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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-05
(54)【発明の名称】リチウム空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20240628BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H01M12/08 K
H01M4/96 M
H01M4/96
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577695
(86)(22)【出願日】2022-06-16
(85)【翻訳文提出日】2023-12-15
(86)【国際出願番号】 US2022033890
(87)【国際公開番号】W WO2022266393
(87)【国際公開日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】63/211,445
(32)【優先日】2021-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/485,888
(32)【優先日】2021-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519124844
【氏名又は名称】ライテン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】LYTEN, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガズダ,イェジー
(72)【発明者】
【氏名】バンヒュースデン,カレル
(72)【発明者】
【氏名】ブッガ,ラトナクマール
(72)【発明者】
【氏名】クック,ダニエル
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018EE02
5H018EE05
5H018HH01
5H018HH04
5H032AA02
5H032AS02
5H032AS12
5H032CC11
5H032EE03
5H032EE04
5H032EE13
5H032HH04
(57)【要約】
電池は、アノードと、アノードに対向して配置されたカソードと、アノードとカソードとの間に配置されたセパレータと、カソード全体に分散され、アノードに接触した電解質と、二重細孔系とを含み得る。アノードは、複数のリチウムイオンを放出するように構成され得る。カソードは、複数の多孔質非中空炭素質球状粒子によって画定された複数の経路を含み得、かつ複数の炭素質構造を含み得、それぞれが多孔質非中空炭素質球状粒子の群の合体に基づき得る。二重細孔系は、カソードに配置され、複数の炭素質構造によって形状及び配向が規定され得る。いくつかの態様では、二重細孔系は、周囲雰囲気から気体酸素を受け取るように構成されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム空気電池であって、
アノードと、
炭素質構造の配列で形成され、前記アノードに対向して配置されたカソードであって、前記カソードが、
前記炭素質構造の第1の群によって画定される複数の細孔であって、前記細孔が、周囲空気から供給された酸素が前記カソードに入ることを可能にするように構成されている、前記細孔と、
前記炭素質構造の第2の群によって画定される複数の相互接続された経路であって、前記相互接続された経路が、前記カソード全体にわたって前記酸素を拡散させるように構成されている、前記相互接続された経路と、
前記経路のそれぞれの内部に形成されているか、または前記経路のそれぞれに付随している1つ以上の空洞であって、各空洞が、リチウム金属を貯蔵するように構成されている、前記1つ以上の空洞と、
を含む、前記カソードと、
前記カソード全体にわたって分散された電解質であって、前記電解質が、前記アノードと流体接触している、前記電解質と、
前記複数の細孔のうちの少なくとも一部を、選択的に前記周囲空気に露出させるように構成された1つ以上の開口部と、
を備える、前記リチウム空気電池。
【請求項2】
前記アノードが、リチウム金属で構成されている、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項3】
各炭素質構造が、対応する群のカーボンナノオニオン(CNO)粒子の合体に基づいている、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項4】
各炭素質構造が、複数の相互接続されたグラフェンフレークをさらに含む、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項5】
各炭素質構造が、平坦なグラフェン、しわの付いたグラフェン、湾曲したグラフェン、または多孔質の非中空球状粒子のうちの1つ以上をさらに含む、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項6】
前記CNO粒子が、約5ナノメートル~500ナノメートルの間の半径を有する、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項7】
前記炭素質構造の第1の群の前記CNO粒子の少なくとも一部が、100ナノメートルを超える半径を有する、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項8】
前記少なくとも一部のCNO粒子のそれぞれが、複数の前記空洞を含む、請求項7に記載のリチウム空気電池。
【請求項9】
前記炭素質構造の第1の群の前記CNO粒子の少なくとも一部が、疎水性であるように構成されている、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項10】
前記炭素質構造の第1の群の前記疎水性CNO粒子が、前記複数の細孔のうちの1つ以上に向かう表面に沿った水滴の移動を抑制する、請求項9に記載のリチウム空気電池。
【請求項11】
前記炭素質構造の第2の群の前記CNO粒子の少なくとも一部が、親水性であるように構成されている、請求項3に記載のリチウム空気電池。
【請求項12】
前記炭素質構造の第2の群の前記親水性CNO粒子が、前記親水性CNO粒子のそれぞれの表面に沿って水滴が連続的な水膜を形成することを可能にする、請求項11に記載のリチウム空気電池。
【請求項13】
前記連続的な水膜が、前記連続的な水膜内の凝集力と、前記連続的な水膜と前記親水性CNO粒子のそれぞれの表面との間の粘着力とに起因して平衡状態にある、請求項12に記載のリチウム空気電池。
【請求項14】
前記連続的な水膜に伴う表面張力は、前記連続的な水膜の前記水滴が前記カソードに蓄積するのを防止する、請求項12に記載のリチウム空気電池。
【請求項15】
前記空洞の少なくとも一部が、約0.6ナノメートル~6.6ナノメートルの間の直径を有する、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項16】
前記炭素質構造の第3の群によって画定された複数の他の相互接続された経路であって、前記複数の他の相互接続された経路が、前記炭素質構造の第2の群によって画定される前記相互接続された経路のうちの少なくとも一部分から、望ましくない副生成物を除去するように構成されている、前記複数の他の相互接続された経路をさらに備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項17】
前記アノードと前記カソードとの間に配置されたセパレータをさらに備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項18】
前記アノード上に配置された保護層をさらに備え、前記保護層が、
前記アノードの1つ以上の露出面上に堆積されたポリマーネットワークであって、前記ポリマーネットワークが、互いに架橋された複数のフッ素化ポリマー鎖がグラフトされた前記炭素質構造を含む、前記ポリマーネットワークと、
前記ポリマーネットワーク、及び前記アノードによって供給されたリチウムから形成されたフッ化リチウム(LiF)膜と、
を備える、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【請求項19】
前記フッ化リチウム膜上に堆積された外層をさらに備え、前記外層が、ポリマーまたはエポキシカプセル化イオン導電体のうちの1つ以上を含む、請求項18に記載のリチウム空気電池。
【請求項20】
前記炭素質構造のそれぞれが、グラフェンナノシートの3次元(3D)スタックを含む、請求項1に記載のリチウム空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2021年9月27日に出願された「LITHIUM-AIR BATTERY」と題する米国特許出願第17/485,888号の一部継続出願であり、同出願に対する優先権を主張するものであり、同出願は、2021年6月16日に出願された「LITHIUM-AIR BATTERY」と題する米国仮特許出願第63/211,445号に対する優先権を主張するものであり、これらは全て本出願の譲受人に譲渡される。先行出願の開示は、本特許出願において参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本開示は、一般に、リチウム空気電池に関し、より詳細には、細孔経路を備えたカソードを有するリチウム空気電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム空気電池は、携帯通信装置から電気自動車まで幅広い様々な負荷に電力を供給するために使用できる。リチウム空気電池は、カソード活物質として酸素を使用し、例えば、電池放電サイクル中にアノードでリチウムを酸化するとともに、電池放電サイクル中にカソードで酸素を酸化リチウムに還元する。電池充電サイクル中には、その逆のことが行われる。カソード活物質として周囲の空気から供給される酸素を使用することにより、リチウム空気電池はカソード活物質を貯蔵する必要がない。リチウム空気電池は極めて高い理論上の比エネルギー(例えば、11,000Wh/kg超)を有するが、実際の比エネルギーは、電子移動の速度が遅いこと、及び/または酸化還元反応へのカソード多孔質形状の利用が不完全であることのため、低くなる場合があり、リチウム空気電池の動作サイクル中にカソードに酸化リチウム及びその他の副生成物が蓄積することにより、カソードへの酸素の流入及びカソード全体にわたる酸素の流れが制限され、その結果、リチウム空気電池の性能が低下する場合がある。したがって、リチウム空気電池のさらなる改善が望まれる。
【発明の概要】
【0004】
本発明の概要は、以下の発明を実施するための形態にさらに説明されている概念の一部を簡略化された形式で紹介するために提供されている。本発明の概要は、特許請求されている主題の重要な特徴または本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、特許請求されている主題の範囲を限定することを意図したものでもない。
【0005】
本開示に記載されている主題の革新的な一態様は、リチウム空気電池で実施され得る。本リチウム空気電池は、アノードと、アノードに対向して配置されたカソードと、カソード全体にわたって分散された電解質と、カソードを周囲空気に選択的に露出させるように構成された1つ以上の開口部とを含み得る。いくつかの実施態様では、カソードは、炭素質構造の配列から形成され得、炭素質構造の第1の群によって画定される複数の細孔と、炭素質構造の第2の群によって画定される複数の相互接続された経路と、経路のそれぞれの内部に形成されるか、または経路のそれぞれに付随する1つ以上の空洞とを含み得る。いくつかの例では、細孔は、周囲空気から供給された酸素がカソードに入り込むことを可能にするように構成され得、相互接続された経路は、カソード全体にわたって酸素を拡散するように構成され得、空洞のそれぞれは、リチウム金属を貯蔵するように構成され得る。いくつかの態様では、アノードはリチウム金属で構成される。
