したものなどの別の好適なアノード電極活物質と共に使用することができる。製造される電極がカソード用に意図されている場合、グラファイトは、好ましくはコーティング組成物の20重量%まで、より好ましくはコーティング組成物の10重量%まで、さらにより好ましくはコーティング組成物の5重量%までの量で存在する。カソード電極活物質中で最小量のグラファイトを使用することに特に制限はないが、コーティング組成物の自由流動性挙動の一定の改善を得るためには、コーティング組成物の少なくとも0.5重量%、より好ましくはコーティング組成物の少なくとも1.0重量%を利用することが好ましい場合がある。
【0042】
また、本発明による方法の工程(B)において、コーティング組成物を準備する場合、導電性向上添加剤、例えばカーボンブラック、より好ましくは導電性カーボンブラックがその中に含まれることが好ましい。このようなカーボンブラックは、最終電極の内部抵抗を低減できる。このような導電性カーボンブラックは、例えば、Super-Pカーボンブラックとして入手できる。本発明の方法において、このような導電性カーボンブラックの量は、通常、コーティング組成物の10重量%未満、より好ましくはコーティング組成物の8重量%未満、さらに好ましくはコーティング組成物の6重量%未満である。導電性向上添加剤(例えばカーボンブラック)の効果を十分に発現させるためには、それをコーティング組成物の少なくとも0.2重量%の量、より好ましくはコーティング組成物の少なくとも0.5重量%の量、さらにより好ましくはコーティング組成物の少なくとも1.0重量%の量で含むことが好ましい。
【0043】
本発明の方法において、コーティング組成物の成分を混合する工程(B)は、特に制限されず、撹拌、振盪、粉砕(例えば乳鉢での粉砕)、ミリング(例えばボールミリング)等による混合などの各種の混合操作によって実現することができる。工程(B)での混合は、各成分が均一に混合された時点で終了する。電極活物質がグラファイトを含むかまたはそれからなる場合、グラファイトを活性化するために、ミリング、特にボールミリングによってグラファイトおよび任意選択で他の成分を混合することが好ましい。本発明によれば、工程において
【0044】
本発明による方法では、工程(B)で準備したコーティング組成物は乾燥している、すなわち、水および他の溶媒を本質的に含まない。これにより、コーティング組成物を自由流動性粉末として準備できる。これは、導電性基材上に容易に分配され、その上に設けられた構造、例えば細孔または他の空洞に入ることができる。さらに、水または他の溶媒の蒸発は必要とされない。
【0045】
本発明による方法の工程(C)は、好ましくは、工程(A)で準備された導電性基材の細孔または空洞を自由流動性コーティング材料で充填することを含む。
【0046】
このような細孔または空洞の充填は、各種の方法によって達成できる。一例として、自由流動性粉末は、導電性基材上/中に散在させることができる。別の例として、コーティング組成物は、従来の噴霧器または静電噴霧器を使用して、導電性基材上/中に噴霧することができる。
【0047】
細孔および空洞の充填を改善するために、本発明による方法の工程(C)において、工程(B)で準備したコーティング組成物でのコーティング中またはコーティング後に、導電性基材が動きを受けることが好ましい場合がある。そのような動きは、振盪、振動、がたつき、揺動などであってもよい。振動は、工程(C)において、例えば超音波処理によって実現できる。
【0048】
特に多孔質導電性基材を使用する場合、工程(C)でのコーティングによって、導電性基材の細孔および/または空洞を充填することが好ましい。コーティングされた基材を工程(D)に供する前に、上澄みのコーティング組成物、すなわち細孔および/または空洞に流入しなかったコーティング組成物を除去することがさらに好ましい。除去は、ドクターブレードなどを使用するなどして、スキミングによって実現できる。また、スキミングは、細孔および/または空洞の充填の改善に寄与できる。したがって、コーティングされた導電性基材の厚さは、コーティングされていない導電性基材と比較して本質的に同じとなる。
【0049】