【0006】
様々な実施態様において、炭素質構造のそれぞれは、対応する群のカーボンナノオニオン(CNO)粒子の合体に基づき得る。いくつかの例では、炭素質構造のそれぞれは、複数の相互接続されたグラフェンフレークを含んでもよい。他の例では、炭素質構造のそれぞれは、平坦なグラフェン、しわのあるグラフェン、湾曲したグラフェン、または多孔質の非中空球状粒子のうちの1つ以上を含んでもよい。いくつかの態様においては、CNO粒子は、約5ナノメートル~500ナノメートルの間の半径を有する。他の態様において、炭素質構造の第1の群のCNO粒子の少なくとも一部は、100ナノメートルを超える半径を有し、複数の空洞を含む。他のいくつかの例では、炭素質構造のそれぞれは、グラフェンナノシートの3次元(3D)スタックを含む。
【0007】
いくつかの実施態様では、炭素質構造の第1の群のCNO粒子の少なくとも一部は、疎水性に構成されていてもよい。いくつかの例では、炭素質構造の第1の群の疎水性CNO粒子は、複数の細孔のうちの1つ以上に向かう表面に沿った水滴の移動を抑制する。他の実施態様では、炭素質構造の第2の群のCNO粒子の少なくとも一部が、親水性であるように構成され得る。いくつかの例では、炭素質構造の第2の群の親水性CNO粒子が、親水性CNO粒子のそれぞれの表面に沿って水滴が連続的な水膜を形成することを可能にする。いくつかの態様では、連続的な水膜が、連続的な水膜内の凝集力と、連続的な水膜と親水性CNO粒子のそれぞれの表面との間の粘着力とに起因して平衡状態にあり得る。連続的な水膜に伴う表面張力は、連続的な水膜の水滴がカソードに蓄積するのを防止する。
【0008】
いくつかの例では、リチウム空気電池はまた、炭素質構造の第3の群によって画定された複数の他の相互接続された経路を含んでもよい。いくつかの例では、複数の他の相互接続された経路が、炭素質構造の第2の群によって画定される相互接続された経路のうちの少なくとも一部分から、望ましくない副生成物を除去するように構成され得る。他の例では、リチウム空気電池は、アノードとカソードとの間に配置されたセパレータを含んでもよい。
【0009】
いくつかの他の実施態様では、リチウム空気電池はまた、アノード上に配置された保護層を含み得る。いくつかの例では、保護層は、アノードの1つ以上の露出面上に堆積されたポリマーネットワークであって、ポリマーネットワークが、互いに架橋された複数のフッ素化ポリマー鎖がグラフトされた炭素質構造を含む、ポリマーネットワークと、ポリマーネットワーク、及びアノードによって供給されたリチウムから形成されたフッ化リチウム(LiF)膜とを含み得る。いくつかの態様において、リチウム空気電池はまた、フッ化リチウム膜上に堆積された外層を含み得る。外層は、ポリマーまたはエポキシカプセル化イオン導電体のうちの1つ以上を含み得る。
【0010】
本開示に記載されている主題の1つ以上の実施態様の詳細は、添付の図面、及び以下の説明に記載されている。他の特徴、態様、及び利点は説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかになる。以下の図の相対寸法が縮尺どおりに描かれていない場合があることに留意されたい。
【0011】
以下に記載されている図面は、例示のみを目的としたものである。これらの図面は、本開示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】いくつかの実施態様による、例示的な電池を図示する図を示す。
図2】いくつかの実施態様による、図1の電池のカソードを図示する図を示す。
図3】いくつかの実施態様による、ポリマーネットワークの図を示す。
図4】A及びBは、いくつかの実施態様による、様々な炭素質材料の顕微鏡写真を示す。
図5A】いくつかの実施態様による、グラフェン粉末のSEM顕微鏡写真を示す。
図5B】いくつかの実施態様による、熱プロセスによって生成された結節状炭素のSEM顕微鏡写真を示す。
図5C】いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理した炭素のSEM顕微鏡写真を示す。
図5D】いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理した炭素のSEM顕微鏡写真を示す。
図6】いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理後の3次元(3D)グラフェンの顕微鏡写真を示す。
図7】いくつかの実施態様による、例示的な炭素質粒子の細孔幅に対する細孔容積の例示的な分布を図示するグラフを示す。
図8A】3~15層の炭素原子を有する数層グラフェン(FLG)の疎水性挙動を図示する例示を示す。
図8B】リチウム空気電池の例示的なフラッディングを図示する例示を示す。
図9A】リチウム空気電池の充電状態を図示する例示を示す。
図9B】リチウム空気電池の放電状態を図示する例示を示す。
図10】様々な種類のFLGを図示する例示を示す。
図11】複数の単一粒子から形成された凝集体を図示する例示1100を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
様々な図面における同様の参照番号及び参照記号は同様の要素を示す。
【0014】
以下の説明は本開示の革新的な態様を説明する目的のためにいくつかの例示的な実施態様を対象とする。しかしながら、当業者は本明細書の教示が多数の異なる方法で適用され得ることを容易に認識するであろう。記載されている実施態様は、任意の種類の電気化学セル、電池または電池パックにおいて実施することができ、種々の性能関連の欠陥を補償するために使用することができる。したがって、開示されている実施態様は本明細書で提供される実施例によって限定されるべきではなく、むしろ、添付の特許請求の範囲によって企図される全ての実施態様を包含する。さらに、本開示の周知の要素については、本開示の関連する細部を不明瞭にしないために、詳細に記載することはせず、または省略することにする。
【0015】
本明細書で使用される場合、「多孔度」とは、材料の幾何学的体積に対する、材料中の細孔または空隙の体積の比を指す。多孔度は、限定するものではないがBET法及びガス透過性測定などの適切な方法を用いて測定することができる。本明細書で使用される場合、用語「約」及び「ほぼ」は、例えば数値範囲の端点における所与の値が、端点より「少し上」または「少し下」であってもよいことを示すためなど、余裕を持たせるために用いられる。特定の変数の余裕の程度は、コンテキストに基づいて当業者によって容易に決定され得る。識別された特性または状況に関して本明細書で使用される場合、「実質的に」とは、識別された特性または状況を測定可能な程度まで損なわないように十分に小さい偏差の程度のことを意味する。許容可能な偏差の正確な程度は、いくつかの例では特定のコンテキストに依存し得る。
【0016】
さらに、濃度、量などの数値データは、本明細書では範囲の形式で提示される場合がある。係る範囲形式は、単に便宜のため、及び簡潔にするために使用されるものであり、範囲の制限として明示的に記載された数値を含むだけでなく、あたかも各数値及び部分範囲が明示的に記載されているかのように、その範囲内に包含される全ての個々の数値または部分範囲を含むものと柔軟に解釈されるべきであることを理解されたい。例えば、約1~約2.5の数値範囲は、明示的に記載された1~約2.5の制限を含むだけでなく、2、3、4などの個々の数値、及び1~3、2~4などの部分範囲なども含むと解釈されるべきである。同じ原則は、「約2.5未満」などの1つの数値のみを記載する範囲にも適用され、これは、上記の値及び範囲を全て含むと解釈されるべきである。さらに、このような解釈は、記載されている範囲または特性の広さに関係なく適用されるべきである。
【0017】
電池は、典型的には(限定するものではないが)、携帯電話、ラップトップコンピュータ、電気自動車(EV)、工場、及び建物などの多種多様なデバイスに電力を供給するために、直列及び/または並列ネットワークに接続され得るいくつかの電気化学セルを含む。電解質は、電気化学セル及び全ての種類の電池、特にリチウム系電池における主要な構成要素であり、使用される電解質の種類によってまたは制御されない電池副反応によって性能が制限され得る。結果的に、電解質を最適化することで、それぞれの電池のサイクル性、比放電容量、放電容量保持率、安全性、及び寿命を含む全体的な性能を向上させ得る。
【0018】
リチウム空気電池は、カソード活物質として周囲空気から供給される酸素を使用し、アノードとしてリチウム金属を使用する。リチウム空気電池に多孔質カソードを使用することにより、電池の放電反応中に周囲空気から供給された気体酸素がカソード全体に拡散してリチウムイオンと反応することが可能になり、電池の充電プロセス中に気体酸素が周囲空気に戻ることが可能になる。カソード活物質として酸素を使用することにより、リチウム空気電池は、カソードで利用可能な酸素が豊富になることから、一次電池または再充電可能電池のいずれにおいても、他の種類の電池よりも大きなエネルギー貯蔵能力を提供することができる。換言すれば、酸素をカソード活物質として使用することにより、リチウム空気電池は、カソード活物質を貯蔵する必要がないので、リチウム空気電池の比エネルギー及びエネルギー貯蔵能力が、カソードに貯蔵可能なカソード活物質の量によって制限されることがない。
【0019】
リチウム空気電池のサイクルに付随して、酸素還元が、固体(カソード)、液体(電解質)及び気体(酸素)が互いに接触するような3相の境界で起こり得る。代替形態では、このような構成は、リチウムイオンが液体電解質中を移動する及び/または輸送されるための利用可能な経路、気体酸素がカソード内の細孔経路中を移動する及び/または輸送されるための利用可能な経路、及び電子がカソード内の炭素質材料中を伝導されるための利用可能な経路を提供する。このように、リチウム空気電池では、高度に多孔質のカソード構造を使用して、利用可能な電気化学反応面積を増加させ、それによって、そのリチウム空気電池からの電流伝導を増加させ得る。
【0020】
リチウム空気電池の連続した放電及び充電サイクルの間に、カソードで生成される放電生成物は、電池性能に動態学的に影響を及ぼし、電池の比エネルギー、エネルギー容量、及び寿命を低下させる可能性がある。例えば、カソードにおけるリチウムイオンと酸素との化学反応は、二酸化リチウム(LiO)及び超酸化リチウム(Li)を生成し得る。二酸化リチウム、及びいくつかの例では超酸化リチウムは、リチウム空気電池に使用される特定の種類の電解質に不溶性であり、したがって電解質を通ってカソードから離れて拡散することができない。その代わりに、これらの酸化リチウム生成物は、カソード内に捕らわれ、電池の動作サイクル中に周囲空気からカソード内に酸素を供給することに関与する種々の細孔内、特に細孔入口(例えば、細孔「口」)、及び経路に蓄積する場合がある。そのような副生成物のとめどない蓄積により、これらの細孔及び/または経路が詰まる、または塞がれる場合があり、それによって、リチウム空気電池内の電流の発生に関連する化学反応に関与するためにカソードで利用可能な酸素の量が減少する場合がある。
【0021】
本開示の態様は、従来のリチウム空気電池では、酸化リチウム生成物をカソードから除去することができない場合があり、したがって、カソードの細孔及び/または経路内におけるこれらの酸化リチウム生成物の蓄積を制御することができない場合があることを認識する。本明細書に開示される主題の様々な態様によれば、周囲空気から供給される酸素をカソードに引き入れることに関与する細孔及び/または経路から、これらの生成物の蓄積を抽出し、または除去するために、様々な寸法の貯蔵経路及び貯蔵空洞の相互接続ネットワークをリチウム空気電池のカソード内に設けてもよく、それによって、リチウム空気電池の充放電サイクル中に、これらの細孔及び/または経路がカソードに送り届けることのできる酸素の量を増加させる。電池の充電サイクル及び放電サイクルの間にそれぞれ酸化リチウム及びリチウムイオンと反応するためにカソードで利用可能な酸素量を増加させることにより、本明細書に開示される主題の態様は、リチウム空気電池の比エネルギー容量及び実効寿命を増加させ得る。いくつかの例では、これらの経路は、カソード内で互いに合体して、より大きな多孔質炭素質構造を形成する多孔質の非中空炭素質球状粒子によって、形状、サイズ、及び配向が規定され得る。
【0022】
図1は、いくつかの実施態様による、例示的な電池100を図示する図を示す。電池100は、電池100の外部の環境に付随する周囲空気170と流体連通するリチウム空気電池であり得る。いくつかの実施態様では、電池100は、カソード110と、カソード110に対向して配置されたアノード120と、電解質130と、固体電解質相間界面(SEI)層140と、ポリマーネットワーク150と、バリア層160とを含み得る本体105を有する。他のいくつかの実施態様では、SEI層140またはポリマーネットワーク150のうちの1つ以上を電池100から省略してもよい。簡単にするために図1には示されていないが、電池100は、カソード110に隣接して配置された第1の基板を含んでもよく、この第1の基板の上にカソード110を配置してもよく、さらにアノード120に隣接して配置された第2の基板を含んでもよく、この第2の基板の上にアノード120を配置してもよい。いくつかの実施態様では、第1の基板及び第2の基板は、選択的にエッチング可能であり、炭素質材料でコーティング可能であり、及び/または電池100のエネルギー容量及び比エネルギーを変化させるかまたは調整するのに適した材料で処理可能な固体銅金属箔であり得る。他の実施態様では、第1の基板及び第2の基板は、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼及び/または1つ以上の炭素質材料のうちの選ばれたものを含んでもよく、またはその選ばれたものから形成されてもよい。
【0023】
いくつかの他の実施態様では、第1の基板及び第2の基板は、金属発泡体、金属ウェブ、金属スクリーン、穴あき金属、またはシートベース3D構造のいずれか1つ以上から選択される少なくとも部分的に発泡体ベースであり得る。いくつかの態様では、第1の基板及び第2の基板は、金属繊維マット、金属ナノワイヤマット、導電性ポリマーナノファイバマット、導電性ポリマー発泡体、導電性ポリマー被覆繊維発泡体、炭素発泡体、グラファイト発泡体、またはカーボンエアロゲルであり得る。いくつかの他の態様では、第1の基板及び第2の基板は、カーボンキセロゲル、グラフェン発泡体、酸化グラフェン発泡体、還元された酸化グラフェン発泡体、炭素繊維発泡体、グラファイトファイバ発泡体、剥離されたグラファイト発泡体、またはそれらの任意の組み合わせであってもよい。第1の基板及び第2の基板の特定の組成及び構成は、電池100の特定の最終使用用途及び/または性能要件に応じて異なり得る。
【0024】
カソード110は、電池100の正極として機能し得る。いくつかの実施態様では、カソード110は、電池100の動作サイクル中に周囲空気170から供給される酸素をカソード110全体にわたって拡散する、または行き渡らせることができる、複数の相互接続された細孔112及び経路114を含み得る。細孔112及び経路114は、カソード110の1つ以上の部分にわたって配置され、分布し、または別の方法で配列された種々の多孔質の非中空炭素質球状粒子によって画定されてもよい。多孔質の非中空炭素質球状粒子の群は、互いに合体して、カソード110内により大きな炭素質構造を形成し得る(簡略化のために、多孔質の非中空炭素質球状粒子も、より大きな炭素質構造も、図1に示していない)。多孔質の非中空炭素質球状(NHCS)粒子は、より大きな炭素質構造を形成するために、様々な濃度レベルで互いに接合し得、より高い濃度レベルはより高い電気伝導度と関連し得る。種々の実施態様では、細孔112及び経路114の第1の群は、周囲空気170から供給される酸素がカソード110全体にわたって入り込みかつ拡散することを可能にするように配列され、サイズ調整されてもよく、経路114及び空洞116の第2の群は、細孔112及び経路114の第1の群から望ましくない化学副生成物180を除去することができるように配列され、サイズ調整されてもよい。いくつかの例では、経路114及び空洞116の第2の群は、細孔112及び経路114の第1の群から除去された副生成物180を保持しまたは貯蔵することができる。このようにして、経路114及び空洞116の第2の群は、カソード110内に蓄積し得る副生成物180、及び/または細孔112及び経路114の第1の群の表面に付着し得る副生成物180を、細孔112及び経路114の第1の群から離すことができる。本明細書で使用するとき、図2に関してより詳細に記載されるように、用語「輸送孔」及び「輸送経路」は、細孔112及び経路114の第1の群を指す場合があり、用語「貯蔵経路」及び「貯蔵空洞」は、経路114及び空洞116の第2の群を指す場合がある。
【0025】
様々な実施態様では、カソード110は、例えば電池100の比容量を増加させるために、電池100内の酸素還元プロセスの反応速度を向上させることができる1つ以上の金属触媒を含む場合がある。例えば、いくつかの態様では、カソード110用の触媒として、マンガン、コバルト、ルテニウム、白金、銀、またはコバルトとマンガンとの混合物を、純粋な金属形態で、または追加の金属もしくは他の元素を用いて形成された化合物として、使用することができる。いくつかの例では、カソード110内で酸化マンガン触媒を使用することで、結果として、約3,137mA・H/gの炭素の比容量をもたらし得る。
【0026】
アノード120は、電池100の負極として機能し得る。いくつかの実施態様では、アノード120は、いかなる炭素または炭素質材料も含まないリチウム金属(例えば、リチウム元素)の単一層として形成され得る。すなわち、従来の多くのリチウム空気電池に使用されるアノードとは異なり、電池100のアノード120は、炭素足場または他の炭素質材料を含まず、その代わりにリチウム金属を含む。その結果、アノード120は、同様のサイズの炭素系アノードよりも酸化のためのリチウムを多く供給してもよく、それによって、そのような従来のリチウム空気電池と比べて、電池100のエネルギー容量及び比エネルギーを増加させ得る。いくつかの例では、アノード120は、アノード120からのリチウムデンドライトの形成及び成長を抑制するように構成された固体電解質と共に機能し得る。
【0027】
電解質130は、カソード110全体にわたって分散されていてもよく、アノード120の1つ以上の表面と接触していてもよい。電解質130は、電池100の動作サイクル中にアノード120とカソード110との間でリチウムイオンを輸送することができる任意の適切な材料または混合物であり得る。いくつかの実施態様では、電解質130は、液相電解質(例えば、非プロトン性液相電解質溶液)であってもよい。他のいくつかの実施態様では、電解質130は、いくつかある例の中で特に、固体ポリマー、ゲルポリマー(無機ガラス質またはセラミック電解質など)であってよい。いくつかの例では、電解質130は、ゲル相の状態で始まり、その後、電池100の活性化後に固化し得る。
【0028】
SEI層140は、アノード120の1つ以上の表面に、電解質130に近接して、または電解質130に接触して、配置してもよい。いくつかの例では、SEI層140が、電池100の動作サイクル中にアノード120によって供給されるリチウムと電解質130との間の反応に応じて、アノード120上に形成され得る。SEI層140は、スズ、マンガン、モリブデン、及び/またはフッ素化合物を含んでもよい。モリブデンが提供するカチオンは、フッ素化合物が提供するアニオンと相互作用して、フッ化スズ(II)(SnF)、フッ化マンガン(II)(MnF)、窒化ケイ素(Si)、窒化リチウム(LiN)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸リチウム(LiPO)、酸化マンガン、またはリチウムランタン酸化ジルコニウム(LLZO,LiLaZr12)など(ただしこれに限定されない)の塩の1つ以上の種類または構造を生成し得る。
【0029】
いくつかの実施態様では、SEI層140は、電池100の構造的支持をもたらす機械的強度エンハンサ(簡略化のために図示せず)を含んでもよい。いくつかの例では、機械的強度エンハンサは、リチウムデンドライトがアノード120上に形成されること及び/またはアノード120から成長することを防止する場合もある。機械的強度エンハンサは、アノード120上の保護コーティングとして形成されてもよく、1つ以上の炭素同素体、カーボンナノオニオン(CNO)、ナノチューブ(CNT)、還元型酸化グラフェン、酸化グラフェン(GO)、及び/またはカーボンナノダイヤモンドを含んでもよい。他のいくつかの実施態様では、SEI層140は、いかなる機械的強度エンハンサも含まない場合がある。
【0030】
ポリマーネットワーク150は、アノード120の1つ以上の露出面に堆積されまたは形成され得る。いくつかの実施態様では、ポリマーネットワーク150は、SEI層140の1つ以上の部分にわたって均等に散在していてよく、かつ互いに架橋したフッ素化ポリマー鎖でグラフトされた種々の炭素質構造を含み得る(簡略化のために、炭素質構造もフッ素化ポリマー鎖も図1には示されていない)。具体的には、炭素質材料をフッ素化ポリマー鎖でグラフトして、アノード120の1つ以上の露出面に堆積させてもよい。フッ素化ポリマー鎖は、アノード120からのリチウム金属とウルツ反応を介して錯化した際に、ポリマーネットワーク150を形成するように架橋することができる。このようにして形成されると、ポリマーネットワーク150は、アノード120からのリチウムデンドライトの形成を抑制し得る。いくつかの実施態様では、ポリマーネットワーク150の少なくとも一部を形成する炭素質材料は、グラフェン、数層グラフェン、多層グラフェン、グラフェンナノ粒子、3Dグラフェン足場などを含み得る(が、これらに限定されない)。炭素質材料は、炭素-フッ素(C-F)結合を介してフッ素化ポリマー鎖で化学的にグラフトされ得る。いくつかの態様では、これらのC-F結合は、アノード220からのリチウム金属と化学的に反応して、高イオン性の炭素-リチウム結合(C-Li)を生成し得る。このC-Li結合は、炭素質材料とフッ素化ポリマー鎖との間のC-F結合と反応して、新たに炭素-炭素結合を形成し得る。これらの新規の炭素-炭素結合は、ポリマー鎖を架橋させてポリマーネットワーク150を形成するためにも使用され得る。
【0031】
いくつかの実施態様では、ポリマーネットワーク150は、フッ化リチウムの層(簡略化のために図示せず)を含み得る。フッ化リチウム層は、リチウムイオン122とフッ素イオンとの間の化学結合に応じて形成され得る。いくつかの態様では、フッ化リチウム層はまた、上記の「新規の」炭素-炭素結合によって生成されたフッ化リチウムを含み得る。いくつかの例では、フッ化リチウム層は、リチウムイオン122が、互いに結合及び/または反応を起こしにくくなるとともに、ポリマーネットワーク150に埋め込まれたフッ素化ポリマー鎖によって利用されるフッ素原子と結合及び/または反応を起こしやすくなるように、ポリマーネットワーク150の外周に沿って均一に分布していてもよい。他のいくつかの実施態様では、電池100は、ポリマーネットワーク150を含まない場合がある。
【0032】