本発明の方法においては、工程(D)において、工程(C)後に得られたコーティング組成物でコーティングされた導電性基材を圧縮することが好ましい。このような圧縮により、プロセス時間をさらに短縮できる。経済的利点に加えて、圧縮はまた、電極活物質および任意選択の添加剤の表面上にバインダーが広がるリスクを低減する。また、圧縮により最終電極の残留多孔度を制御できる。
【0050】
工程(D)では、工程(C)後に得られたコーティングされた導電性基材の厚さの10~70%の範囲で圧縮を加えることが特に好ましい。最終電極の所望の残留多孔度を調整するように、圧縮度を選択することができる。
【0051】
本発明の方法の工程(D)において、加熱によって適用される温度は、バインダー、特にポリマーバインダーのTgを上回るように設定されることが好ましい。特に工程(D)において圧縮を加える場合、適用温度はまた、バインダー、特にポリマーバインダーのTmであることが好ましい。好ましくは、適用温度は、特に工程(D)で圧縮が加えられる場合、バインダーのTgとTmとの間である。1℃~50℃の範囲、より好ましくは2℃~30℃の範囲、さらにより好ましくは3℃~20℃の範囲で、バインダーのTmを下回ることが好ましい。例えば、PVDFは、177℃のTmを有する好適なポリマーバインダーである。したがって、工程(D)での加熱では、127℃~176℃の範囲の温度、より好ましくは147℃~175℃の範囲の温度、さらにより好ましくは157℃~174℃の範囲の温度を提供するために加熱が加えられることが好ましい。一般に、工程(D)で適用される温度をバインダーのTmに近くすることが好ましい。これに関連して、50℃、30℃、または20℃からバインダーのTm未満までの温度が特に好ましい。バインダーのTmに近い温度であれば、バインダーは活性化され、コーティング組成物の各成分を一緒に結合させ、また導電性基材と結合させる。温度がバインダーのTmに近いほど、工程(D)のプロセス時間を短くすることができ、それによって経済的利点が得られるので、より好ましい。工程(D)で適用された温度がTmを上回ると、バインダーが溶融する。これにより、バインダーが電極活物質および任意選択で含まれる添加剤、例えばカーボンブラックの表面積にわたって広がり得る。これにより、電極活物質がバインダーの膜で覆われることにより、結合効果が十分に達成されず、電極性能が低下するおそれがある。したがって、適用温度は、バインダーのTmより少なくとも1℃、少なくとも2℃、または少なくとも3℃低いことが好ましい。Tmと適用温度との特定の差によって、より安定性がプロセスに付与され、偶発的な過熱、すなわちTmを上回る加熱のリスクが低減される。いくつかの材料はTgのみを有し、Tmを有さない。他の材料の場合、Tmは分解温度(Tz)を上回る。いずれの場合も、工程(D)で適用される温度をTzを下回らせることが好ましい。本明細書に示されるTzは、保護ガス雰囲気下での熱重量分析(TGA)によって求められる分解開始温度を指す。したがって、適用温度をバインダーのTgとTzとの間、好ましくはTgを少なくとも10℃上回る、より好ましくはTgを少なくとも20℃上回る、さらにより好ましくはTgを少なくとも30℃上回るが依然としてTzを下回る温度とすることも好ましい。
【0052】
加熱および圧縮は、次々に行うことができる。あるいは、より好ましくは、本発明の方法の工程(D)における加熱および圧縮は同時に行われる、すなわち、高温のコーティングされた導電性基材が圧縮される。これは、ホットプレスすること、またはコーティングされた導電性基材を加熱されたカレンダーでカレンダー加工することによって達成できる。ホットプレスまたはカレンダーロールは、適用温度に加熱される。熱は、直接接触、または上述のものなどの支持体を介して、ホットプレスまたはカレンダーロールとコーティングされた基材とを接触させることによって伝達される。
【0053】
本発明の方法の工程(D)は、各種の加熱装置を用いて実施することができる。好適な加熱装置としては、誘導炉、赤外線炉、高温セラミック加熱素子および/またはゾーン炉、例えばコンベヤ炉が挙げられる。加熱装置は、好適には連続炉またはバッチ炉であってもよい。
【0054】