バリア層160は、カソード110付近の電池本体105の外面上に取り外し可能に配置され得る。電池100が休止状態にある場合(例えば、ユーザによる購入及び活性化より前の倉庫内または商品棚にある場合など)、バリア層160は、電池本体105に取り付けられ、カソード110に関連する細孔112及び経路114が周囲空気170に対して封止されるように配列されてもよい。このようにして、バリア層160は、周囲空気170から供給された酸素がカソード110に入って、電池100内のリチウムと反応することを防止することができる。このようにして、バリア層160は、休止状態にある間の電池100の不注意による活性化を防止し得る。
【0033】
いくつかの実施態様では、ユーザは、電池本体105の外面からバリア層160を除去することにより、電池100を活性化させ得る。例えば、バリア層160が除去されるか、または何らかの他の理由でバリア層160が存在しない場合、周囲空気170から供給された酸素は、カソード110に形成された細孔112及び経路114に入り込み、カソード110全体にわたって拡散することができる。既に述べたように、酸素は、電池放電サイクル中にアノード120から供給されるリチウムを酸化するために使用され得、電池放電サイクル中に酸素還元反応のために使用され得る。そのため、バリア層160を電池本体105の外面から除去することで、周囲空気170から供給された酸素がカソード110に入り込み、電池100内部の様々な化学反応に関与できるように、電池100が活性化される。
【0034】
いくつかの態様では、電池100は、アノード120上でのデンドライト形成及びアノード120からのデンドライト成長をさらに抑制することができるセパレータ(簡略化のために図示せず)を含んでもよい。セパレータは、電解質130と同様のイオン伝導性を有し得、それにもかかわらずなおもリチウムデンドライト形成を抑制し得る。いくつかの態様では、セパレータは、金属リチウムと化学的に反応しないセラミック含有材料から形成される場合があり、その結果、電解質130を通る電子の流れまたは通過を妨げることによって短絡を防止しつつ、セパレータを通るリチウムイオン輸送を制御するために使用されてもよい。
【0035】
既に述べたように、電池100がリチウム空気電池として動作するように構成されている場合、周囲空気170から供給される酸素が活性カソード物質として使用される。周囲空気170から供給される酸素を使用することにより、カソード110内に活物質を全く貯蔵することなく、リチウム空気電池100を動作させるために十分な活物質の供給を確保し得る。具体的には、電池放電サイクル中、アノード120から供給されたリチウムが、周囲空気170によって酸化して、リチウムイオン122及び自由電子124を生成する。アノード120において生じる半反応を、以下のように表され得る。
Li⇔Li+e (式1)
【0036】
リチウムイオン124は、電解質130を介してアノード120からカソード110へ移動する。周囲空気170から供給された酸素ガス(O)は、カソード110の輸送孔112に入り込み、輸送経路114を通ってカソード110全体にわたって拡散する。酸素ガスは、カソード110においてリチウムイオン122と反応して、酸化リチウムを生成する。自由電子124は、外部回路を介してアノード120からカソード110に移動し、それによって外部回路に結合された負荷190に電力を供給し得る電流を供給し得る。カソード110で生じる半反応は、以下のように表され得る。
4Li+O→2LiO(E=2.9V) (式2)
2Li+O→Li(E=3.1V) (式3)
【0037】
各電池充電サイクルの間には、上記のプロセスは逆になる。すなわち、周囲空気170から供給された酸素は、カソード110における酸化リチウムの少なくとも一部に電子を供与して、リチウムイオン122及び電子124を生成する。アノード120とカソード110との間の電気化学ポテンシャルは、これらのリチウムイオン122を、カソード110から電解質130を通してアノード120に戻し得る。リチウムイオン122は、アノード120に蓄積され、アノード120にリチウムをめっきし、それによって、アノード120におけるリチウム供給を補充し得る。
【0038】
既に述べたように、カソード110でのリチウムイオン122と酸素との化学反応は、不要な副生成物として酸化リチウム(過酸化リチウム(Li)及び超酸化リチウム(LiO)など)を生成する。酸化リチウムは、非プロトン性電解質に不溶性であり、したがって電解質130を介してカソード110から分散させることはできない。それよりも、これらの望ましくない副生成物が、カソード110内に閉じ込められ、電池100の各放電サイクルの後に、カソード110内の輸送孔112及び輸送経路114に付着する場合がある。時間と共に、これらの副生成物は、周囲空気170からカソード110全体に酸素を拡散することに関与する種々の輸送孔112及び輸送経路114の上及び/または中に蓄積し、これにより種々の輸送孔112及び輸送経路114が詰まるかまたは塞がる場合があり、したがって、アノード120から供給されるリチウムと反応させるのに利用可能な酸素の量が低減し得る。結果として生じる利用可能な酸素の量の減少により、電池100の動作サイクル中に生成されるリチウムイオン122及び自由電子124の量が減少する場合があり、したがって、負荷190に送り届けることができる電流の量が減少する場合がある。
【0039】
いくつかの態様では、これらの副生成物の生成は、以下のように表され得る。
Li+e+O→LiO (式4)
Li+e+LiO →Li (式5)
ここで、「*」は、過酸化リチウム(Li)副生成物の表面上の中性Li空孔を表す。
【0040】
本明細書に開示される主題の種々の態様は、電池100の動作中に生成された酸化リチウム及び過酸化リチウムを、電池100の動作サイクル中に輸送孔112及び輸送経路114から除去してもよく、これにより、輸送孔112及び輸送経路114が、電池100のサイクル中にリチウムイオン及び自由電子を生成するのに十分な量の酸素を供給することが可能になる。いくつかの実施態様では、カソード110は、輸送孔112及び輸送経路114のネットワークと流体連通している貯蔵経路及び貯蔵空洞のネットワークを備え得る。いくつかの態様では、貯蔵経路のネットワークは、図2を参照してより詳細に説明するように、輸送孔112及び輸送経路114から望ましくない副生成物を除去してもよく、貯蔵空洞のネットワークは、輸送孔112及び輸送経路114のネットワークから除去された望ましくない副生成物を貯蔵するかまたは別の方法で保持してもよい。このようにして、電池100の動作中に生成される酸化リチウム及び過酸化リチウムは、細孔112の開口部またはその近くに蓄積することができず、そのため、電池100を活性化及び/または動作させるために周囲空気170から提供される酸素の供給を妨げない場合がある。
【0041】
図2は、いくつかの実施態様による、カソード200を図示する図を示す。カソード200は、図1のカソード110の一例であってもよく、足場となった炭素質材料224(例えば、複数の炭素質構造225及び/または多孔質の非中空炭素質球状(NHCS)粒子の群226以外の数層グラフェンの合体した集塊)から形成されてもよい。いくつかの態様では、カソード110に関連付けられた足場の炭素質材料224及び/または複数の炭素質構造225は、(従来のリチウム空気電池と比較して)電池の充電サイクル中の酸化に対する耐性の増加を示す場合があり、これによりリチウム空気電池の動作時間が長くなる場合がある。いくつかの例では、炭素質構造225に関連付けられたグラフェン化された材料を極性基で官能基化して、それぞれの炭素質構造225内の表面の濡れを改善し得る。
【0042】
いくつかの実施態様では、カソード200は、カソード200全体にわたって形成された、複数の細孔210a~210b、複数の輸送経路220、複数の貯蔵経路221、及び複数の空洞230a~230dを含み得る。いくつかの態様では、細孔210a~210bは、図1の細孔112の例であってもよく、経路220及び221は、図1の経路114の例であってもよく、空洞230a~230dは、図1の空洞116の例であってもよい。すなわち、細孔210a~210b及び経路220は、それぞれ周囲空気170からの酸素171がカソード200の内側部分に入り込むことのできる輸送孔及び輸送経路であってもよい。細孔210a~210b及び経路220はまた、酸素172を周囲空気170に戻すために使用されてもよい。経路221及び空洞230a~230dは、それぞれ、輸送経路及び輸送空洞であってもよく、これらの輸送経路及び輸送空洞を通して、望ましくない副生成物が輸送孔210a~210b及び輸送経路220から除去され得る。図2の例は、2つの輸送孔210a~210b、いくつかの輸送経路220及び貯蔵経路221、ならびに4つの空洞230a~230dのみを示しているが、他の実施態様では、カソード200は、他の数の輸送孔210a~210b、輸送経路220、貯蔵経路221、及び空洞230a~230dを含んでもよい。
【0043】
いくつかの実施態様では、輸送孔210a~210b及び輸送経路220は、貯蔵経路221及び貯蔵空洞230a~230dによって形成される貯蔵ネットワークと流体連通する輸送ネットワークを形成し得る。例えば、電池100の動作サイクル中、周囲空気170から供給された酸素171は、輸送孔210aを通ってカソード200に入り込み、輸送経路220によってカソード200全体に行き渡らされ得る。カソード200から放出された酸素172は、輸送経路220及び輸送孔210bを介して周囲空気170に戻る場合がある。このようにして、輸送孔210及び輸送経路220は、電池100の動作サイクルに関連する酸化及び還元プロセスに十分な量の酸素が利用可能であることを保証するように、周囲空気170からカソード200へ酸素を供給し得る。貯蔵経路221は、輸送孔210及び輸送経路220から望ましくない副生成物(例えば、二酸化リチウム及び超酸化リチウム)を除去し得る。いくつかの例では、貯蔵経路221は、これらの望ましくない副生成物を保持しまたは貯蔵することができる貯蔵空洞230a~230dのうちの1つ以上に向けて、これらの望ましくない副生成物を導く場合がある。このようにして、貯蔵経路221及び貯蔵空洞230a~230dは、望ましくない副生成物がカソード200に蓄積されて、1つ以上の輸送孔210及び/または輸送経路220を塞ぐことを防止し得る。
【0044】
輸送孔210a~210b、輸送経路220、貯蔵経路221、及び貯蔵空洞230a~230dは、カソード200全体にわたって分布した複数の炭素質構造225によって、形状、サイズ及び/または配向が規定されてもよい。様々な実施態様では、炭素質構造225のいくつかは、例えば、リチウム空気電池の動作に関連する水蒸気を引き付けて及び/または保持するために、親水性特性を示すように調整されてもよい。いくつかの例では、反応容器内の炭素含有蒸気流からの自己核形成などの「ボトムアップ」合成手順を使用して、第1の群または複数の炭素質構造225の露出表面を親水性に調整してもよい。既に述べたように、炭素質構造225のそれぞれは、多孔質の非中空炭素質球状(NHCS)粒子226の対応する群の合体によって形成され得る。いくつかの態様では、輸送孔210は、反応副生成物を保持するために、0.6ナノメートル(nm)~6.6nmの近似範囲の主要寸法(例えば、幅または直径)を有してよく、輸送経路220は、それぞれ、約5.0~10.0ミクロン(または周囲空気170から供給される酸素ガスがカソード200に流入し、カソード200全体に拡散することを可能にする他の適切な寸法)を有してよい。開示された寸法は、複数の炭素質構造225のうちの少なくともいくつかの炭素質構造の露出表面(例えば、3.0nm~5.5nm、5.5nm~6.0nmなど)の濡れ(例えば、それぞれの表面上への蒸気の凝縮による)に適応し得る。加えて、それぞれの炭素質構造225のうちの少なくともいくつかの炭素質構造の露出表面の極性の制御は、溶媒(例えば、カーボネート、エーテル、及び/またはエステル、及び/または非プロトン性溶媒など)の蒸発を促進し及び/または低減し得る。このようにして、カソード200に導入される溶媒の少なくとも一部と、炭素質構造225の露出した表面との間の表面相互作用を調整または調節することができる。