工程(D)での加熱は、圧縮せずに、すなわち上述したような加熱装置を用いてコーティングされた導電性基材を加熱することによって、実施することもできる。そのような場合、バインダーのTmを上回る温度も適用することが可能である。そのような場合、適用温度は、好ましくはバインダーのTmを50℃、より好ましくは30℃、さらにより好ましくは20℃下回り、且つ好ましくはバインダーのTmを最大で20℃、より好ましくは最大で10℃、さらにより好ましくは最大で5℃上回るように設定される。外圧がないため、工程(D)がそのような圧力の印加を含む場合と比較して、処理時間が長くなる。無圧縮プロセスはプロセスに対する良好な制御を可能にするが、観察される最終電極の全体的な安定性は、いくらかの圧縮が加えられた場合により高くなる。
【0055】
さらに、本出願は、電極活物質およびポリマーバインダーを含むコーティング組成物でドライコーティングされる導電性基材を含む電極に関する。導電性基材のドライコーティングにより、溶媒を蒸発させることなくその製造が可能になる。そして、蒸発チャネルまたは気泡が含まれないので、電極活物質のより高い体積密度が可能になる。分散液でコーティングされた電極は、溶媒の蒸発、例えば蒸発チャネルおよび気泡などによって決定される構造を有する。そのような構造は、ドライコーティングを利用する本明細書に記載の方法から得られる電極には存在しない。
【0056】
好ましくは、本発明の電極は、上記および特許請求の範囲に記載される電極の製造方法によって得ることができる。
【0057】
さらに、本発明は、導電性基材、電極活物質、およびポリマーバインダーを含むドライコーティング組成物に関し、該ドライコーティングは自由流動性粉末である。コーティング組成物はドライコーティング組成物であるので、水および溶媒を本質的に含まない。
【0058】
他のドライコーティング組成物とは対照的に、導電性向上添加剤、例えば銀ワイヤ、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、または導電性バインダーの量(カソードの場合、導電性向上のためのグラファイトも含まれてもよい)は、最小限に保つことができ、または完全に回避することさえできる。これに関連して、導電性向上添加剤の含有量は、ドライコーティング組成物の総重量に基づいて、好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下、さらにより好ましくは6重量%以下である。
【0059】
本発明のドライコーティング組成物は、好ましくは導電性ポリマーバインダー、カーボンナノチューブ、および銀ナノワイヤを含まない、すなわち、それらの合計量は、好ましくは0.1重量%以下である。このような導電性ポリマーバインダーは、かなり高価であり、上記のように、ドライコーティング組成物を多孔質導電性基材と組み合わせて使用する場合には必要ではない。
【0060】
さらに、本発明は、本発明による電極を含む電池に関する。
【0061】
本発明の方法の文脈における導電性基材およびコーティング組成物について上述した詳細は、本発明の電極およびコーティング組成物に対応して適用されることを理解されたい。
【0062】
ここで、本発明を、単なる例示でしかないが、添付の図面および図を参照し、本発明のネットワークおよび方法の様々な例によって、さらに詳細に説明する。図面には以下が示されている。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】本発明によるプロセスの例示的な概略図である。
【
図2】実施例1および比較例1の電極の容量対電圧を示すグラフである。
【
図3】実施例1および比較例1の電極のサイクル挙動を示すグラフである。
【
図4】実施例1による電極の走査電極顕微鏡画像である。
【
図5】実施例5による電極の走査電極顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図1は、本発明の方法による電極1の調製を概略的に示す。まず、工程(A)において、三次元構造を有する導電性基材10を準備する。
図1には、導電性基材の断面図が示されており、黒い線は繊維のネットワークを示している。これらの繊維は、高い導電性を付与する金属繊維、炭素繊維、またはカーボンナノチューブであってもよい。コーティング組成物12は、工程(B)において準備されるが、電極活物質およびバインダー、ならびに任意選択の添加剤、例えば電極活物質でなければグラファイトおよびカーボンブラックを含む。工程(C)において、導電性基材10がコーティング組成物でコーティングされて、コーティングされた導電性基材14が得られるが、その表面にはコーティング組成物の一部が上澄み16として存在する。導電性基材10の細孔の充填性を向上させるために、コーティング組成物12で充填する際に振動などの動きを受けることができる。ドクターブレード18を用いて上澄み16を除去する。続いて、コーティングされた導電性基材14を、2つのホットカレンダーロール20間でホットカレンダー加工することにより、一工程で導電性基材を加熱および圧縮して、作製された電極を得る。これは、本発明の工程(D)に相当する。
【0065】
図2は、2つの電極の電圧対容量を示す。以下、実施例1としてさらに説明するように、本発明によるドライコーティング方法を用いて1つの電極を製造した。本発明による電極に対応するデータを黒い線で示す。また、同じ導電性基材と、スラリー状で塗布されることだけが異なるコーティング組成物とを使用して、分散技術を用いて従来法により塗布した後に蒸発させて、別の電極(比較例1)を作製した。該電極は、比較例1に相当する。比較例1による電極に対応するデータを灰色の線で示す。
図3には、
図2の電極のサイクル挙動が示されている。容易に認識できるように、性能挙動は同様である。
【0066】
図4は、実施例1の電極の走査電極顕微鏡検査を示す。その導電性基材は、互いに焼結して導電性ネットワークを形成する銅繊維、特に3重量%のケイ素を含有するCuSi3繊維からなる。顕微鏡画像において、金属繊維100は、中央の灰色領域として認識することができる。グラファイト粒子102は暗いプレートとして見えるが、バインダー104に導電性カーボンブラックが含まれているため、バインダー104は白色フレークとして認識できる。
図4では、グラファイト粒子102およびバインダー粒子104の一部についてのみ、参照符号が示されている。
【0067】
図5は、実施例5の電極の走査電極顕微鏡検査を示す。その導電性基材は、互いに焼結して導電性ネットワークを形成するアルミニウム繊維からなる。顕微鏡画像では、金属繊維100は、顕微鏡写真の左側部分の滑らかな灰色領域として認識することができる。バインダー104に導電性カーボンブラックが含まれているため、バインダー104は白色フレークとして認識できる。電極活物質NCA106は、薄灰色の球状粒子として認識できる。グラファイト粒子102はまた、暗いプレートとして認識できる。
図5では、グラファイト粒子102、バインダー粒子104、およびNCA粒子106の一部についてのみ、参照符号が示されている。
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0069】
実施例1および2では、銅繊維のネットワークを導電性基材として使用した。実施例3~5では、アルミニウム繊維のネットワークを導電性基材として使用した。金属繊維のネットワークは、国際公開第2020/016240A1号に記載されているように得ることができる。
【0070】
これらの金属繊維のネットワークから電極を調製するためのコーティング組成物は、表1に示す成分を粉末形態で準備し、それらを乳鉢で完全に混合することによって得られた。添加剤1は、バインダーに含まれる。コーティング組成物は乾燥しており、すなわち、水および他の溶媒を本質的に含まず、自由流動性粉末の形態であった。表1に示す組成物は、2D電極、すなわち金属箔、および3D電極、すなわち多孔質導電性基材、例えば金属繊維のネットワークの形態をコーティングするのに適している。両種類の導電性基材に同じコーティング組成物を用いることで、より良好に比較することができる。それにもかかわらず、3D電極の場合は、はるかに少ない量のバインダーおよび添加剤を使用すること、または全く使用しないことさえ可能である。
【0071】
【0072】
表1において、括弧内の値は、コーティング組成物全体の100重量%に基づく重量%を示す。グラファイトは、20μm未満の合成グラファイト粉末(SigmaAldrich(Art.Nr.282863))であり、焼成グラファイトである。PVDFは、ポリ(フッ化ビニリデン)(AlfaAesar(Art.Nr.44080))である。Super-Pは、導電性カーボンブラック(Alfa Aesar,(Art.Nr.H30253))である。LTOはチタン酸リチウム(Targray(Art.Nr.SLTO102))であり、NMC622はリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物(Targray(Art.Nr.SNMC03006))であり、NCAはリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物(MTI Corp.(Art.Nr.Lib-LNCA810))である。