【0045】
貯蔵経路221は、それぞれ約0.1~5.0ミクロンの直径(または輸送経路220から酸化リチウム副生成物を除去し、酸化リチウム副生成物を空洞230a~230dのうちの1つ以上に堆積させることができる他の適切な寸法)を有してもよい。いくつかの態様では、輸送経路220の1つ以上は、貯蔵部位ネットワークに関連付けられた貯蔵経路221の1つ以上に接続されていてよい。例えば、図2に示すように、貯蔵部位のネットワークに関連する貯蔵空洞230a~230dのそれぞれは、カソード110全体に行き渡らせた対応する貯蔵経路221を介して細孔210及び/または輸送経路220に接続されてもよい。いくつかの態様では、電池100の放電容量は、輸送経路220の直径に対する貯蔵経路221の直径に少なくとも部分的に基づいてもよい。例えば、比較的大きな直径を有する輸送経路220は、比較的小さな直径を有する輸送経路220よりも、単位時間当たりにより多量の酸素171を誘発し得る。
【0046】
本開示の態様は、望ましくない副生成物(例えば、酸化リチウム)の一部が、電池の動作中に生成された後、特定の距離内に留まる場合があり、したがって、輸送経路220(または貯蔵経路221)の1つに到達するのに十分な距離を移動しない場合があることを認識する。これらの望ましくない副生成物は、カソード120の外側部分に残って、細孔210a~210bの開口部を塞ぐ場合がある。そのため、いくつかの実施態様では、例えば、これらの望ましくない副生成物による閉塞の可能性を低減させるために、細孔210a~210bの開口部の幅または直径を増大させてもよく、これにより、例えば、図1の電池100などのリチウム空気電池の放電率を増大させてもよい。
【0047】
いくつかの実施態様では、各炭素質構造225は、複数のNHS粒子226を含んでもよく、各NHS粒子226は、(図2には示されていない)3~15枚のグラフェンナノシートのスタックを含んでもよく、及び/またはこのスタックから形成してもよい。各グラフェンナノシートは、1μm未満の主要寸法を有してもよく、一部のグラフェンナノシートは、メソ細孔を含んでもよい。例えば、各メソ細孔は、約1cc(例えば、1.5cc~2.0cc)より大きな体積を有してもよい。製造時にカソード200は、窒素及び/または硫黄でドープされたグラフェンナノシートを含む固有の3D炭素質構造を形成するのにシード粒子を必要とせずに自己核形成する、炭素含有フリーラジカル種から形成し得る。いくつかの態様では、カソード200は、その中に炭素質構造を画定するために、製造中にオゾン(O)で処理されてよく、これにより、カソードは、5m~3,000mの近似範囲の表面積を有するようになる。加えて、カソード200は、触媒(例えば、酸化マンガン、酸化ニッケル、コバルト、白金、金など)を表面に堆積させ得るように、周囲空気170に曝される1つ以上の表面を含み得る。
【0048】
図2のNHCS粒子225を生成するために使用されるグラフェンのヘテロ原子ドーピングは、カソード200の全体的な電気活性を改善し得る。例えば、10.2原子パーセント(at%)までの窒素を有する窒素ドープカーボンナノチューブを、カソード200のNHCS粒子225のための造形カソード材料として使用してもよい。さらに、NHCS粒子225を形成し、酸素吸着を提供するために、ピリジン型窒素リッチカーボン材料を使用することができる。例えば、面内ピリジン型窒素は、元の窒素及び/またはグラファイト窒素と比較して、過酸化リチウムクラスターの核形成を促進する際により高い活性を示し得る。カソードの炭素質材料に複数の種類のヘテロ原子をドーピングすることにより、窒素ドープカーボンナノチューブ(CNT)、窒素ドープグラフェン、硫黄ドープグラフェン、及び窒素、硫黄共ドープグラフェンなどの多くの2官能性カソード材料をカソード200に適用してもよい。窒素ドーピングは、局所電子構造を操作することによって、炭素質材料の触媒活性を改善し、それによって単位体積当たりでより高濃度の電気活性部位を提供してもよい。硫黄ドープされたグラフェンは、-C-S-C-構造及び-C==S-構造の安定性のために、サイクル安定性も提供してもよい。
【0049】
3Dナノ多孔質の非ドープ、Nドープ、及びSドープのグラフェン材料を用いて、ベンゼン、ピリジン、またはチオフェンを炭素源、窒素源、及び硫黄源として用いたナノ多孔質金属ベース化学気相成長(CVD)法によって、カソード110用のNHS粒子222を合成してもよい。代替的に、無金属グラフェンを使用して、10,400mAh/gの容量及び1,000mAh/gで300サイクルまでの容量を提供するカソード200用のNHCS粒子225を生成してもよい。このようなナノ多孔質グラフェンで構成された場合、カソード200の電荷過電位は比較的高くなる場合があり、その結果、エネルギー効率が比較的低くなる場合がある。この問題は、ナノ多孔質グラフェンの表面化学を調整すること、及び/または充電を促進する相溶性のある酸化還元メディエータと統合することによって対処され得る。
【0050】
図3は、いくつかの実施態様による、例示的なポリマーネットワーク310の図300を示す。いくつかの態様では、ポリマーネットワーク310は、図1のポリマーネットワーク150の一例であり得る。ポリマーネットワーク310は、非導電性であってもよく、アノード302上に配置されてもよい。このように、ポリマーネットワーク310は、露出したリチウム含有表面(例えば、アノード302のバルクに対して隆起した表面)への追加のリチウムめっきを回避し得る。アノード302は、任意の数のアルカリ金属含有ナノ構造または微細構造を含む1つ以上の露出表面を有するアルカリ金属層として形成され得る。アルカリ金属には、リチウム、ナトリウム、亜鉛、インジウム及び/またはガリウムが含まれ得る(ただしこれらに限定されない)。アノード302は、電池の動作サイクル中にアルカリイオンを放出し得る。
【0051】
炭素質材料の層314を、フッ素化ポリマー鎖でグラフトして、アノード302の1つ以上の露出表面の上に堆積させてもよい。グラフト化は、炭素質材料を1つ以上のラジカル開始剤、例えば、ベンゾイルペルオキシド(BPO)またはアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)で活性化することと、その後に続くモノマー分子と反応させることとを基礎とし得る。ポリマーネットワーク310は、層314がポリマーネットワーク310の生成の間に消費されるように、層314の互いに架橋されたフッ素化ポリマー鎖及び炭素質材料に基づき得る。いくつかの実施態様では、ポリマーネットワーク310は、約0.001μm~5μmの厚さを有していてもよく、約0.001重量%~2重量%のフッ素化ポリマー鎖を含んでいてもよい。いくつかの他の実施態様では、ポリマーネットワーク310は、約5重量%~100重量%の間で、フッ素化ポリマー鎖でグラフトされた複数の炭素質材料、及び残りのフッ素化ポリマー、または1つ以上の非フッ素化ポリマー、または1つ以上の架橋性モノマー、またはそれらの組み合わせを含み得る。一実施態様では、フッ素化ポリマー鎖でグラフトされた炭素質材料は、5重量%~50重量%のフッ素化ポリマー鎖及び残りの炭素質材料を含んでいてもよい。
【0052】
電池のサイクル中、ポリマーネットワーク310内の炭素-フッ素結合は、リチウム金属と化学的に反応して、炭素-リチウム結合(C-Li)に変換し得る。これらのC-Li結合は、次々に、ウルツ反応350を介して、ポリマーネットワーク310内の炭素-フッ素結合とさらに反応して、炭素-炭素(C-C)結合を新たに形成することによってポリマーネットワークをさらに架橋するとともに、アルカリ金属含有フッ化物、例えば、フッ化リチウム(LiF)もまた発生させ得る。アルカリ金属含有フッ化物の均一な形成をもたらす追加のポリマーネットワーク架橋は、それによってアノード302に関連するアルカリ金属デンドライト形成340を抑制し、それによって電池性能及び寿命を改善する。一実施態様では、層314内の炭素質材料の1つ以上の露出したグラフェン表面へのフッ素化m/アクリレート(FMA)のグラフト化は、例えばグラフェン-グラフト-ポリ-FMA及び/またはこれに類するものをもたらす有機溶液中で行われ得る。露出したグラフェン表面への炭素-フッ素結合の組み込みにより、炭素-フッ素結合と、アノード302によって供給されるアルカリ金属(例えば、リチウム)の金属表面との間で、ウルツ反応350を起こすことが可能になり得る。このように、ウルツ反応350の完了により、ポリマーネットワーク330が形成されることになり得る。いくつかの態様では、ポリマーネットワーク330は、ウルツ反応350の完了に従って密度勾配316を含み得る。密度勾配316は、相互接続されたグラフェンフレークを含んでもよく、かつin situで形成された1つ以上の金属フッ化物塩を注入され得る。さらに、層の多孔度及び/または機械的特性は、それぞれ固有の及び/または別個の物理的構造を有する炭素の担持及び/または官能化炭素の組み合わせによって調整され得る。
【0053】
いくつかの実施態様では、密度勾配316内の炭素質材料は、平坦なグラフェン、しわのあるグラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、または(例えば、図4A及び図4Bに図示したような)球状非中空構造の形をしたカーボンナノオニオン(CNO)のうちの1つ以上を含んでもよい。一実施態様では、グラフェンナノプレートレットは、ポリマーネットワーク310内で、全体にわたって分散し、互いに分離されていてもよい。グラフェンナノプレートレットの分散は、1つ以上の異なる濃度レベルを含む。一実施態様において、グラフェンナノプレートレットの分散は、フッ素化ポリマー鎖の少なくとも一部で官能基化された炭素質材料の少なくとも一部を含み得る。
【0054】
例えば、フッ素化ポリマー鎖には、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプチルアクリレート(DFHA)、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルメタクリレート(HDFDMA)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチルメタクリレート(OFPMA)、テトラフルオロプロピルメタクリレート(TFPM)、3-[3,3,3-トリフルオロ-2-ヒドロキシ-2-(トリフルオロメチル)プロピル]ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-イルメタクリレート(HFAモノマー)、または2,3,4,5,6-ペンタフルオロスチレン(PFSt)を含むビニル系モノマーを含む1種以上のアクリレートまたはメタクリレートモノマーが含まれ得る。
【0055】
いくつかの実施態様では、フッ素化ポリマー鎖は、炭素質材料の層の表面にグラフトされ、それにより、ウルツ反応350を介してアノードのアルカリ金属の1つ以上の表面と化学的に相互作用し得る。有機化学、有機金属化学、及び無機主基ポリマーにおいて、ウルツ反応はカップリング反応であり、それによって、2つのハロゲン化アルキルが、乾燥エーテル溶液中でナトリウム金属(または他の何らかの金属)と反応して、高級アルカンを形成する。この反応では、ハロゲン化アルキルを、アルカリ金属、例えば、ナトリウム金属により乾燥エーテル(水分を含まない)溶液中で処理して、高級アルカンを生成する。ウルツ反応のリチウム中間生成物の場合、極性が高く、反応性が高い、炭素-リチウム金属結合が生成され、この炭素-リチウム金属結合は、ハロゲン化炭素(例えば、フッ化物)結合と化学的に反応して、新たに形成されたC-C結合及びフッ化リチウムが得られる。新しいC-C結合の形成により、例えば、偶数個の炭素原子を含む高級アルカンの製造にウルツ反応を使用することが可能になる。