【0073】
支持体としてのシリコン処理紙上に導電性基材を配置して、自由流動性粉末の形態のコーティング組成物が導電性基材を通って流出するのを防止した。各実施例について、表1に示す対応するコーティング組成物を対応する導電性基材上に散在させた。その後、ドクターブレードにより上澄みコーティング組成物を除去した。次に、コーティングされた導電性基材のサンプルに対して、以下に示す2つの異なるタイプの熱処理を行った。
【0074】
第1のタイプの熱処理:
実施例1~5のそれぞれのサンプルを炉内で170℃まで60分間加熱した。室温に冷却した後、サンプルをカレンダー加工によって圧縮し、厚さを約50%減少させた。カレンダー加工による圧縮後のサンプルの厚さは、150μm~200μmの範囲であった。
【0075】
第2のタイプの熱処理:
カレンダーロールの温度を160℃、速度を5m/分として、実施例1~5のそれぞれのサンプルをホットカレンダー加工した。カレンダー加工において、カレンダー加工による圧縮後のサンプルの厚さが150μm~200μmの範囲になるように、サンプルの50%圧縮が達成された。
【0076】
熱処理後、直径14mmのディスクをサンプルから打ち抜いた。両方のタイプの熱処理は電極を調製するのに成功したが、第2のタイプの熱処理(ホットカレンダー加工)では、電極活物質と導電性基材との密着性がより良好になったことが分かった。ディスクを打ち抜く際、わずかな量の電極活物質のみが失われた。対照的に、第1のタイプの熱処理(圧縮なしで加熱後、室温で圧縮)を適用した場合、ディスクを打ち抜く際の電極活物質の損失は、打ち抜かれたディスクの縁部で観察できたが、ディスクの中心で活物質は失われず、すなわち、ここでも許容可能な電極が得られた。14mmディスクをコイン電池において金属リチウムに対して試験した。
【0077】
また、比較例1として、導電性基材として実施例1に用いた金属繊維のネットワークを一般的なウェットコーティングプロセスによりコーティングした。ウェットコーティングプロセスでは、実施例1~5に用いたコーティング組成物をアセトンに分散させた。国際公開第2020/016240A1号に記載されているように、電極を調製した。
【0078】
実施例1および比較例1の電極は、
図2および
図3に示す測定によって示されるように、容量およびサイクル挙動の観点から同等の性能を示した。また、機械的安定性の観点から、これらの電極の性能は、特に第2のタイプの熱処理(ホットカレンダー加工)を適用した場合、同等であった。それにもかかわらず、実施例1の電極は、無溶媒ドライコーティングを用いて調製することができ、すなわち、実施例1の電極を調製するために健康および/または環境に有害な溶媒は必要とされない。さらに、本発明の電極はドライコーティングを用いて調製されるので、溶媒の蒸発が不要であり、その結果、溶媒の蒸発に起因するチャネルおよび気泡が存在しないため、電極のより高い体積充填率を得ることが可能である。
【0079】
実施例1~5の電極はまた、国際公開第2020/016240A1号に開示された三次元電極について観察された、二次元電極と比較して改善された安定性を示した。したがって、実施例1~5の電極を折り曲げた場合(一方の側に90°、他方の側に180°、その後元の位置に戻す)、電極活物質が1~3重量%しか失われなかった。実施例1で観察された損失は、実施例2のように、バインダーの量を減らしても増加しなかった。また、実施例3~5の電極は、折り曲げに供した場合、同等に低い活物質損失を示す。これに対して、二次元電極(導電性基材として銅またはアルミニウム箔)を同じ折り曲げに供すると、電極活物質が導電性基材から剥離し、電極の機能性が失われる。
【符号の説明】
【0080】
1 電極
10 導電性基材
12 コーティング組成物
14 コーティングされた導電性基材
16 上澄み
18 ドクターブレード
20 カレンダーロール
100 金属繊維
102 グラファイト粒子
104 バインダー
106 NMC粒子
【国際調査報告】