C-F+2Li→C-Li+LiF (式4)
C-Li+C-F→C-C+LiF (式5)
【0056】
その他の金属もまた、特に銀、亜鉛、鉄、活性化銅、インジウム、及びマンガンと塩化銅との混合物が、ウルツ結合に影響を与えるために使用されている。ハロゲン化アリールを扱う関連した反応は、ウルツ-フィッティッヒ反応と呼ばれる。このことは、フリーラジカル中間体の形成、及びその後の不均化によって、アルケンが生成されることによって説明できる。ウルツ反応350は、アルケン副生成物を生成する副反応を可能にするフリーラジカル機構を介して生じる。いくつかの実施態様では、上記のウルツ反応に関連する化学的相互作用は、アルカリ金属フッ化物、例えばフッ化リチウムを形成し得る。
【0057】
一実施態様において、ポリマーネットワーク310は、アノード302と接触している界面層318を含み得る。保護層320は、界面層318の上に配置されてもよく、これは、アノード302とポリマーネットワーク310との間の界面におけるウルツ反応350に基づき得る。界面層318は、(例えば、フッ素化ポリマー及び/またはこれに類するものの)比較的高い架橋密度と、高い金属フッ化物濃度と、比較的低い炭素-フッ素結合濃度とを有し得る。界面層318とは対照的に、保護層320は、比較的低い架橋密度、低い金属フッ化物濃度、及び高い炭素-フッ素結合濃度を有し得る。
【0058】
いくつかの実施態様において、界面層318は、メタクリレート(MA)、アクリレート、ビニル官能基、またはエポキシ官能基とアミン官能基との組合せなど、架橋可能なモノマーを含み得る。一実施態様では、保護層320は、密度勾配316によって特徴付けられ得る。このように、密度勾配316は、保護層320の1つ以上の自己修復特性に関連していてもよく、及び/またはポリマーネットワーク310を強化し得る。いくつかの実施態様では、強化保護層320は、電池サイクル中にアノード302からのアルカリ金属デンドライト形成340を、さらに抑制し得る。
【0059】
動作に関して、界面層318は、アノード302の長さにわたる界面で金属フッ化物、例えばフッ化リチウムを均一に生成することによって、アノード302に付随するアルカリ金属デンドライト形成340を抑制し得る。金属フッ化物の均一な生成は、例えば金属フッ化物への変換によるデンドライト表面の溶解を引き起こして、最終的にアルカリ金属デンドライト形成340を抑制する。さらに、残りのデンドライト上でのフッ素化ポリマー鎖の架橋により、アルカリ金属デンドライト形成340をさらに抑制し得る。いくつかの実施態様では、密度勾配316は、フッ素化ポリマー鎖間の架橋の程度を制御するように調整され得る。
【0060】
図4Aは、いくつかの実施態様による、複数の炭素質球状粒子402の顕微鏡写真400を示す。いくつかの例では、炭素質球状粒子402は、図2のNHCS粒子226の例であり得る。炭素質球状粒子402のそれぞれは、比較的高い炭素密度を有する様々なモノリシック炭素成長及び/または層化によって取り囲まれた比較的低い炭素密度を有する非中空のコア領域を含み得る。炭素質球状粒子402は、様々なレベルの密度及び/または濃度で組織化された複数の同心状の多層フラーレン及び/または類似の形状の炭素質構造を含み得る。例えば、各炭素質球状粒子402の最終的な形状、サイズ、及びグラフェン構成は、様々な製造プロセスに依存し得る。いくつかの態様では、炭素質球状粒子402は、不十分な水溶性を示し得る。そのため、いくつかの実施態様では、共有結合によらない官能基化を利用して、基礎となるカーボンナノ材料の固有の特性に影響を与えることなく、炭素質球状粒子402の1つ以上の分散性特性を変化させ得る。いくつかの態様では、基礎となるカーボンナノ材料は、spカーボンナノ材料を形成可能であってもよい。いくつかの実施態様において、炭素質球状粒子402のそれぞれは、約20~500nmの直径を有し得る。様々な実施態様において、炭素質球状粒子402の群は、合体及び/または集合して炭素質構造404を形成し得る。いくつかの例では、炭素質構造404は、図2)の炭素質構造225の例であり得る。さらに、炭素質構造404の群は、合体及び/または結合して集塊406を形成し得る。
【0061】
図4Bは、いくつかの実施態様による、炭素質構造460の顕微鏡写真450を示す。いくつかの例では、炭素質構造460は、図4Aの炭素質構造404の例であり得る。一実施態様では、外部の炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446は、融合して炭素質構造460を形成し得る。炭素質構造460の群は、図4Aの集塊406を形成するために合体及び/または結合し得る。いくつかの態様では、それぞれの炭素質シェルタイプ構造446のコア領域448は、例えば、コア領域448が、相互接続されたグラフェン構造の種々の定義された濃度レベルを含み得るという点で、調整可能であり得る。いくつかの実施態様において、それぞれの炭素質シェルタイプ構造446は、それぞれの炭素質シェルタイプ構造446においてまたはその近くで、約0.1g/cc~2.3g/ccの相互接続された炭素の第1の濃度を有し得る。それぞれの炭素質シェルタイプ構造は、コア領域448に向かって内向きに延在するリチウムイオンを輸送するための細孔を有し得る。
【0062】
いくつかの実施態様では、炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446それぞれの細孔は、約0.0nm~0.5nm、約0.0~0.1nm、約0.0~6.0nm、または約0.0~35nmの幅または寸法を有し得る。炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446のそれぞれは、コア領域448においてまたはコア領域448の近くで、第1の濃度とは異なる第2の濃度も有し得る。例えば、第2の濃度は、同心円状に配列された複数の比較的低密度の炭素質領域を含み得る。一実施態様において、第2の濃度は、約0.0g/cc~1.0g/ccまたは約1.0g/cc~1.5g/ccにおいて、第1の濃度より低くてもよい。いくつかの態様では、第1の濃度と第2の濃度との間の関係を利用して、リチウムイオンの輸送及び気体酸素の取り込みを最大化すると同時に、酸化リチウムの適切な保持位置を提供し得る。
【0063】
いくつかの実施態様において、炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446の少なくとも一部は、モノリシック成長及び/または相互連結成長として組織化され、熱反応器内で生成されるカーボンナノオニオン(CNO)酸化物を含み得る。一実施態様では、以下のレシピ例に従って、炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446にコバルトナノ粒子で装飾を施してもよい。すなわち、酢酸のコバルト塩(多くの場合、四水和物Co(CHCO4HOとして見出され、これはCo(OAc)・4HOと略記される場合もある)である酢酸コバルト(II)(CCoO)を、40.40重量%の炭素(CNO形態の炭素を指す)に相当する約59.60重量%の比率で熱反応器に流し込みその結果、CNO酸化物の活性部位がコバルトで官能基化され得る。いくつかの実施態様では、コバルト装飾CNOの製造に使用される適切なガス混合物は、以下のステップを含み得る。
・0.75標準立方フィート/分(scfm)で30分間のArパージ;
・実行のために0.25scfmに変更されたArパージ;
・20分間で25℃から300℃への温度上昇;及び
・15分間で300℃から500℃への温度上昇;
が含まれてもよい。
【0064】
図4A及び図4Bを参照して説明した炭素質材料は、グラフェンの1つ以上の例を含むか、または別の方法でグラフェンの1つ以上の例から形成してもよく、これは、ハニカム構造体内で3つの隣接する原子に各原子が結合された炭素原子の単層を含み得る。この単層は、凝縮相の表面内または表面などで、一次元に制約された離散材料であり得る。例えば、グラフェンは、(z平面ではなく)x平面及びy平面でのみ、外側に向かって成長し得る。このように、グラフェンは、各層の原子が同じ層の隣接する原子に(複数の炭素-炭素結合などによって)強く結合した1つ以上の層を含む2次元(2D)材料であり得る。
【0065】
いくつかの実施態様では、グラフェンナノプレートレット(例えば、炭素質シェルタイプ構造442、444、及び446のそれぞれに含まれる形成構造)は、装飾的かつ固有の3D炭素質構造を形成するために、全て垂直方向に互いに積み重ねられた、第1のグラフェン層、第2のグラフェン層、及び第3のグラフェン層などの、複数の例のグラフェンを含み得る。GNPと呼ぶことができるグラフェンナノプレートレットのそれぞれは、1nm~3nmの厚さを有してもよく、約100nm~100μmの範囲の横方向寸法を有してもよい。いくつかの実施態様では、グラフェンナノプレートレットは、ロール・ツー・ロール(R2R)生成によって、連続して配列された複数のプラズマ噴霧トーチによって生成され得る。いくつかの態様において、R2R生成は、別々の基板への2D材料(複数可)の転写を含む、圧延シートとして加工される連続的な基板への堆積を含んでもよい。R2Rプロセスで使用されるプラズマ噴霧トーチは、炭素質材料を異なる濃度レベルで噴霧して、グラフェンナノプレートレットの特定の濃度レベルを生成し得、これにより、図1のカソード110及び/または図2のカソード200に微細レベルの調整可能性が提供される。
【0066】
図5Aは、いくつかの実施態様による、グラフェン粉末のSEM顕微鏡写真500Aを示す。顕微鏡写真500Aの隣接するグラフェン化シート及び/または層は、グラフェンの再積層を防止するために複雑な3D構造を有していて、2Dグラフェンを使用することのいくつかの欠点を回避し得る。
【0067】
図5Bは、いくつかの実施態様による、熱プロセスによって生成された結節状炭素のSEM顕微鏡写真500Bを示す。顕微鏡写真500Bに示す結節状炭素は、図1及び/または図2のカソード110にNHS粒子222を生成するために使用され得る。このように、顕微鏡写真500Bの結節状炭素は、最適なリチウム空気電池動作のために、必要な場合に、カソード110の内部領域への気体酸素の自由な通過を促進しながら、同時に酸化リチウムを保持できる独特の二重細孔系を生成し得る。顕微鏡写真500Bに示される結節状炭素は、細孔を特徴とし得、各細孔が、およそ0.6ナノメートル(nm)~6.6nmの間の直径を有し、それによって、これらの細孔内で酸化リチウムの保持が可能になる。
【0068】
図5Cは、いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理した炭素のSEM顕微鏡写真500Cを示す。顕微鏡写真500Cに示す3Dグラフェン化及び/または炭素質材料は、CO処理により製造され、図1の電池100の図1のカソード110及び/または図2のNHS粒子222を生成するために使用され得る。
【0069】
図5Dは、いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理した炭素のSEM顕微鏡写真500Dを示す。顕微鏡写真500Cに示す3Dグラフェン化及び/または炭素質材料は、CO処理により製造され、図1の電池100の図1のカソード110及び/または図2のNHCS粒子226を生成するために使用され得る。
【0070】
図6は、いくつかの実施態様による、二酸化炭素(CO)処理後の3次元(3D)グラフェンの顕微鏡写真600を示す。いくつかの例では、処理された3Dグラフェンを用いて、それぞれ図1及び図2のリチウム空気電池100及び200のカソード110のNHCS粒子226を生成し得る。
【0071】
図7に、いくつかの実施態様による、図2のカソード110のNHCS粒子226または本明細書に記載された他の炭素質材料のグラフェン化されたナノシート内の細孔の細孔幅に対する細孔容積の例示的な分布を図示するグラフ700を示す。グラフ700に示されているように、比較的高い細孔容積に関連する細孔は、例えば、細孔容積が減少するにつれて細孔幅が概して増加するような比較的低い細孔幅を有し得る。いくつかの態様では、約1.0nm未満の細孔幅を有する細孔はマイクロ細孔と称される場合があり、約3~11nmの細孔幅を有する細孔はメソ細孔と称される場合があり、約24nmより大きい細孔幅を有する細孔はマクロ細孔と称される場合がある。
【0072】
図1も参照すると、リチウム空気電池100は、周囲空気170から供給された酸素が、カソード110内に形成された種々の細孔112及び経路114を通ってリチウム空気電池100の内部部分に入り込むのを可能にすることによって、活性化され得る。既に述べたように、リチウム空気電池100に供給される酸素は、アノード120によって供給されるリチウムと反応して、アノード120でまたはその近くでリチウムイオン及び自由電子を生成する。リチウムイオンは、電解質130を通ってアノード120からカソード110に移動し、カソード110でまたはその近傍で酸素と反応して、酸化リチウムを生成する。自由電子は、外部回路を通ってアノード120からカソード110へ移動し、それによって、外部回路を介して電流を発生させることができる。電池充電サイクル中、周囲空気170から供給される酸素は、カソード110にまたはカソード110の近くに存在する酸化リチウムに電子を供与して、リチウムイオン及び電子を生成する。アノード120とカソード110との間の電気化学ポテンシャルにより、リチウムイオンがアノード120に戻り、そこに戻ってくるリチウムイオンが蓄積して、アノード120にリチウムをめっきし得る。
【0073】
図2を参照して説明したように、電池100の動作中に生成される酸化リチウム(及び他の望ましくない副生成物)は、周囲空気170から電池100の内部部分への酸素の送り届けに関与する細孔210a~210bの開口部を塞ぎ得る。いくつかの実施態様では、細孔210a~210bの開口部の幅または直径を増加させて、酸化リチウム(及び他の望ましくない副生成物)によって閉塞される可能性を低減してもよい。しかしながら、本開示の態様は、細孔開口部の幅または直径を大きくすると、意図せずに、水滴及び/または水蒸気が、図1を参照して説明した細孔112及び経路114を通ってカソード110に入り込む場合があることも認識する。さらに、カソード110内に輸送孔210及び輸送経路220を画定する炭素質構造225の少なくとも一部の親水性は、これらの炭素質構造体225が電池100内の様々な化学反応に関連する水蒸気を引き寄せまたは保持することを可能にするが、これらの炭素質構造225の親水性は、これらの炭素質構造体225の表面に水滴が蓄積することを可能にする場合がある。いくつかの例では、蓄積された水滴は、カソード110内に形成された細孔経路114に入り込みことができ、カソード110の少なくともいくつかの部分を通って拡散し、電池内のリチウムと望ましくない方法で反応し得る。一般に「フラッディング」と称されるこの現象は、電池100の比容量を低減させるだけでなく、電池の寿命を短縮させる場合もある。
【0074】
図8Aは、数層グラフェン(FLG)810の外面に形成されまたは配置された水滴を図示する例示800を示す。FLG810は、3~15層の炭素原子を含んでもよく、図1の電池100のカソード110内に形成される種々の細孔210及び経路220を画定する炭素質構造225を形成するために使用することができる。具体的には、複数の例のFLG810(及び/または図2を参照して説明した多孔質の非中空炭素質球状(NHCS)粒子226)は、互いに合体して、カソード110全体にわたって形成された細孔210及び経路220の形状、サイズ及び/または配向を規定する炭素質材料の集塊を形成し得る。第1の直径(d)を有する第1の細孔811は、FLG810の上面801に形成されており、FLG810全体にわたって形成された経路及び/または空洞(簡略化のために図示されていない)のうちの1つ以上と流体連通していてもよい。第2の直径(d)を有する第2の細孔812は、FLG810の下面802に形成されており、FLG810全体にわたって形成された経路及び/または空洞(簡略化のために図示されていない)のうちの1つ以上と流体連通していてもよい。第1の細孔及び第2の細孔811及び812は、細孔間隔距離によって分離されてもよい。いくつかの態様では、例えば、第1の細孔811の開口が第2の細孔812の開口よりも広くなるように、第1の直径dは第2の直径dよりも大きい。
【0075】
図8Aの例では、第1の水滴821がFLG810の上面801に形成されまたは配置され、複数の第2の水滴822がFLG810の下面802に形成されまたは配置される。もっぱらFLG810の調整可能性の説明の目的で、FLG810の上部は疎水性特性を示すように調整されてもよく、FLG810の下部は親水性特性を示すように調整されてもよい。FLG810の上部の疎水性特性により、水滴821がFLG810の上面801に沿って移動して第1の細孔811に進入することが防止され得る。一方、FLG810の下部の親水性特性により、複数の水滴802がFLG810の下面802に沿って連続的な水膜を形成することが可能になり得る。いくつかの例では、水滴822の連続膜は、水膜内の凝集力及び水滴とFLG表面との間の粘着力に起因して、平衡状態にあり得る。図示されているように、水滴822の連続膜の表面張力は、(例えば、第1の細孔811の比較的大きな直径dと比較して)第2の細孔812の比較的小さな直径dに少なくとも部分的に起因して、水滴822が第2の細孔812に入り込むのを防止し得る。
【0076】
図8Bは、図8Aを参照して説明したFLG810によって少なくとも部分的に形成されたカソードを含む、リチウム空気電池の例示的なフラッディング(簡略化のために図示せず)を図示する例示850を示す。図8Aを参照して論じるように、第1の細孔811は、比較的大きな細孔開口部(第1の直径dによって示される)を有し、第2の細孔812は、比較的小さな細孔開口部(第2の直径dによって示される、ここでd>d)を有する。いくつかの例では、第1の細孔811の比較的大きな開口部は、FLG810の上面801に収集された水滴821が第1の細孔811の内部部分に入り込むことを可能にし、それらを浸水させる場合がある。同様に、図8Bの例における第2の細孔812のより大きな直径dは、連続膜内の水滴822の一部が、第2の細孔812の内部部分に入り込むことを可能にし、それらを浸水させる場合がある。
【0077】
いくつかの実施態様では、カソード110全体にわたる様々な細孔210及び経路220を画定するFLG810(及び他の炭素ベースの構造)は、フラッディングの影響を受けにくいFLG801内に形成された細孔及び/または空洞内にリチウムを堆積させることができるような方法で調整することができる。具体的に、いくつかの例では、FLG810は、第1の細孔811(d)及び第2の細孔812(d)のそれぞれの直径が共に、それぞれの第1の細孔及び第2の細孔811及び812のフラッディングを防止するのに十分に小さいように調整されてもよい。
【0078】
図9Aは、リチウム空気電池の充電状態を図示する例示900を示す。いくつかの実施態様では、FLG810は、リチウム空気電池のカソードの少なくとも一部を形成するために使用され得る。より具体的には、FLG810は、図1の電池100のカソード110内の様々な細孔210及び経路220を画定する炭素質構造用の構成単位であり得る。既に述べたように、FLG810(及び/または他の例の中でも特に図2の多孔質NHCS粒子226またはCNO粒子などの他の炭素質材料)は、互いに合体して、カソード110全体にわたって、細孔210及び経路220の形状、サイズ、及び/または配向を規定する炭素質材料の凝集体を形成し得る。
【0079】
FLG810は、いくつかのLiO結晶912を含む細孔910と、六方晶LiO結晶914と、FLG810の上面801に収集された3つの水滴921~923とを含む。3つの液滴921~923のそれぞれは、FLG810の上面801に対して対応する第1の角度(θ)で配置される。中間の水滴922は、FLG810の上面801に対して第2の角度(θ)で細孔910の上方に位置決めされており、細孔910は、直径(d)を有する。様々な態様において、孔910の直径dは、水が細孔910内へ入り込むこと、または細孔910内に蓄積することを防止するのに十分に小さくてもよい。
【0080】
六方晶LiO結晶914は、六方晶LiO結晶914が細孔910内の炭素材料に接触しないように、細孔910の壁から第1の距離(L)だけ離して配置される。いくつかの例では、第1の距離(L)は、電子トンネル距離(これにより、酸化反応中に生成された電子(e)が、FLG810を通って細孔910にトンネルすることが可能になる)よりも小さい。結果として生じる細孔910への電子の移動により、電子はLiO912と反応して、LiO912をリチウム金属に変換することが可能となり、これにより、関連するリチウム空気電池の作動のための活物質が提供される。このようにして、グラフェンと電気化学的に連通している化学量論的なLiO結晶(LiO結晶912など)が、電子と反応してリチウム金属を形成することができる。いくつかの態様において、角度θが90度より大きい場合、細孔910は親水性であると考えられてもよく、角度θが90度より小さい場合、細孔910は疎水性であると考えられてもよい。
【0081】
図9Bは、リチウム空気電池の放電状態を図示する例示950を示す。いくつかの実施態様では、FLG810は、リチウム空気電池のカソードの少なくとも一部を形成するために使用され得る。より具体的には、FLG810を使用して、図1の電池100のカソード110に形成される種々の細孔210及び経路220を画定する炭素質構造を形成することができる。説明したように、FLG810及び/または図2を参照して説明された種々の多孔質非中空炭素質球状(NHCS)粒子226は、互いに合体して、カソード110全体にわたる細孔210及び経路220の形状、サイズ、及び/または配向を規定する炭素質材料の凝集体を形成し得る。
【0082】
FLG810は、LiO結晶912、六方晶LiO結晶914、及び図9Aを参照して説明した3つの水滴921~923を含有する細孔910を含む。図9Bの例では、六方晶LiO結晶914は、図9Aの六方晶LiO結晶914に対して回転させられ、細孔910の壁から距離(L)だけ離して配置されており、この場合、距離Lは、図9Aの距離Lよりも大きい。具体的には、図9Bにおける六方晶LiO結晶914の配置により、距離Lが電子トンネル距離よりも大きくなり、電子がFLG810を通って細孔910にトンネルし、六方晶LiO結晶914と反応することを妨げる場合がある。このようにして、非化学量論的LiO結晶(LiO結晶914など)は、例えば、電子が細孔910を通ってトンネルして、非化学量論的LiO結晶と反応することができないため、リチウム金属に変換されない。いくつかの態様において、角度θが90度より大きい場合、細孔910は親水性であると考えられてもよく、角度θが90度より小さい場合、細孔910は疎水性であると考えられてもよい。
【0083】
図10は、様々な種類のFLGを図示する例示1000を示す。具体的には、例示1000には、FLGモデル1010が平坦なシートとして図示されており、湾曲したFLG1020がアーチ形の表面として図示されている。例示1000は、周囲空気に曝されない内部細孔を有する球状CNO粒子としての多層フラーレン1030も図示しており、これは、多層フラーレン1030が周囲空気によって提供される酸素(または水)と反応するのを防ぎ得る。例示1000は、調整されたまたは構成された細孔開口部1042を有する処理されたCNO粒子1040も示しており、この細孔開口部1042を通って、周囲空気が、処理されたCNO粒子1040によって形成されたカソード全体に入り込み、拡散し得る。
【0084】
図11は、いくつかの実施態様による、炭素質凝集体1100を図示する。炭素質凝集体1100は、複数のCNO粒子1110及び1120(簡略化のために示されたのは、2つのCNO粒子1110~1120のみ)を含む。いくつかの例では、炭素質凝集体1100は、図2を参照して説明した炭素質構造225の一例であり得る。CNO粒子1110及び1120のそれぞれは、CNO粒子1110及び1120のそれぞれの開口部1111及び1121の所望の幅が達成されるように処理され、調整されてもよい。図示のように、周囲空気によって供給された酸素(O)は、炭素質凝集体1100の壁を通って炭素質凝集体1100の内部部分に入り込むことができる。いくつかの実施態様では、複数のCNO粒子1110及び1120は、水蒸気または水滴などの水滴(H0)が炭素質凝集体1100の内部部分に入り込むのをはじくことができる疎水性特性を示すように調整することができる。いくつかの態様では、疎水性調整されたCNO粒子1110及び1120は、CNO粒子1110~1120間の様々な輸送経路内に水を保持することができる(簡略化のために図示せず)。このようにして、疎水性特性を示すようにCNO粒子1110及び1120を調整すると、水が細孔開口部を介して電池に入り込み、リチウムと反応する(望ましくない)のを防ぎ得る。
【0085】
いくつかの例では、CNO粒子1110及び1120のそれぞれは、約5nm~25nmの半径を有してもよい。他の例では、CNO粒子1110及び1120の半径は、約5nm~50nmであってもよい。他のいくつかの例では、CNO粒子1110及び1120の半径は、約3nm~500nmの間であってもよい。本明細書に開示される主題の態様は、それぞれのCNO粒子の半径が約100nm未満である場合に、それぞれのCNO粒子の形成中に単一の空洞が形成され得ることを認識する。CNO粒子1110及び1120内での単一の空洞の形成及び調整は、(複数の空洞の形成及び調整と比較して)比較的管理が容易であるという利点を有し得る。他方で、それぞれのCNO粒子の半径が約100nmに達するかまたはそれを上回ると、それぞれのCNO粒子の形成中に複数の空洞が形成され得る。CNO粒子内の複数の空洞は、CNO粒子内に形成された経路(例えば、図2に関して記載された経路220)を、単一の空洞を有するCNO粒子内に形成された経路よりも蛇行性の高いものにすることを可能にし得る。加えて、CNO粒子内に複数の空洞を設けることは、CNO粒子の空洞内に貯蔵できるリチウムの量を増大させ、このことにより、関連するリチウム空気電池の比容量を増大させ得る。
【0086】
例えば、図11に示したように、第1のCNO粒子1110は、約100nm未満の半径Rを有し、第2のCNO粒子1120は、約100nmより大きい半径Rを有する。このように、第1のCNO粒子1110は、第1のCNO粒子1110の開口部1111とコア1112との間の比較的蛇行性が低い経路1113に関連する単一の空洞(簡略化のため図示せず)を含んでもよく、第2のCNO粒子1120は、第2のCNO粒子1120の開口部1121とコア1122との間の比較的蛇行性が高い経路1123に関連する複数の空洞(簡単のため図示せず)を含んでもよい。第1のCNO粒子1110に形成された比較的蛇行性が低い経路1113は、周囲空気によって供給された酸素がCNO粒子1110を通ってコア1112に向かって伝搬することを可能にする。しかしながら、比較的蛇行性が低い経路1113は、水(水滴または水蒸気など)が、第1のCNO粒子1110の内部部分に入り込むことも許容し、このことは、上述したように、関連するリチウム空気電池(図1のリチウム空気電池100など)のフラッディングを招く可能性がある。
【0087】
逆に、第2のCNO粒子1120に形成された比較的蛇行性が高い経路1123は、(例えば、比較的蛇行性が高い経路1123を通る細孔開口1121とコア1122との間の移動距離が増大することに起因して)水滴が第2のCNO粒子1120の内部部分に入り込むのを防止し得、それにより、関連するリチウム空気電池のフラッディングを防止し得る。しかしながら、比較的蛇行性が高い経路1123は、周囲空気によって供給された酸素が第2のCNO粒子1120を通って流れ、対応するアノード全体に拡散することを制限または抑制する可能性もあり、これは、上述したように、関連するリチウム空気電池の比容量を低下させることができる。
【0088】
本明細書に開示された主題の態様は、リチウム空気電池の最適な性能が、リチウム空気電池のカソードを形成するCNO粒子中に十分な量の酸素が伝播することを可能にすることと、このようなCNO粒子内への水の伝播を防止(または少なくとも抑制)することとの間で、所望のバランスを達成することに関連し得ることを認識する。いくつかの実施態様において、この所望のバランスは、一定レベルの親水性挙動を示すように、または一定レベルの疎水性挙動を示すように、リチウム空気電池のカソード内の炭素質材料(図11のCNO粒子1110及び1120など)を選択的に調整することによって達成され得る。いくつかの例では、これらの炭素質材料は、フラッディングの影響を受けにくいCNO粒子の様々な空洞内でリチウムが反応することを可能にするように調整されることができる。
【0089】
具体的には、様々な実施態様では、CNO粒子1110及び1120(及び他の炭素質材料または構造)をエッチングして、それらの各細孔開口部1111及び1121の幅または直径を、各経路1113及び1123に水滴が入るのを防ぐことに関連付けられた臨界寸法未満になるように構成し得る。いくつかの例では、図8Aを参照して説明したように、カソード内のCNO粒子の少なくともいくつかの露出表面は、水滴がカソードの表面に沿って、またはCNO粒子が近くの細孔の開口部に向かって移動するのを抑制し得る疎水性特性を示すように調整され得る。加えて、または代替的に、図8Aを参照して説明したように、カソード内の他のいくつかのCNO粒子の露出表面は、配列された水滴が細孔開口部に入り込んでリチウム空気電池がフラッディングされるのを防ぐのに十分な表面張力を有する連続水膜を形成させる親水性特性を示すように調整され得る。いくつかの例では、カソードを形成する複数のCNO粒子(及び/または他の炭素質材料もしくは構造)を選択的にエッチングして、周囲空気によって供給された酸素がカソード全体に入り込んで拡散することを可能にすると同時に、水滴がカソード内またはカソード全体に伝搬することを抑制する曲がりくねった輸送経路(CNO粒子1120に形成された曲がりくねった経路1123など)を形成し得る。
【0090】
既に述べたように、CNO粒子群(CNO粒子1110及び1120など)または多孔質非中空炭素質球状粒子は、互いに合体して、リチウム空気電池のカソード内に様々な細孔、経路、及び空洞を画定する、より大きな炭素質構造を形成し得る。様々な態様において、これらの比較的大きな炭素質構造のサイズ及び多孔度は、経路の一定レベルの蛇行性を保証するように、及び/またはそれらのそれぞれの細孔開口部が限界寸法よりも小さくなることを保証するように、制御及び/または調整することができる。このようにして、リチウム空気電池のカソードに使用されるCNO粒子1110及び1120(及び/または他の炭素質材料)の階層的な細孔構造、構成された多孔度、及び調整された挙動は、水が細孔開口部に入り込み、リチウム空気電池がフラッディングするのを防止すると同時に、周囲空気によって供給される十分な量の酸素がカソードの様々な細孔及び経路を伝搬し、リチウム空気電池の出力電流(または電圧)の生成に関連する化学反応に関与することを可能にし得る。さらに、リチウム空気電池がカソード全体に水滴が入り込んで拡散するのを防止することができる程度を高めることにより、本明細書に開示される主題の実施態様は、例えば、リチウム空気電池が雨、スプリンクラー、または他の水滴源に曝されることによって引き起こされるリチウム空気電池の不注意な活性化を防止することにより、リチウム空気電池の保存可能期間を延ばし得る。
【0091】
本明細書で使用されるとき、品目のリストの「少なくとも1つ」または「1つ以上」を指す表現は単一のメンバーを含む、それら品目の任意の組み合わせを指す。「a、b、またはcの少なくとも1つ」は、aのみ、bのみ、cのみ、aとbの組み合わせ、aとcの組み合わせ、bとcの組み合わせ、及びaとbとcの組み合わせの可能性を対象とするように意図される。
【0092】
本明細書で開示されている構造及びその構造的同等物を含む、本明細書で開示されている実施態様に関連して記載されている種々の実例となる構成成分、論理回路、論理ブロック、モジュール、回路、操作、及びアルゴリズムプロセスは、電子的なハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはハードウェア、ファームウェア、またはソフトウェアの組み合わせとして実行されてもよい。ハードウェア、ファームウェア及びソフトウェアの互換性は一般に機能性という点で記載されており、上記に記載されている種々の実例となる構成成分、ブロック、モジュール及びプロセスで説明されている。そのような機能性が、ハードウェア、ファームウェアまたはソフトウェアで実行されるかどうかは、アプリケーション、及び全体のシステムに対して課される設計の制約に左右される。
【0093】
本開示に記載されている実施態様に対する種々の修正は、当業者にとって容易に明らかであってもよく、本明細書で定義されている一般的な原理は本開示の精神または範囲から逸脱することなく他の実施態様に適用されてもよい。したがって、特許請求の範囲は本明細書に示される実施態様に限定されることが意図されないが、本開示、本明細書に開示される原理及び新規の特徴と一致する最も広い範囲が許容される。
【0094】
さらに、別個の実施態様の文脈で本明細書に記載されている種々の特徴は単一の実施態様において組み合わせて実行することもできる。さらに、単一の実施態様の文脈で記載されている種々の特徴は複数の実施態様にて別々にまたは好適な部分組み合わせで実行することもできる。したがって、特徴は、互いに組み合わせて上記で記載されてもよく、最初にそのように主張することさえしてもよいが、主張する組み合わせからの1以上の特徴は、場合によっては組み合わせから切り出すことができ、主張する組み合わせは部分組み合わせまたは部分組み合わせの変化を対象としてもよい。
【0095】
同様に、操作は特定の順序で図面に示されている一方で、これは、望ましい結果を達成するために、そのような操作が示される特定の順序または連続した順序で実行されること、または図示される全ての操作が実行されることを要求することとして理解されるべきではない。さらに、図面はフローチャートまたは流れ図の形態でもう1つの例示的なプロセスを概略的に示してもよい。しかしながら、図示されていない他の操作は、概略的に説明されている例示的なプロセスに組み込むことができる。例えば、1以上の追加の操作を、図に示す操作の前に、後で、同時に、またはそれらの間に実行することができる。状況によっては、マルチタスクと並列処理が有利であってもよい。さらに、上記に記載されている実施態様における種々のシステム構成成分の分離は、全ての実施態様においてそのような分離を必要とするものとして理解されるべきではなく、記載されているプログラム構成成分及びシステムは、一般に、単一の製品に一緒に統合され得る、または複数の製品に包括され得ることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
【国際調査報告】